JP2008502607A - 痴呆の予防および治療におけるL−n−ブチルフタリドの適用 - Google Patents
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Abstract
【化1】
に示されるL−n−ブチルフタリドの適用について開示する。
Description
本発明は、痴呆の治療のためのL−n−ブチルフタリドの使用およびL−n−ブチルフタリドを含む組成物に関する。
アルツハイマー病(AD)として知られている老人性の痴呆は、臨床的および病理的な特徴を伴う、進行性の神経障害および神経変性障害である。痴呆の主な症状は、例えば、記憶(特に即時的な記憶)の喪失、認識の低下、思考の遅延、触覚認知における機能障害などである。また、痴呆の病理的な症状は、他のタンパク質と凝集したアミロイドβ(Aβ)の細胞外における蓄積、神経細胞および非神経細胞における老人斑の形成、ならびに細胞内における神経原線維濃縮体(NFT)である。中国におけるADの罹病率は、0.2〜5.98%の範囲であり、加齢とともにその罹病率が上昇する。ADは主に60歳以上の人において発症する。中国において、現在、360万人以上の人々がADにかかっていると推定される。北京における痴呆に関する調査の結果、血管性痴呆(VD)の罹病率が、ADの罹病率よりも高いことが明らかにされている(Mingyuan Zhang et al.,the mobidilty of dementia and Alzheimer’s disease.Chinese Journal of Psychiatry1998;31(4):195−196を参照のこと)。中国は高齢化社会化が進みつつあるので、いずれ痴呆患者の数が増大する。さらに、脳血管疾患の患者は高齢者に多い。卒中を起こした後の痴呆の発生率は、およそ9〜30.8%と推定されている。脳への血液供給の慢性的な欠乏が、VDを引き起こすもう1つの重要な原因である。要約すれば、痴呆は患者にとって有害であり、かつ家族および社会に非常に大きな負荷を負わせる。よって、ADおよびVDの進行を遅延および制御するための効果的な医薬を研究することは、非常に重要である。
従来技術における不利な点を解決するために、本発明は、抗痴呆薬として式(I):
胃腸管系または非経口系であってもよい。
L−NBP:L−n−ブチルフタリド
2−VO モデル:両側性の総頚動脈の持続的な結さく
図1は、水迷路実験の結果を示す図であり、A列が5日目においてラットが探索において通過した跡を示す図であり、B列が5日目の台の探索試験でラットが探索において通過した跡を示す図である。
〔実施例1:老人性痴呆の1つである、血管性痴呆に対するL−NBPの治療効果〕
(1)材料と方法
(1−1)試薬および薬品
L−NBP、D−NBPおよびDL−NBPを、98%以上の光学的および化学的な純度を有するように、工場内で合成した。L−NBP、D−NBPおよびDL−NBPの光学旋回は、それぞれ−66.49°、+66.88°および0°であった。これらは、全て植物油で調製した。
モリスの水迷路自動モニターおよびステップスルー装置は、中国医科学学院薬物研究所の機械および電子研究室によって作製された。
10週齢で体重約280グラムの雄のウィンスターラットを用いた、5匹のラットを、室温を23℃に維持した1つのケージで飼い、食餌および水は自由に摂取させた。ラットをペントバルビタールナトリウム(40mg/kg)で麻酔し、麻酔したラットの両側性の総頚動脈を露出させ、総頚動脈および迷走神経の包膜を注意深く分離した。低灌流モデル群を作製するために、両側性の総頚動脈を、5−0絹糸を用いて結さくした。偽手術群を作製するために、両側性の総頚動脈の結さく以外は、同様の操作を行った。手術後の傷を滅菌した結晶性スルファニルアミドの粉末で処理した後、皮膚を縫合した。手術後の1ヶ月間で水迷路試験およびステップスルー試験を行った。
以下の7つの群:(1)両側性の総頚動脈の結さく以外は低灌流群と同様の操作を行った、偽手術群;(2)植物油だけを経口的に投与した、溶媒対照群;(3)DL−NBP10mg/kg群;(4)DL−NBP30mg/kg群;(5)L−NBP10mg/kg群;(6)L−NBP30mg/kg群;および(7)D−NBP30mg/kg群のそれぞれにおいて、医薬または溶媒は手術後10日目から与えた。生化学分析または病理学的試験のために36日目に動物を殺した。全ての行動実験において、各実験の40分前に医薬を投与した。
モリスの水迷路は、主に、金属製の筒状の貯水槽(高さ40cm、直径120cm)、表示、観察および記録を行う自動装置、ならびに安全な島(直径10cmの台)から構成されている。あらかじめ、台の15mm上が水面になるように上記貯水槽に浄水を入れ、貯水槽内を不透明にするために1000gの粉ミルクを加えた。この結果、ラットは、聴覚的、視覚的または嗅覚的に台に辿り着くことができなくなり、空間的な位置の把握に対する動物の敏感さを判定することができた。水温は23±1℃に保ち、貯水槽を4つの四分円弧(東、南、西および北)に分割した。なお、台は、四分円弧の南西の中央に配置した。各ラットが泳ぐ活動度を、解析のためにコンピューターと直接に接続されたテレビ受像機を介して観察した。水迷路実験は5日連続で行った。各ラットには、1日2回、台の探索を行わせた。ラットは、貯水槽の北東または北西から探索を開始させた。探索の開始時には、頭が貯水槽の壁面に向くようにラットを水の中に入れた。2回の訓練の間には、10分間の休憩を挟んだ。台を見つけるまでに要した時間(潜伏時間)を記録し、2回の実験結果の平均値を算出した。ラットが60秒以内に台を見つけることができなかったときは、そのラットの潜伏時間は60秒として表した。ラットが60秒以内に台を見つけたか否かに関わらず、ラットのそれぞれを台の上に10秒間、置いた。最初の実験の前に、ラットのそれぞれを、適応させるために10秒間台の上に置いた。訓練の回数を重ねるにつれて、各群における安全な島を見つけるまでの潜伏時間が減少した。最後の訓練の後、探索実験を行った。台を取り除き、台を探させるためにラットを60秒間、自由に泳がせた。ラットが四分円弧のそれぞれにいた時間を記録した。以前に台が置かれていた四分円弧にラットが留まっている時間が長いことが示され、これは、ラットが目的の空間の記憶を確立していることを示している。
脳を摘出するためにラットを断頭し、皮質組織および海馬組織を氷槽中で分離した後、その重さを計った。その直後に、後で使用するために液体窒素に保存した。試料に、予冷したpH7.0のリン酸化カリウム緩衝液(0.5mol/lのEDTAおよび7%のグリセロールを含む)0.05mol/lを加え、10%の組織粉末懸濁液中でホモジナイズした。タンパク質の濃度を、ラウリー比色試験によって定量的に測定した。
0.5mol/lのリン酸化ナトリウム緩衝液、0.0062mol/lのアセチルCoA、1.0mol/lの塩化コリン、76μmol/lのネオスチグミンメチルサルフェイト、3mol/lのNaCl、0.011mol/lのEDTAおよび0.5mol/lのクリアチニン塩酸塩を、それぞれ40μl加え、最後に各チューブの総量が0.8mlになるまで蒸留水を加え、これを反応液とした。37℃で5分間保温した後、200μlの組織粉末懸濁液中を、複数の上記チューブのそれぞれに加えた。複数の上記チューブのそれぞれを水槽で2分間ボイルした後、該チューブのそれぞれに2.5mmol/lの砒酸塩0.8mlを加えた。上記混合物を、室温で3分間15000×gで遠心し、遠心後の上清2.0mlを、3mmol/lの4−PDS40μlに加えた。反応液を25℃で15分間保温した後、吸光度を測定した(λ=324nm)。測定した吸光度に従ってChAT活性を計算し、ChAT活性をCoA・SH/mg タンパク質/hrで表わした。
各群から、4〜6匹のラットを無作為に選択した。行動実験の後、ラットをペントバルビタール(100mg/kg ip)で麻酔した。動物の皮膚と胸郭を徐々に切開し、心臓を表面に露出させた。心臓の左先端を切り開き、灌流用の針を大動脈に沿って挿入した。灌流用の針を止血鉗子で止めた後、生理食塩水を注入した。右の心耳の下方を切開し、生理食塩水(200〜300ml)を15〜20分間注入した。廃液が透明になった後、4%パラフォルムアルデヒドのPBS溶液(150〜200ml)を、生理食塩水の代わりに、もう15〜20分間注入した。4%パラフォルムアルデヒドのPBS溶液の注入は、動物が硬直し、かつ肝臓が白くなるまで行われた。その後、動物を断頭することによって、その脳を得た。終脳前部および大脳後部を切除した後、4%のパラフォルムアルデヒドで48時間または20%の糖−パラフォルムアルデヒド溶液で48時間固定した(凍結切片)。
全ての結果を平均±標準偏差で表した。水迷路実験における各群の間の潜伏時間の比較を、分散の2因子解析を用いて行った。この後、複数の群の間における差を、LSDまたはターキー検定を用いて判定した。水迷路における台の探索実験を、分散の1因子解析を用いて解析した。ステップスルー実験を、クラスカル−ワリス検定およびマンホイットニーU検定を用いて解析した。生化学分析を分散の1因子解析を用いて解析した。その差がp<0.05の場合、有為であると判断した。
(2−1)水迷路実験におけるラットの学習異および記憶に対するL−NBPの効果
水迷路実験において、多くの場合、低灌流状態のラットの定位記憶を評価するために学習および居残り試験を行った。訓練の初日において、全ての群の間において有為な差は認められなかった。訓練開始から5日後、偽手術群において、探索方法が周辺型および無作為から目的型および直線型に変化し、かつ潜伏時間が有為に減少した(12.6±3.34秒)。しかし、溶媒対照群において、探索方法は明らかな変化が認められず、依然として周辺型および無作為型であり、かつ潜伏時間もほとんど減少しなかった(47.6±5.88秒)。偽手術群と溶媒対照群との間で有為な差が認められた(p<0.01)。L−NBP10mg/kg群において、探索方法が周辺型および無作為から目的型および直線型に変化し、かつ潜伏時間が明らかに減少した(26.85.6±5.98秒)。L−NBP10mg/kg群と溶媒対照群との比較では有為な差が認められたが(p<0.001、分散の2因子解析)、L−NBP10mg/kg群と偽手術群との比較では有為な差が認められなかった。DL−NBP10mg/kg、DL−NBP30mg/kgおよびD−NBP30mg/kgのような他の薬剤を投与した群においては、ほとんど改善の効果が見られなかった(図1A、図1Bおよび図2を参照のこと)。5日間の学習および訓練の期間の後、台の探索実験を行った。ラットが安全な島の定位記憶を確立しているか否かを判断するために、安全な島が取り除かれた。溶媒対照群に属するラットを除いて、全てのラットの標的の四分円弧における居残り時間は、全体の25%を越えていた。つまり、溶媒対照群に属するラットを除いた全てのラットが、安全な島の定位記憶を確立していたということが示された。偽手術群の居残り時間(17.73±1.19秒)は、溶媒対照群の居残り時間(14.40±0.73秒)よりも明らかに長く、かつ分散の1因子解析によって両者の間には有為な差が認められた(p<0.05、図3参照のこと)。標的の四分円弧におけるL−NBP10mg/kg群の居残り時間は、溶媒対照群の居残り時間よりも有為に長かった(17.62±1.27秒、p<0.05)。一方、DL−NBPを投与した2つの群(10mg/kg群および30mg/kg群)において、何の効果も認められなかった。全ての群の間で、泳ぐ速度に有為な差がなかったので、上述のような居残り時間の延長は、動物の移動度に由来するばらつきを無視することができる。上記結果から、L−n−ブチルフタリドは、血液の供給が欠乏状態にあるラットの、障害を受けた短期記憶および空間的な位置の把握を有為に改善することができるが、ラセミ体の(DL−)ブチルフタリドおよびD−n−ブチルフタリドは、障害を受けた短期記憶および空間的な位置の把握を改善することができないことが示された。
SODは重要な抗酸化酵素の1つである。正常な対照群において、皮質組織におけるSOD活性は100.07±3.64(NU/mg タンパク質)であり、海馬組織におけるSOD活性は、57.90±7.41(U/mg タンパク質)であった。ラットに対して両側性の総頚動脈の結さくを施した後、海馬におけるSOD活性が、正常な対照群と比較して、有為に増加した(p<0.05)。これは、おそらく代償性反応であると考えられた。L−NBP(10mg/kg)の処理の後、SOD活性はあきらかに正常な水準近くまで戻った(p<0.05)。MDAは、生体内における脂質過酸化反応の水準を示し、かつ間接的に細胞の傷害を示す、脂質過酸化反応の指標である。この実験において、モデル群の皮質におけるMDA含有量が、19.9%増加し、正常な対照群との間で有為な差が認められた(p<0.001)。L−NBP(10mg/kg)の処置後、皮質におけるMDA含有量は、有為に20.7%減少した(p<0.001)。両側性の総頚動脈の結さくを施した後、皮質におけるChAT活性は、正常な対照群と比較して、30.4%減少し、有為な差が認められた(p<0.05)。これによって、低灌流状態がコリン作動性の神経細胞に対する損傷を誘導することができることが示唆された。これに対し、16日間、継続的にL−NBP(10mg/kg)を投与した後、皮質におけるChAT活性が、モデル群のChAT活性と比較して、37.1%改善され、有為な差が認められた(p<0.05)(表1を参照のこと)。
両側性の総頚動脈の持続的な結さくの後、モデル群において、皮質および海馬の領域における神経細胞の数が有為に減少し、細胞に皺が寄り、かつ神経細胞が強く染色された。これに対し、低灌流状態によって誘導された神経細胞の損傷を、L−NBP(10mg/kg)の処理によって有為に改善することができた。文献によると、両側性の総頚動脈の結さくが、白質を低密度化すること伴い、脳におけるグリア細胞の活性を誘導させることができるということが報告されている。通常、白質の低密度化は、そのまばらさの深刻さに従って、4つの等級:0等級、正常;1等級、不整列;等級2、明らかな空胞の形成;等級3、ミエリン鞘を伴う線維の消失、に分類される。われわれの実験において、モデル群の視索は、正常の対照群と比較して、白質の低密度化および空胞の現出が明確に認められた。L−NBP(10mg/kg)の継続的な投与が、視索の状態を有為に改善することができ、視索において空胞が有為に減少した。免疫組織化学的実験において、GFAP陽性の星状細胞が、正常な対照群の海馬、尾状核および脳梁などの領域でまれに検出されるが、両側性の総頚動脈の結さくから4週間後、GFAP陽性の星状細胞および小グリア細胞が、多数現れることを示した。L−NBP(10mg/kg)の処理後、GFAP陽性の星状細胞の数が、非常に少なくなった(図3および図4参照のこと)。
以上の結果から、10mg/kgのL−NBPが、2−VO動物における短期記憶および空間的な位置の把握の障害を、有為に改善することができ、一方、ラセミ体のブチルフタリドおよびD−ブチルフタリドのいずれもが障害を受けた記憶機能の改善に効果的ではないことを結論付けることができる。本研究において、低灌流状態によって誘導された神経細胞の変性に対する薬剤の治療効果を調べるために、2−VOの後、10日目からL−NBPの投与を開始した(この投与は35日目まで続けた)。このため、急性の低灌流状態の虚血期間における影響を無視することができる。
(1)材料と方法
(1−1)試薬および薬品
L−NBPは、工場内で合成し、植物油で調製した。Aβ(1−40)はSigmaから購入した。アルゼット脳微小浸透圧ポンプ灌流機は、DURECT,U.Sから購入した。
モリスの水迷路自動モニターおよび実験プロトコルに関しては、脳の低灌流状態によって誘導される学習および記憶の損傷の実験を参照すればよい。
10週齢で体重約280グラムの雄のウィンスターラットを用いた、1匹のラットを1つのケージで飼い、室温23℃で食餌および水は自由に摂取させた。ラットをペントバルビタールナトリウム(40mg/kg)で麻酔し、腹側臥位で脳定位固定装置に固定した。頭部の皮膚を切開し、Aβ(1−40)を灌流するためのカニューレイを右脳室に埋め込んだ。パクシオンおよびワトソンによるラットの脳の定位図によると、カニューレイの埋め込み部位は、大泉門から後方に0.3mm、右に1.1mm、深さが4.0mmに位置していた。カニューレイは、微小浸透性ポンプに接続した。上記ポンプは、ラットの背中の上に置いた。35%アセトニトリル/0.1%トリフルオロ酢酸にAβ(1−40)を溶解させ、Aβ(1−40)溶液を300pmol/日で継続的に脳室内(i.c.v.)に灌注した。一方、対照群には溶媒(35%アセトニトリル/0.1%トリフルオロ酢酸)だけを灌注した。予備実験において、上記溶媒をこの流量で灌注したところ、ラットに対して行動的および生化学的な変化が誘導されることはなかった。
ラットを、1群が10匹になるように、無作為に8つの群に分類した。4つの群:(1)35%アセトニトリル/0.1%トリフルオロ酢酸+溶媒をラットの脳室に灌注した、偽手術群;(2)Aβ(1−40)+溶媒をラットの脳室に灌注した、モデル群(3)Aβ(1−40)+L−NBP10mg/kgをラットの脳室に灌注した、L−NBP10mg/kg群;および(4)Aβ(1−40)+L−NBP30mg/kgをラットの脳室に灌注した、L−NBP30mg/kg群のそれぞれに以下の操作を行った、それぞれの薬剤または溶媒を、手術後2日目から与えた。水迷路実験を手術後9日目〜13日目に、台の探索実験を手術後13日目に、運動記憶試験を手術後14日目〜16日目に行った。手術後17日目には、生化学的解析用の脳を取り外すために動物を断頭した。全ての行動実験において、医薬は各実験の開始から40分前に投与された。
水迷路訓練実験をAβ(1−40)のi.c.v.投与開始から9日目〜13日目に行い、台の探索試験を13日目の該水迷路訓練実験終了後に行った。運動記憶試験をAβ(1−40)のi.c.v.投与開始から14日目〜16日目に行った(上のイメージ参照のこと)。上記運動記憶試験は、訓練および台の探索実験の後、動物がある程度記憶しているという事実に基づいて、台と四分円弧とを変化させた場合における動物の早い学習および空間的記憶の能力について調べた。実験の手法は、台の位置を毎日変えるという点を除いて、通常の水迷路訓練実験と同様である。上記実験は毎日5回づつ行い、毎回異なる位置にラットを水に入れ、そこから泳ぎ始めさせた。1日のうち最初の実験は例証的な実験と看做し、ラットを台まで泳ぎ着かせ、かつ台の上に10秒間とどまらせておいた。続く4回の実験において、台の位置は常に維持させておいたが、ラットを水に入れる場所は、毎回異なる四分円弧の中であった。運動記憶試験における潜伏時間は、2〜5回目の実験結果を平均することによって計算し、各ラットの運動記憶の能力は、3日間の実験値の平均によって計算した。
マロンジアルデヒド(MDA)およびグルタチオン過酸化酵素(GSH−Px)を上述の方法と同じ方法で、測定した。
全ての結果を、平均±標準偏差で表した。水迷路実験における各群の間の潜伏時間の比較を、反復して分散の2因子解析を用いて行った。各群の間における比較を、LSDまたはターキー検定を用いて行った。水迷路実験における台の探索試験、運動記憶試験および生化学的解析を、分散の1因子検定を用いて解析した。その差がp<0.05の場合、有為であると判断した。
(2−1)水迷路実験におけるラットの学習および記憶に対するL−NBPの効果
訓練の初日において、各群の間で有為な差は認められなかった。5日間の訓練の後、偽手術群に属するラットの探索方法は、周囲型および無作為型から目的型および直線型に変化し、潜伏時間が有為に減少した(13.02±2.77秒)。しかし、モデル群に属するラットの探索方法はほとんど変化せず、依然として周囲型および無作為型のままであった。さらに、その潜伏時間もあまり減少しなかった(30.18±4.81秒)。これらの群の潜伏時間の間で有為な差が認められた(p<0.01)。L−NBP処理後、水迷路実験におけるラットの潜伏時間が、非常に短くなった。L−NBP10mg/kg群およびL−NBP30mg/kg群に属するラットの探索方法が、周囲型および無作為型から目的型および直線型に変化し、その潜伏時間は、それぞれ27.28±6.42および25.88±5.51秒であった。そして、モデル群と2つの上記L−NBP投与群との比較において、有為な差が認められた(p<0.05、分散の2因子解析)。L−NBP処理後のラットが、正常の水準近くまで戻っていることが示唆された(図4を参照のこと)。運動記憶試験の1日目および2〜5日目の実験における潜伏時間を、図5Aおよび図5Bのそれぞれに示した。1回目の実験において、種々の群の潜伏時間の間で有為な差は認められなかった。しかし、続く4回の実験において、偽実験群の潜伏時間は9.15±0.91秒であり、モデル群の潜伏時間は14.05±1.88秒であった。モデル群の潜伏時間は、あきらかに延長しており、偽手術群の潜伏時間との比較において有為な差が認められた(p<0.01)。それゆえ、L−NBPは濃度依存的にラットの運動記憶を改善することができた(p<0.01)。
GSH−Pxは、重要な抗酸化酵素である。われわれの実験において、偽手術群の皮質におけるGSH−Px活性は、15.86±0.91秒(U/mg タンパク質)であり、海馬におけるGSH−Px活性は16.19±1.19秒(U/mg タンパク質)であった。Aβ(1−40)の灌注後、皮質および海馬におけるGSH−Px活性のそれぞれが、偽手術群のGSH−Px活性と比較して29.5%および42.4%減少した。これら2つの群のGSH−Px活性の間で有為な差が認められた(p<0.01およびp<0.001)。L−NBP処理後、30mg/kgL−NBP群のGSH−Px活性は、モデル群のGSH−Px活性と比較して、有為な差が認められた(p<0.01)。また、10mg/kgL−NBP群のGSH−Px活性は、モデル群のGSH−Px活性と比較して、向上したものの、統計的に有為な差は認めらなかった。MDAは、生体内の脂質過酸化反応の度合いを示し、かつ細胞傷害の程度を間接的に示す、脂質過酸化反応の指標である。この実験において、Aβ(1−40)の継続的な灌注後、皮質および海馬におけるMDA含有量は、それぞれ25.7%および23.6%上昇し、偽手術群のMDA含有量と比較して、有為な差が認められた(p<0.05およびp<0.01)。L−NBP処理後、10mg/kgL−NBP群において、皮質および海馬におけるMDA含有量のそれぞれが、28.4%および24.3%減少し、モデル群のMDA含有量と比較して、有為な差が認められた(p<0.05およびp<0.01)。30mg/kgL−NBP群においてGSH−Px含有量を低減させる効果は、10mg/kgL−NBP群のそれよりも弱かったが、モデル群のMDA含有量と比較して、有為な差が認められた(p<0.05)。
ラットへのAβ(1−40)の灌注によって誘導された記憶の障害は、AD治療に対する医薬の効果を調べるための十分に確立されたモデルであった。上記結果によると、L−NBPは、2−VO虚血によって誘導された血管性痴呆のモデルに対して明らかな効果を奏した。さらに、L−NBPは、ラットの側脳室内へ継続的にAβ(1−40)を灌注することによって誘導された、短期記憶および空間的な位置の把握の障害を有為に改善することができた。このことから、L−NBPが、種々の原因によって誘導された短期記憶および空間的な位置の把握の障害を有為に改善することができるということが示唆された。さらに、L−NBPは、酸化による損傷を抑制(GSH−Px活性を向上およびMDA含有量を低減)することができた。L−NBPが有する脳を保護するあきらかな効果と組み合わせて、L−NBPが有する、短期記憶および空間的な位置の把握の障害を改善する効果は、老人性痴呆を治療および予防することができるということが示唆された。
Claims (6)
- 痴呆を予防または治療するための医薬の製造における、式(I):
- 上記痴呆がアルツハイマー病である請求項1に記載のL−n−ブチルフタリドの利用。
- 上記痴呆が血管性痴呆である請求項1に記載のL−n−ブチルフタリドの利用。
- 上記L−n−ブチルフタリドの治療に有効な投与量が、0.1〜100mg/kg/日である請求項1に記載のL−n−ブチルフタリドの利用。
- 式(I):
- 上記薬学的組成物の製剤形態が、錠剤、カプセル剤、丸薬、注入剤、持効性製剤、放出制御製剤または種々の微粒子輸送形態である請求項5に記載の薬学的組成物。
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