JP2009029712A - アルコールの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】触媒の存在下、オレフィン性化合物を水素及び一酸化炭素と反応させて一段階の反応工程で高い直鎖選択性を有するアルコールを製造する。
【解決手段】周期表第8族〜第10族の遷移金属を一種以上含む金属錯体、及びプロトン性溶媒の存在下で、オレフィン性化合物を水素及び一酸化炭素と反応させてアルコールを製造するにあたり、金属錯体として、下記一般式(I)で表される有機リン配位子を有するものを用いる。
Figure 2009029712

(式(I)中、Aは2個のリン原子間を少なくとも3つの原子を介して連結する二価の有機基を表し、R〜Rは、水素原子、炭素数30以下のアルキル基、アリール基、アルコキシ基、又はアリーロキシ基を表す。)
【選択図】なし

Description

本発明は、アルコールの製造方法に関し、詳しくは、触媒の存在下に、オレフィン性化合物を水素及び一酸化炭素と反応させて一段階の反応工程で高い直鎖選択性を有するアルコールを製造する方法に関する。
周期表の第8〜10族遷移金属と有機リン配位子からなる触媒の存在下に、オレフィン性化合物を水素及び一酸化炭素と反応させてアルデヒド類を製造する方法は、ヒドロホルミル化反応として広く知られている。一般的に、得られるアルデヒド類の内、より直鎖性の高いアルデヒドが有用であり、その直鎖選択性を高めるために様々な有機リン配位子が開発されている。そのようにして得られた直鎖性の高いアルデヒドは、通常、水素化反応させてアルコールにするか、縮合反応によって分子量の大きなアルデヒドに変換した後に水素化反応させて、より分子量の大きなアルコールに変換している。これらのアルコール類は、接着剤や塗料、可塑剤の原料などとして用いられている。
上記反応のうち、縮合を行わないアルコールの製造に注目するならば、オレフィン性化合物から一段階の反応工程で直接アルコールを製造することができれば、従来のヒドロホルミル化反応と水素化反応の二段階の反応工程での製造と比較して、水素化反応設備や水素化反応用触媒が不要となり、経済的に非常に有利なプロセスとなる。
オレフィン性化合物から一段階の反応工程でアルコールを得る触媒系としては、古くはトリアルキルホスフィンを配位子として持つコバルト系の触媒が知られているが、コバルト系の触媒では、通常、反応温度として160〜200℃、反応圧力として5〜10MPaといった厳しい反応条件が必要であるため、近年においては、より穏和な条件で反応が進行するロジウム系触媒に注目が集まっている。
従来、ロジウム−有機リン系化合物からなる触媒による一段階の反応工程でのアルコール類の製造に関する文献例としては、非特許文献1、非特許文献2及び特許文献1のように、アルコール溶媒中で、ロジウムと単座のトリアルキルホスフィンからなる触媒の存在下、オレフィン性化合物を水素と一酸化炭素と反応させる方法が知られている。
しかしながら、これらの方法は、目的とする直鎖型のアルコールの選択性は低く、分岐型アルコールに対する直鎖型アルコールの生成比は、ほぼ全てのオレフィン性化合物原料を生成物に転化させた状態で1.8〜3.0(直鎖選択性=64〜75%)と低い値である。
また、本反応は、以下の反応式に示すように、オレフィン性化合物から反応中間体である直鎖型及び分岐型のアルデヒドを経由して、それらが更に反応系内で水素化反応を受けることでそれぞれ対応する直鎖型及び分岐型のアルコールに変換されていると考えられるが、反応を完全に押切っていない途中段階における有効な直鎖成分の選択性を、L(alc)=直鎖型アルコールの収率、L(ald)=直鎖型アルデヒドの収率、B(alc)=分岐型アルコールの収率、B(ald)=分岐型アルデヒドの収率として、(L(alc)+L(ald))/(B(alc)+B(ald))を計算することで見積もると、(L(alc)+L(ald))/(B(alc)+B(ald))=0.6〜2.6(直鎖選択率=38〜72%)という低い値であることが分かる。
Figure 2009029712
また、非特許文献2においては、1,2−ビス(ジメチルホスフィノ)エタン((CHP−CH−CH−P(CH)といった二座のトリアルキルホスフィンを配位子として用いた触媒系でも、アルコール溶媒中で、オレフィン性化合物を水素及び一酸化炭素と反応させる試み行っているが、この系では、反応活性が大きく低下し、(L(alc)+L(ald))/(B(alc)+B(ald))で算出した分岐成分に対する直鎖成分の比率も0.6(直鎖選択率=38%)に低下している。
上記の二座ホスフィンを用いた場合の活性ならびに直鎖選択性低下の理由としては、本二座ホスフィン配位子のBite−angle(P−Rh−P角)の狭さに起因していると推定される。即ち、Bite−angleの狭い二座ホスフィンでは、以下に示す2つのRh活性錯体の内、直鎖選択性向上に有利なequatorial−equatorial配位ができず、直鎖選択性向上に不利なequatorial−axial配位が優勢となる。その結果、直鎖選択性が低下しているものと推定される。また、Bite−angleの狭い二座配位子は、一つのRhに二つの二座配位子が配位する傾向も高まるため、反応が進行しにくい安定な錯体になることが予想され、こうした理由で活性も低下しているものと推定される。
Figure 2009029712
その他の一段階の反応工程でのアルコール類の製造に関する文献例としては、特許文献2のように、アルコール溶媒中で、ロジウムと、二座の有機リン配位子及びトリアルキルホスフィンからなる混合配位子系の触媒の存在下、オレフィン性化合物を水素と一酸化炭素と反応させる方法が知られている。本文献の方法においては、上記の方法で直鎖成分の比率を見積もると、(L(alc)+L(ald))/(B(alc)+B(ald))=4.4〜4.6(直鎖選択性=81〜82%)と、直鎖選択性には優れるが、高い直鎖選択性を有するアルデヒド生成に寄与する二座の有機リン配位子と、生成したアルデヒドの水素化によるアルコール生成に寄与するトリアルキルホスフィンの二つの配位子を反応系に加える必要があり、反応や触媒リサイクルにおける運転条件の管理の難しさや触媒コストの増加といった問題点をかかえている。
欧州特許0420510号公報 特開2006−312612号公報 J.Chem.Soc.,Chem.Commun.,1990,P165 J.Chem.Soc.,Dalton Trans.,1996,p1161
上述した通り、ロジウム−トリアルキルホスフィン触媒を用いれば、一段階の反応工程で原料のオレフィン性化合物からアルコールを製造することは可能であるが、目的とする直鎖型のアルコールの選択性が低いことが大きな問題として残っている。また、ロジウムとBite−angleの小さなアルキル型の二座ホスフィンからなる触媒を用いた場合には、反応性も直鎖選択性も低下してしまうことが知られている。
一方、ロジウム−二座有機リン配位子−トリアルキルホスフィン触媒を用いれば、ある程度、直鎖選択性の改善は達成できるが、運転条件の管理の難しさや触媒、特に配位子コストの増加といった問題点が残る。
従って、反応工程は同じく一段階であり、一種類の特定の配位子を用いることで、直鎖選択性が改善されたアルコールを直接製造する新たな方法が提示されれば、運転も管理も容易で、経済的に有利な有効な手法の一つとなり、非常に重要性が高いと言える。
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものである。
即ち、本発明の目的は、触媒の存在下、オレフィン性化合物を水素及び一酸化炭素と反応させて一段階の反応工程でアルコールを製造する方法において、従来よりも高い直鎖選択性を有するアルコールを製造する方法を提供することに存する。
本発明者らは、オレフィン性化合物から高い直鎖選択性を有するアルコールを一段階の反応工程で得る方法について鋭意検討した結果、周期表の第8〜10族遷移金属と以下に示す一般式(I)で表される二座の有機リン配位子の存在下、プロトン性溶媒中で、オレフィン性化合物を水素及び一酸化炭素と反応させることにより、アルコールの直鎖選択性が改善できることを見出し、本発明に到達した。
即ち、本発明の要旨は、下記(1)〜(7)に存する。
(1) 周期表第8族〜第10族から選ばれる遷移金属を一種以上含む金属錯体、及びプロトン性溶媒の存在下で、オレフィン性化合物を水素及び一酸化炭素と反応させてアルコールを製造する方法であって、該金属錯体が下記一般式(I)で表される有機リン配位子を有することを特徴とするアルコールの製造方法。
Figure 2009029712
(式(I)中、Aは2個のリン原子間を少なくとも3つの原子を介して連結する二価の有機基を表し、Aは置換基を有していてもよい。R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数1〜30のアルコキシ基、炭素数3〜30のアリール基、又は炭素数3〜30のアリーロキシ基を表し、R〜Rは更に置換基を有していてもよい。ただし、RとR、RとRは互いに結合して環を形成していても良い。)
(2) 前記一般式(I)中のAが下記一般式(II)で表されることを特徴とする請求項1に記載のアルコールの製造方法。
Figure 2009029712
(上記式(II)中、Ar及びArは、それぞれ独立に、置換基を有していても良い炭素数6〜22のアリーレン基を表す。Xは、CR、SiR、NR、CO、O、又はSを表し、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数3〜14のアリール基、及び炭素数3〜14のアリーロキシ基からなる群より選ばれる。また、l、m、nは、それぞれ独立に0以上の整数を表すが、少なくとも一つは1である。)
(3) 前記一般式(I)中のAが下記一般式(III)で表されることを特徴とする(1)又は(2)に記載のアルコールの製造方法。
Figure 2009029712
(上記式(III)中、R11〜R18は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数3〜10のアリール基、炭素数3〜10のアリーロキシ基、炭素数2〜10のアシル基、炭素数2〜10のアシロキシ基、アミノ基、炭素数0〜10の置換アミノ基、炭素数2〜10のエステル基、カルボキシ基、及びヒドロキシ基からなる群より選ばれ、R11〜R18は更に置換基を有していてもよい。ただし、R11〜R18のうちの任意の2つの基が互いに結合して環を形成していても良い。)
(4) 前記周期表第8族〜第10族から選ばれる遷移金属がロジウムである(1)〜(3)のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
(5) 前記プロトン性溶媒がアルコールである(1)〜(4)のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
(6) 前記アルコールの収率が60%以上である(1)〜(5)のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
(7) 前記オレフィン性化合物が炭素数3以上の直鎖状のオレフィン性化合物であり、反応で生成する直鎖型及び分岐型アルコールの収率と、反応で副生する直鎖型及び分岐型アルデヒドの収率において、下記条件を満たすことを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
(L(alc)+L(ald))/(B(alc)+B(ald))>3.0
(ここで、L(alc)は、直鎖型アルコールの収率を、L(ald)は、直鎖型アルデヒドの収率を、B(alc)は、分岐型アルコールの収率を、B(ald)は、分岐型アルデヒドの収率を表す。)
本発明により、触媒の存在下、オレフィン性化合物を水素及び一酸化炭素と反応させて一段階の反応工程でアルコールを製造する方法において、従来よりも高い直鎖選択性を有するアルコールを製造することができる。
以下に、本発明のアルコールの製造方法の実施の形態につき詳細に説明する。
本発明のアルコールの製造方法は、周期表第8〜10族から選ばれる遷移金属の化合物及び有機リン配位子としての特定の二座の有機リン系化合物の存在下に、プロトン性溶媒中で、オレフィン性化合物を水素及び一酸化炭素と反応させてアルコールを製造することを特徴とする。
本発明においては、この「周期表第8〜10族から選ばれる遷移金属の化合物及び有機リン配位子としての二座の有機リン系化合物とで構成される金属錯体」が本発明で使用される触媒である。
[遷移金属化合物]
まず、本発明のアルコールの製造方法で使用される触媒を構成する遷移金属化合物について説明する。
遷移金属化合物としては、周期表の第8〜10族(IUPAC無機化学命名法改訂版(1998)による)に属する遷移金属からなる群より選ばれる、一以上の遷移金属を含む化合物が使用される。
具体的には、鉄化合物、ルテニウム化合物、オスミウム化合物、コバルト化合物、ロジウム化合物、イリジウム化合物、ニッケル化合物、パラジウム化合物及び白金化合物等が挙げられるが、中でもルテニウム化合物、ロジウム化合物、イリジウム化合物、ニッケル化合物、パラジウム化合物及び白金化合物が好ましく、特にロジウム化合物が好ましい。
これらの化合物の種類は任意であるが、具体例としては、上記遷移金属の酢酸塩、アセチルアセトナト化合物、ハライド、硫酸塩、硝酸塩、有機塩、無機塩、アルケン配位化合物、アミン配位化合物、ピリジン配位化合物、一酸化炭素配位化合物、ホスフィン配位化合物、ホスファイト配位化合物等が挙げられる。
遷移金属化合物の具体例を列記すると、鉄化合物としては、Fe(OAc)、Fe(acac)、FeCl、Fe(NO等が挙げられる。
ルテニウム化合物としては、RuCl、Ru(OAc)、Ru(acac)、RuCl(PPh等が挙げられる。
オスミウム化合物としては、OsCl、Os(OAc)等が挙げられる。
コバルト化合物としては、Co(OAc)、Co(acac)、CoBr、Co(NO等が挙げられる。
ロジウム化合物としては、RhCl、RhI、Rh(NO、Rh(OAc)、RhCl(CO)(PPh、RhH(CO)(PPh、RhCl(PPh、Rh(acac)、Rh(acac)(CO)、Rh(acac)(cod)、[Rh(OAc)、[Rh(OAc)、[Rh(OAc)(cod)]、[RhCl(CO)]、[RhCl(cod)]、Rh(CO)1等が挙げられる。
イリジウム化合物としては、IrCl、Ir(OAc)、[IrCl(cod)]が挙げられる。
ニッケル化合物としては、NiCl、NiBr、Ni(NO、NiSO、Ni(cod)、NiCl(PPh等が挙げられる。
パラジウム化合物としては、PdCl、PdCl(cod)、PdCl(PPh、Pd(PPh、Pd(dba)、KPdCl、PdCl(CHCN)、Pd(NO、Pd(OAc)、PdSO、Pd(acac)等が挙げられる。
白金化合物としては、Pt(acac)、PtCl(cod)、PtCl(CHCN)、PtCl(PhCN)、Pt(PPh、KPtCl、NaPtCl、HPtClが挙げられる。
なお、以上の例示において、codは1,5−シクロオクタジエンを、dbaはジベンジリデンアセトンを、acacはアセチルアセトナトを、Acはアセチル基を、Ph基はフェニル基をそれぞれ表す。
遷移金属化合物の種類は特に制限されず、活性な金属錯体種であれば、単量体、二量体、及び/又は多量体の何れであっても構わない。
これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
遷移金属化合物の使用量については特に制限はないが、触媒活性と経済性の観点から、反応媒体中の遷移金属化合物濃度として、通常0.1ppm以上、好ましくは1ppm以上、より好ましくは10ppm以上であり、通常10000ppm以下、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは500ppm以下である。
[有機リン配位子]
次いで、本発明に用いられる有機リン配位子について述べる。
本発明で用いる有機リン配位子は、下記一般式(I)で表される二座の有機リン系化合物である。
Figure 2009029712
式(I)中、Aは2個のリン原子間を少なくとも3つの原子を介して連結する二価の有機基を表し、Aは置換基を有していてもよい。
〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数1〜30のアルコキシ基、炭素数3〜30のアリール基、又は炭素数3〜30のアリーロキシ基を表し、R〜Rは更に置換基を有していてもよい。ただし、RとR、RとRは互いに結合して環状構造を形成していても良い。
なお、ここで、「炭素数」は当該基が置換基を有する場合は、その置換基の炭素数をも含めた合計の炭素数をさす。
以下においても同様である。
当該有機リン配位子の構造的特徴としては、二つの三価のリン原子を有する二座ホスフィンであり、それぞれのリン原子に結合している末端基(−CH−R〜−CH−R)が、いずれもメチレン基(−CH−)を介してリン原子に結合していることが挙げられる。即ち、これら末端基はいずれも第一級アルキル基であることが特徴であり、そのことによって当該二座ホスフィンは酸解離定数(pKa)の値で5以上といった比較的高い塩基性を有することとなる。このような高い塩基性を持つことが、オレフィン性化合物を原料として、水素及び一酸化炭素との反応でアルコール生成物を得るための必須な条件となる。
なお、有機リン化合物の塩基性やpKa値に関しては、Canadian Journal of Chemistry 1982,60(6),p716やOrganometallics 1989,8(1),p1等で議論されている。
一方、架橋部分のAが少なくとも3つの原子を介して2個のリン原子同士を連結する二価の有機基であることにより、当該二座ホスフィン配位子が遷移金属(M)に配位して反応活性種を形成した際のBite−angle(P−M−P角)が90°以上といった比較的大きなものとなり、アルコールの直鎖選択性の向上に有効な効果をもたらすこととなる。
前記一般式(I)において、R〜Rのアルキル基としては、炭素数1〜30、好ましくは1〜15の直鎖又は分岐のアルキル基が挙げられる。
〜Rのアルコキシ基としては、炭素数1〜30、好ましくは1〜15の直鎖又は分岐のアルコキシ基が挙げられる。
〜Rのアリール基としては、炭素数3〜30、好ましくは5〜22の置換基を有していてもよいアリール基が挙げられる。なお、本アリール基には、窒素原子、酸素原子、硫黄原子といった炭素原子以外の原子を芳香環形成原子に含んだ複素環式芳香族化合物からなる基(ヘテロアリール基)も包含される。具体的なヘテロアリール基としては、ピロリル基、フラニル基、チオフェニル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、ピラゾリル基、ピリミジル基、ピリジル基などが挙げられる。
〜Rのアリーロキシ基としては、炭素数3〜30、好ましくは5〜22の置換基を有していてもよいアリーロキシ基が挙げられる。なお、本アリーロキシ基においても、酸素原子の先のアリール基としてヘテロアリール基を含む。
とR、RとRが互いに結合して環を形成している場合、形成される環としては、例えば、1,2−エチレン基、1,3−プロピレン基、1,4−ブチレン基、2,4−ペンチレン基、2,4−ジメチル−2,4−ペンチレン基といった脂肪族炭化水素からなる基や、1,8−ナフチレン基、ビフェニル−2,2’−ジイル基、1,1’−ビナフチル−2,2’−ジイル基、2,2’−ビナフチル−3,3’−ジイル基といった芳香族炭化水素からなる基などが挙げられる。
〜Rとしては、これらのうち、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜15の直鎖又は分岐のアルキル基、炭素数5〜22の置換基を有していてもよいアリール基であることが好ましい。
また、R〜Rの基が有していてもよい置換基としては、反応系に悪影響を及ぼす虞のないものであれば特に制限されないが、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ホルミル基、鎖状又は環状の、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールアルコキシ基、アリーロキシ基、アルキルアリーロキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アミノ基、アミド基、アシル基、又はアシロキシ基の中から選ばれるものが挙げられる。
なお、R〜Rは、置換基を有する場合は、その置換基を含めて、各々の分子量が400以下、特に300以下で、とりわけ200以下で合計で1200以下、特に800以下であることが好ましい。R〜Rの分子量が大き過ぎると反応条件下で反応溶媒中に溶解し得ず、触媒活性を十分に発揮し得ないおそれがある。
一般式(I)において、Aは、含有炭素数が2〜60、特に10〜40であることが好ましい。Aの炭素数が1以下では、架橋部分のAが少なくとも3つの原子を有する関係上、片方又は両方のリン原子が炭素原子以外の原子、例えば酸素原子などと結合することとなり、有機リン配位子の熱的安定性が低下する可能性が高まる。一方、Aの炭素数が60を超えると有機リン配位子自身の分子量が大きくなり、反応条件下で反応溶媒中に溶解し得ず、触媒活性を十分に発揮し得ないおそれが考えられる。
また、一般式(I)で表される二座ホスフィン化合物の具体例としては、後掲の(L−1)〜(L−80)の二座ホスフィンが挙げられるが、これらのうち(L−1)〜(L−13)のような架橋部のAが二つのリン原子に共に芳香族性の炭素原子(sp2炭素原子)で結合している二座ホスフィン、(L−14)〜(L−18)のような架橋部のAが一つのリン原子には芳香族性の炭素原子で結合し、もう一つのリン原子には脂肪族性の炭素原子(sp3炭素原子)で結合している二座ホスフィン、(L−19)〜(L−80)のような架橋部のAが二つのリン原子に共に脂肪族性の炭素原子(sp3炭素原子)で結合している二座ホスフィンを挙げることができる。
これらの二座ホスフィンの中でも架橋部のAが二つのリン原子に共に脂肪族性の炭素原子(sp3炭素原子)で結合している二座ホスフィンが好ましく、中でも、二つのリン原子に共にメチレン基を介して結合した構造が、配位子の塩基性向上の観点で好ましい。その具体例としては後掲の(L−22)〜(L−80)を挙げることができる。
特に、一般式(I)において、Aは、下記一般式(II)で表されることが好ましい。
Figure 2009029712
ここで、式(II)中、Ar及びArは、それぞれ独立に置換基を有していても良い炭素数6〜22のアリーレン基を表し、Xは、CR、SiR、NR、CO、O、又はSを表し、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数3〜14のアリール基、及び炭素数3〜14のアリーロキシ基からなる群より選ばれるものである。また、l、m、nは、それぞれ独立に0以上の整数を表すが、少なくとも一つは1である整数である。
Ar,Arのアリーレン基としては、フェニレン基、ピリジレン基、ピリミジレン基、ピロリレン基、イミダゾリレン基等が挙げられ、好ましくはフェニレン基である。また、これらのアリーレン基が有し得る置換基としては、後述の一般式(III)におけるR11〜R18で示される基が挙げられる。
また、XにおけるR〜Rのアルキル基としては、炭素数1〜6、好ましくは1〜4の直鎖又は分岐のアルキル基が挙げられる。
〜Rのアルコキシ基としては、炭素数1〜6、好ましくは1〜4の直鎖又は分岐のアルコキシ基が挙げられる。
〜Rのアリール基としては炭素数3〜14、好ましくは5〜10の置換基を有していてもよいアリール基が挙げられる。なお、本アリール基にはヘテロアリール基も包含される。
〜Rのアリーロキシ基としては、炭素数3〜14、好ましくは5〜10の置換基を有していてもよいアリーロキシ基が挙げられる。なお、本アリーロキシ基においても、酸素原子の先のアリール基としてヘテロアリール基を含む。
〜Rとしては、これらのうち、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4の直鎖又は分岐のアルキル基、炭素数5〜10の置換基を有していてもよいアリール基が好ましく、Xとしては、特にCR、Oが好ましい。
更に好ましいAの構造としては、上記一般式(II)において、l、m、nのうち、l及びnがそれぞれ独立に0又は1であり、かつ、mが0以上の任意の整数であること(ただし、少なくとも一つは1であること)が好ましく、中でもl、m、nがそれぞれ独立に0又は1(ただし、少なくとも一つは1であること)が好ましい。そのようは配位子の具体例としては、後掲の(L−33)〜(L−80)を挙げることができる。
最も好ましいAの構造としては、下記一般式(III)で表される構造を挙げることができ、このような好ましい構造の架橋基Aを有する最も好ましい二座ホスフィンの具体例としては、後掲の(L−45)〜(L−80)を挙げることができる。
Figure 2009029712
ここで、式(III)中、R11〜R18は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数3〜10のアリール基、炭素数3〜10のアリーロキシ基、炭素数2〜10のアシル基、炭素数2〜10のアシロキシ基、アミノ基、炭素数0〜10の置換アミノ基、炭素数2〜10のエステル基、カルボキシ基、及びヒドロキシ基からなる群より選ばれるものである。
これらの基は、更に置換基を有していても良く、R11〜R18の任意の2つの置換基が結合して環状構造を形成しても良い。
一般式(III)におけるR11〜R18のアルキル基としては、炭素数1〜10、好ましくは1〜6の直鎖又は分岐のアルキル基が挙げられる。
11〜R18のアルコキシ基としては、炭素数1〜10、好ましくは1〜6の直鎖又は分岐のアルコキシ基が挙げられる。
11〜R18のアリール基としては炭素数3〜10、好ましくは5〜8の置換基を有していてもよいアリール基が挙げられる。なお、本アリール基にはヘテロアリール基も包含される。
11〜R18のアリーロキシ基としては、炭素数3〜10、好ましくは5〜8の置換基を有していてもよいアリーロキシ基が挙げられる。なお、本アリーロキシ基においても、酸素原子の先のアリール基としてヘテロアリール基を含む。
11〜R18のアシル基としては、炭素数2〜10、好ましくは2〜6の置換基を有していてもよいアシル基が挙げられる。
11〜R18のアシロキシ基としては、炭素数2〜10、好ましくは2〜6の置換基を有していてもよいアシロキシ基が挙げられる。
11〜R18のエステル基としては、炭素数2〜10、好ましくは2〜7の置換基を有していてもよいアシロキシ基が挙げられる。
11〜R18のアミノ基、置換アミノ基としては、炭素数0〜10、好ましくは0〜8のアミノ基又は置換アミノ基が挙げられる。
また、R11〜R18の任意の2つが互いに結合して環を形成する場合、形成される環としては、例えば、R11とR12、R12とR13、R13とR14、R15とR16、R16とR17、R17とR18が、それぞれ独立に結合して、1,4−ブチレン基や1,3−ブタジエン−1,4−ジイル基を形成し、新たな芳香環の一部やシクロヘキサン環の一部を形成する場合が挙げられる。
11〜R18はこれらのうち、特に、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10の直鎖又は分岐のアルキル基、炭素数5〜10の置換基を有していてもよいアリール基であることが好ましい。
以下に、本発明において好ましい二座ホスフィン配位子の具体例を挙げるが、本発明で用いる二座ホスフィン配位子は、何ら以下のものに限定されるものではない。
また、二座ホスフィン配位子は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
Figure 2009029712
Figure 2009029712
Figure 2009029712
Figure 2009029712
Figure 2009029712
Figure 2009029712
Figure 2009029712
Figure 2009029712
以上説明した周期表第8〜10族遷移金属化合物及び二座の有機リン系化合物を用いることによって、本発明の反応を実施するための触媒系が形成される。
二座の有機リン系化合物の使用量は特に制限されるものではなく、反応成績、触媒活性、及び触媒安定性等に対して望ましい結果が得られるように任意に設定されるが、二座の有機リン系化合物の使用量は、前述の遷移金属化合物1モル当たり通常0.1モル以上、好ましくは0.5モル以上、より好ましくは1モル以上であり、通常500モル以下、好ましくは100モル以下、より好ましくは50モル以下である。
[触媒の調製方法]
周期表第8〜10族遷移金属化合物及び二座の有機リン系化合物を用いる本発明に係る触媒の調製は、反応ゾーンとは別途設けた触媒調製ゾーンで予め調製してから当該触媒を反応ゾーンに加えても良いし、それぞれを個別に反応ゾーンに添加して反応ゾーン内で触媒調製を行っても良い。また、反応後、生成物系と触媒系とを分離し、その触媒を再び反応ゾーンにリサイクルして用いても良い。この場合、触媒の劣化や消失の度合いに応じて、適宜遷移金属化合物、二座の有機リン系化合物のいずれか、又は両方を適宜追加して補うことが望ましい。
本発明に係る触媒を調製する際、触媒の接触順番については特に制限されない。即ち、遷移金属化合物及び二座の有機リン系化合物の内、どちらかを先に溶媒等に溶解させて触媒前駆溶液を調製し、後に残りの1成分を加えて触媒溶液を調製しても良いし、2つを同時に混合して触媒溶液を調製しても良い。なお、ここで用いる溶媒とは、遷移金属化合物及び二座の有機リン化合物を溶解するものであって、触媒活性に悪影響を及ぼさないものであれば任意の溶媒を使用可能であり、その種類には特に限定はないが、例えば、後述するプロトン性溶媒のほか、エーテル類、アミド類、ケトン類、エステル類、芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類等といった溶媒の1種又は2種以上を使用することができる。
反応ゾーンで速やかに触媒反応を開始させるようにするためにも、触媒は溶解した状態で反応ゾーンに導かれることが好ましい。また、場合によっては、触媒を調製して反応ゾーンに導入する前に、加熱処理や触媒活性種への変換に必要なガス処理、例えば水素や一酸化炭素等のガスとの加圧接触を予め行ってから触媒を反応ゾーンに導入しても良い。
[直鎖選択性]
本発明の反応においては、前述したように、オレフィン性化合物から反応中間体である直鎖型及び分岐型のアルデヒドを経由して、それらが更に反応系中で水素化反応を受けることでそれぞれ対応する直鎖型及び分岐型のアルコールに変換されていると考えられるが、反応を完全に押切っていない途中段階においては、直鎖型のアルデヒドの方が分岐型のアルデヒドより速やかに水素化反応を受けやすいため、見かけ上、アルコールの直鎖選択性は高くなり、逆にアルデヒドの直鎖選択性は低くなる。即ち、そうした反応の途中段階で目的とするアルコールの直鎖選択性を比較する場合には、その時その時のアルコールの直鎖選択性を見ただけでは判断を誤る危険性があるため、以下の式(IV)で計算される値(分岐成分に対する直鎖成分の比)を用いて、反応生成物全体の直鎖選択性を評価する必要がある。
(L(alc)+L(ald))/(B(alc)+B(ald))・・・(IV)
(上式において、L(alc)は直鎖型アルコールの収率、L(ald)は直鎖型アルデヒドの収率、B(alc)は分岐型アルコールの収率、B(ald)は分岐型アルデヒドの収率を表す。)
本発明においては、特に原料のオレフィン性化合物が炭素数3以上の直鎖状のオレフィン性化合物である場合に、
(L(alc)+L(ald))/(B(alc)+B(ald))>3.0
を満たすこともでき、公知技術のロジウム−トリアルキルホスフィン触媒系やロジウムとBite−angleの狭い二座ホスフィンからなる触媒系で達成させる(L(alc)+L(ald))/(B(alc)+B(ald))=0.6〜2.6と比較して、生成物系の直鎖選択性は大幅に改善される。
[アルコールの収率]
本発明の反応における目的物はアルコールであるため、アルコールの収率に関しては60%以上であることが好ましく、より好ましくは70%以上である。
アルコールの収率を60%以上にするためには、基本的に反応を十分に押し切る条件(即ち、ほぼ全てのオレフィン性化合物原料を生成物に転化させるを採用すれば達成される。例えば、触媒濃度を高めることや反応ゾーンにおける滞留時間を長く取る等の手法が挙げられる。その他、比較的高い反応温度(例えば120〜150℃程度)や水素分圧を高める(例えば1〜5MPa程度)など、アルコール生成に適した反応条件を採用すればアルコールの収率を高めることができる。
[オレフィン化合物]
本発明のアルコールの製造方法に適用される原料オレフィン性化合物としては、炭素数3以上の化合物であって分子内にオレフィン性二重結合を少なくとも1つ有する化合物であれば特にその構造に制限されるものではなく、飽和炭化水素基のみによって置換されたオレフィン性化合物、不飽和炭化水素基を含む炭化水素基によって置換されたオレフィン性化合物、又は、ヘテロ原子を含む官能基により置換されたオレフィン性化合物等、いずれのオレフィン性化合物にも適用できる。
具体的な例を挙げると、飽和炭化水素基のみにより置換されたオレフィン性化合物としては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン、1−ドコセン等の直鎖状末端オレフィン性炭化水素、イソブテン、2−メチル−1−ブテン等の分岐状末端オレフィン性炭化水素、シス及びトランス−2−ブテン、シス及びトランス−2−ヘキセン、シス及びトランス−3−ヘキセン、シス及びトランス−2−オクテン、シス及びトランス−3−オクテン、シス及びトランス−4−オクテン等の直鎖状内部オレフィン性炭化水素、ブテン類の二量化により得られるオクテン、プロピレンや1−ブテンやイソブテン等の低級オレフィンの二量体〜四量体のようなオレフィンオリゴマー異性体混合物等の末端オレフィン性炭化水素ないし内部オレフィン性炭化水素混合物等が挙げられる。
不飽和炭化水素基を含む炭化水素基により置換されたオレフィン性化合物の例としては、スチレン、α−メチルスチレン、アリルベンゼンのような芳香族基を有するオレフィン性化合物、1,3−ブタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,7−オクタジエンのようなジエン化合物等が挙げられる。その他、ヘテロ原子を含む官能基により置換されたオレフィン性化合物の例としては、ビニルエチルエーテル、アリル−n−プロピルエーテル、1−メトキシ−2,7−オクタジエン等のオレフィン性二重結合を有するエーテル類、アリルアルコール、1−ヘキセン−4−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール、3−ヒドロキシ−1,7−オクタジエン、1−ヒドロキシ−2,7−オクタジエン等のオレフィン性二重結合を有するアルコール類、酢酸ビニル、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、1−アセトキシ−2,7−オクタジエン、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン等のオレフィン性二重結合を有するエステル類のほか、7−オクテン−1−アール、アクリロニトリル等が挙げられる。
上記のオレフィン性化合物の内、炭素数3以上の直鎖状のオレフィン性化合物が好ましく、特に炭素数3以上の直鎖状末端オレフィン性炭化水素が好ましい。
なお、オレフィン性化合物の炭素数の上限については特に制限はないが、溶解性の問題、粘度の問題、原料確保の容易さなどを考慮して通常30以下である。
[プロトン性溶媒]
本発明の製造方法を実施するに当たっては、反応はプロトン性溶媒中で実施する。プロトン性溶媒とは、解離して容易にプロトン(H)を放出することが可能な溶媒である。
具体的な例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブチルアルコール、n−ペンタノール、ネオペンチルアルコール、n−ヘキサノール、2−エチルヘキサノール、n−オクタノール、n−ノナノール、n−デカノール等のアルコール類、フェノール、2−メチルフェノール、3−メチルフェノール、4−メチルフェノール、4−t−ブチルフェノール、2,4−ジ−t−ブチルフェノール、4−フルオロフェノール、4−トリフルオロメチルフェノール、2−ニトロフェノール等のフェノール類、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、シクロヘキサンカルボン酸等のカルボン酸類、ホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、プロピオンアミド等のように窒素原子状に少なくとも一つの水素原子を有するアミド類、メチルチオール、エチルチオール、n−プロピルチオール、イソプロピルチオール等のチオール類、ベンゼンチオール、p−トルエンチオール等のチオフェノール類、マロン酸ジエチル、アセト酢酸エチル、ニトロエタン、マロノニトリル等のように活性メチレン基を有する化合物のほか、水を挙げることができる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
これらの中で特にアルコール類が好ましいプロトン性溶媒である。特に、精製工程の負荷低減という観点からすると、目的生成物であるアルコールをプロトン性溶媒として用いるのが好ましい。
具体的には、原料オレフィン性化合物としてプロピレンを用いた場合には、プロトン性溶媒としてn−ブタノールやイソブタノールを用いることが好ましい。
用いるプロトン性溶媒の量は、反応媒体の総重量に対して通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上であり、通常95重量%以下であり、好ましくは90重量%以下である。
溶媒は、単一の化合物で形成されていても複数の化合物の混合物で形成されていても良いが、溶媒の全重量において、少なくとも1重量%以上、好ましくは5重量%以上、更に好ましくは10重量%以上のプロトン性溶媒を含有していることが必要である。
溶媒がプロトン性溶媒以外の成分を含有している場合、用いることのできるその他の溶媒については、触媒及び原料化合物を溶解するものであって、触媒活性に悪影響を及ぼさないものであれば、任意の溶媒を使用可能であり、その種類には特に限定はない。例えば、ジグライム、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、ジアリルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等のエーテル類、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のように窒素原子上に水素原子を持たないアミド類、アセトン、メチルエチルケトン、メチル−t−ブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、γ−ブチロラクトン、ジ−n−オクチルフタレイト、ジ−2−エチルヘキシルフタレイト、ジ−2−エチルヘキシルテレフタレイト等のエステル類、ベンゼン、トルエン、キシレン、ドデシルベンゼン等の芳香族炭化水素類、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素類等が挙げられる。その他、原料のオレフィン性化合物の過剰量をその他の溶媒として使用することも可能であり、また、本発明の反応系中で生成するアルデヒド類やアルコール類に基づいた縮合二量体や縮合三量体、アセタール化生成物等の高沸点化合物を使用することも可能である。これらのその他の溶媒も1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
[反応条件]
本発明のアルコールの製造方法における好適な反応条件は次の通りである。
<反応圧力>
水素分圧、一酸化炭素分圧、原料、生成物、溶媒等の蒸気圧の総和で形成される反応圧力は、通常0.01MPa以上、好ましくは0.1MPa以上、より好ましくは0.5MPa以上であり、通常30MPa以下、好ましくは20MPa以下、より好ましくは10MPa以下である。
反応圧力が低すぎると遷移金属化合物が失活してメタル化してしまう懸念がある他、触媒活性自体十分に発現せず、アルコール収率が低下することが予想される。また、逆に高すぎると得られるアルコールの直鎖選択性が低下する傾向が見られるため好ましくない。
また、特に、水素分圧は好ましくは0.005MPa以上、より好ましくは0.01MPa以上であり、好ましくは20MPa以下、より好ましくは10MPa以下である。水素分圧が低すぎると反応活性の低下が懸念され、高すぎると原料オレフィン性化合物の水素化反応の進行の伴う浪費が予想される。
一酸化炭素分圧は好ましくは0.005MPa以上、より好ましくは0.01MPa以上であり、好ましくは15MPa以下、より好ましくは8MPa以下である。一酸化炭素分圧が低すぎると反応活性の低下、特に遷移金属化合物のメタル化が懸念され、高すぎると得られるアルコールの直鎖選択性の低下が予想される。
<水素/一酸化炭素モル比>
水素と一酸化炭素のモル比は、1:10〜10:1であり、より好ましくは1:2〜8:1であり、更に好ましくは1:1〜5:1である。
<反応温度>
反応温度は、通常25℃以上、好ましくは50℃以上、より好ましくは70℃以上であり、通常300℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以下である。 反応温度が低すぎると反応活性自体が十分に得られないことが予想され、高すぎると得られるアルコールの直鎖選択性の低下や配位子の熱分解による消失などが予想される。
<反応方式>
本発明の反応方式としては特に制限はなく、撹拌型反応槽、又は気泡塔型反応槽中で、連続式、半連続式、又はバッチ式操作のいずれでも容易に実施し得る。
<生成物の分離・回収>
未反応原料オレフィン性化合物や生成物類と触媒との分離は、通常、単蒸留、減圧蒸留、薄膜蒸留、水蒸気蒸留等の蒸留操作のほか、気液分離、蒸発(エバポレーション)、ガスストリッピング、ガス吸収及び抽出等の公知の方法で行うことができる。
蒸留条件は特に制限されるものではなく、生成物の揮発性、熱安定性、及び触媒成分の揮発性、熱安定性等を考慮して望ましい結果が得られるように任意に設定されるが、通常、50〜300℃の温度、760〜0.01mmHgの圧力条件の範囲から選ばれる。
分離操作において、未反応の原料やアルコール前駆体のアルデヒド類が得られた場合には、反応工程にリサイクルし、再利用することがより経済的で望ましい。また、蒸留を行うに当たって、溶媒の使用は必須ではないが、必要に応じて生成物類や触媒成分に不活性な溶媒を存在させることができる。
分離した触媒を含む残液からは、公知の方法により周期表第8〜10族遷移金属を回収することができる。或いは残液の全量若しくは一部を反応工程にリサイクルして触媒を再利用することもできる。
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
触媒調製用のガラス容器に、アルゴン雰囲気下でRh(acac)(CO)(2.7mg、0.0105mmol、反応媒体中の濃度は1130重量ppmとなる。)、及び二座ホスフィンとして下記構造式の例示化合物(L−45)(15.8mg、0.0523mmol、Rhの5モル倍)を仕込み、エタノール(1.0ml)と反応基質である1−デセン(0.2ml、1.06mmol)を加えて溶解させ、当該溶液を別途用意した内容量50mlのステンレス鋼オートクレーブにアルゴン雰囲気下で仕込んだ。オートクレーブを密閉後、当該オートクレーブを170℃まで昇温し、水素及び一酸化炭素の混合ガス(混合比:水素/一酸化炭素=1/1)を系内圧力が4.0MPaになるように圧入して反応を開始した。
Figure 2009029712
6時間の後、オートクレーブを室温まで冷却し、反応液を取り出してガスクロマトグラフィーで分析し、生成物濃度を測定した。
その結果、直鎖型のウンデカノール収率は78%、分岐型のウンデカノール収率は19%(全ウンデカノール収率=97%、ウンデカノールの直鎖体/分岐体=4.1)であり、直鎖型のウンデカナール収率は0%、分岐型のウンデカナール収率は0%(全ウンデカナール収率=0%)であった。即ち、(L(alc)+L(ald))/(B(alc)+B(ald))=4.1(直鎖選択率=80%)であった。
[比較例1]
実施例1における二座ホスフィン(L−45)の代わりに以下に示す二座ホスフィン化合物(L−A)を用いたこと以外、同様に反応を行った。
Figure 2009029712
その結果、直鎖型のウンデカノール収率は25%、分岐型のウンデカノール収率は20%(全ウンデカノール収率=45%、ウンデカノールの直鎖体/分岐体=1.3)であり、直鎖型のウンデカナール収率は3%、分岐型のウンデカナール収率は9%(全ウンデカナール収率=12%、ウンデカナールの直鎖体/分岐体=0.3)であった。即ち、(L(alc)+L(ald))/(B(alc)+B(ald))=1.0(直鎖選択率=50%)であった。
この結果から、二座ホスフィンの末端基が、メチレン基を介してリン原子に結合していないタイプの配位子では、アルコール収率が低下するほか、反応全体における直鎖選択率も低下することが分かる。
[比較例2]
実施例1における二座ホスフィン(L−45)の代わりに、以下に示す単座ホスフィン(L−B)を用いたこと以外、同様に反応を行った。
Figure 2009029712
その結果、直鎖型のウンデカノール収率は61%、分岐型のウンデカノール収率は28%(全ウンデカノール収率=89%、ウンデカノールの直鎖体/分岐体=2.2)であり、直鎖型のウンデカナール収率は0%、分岐型のウンデカナール収率は0%(全ウンデカナール収率=0%)であった。即ち、(L(alc)+L(ald))/(B(alc)+B(ald))=2.2(直鎖選択率=69%)であった。
この結果から、非特許文献2に基づいた公知の触媒系(ロジウム−単座トリアルキルホスフィン触媒系)では、アルコール収率は高いものの、系全体での直鎖選択率が低いことが分かる。
[実施例2]
非特許文献2の実験条件に合わせて以下の実験を行った。
触媒調製用のガラス容器に、アルゴン雰囲気下でRh(acac)(CO)(10.2mg、0.0395mmol、反応媒体中の濃度は1030重量ppmとなる。)、及び二座ホスフィンとして実施例1で用いた(L−45)(78.0mg、0.258mmol、Rhの6.5モル倍、P/Rh=13)を仕込み、エタノール(4.0ml)と反応基質である1−ヘキセン(1.0ml、8.314mmol)を加えて溶解させ、当該溶液を別途用意した内容量50mlのステンレス鋼オートクレーブにアルゴン雰囲気下で仕込んだ。オートクレーブを密閉後、当該オートクレーブを120℃まで昇温し、水素及び一酸化炭素の混合ガス(混合比:水素/一酸化炭素=1/1)を系内圧力が40atmになるように圧入して反応を開始した。
16時間の後、オートクレーブを室温まで冷却し、反応液を取り出してガスクロマトグラフィーで分析し、生成物濃度を測定した。
その結果、直鎖型のヘプタノール収率は44%、分岐型のヘプタノール収率は7%(全ヘプタノール収率=51%、ヘプタノールの直鎖体/分岐体=6.3)であり、直鎖型のヘプタナール収率は7%、分岐型のヘプタナール収率は8%(全ヘプタナール収率=15%、ヘプタナールの直鎖体/分岐体=0.9)であった。即ち、(L(alc)+L(ald))/(B(alc)+B(ald))=3.4(直鎖選択率=78%)であった。
[比較例3]
実施例2における二座ホスフィン(L−45)の代わりに、比較例2で用いた単座ホスフィン(L−B)を用いたこと以外、同様に反応を行った。ただし、ロジウムに対するリン原子の比率(P/Rh)は、非特許文献2および実施例2と同じく、P/Rh=13に合せた。
その結果、直鎖型のヘプタノール収率は58%、分岐型のヘプタノール収率は25%(全ヘプタノール収率=83%、ヘプタノールの直鎖体/分岐体=2.3)であり、直鎖型のヘプタナール収率は0%、分岐型のヘプタナール収率は6%(全ヘプタナール収率=6%、ヘプタナールの直鎖体/分岐体=0)であった。即ち、(L(alc)+L(ald))/(B(alc)+B(ald))=1.9(直鎖選択率=65%)であった。
[比較例4]
実施例2で用いたロジウム化合物Rh(acac)(CO)の代わりに非特許文献2の実験で使用されているロジウム錯体(RhH(PEt)を用い、かつ、二座ホスフィン(L−45)の代わりに、比較例2で用いた単座ホスフィン(L−B)を用いたこと以外、同様に反応を行った。ただし、ロジウムに対するリン原子の比率(P/Rh)は、非特許文献2および実施例2と同じく、P/Rh=13に合せた。
その結果、直鎖型のヘプタノール収率は66%、分岐型のヘプタノール収率は27%(全ヘプタノール収率=93%、ヘプタノールの直鎖体/分岐体=2.4)であり、直鎖型のヘプタナール収率は0%、分岐型のヘプタナール収率は7%(全ヘプタナール収率=7%、ヘプタナールの直鎖体/分岐体=0)であった。即ち、(L(alc)+L(ald))/(B(alc)+B(ald))=1.9(直鎖選択率=66%)であった。
実施例2と比較例3および比較例4の比較から、非特許文献2の実験条件で反応を行っても本発明の触媒系の方が系全体での直鎖選択率が高いことが分かる。

Claims (7)

  1. 周期表第8族〜第10族から選ばれる遷移金属を一種以上含む金属錯体、及びプロトン性溶媒の存在下で、オレフィン性化合物を水素及び一酸化炭素と反応させてアルコールを製造する方法であって、該金属錯体が下記一般式(I)で表される有機リン配位子を有することを特徴とするアルコールの製造方法。
    Figure 2009029712
    (式(I)中、Aは2個のリン原子間を少なくとも3つの原子を介して連結する二価の有機基を表し、Aは置換基を有していてもよい。R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数1〜30のアルコキシ基、炭素数3〜30のアリール基、又は炭素数3〜30のアリーロキシ基を表し、R〜Rは更に置換基を有していてもよい。ただし、RとR、RとRは互いに結合して環を形成していても良い。)
  2. 前記一般式(I)中のAが下記一般式(II)で表されることを特徴とする請求項1に記載のアルコールの製造方法。
    Figure 2009029712
    (上記式(II)中、Ar及びArは、それぞれ独立に、置換基を有していても良い炭素数6〜22のアリーレン基を表す。Xは、CR、SiR、NR、CO、O、又はSを表し、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数3〜14のアリール基、及び炭素数3〜14のアリーロキシ基からなる群より選ばれる。また、l、m、nは、それぞれ独立に0以上の整数を表すが、少なくとも一つは1である。)
  3. 前記一般式(I)中のAが下記一般式(III)で表されることを特徴とする請求項1又は2記載のアルコールの製造方法。
    Figure 2009029712
    (上記式(III)中、R11〜R18は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数3〜10のアリール基、炭素数3〜10のアリーロキシ基、炭素数2〜10のアシル基、炭素数2〜10のアシロキシ基、アミノ基、炭素数0〜10の置換アミノ基、炭素数2〜10のエステル基、カルボキシ基、及びヒドロキシ基からなる群より選ばれ、R11〜R18は更に置換基を有していてもよい。ただし、R11〜R18のうちの任意の2つの基が互いに結合して環を形成していても良い。)
  4. 前記周期表第8族〜第10族から選ばれる遷移金属がロジウムである請求項1ないし3のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
  5. 前記プロトン性溶媒がアルコールである請求項1ないし4のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
  6. 前記アルコールの収率が60%以上である請求項1ないし5のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
  7. 前記オレフィン性化合物が炭素数3以上の直鎖状のオレフィン性化合物であり、反応で生成する直鎖型及び分岐型アルコールの収率と、反応で副生する直鎖型及び分岐型アルデヒドの収率において、下記条件を満たすことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
    (L(alc)+L(ald))/(B(alc)+B(ald))>3.0
    (ここで、L(alc)は、直鎖型アルコールの収率を、L(ald)は、直鎖型アルデヒドの収率を、B(alc)は、分岐型アルコールの収率を、B(ald)は、分岐型アルデヒドの収率を表す。)
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