図1は、無線通信受信機10の1つの実施形態を示すブロック図である。受信機10は、1つ以上の受信信号処理の工程において、逆拡散された後の雑音相関ではなくて、チップサンプルを用い、ソフトスケーリングの情報を保持したまま信号処理の工程を補償することができるように構成されている。チップサンプル相関を用いる方法では、ソフトスケーリングの情報が失われる可能性があるが、図1における方法では、それが保持される。限定的でない例として、受信機10は、セルラ通信の基地局受信機を備えていてもよい。他の例として、受信機は、実際には、受信機機能と送信機機能を含む可搬型の通信デバイスを備えてもよいし、意図した目的に応じて、さらなる付加的なユーザインタフェース機能を備えてもよい。
少なくとも1つの実施形態では、無線通信受信機10は、移動局、または、W−CDMAの標準規格を基本とした無線通信ネットワークの中で用いられるように構成された、その他の種類の可搬型の通信デバイスまたはハンドセットを備える。従って、無線通信受信機10により受信されたCDMA信号は、リファレンス(参照)信号とデータ信号を含む混成信号を含んでもよい。例えば、受信したCDMA信号は、データに対する1つ以上のトラフィックチャネルの信号、および、チャネル推定などのための参照信号として、共通パイロットチャネル(CPICH)信号を含んでよい。
これらの例を念頭に置いて、無線通信受信機10の1つの実施形態を図1に示す。図1において、無線通信受信機10は、送信/受信アンテナアセンブリ12、切り替え素子(および/または、デュープレクサ)14、1つ以上の処理回路18を含む受信機回路16、送信機回路20、システム制御器22、1つ以上の入力/出力(I/O)インタフェース回路24、マイクロフォン26、スピーカ28、キーボード30、および、表示スクリーン32、を備える。処理回路18は上記で言及したソフトスケーリング補償を行うように構成される。処理回路18は、ここでは便宜のために「補償回路」18と呼ぶことにする。しかし、補償機能は幾つかの回路素子にまたがって実現されてもよく、例えば、補償回路18が無線通信受信機10の中の複数の機能回路に分散して組み込まれていてもよいことを理解されるべきである。さらに、当業者が理解するであろうように、受信機回路16の幾つかまたは全部の機能が、1つの高度に集積化された処理回路の中で実現されてもよく、または、幾つかの回路の中で実現されてもよく、または、実施の詳細によって、種々の方法により補償回路18が実現されてもよい。
少なくとも1つの実施形態においては、受信機回路16は、「汎用RAKE」(G−RAKE)受信機として構成される。G−RAKEの処理の限定的でない実施例として、アメリカ合衆国特許第6,363,104号、Bottomley、ほか、を参照できる。他の少なくとも1つの実施形態では、受信機回路16は、チップ等化受信機として構成される。どちらの場合も、受信機回路16は、アナログ回路とディジタル回路の組み合わせを備えてよく、少なくとも1つの実施形態ではベースバンドのディジタル信号処理回路を含む。同様に、送信機回路20は、アナログ回路とディジタル回路の組み合わせを含んでよく、少なくとも1つの実施形態ではベースバンドのディジタル信号処理回路を含む。
システム制御器22は、マイクロプロセッサ、ディジタル信号処理装置(DSP)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、特定用途向け集積回路(ASIC)、または、その他のディジタル論理回路を備えてよく、また、それぞれ、受信機回路16と送信機回路20のベースバンド処理回路とは別個に実施されてもよいし、または、それらの回路とともに集積されてもよい。いずれの場合も、無線通信受信機10は、一般的に、デフォルト(初期)パラメータの記憶、情報の供給、システム制御のためのプログラムインストラクションの格納、信号処理、および、その他の目的で、1つ以上のメモリーデバイスを含むと理解されるべきである。
一般的に、無線通信受信機10は、無線通信受信機10が受信したCDMA信号に関わる1つ以上の処理工程に、逆拡散を行った後の雑音相関ではなくて、逆拡散を行う前のチップサンプル相関を用いる。従来の受信機では、一般的には、チップサンプル相関を用いずに、その代わり、逆拡散されたパイロット信号から得られる雑音相関の測定値の長時間推定値を用いるかも知れない。しかし、そのような長時間推定は、チャネル条件の速度の速い変化を追尾する能力に欠ける。
それと対照的に、図示した無線通信受信機10は、速度の速いフェーディング条件を追尾するために、チップサンプル相関を用いる。そして、逆拡散された後の(短時間の)雑音相関の測定値も用いる。すなわち、適切なソフトスケーリングを維持するために、雑音相関の「スナップショット」を用いる。従って、無線通信受信機10は、速度の速いフェーディング条件下での追尾能力が改善されて、それにより利点を得ることができる。この利点は、逆拡散された後の雑音相関を用いることよりも、逆拡散される前のチップサンプル相関を用いることに、より多く依存している。しかしそれでも、無線通信受信機10は、正確なシンボルの復号やSIR推定、などのために一般的に必要な、ソフトスケーリングの情報を保持している。
図2は、無線通信受信機10の中で実行される信号処理ロジック(論理)の1つの実施形態を示す。これは、上記で述べた点を念頭に置いたもので、無線通信受信機10に用いる処理回路のタイプに関しては特に限らないとした実施形態である。信号処理論理は、チップサンプル相関を用いる受信信号処理を補償するものである。所与の時間区間に受信されたCDMA信号は、データ信号と参照信号の成分を持つ信号である。その時間区間の受信CDMA信号に対して処理が実行される。処理過程は、最初に、短時間の雑音相関R〜が、一組の逆拡散された参照信号値、例えば、一組の逆拡散されたパイロットシンボル値、の測定値を基本にして得られるものと仮定する。逆拡散されたデータの値は、得られたパイロットシンボル値とともに、参照信号を形成するために用いることも可能である。図示した処理過程では、さらに、一組のチップサンプル相関Rdが、短時間の雑音相関を求めるために用いたのと殆ど同じ時間区間を用いて得られる、一組の受信信号のチップサンプルの測定値に基づいて得られるものと仮定する。さらに、対応するチャネル推定値hも得られるものと仮定する。ここでの議論で用いている「相関」は広い意味で用いていること、そして、チップサンプル相関と雑音相関は、どちらも共分散として算出されてよいと考えていることに注意を要する。例えば、R〜は、逆拡散されたパイロットシンボルを用いて測定された雑音共分散行列として表されてよい。また、Rdは、受信したCDMA信号のベースバンドのチップサンプルを用いて測定されたチップサンプル共分散行列として表されてよい。
図示された処理論理の実施形態についての詳しい処理の説明を続けると、無線通信受信機10の中の1つ以上の処理回路が、1つ以上のスケーリングファクタを決定する。このスケーリングファクタは、受信したCDMA信号のチップサンプルから得られる、逆拡散される前のチップサンプル相関Rdを、受信したCDMA信号の中に含まれる参照信号の逆拡散値から得られる、逆拡散の後の雑音相関R〜に関連づける(ステップ100)。これまでに述べたように、雑音相関R〜は、逆拡散されたパイロットシンボルを用いて測定をした短時間の「粗い」測定値に基づいて算出されてもよい。例えば、パイロットシンボルの相互相関の測定値で、例えば、受信したW−CDMA信号の1スロットで測定したものでもよい。必要に応じて、または希望に応じて、時間区間長は、より長くてもよいし、より短くてもよい。
1つ以上のスケーリングファクタが決定された後に、処理過程は無線通信受信機10の中でさらに「続行」される。次のステップでは、チップサンプル相関を利用する受信信号処理の工程を、上記で求めたスケーリングファクタの関数として補償する(ステップ102)。この処理論理、またはその変形は、コンピュータプログラムとして実施されてもよい。ここに、コンピュータプログラムは、無線通信受信機10の中に含まれる、記憶デバイス、または、その他の記憶装置の中に記憶されたプログラムインストラクションを備える。
無線通信受信機10の1つの実施形態は、G−RAKE受信機回路を含む。実施形態では、ここで説明した方法が、ハードウェアとして、または、ソフトウェアとして、またはそれらの組み合わせとして実施される。このG−RAKE受信機回路は、チップサンプル相関に基づいてG−RAKE受信機回路の合成重みを算出するように構成される。そして、さらに、合成重み、または、合成重みから生成される合成されたデータ信号サンプルを、1つ以上のスケーリングファクタに基づいて補正をするように構成されている。これらのスケーリングファクタは、逆拡散を行う前のチップサンプル相関に共通して存在する雑音成分、および/または、干渉成分と、逆拡散を行った後の雑音相関とを関係づけるものである。その関係を決定する際には、雑音相関から直接に生成したとすれば得られるであろうソフトスケーリングの値の情報と、本質的には同じ情報が、合成された値のなかに、一般的には保持される。
図3は、無線通信受信機10に備えられるG−RAKEの1つの実施形態を示す。ここに、無線通信受信機10の受信機回路16は、受信機フロントエンド40と、G−RAKE回路42とを備える。図には示されてはいないが、当業者には、G−RAKE回路42は複数の相関「フィンガ」(すなわち、逆拡散回路)を含み、それらフィンガは、受信したCDMA信号に含まれる参照信号およびトラフィック信号に対する逆拡散値を得るために、受信CDMA信号のチップサンプルを逆拡散することが理解されるであろう。例えば、G−RAKE回路42は、受信CDMA信号に含まれるトラフィックチャネルの成分を逆拡散するための、複数のトラフィックチャネル逆拡散回路を含んでよい。また、受信CDMA信号に含まれるパイロットチャネルの成分を逆拡散する複数の逆拡散回路を含んでよい。現在の議論でさらに興味のあることは、G−RAKE回路42は、補償回路18の実施形態を含む、または補償回路18の実施形態に関連しているということである。補償回路18は、チップサンプル相関を用いるために、G−RAKE合成の工程を補償する、および/または、SIR推定値を補償する、ように構成される。
さらに詳細に説明を行う。図4は、G−RAKE回路16の幾つかの実施形態に従って、G−RAKE回路16の一部分を示したものである。ここに、チップサンプル相関推定器46はチップサンプル相関Rdを生成する。パイロット逆拡散器48は逆拡散されたパイロットシンボルとチャネル推定値hを生成する。雑音相関推定器50は雑音相関R〜を生成する。スケーリングファクタ算出回路52は、Rd、R〜およびhを関係付ける、1つ以上のスケーリングファクタ(例えば、「α」と「β」)を算出する。さらに、1つ以上の処理回路54が付加される。処理回路54は、G−RAKEによる合成およびSIR推定などを行うように構成され、1つ以上のスケーリング回路56を含む。スケーリング回路56は、チップサンプル相関を利用する、少なくとも1つの受信信号処理の工程を、スケーリングファクタの関数として補正するように構成される。
以上のような構成においては、図3に示した補償回路18は、スケーリングファクタ算出回路52と、スケーリング回路56を備えていると考えてよい。しかし、これらの回路は、より広い意味でのG−RAKE回路42の構成では、または、受信機回路16全体構成では、物理的に、または、機能的に、分散配置されていてもよい。少なくとも1つの実施形態では、補償回路18は、さらに、チップサンプル相関推定器46と雑音相関推定器50を含む。さらには、チャネル推定器48を含んでもよい。他の実施形態では、これらの要素回路のうちの少なくとも1つが、補償回路18とは別に装備されてもよい。しかし、それらのそれぞれの出力は補償回路18に供給される構成にはなっている。
図5は、G−RAKEの1つの実施形態の一部分を示したものである。ここに、スケーリングファクタ算出回路52は、短時間雑音相関R〜、チャネル推定値h、および、チップサンプル相関Rdを入力として受信することに基づいて、スケーリングファクタのαとβを求める。これらの係数の算出は、次式による最小2乗誤差(LSE)による推定の処理を用いてもよい。
スケーリングファクタβは、受信したCDMA信号の中に含まれる参照信号とデータ信号に関する「変換」を表すスケーリングファクタであると考えてよい。ある実施形態では、スケーリングファクタβは、設計によって決まるスケーリングの関係に基づいて決められて、設定された値として無線通信受信機10の中で記憶されていてもよい。αは「信号」のスケーリングファクタと考えてよく、βが求められれば、αを求めることが簡単になる。
式(1)を分かりやすく説明すれば、2つの係数αとβを求めるステップは、所与の時間区間においてチップサンプル相関(Rd)と雑音相関(R〜)とを測定するステップと、雑音相関を、第1のスケーリングファクタ(β)によりスケーリングされたチップサンプル相関と第2のスケーリングファクタ(α)によりスケーリングされたチャネル推定積(hhH)の関数として表現するステップと、第1のスケーリングファクタおよび第2のスケーリングファクタの少なくともどちらか一方を求めるステップとを備える。ある実施形態では、第1のスケーリングファクタと第2のスケーリングファクタを求めるステップには、測定で得られたチップサンプル相関と雑音相関とチャネル推定を用いて最小2乗誤差(LSE)の処理を実行するステップが含まれてもよい。
LSEの方法により得られた解を、より詳しく見ると、式(1)は基本的には、関係する行列のそれぞれの要素(i,j)は次式で表されると理解されるであろう。
ここに、H=hhHである。これらの行列がN行N列の正方行列であるとすれば、それぞれの行列にはN2個の要素があって、結果として式(2)の形のN2本の方程式ができる。方程式を完全に等式として成立させるαとβは恐らくはないが、最小2乗誤差による処理により、全ての方程式のセットのなかで、2乗誤差の最小値を与えるスケーリングファクタを求めることができる。
LSE処理に便利な行列による表現式は次式のように表してもよい。
式(3)の簡単化した表現は、次式のようにしてもよい。
ここに、
である。
αとβは実数である(複素数ではない)ので、Aとpの成分を実数で表現することにより、それぞれの複素方程式を2つの実数方程式として取り扱うのが望ましい。
式(5)の行の順序は重要ではない。もとの行列はエルミート対称なので、それぞれの行列で、行の殆ど半分は繰り返し(複素共役ではあるが)になっている。繰り返しの行は解に新しい情報を加えることにはならないので、LSE処理では取り除いて考えてもよく、必要な計算の数が少なくなる。さらに、ある実施形態では、行列の対角要素だけを用いてLSE処理を行っても十分な場合がある。
方程式の数が減じても減じなくても、式(4)のLSE処理の解の一例は、次式で表される。
もし、βが分かっていれば、無線通信受信機10は、LSEの問題が次式で表されるように構成することができる。
式(6)では、A、p、および、xが次式で定義される。
ここに、
である。
無線通信受信機10についてのいくつかの実施形態におけるLSEの解の求め方を上記で詳しく説明したが、ソフトスケーリングがさらに改善されるように、第1のスケーリングファクタと第2のスケーリングファクタを、平滑化をする、もしくは、平均値を保持するように決定できるという点に注意を要する。従って、ある実施形態では、無線通信受信機10は、次式で示される平均スケーリングファクタ、αAVGとβAVGを保持するように構成される。
式(9)と式(10)において、下添え字のないスケーリングファクタは最近の計算によって得られた値を示すもので、現在行っている測定に従ってスケーリングファクタが更新されるような場合を示している。
平均スケーリングファクタαAVGとβAVGは、「合成された」雑音相関R’を求めるために用いられてもよい。そして、R’は、適切なソフトスケーリング値を取り入れた合成重みwを生成するのに用いられてもよい。この適切なソフトスケーリング値は、R’によってもたらされたものである。雑音相関行列R’の合成は、平均スケーリングファクタαAVGとβAVGに基づいて、スケーリング回路(補償回路)56によって実行されてもよい。これらの平均スケーリングファクタは、スケーリング回路56により生成されてもよいし、算出回路52により生成されてもよい。どちらの場合でも、R’の生成は次式で表すことができる。
合成回路62は、適切にスケーリングされた合成重みwを受信し、それらを用いてデータ信号の逆拡散サンプル値から合成値を生成するように構成される。合成重みを生成するためにR’が用いられるので、これらの合成値は、適切に平滑化され、かつ逆拡散された後の雑音相関から生成されたとした場合に比べて、本質的には、同じ値のソフトスケーリングに関する情報を持っているであろう。
図6は、G−RAKE回路42の、もう一つの実施形態の一部分を示す。ここに、スケーリングされていない合成重みvは、合成重み生成器64により、チップサンプル相関Rdから生成される。スケーリングされていない合成重みvは、次式により生成することができる。
ここに、上式で逆行列を取ることは必ずしも絶対条件ではないことを理解されよう。また、合成重みは、ガウスザイデル(Gauss−Seidel)アルゴリズムのような実際的な方法を用いて求めてもよい。
スケーリング回路58は、合成回路66のRAKE合成の工程を補償するのに用いられる実数値であるスケーリングファクタfの算出を行う。算出には、スケーリングファクタαとβ、または、それぞれの平均値を用いることができる。fは、例えば、次式により生成される。
チャネル推定値h、および/または、合成重みvが、雑音を含んでいる可能性がある場合に、fを次式で算出することにより、この雑音を低減することができる。
ここに、λは0≦λ≦1で定義される強調軽減(ディエンファサイジング)係数である。また、fの計算値は負にならないようにクリップまたは制限が加えられてよい。(負のfの値はデータシンボルのソフトスケーリング値の符号を反転することになるであろう。)
合成回路66は、スケーリングファクタαとβから上記で生成されたスケーリングファクタfを用いて、適切なソフトスケーリングの情報を持つ合成重みwを作りだし、そして、それらの合成重みを用いて、データ信号の逆拡散サンプルから合成値を生成する、ように構成することができる。または代替として、合成重み生成器64が、まず、スケーリングされていない合成重みvを用いて合成値を生成し、その後にそれらの合成値をfの関数としてスケーリングする、というように構成されてもよい。
最初の場合では、スケーリングされた合成重みwは、w=f・vの関係式を用いて、スケーリングされていない合成重みvから生成可能である。2番目の場合では、データ信号の合成値がxで表されるとして、xの値をxSCALED=f・xによってスケーリングを行うことができる。第3の選択肢では、逆拡散値を、合成する前にスケーリングを行う。しかし、第4の選択肢もあり、第4の選択肢ではチップサンプルのスケーリングを行う。いずれの場合も、合成回路66は、復号のような、それ以後のさらなる処理が正しく行えるように、適切にスケーリングを施された合成値を出力する。
無論のことながら、その他の受信信号処理の工程も、チップサンプル相関と雑音相関の関係に対して、さらに付加的に、または代替として、補償されてよいであろう。例えば、図7はSIR推定回路70を示している。SIR推定回路70は、受信したCDMA信号に対するSIRの推定値を、または、受信したCDMA信号のデータ信号成分に対するSIRの推定値を、特に、チップサンプル相関Rdを用いて、算出するように構成される。
図示された実施形態では、SIR推定回路70は、チャネル推定値h、チップサンプル相関Rd、および、実数値のスケーリングファクタfを、入力として受け取る。SIR推定回路70は、これらの入力を用いて、速度の速いフェーディングに応じたSIR推定値の算出を行うともに、かつなお、適正なソフトなスケーリング値の情報に基づく動作が可能であるように構成されている。例えば、SIR推定回路70によって実行されるSIR推定は次式により表現可能である。
図8は、代替の実施形態を示している。ここで、SIR推定回路70は、同様に、補正されたSIRの算出を行う。しかし、SIR推定値の算出には、スケーリングされていない合成重みv、チャネル推定値h、および、チップサンプル相関Rdを用いている。
SIR推定に関して、1つのタイプの例としてこれまでに示したものは、チップサンプル相関を用いることに対する受信信号処理の工程の補正であったが、無線通信受信機10は、無線通信受信機10の、1つ以上の受信信号処理には雑音相関を用い、また、1つ以上の他の受信信号処理には、チップサンプル相関を用いるように構成されてもよい、という点に注意を要する。例えば、G−RAKE処理の工程は、パイロットシンボルから得られる雑音相関に基づいて行われ、一方で、SIR推定では、受信したCDMA信号のベースバンドのチップサンプルから得られるチップサンプル相関に基づいて行われてもよい。または、その逆でもよい。
従って、チップサンプル相関を取る時間区間と、雑音相関を取る時間区間の長さは、受信信号処理の工程が異なれば、異なったものになってもよい。実際に、G−RAKE処理の工程には、SIR推定の場合と比べて、異なったチャネル推定値、異なった雑音相関値、などが用いられる。ある特定の受信信号処理の工程に、チップサンプル相関を用いるべきか、それとも、より従来の、雑音相関を用いるべきかを決定する際の、考慮すべき1つの要因は、それらを用いることでその処理に利点が得られるかどうかの評価に関係している。例えば、あるタイプの無線通信ネットワークでは、SIR推定は、速度の速いフェーディング環境を、高い感度で追尾する必要があるだろう。一方で、G−RAKE合成では、それら環境の変化に、より寛容であり、また、より従来の雑音相関を用いてよい動作性能が得られる場合もある。
いずれの場合も、ここで説明した方法は、受信信号処理のある特定の工程に対して選択的に適用されてよいと理解されるべきである。さらに、種々の構成の受信機が、G−RAKEの実施形態のさらなる発展形として、ここで説明した方法に従って、適応的に用いられてもよいことは理解されるべきである。例えば、図9は無線通信受信機10の1つの実施形態を示す。ここでは、受信機回路16は、チップ等化を行う構成になっている。図には受信機回路16の関係部分が示され、それは、チップ等化フィルタ72、相関器74、および、合成重み生成器76を備え、さらに、上記で議論した補償回路18の1つの実施形態を含んでいる。
図示された受信機回路16の実施形態に従えば、合成重み生成器76は、受信したCDMA信号のチップサンプル相関に基づいて、チップ等化フィルタの、スケーリングされていない合成重みvを生成する。補償回路18は、スケーリングファクタαとβの関数として、または、αとβから導き出された実数値のスケーリングファクタfの関数として、スケーリングされた合成重みwを生成する。チップ等化フィルタ72は、従って、適切にスケーリングされた合成重みを用いることになり、結果として、チップ等化フィルタ72を通過した受信CDMA信号出力は適切なソフトスケーリング受けた値になる。当然のことながら、図を簡単にするために、図9には、チャネル推定器、チップサンプル相関推定器、および、雑音相関推定器、などの、幾つかの脇役的な回路は示されていないことが理解されるべきである。
チップ等化フィルタの合成重みをスケーリングすることの代替として、図10は、補償回路18の1つ以上の要素を、相関器74の出力に配置するチップ等化器の構成を示す。従って、この実施形態では、チップ等化フィルタ72は、受信したCDMA信号のチップ等化のために、スケーリングされていない合成重みvを用いる。適切なソフトスケーリングの情報は、逆拡散されたシンボル値に対して、補償回路18によって加えられる。ソフトスケーリング値は、スケーリングファクタαとβの関数として、または、αとβとから導き出された実数値のスケーリングファクタfの関数として表される。ここに示されていないその他の代替の方法は、チップ等化フィルタ72の入力か出力でスケーリングを施す方法である。チップ等化フィルタ72の前でスケーリングを施す場合は、受信機の自動利得制御(AGC)処理による利得調整の過程の中で実施することもできるであろう。
従って、1つ以上のチップ等化の実施形態で、1つ以上の受信信号処理の工程を補償するステップは、受信したCDMA信号の等化に用いるチップ等化の工程を、前記の比例した関係に対して補償するステップを備える。限定目的でない例として挙げれば、チップ等化の過程を補償するステップは、(a)チップ等化フィルタの合成重みを、1つ以上のスケーリングファクタの関数としてスケーリングするステップと、(b)受信したCDMA信号のチップ等化フィルタ出力を、1つ以上のスケーリングファクタの関数としてスケーリングするステップと、(c)逆拡散されたシンボルを、1つ以上のスケーリングファクタの関数としてスケーリングするステップと、または、(d)チップサンプルを、1つ以上のスケーリングファクタの関数としてスケーリングするステップ、とのうちの1つを備える。
無論のことながら、上記で説明したように、1つ以上の受信信号処理の工程を補償するステップは、データ信号の逆拡散値を合成するのに用いられる合成過程(例えば、RAKE合成の過程)を、前記の関係に対して補償するステップを備えてもよい。限定目的でない例として挙げれば、合成過程を補償するステップは、(a)合成重みを、1つ以上のスケーリングファクタの関数としてスケーリングするステップと、(b)データ信号の合成値を、1つ以上のスケーリングファクタの関数としてスケーリングするステップと、(c)逆拡散されたデータ値を、1つ以上のスケーリングファクタの関数としてスケーリングするステップと、または、(d)チップサンプルを、1つ以上のスケーリングファクタの関数としてスケーリングするステップ、とのうちの1つを備えてもよい。
以上のように、上記のチップ等化とG−RAKEにおける実施形態を念頭に置くことにより、当業者は、本発明が、広い範囲の受信機構成、および、広い範囲の受信信号処理の工程に適用されることを理解するであろう。スケーリングを施される個々の値や項目は、異なった構成や、異なった処理の工程によって変わってもよいが、全てのそのような変形は、ソフトスケーリングの情報を保持するために、広い意味で、チップサンプル相関と雑音相関を関係付ける1つ以上のスケーリングファクタを生成すること基づいて行われる。このように、本発明は、上記の議論に限定されることなく、また、添付の図示にも限定されるものではない。本発明は、特許請求の範囲に記された事項とその法的均等物によってのみ限定されるべきものである。