(好ましい実施形態の詳細な説明)
本発明は、詳細には、免疫細胞においてアポトーシスを誘発することによって、免疫細胞のレベル、量または活性を軽減するための組成物および方法を提供する。本発明の組成物および方法は、詳細には末梢血単球および詳細には好酸球に関係する。本明細書において開示される場合、本発明の組成物および方法は、この細胞とPin1インヒビターまたはその薬学的組成物とを接触させる工程を包含する。
特定の実施形態では、本発明は、免疫学的障害を有するか、または有すると疑われる患者において免疫学的障害を処置または予防する薬学的組成物および方法を提供し、この方法は、この患者に対して1つまたは複数のPin1インヒビターを投与する工程を包含する。免疫学的障害としては一般に、動物における免疫学的な系または免疫学的な系を含む細胞の調節不全によって生じる病理的疾患および障害、ならびに免疫学的な系または免疫学的な系を含む細胞の正常な機能が移植片拒絶のような病理的結果を生じる、器官移植レシピエントにおいて生じるような障害が挙げられる。本発明は詳細には、Pin1インヒビター化合物を含む薬学的組成物、ならびにPin1インヒビターおよび/またはその薬学的に受容可能な塩の薬学的組成物の治療上有効な量をこのような処置の必要な患者に投与することによってこのような薬学的組成物を用いるための方法を提供する。
本明細書において用いる場合、「患者(patient)」、「哺乳動物(mammal)」および「動物(animal)」という用語は、ヒトおよび動物の被験体を包含する。
本明細書において用いる場合、「処置(treatment)」または「処置する、処理する(treat)」とは、治療処置および予防的な方法の両方を指す。処置の必要なものとしては、免疫学的障害を既に有しているもの、およびその障害を有する傾向にあるもの、またはその障害が予防されるべきものが挙げられる。
本明細書において用いる場合、「障害(disorder)」とは、本発明に従う処置に由来して有利である任意の状態である。「障害」および「状態(condition)」は、本明細書において交換可能に用いられ、そして不適切な免疫応答に関連する慢性および急性の免疫学的障害または免疫学的疾患を含み、これには哺乳動物を免疫学的障害に対してかかり易くさせる病理的状態を含む。
本明細書において用いる場合、「免疫学的障害(immunological disorder)」とは、任意の医学的状態または障害であって、免疫細胞が組織および/または器官に浸潤して、それによって機能の損傷または損失を生じる状態または障害を包含し、これには、限定はしないが、好酸球関連障害、自己免疫疾患、移植片生着、骨髄および器官移植、輸血に起因する異種感作(allosensitization)、毒素性ショック症候群、T細胞依存性B細胞媒介性疾患、慢性免疫細胞機能不全に関連する慢性炎症性疾患、リンパ球増殖性障害(例えば、多発性骨髄腫、ヴァルデンストレームマクログロブリン血症およびクリオグロブリン血症)およびガンが挙げられる。自己免疫疾患の非限定的な例としては、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)、多発性硬化症、糖尿病および乾癬が挙げられる。慢性炎症性疾患の非限定的な例としては、炎症性腸疾患(例えば、クローン病および潰瘍性大腸炎)、グレーブス病、橋本甲状腺炎および真性糖尿病が挙げられる。
「免疫学的疾患(immunological disease)」および「免疫学的障害(immunological disorder)」という用語はまた、超過敏反応のような抗体産生の阻害によって寛解される任意の臨床状態を包含する。超過敏反応は、例えば、花粉症(枯草熱)(hay fever)、アレルギー、喘息、アトピーおよび急性の浮腫によって生じ得る。抗体媒介性の超過敏反応を生じる疾患の非限定的な例としては、全身性エリテマトーデス、関節炎(例えば、関節リウマチ、反応性関節炎、乾癬性関節炎)、腎症(例えば、糸球体腎炎、膜性、膜性増殖性、巣状分節状、巣状壊死性、半月状、増殖性−尿細管症)、皮膚障害(例えば、天疱瘡および類天疱瘡、結節性紅斑)、内分泌障害(例えば、甲状腺炎、グレーブス病、橋本病およびインスリン依存性糖尿病)、種々の肺症(例えば、外因性の肺胞炎)、種々の脈管障害、腹腔疾患、IgAの異常生成を伴う疾患、多くの貧血および血小板減少症、ギラン・バレー症候群および重症筋無力症が挙げられる。
他の実施形態では、本発明は、動物の免疫系の特定の細胞成分、詳細には好酸球に対する薬学的組成物および方法を提供する。特定の実施形態では、本発明は、特に免疫細胞においてアポトーシスを誘発することによって、免疫細胞のレベル、量または活性を軽減するための薬学的組成物および方法を提供する。本発明の組成物および方法は詳細には、末梢血単球、特に好酸球に関する。さらに他の実施形態では、本発明は、免疫学的障害、例えば、末梢血単球細胞、特に好酸球によって特徴付けられるかまたは好酸球に関連する障害を有するかまたは有すると疑われる患者を処置する方法を提供し、この方法は、このような細胞において、そして詳細にはこのような患者における好酸球においてアポトーシスを誘発する工程を包含する。
本明細書において用いる場合、「末梢血単球で特徴付けられるかまたは末梢血単球に関連する(characterized or associated with a peripheral blood mononuclear cell)」障害、および「好酸球関連障害(eosinophil−associated disorder)」とは、末梢血単球、特に好酸球の活性化および蓄積のレベルが上昇され、そして病態生理学の条件で重要な役割を果たす、生理学的な状態または病態をいう。好酸球関連障害の非限定的な例としては、過敏性症候群、例えば、気管支喘息、慢性好酸球性肺炎、春季カタル、アレルギー性結膜炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性副鼻腔炎およびアレルギー性胃腸病、ならびに他の好酸球関連疾患、例えば、好酸球性胃腸炎、アトピー性皮膚炎、水疱性類天疱瘡、好酸球増多関連偶発性血管性浮腫および潰瘍性大腸炎が挙げられる。
特定の実施形態では、本発明は、末梢血単球細胞、詳細には好酸球においてアポトーシスを誘発するための方法および薬学的組成物を提供する。本明細書において用いる場合、末梢血単球、詳細には好酸球のアポトーシスは、この細胞と1つまたは複数のPin1インヒビターとを接触させることによって誘発される。本明細書において用いる場合、「Pin1インヒビター(inhibitor)」は、例えば、ドミナントネガティブなペプチド、抗体、アンチセンスオリゴヌクレオチド、または短鎖干渉性核酸分子(siRNA)、または低分子インヒビター、例えば、ジュグロンまたはPiB(ジエチル−1,3,6,8−テトラヒドロ−1,3,6,8リン酸化テトラオキソベンゾ[lmn]フェナントロリン−2,7−ジアセテート)エチル1,3,6,8−テトラヒドロ−1,3,6,8−テトラオキソ−ベンゾ[lmn]フェナントロリン−(2H,7H)−ジアセテート)であってもよい。
「ドミナントネガティブなペプチド(dominant negative peptide)」は、活性なタンパク質を細胞機構とのその相互作用から除き得るか、またはこの活性なタンパク質と競合し得、それによって活性なタンパク質の影響を軽減し得るタンパク質の改変体である。例えば、末梢血単球、特に好酸球におけるドミナントネガティブなPin1ペプチドの発現または誘導は、下の実施例に記載されるTAT−WWPin1ドミナントネガティブインヒビターのように、活性なPin1タンパク質の機能の低下を生じ、そしてアポトーシスを誘発する。当業者は、Pin1タンパク質のドミナントネガティブな改変体について能力を評価し得、そして標準的な突然変異誘発技術を用いて、本発明の方法において有効な1つ以上のドミナントネガティブな改変体ポリペプチドを作成し得る。例えば、天然のPin1ペプチドの配列は、部位特異的突然変異誘発、スキャニング突然変異誘発、部分的遺伝子欠失または短縮などによって変異され得る(例えば、Sambrookら、2001,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.を参照のこと)。突然変異誘発されたPin1ペプチドの集団は、例えば、下の実施例に記載された方法を用いてPin1活性の減少または阻害のために試験され得る。このようなペプチドは、細胞に直接、単独で、または例えば、ペネトラチン(penetratin)タグ(HIVまたはアンテナエペディア(antennaepedia))を介して、標的もしくはキャリア分子に結合体化されて導入されてもよいし、あるいはペプチドをコードする遺伝子構築物(例えば、ウイルスベクター中において細胞へ導入されたポリヌクレオチドによってコードされる)の標的化導入によってこのような細胞中で発現されてもよい。
他の実施形態では、本発明は、Pin1に選択的に結合する抗体またはその免疫学的に機能的なフラグメント、およびPin1タンパク質の活性を選択的に阻害するかまたは妨害するための方法を提供する。モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体、ならびにその免疫学的に活性なフラグメントの調製のための標準的な方法は、例えばHarlowおよびLane(1988,ANTIBODIES:A LABORATORY MANUAL,Cold Spring Harbor Laboratory Press:New York)に記載されるように、当該分野で周知である。抗体フラグメント、特にFabフラグメント、ならびにエピトープ結合能力および特異性を保持する他のフラグメントを生成するための方法も周知であって、「ヒト化(humanized)」抗体を含む、完全にヒト抗体およびキメラ抗体も同様である。「ヒト化」抗体としては、例えば、ヒト抗体の一部でマウス抗体の特定の部分を置換することによって、ヒト被験体に対する投与の間に生じ得る負の免疫の影響を減じるために、「ヒト化」されている、マウスで生成された抗体が挙げられる。従って、本発明は、限定はしないが、1つ以上の領域が相同なヒト部分または非ヒト部分によって置換されている単鎖抗体、単鎖Fv抗体、F(ab)抗体、F(ab)’抗体および(Fab’)2抗体、キメラ抗体、および完全ヒト抗体を含む、Pin1の抗体インヒビターの使用を包含する。単鎖抗体は、国際特許出願公開番号WO88/01649および米国特許第4,946,778号および同第5,260,203号に詳細に考察される。このようなインヒビターは、例えば、ペネトラチンタグ(HIVまたはアンテナエペディア)を介して、または組み換え方法(例えば、ウイルスベクターにおいて細胞へ導入されたポリヌクレオチドによってコードされる)によって送達され得る。
さらなる実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、末梢血単球、特に好酸球においてアポトーシスを誘発するためにPin1活性を阻害するために用いられ得る。このようなアンチセンスオリゴヌクレオチドは、発現制御配列(三重らせん形成)に対して、またはPin1のmRNAに対して相補的であって、かつハイブリダイズする核酸分子であってもよい。例えば、Pin1遺伝子の少なくとも一部に対して相補的である配列を有する、アンチセンスDNAまたはRNA分子が、細胞に導入され得る。アンチセンスプローブは、当該分野で公知のようなPin1遺伝子の配列を用いる利用可能な技術によって設計され得る。代表的には、各々のこのようなアンチセンス分子は、Pin1のmRNAの開始部位(5’末端)に相補的である。アンチセンス分子が対応するPin1のmRNAにハイブリダイズする場合、このmRNAの翻訳は妨げられるかまたは減少される。
他の実施形態では、Pin1インヒビターは、短鎖干渉性RNA(siRNA)であってもよい。「短鎖干渉性RNA(short interfering RNA)」または「siRNA」という用語は本明細書において用いる場合、例えば、Bass,2001,Nature 411:428〜429;Elbashirら、2001,Nature 411:494〜498;およびKreutzerら、国際PCT公開番号WO00/44895;Zernicka−Goetzら、国際PCT公開番号WO01/36646;Fire,国際PCT公開番号WO99/32619;Plaetinckら、国際PCT公開番号WO00/01846;MelloおよびFire,国際PCT公開番号WO01/29058;Deschamps−Depaillette,国際PCT公開番号WO99/07409;およびLiら、国際PCT公開番号WO00/44914に開示されるようにRNA干渉すなわち「RNAi」し得る二本鎖の核酸分子をいう。本明細書において用いる場合、siRNA分子は、RNAのみを含む分子に限定される必要はなく、さらに、RNAiの能力または活性を有する化学的に改変されたヌクレオチドおよび非ヌクレオチドを包含してもよい。siRNA分子は、例えば、Ambicon,Inc.(Austin,TX)を通じて利用可能なアルゴリズムおよび生成物を用い、当該分野で公知の方法を用いて設計され得る。
本発明のPin1 siRNA分子は、自己相補性のセンスおよびアンチセンス領域を含む二本鎖ポリヌクレオチド分子であって、アンチセンス領域がPin1またはその一部のヌクレオチド配列に相補的であるヌクレオチド配列を含み、かつこのセンス領域がPin1核酸配列またはその一部に対応するヌクレオチド配列を有する、二重ポリヌクレオチド分子であってもよい。このPin1のsiRNA分子は、2つの別々のオリゴヌクレオチドであって、一方の鎖がセンス鎖であって他方がアンチセンス鎖であり、このアンチセンス鎖およびセンス鎖が自己相補性である、オリゴヌクレオチドからアセンブリされてもよい。Pin1のsiRNA分子はまた、核酸ベースまたは非核酸ベースのリンカーによって連結された自己相補性センス領域およびアンチセンス領域を有する単一のオリゴヌクレオチドからアセンブリされてもよい。このPin1のsiRNA分子は、実質的に対称的な二重鎖、非対称的な二重鎖、ヘアピン、または非対称性のヘアピン二次構造を形成し得るポリヌクレオチドであってもよい。このPin1のsiRNA分子はまた、例えば、Martinezら、2002,Cell 110:563〜574およびSchwarzら、2002,Molecular Cell 10:537〜568に考察されるように、Pin1ヌクレオチド配列またはその一部に対して相補的であるヌクレオチド配列を有する一本鎖ポリヌクレオチドであって、さらに末端リン酸基、例えば、5’,3’−二リン酸または5’−リン酸を含み得る一本鎖ポリヌクレオチドを含んでもよい。
一本鎖ヘアピン構造を含む本発明のPin1 siRNA分子は、相補的な配列のハイブリダイゼーションを可能にするスペーサー配列によって隔てられた約15〜約30のヌクレオチドの2つの相補的な配列を有する、約36〜約70ヌクレオチド長であってもよい。従って、一本鎖ヘアピン構造は、この分子の二重部分を含む約15〜約30塩基対を有する。1実施形態では、ヘアピンsiRNAは、相補的なsiRNA配列のハイブリダイゼーションに適合する長さの二重鎖部分およびループ部分において約18、19、20または21塩基対を有する。ヒトPin1は、アクセッション番号NM_006221(GenBank,NCBI)によって特定された核酸配列によってコードされ、これから有効なsiRNA種が同定され得る。
さらに他の実施形態では、Pin1活性は、低分子インヒビターを用いて阻害され得る。有機低分子のライブラリーは、商業的に入手可能である(例えば、ChemBridge Corp.,San Diego,CAおよびLION Biosciences,Cambridge,MA)し、または標準的な方法(例えば、ThompsonおよびEllman,1996,Chem.Rev.96:555〜600)に従って調製されてもよい。低分子ライブラリーは、例えば、下の実施例に記載される方法を用いてPin1のインヒビターについてスクリーニングまたはアッセイされ得る。特定の実施形態では、ジュグロン、ジュグロンの薬学的に受容可能な塩、および/またはジュグロンを含む組成物は、Pin1の低分子インヒビターとして有用である。
特定の実施形態では、低分子Pin1インヒビターは、ジュグロンのような公知のPin1インヒビターの構造的な特徴に基づいて構造に基づく薬物デザインを用いて開発され得る。構造に基づく薬物デザインの種々の方法は、当該分野において、例えば、Maulikら、1997、Molecular Biotechnology:Therapeutic Applications and Strategies,Wiley−Liss,Inc.,に開示されており、これは本明細書に開示される全ての引用文献、出願および特許と同様に、その全体が参照によって本明細書に援用される。Maulikらは、例えば、指示されたデザインであって、適切に選択されたフラグメントのフラグメントライブラリーから新規な分子を作製するプロセスを使用者が指示するデザインの方法;ランダムなデザインであって、使用者がフラグメントおよびその組み合わせをランダムに変異させるように遺伝子アルゴリズムまたは他のアルゴリズムを用いるが、同時に候補のインヒビター/化合物/アポトーシス誘発因子の適応度を評価するように選択基準を適用するランダムデザイン;ならびにグリッドベースのアプローチであって、3つの三次元レセプター構造と低分子フラグメントプローブとの間の相互作用エネルギーを使用者が計算し、その後に有益なプローブ部位を一緒に連結させるグリッドベースのアプローチ、を開示する。
いくつかのコンピュータープログラムが、当該分野で公知であって、本発明の可能性のあるインヒビターを設計するのにおいて用いられ得、これには限定はしないが以下が挙げられる:
GRID(Goodford,1985,J.Med.Chem.28:849〜857、これは種々の官能基の特徴を有するプローブと高分子表面との間の可能性のある相互作用部位を決定するプログラムであって、類似の阻害性タンパク質または分子の構造を決定するための表面部位を分析するために用いられ得る。GRID計算は、プローブとして分子上に適切な阻害性の基を用い(例えば、プロトン化した一級アミン)、適切なエネルギーコンターレベル(energy contour levels)でアクセス可能な位置の周囲に潜在的なホットスポットを特定するために用いられる。GRIDはOxford University,Oxford,UKから入手可能である;
MCSS(MirankerおよびKarplus,1991,Proteins:Structure,Function and Genetics 11:29〜34)。MCSSは、Molecular Simulations,Burlington,Mass.より入手可能である。
AUTODOCK(GoodsellおよびOlsen,1990,Proteins:Structure,Function,and Genetics 8:195〜202)。AUTODOCKは、Scripps Research Institute,La Jolla,Californiaから入手可能である;
DOCK(Kuntzら,1982,J.Mol.Biol.161:269〜288)。プログラムDOCKは、活性部位またはリガンド結合部位を分析するために用いられ得、そして相補的な立体的特性を有するリガンドを示唆する。DOCKは、University of California,San Francisco,Californiaから入手可能である;
ALADDIN(Van Drieら,1989,J.Comp−Aided Mol.Des.3:225);
CLIX(DavieおよびLawrence,1992,Proteins 12:31〜41);
GROUPBUILD(RotsteinおよびMurcko,1993,J.Med.Chem.36:1700);
GROW(MoonおよびHowe,1991,Proteins 11:314);
LUDI(Bohm,1992,J.Comp.Aid.Molec.Design 6:61〜78;ならびにRotsteinおよびMurcko,1992,J.Med.Chem.36:1700〜1710)。LUDIは、Biosym Technologies,San Diego,Californiaから入手可能である;
LEGEND(NishibataおよびItai,1991,Tetrahedron 47:8985)。LEGENDは、Molecular Simulations,Burlington,Massachusettsから入手可能である;ならびにLeapFrog(Tripos Associates,St.Louis,Moから入手可能)。
他の分子モデリング技術も、本発明に従って用いられ得、これには限定はしないが、Cohenら,1990,J.Med Chem.33:883〜894;NaviaおよびMurcko,1992,Current Opinions in Structural Biology 2:202〜210;ならびにJorgensen,1998,「BOSS−Biochemical and Organic Simulation System」Encyclopedia of Computational Chemistry(P.V.R.Schleyer編)Wiley & Sonstra,Athens,U.S.A.5:3281〜3285)が挙げられる。
1実施形態では、モデリングの間に、薬剤として投与される分子について有益であり得る化学部分を潜在的なインヒビターに導入することが可能であり得る。例えば、Pin1に対するインヒビターの結合に直接影響し得ないが、例えば、薬学的に受容可能なキャリアにおけるこのインヒビターの全体的な溶解度、このインヒビターのバイオアベイラビリティおよび/またはこのインヒビターの毒性に寄与する化学部分を、この潜在的なインヒビターに導入するかまたはそれから除くことが可能であり得る。目的のインヒビターの薬理学を最適化するための考慮および方法は、例えば、「Goodman and Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics,」1985,第8版(Goodman Gilman,Rall,Nies,&Taylor編),Pergaman Press;Jorgensen and Duffy,2000,Bioorg.Med.Chem.Lett.10:1155〜1158に見出され得る。
また、コンピュータープログラム「QikProp」(Schrodinger,Portland,OR)は、目的の有機分子の物理的に有意な説明および薬学的に関連する特性のために迅速な予測を提供するために用いられ得る。
潜在的なインヒビターはまた、コンピューターモデリングプログラムで構造的なアナログを体系的に改変することによって、Pin1インヒビター、例えばジュグロンに対するそれらの構造的な類似性に基づいて選択され得る。例えば、このような分析は、HIVプロテアーゼインヒビターを開発するために記載されている(Lamら,1994,Science 263:380〜384;Wlodawerら、1993,Ann.Rev.Biochem.62:543〜585;Appelt,1993,Perspectives in Drug Discovery and Design 1:23〜48;Erickson,1993,Perspectives in Drug Discovery and Design 1:109〜128)。
コンピューターモデリングを用いて設計された候補インヒビターは、化合物の市販のライブラリーから得てもよいし、または新規に合成されてもよい。化学的合成の適切な方法としては、当業者に公知の医薬品化学およびコンビナトリアル化学技術が挙げられる(例えば、Advanced Organic Chemistry第2版(J.March)1977,McGraw−Hill New YorkおよびB.A.Bunin,The Combinatorial Index,1998,Academic Pressを参照のこと)。
候補インヒビターは、多くの従来の結合アッセイ、例えば、固体支持体上の放射性リガンドレセプター結合アッセイ、または溶液中で行われる蛍光−偏光アッセイなどのうちの1つで結合活性についてスクリーニングされてもよい(例えば、Immune and Receptor Assays in Theory and in Practice,Patrick Englebienne,CRC Press 2000を参照のこと)。
潜在的なインヒビターが、Pin1の活性を阻害するか否かを決定することは、例えば、下の実施例に記載されるような好酸球アポトーシスアッセイを用いて達成され得る。
別の実施形態では、Pin1インヒビターを特定するための本発明の方法は、以下の工程を包含する:(a)ジュグロンのようなPin1インヒビターに構造的に関連する1つまたは複数の有機化合物をスクリーニングする工程と;(b)この潜在的なインヒビターがPin1の活性を阻害するか否かを決定する工程。1局面では、このスクリーニングは、とりわけ、上記のようなコンピューター補助のモデリングツールを用いて、構造/活性の関係の分析によって同定されたファルマコフォアまたは構造的な特徴を用いる工程を包含する。潜在的なインヒビターの活性を決定する工程は、上記のように達成され得る。
別の実施形態では、本発明は、免疫学的障害を処置するための化合物を特定する方法を提供し、この方法は、以下:(a)Pin1を発現する複数の細胞を提供する工程と、(b)候補化合物の存在下および非存在下において、Pin1の活性について細胞をアッセイする工程と;(c)Pin1活性が候補化合物の非存在下よりも候補化合物号物の存在下で少ない場合、免疫学的障害を処置するための化合物としてこの化合物を特定する工程とを包含する。Pin1活性についてのアッセイは、例えば、本明細書において記載される方法を用いて達成され得る。
ファルマコフォアの概念は、文献中で十分に記載されている(例えば、Mayerら、1987,J.Comp.Aided Molec.Design 1:3〜16;HopfingerおよびBurke,1990,Concepts and Applications of Molecular Similarity,M.A.JohnsonおよびG.M.Maggiora編、Wileyを参照のこと)。1実施形態では、本発明のファルマコフォアは、ジュグロンのようなPin1インヒビターの最も重要な共通の構造的特徴に基づいて生成される。本明細書において用いる場合、「ファルマコフォアコンピュータープログラム(pharmacophore computer programs)」は、ジュグロンのようなPin1インヒビターと構造的に類似である化合物を同定するための3次元(3−D)分子データベースのコンピューターマイニングのために用いられるソフトウェアを包含し、そしてPin1活性を阻害し得る。
本発明の方法において用いられ得るファルマコフォアのコンピュータープログラムとしては、限定はしないが、DISCO(Abbot Laboratories,Abbot Park,Ill.);触媒(Bio−CAD Corp.,Mountain View,California.);およびChem DBS−3D(Chemical Design Ltd.,Oxford,U.K.)が挙げられる。
化学構造のデータベースは、例えば、Cambridge Crystallographic Data Center(Cambridge,U.K.)およびChemical Abstracts Service(Columbus,OH)から入手可能である。
一旦、本発明の方法を用いて潜在的なインヒビターを特定すれば、この潜在的なインヒビターは、GRAM、DOCKまたはAUTODOCKのようなドッキングプログラムを用いてコンピューターモデリングの使用を通じて試験され得る(Dunbrackら、1997,Folding&Design 2:R27〜42)。この手順は、例えば、潜在的なインヒビターの形状および化学的構造が結合部位を補完する程度を確認するためにPin1:ジュグロン結合部位に対する候補化合物のコンピューターフィッティングを含んでもよい(Buggら、1993,Scientific American December:92〜98;Westら,1995,TIPS 16:67〜74)。コンピュータープログラムはまた、2つの結合パートナー(すなわち、リガンド結合部位および候補化合物)の誘引、反発および立体障害を評価するために用いられ得る。
本発明の別の実施形態では、Pin1を首尾よく阻害する、ジュグロンのようなPin1インヒビターの構造的なアナログが、結合特性を増強するためにコンピューターモデリングプログラムによって体系的に改変され得る。例えば、このような化合物は、水素結合、イオン相互作用またはファンデルワールス相互作用のような、化学的相補性に関連する基準を満足させるように改変されてもよい。
一旦、候補化合物が特定されれば、これは市販されているような化合物のライブラリーから選択されてもよいし、あるいは候補化合物は、新規に合成されてもよい。1つまたは比較的小グループでさえ特定の化合物の新規な合成は、薬物設計の当該分野で公知である。
候補化合物は、その化合物がPin1に結合し得るか否かを決定するために、Pin1またはPin1インヒビター結合部位を含むPin1のフラグメントとともに標準の結合アッセイに入れられ得る。候補化合物はまた、その化合物がPin1活性を阻害し得るか否かを決定するために、本明細書に記載されるようなPin1活性アッセイにおいて用いられてもよい。
当業者は、単に慣用的な実験を用いてドミナントネガティブなPin1ペプチド、Pin1抗体、改変体、フラグメント、siRNA分子または低分子Pin1インヒビターがPin1の機能的なインヒビターであるか否かを決定するために本明細書に記載されたアッセイおよび当該分野で周知のアッセイを容易に用い得る。例えば、この活性は、下の実施例に記載されるように好酸球においてアポトーシスを誘発する能力について試験され得る。
好ましい実施形態では、本発明の方法は、治療上有効な量の1つまたは複数のPin1インヒビターと一緒に薬学的に受容可能な希釈剤、キャリア、可溶化剤、乳化剤、防腐剤および/またはアジュバントを含む薬学的組成物であって、患者に適切に投与された場合所望の治療効果を誘導し得る薬学的組成物を投与する工程を包含する。好ましくは受容可能な処方物は、使用される投与量および濃度ではレシピエントに対して毒性ではない。
1つまたは複数のPin1インヒビターを含む薬学的組成物に関して「治療上有効な(therapeutically effective)」という表現は、本発明によれば、末梢血単球、特に好酸球、または免疫系の他の細胞の存在、過剰、持続または活性化によって誘導される病理学的効果を予防または軽減し得るこの薬学的組成物の量を意味すると理解される。例えば、ある薬学的組成物は、免疫学的障害、例えば好酸球関連障害を有する患者が、この薬学的組成物で処置された場合、この処置の前の症状に比べて症状の重篤度が低下するかまたは症状が減弱する場合、治療上有効である。患者に投与される薬学的組成物はまた、免疫学的障害に関連する症状が、このような症状の病歴を有する患者、またはこのような症状がみられる可能性が高いと考えられる患者において発症することを妨げられる場合に、治療上有効である。
特定の実施形態では、本発明の方法において有用な薬学的組成物は、その組成物の例えば、pH,浸透圧、粘性、透明度、色、等張性、匂い、無菌性、安定性、分解または放出の速度、吸着または浸透を、改変、維持または保存するための処方物質を含んでもよい。このような実施形態では、適切な処方物質としては、限定はしないが、アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジン);抗生物質;抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、亜硫酸ナトリウムまたは亜硫酸水素ナトリウム);緩衝液(例えば、ホウ酸塩、炭酸水素塩、Tris−HCl、クエン酸塩、リン酸塩または他の有機酸);充填剤(例えば、マンニトールまたはグリシン);キレート剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA));錯化剤(例えば、カフェイン、ポリビニルピロリドン、β−サイクロデキストリンまたはヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン);賦形剤(fillers);単等類;二糖類;および他の炭水化物(例えば、グルコース、マンノースまたはデキストリン);タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたはイムノグロブリン);着色料、香味量および希釈剤;乳化剤;親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);低分子量ポリペプチド;塩形成する対イオン(例えば、ナトリウム);防腐剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、安息香酸、サリチル酸、チメロサール、フェネチルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロルヘキシジン、ソルビン酸または過酸化水素);溶媒(例えば、グリセリン、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコール);糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール);懸濁剤;サーファクタントまたは湿潤剤(例えば、プルロニックス(pluronics)、PEG、ソルビタンエステル、ポリソルベート、例えば、ポリソルベート20、ポリソルベート80、トリトン、トロメタミン、レシチン、コレステロール、チロキサパル);安定性増強剤(例えば、スクロースまたはソルビトール);等張化向上剤(tonicity enhancing agents)(例えば、ハロゲン化アルカリ金属、好ましくは、塩化ナトリウムまたは塩化カリウム、マンニトールソルビトール);送達ビヒクル;希釈剤;賦形剤(excipients)および/または薬学的なアジュバントが挙げられる。REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES,第18版、(A.R.Gennaro、編)1990,Mack Publishing Companyを参照のこと。
特定の実施形態では、最適の薬学的組成物は、例えば、意図される投与経路、送達方式および所望の用量に依存して当業者によって決定される。例えば、REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES、前出を参照のこと。特定の実施形態では、このような組成物は、本発明のPin1インヒビターの物理的状態、安定性、インビボ放出の速度、およびインビボのクリアランスの速度に影響し得る。
特定の実施形態では、薬学的組成物における一次ビヒクルまたはキャリアは、事実上、水性または非水性のいずれであってもよい。例えば、適切なビヒクルまたはキャリアは、注射用水、生理食塩水または人工の脊髄液であってもよく、非経口的な投与のための組成物中で共通の他の物質を補充されてもよい。中性の緩衝化生理食塩水または血清アルブミンを混合された生理食塩水はさらに、例示的なビヒクルである。好ましい実施形態では、本発明の薬学的組成物は、約7.0〜8.5のTris緩衝液、または約pH4.0〜5.5の酢酸緩衝液を含み、そしてさらにソルビトール、スクロース、Tween−20および/またはその適切な代用品を含んでもよい。本発明の特定の実施形態では、Pin1インヒビター組成物は、所望の程度の純度を有する選択された組成物と、任意の処方剤(REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES、前出)とを、凍結乾燥ケーキまたは水溶液の形態で混合することによって、貯蔵のために調製されてもよい。さらに、特定の実施形態では、Pin1インヒビター生成物は、スクロースのような適切な賦形剤を用いて凍結乾燥物として処方されてもよい。
本発明の薬学的組成物は、非経口送達のために選択されてもよい。あるいは、この組成物は、吸入のためにまたは消化管を通じた送達、例えば経口のために、選択され得る。このような薬学的に受容可能な組成物の調製は、当該分野の技術の範囲内である。
処方物の成分は、投与部位に受容可能である濃度で好ましくは存在する。特定の実施形態では、緩衝液を用いて、この組成物を生理学的なpHでまたはわずかに低いpHで、代表的には約5〜約8のpH範囲内で維持する。
非経口投与が意図される場合、本発明における使用のための治療組成物は、薬学的に受容可能なビヒクル中に所望のPin1インヒビターを含む、パイロジェンフリーで、非経口的に受容可能な水溶液の形態で提供されてもよい。非経口注射のために特に適切なビヒクルは、滅菌水であって、Pin1インヒビターは、適切に保存された無菌の、等張液として処方される。特定の実施形態では、この調製物は、所望の分子と、ある因子、例えば、デポ注射を介して送達され得る生成物の制御放出または徐放性放出を提供し得る、注射用マイクロスフェア、生体内分解性粒子、ポリマー化合物(例えば、ポリ乳酸またはポリグリコール酸)、ビーズまたはリポソームとの処方物を含んでもよい。特定の実施形態では、ヒアルロン酸はまた、循環中における維持期間を促進するためにも用いられ得る。特定の実施形態では、移植可能な薬物送達ビヒクルを用いて、所望のPin1インヒビターを誘導してもよい。
本発明の薬学的組成物は、吸入のために処方されてもよい。これらの実施形態では、Pin1インヒビターは、乾燥の吸入可能な粉末として有利に処方される。好ましい実施形態では、Pin1インヒビター吸入溶液はまた、エアロゾル送達のための噴霧剤とともに処方されてもよい。特定の実施形態では、溶液は、噴霧されてもよい。従って肺投与および処方の方法はさらに、参照によって援用され、そして化学的に改変されたタンパク質の肺送達を記載する、国際特許出願番号PCT/US94/001875に記載される。
処方物は経口的に投与され得ることも企図される。この方式で投与されるPin1インヒビターは、錠剤およびカプセルのような固体投与形式の配合において慣習的に用いられるキャリアとともに(またはキャリアなしで)処方され得る。特定の実施形態では、カプセルは、処方物の活性部分を、バイオアベイラビリティが最大化され、そして前全身性の分解が最小化されるときに胃腸管のポイントで放出するように、設計され得る。さらなる因子が、Pin1インヒビターの吸収を促進するために含まれてもよい。希釈剤、香味料、低融点ワックス、植物油、潤滑剤、懸濁剤、錠剤崩壊剤および結合剤もまた使用されてもよい。
本発明の薬学的組成物は好ましくは、錠剤の製造に適切である非毒性賦形剤との混合物における1つまたは複数のPin1インヒビターの有効量を含むように提供される。滅菌水または別の適切なビヒクルに錠剤を溶解することによって、溶液は、単位剤形で調製され得る。適切な賦形剤としては、限定はしないが、不活性希釈剤、例えば、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウムもしくは炭酸水素塩、ラクトースもしくはリン酸カルシウム;または結合剤、例えば、デンプン、ゼラチン、もしくはアカシア;または潤滑剤、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸もしくは滑石が挙げられる。
さらなる薬学的組成物が当業者に明白であり、これには、徐放性送達または制御送達の処方物中にPin1インヒビターを含む処方物を包含する。種々の他の徐放性または制御送達手段、例えば、リポソームキャリア、生体内分解性微小粒子または多孔性ビーズおよびデポ注射物を処方するための技術も当業者に公知である。例えば、参照によって援用され、そして薬学的組成物の送達のための多孔性のポリマー微小粒子の制御放出を記載している国際特許出願番号PCT/US93/00829を参照のこと。徐放性の調製物は、成形された物体、例えば、フィルムまたはマイクロカプセルの形態で、半透性のポリマーマトリクスを含んでもよい。徐放性のマトリクスとしては、ポリエステル、ヒドロゲル、ポリラクチド(各々が参照によって援用される、米国特許第3,773,919号および欧州特許出願公開番号EP058481に記載される)、Lグルタミン酸およびγエチル−L−グルタミン酸塩のコポリマー(Sidmanら、1983,Biopolymers 22:547〜556)、ポリ(2−ヒドロキシエチル−メタクリレート)(Langerら、1981,J.Biomed.Mater.Res.15:167〜277およびLanger,1982,Chem.Tech.12:98〜105)、エチレン酢酸ビニル(Langerら、前出)またはポリ−D(−)−3−ヒドロキシ酪酸(欧州特許出願公開番号EP133,988)を挙げることができる。徐放性組成物はまた、当該分野で公知の任意のいくつかの方法によって調製され得るリポソームを含んでもよい。例えば、Eppsteinら、1985,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:3688〜3692;参照によって援用される、欧州特許出願公開番号EP036,676号;EP088,046号およびEP143,949号を参照のこと。
インビボ投与のために用いた薬学的組成物は代表的には、滅菌調製物として提供される。滅菌は、滅菌濾過膜を通じた濾過によって達成され得る。組成物が凍結乾燥される場合、この方法を用いる滅菌は、凍結乾燥および再構成の前または後のいずれに行なわれてもよい。非経口投与のための組成物は、凍結乾燥型でまたは溶液中で保管されてもよい。非経口組成物は一般には、無菌アクセスポートを有する容器、例えば、皮下注射針による穿刺可能な栓を有する静脈内溶液バッグまたはバイアル中に入れられる。
一旦、薬学的組成物が処方されれば、これは、溶液、懸濁液、ゲル、エマルジョン、固体として、または脱水もしくは凍結乾燥粉末として滅菌バイアル中に保管されてもよい。このような処方物は、レディー・ツー・ユース型または投与の前に再構成される形態(例えば、凍結乾燥)のいずれで保管されてもよい。
本発明の方法において有用なPin1インヒビターは、薬学の当該分野で周知である方法を用いて、患者における取り込み、分布および/または吸収を補助するために、他の分子、分子構造または化合物の混合物、例えば、リポソーム、レセプター標的化分子、経口、直腸、局所または他の処方物と混合されても、カプセル化されても、結合体化されてもそうでなければ会合されてもよい。
本発明のPin1インヒビターは、従来の非毒性の薬学的に受容可能なキャリア、アジュバントおよびビヒクルを含む投薬単位の処方物で、経口的に、局所的に、非経口的に、吸入もしくは噴霧によってまたは直腸的に投与され得る。本明細書において用いる場合、非経口という用語は、経皮、皮下、脈管内(例えば、静脈内)、筋肉内、またはくも膜下注射もしくはインフュージョン技術などを包含する。さらに、一般式Iの化合物および薬学的に受容可能なキャリアを含む薬学的処方物が提供される。一般式Iの1つ以上の化合物は、1つ以上の非毒性の薬学的に受容可能なキャリアおよび/または希釈剤および/またはアジュバントと、そして所望の場合他の活性な成分と組み合わせて存在してもよい。一般式Iの化合物を含む薬学的組成物は、経口使用のために適切な形態で、例えば、錠剤、トローチ、トローチ剤、水性もしくは油性の懸濁液、分散性の粉末もしくは顆粒、エマルジョン、硬性もしくは軟性のカプセル、またはシロップもしくはエリキシル剤であってもよい。
経口使用を意図する組成物は、薬学的組成物の製造のために当該分野で公知の任意の方法に従って調製されてもよく、そしてこのような組成物は、薬学的に優れかつ口当たりのよい調製物が得られるように、甘味料、香味料、着色料および防腐剤からなる群より選択される1つ以上の因子を含んでもよい。錠剤は、錠剤の製造に適切である非毒性の薬学的に受容可能な賦形剤と混合して活性成分を含む。これらの賦形剤は、例えば、不活性希釈剤、例えば、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウムまたはリン酸ナトリウム;造粒剤および分散剤、例えば、コーンスターチ、またはアルギン酸;結合剤、例えば、デンプン、ゼラチンまたはアカシア、および潤滑剤、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸または滑石であってもよい。この錠剤は、コーティングされなくてもよいし、または公知の技術によってコーティングされてもよい。ある場合には、このようなコーティングは、胃腸管における分解および吸収を遅らせて、それによって長期間にわたって持続的な作用を与えるために公知の技術によって調製されてもよい。例えば、時間遅延物質、例えば、モノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルが使用されてもよい。
経口使用のための処方物はまた、硬性のゼラチンカプセルであって、活性成分が不活性固体希釈剤、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムまたはカオリンと混合されているゼラチンカプセルとして、または軟性のゼラチンカプセルであって、活性成分が水または油状培地、例えば、ピーナツ油、液体パラフィンまたはオリーブオイルと混合されているゼラチンカプセルとして与えられてもよい。
経口使用のための処方物はまた、トローチ剤として提示されてもよい。
水性懸濁液は、水性懸濁液の製造のために適切な賦形剤と混合されて活性物質を含む。このような賦形剤は、懸濁剤、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカント・ゴムおよびアカシア・ゴムである;分散剤または湿潤剤は、天然に存在するホスファチド、例えば、レシチン、またはアルキレンオキシドと脂肪酸との縮合生成物、例えばステアリン酸ポリオキシエチレン、またはエチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合生成物、例えば、ヘプタデカエチレンオキシセタノール、またはエチレンオキシドと脂肪酸およびヘキシトール由来の部分的エステルとの縮合生成物、例えば、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、またはエチレンオキシドと脂肪酸およびヘキシトール無水物由来の部分的エステルとの縮合生成物、例えば、ポリエチレンソルビタンモノオレエートであってもよい。この水性懸濁物はまた、1つ以上の防腐剤、例えば、エチル、またはn−プロピルp−ヒドロキシベンゾエート、1つ以上の着色料、1つ以上の香味料、および1つ以上の甘味料、例えば、スクロースまたはサッカリンを含んでもよい。
油状懸濁物は、植物油、例えば、ラッカセイ油、オリーブ油、ゴマ油もしくはココナツ油中で、または鉱油、例えば液体パラフィン中で、活性成分を分散させることによって処方され得る。この油状懸濁物は、増粘剤、例えば、蜜蝋、固形パラフィンまたはセチルアルコールを含んでもよい。甘味料および香味料は、口当たりのよい経口調製物を提供するために添加され得る。これらの組成物は、アスコルビン酸のような抗酸化剤の添加によって保存され得る。
水の添加による水性懸濁液の調製のために適切な分散性粉末および顆粒は、分散剤または湿潤剤、懸濁剤および1つ以上の防腐剤と混合して活性成分を提供する。適切な分散剤または湿潤剤または懸濁剤は、上記で既に言及されたもので例示されている。さらなる賦形剤、例えば、甘味料、香味料および着色料もまた存在し得る。
本発明の薬学的組成物はまた、水中油型エマルジョンの形態であってもよい。この油相は、植物油もしくは鉱油またはそれらの混合物であってもよい。適切な乳化剤は、天然に存在するゴム、例えば、アカシア・ゴムまたはトラガカント・ゴム、天然に存在するホスファチド、例えば、ダイズ、レシチン、ならびに脂肪酸およびヘキシトール、無水物由来のエステルまたは部分的エステル、例えば、ソルビタンモノオレエート、ならびにこのような部分的エステルとエチレンオキシドとの縮合生成物、例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートであってもよい。このエマルジョンはまた、甘味料および香味料を含んでもよい。
シロップおよびエリキシルは、香味料、例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ソルビトール、グルコースまたはスクロースと処方されてもよい。このような処方物はまた、粘滑薬(demulcent)、防腐剤、香味料および/または着色料を含んでもよい。この薬学的組成物は、適切な注射用水または油質の懸濁物の形態であってもよい。この懸濁物は、上記に言及されている適切な分散剤または湿潤剤および懸濁剤を用いて当該分野で公知の方法に従って処方され得る。この滅菌注射用調製物はまた、例えば、1,3−ブタンジオール中の溶液として、毒性でない非経口的に受容可能な希釈剤または溶媒中に含まれる、滅菌注射用水または懸濁物であってもよい。とりわけ、使用され得る受容可能なビヒクルおよび溶媒は、水、リンゲル液および等張性塩化ナトリウム溶液である。さらに、滅菌の不揮発性油は、溶媒または懸濁培地として慣習的に使用される。この目的のために、合成のモノグリセリドまたはジグリセリドを含む、任意の当たり障りのない(bland)不揮発性油を使用してもよい。さらに、脂肪酸、例えば、オレイン酸は、注射可能な調製物の際に役立つ。
本発明のPin1インヒビターはまた、例えば、薬物の直腸投与のために坐剤の形態で投与されてもよい。これらの組成物は、この薬物を、通常の温度で固形であるが、直腸温では液体である適切な非刺激性である賦形剤であって、従って直腸で溶けて薬物を放出する賦形剤と混合することによって調製され得る。このような物質としてはココアバターおよびポリエチレングリコールが挙げられる。
本発明のPin1インヒビターは、無菌培地中で非経口的に投与され得る。この薬物は、用いられるビヒクルおよび濃度に依存して、ビヒクル中で懸濁されても、または溶解されてもよい。有利には、アジュバント、例えば、局所麻酔薬、防腐剤および緩衝剤は、ビヒクル中で溶解されてもよい。
眼または他の外部組織、例えば、口および皮膚の障害については、処方物は好ましくは、局所のゲル、スプレー、軟膏もしくはクリームとして、または坐剤として適用され、これには、例えば、0.075〜30(w/w)%、好ましくは0.2〜20(w/w)%、そして最も好ましくは0.4〜15(w/w)%という総量中の活性成分を含む。軟膏中で処方される場合、活性成分は、パラフィンまたは水混和性の軟膏基剤のいずれかとともに使用されてもよい。
あるいは、活性成分は、水中油型クリーム基剤とともにクリーム中に処方されてもよい。必要に応じて、クリーム基剤の水相は、例えば、少なくとも30(w/w)%の多価アルコール、例えば、プロピレングリコール、ブタン−1,3−ジオール、マンニトール、ソルビトール、グリセロール、ポリエチレングリコールおよびそれらの混合物を含んでもよい。局所処方物は、所望により、皮膚または他の患部を通じて活性成分の吸収または浸透を増強し得る化合物を含んでもよい。このような皮膚浸透増強剤の例としてはジメチルスルホキシドおよび関連のアナログが挙げられる。
本発明の化合物はまた、経皮デバイスによって投与されてもよい。好ましくは、局所投与は、リザーバおよび多孔性膜のタイプまたは種々の固体マトリックスのいずれかのパッチを用いて達成される。いずれの場合も、活性剤は、連続的にリザーバまたはマイクロカプセルから膜を通して、レシピエントの皮膚または粘膜と接触している活性剤浸透性の接着剤に送達される。この活性剤が皮膚を通して吸収される場合、この活性剤の、制御され、かつ予め決定されたフローが、レシピエントに投与される。マイクロカプセルの場合、カプセル化剤もまた膜として機能し得る。経皮パッチは、アクリルエマルジョンおよびポリエステルパッチのような接着系とともに適切な溶媒系中に化合物を含んでもよい。
本発明のエマルジョンの油相は、公知の方式で公知の成分から構成され得る。この相は単に乳化剤を含むだけであるが、これによって、少なくとも1つの乳化剤と、脂肪もしくはオイルと、または脂肪およびオイルの両方との混合物を含み得る。好ましくは、疎水性乳化剤は、安定化剤として機能する親油性乳化剤とともに含まれる。これはまた、オイルおよび脂肪の両方を含むことが好ましい。まとめると、乳化剤(単数または複数)は、安定化剤(単数または複数)とともに(または安定化剤(単数または複数)なしで)、いわゆる乳化ワックスを形成し、このワックスはオイルおよび脂肪と一緒になって、いわゆる乳化軟膏基剤を形成し、これがクリーム処方物の油分散相を形成する。本発明の処方物における使用のために適切な乳化剤およびエマルジョン安定化剤としては、とりわけ、Tween60、Span80、セトステアリルアルコール、ミリスチルアルコール、グリセリルモノステアレートおよびラウリル硫酸ナトリウムが挙げられる。
処方のために適切なオイルまたは脂肪の選択は、所望の体裁的な特性を達成することに基づく。なぜなら、薬学的なエマルジョン処方物において用いられる可能性が高いほとんどのオイル中において活性化合物の溶解度は、極めて低いからである。従ってクリームは、好ましくは、チューブまたは他の容器からの漏出を回避するために、適切な粘稠度を有する、脂ぎっておらず、非染色性で、かつ水洗い可能な生成物であるべきである。直鎖または分枝鎖、一塩基または二塩基のアルキルエステル、例えば、ジ−イソアジペート、イソセチルステアレート、ココナツ脂肪酸のプロピレングリコールジエステル、イソプロピルミリステート、デシルオレエート、イソプロピルパルミテート、ブチルステアレート、2−エチルヘキシルパルミテートまたは分枝鎖エステルの混合物が用いられてもよい。これらは、必要な特性に応じて単独で、または組み合わせて用いられ得る。あるいは、高融点の脂質、例えば、白色軟性パラフィン(white soft paraffin)および/または液体パラフィンまたは他の鉱油が用いられてもよい。
眼への局所投与に適切な処方物はまた、点眼液を含み、ここでは活性な成分が適切なキャリアに、特に、活性成分のための水溶液に溶解または懸濁されている。この抗炎症性活性成分は好ましくは、0.5〜20%、有利には0.5〜10%、そして詳細には約1.5%(w/w)の濃度でこのような処方物中に存在する。
治療目的のためには、本発明のPin1インヒビターは通常、示された投与経路に適切な1つ以上のアジュバントと組み合わされる。口から投与される場合、この化合物は、ラクトース、スクロース、デンプン粉末、アルカン酸のセルロースエステル、セルロースアルキルエステル、滑石、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸および硫酸のナトリウム塩およびカルシウム塩、ゼラチン、アカシア・ゴム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドンおよび/またはポリビニルアルコールと混合され、次いで都合のよい投与のために錠剤化またはカプセル化されてもよい。このようなカプセルまたは錠剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースにおける活性化合物の分散において提供され得るように、徐放性の処方物を含んでもよい。非経口投与のための処方物は、水性または非水性の等張性の滅菌注射用液または懸濁液の形態であってもよい。これらの溶液および懸濁液は、経口投与のための処方物における使用について言及されたキャリアまたは希釈剤の1つ以上を有する滅菌粉末または顆粒から調製されてもよい。この化合物は、水、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、エタノール、コーン油、綿実油、ピーナツ油、ゴマ油、ベンジルアルコール、塩化ナトリウム、および/または種々の緩衝液に溶解されてもよい。他のアジュバントおよび投与法式は、薬学の当該分野において十分に公知であってかつ周知である。
1日あたり体重1kgあたり約0.1mg〜約140mgの範囲の用量レベルが上述の条件の処置において有用である(1日あたり1患者あたり約0.5mg〜約14g)。単回の剤形を生成するためにキャリア物質と組み合わされ得る活性成分の量は、処置される宿主および特定の投与法式に依存して変化する。単位剤形は一般に、約1mg〜約500mgの間の活性成分を含む。毎日の用量は、1日あたり1〜4用量で投与され得る。皮膚状態の場合は、罹患部位に対して、1日あたり2〜4回本発明の化合物の局所調製物を適用することが好ましいかもしれない。
しかし、理解されるとおり、任意の特定の患者についての特定の用量レベルは、使用される特定の化合物の活性、年齢、体重、全身健康状態、性別、食餌、投与時間、投与経路および排出速度、薬物併用および治療を受けている特定の疾患の重篤度を含む、種々の要因に依存する。
非ヒト動物に対する投与のために、この組成物はまた、動物の飼料または飲用水に添加されてもよい。動物がその食餌とともに治療上適切な量の組成物をとるようにこの動物に飼料および飲用水組成物を処方することが簡便であり得る。この飼料または飲用水への添加のための事前混合物としてこの組成物を提供することも好都合であり得る。
投薬頻度は、この処方物で用いられる特定のPin1インヒビターの薬物動態パラメーターに依存する。代表的には、臨床家は、所望の効果を達成する用量に達するまで、この組成物を投与する。従って、この組成物は、単回用量として投与されても、または経時的に2回以上の用量(これは、同じ量の所望の分子は含んでも含まなくてもよい)として投与されても、または移植デバイスもしくはカテーテルを介する連続インフュージョンとして投与されてもよい。適切な投薬のさらなる微調整は当業者によって慣用的に行われ、そして当業者らによって慣用的に行われる課題の領域の範囲内である。適切な投薬量は、適切な用量応答データの使用を通じて確認され得る。特定の実施形態では、Pin1インヒビターは、長期間にわたって患者に投与され得る。
本発明の薬学的組成物および/またはPin1インヒビターは、単独で、または他の治療剤と組み合わせて、詳細には、他の免疫抑制剤と組み合わせて投与され得る。例えば、薬学的組成物またはPin1インヒビターは、移植された組織または器官の急性または慢性の拒絶を防止するために用いられ、この免疫抑制剤は、シクロスポリンA(CsA)であっても、またはFK506(Tacrolimus)であってもよい。本明細書における実施例に考察されるとおり、Pin1インヒビターおよび既存の治療剤、例えば、CsAの組み合わせによって、既存の治療剤の最適以下の量(すなわち、移植療法において用いられる伝統的な量と比較して低量)という使用が可能になり、これによって患者に対してより低い毒性を提供する。
本発明はまた、単回用量の投与単位を生成するためのキットを提供する。本発明のキットは各々が、乾燥したタンパク質を有する第一の容器と、水性の処方物を有する第二の容器の両方を含んでもよい。本発明の特定の実施形態では、単一およびマルチチャンバのプレフィルドシリンジ(例えば、液体シリンジおよびライオシリンジ(lyosyringes))を含むキットが提供される。
文脈上他が必要でない限り、本明細書に用いられる単数形は、複数を包含するものであり、そして複数の用語は単数を包含するものとする。
以下の実施例は、行った実験および達成された結果を含んでおり、例示の目的のみで与えられるものであり、本発明の限定と解釈されるべきではない。
(実施例1:)
(好酸球生存に対するペプチド−プロリルイソメラーゼインヒビターの影響)
好酸球(Eos)は代表的には、正常な個体の血液に低レベル(PBMCの1〜2%)で存在し、約3日の寿命で迅速に交代する。喘息では、Eosは、肺に遊走して、そこではEosが気道および実質で見出され得る。活発な喘息では、Eosは、総気道免疫細胞の50%を含み得る。気管支肺胞洗浄液(BAL)によってEosを取り出した後、肺のEosは、顕著に長いインビトロ生存(>7日)を示し、これは、抗GM−CSF抗体で減弱され得る。これらの細胞はまた、呼吸バースト、サイトカイン発現およびプロスタグランジン放出を含む、全身性の活性化の証拠を示す。
肺好酸球増多症は、喘息のような病理学的条件に関連し、好酸球の数の増大およびこのような障害の活性状態に基づく。好酸球は、とりわけ、ヒアルロン酸によって活性化されることが公知であり、そして活性化の特徴のうちの1つはサイトカインGM−CSFの発現の増大である(Esnaultら、2002,Arch.Immunol.Ther.Exp(Warsz).50:121〜130)。自己分泌GM−CSF発現は次に、好酸球の生存を促進する。活性化はまた、分析的に容易に検出され得る、タンパク質リン酸化の変化に関する。GM−CSF発現および好酸球生存に対するヒアルロン酸(HA)活性化に関する機構を特徴付けるために、GM−CSF mRNA崩壊(decay)を測定した。これらの実験で、HA処置の数時間内のGM−CSFのmRNAは3倍を上回って安定であって、増大したサイトカインmRNA蓄積および最終的には分泌を説明することが示された。しかし、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)ERKは、PD98059で薬理学的に阻害され、GM−CSFのmRNAは蓄積できなかった。この影響は急速に生じ(インヒビターの添加の10〜30分内)、そしてGM−CSF mRNAは、HAで活性化された細胞よりも残りの細胞に特徴的な速度で破壊されたことが見出された。これらの影響は急速に生じ、このことは、ERK活性がGM−CSFのmRNA安定化に継続して必要であること、そしてGM−CSFのmRNAの崩壊におけるERK媒介性の変化は、崩壊プロセスに関与するかそれを調節するタンパク質のリン酸化における変化を反映した(なぜなら、新規なタンパク質合成には十分な時間がなかったからである)ことを示唆している。
それらのタンパク質の同一性は、2次元のゲル分析によるリン酸化タンパク質のパターンを、HA処理後とMAPK ERKインヒビターであるPD98059の存在下におけるHA処理後とで比較することによって決定された。このために、アレルギー性鼻炎または喘息を有する患者から静脈穿刺によって末梢血を得た;患者は、血液を採取した時点で症候性ではなかった。末梢血好酸球(Eos)は、EsnaultおよびMalter(2001,J.Immunol.166:4658〜96)に記載されるとおり、ネガティブな免疫磁性手順を用いて精製した。単離後、Eosをインビトロで、10%ウシ胎仔血清(Gibco Life Technologies,Grand Island,NY)および50μg/mlのゲンタマイシン(Gibco Life Technologies,Grand Island,NY)を含むRPMI1640培地(Gibco Life Technologies,Grand Island,NY)中で、37℃で5%CO2中で維持して、代謝的に標識して、100μg/mlのHAを含む培養条件下での処置(全部で約5時間、下を参照のこと)によって活性化した。Eosの生存度(1×106細胞/ml)を、血球計数器を用いてトリパンブルー染色によって評価して、処置の間に98%を超えて生きていたことが明らかになった。
複数のドナー由来のEosを、32P−オルトリン酸塩とともに1時間プレインキュベートして、HA単独で4時間、または4時間のHA処置後に30分のERKインヒビターPD98056とのインキュベーションによって処理した。各々の条件下で処置した約700μgのEos由来の細胞質タンパク質を、等電点電気泳動に、続いて8〜18%のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミド勾配ゲル(Amersham Pharmacia Biotech,Piscataway,NJ)中での分子量に基づく分離に供した。このゲルは最初にオートラジオグラフィーで分析し、ついでCoomassie G−250で染色した。増大または減少したリン酸化に相当する変更した32P含量を示すスポットを、MALDI−MSによって配列決定して、ゲル中のこれらの位置でのタンパク質の同一性を確認した。5つのタンパク質で、HA処理に関するリン酸化の有意な減少が示された(表1に示される)。
ペプチジル−プロリルイソメラーゼ(PPI)サイクロフィリンA(CYA)は特に注目すべきである。なぜならCYAインヒビター、シクロスポリンA(CSA)は、気管支生検におけるIL−2およびGM−CSF遺伝子発現ならびに好酸球蓄積に関与しているからである(SchreiberおよびCrabtree,1992,Immunol.Today 13:136〜42;Khanら,2000,Am.J.Respir.Crit.Care.Med.162:1377〜82)。PPIのシクロスポリンAおよびFK506結合タンパク質は、リン酸化したアミノ酸(例えば、プロリン残基の直前であるセリン、トレオニンまたは他のアミノ酸)でcis−trans異性化を触媒する。Pin1、哺乳動物のPPIaseファミリーの3番目のメンバーは、より大きい特異性を示し、プロリン(Pro)残基の直前のリン酸化セリンまたはトレオニン残基{Ser/Thr−Pro}の間のペプチド結合を異性化するだけである。Pin1は、NIMAおよびCdc25Cのようなタンパク質を標的すること、および異性化後、他のタンパク質とのそれらの相互作用を変更することによって真核生物の細胞周期を調整する。Pin1活性の非存在下では、細胞は細胞周期を通して進行できず、かつG
0期で蓄積する。
(実施例2:)
(GM−CSF放出、GM−CSFのmRNA安定化および細胞生存のために必要なPin1)
PPIaseインヒビターシクロスポリンA(CsA)は、気道細胞によるGM−CSFの発現に関与している(Kita,H.ら,1991,J.Exp Med.174:745〜748;Khan,L.N.ら,2000,Am.J.Respir.Crit.Care Med.162:1377〜1382)が、特異的であってかつ不可逆的なPin1インヒビターである(Henning,L.ら,1998,Biochemistry 37:5953〜5960)ジュグロンの影響は、未知である。分泌されたGM−CSFは、インビトロにおけるEos生存に必須であるので、ヒアルロン酸(HA)での活性化後のFK506、CsAおよびジュグロンの細胞依存性に対する影響を評価した。HAは、サイトカイン分泌においてGM−CSFのmRNA安定化の極致を生じる(Esnault,S.&Malter,J.S,2003,J.Immunol.171:6780〜6787)。
精製された末梢血Eosを、HA単独またはHAに加えて種々の濃度のCsA、ジュグロンまたはFK506(全て、Sigma Chemical Co.,St.Louis,MO)とともにインキュベートして、細胞生存度を4日で決定した。前の結果(Esnault,S.&Malter,J.S,2003,J.Immunol.171:6780〜6787)と一致して、コントロールである未処理のEosの生存は、5〜20%(ドナー次第)であって、これは、HA処理後に3〜5倍増大した(図1Aおよび図1B)。抗GM−CSF抗体(Santa Cruz Biotech,Santa Cruz,CAから入手)は生存の増強を完全に防止し(示さず)、このことは、HAがGM−CSF分泌を誘導したことを実証している。CsAは、ジュグロン(0.1または1.0μMで5%生存)と同様に、Eos細胞死を誘導した(16μMで約10%生存)(図1Aおよび図1B)が、FK506は影響を有さなかった。Eos死滅の機構は、ウエスタンブロッティングによって評価された。図1Cで示されたとおり、活性化カスパーゼ3(Santa Cruz Biotechから入手した抗体を用いて同定)が、未処理の培養物であるコントロールで検出されたが、HA処理後には存在しなかった。ジュグロンでの処理は、カスパーゼ3活性化を生じるHAの防御効果を拮抗した。従って、これらの結果は、HAが、GM−CSFの誘導を介して、カスパーゼ媒介性アポトーシスを妨げたことを示す。逆に、ジュグロンでのPin1の不活性化は、好酸球においてカスパーゼ3活性化およびアポトーシスを生じた。
この生存度の減少は、GM−CSF分泌の阻害、GM−CSFレセプターシグナル伝達の遮断またはGM−CSF非依存性機構を通じたアポトーシスの誘発を反映し得る。GM−CSF発現および活性の調節に関連する減少した好酸球生存の原因を検討するために、組み換えヒト(rh)GM−CSF(100pg/ml)を、種々の濃度のCsAおよびジュグロンの存在下でEos培養物に添加して、好酸球生存を培養の4日目に決定した。CsAは、HAまたはGM−CSFでの活性化にかかわらずEosアポトーシスを誘発した。対照的に、GM−CSFは、低濃度でジュグロンのアポトーシス促進効果を拮抗できた(0.1μM、図1Aおよび図1B)。これらのデータは、Pin1阻害がHA処理後のGM−CSF放出を妨げたことを示唆した。
この可能性を評価するために、GM−CSFのmRNAレベルを、RT/PCRサザンブロットハイブリダイゼーション実験によって測定した。これらの結果(図2Aおよび図2Bに示す)によって、HA処理は、1.6μMまたは16μMでCsAによって影響されない形で、2〜4倍までGM−CSFのmRNAのレベルを一貫して増大させたことが実証された。しかし、ジュグロン処理は、GM−CSFのmRNAを、用量依存性の様式で未処理のコントロールのレベルまで減少させた(図2Aおよび図2B)。これらのデータによって、Pin1はGM−CSFのmRNAの上方制御、サイトカイン分泌およびEos生存の増強に必要であったが、CsAは、非GM−CSF依存性機構を通じてEosアポトーシスを誘発したことが示唆された。
ジュグロンの効果が非特異的であることが依然として考えられた。ジュグロン処理の観察された効果のPin1特異性を実証するために、Eosに、N末端TATペネトラチンタグに融合されたPin1のWWドメインを形質導入した。WWドメインは、内因性Pin1活性をブロックすることによりドミナントネガティブとして機能する(Luら、2001,J.Biol.Chem.277:2381〜2384)。
これらの実験の結果は図2Cに示す。HAとともに添加された場合、TAT−ww−Pin1はGM−CSFのmRNAの上方制御を完全に妨げた(図2C)が、コントロール構築物(TAT−GFP)は影響を有さなかった。Eos生存は、TAT−ww−Pin1処理した培養物でのGM−CSFのmRNA豊富さと密接に平行し(図2D)、未処理の休止コントロールと識別できなかった。しかし、rhGM−CSFでのTAT−ww−Pin1処理培養物の増強は生存を完全に復帰させた(図2D)。これらの結果によって、Pin1活性は、HA誘発性GM−CSFのmRNA転写、および/または安定性に必要であったが、GM−CSF自体の抗アポトーシス効果には必要ではなかったことが示された。
HAまたはTNF−αに加えてフィブロネクチンでのEosの活性化は、GM−CSFのmRNA崩壊の速度を低下させることが以前に実証された(EsnaultおよびMalter,2003,J.Immunol.166:4658〜4663;EsnaultおよびMalter 2003,J.Immunol.171:6780〜6787)。この証拠およびジュグロン処理後のGM−CSFのmRNAクリアランスの急速な反応速度論を考慮して(図2B)、Eosは、転写インヒビターアクチノマイシンDの添加の前にHAまたはHAプラスジュグロンで活性化された。そしてGM−CSFのmRNA崩壊を、RT−PCRサザンブロット分析によって決定した。ジュグロンの非存在下(HA単独)では、GM−CSFのmRNAは、極めて安定であった(t1/2>80分)(図2E)。この安定性は、Pin1遮断後に4倍まで減少された(t1/2約21分)。これらの結果によって、Pin1が、HA媒介性GM−CSFのmRNA転写の活性化、そして制御されたサイトカイン分泌およびGM−CSFのmRNA崩壊を調節することによる細胞生存より「下流(downstream)」で作用したことが実証された。
(実施例3:)
(Pin1はAUF1に会合し、そしてジュグロン処理後に急速に分解される)
上記の実施例2に示される結果を考慮して、サイトカインmRNAの崩壊は、好酸球のHA活性化およびPin1のジュグロン不活性化の影響においてある役割を果たすことが証明された。新しいデータは、サイトカインmRNAの崩壊の制御におけるAU−リッチmRNA結合タンパク質(AREBP)を意味する:AREBPの安定化および不安定化の両方は規定されている(Carballoら,2000,Blood95:1891〜1899;Fanら、1998,EMBO J.17:3448〜3460;Capowskiら,2001,J.Immunol.167:5970〜5976)。AREBPのほとんどがリンタンパク質であり、その多くが潜在的なPin1認識部位(Ser/Thr−Pro)を含む(図6)。
従って、Pin1が、リン酸化依存性PPIase活性を通じた結合活性もしくはタンパク質/タンパク質相互作用の引き続く調整による、種々のAREBPとの物理的な相互作用を通じてGM−CSF崩壊を調節した可能性を検討した。このためにEos細胞質抽出物を、抗Pin1抗体(Gary Brewer,Robt Wood Johnson Medical School,NJから入手)を用い、続いて抗AREBP抗体でのイムノブロットによって免疫沈降させた。これらの結果を図3Aに示す。検出されたAREBPのうち、AUF1およびHuRは一貫して、Pin1で同時沈降された(ただし、後者はかろうじて検出可能であって、一方その他は、どの状況下でも検出されなかった)。AUF1の全ての4つのアイソフォーム(p45、p42、p40およびp37)は、p45およびp40においてのみ見出されるPin1異性化部位(Ser83−Pro84)の存在にかかわらずPin1で同時沈殿された(図3A)(Wilsonら、2003,J.Biol.Chem.278:33039〜33048)。RNaseの存在下または非存在下において免疫沈降されたPin1によって、p42およびp37 AUF1が、可能性としては他のAUF1アイソフォームを含む、タンパク質間の相互作用を介してPin1と会合したことが示されている。抗AUF1抗体での逆免疫沈降はまた、Pin1を沈殿させた。これらの観察によって、Pin1がGM−CSFまたは他のARE含有mRNAと独立した全てのAUF1アイソフォームと相互作用したことが示された。
次いで、AUF1とPin1との間の相互作用に対するHAおよびジュグロンの処理の影響を検査した。いくらか予想外に、HAは、各々のアイソフォームにおけるPin1結合部位の存在と一致して、細胞質Pin1の量にも、そのAUF1に対する結合にも影響を有さなかった(図3A)。しかし、ジュグロンは、p37アイソフォームの温存があったが、Pin1およびAUF1の両方のレベルを急速に減少させた(図3A)。実際、ジュグロンに対する120分の曝露によって、p45、p42およびp40ならびにPin1は、細胞質クリアランスの指標であるIPから本質的に消失した。TAT−wwPin1を用いる静止またはHA活性化Eosの形質導入は、Pin1にもAUF1にもレベルに影響を有さず、このことは、ジュグロンによるPin1の不可逆性の酵素阻害が、両方のタンパク質の分解を誘発したことを示唆している。
Pin1異化作用の細胞内部位は未知であるが、AUF1はプロテオソーム中で分解されることが公知であった。プロテオソームの分解は、極めて急速であって、ジュグロン処理後に観察されたPin1およびAUF1の損失の観察された反応速度論を説明し得る。この可能性に取り組むため、EosをプロテオソームインヒビターMG132(4時間)(Sigma)およびジュグロン(回収の10分前)に曝露して、溶解物をイムノブロットした。図3Cに示されるとおり、ジュグロン誘発性p45、p42およびp40AUF1分解は、MG132処理の際に完全にブロックされた。MG132濃度が高ければ、AUF1は、未処理の細胞で検出されたレベルよりも大きいレベルまで蓄積し、このことは、このタンパク質の正常な異化作用がプロテアソーム中で生じたことを示唆している。これらの条件下で、MG132はPin1分解を部分的にしか妨げず、このことは、Pi1が別の細胞のタンパク質分解性の系(単数または複数)を通じて分解されたことを示した。
定常状態のGM−CSFのmRNAレベル(図2A〜2Eおよび図3Dに示される)を、好酸球において分析し、そしてその結果によって、ジュグロンが、GM−CSFのmRNAにおけるHA媒介性の増大を拮抗したことが示された。上記に示されるデータに基いて(図2A〜図2E)、これは、加速されたGM−CSFのmRNA崩壊を反映する可能性が高い。しかし、MG132は、GM−CSFのmRNAのジュグロン誘発性の減少を拮抗した(図3D)が、細胞がMG132単独で処理された場合には、観察可能な影響はなかった。これらのデータは、AREのmRNA崩壊がプロテアソーム活性を要するという以前の観察と一致した(Laroiaら、2002,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.99:1842〜1846)。多くのmRNAの転写は、MG132での細胞の長期の処理によって影響されないので(Ciechanover,1998,EMBO J.17:7151〜7160)、GM−CSFのmRNAレベルの観察された増強はおそらく、GM−CSFのmRNA安定化を反映したと思われる。
(実施例4:)
(Pin1は、AREBPとGM−CSFのmRNAとの相互作用を調節した)
AUF1は、複数の細胞タイプにおけるGM−CSFのmRNAに結合することが示されている。逆説的に、結合は、AREのmRNAの安定化および不安定化の両方に関連している(Bhattacharyaら、1999,Nucleic Aicds Res.27:1464〜1472;Sarkarら、2003,Mol.Cell Biol.23:6685〜6693)。AUF1でのGM−CSFの分割は、HA活性化またはHAプラスPin1インヒビターの後に、休止しているEosにおいて評価した。抗AUF1免疫沈降ペレットのRT−PCR/サザンブロット分析は、HA処理後に劇的に減少された、休止期の細胞におけるAUF1と会合した細胞のGM−CSFのmRNAの実質的な割合を示した(図4A、右)。ジュグロン(10分、図4A、左)またはTAT−wwPin1に対する短時間の曝露は、GM−CSFのmRNAの定常状態レベルにほとんど影響を有さず(図4A、左)、ただし、GM−CSFのmRNAとAUF1との再会合を生じた(図4A、右)。ジュグロン(15〜30分)(図2B)に対する、またはTAT−wwPin1(30分)(図4B)に対するわずかに長い曝露は、AUF1に対して結合したGM−CSFのmRNAの量をさらに増大したが、定常状態のGM−CSFのmRNAの量は休止期の細胞においてみられる量に対して急速に減少した(示さず、そして図2Aおよび図2C)。まとめると、これらの観察によって、AUF1−GM−CSFのmRNA相互作用は、休止期の細胞における急速な崩壊を誘引したことが示唆された。HA媒介性の細胞活性化は、ただしPin1が酵素的に機能的な場合にのみ、この相互作用を防止し得た。この機構は、HAが、そのmRNA結合活性の損失とともにAUF1のPin1媒介性の異性化を誘発したという概念と一致する。
細胞質mRNAがタンパク質と会合する傾向を考慮して、HA処理後に別のタンパク質がAUF1を置き換えたか否かを決定するために実験を設計した。1つの可能性は、hnRNP Cであって、これは、Eos活性化後にGM−CSFのmRNAに対する結合の増大を示す(EsnaultおよびMalter,2003,J.Immunol.171:6780〜6787)。従って、細胞質抽出物の抗hnRNP C(Sigma)免疫沈降物を、RT−PCR/サザンブロットハイブリダイゼーション分析によってGM−CSFのmRNAについて検査した。以前の観察(Esnaultら、2003,J.Immunol.171:6780〜6787)と一致して、HA処理は、hnRNP Cに対するGM−CSFのmRNA結合の急速な増大を誘導した(図4B)。TAT−wwPin1との細胞のインキュベーションは、hnRNP Cと会合したGM−CSF mRNAを急速に減少させ、そしてAUF1とのGM−CSFのmRNA会合を増大した。HuRは存在したが、いずれの条件下でもGM−CSFのmRNAとは会合せず、そしてPin1およびAUF1の会合は、HA(図3A)によってもTAT−wwPin1によっても影響されなかった。さらに、hnRNP Cは、抗Pin1抗血清とは同時沈降しなかった。これらのデータによって、Pin1活性の非存在下では、休止期の細胞(Pin1は、リン酸化後に活性が少なくなる、図5A;Luら、2001,J.Biol.Chem.277:2381〜2384)またはTAT−wwPin1処理後でさえ、AUF1はhnRNP Cを置き換え、そしてGM−CSFのmRNAに結合し、その分解をもたらしたことが示唆された。HA処理後、このプロセスは逆転されて、GM−CSFのmRNA安定化が生じた。
(実施例5:)
HAは、AUF1およびPin1のリン酸化を変更した
タンパク質複合体からのGM−CSFのmRNAの損失(図4Aおよび図4B)にかかわらずPin1およびAUF1の会合はHAによって影響されなかった(図2A)ので、AUF1および/またはPin1が、HA媒介性のシグナル伝達によって改変されたとの仮説が立てられた。ホルボールエステル誘発p40 AUF1のSer83およびSer87の脱リン酸は、IL−1βおよびTNF−αのmRNAの安定化を伴っていた(Wilsonら、2003,J.Biol.Chem.278:33029〜33038)。従って、コントロールまたはHA処理Eosからの細胞質抽出物を、抗ホスホセリン、抗AUF1または抗Pin1抗体でイムノブロットした。休止期の細胞では、p45およびp40 AUF1は脱リン酸され、これは、HA処理によって一貫して増大され、そしてErkインヒビターであるPD98059によって部分的に拮抗された(図5)。HA処理は、イソメラーゼ活性を増大することが示されているPin1を再現性に脱リン酸した(Luら,2001,J.Biol.Chem.277:2381〜2384)。さらに、Pin1は、非リン酸化基質よりもpSer83−Proに対して1000倍を上回る活性を示した(Yaffeら、1997,Science 278:1957〜1960)。これらのデータによって、HAによって誘発された、Pin1およびAUF1の翻訳後改変の観察された組み合わせが、GM−CSFのmRNAへの結合の損失を伴うAUF1異性化を生じることが示唆された。
(実施例6)
(PBMCおよびT細胞におけるPin1およびサイトカインmRNAの調節)
上記のデータは明確に、活性化されたEosによるGM−CSFのmRNA安定性およびサイトカイン分泌の調節においてPin1が関与しているとみなし、これは喘息の病因に重要な洞察を提供した。これらの観察によって、Pin1が他の免疫細胞によって他のサイトカインの産生を制御し得ることが示唆された。従って末梢血単球(正常なドナーの瀉血によって得られた、約70%のT細胞、20%のB細胞、5〜10%のマクロファージ/単球)を、最適濃度の分裂促進因子(ホルボールエステル(20ng/ml)、およびPHA(40μg/ml)、両方ともSigma由来)とともにインキュベートして、サイトカインのmRNAのレベルを、ノーザンブロットまたはリアルタイムのRT/PCR(qPCR)およびELISAによるサイトカイン分泌によって測定した。血球は、培地中で希釈されたヘパリン処理全血から調製し、そしてPBMCは、記載されたとおり(Sedgwickら、2003,Am J Respir Cell Mol Biol.29:702〜9)Percoll勾配によって単離した。IL−2、IL−8、TNFα、IFNγおよびGM−CSFのmRNAを最初に評価した。なぜなら、これらのサイトカインは全てGM−CSFと3’UTR AU−リッチエレメントを共有するからである。IL−8を除いて、これらのmRNAは、ノーザンブロットによって休止期の細胞では検出不能であった(図7)。しかし、分裂促進因子刺激の4時間内にサイトカイン発現は劇的に増大した。対照的に、PBMCが、1μMのジュグロンの存在下で分裂促進的に刺激された場合、サイトカインのmRNA蓄積はほぼ完全にブロックされ(図7、図8)、一方、刺激の2時間後のジュグロン処理は、部分的な効果を有した(図9)。qPCR分析によって、4時間内に1000倍〜5000倍まで増大されたサイトカインmRNAは代表的には、ジュグロン処理によって65〜90%まで抑制された(図8、図9)。ELISA(図10)は、Pin1阻害後にサイトカイン放出において比例的な減少を示し、これによって、サイトカイン合成のためのmRNA蓄積の重要性が実証された。
Pin1阻害およびジュグロンによって非特異的に影響される非二次事象が上記のmRNA蓄積を担っていたことを確認するため、PBMCをPMA/PHA活性化と同時にTAT−wwPin1とともにインキュベートした。TAT−GFPで処理したコントロール細胞に比較して、サイトカインのmRNAレベルは50〜60%まで減少された(図11)。従って、Pin1活性は、PBMCのPMA/PHA刺激後の複数のサイトカインmRNAの蓄積に必要であった。
より生理学的なアゴニストの効果を評価して、それがPin1遮断によって同様に阻害され得るか否かを決定した。PBMCを抗CD3および抗CD28抗体とともに、ジュグロンとともに(またはジュグロンなしで)4時間インキュベートして、その後に回収およびqPCRを行なった。PMA/PHAでみられるとおり、Pin1阻害は、サイトカインmRNA蓄積および分泌を防止し(図9)、そしてTAT−wwPin1をジュグロンの代わりに用いた場合、同様のデータが得られた。従って、Pin1は、重要な中間体であって、これはT細胞レセプターおよびCD28同時刺激シグナル伝達を調整し、その活性は、サイトカインmRNA蓄積および活性化された免疫細胞からのサイトカイン放出のために必要であった。
好酸球での上記のデータに基いて、Pin1遮断は、サイトカインのmRNAを不安定化させたという仮説がされた。従って、PBMCは、分裂促進的な抗体およびTAT−wwpin1またはTAT−GFPとともに4時間インキュベートした。その時点で、アクチノマイシンD(actD,Sigma)を添加して、qPCRによって測定される、さらなる転写およびGM−CSFのmRNA崩壊をブロックした。示されるとおり(図12)、GM−CSFのmRNAは、TAT−GFPとともに(またはTAT−GFPなしで)分裂促進性の刺激後にPBMCにおいて極めて安定であった。非刺激細胞において、GM−CSFのmRNAは極めて不安定であった。分裂促進因子プラスTAT−ww−Pin1とともにインキュベートした細胞は、刺激されていないコントロールに近い急速なGM−CSFのmRNA崩壊を示した。従って、好酸球においてと同様に、Pin1は、PBMCによるサイトカインmRNAの活性依存性の安定化を調節する。
PBMCは、異種であるので、この細胞集団は、ネガティブ選択によってT細胞に分画した(Sedgwickら、2003,Am J Respir Cell Mol Biol.29:702〜9に記載されるとおり)。代表的には、これによって、98%を上回る純度のCD3陽性細胞の培養物を生じた。次いで、これらを抗CD3および抗CD28抗体(Santa Cruz Biotechから入手)で活性化し、そしてサイトカイン遺伝子発現に対するPin1遮断の効果をqPCRによって評価した。示されるとおり(図13)、精製されたT細胞は、抗CD3/抗CD28処理の後の強力な活性化を示し、そして4時間までGM−CSFのmRNAレベルにおける1500〜5000倍の増大を有した。抗体とともに添加したジュグロン(1μM)は、GM−CSFのmRNAを80〜95%まで減少させた。PI/アネキシン染色およびフローサイトメトリーに基づいて、活性化T細胞は、活性化されなかった細胞と等価の生存度を示した。
T細胞活性化および遊走に関するサイトカインmRNAを含むAREの蓄積はまた、脾細胞においてリアルタイムPCRによって検査した。バルクのラット脾細胞を、以下のように、インビトロにおいてイオノマイシン/PMA(I/P)またはI/Pに加えて種々の濃度のジュグロンで活性化させた。正常なWYKラット由来の5×105個の脾細胞を、48時間、イオノマイシンなし、またはイオノマイシンに加えてPMA(I/P)で、ジュグロンなし、またはジュグロン1μM(I/P/J1)と、またはジュグロン0.1μM(I/P/J0.1)とともに培養した。IL−2(2ng/ml)をまた、示された培養物に対して24時間後に添加した。48時間後、その培養物にさらに、BrdU、ジュグロン(1または0.1μM)およびIL−2(2ng/ml)を示されたとおり補充した。その増殖は、製造業者(Amersham,Piscataway,NJ)によって推奨されたとおり、比色定量アッセイ(450nm)によって、5’−ブロモ−2’−デオキシウリジン(BrdU)との18時間のインキュベーション後にモニターした。
期待どおり、休止期の細胞は、低レベルのIFN−γ、IL−2、TNF−αおよびTGF−βのmRNAを発現した(図14A)。I/Pの4時間後、サイトカインのmRNAは、2倍(TGF−β)〜500倍(IL−2およびIFN−γ)程度まで増大した。ジュグロン(1μM)はI/P誘発性IFN−γおよびIL−2のmRNAの蓄積を完全にブロックし、TNF−αのmRNAのレベルを有意に減少させ、そしてTGF−βおよびCXCL−10のmRNAを休止期のレベル未満に減少させた。ジュグロン濃度(0.1μM)が低いほど、IFN−γのmRNAの蓄積のみが有意に阻害され、一方でIL−2、TNF−α、CXCL−10(IP−10)およびTGF−βのmRNAはI/P活性化細胞から大きく変化しなかった。これらのデータによって、Pin1阻害に対するかなりの感度が示唆されたが、Pin1は、休止期のまたは活性化されたラット脾細胞による多様なサイトカインmRNAの生成を調節したことが確認された。
サイトカイン同化作用は、以下のように、コントロール、活性化またはジュグロン処理活性化脾細胞によって測定された。脾細胞によるIFNγ分泌は、製造業者によって記載されるとおりELISPOT(R&D Systems,Minneapolis,MN)によって評価した。細胞の三連の連続希釈物をPMA(10ng/ml)に加えてイオノマイシン(1μM)とともに48時間培養した。BAL液中のIFN−γおよびIL−2の濃度は、ELISAキット(R&D Systems)を用いて決定した。
定常状態のmRNAレベルと一致して、ジュグロン処理したI/P刺激された脾臓細胞によるIFN−γおよびIL−2分泌における劇的な減少が、ELISAによって明らかになった。mRNAについてと同様、サイトカイン分泌は、1μMでの最大効果を有する、ジュグロンに対する用量依存性の応答を示した(図14B)。サイトカインを生成することができないことは、細胞死の機能ではなかった。なぜなら等価なレベルのアポトーシスが、I/P対I/P/ジュグロン処理脾細胞で観察されたからであった(図14C)。BrdU取り込みに基づいて、ジュグロン(1μM)は、外因性のIL−2の添加に関わらず、DNA合成を効率的に抑制した(図14D)。従って、Pin1遮断は、増殖および活性化されたラット脾細胞による炎症促進性サイトカインの同化作用を抑制した。
(実施例7)
(肺移植片拒絶におけるPin1の役割)
サイトカイン同化作用に必要な重要なシグナル伝達分子としてPin1の同定によって、これは器官移植の状況での免疫抑制の価値のある標的であり得ることが示唆された。従って、クラスIのHLAがミスマッチであるラットへの同所性肺同種移植の拒絶を妨げるPin1の阻害の能力を試験した。これは、十分確立されたげっ歯類モデルであって、F344ラットの全体的な左肺は、レシピエントのWKYラットにおいてカフを介して移植および再結合された(Mizobuchiら、2004,J Heart Lung Transplant.23:889〜93)。従って、この移植物を、換気してかつ血管移植したが、内在性の右肺はレシピエントに残った。免疫抑制の非存在下では、器官は、3〜4日内に極めて急速かつ顕著な拒絶を受けた(R.Braun,UW Dept of Surgery,私信)。3日後までに、外面は、かなり出血性であって、容積が減少し、そして組織病理学的な検査によって、PMN、リンパ球およびマクロファージから構成される集中的な細胞浸潤、肺胞の閉塞および線維症が示された。
ジュグロンがこのモデルの系において移植された肺組織になんらかの影響を有したか否かを決定するために、動物に手術の日およびそれに続く各々の日に、1mg/kgのジュグロンをIPで投与した(注射の直前に生理食塩水中で1×に希釈した、エタノールまたはクロロホルム中へ10〜20×に溶解)。いくつかの実験では、用量を分割して、1日あたり2回送達した。8日目、動物を屠殺して、気管支肺胞洗浄(BAL)を、両方の肺で行い、続いて固定のために4%ホルマリンを浸透させた。2日後、切片をパラフィン包埋ブロックから切り出して、H&Eで染色した。脾臓および末梢血を含む他の器官も回収した。図15に示されるとおり、8日目に分析したコントロールの移植片は、大量の炎症性細胞浸潤、壊死および完全な肺胞の損失および線維性瘢痕を伴う典型的な拒絶を示した。ジュグロン処理動物は、一貫しておりかつ再現性の肺温存を示した(図16)。ジュグロン処理動物由来の肺組織における肺胞は大部分インタクトであった(ただし、マクロファージである可能性が高い、偶発的な大型の丸い細胞が小さい空隙で観察された)。血管周囲および気管支周囲のリンパ凝集物はまた、ジュグロン処理動物由来の組織に存在したが、好中球は、ほとんど存在せず、そして炎症は、肺胞へは進行しなかった。ジュグロンを投与された8匹の移植ラットのうち6匹で実質的に同一なデータが得られた;2匹の失敗例は、これらの研究では初期であって、薬物不溶性を反映する可能性が高い。これらのデータによって、Pin1は移植拒絶に必要であったことが初めて実証され、そしてこのPPIaseが免疫抑制のための代替的な治療標的として示唆された。Pin1はシクロスポリン(cyclophilin)であるが、これは、カルシニュリンとは相互作用せず(シクロスポリンAと同様である)、これによってCsAおよびPin1遮断が相加的または相乗的であり得ることが可能になる。
次に、コントロールとジュグロン処理移植レシピエントとの間の免疫学的な変化を分析した。Pin1阻害の1週間後、末梢血CD4+、CD8+細胞およびγ/δリンパ球の絶対的なカウントおよび比は、大きく影響されなかった。コントロール対未処理の動物から回収した脾細胞(移植の8日後)をPMA(20ng/ml)およびイオノマイシン(1μM)の最適濃度で刺激して、IL−2およびIFN−γ発現についてElispotによって分析した。示されるとおり(図17)、これらのサイトカインを発現する細胞の数は、約60〜70%まで有意に減少した。脾臓全体上に対するRT−PCR分析は、Elispotデータ(図18)と一致して、TNF−α、IL−2およびIFNγのmRNAレベルにおける有意な変化を示した。処置した動物由来のBALは、未処理のコントロールよりも50%少ない総細胞を示したが、絶対数は、非移植の対側の肺における数を上回ったままだった。ジュグロン処理動物由来の肺のIL−2およびIFN−γについてのRT−PCRによって、非処理コントロールと比較して約35%というIL−2およびIFN−γのmRNAが示された。これらのデータは、Pin1遮断にかかわらず、ある程度の炎症が生じたことを示唆した。これは、寛容化の応答、または抑制性の応答であり得る(すなわち、これは、CD8+サプレッサーまたは制御性T細胞から構成される)。これらの結果によって、Pin1の遮断が、同種免疫応答および免疫細胞活性化に関連する状態、ならびに引き続く組織傷害での補充を妨げたこと、従って、Pin1不活性化が免疫抑制治療の標的であったことが示された。
(Pin1阻害は、急性および慢性の拒絶を妨げた)
Pin1によって調節されたサイトカインおよびケモカインは、器官移植後の免疫学的および病理学的事象に広範に関連している。さらに、Pin1は、CyAおよびFKBP12も含むPPIaseファミリーの酵素のメンバーである。それぞれ、シクロスポリンAおよびFK506でのこれらのサイクロフィリンでの妨害は、器官移植後の臨床的な免疫抑制の現在の頼みの綱であるので、本発明者らは、Pin1遮断が臓器拒絶に同様の影響を有したか否かを評価した。本発明者らは、広範に使用されておりかつ強力に免疫原性のラット同所性の、単一左肺移植モデルを用いた(Haqueら、2002,J.Immunol.169:1542〜1549;Sekineら、1997,J.Immunol.159:4084〜4093)。ドナーの器官は、正常な機能を可能にするレシピエントの気管支および脈管系に対してカフを介して付着される。レシピエント(WKY)は、ドナー(F344)とはクラスIのMHC抗原で異なる。従って、非免疫抑制動物は、数日内の顕著な急性拒絶、および肺胞、胸膜および気管支周囲のコラーゲン沈着、生存可能な肺細胞の損失および最終的な器官の損失を1〜2週内に伴う慢性拒絶を経験する。
肺移植拒絶に対する1mg/kgのジュグロンの毎日の単回腹腔内(IP)注射の効果を評価した。左肺の同所性の移植は、カフ技術を用いて以前に報告されたとおり行った(Mizutaら、1991,J.Thorac.Cardiovasc.Surg.102:159〜160;Mizutaら,1989,J.Thorac.Cardiovasc.Surg.97:578〜581)。要するに、ラットをイソフルランおよび酸素の混合物の吸入によって麻酔して、挿管して、イソフルランおよび酸素の混合物で換気して、麻酔を維持した。そのドナーラットを仰臥位において、心臓および肺をひとまとめに取り出した。左肺を切除して、肺静脈、気管支および肺動脈を、テフロン(登録商標)カフを通過させて、近位端をカフを越えて裏返した。レシピエントのラットでは左開胸術を行った。ドナーの肺静脈、気管支および肺動脈を、対応するレシピエントの臍の構造に挿入して、絹の独立円周の結紮術(separate circumferential ligatures)で固定した。胸壁を閉じて、イソフルランを停止した。
ジュグロンを、エタノールに溶解して、5mlの生理食塩水に希釈した。コントロールの動物には、5mlの生理食塩水に溶解しただけのエタノールを与えた。処理は、移植の日に開始した。7日目または14日目に、動物を屠殺して、肺を肉眼で、そして組織病理学によって評価した。未処理の動物では、移植片は視覚的に縮小しており、そして胸膜の表面は出血性であった(図19A)。触診によって、固くかつ曲がらない一貫性が明らかになった。ジュグロン処理した動物は、拒絶の全体的な徴候を示さず(図19D)、そして移植された肺は対側のコントロールとは識別不能であった。顕微鏡的に、未処理の移植肺は、好中球、リンパ球およびマクロファージから主になる急性の炎症性細胞浸潤をともなう重度の拒絶を示した。肺胞構造は全体的に削除され、そして小気道は炎症性細胞でパックされた(図19B)。これらの変化は、ジュグロン処理動物中に全く存在せず、これは、正常な肺胞構造、胸膜の厚みおよび気道開通性を示した(図19E)。
偶発性の丸いマクロファージが、いくつかの肺胞に存在した。同一のデータが10の処理動物のうち8匹で観察された。2つの失敗例はこのシリーズにおいて早期であって、薬物溶解度の問題を示す可能性が高かった。BAL液の分析によって、コントロール動物に比較してジュグロン処理動物に存在する全部の細胞の有意に減少した数(p<0.05)が示された。天然の右肺由来のBAL液における、または移植された左肺におけるCD4、CD8またはγδT細胞の相対的な割合では有意な相違は見出されず、これは、主にCD4+T細胞を示すコラーゲンV寛容化動物とは対照的であった。これらのデータによって、Pin1遮断は急性の移植片拒絶を劇的に減弱することが実証された。
未処理のコントロールの組織病理学的分析によって、肺胞、気管支周囲および胸膜のコラーゲンの沈着が明らかになった(図19C)。肺胞空間は、類線維素物質で満たされ、生きた肺細胞の完全な損失があった。胸膜は顕著に線維性であって、代表的には、その正常な厚みを20倍上回り、増殖性の線維芽細胞が明確に視認できた。しかし、ジュグロン処理した動物は、肺胞壁内または気管支周囲に最小限のコラーゲン沈着、生存肺細胞の維持および概して正常な構造を示した(図19F)。従って、Pin1阻害は、コラーゲン沈着および慢性移植片拒絶でみられたものに匹敵する肺の喪失を防止した。
BALおよび縦隔リンパ節の細胞におけるPin1活性は、以下のとおり移植後7日で検査した。活性は、Shenら、2005,Nature Immunol.12:1280〜7に記載されるように測定した。リンパ節、脾臓および気管支肺胞洗浄液由来の白血球を、50mMのHEPESおよび100mMのNaClを含有する緩衝液、pH7.0中で凍結融解サイクルを繰り返すことによって溶解した。総タンパク質(10μl中に10μg)を、2mMのジチオトレイトールおよび0.04mg/mlのBSAを補充した70μlのHEPES−NaCl緩衝液と混合した。次いで、5μlのα−キモトリプシン(60μg/μlを0.001NのHCl中に含有)を添加して、徹底的に混合した。最終的にジメチルスルホキシドに溶解し、480mMのLiClおよびトリフルオロエタノール中で100μg/mlの濃度でプレインキュベートした5μlのテトラペプチド基質Suc−Ala−Glu−Pro−Phe−pNa(配列番号1);Peptides International,Louisville,Kentucky)を添加した。390nmでの吸光度を、Beckman Coulter DU800分光光度計を用いて30分にわたって測定した。
シスからトランスへの異性化後、末端4−ニトロアニリド基は、キモトリプシンによって切断して、390nmでの吸光度によって検出し得る。移植された左肺由来のBAL細胞におけるPin1活性は、ジュグロン処置ラットでは有意に減少した(図20A)。これらの細胞の溶解物へのジュグロンの添加は、Pin1活性にさらなる影響を有さず、このことは最大のインビボ抑制を示した。Pin1活性は、未処理のコントロールBAL細胞では有意に上昇した。イソメラーゼ活性は、ジュグロンの添加によって処理動物由来の溶解物中で見られたよりもインビトロで減少され得る。同様に、ジュグロン処理動物由来の縦隔リンパ節細胞は、Pin1活性を示さなかったが、コントロール動物は、実質的な上昇を示し、これはやはり、インビトロでジュグロンによってブロックされ得る(図20B)。従って、MHC不適合の移植は、反応性の免疫細胞においてPin1活性の上昇を誘発した。これらの変化は、ジュグロンのインビボ投与によって妨げられ得る。
Pin1タンパク質レベルは、抗Pin1イムノブロット分析によって処理動物対コントロール動物の縦隔リンパ節で分析した。予想どおり、ジュグロン処理動物は、コントロールの動物に比較して縦隔リンパ節においてかなり減少したPin1タンパク質を示した(図20C)。これらの同じ動物の脾臓におけるPin1のレベルおよび活性は、コントロールとジュグロン処理動物との間で相違せず、このことは、不適合の移植片を排出する最も近位のリンパ節中で最大であった、区画化された免疫応答を示唆している。
(IFN−γおよびCXCL−10は、Pin1阻害後に減少した)
IFN−γおよびIL−2のレベルを、上記のとおり、移植1週間後の動物で測定した。ELISAによるBAL液の分析では、IFN−γの高度に有意な減少(図21)およびIL−2濃度のほぼ有意な減少(図21)を示した。これらのデータによって、Pin1ブロックが、BAL液内の主な集団であったT細胞によるサイトカイン産生を妨げたことが示唆された。
次いで、縦隔リンパ節細胞をqPCRによってサイトカインmRNAの発現について分析した。IFN−γ、IL−2、CXCL−10およびTNF−αをコードするmRNAは、コントロールよりもジュグロン処理動物で有意に低かったが、IL−4およびTGF−β1は影響されなかった(図22A)。これらのデータによって、Pin1は、サイトカインのmRNAのサブセットの調節に関与することが示唆された。注目すべきことに、IFN−γ、IL−2、CXCL−10およびTNF−αの全てが3’非翻訳領域(3’UTR)AREを含み、休止期の細胞で急速に分解され、そして実質的な活性依存性の安定化を示す。IL−4のmRNAはまた、AU−リッチエレメントを含むが、これは局所的に高度に発現され、そして休止期の細胞では比較的安定である。TGF−β1のmRNAは、複数のAREを欠き、そして代表的には休止期の細胞では緩徐に崩壊する。
線維芽細胞におけるTGF−β1シグナル伝達がPin1に依存するか否かを決定するために、培養した肺線維芽細胞をTGF−β1で刺激した。初代肺線維芽細胞は、Clonetics(Cambrex BioScience,Baltimore,MD)から入手し、そして製造業者によって記載されるとおり培養した。4継代細胞を、80%コンフルエンスまで増殖させ、血清枯渇培地に48時間移して、その後にTGFβ(1ng/ml)を用いて4時間、ジュグロンとともに(またはジュグロンなしで)刺激した。細胞を溶解して、コラーゲンIII発現のRT−qPCR分析のためにRNAを単離した。示されるとおり(図22D)、刺激された線維芽細胞は、コラーゲンIおよびIIIのmRNAの実質的な増大を示し、これは、ジュグロンの濃度の増大によって用量依存性の方式で減少された。従って、TGF−β1のレベルの上昇にかかわらず、肺線維芽細胞によるコラーゲン産生は、Pin1阻害によってブロックされた。
ジュグロン処理動物における脾細胞由来のサイトカインmRNAも検査した。製造業者によって記載されるとおりに用いたELISPOT(R&D Systems)に基づいて、活性化脾臓細胞によるIFN−γおよびIL−2の産生は、ジュグロン処理動物において有意に減少された(図22C)。QPCRによって、IFN−γおよびCXCL−10のmRNAが有意に減少されたが、IL−2、TNF−αおよびIL−4のmRNAの発現はコントロールと変化しなかったことが明らかになった(図22B)。従って、Pin1阻害は脾臓、BALおよび縦隔リンパ節においてIFN−γおよびCXCL−10のmRNAを選択的に減少した。
(IFN−γおよびCXCL−10の過剰発現は、Pin1遮断を克服して拒絶を誘発した)
図21および図22に示された結果によって、Pin1は、活性化された縦隔リンパ節およびBAL免疫細胞によるIFN−γおよびCXCL−10の誘導に必要であったことが実証された。関連性の役割ではなく原因を実証するために、IFN−γおよびCXCL−10発現ベクターを組み合わせて、レシピエントにおける再結紮の直前にドナー肺へ吹き込んだ。潜在的なPin1媒介性の転写後調節を回避するために、3’UTRなしのコード領域のみを、構成的に活性なCMVプロモーターの下流に挿入した。pcDNA1(InVitrogen Corp.,Carlsbad,CA)をXbaIおよびXhoI部位で開いて、IFN−γおよびCXCL−10のコード領域をコードするPCR生成物を、標準的な方法を用いる付着末端ライゲーションを介して挿入した。推定上のクローンを配列決定して、全長インサートが適切な方向で存在することを確認した。増幅後、プラスミドを沈殿させ、洗浄し、そして無菌のTris−HCl/EDTA(TE)中で1mg/mlに再懸濁して、100μlを吹き込みに用いた。
次いで、拒絶に対する肺IFN−γおよびCXCL−10発現の効果を検査した。移植後1週間までに、肺移植片は、未処理のコントロール中で顕著な拒絶を受け(図19A、図19B)、これは、ジュグロンによって妨げられた(図19B、図19D)。IFN−γおよびCXCL−10の強制的な発現によってPin1遮断にかかわらず重度の細胞浸潤が生じた(図23Aおよび図23B対、図23Cおよび図23D)。トランスジェニックサイトカインは、未処理のレシピエントでみられたレベルに匹敵するレベルでBAL中で検出可能であった。これらの結果によって、急性拒絶のプロセスにおけるIFN−γおよびCXCL−10の中心的な役割が支持され、そしてPin1阻害後のサイトカイン抑制は部分的に、移植片温存を担うことが示唆された。
(ジュグロンおよびシクロスポリンAは、相加効果を示した)
組み合わせたシクロスポリンA(CsA)およびジュグロン療法が相加的であるか、または相乗的であるかを決定するために、以下の実験を行なった。ジュグロンを100%エタノール中に14mM(2.44mg/ml)に溶解した。注射のために、この溶液の100〜150μl(動物の体重次第)を、5mlの生理食塩水に希釈して、30分内に腹腔内に注射した。最適以下の投与のために、この溶液の10〜25μlを注射した。コントロールの動物には、5mlの生理食塩水に含まれる100%エタノールの体重に対し適切な容積(それぞれ、100〜150μl;10〜25μl)を投与した。CsAを、100%のエタノール中に25mg/mlで溶解した。注射のために、この溶液の10〜25μl(動物の体重次第)を、5mlの生理食塩水に希釈して、移植前および2日後に注射した。
CsAは、0.1mg/kgのジュグロンと一緒に1mg/kgの用量で3日間腹腔内に注射し、次いでこれをさらに4日間、単独で継続した。シクロスポリンは通常、25mg/kg/日で3日間用い、これで、ラットにおいて長期に生存する肺移植片受け入れを誘導するが、5mg/kg/日の用量では中度〜重度の拒絶が観察された(Pierogら、2005,Eur.J.Cardiothorac.Surg.27:1030〜1035)。CsA単独(1mg/kg/日)で処置した移植された動物は、中度の移植片変色を示した(図24A)が、顕微鏡的に重篤な細胞浸潤は、実質全体に拡散しており、気管支周囲および血管周囲の領域に病変があった(図24A)。同様に、Pin1の最適以下の阻害は、重篤な拒絶の症状をもたらし、実質的な細胞浸潤および出血をともなった(図24B)。対照的に、CsAおよびジュグロンの併用の最適以下の処置では、同定可能な細胞浸潤のない優れた移植片防御が得られた(図24C)。これらのデータによって、Pin1およびカルシニュリンの併用阻害は相加的または相乗的であったことが示され、そしてCsAの投与量は、Pin1阻害が治療レジメンに添加された場合には減少され得ることが示唆された。
前述の開示は、本発明の特定の特異的な実施形態を強調していること、そしてそれに等価な全ての改変および代替は、添付の特許請求の範囲に示されるとおり本発明の趣旨および範囲内であることが理解されるべきである。