図1A及び1Bは、従来の磁気素子10及び10’を示す。このような従来の磁気素子10/10’は、磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)等の不揮発性メモリに用い得る。従来の磁気素子10は、スピンバルブであり、従来の反強磁性(AFM)層12、従来の固着層14、従来の非磁性スペーサ層16及び従来の自由層18を含む。シード層やキャップ層などの他の層(図示せず)も用い得る。従来の固着層14及び従来の自由層18は、強磁性である。従って、従来の自由層18は、変更可能な磁化19を有するものとして示す。従来の非磁性スペーサ層16は、導電性である。AFM層12は、固着層14の磁化を特定の方向に固定、即ち、固着するために用いられる。自由層18の磁化は、通常、外部磁場に応じて自由に回転する。図1Bに示す従来の磁気素子10’は、スピントンネル接合である。従来のスピントンネル接合10’の複数の部位は、従来のスピンバルブ10に類似している。しかしながら、従来の障壁層16’は、従来のスピントンネル接合10’において、電子がトンネル通過するのに充分な程薄い。
従来の自由層18/18’及び従来の固着層14/14’のそれぞれの磁化19/19’の向きに応じて、従来の磁気素子10/10’の抵抗は、それぞれ変化する。従来の自由層18/18’の磁化19/19’が、従来の固着層14/14’の磁化と平行である場合、従来の磁気素子10/10’の抵抗は、低い。従来の自由層18/18’の磁化19/19’が、従来の固着層14/14’の磁化に反平行である場合、従来の磁気素子10/10’の抵抗は、高い。
従来の磁気素子10/10’の抵抗を検出するには、従来の磁気素子10/10’に電流を流す。通常、メモリ用途では、電流は、CPP(面に対し垂直な電流)構成で、従来の磁気素子10/10’の層に対して垂直(上下、図1A又は1Bに示すz方向)に流される。通常、従来の磁気素子10/10’両端間の電圧降下の大きさを用いて測定される抵抗の変化に基づき、抵抗状態、従って、従来の磁気素子10/10’に記憶されるデータを決定し得る。
特定の材料を用いて、従来の磁気素子10’の高抵抗状態と低抵抗状態との間における抵抗の差の大きさを増大させることが提案されている。特に、エピタキシャル又は高度集合組織のFe又はCoを固着層14’及び自由層18’に用い、また、エピタキシャル又は高度集合組織のMgOを従来の障壁層16’に用いることが提案されている。このような構造の場合、大きな磁気抵抗効果、即ち、最大数百パーセントの高抵抗状態と低抵抗状態との間の差を達成し得る。
スピン転移は、従来の自由層18/18’の磁化19/19’を切り換え、これによって、従来の磁気素子10/10’にデータを記憶するために用い得る現象である。スピン転移について、従来の磁気素子10’の文脈で述べるが、従来の磁気素子10にも同様に適用可能である。スピン転移現象の以下の説明は、現在の知見に基づくものであり、本発明の範囲を限定しようとするものではない。
スピン偏極電流が、CPP構成のスピントンネル接合10’等の磁性多層を横断する場合、強磁性層に入射する電子のスピン角運動量の一部は、強磁性層に転移し得る。従来の自由層18’に入射する電子は、それらのスピン角運動量の一部を従来の自由層18’に転移し得る。その結果、電流密度が充分に高く(約107乃至108A/cm2)、また、スピントンネル接合の横方向の寸法が小さい(約200ナノメートル未満)ならば、スピン偏極電流は、従来の自由層18’の磁化19’方向を切り換え得る。更に、スピン転移が従来の自由層18’の磁化19’方向を切り換え得るには、従来の自由層18’は、充分に薄い方が良く、例えば、一般的には、Coの場合、約10ナノメートル未満である方が良い。スピン転移に基づく磁化のスイッチングは、他のスイッチングメカニズムより優れており、従来の磁気素子10/10’の横方向の寸法が小さく、数百ナノメートルの範囲にある場合、識別可能になる。従って、スピン転移は、小さい磁気素子10/10’を有する高密度磁気メモリに適している。
スピン転移は、従来のスピントンネル接合10’の従来の自由層18’の磁化方向を切り換えるために外部スイッチング場を用いることに対する他の選択肢又は追加としてCPP構成に用い得る。例えば、従来の自由層18’の磁化19’は、従来の固着層14’の磁化に反平行な方向から従来の固着層14’の磁化に平行な方向に切り換え得る。電流は、従来の自由層18’から従来の固着層14’に流される(伝導電子は、従来の固着層14’から従来の自由層18’に移動する)。従来の固着層14’から移動する多数電子のスピンは、従来の固着層14’の磁化と同じ方向に偏極される。これらの電子は、それらの充分な量の角運動量を従来の自由層18’に転移して、従来の自由層18’の磁化19’を従来の固着層14’のそれに平行になるように切り換え得る。他の選択肢として、自由層18’の磁化は、従来の固着層14’の磁化に平行な方向から従来の固着層14’の磁化に反平行に切り換え得る。電流が、従来の固着層14’から従来の自由層18’に流される(伝導電子が反対方向に移動する)場合、多数電子のスピンは、従来の自由層18’の磁化の方向に偏極される。これらの多数電子は、従来の固着層14’によって透過される。少数電子は、従来の固着層14’から反射され、従来の自由層18’に戻り、それらの充分な量の角運動量を転移して、自由層18’の磁化19’を従来の固着層14’のそれに反平行に切り換え得る。
スピン転移は、従来の自由層18/18’の磁化19/19’のスイッチングに用い得るが、通常、高い電流密度が必要なことを当業者は容易に認識されるであろう。特に、磁化19/19’の切り換えに必要な電流は、臨界電流と称される。上述したように、臨界電流は、少なくとも約107A/cm2である臨界電流密度に対応する。また、当業者は、そのように高い電流密度が意味することは、高い書き込み電流及び小さい磁気素子サイズが必要であることを容易に認識されるであろう。
磁化19/19’のスイッチングに高い臨界電流を用いると、このような磁気メモリにおける従来の磁気素子10/10’の有用性及び信頼性に悪影響が及ぶ。高い臨界電流は、高い書き込み電流に対応する。高い書き込み電流を用いると、消費電力が増大し、望ましくない。高い書き込み電流を用いると、絶縁トランジスタ等の更に大きな構造体を従来の磁気素子10/10’に用いてメモリセルを形成することが必要な場合がある。その結果、このようなメモリの面密度は減少する。更に、抵抗が高く、従って、信号が大きい従来の磁気素子10’は、高い書き込み電流で従来の障壁層16’が絶縁破壊を受け易くなり得ることから、信頼度が低下することがある。従って、高信号読み出しは達成し得るが、従来の磁気素子10/10’は、スピン転移を用いて従来の磁気素子10/10’に書き込みを行う従来の高密度MRAMでの用途には不適切なことがある。
本発明は、磁気素子及びMRAM等の磁気メモリに関する。以下の説明は、当業者が本発明を実現し用いるために提示し、また、特許出願及びその要求事項という文脈で提供する。好適な実施形態に対する様々な修正並びに本明細書に述べる全般的な原理及び特徴は、当業者には容易に明らかであろう。従って、本発明は、例示した実施形態に限定することを意図するものではなく、本明細書に述べる原理及び特徴と合致する最も広い範囲に適合するものである。
図2は、磁気素子として用い得る二重スピンフィルタ70と称される磁気素子の一実施形態の図である。二重スピンフィルタ70は、好適には、適切なシード層上に組み立てられる。二重スピンフィルタ70には、反強磁性(AFM)層71が含まれ、その上には、固着層72が組み立てられる。固着層72は、強磁性であり、その磁化は、AFM層71によって固着される。更に、二重スピンフィルタ70は、第1スペーサ層73を含む。第1スペーサ層73は、電荷キャリアが固着層72と自由層74との間をトンネル通過できるほどに充分薄い絶縁性の障壁層73であってよい。他の選択肢として、第1スペーサ層73は、絶縁基材(特に明示しない)内に存在する導電性チャネル(特に図示しない)を含む電流狭窄層であってよい。そのような構造において、固着層72と自由層74との間の電流の伝導は、導電性チャネルにおいて狭窄される。自由層74は、強磁性であり、スピン転移現象により変更し得る磁化を有する。二重スピンフィルタ70には、更に、Cu等の材料を含み得る導電性の非磁性スペーサ層75を含む。二重スピンフィルタ70には、AFM層77によって磁化が固着される強磁性の第2固着層76が含まれる。二重スピンフィルタ70は、スピントンネル接合又は電流狭窄接合(層71、72、73及び74を含む)及びスピンバルブ(層74、75、76、及び77を含む)から構成され、自由層74を共有すると見なし得る。その結果、スピン転移を用いた書き込みを可能にしつつ、高い読み出し信号を実現し得る。層72、74及び76は、単一の強磁性膜として説明するが、合成であってよく、及び/又は、不純物を添加して、二重スピンフィルタ70の熱的安定性を改善してよい。また、自由層が静磁気的に結合された二重スピンフィルタを含む、静磁気的に結合される自由層を有する他の磁気素子について説明した。従って、スピントンネル接合又は二重スピンフィルタ等の磁気素子を用いる他の構造もまた提供し得る。
二重スピンフィルタ70は、スピン転移を用いて自由層74の磁化を切り換え得るように構成される。その結果、二重スピンフィルタ70の大きさは、好適には、小さく、数百ナノメートルの範囲であり、それ自体の電界の影響が減少する。好適な実施形態において、二重スピンフィルタ70の大きさは、二百ナノメートル未満であり、好適には、約百ナノメートルである。二重スピンフィルタ70は、好適には、図2の紙面に対して垂直に約50ナノメートルの深さを有する。この深さは、好適には、二重スピンフィルタ70の幅より小さく、このため二重スピンフィルタ70が何らかの形状異方性を有し、自由層74は、確実に好適な方向を有する。更に、自由層74の厚さは充分小さいため、スピン転移は、自由層磁化を回転して固着層72及び76の磁化と一致させるのに充分な程強い。好適な実施形態において、自由層74は、10nm以下の厚さを有する。更に、二重スピンフィルタ70が好適な大きさを有する場合、107A/cm2オーダーの充分な電流密度を相対的に小さい電流で提供し得る。例えば、0.06x0.12μm2の楕円二重スピンフィルタ70の場合、約107A/cm2の電流密度を約0.5mAの電流で提供し得る。その結果、極めて高い電流を出力するための特別な回路の使用を回避し得る。
従って、二重スピンフィルタ70を用いると、スイッチングメカニズムとしてスピン転移を用いることや信号の改善が可能になる。更に、二重スピンフィルタ70は、それが相対的に低い面抵抗を保有するように、組み立て得る。例えば、30オーム/μm2未満の面抵抗を達成し得る。更に、自由層74の磁化は、相対的に低く維持でき、これによって二重スピンフィルタ70の臨界電流を低減し得る。
上述した磁気素子70は、その意図した目的のために良好に機能し得るが、当業者は、磁気素子70を切り換えるのに必要な臨界電流を低減することが望ましいことも認識されるであろう。また、磁気素子70からの信号を大きくすることも望ましい。
本発明は、磁気素子を提供するための方法及びシステムを提供する。本方法及びシステムには、固着層、自由層、及び固着層と自由層との間のスペーサ層を提供する段階が含まれる。スペーサ層は、絶縁性であり、規則的に配列された結晶構造を有する。また、スペーサ層は、スペーサ層をトンネル通過できるように構成される。一態様において、本方法及びシステムには、更に、第2固着層と、自由層と第2固着層との間に存在する導電性で非磁性の第2スペーサ層と、を提供する段階を含む。磁気素子は、書き込み電流が磁気素子を通過する際、スピン転移により自由層を切り換えるように構成される。
本発明について、特定の磁気メモリ、及び或る構成要素を有する特定の磁気素子の観点で述べる。しかしながら、当業者は、この方法及びシステムが、異なる及び/又は追加の構成要素を有する他の磁気メモリ要素、及び/又は異なる及び/又は本発明と矛盾しない他の特徴を有する他の磁気メモリに対して効果的に作用することを容易に認識されるであろう。また、本発明について、スピン転移現象に関する現在の理解の文脈で説明する。従って、本方法及びシステムの振る舞いの理論的説明は、このスピン転移の現在の理解に基づき行われることを当業者は容易に認識されるであろう。また、本方法及びシステムは、基板との特定の関係を有する構造という文脈で説明されることを当業者は容易に認識されるであろう。しかしながら、本方法及びシステムは、他の構造と整合性があることを当業者は容易に認識されるであろう。更に、本方法及びシステムは、或る層が合成及び/又は単一であるという文脈で説明される。しかしながら、これらの層は、他の構造を有し得ることを当業者は容易に認識されるであろう。更に、本発明について、磁気素子が特定の層を有するという文脈で述べる。しかしながら、当業者は、本発明と矛盾しない追加の及び/又は異なる層を有する磁気素子も用い得ることを容易に認識されるであろう。更に、或る構成要素は、強磁性であると説明される。しかしながら、本明細書に用いる用語“強磁性”には、フェリ磁性又は同様な構造を含み得る。従って、本明細書に用いる用語“強磁性”には、これに限定するものではないが、強磁性体及びフェリ磁性体が含まれる。また、本発明について、単一の要素という文脈で説明する。しかしながら、本発明が、多数の要素、ビットライン、及びワードラインを有する磁気メモリの用途と整合性があることを当業者は容易に認識されるであろう。
図3は、スピン転移を用いて書き込み可能な本発明に基づく磁気素子100の第1実施形態の上層図である。磁気素子100には、固着層102、スペーサ層104、及び自由層106が含まれる。好適な実施形態において、磁気素子100には、更に、好適には、AFM層である固定層(図示せず)が含まれる。固着層102は、単層として示すが、非磁性スペーサ層によって分離された2つの強磁性層を含む合成固着層であってよい。非磁性スペーサ層の厚さは、強磁性層の磁化が反強磁性的に結合されるように構成される。好適な実施形態において、固着層102即ちスペーサ層104に隣接する強磁性層は、体心立方(bcc)構造を有する。好適な実施形態において、固着層102即ちスペーサ層104に隣接する強磁性層は、集合組織(texture)を有する。好適な実施形態において、この集合組織は、bcc結晶構造の場合、(100)である。従って、固着層102内の粒子の場合、(100)方向は、好適には、層の面に対して垂直である。言い換えると、固着層102の大多数の粒子が、層の面に対して垂直な(100)方向を有する。また、好適な実施形態において、固着層102即ちスペーサ層104に隣接する強磁性層は、Co、Fe、Ni、Cr、及びMnの内の少なくとも1つを含む金属合金、又はB、P、Si、Nb、Zr、Hf、Ta、Tiの内の少なくとも1つと共にCo、Fe、Ni、及びCrの内の少なくとも1つを含む非晶質合金であり、この場合、非晶質材料は、後熱処理及び再結晶後、所望の集合組織を備えた結晶構造に変わる。
スペーサ層104は、絶縁性である。また、スペーサ層104は、規則的に配列された結晶構造を有する。言い換えると、スペーサ層104は、非晶質ではない。また、スペーサ層は、好適には、集合組織を有する。好適な実施形態において、固着層102即ちスペーサ層104に隣接する強磁性層の集合組織と、スペーサ層104の集合組織との間には、良好に定義された関係がある。好適な実施形態において、集合組織は、同じである。従って、好適な実施形態において、スペーサ層104の集合組織は、(100)である。また、好適な実施形態において、スペーサ層104には、少なくとも10原子パーセントのMgが含まれ、また、岩塩(NaCl)構造を有する。従って、スペーサ層104は、好適には、MgOである。また、スペーサ層104は、スペーサ層をトンネル通過できるように構成される。その結果、好適な実施形態において、固着層102は、(100)方位を有するbcc構造であり、他方、スペーサ層は、好適には、立方構造及び(100)方位を有するMgOである。
自由層106は、単層として示す。そのような実施形態において、自由層106は、好適には、bcc結晶構造と、好適には、方位が(100)である集合組織とを有する。他の実施形態において、自由層106には、好適には、2つの強磁性副層(分離して図示せず)が含まれる。スペーサ層104に最も近い第1副層は、好適には、bcc結晶構造及び(100)集合組織を有する。第2副層は、好適には、低磁気モーメントを有する。副層の磁化は、副層の磁化の相対的な方位が一定であるように緊密に結合される。自由層106は、更に、副層間に非磁性スペーサ層を含み得る。このような実施形態において、磁化は、非磁性スペーサ層を跨ぐ結合のために、反平行又は平行なままである。また、好適な実施形態において、自由層106又はその第1副層は、Co、Fe、Ni、Cr、及びMnの内の少なくとも1つを含む金属合金、又はB、P、Si、Nb、Zr、Hf、Ta、Tiの内の少なくとも1つと共にCo、Fe、Ni、及びCrの内の少なくとも1つを含む非晶質合金である。第2副層は、好適には、形態MXを有し、ここで、Mは、Co、Fe、Ni、Cr及びMnの内の少なくとも1つを含み、また、Xは、自由層のモーメントの低減を支援し得るB又はTa等の元素であってよく、又は、垂直異方性の低減を支援するPt又はPdであってよい。
また、磁気素子100は、書き込み電流が磁気素子100を通過する際、スピン転移により自由層106を切り換え得るように構成される。従って、好適な実施形態では、幅w等の自由層106の横方向寸法は、小さく、好適には、二百ナノメートル未満である。更に、自由層106が確実に特定の容易軸を有するように、好適には、何らかの差を横方向の寸法間に設ける。
従って、磁気素子100は、スピン転移を用いて書き込み可能である。更に、スペーサ層104の結晶構造及びスペーサ層104と固着層102との集合組織間の関係のために、良好に定義された電子状態が、スペーサ層104を介したトンネル通過プロセスを支配する。このことは、更に、自由層106の集合組織によって改善される。その結果、磁気素子100の磁気抵抗効果信号は、増大させ得る。従って、磁気素子100からの信号が増大する。更に、スペーサ層104を介した良好なスピン分極が改善される。自由層106の磁化を切り換えるのに必要な臨界電流は、スピン分極に関係するスピン転移効率に反比例する。その結果、自由層106の磁化を切り換えるのに必要な臨界電流は、低減し得る。従って、高密度磁気メモリに用いる磁気素子100の消費電力及び能力を改善し得る。
図4は、スピン転移を用いて書き込み可能な本発明に基づく磁気素子110の第1実施形態の好適なバージョンの更に詳細な図である。磁気素子110は、磁気素子100と類似している。磁気素子110には、磁気素子100の固着層102、スペーサ層104、及び自由層106と類似した固着層116、スペーサ層118、及び自由層120が含まれる。自由層120には、第1副層122、オプションの非磁性スペーサ層124、及び第2副層126が含まれる。
磁気素子110は、好適には、更に、固定層114を含む。底部コンタクト112及び頂部コンタクト128も示す。底部コンタクト112及び頂部コンタクト128は、磁気素子110に電流をCPP方向に流すために用いられる。固定層114は、好適には、AFM層である。AFM層114は、規則的に配列された結晶構造を有し、また、好適には、特定の集合組織を有する。更に、シード層(図示せず)を用いて、AFM層114の所望の集合組織を提供し得る。例えば、IrMnをAFM層114に用いる場合、β−TaとTaNとの混合であるTa(N)下地層を用いて、IrMn_AFM層114が(002)の集合組織を有する面心立方(fcc)であることを保証する。AFM層114は、好適には、交換結合を介して、固着層116の磁化を固着する。
固着層116は、その磁化が固定層114によって固着される。スペーサ層118に隣接する固着層116の部位は、集合組織を有する。好適な実施形態において、スペーサ層に隣接する固着層の部位は、(001)の好適な垂直集合組織を備えたbcc結晶構造を有する。更に、固着層116は、単層として示すが、他の構造を有し得る。例えば、固着層116は、二重層であってよい。そのような実施形態において、AFM層114に隣接する固着層116の層は、固着層116の磁化を固着するAFM層114の能力を改善するように構成される。他方の二重層は、上述した集合組織を有するように構成される。固着層116は、非磁性スペーサ層によって分離された2つの強磁性層を含む合成固着層であってよい。非磁性スペーサ層の厚さは、強磁性層の磁化が反強磁性的に結合されるように構成される。
スペーサ層118は、絶縁性である。また、スペーサ層118は、規則的に配列された結晶構造を有する。言い換えると、スペーサ層118は、非晶質ではない。また、スペーサ層は、好適には、集合組織を有する。好適な実施形態において、固着層116即ちスペーサ層118に隣接する固着層116の副層の集合組織とスペーサ層118の集合組織との間には、良好に定義された関係がある。また、好適な実施形態において、スペーサ層118には、少なくとも10原子パーセントのMgが含まれ、また、岩塩(NaCl)構造を有する。従って、スペーサ層118は、好適には、MgOである。また、スペーサ層118は、スペーサ層118をトンネル通過できるように構成される。好適な実施形態において、スペーサ層118の集合組織は、(100)である。
自由層120には、好適には、2つの強磁性副層122及び126が含まれる。第1副層122は、好適には、bcc結晶構造及び(100)集合組織を有する。また、好適な実施形態において、第1副層は、Co、Fe、Ni、Cr、及びMnの内の少なくとも1つを含む金属合金、又はB、P、Si、Nb、Zr、Hf、Ta、Tiの内の少なくとも1つと共にCo、Fe、Ni、及びCrの内の少なくとも1つを含む非晶質合金である。第2副層126は、好適には、低磁気モーメントを有する。低磁気モーメントは、好適には、1100emu/cm3以下の磁気モーメントである。一実施形態において、第2副層126は、非晶質であり、10原子パーセントを超えるボロンを含み、また、Co、Fe、Ni、Cr、及びMnの内の少なくとも1つを含む。いずれの場合でも、副層122及び126には、Co、Fe又はNiが含まれる。副層122及び126の磁化は、副層122及び126の磁化の相対的方位が一定であるように緊密に結合される。例えば、これらの磁化は、この結合により反平行又は平行なままである。自由層120には、更に、副層122と126との間にオプションの非磁性スペーサ層124を含み得る。オプションの非磁性スペーサ層124は、好適には、副層122及び126の磁化を交換結合するように構成される。更に、オプションの非磁性スペーサ層124は、拡散停止層として作用し得る。
また、磁気素子110は、書き込み電流が磁気素子110を通過する際、スピン転移により自由層120を切り換え得るように構成される。従って、好適な実施形態において、幅w等の自由層120の横方向寸法は、小さく、好適には、二百ナノメートル未満である。更に、自由層120が確実に特定の容易軸を有するように、好適には、何らかの差を横方向の寸法間に設ける。
従って、磁気素子110は、スピン転移を用いて書き込み可能である。更に、スペーサ層118の結晶構造及びスペーサ層118と固着層116との集合組織間の関係のために、良好に定義された電子状態が、スペーサ層118を介したトンネル通過プロセスを支配する。このことは、更に、自由層120の副層122の集合組織によって改善される。その結果、磁気素子110の磁気抵抗効果信号は、増大させ得る。従って、磁気素子110からの信号が増大する。更に、スペーサ層118を流れるスピン偏極電流の伝導が改善されたため、自由層120の磁化を切り換えるのに必要な臨界電流は、減少し得る。従って、磁気素子110は、更に容易に高密度磁気メモリに用い得る。
図5は、スピン転移を用いて書き込み可能な本発明に基づく磁気素子110’の好適な第1実施形態の第2バージョンを示す図である。磁気素子110’は、磁気素子110と類似している。従って、磁気素子110’の類似部位は、同様に表記する。例えば、磁気素子110’には、磁気素子110の層116、118、及び120と類似した固着層116’、スペーサ層118’、及び自由層120’が含まれる。従って、磁気素子110’は、磁気素子110の優位点を有する。
更に、磁気素子110’には、スピン蓄積層130及びスピン障壁層132が含まれる。スピン障壁層132は、電子の鏡面反射を提供するように構成されており、これによって、スピン転移を用いて切り換えられる自由層120’の能力が改善される。例えば、スピン障壁層132は、好適には、全磁気素子110’におけるRA値の10パーセント未満の低RA生成物を有する劣等トンネル障壁である。スピン障壁層132に用いられる材料の例には、Cu−Al合金の酸化物が挙げられ、この場合、Alは、優先的に酸化される。
好適には、スピン蓄積層130は、長いスピン拡散長を、好適には、少なくとも20乃至100Aオーダーで有する非磁性層である。従って、スピン蓄積層130には、好適には、Cu及びRu等の材料が含まれる。スピン蓄積層130及びスピン障壁層132は、スピンポンピング効果に起因する追加の減衰を低減することによって、自由層120’の磁化を切り換えるスピン転移効果の能力を改善するために用いられる。この減衰は、スピン蓄積層130及びスピン障壁層132が、電流を反射して自由層120’側に戻すように機能し得ることから、低減される。従って、磁気素子110’は、低書き込み電流で更に簡単に切り換え得る。
図6は、スピン転移を用いて書き込み可能な本発明に基づく磁気素子110”の好適な第1実施形態の第3バージョンを示す図である。磁気素子110”は、磁気素子110と類似する。従って、磁気素子110”の類似部位は、同様に表記する。例えば、磁気素子110”には、磁気素子110の層116、118、及び120と類似した固着層116”、スペーサ層118”、及び自由層120”が含まれる。自由層120”は、単層として示すが、自由層120”は、上述したように、2つの副層及びオプションの非磁性スペーサ層を含む他の構造を有し得る。従って、磁気素子110”は、磁気素子110の優位点を有する。
磁気素子110”は、磁気素子110及び110’とは異なる順番で基板に成膜される。特に、自由層120”は、底部コンタクト112”に近く、従って、固着層116”より基板(図示しないが、示した層の下に位置する)に近い。その結果、シード層134が、自由層120”と底部コンタクト112”との間に用いられる。シード層は、自由層120”の所望の結晶構造及び集合組織を助長するように選択される。特に、シード層134の材料は、自由層120”のbcc結晶構造及び(100)の集合組織を助長するように選択される。特に、シード層134には、好適には、Cr、Ta、TaN、TiN、又はTaN/Taが含まれる。層122、124及び126に対応する層の代わりに、単一の層が自由層120”に用いられる場合、自由層120”には、好適には、(100)の集合組織を備えたbcc結晶構造を有するように構成されたCo、Fe、及びNiの内の少なくとも1つが含まれることに留意されたい。
図7は、スピン転移を用いて書き込み可能な本発明に基づく磁気素子200の第2実施形態を示す図である。磁気素子200は、二重スピンフィルタである。磁気素子200には、第1固着層216、絶縁スペーサ層218、自由層220、スペーサ層228、及び第2固着層230が含まれる。スペーサ層228は、非磁性であり、また、導電性又はもう1つの絶縁トンネル障壁のいずれかである。また、磁気素子200には、好適には、第1固定層214及び第2固定層232が含まれる。底部コンタクト212及び頂部コンタクト234も示す。従って、導電性スペーサ層228の場合、磁気素子200は、自由層220を共有するスピントンネル接合202及びスピンバルブ204を含むと見なし得る。しかしながら、絶縁トンネル障壁がスペーサ層228用である場合、磁気素子200は、自由層220を共有する2つのスピントンネル接合202及び204を含むと見なし得る。更に、磁気素子200は、層が基板(図示せず)に対して特定の方位を有する状態で示す。特に、第1固着層216は、自由層220の下に、基板に近接して示す。しかしながら、他の方位も用い得る。
底部コンタクト212及び頂部コンタクト234は、磁気素子200に電流をCPP方向に流すために用いられる。固定層214及び232は、好適には、AFM層である。AFM層214は、規則的に配列された結晶構造を有し、また、好適には、特定の集合組織を有する。更に、シード層(図示せず)を用いて、AFM層214の所望の集合組織を提供し得る。例えば、IrMnがAFM層214に用いられる場合、β−TaとTaNとの混合であるTa(N)下地層を用いて、IrMn_AFM層214が(002)の集合組織を有する面心立方(fcc)であることを保証する。AFM層214は、好適には、交換結合を介して、第1固着層216の磁化を固着する。
第1固着層216は、その磁化が固定層214によって固着される。絶縁スペーサ層218に隣接する固着層216の部位は、集合組織を有する。好適な実施形態において、この集合組織は、体心立方(bcc)結晶構造の場合、(100)である。更に、単層として示すが、固着層216は、他の構造を有し得る。例えば、固着層216は、二重層であってよい。そのような実施形態において、AFM層214に隣接する固着層216の層は、好適には、固着層216の磁化を固着するAFM層214の能力を改善するように構成される。他方の二重層は、上述した集合組織を有するように構成される。固着層216は、非磁性スペーサ層によって分離された2つの強磁性層を含む合成固着層であってよい。非磁性スペーサ層の厚さは、強磁性層の磁化が反強磁性的に結合されるように構成される。
絶縁スペーサ層218は、図3、4、5、及び6に示したスペーサ層104、118、118’、及び118”に対応する。従って、スペーサ層218も規則的に配列された結晶構造を有する。言い換えると、スペーサ層218は、非晶質ではない。また、スペーサ層は、好適には、集合組織を有する。好適な実施形態において、固着層216即ちスペーサ層218に隣接する固着層216の副層の集合組織とスペーサ層218の集合組織との間には、良好に定義された関係がある。また、好適な実施形態において、スペーサ層218には、少なくとも10原子パーセントのMgが含まれ、また、岩塩(NaCl)構造を有する。従って、スペーサ層218は、好適には、MgOである。また、スペーサ層218は、スペーサ層218をトンネル通過できるように構成される。好適な実施形態において、スペーサ層218の集合組織は、(100)である。
自由層220は単層でよいが、自由層220には、好適には、第1副層222、オプションの非磁性スペーサ層224、及び第2副層226が含まれる。副層222及び226は、強磁性である。第1副層222即ちスペーサ層218に隣接する自由層220の部位は、好適には、bcc結晶構造及び(100)の集合組織を有する。また、好適な実施形態において、第1副層222は、Co、Fe、Ni、Cr、及びMnの内の少なくとも1つを含む金属合金、又はB、P、Si、Nb、Zr、Hf、Ta、Tiの内の少なくとも1つと共にCo、Fe、Ni、及びCrの内の少なくとも1つを含む非晶質合金である。第2副層226は、好適には、低磁気モーメントを有する。低磁気モーメントは、好適には、1100emu/cm3以下の磁気モーメントである。一実施形態において、第2副層226は、非晶質であり、10原子パーセントを超えるボロンを含み、また、Co、Fe、Ni、Cr、及びMnの内の少なくとも1つを含む。いずれの場合でも、副層222及び226には、Co、Fe又はNiが含まれる。副層222及び226の磁化は、副層222及び226の磁化の相対的な方位が一定であるように緊密に結合される。例えば、これらの磁化は、この結合のために、反平行又は平行なままである。自由層220には、更に、副層222と226との間にオプションの非磁性スペーサ層224を含み得る。オプションの非磁性スペーサ層224は、好適には、副層222及び226の磁化を交換結合するように構成される。更に、オプションの非磁性スペーサ層224は、拡散停止層として作用し得る。
また、磁気素子200は、書き込み電流が磁気素子200を通過する際、スピン転移により自由層220を切り換え得るように構成される。従って、好適な実施形態において、幅w等の自由層220の横方向寸法は、小さく、好適には、二百ナノメートル未満である。更に、自由層220が確実に特定の容易軸を有するように、好適には、何らかの差を横方向の寸法間に設ける。
磁気素子200は、スピン転移を用いて書き込み可能である。更に、スペーサ層218の結晶構造及びスペーサ層218と固着層216との集合組織間の関係のために、良好に定義された電子状態が、スペーサ層218を介したトンネル通過プロセスを支配する。このことは、更に、自由層220の副層222の集合組織によって改善される。その結果、磁気素子200からの信号は、増大させ得る。スペーサ層218を介したスピン分極が改善されたため、自由層220の磁化を切り換えるのに必要な臨界電流は、減少し得る。更に、固着層216及び230は、磁気素子への書き込み時、固着層216及び230からのスピン転移トルクが加算されるように構成し得る。これによって、更に、自由層220の磁化を切り換えるのに必要な臨界電流が減少する。従って、磁気素子200は、更に容易に高密度磁気メモリに用い得る。
図8は、スピン転移を用いて書き込み可能な本発明に基づく磁気素子200’の第2実施形態の第2バージョンを示す図である。磁気素子200’は、磁気素子200と類似する。従って、磁気素子200’の類似部位は、同様に表記する。例えば、磁気素子200’には、磁気素子200の層216、218、220、228、及び230と類似した第1固着層216’、絶縁スペーサ層218’、自由層220’、第2スペーサ層228’、及び第2固着層230’が含まれる。従って、磁気素子200’は、磁気素子200の優位点を有する。
更に、磁気素子200’には、スピン蓄積層236及びスピン障壁層238が含まれる。スピン障壁層238は、電子の鏡面反射を提供するように構成されており、これによって、スピン転移を用いて切り換えられる自由層220’の能力が改善される。例えば、スピン障壁層は、好適には、全磁気素子200’におけるRA値の10パーセント未満の低RA生成物を有する劣等トンネル障壁である。
スピン蓄積層236は、好適には、長いスピン拡散長を有する非磁性層である。従って、スピン蓄積層236には、好適には、Cu及びRu等の材料が含まれる。スピン蓄積層236及びスピン障壁層238は、スピンポンピング効果に起因する減衰を低減することによって、自由層220’の磁化を切り換えるスピン転移効果の能力を改善するために用いられる。この減衰は、スピン蓄積層236及びスピン障壁層238が、スピン偏極電流を反射して自由層220’に戻すように機能し得ることから、減少する。従って、磁気素子200’は、低書き込み電流で更に簡単に切り換え得る。
図9は、スピン転移を用いて書き込み可能な磁気素子を提供するための本発明に基づく方法300の一実施形態を示す図である。本方法300について、磁気素子200’の文脈で述べる。しかしながら、本方法300を他の磁気素子で用いてもよい。また、方法300は、単一の磁気素子を提供するという文脈で説明する。しかしながら、複数の要素を提供し得ることを当業者は容易に認識されるであろう。方法300は、好適には、ステップ302を介して、底部コンタクト212’を設けた後、第1固定層214’及び任意の必要なシード層の成膜で開始する。第1固着層216’は、ステップ304を介して設ける。ステップ304には、好適には、所望の結晶構造及び集合組織を有する第1固着層216’を設ける段階が含まれる。絶縁スペーサ層218’は、ステップ306を介して設ける。ステップ306には、所望の結晶構造及び集合組織を有する絶縁層218’を設ける段階が含まれる。更に、ステップ306には、固着層216’と自由層220’との間の絶縁スペーサ層218’をトンネル通過するように、絶縁スペーサ層218’を設ける段階が含まれる。
自由層220’は、ステップ308を介して設ける。好適な実施形態において、ステップ308には、自由層220’に所望の結晶構造及び方位を設ける段階が含まれる。また、ステップ308には、好適には、副層222’及び226’を設ける段階と、オプションとして、非磁性スペーサ層224’を設ける段階と、が含まれる。従って、絶縁スペーサ層218’は、固着層216’と自由層220’との間に存在する。方法300を用いて磁気素子100又は110を提供する場合、残りのステップは、省いてよい。スピン蓄積層236及びスピン障壁層238は、ステップ310及び312を介して、オプションとして設ける。方法300を用いて磁気素子110を提供する場合、残りのステップは、省いてよい。他のスペーサ層228’は、ステップ314を介して設ける。スペーサ層228’は、非磁性であり、また、導電性又は他の絶縁トンネル障壁のいずれかであってよい。従って、自由層220’は、絶縁スペーサ層218’とスペーサ層228’との間に存在する。第2固着層230’は、ステップ316を介して設ける。従って、スペーサ層228’は、自由層220’と第2固着層との間に存在する。また、第2AFM層232’及び頂部コンタクト234’も設け得る。
このようにして、磁気素子100、110、110’、200、及び200’は、組み立て得る。従って、方法300を用いて、スピン転移を用いて書き込み可能な磁気素子であって、スピン転移を用いて書き込むための高い信号と低臨界電流とを有し得る磁気素子100、110、110’、200、及び200’を組み立て得る。
スピン転移を用いて書き込み可能な磁気素子を提供するための方法及びシステムを開示した。本発明について、例示した実施形態に基づき説明したが、当業者は、これら実施形態に対する変形が存在し得ること、また、どのような変形も本発明の精神及び範囲内にあることを容易に認識されるであろう。従って、当業者は、添付された請求項の精神及び範囲から逸脱することなく、多くの修正を行い得る。