JP2008510791A - プロテインチロシンキナーゼ阻害薬中間体の調製のためのエナンチオ選択性生体内変換 - Google Patents

プロテインチロシンキナーゼ阻害薬中間体の調製のためのエナンチオ選択性生体内変換 Download PDF

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Abstract

本発明は、1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールのエナンチオマー的に純粋な立体異性体を製造するための生体触媒的方法に関する。所望の(S)‐エナンチオマーの製造方法であって、酵素的分割、化学的エステル化および化学的加水分解(1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エチルエステルの反転を伴う)の組合せに、あるいは、酵素または微生物のような生体触媒による2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロアセトフェノンの立体選択的生体内還元に基づいた方法が開示される。キラル(S)‐エナンチオマーは、ヒト肝細胞増殖因子受容体の自己リン酸化を強力に抑制するある種のエナンチオマー的濃化エーテル結合2‐アミノピリジン化合物の合成に用いられ得る。

Description

産業上の利用分野
本発明は、ヒト肝細胞増殖因子受容体の自己リン酸化を強力に抑制するエナンチオマー的濃化エーテル結合2‐アミノピリジン類似体の合成における有用な中間体であり、したがって癌およびその他の過増殖性障害の治療に有用であり得る1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールのエナンチオマー的に純粋な立体異性体の製造方法に関する。
発明の背景
しばしば一方のエナンチオマーは有効な薬剤であるがしかし他方のエナンチオマーは非所望の生物学的活性を有するため、化合物の単一エナンチオマーを得るための戦略が薬剤発見において重要になってきた。理想的には、不斉合成は、所望のエナンチオマーのみを生じるよう意図される。残念ながら、頻繁に、不斉合成は意図され得ないし、あるいは法外に経費が掛かる。
1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノンは、ホウ水素化ナトリウム、塩化トリメチルシリルおよび触媒量の(S)‐α,α‐ジフェニルピロリジンメタノール(Jiang et al. Tetrahedron Lett., 2000, vol. 41, pp. 10281-10283)から調製される還元剤を用いて、96%エナンチオマー過剰率(ee)のエナンチオマー純度で、(1R)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールにエナンチオ選択的に還元されたが、しかしヒト肝細胞増殖因子受容体(HGFRまたはc‐MET)の自己リン酸化を強力に抑制するある種のエナンチオマー的濃化エーテル結合2‐アミノピリジン類似体の合成における一中間体である(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールを生成するために利用可能な化学合成は存在しない。c‐MET(HGFR)阻害薬、それらの合成および使用の例は、米国特許出願第10/786,610号(表題「Aminoheteroaryl Compounds as Protein Kinase Inhibitors」、2004年2月26日提出)および対応する国際出願PCT/US2004/005495(同一表題、2004年2月26日提出)(これらの記載内容は各々、参照により本明細書中で援用される)に見出され得る。
異なる化学的試薬、例えば(R)‐2‐メチル‐CBS‐オキサゾボロリジン/BH3‐ジメチルスルフィド複合体(BMS)(J. Am. Chem. Soc. 1987, vol. 109, pp. 7925);ホウ水素化ナトリウム、塩化トリメチルシリルおよび触媒量の(S)‐α,α‐ジフェニルピロリジンメタノール(Jiang et al. Tetrahedron Lett., 2000, vol. 41, pp. 10281-10283);オキサザボロリジン/BH‐ジメチルスルフィド複合体(BMS)(J. Org. Chem. 1993, vol. 58, pp.2880);および(−)‐B‐クロロジイソピノカムフェニルボラン(DIP‐CI)(Tetrahedron Lett. 1997, vol. 38, pp. 2641)を用いて1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノンのキラル還元により適切なエナンチオマー純度を有する(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールを調製するためのわれわれの試みは、失敗した。
エナンチオマー的に純粋なアルコールは生体触媒、例えば酵素または微生物を用いて立体選択的還元により生成され得る、ということは既知である。例えばコリネバクテリウム属菌株ST‐10からのフェニルアセトアルデヒドレダクターゼは広範な基質範囲を有し、そして種々のプロキラル芳香族ケトンおよびβ‐ケトエステルを還元して、98%より高いエナンチオマー過剰率(ee)のエナンチオマー純度を有する光学活性第二級アルコールを生じる(Itoh et al., Eur. J. Biochem., 2002, v. 269, pp. 2394-2402)。生体触媒によるケトンの不斉還元における近年の発展に関する再検討によれば、例えばエチル2‐メチル‐3‐オキソブタノエートの還元に関して、450の細菌株のうちの肺炎桿菌IFO3319は、>99%eeを有する対応する(2R,3S)‐ヒドロキシを生じることが判明した(K. Nakamura et al. Tetrahedron: Asymmetry, 2003, vol. 14, pp. 2659-2681)。米国特許第5,310,666号は、ペントキシフィリンを100%まで還元してS‐アルコールを生じる赤色酵母菌株を開示する。米国特許第6,451,587号は、ケトン2‐クロロ‐1‐[6‐(2,5‐ジメチル‐ピロール‐1‐イル)‐ピリジン‐3‐イル]‐エタノンからアルコール(R)‐2‐クロロ‐1‐[6‐(2,5‐ジメチル‐ピロール‐1‐イル)‐ピリジン‐3‐イル]‐エタノールを調製するための微生物不斉還元プロセスを提供する。米国特許第6,642,387号および第6,515,134号は、微生物還元を用いるある種の光学活性ヒドロキシエチルピリジン誘導体の調製を開示する。米国特許第5,391,495号は、還元を触媒し得る微生物または酵素を利用して対応するヒドロキシル基含有化合物を生成するためのある種のケト含有スルホンアミド化合物の立体選択的還元を開示する。全細胞生体触媒は、3,4‐ジクロロフェンアシルクロリドを還元して(R)‐または(S)‐クロロヒドリンを高収率および良好〜高度eeで生じるために用いられた(Barbieri et al. Tetrahedron: Asymmetry, 1999, vol. 10, pp. 3931-3937)。非水性環境‐無水ヘキサン中でのアセトフェノンの生体内還元により、RおよびS立体配置のおよび高エナンチオマー純度の非ラセミ的1‐フェニルエチルアルコールを得た(Zymanczyk-Duda et al., Enzyme Microbiol. Technol., 2004, vol. 34, pp. 578-582)。WO02/077258は、微生物還元によるある種の(S)‐1‐(2,4‐置換‐フェニル)エタノール誘導体の調製を記載する。しかしながら1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノンの立体選択的微生物的および酵素的還元は未知であった。
あるいはエナンチオマーの混合物は、分離され得る。しかしながら、エナンチオマーの物理学的特性は非キラル物質に対して同一であり、そして他のキラル物質に対するそれらの振る舞いにより区別され得るに過ぎないため、エナンチオマーの混合物は分離するのが難しく、そしてしばしば不可能である。キラル固相を用いるクロマトグラフィー法はエナンチオマー混合物を分離するために利用されてきたが、しかしキラル固体支持体は高価であり、そして典型的には分割が不十分である。エナンチオマー混合物を分離する代替的方法は、それらをキラル試薬と反応させることによるものである。この手順では、エナンチオマーの混合物はキラル試薬と反応して、ジアステレオマーを生成し、これは非キラル物質に対するそれらの特性に基づいて互いに区別され、したがって再結晶化またはクロマトグラフィーといった技法により分離され得る。このプロセスは、それが2つの付加的反応ステップ(即ち、エナンチオマーにキラル補助物を付加するための一反応と、それをジアステレオマーが分離された後に除去するためのもうひとつの反応)を要するため、多くの時間を必要とし、そして収量の損失を生じる。
いくつかの場合、キラル試薬は、エナンチオマー混合物中では他のエナンチオマーとよりも、一エナンチオマーとより迅速に反応する。この場合、より迅速に反応するエナンチオマーは、他のエナンチオマーが形成される前に除去され得る。この方法も、キラル補助物を付加するための、そしてそれを分離後に除去するための2つの付加的反応ステップを要する。
上記の方法は、特定の系に常に首尾よく適用され得るというわけではなく、そしてそれらが適用され得る場合、それらはしばしば経費が掛かり、時間を要し、そして収量の損失を生じる。したがってエナンチオマー混合物から単一エナンチオマーを得るための新規の方法の必要性が存在する。
化合物のキラル分割は、酵素、例えばエステラーゼ、リパーゼおよびプロテアーゼまたは微生物を用いることにより成し遂げられ得る、ということが既知である。例えば米国特許第6,703,396号は、C5’‐ヌクレオシドエステルの酵素的加水分解に基づいたヌクレオシドエナンチオマーのラセミ混合物のキラル分割を記載する。米国特許第6,638,758号は、生体触媒、例えば酵素または微生物を用いたラクタムのラセミエステルの酵素的分割を記載する。米国特許第5,928,933号は、プロテアーゼ、リパーゼおよびエステラーゼを含めた44の酵素の反応特異性に関する広範な実験の結果としてN‐(アルコキシカルボニル)‐4‐ケト‐D,L‐プロリンアルキルエステルに関して95%エナンチオマー過剰率値を有する一酵素を開示する。酵素的加水分解および化学的変換の組合せによるある種の光学活性第二級アルコールの調製が、例えばDanda et al., Tetrahedron, 1991, vol. 47, pp. 8701-8716;Vanttinen et al. Tetrahedron: Asymmetry, 1995, vol. 6, pp. 1779-1786;およびLiu et al., Chirality, 2002, vol. 14, pp. 25-27に記載されている。
生体触媒は、エナンチオマー混合物の分離のために非常に有用であるが、しかしエナンチオマーの選択性および生成物の光学純度が酵素または微生物の選択ならびに基質の化学構造によって変わり得るため、基質に適した生体触媒の組合せを見出すためには集中的な尽力が必要とされる。特に、生体触媒を用いてエナンチオマー1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエステルを分離するための方法はどこにも見出されない。
発明の要約
1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールのエナンチオマー的に純粋な立体異性体を調製するための方法が提供される。
一実施形態において、本発明は、(1R)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールを少なくとも70%含有しない、好ましくは(1R)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールを少なくとも80%含有しない、さらに好ましくは(1R)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールを少なくとも90%含有しない、最も好ましくは(1R)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールを少なくとも95%含有しない(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールを提供する。
別の実施形態では、本発明は、式(I):
Figure 2008510791
(式中、Rは、水素、C1〜C20‐アルキル、C3〜C8‐シクロアルキル、C6〜C14‐アリール、C7〜C15‐アリールアルキル、C1〜C20‐アルコキシ、C1〜C20‐アルキルアミノ(ここで、上記炭化水素ラジカルは任意にヒドロキシル、ホルミル、オキシ、C1〜C6‐アルコキシ、カルボキシ、メルカプト、スルホ、アミノ、C1〜C6‐アルキルアミノ、ニトロまたはハロゲンで一置換されるかまたは多置換され得る)である)のエナンチオマー1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエステルの分離方法であって、以下の:
式(I)の1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエステルを水性溶液、有機溶媒または有機および水性溶媒の混合物中の生体触媒と接触させ(この場合、1つのエナンチオマーのみが選択的に加水分解されて、1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールの光学的活性異性体および1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエステルの非反応性光学活性異性体を生じる)、そして
1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールの光学活性異性体を非反応性光学活性1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエステルから分離する
ステップを包含する方法を提供する。
さらに別の実施形態では、本発明は、(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールの製造方法であって、以下の:
次式:
Figure 2008510791
(式中、Rは、水素、C1〜C20‐アルキル、C3〜C8‐シクロアルキル、C6〜C14‐アリール、C7〜C15‐アリールアルキル、C1〜C20‐アルコキシ、C1〜C20‐アルキルアミノ(ここで、上記炭化水素ラジカルは任意にヒドロキシル、ホルミル、オキシ、C1〜C6‐アルコキシ、カルボキシ、メルカプト、スルホ、アミノ、C1〜C6‐アルキルアミノ、ニトロまたはハロゲンで一置換されるかまたは多置換され得る)である)
のエナンチオマー1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエステルの混合物を、水性溶液、有機溶媒または有機および水性溶媒の混合物中の生体触媒と接触させ(この場合、(R)‐エナンチオマーのみが選択的に加水分解されて、(1R)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールおよび(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエステルを生じる);そして
(1R)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールおよび(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエステルを(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールに転化する
ステップを包含する方法を提供する。
この方法の他の特定の実施形態は、転化ステップが、以下の:
a)(1R)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールおよび(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエステルの混合物中の(1R)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールを非プロトン性溶媒中の有機スルホニルハロゲン化物と接触させて、(1R)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールの有機スルホン酸エステルおよび(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエステルの混合物を生成し;
b)さらに(1R)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールの有機スルホン酸エステルおよび(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエステルの混合物中の(1R)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールの有機スルホン酸エステルを非プロトン性溶媒中の脂肪族カルボン酸のアルカリ金属塩と反応させて、(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールの脂肪族カルボン酸エステルおよび(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエステルの混合物を生成し;そして
c)(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールの脂肪族カルボン酸エステルおよび(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエステルの混合物を(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールに変換する
ステップを包含する方法を含む。
当該方法のさらに他の特定の実施形態は、
Rがメチルであり;
生体触媒がブタ肝臓エステラーゼであり;
反応ステップa)において、有機スルホニルハロゲン化物が塩化メタンスルホニルであり、そして非プロトン性溶媒がピリジンであり;
反応ステップb)において、脂肪族カルボン酸のアルカリ金属塩が酢酸カリウムであり、非プロトン性溶媒がジメチルホルムアミドであり;
変換ステップc)が塩基性基質の存在下でアルコール性または水性溶媒中で加溶媒分解される
方法を含む。
この方法のさらに他の特定の実施形態は、接触ステップ前に高処理量スクリーニングプロセスにより生体触媒を選択するステップを包含する方法を含む。
別の実施形態では、本発明は、1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールの光学活性異性体の製造方法であって、エナンチオ選択的方式で生体触媒により1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノンを還元して、1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールの光学活性異性体を得るステップを包含する方法を提供する。
本発明の方法の他の特定の実施形態では、接触ステップ前に高処理量スクリーニングプロセスにより生体触媒を選択するステップを包含する方法を含む。
本発明の方法の他の特定の実施形態は、
生体触媒がウマ肝臓アルコールデヒドロゲナーゼまたはロドトルラ(Rhodotorula)属の微生物である
方法を含む。
定義
「生体触媒」という用語は、本明細書中で用いる場合、酵素または微生物を指す。
本発明で用いられる酵素の活性は、「単位」で表わされる。単位は、室温でμmol/分で表わされるようなプロピオン酸p‐ニトロフェニルの加水分解率と定義される。
「生体内変換」という用語は、本明細書中で用いる場合、酵素または微生物を用いた基質の他の化合物への転化を指す。
「生体内還元」という用語は、本明細書中で用いる場合、酵素または微生物を用いて電子が原子またはイオンに付加される(水素の付加または酸素の除去によるのと同様に)プロセスを指す;プロセスは常に、還元剤の酸化を伴って起こる。
「補助因子」または「補酵素」という用語は、酵素を活性化するかまたは酵素の通常活性のために必要である物質を意味する。「補助因子」または「補酵素」という用語は、本明細書中で用いる場合、酵素還元系、例えばNADH、NADPH、FADH、FMNHおよび/またはPQQを含む任意の適切な補助酵素または補酵素、あるいは微生物中の酵素を伴って生じる任意の適切な補助因子または補酵素を指す。
「酵素」という用語は、当業者に既知であるかまたはそうでなければ入手可能である、そして本発明に開示される立体選択的反応を成し遂げ得る酵素を含む。
「酵素還元系」という用語は、適切なオキシドレダクターゼ酵素、ならびにオキシドレダクターゼ酵素のための還元形態の補助因子を意味する。酵素還元系を含む酵素は、遊離または固定化形態で、例えばカラム中に存在するか、あるいはビーズに付着され得る。
「酵素分割」、「酵素プロセス」、「酵素方法」または「酵素反応」は、酵素または微生物を用いる本発明の分割、プロセス、方法または反応を意味する。
「分割」という用語は、ラセミ形態のエナンチオマーの部分的、ならびに好ましくは完全な分離を意味する。
「立体選択的加水分解」という用語は、別のものに対する一エナンチオマーの選択的加水分解を指す。
「混合物」という用語は、エナンチオマー化合物に関連して本明細書中で用いる場合、等量(ラセミ)または非等量のエナンチオマーを有する混合物を意味する。
「エナンチオマー過剰率(ee)」という用語は、「光学純度」という古い用語に関連する。純粋エナンチオマー(SまたはR)およびラセミ化合物の混合物では、エナンチオマー過剰率はラセミ化合物を上回るエナンチオマーの過剰%である。エナンチオマー過剰率(ee)は、例えば以下の等式で表わされる:
Figure 2008510791
「エナンチオ選択性値」または「E値」という用語は、下記のラセミ化合物の各エナンチオマーに関する特異性定数の比(Kcat/Km)を意味する。E値は、当該酵素が、他のエナンチオマーに比してあるエナンチオマーに対してより反応性である倍数と解釈され得る(例えばE値50は、あるエナンチオマーが他のエナンチオマーより約50倍迅速に反応することを意味する)。
純粋エナンチオマー(SまたはR)に対する生体触媒のエナンチオ選択性を確定するために、エナンチオ選択性値(E)が得られる必要がある(等式2)。
Figure 2008510791
例えば生体触媒によるエステルの立体選択的加水分解に関して、一プログラム(Ee2ソフトウエア ‐ Graz大学)は、特定酵素転化でのアルコールまたはエステルのエナンチオマー過剰率(ee)が既知である場合、E値を精確に算定し得る。ee値は、例えば等式1から得られる.[S]および[R]データは、例えばHPLCにより得られる。
「HPLC」という用語は、高圧液体クロマトグラフィーを意味する。
「RP‐HPLC」という用語は、逆相HPLCを意味する。
「PLE」という用語は、ブタ肝臓エステラーゼを意味する。
「微生物還元」という用語は、酵素還元系、酵素還元系を含む微生物レダクターゼ、無傷微生物、またはその任意の調製物等により成し遂げられるような立体選択的還元を意味する。
「微生物」という用語は、任意の無傷微生物またはそれからの調製物、例えば微生物の破壊細胞調製物;微生物の脱水調製物、例えばアセトン粉末酵素調製物;例えば発酵培地、培養ブロス等を含まずに洗浄された微生物;例えばカラム中に固定された、ビーズに付着された等の微生物を含む。
本明細書中で用いる場合、「光学的に純粋な」、「エナンチオマー的に純粋な」、「純粋エナンチオマー」および「光学的に純粋なエナンチオマー」という用語は、化合物の一エナンチオマーを含み、そして化合物の逆エナンチオマーを実質的に含まない組成物を意味する。典型的な光学的純粋化合物は、約80重量%より多い化合物の一エナンチオマーならびに約20重量%未満の化合物の逆エナンチオマーを、さらに好ましくは約90重量%より多い化合物の一エナンチオマーならびに約10重量%未満の化合物の逆エナンチオマー、さらに好ましくは約95重量%より多い化合物の一エナンチオマーならびに約5重量%未満の化合物の逆エナンチオマー、最も好ましくは約97重量%より多い化合物の一エナンチオマーならびに約3重量%未満の化合物の逆エナンチオマーを含む。
「適切な突然変異体」という用語は、当業者に既知であるかそうでなければ入手可能である、そして本発明に開示された立体選択的反応を成し遂げることが、このような突然変異にもかかわらず、可能である微生物を含む。
「ハロ」または「ハロゲン」という用語は、本明細書中で用いる場合、別記しない限り、フルオロ、クロロ、ブロモまたはヨードを意味する。好ましいハロ基は、フルオロ、クロロおよびブロモである。
「アルキル」という用語は、別記しない限り、直鎖または分枝鎖部分を有する飽和一価炭化水素ラジカルを含む。
「アルコキシ」という用語は、本明細書中で用いる場合、別記しない限り、O‐アルキル基(ここで、アルキルは上記と同様である)を含む。
「Me」という用語はメチルを意味し、「Et」はエチルを意味し、そして「Ac」はアセチルを意味する。
「シクロアルキル」という用語は、本明細書中で用いる場合、別記しない限り、合計で3〜10個の炭素原子を、好ましくは5〜8個の炭素原子を含有する本明細書中に示されるような非芳香族、飽和または部分的飽和、単環式または縮合、スピロまたは非縮合二環式または三環式炭化水素を指す。例示的シクロアルキルとしては、3〜7、好ましくは3〜6個の炭素原子を有する単環式環、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル等が挙げられる。
「アリール」という用語は、本明細書中で用いる場合、別記しない限り、1個の水素の除去により芳香族炭化水素から得られる勇気ラジカル、例えばフェニルまたはナフチルを含む。
本発明の詳細な説明
本発明は、1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールのエナンチオマー的に純粋な立体異性体を製造するための生体触媒的方法に関する。所望の(S)‐エナンチオマーの製造方法であって、酵素的分割、化学的エステル化および化学的加水分解と、1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エチルエステルの転化との組合せ、あるいは、酵素または微生物のような生体触媒による2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロアセトフェノンの立体選択的生体内還元に基づいた方法が開示される。
I. 自動生体触媒スクリーニング方法
本発明によれば、効率的且つ実際的な高処理量スクリーニング(HTS)プロセスを用いて、数百の考え得る生体触媒、例えば酵素または微生物、ならびにそれらが最適に機能し得る多数の考え得る反応パラメーターから、所望の生体触媒を同定する。このようなパラメーター、例えば溶媒、溶媒含量、pH、温度、時間および補助基質は非線状的に何回も相関させられるという事実は、スクリーニング作業をよりや利害のあるものにする。
Pfizer社内の多数の世界的プロジェクトにより確証されてきた一般HTSプロトコールは、Yazbeck et al., Adv. Synth. Catal., 2003, vol. 345, pp. 524-532に記載されている。このアプローチを用いて、吸う役の反応が設定され、数日以内に分析され得るが、そうでなければ反応の単純ウイルス調製物を用いて数週間を要する。このプロトコールを用いることにより得られる大きな利点は、それが並外れて高価であり得る生体触媒、例えば酵素、ならびに限定量で入手可能な一般的薬学的中間体であるスクリーニングされているラセミ基質の両方を、極少量必要とする、という点である。このHTSプロトコールの背後の基本原理は、酵素が安定化され、そしてある種の調製条件下で適切な96ウエルプレート中に数ヶ月間保存され得る、というものである。第二の本質的要件は、多数の異なる分析用計器が、これらの96ウエルプレートによりスクリーニングされる種々の基質を分析するために利用可能にされる、ということである。利用可能な分析用具のいくつかとしては、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、毛管電気泳動(CE)、ガスクロマトグラフィー(GC)、UV分光光度計、ならびに液体クロマトグラフ質量分光計(LC‐MS)が挙げられる。使用するための分析用具の選択は、基質の性質、主にその吸光度特性および揮発性によっている。基質に対する酵素の反応性が通常は先ず分析され、その後、キラル法を用いて反応性ヒットが分析される。同一試料抽出96ウエルプレートを用いて、反応性およびエナンチオ選択性の両方を分析し得る。このスクリーニングプロトコールと統計学的最適化アルゴリズムの組合せは、迅速に且つ効率的に、重要な条件を使用者に予測させ得るし、そしてさらなる最適化が進行すべき場合を示唆する。
II. 酵素的分割および化学的変換の組合せによる光学活性1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールの調製
1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエナンチオマーの混合物の分割のための方法が提供される。
一実施形態では、当該方法は、混合物中の一エナンチオマーの反応を選択的に触媒する生体触媒、例えば酵素または微生物の使用を包含する。好ましい実施形態では、当該方法は、1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エチルエステルの立体選択的加水分解に基づいた酵素分割を包含する。
別の実施形態では、反応エナンチオマーは、物理学的構造における新規の差異に基づいて、非反応エナンチオマーから分離され得る。
さらに別の実施形態では、反応エナンチオマーは、化学的変換(反転を伴う)により、別のエナンチオマーに転化され得る。
さらに別の実施形態では、反応エナンチオマーの別のエナンチオマーへの転化は、反応エナンチオマーおよび非反応エナンチオマーの混合物中で実施され得る。
II(a). 1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エチルエステルの立体選択的加水分解に基づく酵素分割
1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエナンチオマーの混合物の酵素分割のために、立体選択的加水分解の方法が提供される。本明細書中の開示を考慮すれば、上記の高処理量スクリーニング(HTS)プロセスを用いて、下記の酵素または微生物のうちの1つを選択することにより、あるいは他の酵素または微生物の系統的評価により、選択範囲の1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エチルエステルエナンチオマーに関して選択的である、あるいはそれを排除する一方法として、非所望エナンチオマーに関して選択的である酵素または微生物を、当業者は選定し得る。この開示内容を考慮すれば、所望の分割を達成するために必要であるように基質を修飾する方法も、当業者は分かる。キラルNMRシフト試薬、偏光計またはキラルHPLCの使用により、回収されたエステルまたはアルコールの光学的濃化が確定され得る(例えばJ. Am. Chem. Soc. 1973, v. 95, p. 512;Trost et al., J. Org. Chem. 1986, v. 51, pp. 2370-2374;J. Org. Chem. 1998, v. 63, pp. 8957;Tetrahedron: Asymmetry 1995, v. 6, p. 2385;Tetrahedron: Asymmetry 1996, v. 7, p. 3285参照)。
以下の実施例はさらに、エナンチオマーのラセミ混合物を分割するための酵素または微生物の使用を例証する。ラセミ混合物の分割のその他の既知の方法は、本明細書中に開示された分割方法と組合せて用いられ得る(例えばA Sheldon, Chirotechnology: industrial synthesis of optically active compounds, New York, Marcel Dekker, 1993参照)。これらの変法はすべて、本発明の範囲内であるとみなされる。
この実施形態では、当該方法は、1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエナンチオマーのヒドロキシル基を、アシル化合物と反応させて、1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールが当該エステルの「カルビノール」末端に存在するエステルを生成することを包含する。1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エチルエステルエナンチオマーの混合物は次に、エナンチオマーの一方を選択的に切断するかまたは加水分解するが、他方をそうしない生体触媒で処理される。
この方法の利点は、それを用いて、カルビノール部分で任意に置換される広範な種々の1‐(フェニル)エタノールを分割し得る、という点である。この方法の広範な適用可能性は、一部は、エステルのカルビノール部分がエナンチオマーを区別する生体触媒の能力において一役を演じ得るが、しかしこれらの生体触媒の主要認識部位はエステルのカルボン酸部分に存在し得る、という事実にある。さらに、ある生体触媒/基質試験の結果を、別の外見上は異なる系に首尾よく外挿し得るが、但し、2つの基質のカルボン酸部分は同一であるかまたは実質的に類似する。
この方法のさらに別の利点は、反応混合物からの非加水分解エナンチオマーおよび加水分解エナンチオマーの分離が全く簡単であり得る、という点である。非加水分解エナンチオマーは加水分解エナンチオマーより親油性であり、そして広範な種々の非極性有機溶媒または溶媒混合物のうちの1つ、例えばヘキサンおよびヘキサン/エーテルでの簡単な抽出により効率的に回収され得る。低親油性の、より極性の加水分解化エナンチオマーは次に、より極性の有機溶媒、例えば酢酸エチルでの抽出により、あるいは凍結乾燥と、その後の例えばエタノールまたはメタノールでの抽出により、得られる。
酵素または微生物は、単独でまたは組合せて用いられ得る。用いられる酵素または微生物の種類によって、エステルの光学異性体のどちらか一方が優勢的に加水分解されて、光学活性アルコールを生じる。光学異性体のどちらか一方が、適切な酵素または微生物の選択により得られる。
酵素および基質の適正なマッチングを用いて、どちらかの1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエナンチオマーの単離のための条件が確立され得る。所望のエナンチオマーは、所望のエナンチオマーを加水分解する酵素を用いたラセミ混合物の処理(その後、極性溶媒で極性加水分解物を抽出する)により、あるいは非所望エナンチオマーを加水分解する酵素を用いた処理(その後、非極性溶媒で非所望エナンチオマーを除去する)により、単離され得る。
II(b). 生体触媒
本発明の一実施形態では、酵素分割の方法は、1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エチルエステルの立体選択的加水分解のための生体触媒として酵素を用いる。エステルの加水分解を触媒する酵素の例としては、エステラーゼ、リパーゼおよびプロテアーゼ(サブスチリシンおよびα‐キモトリプシン)が挙げられるが、これらに限定されない。酵素は、動物、植物、微生物等から得られる任意の酵素であり得る。酵素は、任意の慣用的形態で、例えば精製形態、粗製形態、他の酵素との混合物、微生物発酵ブロス、発酵ブロス、微生物体、発酵ブロスの濾液等の形態で、単独でまたは組合せて用いられ得る。さらに酵素または微生物体は、樹脂上に固定され得る。
酵素の特定例は、本発明に有用な動物および植物から得られるものであり、例としては、ウシ肝臓エステラーゼ、ブタ肝臓エステラーゼ、ブタ膵臓エステラーゼ、ウマ肝臓エステラーゼ、イヌ肝臓エステラーゼ、ブタホスファターゼ、オオムギおよびジャガイモから得られるアミラーゼ、ならびにコムギから得られるリパーゼが挙げられるが、これらに限定されない。例えば不斉合成におけるブタ肝臓エステラーゼの適用は、Tetrahedron, 1990, vol. 46, pp. 6587-6611;Enzyme Catalysis in Organic Synthesis, 2nd Ed., Wiley-VCH 2002, vol. II, pp. 384-397に記載されている。その他の例は、ロドトルラ属、トリコデルマ属、カンジダ属、ハンセヌラ属、シュードモナス属、バシラス属、アクロモバクター属、ノカルディア属、クロモバクテリウム属、フラボバクテリウム属、クモノスカビ属、ケカビ属、アスペルギルス属、アルカリゲン属、ペディオコッカス属、クレブシエラ属、ゲオトリクム属、ラクトバシラス属、クリプトコッカス属、ピキア属、アウレオバシジウム属、アクチノムコールActinomucor属、エンテロバクター属、トルロプシス属、コリネバクテリウム属、エンドミセス属、サッカロミセス属、アルスロバクター属、Metshnikowla属、プレウロータス属、ストレプトミセス属、プロテウス属、グリオクラディウム属、アセトバクター属、ヘルミントスポリウム属、ブレビバクテリウム属、エスケリキア属、シトロバクター属、アブシディア属、ミクロコッカス属、ミクロバクテリウム属、ペニシリン属およびシゾフィリウム属のような微生物から、ならびに地衣類および藻類から得られるヒドロラーゼである。
本発明に用いるのに適した例示的市販酵素としては、エステラーゼ、例えばブタ肝臓エステラーゼ(Biocatalytics Inc)、リパーゼ、例えばAmanoPS‐30(シュードモナス・セパシア)、AmanoGC‐20(ゲオトリクム・カンジドゥム)、AmanoAPF(クロコウジカビ)、AmanoAK(シュードモナス種)、シュードモナス・フルオレッセンス・リパーゼ(Biocatalyst Ltd.)、AmanoリパーゼP30(シュードモナス種)、AmanoP(シュードモナス・フルオレッセンス)、AmanoAY‐30(カンジダ・キリンドラケア)、AmanoN(リゾプス・ニベウス)、AmanoR(ペニシリン種)、AmanoFAP(リゾプス・オリゼ)、AmanoAP‐12(クロコウジカビ)、AmanoMAP(ムコール・メルヘイ)、AmanoGC‐4(ゲオトリクム・カンジドゥム)、SigmaL‐0382およびL‐3126(ブタ・パンクレアーゼ)、リパーゼOF(セプラコール)、エステラーゼ30,000(Gist-Brocarde)、KIDリパーゼ(Gist-Brocarde)、リパーゼR(リゾプス種、Amano)、SigmaL‐3001(コムギ胚芽)、SigmaL‐1754(カンジダ・キリンドラケア)、SigmaL‐0763(クロモバクテリウム・ビスコスム)およびAmanoK‐30(クロコウジカビ)が挙げられる。さらに、動物組織由来の例示的酵素としては、キモトリプシン、および膵臓からのパンクレアチン、例えばブタ膵臓リパーゼ(Sigma)が挙げられる。2またはそれより多い、ならびに単一の酵素が、本発明のプロセスを実行する場合に用いられ得る。
さらに、セリンカルボキシペプチダーゼである酵素が用いられ得る。これらの酵素は、カンジダ・リポリチカ、サッカロミセス・セレビシエ,コムギ(トリチクム・エスティブム)およびペニシリウム・ジャンチネルムから得られる。市販架橋酵素結晶も、例えばAltus Biologics, Inc.(例えばChiroCLEC-CR、ChiroCLEC-PC、ChiroCLEC-EC)から用いられ得る。
本発明は、エステルの分割のための熱安定性エステラーゼおよび遺伝子工学処理エステラーゼの使用にも向けられる。これらの酵素(ThermoGen, Inc.から市販)は、工業的プロセスに用いるのに特に適しており、そして用い易い。高温を含めた広範囲の温度で機能するほかに、これらの熱安定性酵素は増大された保存寿命を保有し、これが取り扱いを改良する。当該酵素は、操作条件下でのそれらの安定性のため、通常は工業的プロセスに伴う過酷な非生物学的条件(pH、塩濃度等)にも耐え得る。それらは多数の用途における再使用のために固定されて、当該プロセスの費用効率を改良し得る。
酵素分割後の生成物の単離中、酵素はしばしば、微量の有機溶媒に曝露される。さらに、いくつかの酵素分割は、水性および有機溶媒の混合物下でまたは有機溶媒単独中で最良に働くことが判明している。本発明のエステラーゼ酵素は、慣用的酵素と比較して、多数の有機溶媒による変性により耐性であり、これがより長い稼動寿命を可能にする。エステラーゼ酵素のほとんどが、遺伝子クローニングの遺伝子工学処理技法を用いて生成され、このことが、これらの酵素の純度ならびにスケールアップ中のプロセス制御の容易さを保証する。単離酵素の代わりに、上記の任意の酵素を産生し得る微生物も用いられ得る。
本発明の別の実施形態では、酵素分割の方法は、1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エチルエステルの立体選択的加水分解のための生体触媒として微生物を用いる。本発明に有用な微生物の特定例としては、ロドトルラ・ミムタ、ロドトルラ・ルーバ、カンジダ・クルセイ、カンジダ・キリンドラケア、カンジダ・トロピカリス、カンジダ・ウチルス、シュードモナス・フラギ、シュードモナス・プチダ、シュードモナス・フルオレッセンス、シュードモナス・エルギノザ、リゾプス・キネンシス、ムコール・プシルス、クロコウジカビ、アルカリゲネス・フェカリス、トルロプシス・エルノビィ、バシラス・セレウス、枯草菌、バシラス・プルミルス、枯草菌(Bacillus subtilis var. niger)、シトロバクター・フレウンディ、ミクロコッカス変種、ミクロコッカス・ルテウス、ペディオコッカス・アシドラクチシ、クレブシエラ・ニューモリエ、アブシディア・ヒアロスポラ、ゲオトリカム・カンディドゥム、シゾフィルム・コムネ、ノカルディア・ユニフォルミス・サブツヤナレヌス、ノカルディア・ユニフォルミス,クロモバクテリウム・ココラツム,ハンセヌラ・アノマラ変種シフェリィ、ハンセヌラ・アノマラ、ハンセヌラ・ポリモルファ、アクロモバクター・リチクス、アクロモバクター・パルブルス、アクロモバクター・シンプレックス、トルロプシス・カンジダ、コリネバクテリウム・セペドニクム、エンドミセス・ゲオトリクム、サッカロミセス・カルビシアル、アルスロバクター・グロビフォルミス、ストレプトミセス・グリセンス、ミクロコッカス・ルテウス、エンテロバクター・クロアケ、コリネバクテリウム・エズイ、ラクトバシルス・カゼイ、クリプトコッカス・アルビドゥス、ピキア・ポリモルファ、ペニシリウム・フレズエンタンス、アウレオバシジウム・プルランス、アクチノムコール・エレガンス、ストレプトミセス・グリセンス、プロテウス・ブルがリス、グリオクラジウム・ロセウム、具利億ラジウム・ヴィレンス、フラボバクテリウム・ルテセンス、メツニコウィア・プルケリマ、プレウロツス・オストレアツス、ブレビバクテリウム・アンモニアゲネス、ブレビバクテリウム・ディバリカツム、大腸菌、ロドトルラ・ミヌタ変種テキセンシス、トリコデルマ・ロンギブラキアツム、ムコール・ジャバニクス、フラボバクテリウム・アルボネセンス、フラボバクテリウム・ヘパリヌムおよびフラボバクテリウム・カプスラツムが挙げられるが、これらに限定されない。
本発明に用いられる酵素および/または微生物は、粗製形態または固定化形態であり得る。それらは、立体選択性の損失または立体選択性の変化を伴わずに、種々の固体支持体上に固定され得る。固体支持体は、酵素が共有結合されない不活性吸収剤であり得る。そうではなく、例えばタンパク質の疎水性または親水性部分と不活性吸収剤の同様の領域との相互作用により、水素結合により、塩橋形成により、または静電的相互作用により、酵素は吸収される。不活性吸収材料としては、合成ポリマー(例えばポリスチレン、ポリ(ビニルアルコール)、ポリエチレンおよびポリアミド)、鉱物様化合物(例えば珪藻土およびフラー土)、あるいは天然ポリマー(例えばセルロース)が挙げられるが、これらに限定されない。このような材料の特定例としては、セライト545珪藻土、アベライトXAD‐8高分子樹脂ビーズおよびポリエチレングリコール8000が挙げられる。
酵素は、酵素が共有結合される支持体上にも固定され得る(例えばオキシラン‐アクリルビーズおよびグルタルアルデヒド活性化支持体)。特定例としては、EupergitCオキシラン‐アクリルビーズおよびグルタルアルデヒド活性化セライト545が挙げられる。他の考え得る固定化系は、酵素固定化の業界の当業者に周知であり、容易に利用可能である。
上記の慣用的固定化方法の代わりに、酵素は、硫酸アンモニウムとともに用いられる酵素から単に沈殿させることによる再使用のためにも便利にリサイクルされ得る。沈殿酵素‐硫酸アンモニウムは、次の酵素的加水分解に直接用いられ得る。塩は一般に、酵素の精製に用いられる。それらは一般的には、溶媒活性を低減することにより、タンパク質酵素を防御する。例えば硫酸アンモニウム、硫酸カリウム、リン酸カリウム、塩化ナトリウム等は、酵素活性を回収するのに用いられ得る。
酵素または微生物は、単独でまたは組合せて用いられ得る。用いられる酵素または微生物の種類によって、エステルの光学異性体のどちらか一方が優勢的に加水分解されて、光学活性アルコールを生じる。光学異性体のどちらか一方が、適切な酵素または微生物の選択により得られる。
II(c). 基質
1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールをエステル化するために用いられる最も有効なアシル基は、選定酵素系を用いて、多数の同族体の評価による過度の実験をせずに確定され得る。特定の酵素または微生物とともに用いるために評価され得るアシル基の非限定例としては、アルキルカルボン酸および置換アルキルカルボン酸、例えば酢酸、プロピオン酸、酪酸およびペンタン酸が挙げられる。ある種の酵素または微生物に関しては、エステル結合を弱めることにより加水分解を促進するために有意に電子求引性であるアシル化合物を用いるのが好ましい。電子求引性アシル基の例としては、α‐ハロエステル、例えば2‐クロロプロピオン酸、2‐クロロ酪酸および2‐クロロペンタン酸が挙げられる。α‐ハロエステルは、リパーゼのための優れた基質である。さらに、リパーゼ触媒性アシル化によるアリール‐アルキルアルコールの実際的分割のためのアシル化剤としての無水コハク酸の使用は、Bouzemi et al. Tetrahedron Lett., 2004, vol. 45, pp. 627-630に報告されている。
当該技術分野で既知のエステル化の異なる方法は、1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエステル基質を調製するために用いられ得る(例えばJ. Chem. Soc. Chem. Commun. 1989, vol. 18, p. 1391;J. Org. Chem. 1994, vol. 59, p. 6018参照)。
II(d). 酵素的加水分解のための反応条件
本発明の酵素的加水分解は、1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エチルエステルを、通常は水性緩衝媒質中で、十分に撹拌しながら、酵素または微生物と接触させることにより実行され得る。
緩衝媒質は、無機酸塩緩衝液(例えばリン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム)、有機酸塩緩衝液(例えばクエン酸ナトリウム)、または任意のその他の適切な緩衝液であり得る。緩衝液の濃度は、0.005から2 Mまで、好ましくは0.005から0.5 Mまで変わり得るし、用いられる特定の1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エチルエステルおよび酵素または微生物によっている。
異質の条件下で実施される酵素的加水分解は、不十分な再現可能性を蒙り得る。したがって、加水分解は均質条件下で実施されるのが好ましい。1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エチルエステルの溶解度によって、均質性は界面活性剤の使用により達成され得る。好ましい界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、例えばアルキルアリールポリエーテルアルコールが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい界面活性剤は、オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトンX‐100(Sigma Chemical Company)として市販)である。有効量の界面活性剤が用いられる。典型量は、0.05%から約10%(v/v)まで変わり得る。
しかしながらこれらの界面活性剤は、出発物質を溶解するのを手助けするだけでなく、それらは生成物の水性溶解度も増強する。したがって酵素反応は異質条件下よりも非イオン性界面活性剤の付加でより効果的に進行し得るが、しかし回収出発物質および生成物の両方の単離は、より難しくされ得る。生成物は、適切なクロマトグラフィー的および化学的(例えば選択的塩生成)技法を用いて単離され得る。
時としては、有効量の有機補助溶媒を付加して、生成物溶解度を増大し、反応を促進することが選択可能である。補助溶媒の例としては、アセトニトリル、THF、DMSO、DMF、アルコール等が挙げられるが、これらに限定されない。有効量の補助溶媒は、用いられる特定1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エチルエステルおよび酵素または微生物によって、1%〜30%(v/v)を包含する。
酵素的加水分解は、典型的には、当該酵素のための最適pHに近いpHを有する水性緩衝液中の触媒量の酵素を用いて実行される。反応が進行すると、pHは、遊離化カルボン酸の結果として低下する。水性塩基は、酵素に最適な値に近いpHを保持するために付加され得る。反応の進行は、pHの変化ならびにpHを保持するために必要とされる塩基の量をモニタリングすることにより、容易に確定され得る。
緩衝液のpHまたは反応物のpHは、普通は4〜10、好ましくは5〜9、最も好ましくは7〜8である。反応温度は0℃から100℃まで変わり、そして用いられる特定1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エチルエステルおよび酵素または微生物によっている。反応時間は一般に1時間〜70時間であり、用いられる特定1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エチルエステルおよび酵素または微生物によっている。普通は、酵素的加水分解は、申し分ない光学純度で、所望のエステルまたは1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールを申し分ない量を生成するのに十分な期間、進行される。反応が進行すると、所望のエステルまたはアルコールの量、およびその光学純度は、HPLCおよびキラルHPLCによりモニタリングされ得る。普通は、転化は約50%まで実行され、この後、アルコールおよびエステルは単離後に良好な収率で生成され得る。
用いられる酵素の量は、出発物質1モル当たりで酵素が5単位から12,000単位まで広範に変わり得る。必要とされる酵素の量は、用いられる温度、用いられる特定1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エチルエステルおよび酵素または微生物、ならびに望ましい反応時間によっている。実際的に短い反応時間を保証するために、特に酵素が固定され、そして多数の回転置換のために再使用され得る場合、いくつかの事例では、大量の酵素を用いるのも望ましい。エステル基質の濃度は0.1 g/L〜500 g/Lであり得るし、用いられる特定1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エチルエステルおよび酵素または微生物によっている。
II(e). 生成物単離
所望の生成物、光学的純粋(または濃化)非反応エステルおよび光学的純粋(または濃化)アルコールは、慣用的方法、例えば抽出、酸‐塩基抽出、濾過、クロマトグラフィー、結晶化またはその組合せを用いて、加水分解混合物から単離され得る(Andreas Liese, et al., Industrial Biotransformations, Weinheim: WILEY-VCH, 2000)。回収された酵素または微生物は、上記のようにリサイクルされ得る。
II(f). エステル化および化学的加水分解(反転を伴う)に基づいたエナンチオマー転化
本発明によれば、どちらかの1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエナンチオマーが、所望により、他の1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエナンチオマーに転化され得る。この転化は、例えば、立体反転により成し遂げられるC‐1での求核性置換反応により実施され得る。このような反応は、求核性試薬の使用により実行され得る。
光学活性アルコールの対応するエナンチオマーへの転化のための方法としては、以下の方法が挙げられるが、これらに限定されない。
例えば、一方法は、特定エナンチオマーの不斉炭素原子上のヒドロキシル基を、有機スルホン酸エステル、好ましくはメタンスルホン酸エステルまたはp‐トルエンスルホン酸エステルに転化することを包含するが、これは、求核性置換、ならびにそれらのカルボン酸エステルのうちの1つによる立体配置の反転とその後の加溶媒分解または加水分解により他のエナンチオマーに直接的に転化される。スルホン酸エステルは、非プロトン性溶媒、好ましくはピリジンおよびジクロロメタン中で、適切な場合は塩基、例えばトリエチルアミンの存在下で、どちらかの1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエナンチオマーと有機スルホニルハロゲン化物、好ましくは塩化メタンスルホニルおよび塩化p‐トルエンスルホニルとの反応による既知の方法により調製される。
発煙HNO3または塩化メシルで光学活性アルコールをニトレートまたはメシレートにエステル化し、そしてその結果生じたニトレートまたはメシレートを、中性(0.7〜2.0当量のCaCO3またはNaOAcの存在下で)、塩基性(K2CO3)または酸性条件(2.5%水性H2SO4または2.5%水性HNO3)下での立体反転により加水分解することを包含する方法は、例えばDanda et al., Tetrahedron, 1991, vol. 47, pp. 8701-8716;およびWang et al., J. Med. Chem., 2000, vol. 43, No. 13, pp. 2566-2574に記載されている。
光学活性アルコールをスルホン酸エステル、例えばp‐トルエンスルホン酸エステルに転化し、有機酸塩、例えば酢酸四エチルアンモニウムおよび酢酸ナトリウム(および酢酸)をその結果生じるスルホン酸エステルと反応させて、対応する有機酸エステルに立体反転指せて、そして結果的に生じた有機酸エステルを加水分解することを包含する方法は、例えばJ. Am. Chem. Soc., 1965, v. 87, p. 3682;およびJ. Chem. Soc., 1954, p. 965に記載されている。
光学活性アルコールをカルボン酸エステル、例えばトリクロロ酢酸エステルにエステル化し、そしてその結果生じたカルボン酸エステルを、水‐エーテル溶媒、例えば75%H2O‐ジオキサン中で加水分解することを包含する方法は、例えばChem. Lett., 1976, p. 893に記載されている。
別の実施例は光延反応であって、この反応は、光学活性アルコールを、トリアリールホスフィン(例えばトリフェニルホスフィン)およびアゾジカルボン酸エステル、例えばジエチルアゾジカルボキシレートの存在下で有機酸と反応させて、立体反転化された対応する有機酸エステルを生成し、そしてその結果生じたエステルを加水分解することを包含する。有機酸としては、例えば蟻酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、安息香酸等が挙げられる。有機酸エステルの生成は、例えば約−60℃〜60℃の温度で実行され得る。反応は、不活性溶媒、例えば芳香族炭化水素(例えばベンゼン、トルエン等)およびエーテル(例えばテトラヒドロフラン等)中で実行され得る。光学活性アルコール1モルを基礎にしたトリアルキルホスフィン、有機酸およびアゾジカルボン酸エステルの割合は、それぞれ約0.7〜2.0モルである。有機酸エステルの加水分解は、慣用的方式により、例えば酸性または塩基性加水分解により実行され得る(例えばSynthesis, 1981, p. 1; Danda et al., Tetrahedron, 1991, vol. 47, pp. 870-8716;Vanttinen et al. Tetrahedron: Asymmetry, 1995, vol. 6, pp. 1779-1786;およびLiu et al., Chirality, 2002, vol. 14, pp. 25-27参照)。
II(g). 酵素的加水分解、エステル化および化学的加水分解(反転を伴う)の組合せ
酵素分割方法の主な制限の1つは、最大収率がラセミ化合物を基礎にして50%であるという点である。この制限を克服するための方法として、酵素的加水分解、エステル化および化学的加水分解(反転を伴う)の組合せが用いられ得る(例えばDanda et al., Tetrahedron, 1991, vol. 47, pp. 870-8716;Vanttinen et al. Tetrahedron: Asymmetry, 1995, vol. 6, pp. 1779-1786;およびLiu et al., Chirality, 2002, vol. 14, pp. 25-27参照)。
本発明によれば、酵素的加水分解により得られる光学的純粋(または濃化)非反応エステルおよび光学的純粋(または濃化)アルコールの粗製混合物は、上記の手順に従って、1つのポット中で、エステル化および化学的加水分解(反転を伴う)に基づいたエナンチオマー転化に付され得る。
1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エチルエステルによって、適切な酵素または微生物が酵素的加水分解のために用いられ、そして化学的加水分解のための適切な条件が選択され得る。例えば分離を伴わない非反応(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エチルエステルおよび反応(1R)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールの粗製混合物は、Danda et al., Tetrahedron, 1991, vol. 47, pp. 870-8716;およびWang et al., J. Med. Chem., vol.43, pp. 2566-2574に記載されているように塩化メシルでエステル化され得る。対応する(1R)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エチルメシレートおよび(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エチルエステルのその結果生じる粗製混合物(精製せず)は、加水分解されて、(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールを生じて、(1R)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エチルメシレートの反転および(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エチルエステルの保持を伴う。特定の一実施形態では、1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エチルエステル基質は、1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エチルアセテートである。特定の一実施形態では、酵素はブタ肝臓エステラーゼである。
(1R)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールを(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールに転化するための方法は、(S)‐エナンチオマーの(R)‐エナンチオマーへの転化にも適用され得る。
II(h). ラセミ化ならびに動的速度分割への適用
光学的に純粋な(または濃化)非反応エステルおよび光学的純粋(または濃化)アルコールのどちらかが、所望によりラセミ化され得る。光学的純粋(または濃化)非反応エステルは、適切な条件下で、適切な塩基中で加熱することによりラセミ化され得る。あるいは光学的純粋(または濃化)非反応エステルは、適切な条件下でアルコールの存在下で、酸中で加熱することによりラセミ化され得る。光学的純粋(または濃化)非反応アルコールも、適切な条件下で、酸中で加熱することにより、ラセミ化され、そしてラセミエステルに転化され得る。このようにして、立体選択的酵素的加水分解およびラセミ化技法のこの組合せにより、光学的純粋(または濃化)非反応エステルまたは光学的純粋(または濃化)アルコールのいずれかの優れた収率が達成され得る。
例えば動的速度分割(または二次不斉転換)の方法は第二級アルコールのために用いられ得るが、この場合、アルコールは、酵素分割中、金属触媒、例えばルテニウムベースの触媒系で継続的にラセミ化される(Dijksman et al., Tetrahedron: Asymmetry, 2002, vol. 13, pp. 879-884;Kim et al., J. Am. Chem. Soc., 2003, vol. 125, pp. 11494-11495;Choi et al., J. Org. Chem., 2004, vol. 69, 1972-1977)。
II(i). 酵素触媒アシル化
酵素反応は、速度論的分割によりそれらのラセミ形態から光学的濃化化合物を生成するための便利な方法であることが立証されている(C.-H. Wong and G.M. Whitesides, Enzymes in Synthetic Organic Chemistry, Pergamon, Oxford (1994);K. Faber, Biotransformations in Organic Chemistry, Springer, Berlin (1995);Gotor, Vicente. “Enzymes In Organic Solvents: The Use Of Lipases And (R)-Oxynitrilase For The Preparation Of Products Of Biological Interest.” Molecules [Electronic Publication] 2000, vol. 5, pp. 290-292)。
例えばアルコールは、一般的に不可逆的な反応において、エノールエステルを用いたリパーゼ触媒トランスエステル化(アシル化)により分割され得る(Y.F. Wang, J.J. Lalonde, M. Momongan, D.E. Bergbreiter and C.-H. Wong, J. Am. Chem. Soc. 1988, vol. 110, pp. 7200-7205)。しかしながら調製的利益を有するために、このようなプロセスは、(i)高エナンチオ選択性因子E、(ii)生成物(エステル)からの非反応基質(アルコール)の易分離性を要する。アシル化剤としての環状無水物の使用は、この要件に便利な溶液を提供する、ということが示された(Bouzemi et al. Tetrahedron Lett., 2004, vol. 45, pp. 627-630)。生成される酸‐エステルは、簡単な水性塩基‐有機溶媒液体‐液体抽出により、非反応アルコールから容易に分離され得る。さらに、これらの化合物の分離は非常に異なる量の生成物および非反応基質に関してさえ容易であるため、高エナンチオマー純度を有するアルコールは、低E値の場合でさえ、ラセミ基質から生成され得るが、但し、アシル化は高転化に実行される。
反応は、ジエチルエーテル中に溶解されたラセミ基質を用いて実行され得る。ビニルまたはイソプロペニルアセテート(2当量)または無水コハク酸(1当量)が次に付加され、その後、酵素が付加される。例えば市販のリパーゼ、例えばシュードモナス・フルオレッセンス・リパーゼ(PFL)およびカンジダ・アンタルクチカ・リパーゼB(CAL B)、固定化酵素が用いられ得る。その結果生じる混合物は、約50%転化を到達するために適切な時間の間、室温で撹拌され得る。アシル化剤としてエノールエステルを用いて、非反応アルコールおよび生成されたアセテートを、シリカゲルフラッシュクロマトグラフィーにより分離した。両化合物のeeが測定された後、キラルHPLCを用いて分析することにより分離する。アシル化剤として無水コハク酸を用いて、非反応アルコール、例えば(S)‐アルコール、ならびに生成された(R)‐モノスクシネートが、水性塩基‐有機溶媒液体‐液体抽出により分離され得る。水性相は、水酸化ナトリウムでアルカリ性にされ、その結果生じる(R)‐アルコールが有機溶媒で抽出され得る。非反応(S)‐濃化アルコールおよび生成された(R)‐濃化アルコールのエナンチオマー過剰率は、例えばキラルHPLCにより評価され得る。
III. 1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノンのエナンチオ選択的生体内還元
本発明は、1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールの光学活性異性体の製造方法であって、水性溶液、有機溶媒または有機および水性溶媒の混合物中で、エナンチオ選択的方式で、生体触媒により1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノンを還元して、1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールの光学活性異性体を生成するステップを包含する方法を提供する。本明細書中の開示内容を考慮して、当業者は、上記の高処理量スクリーニング(HTS)プロセスを用いて、本明細書中で考察された酵素または微生物のうちの1つを選択することにより、あるいはその他の既知の酵素または微生物の系統的評価により、1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノンを1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールのどちらかのエナンチオマーに選択的に還元する酵素または微生物を選択し得る。本明細書中に提示された記述に基づいて、所望の立体選択性が達成されるよう、生体内還元反応の条件を選択する方法を、当業者は理解する。キラルNMRシフト試薬、偏光計またはキラルHPLCの使用により、回収されたアルコールの光学的濃化が確定され得る(例えばJ. Am. Chem. Soc. 1973, v. 95, p. 512;Trost et al., J. Org. Chem. 1986, v. 51, pp. 2370-2374;J. Org. Chem. 1998, v. 63, pp. 8957;Tetrahedron: Asymmetry 1995, v. 6, p. 2385;Tetrahedron: Asymmetry 1996, v. 7, p. 3285参照)。
所望のエナンチオマー、例えば(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールは次に、当該技術分野で周知の方法を用いて、任意の残りの基質およびその他の反応構成成分から任意に単離される(例えば反応混合物は、適切な溶媒、例えばMeOHで抽出され、そしてRP‐HPLCにより分析される;対応するアルコールは、フラッシュクロマトグラフィーにより他の有機物から分離され;そして精製アルコールが、キラルHPLCにより分析され(例えばAllenmark et al. Enzyme Microbial Technol., 1989, vol. 11, pp. 177-179参照)た後、本明細書中の実施例3に記載されるように、ヒト肝細胞増殖因子受容体の自己リン酸化を強力に抑制するある種のエナンチオマー濃化エーテル結合2‐アミノピリジン類似体の合成における中間体として好ましくは用いられ得る)。
一般的に、たとえあったとしても、極少量(例えば約1%ee〜約5%ee)だけの非所望エナンチオマーが、本発明の立体選択的生体内還元プロセスにより生成される。さらにそのように所望される場合、所望エナンチオマーの量は、例えば結晶化により、非所望エナンチオマーの量から実質的に分離され得る。
本発明の方法は、容易に実行される。したがって酵素または微生物は、非所望エナンチオマーより多い量の1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールの所望エナンチオマーを生成し、それにより一ステップで光学的濃化エナンチオマーを生じる量の基質1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノンの存在下で、インキュベート(酵素、破壊細胞調製物、脱水調製物または任意のその他の適切な微生物の調製物)されるかまたは発酵(無傷微生物)される。
本発明の方法に原則として適しているのは、カルボニル化合物またはアルデヒドをアルコールに還元し得るすべての微生物、例えば真菌、酵母または細菌、あるいは酵素または酵素系、例えば種々のアルコールおよびアルデヒドデヒドロゲナーゼである。微生物は、本発明のプロセスのために、培養後(湿潤バイオマス)または凍結乾燥後(乾燥物質)に直接用いられ得る。有益に用いられる微生物または酵素は、1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノンを、85%eeを超える、好ましくは90%eeを超える、非常に特定的には好ましくは95%eeを超えるエナンチオマー純度を有する1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールの所望のエナンチオマーに還元し得るものである。適切な微生物の例は、アルカリゲネス族、アスペルギルス属、Beauveria、カンジダ属、クリプトコッカス属、カルブラリア属、ダイプロディア属、エンドマイコプシス属、ゲオトリクム属、ハンセヌラ属、クロエケラKloeckera属、クリュイベロミセス属、ラクトバシラス属、ムコール属、ノカルディア属、ペニシリウム属、ファフィア属、ピキア属、シュードモナス属、ロドコッカス属、ロドトルラ属、サッカロミセス属、シゾサッカロミセス属、スポリディオボルス属、ストレプトミセス属、トルロプシス属またはヤロウィア属の生物体である。上記の属の下記の種が、有益に用いられる:アルカリゲネス・ユートロフス、クロコウジカビ、アスペルギルス・フミガツス、白きょう病菌、カンジダ・ギリエルモンディ、カンジダ・リポリチカ、カンジダ・メンブラネファシエンス,カンジダ・メチリカ、カンジダ・パラプシローシス、カンジダ・マグノリエ、カンジダ・ルゴーサ、カンジダ・ウチリス、クルブラリア・ファルカタ、ダイプロディア・ゴッシピナ、クリプトコッカス・マセランス、ゲオトリクム・カンジドゥム、ハンセヌラ・アノマラ、ハンセヌラ・ベッキー、ハンセヌラ・ホルスティ、ウィンゲイ、ハンセヌラ・ポリモルファ、ムコール種、ノカルディア・ルブロペルチンクタ、ファフィア・ロドザイマ、ピキア・グルコザイマ、ピキア・フェルメンタンス,ピキア・カプスラタ、ピキア・ギリエルモンディ、ピキア・メンブラネファシエンス、ピキア・パストリス、シュードモナス・フルオレッセンス、シュードモナス・セパシア(セパシア菌)、ロドコッカス・エリスロポリス,ロドコッカス・Rhodococcus ruber、ロドトルラ・ルブラ、ロドトルラ・グラシリス、ロドトルラ・グルチニス、ロドトルラ・ミヌタ、ロドトルラ・テルムスルベル、サッカロミセス・セレビシエ、サッカロミセス・ウバルム、サッカロミセス・ダイレンシス、サッカロミセス・ロウキシィ、サッカロミセス・パストリアヌス、サッカロミセス・クリュイベリ、シゾサッカロミセス・ジャポニクス、シゾサッカロミセス・マリデボランス、シゾサッカロミセス・オクトスポルス、シゾサッカロミセス・ポンベ、トルロプシス・エノキ、トルロプシス・メタノテルモおよびヤロウィア・リポリチカ。
種々の酵母属、例えばカンジダ、ハンセヌラ、クロエケラ、クリュイベロミセス、ファフィア、ピキア、ロドトルラ、サッカロミセス、シゾサッカロミセス、トルロプシスおよびヤロウィアが、好ましくは用いられる。特に好ましくは、カンジダ・ギリエルモンディ、カンジダ・リポリチカ、カンジダ・メンブラネファシエンス,カンジダ・メチリカ、カンジダ・パラプシローシス、カンジダ・マグノリエ、カンジダ・ルゴーサ、カンジダ・ウチリス、ハンセヌラ・アノマラ、ハンセヌラ・ベッキー、ハンセヌラ・ホルスティ、ウィンゲイ、ハンセヌラ・ポリモルファ、ファフィア・ロドザイマ、ピキア・グルコザイマ、ピキア・フェルメンタンス,ピキア・カプスラタ、ピキア・ギリエルモンディ、ピキア・メンブラネファシエンス、ピキア・パストリス、ロドトルラ・ルブラ、ロドトルラ・グラシリス、ロドトルラ・グルチニス、ロドトルラ・ミヌタ、ロドトルラ・テルムスルベル、サッカロミセス・セレビシエ、サッカロミセス・ウバルム、サッカロミセス・ダイレンシス、サッカロミセス・クリュイベリ、サッカロミセス・ロウキシィ、サッカロミセス・パストリアヌス、サッカロミセス・クリュイベリ、シゾサッカロミセス・ジャポニクス、シゾサッカロミセス・マリデボランス、シゾサッカロミセス・オクトスポルス、シゾサッカロミセス・ポンベ、トルロプシス・エノキ、トルロプシス・メタノテルモおよびヤロウィア・リポリチカ属および種が用いられ、非常に特定的に好ましくは、ロドトルラ・ルブラ、サッカロミセス・セレビシエ、サッカロミセス・ウバルム、シゾサッカロミセス・ジャポニクス、ピキア・フェルメンタンス、ハンセヌラ・ポリモルファ、ロドトルラ・グラシリス、カンジダ・ウチリスおよびカンジダ・マグノリエ属および種が用いられる。
微生物は、例えばNakamura et al. Tetrahedron: Asymmetry, 2003, vol. 14, pp. 2659-2681に記載されているように、細胞中での酵素産生を改善するために、同一細胞中で補酵素‐再生酵素を提供するために、重複基質特異性を有するがしかし異なるエナンチオ選択性を有する細胞中の複数の酵素の存在のための貧エナンチオ選択性を改善するために、過剰代謝の問題等を解決するために、遺伝子的に形質転換され得る。
1つまたは複数の任意の適切な微生物が、本発明のプロセスに用いられ得る。前記のように、本発明のプロセスに用いられる微生物は、無傷であり、その任意の適切な調製物、例えばその破壊細胞調製物、その脱水調製物、であり得るし、そして遊離しているかまたは固定され得る。しかしながら非無傷微生物、例えば破壊細胞調製物、例えば細胞抽出物、アセトン粉末酵素調製物、またはそれに由来する酵素が本発明において用いられる場合、酵素のための適切な補因子も含まれる、と当業者は理解する。
本明細書中に提示された記述ならびにそれらの関連知識から、例えばPatel et al., Appl. Environ. Microbiol., 1979, vol. 38, pp. 219-223に記載されているような適切な破壊細胞調製物の調製方法を、当業者は理解する。本明細書中に提示された記述ならびにそれらの関連知識から、例えばNakamura et al., Tetrahedron Lett., 1996, vol. 37, pp. 1629-1632;Nakamura et al., Tetrahedron Asymmetry, 2003, vol. 14, pp. 2659-2681に記載されているような適切なアセトン粉末酵素調製物の調製方法を、当業者は理解する。
酵素は、動物、植物、微生物等から得られる任意の酵素であり得る。酵素は、任意の慣用的形態で、例えば精製形態、粗製形態、他の酵素との混合物、微生物発酵ブロス、発酵ブロス、微生物体、発酵ブロスの濾液等の形態で、単独でまたは組合せて用いられ得る。さらに酵素または微生物体は、樹脂上に固定され得る。
さらに、任意の適切な微生物の酵素(例えばオキシドレダクターゼ)も本発明のプロセスに用いられ、そしてこの酵素は、当業者に既知の任意の適切な方法により微生物から単離され得るし、そして無傷微生物に関する場合と同様に、遊離または固定化形態で本発明のプロセスに用いられ得る。本明細書中に提示された記述ならびにそれらの関連知識から、例えばWO 03/093477に記載されているような適切な微生物の酵素を単離し、精製する方法を、当業者は理解する。
本発明に用いるのに適した例示的市販酵素としては、E.C.1.1.1下で分類され、そしてカルボニル基の還元を触媒し得るデヒドロゲナーゼおよびレダクターゼ、例えばケトンレダクターゼのKRED-M27キット(Biocatalytics, Inc.)、ウマ肝臓アルコールデヒドロゲナーゼ(Grunwald et al., J. Am. Chem. Soc., 1986, vol. 108, pp. 6732-6734;Johansson et al., Eur. J. Biochem., 1995, vol. 227, pp. 551-555;Adolph et al., Biochemistry, 2000, vol. 39, pp. 12885-12897;Wong et al. Tetrahedron Organic Chemistry, 1994, vol. 12, pp. 149-150)、酵母アルコールデヒドロゲナーゼ、Thermoanaerobium brokiiアルコールデヒドロゲナーゼおよびLactobacillus kefirアルコールデヒドロゲナーゼが挙げられる。
酵素の天然基質はアルコール、例えばエタノール、ラクテート、グリセロール等、そして対応するカルボニル化合物である;しかしながら非天然ケトンもエナンチオ選択的に還元され得る。触媒活性を示す為に、酵素は、補酵素、例えばNADHまたはNADPHを要し、それから基質カルボニル炭素に水素化物が移入される。補酵素NAD(P)Hから基質への水素化物の移入を可能にする4つの立体化学的パターンが存在する。E1およびE2酵素に関しては、水素化物はカルボニル基のsi面を攻撃するが、一方、E3およびE4酵素に関しては、水素化物はre面を攻撃し、これが、それぞれ(R)および(S)‐アルコールの生成を引き起こす。他方で、E1およびE3酵素は補酵素のプロ‐(R)‐水素化物に移し、そしてE2およびE4酵素はプロ‐(S)‐水素化物を用いる。E1‐E3酵素の例を以下に示す:
E1:シュードモナス種アルコールデヒドロゲナーゼ
ラクトバシラス・ケフィル・アルコールデヒドロゲナーゼ
E2:ゲオトリクム・カンジドゥムグリセロールデヒドロゲナーゼ
ムコール・ジャバニクスジヒドロキシアセトンレダクターゼ
E3:酵母アルコールデヒドロゲナーゼ
ウマ肝臓アルコールデヒドロゲナーゼ
モラキセラ種アルコールデヒドロゲナーゼ。
酵素の定向進化を用いて、酵素の還元機能を改善し得るしあるいは還元のための生体触媒は、例えばNakamura et al., Tetrahedron Asymmetry, 2003, vol. 14, pp. 2659-2681に記載されているような触媒抗体技法を用いることにより適応され得る。
本発明の立体選択的微生物還元に用いるのに適した微生物は、当業者に既知の任意の適切な方法により調製され得る。市販ストックからの微生物の調製のための適切な方法の一例は、以下に提示される。以下に例示される方法は、本発明で用いるのに適した任意の微生物のために用いられ、そして本明細書中に提示されたから、当該手順、例えば所望の結果を達成するための、遊離のまたは固定化された、洗浄されたまたは非洗浄の微生物の調製方法;その量の基質を微生物と接触する方法;増殖培地構成成分および条件、例えば温度、pH等;あるいはインキュベーション条件の任意の部分を修正する方法を、当業者は理解する。
本明細書中に提示された記述から、例えばBauer et al., Biotechnol. Lett., 1996, 18, pp. 343-348に記載されているような適切な固定化微生物の調製方法を、あるいは例えばSvec, F.;Gemeiner, P. “Engineering aspects of carriers for immobilized biocatalysts.” Biotechnology & Genetic Engineering Rreviews 1996, vol. 13, pp. 217-235に記載されているような適切な固定化酵素の調製方法を、当業者は理解する。
基質の量を微生物または酵素還元系と接触する任意の適切な方法が、本発明において用いられ得る。基質は、任意の適切な順序で、微生物または酵素還元系と接触され得る。例えば基質は、遊離のまたは固定化された微生物またはそのいくつかの組合せを含む培地、例えば培養ブロスに付加され得るし、あるいは培地は、基質を含み、そして微生物が次にこのような培地に付加される;あるいは基質および微生物が一緒にこのような培地に付加され得るし;あるいは基質はその破壊細胞調製物に付加され得るし;あるいは基質は微生物の脱水調製物に付加され得るし;あるいは基質あるいは微生物または酵素還元系のいずれかが、他のものを含む適切な溶媒に付加され得る。例えば酵素還元系は、容易に感知可能有機溶媒に付加され、溶媒への基質の付加により接触が起こる。本発明の記述に基づいて、樹脂に吸着された基質を付加することによる接触方法も、当業者は理解する。さらに、本明細書中に提示した記述から、所望される場合、本発明のプロセスの任意の部分を修正する方法を、当業者は理解する。
本発明のプロセスに関しては、微生物は先ず窒素限定条件下で培養され、例えば遠心分離により細胞を収穫後、本発明のプロセスのために用いられ得る。還元は、全細胞、細胞消化物または細胞から得られる粗製酵素抽出物、あるいは精製酵素を用いて実行され得る。当該プロセスは、全細胞の場合、炭素源の存在下で、あるいは還元剤、例えばNADHまたはNADPHの存在下で、ならびに例えば蟻酸デヒドロゲナーゼおよび蟻酸の、適切な場合、細胞消化物、粗製抽出物または純粋酵素の場合には、他の酵素の助けを借りて、再循環中の補助因子の存在下で、水性培地中で実行され得る。全細胞を用いた還元におけるさらなる栄養素、例えば窒素源、ビタミンまたはホスフェートの付加は、これらの条件下で望ましくない副作用が観察され、例えばこれが欠陥生成物量またはそれ以外のワークアップ問題を引き起こし得るため、得策でない。微生物のための炭素源として適しているのは、還元に必要な還元等価物を細胞に提供し得るすべての炭素源である。ここに記述され得る炭素源の例は、一または二糖類、例えばグルコース、マンノース、マルトース、スクロース、第一級または第二級アルコール、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ポリオール、例えばグリセロール、低級カルボン酸、例えば乳酸、リンゴ酸またはアミノ酸、例えばグルタメートである。炭素源の存在下での水溶液中の微生物を用いた前駆体の転化は、前駆体も生成物も代謝されず、そして副産物も生成されない、という利点を有する。
生体内還元の反応は、純水中で、または他の溶媒または溶媒混合物を付加しない水性緩衝液中で実行され得る。前駆体1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノンの溶解度を改善するために、反応物に対する前駆体1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノンの溶解度を改善し得る水混和性有機溶媒、例えばテトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、第一級または第二級アルコール、カルボン酸、ラクトン、例えばγ‐ブチロールアセトンを付加し得る。
反応は、0℃〜50℃、好ましくは10℃〜45℃、特に好ましくは15℃〜40℃で実行され得る。
反応時間は微生物または酵素によっており、そして1〜72時間、好ましくは1〜48時間である。
微生物の増殖の任意の適切な継続時間、微生物と基質量の接触、ならびに微生物を伴う基質のインキュベーションが、本発明に用いられ得る。微生物の適切な増殖は、例えば約24時間、48時間または72時間以内に達成され、その時点で、適切な溶媒、好ましくはエタノール中の基質量の溶液の適切なアリコートが培養に付加され得る。次に、発酵が、例えば約2〜約6日、好ましくは例えば約5日間、継続され得る。反応の進行は、有機溶媒による生成物の抽出後、慣用的方法により容易に追跡調査され得る。発酵ブロスは、任意の適切な抽出方法を用いて抽出され、それにより、例えば適切な溶媒、例えばエチルアセテート、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、塩化メチレン等、好ましくはエチルアセテートが発酵ブロスから有機構成成分を除去する。メタノールも、細胞からメタノール‐水混合物中に物質を抽出する為に用いられ得る。発酵ブロスの抽出ならびに有機および水性相の分離後、有機残渣を含む化合物が、任意の適切な方法、例えばクロマトグラフィー、好ましくはキラルHPLCを用いて確定され得る。
反応は、好ましくは好気性条件下で、即ち微生物を用いた転化の場合には曝気を用いて、好ましくは静かに曝気することにより、実行される。しかしながら嫌気性条件下での転化も可能である。当該プロセスは、連続的に、またはバッチ方式で実行され得る。
上記の反応のいずれかからの生成物は、相分離および/または適切な溶媒、例えばジクロロメタン中への抽出により精製され、その後、必要な場合には、それはクロマトグラフィー処理され得る。
上記の反応は、反応において有機相を連続再循環するかまたは細胞を固定化し、そしてカラム、ループ反応器または他の類似の反応器中の固定化バイオマス上を有機溶液中の基質が通過することを包含する連続生成方法を用いても、実行され得る。
それゆえ、当業者に理解されるように、増殖培地、発酵条件および/または還元の条件(例えば温度、pHおよび基質量)は、その結果生じる化合物の収率ならびにそれらの相対生成速度を制御するために変更され得る。概して、本発明に用いられる技法は、工業的効率に関して選択される。増殖培地、発酵条件ならびに微生物または酵素還元系の相対量の、そして本明細書中に記載される基質の条件は、当業者に理解されるような本発明で適切に用いられ得る広範な種々の培地、発酵条件および出発物質の量の単なる例証であって、いかなる点においても限定的であるよう意図されない。
本発明のプロセスの生成物のいずれかを単離および/または精製するための任意の適切な方法、例えば濾過、抽出、結晶化、カラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、分取低圧液体クロマトグラフィーまたはHPLC、あるいはこのような方法の任意の適切な組合せが、本発明において用いられ得る。
以下の実施例により本発明を例証する。本発明の前記のおよび以下の記述ならびに種々の実施形態は本発明を限定するものではなく、むしろその例証である。それゆえ本発明は、これらの実施例の特定の詳細に限定されない、と理解されるべきである。
実施例
材料
適切な96ウエルプレートおよび付属品は、VWR Internationalから入手した。分析用計器、例えばTecan Genesis 2000 Workstation(Research Triangle Park, NC)、Agilent 220HPLC自動試料採取機および6890N GC(Agilent Technologies, CA)、SpectraMax Plus 384(Molecular Devices, USA)、Beckman Coulter P/ACE MDQ(Fullerton, CA)、およびWaters/Micromass ZQ LC/MS(Waters, MA)は、それらのそれぞれの供給元から購入した。エッペンドルフ・サーモミキサーRは、VWRから購入した。分析に用いられるキラルHPLCカラムは、Chiral Technologies(Exton, PA)およびPhenomenex(Torance, CA)から入手した。
スクリーニングプレート中に利用される酵素の大多数を種々の酵素供給元、例えばAmano(Nagoya, Japan)、Roche(Basel, Swizerland)、Novo Nordisk(Bagsvaer, Denmark)、Altus Biologics Inc.(Cambridge, MA)、Biocatalytics(Pasadena, CA)、Toyobo(Osaka, Japan)、SigmaおよびFlukaから入手した。表1は、各酵素に対応する特定の酵素源を示す。リパーゼ‐PS活性キットは、Sigmaから購入した。市販ブタ肝臓エステラーゼは、PLE AS(カタログ番号ICR‐123)の名称で販売されている粗製硫酸アンモニウム懸濁液として、Biocatalytics(Pasadena, CA)から購入した。
最適化中に利用される溶媒の大多数は、EM Science(Gibbstown,NJ)から入手し、利用可能な最高純度のものであった。
HPLC法
スクリーニング化試料のHPLC分析を、96ウエル自動試料採取機を備えたAgilent 1100HPLCで実施した。エッペンドルフ・サーモミキサーR(VWR)中で、反応を実施した。
反応混合物から2×50 μLを取って、次に併合し、2 mLのアセトニトリルで希釈することにより、すべてのHPLC試料を作製した。その溶液100 μLをアセトニトリル400 μLでさらに希釈して、HPLC中に注入した。
非キラルHPLC法
検出器波長254 nm;Phenomenex lunaC18カラム、3 μm, C18, 4.6×30 mm;流速2.0 mL/分;注入容積:5 μL;移動相:A:水‐0.1%トリフルオロ酢酸(TFA) B:アセトニトリル‐0.1%TFA;を用いて、試料を勾配(0.5分後走行)上を走行させた。
時間 B(%) C(%) D(%)
1 1 5.0 0.0 0.0
2 1.67 65.0 0.0 0.0
3 2.00 95.0 0.0 0.0
4 2.50 95.0 0.0 0.0
5 2.60 5.0 0.0 0.0
6 3.00 5.0 0.0 5.0
キラルHPLC法
アルコール1: 検出器波長:254 nm;ChiralcelADR‐H、3 μm, C18, 4.6×150 mm;流速0.8 mL/分;注入容積:10 μL;移動相:A:水 B:アセトニトリル:定組成:50%Bを15分間使用。
アセテート2:検出器波長:254 nm;ChiralcelOJ‐RH、3 μm, C18, 4.6×150 mm;流速0.6 mL/分;注入容積:10 μL;移動相:A:水 B:アセトニトリル:定組成:50%Bを15分間使用するキラル法。
スクリーニングプレートの調製
Yazbeck et al., Adv. Synth. Catal., 2003, vol. 345, pp. 524-532に従って、スクリーニングプレートの調製を実行した。
特定的には、調製は通常は、1〜2日のオーダーで行い、そして酵素ストック溶液(100 mg/mL)ならびに96ウエルスクリーニングプレート中へのこれらのストック溶液の計量分配または「スクリーニングキット」を伴う。スクリーニングプレート中へのストック溶液の計量分配は、各96ウエルプレート中の適切な位置に各々の個々の酵素10 μLを精確に計量分配するようプログラムされ得る自動液体ハンドラー・ワークステーションにより実行する。
96ウエルプレートフォーマットを選択する場合、プレートは溶媒および温度耐性の両方である必要があり、したがってポリプロピレンプレートの使用が推奨される。プレート容積および形態も、考慮すべきである。本明細書中の反応は、500 μL以下のプレート中の100 μL反応容積中で反応を実行する。V底プレートは溶液撹拌を改善し、遠心分離後のより清浄なサンプリングを可能にする傾向がある。
一旦プレートが調製されたら、それらを粘着性ホイルで、または浸透性マットカバーで密封して、−80℃で数ヶ月(または数年のこともある)間保存する。
無水条件が必要とされる場合、例えばアシル化およびアミド化反応の場合、使用前にスクリーニングプレートを凍結乾燥しなければならない。各ウエルから水を除去するために、プレートを、−20℃の小室温度で24時間凍結乾燥する。凍結乾燥後は、プレートを4〜8℃で保存し得る。
酵素スクリーニングのための手順
1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エチルアセテートの分割を、以下のように実行した。上記のように調製した96ウエルプレートを、5分間解凍した。次に80 μLのリン酸カリウム緩衝液(0.1 M, pH7.2)を、マルチチャンネルピペットを用いてウエル中に計量分配した。次に基質ストック溶液(50 mg/mLアセトニトリル)10 μLを、マルチチャンネルピペットにより各ウエルに付加し、96の反応物を30℃で750 rpmでインキュベートした。新たな96ウエルプレート中に反応混合物25 μLを移すことにより、16時間後に反応物を試料採取し、次にこれを150 μLのアセトニトリルの付加によりクエンチした。次に96ウエルプレートを遠心分離し、有機上清を各ウエルから別の96ウエルプレートに移した。次に、浸透性マットカバーを用いて試料採取反応物を密封し、そして分析のためにHPLC系に移した。同一プレートを用いて、反応性およびエナンチオ選択性の両方を、HPLCで1つ置きのカラムを用いて同時に試料を分析した。
実施例1
酵素分割および化学的変換の組合せによる光学活性1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールの調製
例証目的だけのために、ラセミ1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エチルアセテートの生体内変換の以下の実施例により、本発明のプロセスを実証するが、この生体内変換は、スキーム1により表わされる。
Figure 2008510791
1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エチルアセテート(2)の酵素分割
当該プロセスは、以下の4つの主要ステップを実施することを包含した:
1)ラセミ1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エチルアセテートを調製する;
2)市販のリパーゼ、プロテアーゼおよびエステラーゼを用いて酵素スクリーニングする;
3)pH、温度ならびに酵素および基質の量といった反応条件を最適化する;そして
4)酵素的加水分解、エステル化および化学的加水分解(反転を伴う)の組合せのための手順を開発することにより、酵素分割方法の収率を最大にする。
1)ラセミ1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エチルアセテート(化合物2)の調製
化合物1
1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノール
Figure 2008510791
ホウ水素化ナトリウム(90 mg, 2.4 mmol)を、2 mLの無水CH3OH中の2’,6’‐ジクロロ‐3’‐フルオロ‐アセトフェノン(Aldrich、カタログ番号52,294-5)の溶液に付加した。反応混合物を室温で1時間撹拌し、次に蒸発させて、無色油残渣を得た。残渣をフラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン中0→10%EtOAcで溶離)により精製して、化合物1を無色油として得た(180 mg; 0.88 mmol; 収率86.5%);
Figure 2008510791
化合物2
1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エチルアセテート
Figure 2008510791
無水酢酸(1.42 mL, 15 mmol)およびピリジン(1.7 mL, 21 mmol)を、20 mLのCH2Cl2中の化合物1(2.2 g, 10.5 mmol)の溶液に順次付加した。反応混合物を室温で12時間撹拌し、次に蒸発させて、黄色味がかった油残渣を得た。残渣をフラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン中の7→9%EtOAcで溶離)により精製して、化合物2を無色油(2.26 g; 9.0 mmol; 収率85.6%)として得た;
Figure 2008510791
2)酵素スクリーニング
ラセミ1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エチルアセテート(化合物2)の速度論敵分割のための最も適切な触媒を、市販ヒドロラーゼのコレクションのスクリーニング後に同定した。一般酵素スクリーニング法を用いて、表1に示した94の市販酵素をスクリーニングした。
Figure 2008510791
Figure 2008510791
Figure 2008510791
Figure 2008510791
100 mMリン酸カリウム緩衝液、pH7.2中に投入した5%基質を用いた初期スクリーニング後、ラセミアルコールエステル2からアルコールR‐1への酵素的加水分解に関するヒットとして、いくつかのヒドロラーゼを同定した(スキーム2)。
Figure 2008510791
化合物R‐1
(1R)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノール
Figure 2008510791
フラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン中15→17%EtOAcで溶離)により化合物S‐2から化合物R‐1を精製して、化合物R‐1を無色油として得た(92.7 mg; 0.45 mmol)。
化合物S‐2
(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エチルアセテート
Figure 2008510791
フラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン中9→10%EtOAcで溶離)により化合R‐1から化合物S‐2を精製して、化合物S‐2を無色油として得た(185.9 mg; 0.74 mmol)。
表2に示したように、いくつかの酵素は、1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エチルアセテート(2)に対する活性を示した。E値の分析は、それらの酵素のうちの5つが100より大きいE値の良好なエナンチオ選択性を示す、ということを明示した。リゾプス・デレマールからのリパーゼおよびブタ肝臓エステラーゼ(PLE)はともに、E値>150を示した。しかしながらPLEは、(R)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エチル汗テロ((R)‐2)二対する最高反応性を示した。
Figure 2008510791
PLE加水分解から生じたアルコール(1)の絶対立体配置を、スキーム3に示し、そしてBouzemi, N. et al, Tetrahedron Letters, 2004, pp. 627-630に記載されるような類似の基質の既知の反応との比較により、最初に割り当てた。
スキーム3
Figure 2008510791
実験室中で試験して、割り当てた(酵素は認識パターンを変えないと考える)。
Figure 2008510791
スキーム3に示したように、1‐フェニルエチルアセテートのR‐エナンチオマーにより生成されるCAL‐Bを用いた1‐フェニルエタノールの酵素的アシル化は、1‐フェニルエタノール非反応S‐エナンチオマーを残す(Bouzemi, N. et al, Tetrahedron Letters, 2004, pp. 627-630)。CAL‐Bがrac‐1と反応する場合、基質認識は同一であるべきであると推測され、したがって得られたエステル生成物をR‐エナンチオマーとして割り当てた。
PLEを用いたrac‐1の酵素的加水分解で得られる化合物と比較した場合(逆反応)、アルコールのR異性体が観察されたが、これは明らかにR‐アセテートの加水分解からのものである。
PLE加水分解産物から生成されるアルコール(1)の絶対立体配置の直接決定は、モッシャーのエステルから生成されるジアステレオマーのNMR決定を基礎にし得る。
Figure 2008510791
Tetrahedron: Asymmetry 2002, vol. 13, p. 2283;Tetrahedron Lett. 1988, vol. 29, p. 6211中の文献報告手順を用いて、化合物Aおよび化合物Bを合成した。これら2つの化合物を、1H‐NMR実験に付して、化合物Aおよび化合物Bの両方のメチル基の化学シフトを比較して、化合物Aが「S」立体配置を有しそして化合物Bが「R」立体配置を有する、ということを確定する。
化合物Aの合成: DCC(N,N’‐ジクロロヘキシルカルボジイミド)(1.1 mmol)を、5 mLの無水THF中の(s)‐(+)‐a‐メトキシフェニル酢酸(1 mmol)の溶液に付加した。反応混合物を、窒素雰囲気下で室温で15分間撹拌した。化合物S‐1(1 mmol)およびDMAP(4‐ジメチルアミノピリジン)(0.2 mmol)を順次反応混合物に付加し、その結果生じた混合物を室温で36時間撹拌した。混合物を蒸発させて、メタノール中で粉砕し、濾過し、濃縮して、残渣を得た。残渣をHPLCにより精製して、化合物Aを得た。
化合物Bの合成: DCC(N,N’‐ジクロロヘキシルカルボジイミド)(1.1 mmol)を、5 mLの無水THF中の(s)‐(+)‐a‐メトキシフェニル酢酸(1 mmol)の溶液に付加した。反応混合物を、窒素雰囲気下で室温で15分間撹拌した。化合物R‐1(1 mmol)およびDMAP(4‐ジメチルアミノピリジン)(0.2 mmol)を順次反応混合物に付加し、その結果生じた混合物を室温で36時間撹拌した。混合物を蒸発させて、メタノール中で粉砕し、濾過し、濃縮して、残渣を得た。残渣をHPLCにより精製して、化合物Bを得た。
3)PLE‐ASを用いて反応条件を最適化する
PLEは、Rocheにより製造され、PLE‐AS(ICR‐123としてBiocatalytics Inc.から購入。硫酸アンモニウム懸濁液として販売されている)として一般に既知のブタ肝臓からの粗製エステラーゼ調製物としてBiocatalytics Inc.を介して販売される酵素である。当該酵素は、「カルボン酸エステルヒドロラーゼ、CAS番号9016-18-6」としてCAS台帳で分類されている。対応する酵素分類番号は、EC3.1.1.1である。当該酵素は、広範囲のエステルの加水分解に対して広範な基質特異性を有することが既知である。pH滴定器中でのエチルブチレートの加水分解に基づいた方法を用いて、リパーゼ活性を確定する。1 LU(リパーゼ単位)は、22℃でpH8.2で1 μmol滴定可能酪酸/分を遊離する酵素の量である。本明細書中に報告された調製物(PLE‐AS;懸濁液として)は、>45 LU/mgの公表活性(タンパク質含量約40 mg/mL)を有する不透明褐色‐緑色液体として通常は出荷される。
この反応で最適化される主なパラメーターは、基質および酵素濃度、pHおよび緩衝液の種類であった。PLE‐ASとして市販されている液体形態の酵素を用いて、実験の大半を実施した。この反応に及ぼすpHの作用は、非常に重大というわけではなかった。反応を実施するために合理的なpH範囲としては、pH6〜9が挙げられ、pH8.0で最適結果を有する。次に室温でほとんどの最適化実験を実施した。緩衝液を試験した:トリス、リン酸塩および酢酸カルシウム。10〜100 mMの範囲で非常によく似た結果を有する3つの緩衝液中で、反応を実施し得る。反応を実行するために用いられ得るその他の緩衝液としては、2‐(N‐モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、ピペラジン‐N,N’‐ビス(2‐エタンスルホン酸)(PIPES)、N,N‐ビス(2‐ヒドロキシエチル)‐2‐アミノエタンスルホン酸(BES)、3‐(N‐モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、N‐(2‐ヒドロキシエチル)ピペラジン‐N’‐(2‐エタンスルホン酸)(HEPES)、N‐トリス(ヒドロキシメチル)メチル‐2‐アミノエタンスルホン酸(TES)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIZMA)、N‐トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン(TRICINE)、N,N‐ビス(2‐ヒドロキシエチル)グリシン(BICINE)、N‐トリス(ヒドロキシメチル)メチル‐3‐アミノプロパンスルホン酸(TAPS)、あるいは6〜9のpKa値を有する任意のその他の緩衝液、が挙げられる。すべての実験において、通常撹拌速度を用いた(500〜1000 rpm)。5〜10%(v/v)酵素含量が、ほぼ20%という効率で酵素反応を効率的に触媒し得る、ということが判明した。酵素および緩衝液の予備混合と、その後の基質の付加、および激しい撹拌は、最小濃度で反応を実施するために有益であることが判明した。酵素負荷のためのそれらの最適化条件を用いて、0.2〜2 Mの基質負荷を試験し、1〜2 M濃度が24時間以内にほぼ50%転化をもたらすことが判明した。市販されていない他の形態の酵素も用い得る。それらの例としては、固体支持体(例えばセラミック、セライト、オイペルギット、アクリルビーズ等)上に固定されたもの、架橋酵素結晶(CLEC)、または架橋酵素集合体(CLEA)、硫酸アンモニウムペレット、あるいは活性およびエナンチオ選択性が保存されるかまたは濃化され得る任意のその他の形態が挙げられる。
ラセミ1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エチルアセテート(2)のブタ肝臓エステラーゼ分割を用いた化合物R‐1およびS‐2の大規模製造を、スキーム4に従って実施した。
Figure 2008510791
pH電極、頭上撹拌器および塩基付加ラインを装備した5 L反応器に、PLE‐AS溶液(0.125 L)および2.17 Lのリン酸カリウム緩衝溶液を付加した。718 Stat Titrino-MetrohmpH滴定器(Brinkman Instruments, Inc)を用いて、反応を実施した。2.17 Lの水、15.6 mLの1 MK2HPO4溶液および6.2mLのKH2PO4を混合することにより、リン酸カリウム緩衝溶液を調製した。
次に、ラセミ1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エチルアセテート(2)(250 g, 1 mol)を付加した。次に懸濁液を室温で22時間撹拌した。2 NNaOHを付加することにより、溶液のpHを7.0に保持した。RP‐HPLCにより、転化および生成物のee%の両方を見て、反応を追跡検査し、そして51〜52%の出発物質が消費された(〜240 mLの塩基を付加)後、反応を停止させた。
反応完了後、メチル‐tert‐ブチルエーテル(MTBE)(900 mL)を付加し、混合物を5分間撹拌した。その結果生じた乳濁液をセライト濾過パッドに通し、次に分離漏斗/抽出器に移した。この段階は、脱イオン水を用いてセライトをスラリー化し、そして次にセライトパッド製のブフナー漏斗中に注ぎ入れることを包含する。水濾液を廃棄した後、酵素乳濁液を通した。層を分離させた後、水性層を各々900 mLのMTBEで2回以上抽出した。併合MTBE層をNa2SO4で乾燥し、真空濃縮して、242 gの粗製アルコールおよびアセテート混合物を得た。
4)酵素的加水分解、エステル化および化学的加水分解(反転を伴う)の組合せのための手順を開発することにより、酵素分割方法の収率を最大にする。
酵素的速度論的分割が一旦開発されれば、「R‐1」アルコールの「S‐2」アセテートへの化学的転化を探究した。スキーム5に従って、当該プロセスを実施した。
Figure 2008510791
pH電極、頭上撹拌器および塩基付加ライン(1 MNaOH)を装備した50 mL被覆フラスコに、1.2 mLの100 mMリン酸カリウム緩衝液pH7.0および0.13 mLのPLE AS懸濁液を付加した。次に化合物2(0.13 g, 0.5 mmol, 1.00当量)を滴下して、その結果生じた混合物を室温で20時間撹拌し、1 MNaOHを用いて7.0の反応定数のpHを保持した。RP‐HPLCにより反応物の転化およびeeの両方をモニタリングし、50%出発物質が消費された後(これらの条件下で約17時間)、停止した。次に混合物を10 mLの酢酸エチルで3回抽出して、エステルおよびアルコールの両方をR‐1およびS‐2の混合物として回収した。
塩化メタンスルホニル(0.06 mL, 0.6 mmol)を、窒素雰囲気下で4 mLのピリジン中のR‐1およびS‐2の混合物(0.48 mmol)の溶液に付加した。反応混合物を室温で3時間撹拌した後、蒸発させて、油を得た。水(20 mL)を混合物に付加し、次にEtOAc(20 mL×2)を付加して、水性溶液を抽出した。有機層を併合し、乾燥し、濾過し、蒸発させて、R‐3およびS‐2の混合物を得た。この混合物を、さらに精製せずに次の反応ステップに用いた。
Figure 2008510791
酢酸カリウム(0.027 g, 0.26 mmol)を、窒素雰囲気下で4 mLのDMF中のR‐3およびS‐2(0.48 mmol)の混合物に付加した。反応混合物を、12時間100℃に加熱した。水(20 mL)を反応混合物に付加し、EtOAc(20 mL×2)を付加して、水性溶液を抽出した。併合有機層を乾燥し、濾過し、蒸発させて、S‐2の油(72 mg, 2段階での収率61%)を得た。キラリティーee:97.6%。
Figure 2008510791
ナトリウムメトキシド(19 mmol; メタノール中0.5 M)を、0℃で窒素雰囲気下で化合物S‐2(4.64 g, 18.8 mmol)に徐々に付加した。その結果生じた混合物を、室温で4時間撹拌した。溶媒を蒸発させて、H2O(100 mL)を付加した。冷却反応混合物を酢酸ナトリウム‐酢酸緩衝液でpH7に中和した。酢酸エチル(100 mL×2)を付加して、水性溶液を抽出した。併合有機層をNa2SO4上で乾燥し、濾過し、蒸発して、S‐1を白色固体として得た(4.36 g, 収率94.9 %);SFC‐MS:97%ee。
Figure 2008510791
実施例2
1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノンのエナンチオ選択的生体内還元
全細胞触媒反応ならびに市販酵素を用いて、一般プロセス開発に取り組んだ。当該手順は、以下の3つの主なステップを実施することを包含した:
1)主に酵母および真菌株を含有する内部全細胞(または単離酵素)コレクション(市販アルコールデヒドロゲナーゼおよびケトンレダクターゼ)をスクリーニングする;
2)pH、温度、ならびに酵素および基質の量の反応最適化を実施する;
3)生体触媒のリサイクルのための手順を開発する。
全細胞スクリーニング
1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノンのエナンチオ選択的還元を実行し得る菌株に関するスクリーニングを、以下のように実行した。微生物菌株を、96ウエルプレート中で凍結ストックから増殖させた(5 μL/ウエル)。200 μLの滅菌YM培地(Difco培地271120)を、各ウエルに接種した。全菌株を28℃で、回転振盪器上で250 rpmで増殖させた。2日後、エタノール中の10%ストック溶液から基質を付加して、各ウエル中で1 mg/mLに到達させた。次にプレートを同一速度および温度で振盪し、反応物を2〜7日後に分析した。非キラルカラムを用いてHPLCにより、反応物を分析した。
表3に示した188の異なる微生物菌株を96ウエルプレート中に分布させて、上記のように1 mg/mL以下の基質濃度で試験した。ロドトルラ属、ニューロスポラ、ロドスポリビウム、アエロバシジウムおよびカンジダ種に属する30の異なる菌株は、所望の活性を示すことが判明した。菌株はすべて、S選択性を表示した。次にそれらの菌株を再スクリーニングして、ロドトルラ種に属する酵母UC2387を、大規模でのS‐1の製造のために選択した。
Figure 2008510791
Figure 2008510791
Figure 2008510791
Figure 2008510791
ロドトルラ種菌株Y2‐UC2387を用いた1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノンの還元による(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノール(S‐1)の製造のための大規模手順
ロドトルラ種菌株Y2‐UC2387を用いた1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノンの(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノール(S‐1)への生体内還元を、以下のようにスキーム6に従って実施した。
Figure 2008510791
二段階発酵手順を設定したが、この場合、前培養(第一段階)を、振盪フラスコ中で2日間、新鮮な接種物(寒天プレートから摘み取ったコロニー)から増殖させた。新鮮な培地(1/50〜1/100希釈液)に前培養を付加することにより第二段階培養を開始し、その結果生じた培養を1日間増殖させた後、基質を10%エタノール溶液から付加した。YM培地(Difco培地271120)を、液体培養ならびに寒天ベースのプレートの両方のために用いた。2 g(9.6 mmol)の1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノンの還元のために、1 Lの調製物を必要とした。第一段階培養は10 mLのYMを含有し、そして全培養を、第二段階培養(1 L)に接種するために用いた。3日間増殖後、基質を正味で付加し、反応物を7日間撹拌した。1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノンの、アルコールS‐1の所望の異性体へのおよびS‐1のeeへの転化の両方を、RP‐HPLCによりモニタリングした。酵母細胞が5,000 rpmでの遠心分離により除去されて、57%転化が到達された後に、反応を停止した。残留出発物質および所望の生成物を、抽出(0.5容積の酢酸エチルで3回)により回収した。
最大基質負荷および酵母細胞のリサイクルに関する試験
1〜20 g/Lの範囲の基質濃度を試験し、0.1 g/微生物1 g/日の生成物形成に対応する最良の空間‐時間収率(〜0.5 g/L/d)を可能にするため、2.5 g/Lを選択した。単離産物の収率は、50〜100%の範囲である。<2.5 g/Lという水中の前駆体の貧溶解度は、より多くの基質負荷の使用を妨げる。有機化合物を吸着する(D’Arrigo, et al, Tetrahedron: Asymmetry, 1997, vol. 8, pp. 2375-2379による論文による)ことが既知である非イオン性XAD樹脂(Rohm and Hassにより製造)は、基質または生成物の閉じ込めのために用い得る(主に、基質の緩徐放出を提供するため、ならびに細胞に対する基質の毒性または酵素抑制を回避するため)。この技法は、20 g/Lまたはそれ以上の基質負荷の使用を可能にする。
Rotthaus, et al, Tetrahedron, 2002, vol. 58, pp. 7291-93による手順に従ったアルギン酸カルシウム中に固定された細胞は、触媒のリサイクルおよびより良好な使用のための実際的溶液であることを立証した。閉じ込めた酵母細胞は機械的ストレスに対してより耐性であり、そして同時に、生成物の回収における有意の改良が観察された。全細胞を用いて観察されたものと類似の基質負荷も観察された。
市販酵素のスクリーニング
1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノンのエナンチオ選択的還元を実行し得る酵素に関するスクリーニングを、以下のように実行した。27の異なるケトンレダクターゼ(Biocatalytics, Inc.からKRED-M27キットとして購入)、ならびにSigma-Aldrichから入手可能な4つのアルコールデヒドロゲナーゼ(ウマ肝臓アルコールデヒドロゲナーゼ(HLADH)、酵母アルコールデヒドロゲナーゼ、Thermoanaerobium brokiiアルコールデヒドロゲナーゼおよびLactobacillus kefirアルコールデヒドロゲナーゼ)を試験した。1 mg/mLの基質負荷で、そしてNADPHを還元剤として用いて、Kred酵素反応を実施した。NADHおよびNADPHの両方を用いて、アルコールデヒドロゲナーゼを試験した。ウマ肝臓アルコールデヒドロゲナーゼ(HLADH)のみが、1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノンの選択的還元を触媒して、スキーム7に従って(S)‐1を生じた。
Figure 2008510791
HLADHは、Prelog則(Prelog, V, Pure App. Chem., 1964, vol. 9, 119)に従って、多数の基質の還元に関して従来報告されている(Nakamura, et al., Tetrahedron asymmetry, 2003, vol. 14, pp. 2659-2681に従って、それはE3型ADHとして作用する)。
表4は、評価した基質対酵素(S:E)比を含む。
Figure 2008510791
化合物S‐1
(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノール
Figure 2008510791
フラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン中の15→20%EtOAcで溶離)により出発物質ケトンから化合物S‐1を精製して、化合物S‐1を無色油(229 mg; 1.1 mmol)として得た;
Figure 2008510791
実施例3
ヒト肝細胞増殖因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬の合成における(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールの使用
スキーム8ならびに下記の合成手順に従って、ヒト肝細胞増殖因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬のキラル合成における中間体として、(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールを用いた。
スキーム8
Figure 2008510791
化合物3
3‐[(1R)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エトキシ]‐2‐ニトロピリジン
Figure 2008510791
3‐ヒドロキシ‐2‐ニトロピリジン(175 mg, 1.21 mmol)、トリフェニルホスフィン(440 mg, 1.65 mmol)を、窒素雰囲気下でTHF(10 mL)中のS‐1(229.8 mg, 1.1 mmol)の撹拌溶液に順次付加した。反応混合物を室温に1時間保持し、次にジイソプロピルアゾ‐ジカルボキシレート(0.34 mL, 1.65 mmol)を0℃で付加した。混合物をさらに12時間撹拌した。反応混合物を真空下で蒸発させて、油を得た。残渣をフラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン中の20→25%EtOAcで溶離)により精製して、化合物3を白色固体として得た(321.5 mg; 0.97 mmol; 収率88.3%);
Figure 2008510791
化合物4
3‐[(1R)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エトキシ]ピリジン‐2‐アミン
Figure 2008510791
鉄(365 mg)を、0℃でEtOH(2 mL)および2 MHCl(0.2 mL)の混合物中の化合物3(321 mg, 0.97 mmol)の撹拌溶液に付加した。その結果生じた溶液を、2時間85℃に加熱した。セライト(0.5 g)を、冷却反応混合物に付加した。この混合物をセライトの床上で濾過し、蒸発させて、化合物4を暗色油として得た。MS(APCI)(M+H)+301。化合物4を、さらに精製せずに次のステップ反応に用いた。
化合物5
3‐[(1R)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エトキシ]‐5‐ヨード‐ピリジン‐2‐アミン
Figure 2008510791
過ヨウ素酸(60 mg, 0.24 mmol)、ヨウ素(130 mg, 0.5 mmol)および硫酸(0.03 mL)を、酢酸(3 mL)およびH2O(0.5 mL)の混合物中の化合物4(0.97 mmol)の撹拌溶液に順次付加した。その結果生じた溶液を5時間80℃に加熱した。冷却反応混合物をNa225(80 mg)でクエンチし、飽和Na2CO3(2×100 mL)でpH7に塩基性にした。CH2Cl2(2×50 mL)を付加して、水溶液を抽出した。併合有機層をNa2SO4上で乾燥し、次に濾過して、真空下で濃縮した。残渣をフラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン中の35→40%EtOAcで溶離)により精製して、化合物5を黄色油として得た(254 mg; 0.6 mmol; 収率61.6%);
Figure 2008510791
化合物6
tert‐ブチル4‐[4‐(4,4,5,5‐テトラメチル‐1,3,2‐ジオキサボロラン‐2‐イル)ベンゾイル]ピペラジン‐1‐カルボキシレート
Figure 2008510791
1,1’‐カルボニル‐ジイミダゾール(360 mg, 2.2 mmol)を、不活性大気下で、CH2Cl2(50 mL)中の4‐(4,4,5,5‐テトラメチル‐1,3,2‐ジオキサボロラン‐2‐イル)安息香酸(515 mg, 2 mmol)の溶液に付加した。反応混合物を室温で30分間撹拌し、次にtert‐ブチル‐1‐ピペラジン‐カルボキシレート(390 mg, 2 mmol)を付加した。その結果生じた懸濁液を、不活性大気下で12時間撹拌した。混合物をH2O(50 mL)中に注ぎ入れて撹拌し、CH2Cl2(2×50 mL)を付加して水溶液を抽出した。併合有機層を乾燥し、濾過し、濃縮して、無色油残渣を得た。残渣をフラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン中の20→25%EtOAcで溶離)により精製して、化合物6を白色固体として得た(461 mg; 1.1 mmol; 収率55.4%);
Figure 2008510791
化合物7
tert‐ブチル4‐(4‐{6‐アミノ‐5‐[(1R)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エトキシ]‐ピリジン‐3‐イル}ベンゾイル)ピペラジン‐1‐カルボキシレート
Figure 2008510791
化合物6(300 mg, 0.72 mmol)を、DME(エチレングリコールジメチルエーテル)7 mL中の化合物5(254 mg, 0.6 mmol)の溶液に付加した。混合物を窒素で数回パージして、次にジクロロビス(トリフェニルホスフィノ)パラジウム(II)(50 mg, 0.06 mmol)を付加した。H2O 1.5 mL中の炭酸ナトリウム(200 mg, 1.8 mmol)を反応混合物に付加し、その結果生じた溶液を、12時間85℃に加熱した。水(50 mL)を反応混合物に付加して、反応をクエンチした。次にEtOAc(2×50 mL)を付加して、水溶液を抽出した。併合EtOAc層を乾燥し、濾過し、蒸発させて、黄褐色油残渣を得た。残渣を、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン中75→80%EtOAcで溶離)により精製して、化合物7を白色固体として得た(255.5 mg; 0.43 mmol; 収率72.9%);
Figure 2008510791
化合物8
3‐[(1R)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エトキシ]‐5‐[4‐(ピペラジン‐1‐イルカルボニル)フェニル]‐ピリジン‐2‐アミン
Figure 2008510791
塩酸(1.3 mL, 4.8 mmol)を、エタノール(10 mL)中の化合物7の溶液に付加した。反応混合物を室温で12時間撹拌し、次に真空蒸発指せて、油を得た。残渣をフラッシュクロマトグラフィー(EtOAc中25→40%CH3OHで溶離)により精製して、化合物8を白色固体として得た(180.4 mg; 0.37 mmol; 収率85.2%);
Figure 2008510791
2423Cl2FN42・2HCl・1.25H2Oに関する分析:計算値;C:49.29、H:4.74、N:9.58。実測値;C:49.53、H:4.82、N:9.29。
特定の且つ好ましい実施形態に言及することにより本発明を例証してきたが、変更および修正は本発明のルーチンの実験および実施によりなされ得る、と当業者は認識する。したがって本発明は上記の記述に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲およびそれらの等価物により限定されるよう意図される。
本明細書中に引用された特許および特許出願ならびに非特許出版物の全開示内容は、参照により本明細書中で援用される。

Claims (15)

  1. (1R)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールを少なくとも95%含有しない(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノール。
  2. 式(I):
    Figure 2008510791
    (式中、Rは、水素、C1〜C20‐アルキル、C3〜C8‐シクロアルキル、C6〜C14‐アリール、C7〜C15‐アリールアルキル、C1〜C20‐アルコキシ、C1〜C20‐アルキルアミノ(ここで、前記炭化水素ラジカルは任意にヒドロキシル、ホルミル、オキシ、C1〜C6‐アルコキシ、カルボキシ、メルカプト、スルホ、アミノ、C1〜C6‐アルキルアミノ、あるいはニトロまたはハロゲンで一置換されるかまたは多置換され得る)である)
    のエナンチオマー1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエステルの分離方法であって、以下の:
    式(I)の1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエステルを水性溶液、有機溶媒または有機および水性溶媒の混合物中の生体触媒と接触させ、ここで、1つのエナンチオマーのみが選択的に加水分解されて、1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールの光学的活性異性体および1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエステルの非反応性光学活性異性体を生じる、そして
    1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールの光学活性異性体を非反応性光学活性1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエステルから分離する
    ステップを含む方法。
  3. (1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールの製造方法であって、以下の:
    次式:
    Figure 2008510791
    (式中、Rは、水素、C1〜C20‐アルキル、C3〜C8‐シクロアルキル、C6〜C14‐アリール、C7〜C15‐アリールアルキル、C1〜C20‐アルコキシ、C1〜C20‐アルキルアミノ(ここで、前記炭化水素ラジカルは任意にヒドロキシル、ホルミル、オキシ、C1〜C6‐アルコキシ、カルボキシ、メルカプト、スルホ、アミノ、C1〜C6‐アルキルアミノあるいはニトロまたはハロゲンで一置換されるかまたは多置換され得る)である)
    のエナンチオマー1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエステルの混合物を、水性溶液、有機溶媒または有機および水性溶媒の混合物中の生体触媒と接触させ(この場合、(R)‐エナンチオマーのみが選択的に加水分解されて、(1R)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールおよび(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエステルを生じる);
    (1R)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールおよび(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエステルを(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールに転化し;そして
    (1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールを回収する
    ステップを含む方法。
  4. 転化ステップが、以下の:
    a)(1R)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールおよび(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエステルの混合物中の(1R)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールを非プロトン性溶媒中の有機スルホニルハロゲン化物と接触させて、(1R)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールの有機スルホン酸エステルおよび(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエステルの混合物を生成し;
    b)さらに(1R)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールの有機スルホン酸エステルおよび(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエステルの混合物中の(1R)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールの有機スルホン酸エステルを非プロトン性溶媒中の脂肪族カルボン酸のアルカリ金属塩と反応させて、(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールの脂肪族カルボン酸エステルおよび(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエステルの混合物を生成し;そして
    c)(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールの脂肪族カルボン酸エステルおよび(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエステルの混合物を(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールに変換する
    ステップを含む、請求項3記載の方法。
  5. 変換ステップc)が、以下の:
    塩基性基質の存在下でアルコール性または水性溶媒中の(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールの脂肪族カルボン酸エステルおよび(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエステルの混合物を加溶媒分解する
    ステップを含む、請求項4記載の方法。
  6. 変換ステップc)において、(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールの脂肪族カルボン酸エステルおよび(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエステルの混合物がナトリウムメトキシドの存在下でメタノール中に加溶媒分解されて(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールを生成する、請求項5記載の方法。
  7. Rがメチルであり;
    反応ステップa)において、有機スルホニルハロゲン化物が塩化メタンスルホニルであり、非プロトン性溶媒がピリジンであり;
    反応ステップb)において、脂肪族カルボン酸のアルカリ金属塩が酢酸カリウムであり、非プロトン性溶媒がジメチルホルムアミドである、
    請求項6記載の方法。
  8. 生体触媒がAmanoD(リゾプス・デレマーR. delemarリパーゼ)、AmanoAY(カンジダ・ルゴーサC. rugosaリパーゼ)、AmanoF(リゾプス・オリゼエR. oryzaeリパーゼ)およびブタ肝臓エステラーゼからなる群から選択される酵素である、請求項3記載の方法。
  9. エナンチオマー1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエステルの混合物の100重量部を基礎にして0.1〜100重量部の量で酵素が用いられる、請求項8記載の方法。
  10. エナンチオマー1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールエステルの混合物と生体触媒との接触ステップがpHを4〜12に保持しながら0〜60℃で水溶液中で実行される、請求項3記載の方法。
  11. 1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールの光学活性異性体の製造方法であって、水溶液、有機溶媒または有機および水性溶媒の混合物中でエナンチオ選択的方式で生体触媒により1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノンを還元して、1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールの前記光学活性異性体を得るステップを包含する方法。
  12. 1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールの前記光学活性異性体を回収するステップをさらに含む、請求項11記載の方法。
  13. 1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールの前記光学活性異性体が(1S)‐1‐(2,6‐ジクロロ‐3‐フルオロフェニル)エタノールである、請求項11または12に記載の方法。
  14. 生体触媒が酵素である、請求項11〜13のいずれか一項に記載の方法。
  15. 酵素がウマ肝臓アルコールデヒドロゲナーゼである、請求項11〜14のいずれか一項に記載の方法。
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