JP2009039623A - 金属錯体、並びにこの金属錯体を含有する触媒及び電極触媒 - Google Patents

金属錯体、並びにこの金属錯体を含有する触媒及び電極触媒 Download PDF

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Abstract

【課題】強酸性下においても十分安定な金属錯体を提供すること。
【解決手段】遷移金属及び該金属に配位する配位子(a)を備える金属錯体であって、遷移金属及び該金属に配位するアザジエン構造を有する配位子(b)を備える原料錯体と、配位子(b)との反応により配位子(a)を形成する不飽和化合物とを、共存状態で加熱させて得ることのできる金属錯体。
【選択図】なし

Description

本発明は、金属錯体、並びにこの金属錯体を含有する触媒及び電極触媒に関する。
金属錯体は、酸素添加反応、酸化カップリング反応、脱水素反応、水素添加反応、酸化物分解反応、電極反応等の電子移動を伴うレドックス反応における触媒として作用し、配位子(b)又は高分子化合物の合成に用いられている。また、最近では有機EL材料の燐光発光錯体として用いられている。さらに、添加剤、改質剤、電池、センサーの材料等、種々の用途にも使用されている。
特にレドックス反応触媒としては、シッフ塩基型金属錯体が高活性、高選択性な触媒能を有していることが知られている。たとえば、非特許文献1では、光学活性なシッフ塩基型金属錯体を触媒に用いて、スチレンの二重結合を酸化する不斉シクロプロパン化反応を行っており、良好な不斉反応が進行している。また、非特許文献2ではシッフ塩基型金属錯体を用いて、酸素の電解還元による水の生成を行っている。
Org.Biomol.Chem.,2005,3,p.2126−2128 Inorgic Chemistry.Vol.40,No.6,2001,p.1329−1333
しかしながら、シッフ塩基は酸性下で加水分解されアルデヒドとアミンへ分解することが知られている(文献:化学辞典、東京化学同人、604ページ)。このため、シッフ塩基型の金属錯体は、強酸の存在下において不安定化する傾向があり、その適用範囲が限定されていた。すなわち、従来開示されているシッフ塩基型の金属錯体では、酸が生成する反応条件においては分解する可能性があるために、例えば触媒として用いた場合に、本来の性能を発揮できない問題があった。このため、従来のシッフ塩基型金属錯体と同等の性能を有しつつ、酸に対する安定性に優れた金属錯体が求められている。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、強酸性下においても十分安定な金属錯体並びに当該金属錯体を含有する触媒及び電極触媒を提供することを目的とする。
本発明では、遷移金属及び該金属に配位する配位子(a)を備える金属錯体であって、遷移金属及び該金属に配位するアザジエン構造を有する配位子(b)を備える原料錯体と、配位子(b)との反応により配位子(a)を形成する不飽和化合物とを、共存状態で加熱させて得ることのできる金属錯体を提供する。この金属錯体は、強酸性下においても十分安定であり、触媒として用いた場合の性能も優れている。
かかる効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、本発明者らは以下の通り推察する。すなわち、配位子(b)を備える原料錯体と不飽和化合物とは、付加反応等によって、配位子(b)のアザジエン構造が安定化された金属錯体を生成する。このため、酸に弱いイミノ基等が酸によって分解されるのを抑制することができると考えられる。したがって、強酸性下においても十分安定な金属錯体を得ることができるものと本発明者らは推察する。
また、本発明の金属錯体は、原料錯体と不飽和化合物とを50℃〜500℃の範囲で加熱して得ることが好ましい。これによって、強酸性下において、より十分に安定な金属錯体を得ることができる。
また、本発明の金属錯体は、原料錯体と不飽和化合物とを、不飽和化合物の分解温度付近まで加熱して得ることが好ましい。これによって、強酸性下において、より一層十分に安定な金属錯体を得ることができる。
また、本発明では、原料錯体の配位子(b)が下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。このような化合物を配位子として備える原料錯体を用いることによって、強酸性下において優れた安定性を有しつつ、触媒として用いた場合に優れた反応性を有する金属錯体を得ることができる。
Figure 2009039623

上記一般式(1)中、Qは少なくとも2つのC=N結合を有する2価の有機基を示し、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は置換基を示す。複数あるR、R及びRは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、複数あるRは互いに連結していてもよく、複数あるRは互いに連結していてもよい。
また、本発明では、配位子(b)が下記一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。このような化合物を配位子(a)として有する原料錯体を用いることによって、強酸性下において優れた安定性を有しつつ、触媒として用いた場合に極めて優れた反応性を有する金属錯体を得ることができる。
Figure 2009039623

上記一般式(2)中、Arは置換されていてもよい2価の芳香族基を示し、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は置換基を示す。複数あるAr、R、R及びRは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、複数あるRは互いに連結していてもよく、複数あるRは互いに連結していてもよい。
また、本発明では、不飽和化合物が、下記式(3)及び下記式(4)で表される化合物の少なくとも一方であることが好ましい。このような化合物は、原料錯体の配位子(b)に付加反応するため、強酸下において十分安定な金属錯体を得ることができる。
Figure 2009039623

上記一般式(3)中、Xは炭素原子又は窒素原子を示し、複数あるXは同一でも異なっていてもよい。Rは水素原子又は置換基を示し、複数あるRは同一でも異なっていてもよく、複数あるRは互いに連結していてもよい。
Figure 2009039623

上記一般式(4)中、Rは水素原子又は置換基を示し、複数あるRは同一でも異なっていてもよい。
また、本発明では、不飽和化合物が、下記式(5)で表される化合物であることが好ましい。下記式(5)のような化合物は、加熱によりアラインのような反応中間体を生成して原料錯体の配位子(b)と反応し、強酸下において十分安定な金属錯体を生成することができる。
Figure 2009039623

上記一般式(5)中、Rは水素原子又は置換基を示し、複数あるRは同一でも異なっていてもよい。Xは脱離基を示し、複数あるXは同一でも異なっていてもよく、複数あるXは互いに連結していてもよい。
また、本発明では、不飽和化合物のπLUMOのエネルギー準位が0eV以下であることが好ましい。このような化合物は、原料錯体の配位子(b)に容易に付加反応し、強酸下において十分安定な金属錯体を得ることができる。
本発明ではまた、上述の金属錯体を含有する触媒を提供する。この触媒は、上記特徴を有する金属錯体を含んでいるため、強酸下においても十分安定で、優れた触媒性能を有する。このような触媒は特に電極触媒として好適に用いることができる。
本発明によれば、強酸性下においても十分安定な金属錯体並びに当該金属錯体を含有する触媒及び電極触媒を提供することができる。
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。本実施形態に係る金属錯体は、遷移金属及び該金属に配位する配位子(a)を備える金属錯体であって、遷移金属及び該金属に配位するアザジエン構造を有する配位子(b)を備える原料錯体と、配位子(b)との反応により配位子(a)を形成する不飽和化合物とを、共存状態で加熱させて得ることができる。
アザジエン構造を有し遷移金属に配位する配位子(b)としては、下記式A,B,C,D,E,F,G及びHで表される構造の少なくとも一つを分子内に含むものが好ましい。なお、配位子(b)は窒素原子を含むジエン構造を有している。
Figure 2009039623
原料錯体のより好適な配位子(b)としては、下記一般式(1)で表される化合物を挙げることができる。
Figure 2009039623
上記一般式(1)中、Qは少なくとも2つのC=N結合を有する2価の有機基を示し、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は置換基を示す。複数あるR、R及びRは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、複数あるRは互いに連結していてもよく、複数あるRは互いに連結していてもよい。
上記一般式(1)のR,R及びRで表される置換基としては、水酸基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、ホルミル基、ヒドロキシスルホニル基、ハロゲン原子、置換されていてもよい1価の炭化水素基、置換されていてもよいヒドロカルビルオキシ基(置換されていてもよい炭化水素オキシ基)、非置換又は置換の1価の炭化水素基2個で置換されたアミノ基(即ち、置換されていてもよい炭化水素二置換アミノ基)、置換されていてもよいヒドロカルビルメルカプト基(置換されていてもよい炭化水素メルカプト基)、置換されていてもよいヒドロカルビルカルボニル基(置換されていてもよい炭化水素カルボニル基)、置換されていてもよいヒドロカルビルオキシカルボニル基(置換されていてもよい炭化水素オキシカルボニル基)、非置換又は置換の1価の炭化水素基2個で置換されたアミノカルボニル基(即ち、置換されていてもよい炭化水素二置換アミノカルボニル基)、又は置換されていてもよいヒドロカルビルオキシスルホニル基(置換されていてもよい炭化水素スルホニル基)を挙げることができる。なお、上記のハロゲン原子とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子をいう。
1価の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ノニル基、ドデシル基、ペンタデシル基、オクタデシル基、ドコシル基等の炭素数1〜50程度のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロノニル基、シクロドデシル基、ノルボニル基、アダマンチル基等の炭素数3〜50程度の環状飽和炭化水素基;エテニル基、プロペニル基、3−ブテニル基、2−ブテニル基、2−ペンテニル基、2−ヘキセニル基、2−ノネニル基、2−ドデセニル基等の炭素数2〜50程度のアルケニル基;フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、4−エチルフェニル基、4−プロピルフェニル基、4−イソプロピルフェニル基、4−ブチルフェニル基、4−t−ブチルフェニル基、4−ヘキシルフェニル基、4−シクロヘキシルフェニル基、4−アダマンチルフェニル基、4−フェニルフェニル基等の炭素数6〜50程度のアリール基;フェニルメチル基、1−フェニレンエチル基、2−フェニルエチル基、1−フェニル−1−プロピル基、1−フェニル−2−プロピル基、2−フェニル−2−プロピル基、3−フェニル−1−プロピル基、4−フェニル−1−ブチル基、5−フェニル−1−ペンチル基、6−フェニル−1−ヘキシル基等の炭素数7〜50程度のアラルキル基を例示することができる。
上述の1価の炭化水素基のうち、配位子の安定性を向上させるという観点から、炭素数1〜20の炭化水素基が好ましく、炭素数1〜12の炭化水素基がより好ましく、炭素数1〜6の炭化水素基がさらに好ましく、炭素数1〜6のアルキル基が特に好ましい。
上述のヒドロカルビルオキシ基、ヒドロカルビルメルカプト基、ヒドロカルビルカルボニル基、ヒドロカルビルオキシカルボニル基、ヒドロカルビルスルホニル基としては、それぞれ、オキシ基、メルカプト基、カルボニル基、オキシカルボニル基、スルホニル基に上述の1価の炭化水素基のいずれか1個が結合した基を挙げることができる。
「非置換又は置換の1価の炭化水素基2個で置換されたアミノ基」及び「非置換又は置換の1価の炭化水素基2個で置換されたアミノカルボニル基」としては、アミノ基及びアミノカルボニル基[−C(=O)−NHで表される基]中のそれぞれの2個の水素原子が上述の1価の炭化水素基で置換された基を挙げることができる。当該1価の炭化水素基の具体例及び好ましい例は、上述のRで表される置換基である1価の炭化水素基と同じである。
で表される1価の炭化水素基、ヒドロカルビルオキシ基、ヒドロカルビルメルカプト基、ヒドロカルビルカルボニル基、ヒドロカルビルオキシカルボニル基、ヒドロカルビルスルホニル基は、これらの基に含まれる水素原子の一部又は全部が、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、置換されていてもよい1価の炭化水素基、置換されていてもよいヒドロカルビルオキシ基、置換されていてもよいヒドロカルビルメルカプト基、置換されていてもよいヒドロカルビルカルボニル基、置換されていてもよいヒドロカルビルオキシカルボニル基、置換されていてもよいヒドロカルビルスルホニル基等で置換されていてもよい。
上記の「水素原子の一部又は全部」を置換する基としては、水酸基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、ホルミル基、ヒドロキシスルホニル基、ハロゲン原子が好ましい。
上述のR、R及びRで表される置換基の中でも、置換されていてもよい1価の炭化水素基、置換されていてもよいヒドロカルビルオキシ基、非置換又は置換の1価の炭化水素基2個で置換されたアミノ基、置換されていてもよいヒドロカルビルメルカプト基、置換されていてもよいヒドロカルビルカルボニル基、置換されていてもよいヒドロカルビルオキシカルボニル基が好ましく、置換されていてもよい1価の炭化水素基、置換されていてもよいヒドロカルビルオキシ基、非置換又は置換の1価の炭化水素基2個で置換されたアミノ基がより好ましく、置換されていてもよい1価の炭化水素基がさらに好ましい。これらの基において、水素原子の結合した窒素原子は、1価の炭化水素基で置換されていることが好ましい。
、R及びRとしては、具体的には水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、フェニル基、メチルフェニル基、ナフチル基、ピリジル基が好ましく、水素原子、メチル基、t−ブチル基、フェニル基がより好ましく、水素原子、メチル基が更に好ましい。
上記一般式(1)中のQは、少なくとも2つのC=N結合を有する2価の有機基を示す。該2価の有機基としては、下記一般式(1−a)及び下記一般式(1−b)で表される2価の有機基を例示することができる。
Figure 2009039623
上記一般式(1−a)中、複数あるR10はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を示し、Zは2価の有機基を示す。また、上記一般式(1−b)中、P及びPは、それぞれ1つのC=N結合を有する芳香族複素環基を示し、PとPが互いに結合して環を形成してもよい。また、該芳香族複素環基の少なくとも一つの水素は置換基で置換されていてもよい。また、P及びPは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。Yは、単結合、二重結合又は連結基を示す。
10の具体例及び好ましい例は、上記一般式(1)におけるRと同一である。
上記一般式(1−a)のZとしては、置換されていてもよいアルキレン基、置換されていてもよい2価の芳香族基が好ましい。当該アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、1,1−プロピレン基、1,2−プロピレン基、1,3−プロピレン基、2,4−ブチレン基、2,4−ジメチル−2,4−ブチレン基、1,2−シクロペンチレン基、1,2−シクロヘキシレン基などの全炭素原子数1〜20程度の直鎖、分岐又は環状のアルキレン基等を例示することができる。また、当該アルキレン基は、上記一般式(1)のRで挙げられた置換基で置換されていてもよい。
上記Zで表される「置換されていてもよい2価の芳香族基」とは、芳香族化合物が水素原子を2個失って生じる2価の基である。ここでの芳香族化合物としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、ビフェニル、ビフェニレン、フラン、ジベンゾフラン、チオフェン、ジベンゾチオフェン、ピリジン、フェノール、ナフトール等の全炭素原子数6〜60程度の芳香族化合物を例示することができる。この「置換されていてもよい2価の芳香族基」は、上記一般式(1)のRで挙げられた置換基で置換されていてもよい。
なお、上記一般式(1−a)で表される2価の有機基として、下記一般式(1−a−1)、一般式(1−a−2)、一般式(1−a−3)、一般式(1−a−4)、一般式(1−a−5)、一般式(1−a−6)、一般式(1−a−7)、一般式(1−a−8)及び一般式(1−a−9)の化合物を例示することができる。これらのうち、配位子の化学的な安定性を向上させる観点から、下記一般式(1−a−5)及び一般式(1−a−6)の化合物が好ましい。
Figure 2009039623
上記一般式(1−a−1)、一般式(1−a−2)、一般式(1−a−3)、一般式(1−a−4)、一般式(1−a−5)、一般式(1−a−6)、一般式(1−a−7)、一般式(1−a−8)、及び一般式(1−a−9)中、R11及びR12は、それぞれ独立に水素原子又は置換基を示す。複数あるR11及び複数あるR12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、隣り合う2つの原子に結合している2つのR11は互いに連結していてもよい。
11の及びR12の具体例及び好ましい例は、上記一般式(1)におけるRと同じである。
上記一般式(1−b)のP及びPで表される芳香族複素環基となる芳香族複素環としては、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、チアゾール、イミダゾール、オキサゾール、ベンゾイミダゾール、キノリン、イソキノリン、シンノリン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリン、ベンゾジアジンを例示することができる。これらの芳香族複素環は、上記一般式(1)のRで挙げられた置換基で置換されてもよい。上述の芳香族複素環のうち、配位子の耐熱性を向上させる観点から、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、チアゾール、イミダゾール、オキサゾール、ベンゾイミダゾールが好ましく、ピリジン、チアゾール、イミダゾール、オキサゾールがより好ましい。
上記一般式(1−b)のPとPは、互いに結合して環を形成してもよい。上記一般式(1−b)で表される2価の有機基としては、下記一般式(1−b−1)、一般式(1−b−2)、一般式(1−b−3)、一般式(1−b−4)、一般式(1−b−5)、又は一般式(1−b−6)の構造を有するものが好ましい。これらのうち、一般式(1−b−1)、一般式(1−b−2)の構造を有するものがより好ましい。
Figure 2009039623
上記一般式(1−b−1)、一般式(1−b−2)、一般式(1−b−3)、一般式(1−b−4)、一般式(1−b−5)、及び一般式(1−b−6)におけるR13は、水素原子又は置換基を示す。同一構造中に複数あるR13は同一でも異なっていてもよい。
上記一般式(1−b−3)のR14は水素原子又は炭素数が1〜30の炭化水素基を示す。複数あるR14は同一でも異なっていてもよい。
一般式(1)で表される配位子(b)の具体的な構造としては、下記式(I)及び下記式(II)を例示することができる。
Figure 2009039623
原料錯体のより好適な配位子(b)としては、下記一般式(2)で表される化合物を挙げることができる。
Figure 2009039623
上記一般式(2)中、Arは置換されてもよい2価の芳香族基を示し、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は置換基を示す。複数あるAr、R、R及びRは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、複数あるRは互いに連結していてもよく、複数あるRは互いに連結していてもよい。
上記一般式(2)における、R、R及びRの具体例及び好ましい例は、上記一般式(1)におけるRと同一である。Arの具体例は上記一般式(1−a)におけるZの「置換されていてもよい2価の芳香族基」の具体例と同じものを挙げることができる。また、Arとしては、下記一般式(2−a)、一般式(2−b)又は一般式(2−c)で表されるものが好ましく、一般式(2−a)で表されるものが最も好ましい。
Figure 2009039623
上記一般式(2−a)、一般式(2−b)及び一般式(2−c)中、R15は水素原子又は置換基を示し、同一芳香族基中に複数あるR15は同一でも異なっていてもよい。R15の具体例及び好ましい例は、上記一般式(1)におけるRと同一である。
本実施形態にかかる原料錯体及び金属錯体に含まれる遷移金属は、「化学大辞典」(大木道則他編、平成17年7月1日発行、東京化学同人)1283頁に「遷移元素」として記載されているものと同義であり、不完全なdまたはf亜殻を有する元素を意味する。なお、本実施形態における遷移金属原子は、無電荷であっても、荷電しているイオンであってもよい。
遷移金属としては、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、水銀等を例示することができる。これらのうち、製造コストの観点、又は活性の高い触媒が得られるという観点から、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ルテニウム、パラジウム、銀、イリジウム、白金、金が好ましく、マンガン、鉄、コバルト、銅、パラジウム、イリジウム、白金がより好ましい。なお、本実施形態においては、上述の通り、これらの遷移金属の陽イオンであってもよい。
原料錯体及び金属錯体は、一分子あたり、2つの遷移金属原子を有することが好ましい。これによって、活性中心を2つ有し2電子移動反応を促進することが可能な複核触媒を得ることができる。
遷移金属と、該金属に配位するアザジエン構造を有する配位子(b)とを備える原料錯体において、遷移金属は、配位子(b)の他に、中性分子及び対イオンにより配位されてもよい。また、中性分子と対イオンが共存する形態でもよい。
中性分子としては、水、メタノール、エタノール、n−プロパノ−ル、イソプロピルアルコール、2−メトキシエタノール、1,1−ジメチルエタノール、エチレングリコール、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、クロロホルム、アセトニトリル、ベンゾニトリル、トリエチルアミン、ピリジン、ピラジン、ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、4,4’−ビピリジン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、メチルエチルエーテル、1,4−ジオキサン等を例示することができる。これらのうち、遷移金属への配位の容易性の観点から、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、クロロホルム、アセトニトリル、ベンゾニトリル、トリエチルアミン、ピリジン、ピラジン、ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、4,4’−ビピリジン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサンが好ましい。
対イオンとしては、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、硫化物イオン、酸化物イオン、水酸化物イオン、水素化物イオン、亜硫酸イオン、リン酸イオン、シアン化物イオン、酢酸イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸水素イオン、トリフルオロ酢酸イオン、チオシアン化物イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、アセチルアセトナート、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、テトラフェニルホウ酸イオン等を例示することができる。これらのうち、製造コストの観点から、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、酸化物イオン、水酸化物イオン、水素化物イオン、リン酸イオン、シアン化物イオン、酢酸イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、アセチルアセトナート、テトラフェニルホウ酸イオンが好ましい。
本実施形態の原料錯体としては、シッフ塩基型錯体を用いることが好ましい。このようなシッフ塩基型錯体として、下記式III、IV、Vの錯体を例示することができる。
Figure 2009039623
次に、原料錯体の配位子(b)と付加反応し得る不飽和結合を有する不飽和化合物について説明する。当該不飽和化合物は、共役ジエンと付加環化反応しうる不飽和結合を有する有機化合物である。この付加環化反応し得る不飽和結合は、電子吸引性置換基が直接結合している不飽和結合が好ましい。ここで、電子吸引性置換基としては、具体的にはフェニル基、シアノ基、カルボニル基、ニトロ基、スルホニル基が好ましく、シアノ基、カルボニル基がより好ましい。本実施形態にかかる不飽和化合物としては、下記一般式(3)及び一般式(4)で表される化合物が好ましい。
Figure 2009039623
上記一般式(3)中、Xは炭素原子又は窒素原子を示し、複数あるXは同一でも異なっていてもよい。Rは水素原子又は置換基を示し、複数あるRは同一でも異なっていてもよく、複数あるRは互いに連結していてもよい。
の具体例は、上記一般式(1)におけるRと同一である。Rは、不飽和化合物の反応性を向上させる観点から、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、ホルミル基、ヒドロキシスルホニル基、置換されていてもよい1価の炭化水素基であることが好ましく、シアノ基、カルボキシル基、置換されていてもよい1価の炭化水素基であることがより好ましく、シアノ基、カルボキシル基であることが更に好ましい。
Figure 2009039623
上記一般式(4)中、Rは水素原子又は置換基を示し、複数あるRは同一でも異なっていてもよい。Rの具体例は、上記一般式(1)におけるRと同一である。Rは、不飽和化合物の反応性を向上させる観点から、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、ホルミル基、ヒドロキシスルホニル基、置換されていてもよい1価の炭化水素基であることが好ましく、シアノ基、カルボキシル基、置換されていてもよい1価の炭化水素基であることがより好ましく、シアノ基、カルボキシル基であることが更に好ましい。
原料錯体と付加反応し得る不飽和結合を有する不飽和化合物としては、πLUMOのエネルギー準位が低い化合物が好ましい。このような化合物は、原料錯体の配位子(b)と容易に付加反応することができる。πLUMOとはπ軌道の最高非占有軌道を意味し、πLUMOのエネルギー準位はAM1計算によって求めることができる。AM1計算は、汎用のパッケージソフトを使用することができ、例えばChem3D Ultra Version 7.0などを使用することができる。
πLUMOのエネルギー準位が低い化合物としては、以下に示す化学式4a、4b、4c、4d、4e、4f、4g、4h、4i、4j、4k、4l、4m、4n,4o,4p,4q,4r,4s及び4tに示す化合物を例示することができる。これらは、本実施形態の不飽和化合物として好適である。
Figure 2009039623
Figure 2009039623
Figure 2009039623
Figure 2009039623
Figure 2009039623
Figure 2009039623
Figure 2009039623
πLUMOのエネルギー準位が低い化合物として例示された上記の各化合物の下に記載されている各数値(単位:eV)は、それぞれの化合物のπLUMOのエネルギー準位を表す。πLUMOのエネルギー準位としては、原料錯体と不飽和化合物との反応をより円滑に進行させる観点から、0eV以下が好ましく、−0.4eV以下がより好ましく、−0.8eV以下がさらに好ましく、−1.2eV以下が特に好ましい。
上記4iのような化合物は、アラインが不安定であるため通常単離はできない反応中間体であるが、下記一般式(5)で表される不飽和化合物(前駆体)を加熱することにより発生させることができる。したがって、下記一般式(5)式で表される不飽和化合物と原料錯体とを加熱等することによって、下記一般式(5)式で表される不飽和化合物から発生する反応中間体と原料錯体とが反応して、本実施形態にかかる金属錯体を得ることができると考えられる。なお、好ましい前駆体としては、反応中間体としてベンザインを生成する有機化合物が挙げられる。
Figure 2009039623
上記一般式(5)のRは水素原子又は置換基を示し、複数あるRは同一でも異なっていてもよい。Xは脱離基を示し、複数あるXは同一でも異なっていてもよく、複数あるXは互いに連結していてもよい。Xとしては加熱によりアラインを発生させるものが好ましい
上記一般式(5)で表される好ましい化合物として、下記一般式(5−a)、一般式(5−b)、一般式(5−c)及び一般式(5−d)の化合物を例示することができる。
Figure 2009039623
上記一般式(5−a)、一般式(5−b)、一般式(5−c)及び一般式(5−d)中、R16は水素原子又は置換基を示し、同一化合物中に複数あるR16は同一でも異なっていてもよく、互いに連結されていてもよい。R16の具体例は、上記一般式(1)におけるRと同一である。また、上記一般式(5−b)及び一般式(5−c)中、Arは置換されていてもよい芳香族炭化水素基又は置換されていてもよい芳香族複素環基を表す。ここでいう芳香族炭化水素基とは、芳香族炭化水素化合物が水素原子を1個失って生じる1価の基である。この芳香族炭化水素化合物としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、ビフェニル、ビフェニレン等の全炭素原子数6〜60程度の芳香族化合物を例示することができる。また、芳香族複素環基とは、芳香族複素環が水素原子を1個失って生じる1価の基である。この芳香族複素環としては、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、チアゾール、イミダゾール、オキサゾール、ベンゾイミダゾール、キノリン、イソキノリン、シンノリン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリン、ベンゾジアジン、フラン、ジベンゾフラン、チオフェン、ジベンゾチオフェンを例示することができる。
遷移金属とこの遷移金属に配位する配位子(b)とを備える原料錯体と、該配位子(b)と反応により配位子(a)を形成する不飽和化合物とは、ガス雰囲気下や溶液中で共存させて、例えば50〜500℃の範囲で加熱して反応させることができる。
本発明者らは、本実施形態において、原料錯体と不飽和化合物とは、例えば以下の反応式(6)に示すように反応して、金属錯体を生成すると推測している。
Figure 2009039623
上記反応式(6)では、原料錯体(シッフ塩基型金属錯体)と不飽和化合物であるジフェニルヨードニウム−2−カルボキシラートとから金属錯体(K)を生成すると考えられる。この反応では、ジフェニルヨードニウム−2−カルボキシラートから生成したベンザイン等が原料錯体(シッフ塩基型金属錯体)とイミノ・Deals−Alder反応して金属錯体(K)を生成すると推測される。このようにして得られる金属錯体(K)も、酸に弱いイミノ基が保護される構造となっているため、酸と接触してもイミノ基が分解されない。このため、このような金属錯体(K)は強酸性下においても優れた安定性を有するものと思われる。
上記反応式(6)の反応機構を鑑みれば、本実施形態の金属錯体は、原料として、原料錯体と直接付加反応し得る不飽和結合を有する不飽和化合物、又は、原料錯体と付加反応し得る化合物を生成する不飽和化合物とを用い、これらを共存させた状態で加熱して反応させることによって得ることが好ましい。
上述のような反応を、溶液中で加熱して行う場合、用いる溶媒としては常圧で沸点が50℃〜300℃の溶媒が好ましく、常圧で沸点が75℃〜250℃の溶媒がより好ましく、常圧で沸点が100℃〜200℃の溶媒がさらに好ましい。
溶媒としては、水、酢酸、シュウ酸、アンモニア水、メタノール、エタノール、n−プロパノ−ル、イソプロピルアルコール、2−メトキシエタノール、1−ブタノール、1,1−ジメチルエタノール、エチレングリコール、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、メチルエチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、デュレン、デカリン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、トリエチルアミン、ピリジン等を例示することができる。溶媒としては、原料錯体と不飽和化合物を溶解できるものが好ましい。
なお、溶液中での反応は加圧下で行ってもよい。加圧下での反応は、例えば、原料錯体、不飽和化合物及び溶媒を含む溶液を封管に入れ、加熱処理やマイクロ波処理により行うことができる。
溶液中で反応を行う場合の反応温度としては、60〜300℃とすることが好ましく、70〜200℃とすることがより好ましい。反応時間としては、例えば1分〜1週間、好ましくは5分〜24時間、より好ましくは1時間〜12時間とすることができる。なお、反応温度および反応時間は、原料錯体及び不飽和化合物の種類によって適宜最適化することが好ましい。
ガス雰囲気下で加熱処理を行う場合は、ガスとして、水素、ヘリウム、窒素、アンモニア、酸素、ネオン、アルゴン又はこれらの混合ガスとすることが好ましく、水素、窒素、アンモニア、アルゴン、又はこれらの混合ガスとすることがより好ましい。
ガス雰囲気下での加熱温度としては、80〜450℃が好ましく、100〜400℃がより好ましい。加熱時間としては、1〜10時間が好ましく、1〜5時間がより好ましい。
本発明において、不飽和化合物が50℃〜500℃の範囲において分解する場合は、原料錯体と不飽和化合物との混合物を分解温度付近の温度に加熱することが好ましい。不飽和化合物の分解温度は、熱重量/示差熱分析により調べることができ、具体的には、以下に示す測定装置及び測定条件下で測定を行った場合に、5μV/mg以上の発熱ピークが検出される温度とすることができる。
測定装置:Rigaku THERMOFLEX TAS200 TG8101D
昇温速度:10℃/min
測定試料の量:5mg〜15mg
試料の入れ物(皿):アルミパン
測定雰囲気:窒素雰囲気下
加熱温度は、不飽和化合物の上記発熱ピークが観測される温度をT(分解温度)とした場合、上限を(T+50)℃とすることが好ましく、(T+40)℃とすることがより好ましく、(T+30)℃とすることがさらに好ましい。一方、加熱温度の下限は、(T−50)℃とすることが好ましく、(T−40)℃とすることがより好ましく、(T−30)℃とすることがさらに好ましい。なお、分解温度付近とは、(T−50)〜(T+50)℃の温度を意味する。
原料錯体と不飽和化合物との反応は、不飽和化合物の分解温度付近の温度で一旦加熱処理(以下、便宜上、「加熱処理1」という。)を行った後、より高い温度で更に加熱処理(以下、便宜上、「加熱処理2」という。)をして行うこともできる。これによって、完全に反応を進行させるとともに、過剰の不飽和化合物を完全に分解することができる。この場合、加熱処理2の加熱温度は、加熱処理1の加熱温度T1とした場合に、上限をT1+400℃とすることが好ましく、上限をT1+300℃とすることが好ましい。加熱処理2の加熱時間は1〜5時間が好ましく、1〜3時間がより好ましい。
本実施形態に係る金属錯体は、種々の用途に応じて、種々の担体、添加剤等と併用することや、その形状を加工することができる。用途としては、燃料電池用の電極触媒や膜劣化防止剤、芳香族化合物の酸化カップリング触媒、排ガス・排水浄化用触媒、二酸化炭素還元触媒、改質水素製造用触媒、酸素センサーなどが挙げられる。
また、本実施形態に係る金属錯体は、触媒として使用する際に、カーボン担体及び/又は導電性高分子を含む組成物として用いることができる。このような組成物にすると、金属錯体の安定性が増したり、触媒活性が向上したりする傾向があるため好ましい。
当該組成物に含まれる導電性高分子としては、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール等を例示することができる。また、当該組成物に含まれるカーボン担体としては、ノーリット(NORIT)、ケッチェンブラック(Lion)、バルカン(Cabot)、ブラックパール(Cabot)、アセチレンブラック(Chevron)等のカーボン粒子、C60やC70等のフラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボン繊維等を例示することができる。
また、当該組成物には、本実施形態に係る金属錯体を複数種混合して用いたり、カーボン担体及び導電性高分子をそれぞれ複数組み合わせて用いたりしてもよく、また、カーボン担体と導電性高分子とを組み合わせて用いることもできる。
次に、本実施形態の金属錯体の好ましい用途について説明する。本実施形態の金属錯体は、固体高分子型燃料電池に好適に用いられる。固体高分子型燃料電池において、当該金属錯体を電解質、電極、及び電解質と各電極との界面(電解質/各電極界面)等に含有させることができる。固体高分子型燃料電池は、通常、水素又はメタノールなど含む燃料が導入される燃料極と、酸素を含む酸化剤ガスが供給される酸素極と、該燃料極及び該酸素極の間に挟持された電解質膜とからなる電解質膜電極接合体(MEA)がセパレーターを介して複数個積層されて構成される。本実施形態の金属錯体は、酸素極、燃料極又は電解質/各電極界面に含有されることが好ましい。該金属錯体を電解質、電極、又は電解質/電極界面等に含有させる方法としては、種々の方法を用いることができる。例えば、該金属錯体をフッ素系イオン交換樹脂[ナフィオン(登録商標、デュポン社製)等]などの電解質溶液に分散させ、この分散液から膜状の成形物を作製して電解質膜として用いる方法、又はこの分散液を電解質膜に塗布、乾燥させたものを電極として用いる方法、該金属錯体を分散させた分散液を電極に塗布して乾燥させ、そこに電解質膜を接合することで電解質−電極界面に金属錯体を含有する層を過酸化物分解触媒層として導入する方法等が挙げられる。
また、本実施形態に係る金属錯体は、芳香族化合物の酸化カップリング触媒としても好適に用いられる。例えば、ポリフェニレンエーテルやポリカーボネートなどのポリマー製造用の触媒として好適に用いられる。使用形態としては、本実施形態に係る金属錯体を反応液に直接添加する方法や、該金属錯体をゼオライトやシリカなどに担持させる方法などが挙げられる。
本実施形態に係る金属錯体は、各種工場や自動車からの排ガス中に含有されている硫黄酸化物や窒素酸化物を硫酸やアンモニアへ転換するための脱硫・脱硝触媒としても使用できる。具体的な使用形態としては、当該金属錯体を含む触媒を、工場からの排ガスが通気する塔に充填する方法や、自動車のマフラーに充填する方法などが挙げられる。
本実施形態に係る金属錯体は、改質水素中のCOを変成する触媒として使用することもできる。改質水素中にはCOなどが含まれており、改質水素を燃料電池として使用する場合、燃料極がCOの被毒を受けることが問題であり、改質水素中のCO濃度を極力低減することが望まれる。具体的な使用形態については、例えば、Chemical Communication,3385(2005)に記載の方法等が挙げられる。
更に、本実施形態に係る金属錯体は、不飽和化合物として上記化学式4fや4Oのような2官能性の化合物を用いることにより、高分子金属錯体の合成にも応用できる。また、不飽和化合物として発光材料、導電性材料、伝導性材料などの機能性材料を用いることにより、アザジエン構造を有する配位子(b)と遷移金属とからなる原料錯体に新規な機能を付与することも可能である。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
まず、下記反応式(7)によって、錯体(L)を合成した。具体的には、窒素雰囲気下、0.476gの塩化コバルト6水和物と0.412gの4−tert−ブチル−2,6−ジホルミルフェノールとを10mlのエタノールに添加して、エタノール溶液を調製した。このエタノール溶液を50mlナスフラスコに入れて室温で攪拌しながら、このエタノール溶液に、0.216gのo−フェニレンジアミンを5mlのエタノールに溶解させた溶液を徐々に添加して混合液を調整した。この混合液を常圧下で加熱して2時間還流し茶褐色沈殿を得た。この沈殿をろ取して乾燥し、錯体(L)を得た(収量0.465g:収率63%)。
Figure 2009039623
上記反応式(7)において、「Cl2」とは、錯体(L)中に2当量の塩素イオンが対イオンとして存在することを示し、「2H2O」とは、錯体(L)中に2当量の水分子が配位子(a)として存在することを示す。
合成した錯体(L)の元素分析を元素分析装置(エレメンタール社製、製品名:varioEL)を用いて行った。その結果、表1に示すとおり、反応式(7)における錯体(L)の構造から求められる計算値とほぼ一致していた。この結果から、上記反応式(7)によって、錯体(L)が合成されていることが確認できた。
Figure 2009039623
(熱重量/示差熱分析1)
ジフェニルヨードニウム−2−カルボキシラート一水和物(TCI社製)の熱重量/示差熱分析を行った。具体的には、熱重量/示差熱分析装置(Rigaku THERMOFLEX TAS200 TG8101D,以下、便宜上、「TG−DTA装置」という。)を用いて、ジフェニルヨードニウム−2−カルボキシラート一水和物8.7mgの重量変化(TG)及び示差熱変化(DTA)を測定した。測定条件は、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/minとし、熱処理にはアルミ皿を使用した。分析の結果、230℃に分解反応に帰属される発熱ピークが観測された。したがって、ジフェニルヨードニウム−2−カルボキシラート一水和物は、230℃で熱分解されることがわかった。
(熱重量/示差熱分析2)
4−フェニル−1,2,4−トリアゾリン−3,5−ジオン(Aldrich社製)の熱重量/示差熱分析を行った。具体的には、上記TG−DTA装置を用いて上記と同じ条件で、4−フェニル−1,2,4−トリアゾリン−3,5−ジオン9.4mgの重量変化(TG)及び示差熱変化(DTA)を測定した。分析の結果、120℃に分解反応に帰属される発熱ピークが観測された。したがって、4−フェニル−1,2,4−トリアゾリン−3,5−ジオンは、120℃で熱分解されることがわかった。
(実施例1)
錯体(L)を原料錯体として用いて、以下の手順で金属錯体を含む電極触媒を作製した。上記の通り調製した錯体(L)100mg(0.135mmol)、ジフェニルヨードニウム−2−カルボキシラート一水和物219mg(0.676mmol、TCI社製)、及びケッチェンブラック(ケッチェンブラックインターナショナル社製、商品名:ケッチェンブラックEC)400mgをサンプル瓶に加え、スパチュラでよくかき混ぜて混合した。こうして得られた混合物を管状炉(プログラム制御開閉式管状炉、いすゞ製作所製、商品名:EPKRO−14R)を用いて窒素雰囲気下(窒素ガス流量:200ml/min)で熱処理して触媒原料を得た。熱処理時の管状炉の温度設定は、まず1時間かけて200℃へ昇温して200℃で2時間保持し、その後1時間かけて400℃へ昇温して400℃で2時間保持し、その後2時間かけて室温へ降温した。熱処理時の管状炉内の温度チャートを図1に示す。
この触媒原料4mgをサンプルビンに入れ、2NのHClを3mL加えて、超音波で振動させる超音波処理を2時間20分間行った後、ろ過し、25℃、12時間の条件で、乾燥器(Fisher Scientific社製、製品名:Model285A Vacuum Oven)を用いて乾燥し、電極触媒を得た。
得られた電極触媒2mg、蒸留水0.6ml、エタノール0.4ml、及びナフィオン(登録商標)溶液(Aldrich社製,5質量%溶液、商品名:Nafion Perfluorinated resin solution 5wt.% in lower aliphatic alcohols and water.contains15−20water)20μLをサンプル瓶に加え、超音波で振動させる超音波処理を30分間行って懸濁液を得た。一方、ディスク部がグラッシーカーボン(4.0mmφ)、リング部がPt(リング内径5.0mm、リング外径7.0mm)であるリングディスク電極を準備した。そして、上記の懸濁液11μLをこのリングディスク電極のディスク部に滴下した後、室温で一晩乾燥して測定用電極を得た。
(実施例2)
錯体(L)を原料錯体として用いて、以下の手順で金属錯体を含む電極触媒を作製した。上記の通り調製した錯体(L)100mg(0.135mmol)、4−フェニル−1,2,4−トリアゾリン−3,5−ジオン119mg(0.678mmol、Aldrich社製)、及びケッチェンブラック(ケッチェンブラックインターナショナル社製、商品名:ケッチェンブラックEC)400mgをサンプル瓶に加え、スパチュラでよくかき混ぜて混合した。こうして得られた混合物を、実施例1と同じ管状炉及び雰囲気下で熱処理して触媒原料を得た。熱処理時の管状炉の温度設定は、まず、30分かけて100℃へ昇温して100℃で2時間保持し、その後1.5時間かけて400℃へ昇温して400℃で2時間保持し、その後2時間かけて室温へ降温した。熱処理時の管状炉内の温度チャートを図2に示す。
得られた触媒原料を用いて、実施例1と同様にして電極触媒を調製し、測定用電極を得た。
(比較例1)
上記の通り調製した錯体(L)100mg(0.135mmol)とケッチェンブラック(ケッチェンブラックインターナショナル社製、商品名:ケッチェンブラックEC)400mgとをサンプル瓶に加え、スパチュラでよくかき混ぜて混合した。こうして得られた混合物を実施例1と同じ管状炉及び雰囲気下で熱処理して触媒原料を得た。熱処理時の管状炉の温度設定は、2時間かけて400℃へ昇温して400℃で2時間保持し、その後2時間かけて室温へ降温した。
得られた触媒原料を用いて、実施例1と同様にして電極触媒を調製し、測定用電極を得た。
(電流密度の測定)
下記の測定装置を用いて、実施例1、2及び比較例1でそれぞれ作製した測定用電極を回転させることにより、その時の酸素還元反応の電流値を測定した。測定は、室温において、窒素雰囲気下及び酸素雰囲気下で行った。測定装置及び測定条件の詳細は下記の通りである。
<測定装置>
ビー・エー・エス株式会社製
RRDE−2回転リングディスク電極装置
ALSモデル701Cデュアル電気化学アナライザー
<測定条件>
セル溶液:0.05mol/L硫酸水溶液(酸素飽和)
分散液温度:25℃
参照電極:銀/塩化銀電極(飽和KCl)
カウンター電極:白金ワイヤー
掃引速度:5mV/s
電極回転速度:600rpm
酸素雰囲気下の測定で得られた電流値から、窒素雰囲気下での測定で得られた電流値を引いた値を、酸素還元の電流値とした。当該電流値から求められる電流密度とディスク電位との関係を図3に示す。また0.4Vの電位における電流密度は、表2に示す通りであった。
Figure 2009039623
(実施例3)
上記の通り調製した錯体(L)100mg(0.135mmol)、及びジフェニルヨードニウム−2−カルボキシラート一水和物219mg(0.676mmol、TCI社製)をサンプル瓶に加え、スパチュラでよくかき混ぜて混合した。こうして得られた混合物を管状炉(プログラム制御開閉式管状炉、いすゞ製作所製、商品名:EPKRO−14R)を用いて窒素雰囲気下(窒素ガス流量:200ml/min)で熱処理して金属錯体を得た。熱処理時の管状炉の温度設定は、まず1時間かけて200℃へ昇温して200℃で2時間保持し、その後1時間かけて400℃へ昇温して400℃で2時間保持し、その後2時間かけて室温へ降温した。
得られた金属錯体の赤外線吸収スペクトル測定を日本分光製のFT−IR−460plusを用いて行った。当該金属錯体のIRスペクトルを図4に示す
(実施例4)
上記の通り調製した錯体(L)100mg(0.135mmol)、4−フェニル−1,2,4−トリアゾリン−3,5−ジオン119mg(0.678mmol、Aldrich社製)、及びケッチェンブラック(ケッチェンブラックインターナショナル社製、商品名:ケッチェンブラックEC)400mgをサンプル瓶に加え、スパチュラでよくかき混ぜて混合した。こうして得られた混合物を、実施例1と同じ管状炉及び雰囲気下で熱処理して金属錯体を得た。熱処理時の管状炉の温度設定は、まず、30分かけて100℃へ昇温して100℃で2時間保持し、その後1.5時間かけて400℃へ昇温して400℃で2時間保持し、その後2時間かけて室温へ降温した。
得られた金属錯体の赤外線吸収スペクトル測定を日本分光製のFT−IR−460plusを用いて行った。当該金属錯体のIRスペクトルを図5に示す
実施例1における熱処理時の管状炉内の温度チャートである。 実施例2における熱処理時の管状炉内の温度チャートである。 電流密度とディスク電位との関係を示すグラフである。 実施例3で得られた金属錯体のIRスペクトルである。 実施例4で得られた金属錯体のIRスペクトルである。

Claims (10)

  1. 遷移金属及び該金属に配位する配位子(a)を備える金属錯体であって、
    前記遷移金属及び該金属に配位するアザジエン構造を有する配位子(b)を備える原料錯体と、前記配位子(b)との反応により前記配位子(a)を形成する不飽和化合物とを、共存状態で加熱させて得ることのできる金属錯体。
  2. 前記原料錯体と前記不飽和化合物とを、50℃〜500℃の範囲で加熱させて得ることのできる請求項1記載の金属錯体。
  3. 前記原料錯体と前記不飽和化合物とを、該不飽和化合物の分解温度付近に加熱させて得ることのできる請求項1又は2記載の金属錯体。
  4. 前記配位子(b)が下記一般式(1)で表される化合物である請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属錯体。
    Figure 2009039623

    (式中、Qは少なくとも2つのC=N結合を有する2価の有機基を示し、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は置換基を示す。複数あるR、R及びRは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、複数あるR及びRはそれぞれ互いに連結していてもよい。)
  5. 前記配位子(b)が下記一般式(2)で表される化合物である請求項1〜4のいずれか一項に記載の金属錯体。
    Figure 2009039623

    (式中、Arは置換されていてもよい2価の芳香族基を示し、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は置換基を示す。複数あるAr、R、R及びRは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、複数あるR及びRは互いに連結していてもよい。)
  6. 前記不飽和化合物が、下記式(3)及び下記式(4)で表される化合物の少なくとも一方である請求項1〜5のいずれか一項に記載の金属錯体。
    Figure 2009039623

    (式中、Xは炭素原子又は窒素原子を示し、複数あるXは同一でも異なっていてもよい。Rは水素原子または置換基を示し、複数あるRは同一でも異なっていてもよく、複数あるRは互いに連結していてもよい。)
    Figure 2009039623

    (式中、Rは水素原子又は置換基を示し、複数あるRは同一でも異なっていてもよい。)
  7. 前記不飽和化合物が、下記式(5)で表される化合物である請求項1〜6のいずれか一項に記載の金属錯体。
    Figure 2009039623

    (式中、Rは水素原子又は置換基を示し、複数あるRは同一でも異なっていてもよい。また、Xは脱離基を示し、複数あるXは同一でも異なっていてもよく、複数あるXは互いに連結していてもよい。)
  8. 前記不飽和化合物のπLUMOのエネルギー準位が0eV以下である請求項1〜7のいずれか一項に記載の金属錯体。
  9. 請求項1〜8記載の金属錯体を含有する触媒。
  10. 請求項1〜8記載の金属錯体を含有する電極触媒。
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