JP2009035773A - 錫ナノ粒子の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】粒度分布が狭く、平均粒子径が小さい錫ナノ粒子を製造することができる製造方法を提供すること。
【解決手段】アポフェリチンと、錫イオンと、を含み、pHが4以下の原料溶液に、錫の酸化還元電位より負側の電位を有する還元剤(例えばNaBH4)を添加することで、前記アポフェリチンの内腔部で錫ナノ粒子を形成することを特徴とする錫ナノ粒子の製造方法。
【選択図】 図5

Description

本発明は、例えば、非鉛はんだ等の低温接合材に応用可能な錫ナノ粒子の製造方法に関する。
金属はナノ粒子化することで、その融点が大きく低下することが知られており、この性質を利用して、金属ナノ粒子を応用する技術が開発されている。
例えば、200〜300℃で揮発する分散剤とよばれる有機分子で分散させた、金や銀のナノ粒子が開発されている。これらのナノ粒子は、300℃前後の低温でバルク化する性質を有しており、この性質を利用して、はんだ代替の接合材や、ナノ配線への実用化技術に応用されている。
また最近では、非鉛系はんだの開発が進んでおり、SnやZnのナノ粒子からなるナノコンポジット構造の低温溶融はんだ合金なども開発されている(特許文献1参照)。
金属ナノ粒子を製造する方法としては、
(i)FeやNi、Cu、Co、Zn、Snなどの卑金属ナノ粒子を、水素化硼素ナトリウム等の還元溶液で析出して合成する化学的還元法(非特許文献1参照)
(ii)溶融金属を蒸発させて気相の金属とした後に、冷却凝集により金属ナノ粒子を得るガス蒸発法
(iii) 卑金属酸化物前駆体と、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含むハロゲン化物とを混合し、還元性雰囲気中で熱処理することで、卑金属ナノ粒子を得る方法(特許文献2参照)
(iv) バルク金属を超音波や機械的な処理で破砕して、ナノ粒子を得る手法(非特許文献2参照)
などが知られている。
特開2004−268065号公報 特開2006−16653号公報 Chemical Physics Letters 429 (2006) 492-496 Materials Science and Engineering A359 (2003) 405-407
しかしながら上記(i)の化学的還元法では、金や銀、白金、パナジウムなどの貴金属類のナノ粒子は合成することができるものの、錫等の卑金属類については、結晶性や粒径の揃いが悪くなり、均一な粒径、形状のナノ粒子を得ることが難しい。錫のナノ粒子については、酢酸スズを原料として水素化硼素ナトリウムで還元する手法が報告されているが、平均粒径は26nmと大きく、また、標準誤差も10nmと大きく、粒径の均一性は得られていない。
また、上記(ii)のガス蒸発法では、金属ナノ粒子の凝集による粗大な粒子の生成が起こり、粒度分布の広い金属ナノ粒子しか得られないという問題点がある。そこで、金属ナノ粒子の凝集を防ぐ目的で、原料のガス濃度を極めて希薄にする試みが行われているが、生産性が極めて低く、実用的でない方法となってしまう。
また、上記(iii)の方法では、得られる粒子の粒径が100nm前後であり、粒径が数nmの小さなナノ粒子を得ることは難しい。
また、上記(iv)の方法では、得られる錫ナノ粒子の粒径は、30〜40nm前後であり、また、粒径分布も広がる傾向がある。
以上のように、各種手法にて、錫等の卑金属ナノ粒子を合成する手段が検討されているが、粒径が小さく(例えば10nm以下)、かつ、その粒径分布の狭い金属ナノ粒子が得られる方法は未だ知られていない。
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、粒度分布が狭く、平均粒子径が小さい錫ナノ粒子を製造することができる製造方法を提供することを目的とする。
(1)請求項1の発明は、
アポフェリチンと、錫イオンと、を含み、pHが4以下の原料溶液に、錫の酸化還元電位より負側の電位を有する還元剤を添加し、pH7以上の条件下、前記アポフェリチンの内腔部で、錫ナノ粒子を形成することを特徴とする錫ナノ粒子の製造方法を要旨とする。
本発明で用いる原料溶液では、pH4以下の酸性条件下で、アポフェリチンの内腔部に錫イオンが拡散している。この原料溶液に、錫の酸化還元電位より負側の電位を有する還元剤を添加すると、錫イオンが還元され、アポフェリチンの内腔部で錫ナノ粒子が形成される。アポフェリチンの内腔部の大きさは約7nmで均一であるから、粒径が小さく、しかも粒度分布が狭い錫ナノ粒子を製造することができる。
本発明で製造した錫ナノ粒子のように、その粒径が小さいと、例えば、錫ナノ粒子を非鉛はんだ等の低温接合材に用いた場合に、低温接合材の融点を低下させることができる。また、本発明で製造した錫ナノ粒子のように、その粒度分布が狭いと、例えば、錫ナノ粒子を上記低温接合材に用いた場合に、低温接合材において状態変化(固体から液体への変化、あるいはその逆の変化)が生じる温度範囲を狭くすることができる。すなわち、本発明で製造した錫ナノ粒子を用いれば、融点が低く、しかも、状態変化が生じる温度範囲が狭いため、非常に使いやすい低温接合剤を製造することができる。
錫イオンは、その溶解しているpH環境や塩化物イオンの存在により、その存在形態を大きく変える性質がある。すなわち、アルカリ側(pH7以上)では、Sn(OH)2となり、その安定構造のために白沈してしまう。一方、pH4以下の酸性条件下では、Sn2+、Sn(OH)+などが主流となり、イオン状態で存在できるため、沈殿し難くなる。本発明では、還元剤を添加する前における原料溶液のpHを4以下とすることにより、錫イオンが白沈しにくい。
アポフェリチンの内腔部に取り込まれた錫イオンを還元剤で還元する場合、添加する還元剤がプロトンからの水素生産に消費されるのを防ぐ目的で、原料溶液のpHを、速やかにpH7以上のアルカリ側にもっていくことが好ましい。その手段としては、緩衝能力のない原料溶液を用いることが好ましい。例えば、大腸菌等に合成させたアポフェリチンをカラムで精製する場合に、通常トリス(トリスヒドロキシメチルアンモニウム)緩衝液での溶出が試みられる。トリスは、pH8前後のアルカリ側での緩衝能が強い緩衝液であり、そのままのアポフェリチン溶液に錫イオンを添加して原料溶液とすると、錫の水酸化物が沈殿し易くなる。そこで、アポフェリチン分子の通らない透析膜等を利用して、アポフェリチン溶液中のトリスを、0.2mM以下に抑えることが好ましい。このことにより、錫の塩化物または硫酸化物等の添加により、容易に、pHが4以下の原料溶液を得ることができ、また、還元剤の添加により、容易に原料溶液のpHを7以上のアルカリ条件に移行させることができる。また、原料溶液に、酢酸緩衝液などの、酸性側に緩衝能力のある溶液を用いて、アポフェリチンに錫イオンを吸着させた場合は、還元剤の添加前に、水酸化ナトリウムなどの適当なアルカリで、原料溶液のpHを7以上に設定するとよい。このことにより、効率的にSnイオンの還元が行われ、アポフェリチンの内腔部に吸着した、実質的に全ての錫イオンから錫ナノ粒子を合成することが可能となる。
本発明における原料溶液には、塩化物イオンが実質的に存在しないことが好ましい。塩化物イオンが存在すると、酸性条件下でも、Sn(OH)Clの形で白沈が生じることがあるからである。
前記アポフェリチンとは、生物界に広く分布する蛋白質であり、分子量18,500KDaからなるモノマーサブユニットが24個集まってできている。アポフェリチンは、内部に空間(内腔部)を有する特徴がある。その働きは、生体内の鉄の量を調整することである。アポフェリチンと鉄、または鉄化合物との複合体はフェリチンと呼ばれる。
前記還元剤としては、錫の酸化還元電位より負側の電位を有するものを広く用いることができるが、例えば、NaBH4、次亜リン酸ナトリウム等が挙げられる。
(2)請求項2の発明は、
前記錫イオンの価数が2価であることを特徴とする請求項1記載の錫ナノ粒子の製造方法を要旨とする。
錫イオンは、2価と4価のものが存在するが、4価の錫イオンが原料溶液中に存在すると、錫イオンの大きな陽電荷により、アポフェリチンが凝集し易くなる。その結果、アポフェリチンの内腔部への錫イオンの拡散が起こり難くなり、アポフェリチンの内腔部を鋳型とした錫ナノ粒子の合成も難しくなる。そこで、本発明では、2価の錫イオンを用いることで、アポフェリチンの凝集を起こさせずに、アポフェリチンの内腔部への錫イオンの拡散を一層促進することができる。
(3)請求項3の発明は、
前記原料溶液には、SnCl2、SnSO4、及びSnF2から成る群から選ばれる一種以上の塩が溶解しており、前記錫イオンは、前記塩が解離して得られるものであることを特徴とする請求項1または2記載の錫ナノ粒子の製造方法を要旨とする。
SnCl2、SnSO4、及びSnF2は、解離しやすいため、これらの化合物を用いることにより、アポフェリチンの内腔部への錫イオンの拡散を促進することができる。またこれらの化合物は、強酸と錫からなるものであるから、これらの化合物を用いることにより、原料溶液のpHを、酸の添加をせずとも(あるいは酸の添加量が少なくとも)、4以下に設定することができる。
(4)請求項4の発明は、
前記原料溶液は、前記アポフェリチンを含む溶液と、前記錫イオンを含む溶液とを混合して得られるものであり、
前記錫イオンを含む溶液における錫イオン濃度が10mM以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の錫ナノ粒子の製造方法を要旨とする。
錫イオンを含む溶液のうち、SnCl2、SnSO4、SnF2などの強酸と錫からなる化合物を含む溶液は、それらが水に溶解することで酸性となり、Sn(OH)2の白沈が生じ易くなる。そして、錫イオンの濃度が高い場合は、Sn2+が水の加水分解を促進する結果、Sn(OH)2の白沈が時間の経過とともに増加してしまう。
そこで、本発明は、錫イオン濃度を10mM以下とすることにより、そのような沈殿を抑制して、アポフェリチンの内腔部への錫イオンの拡散を促し、結果として、効率的にアポフェリチンの内腔部にて錫ナノ粒子を合成することができる。
前記錫イオンを含む溶液における錫イオンの濃度は、5mM以上であることが好ましい。
(5)請求項5の発明は、
前記原料溶液において、前記錫イオンの個数は、前記アポフェリチンの個数の500倍以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の錫ナノ粒子の製造方法を要旨とする。
アポフェリチンの内腔部で錫イオンの吸着するサイトは300前後であり、それを大きく超える量の錫イオンを原料溶液中に含んでしまうと、余剰錫イオン由来の錫ナノ粒子がアポフェリチンの外部で形成されてしまい、結果として、アポフェリチンの凝集を発生させる結果、濁りが生じる。また、アポフェリチンの外部で形成される錫ナノ粒子は、その粒径が揃わないため、錫ナノ粒子の粒径における均一性も失われてしまう。そこで、本発明では、アポフェリチンの個数に対して、添加する錫イオンの個数を500倍以下、好ましくは、300倍以下とすることで、アポフェリチン同士の凝集、アポフェリチンの外での錫ナノ粒子の形成を抑制することができる。なお、錫イオンの配合量をアポフェリチンに対して300〜500倍の間にする場合、透析膜等により、余分な錫イオンをフェイリン溶液外に排除することが好ましい。
前記原料溶液において、前記錫イオンの個数は、前記アポフェリチンの個数の200倍以上(より好ましくは300倍以上)であることが好ましい。
本発明を実施例に基づいて説明する。
(1)錫ナノ粒子の製造
(a)50mMトリス(pH8.0)緩衝液を含む、アポフェリチン溶液の作成
ウマ由来の市販フェリチン(93mg/mL、SIGMA社製)0.5mLに対し、0.1Mの酢酸緩衝液(pH4.5)5.5mLを加え、透析膜(MWCO:15,000)チューブ中に入れた。それを、160mLの酢酸緩衝液(pH4.5)中に入れ、窒素パージしながら透析処理を15min行った。そして、0.4mLのチオグルコール酸を透析膜チューブ内に添加し、窒素パージ下、2h透析処理を実施した。更に、0.2mLのチオグリコール酸を透析膜チューブ内に加え、窒素パージ下1h透析処理を実施した。
引き続き、予め窒素パージしておいた、0.1M酢酸緩衝液(pH4.5)160mL中に、フェリチンを収容した透析膜チューブを移し、0.4mLのチオグリコール酸を透析膜チューブ内に添加し、窒素パージ下で1h、透析処理を実施した。透析チューブ内のフェリチンの色が消えたことを確認した後、0.15M塩化ナトリウムを含む、400mLの50mMトリス(pH8.0)緩衝液中に透析チューブを移し、1h透析処理を実施した。
引き続き、0.15M塩化ナトリウムを含む、500mLの50mMトリス(pH8.0)緩衝液中に透析チューブを移し、4℃下で一晩、透析処理を実施した。透析チューブ内の溶液を回収し、10,000Gで8min、遠心処理を実施し、変性したフェリチンを沈殿として取り除いた。なお、この時点で、フェリチンの総量は20mgとなっており、フェリチン内部に存在していたフェロハイドライドが完全に取り除かれた、アポフェリチンを調製できた。
(b)アポフェリチン溶液からのNaClの除去、及び緩衝能の除去
引き続き、上記(a)により得られた、50mMトリス(pH8.0)緩衝液を含む、3.6mg/mLのアポフェリチン溶液380μLに滅菌水2.62mLを加え、透析膜(MWCO:15,000)チューブ中に入れた。それを、100mLの蒸留水中に入れ、30min攪拌しながら透析を実施した。引き続き、100mLの新しい蒸留水に透析チューブを移し、30min攪拌しながら透析を実施した。
なお、アポフェリチンの溶解した水溶液中に塩化物イオンが存在する場合、Sn(OH)Clの沈殿が生じやすくなるが、上記のようにしてNaClを除去することで、Sn(OH)Clの沈殿発生を防止できる。
また、水溶液中で錫イオンを吸着させるには、pH4以下にする必要があるが、NaBH4による還元の最適なpHは7以上であり、錫イオンの吸着とNaBH4還元の最適なpH環境は異なる。これらの工程の最適なpH環境を両立させるためには、上記のようにして、アポフェリチン溶液の緩衝能を下げることが有効である。
(c)アポフェリチン溶液へのSnCl2の添加(原料溶液の調製)
次に、透析チューブ内のアポフェリチン溶液を別の容器に移し、4mMのSnCl2を375μL添加し、30min攪拌した。この時点で、アポフェリチン溶液が白濁する現象は見られなかった。
(d)還元剤(NaBH4)による錫イオンの還元
その後、7.5μmolのNaBH4を溶解した20μLの水溶液を、ゆっくり滴下した。NaBH4を添加してから30min攪拌し、アポフェリチン溶液を透析膜(MWCO:14,000)中に入れた後、100mLの0.15M NaCl溶液中でアポフェリチン溶液の透析を30min実施した。
(2)pH変化のモニタリング
NaBH4による錫イオンの還元工程(前記(1)(d))におけるアポフェリチン溶液のpH変化をモニタリングした。アポフェリチン溶液のpH変化を図1に示す。Sn2+吸着時(還元剤の添加前)のpHは3.3であったが、NaBH4添加によりpHは上昇し、9近くまで上がることを確認できた。
(3)錫ナノ粒子のTEM観察
還元後のアポフェリチン溶液を、炭素蒸着したCuグリッド上に滴下して、TEM観察を実施した。なお、2.0%の金チオグルコース液による負染色も実施し、アポフェリチンを見えるように工夫した。NaBH4還元後のアポフェリチンのTEM観察結果を図2に示す。8割以上のアポフェリチン内部において、Sn2+還元により生じた錫ナノ粒子を観察することができた。錫ナノ粒子の粒径は3〜4nmであり、粒径分布は非常に狭かった。
(比較例1)
基本的には前記実施例1の「(1)錫ナノ粒子の製造」と同様であるが、SnCl2を添加するときにおけるアポフェリチン溶液を、5mM酢酸緩衝液(pH3.6)として実験を行った。
その際の、NaBH4滴下によるアポフェリチン溶液のpH変化を図3に示す。NaBH4を滴下しても、アポフェリチン溶液のpHはアルカリ側にならないことを確認した。
また、還元後のアポフェリチン溶液を、炭素蒸着したCuグリッド上に滴下して、TEM観察を実施した結果を図4に示す。この場合、アポフェリチンの内腔部に錫ナノ粒子は形成されなかった。これは、滴下したNaBH4の殆どが、プロトンの還元に消費された結果、Sn2+の還元が殆ど起こらなかったことによると考えられる。
以上より、アポフェリチン溶液の緩衝能およびNaClを除くことが、Sn2+のアポフェリチンの内腔部への吸着と還元を促進させるために好ましいことが分かった。
(1)錫ナノ粒子の製造
(a)アポフェリチン溶液の作成
ウマ由来の市販フェリチン(93mg/mL,SIGMA社製)0.5mLに対し、0.1Mの酢酸緩衝液(pH4.5)5.5mLを加え、透析膜(MWCO:15,000)チューブ中に入れた。それを、160mLの酢酸緩衝液(pH4.5)中に入れ、窒素パージしながら透析処理を15min行った。そして、0.4mLのチオグルコール酸を透析膜チューブ内に添加し、窒素パージ下、2h透析処理を実施した。更に、0.2mLのチオグリコール酸を透析膜チューブ内に加え、窒素パージ下、1h透析処理を実施した。
引き続き、予め窒素パージしておいた、0.1M酢酸緩衝液(pH4.5)160mL中に、フェリチンを収容した透析膜チューブを移し、0.4mLのチオグリコール酸を透析膜チューブ内に添加し、窒素パージ下で1h、透析処理を実施した。透析チューブ内のフェリチンの色が消えたことを確認した後、400mLの0.15M塩化ナトリウム溶液中に、透析チューブを移し、1h透析処理を実施した。
引き続き、500mLの0.15M塩化ナトリウム溶液中に透析チューブを移し、4℃下で一晩、透析処理を実施した。透析チューブ内の溶液を回収し、10,000Gで8min、遠心処理を実施し、変性したフェリチンを沈殿として取り除いた。なお、この時点で、フェリチンの総量は20mgとなっており、フェリチン内部に存在していたフェロハイドライドが完全に取り除かれた、アポフェリチンを調製できた。
(b)アポフェリチン溶液へのSnCl2の添加(原料溶液の調製)
以下の工程は、Snナノ粒子の酸化を抑える目的で、全て窒素パージ下で実施した。アポフェリチン濃度を0.5μMに調整した0.15M塩化ナトリウム溶液(アポフェリチンと塩化ナトリウムとを含む水溶液)3mLを作り、20mMのSnCl2水溶液を30μL加えて30min攪拌した。この時点におけるアポフェリチン溶液のpHは3.8であったが、SnCl2添加により、アポフェリチン溶液が少し白濁した。
(c)還元剤(NaBH4)による錫イオンの還元
その後、4.5μmolのNaBH4を溶解した20μLの水溶液をゆっくり滴下した。その過程で、アポフェリチン溶液の白濁は消失した。NaBH4を添加してから30min攪拌し、アポフェリチン溶液を透析膜(MWCO:14,000)中に入れた後、100mLの0.15M NaCl溶液中でアポフェリチン溶液の透析を30min実施した。
以上の、SnCl2添加からNaBH4還元、透析までの工程を3回繰り返した。
(2)錫ナノ粒子のTEM観察
前記(1)の工程を行った後のアポフェリチン溶液を、炭素蒸着したCuグリッド上に滴下して、TEM観察を実施した。なお、2.0%の金チオグルコース液による負染色も実施し、アポフェリチンを見えるように工夫した。その結果について図5に示す。図5の(a)は、負染色をしていないサンプル、図5の(b)は、負染色を実施したサンプルである。(b)において、着色していない部分がアポフェリチンであり、その内部に錫ナノ粒子が存在していることを確認できた。なお、本法によると、アポフェリチン内部で錫ナノ粒子を合成できたが、錫ナノ粒子の入ってないアポフェリチンも一部存在していた。
(1)予備実験
アポフェリチン溶液に加える錫イオンの量について検討した。
pH4以下の酸性条件のアポフェリチン溶液に所定量の錫イオンを添加した後、アポフェリチン溶液のpHをアルカリ側としたとき、錫イオン量が少なく、その大部分がアポフェリチンの内腔部に取り込まれている場合は、pHがアルカリ側となることでSn(OH)2の沈澱が生じても、アポフェリチン溶液は、外見上白濁することはない。一方、錫イオン量が多く、アポフェリチンの外側にも錫イオンが存在する場合は、pHがアルカリ側となることでSn(OH)2の沈澱が生じると、アポフェリチン溶液が白濁する。よって、pHがアルカリ側となったときの白濁の有無により、アポフェリチンの内腔部に取り込まれる錫イオンの大まかな量を予測することができる。
アポフェリチンの個数に対し、200倍、300倍、400倍、500倍の個数のSnCl2をそれぞれ添加し、30min攪拌した後に、各アポフェリチン溶液を透析膜(MWCO:15,000)チューブ中に入れ、それを100mLの50mMトリス緩衝液(pH8.0)に入れて攪拌することで、透析膜チューブ内で白濁が発生するかを確認した。その結果、アポフェリチンの個数に対して、300倍の個数の錫イオンを添加した場合までは白濁が発生しなかったが、400倍以上の個数の錫イオンを添加した場合に白濁が発生した。よって、アポフェリチンの内腔部に入る錫イオンの量(個数)は、アポフェリチンの300倍程度と考えられる。
(2)錫ナノ粒子の製造
基本的には前記実施例2と同様の方法であるが、添加するSnCl2の量を変化させて、錫ナノ粒子を製造した。具体的には、添加するSnCl2の個数が、アポフェリチンの個数の、それぞれ、300倍、400倍、500倍、600倍、700倍となるようにした。なお、SnCl2添加から還元に至る工程は、窒素パージ下で3回繰り返し実施し、粒径3〜4nmの錫ナノ粒子をアポフェリチンの内腔部にて合成した。
(3)錫ナノ粒子のTEM観察
前記実施例1の(3)と同様に、前記(2)で製造した錫ナノ粒子をTEM観察したところ、錫ナノ粒子の添加量(個数)がいずれの場合であっても、粒径が3〜4nmである錫ナノ粒子が合成された。
SnCl2添加量がアポフェリチン個数の600倍、700倍である場合は、還元後の溶液に、目視にて白濁が観察された。この白濁は、アポフェリチン外で合成された錫ナノ粒子がアポフェリチンを凝集させる結果、発生するものであり、錫ナノ粒子の回収率を低下させる原因となる。実際に、SnCl2添加量をアポフェリチンの500倍にした場合は、アポフェリチンの凝集により回収できなかった錫ナノ粒子が、全体の7%程度であったが、SnCl2添加量をアポフェリチンの600倍にした場合は、アポフェリチンの凝集により回収できなかった錫ナノ粒子が、全体の30%程度になった。そこで、錫ナノ粒子の回収率を低下させないために、添加する錫イオンの量を、アポフェリチンの個数に対して、500倍以下、より好ましくは300倍以下にすることが好ましい。
(1)錫ナノ粒子の製造
(a)pH3のアポフェリチン溶液の作成(その1)
前記実施例2の(1)(a)で得られたアポフェリチン溶液を、アポフェリチン濃度が0.47mg/mLになるように蒸留水で希釈した。その希釈溶液を、透析膜(MWCO:15,000)チューブ中に入れた後、100mLのpH3の10mMクエン酸緩衝液中に入れ、30min攪拌しながら透析を実施した。引き続き、100mLの新しい緩衝液(同じもの)中に透析チューブを移し、30min攪拌しながら透析を実施した。
(b)pH4のアポフェリチン溶液の作成(その2)
前記実施例2の(1)(a)で得られたアポフェリチン溶液を、アポフェリチン濃度が0.47mg/mLになるように蒸留水で希釈した。その希釈溶液を、透析膜(MWCO:15,000)チューブ中に入れた後、100mLのpH4の10mMクエン酸緩衝液中に入れ、30min攪拌しながら透析を実施した。引き続き、100mLの新しい緩衝液(同じもの)中に透析チューブを移し、30min攪拌しながら透析を実施した。
(c)アポフェリチン溶液へのSnCl2の添加
前記(a)、(b)で調製したアポフェリチン溶液のぞれぞれについて、透析チューブ内のアポフェリチン溶液を別の容器に移し、それぞれのサンプルに対して、4mMのSnCl2を375μL添加し、30min攪拌した。攪拌後、それぞれの溶液を透析膜(MWCO:15,000)チューブに入れ、100mLの蒸留水中で30min攪拌しながら透析をおこなった。
(d)還元剤(NaBH4)による錫イオンの還元
その後、透析チューブ内の溶液を別の容器に移し、7.5μmolのNaBH4を溶解した20μLの水溶液をゆっくり滴下した。NaBH4を添加してから30min攪拌し、アポフェリチン溶液を透析膜(MWCO:14,000)中に入れた後、100mLの0.15M NaCl溶液中でアポフェリチン溶液の透析を30min実施した。なお、NaBH4の添加により、アポフェリチン溶液のpHがアルカリ側(pH7以上)に移行することを確認した。
(2)錫ナノ粒子のTEM観察
還元後のアポフェリチン溶液を、炭素蒸着したCuグリッド上に滴下して、TEM観察を実施した。なお、2.0%の金チオグルコース液による負染色も実施し、アポフェリチンが見えるように工夫した。その結果、前記(a)で調製した、pH3のアポフェリチン溶液を用いた場合および前記(b)で調製した、pH4のアポフェリチン溶液を用いた場合のいずれにおいても、アポフェリチンの内腔部での錫ナノ粒子の合成を確認することが出来た。錫ナノ粒子の粒径は3〜4nmであり、その粒径分布は非常に狭かった。
(比較例2)
基本的には前記実施例4の「(1)錫ナノ粒子の製造」と同様であるが、アポフェリチン溶液の作成において用いる10mMクエン酸緩衝液のpHを5として、錫ナノ粒子を製造しようとした(すなわち、NaBH4を添加する前におけるアポフェリチン溶液のpHを5として、錫ナノ粒子を製造しようとした)。
この場合、TEM観察の結果、錫ナノ粒子の合成を確認することができなかった。なお、pH5のアポフェリチン溶液にSnCl2を加えた際に、アポフェリチン溶液の白濁が少し観察された。これは、pH5においては、錫の水酸化物の生成が激しくなったことを示している。錫の水酸化物の生成が激しくなったことにより、アポフェリチンの内腔部に拡散する錫イオンの量が極端に少なくなり、結果として、錫ナノ粒子が形成されなかったと考えられる。
(実験例1)
基本的には前記実施例1の「(1)錫ナノ粒子の製造」と同様であるが、塩化錫(II)の代わりに、塩化錫(IV)、酢酸錫(II)、酢酸錫(IV)を用いて、錫ナノ粒子を製造した。
それぞれの場合について、還元剤を添加したときにおける溶液の白濁、及びTEM観察で錫ナノ粒子が観察できたか否かを判定した。その結果を表1に示す。また、表1には、実施例1の場合(塩化錫(II)を用いた場合)も併せて示す。
表1に示すように、塩化錫(IV)を用いた場合は、還元剤の添加時に溶液の白濁が生じ、錫ナノ粒子の形成が認められなかった。これは、解離度が大きい塩化錫(IV)を用いたため、アポフェリチンの凝集による白濁、沈澱が生じてしまい、アポフェリチンの内腔部での錫ナノ粒子の形成が起こらなかったためであると考えられる。
また、酢酸錫(II)、酢酸錫(IV)を用いた場合は、いずれも、溶液の白濁は生じなかったが、錫ナノ粒子の形成が認められなかった。これは、解離し難い塩を用いたため、錫イオンがアポフェリチンの内腔部に拡散できなかったことが原因と考えられる。
以上の結果より、アポフェリチンの内腔部への錫イオンの取り込みを実現するためには、錫イオンの価数が2価で、解離度の高い化合物(例えば、SnCl2、SnSO4、SnF2等)を用いることが好ましいことが分かった。
(実験例2)アポフェリチン溶液に添加する錫イオン溶液における錫イオン濃度について
アポフェリチン溶液に添加する錫イオン溶液における錫イオン濃度が高くなり過ぎると、水酸化錫などの白沈が生じてしまい、アポフェリチンの内腔部への錫イオンの拡散を促し難くなる。そこで、白沈の生じない錫イオン濃度について調査した。
SnCl2を5mM、10mM、15mM、20mM、40mMになるように、蒸留水で溶解させた。そのまま、10min放置した後、SnCl2の終濃度が5mMになるように、それぞれのサンプルを蒸留水で希釈して、O.D.600nmを測定した。
その結果を図6に示す。SnCl2濃度が10mM以下であれば、沈澱は殆ど生じなかったが、10mMを超えると白沈が多くなり、20mM以上では激しく白沈した。なお、SnCl2が10mM以下の溶液については、数日間放置しても白沈は生じなかった。白濁した溶液の主成分は水酸化錫であり、アポフェリチン溶液に添加しても溶解するものではないため、錫イオン溶液における錫イオン濃度は10mM以下であることが好ましいことが分かった。
尚、本発明は前記実施例になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
例えば、還元剤は、NaBH4の代わりに、錫の酸化還元電位より負側の電位を有する他の還元剤を用いることができる。
また、SnCl2の代わりに、あるいはSnCl2とともに、SnSO4、及び/又はSnF2を用いても略同様の効果を得ることができる。
還元剤を添加する工程における溶液のpH変化を表すグラフである。 アポフェリチンをTEM観察した結果を表す写真である。 還元剤を添加する工程における溶液のpH変化を表すグラフである。 アポフェリチンをTEM観察した結果を表す写真である。 アポフェリチンをTEM観察した結果を表す写真であって、(a)は負染色をしていないサンプルの写真であり、 (b)は、負染色を実施したサンプルの写真である。 錫イオン溶液における錫イオン濃度と、白沈の程度との関係を表すグラフである。

Claims (5)

  1. アポフェリチンと、錫イオンと、を含み、pHが4以下の原料溶液に、錫の酸化還元電位より負側の電位を有する還元剤を添加し、pH7以上の条件下、前記アポフェリチンの内腔部で、錫ナノ粒子を形成することを特徴とする錫ナノ粒子の製造方法。
  2. 前記錫イオンの価数が2価であることを特徴とする請求項1記載の錫ナノ粒子の製造方法。
  3. 前記原料溶液には、SnCl2、SnSO4、及びSnF2から成る群から選ばれる一種以上の塩が溶解しており、前記錫イオンは、前記塩が解離して得られるものであることを特徴とする請求項1または2記載の錫ナノ粒子の製造方法。
  4. 前記原料溶液は、前記アポフェリチンを含む溶液と、前記錫イオンを含む溶液とを混合して得られるものであり、
    前記錫イオンを含む溶液における錫イオン濃度が10mM以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の錫ナノ粒子の製造方法。
  5. 前記原料溶液において、前記錫イオンの個数は、前記アポフェリチンの個数の500倍以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の錫ナノ粒子の製造方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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