配列リスト
本出願の配列リストは、印刷された紙コピーの代わりに、コンパクトディスクに記録されて提出された。ディスクは2006年9月1日に記録され、CRF“COPY1,”“COPY2,”及び“COPY3,”と表示される。各ディスクは、“0.525PCT.APP”という名称の1.68MBファイルのみを含む。このファイルの全体を参照することにより本出願に含める。
技術分野
本発明は、一般に、ウィルス感染の治療及び予防分野に関する。本発明は更に、RNA干渉(RNAi)、具体的には、抗ウィルスsiRNA及びshRNAの使用分野に関する。
発明の背景
RNA干渉(RNAi)は、植物及び動物において広く認められる遺伝子調節機構であり、この機構では、標的mRNAが、配列特異的やり方で分解される(Sharp,P.A.、Genes Dev.15,485−490(2001);Hutvagner,G.& Zamore,P.D.、Curr.Opin.Genet.Dev.12,225−232(2002);Fire,A.,et al.,Nature 391,806−811(1998);Zamore,P.,et al.,Cell 101,25−33(2000))。標的mRNAは、宿主のmRNAであってもよいし、或いは、宿主の病原体、例えば、ウィルス病原体のmRNAであってもよい。
病原性ウィルス伝染病は、世界的に最も広く蔓延する伝染病の内のいくつかを占める。このようなウィルスの一族がインフルエンザファミリーである。1918年のインフルエンザAウィルスの大流行では、推定2千万から4千万人の人々が亡くなっている。アメリカ合衆国においても、毎年、2万から4万の人々が、インフルエンザAウィルス感染、又はその合併症で亡くなっている。流行期には、インフルエンザ関連の入院患者の数は、一回の冬時期に3万を超す場合がある。インフルエンザウィルス感染に対して優れた治療はなく、既存のワクチンの価値は限られている。これは、一部は、抗原シフト及びドリフトという性質のためである。ヒト及び他の動物に対して病原となる他のいくつかのウィルスについても、その治療又は予防は同様の困難に直面している。
天然のRNA分解過程は、dsRNA特異的エンドヌクレアーゼであるダイサーによって開始される。ダイサーは、小型干渉性RNA(siRNA)と呼ばれる、21から25ヌクレオチド長の二本鎖に、長いdsRNA前駆体を変換する、進行的切断を促進する(Zamore,P.,et al.,Cell 101,25−33(2000);Elbashir,S.M.,et al.,Genes Dev.15,188−200(2001);Hammond,S.M.,et al.,Nature 404,293−296(2000);Bernstein,E.,et al.,Nature 409,363−366(2001))。siRNAは、標的mRNAを認識し、切断する大型のタンパク複合体に組み込まれる(Nykanen,A.,et al.,Cell 107,309−321(2001))。哺乳類細胞にdsRNAを導入しても、効率的な、ダイサー介在siRNAの産生をもたらさず、従ってRNAiを誘発しないことが、一つの研究グループによって報告されている(Caplen,N.J.,et al.,Gene 252,95−105(2000);Ui−Tei,K.,et al.,FEBS Lett.479,79−82(2000))。細胞におけるsiRNAの熟成にダイサーが必要であるという要件は、合成ポリヌクレオチドsiRNA二本鎖(例えば、21ヌクレオチド配列)を導入することによって回避することが可能であり、この合成siRNAは、種々の哺乳類細胞においてトランスフェクト遺伝子及び内因性遺伝子の発現を抑制する(Elbashir,et al.,Nature 411:494−498(2001))。
発明の概要
本発明の上記及び他の目的、利点、及び特徴は、下記に更に詳述される、本発明の詳細を読むことによって当業者には明白となろう。ある範囲の値が提示される場合、文脈が明らかに別様に指示しない限り、その範囲の上限と下限の間の、各中間値も、下限単位の10分の1まで特異的に開示されるものと理解しなければならない。任意の言及値の間のより小さい各値、或いは、言及範囲の中の中間値、及び、該言及範囲おける、他の任意の言及又は中間値も、本発明の範囲に含まれる。これらより小さい範囲の上限及び下限も、それぞれ独立に該範囲に含めてもよいし、除外してもよく、且つ、より小さい範囲に含まれる限界の内のどちらか一方、又は、その両方とも含まれる、或いは、その両方とも含まれない各範囲も、本発明に含まれ、前記範囲の特異的に除外された限界にも従う。言及範囲が、限界の一方、又は両方を含む場合、これら含められた限界の一方、又は両方を除外する範囲も本発明の中に含まれる。
本発明の一つの態様は、呼吸器ウィルスの転写体を標的とするRNAi誘発性実体であり、前記RNAi誘発性実体は、約15から約60のヌクレオチド長であり、ウィルスタンパクをコードする核酸の一部に対して少なくとも約84%相同である第1核酸配列と;第1核酸部分に対して少なくとも84%相補的である第2核酸配列と;を具える。
本発明の一つの実施例では、RNAi誘発性実体は、約15から約40のヌクレオチド長であり、ウィルスタンパクをコードする核酸の一部に対して少なくとも約89%相同である第1核酸配列と;第1核酸部分に対して少なくとも89%相補的である第2核酸配列と;を具える。本発明の別の実施例では、RNAi誘発性実体は、約15と約40の間のヌクレオチド長を持ち、ウィルスタンパクをコードする核酸の一部に対し少なくとも約94%相同である第1核酸配列;及び、第1核酸部分に対して少なくとも94%相補的である第2核酸配列を具える。別の実施例では、RNAi誘発性実体は、siRNA又はshRNAである。本発明の別の実施例では、核酸は、3′オーバーハングを具える。関連実施例では、オーバーハングは、デオキシチミジンを具える。本発明の別の実施例では、ウィルスタンパクは、ヒト呼吸器合胞体ウィルス、ヒト・メタニューモウィルス、ヒト・パラインフルエンザウィルス1、ヒト・パラインフルエンザウィルス2、ヒト・パラインフルエンザウィルス3、ヒト・パラインフルエンザウィルス4a、ヒト・パラインフルエンザウィルス4b、ライノウィルス、及びインフルエンザウィルスからなる群より選択されるウィルスから得られる。本発明の別の実施例では、ウィルスタンパクは、呼吸器ウィルスタンパクである。本発明の別の実施例では、ウィルスタンパクは、インフルエンザウィルスタンパクである。本発明の別の実施例では、RNAi誘発性実体はshRNAであり、更に、ヘアピンループ構造体を形成する第3核酸配列を具える。関連実施例では、ヘアピンループ構造体は、4から11のヌクレオチドを具える。
本発明の別の態様は、約16から約35のヌクレオチド長である分離核酸配列で、該核酸配列は、ウィルスタンパクをコードするウィルス核酸配列の一部、又はその相補体に対し、その長さにそって少なくとも約85%同一である。本発明のある実施例では、ウィルスタンパクは、ヒト呼吸器合胞体ウィルス、ヒト・メタニューモウィルス、ヒト・パラインフルエンザウィルス1、ヒト・パラインフルエンザウィルス2、ヒト・パラインフルエンザウィルス3、ヒト・パラインフルエンザウィルス4a、ヒト・パラインフルエンザウィルス4b、ライノウィルス、及びインフルエンザウィルスからなる群より選択されるウィルスから得られる。本発明の別の実施例では、ウィルスタンパクは、呼吸器ウィルスタンパクである。本発明の別の実施例では、ウィルスタンパクは、インフルエンザウィルスタンパクである。
本発明の別の態様は、インフルエンザウィルスタンパク転写体を標的とするRNAi誘発性実体であり、前記RNAi誘発性実体は、約15から約60のヌクレオチド長であり、配列番号1から10709からなる群より選択される核酸配列、その相補体、少なくとも16ヌクレオチド長を有するか、又は、前記核酸配列に対して少なくとも80%相同であるヌクレオチド配列を有する断片、及び、第1核酸配列に対して少なくとも80%相補的である第2核酸配列を具える。本発明のある実施例では、第2核酸配列は、前記第1核酸部分に対して少なくとも約90%相補的である。本発明の別の実施例では、RNAi誘発性実体は、siRNA又はshRNAである。本発明の別の実施例では、RNAi誘発性実体は、shRNAであり、更に、ヘアピンループ構造体を形成する第3核酸配列を具える。関連実施例では、ヘアピンループ構造体は、4から11のヌクレオチドを具える。
本発明の別の態様は、ウィルスタンパク転写体の保存部位を標的とするsiRNAであり、前記RNAi誘発性実体は、約15と約60の間のヌクレオチド長である。本発明のある実施例では、保存部位は、約300ヌクレオチド長であり、前記ウィルスタンパク遺伝子の3′末端を具える。本発明の別の実施例では、ウィルスタンパクは、ヒト呼吸器合胞体ウィルス、ヒト・メタニューモウィルス、ヒト・パラインフルエンザウィルス1、ヒト・パラインフルエンザウィルス2、ヒト・パラインフルエンザウィルス3、ヒト・パラインフルエンザウィルス4a、ヒト・パラインフルエンザウィルス4b、ライノウィルス、及びインフルエンザウィルスからなる群より選択されるウィルスから得られる。本発明の別の実施例では、ウィルスタンパクは、呼吸器ウィルスタンパクである。本発明の別の実施例では、ウィルスタンパクは、インフルエンザウィルスタンパクである。
本発明の別の態様は、第1ウィルスタンパクをコードする第1遺伝子、及び、第2ウィルスタンパクをコードする第2遺伝子の発現を抑制するsiRNAである。本発明のある実施例では、第1及び第2ウィルス遺伝子は、同じウィルスの異なる株由来である。本発明の別の実施例では、第1及び第2ウィルス遺伝子は、二つの異なるウィルス由来である。関連実施例では、一のウィルスはインフルエンザウィルスである。
本発明の別の態様は、ウィルスタンパクをコードする二又はそれ以上の遺伝子の発現を少なくとも約25%低減するsiRNAである。
本発明の別の態様は、その配列が、ウィルスタンパクをコードする核酸の標的部分を具える転写体を標的とするRNAi誘発因子である。本発明のある実施例では、RNAi誘発因子は、siRNA又はshRNAである。本発明の別の実施例では、ウィルスタンパクは、ヒト呼吸器合胞体ウィルス、ヒト・メタニューモウィルス、ヒト・パラインフルエンザウィルス1、ヒト・パラインフルエンザウィルス2、ヒト・パラインフルエンザウィルス3、ヒト・パラインフルエンザウィルス4a、ヒト・パラインフルエンザウィルス4b、ライノウィルス、及びインフルエンザウィルスからなる群より選択されるウィルスから得られる。本発明の別の実施例では、ウィルスタンパクは、呼吸器ウィルスタンパクである。本発明の別の実施例では、ウィルスタンパクは、インフルエンザタンパクである。
本発明の別の態様は、第1siRNA及び第2siRNAを具える組成物であって、ウィルスタンパクをコードする遺伝子の発現を抑制する組成物である。本発明のある実施例では、第1siRNAは、第1ウィルスタンパクをコードする第1遺伝子の発現を抑制し、第2siRNAは、第2ウィルスタンパクをコードする第2遺伝子の発現を抑制する。本発明の関連実施例では、第1及び第2siRNAは、前記第1及び第2遺伝子の発現を少なくとも約25%抑制する。本発明の別の関連実施例では、第1及び第2ウィルス遺伝子は、同じウィルス種の異なる株由来である。本発明の別の関連実施例では、第1及び第2ウィルス遺伝子は、同じウィルス属の二つのウィルス種由来である。本発明の別の関連実施例では、第1及び第2遺伝子は、同じウィルス科の二つのウィルス由来である。本発明の別の実施例では、組成物は更に、第3ウィルスタンパクをコードする第3遺伝子の発現を少なくとも約25%低減する第3siRNAを具える。ある関連実施例では、組成物は更に陽イオン性ポリマーを具える。
本発明の別の態様は、前記遺伝子の少なくとも一部においてウィルスタンパク遺伝子を検出するプライマー又はプローブを具える診断キットであって、前記一部が保存部位である診断キットである。
本発明の別の態様は、ウィルス感染哺乳類細胞において標的ウィルス遺伝子の発現を抑制する方法であって、ウィルスタンパク遺伝子の発現を抑制するsiRNAに前記細胞を接触させ、前記siRNAが、前記哺乳類細胞の細胞原形質に進入し、前記ウィルスタンパク遺伝子の発現を少なくとも約25%低減するステップを具える方法である。本発明のある実施例では、ウィルスタンパクは、ヒト呼吸器合胞体ウィルス、ヒト・メタニューモウィルス、ヒト・パラインフルエンザウィルス1、ヒト・パラインフルエンザウィルス2、ヒト・パラインフルエンザウィルス3、ヒト・パラインフルエンザウィルス4a、ヒト・パラインフルエンザウィルス4b、ライノウィルス、及びインフルエンザウィルスからなる群より選択されるウィルスから得られる。本発明の別の実施例では、ウィルスタンパク遺伝子は、呼吸器ウィルスタンパク遺伝子である。本発明の別の実施例では、ウィルスタンパク遺伝子は、インフルエンザウィルスタンパク遺伝子である。
本発明の別の態様は、siRNAを、該siRNAを必要とする被験体に送達する方法であって、ウィルスタンパク遺伝子の発現を少なくとも約25%低減する、siRNAの有効量を具える組成物を前記被験体に投与することを具える方法である。本発明のある実施例では、siRNAは、被験体の体重当たり約0.1mg/kgと、被験体の体重当たり約20mg/kgの間の濃度で前記被験体に送達される。本発明の別の実施例では、siRNAは、被験体の体重当たり約0.1mg/kgと、被験体の体重当たり約10mg/kgの間の濃度で前記被験体に送達される。本発明の別の実施例では、被験体の体重当たり約0.1mg/kgと、被験体の体重当たり約50mg/kgの間の濃度で前記被験体に送達される。本発明の別の実施例では、siRNAは、ウィルスタンパク遺伝子の発現を少なくとも約25%低減する。本発明の別の実施例では、siRNAは、表1から9に列挙される核酸配列を具える。本発明の別の実施例では、組成物は更に、陽イオン性ポリマーを具える。本発明の別の実施例では、組成物は、吸引、鼻腔内、経口、又は静脈内を通じて投与される。
本発明の別の態様は、被験体のウィルス感染を予防又は治療する方法であって、ウィルスのタンパク遺伝子を標的とするsiRNA又はshRNAを具える治療化合物を該被験体に投与することを具える方法である。本発明のある実施例では、siRNA又は前記shRNAは、約15から約60のヌクレオチド長であり:ウィルスタンパクをコードする核酸の一部に対して少なくとも約85%相同である第1核酸配列と;第1核酸部分に対して少なくとも85%相補的である第2核酸配列と;を具える。本発明の別の実施例では、siRNAが二本鎖siRNA分子であり、前記二本鎖siRNA分子の各鎖が約15から約50ヌクレオチドであり、前記二本鎖siRNA分子の一方の鎖が、呼吸器ウィルスの核酸配列中の保存部位、又はその変異種に対して同一の核酸配列を具える。本発明の別の実施例では、呼吸器ウィルスは、ヒト呼吸器合胞体ウィルス、ヒト・メタニューモウィルス、ヒト・パラインフルエンザウィルス1、ヒト・パラインフルエンザウィルス2、ヒト・パラインフルエンザウィルス3、ヒト・パラインフルエンザウィルス4a、ヒト・パラインフルエンザウィルス4b、ライノウィルス、及びインフルエンザウィルスからなる群より選択される。本発明の別の実施例では、核酸配列は核タンパク遺伝子をコードする。本発明の別の実施例では、呼吸器ウィルスはインフルエンザウィルスであり、siRNAは、配列番号10710から10751から成る群より選択されない。本発明の別の実施例では、治療化合物は、陽イオン性ポリマーを具える。
本発明の別の態様は、哺乳類被験体の呼吸器系におけるウィルスの産生を抑制するための薬剤の製造におけるsiRNA分子の使用であって、該ウィルスのタンパク遺伝子を標的とするsiRNA又はshRNAを該被験体に投与するステップを具える使用である。本発明のある実施例では、siRNA又は前記shRNAは、約15から約60のヌクレオチド長であり、且つ、ウィルスタンパクをコードする核酸の一部に対して少なくとも約85%相同である第1核酸配列と;第1核酸部分に対して少なくとも84%相補的である第2核酸配列と;を具える。本発明の別の実施例では、siRNAは、二本鎖siRNA分子であり、前記二本鎖siRNA分子の各鎖が約15から約50ヌクレオチドであり、前記二本鎖siRNA分子の一方の鎖が、呼吸器ウィルスの核酸配列中の保存部位、又はその変異種に対して同一の核酸配列を具える。本発明の別の実施例では、呼吸器ウィルスは、ヒト呼吸器合胞体ウィルス、ヒト・メタニューモウィルス、ヒト・パラインフルエンザウィルス1、ヒト・パラインフルエンザウィルス2、ヒト・パラインフルエンザウィルス3、ヒト・パラインフルエンザウィルス4a、ヒト・パラインフルエンザウィルス4b、ライノウィルス、及びインフルエンザウィルスからなる群より選択される。本発明の別の実施例では、核酸配列はタンパク(NP)遺伝子をコードする。本発明の別の実施例では、呼吸器ウィルスはインフルエンザウィルスであり、siRNAは、配列番号10710から10751から成る群より選択されない。本発明の別の実施例では、呼吸器ウィルスはインフルエンザウィルスであり、siRNAは、配列番号1から10709からなる群より選択される。
本発明の別の態様は、二又はそれ以上のウィルスのウィルスタンパク転写体中に存在するsiRNA又はshRNA標的配列を同定する方法であって:a)ウィルスから、ウィルスタンパクをコードする核酸配列を調製するステップと;b)前記核酸配列の標的部分であって、前記部分が約19ヌクレオチドを具え、3個を超える連続グアニンヌクレオチド、又は3個を超える連続シトシンヌクレオチドを具えない標的部分を同定するステップと;c)一又はそれ以上の回数ステップ(a)及び(b)を繰り返し、各繰り返しで様々なウィルスを用いて、これによって前記ウィルスタンパク転写体上にsiRNA又はshRNA標的配列を同定するステップと;を具える方法である。本発明のある実施例では、核酸配列は、タンパク配列の保存部位を具える。本発明の別の実施例では、方法は、前記標的配列に結合するsiRNA又はshRNAを生成するステップを更に具える。
本発明の別の態様は、ウィルス感染を診断する方法であって、被験体が、RNAi誘発性実体による阻害に対して感受性を有するウィルスに感染したかどうかを決定するステップを具える方法である。本発明のある実施例では、方法は、被験体に対しRNAi誘発実体を投与するステップを具える。
本発明の別の態様は、インフルエンザウィルス感染を治療又は予防する方法であって、治療又は予防を要する被験体にRNAi誘発性実体を投与するステップを具える方法である。
本発明の別の態様は、呼吸器ウィルスの産生を阻害する二本鎖siDNA分子であり、前記二本鎖siDNA分子の各鎖が約15から約50ヌクレオチドであり、前記二本鎖siDNA分子の一方の鎖が、呼吸器ウィルスの核酸配列中の保存部位、又はその変異種に対して同一の核酸配列を具える。本発明のある実施例では、呼吸器ウィルスは、呼吸器合胞体ウィルス、ヒト・メタニューモウィルス、ヒト・パラインフルエンザウィルス1、ヒト・パラインフルエンザウィルス2、ヒト・パラインフルエンザウィルス3、ヒト・パラインフルエンザウィルス4a、ヒト・パラインフルエンザウィルス4b、ライノウィルス、及びインフルエンザウィルスからなる群より選択される。関連実施例では、核酸配列はあるタンパク(NP)遺伝子をコードする。本発明の別の実施例では、呼吸器ウィルスはインフルエンザウィルスであり、siRNAは、配列番号10710から10751から成る群より選択されない。本発明の別の実施例では、呼吸器ウィルスはインフルエンザウィルスであり、siRNAは、配列番号1から10709からなる群より選択される。
発明の詳細な説明
本発明は、RNA干渉(RNAi)の細胞内現象に基づく。その現象では、標的RNAに対して相補的な部分を含む細胞中の二本鎖RNAの存在が、配列特異的なやり方で標的RNAの発現を阻害する。一般に、阻害は、標的の切断、又はその翻訳の阻害によってもたらされる。RNAiは、病原体感染のような攻撃に対する正常な細胞反応であるが、これは、そのような感染によってかく乱されたシステムを安静状態に戻すのに有効な機構でもある。更に、RNAiは、細胞のシグナル伝達経路を特異的に破壊するのに用いることも可能である。
RNAi活性を高める二本鎖RNA構造体は、siRNA、shRNA、及び、siRNA又はshRNAを生成するように処理することが可能な他の二本鎖構造体(dsRNA)(又は、標的転写体の発現をRNA干渉によって阻害する他の小型RNA分子)である。RNA誘発性実体、例えば、siRNA及びshRNAは、被験体に、又はその分離細胞に導入して、特定のシグナル伝達経路を変調するようにしてもよい。更にこれらのdsRNAは、異常な細胞シグナル伝達によって特徴づけられる疾患又は障害を予防・治療するための有用な治療剤である。例えば、哺乳類に感染するウィルスは、宿主細胞の細胞機関を乗っ取ることによって複製する。従って、ウィルス産生を制御するウィルスシグナル伝達経路を破壊するためにRNAi技術を用いることは有用である。
あるウィルス遺伝子調節が、ウィルスのライフサイクルの二つの段階において必須であることが知られている。従来技術はこれまで、siRNAの効果的標的としてウィルスのポリメラーゼに注目してきた。ポリメラーゼがウィルスの複製に必要だからである。例えば、RNA−依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)は、転写及び複写の両方に必要不可欠のポリペプチドである。これによって次のような推測が生まれた。即ち、PdRPサブユニットを沈黙させることによって、全RNA合成のほぼ完全な欠如が実現されるであろうから、ウィルス産生の強烈な阻害がもたらされるであろうと言うのである。実際、予想通りの結果が、RSV、水泡性胃炎ウィルス、及びパラインフルエンザウィルスで観察された(Barik S.「非セグメント型マイナス鎖RNAウィルス複製のsiRNAによる調節(Control of nonsegmented negative−strand RNA virus replication by siRNA)」Virus Res.2004 Jun 1;102(1):27−35;and Bitko et al.,「配列特異的二本鎖小型干渉RNAによる細胞原形質遺伝子の表現形沈黙化、及び、野生型マイナス鎖RNAウィルスの逆行性遺伝学におけるその応用(Phenotypic silencing of cytoplasmic genes using sequence−specific double−stranded short interfering RNA and its application in the reverse genetics of wild type negative−strand RNA viruses)」BMC Microbiol.2001;1(1):34.Epub 2001 Dec 20.参照)。別のウィルスタンパク、核タンパク、カプシド、又は核カプシドと色々の名称で呼ばれるものも、例えば、ウィルス転写及び複製に関与することが認められている。しかし、核タンパクについて行われたアンチセンス実験から、このポリペプチドをコードする転写体は、ポリメラーゼほど適切な標的とはならないことが示された(Hatta et al.「未修飾、リン酸チオエート化、リポソーム封入オリゴヌクレオチドによる、インフルエンザウィルスポリメラーゼ及び核タンパク遺伝子の阻害(Inhibition of influenza virus RNA polymerase and nucleoprotein genes expressed by unmodified,phosphorothioated,and liposomally encapsulated oligonucleotides)」Biochem Biophys Res Commun.1996 Jun 14;223(2):341−6;及び、Mizuta et al.,「ウィルスRNAポリメラーゼ遺伝子に向けられたアンチセンスオリゴヌクレオチドは、インフルエンザAに感染したマウスの生存率を改善する(Antisense oligonucleotides directed against viral RNA polymerase gene enhance survival of mice infected with influenze A,Nat Biotechnol.1999 Jun;17(6):583−7を参照)。siRNAによる最近の実験は、核タンパクも、siRNAの可能な標的として研究すべきであることを示唆している。Gitlin et al.,「siRNAは、ヒト細胞に対し細胞内抗ウィルス免疫を付与する(Short interfering RNA confers intracellular antiviral immunity in human cells),Nature.2002 Jul 25;418(6896):430−4;Fowler et al.「RNA干渉による、マールブルグウィルスタンパク発現及びウィルス放出の阻害(Inhibition of Marburg virus protein expression and viral release)」,J Gen Virol.2005 Apr;86(Pt4):1181−8;及び、Yuan et al.,「siRNAによる、コクサッキーウィルスB3複製の阻害は、ウィルスプラス鎖の中央領域における完全な配列一致を必要とする(Inhibition of coxsackievirus B3 replication by small interfering RNAs requires perfect sequence match in the central region of the viral positive strand)」J.Virol.2005 Feb;79(4):2151−9)。本発明は、ウィルスシグナル伝達経路を破壊し、ウィルス複製を阻害するために、ウィルス核タンパク配列に向けられたsiRNAの使用を示す。更に本発明者等は、別のウィルスタンパク、即ち、核タンパク又は核カプシドタンパクの抑制又は沈黙化も、ポリメラーゼ活性の抑制と同様の作用を及ぼすことを確認した。従って、核タンパク転写体も、siRNAにとって好適な標的である。
いかなる理論にも縛りつけられることを望むものではないが、NP siRNAの広範な作用は、NP特異的siRNAがRNA分解を非特異的に標的するためではなく、vRNA及びcRNAの結合及び安定化におけるNPの重要性の結果であるようである。例えば、インフルエンザウィルスにおけるNP遺伝子セグメントは、vRNAにもcRNAにも結合することが可能な1本鎖RNA結合核タンパクをコードする。ウィルスのライフサイクルの間、NP mRNAは最初に転写され、翻訳される。NPタンパクの主要な機能は、RNA転写、複製、及びパッケージングのためにウィルスゲノムをカプシドの中に取り込むことである。NPタンパクが欠如すると、vRNA及びcRNAの全長合成は共に大きく阻害される。NP siRNAが、NP RNAの分解を誘発すると、NPタンパクの合成が損なわれ、そのため十分なNPタンパクが不足するので、その後の他のウィルス遺伝子セグメントの複製に影響を及ぼす。このようにして、NP siRNAは、極めて早期の段階でウィルス産生を強力に抑制することが可能である。従って、ウィルス核タンパクは多機能性を有するために、RNAi依存性治療法の有用な標的となり、このため、単一遺伝子を抑制することによって、ウィルスのライフサイクルの複数の異なる段階で介入する機会が与えられる。
ゲノムRNA(vRNA及びcRNA)の複製と違って、感染宿主細胞ではNPタンパク分子の数がmRNA合成を調節すると仮定されている。従来の研究は、NPタンパクにおける温度感受性突然変異を用いて、cRNA合成は、インビトロでもインビボでも温度感受性であるが、mRNA合成はそうではないことを示した。NPタンパクは、発生期のcRNA及びvRNA転写体の伸長及び停止抵抗に必要であることが示された。本明細書に提示される結果から、ウィルスNP特異的si RNAは、感染細胞における全てのウィルスRNAの蓄積を抑制することが示される。いかなる理論にも縛りつけられることを望むものではないが、NP特異的si RNAの存在下では、新たに転写されるNP mRNAが分解され、これが、ウィルス感染後のNPタンパク合成の阻害をもたらすと考えられる。新たに合成されるNPが無いために、新たなウィルス転写及び複製が、従って、新規ビリオンの産生が阻害される。
以下に、本発明の特徴及び、その他の詳細を、付属の図面及び特許請求の範囲に指摘される内容を参照しながら更に具体的に説明する。本明細書に説明される特定の実施例は、例示のためであって、本発明の限定として示されるものではないことを理解しなければならない。本発明の主要な特徴は、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な実施例に採用することが可能である。別様に指示しない限り、全ての部及びパーセントは重量に基づく。
定義
便宜のために、明細書、実施例、及び付属の特許請求の範囲で使用されるいくつかの用語をここに集める。別様に定義しない限り、本明細書に使用される全ての技術及び科学用語は、本発明の関わる当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。しかしながら、これらの定義が、従来技術で流布する意味から変動する程度に、下記の定義も変動することを承知しなければならない。
「ヌクレオチド」は、窒素系塩基、糖分子、及びリン酸基を具える。「ヌクレオシド」は、糖分子と結合した窒素系塩基(核酸塩基)である。天然の核酸では、リン酸基は、隣接ヌクレオシドに共有的に結合しポリマーを形成する。核酸は、天然のヌクレオシド(例えば、アデノシン、チミジン、グアノシン、シチジン、ウリジン、デオキシアデノシン、デオキシチミジン、デオキシグアノシン、及びデオキシシチジン)、ヌクレオシド類縁体(例えば、2−アミノアデノシン、2−チオチミジン、イノシン、ピロロ−ピリミジン、3−メチルアデノシン、C5−プロピニルシチジン、C5−プロピニルウリジン、C5−ブロモウリジン、C5−フルオロウリジン、C5−イオドウリジン、C5−メチルシチジン、7−デアザアデノシン、7−デアザグアノシン、8−オキソアデノシン、8−オキソグアノシン、O(6)−メチルグアニン、及び2−チオシチジン)、化学的に修飾された塩基、生物学的に修飾された塩基(例えば、メチル化塩基)、介在塩基、修飾糖類(例えば、2′−フルオロリボース、リボース、2′−デオキシリボース、アラビノース、及びヘキソース)を含んでもよい。
用語「RNA」又は「RNA分子」又は「リボ核酸分子」は、リボヌクレオチドから成るポリマーを指す。用語「DNA」又は「DNA分子」又は「デオキシリボ核酸分子」は、デオキシリボヌクレオチドから成るポリマーを指す。DNA及びRNAは、天然に合成されてもよい(例えば、それぞれ、DNA又はRNAの、DNA複製又は転写によって)。RNAは、転写後修飾されてもよい。また、DNA及びRNAは化学的に合成されてもよい。用語「標的mRNA」又は「標的転写体」は、本明細書で用いられる場合同義語である。
用語「RNA干渉(「RNAi」)」は、RNAの選択的細胞内分解(遺伝子沈黙化とも呼ばれる)を指す。また、RNAiは、ミクロRNA、又はミクロRNAのように動作するsiRNAによる翻訳抑制も具える。RNAiは、短鎖干渉性RNA(siRNA)を導入するか、又は、siRNAを細胞内で産生する(例えば、プラスミド又は導入遺伝子を通じて)ことによって起動し、一又はそれ以上の標的遺伝子の発現を沈黙させることが可能である。それとは別に、RNAiは、外来RNA(例えば、ウィルスRNA)を排除するために細胞において自然に発生する。天然のRNAiは、分解機構を他の認識RNA配列へ向ける、前駆体dsRNAのダイサー指令による断片化を介して進行する。
「小型干渉性RNA(「siRNA」)」、これは、従来技術で「短鎖干渉性RNA」とも呼ばれるが、RNA干渉を指令又は仲介することが可能な、約10から60ヌクレオチド(又はヌクレオチド類縁体)を具えるRNA(又はRNA類縁体)を具える。用語「siRNA」は、二本鎖siRNA及び1本鎖siRNAの両方を具える。一般に、本明細書で用いる用語「siRNA」は、二本鎖siRNA(1本鎖RNA又はアンチセンスRNAに対し)を指す。「短鎖ヘアピンRNA」(「shRNA」)という用語は、ヘアピン構造に折り畳まれ、少なくとも一つのヌクレオチドから成る1本鎖部分(「ループ」)を具えるsiRNA(又はsiRNA類縁体)、例えば、ハイブリダイズされる少なくとも二つの相補的部分を具えるRNA分子、又は、ハイブリダイズして、RNAiを仲介するのに十分な長さを有する二本鎖(二重)構造を形成することが可能なRNA分子、及び、通常約1から10のヌクレオチド長を持ち、shRNAの二重部分を形成する領域を接続するループを形成する、少なくとも1本鎖の部分を指す。二重部分は、片方の鎖又は両方の鎖に、一又はそれ以上のミスマッチ、及び/又は、一又はそれ以上の不対ヌクレオチドから成る一又はそれ以上のバルジを含んでもよいが、通常はそのようなミスマッチ及び/又はバルジを含まない。理論に縛られることを望むものではないが、shRNAは、保存的細胞RNAi機関によって処理されてsiRNAに変換されると考えられている。shRNAは、該shRNAの一部(shRNAのアンチセンス鎖、又はガイド鎖とも呼ばれる)に対して相補的な標的転写体の発現を阻害することが可能である。一般に、shRNAのガイド鎖と標的転写体の間に形成される二重鎖の特徴は、siRNAのガイド鎖と標的転写体の間に形成される二重鎖のものと近似する。本発明のある実施例では、shRNAの5′末端はリン酸基を有するが、別の実施例では有さない。本発明のある実施例では、shRNAの3′末端はヒドロキシル基を有する。
用語「RNAi誘発性実体」又は「RNAi仲介剤」とは、細胞におけるその存在がRNAiをもたらし、該RNAi仲介剤が標的とするRNAの発現低下をもたらすRNA分子(ヒトの手によって修飾されない、又は、ヒトの手によってその場所に輸送されたものではない天然の分子とは別の)を指す。RNAi仲介剤は、例えば、siRNA、又はshRNAであってもよい。本発明のある実施例では、siRNAは、ミクロRNAと呼ばれる内因性の小型RNAによって利用される翻訳抑制経路を介して標的RNAの発現を抑制する鎖を含んでもよい。本発明のある実施例では、shRNAは、このミクロRNA翻訳抑制経路を通じて標的RNAの発現を抑制するsiRNAを生成するように細胞内で処理されてもよい。「標的RNA」は、標的RNAがメッセンジャーRNAであるかどうかとは無関係に、「標的転写体」と呼んでもよい。「標的RNA」と「標的転写体」は、本明細書では相互交換的に使用される。RNAi誘発剤という用語は、細胞におけるその存在がRNAiをもたらし、該RNAi仲介剤が標的とするRNAの発現低下をもたらすRNA分子RNAi仲介剤及びベクター(前述のように、ヒトの手によって修飾されない天然分子とは別物の)を具える。
「RNAi誘発性ベクター」は、細胞におけるその存在が、自己ハイブリダイズするか、又は、相互にハイブリダイズし合ってRNAi仲介剤を形成するベクターを含む。本発明の様々な実施例では、この用語は、細胞におけるその存在が、自己ハイブリダイズするか、又は、相互にハイブリダイズし合って一又はそれ以上のRNAiの産生をもたらすプラスミド、例えば、DNAベクター(その配列が、ウィルス由来の配列要素を具える)、又は、ウィルス(ヒトの手によって修飾されない天然分子とは別物の)を具える。一般に、ベクターは、発現シグナル(単数又は複数)に動作可能的に結合する核酸を含み、そのため、ベクターが細胞内にある時、互いにハイブリダイズするか、又は自己ハイブリダイズしてRNAi仲介剤を形成する一又はそれ以上のRNA分子が転写される。このようにして、ベクターは、RNAi仲介剤の細胞内合成のための鋳型を提供する。RNAiを誘発するには、ウィルスゲノムの細胞への進入(例えば、ウィルスエンベロープと細胞膜との融合に続く)は、細胞におけるウィルスの存在を構成するのに十分と考えられる。更に、RNAiを誘発するには、ベクターが細胞内に導入されるか、細胞に進入するか、又は、親細胞から受け継がれるかすれば、ベクターがその後細胞内で修飾されるか、又は処理されるのとは無関係に、ベクターは細胞内に存在すると考えられる。RNAi誘発性ベクターは、細胞における該ベクターの存在が、互いにハイブリダイズするか、又は自己ハイブリダイズして、転写体を標的とするRNAi仲介剤を形成する一又はそれ以上のRNAの産生をもたらす場合、即ち、細胞における該ベクターの存在が、転写体を標的する一又はそれ以上のRNAi介在因子の産生をもたらす場合、該転写体を標的すると見なされる。「誘発」という用語の使用は、RNAi仲介剤が、一般にRNAiを必ず活性化又は上方調整するということを示すものではなく、単に、細胞におけるベクターの存在は、該細胞においてRNAi仲介剤の産生を招き、mRNA発現のRNAi介在性低下をもたらすことを示すことを意図するにすぎない。
RNAi誘発性実体は、(1)該仲介剤が、15から29ヌクレオチド長、例えば、15、より好ましくは少なくとも約17、更により好ましくは少なくとも約18又は19から約21から23、又は24から29ヌクレオチド長の評価ウィンドウを上回る標的転写体に対して実質的に相補的な鎖を具える場合、本明細書に記載される目的のためには、標的転写体を標的とすると見なされる。例えば、本発明の種々の実施例では、仲介剤は、15から29ヌクレオチド長の評価ウィンドウ、例えば、少なくとも15、より好ましくは少なくとも約17、更により好ましくは少なくとも約18又は19から約21から23、又は24から29ヌクレオチド長の評価ウィンドウを上回る標的転写体に対して、少なくとも約70%、好ましくは少なくとも約80%、84%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%厳密な配列相補性を有する鎖を具える。或いは、(2)RNAi仲介剤の一側鎖は、小型(<50ヌクレオチド)RNA分子のインビトロハイブリダイゼーションのストリンジェントな条件において、及び/又は、哺乳類細胞の細胞原形質又は核の中に典型的に見出される条件下において、標的転写体にハイブリダイズする。更に、ミクロRNA翻訳抑制経路を介して作用する仲介剤の場合、仲介剤と標的によって形成される二重鎖は、少なくとも1個のバルジ及び/又はミスマッチを具える。本発明のある実施例では、ガイド鎖と標的転写体によって形成される二重鎖におけるGU又はUGペアは、RNAiが転写体を標的とするかどうかを決める目的のためには、ミスマッチとは見なされない。
細胞におけるその存在が、転写体を標的とするRNAiの産生をもたらすRNAi誘発性ベクターも、該転写体を標的とすると見なされる。転写体を標的する作用は、該転写体の合成を指令する遺伝子の発現を低下又は抑制することであるから、転写体を標的するRNAiも、該転写体の合成を指令する遺伝子を標的すると見なされる。最も、遺伝子そのもの(例えば、細胞の場合はゲノムDNA)は、仲介剤、又は細胞の沈黙化機関の成分と相互作用を持たないと考えられる。従って、転写体を標的とするRNAi又はベクターは、該転写体の合成の鋳型を提供する遺伝子を標的とすると理解される。
ウィルスの「核タンパク」(「カプシドタンパク」又は「核カプシドタンパク」とも呼ばれる)は、ウィルスRNAを隔離し、且つ、ウィルス転写に影響を及ぼすウィルスポリペプチドである。ウィルスの核タンパクは、核酸/タンパク複合体(即ち、リボ核酸タンパク(RNP)複合体)を形成することが可能である。核タンパクはまた、二本鎖ウィルスでは“NS”とも呼ばれる(例えば、NS−6)。核タンパクは、一般に、ウィルスゲノムとは接触せず、隔離もしない外方のカプシドタンパクとは区別される。「核タンパクmRNA」、「NP mRNA」「核タンパク転写体」、及び「NP転写体」は、本明細書に記載されるウィルス核タンパク又はその機能的等価物をコードする任意のmRNAを含むと理解される。
当業者であれば了解されるように、ウィルス核タンパクの一又はそれ以上の機能を果たすタンパクは、対象となる特定のウィルスに依存していくつかの別々の名称で呼ばれる。例えば、インフルエンザのようなある種のウィルスの場合、該タンパクは核タンパク(NP)という名で知られ、他のいくつかの1本鎖RNAウィルスの場合、同様の役割を果たすタンパクは、核カプシド(NC、又はN)タンパクと呼ばれる。更に別のウィルスでは、ゲノム核酸と相互作用を持ち、且つ、ウィルス粒子において構造的役割を果たす類似のタンパクは、カプシド(C)タンパクと見なされる。
本明細書で用いる用語「核タンパクmRNA」、“NP mRNA,”「核タンパク転写体」、及び「NP転写体」は、本明細書に記載される、ウィルス核タンパク、又はその機能的等価物をコードする任意のmRNAを具えると理解される。核タンパク遺伝子を具える任意のウィルス、又はその機能的等価物は、siRNA標的として好適である。非限定的例として、いくつかの群の標的ウィルスを更に詳細に本明細書で説明する。
「被験体」は、生きている生物、例えば、ヒト類、サル類、雌ウシ類、ヒツジ類、ウマ類、ブタ類、雄ウシ類、ヤギ類、イヌ類、ネコ類、マウス類、ラット類、それらから得た培養細胞類、及びそれらから得たトランスジェニック生物種を具える。ある好ましい実施例では、被験体はヒトである。被験体は、患者と同義語である。治療される被験体に対する本発明の組成物の投与は、被験体の病態を治療するのに有効な、既知の手順、用量、及び期間に渡って実行することが可能である。治療効果を実現するのに必要な治療化合物の有効量は、年齢、性別、及び被験体の体重、被験体における外来因子を治療する治療化合物の能力のような要因に応じて変動してよい。投与スケジュールは、最適治療反応が実現されるように調整されてもよい。例えば、いくつかに分割された用量が、毎日投与されてもよいし、或いは、治療状況の緊急性の表示と比例して減少させてもよい。
本明細書で、数字と関連して用いられる「ほぼ」又は「約」という用語は、別様に言及しない限り、又は文脈から明らかに別様と判断されない限り、一般に、どちらの方向にも5%の範囲内に納まる数字を含むものとされる(ただし、その数字が、可能な数値の100%を超える場合を除く)。範囲が言及される場合は、別様に支持しないかぎり、又は文脈から明らかに別様と判断されない限り、末端点は該範囲に含まれる。
用語「相補的」とは、本明細書において、従来技術で許容される意味と一致して、特定の塩基同士、ヌクレオシド同士、ヌクレオチド同士、又は核酸同士の間の厳密な対合を満たす能力を指す。例えば、アデニン(A)とウリジン(U)は相補的であり;アデニン(A)とチミジン(T)は相補的であり;且つ、グアニン(G)とシトシン(C)は相補的であり、これらは、従来技術では、ワトソン−クリック塩基対合と呼ばれる。第1核酸配列のある位置におけるヌクレオシドが、第2核酸配列の対向位置のヌクレオシドに対して相補的である場合、これらのヌクレオシド同士は、相補的塩基対を形成し、両核酸は、前記位置において相補的である。当業者であれば、核酸は、互い違いの平行状態に整列されること(即ち、一方の核酸は5′−3′方向に、一方、他方は、3′−5′方向に整列)を了解するであろう。二つの核酸、又はその部分の相補性の程度は、その二つの核酸又はその部分を、最大の相補性を実現するよう互い違い平行に整列させた場合に、両鎖における、相補的塩基対を形成するヌクレオチドの全数を、評価ウィンドウにおけるヌクレオチドの全数のパーセントとして決定することによって評価される。例えば、AAAAAAAA(配列番号11424)及びTTTGTTAT(配列番号11425)は、75%相補的である。なぜなら、合計16の内、相補的塩基対に納まるのは12ヌクレオチドだからである。評価ウィンドウにおいて少なくとも70%相補的である核酸は、そのウィンドウの上では実質的に相補的と見なされる。具体的には、評価ウィンドウが15−16ヌクレオチド長ならば、実質的に相補的な核酸は、ウィンドウ内において0から3個のミスマッチを持ってもよく、ウィンドウが17ヌクレオチド長ならば、実質的に相補的な核酸は、ウィンドウ内に0から4個のミスマッチを持ってもよく、ウィンドウが18ヌクレオチド長ならば、実質的に相補的な核酸は、ウィンドウ内に0から5個のミスマッチを持ってもよく、ウィンドウが19ヌクレオチド長ならば、実質的に相補的な核酸は、ウィンドウ内に0から6個のミスマッチを持ってもよい。ある実施例では、ミスマッチは、連続位置にはない。ある実施例では、ウィンドウは、2ヌクレオチド長よりも長い連続ミスマッチを含まない。好ましい実施例では、15から19ヌクレオチドから成る評価ウィンドウは、0から1のミスマッチを含み(好ましくは0)、20から29ヌクレオチドの評価ウィンドウは、0から2のミスマッチを具える(好ましくは0から1、より好ましくは0)。
「実質的に純粋な」とは、元々それに随伴する成分から分離された化合物、例えば、薬剤、タンパク、又はポリペプチドを含む。通常、化合物は、サンプル中の全体物質の少なくとも10%、より好ましくは少なくとも約20%、より好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも90%、及び最も好ましくは99%(容量で、湿潤又は乾燥重量で、又はモル%又はモル分数で)が、対象とする化合物である場合、該化合物は実質的に純粋である。純度は、任意の適切な方法で測定してよい。例えば、ペプチドの場合は、カラムクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、又はHPLC分析である。化合物、例えば、タンパクも、それが、天然状態で随伴する成分を実質的に含まない場合、又は、天然状態でそれに随伴する生得の汚染物質から分離されている場合、実質的に純化されている。「実質的に純粋」という用語の意味の中に含まれるものは、均一に純粋な化合物、例えば、タンパク又はポリペプチドであって、サンプル中の全体タンパクの少なくとも95%(容量で、湿潤又は乾燥重量で、又はモル%又はモル分数で)が、対象のタンパク又はペプチドである。
「投与」は、本発明の組成物が、その意図された機能、例えば、ウィルス疾患の治療又は予防を実行可能とする投与ルートを含む。様々な投与ルートが可能であり、そのようなものとして、例えば、非経口(例えば、静脈内、動脈内、筋肉内、皮下注入)、経口(例えば、食事様)、吸入(例えば、肺へのエアロゾル)、局所、鼻腔、直腸、又は、治療される疾患又は状態に応じて徐放性微小担体が挙げられるが、しかし必ずしもこれらに限られるわけではない。吸入及び非経口投与が、好ましい投与方式である。投与される化合物の処方は、選択された投与ルートに応じて変動する(例えば、溶液、乳液、ゲル、エアロゾル、カプセル)。投与される化合物を具える適切な組成物は、生理学的に許容可能なビヒクル又は担体、及び、最適なアジュバント及び防腐剤において調製される。溶液又は乳剤の場合、好適な担体としては、例えば、水性、又はアルコール/水性液、乳剤又は縣濁液が挙げられ、例えば、生食液及び緩衝媒体、滅菌水、クリーム、軟膏、オイル、ペースト、及び固相担体が挙げられる。非経口ビヒクルとしては、塩化ナトリウム液、リンゲルデキストロース、デキストロース及び塩化ナトリウム、乳酸添加リンゲル液、又は固定油が挙げられる。静脈内ビヒクルとしては、各種添加剤、防腐剤、又は液、栄養又は電解質補充剤が挙げられる(一般に、Reminton‘s Pharmaceutical Science,16th Edition,Mack,Ed.(1980)参照)。
「有効量」とは、本発明の組成物について、それが、その意図された機能、例えば、ウィルス感染を、本明細書に記載されるやり方で、部分的に、又は完全に治療又は予防することを可能とする該組成物の量を含む。この有効量は、いくつかの要因、例えば、生物学的活性、年齢、体重、性別、一般的健康状態、治療される病体の重度を始め、適切な製薬学的性質に依存する。例えば、活性物質の投与は、体重当たり約0.01mg/kg/日から約100mg/kg/日、好ましくは約0.1mg/kg/日から約10mg/kg/日であってもよい。例えば、siRNAは、該物質を必要とする被験体に、体重当たり約0.1mg/kg/日から約5mg/kg/日の用量で送達される。活性物質の治療的有効量は、単回投与又は複数回投与として適切なルートを通じて投与される。更に、活性成分の用量は、治療又は予防状況の緊急性の表示と比例して増やしても、減らしてもよい。
「製薬学的に許容可能な担体」とは、化合物の活性と適合し、被験体にとって生理学的に許容可能な、任意の、全ての溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌及び抗真菌剤、等張剤、及び吸収遅延剤を具える。製薬学的に許容可能な担体の例は、正常なバッファー生食液(0.15M NaCl)である。製薬学的活性物質のためにこのような媒体及び薬剤を用いることは従来技術でよく知られる。通常用いられる、何かの媒体又は薬剤が、治療的化合物と不適合であるということでない限り、薬剤投与のために好適な組成物においてそのような媒体又は薬剤を使用することは考慮の対象になる。補充的活性化合物も組成物の中に組み込むことが可能である。
「添加成分」は、下記の内の一又はそれ以上を具えるが、ただしそれらに限定されない。即ち、賦形剤;界面活性剤;分散剤;不活性希釈剤;顆粒化剤及び崩壊剤;結合剤;潤滑剤;甘味剤;芳香剤;着色剤;防腐剤;生理的に分解可能な組成物、例えば、ゼラチン;水性ビヒクル及び溶媒;油状ビヒクル及び溶媒;懸濁剤;分散又は湿潤剤;乳化剤;粘滑剤;緩衝液;塩;増粘剤;充填剤;乳化剤;抗酸化剤;抗生物質;抗真菌剤;安定化剤;及び製薬学的に許容可能なポリマー又は疎水性材料である。本発明の製薬組成物の中に含めてもよい、他の「添加成分」は従来技術で既知であり、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciencesに記載される。
「保存部位」
ウィルスの保存部位とは、ある任意の領域について、既知の全ての配列の約70%を超えるものの中に存在することが認められる部位又は配列である。保存部位に対して配列同一性を有するsiRNAの組は、既知のウィルス配列のそれぞれについて、その19マー配列断片を得て、各配列断片が、ウィルス配列セットのそれぞれの内部において正確なマッチとして存在する、各配列断片の頻度を評価することによって求められる。第1ウィルス配列は、位置1から位置19まで延びる19マー配列断片を含み、もう一つは位置2から20まで、もう一つは位置3から21まで、こうして、19ヌクレオチド部位が、その鎖の末端となるまで続ける。
同様にして、第2、第3、及び第4ウィルス配列が、リストの中の最後のウィルス配列に至るまで途切れることなく抽出される。次に、配列断片が、漸増する配列断片表に加えられていき、各19マー断片を含むウィルス配列数のカウントが記録される。断片頻度は、各特異的19マー断片を含むウィルス配列のパーセントとして表される。本発明のsiRNAのセットは、既知配列の大多数よりも大きな、好ましくは既知配列の約70%を超える配列同一性を有するものである。
「インフルエンザウィルスの保存部位」は、2003年9月29日に出願された米国特許出願第10/674,159号、公開番号US−2004−0242518−A1(J.Chen.Q.Ge and M.Eisen,「インフルエンザ治療法(Influenza Therapeutic)」に開示され、下記の表_にも明記される(配列番号第69から108)配列を含まない。インフルエンザウィルスの保存部位は、2005年8月8日に出願された係属中の米国特許出願第11/102097号(前述の出願の一部継続出願)のいくつかの実施例を排除する可能性がある。なお、この出願の全体を参照することにより本出願に含める。
「保存部位の変種」は、標的RNAと、siRNA二重鎖のアンチセンスガイド配列との間で容認される、少数のミスマッチを具える。従って、ウィルスにおいて高度に保存される部位を標的とする単一siRNA二重鎖は、該保存部位に対しただ一つ、又は少数のミスマッチを有する、僅かに変異する変種に対しては多くの場合活性を有する。我々は、下記の実施例15にも述べるように、アルゴリスムにウィルスミスマッチ・データを用い、任意のsiRNA二重鎖によって標的とすることが可能な、インフルエンザAウィルスの可能な配列変種のリストを拡大した。
RNAi標的としての核タンパク
本発明は、被験体、例えば、ヒト、又は非ヒト哺乳動物においてウィルス複製又は感染を治療又は予防するためにRNAiを用いる組成物及び方法を提供する。ウィルスはRNAウィルスであることが好ましい。例えば、RNAウィルスは、マイナス鎖ウィルスである。それとは別に、ウィルスは、プラス鎖ウィルス、又は二本鎖(ds)ウィルスであってもよい。好ましい標的RNAは、核タンパク(また核カプシドとも呼ばれる)転写体、又は、ウィルス核タンパクの機能を実現するウィルス遺伝子の転写体である。核タンパク遺伝子、又は、その機能的等価物を具えるウィルスであれば、いずれのウィルスであってもsiRNAの標的として好適である。非限定的例として、いくつかの標的ウィルスの群を、本明細書に更に詳細に述べる。
マイナス鎖RNAウィルス
マイナス鎖RNAウィルスは、mRNAに対し相補的センスに配列されるウィルスゲノムを有する。従って、宿主細胞へ進入後の、マイナス鎖RNAウィルスの最初の活動の一つは、ウィルスmRNAの転写及び産生である。このために、ビリオンは、ウィルスの核タンパク(N又はNP、時に核カプシドタンパクとも呼ばれる)と緊密に連結するウィルスRNA(vRNA)から成るN−RNA構造を保持する。RNA依存性RNAポリメラーゼは、インフルエンザウィルスの場合のように、直接N−RNAに結合するか、或いは、パラミクソウィルス及びラブドウィルスのリンタンパクのように、補因子の助けを借りて結合するかのいずれかである。裸のvRNAではなく、生得のN−RNAが転写の実際の鋳型となり、核タンパクは、ポリメラーゼによる効率的な読み取りのために、N−RNAのヌクレオチド塩基の露出を担当する。
ssRNA(−)ウィルスの発現及び複製に見られる共通性は、恐らくビリオン核タンパク(N又はNP)サブユニット同士の結合によって誘発される、RdRpの明瞭な転写及び複製機能である。従って、RNA(−)もRNA(+)も、複製複合体においてNタンパクと複合体を形成することが認められる。
本発明において有用なマイナス鎖RNAウィルスとしては、ヒト呼吸器合胞体ウィルス(RSV)、ヒトメタニューモウィルス(hMPV)、おたふく風邪ウィルス、麻疹ウィルス、ヘンドラウィルス、ニューカッスル病ウィルス、インフルエンザウィルス、水泡性口内炎ウィルス(VSV)、デルタ肝炎ウィルス、マールブルグウィルス、エボラウィルス、ハンターンウィルス、シンノンブレウィルス、ラッサ熱ウィルス、ラクロスウィルス(Lacrosse virus)、リフトバレー熱ウィルス、ブニヤムウェラウイルス、サシチョウバエ熱シシリアウィルス、サビアウィルス、グアナリトウィルス、マチュポウィルス、フニンウィルス、リンパ球性脈絡髄膜炎ウィルス(LCMV)、及びパラインフルエンザウィルスが挙げられる。他の好適なマイナス鎖RNAウィルスも当業者には既知である。例示のウィルス核タンパク核酸配列の、Genbankアクセス番号として、U41071、NC_005077、K03362、NC_002045、NC_003443、NC_001781、AY297748、AF389119、AY705373、AY354458、NC_001608、AB027523、及びL37904が挙げられる。
インフルエンザ
インフルエンザウィルスは、オルトミクソウイルス科のエンベロープに包まれたマイナス鎖RNAウィルスである。このウィルスは、インフルエンザウィルスA、B、及びCに分類されるが、この内、インフルエンザウィルスAが最も病原性が高く、動物株毎に再集合を起こすことが可能な唯一のタイプと考えられている。不活性化ウィルスに基づく現在のワクチンは、65歳未満の健康な個人の約70から80%において病気を予防することが可能である。しかしながら、このパーセントは、高齢者又は免疫不全者でははるかに低くなる。更に、ワクチン投与に関連する出費及び副作用の可能性のため、この対処法は最善のものではなくなっている。現在、インフルエンザの治療及び/又は予防のために、アメリカ合衆国では4種類の抗ウィルス剤が承認されている。即ち、アマンタジン、リマナジン、ザナミビル、及びオセルタミビルであるが、それらの使用は、副作用、適応性、及び耐性株出現の可能性によって制限される。従って、インフルエンザ感染の治療及び予防のための効果的治療の開発は依然として求められている。
インフルエンザ核カプシドタンパク又は核タンパク(NP)は、RNAセグメントと相互作用をもってRNPを形成する主要な構造タンパクである。これは、インフルエンザAウィルスのRNAセグメント5によってコードされ、1565ヌクレオチド長を有する。NPは498個のアミノ酸を具える。NPタンパクは、ウィルス複製にとって必須である。感染細胞におけるNPタンパク分子の数は、ゲノムRNA(vRNA及びcRNA)複製に対するmRNA合成レベルを調節すると考えられている(1)。従来の研究は、NPタンパクにおける温度感受性突然変異を用いて、mRNAではなく、cRNA合成が、インビトロでもインビボでも温度感受性であることを示した(28,29)。NPタンパクはまた、発生期のcRNA及びvRNA転写体の伸長及び抗停止にも必要であることが示された(29,30)。本発明者らは、NP−特異的siRNAが、感染細胞における全てのウィルスRNAの蓄積を抑制することを見出した。恐らく、NP−特異的siRNAの存在下では、新たに転写されるNP mRNAが分解され、そのためNPタンパク合成の抑制がもたらされると考えられる。新たに合成されるNPが無い場合、新規ビリオン産生の場合と同様、それ以上のウィルス転写及び複製は阻止される。
パラインフルエンザウィルス
パラインフルエンザウィルス(PIV)はエンベロープで被われ、非セグメント状のマイナス鎖RNAゲノムを有し、モノネガウィルス目パラミクソウィルス科に属する。パラインフルエンザウィルスは、パラミクソウィルス亜科の3種の属の内の二つを具える。即ち、レスピロウィルス(hPIV1及びhPIV3)、及びルブラウィルス(hPIV2及びhPIV4)である。PIVは、幼児及び児童における下気道疾患の一般的原因としてRSVに次ぐ。PIVは、生涯に渡って、通常、上気道疾患(例えば、風邪、及び/又は咽喉炎)として現れる感染を繰り返し引き起こす可能性がある。PIVはまた、下気道疾患(例えば、肺炎、気管支炎、及び細気管支炎)を、特に高齢者、及び免疫系を冒された患者の間に引き起こす可能性がある。クループに対しては対症療法のみが用いられるだけである。利用可能な、特異的抗ウィルス治療は無い。核カプシド(NP)タンパクは、509から557アミノ酸長を持ち、アミノ酸配列は比較的よく保存される。NPは、ゲノム及びアンチゲノムRNAをカプシドの中に包み、各NPモノマーは6個のヌクレオチドと連結する。RNA複製は、NPによる、発生期RNAの合成的カプシド被覆に依存する。NP分子のN−末端75%は、比較的十分に保存される部分である。この部分は、Pとの可溶性複合体の形成のみならず、その後他のNPモノマー、及びRNAと連結して核カプシドの形成にも関与する。
呼吸器合胞体ウィルス
呼吸器多核体ウィルス(RSV)は、パラミクソウィルス科ニューモウィルス属に属する、マイナスセンスの、エンベロープに被われるRNAウィルスである。RSVは、生まれて最初の2ヵ年以内にほとんど全ての児童の上及び下気道に感染するが、同時に、高齢者の罹患率及び死亡率の有力原因でもある。RSV細気管支炎に罹患した幼児は、その後の人生で喘鳴及び喘息を発症する確率が高くなる。この病気は、URT症状で始まり、1−2日で急速に進行し瀰漫性小気道病に至る。RSVはまた、生涯に渡って繰り返し感染を引き起こし、それは通常、中等から重度の風邪様症状を伴う。一方、重度の下気道疾患がいずれの年齢でも起こる場合があるが、特に、高齢者、又は、心臓、肺、又は免疫系が冒された人々には起こりやすい。
RSVに対する効果的治療及びワクチンの実現に関し研究が、ほぼ40年間続けられているがほとんど成功していない。最近では、RSVに対しワクチンは臨床的には認められていない。核カプシド(N)タンパクは、RNAゲノムのカプシド被覆に与る主要構造タンパクであり、ゲノムの複製及び転写に必須である。該タンパクは、1176ヌクレオチド長である。
ヒトメタニューモウィルス
ヒトメタニューモウィルス(hMPV)は、パラミクソウィルス科の一員である。このウィルスは、マイナスセンスRNAウィルスで、二つの遺伝型(A及びB)に分類され、ニューモウィルス亜科のメタニューモウィルス属に割り当てられる。このウィルスは、幼い児童、老齢患者、及び免疫不全宿主における急性気道感染症の原因となる。このウィルス感染に伴う臨床症候群は、中等から重度の呼吸器障害及び急性喘鳴を始め、細気管支炎及び肺炎を具える。核カプシド(N)遺伝子は1206ヌクレオチド長を持ち、RSVのNとほぼ同じ活性を有する。
プラス鎖RNAウィルス
プラス鎖RNAウィルスは、全体的に、又は部分的に翻訳可能なゲノムを持ち、そのため、通常、裸のRNAと同じぐらい感染性が高い。これらのウィルスは、ウィルスゲノムの発現を調節するために、キャップ独立性の翻訳開始、ポリタンパク処理、及びRNA複製の諸機構を利用する。
いくつかのウィルスが、ヒト及び動物において病気を引き起こす。ポリオウィルスは、過去において世界中で重度のポリオを誘発し、この病気を根絶しようと努める発展途上国に対し財政的負担をもたらした。ヒトのライノウィルスは、効果的な治療又は予防のない、最も蔓延するウィルス疾患の一つである鼻風邪をもたらす。口蹄疫ウィルス(FMDV)、即ち、アフトウィルスは、最近、羊及び牛に大流行をもたらし、ヨーロッパの農業に重大な財政危機を引き起こした。コクサッキーウィルスは、口蹄疫症候群、心筋症、及び、眼球結膜炎のような疾患の原因となる(主に、幼い児童)。肝炎ウィルスであるA型肝炎ウィルスは、肝臓病の主要原因であることが知られる。
本発明に有用なプラス鎖RNAウィルスとしては、ヒトアストロウィルス、ノーウォーク様ウィルス、コロナウィルス、A、C、及びE型肝炎ウィルス、黄熱病ウィルス、ポリオウィルス、ライノウィルス、脳心筋炎ウィルス、ヒトパレコウィルス(Human parechovirus)、HIV−1、デングウィルス、西ナイルウィルス、口蹄疫ウィルス、風疹ウィルス、及び黄色熱ウィルスが挙げられる。他の、好適なプラス鎖RNAウィルスは、当業者には既知である。例示のプラス鎖ウィルスウィルス核タンパク核酸配列の、Genbankアクセス番号として、AY391777、AJ313030、NC_001474、AY660002、D83645(カプシド)、X03700(カプシド)、及びL24917(カプシド)が挙げられる。
ヒトコロナウィルス
コロナウィルス科の一員であるヒトコロナウィルス(HCoVs)は、鼻風邪の最大3分の1の原因となる、環境に普遍的に広がるウィルスである。このウィルスは、エンベロープに包まれるウィルスで、最大31kbのプラス鎖RNAを有する。このサイズは、全てのRNAウィルスの内で知られる最大のゲノムを表す。ヒトコロナウィルスは、全鼻風邪の10から30%の原因となる。全ての年齢群が冒され、感染率は、全ての年齢群において均等であることが示されている。感染は、治療を要するほどではなく、きわめて穏やかである。幼い児童及び老人では、比較的重度の下気道感染が報告されている。類似の、また、異なるウィルス株による再感染は一般的である。一つのコロナウィルス群に対する抗体は、別の群のウィルスによる感染、又は、同じ群であっても、4ヶ月後の感染に対しては防御しない。
西ナイルウィルス
フラビウィルス科の一員である西ナイルウィルス(WNV)は、最近、アメリカ合衆国全体に蔓延し、その感染は、2003年に、9000を超える症例、及び200の死亡例をもたらした。このウィルスは、米国では、ウィルス性脳炎の最も一般的な原因となっている。西ナイルウィルスの脳炎は、人獣共通伝染病である。このウィスルのライフサイクルは、宿主として鳥類、媒介動物として蚊を具える。ヒトは偶発的宿主となるが、ウィルス血症は低度で、一過性であるため、ウィルスのライフサイクルを支えるには十分ではない。しかしながら、血液、臓器移植、及び哺乳によるヒトからヒトへの伝染が報告されている。最近の流行における重度の神経学的疾患の頻度は、従来西ナイル熱と関連されるものよりももっと神経毒性の高いウィルス株の存在を示唆する。神経学的症状がいくつか記述されているが、最も特徴的な症状は、脱力をともなう脳炎である。これまで、治療的介入は、西ナイルウィルスの治療において一貫した臨床効力を全く示してこなかった。
ライノウィルス
ヒトライノウィルスは、鼻風邪、及び、関連する上気道合併症の主要原因因子である。このウィルスは、百を超える血清型を有するので、以前ライノウィルスに暴露したことがあってもそれはほとんど免疫学的保護とはならず、そのため感染率は高くなる(Hayden FG.「ライノウィルス及び下気道(Rhinovirus and the lower respiratory tract)」,Rev Med Virol.2004;14(1):17−31)。しかしながら、感染は、喘息患者、高齢者、及び免疫不全患者では、短期の、自己限定性疾患を引き起こす。このウィルスは、ピコルナウィルス科に属するエンベロープを被らない、プラス鎖RNAウィルスであり、約7200ヌクレオチドのゲノムを有する。このウィルスのゲノムは、宿主の細胞原形質中に放出されると、直接mRNAとして機能する(McKnight KL,Lemon SM.「ライノウィルスタイプ14ゲノムは、ウィルス複製に必要なRNA構造を内部に具える(The rhinovirus type 14 genome contains an internally located RNA structure that is required for viral replication)」,RNA;4:1569−84)。
ライノウィルスは、エアロゾル又は直接接触によって伝染する。接種の主要部位は鼻腔粘膜である。ただし、結膜も、程度は低いものの関与する(Tan WC.「喘息悪化におけるウィルス(Viruses in asthma exacerbations)」,Curr Opin Pulm Med.2005;11:21−6)。ウィルスは呼吸器上皮に付着し、局所に広がる。このウィルスに対するヒトの主要な受容体は、細胞間接着分子−1(ICAM−1)である(Weinberger M.「呼吸器感染と喘息:現代の治療戦略(Respiratory infections and asthma:current treatment strategies)」,Drug Discov Today.2004;9:831−7)。いくつかのRV血清型も、ヒトの上皮細胞におけるICAM−1発現を上方調整し、感染感受性を高める(Papi A,Papadopoulos NG,Stanciu LA,Degitz K, Holgate ST,Johston SL.「呼吸器上皮細胞におけるライノウィルス誘発性細胞間接着分子1の上方調整及びプロモータ活性化に及ぼす、デスロラタジン及びロラタジンの作用(Effect of desloratadine and loratadine on rhinovirus−induced intercellular adhesion molecule 1 upregulation and promoter activation in respiratory cells.J Allergy Clin Immunol.2001;108:221−8)。このウィルスは、鼻腔通路及び上方の気管・気管支樹状部では頻繁に複製するが、下気道では比較的稀である。ウィルス血症はめったにないが、ウィルスは大量に放出される。ウィルス放出は二、三日起こり、その後、風邪症状が患者によって認められ、病気の2から7日目にピークに達し、3から4週間も長く続くことがある。
上気道のライノウィルス感染は、喘息の悪化と関連しており、研究から、これは、アレルゲン暴露又は大気汚染との、加重的又は協働的相互作用によって引き起こされることが示唆されている(Tan、上記)。ライノウィルスに対する抗ウィルス免疫不全は、ウィルス排除不全をもたらし、従って症状が長引くことになる。Th−2サイトカインは、ヒトライノウィルス受容体の上方調整に重要な役割を演じていることが知られるが、ライノウィルス感染後における喘息患者の病気悪化の原因となっている可能性がある(Bianco A,Sethi SK,Allen JT,Knight RA,Spiteri MA.「Th2サイトカインは、主要群のヒトライノウィルス受容体、ICAM−1の上皮細胞発現に優勢な影響を及ぼす(Th2 cytokines exert a dominant influence on epithelial cell expression of the major goup human rhinovirus receptor,ICAM−1)」.Eur Respir J.1998;12:619−26)。
デングウィルス
デングは、世界中の熱帯・亜熱帯地域を襲うウィルス風土病である。デング熱(DF)、及び、デング熱のより重度の病態、デング出血熱(DHF)及びデングショック症候群(DSS)は公衆衛生上の大問題であり、近年急激に増大している。この病気は、アフリカ、アメリカ、東地中海、東南アジア、及び西太平洋における百を超える国々における風土病であって、250億を超える人々を脅かしている(Gubler,D.J.1998「デング及びデング出血熱(Dengue and dengue hemorrhagic fever)」,Clin.Microbiol.Rev.11:480−496)。世界保健機構は、毎年、5千万から1億のデングウィルス感染症例があり、これは、毎年、25万から50万のDHF例をもたらし、2万4千人の死亡を招くと推定している(Gibbons,R.V.,and D.W.Vaughn.2002.「デング:拡大する問題(Dengue: an escalating problem)」,BMJ 324:1563−1565;World Health Organization.1997.「デング出血熱:診断、治療、予防、及び駆除(Dengue haemorrhagic fever:diagnosis,treatment,prevention and control)」,2nd ed.World Health Organization,Geneva,Switzerland)。
デングウィルスは、蚊によって媒介されるフラビウィルスであり、世界の熱帯及び亜熱帯地域において最も蔓延するアルボウィルスである(Gubler,D.J.1997.「デング及びデング出血熱:その歴史及び、全世界規模の公衆衛生問題としての再流行(Dengue and dengue hemorrhagic fever:its history and resurgence as a global public health problem)」,p.1−22.In D.J.Gubler and G.Kuno(ed.),Dengue and dengue hemorrhagic fever.CAB International,New York,N.Y.)。デングウィルスは、プラス鎖、カプセル封入型RNAウィルスである。ゲノムRNAは、約11kb長であり、核カプシド即ちコアタンパク(C)、膜関連タンパク(M)、エンベロープタンパク(E)をコードする三つの構造タンパク遺伝子、及び、七つの非構造的(NS)タンパク遺伝子から構成される。タンパクは、約3,000個のアミノ酸から成るポリタンパクとして合成され、これが、翻訳中及び翻訳後に、ウィルス及び宿主のプロテアーゼによって処理される(Deubel,V.,R.M.Kinney,and D.W.Trent.1988.「デング2型ウィルス、ジャマイカ遺伝子型の非構造的タンパクのヌクレオチド配列、及び誘導されたアミノ酸配列:全長ゲノムの比較分析(Nucleotide sequence and deduced amino acid sequence of the nonstructural proteins of dengue type 2 virus,Jamaica genotype:comparative analysis of full−length genome.Virology 165:234−244)」)。4種の異なる血清型、血清型1から4がある。一つの血清型による感染は、他の血清型に対する保護を与えない。むしろ、一般に、デングウィルスの各種血清型による二次感染、或いは二次又は複数感染による感染は、抗体依存性強化のためDHF−DSSの主要危険因子となっている(Halstead,S.B.1988.「デングの病原性:分子生物学への挑戦(Pathogenesis:challenge to molecular biology)」,Science 239:476−481)。現在、このウィルスに対しては有効なワクチンがある。
このウィルスは、不顕感染、感冒様の、穏やかで目立たぬ発熱、及び古典的DFから、比較的重度のDHF−DSSに至るまで、広範な病気を引き起こす。そのため、罹患率及び死亡率は高い(Gubler,D.J.1998「デング及びデング出血熱(Dengue and dengue hemorrhagic fever)」,Clin.Microbiol.Rev.11:480−496)。
二本鎖RNAウィルス
dsRNAウィルスは多元発生起源である。レオウィルスは、dsRNAウィルスの内で最もよく調べられているものの一つである。この科の代表的なものは、植物、動物、及び昆虫に感染し、昆虫媒介物のみならず、交互に、動物又は植物の宿主にも感染するようである。ウィルスは全て二重、又は三重のカプシド構造を持ち、該カプシド構造の最外層は、細胞内進入の際に脱ぎ捨てられる。細胞原形質中の裸のコア粒子は、該粒子が合成され、翻訳される間に、細胞原形質へ導かれたRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)活性を介して、キャップ被覆、非アデニル化ゲノムセグメント長のモノシストロンmRNAを転写することが可能である。ウィルス産物は、ウィロプラスマとして蓄積する。ウィルスの構造及びポリメラーゼタンパク、及びmRNAの連合は、未熟粒子の集合をもたらし、その中で、mRNAは転写されて、該mRNAと塩基対を形成する、マイナス鎖RNA分子を生成する。中間及び内部カプシドタンパクの重要性は、ロタウィルスの例で具体的に説明される。
本発明において有用な二本鎖RNAウィルスとしては、ロタウィルス、レオウィルス、哺乳類オルトウィルス、及びコロラドダニ熱ウィルスが挙げられる。他の好適な二本鎖RNAウィルスも当業者には既知である。例示の二本鎖ウィルス核タンパク核酸配列に対するGenbankアクセス番号は、K02086(VP6)及びX14942(VP2)を具える。
ロタウィルス
ロタウィルスは、レオウィルス科の一員であるが、幼児及び幼い児童における急性胃腸炎の重要な原因である(Kapikian,A.Z.2001「ロタウィルス(Rotavirus)」,p.1787−1833.Fields virology,4th ed.Lippincott/The Williams & Wilkins Co.,Philadelphia,Pa.)。このウィルスは、3層の同心のタンパク層から構成される正二十面体で、ゲノムは、11セグメントの二本鎖RNA(dsRNA)から成る(Prasad,B.V.1988,J.Mol.Biol.199:269−275)。感染性三重層粒子(TLP)は、糖タンパクVP7及びスパイクタンパクVP4から構成される。中間層は、VP6 3マーによって形成され、内層は、コア格子タンパクVP2によって形成される。VP2格子の頂点に位置するのは、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)及びmRNA−キャッピング酵素VP3の個別のコピーである(Lawton,J.A.,1997,J.Virol.71:7353)。
VP6は、ウィルスの中間層を形成し、外層タンパクVP7及びVP4、内層タンパクVP4及びVP7、及び内層タンパクVP2との相互作用を通じて、ウィルスの2主要機能、即ち、細胞進入及び内因性転写を統合する。VP6自体は、酵素機能を全く欠如するが、ゲノムの内因性転写にとって必須である。Cryo−EM研究から、発生期のmRNA転写体は、特異的に、VP6層におけるI型チャンネルを通じて生まれることが示されている(Lawton,J.A.,2000,Adv.Virus Res.55,185−229)。VP6層の擬似原子モデルに基づく突然変異分析によって、VP2におけるVP6 3マーの適切な集合が、内因性転写には絶対的要件であることが示された。部位特異的アミノ酸置換は、部分的に、又は完全に、トランスクリプターゼ活性を阻止する(Charpilienne,A.,2002,J.Virol.76,7822−7831)。カプシド層(ロタウィルスのVP6層に相当)のチャンネルを介する転写体の生成は、dsRNAウィルスにおいて共通の主題であるようである。この層の領域は、転写体反応の基質の排出口としても機能することが示されている。
VP2は、外側ではVP6層と、内側ではゲノムRNAと相互作用を有する最内層を形成する。VP2は、そのN−末端残基を通じてRNA−結合能力を示す。このRNA−結合性を通じて、VP2は、RNA鎖の間に適切な空間を維持し、転写時、ゲノムRNAが転写複合体の周囲を動き回ることを可能とする点において重要な役割を果たす(Pesavento,J.B.,2001,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,98,1381−1386)。従って、VP2の主要機能の一つは、内因性転写に至る、ゲノムの構造的統制を指令することである。
RNA誘発性実体−siRNA及びshRNA分子
本発明は、siRNA分子、siRNA分子の製造法、及び、siRNA分子の使用法(例えば、予防及び/又は治療法、ならびに研究法)をその特徴とする。siRNA分子は、約10から60、又はそれ以上のヌクレオチド(又はヌクレオチド類縁体)、約15から25ヌクレオチド(又はヌクレオチド類縁体)、又は約19から23ヌクレオチド(又はヌクレオチド類縁体)の長さを有していてもよい。siRNA分子は、約10から20、20から30、30から40、40から50、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、又は29のヌクレオチド(又はヌクレオチド類縁体)の長さを持ってもよい。好ましい実施例では、siRNA分子は、19ヌクレオチド長を有する。上記の範囲の中に含まれる全ての範囲及び値は、本発明の範囲内にあることを理解しなければならない。一般に、長いdsRNA(60ヌクレオチドを超える)は、哺乳類細胞、例えば、ヒト細胞の細胞死(「インターフェロン反応」と呼ばれる)を誘発することが判明しているので、短いものに比べ好ましくない。siRNAは、リン酸基を5′末端に、約1又は2個のヌクレオチドから成る短いオーバーハングを3′末端に具えることが好ましい。ある好ましい実施例では、RNAi誘発性実体は、短いヘアピンsiRNA(shRNA)、又は発現されたshRNAであってもよい。このようなshRNA及び該siRNAの製造法が、実施例において論じられる。別の実施例では、siRNAは、siRNA複合体において一又はそれ以上のタンパクと連結されていてもよい。
本発明のsiRNAは、少なくとも部分的にウィルス転写体に結合させ、しかも結合を、宿主機関によって該標的ウィルス転写体の破壊をもたらすやり方で行うことによって、宿主におけるウィルス遺伝子の発現を抑制するために供給される。従って、本発明のsiRNA分子は、本明細書において定義される通りのRNA干渉(RNAi)を仲介するのに十分なほど、ウィルス核タンパク遺伝子の一部に対して相補的な配列である配列を具える。即ち、siRNAは、RNAi機関又は過程を通じて標的RNAの分解を誘発するのに十分なほど特異的な配列を有する。siRNAは、アンチセンス鎖の各残基が、標的分子の残基に対して相補的となるように設計されてもよい。それとは別に、前記分子を活性化するために、及び/又は、前記分子の処理活性を強化するために置換を分子の中で実行してもよい。置換は、鎖の内部で行ってもよいし、或いは、各鎖の残基に対して行ってもよい。
siRNAによって導かれる標的RNA切断反応は、高度に配列特異的である。一般に、抑制のためには、標的遺伝子の一部と同一であるヌクレオチド配列を具えるsiRNAが好ましい。本発明のsiRNAは、一般に、二本鎖分子として供給されるが、siRNAのアンチセンス鎖の同一性及び相補性は、標的転写体に対して決められる。従って、本明細書で用いる場合、ウィルス核タンパクをコードする核酸の一部に対して同一な核酸配列の開示は、二本鎖siRNAの両鎖を具える。しかしながら、本発明を実行するためには、siRNA及び標的遺伝子の間の100%の配列同一性は必要ないことが認識される。従って、本発明は、遺伝子突然変異、ウィルス株多型、又は進化的分化によって予想される配列変動を容認可能であるという利点を有する。例えば、標的配列に対し、挿入、欠失、及び単一点突然変異を具えるsiRNAも、抑制のために効果的である。それとは別に、ヌクレオチド類縁体置換又は挿入を有するsiRNA配列も抑制のために効果的である。更に、siRNAの必ずしも全ての位置が、標的認識に対し等しく寄与するわけではない。siRNAの中心部のミスマッチは最も重要であり、標的RNAの切断を事実上中断する場合がある。一方、siRNAの3′ヌクレオチド(例えば、siRNAのアンチセンス鎖の3′ヌクレオチド)は、通常、標的認識の特異性には目立って寄与しない。特に、標的RNAに対して相補的なsiRNA配列(例えば、ガイド配列)の3′残基は一般に、標的RNA切断にとって必要不可欠ではない。
必ずしも全てのsiRNAが、任意の特定の標的遺伝子の発現の低下又は抑制において等しく効果的ではないことが従来技術で知られている(例えば、異なるsiRNAの効力に変動のあることを報告する、Holen,T.,et al.,Nucleic Acids Res.,30(8):1757−1766を参照)。選択されたsiRNAが効果的となる確率を高めるように、様々な配慮が用いられてよい。例えば、イントロンではなく、エキソンの中に標的部分を選択することが好ましい。siRNAは、一般に、RNA試薬の市販業者である、Dharmacon Research Inc.,Lafayette,CO80026による、Technical Bulletin #003−Revision B,「RNAi応用のためのsiRNAオリゴヌクレオチド(siRNA Oligonucleotides for RNAi Applications)」、及びTechnical Bulletin #4に従って設計されてもよい。Dharmaconから発行される「RNAi技術参考文献及び応用ガイド(RNAi Technical Reference & Application Guide)」は、siRNA設計パラメータ、合成等に関する様々な情報を具える。なお参照することによりこれを本明細書に含める。更に採用してもよい他の設計配慮が、Semizarov,D.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,Vol.100,No.11,pp.6347−6352に記載されている。
配列同一性は、従来技術で既知の、配列比較及び整列アルゴリスムによって決定してもよい。二つの核酸配列(又は、二つのアミノ酸配列)の同一性パーセントを求めるには、その二つの配列を、最適比較のために整列させる(例えば、最適整列を実現するよう、第1配列又は第2配列の中にギャップが導入される)。次に、対応ヌクレオチド(又はアミノ酸)位置におけるヌクレオチド同士(又はアミノ酸残基同士)が比較される。第1配列における位置が、第2配列の対応位置のものと同じ残基によって占められている場合、これらの分子は、その位置において同一である。二つの配列間の同一性パーセントは、両配列によって共有される同一位置の数の関数であり(即ち、相同性%は、同一位置の数を位置の総数で割り、それを100倍したものに等しい)、選択的に、導入したギャップの数、及び/又は、導入したギャップの長さに関してスコアに罰点を与える。
二つの配列の間の配列の比較、及び同一性パーセントの決定は、数学的アルゴリスムを用いることによって実現される。一つの実施例では、十分な同一性を有する配列の一部では整列が得られるが、低度の同一性を有する部分ではそうならない(即ち、ローカル整列)。配列同士の比較のために利用される局所的整列アルゴリスムの好ましい、非限定的例は、Karlin & Altschul,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264−68(1990)のアルゴリスムで、Karlin & Altschul,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873−77(1993)のように修正されたものである。このようなアルゴリスムは、Altschul,et al.,J.Mol.Biol.215:403−10(1990)のBLASTプログラム(バージョン2.0)の中に取り込まれる。別の実施例では、適当なギャップを挿入することによって整列を最適化し、同一性パーセントは、整列された長さ(即ち、ギャップ入り整列)に渡って決定される。比較用としてギャップ入り整列を得るためには、Altschul,et al.,Nucleic Acids Res.25(17):3389−3402(1997)に記載されるようなギャップ入りBLASTを利用してもよい。別の実施例では、整列は、適当なギャップを導入することによって最適化され、同一性パーセントは、整列された配列の全長に渡って決定される(即ち、グローバル整列)。配列同士のグローバル比較のために利用される数学的アルゴリスムの、好ましい、非限定的例は、Myers and Miller,CABIOS(1989)のアルゴリスムである。このようなアルゴリスムが、GCG配列整列ソフトウェアパッケージの一部である、ALIGNアルゴリスム(バージョン2)に組み込まれている。アミノ酸配列を比較するためにALIGNプログラムを利用する場合、PAM重み残基表、12のギャップ長ペナルティ、及び、4のギャップペナルティを用いてもよい。
siRNA(例えば、siRNAのアンチセンス鎖)と、標的遺伝子の一部との間において、80%を超える配列同一性、例えば、84%、89%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%でも、配列同一性のあることが好ましい。約19−25ヌクレオチドから成るsiRNAを考えた場合、例えば、少なくとも16から21個の同一ヌクレオチドが好ましく、より好ましくは少なくとも17から22個の同一ヌクレオチド、更に好ましくは少なくとも18から23個、又は19から24個の同一ヌクレオチドである。言い換えると、約19から25ヌクレオチド長を有するsiRNAでは、約4個以下のミスマッチを有するsiRNAが好ましく、好ましくは3個以下のミスマッチ、より好ましくは2個以下のミスマッチ、更に好ましくは1個以下のミスマッチである。例えば、siRNAは、標的配列に対し、1、2、3、又は4個のミスマッチを有するアンチセンス鎖を具える。
代替として、siRNAは、標的遺伝子転写体の一部とハイブリダイズすることのできる(例えば、400mM NaCl、40mM PIPES pH6.4,1mM EDTA,50℃又は70℃でハイブリダイゼーション12から16時間、その後洗浄)ヌクレオチド配列を具えるものと機能的に定義してもよい。別の好ましいハイブリダイゼーション条件として、70℃で1X SSC、又は50℃で1X SSC、50%ホルムアミド、次いで70℃で0.3X SSCで洗浄か、或いは、70℃で4X SSC、又は50℃で4X SSC、50%ホルムアミド、次いで67℃で1X SSCで洗浄が挙げられる。その長さが50塩基対未満が予想されるハイブリッドのハイブリダイゼーション温度は、ハイブリッドの融解温度(Tm)よりも5から10℃低くなければならない。なお、Tmは、下記の方程式によって決められる。長さが18塩基対未満のハイブリッドの場合、Tm(℃)=2(A+T塩基の数)+4(G+C塩基の数)。18と49の間の塩基対を有するハイブリッドの場合、Tm(℃)=81.5+16.6(log10[Na+])+0.41(%G+C)(600/N)である。前式において、Nはハイブリッドにおける塩基の数であり、[Na+]は、ハイブリダイゼーションバッファーにおけるナトリウムイオンの濃度(1X SSC=0.165Mにおける[Na+])である。ポリヌクレオチドハイブリダイゼーションのストリンジェントな条件に関する更に別の例が、Sambrook,J.,et al.,1989,「分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)」,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,chapters9and10,and Current Protocols いん Molecular Biology,1995,F.M.Ausubel,et al.,eds.,John Wiley & Sons,Inc.,sections 2.10and 6.3−6.4)に提示されている。なお、これらの文献を引用することにより本明細書に含める。同一ヌクレオチド配列の長さは、少なくとも約10、12、15、17、20、22、25、27、30、32、35、37、40、42、45、47、又は50塩基であってもよい。
一つの実施例では、本発明のRNA分子は、血清、又は細胞培養用の培養媒体における安定性を改善するために修飾される。安定性を強化するために、3′残基を、分解に対して安定化させてもよい。例えば、それらの残基が、プリンヌクレオチド、例えば、アデノシン又はグアニンから成るように選択されてもよい。それとは別に、ピリミジンヌクレオチドの修飾された類縁体による置換、例えば、ウリジンの2′−デオキシチミジンによる置換は容認され、RNA干渉の効率に影響を及ぼさない。例えば、2′ヒドロキシル基の欠如は、組織培養液におけるsiRNAのヌクレアーゼ耐性を顕著に強化する可能性がある。
本発明の好ましい実施例では、RNA分子は、少なくとも一つの修飾されたヌクレオチド類縁体を含んでもよい。ヌクレオチド類縁体は、標的特異的活性、例えば、RNAi仲介活性がほとんど影響されない位置、例えば、RNA分子の5′末端及び/又は3′末端の領域に配されてもよい。特に、末端部は、修飾されたヌクレオチド類縁体を取り込むことによって安定化されてもよい。好ましいヌクレオチド類縁体としては、糖及び/又はバックボーン(即ち、リン酸基−糖バックボーン)を修飾されたリボヌクレオチドが挙げられる。例えば、天然RNAのホスホジエステル結合は、窒素又は硫黄ヘテロ原子の内の少なくとも1個を具えるように修飾されてもよい。好ましいバックボーン修飾リボヌクレオチドでは、隣接リボヌクレオチドに接続されるホスホジエステル基は、修飾基、例えば、ホスホロチオアート基によって置換される。好ましい糖修飾リボヌクレオチドでは、2′OH基は、H、OR、R、ハロ、SH、SR、NH2、NHR、NR2、又はONから選ばれる基によって置換される。前式において、Rは、C1−C6アルキル、アルケニル、又はアルキニルであり、ハロは、F、Cl、Br、又はIである。
また好ましいのは、核酸塩基修飾リボヌクレオチド、即ち、天然の核酸塩基の代わりに、非天然核酸塩基を具えるリボヌクレオチドである。塩基は、アデノシンデアミナーゼの活性を阻止するように修飾されてもよい。例示の修飾核酸塩基としては、5−位において修飾されたウリジン及び/又はシチジン、例えば、5−(2−アミノ)プロピルウリジン、5−ブロモウリジン;8位において修飾されたアデノシン及び/又はグアノシン、例えば、8−ブロモグアノシン;デアザヌクレオチド、例えば、7−デアザ−アデノシン;O−、及びN−アルキル化ヌクレオチド、例えば、N6−メチルアデノシンが挙げられるが、ただしこれらに限定されない。上記修飾体は組み合わせてもよいことに注意しなければならない。
ある実施例では、siRNAは、少なくとも一つのヌクレオチドを、修飾ヌクレオチドによって置換することによって修飾される。核タンパク転写体の標的配列と比べた場合、siRNAは一又はそれ以上のミスマッチを含んでもよく、その場合でも、RNAiを仲介することは可能である。
本発明の、核タンパク指向性siRNAの、RNAiを仲介する能力は、本明細書に提示されるウィルス遺伝子の内のあるもの、例えば、インフルエンザウィルス遺伝子の速やかな突然変異率を考慮すると特に有利である。本発明者等は、RNAi標的としての核タンパク遺伝子の使用を提示する。なぜなら、本発明者等は、核タンパク遺伝子は、一般に、他のウィルス遺伝子に比べ突然変異率が低いことを認めたからである。更に、本発明の実施例では、siRNAは、ウィルス核タンパク遺伝子の保存領域を標的とする。本発明は、例えば、患者特異的siRNA又はプラスミドを合成することによって、及び/又は、核タンパク遺伝子にそってゆらぐいくつかのsiRNAを導入することによって、この能力を更にてこ入れするいくつかの実施例を考慮している。一つの実施例では、下記に更に詳細に論じられるように、核タンパク遺伝子の、高度に及び/又は中等度に保存される領域が標的とされる。別の実施例では、被験体から生物サンプルが得られる。本明細書で用いる場合、生物サンプルは、ウィルス核酸を具える被験体から得られる任意の材料である。例えば、宿主被験体の、一又はそれ以上の感染細胞が調達され、その中のウィルス核タンパク遺伝子のゲノムが配列決定され、或いは、他のやり方で分析され、一又はそれ以上の対応するsiRNA、プラスミド、又はトランスジーンが選択又は合成される。
siRNAの製造
一つの実施例では、siRNAが、インビボか、又はインビトロで合成される。細胞の内因性RNAポリメラーゼが、インビボで転写を仲介してもよいし、或いは、クローンされたRNAポリメラーゼを、インビボ、又はインビトロにおける転写のために使用してもよい。インビボにおいてトランスジーンから、又は発現構築体から転写を行う場合には、siRNAを転写するために、調節領域(例えば、プロモーター、エンハンサー、又はスプライスドナー及びアクセプター)を用いてもよい。抑制は、器官、組織、又は細胞タイプにおける特異的転写;環境条件の刺激(例えば、感染、ストレス、温度、化学的誘発剤);及び/又は、ある発達段階又は年齢において転写を加工することによって標的してもよい。組み換え構築体のsiRNAを発現するトランスジェニック生物を、接合体、胎生幹細胞、又は、適切な生物から得られた多能細胞の中に該構築体を導入することによって産生してもよい。
更に、siRNAは、細胞内の多数のRNAを切断するのに使用可能であるばかりでなく、siRNAは、宿主細胞の酵素によって細胞内で複製及び増幅させることも可能である。Alberts,et al.,The Cell 452(4th Ed.2002)。
RNAは、酵素的に、及び/又は、部分的/完全有機合成によって産生してもよく、インビトロ酵素又は有機合成によって任意の修飾リボヌクレオチドを導入してもよい。一つの実施例では、siRNAは化学的に調製される。RNA分子の合成法は、従来技術で既知であり、特に、化学的合成法は、Verma and Eckstein,Annul Rev.Biochem.67:99−134(1998)に記載される。別の実施例では、siRNAは、酵素的に調製される。例えば、siRNAは、所望の標的RNAに対して十分な相補性を有する長いdsRNAを酵素的に処理することによって調製することが可能である。長いdsRNAの処理は、インビトロで実現することが可能である。例えば、適切な細胞分解物を用い、次いで、ds−siRNAを、ゲル電気泳動又はゲルろ過によって精製することが可能である。ある例示の実施例では、RNAは、溶媒又は樹脂による抽出、沈殿、電気泳動、クロマトグラフィー、又はそれらの組み合わせによって精製される。それとは別に、RNAは、サンプル処理による損失を回避するために、精製を全くすることなく、又は最小にとどめて使用してもよい。
siRNAはまた、合成DNA鋳型から、又は組み替え細菌から分離されたDNAプラスミドから酵素的転写することによって調製することも可能である。通常、ファージDNAポリメラーゼ、例えば、T7、T3、又はSP6 RNAポリメラーゼが用いられる(Milligan & Uhlenbeck,Methods Enzymol.180:51−62(1989))。RNAは、保存のために乾燥させてもよいし、或いは、水溶液に溶解してもよい。溶液は、アニーリングを抑制するため、及び/又は、1本鎖の安定化を促進するためにバッファー又は塩を含んでもよい。
siRNA
本発明の別の態様は、RNAiを仲介するために、核タンパク遺伝子ゲノムの一部に対し十分な相補性を有する配列を具える、一又はそれ以上のsiRNAを含むベクターを含む。ベクターは、siRNAの一又はそれ以上のコピーを発現することによって、RNAiを治療的に、又は予防的に起動するようインビボで投与されてもよい。一つの実施例では、合成shRNAが、プラスミドベクターの中で発現される。別の実施例では、プラスミドはインビボで複製される。別の実施例では、ベクターは、ウィルスベクター、例えば、レトロウィルスベクターであってもよい。このようなプラスミドの例、及びこのようなプラスミドを作製する方法が、実施例に具体的に説明される。ベクター及びプラスミドの使用は、ベクターの方が、合成siRNAよりも安定であり、従って、siRNAの長期の発現を実行する点で有利である。
ある標的ウィルスは急速に突然変異し、1個ではあってもヌクレオチドのミスマッチをもたらし、それが、ある場合には、RNAiを阻害することがある。従って、一つの実施例では、RNAiを仲介するのに十分な相同性が保持される確率を高めるために、複数のsiRNAを発現するベクターが考慮される。これらのsiRNAは、核タンパク遺伝子に沿ってずらされるか、或いは、核タンパク遺伝子の一つ領域に集合される。例えば、複数のsiRNAは、約200ヌクレオチド長で、その3′末端を具える核タンパク遺伝子のある領域に向けられる。一つの実施例では、ベクターによって発現される一又はそれ以上のsiRNAはshRNAである。siRNAは、核タンパク遺伝子の一部、又は核タンパク遺伝子の異なる標的部分に沿ってずらしてもよい。一つの実施例では、ベクターは、約3種のsiRNA、好ましくは約5種のsiRNAをコードする。siRNAは、核タンパク遺伝子の保存領域を標的としてもよい。
RNA、ベクター、及び宿主細胞の導入法
本発明の介在因子(例えば、siRNA、ベクター、トランスジーン)を導入するための物理的方法としては、該因子を具える溶液の注入、該因子によって被われる粒子の発射、該因子を含む溶液に細胞又は生物を浸すこと、又は、該因子の存在下における細胞膜の電気穿孔が挙げられる。ウィルス粒子にパッケージしたウィルス構築体を用いたならば、細胞に対する発現構築体の効率的な導入と、発現構築体によってコードされる、siRNAを具えるRNAの転写の両方が十分達成される。細胞に核酸を導入するための、従来技術で既知の方法、例えば、脂質介在担体輸送、化学薬品介在輸送、例えば、リン酸カルシウム等も使用が可能である。従って、siRNAは、一又はそれ以上の活性、例えば、細胞によるsiRNAの取り込みを強化する活性、2本のsiRNA鎖が互いにアニールするのを抑制する活性、単一鎖を安定化する活性、又はその他のやり方で標的遺伝子の抑制を増強する活性を実行する成分とともに導入されてもよい。
介在因子は、細胞の中に(細胞内)直接導入されてもよいし、又は、細胞外の腔又は細胞間スペースに、生物の循環の中に導入されてもよいし、又は、細胞又は生物は、RNAを具える溶液に浸すことによって導入されてもよい。介在因子を導入してもよい部位として、血管又は血管外循環、血液又はリンパ系、脳脊髄液が挙げられる。
細胞は、介在因子輸送時に、標的に感染されてもよく、又は、介在因子の輸送後に標的ウィルスに暴露されてもよい。細胞は、いずれの生物から得られたものでも、いずれの生物に含まれるものであってもよい。細胞は、生殖系列又は体細胞、全能性又は多能性、分裂中又は非分裂中、実質又は上皮、恒久系統又は形質変換等から得られたものであってもよい。細胞は幹細胞又は分化細胞であってもよい。
特定の標的遺伝子、及び送達される二本鎖RNA材料の用量に応じて、この過程は、標的遺伝子の部分的又は完全な機能消失をもたらす可能性がある。標的細胞の、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、又は99%以上における遺伝子発現の低下又は消失が例として示される。遺伝子発現の抑制とは、ウィルスタンパク、RNA、及び/又はDNAのレベルにおける消失(又は観察できる低下)を指す。特異的とは、他の遺伝子、特に宿主細胞の遺伝子に対して作用を示すことなく、標的遺伝子を抑制することが可能な能力を指す。抑制の結果は、細胞又は生物の外面性質を調べることによって、或いは、生化学的技術、例えば、RNA溶液ハイブリダイゼーション、ヌクレアーゼ保護、ノーザンハイブリダイゼーション、マイクロアレイによる逆転写遺伝子発現監視、抗体結合、固相酵素免疫測定法(ELISA)、組み込みアッセイ、ウェスタンブロッティング、ラジオイムノアッセイ(RIA)、その他の免疫アッセイ、及び蛍光活性化細胞分析(FACS)によって確認される。
細胞系統又は全体生物におけるRNA介在抑制では、そのタンパク産物が簡単に定量されるリポーター又は薬剤耐性遺伝子を用いて、遺伝子発現を定量すると好都合である。このようなリポーター遺伝子としては、アセトヒドロキシ酸シンターゼ(AHAS)、アルカリホスファターゼ(AP)、ベータガラクトシダーゼ(LacZ)、ベータグルクロニダーゼ(GUS)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、緑色蛍光タンパク(GFP)、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、ルシフェラーゼ(Luc)、ノパリンシンターゼ(NOS)、オクトピンシンターゼ(OCS)、及びそれらの誘導体が挙げられる。アンピシリン、ブレオマイシン、クロラムフェニコール、ゲンタマイシン、ヒグロマイシン、カナマイシン、リンコマイシン、メトトレキサート、ホスフィノトリシン、プロマイシン、及びテトラサイクリンに対する耐性を付与する多数の選択性マーカーが市販されている。アッセイに応じて遺伝子発現量を定量することによって、本発明に従って治療されない細胞と比較した場合の、10%、33%、50%、90%、95%、又は99%を超える抑制の程度を定量することが可能である。siRNA投与後、注入材料の用量をより少なくし、時間をより長くすると、より少ない割合の細胞の抑制がもたらされる(例えば、標的細胞の少なくとも10%、20%、50%、75%、90%、又は95%)。
細胞における遺伝子発現の定量によって、標的RNAの蓄積レベル、又は標的タンパクの翻訳レベルにおける類似の抑制量が明らかにされる。例として、抑制効率が、細胞において産生される遺伝子量を評価することによって定量される。その際、RNAは、抑制性二本鎖RNA用として使用された領域の外側のヌクレオチド配列を有するハイブリダイゼーションプローブによって検出してもよいし、或いは、翻訳ポリペプチドを、その領域のポリペプチド配列に対して惹起した抗体によって検出してもよい。
siRNAは、少なくとも細胞当たり1コピーの送達を可能とする量として導入される。それよりも高い用量(例えば、細胞当たり、少なくとも5、10、100、500、又は1000コピー)の材料の方がより効率的な抑制をもたらすと思われるが、それよりも低い用量であっても、特定の用途では有用である可能性がある。
診断法及びキット
本発明は、伝染病、例えば、ウィルスによる感染症のRNA依存性治療が、治療を必要とする被験体が、一又はそれ以上のRNAi誘発性実体による抑制に対して感受性を持つかどうかを決める診断工程を含むことが好ましい、とする認識を含む。「抑制に対して感受性を持つ」とは、感染媒介因子の一又はそれ以上の生物学的活性が、被験体に対するRNAi誘発性実態を投与することによって効果的に抑制されることを意味する。感染媒介因子の複製、病原性、伝染性、及び/又は産生が抑制されることが好ましい。例えば、該因子の複製、病原性、伝染性、又は産生が、RNAi誘発性実体を耐忍される用量で被験体に投与した場合、少なくとも25%抑制されることが好ましい。抑制は、治療的に有用な作用を及ぼすのに十分であることが好ましい。
感染に罹った被験体に対して好適なRNAi誘発性実体の選択を可能とするよう、個別の要求に応じて処方される本発明の診断法の例示には、非限定的例として、インフルエンザウィルスが用いられる。しかしながら、本明細書に開示される方法は、本明細書に記載される任意のウィルス、又は、当業者に認識されると考えられる任意のウィルスに対しても適切であることを理解しなければならない。選択されたRNAi誘発性実体はまた、当然のことながら、予防のためにも、例えば、感染した個人と接触した個人に対し、その個人が、感染症状を発症したかどうかとは無関係に投与されてもよい。
従って、本発明は、ウィルス感染を診断する方法、及び、被験体がウィルスに感染しているかどうかを決めるための方法を提供する。ある実施例では、方法は、ウィルス核タンパク転写体を標的とする、本発明の、一又はそれ以上のRNAi誘発性実体によって抑制されるウィルスに、被験体が感染されているかどうかを決めることを含む。例えば、サンプル(例えば、喀痰、唾液、鼻腔洗浄液、鼻腔内綿棒採取、咽頭内綿棒採取、気管支洗浄液、気管支肺胞洗浄液(BAL)、バイオプシー標本等)を、ウィルス感染、例えば、インフルエンザが疑われる被験体から入手する。サンプルに一又はそれ以上の処理工程を実施する。そのような処理サンプルは、どのようなものでも、被験体から得られたものと見なされる。サンプルは、それが、ウィルス特異的核酸、特に、核タンパク転写体を含むかどうかを決めるために分析される。「ウィルス特異的核酸」は、ウィルスを起源とする、又はウィルスから得られた任意の核酸又はその相補体であって、サンプル中のウィルスの存在のインディケータとなり得、且つ、選択的に、ウィルス株及び/又はウィルス遺伝子の配列の同定に使用される核酸又はその相補体である。この核酸に対し、その分離後、処理工程を実施してもよい。例えば、核酸に対し逆転写、増幅、切断等を行ってもよい。ある実施例では、サンプル中に存在するウィルス特異的核酸の配列、又はその相補体は、RNAi誘発性因子、例えば、siRNA又はshRNAのアンチセンス又はセンス鎖と比較される。「比較」という言葉は、広い意味で、配列を評価する任意の方法、例えば、配列が、参照配列に対し同じか、又は、一又はそれ以上の箇所において異なるかを定めることが可能な方法、又は、相違の程度を評価する方法を指すために使用される。
多種多様な核酸系アッセイの内のどれでも使用が可能である。ある実施例では、診断アッセイは、都合よく、及び/又は高度に保存される標的部分、又はその相補体、又は、都合よく、及び/又は高度に保存される標的部分、又はその相補体の断片を含む核酸を利用する。ある実施例では、核酸は、例えば、後述のようなアッセイにおける増幅プライマー、又はハイブリダイゼーションプローブとして使用される。
ある実施例では、サンプル中のインフルエンザ特異的核酸が増幅される。恒温標的増幅法としては、転写体介在性増幅(TMA)、自己持続配列増幅(3SR)、核酸配列依存性増幅(NASBA)、及びそれらの改変種が挙げられる。検出又は比較は、従来技術で既知の種々の方法、例えば、増幅依存性アッセイ、ハイブリダイゼーションアッセイ、プライマー伸長アッセイ(例えば、異なるインフルエンザウィルス株の対応標的部分が、遺伝子の異なる対立遺伝子と近似する場合の、対立遺伝子特異的プライマー伸長)、オリゴヌクレオチド連結アッセイ(米国特許第5,185,243、5,679,524、及び5,573,907号)、切断アッセイ、ヘテロ二重鎖追跡分析(HTA)アッセイ等を用いて実施される。例として、Taqman(登録商標)アッセイ、Applied Biosystems(米国特許第5,723,591号)が挙げられる。標的増幅ではなく、シグナル又はプローブ増幅に依存する核酸検出システムであるサイクリングプローブ技術(CPT)(米国特許第5,011,769、5,403,711、5,660,988、及び4,876,187号)も採用が可能である。侵襲的切断アッセイ、例えば、Eis,P.S. et al.,Nat.Biotechnol.19:673,2001によって記載されるInvader(登録商標)アッセイ(Third Wave Technologies)も、インフルエンザ特異的核酸を検出するのに使用することが可能である。分子ビーコンに依存するアッセイ(米国特許第6,277,607、6150,097、6,037,130号)、又は、蛍光エネルギー転移(FRET)に依存するアッセイを使用してもよい。分子ビーコンとは、完全にマッチする鋳型と結合すると立体配座の変化を受けるオリゴヌクレオチドヘアピンである。
ある実施例では、アッセイは、サンプル中のインフルエンザ特異的核酸が、RNAi誘発性実体のセンス鎖又はアンチセンス鎖と同一か、又は異なる部分を含むかどうかを決める。選択的に、相違があれば、その正確な違いが特定される。この情報を用いて、インフルエンザウィルスが、RNAi誘発性実体による抑制に対して感受性を持つかどうかが決定される。前述に加えて、感染性因子の検出及び/又は遺伝子型決定に好適なアッセイが、「分子微生物学:診断原理と応用(Molecular Microbiology: Diagnostic Principles and Practice)」,Persing,D.H.,et al.,(eds.)Washington,D.C.:ASM Press,2004に記載される。
診断アッセイは、本明細書に記載される核酸から選ばれる任意のものを用いてよい。本発明のある実施例では、核酸は、核タンパク転写体に対し、実質的に相補的ではない、又は実質的に同一ではない核酸部分を含む。例えば、核酸は、プライマー結合部位(例えば、汎用配列決定用プライマー、又は増幅プライマー)、ハイブリダイゼーションタグ(例えば、他の核酸を含むサンプルから核酸を分離するために使用されるもの)等を含んでもよい。本発明のある実施例では、核酸は、非ヌクレオチド成分を含む。この非ヌクレオチド成分は、核酸の末端ヌクレオチド、例えば、3′末端のヌクレオチドに付着されてもよい。この成分は、核酸が分解されるのを保護してもよい。ある実施例では、非ヌクレオチド成分は、検出可能な成分、例えば、蛍光染料、放射性原子、蛍光エネルギー転移(FRET)ペアの一員、消光剤等である。ある実施例では、非ヌクレオチド成分は、ジゴキシン、2,4−ジニトロフェニル(TEG)等のようなハプテンである。ある実施例では、非ヌクレオチド成分は、核酸分離に有用なタグである。
本発明のある実施例では、核酸は、支持体、例えば、微粒子、例えば、任意に磁気性であってもよいビーズに付着される。本発明は更に、本発明の複数の核酸、例えば、少なくとも10、20、50個等の核酸を含むアレイを提供する。核酸は、支持体、例えば、事実上平坦な支持体、例えば、ガラススライドに共有的に、又は非共有的に付着される。例えば、米国特許第5,744,305、5,800,992、6,646,243号を参照されたい。
実験から得られた情報、又は、核タンパク遺伝子の中のある特定配列を有するウィルスを取り扱った、以前の経験から得られた情報を用いて、任意のRNAi誘発性実体、又はそれらの任意の組み合わせによる抑制に対し、該ウィルスが感受性を持つかどうかを決めてもよい。感受性情報はまた、ウィルスの核タンパク配列と、抑制因子のアンチセンス鎖の間に存在すると予想されるミスマッチの効果にもとづく理論的予測を含んでもよい。
本発明は、ウィルス感染を検出するための診断キットを提供する。キットのあるものは、本発明の一又はそれ以上の核酸を含む。キットのあるものは、RNAiに対し好ましい標的部分を含む、核タンパクウィルス転写体の一部を検出するために使用される一又はそれ以上の核酸を含む。キットは、プローブ、プライマー、配列特異的オリゴヌクレオチド、酵素、基質、抗体、ヌクレオチドの集団、バッファー、陽性対照、及び陰性対照から成る群より選択される一又はそれ以上の品目を含んでもよい。ヌクレオチドは標識されてもよい。例えば、蛍光標識ヌクレオチド、例えば、dNTP、ddNTPの、一又はそれ以上の集団が準備されてもよい。
プローブは、標的タンパクの全て又は一部、例えば、高度に、又は好適に保存される核タンパク標的部分、又はその成分を含む標的タンパクを含む核酸、或いは、標的部分と少なくとも80%同一又は相補的である、例えば、100%同一又は相補的である核酸であってもよい。ある実施例では、複数のプローブが提供される。これらのプローブは一又はそれ以上の位置において異なり、それらの位置における核タンパクウィルス転写体の厳密な配列を決定するために用いられる。例えば、これらのプローブは、転写体に対し異なるやり方でハイブリダイズしてもよい(例えば、プローブが、転写体の標的部分に対して100%相補的である場合にのみハイブリダイゼーションが起こる)。本発明のキットは、標本採取材料、例えば、綿棒、チューブ等を含んでもよい。キットの成分は、個別の容器又はチューブに納められてもよい。これらの容器又はチューブは、一般に、キットの使用案内と共に、容器、例えば、市販に好適なプラスチック又は発泡スチロールに納めて提供される。
治療法
本発明は、ウィルスに対する危険性を持つ(感受性を持つ)被験体、又はウィルスを保有する被験体を治療するための予防法及び治療法の両方を提供する。本明細書で「治療」又は「治療する」とは、ウィルスを保有する患者に対し、ウィルス又はウィルスの症状を(に)、治癒、平癒、寛解、解除、変更、救済、緩和、改善、又は影響する目的で、治療因子(例えば、siRNA、又は該siRNAをコードするベクター又はトランスジーン)を塗布又は投与すること、或いは、ウィルスを保有する患者から得られた分離組織又は細胞系統に対し、治療因子を塗布又は投与することと定義される。この「治療」又は「治療する」という用語は、本明細書においては、予防的に因子を投与するという意味において、例えば、ウィルスに備えて接種する意味においても使用される。
予防法及び治療法の両方に関して言えば、これらの処置法は、薬理ゲノミクスの分野において得られた知識に基づいて、個別の要求に特異的に合わせてもよいし、修飾してもよい。本明細書で用いる「薬理ゲノミクス」とは、臨床開発途上の薬剤及び市販の薬剤に対する、ゲノミクス技術の応用、例えば、遺伝子の配列決定、統計的遺伝学、及び、遺伝子発現分析の応用を指す。更に具体的には、上記用語は、患者の遺伝子がどのようにして、薬剤に対する彼ないし彼女の反応(例えば、患者の「薬剤反応表現型」又は「薬剤反応遺伝子型」)を決めるかを探る研究を指す。従って、本発明のもう一つの局面は、本発明の標的遺伝子分子を用いて個別の要求に合わせた予防又は治療法を設計する方法、或いは、その個別の薬剤反応遺伝子型に基づく個別の要求に合わせた予防又は治療法の設計法を提供する。
関連実施例では、二つ以上の異なるRNAi誘発因子の集団が、ウィルスに対し宿主となっている可能性のある被験体に投与される。一つの実施例では、二つ以上のRNAi誘発因子の集団は、その配列が、ある特定のウィルスの種々の株における、同じ高度に保存される領域に対し事実上相補的である(好ましくは100%相補的)ガイド鎖を含む因子を含む。もう一つの実施例では、二つ以上のRNAi誘発因子の集団は、その配列が、同じウィルス株における、別々の、高度に保存される領域に対し事実上相補的である(好ましくは100%相補的)ガイド鎖を含む因子を含む。更にもう一つの実施例では、二つ以上のRNAi誘発因子の集団は、その配列が、ある特定のウィルス、例えば、インフルエンザウィルスの種々の株における、同じ高度に保存される領域に対し事実上相補的である(好ましくは100%相補的)ガイド鎖を含む因子を含み、且つ、RNAi誘発因子は、同じウィルス株における、別々の、高度に保存される領域に対し事実上相補的である(好ましくは100%相補的)ガイド鎖を含む因子を含む。
予防法
一つの局面において、本発明は、本明細書において論じられるsiRNA、又はベクター、又はトランスジーンの内の任意のものを含む予防的に有効な因子を、被験体に投与することによって、ウィルスによる感染、又はウィルス感染と関連する病態から、該被験体を予防するための方法を提供する。予防因子の投与は、ウィルス感染が予防されるように、ウィルス感染に特有の症状の出現前に行われる。
ある好ましい実施例では、予防的に有効な因子は、標的ウィルスに対する暴露前に被験体に投与される。もう一つの実施例では、因子は、感染の進行を遅延又は抑制するために、又は、健康な細胞のDNA、又はウィルス前駆体を含まない細胞のDNAに対するそのウィルスの組み込みを阻止するために、標的ウィルスに対する暴露後に被験体に投与される。標的ウィルスの形成は抑制又は阻止されることが好ましい。それに加えて、又はそれとは別に、標的ウィルスの複製は抑制又は阻止されることが好ましい。一つの実施例では、siRNAは、標的ウィルスRNAを、その複製の初期段階で、例えば、細胞に進入直後に分解する。このようにして、因子は、被験体の健康な細胞を感染から防ぐ。もう一つの実施例では、siRNAは、複製の後期段階でウィルスRNAを分解する。上記方法においては、本明細書で論じられる任意の戦略、例えば、ウィルス核タンパク遺伝子に対し、RNAiを仲介するのに十分な相補性を持つ、複数のsiRNAを発現するベクターの投与を採用してもよい。
治療法
本発明のもう一つの局面は、治療目的のために、標的遺伝子の発現、タンパクの発現又は活性を変調する方法に関する。従って、例示の実施例では、本発明の変調法は、ウィルスに感染した細胞を、該ウィルスゲノムの一部に対して特異的な治療因子(例えば、siRNA、又は該siRNAをコードするベクター又はトランスジーン)に接触させることを含み、接触は、RNAiがその仲介によって起動されるにように行われる。これらの変調法は、体外で(例えば、細胞を因子と共に培養することによって)行ってもよいし、或いはそれとは別に、体内で(例えば、被験体に因子を投与することによって)行ってもよい。方法は体外で行い、次に、その産物を被験体に導入してもよい(例えば、遺伝子治療)。
本発明の治療法は、一般に、ウィルス(例えば、インフルエンザ)に感染した被験体に因子を投与することによって、RNAiを開始することを含む。因子は、一又はそれ以上のsiRNA、一又はそれ以上のsiRNA複合体、一又はそれ以上のsiRNA(shRNAを含む)を発現するベクター、又は、一又はそれ以上のsiRNAをコードするトランスジーンを含んでもよい。本発明の治療法は、ウィルス産生(例えば、ウィルス力価、又はウィルス前駆体力価)を、約30から50倍、好ましくは約60から80倍、より好ましくは約(又は少なくとも)90倍、100倍、200倍、300倍、400倍、500倍、又は1000倍低下させることが可能である。
更に、本発明の治療因子及び方法は、転写後対処法(例えば、リボザイム及び/又はアンチセンスRNAによる対処法)との併用療法において使用が可能である。
二重予防・治療法
ある好ましい方法では、標的ウィルスに暴露されたことのある被験体において、該標的ウィルスに対する二重併用攻撃が実行される。このようにして、感染被験体は、複製の初期段階で宿主細胞のゲノム中に取り込まれる前に、ウィルスを分解することによって予防的に処置されると共に、更に、標的ウィルスが既に複製を開始してしまった細胞ではウィルスの複製を遅らせることによって治療的に処置される。
当業者であれば、個別の患者において所望の「有効レベル」を実現するために、使用される組成物の厳密な処方に対し、適切な用量、スケジュール、及び投与法を簡単に決めることが可能である。また、当業者であれば、適切な患者のサンプル(例えば、血液及び/又は組織)の直接分析(例えば、分析化学分析)、又は間接分析(例えば、ウィルス感染の代行インディケータ)を通じて本発明の化合物の「有効レベル」について適切なインディケータを用いることが可能である。
本発明の予防的又は治療的製薬組成物は、ウィルス感染を治療的に処置する場合、本発明によるベクターと組み合わせて他の製剤を含むことも可能である。前述したものに加えて使用が可能な添加製剤の代表的例としては、ウィルス感染に使用が可能な、抗ウィルス化合物、免疫調節剤、免疫刺激剤、抗生物質、及び他の薬剤、及び治療処方(代替治療薬と認められているものを含む)が挙げられる。免疫調節剤及び免疫刺激剤としては、種々のインターロイキン、CD4、サイトカイン、抗体製剤、血液輸血、及び細胞輸血が挙げられるが、ただしこれらに限定されない。
製薬組成物
本発明は、後述するように、ウィルス感染の予防及び治療処置のための、前述のRNAi誘発性実体の使用に関する。従って、本発明の因子は、投与に好適な製薬組成物の中に組み込まれる。このような組成物は、通常、該因子、及び薬学的に許容可能な担体を含む。
本発明の製薬組成物は、その意図される投与ルートに適合するように処方される。投与ルートの例としては、経口、吸引、鼻腔内、非経口(例えば、静脈内、皮内、皮下、腹腔内、及び筋肉内)、経皮(局所)、及び経粘膜投与が挙げられる。非経口、皮内、又は皮下投与のために使用される溶液又は懸濁液は、下記の成分を含んでもよい。即ち、滅菌希釈剤、例えば、注射用水、生食液、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロプレングリコール、又はその他の合成溶媒;抗菌剤、例えば、ベンジルアルコール又はメチルパラベン;抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸又は重亜硫酸ソーダ;キレート剤、例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA);バッファー、例えば、酢酸塩、クエン酸塩、又はリン酸塩;及び浸透圧調節剤、例えば、塩化ナトリウム又はデキストロース。pHは、酸又は塩基、例えば、塩酸又は水酸化ナトリウムによって調節される。非経口製剤は、アンプル、ディスポーザブル注射筒、ガラス又はプラスチック製の複数用量用バイアルの中に封入されてもよい。
注入使用に好適な製薬組成物は、滅菌された水溶液(水に可溶な場合)又は懸濁液と、滅菌注入液又は懸濁液の現場調製用滅菌粉末を含む。静脈内注入の場合、好適な担体として、生理的食塩水、静菌水、Cremophor EL(登録商標)(BASE,Parsippany,ニュージャージー州)、又はリン酸バッファー生食液(PBS)が挙げられる。いずれにしろ、組成物は、滅菌性で、簡単に注射筒から注入可能であるほどに流動性を持っていなければならない。組成物は、製造及び保存条件下で安定でなければならず、微生物、例えば、細菌及び真菌の汚染作用に冒されないように防腐されていなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコール等)、及び、好適なそれらの混合液を含む溶媒、又は分散媒体であってもよい。適切な流動性は、例えば、レシチンのようなコーティングの使用、分散液の場合は要求される粒径の維持、及び界面活性剤の使用によって維持される。微生物作用の阻止は、種々の抗菌剤及び抗真菌剤(例えば、パラベン、クルロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール等)によって実現することが可能である。多くの場合、組成物の中に等張剤(例えば、糖、マンニトールのようなポリアルコール、ソルビトール、及び塩化ナトリウム)を含めることが好ましい。注入組成物の長期の吸収は、組成物の中に、吸収を遅らせる薬剤(例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチン)を含めることによって実現される。
注入用滅菌水は、必要量の活性化合物を、上に列挙した一つの成分、又は複数の成分の混合物と共に、適切な溶媒に含め、要すれば、ろ過滅菌を実施することによって調製される。一般に、分散液は、基本的分散媒体、及び、上に列挙したものの内から必要な、他の成分を含む滅菌ビヒクルに活性成分を含めることによって調製される。滅菌注入液調製のための滅菌粉末の場合、好ましい調製法は、真空乾燥及び凍結乾燥で、これによって、以前に滅菌ろ過した溶液から、活性成分プラス所望の任意の添加成分から成る粉末が得られる。
吸引投与とは、RNAi誘発性実体が、鼻又は口から吸引され肺へ導かれることによって呼吸器系に直接導入されることを意味する。実体は、生の形のままでもよいし、或いは、担体と一緒であってもよい。ある実施例では、RNAi誘発因子は、呼吸器系を冒す病態、例えば、呼吸器ウィルス感染を治療又は予防するが、他方で、血液への吸収が最小となるように、従って、RNAi誘発因子が全身に送達されるのを最小とするのに有効な量として投与される。特に、本発明は、好ましくは、適切な推進剤、例えば、二酸化炭素のような気体を含む加圧容器又は投薬器、又は噴霧器から発射されるエアロゾルの形で送達されるRNAi誘発性実体を含む乾燥粉末組成物を提供する。ある実施例では、送達システムは、被験体(例えば、動物又はヒト)の大型の気道(気管及び気管支)の中に、及び/又は、肺の奥深くに(細気管支及び/又は肺胞)組成物を送達するのに好適である。本発明はまた、鼻腔噴霧を用いてRNAi含有実体を含む組成物を送達することを含む。本発明のある実施例では、製薬組成物の中に、呼吸器系の細胞による核酸の取り込みを促進する送達剤が含まれる。一方、本発明人等は更に、RNAi誘発性実体は、特異的送達剤がなくとも気道を通じて呼吸器系に送達されるとインフルエンザウィルスを効果的に抑制することが可能であることを発見した。例えば、RNAi誘発因子は、乾燥形(例えば、乾燥粉末)で、事実上RNAi誘発因子のみから成る組成物として、或いは、事実上水のみから成る、選択的に、塩(例えば、NaCl、リン酸塩)、バッファー、及び/又は、アルコールを含む水から成る水性媒体に溶解した生のsiRNA又はshRNAとして、更に肺に送達されてもよい。
本発明はまた、肺循環による、RNAi含有実体の全身循環送達の手段も提供する。呼吸器病の場合、循環への転送が最小となることが好ましい。
経口組成物は、一般に、不活性希釈剤又は食用可能な担体を含む。組成物は、ゼラチンカプセルに封入されてもよいし、或いは、錠剤に圧縮されてもよい。経口治療投与のためには、活性化合物は賦形剤と共に組み込まれ、錠剤、トローチ、又はカプセルの形で使用される。経口組成物はまた、含そう剤用流体担体を用いて調製されてもよい。その際、流体担体に溶解した化合物は、口内に入れられ、鋭くかき回され、吐き出されるか、飲みこまれる。製薬学的に適合する結合剤及び/又は補助材料を、組成物の一部として含めてもよい。錠剤、丸剤、カプセル、トローチ等は、下記の成分、又は類似の性質の化合物の内の任意のものを含んでもよい。即ち、微細結晶セルロース、トラガカントゴム、又はゼラチンのような結合剤;でん粉又はラクトース、アルギニン酸のような崩壊剤、プリモゲル、又はコーンでん粉のような賦形剤;ステアリン酸マグネシウム又はステローツのような潤滑剤;コロイド状二酸化ケイ素のような滑沢剤;スクローズ又はサッカリンのような甘味剤;又は、薄荷、サリチル酸メチル、又はオレンジ芳香のような芳香剤である。
全身投与も、経粘膜又は経皮手段によって実行することが可能である。経粘膜又は経皮投与の場合、処方において、浸透すべき障壁に合った浸透剤が使用される。このような浸透剤は一般的に従来技術で既知であるが、例えば、経粘膜投与の場合、界面活性剤、胆汁塩、及びフシジン酸誘導体が挙げられる。経粘膜投与は、鼻腔噴霧又は坐剤の使用によって実行される。経皮投与の場合、活性化合物は、従来技術で一般に知られるように、軟膏、塗布剤、ゲル、又は、クリームとして処方される。
一つの実施例では、活性化合物は、該化合物を体内から速やかに排除するのを防止する担体と共に、例えば、埋設剤及び微細封入送達システムを含む放出調節処方として調製される。生分解性、生体適合性ポリマー、例えば、エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸も使用が可能である。このような処方物の調製法は当業者には明白である。材料は、Alza社及びNova Pharmaceuticals社から購入することが可能である。リポソーム懸濁液(ウィルス抗原に対するモノクロナール抗体によって、感染細胞を標的とするリポソームを含む)も、薬学的に許容可能な担体として使用される。これらは、当業者に既知の方法、例えば、米国特許第4,522,811号に記載される方法に従って調製することが可能である。
投与が容易であること、及び用量の均一性のために、吸引、経口、又は非経口組成物は、単位剤形として処方すると特に有利である。本明細書で用いる単位剤形とは、治療される被験体にとって単位剤形として好適な、物理的に独立した単位を指す。各単位は、必要な製薬担体と連動して所望の治療効果を発揮するよう計算された、指定量の活性化合物を含む。本発明の単位剤形用仕様は、活性化合物の特有の性質と実現される特定の治療効果、及び、個別の被験体の治療のために活性化合物を混合処方する技術に内在する制限によって指定され、また、それらの要因に直接依存する。
そのような化合物の毒性及び治療効力は、細胞培養体又は実験動物を用いた標準的製薬手順によって、例えば、LD50(集団の50%に対して致命的な用量)及びED50(集団の50%に対して治療的に有効な用量)を定める手順によって決められる。毒性作用と治療作用の間の用量比が治療指数であり、これは、LD50/ED50比と表される。大きな治療指数を示す化合物が好ましい。毒性副作用を示す化合物を使用してもよいが、非感染細胞にたいする傷害の可能性を最小にし、副作用を低減するよう、感染組織部位に化合物を標的する送達システムの設計には注意しなければならない。
細胞培養アッセイ及び動物実験から得られたデータを用いて、ヒトにおいて使用される用量範囲を定めることが可能である。このような化合物の用量は、毒性をほとんど、又は全く持たず、ED50を含む循環濃度範囲内に納まることが好ましい。用量は、用いられる剤形、及び利用される投与ルートに応じてこの範囲内を変動してよい。本発明の方法において使用される任意の化合物について、治療的有効量は、先ず細胞培養又は非ヒト動物アッセイによって推定することが可能である。細胞培養で決定されたED50(即ち、最大の半分の反応を実現する試験化合物の濃度)を含む、循環血漿濃度範囲を実現する用量が、動物モデルにおいて処方される。この情報を用いて、ヒトにおける有効用量が更に正確に決められる。血漿におけるレベルは、例えば、高速液体クロマトグラフィによって測定されてもよい。
製薬組成物は、容器、パック、又は投薬器の中に、投与指示書と共に包装される。
実施例
実施例1:ウィルス核タンパクの同定
高度に保存される部位とは、利用可能な全てのヒトインフルエンザ配列の大多数において存在することが認められる部位又は配列と考えられる。19マー保存配列と近似するヒトインフルエンザ分離株に見られる19マー配列であって、僅かに1個又は数個のヌクレオチド変化の分だけ異なる変異種が同定される。これらも重要である。なぜなら、RISC(RNA誘発沈黙化複合体)は、そのガイド(アンチセンス)鎖が、標的mRNA配列に対して大部分相補的ではあるが、厳密な相補性と比べると1個又は数ヌクレオチドの変化を持つsiRNA二重鎖であっても、それを用いてRNAi活性を高めることが可能だからである。
別々の8個のRNAセグメントが、インフルエンザウィルスゲノムを構成する。全ての分析は、これらのウィルスセグメントのそれぞれについて別々に実行された。従って、例えば、保存部位の探索は、ウィルスセグメント#1に対しては、セグメント#1から得られる配列のみを用いて実施した。
8個のウィルスセグメントそれぞれのインフルエンザウィルスAの配列は、インフルエンザ配列データベース(Macken,C.,Lu,H.,Goodman,J.,& Boykin,L.,「サーベイランス及びワクチン選択におけるデータベースの価値(The value of a database in surveillance and vaccine selection.)」,in Options for the Control of Influenza IV.A.D.M.E.Osterhaus,N.Cox & A.W.Hampson(Eds.)Amsterdam;Elsevier Science,2001,103−106)から得た。このリストを、全長配列(”Complete Cds”(完全コード)の表示を持つもの、又は完全コード遺伝子長の>95%の長さを持つもの)以外の全てを排除するようにスクリーニングし、任意の標的配列における19マー断片の適合を、配列短縮化のために見落とすことがないようにした。配列は更に、実験株を排除するようにスクリーニングした(ただし、PR8及びWNVの実験株は、試験に用いたので例外とした)。その理由は、実験株は、比較的多数の、人工的に誘発された突然変異を有する可能性が高いからである。これによって、各ウィルスセグメントから2−11個の配列が排除された。最後に、全ての配列が依然として最新であることを確かめるために、配列を、GenBankヌクレオチド配列データベース
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?db=Nucleotide)に対し交差照合した。表1は、前述の基準に合致し、後続の分析に使用された、ヒトのインフルエンザ配列のGenBankアクセス番号を列挙する。
表1−1:本分析に用いられたPB2配列(セグメント1)に対するGenBankアクセス番号
表1−2:本分析に用いられたPB1配列(セグメント2)に対するGenBankアクセス番号
表1−3:本分析に用いられたPA配列(セグメント3)に対するGenBankアクセス番号
表1−4:本分析に用いられたHA配列(セグメント4)に対するGenBankアクセス番号
表1−5:本分析に用いられたNP配列(セグメント5)に対するGenBankアクセス番号
表1−6:本分析に用いられたNA配列(セグメント6)に対するGenBankアクセス番号
表1−7:本分析に用いられたMP配列(セグメント7)に対するGenBankアクセス番号
表1−8:本分析に用いられたNS配列(セグメント8)に対するGenBankアクセス番号
対象とするインフルエンザAウィルス配列のそれぞれから得られる全ての19マー配列断片を抽出し、さらに各配列断片が、インフルエンザAウィルスの各配列の中に、厳密な適合体として存在するかどうかを表に列挙することによって、高度に保存される19マー配列断片が特定された。このようにして、第1ウィルス配列は、位置1から位置19まで延びる19マー配列断片を含み、もう一つは、位置2から位置20まで、もう一つは位置3から位置21まで、等と続く。同様に、第2、第3、及び第4ウィルス配列が、リストの最終ウィルス配列に至るまで抽出される(表1)。
次に、配列断片が、配列断片から成る増大する表に加えられ、各19マー断片を含むインフルエンザウィルス配列の数が次々にカウントされる。最後に、断片頻度が、各特異的19マー断片を含むインフルエンザウィルス配列のパーセントとして表される。表2は、もっとも保存的な19マー配列断片(70%まで)、及びそれらの出現頻度を列挙する。
表2−1:表1−1に掲載されるインフルエンザAセグメント1(PB2)配列の少なくとも70%として存在する19マー保存配列
表2−2:表1−2に掲載されるインフルエンザAセグメント2(PB1)配列の少なくとも70%として存在する19マー保存配列
表2−3:表1−3に掲載されるインフルエンザAセグメント3(PA)配列の少なくとも70%として存在する19マー保存配列
表2−4:表1−4に掲載されるインフルエンザAセグメント2(HA)配列の少なくとも70%として存在する19マー保存配列
表2−5:表1−5に掲載されるインフルエンザAセグメント2(NP)配列の少なくとも70%として存在する19マー保存配列
表2−6:表1−6に掲載されるインフルエンザAセグメント2(NA)配列の少なくとも70%として存在する19マー保存配列
表2−7:表1−7に掲載されるインフルエンザAセグメント2(M1およびM2)配列の少なくとも70%として存在する19マー保存配列
表2−8:表1−8に掲載されるインフルエンザAセグメント2(NS1およびNS2)配列の少なくとも70%として存在する19マー保存配列
我々の研究は、標的RNAと、siRNA二重鎖のアンチセンスガイド鎖の間の少数のミスマッチは、RNAi機構が耐忍することが可能であることを示す。従って、インフルエンザにおける高度の保存部位を標的とする単一のsiRNA二重鎖は、該高度の保存部位に対して僅かに1個又は数個のミスマッチを含む軽微な変異種に対しては、多くの場合依然として活性を有する。我々は、任意のsiRNA二重鎖によって標的とすることが可能なインフルエンザウィルスAの配列変異のリストを更に拡張するためにこの所見を利用した。
表3では、実験室スクリーニング実験で特定された上位9個のsiRNA部位が、表20から抽出された。
表3: 実験室スクリーニング実験で特定された上位9個のsiRNA部位で、表20−1から表20−6で定義されるインフルエンザAから得られる僅少の変動を含む19マー保存配列を示す。
イヌ腎臓由来上皮細胞(Madin−Darby canine kidney cells)(MDCK)を用いた。電気穿孔のために、細胞を、血清無添加RPMI 1640媒体にて飼養した。ウィルス感染は、ウィルス培養液中で行った。インフルエンザA/PR/34(PR8)及びA/WSN/33(WSN)、サブタイプH1N1を用いた。試験したセンス及びアンチセンス鎖を表4に掲げる。
全てのsiRNAは、Dharmacon Research(Lafayette,コロラド州)によって2′ACE保護化学を用いて合成され、電気穿孔によって細胞に導入された。電気穿孔後6から8時間で、血清含有培養液を洗い流し、適切な感染倍数のPR8又はWSNウィルスが、ウェルに接種された。細胞は、1,000PFUのウィルス(1,000細胞当たり1ウィルス、MOI=0.001)、又は10,000PFUのウィルス(100細胞当たり1ウィルス、MOI=0.01)のいずれかによって感染させた。室温で1時間インキュベーションした後、4μg/mlのトリプシンを含む2mlの感染培養液を各ウェルに加え、細胞をインキュベートし、表示の時間に、感染培養体から上清を採取し、ウィルス力価をニワトリ赤血球の凝集によって定量した。
上清を、感染の24、36、48、及び60時間後に採取した。ウィルス力価は、Knipe DM,Howley,PM,「基礎ウィルス学(Fundamental Virology)」,4th edition,p.34−35に記載する通り標準的血球凝集を用いて測定した。赤血球凝集アッセイは、V型底部96ウェルプレートにて行った。各サンプルの連続2倍希釈液を、等量のニワトリ赤血球の0.5%懸濁液(Charles River Laboratories)と共に氷上でインキュベートした。接着性の均一な赤血球層を含むウェルは陽性とした。プラークアッセイでは、各サンプルの連続10倍希釈液について、従来技術においてよく知られるやり方で、「基礎ウィルス学」第4版32ページに記載の通りにウィルス力価の定量を行った。
インフルエンザウィルス複製の抑制にsiRNAを使用することの実行性を調べるために、種々のインフルエンザAのRNAを標的とした。具体的に言うと、簡単に感染されて、広くインフルエンザの実験に用いられるMDCK細胞を用いた。
各siRNAは、電気穿孔によってMDCK細胞集団の中に個別に導入された。GFP(センス:5′−GGCUACGUCCAGGAGCGCAUU−3′(配列番号10752);アンチセンス:5′−UGCGCUCCUGGACGUAGCCUU−3′(配列番号10753))を標的とするsiRNAを対照として用いた。このsiRNAをGFP−949と呼ぶ。後続の実験において(下記の実施例に記載される)、両鎖の3′末端におけるオーバーハングは、dTdTによって置換した。この置換は結果に影響を及ぼさない。模擬電気穿孔も対照として実施した。電気穿孔の8時間後、0.1又は0.01のMOIにおいてインフルエンザAウィルスPR8又はWSNによって細胞を感染させ、その後、様々な時点(24、36、48、60時間)で標準的血球凝集アッセイを用いてウィルス産生について分析した。GFP発現は、標準法によるフローサイトメトリーによって定量した。
図11A及び11Bは、インフルエンザウィルスA株A/プエルトリコ/8/34(H1N1)(図11A)、又はインフルエンザウィルスA株A/WSN/33(H1N1)(図11B)の複製を抑制する、個別のsiRNAの能力を、HA力価を測定することによって定量した実験において、二つの結果を比較する。従って、高いHA力価は、抑制の欠乏を示し、一方、低いHA力価は効果的抑制を示す。MDCK細胞は、0.01のMOIにおいて感染させた。これらの実験において、試験したsiRNAは、一つのsiRNAはPB1セグメント(PB1−2257/2277)を標的とし、一つのsiRNAはPAセグメント(PA−2087/2107(G))を標的とし、三つの異なるsiRNAは、NPゲノム及び転写体(NP−231/251,NP−390/410、及びNP−1496/1516)を標的とした。図11A及び11Bの説明は、siRNAの5′ヌクレオチドのみを掲載していることに注意されたい。
図11A及び11Bの記号は下記の通りである:黒塗り四角は、siRNAの導入を受けていない対照細胞を表す。白抜き四角は、GFP対照siRNAの導入を受けた細胞を表す。黒塗り円は、siRNA PB1−2257/2277の導入を受けた細胞を表す。白抜き円は、siRNA PB2−2240/2260の導入を受けた細胞を表す。白抜き三角は、siRNA PA−2087/2107(G)の導入を受けた細胞を表す。X記号は、siRNA NP−231/251の導入を受けた細胞を表す。+記号は、siRNA NP−390/410の導入を受けた細胞を表す。黒塗り三角は、siRNA NP−1496/1516の導入を受けた細胞を表す。グラフにおいて、いくつかの記号が時に重なり合っていることに注意されたい。例えば、図11Bでは、白抜き三角と黒塗り三角とが重なり合っている。
siRNA(模擬TF)が存在しない場合、又は、対照(GFP)siRNAの存在下では、ウィルス力価は、時間と共に増加し、感染後ほぼ48から60時間でピークに達する。一方、siRNAの存在下では、その種類を問わず、ウィルス力価は60時間後では有意に低くなった。例えば、WSN株では、HA力価(ウィルスのレベルを反映する)は、siRNA PB2−2240又はNP−231の存在下では、対照に比べほぼ半分の大きさであった。特に、両細菌株において、siRNA NP−1496の存在下では、ウィルスレベルは、検出レベル(10,000PFU/ml)以下であった。このことは、PB8株では60倍、及び、WSN株では120倍を上回る係数の減少を表す。ウィルスのレベルはまた、siRNA PA−2087(G)の存在下では、WSN株では検出限界(10,000PFU/ml)以下となり、PR8株でも極端に低くなった。siRNAによる、ウィルス産生の抑制は、測定した最も早い時点においても明白であった。検出レベル(HA力価で定量)以下の、ウィルス産生の抑制を含む効果的抑制は、感染後72時間という長い時点においても観察された。
表5は、MDCK細胞において60時間で見られたsiRNA抑制アッセイの結果を、抑制倍数で表してまとめたものである。従って、低い値は抑制の不足を示し、一方、高い値は、効果的抑制を示す。ウィルス遺伝子内のsiRNAの位置は、遺伝子名に続く数字によって示される。本明細書の他の場所でもそうであるように、数字は、遺伝子におけるsiRNAの開始ヌクレオチドを表す。例えば、NP−1496は、NPに対して特異的なsiRNAであって、最初のヌクレオチドが、NP配列のヌクレオチド1496からスタートするsiRNAを示す。表示の数値(抑制倍数)は、模擬トランスフェクションにおける血球凝集単位を、表示のsiRNAによるトランスフェクションにおいて得られる血球凝集単位で割ることによって計算される。数値1は抑制無しを表す。
インフルエンザウィルスゲノムの6セグメント(PB2、PB1、NP、M、及びNS)を標的とする合計20種のsiRNAが、MDCK細胞系統システムにおいて試験された(表5)。試験したsiRNAの内の約15%(PB1−2257、PA−2087G、及びNP−1496)は強力な作用を示した。即ち、使用したものがPR8であれWSNであれ、多くの場合MOI=0.001において100倍以上、MOI=0.01において16から64倍ウィルス産生を抑制した。特に、siRNA NP−1496又はPA−2087を用いた場合、抑制は極めて著明となり、培養液上清に検出可能な血球凝集活性が見られなかった。これらの強力なsiRNAは、三つの異なるウィルス遺伝子セグメントを標的とする。即ち、RNA転写酵素複合体に関与するPB1とPA、及び、核タンパクに結合する1本鎖RNAであるNPである。他のシステムにおける所見と一致して、これらのsiRNAによって標的とされる配列は全て、コード領域の、3−プライム末端の比較的近傍に配置される(図12)。
siRNAの約40%が、ウィルス産生を有意に抑制したが、抑制の程度は、いくつかのパラメータに依存して変動した。siRNAの約15%は、使用されたものがPR8であるとWSNウィルスであるとを問わず、ウィルス産生を強力に抑制した。しかしながら、いくつかのsiRNAの場合、PR8又はWSNのどちらを用いたのかに応じて抑制の程度が変動した。いくつかのsiRNA、例えば、PB2−2240、PB1−129、NP−231、及びM−37は、ごく早期の時点で(感染後24から36時間)ウィルス産生を抑制するか、又は、比較的低い感染用量(MOI=0.001)においてのみウィルス産生を抑制した。これらのsiRNAは、異なるウィルスセグメントを標的とするが、対応配列は、コード領域の3−プライム末端、又は5−プライム末端近傍に位置する(図12)。表5A及び5Bは、アッセイの結果を表す。siRNAの約45%は、ウィルス力価に対し目立った作用を示さなかった。これは、これらのsiRNAが、MDCK細胞におけるインフルエンザウィルス産生の干渉において有効ではなかったことを示す。特に、NS遺伝子セグメントを標的とする4種のsiRNAはいずれも全く抑制作用を示さなかった。
更に正確にウィルス力価を推定するために、模擬トランスフェクション又はNP−1496によるトランスフェクションを受けた、ウィルス感染細胞から得られた培養上清についてプラークアッセイを行った。模擬上清では約6×105pfu/mlが検出されたが、一方、未希釈のNP−1496上清ではプラークは全く検出されなかった(図11C)。プラークアッセイの検出限界は約20pfu(プラーク形成単位)/mlなので、NP−1496によるウィルス産生の抑制は、少なくとも約30,000倍である。0.1MOIにおいても、NP−1496は、ウィルス産生を約200倍抑制した。
siRNAの効力を定量するために、段階量のNP−1496をMDCK細胞にトランスフェクトさせ、次いで、PR8ウィルスを感染させた。siRNAの量が低下するにつれて、培養上清におけるウィルス力価は、図11Dに示すように上昇した。しかしながら、トランスフェクションのために僅か25pmolのsiRNAを用いた場合でも、模擬トランスフェクションに比べ、ウィルス産生に約4倍の抑制が検出された。これは、インフルエンザウィルス産生の抑制におけるNP−1496siRNAの効力を示す。
治療のためには、siRNAは、既存のウィルス感染を効果的に抑制可能であることが望ましい。典型的なインフルエンザウィルス感染では、感染後約4時間に新しいビリオンの放出が始まる。siRNAが、既存の感染の存在下に、新たに放出されたウィルスによる感染を低下又は根絶することができるかどうかを定めるために、MDCK細胞をPR8ウィルスに感染させ、次に、NP−1496siRNAにトランスフェクトさせた。模擬トランスフェクション後では、ウィルス力価は、時間と共に着実に上昇したのに対し、他方、NP−1496トランスフェクト細胞では僅かしか上昇しなかった。上記から、ウィルス感染後のsiRNA投与は有効である。
以上まとめると、上記結果は、(i)あるsiRNAは、インフルエンザウィルス産生を強力に抑制することが可能である;(ii)インフルエンザウィルス産生は、例えば、NP、PA、及びPB1タンパクをコードするものを含む、種々のウィルス遺伝子に対し特異的なsiRNAによって抑制される;及び(iii)siRNA抑制は、以前に感染した細胞において起こるのみならず、siRNAの投与と同時に、又は投与後に感染した細胞においても起こる。
実施例2:ウィルスRNAポリメラーゼ又は核タンパクを標的するsiRNAは、ニワトリ胚においてインフルエンザAウィルス産生を抑制する。
材料及び方法
siRNA−オリゴフェクタミン複合体の形成及びニワトリ胚の接種。
siRNAは前述の通りに調製した。鶏卵を標準条件下に維持した。30μlのオリゴフェクタミン(製品番号:12252011、Life Technologies,現在Invitrogenから購入)を、30μlのOpti−MEMI(Gibco)と混合し、室温で5分インキュベートした。2.5nmol(10μl)のsiRNAを、30μlのOpti−MEM Iと混合し、希釈オリゴフェクタミンに加えた。このsiRNA及びオリゴフェクタミンを室温で30分インキュベートした。10日齢鶏卵に、siRNA−オリゴフェクタミン複合体を、100μlのPR8ウィルス(5000pfu/ml)と共に接種した。この鶏卵を、表示の時間37℃でインキュベートし、羊水を採取した。羊水におけるウィルス力価を、前述のようにHAアッセイで測定した。
結果
MDCK細胞における結果を確かめるために、siRNAの、ニワトリ有精卵におけるインフルエンザウィルス産生の抑制能力についても定量した。鶏卵には電気穿孔を用いることができないので、インビトロにおいて、DNAオリゴヌクレオチドのみならず、siRNAの細胞内取り込みを促進することが示されている脂質系介在因子、オリゴフェクタミンを用いた(25)。手短に言うと、PR8ウィルス単独(500pfu)、又は、ウィルス、プラス、siRNA−オリゴフェクタミン複合体を、図13Aに模式的に示すように10日齢の鶏卵の羊膜腔に注入した。17時間後に羊水を採取し、血球凝集アッセイによってウィルス力価を測定した。図13Bに示すように、ウィルスを単独注入した場合(オリゴフェクタミンの存在下に)、高いウィルス力価が容易に検出された。GFP−949の共同注入は、ウィルス力価に有意な影響を及ぼさなかった。(オリゴフェクタミンを排除しても、ウィルス力価の有意な低下は観察されなかった)。
インフルエンザウィルスに対して特異的なsiRNAを注入すると、MDCK細胞において観察されたものと一致する結果が示された。即ち、MDCK細胞においてインフルエンザウィルスの産生を抑制した、同じsiRNA(NP−1496、PA2087、及びPB1−2257)が、鶏卵においてもウィルス産生を抑制したが、一方、MDCK細胞において比較的効果的でなかったsiRNA(NP−231、M−37、及びPB1−129)は、ニワトリ有精卵でも無効であった。上記から、siRNAは、ニワトリ有精卵においてもインフルエンザウィルス産生の干渉において有効である。
実施例3:siRNAは、mRNAレベルでインフルエンザウィルスの産生を抑制する。
材料及び方法
siRNA調製は、前述の通りに実行した。
RNA抽出、逆転写、及びリアルタイムPCR.
1×107MDCK細胞に対し、2.5nmolのNP−1496を電気穿孔によって導入するか、又は、模擬電気穿孔(siRNA無し)した。8時間後、該細胞にPR8ウィルスをMOI=0.1で接種した。感染後、1、2、及び3時間後の時点で、上清を取り出し、細胞を、Trizol試薬(Gibco)で分解した。RNAを、メーカーの指示に従って精製した。20μlの反応混合液において、200ngの全体RNA、特異的プライマー(下記参照)、及び、Omniscript逆転写酵素キット(Qiagen)を用い、メーカーの指示に従って逆転写(RT)を37℃で1時間実行した。mRNA、NP vRNA、NP cRNA、NS vRNA、又はNS cRNAそれぞれに対して特異的なプライマーは下記の通りである:
mRNA,dT18=5′−TTTTTTTTTTTTTTTTTT−3′(配列番号10754)
NP vRNA,NP−367:5′−CTCGTCGCTTATGACAAAGAAG−3′(配列番号10755)
NP cRNA,NP−1565R:5′−ATATCGTCTCGTATTAGTAGAAACAAGGGTATTTTT−3′(配列番号10756)
NS vRNA,NS−527:5′−CAGGACATACTGATGAGGATG−3′(配列番号10757)
NS cRNA,NS−890R:5′−ATATCGTCTCGTATTAGTAGAAACAAGGGTGTTTT−3′(配列番号10758)。
1μlのRT反応混合液(即ち、逆転写を実行して得たサンプル)、及び配列特異的プライマーを用い、SYBRグリーンI2本鎖DNA結合染料を含むSYBR緑色PCRマスターミックス(AB Applied Biosystems)によるリアルタイムPCRを実行した。PCRは、ABI PRISM7000配列検出システム(AB applied Biosystem)においてサイクルを繰り返し、ABI PRISM7000SDSソフトウェア(AB Applied Biosystems)にて分析した。PCR反応は、50℃で2分、95℃で10分、次に95℃で15秒、及び60℃で1分を50サイクルで行った。サイクル時間は、0.2蛍光単位の読み取り値で分析した。反応は全て二重に行った。二重標本の間で1.0を超える変動を示したサイクル時間は棄却した。次に、二重のサイクル時間を平均し、β−アクチンのサイクル時間をこの平均から引き、正規化値とした。
PCRプライマーは下記の通り。
NP RNAの場合、
NP−367:5′−CTCGTCGCTTATGACAAAGAAG−3′(配列番号10755)
NP−460R:5′−AGATCATCATGTGAGTCAGAC−3′(配列番号10759)
NS RNAの場合
NS−527:5′−CAGGACATACTGATGAGGATG−3′(配列番号10757)
NS−617R:5′−GTTTCAGAGACTCGAACTGTG−3′(配列番号10760)
結果
前述のように、インフルエンザウィルスの複製時、vRNAは転写されてcRNA及びmRNAを生成する。cRNAは、更にvRNA合成のための鋳型となり、mRNAは、タンパク合成のための鋳型となる。RNAiは、配列特異的なやり方でmRNAの分解に狙いを定めることが知られるが(16から18)、vRNA及びcRNAも、siRNAにとって標的となる可能性がある。なぜなら、インフルエンザウィルスAのvRNAは、ヌクレアーゼに対し感受性を有するからである(1)。siRNAの、各種RNA分子の分解に及ぼす作用を調べるために、配列特異的プライマーによる逆転写、次いでリアルタイムPCRを用いてvRNA、cRNA、及びmRNAのレベルを定量した。図15は、インフルエンザウィルスのvRNA、mRNA、及びcRNAの間の関係を示す。図15に示すように、cRNAは、vRNAの正確な相補体であるが、mRNAは、3′末端にポリA配列を含む。このポリA配列は、vRNAセグメントの5′末端から、15から22ヌクレオチド下流の部位に対して相補的な部位から始まる。従って、vRNA及びcRNAに比べて、mRNAは、3′末端において15から22ヌクレオチドを欠く。この3つのウィルスRNA分子を区別するために、第1逆転写反応において、vRNA、cRNA,及びmRNAに対して特異的なプライマーを用いた。mRNAについては、ポリdT18をプライマーとして用いた。cRNAの場合は、mRNAから消えた、該RNAの3′末端に対して相補的なプライマーを用いた。vRNAについては、プライマーは、vRNAに対し相補的である限り、該RNAにそってほとんど任意の場所であってもよいが、5′末端にあまり近接しないものがよい。前記RNAのいずれか1つのみから転写されたcDNAをリアルタイムPCRで増幅した。
インフルエンザウィルス感染後約4時間までに、新しいビリオンがパッケージされ、放出され始める。siRNAの、mRNA及びcRNA転写の第1波に及ぼす作用を定めるために、RNAを感染後早期に分離した。簡単に言うと、NP−1496を、MDCK細胞中に電気穿孔によって導入した。模擬電気穿孔(siRNA無し)も行った。6から8時間後、細胞に、PR8ウィルスをMOI=0.1で感染させた。次に、細胞を、感染後1、2、及び3時間で分解し、RNAを分離した。各RNA分子に対するプライマーによる逆転写、次いでリアルPCRを実行することによって、mRNA、vRNA、及びcRNAのレベルを定量した。
図16は、模擬トランスフェクトされた、又は、ウィルス感染の約6−8時間前にsiRNA NP−1496によってトランスフェクトされた細胞において、ウィルスによる感染後の種々の時間において観察されるウィルスNP、及びNS RNA分子の量を示す。図16に示すように、感染1時間後では、NP siRNAトランスフェクションが有った細胞、無かった細胞の間に、NP mRNAの量に有意差は無かった。感染後早くも2時間後、模擬トランスフェクション群ではNP mRNAが38倍上昇したのに対し、一方、siRNAをトランスフェクトさせた細胞では、NP mRNAは全く上昇しなかった(或いは、低下すらしていた)。感染3時間後では、模擬トランスフェクションではmRNA転写体レベルが上昇を続けているのに対し、siRNA処理を受けた細胞では、NP mRNA量の連続的低下が観察された。NP vRNA及びcRNAは、模擬トランスフェクションにおけるvRNA及びcRNAの量の増加が、感染3時間後にやっと目立つ程度になることを除いては類似のパターンを示した。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、これは、恐らく、初回のmRNA転写が、cRNA及び更にvRNA合成の前に起こるインフルエンザウィルスのライフサイクルによるものと思われる。
上記結果は、血球凝集アッセイ又はプラークアッセイによって、生の、生きた細胞を測定して得た結果と同様、全てのNP RNA分子の量も、NP siRNAによる処理によって有意に低下することを示した。siRNAは主にmRNAの分解を仲介することが知られているけれども、この実験のデータは、NP cRNA及びvRNAのsiRNA介在性分解の可能性も排除しない。ただし、後述の結果は、NP mRNA低下によるNPタンパクレベルの減少が、NP cRNA及び/又はvRNAの安定性の低下をもたらすことを示唆する。
実施例4:RNA干渉の標的の特定
材料及び方法
未修飾のsiRNAの調製は前述の通りに実行した。センス又はアンチセンス鎖の一方、又は両方の各ヌクレオチド残基において、2′ヒドロキシル基が、2′−O−メチル基によって置換される、修飾RNAオリゴヌクレオチドも、Dharmaconによって合成された。修飾オリゴヌクレオチドは、未修飾オリゴヌクレオチドに関して前述した通りに脱保護され、相補鎖にアニールされた。siRNA二重鎖を、二重鎖形成の完全性についてゲル電気泳動によって分析した。
細胞培養、siRNAによるトランスフェクション、及びウィルスによる感染。
これらを事実上前述の通りに行った。簡単に言うと、修飾NP−1496 siRNAに関する実験では、先ず、MDCK細胞を、野生型(wt)及び修飾(m)鎖から形成されたNP−1496 siRNA(2.5nmol)でトランスフェクトし、8時間後、0.1のMOIでPR8で感染した。感染の24時間後、培養上清のウィルス力価を定量した。M−37 siRNAに関わる実験では、MDCK細胞にM−37 siRNA(2.5nmol)をトランスフェクトし、0.01のMOIでPR8を感染させ、感染後1、2、及び3時間においてRNA分離のために標本採取した。M−37のセンス及びアンチセンス配列については表2を参照されたい。
RNA抽出、逆転写、及びリアルタイムPCRを事実上前述の通りに行った。逆転写のために用いた、mRNA、M−特異的vRNA,及びM−特異的cRNAに対して特異的なプライマーは下記の通りであった:
mRNA,dT18=5′−TTTTTTTTTTTTTTTTTT−3′(配列番号10754)
M vRNA:5′−CGCTCAGACATGAGAACAGAATGG−3′(配列番号10761)
M cRNA:5′−ATATCGTCTCGTATTAGTAGAAACAAGGTAGTTTTT−3′(配列番号10762)
M RNA用のPCRプライマーは下記の通りであった:
M順行:5′−CGCTCAGACATGAGAACAGAATGG−3′(配列番号10761)
M逆行:5′−TAACTAGCCTGACTAGCAACCTC−3′(配列番号10763)
結果
siRNAは、mRNAの外に、vRNA及び/又はcRNAに干渉する可能性を調べるために、センス(S,又は+)、又はアンチセンス(AS,又は−)鎖を修飾したNP−1496 siRNAを合成した。各ヌクレオチド残基において2′−ヒドロキシル基の代わりに2′−O−メチル基を置換させる修飾は、二重鎖形成の塩基対には影響することはないが、この修飾RNA鎖はもはやRNA干渉を支持しない。言い換えると、センス鎖は修飾されたが、アンチ鎖は野生型(mS:wtAS)であるsiRNAは、アンチセンス鎖に対して相補的な配列を有するRNAの分解は支持するが、センス鎖に対して相補的な鎖の分解は支持しない。逆に、センス鎖が野生型であるが、アンチセンス鎖が修飾されているsiRNAは(wtS:mAS)、センス鎖に対して相補的な配列を有するRNAの分解は支持するが、センス鎖に対して相補的な配列を有するRNAの分解は支持しない。
MDCK細胞に模擬トランスフェクトするか、又は、NP−1496 siRNAをトランスフェクトした。その際、siRNAは、センス鎖(mS:wtAS)、又はアンチセンス鎖(wtS:mAS)のいずれか一方が修飾されており、他方は野生型であった。細胞はまた、両方の鎖が修飾されている(mS:mAS)NP−1496 siRNAによってトランスフェクトした。次に、細胞にPR8ウィルスを感染させ、上清のウィルス力価を測定した。図17Aに示すように、高いウィルス力価が、模擬トランスフェクションを受けた培養液において検出された。予想通り、極めて低いウィルス力価が、野生型siRNA(wtS:wtAS)によってトランスフェクトされた培養体において検出されたが、しかし、高いウィルス力価が、両鎖が修飾された(mS:mAS)siRNAによってトランスフェクトされた培養体に検出された。ウィルス力価は、アンチセンス鎖が修飾された(wtAS:mAS)siRNAによってトランスフェクトされた培養体では高く、一方、センス鎖だけが修飾された(mS:wtAS)siRNAによってトランスフェクトされた培養体では、ウィルス力価は低かった。どのようなものであれ、理論に拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、インフルエンザウィルスの産生を抑制するのにsiRNA二重鎖の、野生型アンチセンス(−)鎖が必要であることは、RNA干渉の標的は、mRNA(+)又はcRNA(+)、又はその両方であると考える。
これらの可能性を更に区別するために、対応するmRNA、vRNA、及びcRNAの蓄積に及ぼすsiRNAの作用を調べた。同時に感染した細胞集団における転写を追跡するために、siRNAトランフェクトMDCK細胞を、感染の1、2、及び3時間後(新しいビリオンの放出及び再感染の起こる前に)にRNA分離のために採取した。先ず、ウィルスのmRNA、vRNA、及びcRNAを、特異的プライマーによる逆転写によって独立にcDNAに変換した。次に、各cDNAのレベルをリアルタイムPCRによって定量した。図17Bに示すように、M−特異的siRNA M−37を用いると、感染後1又は2時間後ではM−特異的mRNAはほとんど検出されなかった。感染後3時間では、M−37無添加の場合は、M−特異的mRNAは簡単に検出された。M−37によってトランスフェクトされた細胞では、M−特異的mRNAのレベルは約50%低下した。一方、M−特異的vRNA及びcRNAは、M−37の存在によって抑制されなかった。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、上記結果は、恐らくウィルスmRNAが、siRNA介在性干渉の標的であることを示唆する。
実施例5:あるsiRNAの、ウィルスRNAの蓄積に及ぼす作用
材料及び方法
siRNAの調製は前述のように実行した。プライマーは、mRNA、NP vRNA、NP cRNA、NS vRNA、NS cRNA、M vRNA、又はM cRNAのいずれかに対して特異的である。PB1 vRNA、PB1 cDNA、PB2 vRNA、PB2 cRNA、PA vRNA、又はPA cRNAに対して特異的であり、逆転写に使用されたプライマーは下記の通りであった:
PB1 vRNA:5′−GTGCAGAAATCAGCCCGAATGGTTC−3′(配列番号10764)
PB1 cRNA:5′−ATATCGTCTCGTATTAGTAGAAACAAGGCATTT−3′(配列番号10765)
PB2 vRNA:5′−GCGAAAGGAGAGAAGGCTAATGTG−3′(配列番号10766)
PB2 cRNA:5′−ATATGGTCTCGTATTAGTAGAAACAAGGTCGTTT−3′(配列番号10767)
PA vRNA:5′−GCTTCTTATCGTTCAGGCTCTTAGG−3′(配列番号10768)
PA cRNA:5′−ATATCGTCTCGTATTAGTAGAAACAAGGTACTT−3′(配列番号10769)
PB1、PB2、及びPA RNAに対するPCRプライマーは下記の通り。
PB1順行:5′−CGGATTGATGCACGGATTGATTTC−3′(配列番号10770)
PB1逆行:5′−GACGTCTGAGCTCTTCAATGGTGGAAC−3′(配列番号10771)
PB2順行:5′−GCGAAAGGAGAGAAGGCTAATGTG−3′(配列番号10766)
PB2逆行:5′−AATCGCTGTCTGGCTGTCAGTAAG−3′(配列番号10772)
PA順行:5′−GCTTCTTATCGTTCAGGCTCTTAGG−3′(配列番号10768)
PA逆行:5′−CCGAGAAGCATTAAGCAAAACCCAG−3′(配列番号10773)
結果
NP−1496は、NP遺伝子セグメントの分解を特異的に標的とするのか、或いは、NP以外の他のウィルスRNAのレベルもまた影響を受けるのかどうかを決めるために、RT及びリアルタイムPCRのためにNSに対して特異的なプライマーを用い、前述のように種々のNS RNA分子(mRNA,vRNA,cRNA)の量を測定した。図18に示すように、NS mRNA、vRNA、及びcRNAの変化は、NP RNAについて観察されたものと同じパターンを示した。感染後3時間では、模擬トランスフェクト細胞では、全てのNS RNA分子において著明な上昇が認められるのに対し、NP−1496 siRNAを導入された細胞では、NS RNAレベルに目立った変化は見られなかった。この結果は、異なるウィルスRNAの転写及び複写も、少なくともNP RNAに関して相互関連性に調節されていることを示す。相互関連性の調節とは、一つの転写体のレベルが、もう一つの転写体のレベルに、直接的又は間接的に影響を及ぼすことを意味する。特定の機構を意味するものではない。NP転写体がsiRNA処理によって分解されると、他のウィルスRNAのレベルも抑えられる。
NP siRNAの他のウィルスRNAに対する作用を更に調べるために、全てウィルス遺伝子のものであるmRNA、vRNA、及びcRNAの蓄積を、NP−1496によって処理された細胞において測定した。図18Aに示すように(上段パネル)、NP−特異的mRNAは、感染1又は2時間後では低かった。感染3時間後、NP mRNAは、NP−1496無添加では簡単に検出されたのに、一方、NP−1496の存在下では、NP mRNAのレベルは、バックグラウンドレベルに留まったままだった。これは、siRNAが、特異的mRNAの蓄積を抑制することを示す。図18Aに示すように(中段及び下段パネル)、NP−特異的及びNS−特異的vRNA及びcRNAも、NP−1496の存在下に大きく抑制された。これらの結果は、前述の結果を裏付ける。更に、NP−1496処理細胞では、M、NS、PB1、PB2、及びPA遺伝子のmRNA,vRNA、及びcRNAの蓄積もまた抑制された(図18B、18C,及び18D)。更に、この広範な抑制作用は、PA−2087についても観察された。図18E、18F、及び18Gにおける左側の上段、中段、及び下段パネルは、図18A,18B、及び18Cに示されたものと同じ結果を表示し、NP−1496 siRNAによるウィルスmRNA転写の抑制、及びウィルスvRNA及びcRNA複製の抑制を示す。図18E、18F,及び18Gの右側の上段、中段、及び下段パネルは、同じ濃度のPA−2087 siRNAを用いて行った同じ実験の結果を表す。図18Eの、それぞれ、右側上段、中段、及び下段パネルに示すように、感染3時間後において、PA−2087無添加では、PA、M、及びNS mRNAは簡単に検出されるのに、一方、PA−2087が存在すると、PA、M、及びNS mRNAの転写は抑制された。図18Fの、それぞれ、右側上段、中段、及び下段パネルに示すように、感染3時間後において、PA−2087無添加では、PA、M、及びNS vRNAは簡単に検出されるのに、一方、PA−2087が存在すると、PA、M、及びNS vRNAの蓄積は抑制された。図18Gの、それぞれ、右側上段、中段、及び下段パネルに示すように、感染3時間後において、PA−2087無添加では、PA、M、及びNS cRNAは簡単に検出されるのに、一方、PA−2087が存在すると、PA、M、及びNS cRNAの蓄積は抑制された。更に、図18Hは、NP−特異的siRNAが、PB1−(上段パネル)、PB2−(中段パネル)、及びPA−(下段パネル)特異的mRNAの蓄積を抑制することを示す。
いかなる理論にも束縛されることを望むものではないが、本発明者らは、NP siRNAのこの広範な結果は、恐らく、vRNA及びcRNAの結合及び安定化におけるNPの重要性の結果によるもので、NP−特異的siRNAが、非特異的にRNA分解を標的とするためではないだろうと考える。インフルエンザウィルスのNP遺伝子セグメントは、vRNAとcRNA両方に結合することが可能な1本鎖RNA結合性核タンパクをコードする(図14参照)。ウィルスのライフサイクルにおいて、NP mRNAは最初に転写され、翻訳される。NPタンパクの主要機能は、RNA転写、複製、及びパッケージングのためにウィルスゲノムをカプシドの中に包み込むことである。NPタンパクが無いと、vRNA及びcRNA両方の完全合成が大きく阻害される。NP siRNAが、NP RNAの分解を誘発すると、NPタンパクの合成が阻害され、十分なNPタンパクの欠損が生じ、これはその後他のウィルス遺伝子複製にも悪影響を及ぼす。このようにして、NP siRNAは、ごく初期の段階においてウィルス産生を強力に抑制する。
感染細胞中のNPタンパク分子の数が、mRNA合成レベル、対、ゲノムRNA(vRNA及びcRNA)複製を調節すると仮定されている(1)。従来の研究は、NPタンパクにおける温度感受性突然変異を用いて、cRNA合成は、インビトロでもインビボでも温度感受性であるが、mRNA合成はそうではないことを示した(70,71)。NPタンパクは、発生期のcRNA及びvRNA転写体の伸長及び停止抵抗に必要であることが示された(71,72)。上に提示される結果から、NP特異的si RNAは、感染細胞における全てのウィルスRNAの蓄積を抑制することが示された。いかなる理論にも束縛されることを望むものではないが、NP特異的si RNAの存在下では、新たに転写されるNP mRNAが分解され、これが、ウィルス感染後のNPタンパク合成の抑制をもたらすと考えられる。新たに合成されるNPが無いために、更なるウィルス転写及び複製が、従って、新規ビリオンの産生が抑制される。
同様に、PA特異的の存在下では、新たに転写されるPA mRNAが分解され、これは、PAタンパク合成の抑制をもたらす。インフルエンザビリオン当たり30から60コピーのRNA転写酵素が存在するにも拘わらず、新たに合成されるRNA転写酵素が無いと、新たな転写及び複製も抑制されるようである。同様の結果は、PB1に対して特異的なsiRNAについても得られた。一方、基質(M)タンパクは、ウィルス感染の後期に至るまで必要とされない(1)。従って、M−特異的siRNAは、M−特異的mRNAの蓄積は抑制するが、vRNA、cRNA,又は他のウィルスRNAは抑制しない。以上まとめると、上記所見は、インフルエンザウィルスRNAの転写及び複製においては、新規合成の核タンパク及びポリメラーゼタンパクが必要不可欠であることを示す。NP−、PA−、及びPB1−特異的siRNAが、それを通じてmRNA蓄積及び他のウィルスRNA転写に干渉する、mRNA−及びウィルス−特異的機構は、特にインフルエンザウィルス感染の強力な抑制因子であると考えられる。
実施例6:いくつかのsiRNAによるインフルエンザウィルスRNA蓄積に対する広範な抑制は、インターフェロン反応、又はウィルス誘発RNA分解によるものではない。
RNAレベルは、標準条件下にPCRを用いて測定した。γ−アクチンRNAの測定には下記のPCRプライマーを用いた。
γ−アクチン順行:5′−TCTGTCAGGGTTGGAAAGTC−3′(配列番号10774)
γ−アクチン逆行:5′−AAATGCAAACCGCTTCCAAC−3′(配列番号10775)
前述のウィルスRNA蓄積に対する広範な抑制に関して可能な一つの原因は、siRNAの存在下における感染細胞のインターフェロン反応である(23、65、66)。このため、全てのα、β、及びω遺伝子を含む、全IFN座位を欠失させたベロ細胞(67,68)(Q.G.and J.C.未発表データ)において上記の実験を繰り返した。MDCK細胞の場合と全く同様に、NP−、M−、及びNS−特異的mRNAの蓄積は、全てNP−1496によって抑制された(図18D)。更に、β−アクチン、γ−アクチン、及びGAPDHを含む、細胞遺伝子転写体のレベルに対するsiRNAの作用を、PCRを用いて定量した。siRNAの無添加又は添加において転写体レベルに有意差は検出されず、siRNAの抑制作用は、ウィルスRNAに対して特異的であることを示した。これらの結果は、いくつかのsiRNAによるウィルスRNA蓄積の広範な抑制は、細胞インターフェロンの反応の結果ではないことを示す。
インフルエンザウィルスの感染後におけるdsRNAの存在も、分解のためにRNAを標的とする細胞経路を活性化する(23)。この経路の活性化に及ぼすsiRNAの作用を調べるため、我々は、該経路の最も重要な成分であるリン酸化タンパクキナーゼR(PKR)のレベルを定量した(23)。ウィルス感染無しで、NP−1496をMDCK細胞にトランスフェクトしても、活性化PKRのレベルは影響されなかった(データ示さず)。インフルエンザウィルスによる感染は、従来の研究(65、66、69)と一致して、リン酸化PKRレベルの上昇をもたらさなかった。一方、上昇は、NP−1496添加又は無添加において同じであった(データ示さず)。以上から、ウィルスRNA蓄積の広範な抑制は、siRNA存在下におけるウィルス誘発性分解の強調によるものではない。
実施例7:マウスにおけるインフルエンザウィルス産生のsiRNAによる抑制
本実験は、インフルエンザウィルスのNP又はPA転写体を標的とするsiRNAの投与が、該投与がインフルエンザウィルスの感染前又は感染後のいずれに行われても、マウスにおいてインフルエンザウィルスの産生を抑制することを示す実験を記載する。該抑制は用量依存性で、それぞれ異なるインフルエンザウィルス遺伝子から発現された転写体を標的とする二つのsiRNAを一緒に投与した場合、加重作用を示す。
材料及び方法
siRNA調製。
これは前述の通りに行った。
siRNA送達。
siRNA(30又は60μgのGFP−949、NP−1496、又はPA−2087)は、オリゴヌクレオチド陽イオンポリマートランスフェクション試薬、N/P比=5用jetPET(登録商標)(Obiogene,Inc.,Carlsbad,カリフォルニア州、カタログ番号GDSP20130,N/Pは、jetPEI/siRNA混合物におけるリン酸ヌクレオチド当たりの窒素数を指す)、又は、ポリL−リシン(MW(vis)52,000;MW(LALLS)41,800、Sigma,カタログ番号P2636)と、5%グルコース溶液中で、室温で20分インキュベートした。この混合物を、一群当たり4匹のマウスに対し、1匹につき200μlを、後眼窩静脈内に注入した。対照(未処置)マウスには、200μlの5%グルコースを注入した。マウスを、siRNA感染前又は鼻腔内感染前に、2.5%アベルチンによって麻酔した。
ウィルス感染。
B6マウス(標準的実験条件下に維持)を、PR8ウィルスによって鼻腔内感染させた。感染は、ウィルス含有バッファーを、ピペットにより、1匹のマウス当たり30μl(12,000pfu)をマウスの鼻腔に滴下することにより行った。
ウィルス力価の定量。
感染後種々の時点でマウスを屠殺し、肺を採取した。肺を細かく破砕し、ホモジェネートを凍結し、二度解凍しウィルスを放出させた。感染肺に存在するPR8ウィルスは、MDCK細胞に感染させることによってその力価を測定した。平底96ウェルプレートに、ウェル当たり3×104個のMDCK細胞を撒き、24時間後、血清含有培養液を除去した。未希釈の、又は、1×10−1から1×10−7に希釈した、25μlの肺ホモジェネートを、三重のウェルに接種した。1時間のインキュベーション後、4μg/mlのトリプシンを含む、175μlの感染培養液を各ウェルに加えた。37℃で48時間のインキュベーション後、ウィルスの有無を、感染細胞の上清による、ニワトリPBCの血球凝集に基づいて定量した。血球凝集定量は、V底96ウェルプレートで実行した。上清の連続2倍希釈を、等量の0.5%(容量/容量)ニワトリ赤血球縣濁液(Charles River Laboratories)と混合し、氷上で1時間インキュベートした。赤血球の、接着性均一層を含むウェルは陽性と判定した。ウィルス力価は、Reed and Muenchの方法に従って、ウェルの50%に感染した、希釈終末点(TCID50)を内挿することによって求めた。従って、より低いTCID50は、より低いウィルス力価を反映する。任意の二つの群間のデータは、Studentのt検定によって比較した。この検定は、本明細書に記載される実験全体を通じて有意性を評価するために用いられた。
図19Aは、ウィルスNP転写体を標的とするsiRNAは、感染前に投与されるとマウスにおけるインフルエンザウィルスの産生を抑制することを実証する実験結果を示す。材料及び方法で前述したように、30又は60μgのGFP−949又はNP−1496 siRNAをjetPEIとインキュベートし、マウスに静注した。3時間後、マウスを、鼻腔を通じて、マウス当たり12000pfuのPR8ウィルスで感染した。感染の24時間後肺を採取した。図19Aに示すように、siRNA処置を受けなかったマウスにおける肺ホモジェネートのlog10TCID50の平均値(NT;黒塗り四角)、又は、GFPを標的とするsiRNAを受容したマウス肺ホモジェネートの対応平均値(GFP60μg;白抜き四角)は4.2であった。NPを標的とするsiRNA30μg、及びjetPEIであらかじめ処置されたマウスでは(NP30μg;白抜き円)、肺ホモジェネートのlog10TCID50の平均値は3.9であった。NPを標的とする60μgのsiRNA、及びjetPEIであらかじめ処置されたマウスでは(NP60μg;黒塗り円)、肺ホモジェネートのlog10TCID50の平均値は3.2であった。処置を受けなかった群と、60μgのNP siRNAを受容した群の間に見られる、この肺ホモジェネートのウィルス力価の差は、P=0.0002で有意であった。個別のマウスのデータは表6Aに示す(NT=処置無し)。
図19Bは、ウィルスNP転写体を標的とするsiRNAは、陽イオンポリマーPLLを含む組成物において感染前に静注されるとインフルエンザウィルスの産生を抑制することを示す、別の実験結果を示す。材料及び方法で前述したように、30又は60μgのGFP−949又はNP−1496 siRNAをPLLとインキュベートし、マウスに静注した。3時間後、マウスを、鼻腔を通じて、マウス当たり12000pfuのPR8ウィルスで感染した。感染の24時間後肺を採取した。図19Bに示すように、siRNA処置を受けなかったマウスにおける肺ホモジェネートのlog10TCID50の平均値(NT;黒塗り四角)、又は、GFPを標的とするsiRNAを受容したマウス肺ホモジェネートの対応平均値(GFP60μg;白抜き四角)は4.1であった。NPを標的とするsiRNA60μg、及びPLLであらかじめ処置されたマウスでは(NP60μg;白抜き円)、肺ホモジェネートのlog10TCID50の平均値は3.0であった。60μgのGFPを受容した群と、60μgのNP siRNAを受容した群の間に見られる、この肺ホモジェネートのウィルス力価の差は、P=0.0001で有意であった。個別のマウスのデータは表6Aに示す(NT=処置無し)。これらのデータは、インフルエンザNP転写体を標的とするsiRNAは、ウィルス感染前に投与されると、肺におけるウィルス力価を下げることを示す。データはまた、siRNAと陽イオン性ポリマーとの混合物は、流体力学的トランスフェクションを要することなく静注投与されることによって、肺におけるインフルエンザウィルスを効果的に抑制することを示す。
表6A.陽イオン性ポリマーと併用されるsiRNAによるマウスにおけるインフルエンザウィルス産生の抑制
図19Cは、ウィルスNP転写体を標的とするsiRNAは、感染前に投与されると、マウスにおいてインフルエンザウィルスの産生を抑制することを示す第三の実験結果を示し、且つ、陽イオン性ポリマーの存在は、siRNAの抑制効力を有意に増強することを実証する。材料及び方法で前述したように、60μgのGFP−949又はNP−1496 siRNAをリン酸バッファー生食液(PBS)又はjetPEIとインキュベートし、マウスに静注した。3時間後、マウスを、鼻腔を通じて、マウス当たり12000pfuのPR8ウィルスで感染した。感染の24時間後肺を採取した。図19Cに示すように、siRNA処置を受けなかったマウスにおける肺ホモジェネートのlog10TCID50の平均値(NT;白抜き四角)は4.1であり、一方、PBSに溶解したGFPを標的とするsiRNAを受容したマウスでは(GFP PBS;白抜き三角)、肺ホモジェネートのlog10TCID50の平均値は4.4であった。PBSに溶解したNPを標的とするsiRNA60μgであらかじめ処置されたマウスでは(NP PBS;黒塗り三角)、肺ホモジェネートのlog10TCID50の平均値は4.2であり、処置無し、又は、GFP標的siRNAによる処置に比べ、ほんの僅かな効力の上昇を示した。jetPEIに溶解したGFPを標的とするsiRNA60μgであらかじめ処置されたマウスでは(GFP PEI;白抜き円)、肺ホモジェネートのlog10TCID50の平均値は4.2であった。一方、jetPEIに溶解したNPを標的とするsiRNA60μgを受容したマウスでは(NP PEI;黒塗り円)、肺ホモジェネートのlog10TCID50の平均値は3.2であった。PBSに溶解したGFP siRNAを受容した群と、PBSに溶解したNP siRNAを受容した群の間に見られる、この肺ホモジェネートのウィルス力価の差は、P=0.04で有意であった。一方、jetPEIと共にGFP siRNAを受容した群と、jetPEIと共に、NP siRNAを受容した群の間に見られる、この肺ホモジェネートのウィルス力価の差は、P=0.003で高度に有意であった。個別のマウスのデータは表6Bに示す(NT=処置無し)。
表6B.siRNAによる、マウスにおけるインフルエンザウィルス産生の抑制は、陽イオン性ポリマーによって効力の上昇を示す
更に、感染後のいろいろの時点において、siRNAのインフルエンザウィルス産生の抑制能力を評価するために、感染の前後のいろいろな時点で投与して実験を行った。
120ugのsiRNAを、ウィルス感染の12時間前に投与したことを除いては、前述の通りにsiRNAを投与した。表6Cは、log10TCID50として表した結果を示す。NP−処置を、対照群と比較した場合のP値は、0.049であった。
別の実験では、siRNA(60ug)を、感染の3時間前に投与した。1500pfuのPR8ウィルスを鼻腔内に投与した。感染の48時間後感染肺を採取した。表6Dは、log10TCID50として表した結果を示す。NP−処置を、対照群と比較した場合のP値は、0.03であった。
別の実験では、siRNA(120ug)を、PR8(1500pfu)感染の24時間後に投与した。感染の54時間後感染肺を採取し、ウィルス力価を測定した。表6Eは、log10TCID50として表した結果を示す。NP−処置を、対照群と比較した場合のP値は、0.03であった。
他のポリマーも、効果的なsiRNA送達剤となることが示されている。図19Dは、NPを標的とするsiRNA(NP−1496)が、ポリ(ベータアミノエステル)(J28)と共に静注されると、マウスにおいてインフルエンザウィルス産生を抑制することを示すプロットである。図19Eは、NPを標的とするsiRNA(NP−1496)が、ポリ(ベータアミノエステル)(J28又はC32)と共に腹腔投与されると、マウスにおいてインフルエンザウィルス産生を抑制することを示すプロットである。一方、対照RNA(GFP)は、有意な作用を持たない。実験は、ポリマーのsiRNAに対する比が重量/重量比(例えば、60:1w/w)であることを除いては、事実上前述の通り行った。ポリマーとsiRNAは、混合し、12,000pfuのPR8ウィルスによる鼻腔内感染の3時間前に、マウスに対し静脈内又は鼻腔内投与された。24時間後、肺を採取し、HAアッセイを実行した。J28及びC32に存在するアミン及びビス(アクリル酸エステル)モノマーは、米国特許出願番号第10/446,444号に記載され、図示されている。このポリマーは、Robert Langer博士の恵与による。
図20は、異なるインフルエンザウィルス転写体を標的とするsiRNAが加重作用を示すことを実証する実験結果を示す。60μgのNP−1496 siRNA、60μgのPA−2087 siRNA、又は60μgのNP−1496 siRNA+60μgのPA−2087 siRNAを、材料及び方法で前述したように、jetPEIとインキュベートし、マウスに静注した。3時間後、マウスに、マウス当たり12000pfuのPR8ウィルスを鼻腔内に注入した。図20に示すように、siRNA処置を受けなかったマウスにおける肺ホモジェネートのlog10TCID50の平均値(NT;黒塗り四角)は4.2であった。NPを標的とするsiRNA60μgを受容したマウスでは(NP60μg;白抜き円)、肺ホモジェネートのlog10TCID50の平均値は3.2であった。PAを標的とするsiRNA60μgを受容したマウスでは(PA60μg;白抜き三角)、肺ホモジェネートのlog10TCID50の平均値は3.4であった。NPを標的とするsiRNA60μg+PAを標的とするsiRNA60μgを受容したマウスでは(NP+PA;黒塗り円)、肺ホモジェネートのlog10TCID50の平均値は2.4であった。処置を受けなかった群と、60μgのNP siRNA、60μgのPA siRNA,又は60μgのNP siRNA+60μgのPA siRNAを受容した群との間に見られる、この、肺ホモジェネートのウィルス力価の差は、それぞれ、P=0.003、0.01、及び0.0001で有意であった。60μgのNP siRNA又は60μgのNP siRNAを受容した群と、60μgのNP siRNA+60μgのPA siRNAを受容した群の間に見られる、この、肺ホモジェネートのウィルス力価の差は、P=0.01で有意であった。個別のマウスのデータは表7に示す(NT=処置無し)。これらのデータは、インフルエンザのNP又はPA転写体を標的とするsiRNAによる前処置は、その後にインフルエンザウィルスによって感染されるマウスの肺においてウィルスを抑えることを示す。データは更に、異なるウィルス転写体を標的とする複数のsiRNAの混合物は、加重作用を示すことを示す。これは、異なる転写体を標的とするsiRNAの組み合わせは、等しい効力を実現するのに必要とされる単一siRNAの量に比べ、各siRNAの用量を低減させることが可能となることを示唆する。
表7:マウスにおけるインフルエンザウィルスに対するsiRNAの加重作用
図21は、ウィルスNP転写体を標的とするsiRNAは、感染後投与されると、マウスにおけるインフルエンザウィルスの産生を抑制することを示す実験結果を示す。マウスは、500pfuのPR8ウィルスによって鼻腔を通じて感染させた。60μgのGFP−949 siRNA、60μgのPA−2087 siRNA、60μgのNP−1496 siRNA、又は60μgのNP siRNA+60μgのPA siRNAを、材料及び方法で前述したように、jetPEIとインキュベートし、5時間後マウスに静注した。siRNAの投与の28時間後、肺を採取した。図21に示すように、siRNA処置を受けなかったマウスにおける肺ホモジェネートのlog10TCID50の平均値(NT;黒塗り四角)、又は、GFP−特異的siRNAを受容したマウスでは(GFP;白抜き円)、同平均値は3.0であった。PAを標的とするsiRNA60μgを受容したマウスでは(PA60μg;白抜き三角)、肺ホモジェネートのlog10TCID50の平均値は2.2であった。NPを標的とするsiRNA60μgを受容したマウスでは(NP60μg;白抜き三角)、肺ホモジェネートのlog10TCID50の平均値は2.2であった。60μg NP siRNA60μg+60μg PA siRNA60μgを受容したマウスでは(PA+NP;黒塗り円)、肺ホモジェネートのlog10TCID50の平均値は1.8であった。処置を受けなかった群と、60μgのPA siRNA、60μgのNP siRNA,又は60μgのNP siRNA+60μgのPA siRNAを受容した群との間に見られる、この、肺ホモジェネートのウィルス力価の差は、それぞれ、P=0.09、0.02、及び0.003で有意であった。NP siRNAを受容した群と、PA+NP siRNAを受容した群の間に見られる、この、肺ホモジェネートのウィルス力価の差は、0.2のP値を有していた。個別のマウスのデータは表8に示す(NT=処置無し)。これらのデータは、インフルエンザのNP及び/又はPA転写体を標的とするsiRNAは、ウィルス感染後に投与されると、肺におけるウィルス力価を下げることを示す。
表8.感染マウスにおけるインフルエンザウィルス産生の、siRNAによる抑制
実施例8:shRNA産生用鋳型となるレンチウィルスの投与による、細胞におけるインフルエンザウィルス産生の抑制
NP−1496a shRNAの合成用鋳型となるオリゴヌクレオチド(図22A参照)を、図22Aに模式的に描かれるように、レンチウィルスベクターpLL3.7のU6プロモーターと終止配列の間にクローンした(Rubinson,D.,et al.,Nature Genetics,Vol.33,pp.401−406,2003)。オリゴヌクレオチドは、pLL3.7のポリクローニング部位内のHpaIとXhoI制限部位との間に挿入された。このレンチウィルスはまた、トランスフェクトされた/感染した細胞の監視を簡単にするためにEGFPを発現する。レンチウィルスは、NP−1496a shRNA産生用鋳型、及びパッケージングベクターを含むDNAベクターと共に293T細胞にトランスフェクトすることによって産生される。48時間後、レンチウィルスを含む培養上清を収集し、4℃で2000rpmで7分遠心し、0.45umフィルターでろ過した。ベロ細胞は、24ウェルプレートにおいてウェル当たり1×105個撒いた。一晩培養後、挿入体を含む培養上清を、8ug/mlのポリブレンの存在下にウェルに加えた。次に、プレートを2500rpmで遠心し、室温で1時間放置し、培養に復帰した。感染の24時間後、えられたベロ細胞系統(ベロ−NP−0.25及びベロ−NP−1.0)を、親のベロ細胞(未感染)と共にフローサイトメトリーによって、GFP発現について分析した。NP−1496aは、センス部分の3′末端における添加ヌクレオチド(A)、及び、アンチセンス部分の5′末端における相補的ヌクレオチド(U)の偶発的挿入によって、NP−1496のように19では無く、20ヌクレオチド長の二重鎖部分が得られるので、NP−1496とは異なることに注意しなければならない。(表2参照)。本発明の別の実施態様によれば、NP−1496a配列ではなく、NP−1496配列が使用される。更に、NP−1496a shRNAのループ部分は、NP−1496 shRNAのものとは異なる。
対照ベロ細胞、及び、挿入体を含むレンチウィルスに感染したベロ細胞(ベロ−NP−0.25及びベロ−NP−1.0)を、MOI0.04、0.2、及び1においてPR8ウィルスで感染させた。前述のように、感染48時間後に、上清におけるインフルエンザウィルスの力価をHAアッセイによって定量した。
NP−1496a shRNAの産生のための鋳型を含むレンチウィルスを、ベロ細胞におけるインフルエンザウィルス抑制能力について試験した。NP−1496a shRNAは、前述のNP−1496a siRNAと同じ配列を持つ2本鎖部分を含むステムループ構造を形成することが可能な2本の相補的部分を含む。図22Bに示すように、ベロ細胞とレンチウィルス含有上清を一晩インキュベートすると、EGFPが発現し、レンチウィルスによるベロ細胞の感染を示した。影付き曲線は、対照細胞(未感染)における平均蛍光強度を表す。1mlの上清を用いると、ほとんど全ての細胞がEGFP陽性となり、平均蛍光強度は高くなった(1818)(ベロ−NP−1.0)。0.25mlの上清を用いると、大抵の細胞(∼95%)がEGFP陽性となるが、平均蛍光強度はより低かった(503)(ベロ−NP−0.25)。
次に、親ベロ細胞及びレンチウィルス感染ベロ細胞を、MOI0.04、0.2、及び0.1でインフルエンザウィルスに感染させ、インフルエンザウィルス感染の48時間後にウィルス力価を定量した。MOIを増していくと、親ベロ細胞培養体の上清におけるウィルス力価は上昇した(図22C)。一方、ベロ−NP−1.0細胞培養体の上清ではウィルス力価はきわめて低いレベルに留まったままであった。これは、これらの細胞ではインフルエンザウィルス産生が抑制されることを示す。同様に、ベロ−NP−0.25細胞培養体におけるインフルエンザウィルス産生も部分的に抑制された。このウィルス力価を表9に示す。上記結果は、レンチウィルスベクターを通じて発現されたNP−1496 shRNAは処理されてsiRNAとなり、これが、ベロ細胞においてインフルエンザウィルスの産生を抑制することを示唆する。抑制の程度は、細胞当たりのウィルス感染の程度(EGFPレベルによって示される)に比例するようである。
表9.培養細胞において発現されるsiRNAによるインフルエンザウィルス産生の抑制
実施例9:siRNA前駆体が転写されるDNAベクターの鼻腔内投与によるマウスにおけるインフルエンザウィルス産生の抑制
NP−1496a shRNAが発現されるプラスミドの構築は上に述べた。NP−1496a shRNAに関して前述し、且つ図22Aに模式的に示したように、PB1−2257 shRNA、又はRSV−特異的shRNAの合成用鋳型として働くオリゴヌクレオチドを、レンチウィルスベクターpLL3.7のU6プロモーターと終止配列との間でクローンした。オリゴヌクレオチドの配列は下記の通りであった。
NP−1496aセンス:
5′−TGGATCTTATTTCTTCGGAGATTCAAGAGATCTCCGAAGAAATAAGATCCTTTTTTC−3′(配列番号10776)
NP−1496aアンチセンス:
5′−TCGAGAAAAAAGGATCTTATTTCTTCGGAGATCTCTTGAATCTCCGAAGAAATAAGATCCA−3′(配列番号10777)
PB1−2257センス
5′−TGATCTGTTCCACCATTGAATTCAAGAGATTCAATGGTGGAACAGATCTTTTTTC−3′(配列番号10778)
PB1−2257アンチセンス
5′−TCGAGAAAAAAGATCTGTTCCACCATTGAATCTCTTGAATTCAATGGTGGAACAGATCA−3′(配列番号10779)
RSVセンス
5′−TGCGATAATATAACTGCAAGATTCAAGAGATCTTGCAGTTATATTATCGTTTTTTC−3′(配列番号10780)
RSVアンチセンス
5′−TCGAGAAAAAACGATAATATAACTGCAAGATCTCTTGAATCTTGCAGTTATATTATCGCA−3′(配列番号10781)
上記オリゴヌクレオチドを含むベクターを通じて発現されるRSV shRNAは、インビボで処理されて、下記の配列を持つセンス及びアンチセンス鎖を有するsiRNAを生成する:
センス:5′−CGATAATATAACTGCAAGA−3(配列番号10782)
アンチセンス:5′−TCTTGCAGTTATATTATCG−3′(配列番号10783)
下記のオリゴヌクレオチドを用いて、PA特異的ヘアピンが同様にして構築される。
PA−2087センス:
5′−TGCAATTGAGGAGTGCCTGATTCAAGAGATCAGGCACTCCTCAATTGCTTTTTTC−3′(配列番号10784)
PA−2087アンチセンス:
5′−TCGAGAAAAAAGCAATTGAGGAGTGCCTGATCTCTTGAATCAGGCACTCCTCAATTGCA−3′(配列番号10785)
NP−1496a shRNA、PB1−2257 shRNA、又はRSV−特異的RNAの発現のための鋳型となるプラスミドDNA(それぞれ60μg)を、個別に40μlのInfasurf(ONY,Inc.,Amherst,ニューヨーク州)及び20μlの5%グルコースと混合し、前述の通り、各群4匹のマウスから成るマウス群の鼻腔内に投与した。無処置(NT)群では、40μlのInfasurfと20μlの5%グルコースの混合物をマウスに投与した。これらのマウスに、前述のように、13時間後、マウス当たり12000pfuのPR8ウィルスを感染した。感染12時間後、肺を採取し、ウィルス力価を定量した。
DNAベクターを通じて発現されるsh RNAのマウスにおけるインフルエンザウィルス感染を抑制する能力を試験した。この実験のために、プラスミドDNAをInfasurfと混合した。Infasurfは、ビヒクルと近似し、従来から肺における遺伝子転送を促進することが知られる、ウシ胎児肺から得られた天然上清抽出物である(74)。このDNA/Infasurfの混合物を、ピペットを用いて鼻腔に滴下することによってマウスに導入した。13時間後、マウスを、マウス当たり12000pfuのPR8ウィルスで感染した。インフルエンザウィルス感染の24時間後、肺を採取し、MDCK/血球凝集アッセイにてウィルス力価を定量した。
図23に示すように、プラスミドDNAを全く与えられなかったマウス、又は、呼吸器合胞体ウィルス(RSV)特異的shRNAを発現するDNAベクターを与えられたマウスでは、ウィルス力価が高かった。マウスに、NP−1496 shRNA又はPB1−2257 shRNAを発現するプラスミドDNAを与えた場合、より低いウィルス力価が観察された。マウスに、両方のインフルエンザ特異的プラスミドDNA、即ち、一方は、NP−1496a shRNAを発現し、他方はPB1−2257 shRNAを発現するプラスミドDNAを一緒に与えると、ウィルス力価は更に有意に減少した。
処置を受けなかった(NT;白抜き四角)マウス、又は、RSV−特異的shRNAをコードするプラスミドを受容したマウス(RSV;黒塗り四角)では、肺ホモジェネートのlog10TCID50の平均値は4.0又は4.1であった。NP−1496a shRNAの鋳型となるプラスミドを受容したマウス(NP;白抜き円)では、肺ホモジェネートのlog10TCID50の平均値は3.4であった。PB1−2257 shRNAの鋳型となるプラスミドを受容したマウス(PB;白抜き三角)では、肺ホモジェネートのlog10TCID50の平均値は3.8であった。NP及びPB shRNAの鋳型となるプラスミドを受容したマウス(NP+PB1;黒塗り円)では、肺ホモジェネートのlog10TCID50の平均値は3.2であった。処置を全く受けなかった群、又はRSV−特異的プラスミドを受容した群と、NP shRNAプラスミド、PB1 shRNAプラスミド、又はNP及びPB1 shRNAプラスミドを受容した群との間に見られた肺ホモジェネートのウィルス力価の差は、それぞれ、0.049、0.124、及び0.004のP値を有していた。個別のマウスのデータを表10に示す(NT=無処置)。これらの結果は、DNAベクターを通じて発現されるshRNAは処理されてsiRNAに変換され、マウスにおけるインフルエンザウィルスの産生を抑制することを示し、且つ、Infasurfが、shRNAが発現されるプラスミドの輸送にとって好適なビヒクルであることを実証する。特に、これらのデータは、インフルエンザNP及び/又はPB1点車体を標的とするshRNAが、ウィルス感染後に投与されると肺のウィルス力価を下げることを示す。
表10.マウスにおいて発現されたshRNAによるインフルエンザウィルス産生の抑制
実施例10A:siRNAの血管系又は気道輸送による肺のルシフェラーゼ活性の抑制
siRNAは、Dharmaconから入手し、前述のように脱保護し、アニールした。NP(NP−1496)、PA(PA−2087)、PB1(PB1−2257)に対するsiRNA配列は前述した通り。Luc−特異的siRNAは、(McCaffrey,AP,et al.,Nature,418:38−39)に記載される通りである。
pCMV−luc DNA(Promega)を、窒素/リン酸モル比(N/P比)10においてPEI(Obiogene,Carlebad,カリフォルニア州)と室温で20分混合した。静脈内投与の場合、60μgのDNAを含む、200μlの混合物を、8週齢の雄性C57BL/6マウス(Taconic Farms)眼窩後部に注入した。気管内(i.t.)投与の場合、30μg又は60μgのDNAを含む50μlの混合物を、Penn Century Model IA−IC吸入器を用いて麻酔下のマウスの肺に投与した。
siRNA−PEI組成物は、60μgのluc−特異的、又はGFP−特異的siRNAを、jetPEIとN/P比5において、室温で20分混合することによって形成した。静脈内投与の場合、表示量のsiRNAを含む200μlの混合物を、眼窩後部に注入した。肺内投与の場合、50μlを気管内に送達した。
pCMV−luc DNA投与後の様々な時点で、肺、脾臓、肝臓、心臓、及び腎臓を採取し、細胞溶解剤(Cell Lysis Buffer)(Marker Gene Technologies,Eugene,オレゴン州)中で均一となるまで破砕した。発光は、ルシフェラーゼアッセイシステム(Promega)によって分析し、Optocomp(登録商標)I ルミノメーター(MGM Instruments,Hamden,コネチカット州)によって測定した。ホモジェネートにおけるタンパク濃度は、BCAアッセイ(Pierce)によって測定した。
マウスにおけるPEI−仲介核酸輸送の組織分布を決定するために、pCMV−luc DNA−PEI複合体を静注し、24時間後、各種器官についてLuc活性を測定した。活性は肺において最も高く、Luc活性は少なくとも4日間検出されたが、一方、心臓、肝臓、脾臓、及び腎臓では、レベルは100から1000倍低く、注入後に検出される時間はより短かった。DNA−PEI複合体を気管内に滴下すると、この場合も肺に著明なluc活性が検出されたが、静脈投与後よりも低いレベルであった。
PEIが、静脈内投与後、肺によるsiRNAの取り込みをどれだけ促進することが可能なのかを試験するため、マウスに先ずpCMV−luc DNA−PEI複合体を気管内投与によって与え、次いで、PEIと複合体を形成するLuc−特異的siRNA、PEIと複合体を形成する、対照のGFP−特異的siRNA、又は、同じ容量の5%グルコースを静注した。24時間後、Luc siRNAを受容したマウスでは、GFP siRNAを与えられたマウス、又は無処置のマウスよりも、Luc活性が17倍低かった。Luc siRNAは、DNAベクターによってトランスフェクトされた同じ肺細胞においてのみLuc発現を抑制することが可能なので、上記結果は、siRNA−PEI混合物の静注は、肺における標的転写体の効果的な抑制を実現することを示す。
PEIが、肺内投与後、肺によるsiRNAの取り込みをどれだけ促進することが可能なのかを試験するため、マウスに先ずpCMV DNA−PEI複合体を静注し、次いで、PEIと混合されるLuc−特異的siRNA、PEIと混合される対照のGFP−特異的siRNA、又は、同じ容量の5%グルコースを気管内投与した。24時間後、ルシフェラーゼ活性を肺ホモジェネートにおいて定量した。ルシフェラーゼsiRNAによって処置されたマウスでは、GFP siRNAで処置されたマウスよりも、Luc活性が6.8倍低かった。これらの結果は、siRNA−PEI混合物の肺内投与は、肺細胞における標的転写体の効果的な抑制を実現することを示す。
実施例10B:siRNAの呼吸器系輸送による、肺のシクロフィリンBの抑制
シクロフィリンBは、哺乳類において広く発現される内因性遺伝子である。呼吸器系に直接輸送されるsiRNAが、内因性遺伝子の発現をどれだけ抑制することが可能なのかを評価するため、交雑系Blackswissマウス(約30g又はそれ以上の体重)を、イソフルオラン/酸素で麻酔し、シクロフィリンBを標的とするsiRNA(Dharmacon,D−001136−01−20 siCONTROLシクロフィリンB siRNA(ヒト/マウス/ラット))、又は対照のGFP−949 siRNA(2mg/kg)を、各siRNAについて2匹のマウスから成る群に対して鼻腔内投与した。投与24時間後肺を採取した。肺からRNAを抽出し、ランダムプライマーを用いて逆転写を行った。次に、シクロフィリンB及びGAPDH Taqman遺伝子発現アッセイ(Applied Biosystems)を用いてリアルタイムPCRを実行した。結果(表11−1)は、シクロフィリンBを標的とするsiRNAによってシクロフィリンBの70%が沈黙化されることを示した。
実施例11:生のsiRNAの呼吸器系への直接輸送によるインフルエンザウィルスの抑制
材料及び方法
siRNAの調製、ウィルス感染、肺の採取、及びインフルエンザウィルス力価の定量は前述のように行った。マウスをイソスフルオラン(吸引投与)にて麻酔した。siRNAは、50μlの容量として鼻腔内滴下によって輸送した。p値はStudentのT検定を用いて計算した。
結果
リン酸バッファー生食液(PBS)に溶解したsiRNA(NP−1496)を、マウスの群(群当たりマウス5匹)に投与した。siRNA投与の3時間後、インフルエンザウィルス(2000PFU)で感染した。感染24時間後肺を採取し、ウィルス力価を測定した。予備実験において、マウスをアベルチンで麻酔し、2mg/kgのsiRNAを、鼻腔内滴下によって投与した。対照と比べた場合のウィルス力価の低下が観察された。ただし、その差は統計的有意なレベルに達しなかった(データ示さず)。
第2の実験では、BlackSwissマウスを、イソフルオラン/O2を用いて麻酔した。種々のsiRNA量のPBS液をマウスに対し、各マウス50μlずつ鼻腔内投与した。三つの異なる群(1群当たり5匹のマウス)に対し、2mg/kg、4mg/kg、又は10mg/kg用量のsiRNAのPBS溶液を、鼻腔内滴下によって与えた。PBSのみを与えた第4群を対照とした。3時間後、マウスを再びイソフルオラン/O2を用いて麻酔し、30ulのPR8ウィルス(2000pfu=4×致死量)を該マウスに鼻腔内投与した。感染の24時間後、マウスの肺を採取し、均一に破砕し、前述のようにTCID50を評価することによってウィルス力価を測定した。肺ホモジェネートについて、10倍希釈ではなく、連続5倍希釈を行った。
三つの処置群それぞれにおけるマウス、及び対照の間には、ウィルス力価において、有意で、且つ用量依存性の差が見られた(表12)。対照と比較した場合の、ウィルス力価の低下は、2mg/kg、4mg/kg、及び10mg/kgを受容した群において、それぞれ、3.45倍(p=0.0125)、4.16倍(p=0.0063)、及び4.62倍(p=0.0057)であった。
以上まとめると、上記結果は、輸送を強化する特別な仲介剤が無くとも、水性媒体に溶解されて呼吸器系に輸送されたsiRNAが効力を持つことを実証する。
表12:生のsiRNAの鼻腔内輸送は、インフルエンザウィルス生産を抑制する
実施例12:呼吸器系に対する生のsiRNAの直接輸送によるマウスにおけるインフルエンザウィルス生産の抑制
本実施例は、前述の結果を確認し、且つ、輸送強化剤無添加で、水性媒体に溶解したNP標的siRNAの呼吸器系投与によって、肺のインフルエンザウィルスの生産が抑制されることを示す。PBSに溶解した、6μg、15ug、30μg、及び60μgのNP−1496 siRNA、又は60μgのGFP−949 siRNAを、ほぼ前述の通りにマウスに対し鼻腔内に滴下した。ただし、前述と異なるのは、siRNA輸送の2時間後に、マウス当たり1000pfuのPR8ウィルスを鼻腔内投与してマウスを感染した。感染の24時間後肺を採取した。NP−特異的siRNAは、輸送剤が無くとも、水性媒体に溶解された状態で鼻腔内滴下によって投与されてもインフルエンザ抑制に有効であった。三つの処置群のそれぞれと対照との間には、ウィルス力価において、有意で、用量依存性の差が見られた(表13)。
表13:生のsiRNAによる肺のインフルエンザウィルス生産の抑制
実施例13:修飾されたsiRNAは、効果的沈黙化を仲介する
修飾されたヌクレオチドを含むsiRNAの沈黙化能力を探るために、センス及びアンチセンス鎖を含むNP−1496siRNAであって、各鎖において交互のリボヌクレオチドに2′−O−メチル修飾を含むsiRNAを合成し、NP−1496siRNAの未修飾体と比較して調べた。2′−O−メチル修飾NP1496 siRNA配列は下記の通りであった(2′−O−メチルは、修飾されたヌクレオチドの前の”m”として示される):
センス:5′−GmGAmUCmUUmAUmUUmCUmUCmGGmAGdTdT−3′(配列番号10792)
アンチセンス:5′−mCUmCCmGAmAGmAAmAUmAAmGAmUCmCdTdT−3′(配列番号10793)
この2′−O−メチル修飾NP1496 siRNA、及び未修飾のNP1496 siRNAを、24ウェルプレートにおいて、メーカーの指示に従ってリポフェクタミン2000(Invitrogen)を用いてベロ細胞にトランスフェクトした。トランスフェクションの6時間後、培養液を吸引した。この細胞に、200μlのPR8ウィルスをMOI0.1で接種した。感染の24、36、及び48時間後、培養上清を収集した。ウィルス力価を前述の通りに定量した。結果を表14に示す。
表14:siRNA修飾体によるインフルエンザウィルス生産の効果的抑制
実施例14:呼吸器系に対する生のsiRNAの経口気管輸送によるインフルエンザウィルスの抑制
siRNAの調製、ウィルス感染、肺採取、及びインフルエンザウィルス力価の定量は前述のように行った。マウスは、アベルチン(腹腔注入によって投与)を用いて麻酔した。1mg/kgのsiRNAを、175μlの容量として経口気管注入によって輸送した。
siRNA(NP−1496)、1mg/kg、及び、5%グルコースに溶解した30ulのInfasurfを、マウスの群(1群当たり5匹のマウス)に投与した。マウスを、siRNA投与の3時間後、インフルエンザウィルス(2000PFU)で感染した。感染の24時間後肺を採取し、ウィルス力価を測定した。
第2の実験では、BlackSwissマウスを、アベルチンを腹腔投与することによって麻酔した。マウスに対し、PBSに溶解したNP−1496 siRNA及びGFP−949 siRNAを、それぞれ50μlずつ気管内に投与した。PBSのみを与えた第3群をコントロールとした。3時間後、マウスを再びイソフルオラン/O2を用いて麻酔し、30ulのPR8ウィルス(2000pfu=4x致死量)を該マウスに鼻腔内投与した。感染の24時間後、マウスの肺を採取し、均一に破砕し、前述のようにTCID50を評価することによってウィルス力価を測定した。肺ホモジェネートについて、10倍希釈ではなく、連続5倍希釈を行った。
以上まとめると、上記結果は、輸送を強化する特別な仲介剤が無くとも、水性媒体に溶解されて呼吸器系に輸送されたsiRNAが効力を有することを実証する。
実施例15:広範なインフルエンザウィルス類を標的とするsiRNAを選択するためのヌクレオチド突然変異認容実験
本実施例は、そのアンチセンス鎖が、抑制領域内の標的転写体に対し(例えば、標的転写体に対して相補的な19塩基対領域内において)100%未満の相補性を有するsiRNAでも効果的な沈黙化を仲介することを示す。結果は、本明細書に記載されるRNAi因子は、広範囲のインフルエンザ株を、たとえその配列が標的部分のPR8から変動するものであっても効果的に抑制することを実証する。
二重ルシフェラーゼアッセイを用い、19ヌクレオチド抑制領域内において、siRNAのアンチセンス鎖に対し100%相補的ではないインフルエンザウィルスであっても、該siRNAがその発現を抑制することができるかどうかを評価した。ヒト及びニワトリインフルエンザ株を整列させて得られるミスマッチ(PR8を標準として用いた)を、部位指向性突然変異キット(Stratagene)を用い、DNAベクター(psiCHECK)に導入した。即ち、インフルエンザ標的部位が、一種以上のヒト又はニワトリインフルエンザウィルス株に認められる差異に相当する特異的差異と一致する1個又は2個の差異を、PR8配列に対して含むように修飾された。
表15は、ウィルスのNP標的(NP−1496の標的)における変動は、RNAi活性をほとんど下げないことを実証する実験結果を示す。(掲げたデータは、3重観測値の平均である)。アンチセンス鎖の5′又は3′末端近傍、又は中央付近の位置におけるミスマッチは調べなかった。
表15:アンチセンス鎖及び標的領域間ミスマッチのNP−1496による沈黙化に及ぼす作用
ウィルスのPA標的(PA−2087又はPA−8282の標的)における変動は、RNAi活性をほとんど下げない。157のヒトインフルエンザウィルス株の内7株に認められたG18からA18への突然変異は、RNA干渉活性に実質的な影響を及ぼした。アンチセンス鎖の5′又は3′末端近傍、又は中央付近の位置におけるミスマッチは調べなかった。アンチセンス鎖の抑制領域と標的の間に2個のミスマッチがあると、沈黙化は約70から75%低下したが、それでも有用な程度の沈黙化は依然として観察された(表16)。
表16:アンチセンス鎖及び標的領域間ミスマッチのPA−2087又はPA−8242による沈黙化に及ぼす作用
表17は、ウィルスのPB2標的(PB2−3817の標的)における変動は、RNAi活性をほとんど下げないことを実証する実験結果を示す。(掲げたデータは、3重観測値の平均である)。
表17:アンチセンス鎖及び標的領域間ミスマッチのPB2−3817による沈黙化に及ぼす作用
表18は、ウィルスのPB1標的(PB1−6124の標的)における変動は、RNAi活性をほとんど下げないことを実証する実験結果を示す。(掲げたデータは、3重観測値の平均である)。アンチセンス鎖の5′又は3′末端近傍、又は中央付近の位置におけるミスマッチを調べた。アンチセンス鎖の抑制領域と標的の間に2個のミスマッチがあると沈黙化は約70から75%低下したが、それでも有用な程度の沈黙化は依然として観察された。
表18−1:アンチセンス鎖及び標的領域間ミスマッチの、PB1−6124による沈黙化に及ぼす作用
表18−2:アンチセンス鎖及び標的領域間ミスマッチのPB1−6129による沈黙化に及ぼす作用
上記の表に示した結果の外に、本実施例は更に、本発明の10個の例示のsiRNA二重鎖が、siRNAのアンチセンス鎖のヌクレオチド配列と、ウィルス転写体の標的領域のヌクレオチド配列との間の複数のミスマッチを耐忍することを示す。本実施例では、21個の以前に特定されたsiRNAについて、標的配列の突然変異を耐忍する能力が定量された。このことを実行するために、全てのヒト及びニワトリインフルエンザ遺伝子配列(www.lan1.flu.govuから入手可能)の標的部位を、PR8株を参照に用いて配列させた。一塩基多型(SNP)を特定し、これを部位指向性突然変異法を用いて二重ルシフェラーゼリポーター構築体に導入した。次に、対照配列(PR8)、又は変異体を含む発現ベクターを、50nMの適切な標的siRNAと共にベロ細胞にトランスフェクトし、各siRNAの、ヌクレオチドミスマッチを耐忍する能力を定量した。
21個のsiRNAの内、10個のsiRNAは、高度の沈黙化(沈黙化%)を示し、標的部位多型に対して極めて寛容であった。表19は、10個のsiRNAに関するパーセント沈黙化データをまとめたものである(INFsi−1からINFsi−8まで、及びG1499及びG4276)。各siRNAのヌクレオチド配列が示され、部位指向性突然変異法の標的とされるヌクレオチドが、ボールド体で表示され、下線が引かれる。「ミスマッチ」コラムは、siRNA内部の元のヌクレオチド、及び括弧でくくったその位置を元のヌクレオチドを置換したヌクレオチド(変異ヌクレオチド)と共に図示する。パーセント沈黙化は、元の(PR8)沈黙化において観察された沈黙化のパーセンテージとして表される。従って、100%の相対的沈黙化は、siRNAが正確にマッチする標的配列(PR8)を沈黙化させる能力に比べて、ミスマッチが該siRNAの機能性に全く影響を及ぼさないことを示す。パーセント相対的沈黙化にいくらかでも低下が見られるとすれば、それは標的配列におけるミスマッチに対するsiRNAの感度の大きさを表す(即ち、低いパーセントは、siRNAの機能性の低下と等しい;この文脈では、「機能性」は、siRNAのその標的RNAを分解する能力と定義される)。
表19.siRNAの、天然に生じる標的部位の点突然変異に対する感受性
表19に示すように、SNPを含む70個のニワトリ/ヒトの標的の内、僅かに19個だけが30%を超えてsiRNAの機能性を破壊した。これらの突然変異体の内2個で、INFsi−2は位置9に変異を有する(siRNA INFsi−2では変異−9であり、siRNA INFsi−1では変異−4である)。この位置は、RISC仲介性切断部位に隣接し、塩基対ミスマッチに特に敏感であることが予想されている。驚くべきことに、2個の標的部位多型を含む4個の変異体の内3個が、標的切断レベルにおける著明な低下を示した(例えば、siRNA INFsi−4)。個々まちまちの多型を抱える変異体はいずれもsiRNAの機能性を有意に阻害しなかった。
上記データは、10個のsiRNAは、大部分のヒト及びニワトリ・インフルエンザウィルス株に対し広範な標的性を示すことを明らかにする。これは、これら10個のsiRNAが、効果的なRNAi治療のための多数遺伝子標的戦略として大きな可能性を秘めることを実証する。
表20では、表2の最も高度に保存された配列を、インフルエンザAウィルス配列変異種の他のメンバーから得られた更に追加の19マー配列に対しをマッチさせた。この追加の19マー配列は、ただ一つ、又は数個のヌクレオチドミスマッチを有するために一次19マー配列とは異なっている。表20の19マー配列は、表2に示す高度に保存された19マー配列断片を参照配列として用いて、表1に記載される配列リストを探索することによって得られる。各19マー参照配列について、標的インフルエンザAウィルス配列のそれぞれの中に、最も緊密にマッチする19マー断片である標的断片が見出された。最も緊密にマッチする標的断片とは、参照断片と標的断片との間のヌクレオチド差の数が最も少ないものである。もしも二つの標的断片が、参照断片に対して同じ数のヌクレオチド差を有する場合は、標的断片のセンス鎖と、参照断片のアンチセンス鎖との間に、より多くのゆらぎ塩基対を形成することが可能な標的断片を優先的に選択する。
表20−1:表1−1に掲載されたインフルエンザAのセグメント1(PB2)から選択された、保存されるが僅かな変異を含む19マー配列。保存配列は、掲載されたウィルス配列と少なくとも89%においてマッチし、変異種は、参照配列に対し3個以下のヌクレオチド変化を含む。
表20−2:表1−2に掲載されたインフルエンザAのセグメント2(PB1)から選択された、保存されるが僅かな変異を含む19マー配列。保存配列は、掲載されたウィルス配列と少なくとも89%においてマッチし、変異種は、参照配列に対し3個以下のヌクレオチド変化を含む。
表20−3:表1−3に掲載されたインフルエンザAのセグメント3(PA)から選択された、保存されるが僅かな変異を含む19マー配列。保存配列は、掲載されたウィルス配列と少なくとも89%においてマッチし、変異種は、参照配列に対し3個以下のヌクレオチド変化を含む。
表20−4:表1−5に掲載されたインフルエンザAのセグメント5(NP)から選択された、保存されるが僅かな変異を含む19マー配列。保存配列は、掲載されたウィルス配列と少なくとも89%においてマッチし、変異種は、参照配列に対し3個以下のヌクレオチド変化を含む。
表20−5:表1−7に掲載されたインフルエンザAのセグメント7(M1及びM2)から選択された、保存されるが僅かな変異を含む19マー配列。保存配列は、掲載されたウィルス配列と少なくとも89%においてマッチし、変異種は、参照配列に対し3個以下のヌクレオチド変化を含む。
表20−6:表1−8に掲載されたインフルエンザAのセグメント8(NS1及びNS2)から選択された、保存されるが僅かな変異を含む19マー配列。保存配列は、掲載されたウィルス配列と少なくとも89%においてマッチし、変異種は、参照配列に対し3個以下のヌクレオチド変化を含む。
実施例16:siRNAの静脈内輸送は、インビボにおいてインフルエンザウィルス生産を抑制する。
本実施例は、ウィルスのNP転写体を標的とするsiRNAの感染後における静脈内投与が、マウスにおいてインフルエンザウィルスの複製を有意に抑制したことを実証する(図2)。下記は、例示のヒトインフルエンザウィルスの、保存された標的配列のリストである(アクセス番号AF389119から得られたもの)。
下記は、複数の動物種のインフルエンザNP遺伝子断片を表す配列リストである。太字領域は、これらの配列間で共有される保存領域である。
ウィルス標的siRNAの予防的使用を試験するために、NP−1496(INFsi−9)を、陽イオン性輸送ポリマーjetPEI(Qbiogene)と混合し、C57BL/6マウスに静注(IV)した。3時間後、感染を起動するために、マウスに、1×104 PR8ウィルス粒子を接種し(鼻腔内)、感染24時間後屠殺し、MDCK赤血球凝集アッセイを用いて肺ホモジェネートのウィルス力価について定量した。
図2に示すように、siRNA治療を受けなかったマウスの肺ホモジェネートのlog10TCID50の平均値(NT;黒塗り四角)、又は、GFPを標的とするsiRNAの投与を受けたマウス肺ホモジェネートのlog10TCID50の平均値(GFP 60μg;白塗り四角)は4.2であった。NPを標的とするsiRNA 30μgとjetPIEによってあらかじめ治療されたマウスでは(NP 30μg;白塗り円)、肺ホモジェネートのlog10TCID50の平均値は3.9であった。NPを標的とするsiRNA 60μgとjetPIEによってあらかじめ治療されたマウスでは(NP 60μg;黒塗り円)、肺ホモジェネートのlog10TCID50の平均値は3.2であった。治療を全く受けなかったグループと、60μg NP siRNAの投与を受けたグループの間に見られた、肺ホモジェネートにおけるウィルス力価の差は、P=0.0002で有意であった。
既存のインフルエンザ感染に対する薬剤治療としてsiRNAを評価するために、マウスに鼻腔内を通じてPR8に感染させ、5時間後、NP−1496/jePEI又はPA−2087/jetPE混合物を静注した。感染28時間後、肺のウィルス力価を、MDCK−HAアッセイにて定量した。全ての治療例は、未処置、感染マウスに比べウィルス力価を有意に下げた。NP−1496で治療したマウスでは、ウィルス力価の用量−反応性低下が観察された(図3)。感染後24時間でも、siRNAの抑制作用がマウスで見られた。
更に、設計されたsiRNAは、ニワトリインフルエンザウィルスの致死的チャレンジからマウスを保護することも可能である。対照(GFPを標的とする)siRNAを注入し(2×)、次いで、致死量のH1N1(PR8)、又はH7N7ウィルスでチャレンジしたマウスは、連続的に体重を失い、図4に示すように7から10日目に感染に斃れた。一方、siRNA NP−1496及びPA−2087の併用を投与された感染マウスは、最小の体重減少から回復した。マウスの少なくとも50%が、致死量のH7H7チャレンジを生き延び、87%が致死量のH5N1チャレンジを生き延び、且つ、100%がH1N1チャレンジを生き延びた。従って、インフルエンザウィルスゲノムの保存領域に対して特異的なsiRNAは、極めて病原性の高いニワトリインフルエンザウィルスに対する保護を含め、広範な保護を付与する(図4)。
実施例17a:siRNAの鼻腔内輸送は、マウスにおいてインフルエンザ生産を抑制する。
本実施例は、ウィルスNP転写体を標的とするsiRNAの、予防的鼻腔内投与は、マウスにおいてインフルエンザウィルス複製を抑制し、且つ、ウィルスRNAレベルを用量依存性に低減することを実証する。
インフルエンザは通常、上部気道及び肺に感染し、複製する。従って、アクセスしやすいため、局所投与、即ち、薬剤の鼻腔内及び/又は肺輸送が、インフルエンザの予防及び治療には理想的であるはずである。具体的に言うと、siRNAの鼻腔内及び/又は肺投与は、インフルエンザウィルス感染を治療するのに下記の理由で好都合である。即ち、1)局所輸送ルートを用いると、局所高濃度のsiRNAが容易に実現されるので、全身輸送に比べると必要とされるsiRNAの量が少ない、及び2)鼻腔内及び/又は肺内輸送法は非侵襲的である。このようなわけで、マウスインフルエンザモデルでは、siRNAの鼻腔内輸送を続けて用いた。
従来の、無視できる沈黙作用しかもたらさない、生のsiRNAの静注輸送と違って、鼻腔内投与siRNA(未修飾、PBS又は生食液に溶解)は、肺で検出され、肺組織における内因性遺伝子発現を沈黙化し、又はウィルス生産を抑制することが可能である。インフルエンザ標的性siRNAの非侵襲的輸送の効力を試験するために、NP−1496 siRNA(PBS溶解)を鼻腔内投与した。BALB/cマウスに対し、PBSに溶解した表示量のNP特異的siRNA、又はPBS対照を鼻腔内投与した。2時間後、全てのマウスを、鼻腔内にPR8血清型(1000pfu/マウス)を投与して感染させた。感染24時間後、肺を採取し、MDCK−HAアッセイによって肺ホモジェネートのウィルス力価を測定した。PBS及びsiRNAグループの間のP値は、0.5、1、及び2mg/kg siRNA治療グループにおいて統計的有意を示した。データを図5に示す。
担体が無い場合でも、生のNP標的siRNAは、マウス肺におけるウィルス生産の抑制に効果的であった(図5、感染後24時間)。抑制は用量依存性で、2mg/kgのsiRNA、感染の2時間前に輸送されると、7倍の低下が観察された。
NP標的siRNAの鼻腔内輸送の作用を、効力を測定するために標的mRNA発現(定量的RT−PCR)及びウィルス力価(MDCK−HA)を用いて、比較的高濃度(10mg/kg、感染の3時間前に輸送)において調べた。BALB/cマウスに対し、対照、及びNP−標的siRNAを鼻腔内投与した(10mg/kg、PBSに溶解)。3時間後、全てのマウスを、鼻腔内にPR8ウィルス(50pfu/マウス)を投与して感染させた。感染24及び48時間後、肺を採取し、左肺から全体RNAを分離した。全体mRNAを、dT18プライマーを用いてcDNAに逆転写した。PB1特異的プライマーを用いてリアルタイムPCRを実行し、ウィルスのmRNAレベルを定量した。内部対照としてGAPDHを用いた。右及び中央肺を均一に破砕し、ウィルス力価をMDCK−HAアッセイによって測定した。感染48時間後のサンプルのウィルス力価を図6に示す。studentのt検定を用いたところ、PBSと、NP siRNA処置グループとの間には統計的な有意差が認められた(p=0.01)。感染の24時間後のサンプルにおける力価は、あまりに低すぎて検出することができなかった。これは、恐らく、siRNAの指向性抑制によるものと考えられる。
結果を図6に示す。図6は、正規化された定量的PCR結果、及びウィルス力価定量結果を比較する。感染24時間後に測定されたウィルスmRNAレベルは、55.2%抑制を示したが、感染48時間後では、ほんの僅少な抑制しか観察されなかった。一方、マウス肺サンプルのMDCK−HAアッセイは、2日目に84.6%のウィルス力価の抑制を示した。生きたウィルス粒子を測定するMDCK−HAアッセイに比べ、ウィルスmRNAの定量化は、ウィルス複製における早期の変化を反映する点でより感受性が高いと考えられる。従って、2日目のウィルスmRNA抑制の減少は、恐らく、その時期にはマウス肺におけるRNAi作用が低下したためと考えられる。
更に、マウスにおけるインフルエンザウィルスに対する作用を、鼻腔内輸送される、NP転写体を標的とする生のsiRNAと、インフルエンザ治療薬タミフルとの間で比較した。GFP対照siRNAについて観察されるウィルス力価のレベルに比べ、鼻腔内輸送された生のsiRNAも、タミフル治療も、インフルエンザウィルスの力価を下げた。
siRNA G1498(INFsi−8)の鼻腔内投与後、マウスにおけるNP−ウィルス転写体標的作用によるウィルス力価に及ぼす作用についても調べた。このG1498 siRNAは、インビトロにおいてウィルス力価を下げる著明な能力を示したので、更にインビボにおけるその特性解明のために選ばれた。この実験の対照は、ルシフェラーゼを標的とする未修飾siRNAであった(Dharmacon;Luc)。本実験には、10週齢の雌性BALB/c(Taconic)マウスで、18から22グラムの体重範囲を有するものが使用された。実験群毎に10匹のマウスを割り当てた。マウスには、PBSに溶解したG1498 siRNAを、2mg/kg、5mg/kg、10mg/kg、20mg/kg、及び30mg/kgの用量で投与した。対照群にも同じものを投与した。ただし、対照には2mg/kg用量の投与は行わなかった。G1498群及びLuc siRNA対照群の両方を、siRNA投与4時間後、PBSに溶解した30μl液として30pfuでPR8インフルエンザウィルスを感染させた。感染48時間後、マウスの肺を採取し、それらのウィルス力価を、TCID50アッセイによってMDCK細胞を用いて測定した。
結果を図7に示す。このTCID50アッセイの結果は、2mg/kgのG1498 siRNAは、マウス肺においてインフルエンザ生産を86%まで抑制し、5mg/kg及び10mg/kgでは90.6%まで、20mg/kgでは96.6%まで、30mg/kgでは95.2%まで抑制することを示す。PBS単独、又はLuc対照siRNA実験群と比較すると、G1498 siRNAを鼻腔内に投与されたマウスは全体として有意な差を示した(P<0.001)。PBSを受容したマウスは、全体として、Luc siRNAを受容したマウス群と比較して有意差を示さなかった(P>0.05)。30mg/kgでG1498 siRNAの投与を受けた各実験群は、PBS群、又はLuc siRNA対照実験群とは有意に異なっていた(P<0.05)。最後に、この範囲のG1498 siRNA用量を受容したマウスでは、著明な投与反応は観察されなかった。
実施例17b:siRNAの鼻腔内輸送は、非インフルエンザマウスモデルにおいてシクロフィリンB発現を抑制する。
本実施例は、鼻腔内投与を介しての、気道細胞による生のsiRNAの取り込みが、インフルエンザ感染細胞の特異的現象では無いことを実証する。更に、鼻腔内に輸送された生のsiRNAも、健康なマウスの肺における内因性遺伝子の発現、即ちシクロフィリンBの発現を抑制した。PBSに溶解した、10mg/kgのシクロフィリンB特異的siRNA(Dharmacon)又はGFP siRNA、又はPBS対照を鼻腔内に投与した。群毎に5匹のマウスを割り当てた。肺サンプルから全体RNAを分離し、dT18プライマーを用いて逆転写を行った。標的mRNAレベルを定量するために、リアルタイムPCRにおいてシクロフィリンB特異的プライマー(Applied Biosystem)を用いた。対照としてGAPDH特異的プライマー(Applied Biosystem)も用いた。
図8に示すように、肺のシクロフィリンB mRNAは、マウスが鼻腔内に10mg/kgのシクロフィリンB siRNAを受容した後24時間で70%抑制された。これらのデータは、鼻腔内投与による生のsiRNAの気道細胞による取り込みは、インフルエンザ感染細胞に特異的ではないことを示す。健康な動物の健康な細胞における内因性遺伝子の沈黙化は、鼻腔内輸送された生のsiRNAによっても実現される。この所見は、沈黙化が感染のない場合にも起こるわけであるから、予防のためのsiRNAの有用性にとって重要な意味を有する。
実施例18:マウスにおける、コクリエートsiRNA処方の鼻腔内投与に続くインフルエンザウィルス力価の低下
本実施例は、コクリエート輸送処方(BDSI,ノースカロライナ州)に溶解したG1498 siRNAの鼻腔内投与が、マウスにおいて、生のsiRNAに比べインフルエンザウィルスの抑制を強化することを示す。本実施例において試験した処方を下記の表21に示す。
上掲の処方は、インフルエンザによる感染の5時間後に鼻腔内投与された。全体肺のウィルス力価を感染の48時間後に測定した。5匹の、生の非脂質化であるU−flu群を除き、各実験群には10匹のマウスを割り当てた。
肺のウィルス力価成績を図9に示す。グラフの各ドットは一匹の動物を表す。統計は、一元配置分散分析によって行った。星印のついた数字は、平均値が、対照(プラシーボ、又はバッファー)に対して有意な差を有することを示す。図8のデータは、コクリエート輸送処方と共に鼻腔内投与されたG1498 siRNAの方が、生のG1498 siRNA及び対照(バッファーのみ、又はコクリエートプラシーボ)に比べ、より大きなウィルス力価の低下を示すことを表す。コクリエート処方、又は生のsiRNAを投与された全ての群において、ある程度の毒性が観察された。
実施例19:マウスにおける、コクリエートsiRNA処方の静注後におけるインフルエンザウィルス力価の低下
本実施例は、コクリエート輸送処方に溶解したG1498 siRNAの静脈内投与が、マウスにおいて、生のsiRNAに比べインフルエンザウィルスの抑制を強化することを示す。試験した処方を下記の表21に示す。
上掲の処方は、インフルエンザによる感染の5時間後に静脈内投与された。全体の肺のウィルス力価を感染の48時間後に測定した。5匹の、生の非脂質化U−flu群を除き、各実験群には10匹のマウスを割り当てた。
肺のウィルス力価の結果を図10Aに示す。グラフ上の各ドットは、1匹の動物を表す。統計処理は一元配置分散分析によって実行した。星印のついた数字は、平均値が、対照(プラシーボ、又はバッファー)に対して有意な差を有することを示す。図9のデータは、コクリエート輸送処方と共に静脈内に投与されたG1498 siRNAの方が、対照(バッファーのみ、又はコクリエートプラシーボ)に比べ、より大きなウィルス力価の低下を示すことを表す。更に、鼻腔内投与されたU−flu処方も肺のウィルス力価を下げた。
コクリエート処方に輸送されるsiRNAの静脈内投与についても、用量反応プロフィールが得られた。試験された処方を下記の表23に示す。
表23.用量−反応実験のためにマウスの静脈内に投与された処方
上掲の処方は、インフルエンザによる感染の5時間後に鼻腔内投与された。全体肺のウィルス力価を感染の48時間後に測定した。各実験群には10匹のマウスを割り当てた。
肺のウィルス力価の結果を図10Bに示す。グラフ上の各ドットは、1匹の動物を表す。統計処理は一元配置分散分析によって実行した。星印のついた数字は、平均値が、対照(プラシーボ、又はバッファー)に対して有意な差を有することを示す。図10のデータは、コクリエート輸送処方と共に静脈内に投与されたG1498 siRNAの方が、バッファー対照に比べ、より大きなウィルス力価の低下を示すことを表す。更に、用量−反応も観察した。コクリエート処方に溶解したG1498 siRNAの用量が増加するにつれて、マウス肺のウィルス力価により大きな低下が観察された。
上記表23に挙げたものと同じ処方を、同じプロトコール及び手順に従ってマウスに胃管輸送し、マウス肺のウィルス力価を測定した。肺のウィルスの力価測定結果を図10Bに示す。前述したように、各ドットは1匹の動物を表す。試験処方の間に統計的有意差は観察されなかった。更に、実験群のいずれにも毒性は観察されなかった。
実施例20:インフルエンザ感染前後のマウス肺におけるローダミン−コクリエートの分布
本実施例は、siRNA無添加、ローダミン−コクリエート処方の鼻腔内投与は、静脈内又は経口投与に比べ、ローダミンの広範な分布を示すことを明らかにする。本実施例の目的にそって、ローダミンをsiRNA無添加コクリエートに封入した。ローダミン−コクリエート処方は、インフルエンザ感染の4時間前、又は4時間後のいずれかにおいて、鼻腔内(40mg/ml、50μl/マウス)、静脈内(10mg/ml、200μl/マウス)、又は胃管輸送(10mg/ml、200μl/マウス)を通じて投与した。最後の注入又は感染の5時間後、マウスの肺組織を採取し、ドライアイスで凍結し、薄切して分析した。凍結切片は、核を見るためにDAPIにて染色し、画像観察した。
インフルエンザ感染前後の結果は全ての群において同様であった。しかしながら、ローダミン−コクリエート処方の鼻腔内投与を受けた群の肺切片ではローダミンの広い分布が認められた。静脈内投与を受けた群では、若干のローダミン凝集が見られたものの、分布陽性シグナルは限局していた。胃管輸送によるものでは陽性シグナルが得られなかった。これらの結果は、呼吸器ウィルスの感染治療のためには、鼻腔内投与によると、肺におけるコクリエート処方が十分に行き渡るために最善の結果が実現されることを示す。
実施例21:パラインフルエンザ由来siRNAの生成と試験
パラインフルエンザウィルスの核タンパクを、前述の方法によって、又は公知の配列から特定した。前述の方法を用いて、パラインフルエンザウィスル核タンパクをコードする核酸の中にsiRNAが特定された。
表24A−Bは、パラインフルエンザウィルス核タンパクsiRNA標的配列である19−ヌクレオチド配列を列挙する。ここに示された19ヌクレオチド領域は、センス及びアンチセンス鎖のどちらか、又はその両方において、選択的に様々な3′オーバーハングを有する各種siRNA分子を設計するためのセンス鎖として有用である。従って、当業者であれば、表24A−Bに掲載される各配列から、様々なセンス及びアンチセンスsiRNA配列が得られることが了解されるであろう。
表24A−B、及び、本明細書に示される、ウィルス由来(前述のインフルエンザウィルスを除き)の標的配列を開示する他の表も全て、「標的保存配列」と呼ばれる、標的配列のサブセットも開示する。これらの標的保存配列は、複数のウィルスの核タンパク配列の中に高率に保存される。
表24A−B、及び、本明細書に示される、非分節性ゲノムを有するマイナス鎖ウィルス由来の標的配列を開示する他の表も全て、ウィルス核タンパク遺伝子の5′ヌクレオチドの位置を開示する。
インビトロ分析
肺上皮細胞系統A549細胞を、様々な濃度のsiRNAでトランスフェクトさせることにする。Dharmacon社から入手したsi対照を、対照siRNAとして用いることにする。リポフェクタミン2000を、トランスフェクション試薬として用い、メーカーの指示に従うこととする。4時間後、トランスフェクトされたA549細胞に、ヒトのパラインフルエンザウィルス(hPIV)を感染させることにする。適切な時点で、細胞を採取し、RNAを分離する。Hino等(5)の記載する通りに、RT及びリアルタイムPCRを実行する。siRNAトランスフェクトされ、PIV感染された培養物上清を採取する。ウィルス力価を測定するために、上清の2倍血清希釈液を0.05%モルモット赤血球(6)と混ぜ合わせることによって赤血球凝集アッセイを実行する。更に、A549細胞を先ずhPIVに感染させ、適切な時点で各種濃度のsiRNAでトランスフェクトする。適切な時点で細胞を採取し、上清を採取する。細胞からRNAを分離し、前述のように遺伝子特異的プライマーを用いてRT及びリアルタイムPCRを実行し、siRNAの沈黙化作用を定量する。前述の赤血球凝集アッセイの外に、リアルタイムPCRに、ウィルスの非標的遺伝子特異的プライマー(例えばポリメラーゼ)を用いて、ウィルス複製の低下を測定する。
インビボ分析
麻酔下のBalb/cマウスに、処方付きで、又は処方無しで、siRNAの修飾体、又は未修飾体の2−10mg/kg用量を鼻腔内投与する。Dharmacon社から入手したsi対照を同じ用量で投与する。適切な時点で、動物を、107個のヒトパラインフルエンザ3型に感染させる。ウィルス感染後様々な時点で動物を屠殺し、肺組織を採取する。ウィルスの核カプシド遺伝子に関してリアルタイムPCRを実行し、ウィルス複製を定量する(5)。我々はまた肺ホモジェネートを用いて、前述の赤血球凝集アッセイを用いてウィルス力価を定量する(6)。siRNAの治療効果を調べるため、先ず、動物にhPIV−3を感染させ、次に、最適時点で、hPIV特異的siRNA及び対照siRNAを投与する。肺組織におけるウィルス感染を前述の方法によって監視する。
実施例22.hMPVウィルス由来siRNAの生成と試験
ヒトMPVウィルスの核タンパクを、前述の方法、又は一般に公開される配列を用いて特定した。siRNAが、前述の方法を用い、MPVウィルスの核タンパクをコードする核酸の中に特定された。
表25は、siRNAのヒトメタニューモウィルス核タンパク標的配列である、19−ヌクレオチド領域を掲げる。図1Aは、ヒトメタニューモウィルス核タンパク配列の整列組、及びそれから得られるコンセンサス配列を示す。ここに示された19ヌクレオチド領域は、センス及びアンチセンス鎖のどちらか、又はその両方に様々な3′オーバーハングを任意に有していてもよい、各種siRNA分子を設計するためのセンス鎖として有用である。従って、当業者であれば、表25に掲げられる各配列から様々なセンス及びアンチセンスsiRNA配列を得ることが可能であることが了解されよう。
インビトロ分析
各種濃度のsiRNAと組み合わせた電気穿孔の後、又は前のいずれかの適切な時点で、指定の感染倍数(MOI)にてhMPVによってサル腎臓上皮細胞系統LLC−MK2細胞を感染させる。対照siRNAとして、Dharmaconから購入したSi対照を用いる。適切な時点で、細胞を採取し、全RNAを分離する。オリゴdTをプライマーとして、第1鎖cDNAを逆転写によって合成する。次に、Boivin等(1)の記載する方法に従って、(1)ウィルス標的遺伝子特異的プライマーを用いてリアルタイムPCRを実行し、siRNAの沈黙化作用を定量する。リアルタイムPCRにおいて、ウィルスの非標的遺伝子特異的プライマー(例えばポリメラーゼ)を用いて、ウィルス複製の低下を測定する。Tripp等(2)の記載する方法に従って、ウィルスプラークアッセイによってウィルス力価を定量する。
インビボ分析
麻酔下のBalb/cマウスに、処方付きで、又は処方無しで、siRNAの修飾体、又は未修飾体の2−10mg/kg用量を鼻腔内投与する。Dharmacon社から入手したsi対照を同じ用量で投与する。適切な時点で、動物を、106個のヒトメタニューモウィルスに感染させる。ウィルス感染後様々な時点で動物を屠殺し、肺組織を採取する。N遺伝子に関してリアルタイムPCRを実行し、インビトロアッセイに記載されるやり方でウィルス複製を定量する(1)。我々はまた肺ホモジェネートを利用し、LLC−MK2細胞によるプラークアッセイにてウィルス力価を定量する(16)。siRNAの治療効果を調べるため、先ず、動物にhMPVを感染させ、次に、最適時点で、hMPV特異的siRNA及び対照siRNAを投与する。肺組織におけるウィルス感染を前述の方法によって監視する。
実施例23.RSVウィルス由来のsiRNAの生成及び試験
RSVウィルスの核タンパクを、前述の方法、又は一般に公開される配列を用いて特定した。siRNAが、実施例2に記載される方法を用い、RSVウィルスの核タンパクをコードする核酸の中に特定された。
表26は、siRNAのヒトRSウィルス核タンパク標的配列である、19−ヌクレオチド領域を掲げる。ここに示された19ヌクレオチド領域は、センス及びアンチセンス鎖のどちらか、又はその両方に様々な3′オーバーハングを任意に有していてもよい、各種siRNA分子を設計するためのセンス鎖として有用である。従って、当業者であれば、表26に掲げられる各配列から様々なセンス及びアンチセンスsiRNA配列を得ることが可能であることが了解されよう。
インビトロ分析
肺上皮細胞系統A549細胞を、様々な濃度のsiRNAでトランスフェクトさせる(3)。Dharmacon社から入手したsi対照を、対照siRNAとして用いる。リポフェクタミン2000を、トランスフェクション試薬として用い、メーカーの指示に従う。4時間後、トランスフェクトされたA549細胞に、hRSVを感染させる。適切な時点で、細胞を採取し、RNAを分離する。前述の通りに、RT及びリアルタイムPCRを実行する。siRNAでトランスフェクトされ、RSVに感染された細胞の培養上清を連続希釈し、この希釈液を用いてA549細胞を感染し、ウィルスプラークアッセイにてウィルス力価を定量する(4)。更に、A549細胞を先ずRSVに感染させ、適切な時点で各種濃度のsiRNAでトランスフェクトする。適切な時点で細胞を採取し、RNAを分離する。前述のように遺伝子特異的プライマーを用いてRT及びリアルタイムPCRを実行し、siRNAの沈黙化作用を定量する。リアルタイムPCRにおいて、ウィルスの非標的遺伝子特異的プライマー(例えばポリメラーゼ)を用いて、ウィルス複製の低下を測定する。
インビボ分析
麻酔下のBalb/cマウスに、PBSに溶解した、NP−特異的、RSV−特異的siRNAを、2mg/kgで、マウス当たり50ulとして鼻腔内投与する。Dharmacon社から入手したsi対照のPBS溶液を同じ用量で投与する。感染4日後、マウスの肺組織を採取し、ホモジェナイズする。肺ホモジェネートの10倍連続希釈液を用いてA549細胞を感染させる。細胞病理学的作用を、感染の3から5日後に監視する(4)。ウェルの50%が細胞病理作用を呈した希釈液をTCID50と判断する。siRNAの治療効果を調べるため、先ず、動物にhPIV−3を感染させ、次に、最適時点で、RSV特異的siRNA及び対照siRNAを投与する。肺組織におけるウィルス感染を前述の方法によって監視する。
実施例24.コロナウィルス由来のsiRNAの生成及び試験
コロナウィルスの核タンパクを、前述の方法、又は一般に公開される配列を用いて特定した。siRNAが、前述の方法を用い、コロナウィルスの核タンパクをコードする核酸の中に特定された。
表27は、siRNAのヒトコロナウィルス核タンパク標的配列である、19−ヌクレオチド領域を掲げる。ここに示された19ヌクレオチド領域は、センス及びアンチセンス鎖のどちらか、又はその両方に様々な3′オーバーハングを任意に有していてもよい、各種siRNA分子を設計するためのセンス鎖として有用である。従って、当業者であれば、表27に掲げられる各配列から様々なセンス及びアンチセンスsiRNA配列を得ることが可能であることが了解されよう。
肺上皮細胞系統A549細胞を、様々な濃度のsiRNAによってトランスフェクトする。Dharmacon社から入手したsi対照を、対照siRNAとして用いる。リポフェクタミン2000を、トランスフェクション試薬として用い、メーカーの指示に従う。4時間後、トランスフェクトされたA549細胞に、コロナウィルスを感染させる。適切な時点で、細胞を採取し、RNAを分離する。前述のようにRT及びリアルタイムPCRを実行する(8)。siRNAにトランスフェクトされ、コロナウィルスに感染された培養物上清を採取する。上清の2倍連続希釈液を0.05%ニワトリ赤血球(9)と混ぜ合わせることによって赤血球凝集アッセイを実行する。更に、A549細胞を先ずヒトコロナウィルスに感染させ、適切な時点で各種濃度のsiRNAでトランスフェクトする。最適時点で細胞を採取し、上清を収集する。細胞からRNAを分離し、前述のように遺伝子特異的プライマーを用いてRT及びリアルタイムPCRを実行し、siRNAの沈黙化作用を定量する。前述の赤血球凝集アッセイの外に、リアルタイムPCRに、ウィルスの非標的遺伝子特異的プライマー(例えばポリメラーゼ)を用いて、ウィルス複製の低下を測定する。
実施例25.西ナイルウィルス由来のsiRNAの生成及び試験
西ナイルウィルスの核タンパクを、前述の方法、又は一般に公開される配列を用いて特定した。siRNAが、前述の方法を用い、西ナイルウィルスの核タンパクをコードする核酸の中に特定された。
表28は、siRNAのヒト西ナイルウィルス核タンパク標的配列siRNAである、19−ヌクレオチド領域を掲げる。ここに示された19ヌクレオチド領域は、センス及びアンチセンス鎖のどちらか、又はその両方に様々な3′オーバーハングを任意に有していてもよい各種siRNA分子を設計するためのセンス鎖として有用である。従って、当業者であれば、表28に掲げられる各配列から様々なセンス及びアンチセンスsiRNA配列を得ることが可能であることが了解されよう。
ウィルスストックの生産のために、ベロ細胞を、ATCC又はCDCから入手した西ナイルウィルス(WNV)株にて0.1−1の感染倍数で感染させ、2%FBS添加培養液で培養する。培養上清を採取し、感染後72−96時間で、細胞の50−70%が細胞病理学的作用(CPE)を示した時点で洗浄した。ストックにおける感染性ウィルスの濃度は、96ウェルプレートにおいてベロ細胞に滴定を行って定量し、ml当たりID50として計算した。1ID50は、1感染単位(i.u.)と等価である。
もっとも強力なsiRNA配列を見つけ出すために、我々は、先ず、ベロ細胞、又は、他の任意の適切な細胞系統、例えば、幼生ハムスター腎臓(BHK)細胞系統(BHK−21)を、様々な濃度の、いくつかのsiRNAでトランスフェクト/電気穿孔する。Dharmacon社から入手したsi対照を、対照siRNAとして用いる。トランスフェクション/電気穿孔後の適切な時点で、最適MOIの西ナイルウィルスによって細胞を感染する。感染後の様々な時点で、細胞を採取し、上清を収集する。siRNAのウィルス感染/複製に及ぼす作用を評価するために、細胞からRNAを分離し、逆転写して、cDNAの第1鎖を作製する。WNV N遺伝子のために、N遺伝子特異的プライマーを用いてリアルタイムPCRを実行し(10)、増幅産物を対照と比較してsiRNAの作用を評価する。更に、発表されたプロトコール(11)を用いて、ウィルス力価アッセイにおいて培養上清を試験する。ベロ又はBHK−2細胞を、先ず、WNVにて感染し、適切な時点で各種濃度のsiRNAでトランスフェクトする。適切な時点で、細胞を採取し、RNAを分離する。前述のように遺伝子特異的プライマーを用いてRT及びリアルタイムPCRを実行し、siRNAの沈黙化作用を定量する。ウィルスの非標的遺伝子特異的プライマー(例えば、ポリメラーゼ)もリアルタイムPCRに用いて、ウィルス複製の低下を測定する。前述の方法を用いてウィルス力価を定量する。
インビボ分析
BASB/cマウスは、WNV複製を効果的に支援することが明らかにされている。我々は、細胞培養アッセイにおいて強力と認められたsiRNAを評価するためにこの株を利用することを考える。具体的には、我々は、マウスに対し、処方付きで、又は処方無しで、siRNAの修飾体、又は未修飾体の2−10mg/kg用量を静脈内に投与する。Dharmacon社から入手したsi対照を同じ用量で投与する。適切な時点で、動物を、WNVに感染させる。様々な時点でこれらの動物から脳組織及び血液を収集し、血液及び脳におけるウィルス濃度を、ベロ又はBHK−21細胞におけるプラーク測定によって定量する。この予防法とは別に、我々は、動物に先ずウィルスを感染し、次いでsiRNA治療を施す、治療モデルを実行することを計画する。血液及び脳組織におけるウィルス感染を前述の方法によって監視する。
実施例26.デングウィルス由来のsiRNAの生成及び試験
デングウィルスの核タンパクを、前述の方法、又は一般に公開される配列を用いて特定した。siRNAが、前述の方法を用い、デングウィルスの核タンパクをコードする核酸の中に特定された。
表29は、siRNAのデングウィルス核タンパク標的配列である、19−ヌクレオチド領域を掲げる。ここに示された19ヌクレオチド領域は、センス及びアンチセンス鎖のどちらか、又はその両方に様々な3′オーバーハングを任意に有していてもよい各種siRNA分子を設計するためのセンス鎖として有用である。従って、当業者であれば、表29に掲げられる各配列から様々なセンス及びアンチセンスsiRNA配列を得ることが可能であることが了解されよう。
インビトロ分析
(DEN1−4)は、C6/36蚊細胞系統において継代される。遺伝子沈黙化におけるsiRNAの効率を試験するために、我々は、様々な濃度のいくつかのsiRNAでベロ細胞をトランスフェクト/電気穿孔する。Dharmacon社から入手したsi対照を、対照siRNAとして用いる。トランスフェクション/電気穿孔後の適切な時点で、最適MOIのデングウィルス(DEN1−4)によって細胞を感染する。感染後の様々な時点で、細胞を採取し、上清を収集する。siRNAのウィルス感染/複製に及ぼす作用を評価するために、細胞からRNAを分離し、逆転写して、cDNAの第1鎖を作製する。デングの核カプシド/カプシド遺伝子のために、遺伝子特異的プライマーを用いてリアルタイムPCRを実行し、増幅産物を対照と比較してsiRNAの作用を評価する(1)。ウィルスの非標的遺伝子特異的プライマー(例えば、プレM)もリアルタイムPCRに用いて、ウィルス複製の低下を測定する。前述の方法を用いてウィルス力価を定量する。培養上清を、ベロ細胞又はBHK−21細胞によるウィルス力価アッセイにおいて試験し(12)、ウィルス力価を定量する。我々は更に、ベロ細胞のDEN感染後、ウィルス感染/複製におけるこれらのsiRNAの作用を、前述の方法によって試験する。
siRNAのインビボ評価には、2型デング(DEN2)に対して比較的感受性の高いことが明らかにされているA/Jマウスを用いる。我々は、マウスに対し、処方付きで、又は処方無しで、siRNAの修飾体、又は未修飾体の2−10mg/kg用量を静脈内に投与する。Dharmacon社から入手したsi対照を同じ用量で投与する。適切な時間後、動物を、DEN−2ウィルスに静注によって感染させる(マウス当たり1x108p.f.u.)。siRNAのデング−2ウィルスに対する作用は、血液から抽出したRNAにおいてデングウィルス特異的プライマーによるPCR分析によって検出する(16)。我々はまた、このサンプルにおいて、ベロ細胞を用いてウィルスプラークアッセイを行う(12)。この予防法とは別に、我々は、動物に先ずウィルスを感染し、次いでsiRNA治療を施す、治療モデルを実行することを計画する。脳組織におけるウィルス感染を前述の方法によって監視する。
実施例27.ライノウィルス由来のsiRNAの生成及び試験
ライノウィルスの核タンパクを、前述の方法、又は一般に公開される配列を用いて特定した。siRNAが、前述の方法を用い、ライノウィルスの核タンパクをコードする核酸の中に特定された。
表30は、siRNAのライノウィルス−16核タンパク標的配列である、19−ヌクレオチド領域を掲げる。ここに示された19ヌクレオチド領域は、センス及びアンチセンス鎖のどちらか、又はその両方に様々な3′オーバーハングを任意に有していてもよい、各種siRNA分子を設計するためのセンス鎖として有用である。従って、当業者であれば、表30に掲げられる各配列から様々なセンス及びアンチセンスsiRNA配列を得ることが可能であることが了解されよう。
インビトロ分析
ライノウィルスに対するsiRNAの効力は、ヒトのHeLa細胞において試験される。HeLa細胞は、10%ウシ胎児血清(FBS)及び1%Pluronic F−68を添加したアールの塩含有MEMで育成する。細胞を、ヒトライノウィルス16の保存液によって200プラーク形成単位(PFU)/mlで感染させる。感染細胞を1時間インキュベートしウィルスを細胞に吸着させる。インキュベーション後、細胞にsiRNAをトランスフェクトさせる。Dharmacon社から入手したsi対照を、対照siRNAとして用いる。トランスフェクション後、適切な時点で細胞を採取し、上清を収集し、ウィルス複製をリアルタイムPCRで定量する(13)。リアルタイムPCRに、ウィルスの非標的遺伝子特異的プライマー(例えばポリメラーゼ)を用いて、ウィルス複製の低下を測定する。上清を、HeLa細胞単層におけるウィルスプラークアッセイに利用する(14)。我々は更に、前述の方法に従って、細胞を先ずsiRNAでトランスフェクトし、次にヒトのライノウィルスで感染して、siRNAの、ウィルス複製に対する抑制作用を調べる計画である。
実施例28.ロタウィルス由来のsiRNAの生成及び試験
ロタウィルスの核タンパクを、前述の方法、又は一般に公開される配列を用いて特定した。siRNAが、前述の方法を用い、ロタウィルスの核タンパクをコードする核酸の中に特定された。
表31は、siRNAのロタウィルス(VP6)核タンパク標的配列である、19−ヌクレオチド領域を掲げる。ここに示された19ヌクレオチド領域は、センス及びアンチセンス鎖のどちらか、又はその両方に様々な3′オーバーハングを任意に有していてもよい各種siRNA分子を設計するためのセンス鎖として有用である。従って、当業者であれば、表31に掲げられる各配列から様々なセンス及びアンチセンスsiRNA配列を得ることが可能であることが了解されよう。
インビトロ分析
アカゲザル腎臓細胞系統MA104を用いてウィルスを組織培養において継代し、大規模なウィルスストックを作製する。各種濃度の異なるsiRNAでトランスフェクトする前に、又は後に、MA104細胞を最適用量のウィルスで感染させる。Dharmacon社から入手したsi対照を、対照siRNAとして用いる。適切な時点で細胞を採取し、2段階凍結−解凍サイクルで細胞を分解し、分解産物を、10ug/mlのトリプシンによって37℃で30分処理する。ウィルス調製品の感染力価を、Pando等(15)の記載するイムノペルオキシダーゼ焦点アッセイによって定量する。
ロタウィルスのインビボ複製に対するsiRNAの効力を、マウスのロタウィルス感染モデルにおいて評価する。このために、マウスに対し、処方付きで、又は処方無しで、siRNAの修飾体、又は未修飾体の2から10mg/kg用量を経口的に、又は静脈内に投与する。Dharmacon社から入手したsi対照を同じ用量で投与する。最適用量のロタウィルスを、siRNAの投与の前又は後に、経口胃管を通じてマウスに投与する。適切な時間後、例えば、ウィルス接種の2日後、各マウスの結腸遠位部を、ロタウィルス誘発下痢に特有の、明るい黄色液状内容物の有無について調べ、更に腸管全体を収集し、酵素イムノアッセイ又はRT−PCRによってロタウィルス抗原を定量する。
実施例29.インビトロにおけるヒトライノウィルス複製のsiRNA介在性抑制
本実施例は、本発明の例示のsiRNA分子が、インビトロにおいてヒトライノウィルス(HRV)の複製を効果的に抑制することを示す。33個のsiRNAについて(その配列については下記の表32参照)、大型或いは小型いずれかのATCC(米国基準菌株保存機関)HRVに対する抑制能力に関してスクリーニングした。HRVを標的とするように選択された33個のsiRNAは、HRVゲノムの「保存された」領域(単複)を表す。これらのsiRNAは、公開されるGenbankのHRVヌクレオチド配列を分析し、その配列を整列させ、その中から「保存」領域を抽出することによって選択したものである。スクリーニングは、先ず、オハイオHeLa−I細胞(OH−I細胞)に、33個のsiRNAの内の一つをトランスフェクトし、次いで、ヒトライノウィルスの、2種の異なる血清型を感染させて行った。ウィルス産生の低下は、生存ウィルスを推定するTICD50(組織培養感染用量)アッセイによって測定する。TICD50値の低下は、生存ウィルス集団サイズの減少、従ってウィルス複製の低下を示す。本実施例の意図からすると、TICD50値の減少が大きければ大きいほど、より強力なウィルス複製抑制能力を有するsiRNAであることを示す。
表32.ヒトライノウィルスを標的とする33個のsiRNAのヌクレオチド配列
この実験のために、2種類のHRV血清型を試験した。即ち、101個の番号のついたHRV血清型の90%を含む大型受容体群に属し、細胞に侵入するのにICAM−1細胞表面受容体を利用する16型HRV、及び、小型受容体群に属し、細胞侵入のために、低密度脂質タンパク受容体スーパーファミリーのいくつかのメンバーを用いる1A型HRVである。これら33個のsiRNAのそれぞれについて、2つのライノウィルス血清型、HRV−16及びHRV−1Aのウィルス産生に対する、その抑制作用を評価した。使用前、siRNA構築体は全て、5pmol/μlの濃度において−70℃で保存した。本実施例では、プレコナリル及びルプリントリビルを陽性対照として用いたが、これらは、ウィルス複製を効果的に抑制することが知られる。プレコナリルは、1μg又は10μgの濃度で与えたが、一方、ルプリントリビルは、0.1μgで与えた。Dharmacon(登録商標)から入手したsi対照を陰性対照として用いる。siRNAトランスフェクション無しのウィルス感染も対照として実行する(「ウィルス対照1」、「ウィルス対照2」等と表示)。
先ず、トランスフェクション過程(即ち、細胞数、及び、siRNA含有リポフェクタミン(登録商標)2000(Invitrogen))、及び感染過程(即ち、リポフェクタミン(登録商標)2000がライノウィルス複製に及ぼす影響)を最適化するために対照実験を行った。トランスフェクション過程を最適化するために、2枚の24ウェルプレートのウェルに、ウェル当たり75,000又は100,000個のOH−I細胞を撒いた。陽性siRNA対照の標的転写体分解効力に対する、各種濃度のリポフェクタミン2000(1μl/ウェル、1.4μl/ウェル、又は1.8μl/ウェル)の陰性影響(沈黙化の程度)を定量した。陰性siRNA対照も用いた。トランスフェクション後、RNAを細胞から抽出し、RT−PCRを実行した。更にリアルタイムPCRを用いて、1ウェル当たり75,000及び100,000個のOH−I細胞を撒いた24ウェルプレートのトランスフェクション中に見られる沈黙化の程度を定量した。予期した通り、結果は、細胞数が少ないほどより大きな沈黙化が見られることを示した。従って、本実施例に記載されるトランスフェクションは、より大きな細胞数(100,000 OH−I細胞)の方で行った。
感染過程を最適化するために、2枚の24ウェルプレートのウェルに、ウェル当たり50,000、75,000、又は100,000個のOH−I細胞を撒いた。1枚の24ウェルプレート上の細胞には、10TCID50のHRV−16を感染させ、一方、第2プレート上の細胞には180TCID50のHRV−16を感染させた。3種類の異なる細胞播種集団全てに対し、0μl、1μl、1.4μl、又は1.8μlのリポフェクタミン(登録商標)2000を投与した。次に、サンプルを、感染後24、48、及び72時間において採取し、ウィルス産生を測定した。24時間では、全ての例で(リポフェクタミン2000の添加、無添加によらず)、低い方のウィルス接種(10TCID50)では、高い方の接種(180TCID50)に比べ、より低い力価が得られた。48時間では、全ての例で、両方のウィルス接種が、感染の24時間後に観察された産生量に比べ、高いウィルス産生をもたらした。リポフェクタミンを添加しない場合、結果は、試験した細胞数の範囲内では、細胞数はウィルス産生に影響を及ぼさないことを示した。感染後24、48、及び72時間において測定されたウィルス産生で見ると、試験したリポフェクタミン濃度はHRV感染又は増殖に干渉しなかった。前述の結果から、本実施例におけるその後の感染は、低い濃度のウィルス接種体(10TCID50)によって行い、且つ、トランスフェクションは、1.4μl/ウェルのリポフェクタミン2000によって行った。
トランスフェクションは下記のように行った:先ず、5%ウシ胎児血清、5%胎児クローン血清、1%L−グルタミン、及び抗生物質を添加したEagleの最小必須培地(EMEM)に懸濁したOH−I細胞を、100,000 OH−I細胞/ウェルの割合で24−ウェルプレートに撒いた。細胞を、5%CO2インキュベータにて37℃で一晩インキュベートした。siRNAトランスフェクション時における細胞シートの集密度は、約50から60%であった。第二に、前記一晩のインキュベーション後、各siRNAについて、リポフェクタミン2000(LF2K)保存液を作製した。これらの保存液を、24ウェルプレート上のOH−I細胞に該溶液を移送する前に、96ウェルプレートにおいて作製した。各LF2K保存液は、ウェル当たり50μlの総合容量を有し、1.4μlのLF2K及び48.6μlのOptimemを含んでいた。この溶液を穏やかに渦巻き攪拌し、用時まで氷上に置いた。第三に、200μlのLF2K−Optimem希釈液を、96深底ウェルプレートのA、C、及びE列の各ウェルに加えた。容量180μlのOptimemを、列B、D、及びF列の各ウェルに加えた。siRNA液を渦巻き攪拌し、短時間マイクロ遠心で回転し、氷上に置いた。各siRNAの20μlサンプルを、96深底ウェルプレートのB、D、及びF列の適正なウェルに加え、パイペッティングにより3回穏やかに混ぜ合わせた。従って、トランスフェクションプロトコールのこの時点では、B、D、及びF列のウェルは、200μlの容量(180μlのOptimemプラス20μlのsiRNA液)を有する。次に、A列のウェルの液体をB列の対応ウェルに移し、C列のウェルの液体をD列の対応するウェルに移し、E列のウェルの液体をF列の対応するウェルに移す。この液体移送の結果、B、D、及びF列のウェルにsiRNA−LF2K混合物が得られた。各列からの液体転送後、パイペッティングを5回繰り返すことによってウェルを混ぜ合わせた(交差汚染を避けるため、通例としてピペットの先端は交換する)。次に、96深底ウェルプレートに固く蓋をし、室温で30分インキュベートする。最後に、30分のインキュベーション後、OH−I細胞含有24ウェルプレートを、インキュベータから取り出し、全てのウェルから培養液を吸引した。抗生物質無添加の、10%EMEMの400μlサンプルを各ウェルに加え、次いで、100μlのsiRNA−LF2K混合物を加えた。各siRNAについて三重に試験したので、24ウェルプレートにおける三つの別々のウェルが、同じsiRNAを含む100μlのsiRNA−LF2K混合物の投与を受けた。次に、このトランスフェクションプレート(24ウェルプレート)を、5%CO2下、35℃で5時間インキュベートした。
5時間のトランスフェクションインキュベーション後、全ての培養液を全てのウェルから吸引した。その際、各異なるsiRNA−LF2K混合物の間において、交差汚染を避けるためにピペットの先端を交換した。次に、100μlの2Xウィルス(HRV−16のためには106希釈を用い、HRV−1Aのためには105.5希釈を用いた)、及び、抗生物質又はMgCl2無添加の2%McCoy 100μlを各ウェルに加えることによって、2種の血清型HRVのどちらかに細胞を感染させた。ウィルスを、34℃で1時間OH−I細胞とインキュベートした。次に、ウィルス培養液をウェルから吸引し、全てのウェルを、ハンクスの平衡塩溶液(HBSS)で二度濯ぎ、抗生物質及びMgCl2添加の2%McCoy 1.5mlを改めて供給した。24−ウェルプレート上の、プレコナリル又はルプリントリビルのみを投与されたウェルには、改めて750μlの2×薬剤、及び2%McCoy 750μlを供給し、34℃で24時間インキュベートした。上清の全体容量は1ウェル当たり1.5mlであった。プレコナビル又はルプリントリビルのいずれかと培養した細胞は、siRNAでトランスフェクトしなかった。
各siRNA及び対照を表す各ウェルから400μlの上清サンプルを、トランスフェクションの24、48、及び72時間後に採取し、その後の定量に備えてプールした。サンプルは−70℃で保存した。24時間及び72時間採取サンプルについて10倍連続希釈液を作製し、4重に定量した(1希釈当たり4ウェル、1ウェル当たり100μl)。定量済みサンプルを、96ウェルプレートで培養したOH−I細胞とインキュベートした。7日間に渡って、細胞病理学的作用(CPE)についてOH−I細胞を観察した。24時間採取サンプルは100から105希釈度において試験し、72時間採取サンプルは100から107希釈度において試験した。ウィルス産生減少アッセイのために使用されるウィルスを凍結し、TCID50で表した接種量を決めるために還元力価定量を行った。標的接種量は、単層当たり10から32TCID50であった。
結果を、表33、34、35にまとめる。表33は、siRNAにトランスフェクトされ、その後HRV−16血清型に感染したOH−I細胞における、siRNA1から25までのデータを要約する。表34は、siRNAにトランスフェクトされ、その後HRV−1A血清型に感染したOH−I細胞におけるsiRNA1から25までのデータを要約する。表35は、siRNAにトランスフェクトされ、その後HRV−16又はHRV−1A血清型に感染したOH−I細胞におけるsiRNA21及び24から33までのデータを要約する。表33及び34の掲げるデータは、全体として、四つの異なる群に分類される。各群は、対照と組み合わせた(即ち、ウィルウ対照1は群1と、ウィルス対照2は群2と、等など)トランスフェクション及び感染プロトコールの下に置かれたsiRNAサブセットを表す。各群は、同じトランスフェクション及び感染プロトコールの下に置かれ、同じウィルス対照を有する。群の異なるのは、ただ、各群の試験されたsiRNAのサブセットが一緒に試験されていないということだけである。各群のウィルス対照は、群内のsiRNAがウィルス複製を下げたかどうかを判断するための、比較のための基礎値として用いた。同様に、表35に示したデータも、全体として四つの異なる群に分類される。各群は細い二重線で区分される。表35の四つの群は、表33及び34の四つの群とは表示の上で全く関連がない。表35の四つの群は、ウィルス対照と、使用したHRVによって表される。例えば、一つの群は、HRV−16血清型と共に「ウィルス対照1」を含む。
10から32TCID50のTCID50が達成された。全ての場合において、陽性対照のプレコナリル及びルプリントリビルは、ウィルス対照に比べて抑制的であり、24時間で2log10以上、72時間で5log10の低下をもたらした。本実施例では、siRNAは、それが、ウィルス対照と比べて、ウィルス力価を、1.0log10以上下げた時、ウィルス産生を有意に下げたと見なされた。そりよりも低下が高度の場合、それは特異的抑制を示すものと考えられる。HRV−16に対して試験された33個のsiRNAの内、6個のsiRNA(10、13、14、15、17、及び18)が、ウィルス対照に比べ、24時間においてウィルス産生の有意の低下(1.5から1.75log10/ml)を示した(表33及び35)。72時間では、12個のsiRNA(7から17まで、及び19)が、ウィルス力価を1.5から2.0log10/ml下げ、一つのsiRNAは、ウィルス力価を2.5log10下げた。
HRV−1Aに対して試験された33個の構築体の内、2個のsiRNA(7及び8)が、24時間において、ウィルス対照に比べ、力価の1.25log10低下を示し、72時間では、それぞれ、1.5及び1.75log10だけウィルス力価を下げた(表34及び35)。更に、siRNA6番は、72時間でウィルス力価を1.25log10下げた。試験した残りのsiRNAについては、HRV−16に対しても、HRV−1Aに対しても実質的な抑制を示さなかった。
表33.siRNA介在による、ヒトライノウィルス−16力価のインビトロ低下
ウィルス対照は、siRNAトランスフェクションを伴わない、ウィルスによる細胞の感染である。
表34.siRNA介在による、ヒトライノウィルス−1A力価のインビトロ低下
表35.siRNA介在による、ヒトライノウィルス−1A及びヒトライノウィルス−16力価のインビトロ低下
以上まとめると、両陽性プロトコールは、期待通り、プレコナビルは1μgで、ルプリントリビルは10μgで、24時間及び72時間においてHRVの両血清型を著明に抑制した。siRNA10、13−15、17、及び18は、24時間で、siRNA7から19は、72時間で、HRV−16のウィルス力価を、ウィルス対照に比べて少なくとも1.0log10下げた。siRNA7及び8は24時間において、siRNA4から6は72時間において、HRV−1Aウィルス力価を、ウィルス対照に比べて少なくとも1.0log10下げた。
表33、34、及び35のデータは、選択されたsiRNAは、インビトロにおいてヒトライノウィルスの複製を効果的に下げることが可能であることを示す。
実施例30.ヒトメタニューモウィルスの、siRNA介在によるインビトロ分解
本実施例は、本発明の例示のsiRNAが、インビトロにおいて、ヒトメタニューモウィルス(hMPV)の標的転写体(RNA)のRNAコピー数を著明に下げることを示す。ある特定のウィルス転写体の、ウィルスRNAコピー数の低下は、ウィルス複製の低下と相関する。従って、ウィルス複製の低下は、新規ウィルス粒子の産生を抑える、及び/又は阻止するので、抑制はしないまでも、再感染を抑え、患者におけるウィルス誘発性病的現象を極小に止める。
本実施例は、二重ルシフェラーゼアッセイシステムを用いて、200個のsiRNAに対して行った初回スクリーニングを説明する。このシステムは、Renillaルシフェラーゼ活性の低下によって間接的に測定される標的RNAレベルを効果的に低下させるsiRNAを特定するためのものである。更に、本実施例は、200個のsiRNAに対する初回スクリーニングから選択された57個の特定siRNAの二次スクリーニングについて説明する。二次スクリーニングは、標的hMPV RNAレベルを効果的に低下させるsiRNAの特徴を直接に明らかにするために行われた。
下記の表36は、二重ルシフェラーゼアッセイによる初回スクリーニングを受けた200個のsiRNAを記載する。hMPV RNAを標的とするよう選択された、この200個のsiRNAは、次のhMPV遺伝子、即ち、N遺伝子、P遺伝子、M遺伝子、F遺伝子、M2−1遺伝子、M2−2遺伝子、又はL遺伝子の内の一つの「逆向き」領域(単複)を表す。これらのsiRNAは、hMPVゲノムの、一般公開されるGenbankヌクレオチド配列(アクセス番号AY297748.1)を分析し、整列させることによってそれらの配列の中から「保存」領域を抽出することによって選んだ。初回スクリーニングでは、各siRNAは、10nM濃度において三重に試験した。
表36.二重ルシフェラーゼアッセイによってスクリーニングされたsiRNAのヌクレオチド配列
下記の表37は、二重ルシフェラーゼアッセイの結果を要約する。蛍ルシフェラーゼは、トランスフェクションの内部対照、及びルシフェラーゼアッセイ対照を表す(即ち、蛍ルシフェラーゼ転写体はsiRNAの標的ではない)。renillaルシフェラーゼは、hMPV標的配列と融合される。renillaルシフェラーゼ活性の低下は、細胞内におけるhMPV標的配列転写体当たりのrenillaルシフェラーゼ数の減少を示す。従って、本アッセイによれば、renillaルシフェラーゼ活性測定値の低下が大きければ大きいほど、より強力なsiRNAであることを示す。siRNAの効力は、表37では沈黙化パーセント(沈黙化%)で示し、100x[1−(平均Renilla siRNA/平均蛍siRNA)/(平均Renilla si対照/平均蛍si対照)]として計算した。パーセントが高ければ高いほど、より強力なsiRNAと相関する。
表37.標的RNA分解効力に関してスクリーニングされた200個のsiRNAの、二重ルシフェラーゼアッセイ結果
NDはデータ無しである。
本実施例及び表37に掲げたデータの目的では、標的Renillaルシフェラーゼに対し40%以上の沈黙化を示すsiRNAを効果的siRNAと見なした。表37のデータに基づき、下記の57個のsiRNAを効果的siRNAと見なした。即ち、1、6、17、18、28、32、33、34、45、47、48、59、60、64、66、70、73、78、80、81、85、87、88、89、90、93、95、98、99、102、105、118、121、122、126、130、138、139、141、143、145、146、147、148、149、150、151、156、157、158、163、164、168、169、184、197、及び198である。この57個の、有効と特定されたsiRNAについて、57個の内のどれが、直接、標的とするhMPVの転写体の分解を効果的に誘発するのかを決めるために、二次スクリーニングにおいてそれらの特徴を解明した。
57個のsiRNA(配列については下記の表38を参照)を、下記の標的ウィルス遺伝子の内の一つから転写される、標的hMPV RNAの分解誘発能力についてスクリーングした。標的ウィルス遺伝子は、N遺伝子、P遺伝子、M遺伝子、F遺伝子、M2−1遺伝子、M2−2遺伝子、又はL遺伝子である。一般に、本実施例用として培養細胞にsiRNAをトランスフェクトし、感染する方法は既に上に開示される。
Dharmacon(登録商標)のsi対照を、対照siRNAとして用いた。ウィルスRNAのコピー数は、定量的リアルタイムPCRを用い、siRNAをトランスフェクトされ、hMPV感染した細胞から分離されたRNAの複製変化を、既知の基準、即ち、既知のコピー数を有する鋳型を用いて実施したリアルタイムPCRで得られる複製変化と比較することによって定量した(Deffrasnes C,et al.,J.Clin.Microbiol.43,488−90(2005))。ウィルスRNAを、140μlの感染細胞培養体上清から抽出し、逆転写及びリアルタイムPCRの開始材料として用いた。ウィルスRNAコピー数が低いほどより強力なsiRNAであることを示す。更に、抑制パーセントが大きいほどより強力なsiRNAであることを示す。
表38.ヒトメタニューモウィルス遺伝子転写体を標的とする57siRNAのヌクレオチド配列
表98のデータは、10nM siRNAによるトランスフェクション後におけるsiRNA標的hMPV転写体のウィルスRNAコピー数に対する57個の異なるsiRNAの個別の作用をまとめたものである。各「PCR結果群」は、リアルタイムPCRによってまとめて分析した57個のsiRNAサブセットの結果を表す。表39のデータでは、10個の「PCR結果群」がある。ウィルスRNAコピー数の平均値は、3回の別々のPCRから得られた。各siRNAの、ウィルスRNAのコピー数低下能力は、抑制パーセント(「抑制%」)として表した。57個の異なるsiRNAそれぞれの抑制パーセント(「抑制%」)を計算するために、「PCR結果群」の中の各siRNAのウィルスRNAコピー数の平均値を、同じ「PCR結果群」のsi対照におけるウィルスRNAコピー数の平均値で割った。この数字を、表39の「siRNA:si対照比」という題名のついたコラムの下に表す。この数字を、100を掛けてパーセントに変換し、次に、得られた積を100%から差し引いて、各siRNAの抑制パーセントを得た(「抑制パーセント」という題名のついたコラムを参照)。比較的高い抑制パーセントは、そのsiRNAが、標的とするhMPV転写体のウィルスRNAコピー数を低下する能力が大きいこと、従って、ウィルス複製のより強力な抑制因子である可能性の高いことを示す。負の抑制パーセントは、対照siRNAに比べ、ウィルスRNAコピー数の増加を示す。
表39.10nM siRNAによるトランスフェクション後における、hMPV標的転写体のRNAコピー数に対する、57個の異なるsiRNAの作用
表39のデータは、19個のsiRNAが、10nM濃度において、ウィルス遺伝子転写体に対して50%以上の抑制を示したことを明らかにする。そのsiRNAは、N転写体を標的とする6個のsiRNA、P転写体を標的とする2個のsiRNA、M転写体を標的とする1個のsiRNA、M2転写体を標的とする1個のsiRNA、及びL転写体を標的とする9個のsiRNAを含む。10個のPCR結果群におけるsiRNA無し対照は、−384%から63%の範囲を有する抑制パーセントを示した。si対照におけるウィルスRNAのコピー数数値を、各PCR結果群の基礎値として用い、これを0%抑制に正規化した。10nM濃度においてトランスフェクトされた57個のsiRNAは、186%から97%に渡る抑制パーセントを示した。これは、標的転写体のRNAコピー数を低下させることが可能siRNAを特定するには、ウィルス標的転写体の「保存」領域のヌクレオチド配列に基づく選択ではまだ十分ではないことを示す。50%以上の抑制%を示すsiRNAを、10nM濃度においてウィルスRNAのコピー数を低下させるのに有効であると見なした(60%及び63%の抑制を示した、2個のsiRNA無し対照は該当せずとし、考慮に入れなかった)。50%以上の抑制を示したsiRNAは、siRNA1、6、32、33、45、48、59、60、70、98、118、126、143、149、150、151、163、164、168、及び197を含んでいた。
表40のデータは、57個の異なるsiRNAにおいて、100nM siRNAのトランスフェクション後の細胞におけるsiRNA標的hMPV転写体のウィルスRNAコピー数に及ぼす前記siRNAの個別の作用を示す(表39に掲げた前のデータ組と比べると、siRNA濃度が10倍大きい)。各PCR結果群は、リアルタイムPCRによって一緒に分析された57個のsiRNAサブセットの結果を表す。表40のデータについては、6個のPCR結果群がある。各siRNAの、ウィルスRNAのコピー数低下効力は、抑制パーセント(「抑制%」)として表した。ウィルスRNAコピー数平均値は、2回の別々のPCRから得た。57個の異なるsiRNAそれぞれの抑制パーセント(「抑制%」)を計算するために、「PCR結果群」の中の各siRNAのウィルスRNAコピー数の平均値を、同じ「PCR結果群」のsi対照におけるウィルスRNAコピー数の平均値で割った。この数字を、表40の「siRNA:si対照比」という題名のついたコラムの下に表す。この数字を、100を掛けてパーセントに変換し、次に、得られた積を100%から差し引いて、各siRNAの抑制パーセントを得た(「抑制パーセント」という題名のついたコラムを参照)。比較的高い抑制パーセントは、そのsiRNAが、標的とするhMPV転写体のウィルスRNAコピー数を低下する能力が大きいこと、従って、ウィルス複製のより強力な抑制因子である可能性の高いことを示す。負の抑制パーセントは、対照siRNAに比べ、ウィルスRNAコピー数の増加を示す。
表40.100nM siRNAによるトランスフェクション後における、hMPV標的転写体のRNAコピー数に対する、57個の異なるsiRNAの作用
表40のデータは、27個のsiRNAが、インビトロにおいて、hMPVウィルス遺伝子の発現に対し50%以上の抑制を示したことを明らかにする。そのsiRNAは、N転写体を標的とする5個のsiRNA、P転写体を標的とする2個のsiRNA、F転写体を標的とする2個のsiRNA、M2転写体を標的とする3個のsiRNA、及びL転写体を標的とする15個のsiRNAを含む。全体として、表43に示す細胞トランスフェクション/ウィルス感染の定量的PCRの結果は、ルシフェラーゼリポーターアッセイ結果と一致した。5個のPCR結果群におけるsi対照は、−87%から32%の範囲を有する抑制パーセントを示した。これは、抑制パーセントを計算するための基礎値として用いられた表42のsi対照と好対照をなす。このデータ組では、No siRNA(siRNA無添加)を各PCR結果群の基礎値とし、0%抑制に正規化した。100nM濃度においてトランスフェクトされた57個のsiRNAは、−208%から97%に渡る抑制パーセントを示した。この場合も、標的転写体のRNAコピー数を低下させることが可能siRNAを特定するには、ウィルス標的転写体の「保存」領域のヌクレオチド配列に基づく選択ではまだ十分ではないことを示している。si対照に観察される抑制パーセント(即ち、32%抑制)に基づき、50%以上の抑制%を示すsiRNAだけを、100nM濃度においてウィルスRNAのコピー数を低下させるのに有効であると見なした。50%以上の抑制を示したsiRNAは、siRNA1、32、33、45、47、59、60、87、89、98、102、105、118、122、126、130、149、150、151、157、158、163、164、168、184、197、及び198を含んでいた。
表39及び40のデータは、選択されたsiRNAは、10nM又は100nM濃度のいずれか、又はその両方の濃度において、標的hMPV転写体のウィルスRNAのコピー数を効果的に抑制する能力を示すことを実証する。
実施例31:複数ウィルス標的
本実施例は、hMPV標的RNAの著明な分解を仲介することが可能なsiRNAはまた、RSVウィルスのRNAも分解することが可能であることを示す。全体的な細胞培養及びトランスフェクションプロトコールは前述のものを用いた。ウィルスRNAのコピー数は、定量的リアルタイムPCRを用い、siRNAをトランスフェクトされ、hMPV感染した細胞から分離されたRNAの複製変化を、既知の基準、即ち、既知のコピー数を有する鋳型を用いて実施したリアルタイムPCRで得られる複製変化と比較することによって定量した(Deffrasnes C,et al.,J.Clin.Microbiol.43,488−90(2005))。ウィルスRNAコピー数が低いほど、より強力なsiRNAであることを示す。更に、抑制パーセントが大きいほど、より強力なsiRNAであることを示す。
hMPVのL転写体のウィルスコピー数を効果的に低下させる能力を示したsiRNA118、126、150、151、及び158について、RSV標的RNAに対して同じことをするその能力について評価した。各siRNAは、10nM濃度においてトランスフェクトされた。データを下記の表41に示す。
表41.10nM siRNAによるトランスフェクション後における、RSV標的転写体のRNAコピー数に対する、6個の異なるsiRNAの作用
表41の結果は、siRNA158が、RSVコピー数を約20%抑制すると測定されたように、RSV転写体を分解する能力を示すことが明らかにする。これらのデータは、様々なウィルス科から得られるウィルス転写体を分解することが可能な、複数ウィルスを標的とするsiRNAの作製が可能であることを示す。
これまで、本発明は、その特異的実施態様を参照しながら説明してきたわけであるが、本発明の真の精神及び範囲から逸脱することなく、様々な変更を加え、等価物で置換することが可能であることを当業者達は理解しなければならない。更に、ある特定の状況、材料、材料の組成、工程、工程の一つのステップ又は複数のステップに適応させるために、本発明の目的、精神、及び範囲に対し数多くの改変を実施することが可能である。そのような改変は全て、本明細書に付属する特許請求の範囲の中に含まれることが意図される。