JP2008516215A - 流体に含まれている粒子を電気泳動分離するための装置 - Google Patents

流体に含まれている粒子を電気泳動分離するための装置 Download PDF

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Abstract

本発明は、流体に含まれる粒子の電気泳動分離装置であって、2種類の電極A及びBを備えており、これら2種類の電極の電位を異なる値にすることにより、前記流体内に電場が生成され、2種類の電極は、粒子捕集面が設けられたチャンバ内に配置される。2種類の電極のそれぞれは、チャンバ内で流体に浸され、且つ粒子捕集面の平面とは異なる平面に配置される。2種類の電極には、逆位相で電流が供給される。2種類の電極のそれぞれの電位は、粒子捕集面の平面に垂直な方向ozに沿った距離に応じた勾配を有する。

Description

技術分野
本発明は、流体、特に液体の電気泳動分離装置であって、特にそのような流体に含まれる、最も広義の粒子の分離又は捕集を可能にする電気泳動分離装置に関する。
背景技術
現在、様々な目的のために物理的物質の混合物を分離することを意図した様々な技術が知られている。このような技術が開発されたことで、極めて小さな寸法の対象物を操作することが可能であり、従って、前記粒子とその分離に使用される手段とが接触しないことが必要である。
本発明の対象物は、様々な技術分野に関連している。よって、生物学において、これらの粒子は、限定されないが、生物細胞、例えば微生物(数十マイクロメートル)及び/又は数十ナノメートル又は数ナノメートルの大きさを有する生体分子(DNA、酵素、タンパク質、リポソーム等)を含む。
化学では、これらの対象物は、分子又は分子クラスター(ミセル)を含む。
一般に、これらの対象物は、液体媒体中の固体粒子(懸濁液)、コロイド又はエアロゾルを含むことができる。
本発明の以下の説明では、このような様々な種類の対象物を総称して「粒子」という。
多くの技術的及び工業的用途は、分析、スクリーニング、計数等のために、流体、特に液体中で移動可能な粒子を正確に分離することを目指している。
例えば、上記用途として、バイオセキュリティ、衛生管理、農業食品の品質検査、新薬研究の分野を挙げることができる。また、マイクロカプセル及び微粒子(塗料、化粧品、食品業界)、エアロゾル(大気汚染)等を使用する分野を挙げることもできる。
流体中の1つ以上の粒子を移動させる様々な技術として、以下を挙げることができる。
・対流:この原理は、実際の流体による粒子の巻込みに基づいており、よって流体の運動を必要とする。したがって、粒子の運動を制御するために、流体の運動を制御することが必要である。
・粒子の物理特性の利用:特に、
− 磁気特性:磁気泳動。磁気を印加することにより、粒子の移動を確実に制御できる。
− 電気特性:
◆電気泳動:帯電粒子に電場
Figure 2008516215
を印加することによって、いわゆるクーロン力を生じさせる。帯電した粒子は、電場に対して平行に、電荷の符号に応じた方向に向かって運動する。
◆誘電泳動:この技術は、誘電特性を有するあらゆる帯電材料又は非帯電材料に作用する電場勾配を利用する。よって、このような電場勾配は、電場が均一でないことを前提としている。電場の作用によって極性を付与された粒子は、この粒子が浸されている流体より極性を有し易いか、又は極性を有しにくいかにより、電場が強い領域に向かって(本明細書では「正の誘電泳動」と呼ぶ)又は弱い領域に向かって(本明細書では「負の誘電泳動」と呼ぶ)移動する。
材料の分離に関して誘電泳動を利用することは、例えばUS−A−3,162,592明細書に記載されている。この誘電泳動現象は、材料の分離に関して電気泳動を利用する妥当性の根拠となる特定数の利点を有している。
第一に、誘電泳動の使用により、中性の材料、つまり残留電荷がゼロ又はゼロに近い材料の操作が可能となる。
さらに、誘電泳動の使用により、交流電場での作業も可能となる。実際、印加される電場は均一でないので、電場の方向により極性が逆転しても、誘電力の方向は変わらない。
換言すれば、電場勾配の影響を受ける粒子は、印加された電場の符号の変化を「経験」しない。よって、交流信号を利用した誘電泳動によって極性を有し得る粒子を移動させることができる。
その結果、これによって電気泳動に関連する欠点が排除される。実際、電気泳動では、電場の逆転により、印加されるクーロン力の逆転が生じ、よって帯電粒子が平衡位置を中心に振動し、つまり移動しないということに注意されたい。
さらに、交流電場を使用することにより、液体イオン溶液を使用した電気システム内の電極のレベルで特に生じやすい、寄生電気化学的反応を減少又は排除することが可能である。一般に電極からのガス放出を引き起こし、また媒体の化学的特性を局所的に変化させる限りにおいて、このような現象を克服する試みが行われる。
誘電泳動の現象を始めに説明したが、システムの小型化により、サブミクロン、場合によってはナノメートルの大きさを有する粒子に対してこの現象を利用するのに十分な強さの電場を得ることが可能となった。実際、誘電泳動力は、粒子の容積に比例する。したがって、粒子が小さいほど、誘電泳動により粒子を運動させる電場の強度を増大させなければならない。
従来では、電場勾配を生成する電極を平らな面(ガラス、安定化処理されたシリコン)上に堆積させ、これにより平面構造を有するシステムを得ていた。このようなシステムでは、流体及びこの流体に含まれる粒子は、電極の上面と接触する。
最も一般的に見られる電極の種類は、交互配列電極、刻み目付き電極及び四重極電極である(それぞれ図1a、1b、1cを参照)。図2にも、交互配列電極を備えた平面構造の断面を示す。
しかし、平面構造には、以下に記述するように特定の大きな欠点がある。
第一に、このような平面構造では、電極の平面に垂直方向の、つまり粒子を含む流体の容積中の、誘電泳動力FDEPの範囲(図中のoz軸)は狭い。このように、正の誘電泳動を利用する交互配列システムの場合、電極の鋭角エッジに接触する位置で泳動力が最大値に達する。
これに対し、方向oz、つまり電極の面に垂直な平面内で電極から離れるにつれ、泳動力の強さは以下の式に従って指数関数的に減少する。
Figure 2008516215
式中、dは隣接する2つの電極を隔離する空間の中央と電極の中央との距離であり、Vは電極に印加される電圧のピーク振幅であり、zは、oz軸に沿った前記力の測定位置から電極の平面までの距離を示す。
電極の鋭角エッジが、電場が最大となる位置でコーナー効果を生じさせることは明らかである。また、ozに沿った誘電泳動力が有効な範囲は、半径がパラメータd、つまり電極間ギャップの中央と対象となる電極の中央との間の距離の約40%に等しい領域であることが実証されている。
よって、誘電泳動力の作用による粒子の捕集は、電極の上部に位置する流体の高さhが、電極のパターンdと同じオーダーの大きさであるならば、容積に関して効果的である。換言すれば、その効率は比較的制限されているか、又は極めて制限された容積の処理流体に使用しなければならない。
大きな深さを有する流体を処理したいときに、この方法の使用を妨げる上記欠点を克服するため、電極の表面積を著しく増大させることが考えられる。しかしながら、この解決策は実施が難しく、センサの表面積が大きいほど時間を要するので、検出を完全に妨げてしまうであろう。
平面構造を有するシステムの他の主な欠点は、粒子−流体のペアの電気的性質が負の電気泳動の形態を有するために、捕集の効率が低下するという事実である。
このような構造では、電極による前記粒子の捕集が完全に妨げられることが観察される。実際、電極に交流電気信号又は直流電気信号が供給される場合の誘電泳動の形態には2種類の形態がある。即ち、いわゆる正の誘電泳動であって、誘電泳動力が、電場の強さが大きい領域、つまり電極の方向に向かう形態と、負の誘電泳動であって、誘電泳動力が、電場の強さが小さい領域、つまり前記電極とは反対の方向に向かう形態である。
平面電極によって生成された誘電泳動力の方向は、第一に、電極に印加された電気信号の周波数に依存するが、実際の供給電力に依存しないパラメータ、即ち粒子−流体ペアの電気的特性にも依存する。実際、粒子を運ぶ流体の導電率が、誘電泳動の形態に大きく影響することが実証されている。
よって、電気的条件、特に粒子−流体ペアの性質により、誘電泳動の形態が常に負となる場合、誘電泳動の引力によって粒子を捕集するよう設計された構成要素は効率的でない。例えば、導電性の過度に大きい流体においては、平面構造を有する構成要素は電極上でわずかな捕集も行うことができない。この種の問題は、一般にイオン水溶液、即ち導電性の高い液体が使用される生物学において一般的である。
実際、平面構造を有するシステムでは、誘電泳動力は、印加された電場にも起因する対抗力、特に電気対流によって妨げられることがある。「電気対流」という用語は、流体を動かす傾向のある全ての現象(流体に印加される電場の存在による対流)、特に電気浸透による運動(電極上の電荷の存在)及びジュール効果加熱によって引き起こされる運動(流体中の電流の存在)を意味する。
粒子は小さいので、運動する流体は粒子を巻込む。このような対流運動は、それぞれの現象に関連する蓄積領域が同じでない場合には完全に抑制されてしまうこともある誘電泳動運動に重なる。
電気対流は、特に、電気対流による巻込みが概して誘電泳動力とは反対の方向に生じるような平面構造を有するシステムにおいて見出される望ましくない現象である。例えば、交互配列電極を有するシステムでは、電気対流により、電極の中央及び/又は電極間ギャップの中央に蓄積領域が形成され、その位置は、誘電泳動に起因する前記電極の鋭角エッジによって形成されるものと同じではない。
この電気対流は、電極の電力の周波数に依存し、粒子が小さいほど重要になる。
一般に、この現象は、周波数を上げていくと軽減するが、正の誘電泳動はカットオフ周波数を超えて動作させないようにする必要があり、このカットオフ周波数は、正の誘電泳動の形態から負の誘電泳動の形態への変化に対応する周波数に等しい。
換言すれば、周波数を変化させて電気対流を克服することは常に可能ではない。
前述した平面構造以外の構成も提案されている。つまり、US2004/0011650号明細書には、特にこの事例の場合石英からなる絶縁膜に形成されて、2つの電極間に位置する開口内に、電場勾配、つまりは誘電泳動力を生成することができる装置を使用することによるDNA分子の閉じ込めシステムが提案されている。開口は、電場の電場線を狭め、これにより所望の勾配が形成される。したがって、開口は捕集領域を構成する。しかし、誘電泳動力は、膜の開口付近に局在化したままであり、従って流体の容積全体にわたって分布する力場を得ることはできない。さらに、このシステムは、負の誘電泳動の形態を用いた粒子の捕集に使用することはできない。
発明の概要
したがって、本発明の目的は、上記方法の様々な欠点の全てを克服しつつ、誘電泳動によって流体中の粒子を分離することである。
基本的には、本発明は、誘電泳動現象を作り出す前記電極が粒子捕集領域を構成しない、全体的にピラミッド状の構造を使用することによって、前述と同じ種類の平面構造を、それが交互配列構造、刻み目付き構造又は四重極構造のいずれであるにかかわらず置き換えることを目的とする。
本発明による誘電泳動分離装置は2種類の電極を有し、この2種類の電極の電位が異なることにより前記流体内に電場が生じ、この2種類の電極は、誘電泳動分離が実施される流体を収容するチャンバ又は管の内部に配置され、前記チャンバ自体が粒子捕集面を備える。
この装置は、
− 2種類の電極それぞれが、チャンバ又は管内の流体に浸されており、且つ粒子捕集面の平面とは異なる平面内に位置すること、
− 2種類の電極に、逆相の電流が供給されること、及び
− 2種類の電極それぞれの電位が、粒子捕集面の平面に垂直な方向に沿った距離に基づく勾配を有していること
を特徴とする。
換言すれば、本発明は、
− 2つで一セットの、又は2種類の電極を方向ozに配置し、この2つのセットに逆相で給電すること、
− 前記セットの電極それぞれが、方向ozに向かって可変の電位を送ることができるようにすること、及び
− 最後に、結果として得られる誘電泳動力が常に方向ozに向くような電位プロファイルを形成すること
を含む。
換言すれば、上述のように、電極が捕集面としての役割を失い、電気的な役割、つまり不均一な電場を提供するという役割のみを有することにより、捕集面、即ちチャンバ又は管の底部に向かう、捕集のための効果的な誘電泳動力が生成される。
有利には、両方の種類の電極に交流電流を供給する。
本発明を実施できる方式及びそれにより得られる利点は、例示のみを目的とし、添付図面を参照する以下の実施態様の例からさらに明らかになるであろう。
発明の詳細な説明
本発明の目的の1つは、第1に、oz軸に平行な、つまり捕集面に垂直な誘電泳動力を得ることであり、第2に、ozに沿って制御された状態で誘電泳動力を分散させることである。例えば、誘電泳動力の強さは、oz軸に沿ってほぼ一定にすることができる。
上記目的を達成するため、公知の誘電泳動現象を考慮に入れると、oz軸方向に方向付けされた電場係数
Figure 2008516215
を生成する必要がある。つまり、電場
Figure 2008516215
は、2つの電極セットに垂直でなければならない。
このような結果を得るため、種々の可能な構造において、電極セットのそれぞれに印加される可変の電位プロファイルが使用される。図3a及び3bに、本発明による装置の一般的な動作原理を概略的に示す。
まず強調したいのは、2つの電極セットのそれぞれを、oz軸に沿って、つまり捕集面に垂直な方向に配置することにより、この方向の誘電泳動力の範囲を制限しないことである。
実際には、oz軸に沿った誘電泳動力の分布は、2つの電極セットに付与された電位V(z)の形状に加え、方向ozの2つの電極セットの高さhに直接依存する。
図4に、以下の3つの異なる構造について、oz軸に沿った誘電泳動力の変化を示す。
− 従来技術による交互配列電極
− 積層電極を有するピラミッド型構造
− 斜端電極を有するピラミッド型構造
本発明による上記2つのピラミッド型構造について、以下に詳細に説明する。
従来技術による構造に関連する欠点に関して上述したように、交互配列電極の場合、oz軸に沿った誘電泳動力の実効範囲の急激な減少が観察される。
これと反対に、本発明による斜端電極を有するピラミッド型構造においては、明らかにこの減少が交互配列電極よりずっと緩やかである。さらに、積層電極構造では、前記力の強さは、捕集面(つまり、z=0)から離れるにつれてほぼ線形的に増大する。さらに一般的に言えば、印加された電位のプロファイルを制御することによって、前記力の強さを制御することが可能となる。
したがって、平面構造、特に交互配列構造(誘電泳動力の強さが指数関数的に減少する)に関する欠点は排除されるか又は少なくとも大きく低減される。
さらに、本発明によれば、電極は分離すべき粒子を捕集するための面を構成しないので、前記電極の外形は読出し段階での制限因子にはならず、その大きさは処理される流体の容積に合わせることができる。
本発明の別の態様によれば、本装置は、正の誘電泳動及び負の誘電泳動の両方で動作できるので、本発明の適用範囲を著しく増大させることができる。実際に、2つの電極セットA及びBのそれぞれに不均一な電位プロファイルV(z)を付与することができ、これにより誘電泳動現象の制御の自由度を増大させることができる。
よって、誘電泳動力の+oz又は−ozの向きが電位V(z)の形状に応じて制御される結果、本発明による装置の効率はもはや誘電泳動の形態には依存しない。この点について、上述の平面構造が固体表面上で捕集を行うためには、正の誘電泳動の形態が必ず必要であることを思い出されたい。
例えば固定された捕集面に正の誘電泳動の形態が使用される第1の場合、電位V(z)はozに伴って低下し、所与の粒子−流体の組合せに、やはり所与の電極信号周波数で適用可能となる。
これに対し、別の粒子−流体の組合せ又は別の信号周波数を用いて、この場合は2つの電極セットそれぞれのレベルに介在する電位V(z)をozに伴って増加させることによって負の誘電泳動の形態を達成することができ、これにより前述と同じ面での捕集を行うことができる。
換言すれば、特に流体の導電性が極めて高い場合、又は別の周波数で動作させたい場合、信号V(z)を前述の構造に対して逆転させることにより、誘電泳動力を捕集面の方向に向いたまま維持することができる。
構造的には、本発明による電極構造では、電極が捕集面を構成しない。これにより、本構造は電気対流による制限を受けず、場合によっては、電気対流は、誘電泳動による粒子の捕集を妨げないばかりか、反対にそれを促進するまで誘電泳動に有利に働く現象となる。対流は、実際に、捕捉又は捕集面の上方での流体の混合を助け、これにより、流体に含まれる粒子が捕集面へと移動する確率が増大する。
本発明による2つの電極セットという特定の構成が持つ別の利点の中で、捕集作用と電気的作用とを分離することから直接的に得られる利点も強調する。というのは、これにより制御された読出しプロトコルを非電気的な面上で使用することが考慮可能となるからである。特に、分子固定化技術は、ガラス、二酸化シリコン、シリコン又はプラスチック材料上で良好に制御されるが、導電性の金属表面上では良い結果が得られない。
本発明によれば、ピラミッド型装置は、セットを形成する電極の3つの型に対応して3つの可能な構造、即ち、
− 積層電極、
− 斜端電極、及び
− 絶縁電極
を有することができる。
これら3種類の構造によって、交互配列システム、さらに一般的には平面構造を有するシステムに関する欠点を排除することができる。これらの3種類の電極構造の性能は等しくないが、これらが利用する前述のピラミッド構造に関する利点は共有される。分離装置に選択される電極の型は、達成すべき性能目標及び利用可能な製造技術によって決められる。
平面システムを製造するために既に利用されている微小電子技術は、これらの電極を製造するためにも引き続き利用することができる。これらの電極は、捕集面を含み且つ使用法(捕捉、分離、スクリーニング等)に応じて構成要素に関する他の非電気的機能(耐漏れ性、流体供給、読出しシステムとの接続等)の全てを満たすことが必須のマクロシステム内に組み込むことができる。電極はマイクロシステム内でも製造することができる。
斜端電極構造
oz軸に平行に且つできるだけ均一に誘電泳動力を付与するため、前述のように、電極セットA及びBそれぞれに、ozに沿って変化する電位V(z)を付与することが必要である(図3を参照)。金属製で高導電性であるため、電圧発生装置に接続すると、電極の電位はその表面全体に均一に分布する。よって、oz軸に平行な面を有する平面電極は、ozに沿って一定の電位を生成する。
これに対し、oz軸に平行でない面を有する電極は、oz軸に平行な面に亘って変化する電位V(z)を生成する。
このような構造を得るため、本発明は、図5に示すいわゆる「斜端電極」の実施形態により、電極セットA及びBそれぞれが、ピーク値Vを有する電位で電力供給される単一の電極を構成し、流体と接触しているそれら電極の各面が、水平に対して角度θだけ傾斜していることにより、斜角付けされた外観を有する構造を提案する。言換すれば、電極の縦断面は台形であり、その傾斜面が流体と接触する。
角度θは、処理される流体の容積及び特定の粒子−流体ペアの性質に依存するが、0≦θ≦90°でなくてはならない。
このように規定された範囲でのθの任意の値に対し、粒子を運動させることが可能な誘電泳動力を得ることができる相応の電位Vが存在する。角度θが大きくなるほど(但し、90°は超えない)、誘電泳動力の強さは大きくなる。
流体と接触する電極の表面領域がozに平行となり、zに伴う電位Vの変化、ひいては前述の誘電泳動力が失われる状況に相当するため、θ=90°という条件が満たされることはない。
θ=0°という条件は、交互配列システムに相当するので考慮可能である。前記力の強さはozに沿って制限されるが、それでも電極の鋭角エッジにおける効果が残る。
この「斜端電極」と呼ばれる特別な構造は、図6に示すように水平に対して角度θだけ傾斜した向かい合う2つの平面電極により得られる構造と同等である。
このような構造を得るために採用されるモードに関わらず、つまり、非平面電極を用いるか平面電極を用いるかに関わらず、傾斜した電極であれば、電極の厚みに相当するoy軸に沿った電極の大きさは、本発明による装置の機能に影響を与えない。
同時に、正の誘電泳動の形態から負の誘電泳動の形態への遷移は、電極の傾斜を逆転させるか(図7b)又は図7cに示すように捕集面Cを構成要素の上部に移動させることによって補償することができる。
図7aでは、正の誘電泳動の形態が、前述の種類の斜端電極構造と共に使用されており、ozの関数として電位Vが増大する。
これに対し、図7b及び7cでは負の誘電泳動の形態が使用されており、この形態はそれぞれ、ozの関数として電位が減少するように電極のプロファイルを逆転させること、及び処理される液体を保存するか又は移動させるためのチャンバ内において捕集面のレベルを高くして、oz軸に伴う電位の増大を保つことによって得られている。
絶縁電極構造
oz軸に沿って電位V(z)を変化させるため、本発明は、第2の実施形態としていわゆる「絶縁電極」を提案し、図8に具体的に説明する。この構造では、電極セットA及びBそれぞれは、ピーク値Vの電位が供給される単一の電極を含み、流体と接触する電極各々の表面は、電気的絶縁材料Iからなる層によって覆われている。この絶縁材料層は、流体と接触する絶縁体の表面が、水平に対して角度θだけ傾斜するように堆積させる。つまり、これによりoz軸に沿った絶縁層の厚みが変化する。
この発明は、絶縁層の厚みを変化させることにより電極及びoz軸に沿った可変電位V(z)を生成することからなる。この構造では、実際の電極自体がoz方向に平行な面を有しており、非定常関数V(z)を生成するのは、zと共に変化する厚みを有する絶縁部である。
角度θの値が満たさなくてはいけない条件は、斜角電極又は傾斜電極の構造に関連して説明したものと同一である。
したがって、正の誘電泳動の形態から負の誘電泳動の形態への全ての遷移を釣り合わせるための条件も、前述と同一である。
絶縁材料の性質は予め規定しない。それは、電極への十分な機械的接着、電荷に対する極めて均一な不浸透性及び機械加工が容易な機械的特性が確実に得られるように選択しなくてはならない。
絶縁された電極を使用することによって、誘電泳動システムの性能を著しく向上させることができる。上述のように、導電性流体中に電場が存在することにより、電極に電荷の移動が生じ、電気化学的な反応を生じさせることができる。このような電極での電気化学的反応は、一般に構成要素の電気的性能を急速に損なうガスの放出を引き起こすため、分離の効率を制限する因子である。印加される電場の強さは、主にこのような電気化学的効果によって制限される。印加される電場の強さが増大すると、結果として得られる誘電泳動力の強さも増大し、これにより構成要素の効率が最適化される。
実際、絶縁層により、電荷が、流体と対象となる電極との間を通過することが防止される。これにより、電極における電気化学的反応の発生が制限され、非絶縁電極を使用して得られるものより高い電場レベル(つまり、印加される電位Vのレベル)で動作することができる。電場の強さが増大することにより、誘電泳動力の強さが増大する。このような絶縁電極を利用する装置の性能は、幾何学的な構造に関係なく優れている。
積層電極構造
oz軸に沿って電位V(z)を変化させるため、本発明は、第3の実施形態としていわゆる「積層電極」を提案し、図9及び10で説明する。この構造では、電極セットA及びBのそれぞれは電極の積層体からなり、これらには個々に電気信号が供給され、且つ絶縁材料によって分離されている。
各セットの積層された電極の数N及びozに沿った寸法は固定でない。各セットは少なくとも2つの電極を有し、数Nが増加すると、構成要素に求められる性能は向上する。座標zに配置された各電極に印加される電位Vの値によって、全体的な関数V(z)が次のように決まる。
Figure 2008516215
この関数V(z)の形式を、以下のようなzの多項式にすることができる。
Figure 2008516215
式中、nは多項式の次数である。
しかしながら、座標zの関数である限り、他のいずれの形式も考慮可能である(指数関数、対数関数等)。
上述のように、妥当であれば、電位Vの値を調節することにより、誘電泳動の形態の逆転が起こる場合に関数V(z)の変化の方向を逆転させることができる。
積層電極を有する構造は、2つの電極セットA及びBの各電極に異なる電位(V、V、V)を同時に印加すること(電位の空間的な変動)によって、又は各電極に順番に電位を印加すること(電位の時間的な変動)によって使用することができる。この2番目の態様(図10a〜10d)では、電極が、連続的に次々と「オン」にされて、つまり連続的に電位が付与されることによって、空間的−時間的電位勾配、並びに時間の経過と共に捕捉面の方向に向かって移動する誘電泳動力が誘導され、これにより粒子に対するピストン効果が発生する。
各セットの各電極に異なる電力供給を簡単に行うことを可能にする態様を、図11a、11b及び11cに示す回路図に示す。
図11aの回路図では、抵抗−インダクタンスRの組み合わせからなるインピーダンスZが、各電極の端子に跨って配置されている。
例えば、抵抗のみを利用する図11bの回路図を使用して、位相の相違を全く含まない構造が得られ、これにより電位Vの空間的変化が引き起こされる。インダクタを使用する図11cに示す回路図では、遅延を引き起こすインダクタによって、電位Vの空間的及び時間的変化が得られる。
格子状板電極構造
上述の様々な構造により、格子状板構造を有する構成要素を生成することができる。この構成要素は、上述の種類のピラミッド型要素を複数組み立てたものからなる。その数は固定でない。流体及び粒子をこの構成要素の上に配置する。図12a及び12bは、斜端電極構造を使用して得られた格子状板ピラミッド構造の断面図及び上面図をそれぞれ示す。
分子分析における本発明の使用に関しては、他の分子中に存在し得る1つ以上の特定の分子を検出可能でなくてはならない。格子状板構造を有する構成要素は、この種の用途に既に使用されているマイクロウェルプレートに適合させることができる。このようなプレートは、一般にアレイ状に分配されている微小な穴を有する。この穴の側面は、本発明により使用される電極の支持部を構成できる。各ウェルは、基本的なピラミッド構成要素からなり、ウェルの底部に配置される捕捉面の性質によって、求められる分子を化学的に差別化できる接触部として働く。各接触部の個々にアドレス(スイッチオン)するには、電極の各セットに電位を印加する。ウェルを同時に又は順番にオンの状態にすることによって、誘電泳動による分子の捕捉を促進することができる。このような特定の構造の主たる魅力は、平面システムの動作が同じように行われる一方で、捕捉面と電気的表面とが分離されることである。
選択された構成に関わらず、捕集面として絶縁ベースを使用すると捕集は改善されることが示されている。実際、このような捕集面によって、捕集された粒子が、電極上、つまり電場の強度が最大となる位置のレベルに集中することが回避される。このとき、絶縁ベースは捕捉又は制限領域として働き、電極とは接触しない。
本発明の一変形例では、この絶縁ベースは、電極から電気的に絶縁されて、例えば接地されているか又は極性を付与された導電材料からなるベースに置換される。
実験により、絶縁ベースを使用した場合、上述したように、粒子の捕集は前記ベースの、端部ではなく中央のレベルで起こることが示されている。
この実施形態の特定の利点は、
・制限の小さい領域内に粒子が制限されるので、粒子の再拡散速度が上昇すること、
・前記粒子を含む流路の中央線を基準として中央に位置することにより、生物学的捕捉接触部を配置することが極めて簡単になること、及び
・信号が流路の端部で回折することが少なくなり、同じ壁部による光線が遮断されることによってビネット現象が低減するので、例えば蛍光による光学的読出しが極めて簡単になること
である。
基板は導電性でなくてはならないので、有利には、金、銀、白金、アルミニウム又はクロムからなる層を有している。さらに基板を透明にするために、ITO(インジウムの酸化物を指す総称)又はポリアニリンから作成することができる。
よって検出は、ベースが透明であるか否かに関わらず、光学的に、特に蛍光によって実施することができる。ベースが透明でない場合、表面プラズモンによる蛍光を励起させる。検出は、表面プラズモン共鳴を利用して行うこともできる。検出は、読出し動作中、活性電極としてベースを使用することによって電気的に実施することもできる。
本発明による装置の全ての利点から、本発明による装置が、基本的に且つ主として、流体の全容積にわたる誘電泳動力の場を画定可能にすることが明らかである。このような場の画定は、従来技術による装置を使用して実現できなかったものである。
また、本発明による装置により、正の誘導電流の形態又は負の誘導電流の形態を用いた操作が可能となり、これにより、処理できる粒子−流体のペアの数が最適化され、操作の際の動作周波数の範囲が広がる。
a〜cは、従来技術による3つの平面電極構造、即ち交互配列構造、刻み目付き構造、及び四重極構造のそれぞれを示す模式的上面図である。 図1aの電極の模式的断面図である。 a及びbは、本発明の一般的基本原理を概略的に示す。 交互配列構造、斜端電極構造及び積層電極構造それぞれを使用した場合の、捕集面からの測定距離の変化に伴う誘電泳動力の相対的な変動を示すグラフである。 本発明による斜端電極構造を用いた場合を示す概略図である。 本発明による傾斜電極構造を用いた場合を示す概略図である。 a〜cは、本発明による斜端電極構造を使用したとき、使用する誘電泳動の形態(正のモード及び負のモード)に応じた画定表面上での捕集態様を示す。 本発明による傾斜電極構造を用いた場合を示す概略図である。 本発明による積層電極構造を用いた場合を示す概略図である。 a〜dは、電位Vが空間的及び時間的に変動する積層電極構造の動作に用いられる原理を示す。 a〜cは、積層構造の電極の動作を可能にする様々な電気回路を概略的に示す。 a及びbは、格子状板モードの本発明の構造のそれぞれ断面図及び上面図である。

Claims (10)

  1. 流体に含まれる粒子の電気泳動分離装置であって、2種類の電極A及びBを備え、これら2種類の電極にそれぞれ異なる電位が付与されることにより前記流体内部に電場が生成されて、2種類の電極A及びBが、誘電泳動分離が行われる流体を収容するチャンバ又は管内に配置されており、前記チャンバには粒子捕集面が設けられており、
    − 2種類の電極の各々が、チャンバ又は管内の流体に浸されており、且つ粒子捕集面の平面とは異なる平面内に位置すること、
    − 2種類の電極に、逆の位相で電流が供給されること、及び
    − 2種類の電極それぞれの電位が、粒子捕集面の平面に垂直な方向ozに沿った距離に基づく勾配を有していること
    を特徴とする装置。
  2. 電極が、電気的絶縁材料からなる層で覆われていることを特徴とする、請求項1に記載の流体に含まれる粒子の電気泳動分離装置。
  3. 2つのセットA及びBがそれぞれ、ピーク値Vを有する電位が供給される単一の電極を含むこと、及び前記電極の各々の、処理される流体と接触する面が、水平に対して傾斜したプロファイルを有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の流体に含まれる粒子の電気泳動分離装置。
  4. セットA及びBを構成する各電極の縦断面が台形であり、その傾斜面が流体と接触することを特徴とする、請求項3に記載の流体に含まれる粒子の電気泳動分離装置。
  5. セットA及びBを構成する各電極の縦断面が長方形であることを特徴とする、請求項3に記載の流体に含まれる粒子の電気泳動分離装置。
  6. 各電極が、粒子捕集面の平面に垂直な、流体に接触する表面領域を有すること、及び流体に面する電極の表面が、粒子捕集面の平面に垂直な方向に増大又は減少する厚みを有する絶縁材料の層によって覆われている、請求項3に記載の流体に含まれる粒子の電気泳動分離装置。
  7. 2つのセットA及びBがそれぞれ、粒子捕集面の平面に垂直な方向に上下に重ねられて積層された複数の電極を含み、前記電極が、電気絶縁体によって2つずつに分離されており、セットA及びBそれぞれの前記電極には、空間的に方向ozに沿って変化する電位が印加されることを特徴とする、請求項1に記載の流体に含まれる粒子の電気泳動分離装置。
  8. 2つのセットA及びBがそれぞれ、粒子捕集面に垂直な方向に上下に重ねられて積層された複数の電極を含み、前記電極が、電気絶縁体によって2つずつに分離されており、セットA及びBそれぞれの前記電極に印加される一定の電位又は一定でない電位は、連続的且つ時間的に変化することを特徴とする、請求項1に記載の流体に含まれる粒子の電気泳動分離装置。
  9. セットA及びBそれぞれの電極が、連続的に、粒子捕集面の平面に垂直な方向に規定された電位に達することにより、電位の空間的−時間的勾配が形成され、これにより誘電泳動分離力が発生することを特徴とする、請求項8に記載の流体に含まれる粒子の電気泳動分離装置。
  10. 請求項1ないし9のいずれか1項に記載の基本的な装置の複数個の組み合わせであることを特徴とする、流体に含まれる粒子の電気泳動分離を実施するための複合装置。
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