本発明は、本明細書では「量子微生物学」(本明細書では「QM」と呼ぶことがある)と呼ばれる、新規形態の微生物検出分析の使用に基づいている。標準定量的微生物学分析は、栄養寒天プレート上で視覚的に検出可能な微生物コロニーを生成するものを指す用語である「コロニー形成単位」、もしくは「CFU」に基づいている。すなわち、伝統的な「量子」は、寒天プレート上の微生物の目に見えるコロニーである。しかしQMは、単細胞ベースでの微生物の定量および/または定性を可能にさせる(例えば、この場合の「量子」は、単細胞、または単細胞からのクローン集団である)。これは、診断における当該のタイプの単細胞の個別倍加時間がCFUにおける変化を可視化するための現行技術を用いて一般に必要とされる12〜48時間ではなく一般に20〜60分間であり、本技術に基づく本方法をはるかに高速にさせるので、これは生命を脅かす微生物感染において重大な長所となるという事実を含む多数の極めて重要な長所を有する。そこで、本発明の技術は本明細書ではときどき動態的技術と呼ばれるが、これは経時的に同一細胞の繰り返し測定を用いる比率分析を可能にさせる。さらに、本方法は、個別細胞から形成されたクローン内の細胞各々が定量的および/または定性的情報を提供するという点で、診断判定の高冗長性を可能にさせる。例えば、各娘および孫娘細胞は本明細書に記載の要素に基づいて同一性および同系性を指定することができ、そこで極めてまれな細胞についてさえ、それらのクローン関係を含むサンプル内のそれらの子孫の存在および/または同一性の検証に起因して統計的に有意なデータを入手できる。
本発明は、治療決定だけではなく抗菌剤感受性の「フィンガープリント」もしくは「プロファイル」に基づいて微生物を同定する能力、さらにそのような同定が行われない場合でさえ治療決定を下せる能力もまたもたらす、抗菌剤感受性および耐性(例えば、細菌感染、抗生物質耐性および感受性の場合に)を定量および/または定性するための方法もまた提供する;この実施形態では、物質の有効性が測定値である。この場合には、結果は微生物に対する抗生物質の「最小発育阻止濃度」、もしくは「MIC」と相関させることができる。
本発明は、検出表面上の微生物の濃縮を可能にするシステムを使用することによって、患者サンプル内の微生物の迅速な定量および/または定性をさらに提供する。例えば、バイオ検出における1つの重大な問題は、多数の臨床サンプルが極めて低濃度である(例、血液)、または単位サンプル当たりの微生物数が極めて少ない可能性があるという事実である。本明細書に記載するように、本発明は、バイオセンサ内での高速およびより正確の両方の検出を可能にするために微生物を濃縮する方法を提供する。さらに、好ましい検出方法は、ほとんどの従来法が関係する状況である、分析物の濃縮自体には左右されない。その代わりに本発明の方法は、標本もしくはサンプルビヒクル内の濃度とは無関係に個別微生物の絶対数を計数する。この別個の計数方法は、雑音レベルを減少させて感受性を増加させる点で、濃度依存性検出に比較して実質的長所を提供する。様々な有用な濃度および収集技術は以下で記載するように本明細書に含まれるが、検出表面への微生物の電気泳動法による移送が特に関心対象である。このシステムは、本明細書に記載するように、様々な構成を取ることができる。一般に、2種の相違する主要な構成が使用されるが、追加の構成は本明細書において考察され、意図されている。1つのシステムでは、電気泳動法による移送を実行するための電界を生成するために第1電極および第2電極が使用され、検出表面はこれらの電極間にある(例えば、図1A、1E、1Fを参照)。これは、水平方向(図1C)または垂直方向(例えば、図1Bおよび1Fを参照)にあってよい。さらに、検出表面を含む相違するチャネルを単一セットの電極とともに使用できる(例えば、図1Eを参照)。または、複数セットの電極もまた使用される。1つの態様では、アレイ内の各検出表面は1つまたは複数の対極(図1G、1H、1Iおよび1Jを参照)との関連電極(例、本明細書に記載のように、空間的に近接して、または電極自体が検出表面として使用されるのいずれかで)を有することができる;同様に、水平(図1J)または垂直(図1K)方向のいずれかで。一部の場合には、サンプルを1つの検出表面(電極と関連している)から別の検出表面へ移動させるために、電界が電極セット間で、または相違する電極へ連続的に印加される(例えば、特に、Nanogen社、米国特許第5,849,486号および第6,017,696号を参照)。複数セットの電極を使用する別の態様は図1Hおよび1Gにおいて使用され、第1および第2電極を使用して電界が構築される。当業者には理解されるように、図1に示した濃縮モジュールは、以下に記載するようなマイクロ流体構成要素などの追加の構成要素を有していてよい、ならびに大規模システムの一部であってよい。
本明細書に記載のこれらの構成や他の構成を用いると、検出表面へ微生物が結合する速度は重大に増加する。すなわち、例えば電気泳動法による検出表面近位での微生物の濃度を増加させることは、より高速の動態を生じさせる。同様に、捕捉リガンドが使用される場合には、速度は捕捉リガンドの近位にある微生物の濃度を増加させること、そして結合リガンドを見いだすために所与の微生物が移動しなければならない距離を減少させることの両方によって上昇する。
一部の実施形態では、複数の電気泳動電極の連続的または同時使用は多次元電気泳動法を可能にする。すなわち溶液は、結合の動態をさらに増加させるために、検出表面の近位で標的化、「混合」または「攪拌」することができる。例えば、検出表面に結合されなくてよい微生物が表面の「上方」を行ったり来たりすることを許容して、結果として結合の増加を生じさせるために、極性を反転させることができる。さらに、電極を配置し、二次元の平面、または三次元におけるかき混ぜを提供できるように、プログラムされた順序にしたがって電界極性を切り替えることができる。
さらに、本発明の多数の実施形態は、微生物の連続的捕捉、その後の微生物の増殖(抗菌剤の存在下もしくは不在下のいずれか、またはその両方)、およびその後の検出に基づくという事実のために、電気泳動用バッファの毒性が重要である。多数の伝統的な電気泳動法によるレドックスメディエータは、酸素活性化を通しておよび必須高分子のアルキル化によってのいずれかで細胞にとって毒性の場合がある(例、ベンゾキノン)。したがって、本発明は、多数の長所を備える特殊対のレドックスメディエータを利用する多数の電気泳動用バッファを提供する。第一に、これらのレドックスメディエータは、微生物の生育性を維持するための低電圧電気泳動法、ならびに高電圧電気泳動法において有用性が限定されている特定電極材料(例えば、インジウムスズ酸化物、「ITO」電極)の使用を可能にさせる。さらに、これらのレドックスメディエータは、例えば大気に開放していないシステムのような「閉鎖型システム」において有用である。これらはいくつかの理由から重要である。電気泳動工程中に、多数の問題を引き起こすことがある気泡形成または他の反応性種が生成されない、および第二に、潜在的感染性サンプルへの技術者の曝露を防止するため、ならびに生物学的サンプルを廃棄することに関連する問題を減少させるために、閉鎖型システムが好ましい。
一般に、本発明は、患者において微生物および細菌感染(複数菌感染を含む)を同定(診断を含む)するための方法を提供する。サンプル内の様々な微生物を同定するためには、例えば特異性を提供する工程などの様々な方法が使用されるが、その他の方法もまた本明細書に記載され、意図されている。1つの態様では、複数の検出表面が使用される。1つの実施形態では、各検出表面は相違する特異的捕捉リガンドを有する。すなわち、1つの検出表面は特異的微生物種もしくは属に対する抗体を含む捕捉リガンドを含んでいてよく、そしてまた別の検出表面は相違する特異的種への相違する捕捉リガンドを含んでいてよい。一部の実施形態では、流体学的に相互から分離されている複数の検出表面が使用される;例えば、以下で記載するように、本発明の1つのバイオセンサカートリッジは複数の検出モジュール、例えば検出チャネルを有することができるが、1つのサンプルを検出モジュール内に分割し、次に評価のために例えば相違する抗菌剤のような相違する条件を受けさせることができる。本明細書で記載するように、単一バイオセンサカートリッジ上の複数の相違する検出表面は、全部が非特異的捕捉リガンド、または特異的捕捉リガンドを有していてよい。
一部の実施形態では、検出表面は微生物の非特異的捕捉に基づくが、検出方法は特異的結合リガンドに基づく;例えば、特定種の微生物に対する抗体は、蛍光標識とともに使用できる。この実施形態では、同時検出は、通常は相違する標識を含有する相違する結合リガンドに基づくが、連続的検出は1つまたは複数の洗浄工程、その後に同一標識を用いた相違する結合リガンドを用いて実施できる。本発明のまた別の態様は、特異的捕捉または特異的標識化いずれかの使用を回避する。この態様では、本発明は、検出可能もしくは既知の変化に基づいて、検出表面上での微生物の空間的分離を用いて微生物の特異的同定を提供する。例えば、単一微生物の分割を検出する能力は、任意の数のパラメータ、特には増殖率、代謝活性の評価、相違する抗生物質を用いた細胞殺滅率、ならびにサイズ、形状を含むことのできる微生物の形態、および亜系統微生物との関係を含む動態パラメータ(例えば、クラスタもしくは鎖への増殖、表面上の二次元増殖または表面から離れた三次元増殖)に基づく同定を可能にする。さらに、比率の評価に加えて、単一データポイント分析もまた実施できる(例、表面上の個別微生物と関連する面積の増加(例、正の増殖(positive growth)、不活発領域(正の増殖なし)または領域の消失(例、負の増殖(negative growth)、アポトーシスおよび/または死滅))。これらのパラメータの多くは、例えば、相違する抗生物質および抗生物質の組み合わせを用いた殺滅率の多重パラメータ分析に基づく微生物の同定を可能にする、もしくは改良するマトリックスもしくは「フィンガープリント」に構築することができる。
本発明は、本方法において有用である多数の器具もまた提供する。一般に、バイオセンサ器具は、検出ユニットに適合するように設計され、一般には「オンチップ」(例えば、バイオセンサカートリッジのパーツ)または「オフチップ」(構成要素の一部は、その中にバイオセンサカートリッジが適合する個別器具のパーツである)のいずれかであってよい多数の構成要素を利用する。これらの構成要素には、1つまたは複数(例、1アレイ)の検出表面、濃縮モジュール(本明細書で頻回に記載するように、検出表面を備えて構成される)、検出モジュール(同様に、検出表面を備えて構成されることが多い)、入口および出口ポート、チャネル、ポンプ、ミキサ、弁、ヒータ、流体リザーバ(サンプルリザーバ、試薬リザーバ、およびバッファリザーバを含む)、濃縮制御装置(例えば、電気泳動法の場合には、電気制御装置)、ならびにデータ収集および分析(例、コンピュータ)構成要素が含まれるが、それらに限定されない。
以下の考察は標的分析物として微生物の使用に焦点を当てているが、例えば核酸、タンパク質、カビ、癌細胞などの真核細胞などの他の標的分析物の検出は、参照して本明細書に全体として組み込まれるU.S.S.N.10/888,828に記載されていることに留意されたい。
例えば、本発明の方法において検出される所定の生物はそれらだけでは生育性ではなく、(例えば、ウイルス、プリオン、分子マーカー、または細胞内細菌を検出するための)宿主を必要とする可能性があることに留意されたい。その場合には、検出表面は、ウイルスまたは他の生物の増殖を支持する宿主細胞を含むことができる。その場合には、感染した標的宿主細胞の検出は、本明細書に記載の方法で進行するが、一般にはウイルスおよび宿主の特性にしたがって実施され、感染の指標となる細胞表面マーカーの存在(例えば標識抗体を使用することによって)、感染の結果として生じる宿主の生理学における変化、または宿主の溶解もしくは死を通しての検出を含むことができる。関連する細胞は、試験されている微生物が試験された細胞の近傍を通して増殖することに役立つヘルパー細胞をさらに含むことができることに留意されたい。
したがって、本発明は、サンプル中の微生物を検出、定量、定性および/または同定するための器具および方法を提供する。
微生物の検出
「微生物」は、本明細書では以下のクラスのうちの1メンバーを意味する。細菌、真菌、藻類、および原生動物、ならびに本発明の目的のために含むことができるウイルス、プリオンもしくは他の病原体。1つの態様では、細菌、および特にはヒトおよび動物病原体が評価される。適切な微生物には、医学分野において明確に確立された任意の微生物およびその時々に発生するそれらの新規病原体および変異体が含まれる。現在知られている細菌病原体の例には、例えば、バシラス属(Bacillus)、ビブリオ属(Vibrio)、エシェリキア属(Escherichia)、シゲラ属(Shigella)、サルモネラ属(Salmonella)、マイコバクテリウム属(Mycobacterium)、クロストリジウム属(Clostridium)、Cornyebacterium、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)、ヘモフィルス属(Haemophilus)、ナイセリア属(Neissena)、エルシニア属(Yersinia)、シュードモナス属(Pseudomonas)、クラミジア属(Chlamydia)、ボルデテラ属(Bordetella)、トレポネーマ属(Treponema)、ステノトロホモナス属(Stenotrophomonas)、アシネトバクター属(Acinetobacter)、エンテロバクター属(Enterobacter)、クレブシエラ属(Klebsiella)、プロテウス属(Proteus)、セラチア属(Serratia)、シトロバクター属(Citrobacter)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、レジオネラ属(Legionella)、マイコプラズマ属(Mycoplasma)、クラミドフィラ属(Chlamydophila)、モラクセラ属(Moraxella)、モルガネラ属(Morganella)、および医療実践において遭遇する他のヒト病原体が含まれるが、それらに限定されない。同様に、微生物は、1セットのカンジダ属(Candida)、アスペルギルス属(Aspergillus)、および医療実践において遭遇する他のヒト病原体から選択される真菌を含むことができる。さらに他の微生物は、オルトミクソウイルス(例、インフルエンザウイルス)、パラミクソウイルス(例、RSウイルス、流行性耳下腺炎ウイルス、麻疹ウイルス)、アデノウイルス、リノウイルス、コロナウイルス、レオウイルス、トガウイルス(例、風疹ウイルス)、パルボウイルス、ポックスウイルス(例、疱瘡ウイルス、ワクシニアウイルス)、エンテロウイルス(例、ポリオウイルス、コクサッキーウイルス)、肝炎ウイルス(A型、B型およびC型を含む)、ヘルペスウイルス(例、単純ヘルペスウイルス、水疱−帯状疱疹ウイルス、サイトメガロウイルス、エプスタイン−バーウイルス)、ロタウイルス、ノーウォークウイルス、ハンタウイルス、アレナウイルス、ラブドウイルス(例、狂犬病ウイルス)、レトロウイルス(HIV、HTLVIおよびIIを含む)、パポーバウイルス(例、パピローマウイルス)、ポリオーマウイルス、およびピコルナウイルスなどを含むがそれらに限定されない、医療実践において遭遇する病原性ウイルス(時々はヒト病原体)を含むことができる。ウイルスの態様では、一般には、本発明の方法および組成物は、ウイルスが棲息している宿主細胞を同定するために使用できる。
サンプル
本発明は、サンプル内の微生物を検出する方法を提供する。当業者には理解されるように、サンプル溶液は、本発明において有用である実質的に任意の生物の体液(血液、尿、血清、リンパ液、唾液、肛門および膣分泌物、汗、腹膜液、胸水、浸出液、腹水、および化膿分泌物、潅注液、ドレナージ液、ブラシ細胞診標本、生検組織、外植医療器具、感染したカテーテル、膿汁、生物膜および精液)、さらに哺乳動物サンプル、特にヒトサンプルおよび環境サンプル(空気、農業、水および土壌サンプルを含むがそれらに限定されない)を含むがそれらに限定されない任意の多数の起源を含むことができる。さらに、サンプルは、供給サンプル(例、穀物、乳汁もしくは動物の死体)、処理の中間工程におけるサンプルのどちらも含むことができる加工処理中の食品、ならびに消費者に提供できる完成食品から採取できる。獣医学用途のための本発明の価値は明確に理解されるはずであり、乳腺炎の診断および治療における乳汁分析、およびウシ呼吸器疾患を診断するための呼吸器サンプルの分析のための使用は、特に注目すべきである。
サンプルは、1mL未満から所定の呼吸器洗浄液については1Lまでの範囲に及ぶことがあり、さらに細菌濃度については1mLに付き細菌1個未満から109個超の範囲に及ぶことができる。さらに、サンプルは、血液、尿、痰、洗浄液または他の媒質中に存在していてよい。サンプル濃縮は、少数で存在する細菌全部をシステム内へ効果的に導入できるように、ならびにシステムへ導入した時点に一貫性の特性を有するためにバックグラウンドの液体培地を標準化する、または一部の場合には排除もしくは減少させることができるように、サンプルを濃縮する。しかし所定のサンプルは、本発明の範囲内で濃縮または他の修飾を行わずに使用できることに留意されたい。
増殖を検出する
本明細書で使用する「増殖」は、正の増殖、中間の増殖(neutral growth)および負の増殖を含む。細胞である微生物(例、細菌、原生動物および真菌)の場合における「正の増殖」は、細胞分割のサイズおよび進行における増加を指し、特には娘細胞の産生を含む。そこで、個別微生物の「正の増殖を検出する」は、微生物のサイズにおける増加を検出する、および/または微生物によって占有される総面積を増加させることも増加させないこともある細胞分割の存在を検出するのどちらかを指す。一部の場合には、本明細書に記載するように、正の増殖は検出表面上の親細胞または娘細胞が占有する面積の増加として検出できる。その他の微生物は、表面「から外れて」増殖することがあるので、それらは容積を増加させるが検出表面上のそれらの「フットプリント」を増加させないことがある。
ウイルスの場合には、「正の増殖」は、一般には宿主細胞内でのウイルスの複製を指し、溶解性ウイルスの場合は、宿主細胞溶解を含むことができる。そこで、ウイルスの「正の増殖」は、時には離散的宿主細胞の消失として検出されることがある。
「増殖を検出する」は、例えば中間の増殖もしくは負の増殖のような増殖の欠如を検出することもまた指すことがある。すなわち、一部の抗菌剤は正の増殖を遅延させることによって作用するが、それでも細胞を殺滅しない;これは一般に「中間の増殖」と呼ばれている。そこで、細胞の(表面上の)サイズ、形状、容積および/または面積における変化をほとんどもしくは全く検出しないことは「増殖」の評価の中に含まれ、例えば物質の不在下では、微生物は正の増殖を示すが、物質の存在下では、増殖の欠如はたとえ微生物が死滅しない場合でさえ重要である。一部の場合には、検出表面上で細胞のサイズ、形状、容積および/または面積における小さな変化が生じることがあるが、これは正の増殖から識別できることに留意されたい。
「増殖を検出する」は、負の増殖、例えば壊死の検出を指すこともある。さらに、細菌性のプログラムされた細胞死(例、アポトーシスおよび/または自食性細胞死)については一部の限定された考察しかされていないが、これも同様に負の増殖と考察される。一般に、負の増殖を検出することは、本発明の方法によって検出できる微生物のサイズ、形状、面積もしくは容積における変化、必ずではないが通常は減少に基づいている。
そこで、「増殖を検出する」は、正の増殖、増殖の欠如、例えば能動的に分割していない、積極的に増殖していない細胞を検出すること、および負の増殖、例えば細胞死を検出することを指すことがある。
一般に、本発明は、増殖を検出することが、コロニーレベルではなく、個別もしくは離散的微生物レベルで実施される点において独創的である。そこで、「離散的微生物の増殖を検出する」は、娘細胞の小集団を生成できるような期間中に、しかし裸眼でコロニーを視覚的に見ることができるようになる前に、個別細胞の増殖の評価として実施される。そこで、本発明の「量子微生物学」の構成要素は、微生物の数十もしくは数百の倍加時間ではなく、ほんの少数の倍加時間以内の検出を可能にする。さらに、本明細書で記載するように、本発明の方法は、アッセイ前の微生物(液体もしくは固体のいずれか)の初期増殖を必要としない;本発明は、アッセイ前に増殖させていない生物学的サンプルを用いて開始できるほど十分に感受性である。一般に、本発明の方法は総計して1〜約10の倍加時間を利用するが、約1〜約4が特に有用であり、「回答すべき時間」が最小限に抑えられる状況では、1〜2が理想的である。
以下では、増殖を検出する様々な方法について記載する。
抗菌剤
以下でより詳細に記載するように、本方法は、任意で抗菌剤に対する微生物の感受性、耐性もしくは抵抗性レベルの決定を含む。「抗菌剤」は、以下で記載する1つのタイプの生物活性剤であり、上記で規定したような微生物の増殖を変調させる物質である。
当分野において既知のように、そして微生物に依存して、頻回には様々な物質および様々な濃度の物質のマトリックス状況において、様々な抗菌剤が試験されている。適切な抗菌剤には、セファロスポリン系、ペニシリン系、カルバペネム系、モノバクタム系、他の新規βラクタム系抗生物質、βラクタマーゼ阻害剤、キノロン系、フルオロキノロン系、マクロライド系、ケトライド系、グリコペプチド系、アミノグリコシド系、フルオロキノロン系、アンサマイシン系、アザライド系、リンコサミド系、リポペプチド系、グリコリポペプチド系、ストレプトグラミン系、ポリミキシン系、テトラサイクリン系、フェニコール系、オキサゾリジノン系、ニトロアミダゾール系、葉酸塩経路阻害剤及びその他の抗生物質ファミリー、ならびに臨床実践もしくは研究において抗生物質として使用される新規物質を含むバクテリオファージが含まれるが、それらに限定されない。抗ウイルス剤もまた抗菌剤の定義の中に含まれ、既知の承認された抗ウイルス剤ならびに実験的抗ウイルス剤の両方を含む。さらに、これらの物質の組み合わせもまた、特に耐性菌株の発生を考慮に入れて、試験することができる。さらに、本明細書で記載するように、抗菌剤の濃度は、動物組織中での抗菌剤の薬物動態を反映させるために経時的に変化させることができる。さらに、本明細書に記載のアッセイは、MIC、MBC、時間−殺滅動態、細胞分割の抑制、耐性誘導および選択、ならびに薬力学的パラメータの測定を含めて、候補抗菌剤およびそれらの有効性を試験するために使用できる。
一般に、本発明の方法は、サンプルの性質および濃度および容積に依存する、任意のサンプル調製工程;前濃縮工程を任意で含む濃縮工程;濃縮工程の一部であってよい主として独立した部位での検出表面上で微生物を会合させる工程;微生物に抗菌剤の存在下もしくは不在下(またはその両方)で増殖条件を受けさせる工程;および微生物の存在もしくは不在(または、混合集団の場合にはその両方)を検出する工程を一般に含む以下で記載する多数の工程を利用する。抗菌剤に対する感受性の評価においては、追加の方法が含められる。
本発明は、本明細書に記載するように、これらの方法を遂行するための器具をさらに提供する。
サンプルの調製
1つの態様では、本発明は、濃縮工程(例、電気泳動工程)または検出表面へ導入する前にサンプルを調製する工程を提供する。調製方法は、アッセイされる物質のタイプに依存し、固体組織の含浸、遠心分離、イオン交換ビーズもしくはカラム、クロマトグラフィ、濾過、積み重ね電気泳動法、または生化学的分離の形態を含むことができる。1つの態様では、バッファ交換が行なわれ、サンプル調製剤を添加できる。例えば、同時濃縮(以下で記載する)およびサンプル調製工程は、例えば、サンプルを遠心分離して適切なバッファ中に微生物を再懸濁させる工程によって実施できる。例えば、微生物が標的分析物である場合は、一般には当分野において既知のように約0.01%〜1%の範囲内で、動物細胞および細胞破片を崩壊させるためにサポニンを使用できる。同様に、DTTなどの還元剤を使用するとサンプル中の粘液を崩壊させることができ、一部の場合にはこれは酵素によって同様に行うことができる。さらに、プロテアーゼ阻害剤(例、Roche社のプロテアーゼ阻害剤ミックス、Boeringer社のComplete、ロイペプチン、PMSF)を含めることができる)−これらは、それらの電荷を減少させる傾向がある細胞表面上のプロテアーゼ作用を防止するために使用される。一般に、調製の態様は、当業者には既に周知のような任意の技術および新規の技術ならびにそのときどきに医師および研究者によって考案されるような改良を含むことができる。
多くの先行技術は、分析前にサンプル内での微生物の初期液体増殖(平板培養など)に基づいていることに留意されたい。本発明の1つの態様では、初期(例、バイオセンサへの事前の塗布)増殖期は実施されない。
微生物の濃縮
本明細書に記載するように、必ずではないが一般には、バイオセンサおよび検出表面への塗布前、塗布中または塗布後のいずれかにサンプル中で微生物を濃縮することが必要とされる。適切な濃縮方法には、電気泳動法、誘電泳動法、遠心分離、親和性捕捉、相分配、磁場捕捉、濾過、重力、再循環もしくは拡散、またはこれらの組み合わせが含まれるが、それらに限定されない。濃縮工程の一部として、もしくはその前に、監視対象の細菌の通過を許容しながらより大きい、もしくはより小さい(または両方の)汚染因子を除去するために前濾過を実行することもまた便宜的である。そのようなフィルタは、ニトロセルロース、ナイロン、セルロースもしくはその他の膜、ビーズフィルタ(サイズフィルタを含む)、または便宜的な可能性がある他のフィルタを含むことができる。
前濃縮
1つの実施形態では、微生物は「前濃縮」される。この状況における「前濃縮」は、微生物が検出表面上での増殖に先行して部分的に濃縮されることを意味する。前濃縮は、2つの機能を実行する。第一に、微生物の数対サンプルの容積の比率が増加するので、サンプルの可能性のある最大分画を本システムにおいて使用できる。第二の理由は、微生物は、電気的もしくは他の特性が検出システムのために不適合または非最適である液体中に含まれる可能性がある点である。例えば、電気泳動法を引き続いて使用しなければならない場合、そのような方法の有効性は、一般に低電解質バッファの使用によって改良される。そのような場合には、微生物サンプル液は、システムとより適合性である液体と置換される。
2つの主要な前濃縮法がある;1つはバイオセンサカートリッジへ微生物を導入する前に実施され、もう1つはカートリッジ上で実施される。
プレカートリッジ:親和性捕捉
一部の場合には、カートリッジへ導入する前に微生物を前濃縮するのが望ましい。これは、一部の場合には溶出型収集器によって実施できる。そのようなシステムでは、サンプルは、微生物に可逆的に結合する物質が密に充填されているマトリックス(一般には、「カラム」と呼ばれる)に通して濾過される。サンプルがカラム内を通過させられると、微生物は、一般に塩濃度、pHなどの化学的、酵素的もしくは物理的変化を通して溶出される。そのような収集器を使用すると、少量のバッファ中で微生物を濃縮する、本方法におけるその後の工程のために良好に適合する一様な媒質中へ微生物を配置する、ならびに監視するのが望ましい微生物とはサイズもしくは電荷の相違を有する汚染物質を除去することができる(そこで、一部の場合には、バッファの交換だけが行なわれて実際の濃縮は行なわれないが、これは一般には該当しないことに留意されたい)。
このサンプル調製の好ましい実施形態は、その中にイオン交換樹脂、一般にはビーズが充填されている50〜1,000μL、好ましくは250μL未満の容積を備えるカートリッジである。本発明のこの態様では、サンプルは、修飾せずに、またはpHを調節するためのバッファを添加して、および/または微生物からシステム構成要素への、もしくは相互の非特異的結合を減少させるために好ましくは非イオン性界面活性剤の存在下で、カートリッジに通して推し進めることができる。pHは、比較的に中性(pH6〜8の範囲内)であることが好ましいが、任意の場合には、微生物が生育性のままで負の電荷を維持する、そして樹脂が正電荷を維持するpHで十分である。大多数の微生物については負の電荷が典型的であるが、典型的には正に荷電している任意の生物については、カチオン性樹脂をアニオン性樹脂に置換することができ、pHのコントロールは負に荷電した生物についての上記および下記のpHとは反対になることに留意されたい。
微生物は、一般には、カートリッジの容積と有意には相違しない容積で、そしてカートリッジの容積より少ない場合でさえ、溶出液と混合しないように注意を払いながら、樹脂から溶出させることができる。一般に、カートリッジからの溶出後には、溶液は、好ましくはバッファの濃度が過度に増加しないように両性イオンバッファを用いて、中和される。イオン強度、導電性、界面活性剤の存在、栄養素の存在、または微生物にとっての成長因子、およびpHを含む結果として生じる媒質の他の特性は、必要に応じて調整できる。一般に、以下で考察するように、微生物にとっては相当に低い導電性溶液中にあることが好ましい。溶出が3より上もしくは11より下のpHで実施されることを前提にすると、結果として生じる中和された溶液は、おそらくその後の工程にとって好ましい10mM未満の塩のイオン強度を有する。この親和性捕捉は、またはサンプル調製法として使用できるが、さらに微生物の前濃縮を生じさせ、以下で記載するようにその目的のために適合させることができる。
カートリッジ内での前濃縮
当業者には理解されるように、微生物を前濃縮するためには様々な方法があり、それらのいくつかは図面に描出されている。以下で記載する任意の技術は、図2に示したような前濃縮表面上で微生物を前濃縮するために使用できる。例えば、図2に示したように、そして以下で詳細に記載するように、非特異的表面上で微生物を収集するために電気泳動法が使用され、次に標的は前濃縮表面から検出表面上へ運び去られる。または、同様に以下で記載するように、膜もしくはフィルタは、例えば、検出表面へ塗布する前に分析物を前濃縮するために陽圧もしくは遠心分離とともに使用できる。
電気泳動法のシステムおよび構成
任意の前濃縮工程後に、本発明の有用な方法は、その上で微生物の増殖を監視して抗微生物剤(AOA)に対するそれらの感受性を評価する検出表面上へ微生物を電気泳動法により濃縮することである。本方法は、その間で微生物が電解液中に導入される相違する電位に配置された複数の電極を使用する。電解液中の構成成分が電極で酸化還元(レドックス)反応を受ける場合は、一般に荷電されている(およびそれらの電荷は電解液の組成およびpHを変動させることによって、および/または電荷を付け加える電気泳動的タグを用いてある程度は操作できる)微生物が電界の影響下で一方もしくは他方の電極へ移動する電解液内で発生する電界が存在する。
したがって、1つの態様では、サンプル内の微生物は検出表面上へ濃縮される。本明細書で記載するように、一般に使用されるいくつかの構成がある。一般に、1つの態様では、電界を生成するために第1電極および第2電極を用いる「バルク」電気泳動工程があり、検出表面は、水平もしくは垂直方向のいずれかにおいて、これらの電極間にある。これらの実施形態のいくつかは、図1に示されている。また別の態様では、単一電界(図1D)、複数の電界(図1G、1I、1Jおよび1K)、または連続的電界(図1I、1Jおよび1K)のいずれかを生成するために電極セットが使用される。さらに、これらのシステムを分類するためのまた別の方法は、検出表面が基礎電極(本明細書ではときどき「密接に連結した電極」と呼ばれる、例えば図1F、1I、1J、1Kおよび1L)および基礎電極を有していない(例えば、図1A、1B、1C、1D、1E、1G)システムに分類する方法である。本明細書に記載するように、1つの態様では、検出表面は、「基礎電極」と見なすことのできる電極上に配置するように方向付けることができる。
本明細書で考察した全実施形態について、電気泳動電極の数、サイズ、形状および位置は、実質的に一様、可変性または非対称性のいずれかの電界を生成するために修飾できる。したがって、図面に示した電極のサイズおよび形状は具象的なものに過ぎない。大多数の場合に、図面は、電極を以下で記載する適切な電源および制御装置と接続するために使用される電気連結部を示していない。
したがって、1つの態様では、単一セットの電極が使用され、これらの検出表面は電界内のこれらの電極間にある。1つの態様では、電極および検出表面は、単一基質上にある;例えば、図1Aに示したように、第1電極500および第2電極510は検出表面520とともに第1基質530上にある。電気連結部550はこれらの図面において示されていないが、電源との相互連結、一般にオフチップのためには、基質の表面上(例えば、図3D参照)または基質の中を通って(例えば、図3E参照)のいずれかでよいことに留意されたい。単一基質上に機能的構成要素を備えるこれらのシステム(図1A、1D、1E、1H、1Iおよび1Jを含む)は、開放型システムであってよく、例えば、それらはマイクロタイターウエルの底部もしくは平面上の他のウエル内にあってよい、またはそれらは閉鎖型システムの一部である。適切な閉鎖型システムは、空洞を規定するためにスペーサを備えた第2基質の使用を含む、または全カートリッジが単一物質から調製されている(またはその後に組み立てられる層状で作製される)。そこで、図1Aは、電界内に複数の検出表面を備える2電極システムを示す。図1Eは、1つまたは複数の検出表面を含むチャネルを備える2電極システムを示している(この図は、各チャネル内の複数検出表面(一部の実施形態では、相違する捕捉結合リガンドを有する)を示しているが、特に非特異的捕捉の場合には、単一検出表面もまた意図されている)。図1Dは、各々が1セットの電気泳動電極を備える基質内の複数のチャネルを示している(同様に、この図は、各チャネル内の複数検出表面(一部の実施形態では、相違する捕捉結合リガンドを有する)を示しているが、特に非特異的捕捉の場合には、単一検出表面もまた意図されている)。図1Fは、単一プローブ電極510がアレイフォームに配置される複数の検出表面520の下にあるバイオ検出セルを示している。セルの壁は図の中に配置されていないが、例えば、水密性シールを形成するためにガスケット材料であってよい。参照電極500は、好ましくはプローブ電極510の上方に物理的に配置され、任意でプローブ電極とは大まかには類似のサイズであってよいので、2つの電極間の電界は実質的に一様である。一般に、本明細書の実施形態の多数について該当するように、電極は任意で大まかには相互に平行であるので、発生させられる電界は大まかにはプローブ電極の表面に垂直であり、検出表面上への標的の均一な沈着を発生させる。
一部の実施形態では、電極セットを使用して電界が生成される。例えば、代替配列は、図1G、1I、1Jおよび1Kに示されている。図1Gでは、電極は検出表面の下にはない。この場合には、検出表面はアレイフォーマットで配列される。2つの電極510はアレイの側方にあり、この図面ではP、Q、およびRと表示された部分参照電極500のアレイの下方に置かれている。部分参照電極の数およびタイプは変動してよく、2つの電極510および部分参照電極500を配置する目的は、電極の相対電圧を調整することによって電界の強度およびトポロジーを管理することである。例えば、負バイアスで第2電極および部分参照電極P、QおよびRを、そして相当に正バイアスで第1電極を配置すると、アレイの表面を横断するおおむね水平の電界を引き起こす。複数の部分参照電極を使用すると、大きな連続式電極を用いて発生し得る電界の「短絡」を防止できる。図1Hは類似であり、下流構成要素と比較的に一定であるアレイの場所で電界の垂直構成要素を提供するための、電極セットからの電界の強さを示している。相違する電極での電圧バイアスの相対的強度を調整することによって、以下で記載する目的のために様々な相違する電界トポロジーを配列できる。
一部の態様では、構成要素は2つの基質上にある;例えば、図1B、1C、1F、1Gおよび1Kでは、電極の1つは「上部」基質上にある(本明細書で使用する「上部」および「底部」は限定することは意図されていない)。同様に、チャンバの側壁は図示されていない。
追加の態様では、電極セットを使用して、電極間での分析対象微生物の移動を許容するために連続的電界が作り出される。これは、一般的に2つの電極間に電位を印加する工程と、および次に第2電気泳動工程において「第1」電極として機能させるために第2電極の極性を反転させる工程とを含む。この態様では、1個(例、図1I)もしくは数個の参照電極(例、図1J)、ならびに作用電極と結び付けられた1つまたは複数の検出表面が存在してよい(例えば、全部が複数の検出表面を示している図1I、1Jおよび1Kを参照されたい。だが単一検出表面もまた意図されている)。さらに、図2は、様々な前濃縮電極810および結び付けられた検出表面820ならびに作用電極816および819の使用を示している。図2Jの器具では、電位は電極510と電極500との間に、次に500と501との間に印加することができる。または、同一器具内で、電位は電極510ならびに電極500および501の間に同時に印加することができる。また別の実施例では、任意で電極817B、817Cなどを含む図2Cの器具では電位は電極817Aと前濃縮電極819Aとの間に、次に819Aおよび819B、819Bおよび819Cなどの間に連続的電位を印加することができる。本明細書に全体として参照して組み込まれるU.S.S.N.10/084,632の図10および添付の本文も参照されたい。
任意の工程では、弱く付着した非特異的結合物質は、電極P、Q、およびRへの小さな真の正味正バイアスを配置し、物質をアレイから取り出すことによってアレイから取り除くことができる。
追加の態様では、電気泳動法は、本明細書に記載の電気泳動法タグを利用する;さらにU.S.S.N.10/888,828も参照。一般に、タグは、タグと微生物との迅速な結合を可能にする濃度で加えられる。この工程は、アッセイにおける任意の時点に実施できるが、1つの態様では、装填前にタグとサンプルとを接触させる工程である。一部の場合には、滴定可能な静電タグを使用すると、pHおよび電気泳動法中の他の条件の調整が可能になる。様々な電気泳動法タグは、U.S.S.N.10/888,828、詳細には図6および7に記載されている。一般に、電気泳動法タグは高度の静電荷を有し、微生物1種に付き1つまたは複数のタグを使用できる。電気泳動法タグは、一般に「サンドイッチ」構成で利用され、U.S.S.N.10/888,828において記載され、インジケータ構成要素、リンカー、静電構成要素などを含むがそれらに限定されない構成要素から構成されてよい。
それに微生物が取り出される電極表面が、それに微生物が結合する捕捉剤を有する場合は、微生物が表面上で濃縮された後に電極を切り替えることができ、微生物はその場所にとどまる。捕捉剤(本明細書では、ときどき「捕捉リガンド」、「捕捉プローブ」もしくは「捕捉剤」)は、後により詳細に記載するように、一般に広範囲の微生物に対して(例えば、一般的静電性もしくは疎水性相互作用によって)「粘着性」であってよい、または、菌株特異的である抗体の使用などによって、狭い範囲の微生物特異性に対して特異的であってよい。捕捉剤は、本明細書では、「プローブ」とも呼ばれる。しかし時には、電極は、微生物を一時的に濃縮するためにそれに微生物が結合しない非結合表面と結び付けることができ、それに微生物が取り出されるそのような電極もまたプローブ電極と呼ぶことができる。
図4Aは、単一プローブ電極200がアレイ180に配置される複数のプローブ位置170の下にあるバイオ検出セルの斜視図である。セルの壁は図の中に配置されておらず、一般には水密性シールを形成するためにガスケット材料を含む。参照電極190は、好ましくはプローブ電極200の上方に物理的に配置され、プローブ電極200とは大まかには類似のサイズであるので、2つの電極間の電界は実質的に一様である。しかし参照電極200が、類似もしくはそれより低い一様性さえ可能にする様々な形状および位置を有することも本発明の精神の範囲内に含まれる。一般に、電極は任意で大まかには相互に平行であるので、発生させられる電界は大まかにはプローブ電極200の表面に垂直であり、プローブ位置170上への微生物の均一な沈着を発生させる。
このプローブ電極200およびプローブ位置170の配列は、スポッティング、プリンティングなどを含むがそれらに限定されない既知の技術を用いて電極表面上にプローブを配置する標準方法を可能にする。さらに、微生物とプローブとの結び付けは、先行技術を用いて実施されるような連続的ではなく、相違するプローブ位置全部で並行して実施することができる。
また別の配列は、電極がプローブ位置170の下にないバイオ検出セルの斜視図である図4Bに示されている。この場合には、プローブは、アレイ180内に配列されたプローブ位置170に配置されている。第1電極210および第2電極220はアレイ180の側方にあり、この図面ではP、Q、およびRと表示された部分参照電極195のアレイの下方に置かれている。部分参照電極195の数およびタイプは変動してよく、第1電極210、第2電極220、および部分参照電極195を配置する目的は、電極の相対電圧を調整することによって電界の強度およびトポロジーを管理することである。例えば、負バイアスで第2電極220および部分参照電極195 P、QおよびRを、そして相当に正バイアスで第1電極210を配置すると、アレイ180の表面を横断するおおむね水平の電界を引き起こす。複数の部分参照電極195に対する必要は、大きな電極を横断する電界を維持することを困難にする、大きな連続式電極を用いて発生する電界の「短絡」のためである。
図5は、第1電極210、第2電極220、および1セットの部分参照電極195からの電界の強さの図である。第2電極220および部分参照電極195は負バイアスを有し、第1電極210は相当に正バイアスを有する。明らかなように、アレイ180の場所での電界の垂直構成要素は、下流構成要素と比較的に変わらない。相違する電極での電圧バイアスの相対的強度を調整することによって、様々な相違する電界トポロジーは、以下で記載する目的のために配列できる。
電気泳動用のバッファおよびメディエータ
1つの実施形態では、本発明の方法は、低電圧電気泳動法および特別に選択されたレドックスメディエータを利用する。レドックスメディエータの使用は、有意な電界および1V(ボルト)未満の印加電圧の電流の生成、多くの高電圧用途において有用性が限定される電極材料の使用、消耗を回避するレドックス系の一般的リサイクリングに起因する「閉鎖型システム」を使用する能力、検出表面のための広範囲の表面化学的性質を使用する能力、ならびに低電力要件を含むがそれらに限定されない様々な長所を有する。1つの態様では、レドックスメディエータは、荷電分析物(例、微生物)上の電気泳動作用を制限するための純中性分子である。
低電圧電気泳動法による輸送は、それら自体の電気化学的もしくは他の物理的特性により限定される材料の使用を可能にする。例えば、インジウムスズ酸化物(ITO)は、高度に導電性かつ高度に透明性の両方であることが知られている数少ない物質の1つであるので、多用される市販物質である。電気泳動法用途におけるインジウムスズ酸化物の使用は、物質が、標準水素電極に比較して1Vを超える電位で黒色の非透明物質内への電気化学的遷移を受けるという事実によって制限されてきた。結果として、水の加水分解に基づくシステム内でのITOの適用は、一般に実現不可能である。しかし、レドックスメディエータおよび臨界的降伏電位未満の印加電位を使用することによって、ITO電極を用いて重大な電流および電界を生成できる。
さらに、標準レドックスプロセスの副産物は、水が塩素アニオンの存在下で加水分解される場合に反応性次亜塩素酸塩アニオン(漂白剤)などの毒性物質の形成を含む電極の近傍での極めて過酷な条件を引き起こすことがある。これとは対照的に、消費されたレドックスメディエータは、ガスまたは他の反応性種などの副産物を生成せずに再生される。結果として、本システムはより厳密に制御され、メディエータ自体が当該の分析物に対して非反応性であることを前提に有用である。
一部の場合には、レドックス剤は細胞および細胞性生物にとって毒性であることがある。例えば、ベンゾキノン系は2つの主要機序によって毒性であることが知られている。レドックスサイクリングによる酸素活性化および必須高分子のアルキル化。メディエータの毒性は、細胞および細胞性生物の曝露を限定すること、不浸透性メディエータ誘導体の開発、低い標準レドックス電位および/または反応性を備えるレドックスメディエータを利用することによって軽減できる。
細胞および細胞性生物の場合には、酸化剤の標準レドックス電位は大まかに毒性と相関している。ベンゾキノンの場合における標準レドックス電位の修飾は、アルキル(例、メチルもしくはtert−ブチル)またはヒドロキシル基などの電子付与基をコア環構造へ付加することによって遂行できる。
ベンゾキノンなどの毒性酸化剤は、非対称性メディエータ系内の非毒性レドックス剤と置換することもできる。例えば、ヒドロキノンの還元と結び付いた水を酸化するためのセル電位は、1Vよりはるかに低く、低電圧電気泳動法において有用である。非対称性メディエータ法は、ベンゾキノンと関連する毒性問題に関するまた別の経路を提供する。ジチオスレイトール(DTT)などの還元剤もしくは他の適切なクエンチ剤は、ヒドロキノンの酸化から形成されているのでベンゾキノンを化学的にクエンチして非毒性ヒドロキノン形に酸化するために使用でき、そしてDTTの酸化形は、水の代わりに酸化剤として機能できる。一般に、溶液中のDTTなどの還元剤の使用は微生物を強力な酸化剤の損傷作用から保護する還元性環境を維持し、そしてそれらは好ましくはレドックス系の構成成分に対して過剰に、およびより好ましくはレドックス系の構成成分に対して2倍以上過剰で存在する。例えば、レドックス系が還元剤としての10mMのヒドロキノンおよび酸化剤としての水を含む場合は、DTTが20mM以上の量で存在するのが好ましい。非対称性レドックスメディエータ系は、カテコール系還元剤と結び付けて使用されるキノキサリン酸化剤の場合のように複数のレドックス剤もまた含むことができる。
メディエータの毒性は、電気泳動時間の量またはメディエータ溶液中の時間を最小限に抑え、次にレドックス溶液を非毒性媒質と迅速に交換することによってさらにまた緩和できる。メディエータへの細胞もしくは細胞性生物への曝露もまた、流体流動の使用により限定できる。例えば、層流環境は、以下に例示するように非毒性ヒドロキノン(HQ)還元剤内に限定した細胞もしくは細胞性生物からカソードへのベンゾキノン(BQ)のような毒性酸化剤を離して限定する機会を与える。
負荷電セルがチャンバを(右から左へ)通過するにつれて、HQおよびBQは各電極で還元および酸化されて電界を生成するが、他方セルはベンゾキノンバルク溶液からアノードに向かって駆動させられる。HQ+細胞溶液は、還元剤(すなわち、DTT)またはHQの電気化学的還元の結果として生じるアノードで形成されるBQをクエンチするように設計された他の試薬もまた含有していてよい。
メディエータの物理的サイズならびに他の物理的特性に基づいて微生物が非透過性であるレドックスメディエータを生成するために使用できる方法は多数ある。これらの戦略は、細胞膜を通るメディエータの通過および生物もしくは細胞吸引および/または他の重要な分子との反応による細胞内干渉の結果として毒性が生じる場合において重要である。ポリエチレングリコールなどの分子バックボーン上のベンゾキノンの短鎖オリゴマーまたはメディエータのポリマー形さえ、細胞内損傷を防止する。さらに、tert−ブチルなどの大きな立体基もしくは他のアルカン基もまた、酸化/反応性損傷もしくは細胞内透過を防止するための立体障害を提供することができる。レドックスメディエータの両性イオン性もしくは荷電バージョンもまた、細胞内移動を防止するために利用できる。その他の戦略には、酸化バージョンが不溶性で沈殿剤を形成する還元剤メディエータの設計が含まれる。
したがって、本発明は、生育性細胞の電気泳動法による輸送において使用するためのレドックスメディエータのセットを提供する。そのような試薬の例は、ベンゾキノン/ヒドロキノン系である。この場合には、ヒドロキノンはアノードでベンゾキノンへ酸化され、ベンゾキノンはカソードでヒドロキノンへ還元される。これらの反応は電極で相補的である(すなわち、逆電位を有する)ので、細胞電位は電極での標準電位における差よりむしろ濃度における差だけに起因し、したがって電気泳動法によるレドックス反応は2つの電極間の相当に低い電位で発生する。さらに、2つの種は荷電されないので、レドックス剤が溶液の導電性を有意に増加させることはなく、したがって電気泳動法による輸送のために荷電分子(例、DNA)または物質(例、細菌)と競合しない。
上述したレドックススキームは、閉鎖型または開放型システムのどちらについても作動することができる。本明細書に参照して組み込まれるU.S.S.N.10/888,828の図14および対応する本文を参照されたい。閉鎖型システムは環境から閉鎖され、電気泳動法はレドックス試薬を補給せずに無期限に継続することができる。これは、生物学的サンプルの封じ込めを含む多数の理由のために有益である。開放型システムは、可逆性レドックス試薬、または補給のいずれでも実行することができる。すなわち、相互に再生させない2対の試薬があってよい(ベンゾキノンおよびヒドロキノンにおけるように直接的に、または以下で記載するように、レドックス生成物の相互のクエンチングのいずれかによって)。そこで、この開放型システムでは、電気泳動法を維持するために、反応剤は持続的に補給されなければならないが、これは一般には電極間の空間内の電気泳動用バッファ中への新しい反応剤の流れを維持することによって遂行される。
利用可能な電荷キャリア(非関連性電解質、レドックスメディエータ、または輸送すべき荷電分子もしくは物質であってよい)の量に依存して、電気泳動力、およびこのため分子もしくは物質を輸送できる速度はレドックスメディエータの拡散速度に制限することができる。この拡散速度は、カソードとアノードとの距離を小さくすることによって有意に向上させることができる−この距離は500μ(ミクロン)以下であるのが好ましく、この距離は250μ以下であるのがより好ましく、そしてこの距離は100μ以下であるのがさらにより好ましい。
本発明の範囲内で作動できる極めて多数のレドックス対がある。上述のように、ベンゾキノンおよびヒドロキノンはこれに良好に適合し、好ましくは1mMを超える濃度で使用され、より好ましくは10mMを超える濃度で使用され、および最も便宜的には30mMを超える濃度で使用される。ベンゾキノンおよびヒドロキノンの使用はそれらの限定された溶解性によってある程度限定されるので、それらの溶解性を増加させるためには、より極性もしくは荷電誘導体を便宜的に使用することができるが、そのような誘導体には炭素に結合していない環状炭素をハロゲン、硝酸塩、ヒドロキシル、チオール、カルボキシレート、およびアミン、並びに他のそのような部分との置換が含まれることに留意されたい。結果として生じるレドックス剤のための系は非電荷(以下で示すものを除く)であるのが最適であり、それらの分布は本システムの電気泳動によっては影響を受けないので、正荷電基(例、アミン)との置換は、2−アミノ,5−カルボキシパラベンゾキノンにおけるなどの負荷電基(例、カルボキシレート)との第2置換によって平衡が取られることに留意されたい。そのような誘導体化ベンゾキノンおよびヒドロキノンの場合には、レドックス剤の濃度は、便宜的に増加させることができる。
その他の類似のレドックス対には、ケトン/アルコールおよびアルデヒド/アルコール対が含まれるが、それらのケトンカルボニル基はアルキルもしくはアリール基によってフランキングすることができ、それらの基はさらにハロゲン、硝酸塩、ヒドロキシル、チオール、カルボキシレートを用いて;分子状の電荷を修飾する、またはその溶解性を増加させるためにはアミノ及びその他の基誘導体化できる。また別の便宜的系は、ジチオトレイトール/ジチオエリトリトールおよびそれらの酸化形(これは還元形の溶液の、例えば過酸化水素による、または末端チオール基を備えるアルカン(例、1,5−ジチオブタン)による部分酸化によって形成できる)の系である。一般に、個別分子(例、βメルカプトエタノールにおけるように)とは反対に同一分子上に2つのチオール基が存在する(ジチオトレイトールにおけるように)のが好ましいので、酸化反応は、濃度に対して相当に低感受性である単分子反応である(だがβメルカプトエタノールなどの単一チオールは多数の用途のための容認できる還元剤である)。
上記のレドックス対は、両方のレドックス対上の電荷が同一で好ましくは中性であるような方法で、対の電子で酸化および還元されることに留意されたい。しかし対の電子が移動できる要件は、反応速度を減少させるので、そこで1つの電子がレドックス反応において移動させられる対を使用することもまた便宜的な場合がある。そのような対の例には、フェロセン/フェロシニウム(ferrocinium)およびそれらの誘導体、ならびにフェロシアニド/フェリシアニドが含まれる。そのような場合には還元生成物が中性に荷電する、および負に荷電した分子もしくは物質が輸送される場合には酸化生成物が正に荷電する対を使用するのが好ましい。これの理由は、酸化生成物は負に荷電した輸送される分子の輸送へ反対荷電を供給し、そして還元生成物は荷電されないので、負に荷電した輸送される分子の輸送と競合しないことにある。
この系のまた別の構成は、以下におけるなどの、レドックス反応の生成物が相互にクエンチする構成である。
この反応の生成物は、2S2O3 -2+I2→S4O6 -2+2Iにしたがって特発性で相互に反応し、出発状態を再生する。ヨウ化物もしくは他のハロゲン化物の使用は便宜的であるが、それはヨウ化物は電気泳動法によりアノードへ移動し、結果として生じるヨウ素は中性荷電し、浸透作用を通して他の電極へ移動することができ、そこで最初の形を再生するためにチオ硫酸塩と接触するからである。
レドックス対がそれらの各反応中に相互に再生しない、リサイクルを行わない開ループシステムでは、レドックス剤の範囲はより広く、便宜的にも、グルタチオン、アスコルビン酸塩、メチルビオロゲン、フェナジンメトサルフェート、トロロックス、およびそれらのレドックス対(グルタチオンについてはGSSGおよびアスコルビン酸塩についてはデヒドロアスコルビン酸塩、メチルビオロゲンについては酸化メチルビオロゲンなど)を含むその他を含む化合物を含む。この場合には、分子の荷電は、反応剤がそれがレドックス反応に関与する電極に向かって引き付けられる荷電であるのが便宜的なことがある(すなわち、アノードで酸化される反応剤は負に荷電され、カソードで還元される反応剤は正に荷電されるはずである)。これは、一般には分子を1つまたは複数の適切に荷電した部分で誘導体化することによって遂行できる。これの主要な欠点は負に荷電したレドックス剤が、反応速度は増大させるが負に荷電した輸送分子と競合する可能性もあり、レドックス反応剤の量が増加すると輸送分子の全輸送を減少させる可能性さえあることである。そこで、負に荷電したレドックス試薬は実験を通して注意を払って総合的な有害作用を有していないことを確認する必要がある。
しかしレドックス対の小分子は、それらの高拡散率のために、電気泳動法によって中等度にしか影響を受けず、そしてカソードとアノードとの間に一般に存在する短い間隔にわたって、電極の上方で適度の勾配を示すことに留意されたい(2〜3倍に過ぎないことが多く、一般には10倍未満)。この場合には、一方または両方のレドックス剤が中性または正に荷電していることが有用なことがある。両方のレドックス剤が正に荷電している場合は、正に荷電しているアノードで反応する物質がアノードでのより低い局所濃度を補償するためにより大きな全体的モル濃度であるのが好ましい。微生物がレドックス剤の存在下で輸送される場合には、上述したレドックス剤の一部は微生物に対する毒性を有する可能性があることに留意することが重要である。生きている生物のその後の増殖または監視が望ましい場合には、これは重大な問題となることがある。その理由から、微生物がその物質に曝露させられる期間を制限するために低濃度の毒性レドックス試薬(一般には酸化剤)を使用する、またはその物質のレドックス特性がたとえ余り望ましくない場合でさえ低毒性の物質を使用することが有用である。さらに、毒性レドックス剤に曝露させられている細菌は、中和作用剤へ曝露させた後に処置することができる。例えば、毒性レドックス剤が酸化剤である場合は、βメルカプトエタノールまたはジチオトレイトールなどの還元剤の添加は酸化剤作用を減少させることができる。レドックス剤を使用する目的の1つは、有害なレドックス生成物(例えば、塩化物からの塩素生成物)の産生を最小限に抑えるため、そしてさらに高電位によって傷つけられる可能性があるITO電極を用いて最適検出を発生させることができるように、電気泳動を低電位で発生させることであることに留意されたい。そこで、この用途のために選択されるレドックス対のセル電位は、好ましくは2V(ITOが影響を受け始める電位)未満、より好ましくは1V未満、および最も好ましくは500mV未満であるが、それは電気泳動が発生する最低電位(すなわち、500mV)と終点(すなわち、2V)との間の電位範囲は電気泳動の速度に関する制御の尺度を提供するからである。レドックス剤の標準セル電位がこれらの範囲外にある場合においてさえ、相違する濃度の酸化剤および還元剤の使用は有用な作動を可能にするセル電位を提供できる。
レドックスメディエータの一般的優先事項は、1)それらが一般には1mM超の濃度およびより好ましくは10mM超の濃度で水溶性である、2)それらがおおよそpH5〜pH9の間のpHで非荷電である、3)それらが微生物に対して相当に低毒性を有する、ことである。優先事項の一部または全部をある程度満たす一部のレドックスメディエータには、下記が含まれる。
微生物の電荷の操作
微生物の有効電荷もまた操作できる。極めて多数の細菌についての、一般にpH3〜pH8の範囲に及ぶ等電点は科学文献において特性付けられて報告され、医学的に関心対象である大多数の微生物は負に荷電している(すなわち、負のζ電位)。一般に、微生物の移動度は、電気泳動用バッファのpHを増加させることによって増加させることができ、これは酸性基を脱プロトン化する傾向があり、より負に荷電した微生物が残される。さらに、細胞もしくは細胞性生物上の荷電基の数は、アニオン性もしくはカチオン性試薬(すなわち、NHSエステルを含有するカルボキシル)の化学結合を用いて変化させることができる。カチオン性もしくはアニオン性ポリマー試薬(すなわち、ポリエチレンイミンもしくはポリ−L−リシン)もまた細胞もしくは細胞性生物上に物理的に吸収されることがある。金属キレート剤の使用もまた、それらの有効移動度を減少させる細胞もしくは細胞性生物へ緊密に結合した対イオンの層を得るために競合する多価イオンを吸収するために使用できる。微生物の表面へのアニオン性もしくはカチオン物質の物理的もしくは化学的結合の使用は、同定剤もしくは捕捉剤(例、抗体)が微生物に対するそれらの親和性および特異性を維持することを補償するために注意を払って実施しなければならないことに留意されたい。
誘電泳動法
1つの実施形態では、濃縮法は誘電泳動法である。誘電泳動法は、分析物の分極化および非対称静電界の作成に基づいている。これらの方法は、一般には、一様ではない電界もしくは電気泳動場を作成できるように二次元もしくは三次元のいずれかで成形されている電極の使用を必要とする。これらの電気泳動電極の使用についての説明は、G.H.Markx and R.Pethig,Dielectrophoretic Separation of Cells:Continuous Separation.Biotechnol.Bioeng.45,337−343(1995)およびG.H.Markx,Y.Huang,X.−F.Zhou and R.Pethig,Dielectrophoretic characterization and separation of micro−organisms,Microbiology,140,585−591(1994)に提示されている。
遠心分離および濾過
1つの実施形態では、濃縮方法は遠心分離または濾過のいずれかであり、一般にはその後に少量の流体中への微生物の再懸濁が行なわれる。さらに、遠心分離には凝集化、沈殿もしくは共沈剤の添加が付随してよく、そしてそのような方法は、それらが極めて小数の微生物の取り扱いを許容し、そして微生物の凝集を防止する点で奨励される。しかしこれらの場合のいずれかでは、特には微生物の特性に類似する特性(サイズもしくは密度)を備える粒子を残す物質が添加されないことが時には好ましい(例、ポリマービーズの使用)。
遠心分離および/または濾過はどちらも、バイオセンサへのサンプルの導入前に、または導入工程の一部としてのいずれかで実施できる。例えば、サンプルは、遠心分離もしくは濾過し、再懸濁させ、そしてバイオセンサへ加えることができる。または、バイオセンサは、サンプルがバイオセンサカートリッジ内のリザーバへ添加され、微生物をバイオセンサの表面(例えば、前濃縮もしくは検出表面のいずれか)へ押し下げるために器具全体が遠心させられるように、構成することができる。本明細書に参照して本明細書に組み込まれるU.S.S.N.10/888,828の図39および40の器具、ならびに方法および構造を記載している添付の本文を特に参照されたい。
電気泳動用積層電極および集じん電極
本発明によるまた別の方法は、界面動電的濃縮の使用である。1つのそのようなアプローチでは、濃縮は、一方の液体が他方の液体のイオン強度よりはるかに低いイオン強度を有する、相互に接触している2つの液体カラム間の境界で発生する。そのような積層または不連続バッファ系は、キャピラリー電気泳動を含む電気泳動の実験室分野において周知である。本発明は、弱い、または強い形状のいずれかの不連続バッファ濃縮へ適用するために明確に配置される。
また別のそのようなアプローチでは、導電性電極は、例えば分析バイオセンサ領域への副室内の非結合ゾーンの下方に配置される。分析物濃縮の時点に、この集じん電極は、反対極性を有する分析物を引き付けるプログラムされた電圧を受け入れる。電極の上方の表面は、Accelr8 Technology Corporationによって製造された不活性化OptiChem(登録商標)などの非結合性、非吸着性物質でコーティングされている。この電界は、電極物質の離散的領域上で分析物を濃縮するために役立つ。完了後、電位を停止または逆転させると、その後の加工処理のために微生物が放出される。
微生物の磁気濃縮
1つの実施形態では、濃縮法は磁場捕捉法である。この実施形態では、電気泳動タグに類似して、磁気タグが利用される。そのような粒子の例には、Bangs Laboratories(インディアナ州フィッシャーズ、およびDynal社(ノルウェー国)からのDynabeadsが含まれる。U.S.S.N.10/888,828に記載されているように、これらの常磁性粒子は、好ましくは径が1μ未満、より好ましくは径が250nm未満、および最も好ましくは径が100nm未満である;一般には、粒子が小さいほど、それが微生物の検出表面への拡散を妨害することが少なくなる。電極の代わりに、検出表面の上方または下方いずれかへの永久磁石または電磁石の配置は濃縮を可能にする。これらの磁石は、「オンチップ」または「オフチップ」のいずれであってもよい;すなわち、それらは例えば検出表面とは反対の表面上に配置されたバイオセンサカートリッジの一部であってよい、または操作もしくは検出のためにその中にバイオセンサが配置される器具の一部であってよい。単一磁気ドメインのサイズに匹敵するサイズの小さな磁気粒子の磁性流体(ferrofluid)および懸濁液を含むがそれらに限定されない磁気粒子は、標的の正味磁化を増加させて濃縮を促進するために標的に結合させることができる。さらに、細胞性性質の標的生物の場合には、磁気粒子は、生物から外への透過速度とは反対に生物内へのより高速の透過速度を有するように設計できる。さらに、磁気粒子は、標的生物内に非可逆的に含有されるように設計できる。最も好ましくは、磁気粒子は超常磁性であり、単一磁気ドメインに匹敵するサイズである。
再循環
1つの実施形態では、濃縮法は再循環法である。すなわち、閉鎖型システム内では、一般に1つまたは複数の検出表面を含有する1つまたは複数のチャネルは、チャネルに通して検出表面を通過させてバルクサンプルを再循環させると、高濃度の微生物が検出表面で濃縮されることを生じさせる。一般に、これらの技術は、バルク流体を一方向に流動させるために、ポンプ(オンチップまたはオフチップのいずれか)またはミキサ、および任意でダックビル値もしくはディファレンシャル流体弁などの弁の使用に基づくバルクフロー法を利用する。これは、一般には、微生物が表面に沿って分布することを可能にし、さらに複数の潜在的結合の領域が存在する場所で微生物のより大きな分画が結合することを可能にできる。これらの領域がサンプル内の相違する種の微生物に対して相違する特異性を有する場合は、これは微生物が適合する特異性を備える領域に接触するまで領域から領域へ移動することを可能にさせる。
サンプルアリコートの作製およびダイナミックレンジ
サンプル中の微生物数は多数の桁範囲に及ぶ可能性があるが、微生物を捕捉し、増殖させ、そして同定するための方法および器具のダイナミックレンジは、はるかに小さなダイナミックレンジを有していてよいことに留意されたい。サンプルが低濃度である場合は、好ましくはその後の分析において全サンプルが使用される。しかし、直接適用が器具もしくは方法のダイナミックレンジを満たすようにサンプルが濃縮される場合は、サンプルは適用前に希釈される必要がある。
サンプル中の微生物の濃度を決定するためには、多数の様々な方法を利用できる。例えば、光線の吸収は、溶液中の微生物濃度の指標である。または、上記の方法にしたがって表面上で生物が濃縮されると、表面は、光学系およびカメラを用いて画像描出することができ、視野が微生物の存在について分析される(例えば、国立衛生研究所からのImageJ画像分析ツールセット、IMAQ画像分析ツールセット、または必要に応じて他の商業的もしくは専売的ツールによって)。同様に、表面上の微生物は走査型レーザーシステムを用いてスキャンすることができ、光散乱を使用すると微生物の存在を指示することができる。さらに、微生物は、吸収性もしくは蛍光色素を用いて処置することができ、吸収もしくは蛍光の総量を使用すると、表面上の微生物数の大まかな推定値を提供できる。微生物の数はこの段階では余り正確に定量する必要はなく、本システムに微生物の正確な数を送信するためには、2〜3倍の係数以内で微生物数を入手するのが一般に適正である。特定分画の微生物の選択は、極めて多数の様々な方法で実施できる。その最も単純な形態では、サンプルを手作業で引出し、可能であれば希釈し、システムの次の部分へアリコートを手作業で配置できる。好ましくは、サンプルの選択は自動手段を通して行なわれる。例えば、マイクロ流体デバイスでは、可能であれば清潔なバッファを用いた希釈により、サンプルの測定量を使用できる。
水平荷重および水平流動
本明細書に記載の濃縮方法に加えて、微生物の動態または検出表面への全結合を増加させるために使用できる様々な水平荷重および水平流動数がある。水平荷重などの混合を提供する方法には、セル内での媒質の物理的混合(例えば、物理的攪拌機構、ポンプ、電気浸透流、表面波音響学、及びその他の手段)、微生物上への水平電気泳動力の使用、微生物上への磁力の使用、及びその他の便宜的手段が含まれる。特に混合についての構成は、参照して本明細書に全体として組み込まれるU.S.S.N.10/888,828、特には図18および19に記載されている。溶液(例えば、電気浸透、攪拌、ポンプ、および表面波音響学)のバルク流れを含むそれらの力は、特に容易に実行できる。垂直力は、電気泳動、誘電泳動、濾過、磁場誘引、および検出表面の近傍内に微生物を持ち込めるようなその他の力を含むことができる。
「垂直」および「水平」の使用は、電極の表面に関連して使用され、重力、上/下または他の座標スキームとは関連していないことに留意されたい。図の方向付けを前提にすると、水平はこの状況においては電極(または一般的には、その上にプローブが存在する表面)に対して平行であると理解でき、垂直はこの状況においては電極に垂直であると理解できる。とりわけ、電気泳動力、電気浸透、音響波、機械的攪拌、および流体ポンプ送達が含まれる。例えば、図*4Bでは、側方電極210および220は、微生物に水平荷重を適用するために使用できる。そのような場合には、垂直電界の大きさは、電極210および220からの水平電界の大きさに関連させて、参照電極195上の電位によって調整できる。
微生物が検出表面の上方で前後に移動するように、水平荷重の方向を切り替えることもまた本発明の精神の範囲内に含まれる。そのような場合には、微生物は表面と相互作用する複数の可能性を有し、それによってその結合を増加させる。さらに、結合量を増加させるために、水平移動の速度を減少させることができる、または垂直移動の速度を増加させることができる。
音響波に関して、圧電アクチュエータは、基質120の上または位相幾何学的配置にあるカバー111上のどちらかに配置できるので、高周波制御信号下で、ガラス内の表面音響波はその中に微生物が懸濁している流体の大量輸送を引き起こす。そのような場合には、基質120の表面を横断する一定層流を維持するセル内で対流電流が作り出される。圧電信号の制御を交替させることによって、乱流混合の期間は、層流の期間と交替させることができる。
表面120を横断する層流を作り出すためには、機械的または電気浸透ポンプ送達もまた使用できる。より大きな容積にとっては機械的ポンプ送達が便宜的であるが、電気浸透ポンプ送達を使用すると極度に小さな容積の場合にさえ役立つことができる。そのような場合には、電気浸透表面は、基質120内、またはより便宜的にはカバー111内に組み込むことができるが、これは基質120がしばしば主としてプローブ116に結合して、電気浸透力を作製するためには余り有効ではない表面である可能性がある非特異的結合の量を減少させるために使用されるカスタム表面によって被覆されるからである。
微生物の捕捉
本明細書において考察するように、本発明の表面上で微生物を捕捉するためには様々な方法がある。一般に、これらは2つのカテゴリーに分類される。特異的および非特異的捕捉。この状況における「捕捉」は、微生物が、アッセイ条件下で有意に移動しない、または分離しないように検出表面と結び付けられることを意味する。例えば、この結び付きは、一般には、表面から微生物を除去せずに洗浄工程を許容するのに十分な強度である。一般に、捕捉は静電相互作用、水素結合、疎水性などの非共有結合力に基づいているが、一部の場合には、共有結合(例えば、架橋結合を含む)を実施できる。活性化架橋結合は、熱、光誘導手段によって達成できる。
洗浄は、望ましい物質と望ましくない物質との間の結合エネルギーにおける差に依存する。当分野における医師は、例として流体力学的流動および界面動電現象を用いて結合エネルギー差を容易に測定できる。各タイプの物質についてそのような結合エネルギー曲線を構成することによって、単一分別(differential)洗浄モードまたはそのようなモードの組み合わせのいずれかを最適化することが可能である。
微生物の非特異的捕捉
一般に、検出表面上(または前濃縮表面上)で微生物を非特異的に捕捉するために使用できる、既知の技術を含む様々な技術が存在する。上述のように、これらの技術は一般に、単独または組み合わせてのいずれかで使用できる水素結合、静電性および疎水性相互作用に基づいている。
微生物および/または生物学的分子のどちらかまたは両方へ「粘着性」である多数の既知の物質が存在する。これらには、ポリイオン性表面、特には微生物がポリアミノ酸(例、ポリリシン)、およびフィブロネクチンを含む全体的負の電荷を有する場合にはポリカチオン性表面を含むがそれらに限定されない任意の数の生物学的分子およびポリマーが含まれる。さらに、当分野においては、数種の細菌が所定の分子へ選択的に結合することは周知である。例えば、大腸菌(Escherichia coli)がマンノース表面へ選択的に結合することは周知である。ストレプトコッカス属およびスタフィロコッカス属微生物は、プロテインA機序を通して抗体のFc部分に結合する。これらの受容体リガンドは、表面上に細菌を固定化するために利用できる。ポリスチレンなどの高疎水性表面は、一般に微生物へ「粘着性」であるので、したがって使用できる。
対象となる1つのポリマー表面は、高度に多孔性であり、一般にその多孔性のために微生物の電気泳動のために必要とされるレドックスメディエータの拡散および電極との相互作用を支持する、1クラスの「ヒドロゲル」表面(Amersham社製のCodeLinkも含む)のメンバーである、U.S.S.N.2003/0022216に記載されたOptiChem(商標)である。これは、ジエチレントリアミン(静電相互作用を強化するために有用)、ならびにTrisおよびエタノールアミン(水素結合を強化するために有用)を含む、非特異的接着を強化するために特定の基を用いて修飾できる。これは、ベンゼン、ナフタレン、ならびにそれらが便宜的にOptiChemまたは他の類似のヒドロゲルへ連結できるように好ましくはアミンもしくはスルフヒドリルと置換されているそのような部分を含有する化合物を含むことのできる疎水性部分を用いて修飾することもできる。
これらのヒドロゲル表面の重要な特性の1つは、それらの未置換状態では微生物に対する「粘着性」を欠如していることである。これは、例えば、サンプル導入ウエル、バイアスおよびチャネル、さらに濃縮電極などのそれに微生物が結合することが望ましくない電極さえを含む、微生物が結合することが望ましくない領域において本発明の器具の表面をコーティングする際にこれらの表面を特に重要なものにする。
特異的捕捉
一般に、本発明の1つの態様は、検出表面に結合した特異的捕捉結合リガンドを提供する。この場合における「特異性」は、用途、アッセイおよびサンプルに伴って変動する。一部の実施形態では、1パネルの相違するタイプの微生物のための、または1パネルの特定の属、または組み合わせ内の相違する種のためのアッセイを有するのが望ましいことがある。そこで、非特異的捕捉はサンプル内の微生物のほとんどもしくは全部に向けられるが、特異的捕捉は特定微生物に向けられる。例えば、相互に交差反応しない様々な種の大腸菌に対する特異的捕捉リガンドを有するのは望ましい可能性がある。他の場合には、多数もしくは全部の大腸菌株に結合する捕捉リガンド、およびストレプトコッカス属の多数もしくは全部の種もしくは菌株へ結合するまた別の捕捉リガンドを有するのが適切なことがある。これらの組み合わせもまた適切である。
本明細書における「結合リガンド」もしくは「結合種」は、標的微生物に結合する標的微生物の存在について調査するために使用される化合物を意味する。1つの態様では、標識が使用される場合は、1つの標的微生物に付き2つの結合リガンドが使用されてよい;本明細書に記載の検出表面に結合させられる「捕捉」もしくは「アンカー」結合リガンド、および以下で記載するように標的微生物へ独立して結合して標識を含有する可溶性結合リガンド。
一般に、捕捉結合リガンドは、検出のために微生物の検出表面への結合を可能にする。好ましい実施形態では、結合は特異的であり、結合リガンドは結合対の一部である。本明細書での「特異的に結合する」は、特異的微生物と他の微生物、試験サンプルの構成要素もしくは汚染因子とを識別するために十分な特異性で、リガンドが分析物に結合することを意味する。しかし、当業者には明確に理解されるように、高度には特異的でない結合を用いて分析物を検出することも可能である;例えば、本システムは、例えば1アレイの相違するリガンドなどの相違する結合リガンドを使用することができ、任意の特定分析物の検出は、「電子の鼻(electronic nose)」が機能する方法に類似して、1パネルの結合リガンドへの「結合の署名」による。結合は、非特異的結合を除去するための洗浄工程を含む、アッセイ条件下で分析物が結合したままとなることを許容するために十分でなければならない。一部の実施形態では、例えば所定の生体分子の検出においては、結合リガンドへの分析物の結合定数は、少なくとも約10-4〜10-6M-1、好ましくは少なくとも約10-5〜109、および特に好ましくは少なくとも約10-7〜10-9M-1である。本発明においては、分析物間の相互作用の大数、微生物およびリガンドのサイズのために、より小数の結合リガンドを利用できることに留意されたい。
当業者には明確に理解されるように、結合リガンドの組成は変動してよい。極めて広範囲の分析物に対する結合リガンドは既知の、または既知の技術を用いて容易に見いだすことができる。1つの実施形態では、細胞表面タンパク質に対する抗体、脂質または炭水化物が有用である。用語「抗体」には、当分野において知られるように、全抗体の修飾によって生成される、または組換えDNA技術を用いて新規に合成される、Fab、Fab2、一本鎖抗体(例えば、Fv)、キメラ抗体などを含む抗体フラグメントが含まれる。用語「抗体」は、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体をさらに含むが、これらはアゴニストもしくはアンタゴニスト抗体、変異体抗体およびペグ化などの任意の数の化学部分によって誘導体化された抗体であってよい。感染性微生物に対する市販で入手できる多数の抗体があるが、一般には、特にAccurate Chemical社、Biodesign社、Fitzgerald社、KPL社、US Biological社、Virostat社、QED社、Novus Biologicals社、Cortex社およびAbcam社によって販売されている抗体を参照されたい。
または、一般に本明細書に参照して組み込まれる米国特許第5,270,163号、第5,475,096号、第5,567,588号、第5,595,877号、第5,637,459号、第5,683,867号、第5,705,337号、および関連特許に記載されているように、微生物上の表面部分を含む実質的に任意の標的分析物へ結合させるためには核酸「アプタマー」を開発することができる。
追加の態様では、結合リガンドタンパク質にはペプチドが含まれる。例えば、微生物上の標的が酵素である場合は、適切な結合リガンドには、基質、阻害剤、および酵素に結合する他のタンパク質、すなわち多酵素(もしくはタンパク質)複合体の構成成分が含まれる。当業者には明確に理解されるように、好ましくは特異的に結び付く任意の2つの分子は、分析物または結合リガンドのどちらかとして使用できる。適切な分析物/結合リガンド対には、抗体/抗原、受容体/リガンド、タンパク質/核酸;核酸/核酸、酵素/基質および/または阻害剤、炭水化物(糖タンパク質および糖脂質を含む)/レクチン、炭水化物および他の結合パートナー、タンパク質/タンパク質;およびタンパク質/小分子が含まれるがそれらに限定されない。これらは野生型または誘導体配列であってよい。好ましい実施形態では、結合リガンドは多重結合することが知られている細胞表面受容体の部分(特には細胞外部分)である。同様に、コンビナトリアル化学方法に基づいて結合パートナーの開発に関連する大量の文献がある。
捕捉リガンドは、一般には、以下で記載するような、直鎖状および分枝状ポリマーの両方、またはアルキル鎖などのより直鎖状のリンカーを含む、ポリマー物質であってよい結合リンカーを通して検出表面へ結合させられる。結合リンカーへ捕捉結合リガンドを結合させる方法は、一般には当分野において既知のように実施され、結合リンカーおよび捕捉結合リガンドの両方の組成に左右される。一般に、捕捉結合リガンドは、各々が次に結合のために使用できる官能基を使用して結合リンカーへ結合させられる。結合のために好ましい官能基は、アミノ基、カルボキシ基、オキソ基、チオール基、アジ化アリール基、アルコール基、アミン基、エポキシ基、n−ヒドロキシ−スクシンイミド基、ビオチン基、アビジン基、およびチオール基である。次に、これらの官能基は、直接的、またはリンカーを使用して間接的のいずれかで結合させることができる。リンカーは、当分野において周知である;例えば、ホモもしくはヘテロ二官能リンカーは同様に周知である(参照して本明細書に組み込まれる1994 Pierce Chemical Company catalog,technical section on cross−linkers,pages 1550200を参照)。さらに、これらの同一方法は、以下で記載するように検出のために標識を可溶性結合リガンドへ添加するために使用できることも留意されたい。さらに、当分野においては、数種の細菌が所定の分子へ選択的に結合することは周知である。例えば、大腸菌がマンノース表面へ選択的に結合することは周知である。ストレプトコッカス属およびスタフィロコッカス属微生物は、プロテインGまたはプロテインA機序各々を通して抗体のFc部分に結合する。さらに、他のタイプの細菌は、特異的多糖類もしくはタンパク質などの好ましい結合基質を有する線毛上のアドヘシンなどの結合部位を有することがある。そのような場合には、捕捉は、そのような自然に好ましい結合基質帯を提供することによって発生することがある。
スペーシング
本発明の1つの態様では、表面上の微生物のスペーシングが制御される。バルク溶液から表面へ電気泳動的に輸送される細菌は、電気流体力学的流動のために、表面上で半組織化クラスタを形成する傾向を示す。QMのためには、大多数の細胞は個別離散部位で表面と結合させられるはずである。すなわち、クラスタ化が限定される。これを遂行するためには様々な方法がある。1つの態様では、電気泳動溶液の粘度は、増粘剤を添加することによって増加する。適切な増粘剤には、グリセロール、糖類、およびデキストランなどの多糖類、ならびにポリエチレングリコールなどのポリマーが含まれる。これらの物質は、それらの粘性に依存して、様々な濃度で添加できる;例えば、10〜25%のグリセロールが有用であるが、20%が特別な態様である。一部の場合には、任意で増粘剤および以下に記載する技術と結び付けて、この「クラスタ化」作用を減少させるために他の試薬を添加できる。クラスタ化を減少させるためには、例えば、界面活性剤、アルブミン、カゼインなどのタンパク質、細胞接着の特異的阻害剤、ポリエチレングリコールなどのポリマー物質、およびデキストランを添加できる。
また別の態様では、流体設計および界面動電的電極形状は、有益には表面上の微生物のスペーシングを提供または増強するために使用できる。
さらにまた別の態様では、表面上の微生物のスペーシングは、特異的捕捉リガンドまたは検出表面上の非特異的結合の原因となる構成要素のどちらかの密度を制御することによって実施される。例えば、特異的捕捉リガンドが使用される場合は、表面上のリガンドの濃度は、空間的に離れている別個の部位での個別微生物の結合を可能にする空間密度を許容するように制御される。1つの態様では、分離間隔は、別個の部位で結合した単一微生物が数サイクルの細胞分割を受けることができ、それでもなお隣接領域で結合した他の微生物とは検出可能に別個であるように、数種の微生物の径より大きい。捕捉リガンドの密度は、一部には評価対象の微生物のサイズ、ならびにサンプル中の微生物の濃度に左右される。本明細書において以前に記載のように、捕捉表面に結合させるために本システムに添加される微生物の数は調節することができる。一般に、微生物の数は、微生物間の中心間距離がメジアン値として少なくとも10μ、およびより好ましくは20μ、およびいっそうより好ましくは40μを有するように、捕捉表面のサイズと平衡させなければならない。この距離は、単一創始者からの亜系統微生物番号が16もしくは32になる多数の分割後でさえ、ほとんどのミニコロニー(以下でより詳細に考察するように、本明細書では「クローン」と呼ぶ)は別個のままで重複しない。
一部の場合には、本明細書で記載する所定条件下での電気泳動は、細胞の濃縮および希薄化の領域によって証明されるように、検出表面上の微生物の不均質な分散を生じさせる。これは10mMのベンゾキノンおよび10mMのヒドロキノン、300μのインジウムスズ酸化物(ITO)電極分離、ならびに1.5Vより大きくITOの降伏電圧より低い電位の条件下で観察されている。この現象を制御するために利用できる数種の方法がある。1つの態様では、電気泳動力の強さは、電圧を低下させる、または溶液の導電性を増加させるいずれかによって低下させることができる。例えば、10mMのベンゾキノンおよび10mMのヒドロキノンならびに極めて低い導電性(例、<100mS/cm)の溶液中では、細胞は1.4V未満では余り強度には出現しない。追加の態様では、強度の電気泳動力の期間にはより小さい電気泳動力もしくは電気泳動力がゼロの期間を散らばせることができるが、低電気泳動力の量は、好ましくは最大力の50%未満、より好ましくは最大力の25%未満、および最も好ましくは最大力の10%未満である。一般に、強度の電気泳動力の期間は、細胞が最初に生成する期間より短くなければならず、そのような期間は、好ましくは5秒間以下、およびより好ましくは2秒間以下、および最も好ましくは1秒間以下である。電気泳動力を伴わない期間は、便宜的には細胞の垂直サイズ(すなわち、電極間の間隔)と比較して大きな距離へのイオンの拡散を可能にするために実質的に十分であり、好ましくは100ミリ秒より長く、より好ましくは300ミリ秒より長く、そして最も好ましくは1秒より長い。さらにまた別の態様では、チャンバの壁の同等ではない加熱によって支援される温度伝達の使用、または例えば混合もしくは洗浄のようなチャンバを通しての流体の移動を通して、液体流に細胞を破壊させることが便宜的である。
所定の状況においては、検出表面上に不均等な方法で細菌を分布させることもまた有益な場合がある。例えば、細菌数の範囲が、検出表面上に均等ではない分布を有することによって細菌の一様な分布を伴うシステムの名目範囲より大きな数に及ぶ可能性がある場合には、サンプル中の細菌数が高い場合には相当に小数の細菌の領域を使用できるが、他方サンプル中の細菌数が少ない場合は相対濃度の領域を使用できる。
1つの態様では、これらの技術のいくつかが1つに結合される。例えば、捕捉リガンド密度を制御することができ、増粘剤を使用できる。同様に、増粘剤の存在下で間欠的電気泳動法を使用できる。
洗浄
当業者には明確に理解されるように、本発明の方法中には任意の数の任意の洗浄工程を使用できる。
1つの態様では、洗浄工程は、緩やかに結合した外来物質を除去するために実施され、相違する塩濃度、相違するpH条件、または強力/高圧洗浄の使用を含む他の化学的もしくは物理的処置を含むことができるが、それらに限定されない。これらの洗浄は、結合親和性を増加させる目的でバッファを交換するためにも実施できる。
1つの態様では、洗浄工程は、非特異的結合ならびに特異的結合の両方の、検出表面への標的の結合親和性を識別するために使用される。すなわち、様々な微生物(ならびに汚染因子)が様々な結合親和性で検出表面に結び付く可能性がある。一部の場合には、洗浄工程は、相違する実体間を識別するために使用でき、例えば多数の結合エネルギーに対応する洗浄を使用できる(参照して組み込まれる、U.S.S.N.10/888,828の図9、および対応する凡例および考察を参照されたい)。反応を加速する際に、ならびに特異的および非特異的結合物質間の識別を提供する際のどちらにおいても電気泳動力を使用できることに留意されたい。しかし所与の用途においては、標的−プローブ複合体に作用する電気泳動力の両方の使用、またはこれらの電気泳動力の一方または他方のみの使用も有益な作用を得るために使用できることが本発明の精神の範囲内に含まれることを理解されたい。
1つの態様では、洗浄工程は増殖条件のための新規栄養素を提供するために使用される。すなわち、検出表面への結合が発生した後に交換される、電気泳動法による濃縮工程において使用するための1つのバッファ系であってよい。または、電気泳動用バッファ系は、創始細胞の近傍に娘細胞を維持するために増殖中の電気泳動力の散発的パルスのために一定であるが、増殖のための栄養素は消費されるので、バッファ交換を必要とする。
先行する考察においては、各抗体の使用または同定のための他のマーカーは、本明細書の他の場所で記載する両方の方法で使用できることに留意されたい。すなわち、微生物は染色プロセスを通して、またはそれに特異的抗体が付着する、および次に特異的微生物が結合する捕捉表面上の相違する領域を使用してのいずれかで抗体を同定できる。
微生物の増殖
微生物が検出表面と結び付けられると、それらは今度は生育性、増殖特性、および様々な物質(抗体など)に対する感受性を決定するために増殖させられる。増殖は、適正な温度および酸素飽和もしくは枯渇状態での(例えば、一般にはサンプルの起源に依存して、嫌気性もしくは好気性菌に対する)適切な媒質の存在下で微生物をインキュベートすることによって発生する。インキュベーション培地は、一般には監視される細菌に適応させられる。例えば、肺吸引液、尿サンプルおよび血液サンプルは、すべてが当分野において周知のように各起源の微生物に合わせて良好に適合する培地を用いてインキュベートされる。さらに、作用について試験すべき抗菌剤もまた当分野において周知であり、新規抗菌剤の発見に伴って、および耐性の出現で現在使用されている抗菌剤混合物が変更されるにつれて変化する。
本明細書に記載のように、細菌の増殖中には、娘もしくは新規微生物が大まかにはそれらが由来する起源微生物と同一場所に存在するように、持続的もしくは頻回な電気泳動力を適用するのが任意で便宜的な場合がある。これは、起源微生物の増殖の決定を可能にし、次に追加の試験(例、抗体染色)を実施する必要を伴わずに微生物のタイプの決定を可能にする。
細菌が経験する電気泳動力は培地の導電性と反比例し、このために低導電性増殖培地を有するのが便宜的であることに留意されたい。しかし細菌、酵母、および他の生物の増殖のために使用される大多数の培地は、一般には、栄養素を補給する、ならびに培地のイオン強度を維持する両方のために、Na+、K+、Mg+2、Cl-、SO4 -2、NO3 -などのイオンを有する。好ましくは増殖培地は5mS/cm未満の導電性を有し、より好ましくは増殖培地は2mS/cm未満の導電性を有し、いっそうより好ましくは増殖培地は1mS/cm未満の導電性を有する。これらの導電性は、一般に、上述のように、電極でのこれらの濃縮のために細菌および他の分子を移動させる際に使用される導電性より高いことに留意されたい。しかし、娘微生物は電極もしくはその近位で作り出されるので、必要とされる移動距離は小さく、必要とされる電気泳動力は少量である。さらに、電気泳動力の適用は一定である必要はなく、特に増殖培地が一定のバルク移動下にはない場合においては間欠的に適用できる。微生物の緩徐な拡散のために、培地が10秒未満毎より頻回に、およびいっそうより好ましくは60秒未満毎より頻回にバルク移動する必要がない場合には電気泳動力を適用するのが好ましい。一般に、多数の増殖培地は大量の塩(例、Lブロス中の0.5%のNaCl)を含有し、この塩は、極めて小さな導電性の原因となるアラニンもしくはシステインなどの両性イオン性種によって置換されるのが好ましい。さらに、培地の浸透圧強度は細菌が浸透圧衝撃を受けずに済むように十分に高いこともまた好ましい。このためには、グリセロールまたはスクロースなどの非イオン性浸透圧構成成分を使用できる。
独力での正の増殖は、主として微生物の生育性、および潜在的に微生物の相対増殖速度を指示する。しかし本明細書に記載の様々な抗菌剤、およびそれらの組み合わせに対する微生物の感受性を試験するためにもまた使用できる。さらに、試験中に増殖する個別微生物のクローン同系性は、所定の試験の感受性および特異性を実質的に改善する。そこでクローン関係に基づく統計学的テストは、本発明によって実施される試験に力を付け加える。
微生物の検出および同定
微生物の結合および/または増殖の監視は、例えば、光散乱インジケータを有するタグから散乱させられる光の全出力を測定するように、結合している物質全部を平均化するために実施できる。しかし検出器が光検出器である場合は、検出器は光電子増倍管と結合されたカメラもしくはレーザースキャナなどのイメージング検出器であり、結合が個別微生物について決定されることもまた本発明の精神の範囲内に含まれる。この場合には、検出器は連続検出間の各微生物の場所を記憶して増殖を決定することを必要とする。本明細書では、様々な方法について記載する。
さらに、本発明の1つの有用な方法は、明視野画像および暗視野画像の両方を利用するが、それはこれらの技術の組み合わせが汚染因子破片からの微生物の識別を許容するからである。破片は、しばしば暗視野においては細菌と類似する散乱効率(例、屈折率×断面散乱面積)のために細菌に類似するように見えるが、明視野での細菌および破片間の吸収特性は格段に相違する可能性がある。例えば、多くの場合に、破片は明視野イメージングにおいて視認できるが、細菌は視認できない。
微生物を検出および同定するためには、標識を含む方法および標識を含まない方法を含めて、広範囲の適合する方法がある。
検出および/または同定における標識の使用
1つの態様では、微生物の検出は、特異的または非特異的であってよい検出可能な標識を用いて実施される。それは、まさに検出表面上の微生物を捕捉に関しては、微生物のタイプ(例、種もしくは属)に対して特異的であってよい、または非特異的であってよい、例えば多数の相違する微生物に結合する検出のための微生物の標識化である。そこで、検出部分は2つの構成要素を有する。結合構成要素および標識構成要素。結合構成要素は、捕捉リガンドについて上述した部分から独立して選択できる。
当業者には理解されるように、使用される検出タイプに合わせて特別仕立てされる様々な利用できる標識がある。適切な標識には、酵素インジケータが含まれるがそれらに限定されない;光学標識には、光学色素、蛍光色素、アップコンバーティング蛍光体、量子ドット、光散乱粒子、光吸収粒子(例、着色粒子)、もしくは位相差粒子(すなわち、位相差顕微鏡もしくは表面プラズモン共鳴によって可視化できる屈折率の差を付与するため)、化学発光インジケータ;電気化学的(例、レドックス)インジケータ;放射性インジケータなどが含まれるがそれらに限定されない。アップコンバーティング蛍光体は、低周波数光線を高周波数光線に変換する粒子であり(ペンシルベニア州ベスレヘムに所在するOrasure Technologies社を参照)、一般に検出アッセイにおける低バックグラウンドを導く、この特性を有する天然化合物がほとんどないために使用するのが便宜的である。量子ドットは、蛍光色素とほとんど同一方法で機能するが、励起周波数と入射周波数との間の相当に大きな変化を伴う。この大きな移動は、検出アッセイにおけるバックグラウンド雑音の量を減少させるより高い効率の光学フィルタの使用を可能にさせる。量子ドットの例は、Quantum Dot Corp.(カリフォルニア州ヘイワード)によって製造されたナノ結晶である。直接可視化粒子は、金属(例、金)、セラミック、着色ガラス、または他の不透明性もしくはおおむね不透明性材料であってよく、便宜的には少なくとも250nm、およびより好ましくは少なくとも500nmであるので、これは光線顕微鏡によって視認できる。そのような散乱光粒子294の例は、Genicon社(カリフォルニア州サンディエゴ)による共鳴散乱光粒子である。
これらのインジケータの多数は、インジケータの光学検出系に適合する光学検出系とともに使用できる。そこで、例えば、蛍光体、量子ドット、およびアップコンバーティング蛍光体、対の励起照明(例、レーザー励起または帯域フィルタを備える広域スペクトル照明器具)および発光特異的検出器(例、帯域フィルタ)は、適正なイメージャ(例、拡大光学素子を備える、または備えていないカメラ)と一緒に利用される。光散乱粒子は、しばしば傾斜入射照明(標準暗視野集光器)もしくはエバネッセント照明を使用する、または位相差光学素子を使用できるが、それは位相差光学作用を発生させるために十分な屈折率における重大な差による粒子もまた光散乱を発生させるからである。さらに、位相差粒子は、一般には表面プラズモン共鳴においても視認できる。位相差顕微鏡は位相差粒子に対しても使用でき、光吸収粒子および酵素反応は、位相差顕微鏡および明視野イメージングのどちらにおいても使用できる(例、顕微鏡イメージングまたは他の形態の拡大を用いて)。化学発光は、化学発光シグナルに対する適正な感受性を有するように配列された適正な拡大および検出器を用いて検出できる。上記の説明は、完全ではなく、インジケータおよび検出器の他の組み合わせは、本発明の精神の範囲内に含まれる。
QMは、親和性結合などの技術を使用して種によって個別微生物を同定することができる。1つの実施形態では、表面捕捉剤自体は、観察表面上に位置付けされた離散ゾーン内に固定化された特異的親和性剤(抗体など)である。次に、複数のそのような別個の捕捉ゾーンは相違する微生物種もしくは群に向けられる1アレイの相違する親和性剤を提供する。捕捉および非特異的に吸着した物質を除去するためのストリンジェントな洗浄後に、各ゾーン上に残っている微生物は、それに対してゾーンの特異的捕捉剤が方向付けられる微生物である。ゾーンマップが同一性を解明する。
例えば、感染が疑われるタイプについての1「パネル」もしくは特定セットの細菌種には、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)などが含まれる。次にQMアレイは、高親和性抗体、アプタマー、またはこれらの特定種に対して開発された他の親和性結合剤から構成され、各々は離散ゾーン内にある、今記載の順序での線形配列などのマッピングスキームにしたがって分析表面上に固定化される。
さらに以下で記載するように、捕捉された微生物を検出するために、QM検出器は、コンピュータによって分析するために適合する電子画像を提供するデジタル顕微鏡などの器具を使用する。次に画像分析プログラムは、個別微生物を同定するために開発されたアルゴリズムに従って各画像を分析する。コンピュータが位置付けされた各ゾーンについて画像を分析するにつれて、コンピュータは微生物認識事象を評価し、それらの同一性を分析されるゾーン同一性によって記録し、それらの空間座標を記録する。そこでQMシステムは、各微生物の位置を種などの群同一性へ絶対的に連結させることで、同定可能な各微生物の空間的マップを作製する。
このマッピングの形態は、高速コンピュータの使用によって捕捉中または捕捉直後に極めて高速で発生する。このため、これは分析にほんのわずかな時間しか付け加えない。
追加の実施形態では、本明細書で記載するように、捕捉剤は特異的ではないが、固定化された結合剤の単一離散ゾーン内の全微生物を捕捉する。このモードでは、そのような捕捉剤は、マッピングされたアレイフォームが行うような直接同定を許容しない。
その代わりに、1つの態様では、このQMモードはマッピングされた捕捉について記載されるなどの、しかし遊離溶液もしくは懸濁液中の、そして蛍光色素、光散乱粒子などの測定可能な部分にコンジュゲート化した特定物質を適用する。捕捉された微生物へ曝露させ、短時間のインキュベーション、および洗浄後に、親和性標識はそれらの同族リガンドもしくは標的へ結合したままとなる。QM検出器は、個別微生物の規模でそのような標識を同定するように設計され、各微生物の場所およびその群同一性をマッピングすることを含む、特異的捕捉画像分析モードについて記載された方法で作動する。
この標識化および分析工程は、典型的には完了するために必要とする時間は30分間より相当に短い。
さらに、負の増殖(例、壊死)は、本明細書に記載の致死性菌株を用いて決定できる。
標識に基づかない方法
標識(捕捉リガンドまたは標識リガンドのいずれか)の使用に基づかずに微生物を検出するためには、一般には本明細書に記載の光学技術を使用して、正の増殖、中間の増殖および負の増殖を含む増殖が監視される。
抗菌剤のアッセイおよびQM
抗生物質のほぼ半数は、それらの抗菌作用を発揮するためには周期中で活性(正の増殖)である細菌が必要である。このため、以下で記載するAOAを適用する前には、一般には、少なくともそれに対して正の増殖が必要とされるそれらのAOAについては、AOAの投与前に少なくとも1回、および好ましくは2回以上の細胞分割のために微生物が増殖されることが好ましい。これらの細胞分割は、本明細書の他の場所で記載するように画像分析によって直接的に監視できる。
最も単純な場合には、これは抗微生物剤(AOA)の一定濃度で微生物をインキュベートする工程、および微生物の増殖および/または死滅速度を決定する工程を含む。図33Eは、これが本発明を用いてどのように実施されるかを示している。図33Dでは、細菌830、835および840は、捕捉表面820へ特異的に結合している。増殖培地中のAOAの1つの濃度でのインキュベーション(光スティップリングによって指示される)期間後、細菌840は数を増加させるが、細菌830および835は増加させないので、これは細菌840が使用された濃度ではAOAに対して感受性ではないこと、そして細菌830および835が使用されたAOAの濃度では感受性であることを示している。細菌835は、それらが死滅していることを除くと、細菌830と同一タイプであることに留意されたい。このため死細胞染色もしくは生体染色を前提にすると、細菌830はAOAの濃度によって死滅されないことを決定することができ、これはAOAが正の増殖を防止しないが細菌830を死滅させない、または使用した濃度では、AOAが正の増殖を停止させる(中間の増殖)ためにのみ作用することのどちらかを示している。
図33Fでは、AOAの濃度が増加し、それでも細菌840の数が増加しているが、これは細菌840がこの濃度でさえ細菌に対して感受性ではないことを指示している。しかし今では細菌830は殺滅され(死滅細菌835によって指示される)、これはこの濃度ではAOAが致死性であることを指示している。そこで、図33E〜Fに示したように、増殖培地中のAOAの濃度を増加させることによって、AOAに対する細菌の濃度反応を決定できる。明らかに、ある期間にわたる工程においてAOAの量を増加させることによって、最小発育阻止濃度(MIC)を決定できる。さらに、細菌の生育性を各濃度で決定することもできるので最小殺菌濃度(MBC)もまた決定できる。
米国臨床研究所規格委員会(NCCLS)などの機関は、標準法を用いてMICを決定するための標準化された厳密な方法を有し、MBCを決定するための手順を標準化するための提案草案を広めてきたことに留意されたい。
相違する濃度のAOAでの増殖(生育性を含む)の検出は、その各々が特定濃度のAOAを細菌に惹起投与するセル804内の一連のチャンバ805を用いて、または所与チャンバ805内の濃度を増加させることによって実施できることに留意されたい。前者の場合には、細菌の時間反応を確定することができ、ならびにAOAが除去されると(例、抗生物質治療効果)細菌の持続性反応を容易に確定することができる。すなわち、細菌はさらに所与濃度のAOAで短期間にわたり惹起投与することができ、そして次に培地をAOAが欠如する培地と交換し、細菌の増殖を経時的に監視できる。
上述のように、各相違する濃度のAOAに対して個別チャンバ805を使用せずにすむように、チャンバ805内のAOAの濃度は経時的に増加させることができる。図38A〜Bは、AOAの濃度変化に対する細菌の反応のグラフである。図38Aでは、AOAの濃度は、一般には時間に伴う指数的増加にしたがって経時的に増加するが、濃度を線形で、もしくは濃度を増加させる工程関数を含む他の濃度/時間関係にしたがって増加させるのも便宜的である;これらの工程関数は規則的濃度間隔で、または米国臨床研究所規格委員会などの機関によって設定された臨床検査標準によって指示もしくは示唆された標準濃度で配置できる。次に本システムは、細菌の総数、死滅細菌数、および生存細菌数を決定するために使用される(上述のように、これらの数の任意の2つは第3の数を発生させる)。
AOA作用対微生物の増殖の関係は、従来型使用において多数の相違する意味を有する。例えば、ASM Handbookに記載の微小希釈法のための視覚的LLODは、約1×106CFU(1×107CFU/mL、M.Mueller et al.,Antimicrob.Agents Chemother.,48:369−377,2004によって言及された)へ増殖させるための1ウエルに付き5×104CFUの接種(およそ5×105CFU/mLの濃度)を必要とすることがある。この増加量は、観察期間内に約20倍の係数の正味正の増殖を表わしている。負の所見はこれより少ない任意の量を含む。この状況では、対応する期間中に正味凝集体集団が出発集団の20倍未満の係数へ変化した場合に正の増殖阻害が発生したと宣言することが好ましい。閾値より低い正の増殖率は「増殖阻害」と評価され、高い増殖率は薬物の機能不良(drug failure)と評価される。
図面において濃度Aで示されている細菌の総数が増加し続けない時点は、細菌の正の増殖を阻害する最小濃度(MIC)であると見なされる。生存細菌の数が減少し始める時点(濃度Bで)は、殺菌性である最小濃度(MBC)であると見なされる。実際のMICおよびMBCは各々濃度AおよびBより低い可能性があり、そして濃度の増加速度が細菌の正の増殖に比較して極めて緩徐である場合においては唯一のMICおよびMBCであることに留意されたい。そこで、AOAのMICおよびMBCが係数X内で決定されることが望ましいことを前提にすると、好ましくはAOAの濃度はAOAが欠如するインキュベーション条件下で細菌の倍加時間の半分未満でX倍増加し、より好ましくはAOAの濃度は細菌の倍加時間未満でX倍増加し、そして最も好ましくはAOAの濃度は細菌の倍加時間の2倍未満でX倍増加する。これらの方法を用いて生成されたMICおよびMBCはNCCLSなどの機関によって規定された標準MICおよびMBCと正確には相関しない可能性があることに留意されたい。
そこで高い確率で正の増殖を発生させるために必要とされる細菌の低い正の増殖は、試験を実施するために必要な時間を短縮する。個別細菌を監視することによって、ほんの少数の細菌の倍加に伴って正の増殖を見いだすことができる。つまり、例えば従来型濁度アッセイにおけるようにバルクで観察した場合は、細菌の正の増殖を検出する感受性限界は、濁度測定における信号対雑音比によって限定される。しかし細菌の核分裂は、たとえ細菌が何千何万の1つであっても、検出できる離散事象である。そこで、本発明は極めて高い感受性を有する可能性があり、本システムは、好ましくは25%未満の細菌の倍加を検出することができ、より好ましくは10%の細菌の倍加を検出することができ、そして最も好ましくは細菌の5%の倍加を検出することができる。細菌の1分画についての倍加時間は、事前に決定できる(例えば、実験標本を用いた研究室でのキャリブレーションによって)、またはより好ましくは、AOAの不在下での細菌数をAOAの存在下での細菌数と比較することのどちらかによって決定できる−これによって結果を内部的に制御できる。
抗生物質感受性を決定するための測定カットオフ点は、上記で考察したように、細菌の所与の百分率の倍加などの絶対項で表示できる。しかし、統計学的に妥当な判定を行うために必要とされる細菌数は、サンプル中に存在する細菌数に依存する可能性がある。例えば、各チャンバ内に10個の細菌しか存在しない場合は、単一細菌倍加がサンプルの10%を表わすことを証明している。または、表面上の極めて多数の細菌を用いると(例、100,000個超)、1,000個の細菌(すなわち、1%)の倍加さえ通常は統計的に有意である。そこで、多くの場合には、統計的に関連があるように実験条件(すなわち、AOAを備える増殖培地)において倍加を示す細菌数に比較してコントロール条件(すなわちAOAが存在しない増殖培地)における倍加を示すために必要とされる細菌の数を分析することは好ましい。例えば、従来型方法はこれらの2つの数にχ二乗検定を適用し、そして結果が特定の有意性確率を満たすかどうか決定する。一般に、この確率は0.05未満であるのが好ましく、この確率は0.025未満であるのがより好ましく、そしてこの確率は0.01未満であるのが最も好ましい。少ない細菌数は極めて小さなχ二乗確率を許容しないから、確率についての標準は、細菌数が極めて少ない場合については便宜的には減少させることができる(例えば、増殖培地コントロール中で20個未満の生育性細菌)。
細菌の倍加時間は集団化現象であること、そして細菌の集団内では、一部の細菌は他の細菌よりも高速で分割することを理解されたい。これは、集団内のわずかな遺伝的差、または純粋的に統計的作用の両方に起因する。しかし、細菌はそのステージに依存して新規培地中に置かれた時点にそれらの正の増殖における実質的に相違する遅延時間を示すから、その採取もしくは調製中に各細菌が増殖しているステージにも起因する。一般にはより長い期間が細菌の増殖特性およびAOA感受性についてより多くの情報を提供し続けるが、細菌およびそれらのAOAに対する感受性についての医学的個別情報を供給する必要がある。当該の細菌の大多数についての平均遅延時間がおよそ2〜6時間であることを前提にすると、細菌の倍加は一般に1〜2時間であり、細菌増殖およびAOAに対する感受性を測定するためには細菌検出を8時間以内で、より好ましくは6時間未満で使用するのが好ましい。サンプル中の全細菌が倍加を証明する機会を有していない場合でさえ、それらの細菌の十分に大きな分画は感受性を指示できなければならない。
この場合には、生細胞および/または死細胞染色(生存細菌対死滅細菌を指示する)に関連する個別細菌、ならびにAOAが存在する、および存在しない増殖培地の存在下での増殖についての全情報を入手できることが有用である。生存細菌の分画がAOAの存在下で第1所定分画まで減少する、または細菌の正の増殖(細菌の倍加またはサイズの増加のいずれかによって証明される)がAOAの存在下で第2所定分画まで減少するという任意の観察は、AOAの作用の証拠である。一般に、第1所定分画は、それが高い死滅の証拠であるために、一般には第2所定分画より小さい。第1所定分画の好ましい数値は20%であり、より好ましい数値は33%であり、最も好ましい数値は50%である。第2所定分画の好ましい数値は50%であり、より好ましい数値は66%であり、最も好ましい数値は80%である。
上述のように、AOA感受性に関する大多数の試験は、観察される特異的動態および作用ではなく、特定作用が遭遇する濃度に関連する。すなわち、従来型の試験では、細菌には、細菌が死滅もしくは正の増殖の低下した速度を示す濃度を決定するために多数の相違する(もしくは濃度を変化させてさえ)濃度のAOAが通常惹起投与され、それからNCCLSのような機関からの確立された標準にしたがってMICもしくはMBCが決定される。例えば、抗生物質ディスクを備える寒天プレートを使用する従来型抗生物質試験を考察されたい。ディスクの周囲には、様々な濃度の抗生物質の存在下で単純な死滅だけではなく緩徐な増殖も表わしている様々のサイズのコロニーがある。この測定によって、MICは容易には規定できないが、長期間にわたりプレートをインキュベートする工程は、コロニーが阻害性であると考察される濃度で出現することを許容する。
しかし時間および費用の両方の観点から、一部の場合にはその代わりに細菌へ単一の一定量のAOAを惹起投与し、次に感受性を決定するために薬物の特異的作用および作用の速度を観察することが便宜的な可能性がある。本発明では、一定用量のAOAを提供することができ、細菌が殺滅される速度、またはそれらの正の増殖が減少させられる程度は、多数の治療用量で起こりそうな作用を測るために使用できる。これらの反応は、AOAの不在下での細菌倍加時間によって割られるAOAの存在下での細菌倍加時間などのAOA作用の新規測定を用いて記載できる。この場合には、AOAに対して耐性であるがその倍加時間がAOAの存在下では3倍である細菌については、AOAによる処置はそれでもまだ重要な可能性がある。これらの数値は、単回投与で、または複数回投与のいずれかで投与できる。様々のレベルの感受性の細菌を単離して調査できる程度まで、1つまたは複数の濃度のAOAでの情報は、その後に他の濃度での反応を予測する際に有用なことがある。
従来型抗生物質感受性試験へ直接的に対応する試験では、本発明は、Clinical and Laboratory Standards Institute(www.clsi.org)の出版物M100−S15によって明記された各種/薬物対について2つの破過点での薬物曝露を使用する。このバージョンはMICを提供しないが、SIR分類(感受性、中間物、耐性)を提供する。MIC対応物は、従来型微小希釈アッセイと同一の範囲および方法において、倍加希釈で並行分析を使用する。しかし本発明は、SIR変動におけると同様に個別微生物の増殖率反応を使用できる。
従来型ASTの対応物に加えて、本発明の方法は、極めて小さな耐性クローンを解明するために(上部CLIS破過点のはるかに上方の)高い薬物濃度も使用できる。各種/薬物対についての正確な濃度は、薬物の作用機序に基づいて決定される。例えば、βラクタム系抗生物質についての耐性惹起試験は、上方破過点より上方であるがいわゆる「逆説的作用」もしくは「イーグル作用」が発生する濃度より下方の濃度を使用する。
惹起試験では、薬物濃度は全創始細胞およびクローンにおける正の増殖を迅速に停止させるはずである。しかし、個別細胞が個別クローン内で繰り返し分割し続ける場合は、分析は薬物の機能不良を迅速に検出し、耐性を示す少数派クローンの数および比率を報告する。
本発明は、耐性検出のために他の方法を用いて現在可能であるよりも実質的に高い感受性を提供する少なくとも2つの方法を含む。第一に、これらの方法は、最初の標本から実質的に全微生物または極めて多数の(少なくとも1,000個、および好ましくは10,000個超)微生物を分析する。標準培養方法は、典型的には富裕化および単離後に選択されるたった約3〜20個の最初の微生物を使用する。このために、QMは、標準培養方法に固有のサンプリング誤差を排除する。
さらに、本発明のQM法は、単一の耐性クローンさえ同定するために個別クローン統計学を用いた惹起試験を使用する。QMは、分析感受性を統計的に増加させるために、それらのクローン誘導によって、個別細胞の同系性を使用する。
例えば、QM法は、感受性である10,000クローン(0.01%もしくは100ppm)以上のバックグラウンドに対して単一の耐性クローンを検出できる。例えば、創始細胞10 CFUを表わすコロニー単離体を使用する標準方法は、平均10中1個だけ、もしくは10%検出感受性で耐性創始細胞を検出できる。他にも理由はあるが、このサンプリングエラーは、臨床研究に関する文献において明確に認識されるように、「隠れた増殖」(目に見えない耐性少数菌株)もしくは「存続菌」を検出する標準培養方法の不良な臨床記録を説明するのに役立つ。
QMは、高い精度および成分クローン反応にしたがって弁別して、周期的致死率数を使用していわゆる「時間殺滅曲線」(TK)を計算する。耐性についてのクローン反応は、平均集団と比較した連続性細胞クラスタ内での個別細胞分割の確率または最も感受性の統計学的クラスタ依存性細胞殺滅確率に基づいている。連続細胞クラスタ内の正の増殖率が周囲の参照率の増殖率を統計的に越える場合は、QMはクローンを耐性であると評価する。
QMは、(クローンによる)殺滅率の統計的クラスタを分析し、全殺滅率を決定するためにデータを統合する。各種/薬物対についての時間−殺滅(TK)曲線は、統計的にステレオタイプの形状を有する。このために、QM法は、対応する参照曲線を選択するために最初に統計学的に重要な時間−殺滅データポイント、次にその標準曲線について最大殺滅速度を使用する。QMは、この最高殺滅速度(1時間当たり殺滅された細胞の最高数の対数)を報告する。
さらに、TK標準曲線は、標準培養AST法を用いて決定されたようなMICと相関している。最良適合標準曲線を選択すると、QM法は、次に対応するMICを探し、それを報告する。
QM法は、個別細胞およびクローンの反応に基づいてエンドポイントを予測する能力を有するために、完了するために2、3時間しか必要としない。さらに、QM法は、標準MIC値単独よりはるかに大きな予測力を有するデータを報告する。例えば、感染を治療する際に使用するために臨床的に最適な薬物は、病原体を極めて迅速に、根絶前に最小の介在細胞分割で殺滅する薬物である。
MICは、単独ではこの情報を提供しない。良好に感受性範囲内でMICを有する2種以上の薬物がある場合は、医師は、それらのうちのいずれがその感染を根絶して病原体を最も迅速に殺滅する可能性が最も高いのかを決定しなければならない。MICは、この情報を含有していない。これとは対照的に、QMは、臨床的に有用なすべてのパラメータについて直接比較データを提供する。
微生物の死滅率に関する情報に加えて正の増殖(例、倍加時間)に及ぼすAOAの作用は、標準化NCCLS試験フォーマットにおける結果を予測するために十分な情報を提供することに留意されたい。例えば、NCCLSブロス微小希釈MIC決定は、強力に制御された環境下での規定期間についてある濃度のAOAへの標準化接種材料の曝露を含む。微生物感受性は、微生物の正の増殖が検出閾値限界未満では妨害される最小濃度であると規定されている。そのように考えると、微生物の正の増殖率に影響を及ぼすAOAは、この濃度より上方では微生物が検出可能な正の増殖についての閾値を超える臨界的増殖率しか有していない。さらに、微生物の生育性に影響を及ぼすが微生物の増殖率には影響を及ぼさないAOAは、微生物が検出可能な正の増殖についての閾値を超えない臨界的生育性閾値を有する。その上、AOAは微生物集団の正の増殖率および生育性の両方に影響を及ぼす可能性が高い。このため、標準化NCCLS MICおよびMBC法を用いた正の増殖率および生育性に関する上述した動態的測定の相関関係は、細菌の正の増殖のモデリングおよび生育性のモデリングから予測できる。
ヒトもしくは動物におけるAOAの濃度は、治療(例、注射)の量および頻度ならびにAOA薬物動態によって決定されることに留意されたい。多くの場合に、疾患を有していないヒトについての薬物動態は周知であり、監視されているヒトの知られている医学的状態(例、肝不全)に基づいてモデリングできる。この情報を用いると、標的臓器(例、血液、尿路、肺)における経時的AOAの濃度を推定できる。このAOA濃度は、図38Bに示したプロファイルなどのAOAの推定プロファイルを生成するために、AOAを備える培地とAOAが欠如している培地を備える相対部分とを混合する工程によってチャンバ内で近付けることができる。一般に、AOAの濃度は、上昇し、ピークに達し、次に指数関数的に減少する。上述のように、細菌、死滅細菌および生存細菌の総数を経時的に監視できる。この場合には、薬力学的パラメータMICおよびMBCは明確には規定されていないが、これは、一方はAOAの薬物動態を含む細菌への反応を観察し、このため一方は様々な用量でこの系の試験を反復実施することによって最小発育阻止用量および最小殺菌剤用量を観察し、次に全AOA濃度プロファイルが正の増殖または細菌の死滅を生じさせるかどうかを監視するからである。図38Bの分析が単回用量のAOA(すなわち、上昇、ピーク、減少)だけを取り扱っているが、処置において頻回に使用されるように、連続投与のAOAについての分析を継続することもまた可能である(例、1日4回の注射)。
本発明の方法は、AOAへの微生物の反応にだけではなく、ホルモン、薬物(例、例えば薬物感受性試験について)、環境要因もしくは他の薬物を含む他の生物活性剤などの他の条件への反応にも適用できることに留意されたい。これらの薬物は、反応が使用された検出器によって検出可能である限り、分析できる。多くの場合に、目に見える状態への反応を作り出すために一部の種類の菌株が必要とされることがある。
上記の考察では、AOAの適用の時機は、細菌が増殖培地中に最初に配置される時点、または細菌の正の増殖が最初に検出される時点のいずれかに(細菌のサイズにおける変化、または娘細胞の存在を通して)関連付けることができる。後者の場合には、正の増殖は持続的に監視することができ、AOAは、遅延時間が完了したと決定されるような時点にインキュベーションに加えられる。遅延時間の完了は、一般に、細胞の一部の所定分画は、これは好ましくは細胞の50%未満、より好ましくは細胞の30%未満、および最も好ましくは細胞の20%未満である正の増殖の徴候を示している時点である。
上述のように、量子微生物学(QM)の特徴は、分析の重要な単位としての単一微生物の使用である。個別微生物についての分析を実施することによって、多数の長所が発生する。例えば、微生物を極めて多数に増殖させるため(例、寒天プレート上で計数するため)に必要な時間は、相当に長時間を必要として、これは所定の医学的状態についての治療時間枠のために利用できない可能性がある。さらに、極めて多数の微生物の分析は、集団中の少数の耐性微生物の検出および分析を不確かなものにする。さらに、所定タイプの分析(例、寒天プレート上のコロニーの外観)を用いると、時々は微生物の死滅率を微生物の増殖についての倍加時間を増加させる、または正の増殖を停止させるように機能するが微生物を殺滅はしない(例、中間の増殖)作用から識別することは困難である。
QMでは、4種の相違する実体について、時には同時に観察を行うことができる。これらの実体は、以下の通りである。
単離された、もしくはより大きな実体(例、以下で記載するクローンまたは集団)の一部のいずれかである個別微生物、
個別微生物、もしくは物理的に関連する微生物のクラスタを含むことのできるCFU由来の子孫を提示するクローン、
同一の菌特異的抗体と、もしくは菌株同定の他の方法と反応する全微生物を提示する菌株。菌株の名称は、個別種、全種にわたる血清型、全属にわたる血清型、グラム陽性もしくは陰性、または上述した方法において記載されたように識別できる任意の類似のサブセットの微生物を含むことができる、
全部が同一医学的サンプル(例、洗浄サンプル)由来である個別微生物の全部もしくはサブセットおよびクローンを含む集団。
個別微生物は、それが細胞分割中に2つに分割される時点に、分割は多くが2つの大まかには同等の部分に分割されるので、一方を親および他方を「子供」と表示するのは困難である2つの微生物を作り出すことを留意されたい。むしろ、2つの微生物は「亜系統」である。一般に、QMに関して特定の個別微生物を分割毎にのみ追跡することが最も便宜的であり、結果として生じる亜系統微生物は新規個体であると見なすことができる。そこで増殖させて本発明によって測定される微生物のデータベースでは、所定の微生物は持続性には存在しないが、その前駆細胞の分割時に発生し、その存在は分割時に終了すると見なされる。または、細胞分割時に、微生物の1つは前駆細胞の持続性存在であり続け(例、より多くの微生物、もしくは前駆細胞の位置と位置が最も重複する微生物)、分割の結果として生じる他の微生物は「子供」微生物であると見なされる。
個別微生物は顕微鏡画像からそれらのサイズ、形状および他の特性によって識別できるが、クローン関係は確定するのがより困難である。例えば、物理的に連続している2つの微生物は単一クローンのメンバーであることを表わす可能性があるが、それらはまたは偶発的に物理的に隣接している2つの微生物を表わす可能性がある。そこで、真のクローン関係を確定するために、1つの微生物しか存在していなかった場所における2つの微生物の外観が亜系統関係の指標である、経時的に一連の顕微鏡画像を得ることが好ましい。この関係は、「親」微生物が経時的に増加することのできる容積が新規の亜系統微生物の外観と一致して容積における突然の減少に伴って増加するので、いっそうより強力に確立できる。微生物の容積は、一般に直接的には測定されないが、むしろ二次元画像において明白な面積によって測定されることを留意されたい。
一部の種は、黄色ブドウ球菌についてのブドウ状クラスタまたは肺炎球菌双球菌のビーズ状鎖などの常時多細胞クラスタ化形態を有することを留意されたい。このため、個別生育数をCFU同等物に変換することが便宜的であるが、これらは、1つまたは複数の生育性個体を含む任意の連続クラスタを1CFUとして計数することを前提にして、従来的に決定される測定値に、より類似しているからである。
個別微生物の観察を行う時点に、微生物の位置が確定される。測定が行われる試験片が光学系およびイメージングシステムに対して経時的に移動させられる場合でさえ、微生物の領域の絶対位置について以下に記載する本方法やその他の測定を維持するのが重要である。この絶対位置は、試験片上の光学的キャリブレーションマークを使用することで維持できる。例えば、微生物の位置に加えて、菌株同一性(例えば、上述のように、標識した抗体調製物による微生物の同定によって確立されるように)を観察できる。さらに、AOAの不在下での微生物の倍加時間は、例えばクローン亜系統(特には、その外観は微生物の見かけの容積の減少によって適応させられる))の外観について観察することによって確立できる。この倍加時間は各世代について個別に維持できるが、この情報は、好ましくは倍加間の平均もしくはメジアン時間間隔として維持される。最初は長い倍加時間として証明されるように、微生物の初期の正の増殖における遅延時間が存在することを前提にすると、統計学的平均化(例、平均値、メジアン値)は最終N回の倍加(例えば、移動平均もしくは移動メジアン値を維持すること)によってのみ維持できるが、Nは好ましくは5未満であり、より好ましくは3未満である。
倍加時間は、通常は微生物集団に関して測定されるが、様々な時点(一般には固定間隔)で微生物の数が測定される。特定の個別微生物の倍加時間を測定することに関して、様々な方法を使用できる。第1方法では、個別微生物の繰り返しの観察は、個別微生物に発生した先行細胞分割と個別微生物から結果として生じる細胞分割との時間の差を決定することができる。これは、観察のほぼ時間間隔内への微生物の倍加時間の測定値を生じさせる(すなわち、±分割間の各時間境界での間隔の半分)。観察が1分毎もしくは2分毎に行われる場合は、これは倍加時間の正確な推定値を提供する。しかし観察が余り頻回に行われない場合は(例、15分毎)、個別倍加時間の不確実さが実際倍加時間の大きな分画となることがある。しかしこれらの数は、多数の微生物について(クローン内、菌株内、もしくは全集団内のいずれであると)合計した場合は、相当に少数の個別微生物(クローン内として)を用いた場合でさえ、測定されている実体の倍加時間の高度に正確な測定値を平均すると生じる。この適切な特色は、特定のより大きな実体へ微生物を指定する前に、個別微生物の倍加時間を監視して保存できることを意味している。例えば、最初は同一実体であると(例、抗体染色を通して)表示される微生物の2つの亜系を考察されたい。しかし一部の後の時点では、菌株内に、例えばそれらのAOA感受性によって識別される実際に2つの相違する亜菌株が存在すると決定されることがある。この場合には、個別微生物の倍加時間を保存すると、それらは亜菌株へ遡及的に指定できるので、これらの亜菌株の倍加時間は観察の始まりから再構築することができる。倍加時間に関するこの考察はさらにまた時間殺滅曲線などの増殖および死滅動態の他の測定値とも関連することを留意されたい。
AOAの存在下で微生物の挙動を監視することは特に興味深い。増殖ブロスへAOAを添加した後、行うことのできる観察には、微生物の新規倍加時間、および微生物の生育性または致死性(生育性および/または致死性は上述のように監視される)が含まれる。この情報は、一般には絶対時間またはAOAの導入に関連する時間として維持される。倍加時間は、一般には最終状態へ突然に変化することはなく、ある期間にわたって変化する可能性があることを理解されたい。一般に、これは「最終」倍加時間へ漸近的に近づく(および指数的アプローチとしてしばしばモデリングできる)、ほんの少数のデータポイントを用いて最終倍加時間が近似させられる倍加時間の増加としてモデリングできる。
上記の観察から入手できるまた別の相当に有用なパラメータは、AOAが微生物を死滅させる、一般には上述したような菌株を用いて観察される生育性の消失もしくは死滅の発生のいずれかによって測定できる時間である。この数は医学的に相当に興味深い可能性があるが、それは殺滅はAOAの薬力学的時間依存性濃度においてAOAが増殖させられるように閾値より下方に含まれる期間に起因する耐性の発生、または正の増殖のいずれかの確率を除去するためである。
微生物のクローンに関して、類似の観察を行うことができる。例えば、クローンの位置、ならびにクローンを含む微生物の菌株同一性を観察できる。この位置は、クローンの周囲の位置、クローンの質量中心(X−Yに関して)、およびクローンの近似径を含むことのできる、多数の相違する関連パラメータを含むことができる。細胞数、微生物の倍加時間(AOAの投与前および投与後)、生存および死滅微生物の分画についての観察、及びその他の情報を監視できる。例えば、クローンの倍加時間に関して、これはクローン内の微生物の最速倍加時間、もしくは一部の集団数(例、その微生物数がクローン内で倍加するための時間)、またはクローン内の個別微生物の平均もしくはメジアン時間のいずれかとして表示できることに留意されたい。
クローンの観察を維持するために、1つの好ましい方法は各個別微生物についての観察、ならびに各微生物がメンバーであるクローンについての構成員情報を維持する方法であるので、クローンの観察は適正な情報内にまとめられたクローンの各個別微生物の適切な情報から構成されてよい。さらに、既存微生物の分割を通しての新規微生物の生成に伴って、情報の保存は新規微生物全部に適応させるために増加させなければならない。
個別微生物とは対照的に微生物のクローンを観察することの長所の1つは、AOA投与の作用がより明白かつ定量的である点である。例えば、個別微生物がAOA投与されると死滅する場合は、これはAOAに未関連の多数の因子が原因である可能性がある。しかし所与のクローンを含む微生物の一部、大多数もしくは全部が影響を受ける場合は、そのタイプの微生物にAOAが及ぼす作用について確信できる可能性がある。同様に、個別微生物の倍加時間がAOAが投与されると計数2ずつ増加する場合は、特に大多数のサンプルが継続的に監視されないが、規定間隔でしか監視されないことを前提にすると倍加時間の統計学的信頼性は小さくなる可能性があり、間隔は一般には少なくとも15分間である。しかし例えば32個の微生物からなるクローンを用いると、30〜60分間毎に倍加する微生物の個別の15〜30回の観察は、一般にはたった2回もしくは3回の観察でさえ確実な倍加時間を生じる。
菌株および集団についての観察は、一般に、クローンおよび個別微生物に関する観察、その後のデータのアルゴリズムによる操作によって入手される。維持される情報は菌株/血清型同一性、同一同定を共有する細胞の数、およびAOAの不在下での倍加時間を含むことができる(これは最小倍加時間、ならびに平均値、メジアン値、加重平均などの統計学的平均値を含むことができる)。さらに、微生物を殺滅する平均/メジアン時間、AOA投与後の時間の関数としての生存および死滅微生物の分画、見かけの静止状態(規定倍加時間閾値に比較して決定される)にある分画と対照的な正の増殖中の微生物の分画、特定菌株もしくは集団内の最速微生物の倍加時間、影響を受けるクローンの分画(すなわち、規定計数より大きい倍加時間における生育性の変化もしくは分画的増加を備える)を含むAOA感受性の尺度を入手することも特に興味深い。
一般に、本発明の2つの長所については広範に記述できる。個別微生物およびAOAに対するそれらの反応の監視は、低検出限界、分析のための良好な統計量、およびより信頼できる結果を提供する。2つ以上の間隔での増殖の定量的監視は、増殖率および倍加時間における変化、ならびに増殖率における殺滅および変化の動態の測定を可能にするが、これにより本発明者らは患者における微生物の増殖の定量的予測を可能にさせるが、それらの予測は時間の関数として臨床的に重要なパラメータ(微生物付加、耐性菌株の外観)を指示できる。
個別微生物、クローン、菌株および集団についての観察は、一般には、データベース(SQLデータベースなど)内に情報を保存できる、またはそのようなデータについて特異的なメモリおよびバイナリーファイル内に保存できるコンピュータで保持される。データを維持して更新するためには、情報に迅速にアクセスすることが必要とされる。
その他の量子微生物学の統計学的方法
上記で言及したように、本発明の方法は、多数の相違するレベルで作動するが、個別微生物および個別創始微生物由来のクローンへのQMの適用は、特に有益である。小さなサンプルサイズ(方法の感受性限界で、特定チャネル内において10個以下さえの微生物もしくはクローン)で実施できるこのタイプの分析は、事象の確率として表示できる従来型方法からの相違する統計学的分析を必要とする。
例えば、固定抗生物質濃度の存在下で標準化時間間隔中に分割するサンプル集団における全生存細胞の分画としてP(+)を決定できる。これは、そのような期間中に観察される任意の特定単細胞が実際に分割する確率である。
同様に、P(−)は、同一標準化観察間隔内に殺滅された細胞の分画であり、そのような期間中に観察される任意の特定単細胞が実際に死滅する確率である。根絶は、P(−)がP(+)より大きい場合に限り可能である。一般に、従来型ASTは、P(−)がP(+)よりはるかに多い集団についての結果を明らかにしている。任意の感受性クローン内では、観察所見は同一のままである。連続時間間隔にわたる観察は、凝集体感受性集団の頻度分布に近似する。
しかし耐性細胞についてのP(−)は、感受性細胞についてよりはるかに低い。定義によって、P(−)は、耐性細胞についてのP(+)よりはるかに小さい。感受性細胞が実質的に耐性細胞を数で勝る微生物集団においては、凝集体集団統計量は、耐性集団を検出可能にするために、十分に大きくするために長時間の観察を必要とする。しかし、クローンのメンバーを同定するための能力は検出速度を顕著に増加させる。
AOAは、そのような混合集団における極めて多数の感受性細胞を殺滅するが、小サブセットの耐性細胞は増殖し続ける。既知のクローン関係の個別細胞を試験することによって、平均クローン内の殺滅率を計算することが可能である。このために、クローン内死滅率からの統計学的に有意な逸脱を示す任意のクローンは耐性を示す。
例えば、観察間隔が感受性クローン内の1間隔当たりの1つの殺滅の平均値を生成するために十分に長く、(感受性細胞の)無作為の細胞分割が実質的に低い頻度で発生する、もしくは全く発生しない条件を選択できる。そこで、AOA曝露中に各クローンを観察した場合は、大多数のクローンの発生率を統計的に超え始める任意のクローンは耐性を提示する。そこで、QMクローン統計量の感受性は、凝集体統計量の感受性を超える。薬物濃度および固定観察時間間隔を前提にすると、QMにおいては第1観察間隔中に各同定されたクローンにおける発生および死滅を計数することが有用である。本システムは、発生が死滅を超えたクローンを潜在的耐性であると分類し、死滅が発生を超えたクローンを潜在的感受性であると分類する。QM法は、別個の瓶内での先行計数についての計数を維持しながら、第2時間間隔での計数を繰り返すことができる。AOAの作用時間は、死滅が発生を超えるクローンに比較して、発生が死滅を超え続ける期間によって決定することができる。
量子微生物学の情報の提示
上述したような観察されて維持される個別微生物、クローン、菌株および集団についてのデータは、生データとしては、データに依存する医療従事者にとっての有用性を限定する。データは、医療従事者が容易に解釈できる、そして治療決定を支持するフォーマットに変換されなければならない。
一般に、医療従事者は、個別微生物もしくはクローンに関する情報を有する必要はないが、菌株もしくは集団のいずれかによって配列された凝集データに関する情報を有する必要はある。さらに、この情報は、好ましくは以下を含む情報とともに提供されるべきである。
微生物の殺滅は、上述のように治療有益性を有するので、殺滅の静止もしくは倍加時間の延長からの区別、
AOAが微生物をより高速で殺滅するほど、患者の状態はより高速で改善され、耐性が発生する可能性が低くなるほど、AOA耐性の最終的除去から発生する危害が小さくなるので、殺滅の時機、
近似静止を短時間で出現する感染から識別できるので、倍加時間情報(すなわち、AOA注入寒天プレート上で出現しない微生物は静止もしくは死滅状態にあるのではなく、むしろ出現からまだ数時間しか経過していないに過ぎない)、
耐性クローンの数−すなわち、耐性微生物のクローンは明白になり、それらの存在はそれに対して集団の大多数が感受性であるAOAの存在下でさえ後に感染が出現する可能性を指示する。
この情報は膨大であり、多種多様な様々のフォーマットで医療従事者へ提供することができる。例えば、従来型耐性記録のフォーマットに類似するフォーマットで、列は個別菌株を提示することができ、行は上記からの個別パラメータ(殺滅、殺滅時間、静止、倍加時間、耐性)を提示することができ、これらは数値(すなわち、特定の数、パーセンテージ、時間)または相対数(例、±の数)のどちらかで提供できる。
耐性記録は、菌株もしくは微生物毎に情報を組織化するために特に有用である。また別の配列は、予測記録(predictogram)の使用である。「予測記録」情報では、測定された既存微生物集団ナンバー、様々なAOA濃度での時間−殺滅動態からの殺滅率、および様々なAOA濃度での倍加時間測定値からの微生物の増殖に基づいた将来的増殖からなる量的予測とともに様々な微生物およびそれらのAOAに対する感受性および特異的反応のすべてについての情報を統合フォーマットに組み込むことができる。最初に、サンプル内の微生物の全部が、時間−殺滅曲線、AOA曝露後の倍加時間、および他のパラメータによって特徴付けられる同一菌株であると考察されたい。この場合には、予測記録は、横座標に時間(一般に、時間単位で、好ましくは少なくとも48時間、およびより好ましくは96時間以上にわたる)および縦座標に生存微生物の数が時間の関数として与えられる生存微生物の数(対数目盛りを用いて書式設定できる)を備えるグラフになる。このグラフは、一定濃度のAOAに対して、またはAOA濃度プロファイルを模倣するために濃縮を行う試験装置内で微生物が惹起投与されていることを前提としてAOAの既知の薬物動態に由来するAOAの濃度に対して与えられる。経時的な微生物の数は、所与時間での微生物の数を時間−殺滅曲線およびサンプル中の各個別実体に対する指数関数的増殖曲線の合計として近似できる倍加時間と結び付けた時間−殺滅曲線から推定できるが、実体は個別微生物、クローンもしくは菌株であってよい。便宜的には、本システムは、一連の時間刻み幅としてモデリングすることもできるが、各時間刻み幅では、微生物は時間−殺滅曲線にしたがって殺滅され、微生物は倍加時間にしたがって繁殖する。
予測記録は、集団に対して全体として提示でき、または個別予測記録は各菌株に対して提示できる。予測記録は、一連のAOAに対しての結果を含むことができる、または同一AOAの様々な濃度を提示できる。予測記録は、同一軸にオーバーレイする複数のグラフを用いて提示することができ、便宜的には、様々なAOAもしくは同一AOAの様々な濃度を用いた全部のもしくは選択された亜集団の反応を示すから、様々な治療を直接的に比較できる。
または、予測記録の時間軸に沿って、各時間間隔で予測される最も優勢な微生物(例えば、全集団の10%などの少なくとも所定分画を構成すると予測される任意の微生物)に注記を付けることができる。
予測記録は、各AOAの時間−殺滅曲線を本質的に報告することに留意されたい。殺滅の動態はAOAの有効性にとって重要であるが、それは耐性微生物の生成が微生物の分割総数と比例するためである。AOAが微生物を殺滅するために多数の細胞分割を必要とする場合は、これは耐性菌株が発生する機会を増加させる。
大多数の従来型方法からの結果は微生物の倍加時間についての良好な情報を提供せず、これは経時的な微生物増殖の予測を許容しないことに留意されたい。そこで、現在の標準は、微生物培養が増殖させられる時間に関しての大まかに任意のカットオフを提示する最小発育阻止濃度である(例えば、AOAを含む寒天プレート上の微生物が無期限に増殖させられる場合は、細菌の増殖はプレート全体に現れるが、これはAOAの濃度がプレート全体に広がって、局所濃度は減少し、さらに、微生物倍加時間が長くなるが、増殖は排除されないからである)。そこで、医師に時間の関数としての微生物の殺滅ならびに時間の関数としての微生物の増殖に関する情報を提供することは、医学的治療において新規かつ重要な情報を提供する。
上記で考察したように、MICの定義は感受性試験の方法によって変動するが、一般には、微生物の増殖に強度に影響を及ぼすAOAの最小濃度を意味する。本発明では、微生物には広範囲の濃度のAOAを惹起投与し、その後にMICを多数の様々な方法で決定できる。例えば、MICは微生物の倍加時間が規定係数で増加する濃度として決定することができ、その係数は好ましくは2以上、およびより好ましくは4倍以上である。または、微生物の経時的な全増殖を決定することができ、追加の正味増殖を生じさせない濃度(殺滅、静止および倍加時間の増加の組み合わせから)は、MICであると規定できる。MICのまた別の定義は、規定期間(好ましくは1日間、より好ましくは2日間以上)にわたる微生物の総数は微生物の現在数に比較して規定係数にあるというものであるが、規定係数は1より大きい、1に等しい、もしくは1未満のいずれであってもよいが、好ましくは10未満、およびより好ましくは1未満である。1という規定係数は静止と等価であることに留意されたい。
MICの一部の尺度は連続的尺度を利用するが(例、寒天プレート上に配置される特定量の抗生物質を含有するディスク周囲の透明ゾーンの半径)、本発明の分析は、一般に離散的AOA濃度に基づいて行われる。試験された不連続濃度間に分類される特異的MICをより正確に推定するためには、入手された不連続データに基づいて内挿および外挿を実施するのが便宜的である。内挿および外挿は、一次、二次もしくは指数関数的であってよく、内挿もしくは外挿は既知の微生物サンプルを用いて実験調査によって決定される。さらに、内挿および外挿を殺滅および倍加時間における変化に関して独立して行うのが好ましいが、それは殺滅および倍加時間に関するAOAの作用は相違する可能性があり、その後に微生物増殖もしくは減少の全比率を独立数から独立して合成できる。
医学的治療における薬物選択の重要な二次的な目的は、耐性菌株を誘導もしくは選択する確率を最小限に抑えることである。1943年におけるLuria and Delbruckの独創性に富んだ論文(Genetics 28:491−511)が発表されて以降は周知のように、細菌は選択的環境において相当に急激な比率(細胞分割1回に付き約10.6〜10-9の範囲内)で突然変異する。感染性集団内での細菌細胞分割の総数は桁数で109を超えるので、耐性は治療中に自然発生的に発生すると予測できる。臨床的作用は、細菌感染において、プラスミドなどの極めて多数のタイプの移動遺伝要素の存在によって、切迫性もしくは誘導性耐性の迅速な広がりを引き起こして、拡大することができる。
このため、治療の迅速な完了は、有効な薬物を選択することとほとんど同様に重要である。QM法は、治療根絶時間およびこのために最適治療期間の計算を含むことができる。さらに、QM法は、薬物曝露の開始後のサンプル係数、殺滅率、および増殖率に基づいて、治療の全経過を通しての最も可能性のある細胞分割数を計算できる。本方法は、次にMIC、MBC、最高殺滅率、全治療細胞分割、および推定全治療期間を含む、各薬物の性能についての階層的一覧を報告することができる。本報告書は、各場合についての詳細な、臨床的に重要な耐性記録を提示する。
従来型耐性記録は、少なくとも2つの形態を有する。第1は、ASTを受けた特定微生物についてのMICおよび/またはSIRカテゴリーのリストを提示する。第2の報告書は、データ起源の時間および場所(典型的には、地域社会、病院全体、または診療科について1年間以上)にわたる感受性(もしくは耐性)単離体のパーセンテージを示す交点とともに、種および薬物のマトリックスを提示する。
QM法は、TK曲線からの殺滅動態(最高殺滅率)をさらに提供できる。SIRカテゴリーは、高い粒度および低い精度を有する。MICはより精度が高い可能性があるが、当業者には限定された予測検出力を具体化することが周知である。このために、QM法は、殺滅動態に基づく耐性記録の生成を含むことができる。
サーベイランス統計学については、QM耐性記録内の各種/薬物交点は、殺滅率クラスタによって菌株有病率のサブリスト化を提示する。これは、感染制御担当官吏に、従来型耐性記録よりも傾向および処方薬ガイダンスのはるかに完全な図式を提供する。
QM分析に本質的な高速は、より緩徐な方法を用いると可能ではない新規の診断戦略および治療最適化を可能にする。多数の能力の中でも、QMは特に個体の固有の薬物動態および薬力学的変動を転嫁する事実上のインビボTK曲線を提供する。さらに、インビボTK反応は、それらの作用をマクロファージ活性化及びその他の現象などの他の定量不能なホスト因子へ転嫁する。
これは、QM計算方法が全治療レジメンのためにその予測を調整する際にそのような作用を含むために、個別患者のインビトロモデルを調整することを可能にさせる。同様に、QMデータベースは、その統計学的モデルを持続的に改良するためにこれらの時間に基づく結果を蓄積する。
ヒト感染を引き起こす微生物の大きな分画は、臨床同定において使用される抗体によって同定されないこともまた留意されたい。これについての1つの理由は、実際的に可能であるのは限定された数の抗体もしくは他の識別子を使用することだけであるので、感染を引き起こす極めて多数の菌株が存在する。同定されないそれらの微生物については、医療専門家が可能性のある病原因子を決定するのに役立つ有用な情報を使用者に提供するのが便宜的である。この情報は、μ単位での微生物のサイズ、微生物の近似縦横比(すなわち円形もしくは長方形)、微生物の増殖のトポロジー(クラスタもしくは鎖上で、二次元もしくは三次元)、微生物の倍加速度、各AOAに対する微生物の感受性を含む画像分析プログラムから引き出された画像情報を含むことができる。さらに、医療専門家が一部の特徴的な微生物の画像を有することは特に価値がある。これらの画像はサンプルの正常分析の一部として保存できる、より好ましくは上述のパラメータについてのメジアン値もしくは様式値を提示する個別微生物もしくはクローンおよびもしかすると最適条件下の画像(例、より高い倍率、または全プロセスを特性付ける機械的分析および染色とは対照的に、視覚的検査のために特に適合するより良好な対象および方法)を選択できる個別の時点に入手できる。これらの画像は、医療専門家に印刷した形状で、またはコンピュータスクリーン上で提示することができ、そのイメージングは微生物の同定において医療専門家を支援できる。
細胞増殖の尺度としての顕微鏡検査は長い歴史を有することに留意されたい。細胞増殖を証明するための顕微鏡検査の使用の例は、J.R.Lawrence,D.R.Korber,and D.E.Caldwell(1989)“Computer−enhanced darkfield microscopy for the quantitative analysis of bacterial growth and behavior on surfaces”,J.Microbiol.Methods 10:123−138およびA.Elfwing,Y.LeMarc,J.Baryani,and A.Ballagi(2004)“Observing Growth and Division of Large Numbers of Individual Bacteria by Image Analysis”,Applied and Environmental Microbiology 70(2):675−678によって提供されている。Elfwing et al.から、細菌の増殖は、それによって娘細胞が切り取られ、細胞サイズが増加する鋸歯状の光学プロファイルを生じさせ、次に娘細胞の除去に伴って細胞サイズは突然に減少する層流下で測定できることに留意されたい。本発明では、細胞のサイズ(例、ピクセル数)に加えて、蛍光の量または光散乱の量もまた使用できる。
微生物の生育性は様々な方法によって決定することができ、生育性微生物(生体染色)ならびに死滅微生物(死細胞染色)を強調する両方の方法を含むことができる。これらの染色は、エチジウムもしくはプロピジウム染色、ヨウ化ヘキシジウム、SYTO核酸染色、7−アミニアクチノマイシン(aminiactinomycin D)、SYTOX緑色/橙色/青色核酸染色などを含むことができる。これらやその他の染色に関する優れた紹介は、www.probes.comでのMolecular Probes HandbookならびにFEMS Microbiology Letters 133(1995)における“Vigor,vitality,and viability of microorganisms”,David Lloyd,Anthony J.Hayesから入手できる。
新規微生物の存在または既存微生物のサイズの増加を検出することは有用なことがある。
量子微生物学においては、それらの生育性もしくは致死性に関して微生物を反復してインテロゲートすることが特に重要である。詳細には、上述した菌株の多くは、そのように染色されている細胞中で存続するので、繰り返しの染色を正確ではないものにする。特に重要な染色液は、細胞の活力性を示す細胞内レドックス染色液であるレザズリンである。所定の用途においてレザズリンを使用する際の困難さは、それが細胞から消散し、繰り返しもしくは連続的曝露を必要とすることである。この消散を減少させるために、細胞からの消失を減少させるためにレザズリンの変異体が開発され、頻回に使用されている。しかし本発明の用途のためには、未修飾レザズリンの消散は、細胞が存続しないので細胞の反復インテロゲーションを可能にする点で有益な特性を有する。本発明のためには、それらを1時間以内毎に、より好ましくは30分間以内毎に、または最も好ましくは15分間以内毎に再適用できる程度まで消散する生体染色および死細胞染色を使用することが好ましい。
微生物の一般的検出
一部の実施形態では、本発明の方法および組成物は、サンプル内の微生物の量を高速検出するために使用できる。増殖を使用して、その後に微生物を検出するために光学密度を監視する方法に類似して、本発明のシステムは類似であるがはるかに加速された方法で使用できる。すなわち、本明細書に記載の正の増殖を監視し、個別微生物の増殖を合計することによって、微生物の量の迅速な決定を行うことができる。
同定およびAOA感受性試験の組織化
本明細書で考察するように、本発明のアッセイは一部の例では「マトリックス」として行なわれるが、サンプルは検出表面間に分割され、個別実験(例、相違する抗菌剤もしくは相違する濃度の抗菌剤または両方)が実施される。例えば、システムは、各々がその固有の入口ポートを備える複数の「チャネル」を有することができる。そのような実施形態では、各チャネルは2つ以上の検出表面を有することができる;例えば、試験は各々が特異的検出表面を用いて、サンプル中の5種の相違する微生物の評価に向けられるが、それらは次に様々な物質および/または濃度について同時に試験される。または、検出表面上で連続実験を行うことができる;例えば、抗菌剤の濃度を増加させる工程は、それらの間に任意の洗浄を用いて、行うことができる。同様に、様々な抗菌剤を連続的に実行することができる。
一般に、各サンプルは、複数回の分析を実施できるように多数の相違するチャネルに分布させられる。各チャネル内では、少なくとも2種の相違するタイプの分析を実施できる;存在する微生物の定量および同定、ならびに抗生物質感受性の決定。治療を決定する医療従事者のためには、存在する微生物の同一性だけではなく、各タイプの微生物に関して微生物のAOA感受性を有するのが最善である。すなわち、サンプル中に一方は感受性で他方は感受性ではない2種の微生物が大まかに同じ数で存在する場合は、どちらの微生物が感受性であるのかが分かることが好ましい。
これを念頭に置くと、各チャネル内では、1パネル全体の同定が実施され、チャネルの上方では、各AOAが多数の様々な濃度にある1パネル全体の抗菌剤(AOA)が試験されることが最も好ましい。この方法で、各チャネル内の各微生物を同定し、各微生物についてAOA感受性を決定することができる。一般に、潜在的に相違する微生物の数は極めて多数であり、AOAおよび試験すべき濃度の数もまた極めて多数であるので、チャネルの数は一般には限定される。
または、本明細書に記載の方法を通してサンプル中の集団の大多数を構成する微生物が同定されると、それらの微生物に対してそれらの作用が特異的であるAOAをそのサンプルについて試験するために特異的に選択できる。これは、それらの微生物に対して特異的な極めて多数のAOA、またはより多くの濃度を試験することを可能にする。そこで、システム制御装置は、固定セットのAOAおよび濃度を有することとは対照的に、好ましくはどのAOAおよびそれらの濃度を使用すべきかを決定する能力を有する。
または、各チャネル内で、1サブセットの可能性のある同定だけを試みる、そして同定が試みられた微生物に対して各チャネル内のAOA試験が特異的であるように試験を組織化することができる。例えば、同定のために1パネルの16種の抗体(もしくは類似のマーカー)が存在し、2本のチャネルAおよびBが存在する場合は、チャネルAでは抗体のうちの8種を使用でき、チャネルBでは抗体のうちの8種を使用できる。次に、チャネルAでは、そのチャネル内で使用される同定抗体によって同定される微生物に対して特異的なAOAを試験することができ、チャネルBでは、そのチャネル内で使用された同定抗体によって同定される微生物に対して特異的なAOAを試験することができる。この方法は、各チャネル内で同定のために使用される抗体が、それらが特異的である微生物がAOA感受性の領域に分類されるように選択される場合は特に効果的である。例えば、エリスロマイシンに対して感受性である微生物に対する抗体を単一チャネル内で使用できるが、他方セファロスポリンに感受性である微生物に対する抗体を単一チャネルで使用でき、各チャネル内で各AOAによってAOA惹起投与が行なわれる。
また別の代替法は、各チャネル内で相違するAOAを使用し、さらに各チャネル内で相違するセットの同定抗体を使用する方法である。この場合には、微生物集団のどの分画がAOAの各々に対して感受性であるかを決定すること、ならびに微生物集団のどの分画が各菌株内で提示されるかを決定する(例、抗体同定を通して)ことが可能である。そこで、この情報単独によっては、感受性を任意の1つのタイプの微生物へ明白に指定することは不可能である。しかし指定は、3種の追加の情報に基づいて一時的に行うことができる。第一に、同定および感受性の数的類似性は高度に指示的な可能性がある。例えば、微生物集団の30%が菌株Aであり、微生物集団の70%が菌株Bであり、そして微生物集団の30%がAOA Xに対して感受性であり、微生物集団の70%がAOA Xに対して感受性ではない場合は、一時的に菌株AはAOA Xに対して感受性であり、菌株Bは感受性ではないと言うことができる。さらに、上記で考察したように、所定の菌株は特定AOAに対して決して感受性ではない、または常に感受性であるので、上記の例では、菌株BはAOA Xに対してほとんどもしくは全く感受性ではない場合は、これは感受性の先行指定の確証的情報を提供する。
特定菌株に対する感受性のこの指定において整理することのできる第3の情報は、本明細書のいずれかの場所に記載するように、個別微生物について観察かつ貯蔵されている物理的情報の使用である。そこで、菌株Aが「ストリング状」で増殖する1μの球状微生物であり、菌株Bが1μ×3μのロッド形微生物であり、クラスタ状で増殖する場合は、次に感受性菌株が1μの球状微生物であるように見える場合は、感受性微生物の菌株Aであるとの指定は追加の支持を獲得する。
同定およびAOA感受性試験の両方を実施するために最小数のチャネルを使用するまた別の方法は、ある期間にわたる複数回の通過を使用する方法である。サンプルの一部分は、抗体群を用いて同定が行なわれるチャネル内に配置され、そしてサンプルにはさらに複数のAOAが惹起投与される。例えば、チャネルA内では、微生物は結合抗体A、B、CおよびDを用いて同定され、チャネルB内では、微生物は結合抗体E、F、G、およびHを用いて同定され、そしてチャネルC内では、微生物は同定抗体I、J、K、およびLを用いて同定されるが、陽性同定は、陽性微生物がそれに対して抗体が特異的である4つの菌株中の1つであることしか指ない。さらに、チャネルA内の微生物にはAOA PおよびQが惹起投与され、チャネルB内ではAOA RおよびSが惹起投与され、そしてチャネルC内ではAOA XおよびYが惹起投与される。この初回通過効果の結果に基づいてその次の第2回通過では、サンプルの他の部分は初回通過において陽性結果の一部であって抗体だけを用いて同定し、それに対して感受性が見いだされたAOAだけが惹起投与される。そこで、上述の実施例では、微生物の陽性同定がチャネルA内でのみ見いだされ、AOA感受性がチャネルB内でのみ見いだされ、サンプルの他の部分上のその後の通過では、抗体A、B、CおよびDだけを用いて同定を実施し、AOA RおよびSを試験できる。この実施例では、同定および感受性の分布に基づいて、初回通過における3つのチャネルおよび第2回通過におけるチャネルは、単回通過では12以上のチャンネルである同定および感受性についての完全な情報を提供する。
本方法は、同定に関してだけ、または感受性に関してだけ使用できるが、他方の試験は単回通過において実施できることを理解されたい。さらに、複数回の通過を実施する際には、サンプル由来の微生物は、それに対して同定および感受性試験が最初は1サブセットのチャネル内でのみ試みられるチャネルの全部へ同時に導入することができる。他のチャネル内の微生物は、初回通過中にブロス内で増殖させられるので、第2回通過の開始時には、微生物は「対数期」増殖中であり、より多くの微生物が第2回通過についてのより良好な情報を提供する。
分析において使用される通過数は、3回以上であってよいが、初回通過からの情報が次の通過において使用され、複数回の通過はまた別の方法で使用できる。例えば、初回通過では、サンプル中の微生物の特異的AOAに対する全感受性を指示するために最高用量のAOAを使用できる。第2回通過では、好ましくは初回通過中に増殖させられていた微生物を用いて、有効であることが証明されたそれらのAOAに対して、様々な濃度のAOAを用いた滴定を使用すると、MIC、MBCおよびサンプル中のAOAと微生物との相互作用についてのより詳細な情報を確定することができる。
抗菌剤を含む生物活性剤についてのスクリーニング
さらに、本発明は、抗菌剤として使用できる生物活性剤をスクリーニングするための方法および組成物もまた提供する。一部の場合には、本発明の方法は高速スループットを可能にするので、これは例えば新薬開発において微生物に対する生物活性についての候補薬を試験する工程を含む。さらに、本発明の方法および組成物を使用すると物質に対する感受性について微生物をスクリーニングすることができる;例えば微生物は一部の抗菌剤に対して耐性になるので、それらは他の既知の、しかし現在は使用されていない抗菌剤に対する感受性について試験できる。
そこで、本発明は、生物活性について候補物質をスクリーニングする方法を提供する。本明細書で記載する「候補物質」は、任意の分子、例えば、本明細書で記載のように活性についてスクリーニングできるタンパク質、核酸、小有機分子、多糖などを意味している。一般に、複数のアッセイ混合物は、様々な濃度への示差的反応を入手するために相違する物質濃度を用いて並行して行なわれる。典型的には、これらの濃度の1つは、陰性コントロールとして、すなわち、ゼロ濃度もしくは検出レベル以下で機能する。
候補物質は、非常に多くの化学クラスを含むが、典型的にはそれらは有機分子であり、好ましくは100〜2,500ダルトンの分子量を有する小有機化合物である。候補物質は、タンパク質との構造的相互作用、特には水素結合のために必要な官能基を含んでおり、典型的には少なくとも1つのアミン、カルボニル、ヒドロキシルもしくはカルボキシル基、好ましくは少なくとも2つの官能性化学基を含む。候補物質は、環状炭素もしくは複素環構造および/または上記の官能基の1つまたは複数と置換された芳香族もしくは多環芳香族構造を含むことが多い。候補物質は、さらにまた特にペプチド、多糖、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、誘導体、構造的アナログもしくはそれらの組み合わせを含む生体分子の中に見いだされる。
候補物質は、合成もしくは天然化合物のライブラリーを含む極めて広範囲の起源から入手される。例えば、広範囲の有機化合物および生体分子の無作為および指定合成のためには、ランダム化オリゴヌクレオチドの発現を含む多数の手段を利用できる。または、細菌、真菌、植物および動物抽出物の形状にある天然化合物のライブラリーを入手できる、もしくは容易に生成される。または、天然もしくは合成されたライブラリーおよび化合物は、従来型の化学的、物理的および生化学的手段を通して容易に修飾される。既知の薬理学的物質は、構造的アナログを生成するためにアシル化、アルキル化、エステル化、アミド化などの化学修飾を受けさせることができる。
好ましい実施形態では、候補生物活性剤はタンパク質である。本明細書における「タンパク質」は、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチドおよびペプチドを含む、少なくとも2つの共有結合したアミノ酸を意味する。タンパク質は、天然型アミノ酸およびペプチド結合から、または合成ペプチド模倣構造から構築できる。そこで、本明細書で使用する「アミノ酸」、もしくは「ペプチド残基」は、天然型アミノ酸および合成アミノ酸の両方を意味する。例えば、ホモ−フェニルアラニン、シトルリンおよびノルロイシンは、本発明のためのアミノ酸と見なされる。「アミノ酸」は、プロリンおよびヒドロキシプロリンなどのイミノ酸残基もまた含む。側鎖は(R)もしくは(S)立体配置のいずれかであってよい。好ましい実施形態では、アミノ酸は(S)もしくはL−立体配置にある。非天然型側鎖が使用される場合は、例えばインビボ分解を防止もしくは遅延させるために、非アミノ酸置換基を使用できる。
好ましい実施形態では、候補生物活性剤は、天然型タンパク質または天然型タンパク質のフラグメントである。そこで、例えば、タンパク質、またはタンパク質性細胞抽出物の無作為もしくは指定消化物を含有する細胞性抽出物を使用できる。この方法で、本明細書に記載のシステムにおいてスクリーニングするために原核細胞および真核細胞タンパク質のライブラリーを作製できる。この実施形態において特に好ましいのは、細菌、真菌、ウイルス、および哺乳動物タンパク質のライブラリーであるが、後者が好ましく、ヒトタンパク質が特に好ましい。
好ましい実施形態では、候補生物活性剤は約5〜約30アミノ酸のペプチドであり、約5〜約20アミノ酸が好ましく、さらに約7〜約15が特に好ましい。ペプチドは、上述のように天然型タンパク質の消化物、ランダムペプチド、または「バイアス」ランダムペプチドであってよい。本明細書における「無作為化」もしくは文法上の同等物は、各核酸およびペプチドが本質的に各々ランダムヌクレオチドおよびアミノ酸から構成されることを意味している。一般にこれらのランダムペプチド(もしくは以下で考察する核酸)は化学合成されるので、それらは任意の位置で任意のヌクレオチドもしくはアミノ酸に組み込むことができる。配列の全長にわたって可能性のある組み合わせの全部もしくは大多数の形成を可能にするために、したがって1ライブラリーのランダム化タンパク質性候補生物活性剤を形成する目的で、ランダム化タンパク質もしくは核酸を生成する合成プロセスを設計できる。
1つの実施形態では、ライブラリーは完全にランダム化され、任意の位置での配列優先性もしくは不変性は存在しない。好ましい実施形態では、ライブラリーは偏向している。すなわち、配列内の一部の位置は一定に保持される、または限定数の可能性から選択される。例えば、好ましい実施形態では、ヌクレオチドもしくはアミノ酸残基は、例えば疎水性アミノ酸、親水性残基、立体的に偏向した(小もしくは大)残基の規定クラス内で、システインの作製に向けて、SH−3ドメインのためのプロリン、セリン、トレオニン、リン酸化部位のためのチロシンもしくはヒスチジンなどをプリンなどへ架橋結合させるのために無作為化される。
好ましい実施形態では、以下でより十分に記載するように、候補物質は、ランダム化タンパク質(バイアス化タンパク質もしくは融合パートナーを備えるタンパク質を含む)またはcDNAライブラリーもしくはフラグメント化(無作為フラグメント化cDNAライブラリーを含む)などのcDNAライブラリー由来のライブラリーの発現産物のいずれかである。これらは、これらのタンパク質をコードする核酸として細胞に加えられる。当業者には理解されるように、これらのcDNAライブラリーは全長もしくはフラグメントであってよく、インフレーム(in−frame)、アウトオブフレーム(out−of−frame)またはアンチセンスストランドから読み取ることができる。
好ましい実施形態では、候補生物活性剤は核酸である。本明細書における「核酸」もしくは「オリゴヌクレオチド」もしくは文法上の同等物は、共有結合した少なくとも2つのヌクレオチドを意味する。本発明の核酸は一般にホスホジエステル結合を含有するが、一部の場合には、以下で記載するように、例えばホスホルアミドを含むまた別の主鎖を有する可能性がある核酸アナログが含まれる(Beaucage,et al.,Tetrahedron,49(10):1925(1993)およびその中の参考文献;Letsinger,J.Org.Chem.,35:3800(1970);Sprinzl,et al.,Eur.J.Biochem.,81:579(1977);Letsinger,et al.,Nucl.Acids Res.,14:3487(1986);Sawai,et al.,Chem.Lett.,805(1984),Letsinger,et al.,J.Am.Chem.Soc,110:4470(1988);およびPauwels,et al.,Chemica Scripta,26:141(1986))、ホスホロチオエート(Mag,et al.,Nucleic Acids Res.,19:1437(1991);および米国特許第5,644,048号)、ホスホロジチオエート(Briu,et al.,J.Am.Chem.Soc,111:2321(1989))、O−メチルホスホロアミダイト連鎖(Eckstein,Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approach,Oxford University Press参照)、ならびにペプチド核酸主鎖および連鎖(Egholm,J.Am.Chem.Soc.,114:1895(1992);Meier,et al.,Chem.Int.Ed.Engl.,31:1008(1992);Nielsen,Nature,365:566(1993);Carlsson,et al.,Nature,380:207(1996)参照。上記は全部が参照して組み込まれる)。その他のアナログ核酸には、ポジティブ主鎖(Denpcy,et al.,Proc Natl.Acad.Sci.USA,92:6097(1995));非イオン性主鎖(米国特許第5,386,023号;第5,637,684号;第5,602,240号;第5,216,141号;および第4,469,863号;Kiedrowshi,et al.,Angew.Chem.Intl.Ed.English,30:423(1991);Letsinger,et al.,J.Am.Chem.Soc,110:4470(1988);Letsinger,et al.,Nucleoside & Nucleotide,13:1597(1994);Chapters 2 and 3,ASC Symposium Series 580,“Carbohydrate Modifications in Antisense Research”,Ed.Y.S.Sanghui and P.Dan Cook;Mesmaeker,et al.,Bioorganic & Medicinal Chem.Lett,4:395(1994);Jeffs,et al.,J.Biomolecular NMR,34:17(1994);Tetrahedron Lett.,37:743(1996)参照)ならびに米国特許第5,235,033号および第5,034,506号、ならびにChapters 6 and 7,ASC Symposium Series 580,“Carbohydrate Modifications in Antisense Research”,Ed.Y.S.Sanghui and P.Dan Cook.に記載された非リボース主鎖が含まれる。1つまたは複数の炭素環式糖を含有する核酸もまた、核酸の定義内に含まれる(Jenkins,et al.,Chem.Soc.Rev.,(1995)pp.169−176参照)。数種の核酸アナログは、Rawls,C&E News,June 2,1997,page 35に記載されている。これらの参考文献は全部が本明細書に明示的に参照して組み込まれる。これらのリボース−リン酸塩主鎖の修飾は、標識などの追加の成分の添加を促進するため、または生理学的環境内でのそのような分子の安定性および半減期を増加させるために行うことができる。さらに、天然型核酸およびアナログの混合物を作製できる。または、相違する核酸アナログの混合物、および天然型核酸およびアナログの混合物を作製できる。核酸は、規定されたように一本鎖もしくは二本鎖であってよく、または二本鎖もしくは一本鎖配列の両方の部分を含有していてよい。核酸は、ゲノムおよびcDNA両方のDNA、RNAまたはハイブリッドであってよいが、核酸はデオキシリボ−およびリボ−ヌクレオチドの任意の組み合わせ、およびウラシル、アデニン、チミン、シトシン、グアニン、イノシン、キサタニン、ヒポキサタニン、イソシトシン、イソグナニンなどを含む塩基の任意の組み合わせを含有していてよい。
タンパク質について一般に上述のように、核酸候補生物活性剤は、天然型核酸、ランダム核酸、もしくは「バイアス」ランダム核酸であってよい。例えば、原核細胞もしくは真核細胞ゲノムまたはcDNAライブラリーの消化物は、タンパク質について上述のように使用できる。
好ましい実施形態では、候補生物活性剤は有機化学成分であり、広範囲の生物活性剤は文献から入手できる。
好ましい実施形態では、1ライブラリーの相違する候補生物活性剤が使用される。好ましくは、このライブラリーは、特定標的への結合を可能にするために確率的に十分な範囲の多様性を有効にするために十分に構造的に多用なランダム化物質の集団を提供するはずである。したがって、相互作用ライブラリーは、そのメンバーのうちの少なくとも1つが標的に対する親和性を与える構造を有するために十分に大きくなければならない。相互作用ライブラリーの必要とされる絶対サイズを評価するのは困難であるが、自然は免疫反応についてのヒントを提供する。107〜108の相違する抗体の多様性は、1つの微生物が向かい合う最も可能性のある抗原と相互作用するために十分な親和性を備える少なくとも1つの組み合わせを提供する。公表されたインビトロ選択技術もまた、標的に対する親和性を備える構造を見いだすためには107〜108のライブラリーサイズが十分であることを証明している。本明細書で一般に提案したような、7〜20アミノ酸長のペプチドの全組み合わせのライブラリーは、207(109)〜2020をコードする可能性を有する。そこで、107〜108の相違する分子のライブラリーを用いると、本方法は、理論的には7アミノ酸についての完全相互作用ライブラリーの「有効」サブセット、および2020ライブラリーについての形状のサブセットを許容する。そこで好ましい実施形態では、少なくとも106、好ましくは少なくとも107、より好ましくは少なくとも108、および最も好ましくは少なくとも109種の相違する配列が本方法において同時に分析される。好ましい方法は、ライブラリーのサイズおよび多様性を最大化する。
一般に、活性物質についてのスクリーニングは、一般的試験について本明細書で記載のように進行し、増殖の変調(正の増殖、中間の増殖および負の増殖を同様に含む)は生物活性のインジケータとして機能する。
バイオセンサ構成成分
本発明は、一般にバイオセンサカートリッジおよび検出システムを含む標的微生物を検出するための器具を提供する。
バイオセンサカートリッジ
本発明のバイオセンサカートリッジは、様々なフォーマットを取ることができる。一般に、カートリッジは、表面間でのチャンバもしくはモジュールの形成を可能にするためにスペーサによって分離された、第1「上部」基質および第2「底部」基質からなる。液体導入もしくは抜去のためのポート、電気連結部などは、全部が同様にカートリッジの一部であってよい。
基質
本発明のバイオセンサカートリッジは、少なくとも1つの固体基質を含むことができる。固体基質は、広範囲の物質から作製することができ、本明細書で考察するように、そして当業者には明白であるように、多数の方法で構成することができる。さらに、単一器具が2つ以上の基質から構成されてよい;例えば、個別「検出」カセットと界面を接する「サンプル処置」カセットがあってよい;生サンプルがサンプル処置カセットに加えられ、検出のためにサンプルを調製するために操作され、サンプルはサンプル処置カセットから取り出されて検出カセットに加えられる。その中に器具が適合する追加の機能的カセットが存在してよい;例えば、微生物の増殖などの反応を実行するためにサンプルカセットと接触させて配置される加熱素子。一部の場合には、基質の一部分は取り外し可能であってよい;例えば、サンプルカセットは、サンプルカセット全体が検出装置と接触させられないように、着脱式検出カセットを有してよい。
固体基質の組成は、器具を作成するために使用される技術、器具の使用、サンプルの組成、検出対象の分析物、ウエルおよびマイクロチャネルのサイズ、電子構成成分の存在もしくは不在などを含む様々な要素に依存する。一般に、本発明の微生物接触器具は、容易に滅菌可能であり、同様に使い捨てでなければならない。
好ましい実施形態では、固体基質は、シリコンウエハ、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、ガラスおよび石英ガラスなどのシリコン、ヒ化ガリウム、リン化インジウム、アルミニウム、セラミック、ポリイミド、石英、ポリメチルメタクリレート、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン及びその他のスチレンコポリマー、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、を含むプラスチック、樹脂、ならびにポリマー、超合金、ジルカロイ、スチール、金、銀、銅、タングステン、モリブデン、タンタル、KOVAR、KEVLAR、KAPTON、MYLAR、真鍮、サファイアなどを含むがそれらに限定されない広範囲の物質から作製できる。高融点ホウケイ酸塩もしくは石英ガラスなどの高品質ガラスは、任意のサンプル操作工程が光線に基づく技術を必要とする場合には、それらのUV透過特性のために好ましいことがある。さらに、本明細書に記載するように、本器具の内面の部分は、非特異的結合を減少させるため、結合リガンドの結合を可能にするため、生体適合性のため、流動抵抗性のために必要に応じて様々なコーティング剤でコーティングすることができる。例えば、実施例のセクションで記載するように、OPTICHEMなどの耐性コーティング剤を使用できる。
好ましい実施形態では、固体基質は、複数の標的微生物を含有する可能性のある単一サンプルを取り扱うために構成される。すなわち、単一サンプルが本器具に加えられ、サンプルは微生物を検出するための並行プロセッシングのためにアリコート化されてよい(図1参照)、またはサンプルは個別標的が連続方法で検出されるように連続的にプロセッシングされてよい。さらに、サンプルは、定期的に、または直列形でのサンプリングのために相違する場所から取り出すことができる。
好ましい実施形態では、固体基質は、それらの各々が1つまたは複数の標的微生物を含有する可能性のある複数サンプルを取り扱うために構成される。例えば、図1を参照されたい。一般に、この実施形態では、各サンプルは個別に取り扱われる;すなわち、操作および分析は、好ましくはそれらの間の接触もしくは汚染を伴わずに並行して実施される。または、一般にいくつかの工程があってよい;例えば、単一検出表面上で相違するサンプルを個別に処理するが、標的分析物の全部を検出することが望ましいことがある。
さらに、本明細書における考察の大部分はマイクロチャネルおよびウエルを備える平面的基質の使用に向けられるが、他の形状もまた同様に使用できる。例えば、1つの平面内もしくは複数の平面間を流動するマイクロチャネルを含有することのできる三次元器具を生成するために2つ以上の平面的基質を積み重ねることができる。ウエルは、より大きなサンプル容積を可能にするために2つ以上の基質に渡ってよい。そこで、例えばマイクロチャネルを含有するために基質の両面をエッチングすることができる;例えば、どちらも本明細書に参照して組み込まれる米国特許第5,603,351号および第5,681,484号を参照されたい。
電極
本明細書での「電極」は、電子機器に接続すると、電流もしくは電荷を感知し、それを信号に変換できる組成物を意味する。好ましい電極は当分野において知られており、金;白金;パラジウム;シリコン;アルミニウムを含む所定の金属およびそれらの酸化物;酸化白金、酸化チタン、酸化スズ、インジウムスズ酸化物(ITO)、酸化パラジウム、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化モリブデン(Mo2O6)、酸化タングステン(WO3)および酸化ルテニウム;ならびに炭素を含む金属酸化物電極(ガラス状炭素電極、グラファイトおよびカーボン・ペーストを含む)を含むがそれらに限定されない。ITO電極は光学的に透明性である可能性があるので、光学検出を利用する用途において特に有用である。
本明細書に記載の電極は平坦な表面として図示されているが、これは電極の可能性のある立体構造の1つに過ぎず、略図を示すためだけである。電極の立体構造は、使用する方法に伴って変動する。例えば、光学検出方法のため、または合成の容易さのためには平坦な平面状電極が好ましいことがある。
マイクロチャネル
一部の実施形態では、本発明の器具は、カートリッジ内でのサンプルのカートリッジ構成成分間の流動を可能にするため、または本発明の検出表面を収容するために機能するためのいずれかで使用される少なくとも1つのマイクロチャネルもしくはフローチャネルを含む。例えば、前者では、マイクロチャネルはサンプルをサンプル入口ポートからシステムの他の構成要素もしくはモジュールへ流動させるために使用できる。当業者には明確に理解されるように、フローチャネルは、チャネルの使用に依存して、広範囲の方法で構成できる。例えば、サンプル入口ポートで始まる単一フローチャネルは、並行プロセッシングもしくは分析のために最初のサンプルが別個のサブサンプルへ分割されるように、様々なより小さなチャネルに分離することができる。
または、相違するモジュール、例えばサンプル入口ポートおよび試薬貯蔵モジュールのようないくつかのフローチャネルは、混合チャンバまたは反応チャンバ内へ一緒に供給できる。当業者には明確に理解されるように、極めて多数の構成が考えられる;重要であるのは、フローチャネルがサンプルおよび試薬が器具の1つの部分から他の部分へ移動するのを許容することである。例えば、フローチャネルの路長は必要に応じて変化させることができる;例えば、混合および定期的反応が必要とされる場合は、より長い、そして時々は蛇行性のフローチャネルを使用できる。
追加の実施形態では、カートリッジは、検出表面を収容する1つまたは複数のマイクロチャネルを含む。例えば、図1は、各々が複数の検出表面を備える、複数のマイクロチャネルを備えるカートリッジを示している。図4は、各々が単一検出表面を備える、複数のマイクロチャネルを備えるカートリッジを示している。
モジュール
フローチャネルシステムに加えて、本発明の器具は、本明細書ではその使用に依存して任意の所与の器具上に存在する「モジュール」と呼ぶ1つまたは複数の様々な構成要素を含むように構成できる。これらのモジュールには、サンプル入口ポート;サンプル導入もしくは収集モジュール;細胞取り扱いモジュール(例えば、細胞除去、細胞濃縮、細胞分離もしくは捕捉、細胞増殖など);例えば電気泳動、誘電泳動、ゲル濾過、イオン交換/親和性クロマトグラフィ(捕捉および放出)などのための分離モジュール);サンプルの化学的もしくは生物学的変化のための反応モジュール;微生物の表面上での成分の化学的、物理的もしくは酵素的開裂、またはこれらの成分の化学修飾;流体ポンプ;流体弁;加熱および冷却のための熱モジュール;アッセイ試薬用の貯蔵モジュール;混合チャンバ;および検出モジュールが含まれるがそれらに限定されない。
好ましい実施形態では、本発明の器具は、サンプルを器具へ導入するために少なくとも1つのサンプル入口ポートを含む。これはサンプル導入もしくは収集モジュールの一部もしくは別個であってよい;すなわち、サンプルは分離チャンバ内へのサンプル入口ポート内へ、もしくはサンプル入口ポートから直接的に供給できる、またはサンプル収集ウエルもしくはチャンバ内で前処理できる。
好ましい実施形態では、本発明の器具は、必要であればサンプルを濃縮もしくは富裕化するために使用できるサンプル収集モジュールを含む;例えば富裕化チャネルおよび富裕化手段の考察を含む米国特許第5,770,029号を参照されたい。
好ましい実施形態では、細胞取り扱いモジュールは細胞分離もしくは捕捉モジュールを含む。この実施形態は、サンプル集団からの特定タイプの細胞、例えば染色体核酸を分析するための白血球、またはサブセットの白血球の選択的分離(もしくは除去)を可能にするために可逆的に細胞表面分子に結合できる結合部位を含む細胞捕捉領域を利用する。これらの結合成分は、物理的吸収または共有結合によって、モジュールの表面上または分子内に捕捉された粒子(すなわち、ビーズ)上のどちらかに固定することができる。適切な結合成分は、単離もしくは除去すべき細胞タイプに依存する。そして一般には、抗体および細胞表面受容体などのリガンドなどの他の結合リガンドを含む。そこで、特定細胞タイプはその後の取り扱いに先行してサンプルから取り除くことができる、または所望の細胞タイプへ特異的に結合し、望ましくない細胞タイプを洗浄して取り除き、その後に試薬もしくは溶媒の添加、物理的除去(すなわちより高い流速もしくは圧力)、またはインサイチュー溶解さえによる結合細胞の放出が続くアッセイが設計される。
または、細胞「ふるい」を使用すると、サイズに基づいて細胞を分離できる。これは、サイズ排除を可能にする表面からの突出部、一連の細いチャネル、堰、またはダイアフィルトレーションタイプのセットアップを含む様々な方法で実施できる。
好ましい実施形態では、細胞取り扱いモジュールは細胞除去モジュールを含む。これは、サンプルがアッセイにおいて必要とされない、もしくは望ましくない細胞を含有する場合に使用できる。一般に、細胞除去は、細胞取り扱いモジュールから出て行く、細胞には小さ過ぎるチャネルを用いて、上述した「ふるい分け」のようにサイズ排除に基づいて実施される。
好ましい実施形態では、細胞取り扱いモジュールは本明細書に記載の細胞濃縮モジュールを含む。
好ましい実施形態では、本発明の器具は反応モジュールを含む。これは、1つまたは複数のサンプル構成成分の物理的、化学的もしくは生物学的変化のいずれかを含むことができる。
ポンプ
好ましい実施形態では、本発明の器具は少なくとも1つの流体ポンプを含む。ポンプは、一般には2つのカテゴリーに分類される。「オンチップ」および「オフチップ」;すなわち、ポンプ(一般には電極に基づくポンプ)は器具自体の中に含めることができる、またはそれらは流体のポンプ送達を可能にするために必要とされるフローチャネルのアライメントが発生するように、その中に器具が適合する装置に含めることができる。
好ましい実施形態では、ポンプは器具自体に含有される。1つの態様では、ポンプは電極に基づくポンプである;すなわち、電界を適用するとサンプルおよび器具の組成に依存して、荷電粒子およびバルク溶媒の両方を移動させることができる。適切なオンチップポンプには、電気浸透(EO)ポンプおよび電気流体力学(EHD)ポンプが含まれるがそれらに限定されない。これらの電極に基づくポンプは、当分野においてはときどき「界面動電的(EK)ポンプ」と呼ばれてきた。これらのポンプ全部は、サンプル構成成分を含む流体のポンプ送達を生じさせるためにフローチャネルに沿って配置された電極の構成に基づいている。当分野において記載されているように、これらの電極に基づくポンプの各々についての構成はわずかに相違する;例えば、EHDポンプの有効性は2つの電極間の間隔に左右され、それらの間がともに近ければ近いほど、流体流れを発生させるため必要とされる電圧が小さくなる。または、EOポンプについては、流体が移動させられるチャネルの長さの半分までは電極間の間隔が大きくなるはずであるが、それは電極は力を適用する際にのみ関係し、EHDにおけるようにその上に力が作用する電荷を作製する際には関係していないからである。
好ましい実施形態では、電気浸透ポンプが使用される。電気浸透(EO)は、石英、ガラスその他を含む多数の固体の表面が、イオン性物質の存在下では、負もしくは正に、様々な荷電されるという事実に基づいている。荷電表面は、水溶液中で反対に荷電した対イオンを引き付ける。電圧の印加は反対に荷電した電極への対イオンの移動を生じさせ、同様に流体のバルクを移動させる。体積流量率は電流に比例し、流体内で発生する容積流量もまた印加電圧に比例する。電気浸透流は、一部の導電性を有する液体のために有用であり、非極性溶媒に対しては一般に適用できない。EOポンプは、参照して組み込まれる米国特許第4,908,112号および第5,632,876号、PCT US95/14586およびWO97/43629に記載されている。
好ましい実施形態では、電気流体力学(EHD)ポンプが使用される。EHDでは、電極は、流体と接触している電極が、電圧が印加されると電荷を移動させる。この電荷移動は、液体流が荷電している電極から反対に荷電している電極への方向に発生するように、流体へ、または流体からの電子の移動もしくは除去のいずれかによって発生する。EHDポンプを使用すると、非極性溶媒などの抵抗性流体をポンプ送達できる。EHDポンプは、本明細書に参照して組み込まれる米国特許第5,632,876号に記載されている。
好ましい実施形態では、微小機械的ポンプが、当分野において既知のように、オンチップもしくはオフチップのいずれかで使用される。
好ましい実施形態では、「オフチップ」ポンプが使用される。例えば、本発明の器具は、ポート(すなわち、サンプル入口ポート、流体入口ポート、および廃棄物出口ポート)および電極リードを記録できる、器具を保持するためのネスティング部位を有する装置もしくはアプライアンスの中に適合することができる。この装置は、サンプルを器具に適用できるポンプを含むことができる。そのようなポンプは、当分野において周知である。
好ましい実施形態では、本発明の器具は、器具のモジュール内もしくは外への流体の流れを制御できる、または1つまたは複数のチャネル内へ流れを転換することのできる少なくとも1つの流体弁を含む。当分野では、様々な弁が知られている。例えば、1つの実施形態では、弁は参照して組み込まれるPCT US97/07880に概して記載されたキャピラリー障壁を含むことができる。この実施形態では、チャネルは開口部でのメニスカスなどの液体表面を最小限に抑えるエネルギーを形成するために好都合に機能するように設計されたより大きな空間に開口している。好ましくは、キャピラリー衝撃は、チャンバなどのより大きな空間に開口する直前にチャネルの垂直高さを上昇させるダムを含む。さらに、参照して本明細書に組み込まれる米国特許第5,858,195号に記載されたように、「仮想上の弁」のタイプを使用できる。
好ましい実施形態では、本発明の器具は、サンプルを含む流体を本発明のいずれかのモジュール内に導入させ、引き続いてサンプルの消失を回避するためにポートを閉鎖できる密閉ポートを含む。
好ましい実施形態では、本発明の器具はアッセイ試薬用の少なくとも1つの貯蔵モジュールを含む。これらはフローチャネルを用いてシステムの他のモジュールへ接続され、ウエルもしくはチャンバ、または長いフローチャネルを含むことができる。それらは、インラインの流れ、貯蔵、希釈、および選択的分注を用いて復元できる乾燥試薬を含む、任意の数の試薬、バッファ、酵素、レドックスメディエータ、抗菌剤、塩を含有することができる。
1つの態様では、複数の貯蔵モジュールは、染色(例、死細胞染色、特異的結合リガンドなど)を含む、複数の相違する抗菌剤及びその他の試薬を必要に応じて貯蔵するカートリッジ上で使用される。
好ましい実施形態では、本発明の器具は混合モジュールを含む;貯蔵モジュールと同様に、これらは長いフローチャネル(特に定期的混合のために有用)、ウエルもしくはチャンバであってよい。特に長いフローチャネルの場合には、混合を引き起こすためにチャネルの側面に突起部があってよい。
好ましい実施形態では、本発明の器具は検出モジュールを含む。本明細書に記載するように、一般には標識の存在もしくは不在を含む、本発明のアッセイを行うことのできる数種の基本的方法がある。
バイオセンサの製造
本発明の器具は、当業者には理解されるように、様々な方法がある。例えば、全部が参照して本明細書に組み込まれる、流体密封性電線用導管の作製に向けられているWO96139260;シーリングに向けられている米国特許第5,747,169号;EP 0637996 131;EP 0637998 1311;WO96/39260;WO97/16835;WO98/13683;WO97/16561;WO97/43629;WO96/39252;WO96/15576;WO96/15450;WO97/37755;およびWO97/27324;ならびに米国特許第5,304,487号;第5,071,531号;第5,061,336号;第5,747,169号;第5,296,375号;第5,110,745号;第5,587,128号;第5,498,392号;第5,643,738号;第5,750,015号;第5,726,026号;第5,35,358号;第5,126,022号;第5,770,029号;第5,631,337号;第5,569,364号;第5,135,627号;第5,632,876号;第5,593,838号;第5,585,069号;第5,637,469号;第5,486,335号;第5,755,942号;第5,681,484号;および第5,603,351号を参照されたい。適切な作製技術もまた基質の選択に依存するが、好ましい方法には、例えばスピンコーティング、化学蒸着、レーザー作製、フォトリソグラフィーおよび湿式化学プロセスもしくはプラズマプロセスのいずれかを使用する他のエッチング技術、エンボス加工、インジェクションモールディングおよび結合技術を含む様々な微小機械加工および超微細加工技術が含まれるがそれらに限定されない(例えば、参照して本明細書に組み込まれる米国特許第5,747,169号を参照されたい)。
検出システム
散乱、蛍光、アップコンバーティング蛍光体、量子ドットもしくは他のインジケータ、さらに表面プラズモン共鳴(SPR)と結び付けた共焦点顕微鏡検査を含む多数のリアルタイム検出方法は、本発明の精神の中で便宜的である。共焦点顕微鏡検査は、極めて浅い視野深さを利用するので、表面から離れた対象物は焦点外になり、光線エネルギーは空間濾過を通して分散または減少させられる。同様に浅い視野深さを有する高開口数対物レンズを用いる、共焦点イメージングに類似するイメージングもまた可能である。表面プラズモン共鳴は、ガラスの上面が便宜的には金色である反射性の金属表面でコーティングされている、上述したような単一反射非導波管構造を用いる検出に類似する構成要素の配列を使用する。この場合には、金色によって反射される光線の量は、検出表面に結合した微生物に結合した物質の存在によって影響を受ける。表面プラズモン共鳴は、金色表面が反射表面として、ならびに反応加速および結合力識別に使用するための電極の両方として機能できる点で、本発明に良好に適合する。
上記の方法は、結合している標的だけを視認できるので、未結合微生物の存在下でさえ検出表面に結合している微生物を視認して識別できるという長所を有する。しかし照明器具および検出器のまた別の配列も、未結合微生物が、それに入れて微生物が提供される溶液の除去(例えば、以下で示す細菌検出用のチャンバの場合)、または別の領域内の微生物を隔離することのいずれかによって検出領域から除去できることを前提にすると、本発明の精神の中にさらに含まれる。後者の方法は、例えば、検出器および/または照明器具のいずれの光路内にもないまた別の電極への微生物の電気泳動を含むことができる。
本発明の範囲内で利用できる一部の配列は、内部間隙を越えて相互に面しているこれらの基質上の電極を備える2つの平行な基質(下部および上部基質)を参照すると理解することができる。そこで本発明者らは、底部から上部までに4つの相違する表面を規定できる−下部底面、上部底面(すなわち、その上にプローブが配置される電極を備える)、下部上面(すなわちプローブが配置されない電極を備える)および上部上面。検出器は、一般には下部底面の下部または上部上面の上方に置かれる(すなわち、検出器は2つの基質間の間隙内には存在しない)。
検出器が下部底面の下方にある場合は、上部底面上の電極は、表面プラズモン共鳴の場合を除いて一般に透明である。表面プラズモン共鳴の場合には、検出器は同様に下部底面の下方になければならない。照明は、下部底面の下方から底部基質電極を通過し、後方散乱光、エバネッセント光(上部底面の外へ反射する)、または蛍光体、アップコンバーティング蛍光体もしくは量子ドットを励起することが意図される光線のいずれかを発生してよい。または、照明は、上述のように底部基質内からであってもよい。同様に、照明は2つの基質間の間隙内からであってよく、一般には光散乱適用のためにはこれが最善である。または、照明は、上部上面の上方から、上部基質、間隙を通過して、そこで標的もしくはタグ付き標的と相互作用する上部底面へ移動してもよい。それらの場合には、同様に、検出器は散乱光(例、前方散乱光)もしくは蛍光体、アップコンバーティング蛍光体、もしくは量子ドットを検出できる、またはサンプルを明視野、暗視野、位相差もしくは他の形態の顕微鏡イメージングについて視認できる(一般には集光器具からの光線を使用する)。
検出器が上部上面の上方にあり、タグ付き標的からの光線を受信する場合は、この場合には上部底面上の電極が透明である必要はないが、他方下部上面上の電極は透明でなければならない。上部底面が不透明である場合は、照明は電極表面の上方から発生しなければならない、または化学発光を用いて発生するようにタグ付き標的で発生しなければならない。不透明な上部底面を用いる場合は、照明はキャップ内にあってよいが(おそらく散乱光分析のために)、さもなければおそらく蛍光体、アップコンバーティング蛍光体、もしくは量子ドットのために散乱光もしくは励起照明であってよい。しかし上部底面上の電極が透明である場合は、光線は上述したようなエバネッセント波照明による場合を含めて、光線は下方から透過される可能性がある。
検出器は一般には撮像装置(例、CCDもしくはCMOSカメラ)であるが、検出器はPMTもしくは他の集光器具を備えるレーザースキャナを含むこともできる。所定の場合には、検出器は拡散性照明を伴う一般的集光器具(PMT、光ダイオード、フォトレジスタ)もまた必要とすることがある。後者の場合は、以下で考察するように、主として1つの領域全体で平均化されたシグナルが適切なシグナルを提供する場合に使用される。
CCDもしくはCMOSカメラを使用する場合は、情報は、一般には8〜12ビットのグレースケールでピクセル毎に入手されるが、所定の場合には(例えば相違する標的に対して色分けされたインジケータを用いる)カラー画像を使用することもできる。個別標的結合事象を記録するのが有用もしくは重要である場合には、2つの操作モードを使用できる可能性がある。第1モードでは、標的結合は、ピクセルの1分画だけが1つのシグナルで記録されて大多数のピクセルはバックグラウンドレベルにあるように限定されるので、1ピクセルでのバックグラウンドレベルからバックグラウンドレベルを有意に超えるレベルへの変化は結合事象を表示する。標的(および/またはそのタグ)のサイズに依存して、単一結合事象は多数の相違する連続ピクセルでバックグラウンドを超えるシグナルにおける増加に対応する可能性がある(大多数の画像処理ソフトウエアは、連続ピクセルの領域を個別「事象」へ一緒に分類できるルーチンを有する。この場合には、本システムのダイナミックレンジは、100未満の標的や1つという少数の標的(そして少数の標的の統計的変動によって限定される)から、大まかにはカメラにおけるピクセル数÷1標的当たりの平均ピクセル数(下限を用いて)÷シグナルのほぼバックグラウンドレベルを備える領域上に配置されるのではなくむしろ新規標的が現行標的におそらく重複する「飽和点」であるおよそ10の計数に及ぶ。5メガピクセルを備えるカメラ、および約2ピクセルにわたる標的については、これは大まかには10〜250,000の標的にわたるダイナミックレンジ、もしくは25,000のダイナミックレンジに相当する。この範囲は、多くの用途にとって適正であり、より大きなダイナミックレンジが必要とされる用途においては、複数回希釈を使用できる。
第2モードでは、1ピクセル内の単一標的と相違する数の標的間の差を識別できる。例えば、シグナルが8ビットピクセル、256レベルを用いて測定され、バックグラウンドシグナルが12である場合、シグナル結合事象の平均値は62となり、同一ピクセル内の2つの標的の平均値は112となる。この場合、ダイナミックレンジははるかに高くなり、大まかにはピクセル数×識別できるレベル数÷1標的当たりの平均ピクセル数(1つの下限を用いて)÷追加の標的結合がピクセル飽和レベルを超える有意なピクセル数においてレベルを上昇させる飽和を表す約10の係数となる。識別可能な5レベルおよび1標的当たりの平均ピクセル数が1であるこの場合には、ダイナミックレンジは、それでも大まかには最小10(統計学的考察によってのみ限定される)であるが、上方レベルは今度はおよそ250万、もしくは以前の実施例からのさらに10倍のダイナミックレンジへ拡大する。この第2操作モードを用いた場合に遭遇する困難は、画像分析に基づいて特異的結合を非特異的結合から識別することがますます困難になることである−どちらも、平均すると各標的はより少数のピクセルにわたるため、および相違するレベル間のコントラストが一般に不良であるためである。
これらの方法は個別結合事象を識別できるが、有意な非特異的結合もしくは他の形態の雑音が存在する場合に個別結合事象の計数を行えることの最大の価値があることに留意されたい。例えば、低レベルのバックグラウンド雑音が大きな領域にわたって合計されると大きな雑音シグナルを含む可能性があるので、それに対してバックグラウンドを超えることを証明するためには大量の特異的シグナルが必要とされる。しかしシグナルが一般にバックグランドよりもはるかに大きい場合には、シグナル合計法を使用するのが便宜的であり、シグナルは各ピクセルでのシグナル値を加えることによって、または光ダイオードもしくはフォトレジスタもしくは光電子増倍管(PMT)の使用などの類似の合計技術を用いて合計される。
視認できるインジケータによるリアルタイム監視のためにはITOもしくは他の透明な電極材料が好ましいが、これはカソードおよびアノードの両方をITOから構成する必要があることを意味していないことに留意されたい。他の例では、電極のうちの1つは、反応セル内への観察を可能にするために透明であるのが好ましいことがあるが、他方の電極は比較的に非反応性の、金または電気泳動法において安定性である白金、パラジウム、もしくはインジウムなどの高融点金属などの不透明電極であるのが好ましい。これらの場合には、金属電極内の抵抗性は極めて小さくなり、これは上方の不均質性の作用を減少させることができ、さらに金属電極上の電位はITO電極上と同一の有害作用を有しておらず(例えば白金電極を用いる)、セル内でより高い電位を使用することを可能にする。または、一方の電極が金でコーティングされていて、両方の電極が不透明性であってもよい。この場合には、検出は、表面プラズモン共鳴によって光学的に行うことができる。
本発明による競合システムを含む多数の構成要素があり、微生物上で電気泳動力を誘導かつ制御する電極間の電位差を確立するための電力制御装置、照明器具、検出器、および検出器からの情報を記憶してそれを使用者に提示する、または複数の起源もしくは時点からの情報を比較する容量記憶制御装置(例、制御装置およびハードディスクドライバ)が含まれる。電気泳動電源装置(コンピュータ制御でき、定電圧もしくは定電流のいずれかを提供できるように設定でき、そして本明細書の他の場所で記載のように低周波数から高周波数を提供するデジタルもしくはアナログ電子回路を追加でき、さらにまた誘電泳動のためにも使用できる)、照明器具(例、レーザー、アークランプ、白熱ランプ、顕微鏡集光器、および光線を光導波管へ結び付ける方法を含むことができる照明器具)、インジケータ(上記および下記に記載のような)、検出器(カメラ、レンズ、フィルタセット、画像分析ソフトウエア)などのこれらの構成要素の一部は当分野において周知であるが、それでもそれらの配列および使用は本発明において新規であり、新規作用をもたらす。これらの構成要素が先行技術と相違する点については、上記および下記の両方で考察される。
自動検出器は、光学検出器を含むことができる。光学検出器は、光散乱イメージング、明視野イメージング、暗視野イメージング、表面プラズモン共鳴、位相差イメージング、蛍光イメージング、アップコンバーティング蛍光体イメージング、量子ドットイメージング、および化学発光イメージングを含む光学検出方法を利用できる。
1つの態様では、エバネッセント照明技術が検出のために使用される;参照して本明細書に組み込まれるU.S.S.N.10/888,828を参照されたい。
以下の実施例は、上述した本発明を使用する方法をより詳細に説明するため、ならびに本発明の様々な態様を実行するために意図された最善方法を記述するために役立つ。
実施例1:界面動電的濃縮
フローセルは、図50に例示した4チャネル型フローセルを形成する、プラスチック積層板構造間に2枚のITO修飾顕微鏡スライドガラスを挟むことによって構築した。スライド表面間の間隔はおよそ500μである。底部ITOスライドは、カチオン性細菌捕捉表面を生じさせるために、アミン反応性OptiChem(Accelr8社)で事前にプレコートし、ジエチレントリアミン(DETA)を用いて化学修飾した。
10mMのヒドロキノン、10mMのDTT、および10mMのCAPS(pH6.5)中の1×107CFU/mLの黄色ブドウ球菌の混合液をフローチャンバ内へ注入した。表面濃縮させて細菌をDETA OptiChem修飾ITO電極へ結合させるために、約3分間にわたりITOスライド全体へ電位差(1.6V)を印加した。電位の印加前および印加50秒後のアノード表面の顕微鏡写真は、界面動電的に濃縮された黄色ブドウ球菌の存在を証明している。規定領域内の細菌数は、電位の印加後および細菌数が飽和してから30秒間以内、および最初のサンプル中のほぼ全部の細菌を含めるために他の測定値から時間の関数としてプロットした(データは示していない)。
実施例2:微生物の増殖
実施例1からのレドックス溶液をトリプシンソイ増殖培地と交換し、DETA表面に結合した検出可能な細菌の増殖を確定するために37℃の倒立顕微鏡上でインキュベートした。増殖の開始時および様々なインキュベーション時間後の黄色ブドウ球菌の顕微鏡写真を撮影した(データは示していない)。顕微鏡写真は位相差光学系を用いて撮影したが、細菌を取り囲むフレアは、当初の細菌が細胞分割した結果として生じた追加の細菌の存在を指示した。したがって、界面動電的濃縮後に細菌増殖は発生できる。
実施例3:AOA感受性
実施例1および2におけるように濃縮かつ増殖させた細菌に、使用した黄色ブドウ球菌が感受性であった5μg/mLのオキサシリンを惹起投与した。オキサシリンの投与と同時に、生存細胞からは除外されるので蛍光画像におけるその存在が細胞死の指標となる10μMのヨウ化プロピジウムを投与した。AOA処置の開始時の細菌の顕微鏡写真を位相差顕微鏡および蛍光顕微鏡下で撮影し、1時間後に追加の画像を撮影した(データは示していない)。オキサシリンの投与から、大量の細胞死を指示する蛍光における大きな増加が生じた。
実施例4:AOA感受性のモデリング
黄色ブドウ球菌へのオキサシリンの作用は、数学的Hill関数を用いてモデリングできる。
(式中、E
maxは時間tにわたる最高作用と等価であり、ETWは最高作用の半分が達成される時間であり、nはその作用にとっての形状係数である)。時点tでの細菌数は、初期細菌集団から減じられた作用と等価である(N°)。
形状作用n、EmaxおよびET50は、時間の関数として細菌の増殖もしくは死を適正にモデリングできる。
ΝCCLSブロス微量希釈MIC決定法は、厳格に制御された環境(37℃のカチオン調整Muellerhintonブロス)下で規定期間(24時間)にわたりある濃度の抗生物質への標準化接種菌(およそ1×105CFU/mL)の曝露を含む。MICは、微生物の増殖が裸眼による検出閾値限界(1×107CFU/mL)未満では阻止される最小濃度であると規定されている。このため増殖率の動態的測定値と標準化NCCLS MICおよびMBC法を用いた生育性との相関は、細菌の増殖および/または死の数学的モデルを用いて推定できる。
NCCLSは、オキサシリン耐性黄色ブドウ球菌ブレイクポイントを0.12〜0.5μg/mL以上でのブロス微量希釈アッセイにおいて検出可能な増殖であると規定している。動態診断学的感受性試験を実施するためにブレイクポイント以上での単一濃度の抗生物質を使用できるように、分析される抗生物質濃度を最小限に抑えることが好ましい。
細菌増殖に及ぼす抗菌作用の数学的モデリングは、細菌を感受性、中間、もしくは耐性であると分類するために使用される確立されたブレイクポイントを備える動態診断学的曲線を相関させる際に極めて有用な可能性がある。例えば、細菌および薬物相互作用の動態的発生はリアルタイムで適合させることができる。適合パラメータが満たされると、データを外挿して24時間後の最終細菌濃度を推定することができる。エンドポイントウィンドウを規定すると、抗生物質の有効性を標準方法と相関させることができる。1×106CFU/mLより有意に低い濃度を備える細菌サンプルは感受性であると呼ばれ、1×106〜1×107CFU/mLの範囲内は中間であると呼ばれ、そして1×107より有意に高い範囲は耐性であると呼ばれる。
細菌増殖曲線は、初期誘導期、指数関数的増殖期からなる「S」曲線を示し、増殖への供給源が限定されると静止期が達成される。液体ブロス培地中でのバグ増殖(NCCLSブロス微量希釈法)は、およそ1×10
8〜1×10
9CFU/mLで静止期へ緩徐化する。このため、液体培地中の細菌についてのE
maxは、モデリング目的のために規定された約1×10
9であるが、nおよびET
50は細菌が増殖する速度を規定する。nおよびET
50は動態診断学的データから決定され、当てはめ規則を開発できる。例えば、細菌増殖の変化の最高速度は、伝統的な指数方程式:
(式中、N=時間tでの細菌濃度、およびN
oは初期細菌濃度である)によって記載されるような対数増殖期細菌(非曝露細菌)について規定された増殖率定数を超えることはあり得ない。抗生物質へ曝露させた細菌は、定数k
enが関連する増殖率を変化させると思われる。どちらのモデルも細菌増殖を時間の関数として記述するので、それらは等価である可能性がある(誘導期後および静止期開始前)。再配列は、n、EC
50、E
max、およびtに関してk
egを生じる。
このため、時間tおよび以前に規定したEmaxでは、nおよびEC50はKeg.>K0を産生できない。さらに、Emaxモデルは、細菌の倍加時間に対して直観的物理的相関を有する増殖率へ容易に変換できる。正のKegは細菌増殖と相関し、負のKenは細菌死と相関している。パラメータの当てはめは、抗生物質の最高作用を決定すると、または反応曲線の変曲点までの動態を記録すると、または変曲点前の曲線の形状係数およびEC50を規定する際に統計学的信頼を可能にする十分なデータを少なくとも収集すると完了できる。
様々な黄色ブドウ球菌株の増殖モデルについてのグラフは、5μg/mLのオキシシリンの投与後に作製した。指数増殖期中の増殖定数は、オキシシリン耐性細菌の場合には20分毎に約1回の倍加に関連しておよそ2.3である。曲線は、中間耐性の黄色ブドウ球菌株にオキシシリンが及ぼす作用を示している(データは示していない);24時間後の増殖はおよそ1×107CFU/mLであり、耐性菌の増殖率より有意に低い。オキシシリンに感受性である黄色ブドウ球菌株を用いた増殖は、時間の関数としての細菌死を示す負のKeff増殖定数を示している。
細菌および抗生物質が数学的に記述されると、モデルを使用して標準AST法によって入手される結果を推定することができる。細菌増殖率(16時間にわたって観察された増殖なし)および生育性結果に及ぼす劇的作用は、細胞生育性を決定するために使用される閾値より上方のヨウ化プロピジウム染色を使用して以前に考察された方法から測定されたデータを用いて、感受性黄色ブドウ球菌株の増殖に5μg/mLのオキシシリンが及ぼす作用についての実際データとモデルとの良好な適合を示している。そのようなモデリングは、以下の理由から、規定のブレイクポイントによって規定される細菌感受性の決定を可能にする。
Keffは、細菌が時間に対して染色されるのでゼロ未満である。
変曲点には、高速の細菌死を指示する時間に関して細菌の最高変化速度への負の傾斜を決定する1時間後に遭遇した。
作用は、細菌総集団が減少する2時間の終了時に本質的に完了する。サンプル中では観察できる増殖は存在しなかった。
本発明者らの濃度がNCCLSが規定したオキサシリンおよび黄色ブドウ球菌株についてのブレイクポイントより上方であることを前提にして、本発明者らは1〜2時間のオキサシリンインキュベーション後に動態診断学を使用して感受性黄色ブドウ球菌サンプルを同定する。このモデリングはさらに、NCCLS標準によって感受性であると特徴付けられたが相違する殺滅率を備える抗生物質の定量的比較を可能にする、抗菌作用をより明確に記述するための手段を提供できる。臨床的妥当性のために、最速かつ最も効果的な殺滅率を備える抗生物質を決定して報告することができる。
黄色ブドウ球菌およびオキサシリンは、試験サンプル内で2つのクラスの細菌が同定された定常状態に到達した。1つのクラスの黄色ブドウ球菌は生育性の消失を指示するヨウ化プロピジウムで染色されたが、また別のクラスの黄色ブドウ球菌は抗生物質曝露の経過に渡って染色しないか、倍加しなかった。黄色ブドウ球菌およびオキサシリンを使用して実施された抗生物質曝露後試験は、3〜5時間のインキュベーション後にどちらの黄色ブドウ球菌も倍加しないことを示し、これは有意な増殖率を生成できない休止もしくはクリプトビオシスを示している。このクラスの微生物は、NCCLS感受性へ細菌動態を相関させる目的では死滅していると見なすべきである。
細菌の形状および抗生物質動態は、抗生物質が微生物に及ぼす作用機序に大きく左右される。タンパク質合成阻害剤であるゲンタマイシン、およびそれが感受性大腸菌に及ぼす動態的作用を試験した。kenは、Em..に伴って約2時間で発生する負の変曲点であり、曝露のおよそ4時間後に完了した。動態的差は、黄色ブドウ球菌およびオキシシリン作用と比較すると明白である。
実施例4:検出表面での微生物を迅速に濃縮および検出するための器具および方法の例示
本実施例では、本発明者らは、界面動電的濃縮(EKC)を用いて検出表面で微生物を濃縮するための器具および高速方法を例示する。
マイクロ流体フローセル。本実施例において記載するフローセル器具は、マイクロ流体的、電気化学的、および光学的機能性を提供する。本器具は、チャネル寸法30×2.5×0.5mm(L×W×H)(Grace BioLabs社)を備えるフローセルを規定するガスケットからなる。ガスケットは、2つのインジウムスズ酸化物(ITO)コーティングスライドガラス(Delta Technologies社)の間に挟まれる。フローセルへの流体アクセスを提供するために、器具を組み立てるときにガスケットチャンバへのアクセスを提供する場所で上部ITO電極を通して穴を穿孔した。これらの穴の背部もしくは外側には、フローセルへのプラスチックチュービングの接続を可能にするNanoPort(商標)粘着性連結部(Upchurch Scientific社)がはめ込まれている。チュービングを通しての流体ポンプ送達はシリンジポンプ(Kloehn社)を通して行なわれる。Kloehnポンプへ取り付けられた弁システムは、試薬溶液が様々なリザーバからフローセル内へポンプ送達されることを可能にする。フローセルへのチュービング入口上では、少量試薬、物質、または細菌サンプルがフローセルへ導入されることを可能にする追加のシリンジアクセスポートを利用できる。ITOスライドガラスは透明なので、フローセル全体への光学的アクセスが得られる。電気化学的用途のために、上部および底部ITO電極は、スライドへ直接的に取り付けられたワイヤクリップを通して電源装置へ取り付けた。
先行段落で記載のガスケットに基づくフローセルに加えて、本実施例におけるアッセイは、図4Dおよび4Eに示したような、ITOスライドガラス電極を装備した積層化プラスチックカートリッジ内でも実施できる。
フローセルは、上部ITOスライドを抵抗加熱することによっておよそ35℃に維持される。電源装置は、スライドの反対側の端部でクリップを通して取り付けられる。電流は、ITO表面を通って流れ、加熱を引き起こす。温度を監視するためには、スライド上の温度感知流体ウエル内に熱電対が挿入される。
親和性表面の調製。セルを組み立てる前に、底部もしくは捕捉電極は、それに微生物が非可逆的に結合する親和性成分でコーティングした。この実験における親和性成分は、ウシ血清アルブミン(BSA)およびポリカチオン性ポリマーであるポリ−L−リシン(PLL)を含む二成分コーティング剤であった。親和性成分コーティング剤は、以下の通りに調製した。第一に、ITOスライドガラスは、15分間の高温(60℃)洗浄剤(Alconox社)超音波処理、さらに15分間の温水超音波処理を用いて注意深く洗浄した。第2超音波処理器から取り出した後、スライドを超純水でしっかりと洗浄し、スイングアーム型スライドキャリアを装備した遠心分離機(Beckman社)中で脱水乾燥させた。乾燥すると、清潔なスライドに、明確に確立された文献に記載のプロトコルを用いてPLLコーティングした。手短には、0.1×のリン酸緩衝食塩液(PBS)中におよそ0.01%のPLLを含有する溶液中にスライドを浸漬させた。スライドを1時間にわたり室温のPLL溶液中でインキュベートし、次に超純水を用いてすすぎ洗いし、遠心により乾燥させた。次にホイルで裏張りしたバッグ内の乾燥剤パウチを用いて乾燥PLLスライドをヒートシールし、室温で4日間にわたり熟成させた。
4日間の熟成後、スライドを包装から取り出し、PBS中の5%(w/v)のBSA(Sigma社)を含有する溶液中に浸漬した。BSAインキュベーションを1時間にわたり室温で進行させ、その時点に0.01%のTween 20を含有するPBS(PBST)および次に超純水を用いてスライドをすすぎ洗いした。次にスライドを遠心して乾燥させると使用準備が整った。
底部電極へ微生物を強力に付着させるのが望ましい場合は、一般にはマイクロ流体デバイス内の他の全部の表面から微生物を取り除くのが望ましい。これは特に、上部電極として機能することに加えて流れの上方部分も規定する上部ITOスライドに当てはまる。この理由から、上部ITO電極は、OptiChem(登録商標)(米国特許第6,844,028号)と呼ばれる低非特異的結合ポリマー表面でコーティングした。
界面動電的濃縮(EKC)。EKCは、各微生物について同一方法で実施した。工程は次の通りであった。微生物をペレット化するために細菌ストックのトリプシンソイブロス溶液を遠心した。このペレットを洗浄工程として1mMのヒスチジン中に再懸濁させ、次に再ペレット化した。このペレットを次に界面動電的濃縮(EKC)バッファ中に再懸濁させた。EKCバッファは、1mMのヒスチジン、10mMのヒドロキノン、および40mMのDTTを含有する水溶液(pH6.8)であった。1E+07 CFU/mLの推定微生物濃度へ再懸濁させた。細菌/EKCバッファ懸濁液を次にマイクロ流体フローセル内へポンプで送達した。全実験を通して、0.593×0.444mmの、フローセル内の1つの顕微鏡視野を監視した。フローセルが一杯になると、ポンプは停止させた。その時点に、ITO電極の電源スイッチを入れ、界面動電的濃縮を1.6Vで5分間進行させた。5分間の終了時には、本質的に全微生物が親和性表面(BSA−PLL)へ移動し、それらが表面に結合していたので、電極への電源スイッチを切った。
EKC後、フローセルは、システムにおよそ1mLのヒスチジンバッファをポンプ送達することによって洗浄した。これは任意の緩やかに結合した微生物を除去し、より重要にもEKCバッファをフラッシュ洗浄により取り除いた。ヒスチジン洗浄の次にトリプシンソイブロス増殖培地フラッシュを続けた。
イメージング。本実施例における検出は、0.40NAを備える20X LCPlan Fluor対物レンズを装備した特製Olympus IX71倒立顕微鏡上で実施した暗視野顕微鏡検査による。この顕微鏡は、Optronics MicroFire CCDカメラおよび画像収集ソフトウエアを装備している。
モデル細菌株。本実施例および下記の数例の実施例において使用した主要細菌株は、肺炎桿菌(Klebsiella pnuemoniae)(ATCC 700603)である。調査した追加の細菌株には:黄色ブドウ球菌(ATCC 29213)、大腸菌(ATCC 25922)、大腸菌O157:H7、緑膿菌(ATCC 49189)、ステノトロフォモナス・マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)(ATCC 13637)、肺炎桿菌(ATCC 49472)、アシネトバクター属(ATCC 49139)、肺炎連鎖球菌(ATCC 49136)、およびインフルエンザ菌(ATCC 10211)が含まれる。これらの細菌は、院内感染肺炎と特に関連がある重要な1パネルの病原性微生物を構成する。
代表的な微速度撮影画像。界面動電的濃縮中の肺炎桿菌(ATCC 700603)の代表的な暗視野顕微鏡画像は、図5に提供されている。図5(a)は、EKCセル内へのサンプル導入時点の検出表面を示している。この画像は、最初は、極めて少数の微生物しか表面に存在していないことを示している。図5bは、1分間のEKC後の検出表面の画像を提供している。検出表面の平面内では極めて多数の微生物を見ることができる。検出表面に近づいている細菌は中心塊から外れているように見える。図5(c)は、2分間のEKC後の検出表面を示している。ここで、検出平面内にはいっそう多数の細菌が存在する。最後に、図5(d)は、その時点に濃縮が完了して、本質的にそれ以上の細菌が視野に侵入しない3分間のEKC後の検出表面を示している。この写真の順序は、検出表面での細菌サンプルの高速濃縮を示している。
1パネルの微生物についてのEKC結果。臨床的に重要な微生物を用いたEKCアプローチの広範囲の適合性を照明するために、様々な病原性細菌が試験されてきた。図6は、時間の関数としての捕捉された細菌数の形状における界面動電的濃縮プロファイルを示している。結果は、この臨床的に重要な肺炎パネル上の全部の微生物を検出表面へ高速で濃縮できることを明白に証明している。
実施例5:免疫化学を用いて検出表面での微生物を迅速に同定およびマッピングするための器具および方法の例示
本実施例では、本発明者らは、免疫化学を用いて微生物種を同定するための器具および迅速な方法を例示する。本実施例のための出発点は、実施例4で記載の肺炎桿菌(ATCC 700603)の界面動電的濃縮後の検出表面である。本実施例では、本発明者らは、この既知のコントロール種の免疫同定を例示する。
イムノアッセイ。本実施例におけるイムノアッセイは、2段階同定法である。一次抗体は、マウス抗クレブシエラ属IgG(abCAM、#ab8065−1)であった。二次、もしくは検出抗体は、蛍光色素であるAlexa 546(Molecular Probes社)を用いて標識したヤギ抗マウスIgGであった。一次および二次抗体は、使用直前におよそ5μg/mLの抗体濃度でトリプシンソイブロス(TSB)中へ懸濁させた。一次抗体は、入口ポートを通してマイクロ流体フローセル内へ導入した。フローセルに一次抗体溶液を充填した後、流れを停止させ、抗体を15分間インキュベートさせた。次にセルを2.5mLのTSBですすぎ洗い、次に二次抗体を導入して15分間インキュベートした。二次抗体のインキュベーション後、フローセルを最後にTSBですすぎ洗い、検出表面の微生物をイメージングした。
イメージング。アッセイにおける各視野に対して、実施例4に記載のOlympus IX−71を用いて2枚の画像を撮影する。最初に、検出表面での全対象物の場所を観察するために、暗視野画像(上述した通り)を撮影する。視野を配置し直さずに、顕微鏡は、Alexa546のために緑色Olympusフィルタキューブを必要とするエピ蛍光モードに切り替える。蛍光画像とともに暗視野を記録することによって、所与の抗体を用いて染色する微生物は既知の種と指定される。
結果。代表的なイムノアッセイ画像は図7に提供されている。図7(a)は、EKC直後の検出表面の暗視野画像を提供している(例えば、実施例4を参照)。図7(b)は、蛍光チャネル内の同一視野を示している。ここで本発明者らは、微生物の本質的に全部が、このコントロール実験において予測されたように、抗体を用いて標識されることを言及したい。一部の微生物は、他の微生物よりも抗体染色によって有意に明るく見えることに留意されたい。さらに、蛍光画像は暗視野画像よりも拡散性の塊を生じることも留意されたい。
実施例6:免疫化学を用いてモデル気管支肺胞洗浄液(BAL)中の微生物を迅速に同定するための器具および方法の例示
本実施例は、実施例5に記載のモデル肺炎桿菌系におけるそれらの同族標的に対する抗体の選択性を例示する。本実施例では、フローセル内へ肺炎桿菌の純粋懸濁液を導入する代わりに、最初に細菌をヒツジ気管支肺胞洗浄液(BAL)サンプル中へスパイクした。ヒツジBALは、コロラド州立大学獣医学部で健常なヒツジを対象に実施された。無菌生理食塩液を洗浄液として使用した。肺炎桿菌は、107CFU/mLの濃度でスパイクした。
このサンプルをフローセルへ導入し、実施例5に記載の方法と同一方法でイムノアッセイを実施した。本実施例では、暗視野顕微鏡に代えて位相差顕微鏡を使用した。抗体検出は、上述のようにエピ蛍光顕微鏡を用いて行った。
結果は、図8に提示されている。2枚の画像上のボックスは、それらの同族微生物に対する抗体の選択性を証明している、染色されなかったヒツジBAL成分を強調するために描出されている。
実施例7:極めて多数の微生物の収集物において個別微生物の増殖を時間的に同時に追跡するための器具および方法の例示
本実施例では、本発明者らは極めて多数の個別微生物の増殖を経時的に同時に追跡するための器具および方法を例示する。本実施例のための出発点は、実施例4および5で記載の肺炎桿菌(ATCC 700603)の界面動電的濃縮およびイムノアッセイ後の検出表面である。
増殖。捕捉された微生物を静止条件下のTSB中でインキュベートした。フローセル容量は検出表面上の微生物の数に比較して大きいので、この短時間の増殖アッセイ中に栄養分および廃棄物の流れは問題にはならないと思われる。
個別微生物/クローンの追跡。所与の視野内で、捕捉された全微生物の場所は画像分析ツールを用いて決定できる。これらの場所はソフトウエア内に保存される。イムノアッセイは完了しているので、視野内の創始微生物の場所および種同一性は分かっており、経時的に監視できる。図9(a)は、各々の創始微生物もしくはクローンに固有の識別子が指定されている検出表面の視野を示している。図9(b)は、識別子を含んでいない同一視野を示している。これは増殖について時間=0ポイントと指定されるが、イムノアッセイ工程中で事前にTSB中で30分間のインキュベーションが行なわれたことに留意されたい。この挿入図は、上の画像において識別子158、161、171、180が指定された、4種の個別微生物もしくはクローンを示している。挿入画像の左上内の微生物(#158)はおそらく、捕捉平面へ垂直に方向付けられた根菌形細菌である。
図9(c)は、20分間の増殖後の同一視野を示している。個別微生物/クローンは、サイズが増加した。図9(d)は、45分間の増殖後の同一視野を示している。この時点で、多数の固体は見掛けのサイズにおいて倍加している。
この画像セットは、本発明者らが増殖中の個体を経時的に追跡する能力を例示している。
図10は、検出表面の視野内の全個別クローンの増殖曲線のプロット図を提供している。この図を含めるポイントは、本発明者らが視野内の各個別クローンについての定量的増殖情報を追跡して入手できることを例示することにある。本実施例において増殖を追跡するために使用される測定基準は、暗視野画像の塊分析に基づき、所与クローンの二次元投影領域およびピクセル強度の数学的関数である積分強度である。全増殖曲線の重ね合わせは、クローンの大きな分画が極めて類似する、ほぼ対数増殖を有することを証明している。1サブセットは緩徐増殖体であり、もう1つのサブセットは全く増殖を示していない。
実施例8:極めて多数の微生物の収集物において個別微生物の抗生物質感受性を監視するための器具および方法の例示
本実施例は実施例7の続きであり、本発明者らが極めて多数の微生物の収集物において個別微生物の抗生物質感受性を監視する能力を例示する。本実施例の出発点は、実施例4〜7に記載のように増殖45分後の器具検出表面における視野である。
抗生物質の導入および死細胞染色。抗生物質のシプロフロキサシンは100μg/mLの濃度でトリプシンソイ中に懸濁させた。この溶液は、さらに濃度1μMで蛍光死細胞染色液YO−PRO−1(Molecular Probes社)も含有していた。YO−PRO−1は死細胞染色液であり、生存細胞には浸透しない。死滅もしくは瀕死細胞が膜完全性を消失すると、YO−PRO−1染色液が細胞内に進入し、核酸と相互作用する。
このシプロフロキサシン/YO−PRO/トリプシンソイ溶液をポンプでフローセル内に送り込み、流れを遮断した。検出表面での微生物は、次に35℃の静止条件下でインキュベートさせた。10分毎に対の画像を収集した−最初に上述のように暗視野画像、次にYO−PROを検出するためにエピ蛍光画像。
結果。代表的な微速度撮影画像は図11に提供されている。対の画像は各時点に提示される。検出表面での全微生物の暗視野画像は、左に示されている。同一視野のYO−PRO蛍光画像は、右側に示されている。図11(a)は、抗生物質導入時点の対の画像を示している。YO−PROチャネル内の任意のシグナルを示しているのは極めて少数の微生物に過ぎず、これはほぼ全部が抗生物質導入時点に生育性であることを指示している。図11(b)は、80分間の抗生物質曝露後の画像対を提供している。暗視野画像は最初の時点に比較して大きくは変化していないが、極めて多数の微生物は明白にYO−PROで染色され、これは抗生物質による有効な殺滅を示している。図11(c)は、170分間の抗生物質曝露後の画像対を提供している。同様に、極めて多数の個別微生物が死細胞として染色されている。全微生物/クローンが個別に追跡されるので、各々は死細胞染色によって死滅と宣告される時点を有する。
図12は、時間の関数として非染色(すなわち、生存)クローンの数を報告することによって抗生物質殺滅率(時間−殺滅曲線)の定量的評価を提供している。ここで、100μg/mLでのシプロフロキサシンが90分間以内の曝露時間で本質的に全肺炎桿菌クローンを効果的に殺滅したことが見いだされる。
実施例9:抗生物質へ曝露させた極めて多数の微生物の収集物中で少数の耐性微生物を検出するための器具および方法の例示
本実施例では、本発明者らは、抗生物質に曝露させた極めて多数の微生物の収集物中で少数の耐性微生物を検出するための器具および方法を例示する。ここでは実施例4に記載の器械を使用するが、暗視野顕微鏡の代わりに位相差顕微鏡を使用する。
少数の耐性モデル系についての説明。本実施例では2つの細菌種を使用した。第1は、βラクタム系抗生物質に対して感受性であることが知られている大腸菌(ATCC 25922)である。第2は、βラクタム系抗生物質に対して抵抗性であることが知られている肺炎桿菌ESBL blaSHV-18(ATCC 700603)である。少数耐性菌を含有する標本を模擬するために、大腸菌および肺炎桿菌を100:1の比率で混合した。そこで、出発標本中のクローンの1%は既知の耐性微生物であった。
アッセイ。混合種の標本をフローセル内に導入し、実施例5に記載の通りに検出表面へ流れさせた。図13(a)は、EKC後の検出表面での視野の小さな領域を示している。どちらの種もグラム陰性桿体であり、形態に基づいて種を決定するのは不可能であることに留意されたい。しかし、イムノアッセイを使用すると種を同定することができる。この実験では、本発明者らは実施例5に詳述した抗体系を使用した。図13(b)は、肺炎桿菌イムノアッセイの蛍光チャネルの画像を示している。この画像は、#675と指定された視野内の微生物/クローンの1つが肺炎桿菌として陽性染色されたことを明白に示している。画像内の他のクローンはいずれも抗体シグナルを示さなかったので、それらの微生物の全部がデフォルトで大腸菌ATCC 25922であると推定される。
βラクタム系抗生物質であるアンピシリンを40μ/gの濃度でトリプシンソイブロス中に懸濁させ、フローセルに送達した。次にクローンをこの抗生物質の存在下で静止インキュベーションにかけた。一連の微速度撮影画像を15分間毎に収集し、そのうちの代表的な1セットを図13(c〜f)に示した。図13(c)は、30分間の抗生物質曝露後のクローンを示している。クローンの大多数はこの時間枠内では増殖をほとんどもしくは全く示しておらず、実際に大きな分画はYO−PRO−1を用いて死細胞として染色されている(データは示していない。実施例8の方法を参照)。既知の耐性菌である肺炎桿菌クローン#675は、抗生物質曝露のこの初期30分間中に長さがほぼ倍に増加していた。図13(d)は、60分間の抗生物質曝露後のクローンを示している。この場合は、大腸菌クローンの大多数は、抗生物質が効果を発揮するにつれてそれらの物理的完全性を失いつつある。しかし肺炎桿菌クローン#675は増殖し続け、画像内では少なくとも1回の完全倍加を完了している。図13(e)および(f)は、抗生物質曝露の90および120分後の画像を提供している。これらの時点に、ほとんどの大腸菌は死滅している(YO−PROにより確証した)。しかし、最初の創始微生物は現在では多細胞クローンになっているので、肺炎桿菌ESBL blaSHV-18は実際にこのアッセイにおいて耐性を示していることは容易に明らかである。
この少数耐性菌株の同定および検出の明白な例示は、本明細書に開示した技術の重要な例示である。伝統的な細菌培養および単離方法に関して知られている弱点は、それらが少数耐性微生物を見逃すことにある。この場合では、1:100の少数微生物は単離のために選択されず、診断において見逃される。しかし本実施例は、これが患者サンプルであり、陽性の大腸菌培養結果が抗生物質としてのアンピシリンを用いる療法を指示するために使用されれば、肺炎桿菌の病原性菌株は選択された療法による影響を受けず、感染が持続することを明白に証明している。大量の微生物の収集物中に含まれる少数の耐性微生物を検出および同定するための本明細書に記載の器具および迅速な方法は、臨床診断および患者転帰を改善するための重要な意味を有する。
実施例10:MLS B i黄色ブドウ球菌株におけるエリスロマイシン誘導性クリンダマイシン耐性を迅速に検出するための器具および方法の例示
本実施例では、本発明者らは、3種のモデル黄色ブドウ球菌株の耐性表現型を正確に同定するための4時間未満の高速インビトロ診断アッセイを例示する。本アッセイは、どちらも光学的に透明な電極を含む、2種のマイクロ流体/界面動電的フローセル構成で実施される。本実施例での検出は位相差顕微鏡によるが、蛍光顕微鏡および暗視野顕微鏡についても証明されている。イメージングは、20X対物レンズおよびOptronics MicroFire CCDカメラを装備した特別仕様のOlympus IX−71倒立顕微鏡で実施する。
親和性表面の調製。セルを組み立てる前に、底部もしくは捕捉電極は、それに微生物が非可逆的に結合する親和性成分でコーティングした。この実験における親和性成分は、ウシ血清アルブミン(BSA)およびポリカチオン性ポリマーであるポリ−L−リシン(PLL)を含む二成分コーティング剤であった。親和性成分コーティング剤は、以下の通りに調製した。第一に、ITOスライドガラスは、15分間の高温(60℃)洗浄剤(Alconox社)超音波処理、さらに15分間の温水超音波処理を用いて注意深く洗浄した。第2超音波処理器から取り出した後、スライドを超純水でしっかりと洗浄し、スイングアーム型スライドキャリアを装備した遠心分離機(Beckman社)中で脱水乾燥させた。乾燥すると、清潔なスライドに、明確に確立された文献に記載のプロトコルを用いてPLLコーティングした。手短には、0.1×のリン酸緩衝食塩液(PBS)中におよそ0.01%のPLLを含有する溶液中にスライドを浸漬させた。スライドを1時間にわたり室温のPLL溶液中でインキュベートし、次に超純水を用いてすすぎ洗いし、遠心により乾燥させた。次にホイルで裏張りしたバッグ内の乾燥剤パウチを用いて乾燥PLLスライドをヒートシールし、室温で4日間にわたり熟成させた。
4日間の熟成後、スライドを包装から取り出し、PBS中の5%(w/v)のBSA(Sigma社)を含有する溶液中に浸漬した。BSAインキュベーションを1時間にわたり室温で進行させ、その時点にスライドは0.01%のTween 20を含有するPBS(PBST)および次に超純水を用いてすすぎ洗いした。次にスライドを遠心して乾燥させると使用準備が整った。
底部電極へ微生物を強力に付着させるのが望ましい場合は、一般にはマイクロ流体デバイス内の他の全部の表面から微生物を取り除くのが望ましい。これは特に、上部電極として機能することに加えて流れの上方部分も規定する上部ITOスライドに当てはまる。この理由から、上部ITO電極は、OptiChem(登録商標)(米国特許第6,844,028号)と呼ばれる低非特異的結合ポリマー表面でコーティングした。
マイクロ流体カセット。2種のマイクロ流体/界面動電的フローセル構成を使用して本明細書に記載のアッセイを実施するのに成功した。第1は、寸法が30×2.5×0.5mm(L×W×H)のチャネルを備えるゴム製ガスケット(Grace BioLabs社)がインジウムスズ酸化物(ITO)がコーティングされた2枚のスライドガラス(Delta Technologies社)の間に挟まれている単純な器具である。フローセルへの流体アクセスを提供するために、器具を組み立てるときにガスケットチャンバへのアクセスを提供する場所で上部ITO電極を通して穴を穿孔した。これらの穴の背部もしくは外側には、フローセルへのプラスチックチュービングの接続を可能にするNanoPort(商標)粘着性連結部(Upchurch Scientific社)がはめ込まれている。チュービングを通しての流体ポンプ送達はシリンジポンプ(Kloehn社)を通して行なわれた。2枚のスライドがガスケットの周囲で挟まれた場合は、透明電極を通しての光学アクセスを有する、そしてNanoPort(商標)継手を通しての流体アクセスを有するフローセルが規定された。平行の上部および底部ITO電極は、スライドへ直接的に取り付けられたワイヤクリップを通して電源装置へ取り付けたので、このフローセルもまた電気化学的セルであった。
第2の構成は、単純な積層プラスチック製マイクロ流体カセットを含んでいた。このカセットは、プラスチックカセットに一体成形された入口および出口ポートならびに弁を備える単一フローセルチャンバ(20×4×0.7mm)を特徴としている。流体アクセスは、マイクロ流体ポンプステーション(Micronics MicroFlow社)と連結しているカセットの端部のマニホールドを通して行なわれる。プラスチック積層カセットは、上述したものと同一の上部および底部ITOスライドガラスを使用する。それらは、漏れ止めシールを提供する感圧接着剤によりカセットに取り付けられる。
フローセルは、上部ITOスライドを抵抗加熱することによっておよそ37℃に維持された。電源装置は、スライドの反対側の端部でクリップを通して取り付けた。電流は、ITO表面を通って流れ、加熱を引き起こした。温度を監視するためには、スライド上の温度感知流体ウエル内に熱電対が挿入される。
モデル細菌株。本実験では、アメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC、バージニア州マナッサス)からの3種のモデル黄色ブドウ球菌株を使用した。ATCC 29213菌株は、クリンダマイシンおよびエリスロマイシンの両方に感受性であることが知られているコントロール菌株である。BAA−976菌株は、エリスロマイシンには耐性であるが、クリンダマイシンには感受性である。BAA−977菌株は、モデルMLSBi微生物である。3種の微生物についての誘導性を含む既知の感受性は、標準D−試験方法を用いて本発明者らの研究所で実験により確証された。
誘導アッセイ。誘導アッセイは、各微生物について同一方法で実施した。工程は次の通りであった。微生物をペレット化するために細菌ストックのトリプシンソイブロス溶液を遠心した。このペレットを洗浄工程として1mMのヒスチジン中に再懸濁させ、次に再ペレット化した。このペレットを次に界面動電的濃縮(EKC)バッファ中に再懸濁させた。EKCバッファは、1mMのヒスチジン、10mMのヒドロキノン、および40mMのDTTを含有する水溶液(pH6.8)であった。1E+07 CFU/mLの推定微生物濃度へ再懸濁させた。細菌/EKCバッファ懸濁液は、次にマイクロ流体フローセル内へポンプ送達した。全実験を通して、0.593×0.444mmの、フローセル内の1つの顕微鏡視野を監視した。フローセルが一杯になると、ポンプは停止させた。その時点に、ITO電極への電源スイッチを入れ、界面動電的濃縮を1.6Vで5分間進行させた。5分間の終了時に、本質的に全微生物が親和性表面(BSA−PLL)へ移動し、そこでそれらは表面に結合したので、電極への電源スイッチを切った。
EKC後、フローセルは、システムにおよそ1mLのヒスチジンバッファをポンプ送達することによって洗浄した。これは任意の緩やかに結合した微生物を除去し、より重要にもEKCバッファをフラッシュ洗浄により取り除いた。ヒスチジン洗浄の次にトリプシンソイブロス増殖培地フラッシュを続けた。固定化した微生物を増殖培地に曝露させたら、流れを停止させ、1時間にわたり表面上で微生物を増殖させた。その時点で、誘導工程を開始させた。フローセルに増殖培地中の0.07μg/mLのエリスロマイシンを充填し、1時間にわたりインキュベートさせた。これは、誘導期間であると規定されている。誘導後、フローセルは、増殖培地中の0.07μg/mLのエリスロマイシンと混合した8μg/mLのクリンダマイシンと交換した。これらの抗生物質両方に対する黄色ブドウ球菌の感受性ブレイクポイントが0.5μg/mLであることに留意されたい。そこで本アッセイでは、誘導濃度はMICよりはるかに低いが、感受性試験はMICよりはるかに高い濃度で行なわれる。微生物は、これらの条件下で4時間にわたり増殖させた。これは感受性試験期間であると規定され、同様に殺菌期と呼ばれる。再び、顕微鏡の視野がサンプル導入から抗生物質を用いた最終処置を通して全プロセス中に固定されたままであり、視野内の全部の個別微生物のリアルタイム監視が可能であることに留意されたい。
このプロセスは、上述した3種のモデル微生物を対象に実施した。別個の実験において、BAA−977 MLSBi菌株についても誘導工程を行わずに実施した。
結果。図14は、感受性試験期間中のBAA−977およびBAA−976菌株についての増殖プロファイルを示している。「BAA−977誘導」とマーキングされた曲線は、低濃度のエリスロマイシンを用いた誘導後に、微生物がMICを超えるクリンダマイシンの存在下で増殖することを明白に証明している。この微生物は、誘導性耐性を示している。240分後の時点での細菌数における明白な減少は、測定システムのアーチファクトである。240分後に、黄色ブドウ球菌表面濃度は、現在の画像分析ソフトウエアを用いて計数可能である数を超えて増殖していた。
BAA−976コントロール菌株は、同一条件下で増殖を示していない。BAA−976はクリンダマイシンに感受性であることが知られているので、予測通りである。
BAA−977「クリンダマイシン単独」曲線は重要な証明である。その曲線で証明された増殖の欠如は、エリスロマイシン誘導の不在下ではBAA−977菌株がクリンダマイシンに対して感受性であるように見えることを示している。これは、MLSBi菌株の不正確な診断である。両方の抗生物質に対して感受性であることが知られているATCC 29213菌株は、本アッセイでは増殖を示さなかった(データは示していない)。
図13における結果は、誘導性耐性の統計的に有意な証拠がフローセルへのクリンダマイシンの導入後2時間以内に見いだせることを示している。カセットへ細菌サンプルを導入した後の本アッセイの全サイクル時間は、4時間未満であった。これは、平板培養した微生物を一晩増殖させる必要がある現行のD試験法に比較して劇的な改善である。
これらの実施例は、決して本発明の真の範囲を限定するためのものではなく、むしろ例示する目的で提示されていることを理解されたい。ある程度もしくはまた別の程度に、この種類の現象に適合する多数の特異的な数学的公式が存在する。
本発明の方法および器具を主として微生物の同定およびAOA感受性に関して記載してきた。しかし本明細書で最初に言及したように、細菌感染ではない他の獣医学的もしくは医学的に重要な状態に関して本発明の方法を使用することもまた可能である。例えば、ウイルス感染を有する患者への抗ウイルス薬の効果を試験するためには、適合する宿主細胞を収集し(感染の性質に依存して、患者から、またはその作業のために培養された宿主細胞から収集できる)、次に患者からのウイルスのサンプルへ曝露させることができる。各チャネルでは、可能であれば相違する濃度での様々な抗ウイルス薬をシステム内に配置し、ウイルス感染の進行を観察できる。そのような観察は、感染の細胞マーカー、ウイルスと直接関連付けられたバイオマーカー、細胞生理学における変化(例、呼吸率)、細胞分割率、細胞分割パターン(例、単層の外側で増殖する細胞)、または顕微鏡によって観察できる細胞構造における変化(できれば染色と結び付けて)を伴う抗体反応性を含むことができる。
抗腫瘍薬/抗癌薬に関しての本システムの使用は、生検もしくは血液サンプル中の患者から入手された癌細胞の使用を含むことができる。細胞が固形腫瘍から採取される場合は、細胞は機械的および/または酵素的手段(例、プロテアーゼ処理)によって分散させることができる。この時点で、細胞は、細胞を結合させるために表面へ近付けるために必要であれば界面動電的濃縮を用いて、微生物の方法で本システム内に導入することができる。この時点で、抗癌剤を導入し、細胞死、細胞分割の停止のいずれかの癌細胞における変化、または細胞形態における変化を観察かつ測定できる。この分析形態は、抗癌剤が癌細胞に及ぼす作用を測るためだけではなく、毒性がヒトによって高度に変動性であれば、これらの薬剤が非癌細胞に及ぼす毒性を決定するためにも使用できる。
同様の方法で、本システムは、患者の細胞のサンプルを採取し、それらに形態もしくは増殖特性のいずれかによる、または細胞の生理学的性質を反映する生化学薬品で染色する、抗体もしくは様々なバイオマーカーの存在もしくはレベルを指示する類似の染料で染色することによる細胞の顕微鏡検査によって副作用の出現を測るためにそれらの薬物を惹起投与することによって、有益な薬物の副作用の存在もしくは欠如を測るためにも使用できる。
当業者であれば、本発明の本質および範囲から逸脱せずに多数の変化させた他の配列を考案することができる。さらに、本発明の原理、態様および実施形態、ならびにそれらの特定の実施例について本明細書で述べているすべての陳述は、それらの構造的および機能的同等物の両方を含むことが意図されている。さらに、そのような同等物は、現在知られている同等物ならびに将来開発される同等物、すなわち構造とは無関係に同一機能を実施するように開発された任意の要素の両方を含むことも意図されている。本明細書で言及したすべての参考文献は、参照して組み込まれる。