JP2008305908A - R−Fe−B系永久磁石の製造方法 - Google Patents

R−Fe−B系永久磁石の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】磁石特性を劣化させることなく水素粉砕処理の時間・コストを短縮できるR−Fe−B系永久磁石の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のR−Fe−B系永久磁石の製造方法は、まず、水素粉砕のための処理室内でR−Fe−B系磁石合金に水素を吸蔵させ、自己発熱によって合金の温度を上昇させる水素吸蔵工程を行う。水素吸蔵工程では、合金の温度が最高温度Tmaxに到達した後、最高温度Tmaxから100℃以上低下しないように処理室内の温度を第1処理室温度T1以上に加熱する。次に、処理室内から水素を排気し、合金を加熱することによって脱水素処理を行う脱水素工程を行う。脱水素工程では、第1処理室温度T1よりも高い第2処理室温度T2で脱水素処理を行う。
【選択図】図2

Description

本発明は、R−Fe−B系永久磁石の製造方法に関する。
希土類−鉄−ほう素系焼結磁石(以下、「R−Fe−B系焼結磁石」と称する。)は、種々の永久磁石の中で最も高い磁気エネルギー積を示し、価格も比較的安いため、各種電子機器へ積極的に採用されている。ここで、Rは希土類元素、Feは鉄、Bはほう素であるが、Feの一部はCo等の遷移金属元素と置換されていても良いし、Bの一部はC(炭素)によって置換されていてもよい。R−Fe−B系焼結磁石は、希土類磁石用合金(原料合金)を粉砕して形成した合金粉末をプレス成形した後、焼結工程及び時効処理工程などの各種工程を経て作製される。
原料合金の作製方法には大きく分けて2種類ある。第1の方法は、原料合金の溶湯を鋳型に入れ、比較的ゆっくりと冷却するインゴット鋳造法である。第2の方法は、合金の溶湯を冷却ロールなどの急冷用部材に接触させて急速に冷却し、合金溶湯からインゴット合金よりも薄い凝固合金を作製するストリップキャスト法や遠心鋳造法に代表される急冷法である。
上記の各方法で作製された原料合金は、主相であるR2Fe14B結晶相と、R2Fe14B結晶相の粒界に分散して存在するRリッチ相(希土類元素Rの濃度が相対的に高い相)とを含有する結晶組織を有している。Rリッチ相は希土類元素Rの濃度が比較的に高い非磁性相であり、その厚さ(粒界の幅に相当する)は、焼結磁石原料合金において例えば10μm以下である。ストリップキャスト法などによって作製された急冷合金は、インゴット鋳造法(金型鋳造法)によって作製された合金(インゴット合金)に比較して、相対的に短時間で冷却されているため、組織が微細化され、結晶粒径が小さい。また、結晶粒が微細に分散して粒界の面積が広く、Rリッチ相は粒界内を薄く広がっているため、Rリッチ相の分散性にも優れる。
一般に、R−Fe−B系原料合金の粉末は、原料合金の粗粉砕を行う粗粉砕工程と、原料合金の微粉砕を行う微粉砕工程とによって作製される。通常、粗粉砕工程では、水素粉砕装置によって原料合金を数百μm以下のサイズに粗く粉砕することが行われる。その後、微粉砕工程では、粗粉砕された合金(粗粉砕粉)をジェットミル粉砕装置などによって平均粒径が数μm程度のサイズに細かく粉砕する。
水素粉砕工程では、原料合金に水素をいったん吸蔵させ、その後に水素を放出させる水素粉砕処理によって粗粉砕を行う。以下、従来の水素粉砕工程の一例を簡単に説明する。
まず、原料合金を水素炉内に挿入した後、水素炉内部を真空引きによって減圧する。その後、水素ガスを水素炉内に供給し、原料合金に水素を吸蔵させる(水素吸蔵工程)。所定時間経過後、水素炉内の真空引きを行いながら原料を加熱し、原料合金から水素を放出させる(脱水素工程)。原料合金に吸蔵されていた水素を外部に放出させた後、冷却して水素粉砕工程が終了する。水素粉砕終了時点では、原料合金は脆化し、約1cm以下のフレーク状に崩壊している。このような水素粉砕工程は、例えば特許文献1乃至特許文献6に記載されている。
特開昭63−83203号公報 特開昭63−83243号公報 特開昭63−90104号公報 特開昭64−48403号公報 特開平4−147908号公報 特開平5−234730号公報
しかし、上記の従来技術は、いずれも水素粉砕処理の効率が低く、水素粉砕工程に多大の時間を要しているため、工場における量産性に問題があった。水素粉砕工程に多大な時間を要する原因は、以下の点にあると考えられる。
1)水素化反応
水素を吸蔵する水素化反応は、発熱反応であるため、水素吸収に伴って処理物の温度が増加する。水素化反応は、処理物の温度が低いときに促進され、高温化すると停止する。このため、反応熱による温度上昇→水素化反応停止→温度低下に伴う水素化反応の再開・・・というサイクルが繰り返され、処理物の温度が安定するまで水素の吸収が断続的に継続することになる。
2)脱水素反応
水素を放出する脱水素反応は吸熱反応であるため、水素放出に伴って処理物の温度が低下する。このため、脱水素処理中は処理物を加熱する必要がある。また、脱水素反応が可能な条件とするため、水素吸蔵工程終了後に炉を高温に加熱する必要があり、昇温に時間を要することになる。また、脱水素処理を行う前における処理物の水素吸蔵量が多すぎると、吸蔵されていた過剰の水素を放出するために多大な時間を必要とすることになる。なお、脱水素が不充分であると、上述した過剰の水素が原料合金中に残存することになるが、このような原料合金は酸化しやすい。そのため、脱水素が不充分であると、水素粉砕後の粗粉砕粉が大気と接触したときに著しく酸化し、最終的に得られる磁石特性が劣化してしまうことになる。
従来技術は、上記の問題を解決しておらず、水素吸蔵時における反応熱が適切に処理されていないため、水素粉砕の効率が低く、結果として水素粉砕処理に要する時間が長大であった。
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、磁石特性を劣化させることなく水素粉砕処理の時間・コストを短縮できるR−Fe−B系永久磁石の製造方法を提供することにある。
本発明によるR−Fe−B系永久磁石の製造方法は、R−Fe−B系磁石合金を用意する工程と、処理室内で前記合金に水素を吸蔵させる水素吸蔵工程と、前記処理室内から水素を排気し、前記合金を加熱することによって脱水素処理を行う脱水素工程とを含むR−Fe−B系永久磁石の製造方法であって、前記水素吸蔵工程は、前記合金が水素との反応により自己発熱して前記合金の温度が最高温度Tmaxに到達した後、最高温度Tmaxから100℃を超えて低下しないように前記処理室内の温度を第1処理室温度T1に加熱する工程を含み、前記脱水素工程は、前記第1処理室温度T1よりも高い第2処理室温度T2で脱水素処理を行う。すなわち、T1≧Tmax−100℃の関係が満足される。
好ましい実施形態において、前記第1処理室温度T1を200℃以上500℃以下の範囲内に設定する。
好ましい実施形態において、前記処理室内の温度を第1処理室温度T1に加熱する工程は、前記処理室内に水素を供給する前に加熱を開始し、前記合金の温度が最高温度Tmaxに到達した後第1処理室温度T1に到達させる。
好ましい実施形態において、前記R−Fe−B系磁石合金は、ストリップキャスト法により作製した合金である。
好ましい実施形態において、前記合金の温度が最高温度Tmaxに到達したときにおける前記処理室の温度は、最高温度Tmaxよりも低い温度に設定される。
好ましい実施形態において、前記処理室内の温度を第1処理室温度T1以上に加熱する工程を行った後、前記処理室内の温度を低下させることなく、前記脱水素工程を開始する。
また、本発明によるR−Fe−B系合金粉末は、格子定数a:0.878≦a≦0.882nm、格子定数c:1.218≦c≦1.225nmの条件を満足するR2Fe14B系正方晶化合物を主相とし、RH2水素化物を含有するR−Fe−B系合金粉末であって、前記R2Fe14B系正方晶化合物は水素を含有せず、前記合金粉末中にRH3水素化物を含有しない。
好ましい実施形態において、水素含有量が0.03質量%以上、0.15質量%以下である。
本発明によれば、R−Fe−B系磁石合金の水素吸蔵による脆化を高温保持状態で行い、主として粒界のRリッチ相で水素吸蔵を行うため、合金の脆化を充分に進行させながらも、水素吸蔵工程の時間および水素吸蔵量を低減することが可能になる。
また、本発明によれば、合金の自己発熱を利用して水素吸蔵工程の高温化を図るため、水素吸蔵工程から脱水素工程への切り換えに必要な加熱時間が短縮されるとともに、水素吸蔵量の低下により、脱水素に要する時間も短縮される。このようにして、水素吸蔵工程および脱水素工程の両方の時間が短縮されるため、水素処理工程の全体を従来に比べて格段に短縮することが可能になり、工業量産性が大いに向上することになる。
本発明によるR−Fe−B系合金粉末は、実質的に水素を含有しないR214B系正方晶化合物(主相)と、安定な水素化物であるRH2水素化物とから構成されているため、化学的に安定であり、磁石の製造工程中における合金粉末の取り扱いを容易にすることができる。
また、本発明によるR−Fe−B系合金粉末は、脆いRH2水素化物がミクロに分散した組織構造を有しているため、微粉砕工程の効率を高めることができる。
図1は、Nd−Fe−B系磁石合金(以下、「原料合金」または「処理物」と称する。)に吸蔵される水素の量(濃度)と、水素化温度(処理物の実温度)との関係を模式的に示すグラフである。
原料合金に吸蔵される水素は、主相であるNd2Fe14Bと結合し、Nd2Fe14BHx(ただし、0≦x≦6)を形成するとともに、粒界におけるNdリッチ相中のNdと結合してNdH3やNdH2を形成する。図1からわかるように、水素化温度が200℃以下の場合、水素化物の中でもNd2Fe14BHxの存在が支配的であるが、水素化温度が300℃以上になると、Nd2Fe14BHxはほとんど生成されず、NdH3やNdH2が支配的になる。このため、原料合金の全体に水素を充分に吸蔵させるためには、水素吸蔵工程の開始時の合金温度を200℃以下にする必要がある。
本願発明者は、水素吸蔵工程を比較的高い温度(200℃以上)で実行すれば、水素化反応が粒界相のRリッチ相で優先的に進行し、主相であるR2Fe14B相での水素化反応が進行しにくいという事実に着目した。また、原料合金の粒界におけるNdがNdH2に変化するとき、その体積は20%程度も増加するとともに、粒界相の展延性が大きく低下するため、粒界相に水素を吸蔵させれば、主相に水素を吸蔵させることなく、原料合金の脆化・粉砕が充分に可能であることを見出した。すなわち、従来のように原料合金の全体で水素吸蔵を充分に進行させようとすると、水素化反応の熱による原料合金の温度が大きく上下する結果、水素化反応の完了に長時間を要することになるが、粒界相における水素吸蔵のみを目指す場合は、比較的短い時間で水素化処理を完了できる。また、主として粒界相に水素を吸蔵させることにより、原料合金に吸蔵される水素の総量が低減されるため、脱水素処理も短時間で完了させることが可能になる。
以下、図2および図3を参照しながら、本発明および従来例における水素粉砕工程における温度変化の相違点を説明する。
図2は、本発明における炉内設定温度および処理物温度の時間変化の一例を示すグラフである。これに対し、図3は、従来例における炉内設定温度および処理物温度の時間変化の例を示すグラフである。
図3に示すように、従来例では、水素吸蔵工程を開始すると、水素化反応によって処理物温度が上昇して最高温度(以下、「最高温度Tmax」と称する。)に到達した後、水素化反応が停止するため、処理物温度が低下する。このとき、従来例では、炉内設定温度が低く、炉が加熱されていないため、処理物温度は大きく低下することになる。脱水素工程を開始するとき、加熱によって炉温度を上昇させるため、処理物温度は上昇することになるが、水素吸蔵工程における処理物温度は、最高温度Tmaxから最低温度Tminまで下落する。従来例では、最低温度Tminと最高温度Tmaxとの差異ΔT(=Tmax−Tmin)が例えば100℃を超える大きな値を示すことになる。
一方、本発明では、図2に示すように、水素吸蔵工程終了時における炉内設定温度を従来例よりも高い値(例えば300℃)に設定し、処理物温度が最高温度Tmaxに達した後の温度下落幅(=ΔT)を小さくしている。これにより、水素化を意図的に途中で停止し、水素吸蔵を主として粒界相(Rリッチ相)で行うように制限している。図2の例では、処理物温度が充分に低い段階から、炉内設定温度を高い値に設定しているが、炉の加熱が開始された直後における実際の炉内温度は低く、処理物温度の上昇は、主として水素化反応による自己発熱を利用して促進され、処理物温度が最高温度Tmaxに達した後に、実際の炉内温度が炉内設定温度に到達する。
なお、本明細書では、水素吸蔵工程における炉内温度を「第1処理室温度T1」と称し、脱水素工程における炉内温度を「第2処理室温度T2」と称する。このように本発明では、水素化反応による処理物の発熱を利用して処理物の温度を上昇させた後、処理室の加熱により、処理物の温度低下を抑制する。従来技術であれば、水素化反応開始後、処理室の加熱は特に行わないため、やがて処理物の発熱・温度上昇に起因して水素化反応が停止すると、図3に示すように、それに引き続いて処理物の温度が低下する。処理物の温度が低下すると、水素化反応が再開するため、同様のサイクルが繰り返し行われ、長時間をかけて水素化反応が主相の内部にまで進行することになる(図3では、処理物温度の細かい上下変動は記載していない)。これに対して、本発明では、処理室の加熱によって処理物の温度低下を抑制するため、水素化反応を短時間で停止し、水素吸蔵量を低減することができる。
一般には水素吸蔵量の低下によって、合金の脆化が不充分になることが危惧されるが、前述したように、粒界のRリッチ相で水素吸蔵が進行するため、Rリッチ相の展延性が失われ、また、Rリッチ相の体積膨張が大きいため、主相にまで水素を吸蔵させなくとも、合金の粉砕は可能である。
なお、特許文献6では、水素化時の母合金の温度を300〜600℃にすることが提案されている。この場合、水素の吸蔵量を低減する効果はあるが、水素と合金とを反応させる前に合金を300℃以上に昇温する必要がある。例えば、水素化開始時の合金の温度を300℃以上にした場合、処理物の温度は水素化反応によって更に100℃を超えて400℃以上に上昇してしまう。このため、最高温度Tmaxから最低温度Tminまでの過程で徐々に水素化反応が進行し、処理の終了まで多大な時間を有することになる。
これに対し、本発明は、処理室内でR−Fe−B系磁石合金に水素を吸蔵させ、自己発熱によって前記合金の温度を上昇させる点に第1の特徴を有している。また、本発明は、自己発熱により処理物が最高温度Tmaxに達した後に炉内温度を所定温度に加熱することにより、処理物の温度低下を所定範囲内に抑える点に第2の特徴を有している。
具体的には、水素吸蔵工程において、処理物(原料合金)の温度が最高温度Tmaxに到達した後、最高温度Tmaxから100℃以上低下しない(ΔT≦100℃)ように処理室内の温度を第1処理室温度T1に加熱する。すなわち、第1処理室温度T1は、「T1≧Tmax−100℃」の関係を満足するように設定する。本発明者の実験によると、第1処理室温度T1は、200℃以上500℃以下の範囲内に設定することが好ましく、例えば300℃に設定される。
処理室内の温度を第1処理室温度T1以上に加熱する工程は、処理室内に水素を供給する前に開始することが好ましい。これは、一般に処理室の加熱に要する時間よりも処理物が最高温度Tmaxに達する時間が短いためである。また、水素の吸蔵を主として粒界相で行い、主相での吸蔵を抑制するという観点からは、水素吸蔵工程で処理物(合金)の温度が最高温度Tmaxに到達した後、120分経過する前に処理室内の水素分圧を50kPa以下に低下させ、脱水素工程を開始することが好ましい。なお、脱水素工程では、第1処理室温度T1よりも高い第2処理室温度T2で脱水素処理を行うことが好ましい。脱水素工程は、主として水素粉砕後の原料合金の酸化を防止することを目的として行なわれる。すなわち、水素吸蔵工程で生成されるRH3やR214xは、比較的不安定な水素化物であるため、RH3やR214xの水素を放出させ、RH2のみを残す。従って、脱水素工程における水素分圧50kPa以下の条件では、第2処理室温度T2は、350℃以上700℃以下であることが好ましい。T2>700℃では、RH2からも水素が放出され、Rリッチ相の展延性が回復してしまうため、次工程である微粉砕工程の能率が著しく低下してしまう。
また、水素吸蔵工程の終了後、処理室温度を低下させることなく、処理室内の雰囲気を水素から不活性ガス(ヘリウムやアルゴンなど)に置換することが主として安全性の観点から好ましい。置換後、水素分圧を50kPa以下に維持し、かつ脱水素処理を効果的に行うため、真空ポンプによる排気を行うなどして炉内を減圧することが好ましい。
本発明によれば、水素吸蔵工程の時間が短縮されるだけではなく、脱水素工程の時間も短縮され、また、消費される水素の総量も低減される。
なお、特許文献6には、水素化温度を300−600℃にすること、および脱水素処理を行わないことが開示されている。しかし、水素化温度を高めても、脱水素処理を行わない場合は、例えばRH3などの化学的に不安定な形態の水素化物が生成したままになり、以降の取扱に支障をきたすため、好ましくない。
上記の水素粉砕工程を実行した後、脆化した合金に対してジェットミルなどによる粉砕を行うことにより、原料合金の微粉末を得ることができる。こうして得た微粉末を用いてプレス工程、焼結工程などの公知の製造工程を実行することにより、最終的な焼結磁石を得ることができる。水素粉砕工程以外の各種工程は、公知の各種工程を実施することができる。
本発明は、焼結磁石だけではなく、ボンド磁石用磁粉の製造工程にも利用することができる。
本発明によるR−Fe−B系合金粉末は、R2Fe14B系正方晶化合物を主相として含有するが、この化合物は実質的に水素を固溶していない。水素固溶の有無は、格子定数の測定、キュリー温度Tcの測定、水素の放出挙動の測定などで確認できる。
本発明によるR−Fe−B系合金粉末に主相として含有されるR2Fe14B系正方晶化合物の格子定数は、a:0.878≦a≦0.882nm、c:1.218≦c≦1.225nmである。R2Fe14B系正方晶化合物の格子定数は、Rの種類、FeのCoによる一部置換などによってわずかに変化するが、工業的に有用な磁石組成では前記範囲となる。
2Fe14B系正方晶化合物の格子定数は例えばX線回折法により測定できる。例えばR2Fe14B系正方晶化合物が水素を含む場合、結晶格子は膨張し、aは0.882nmよりも大きくなり,cは1.225nmよりも大きくなる。このときX線回折ピークが低角度側にずれるため、X線回折により容易に判断される。本発明によるR−Fe−B系合金粉末のX線回折法の測定例を図10に示すが、そのような回折ピークのシフトは見られない。
図10において、2θ=28.3°に認められる回折ピークは、RH2水素化物によるものである。水素をより過剰に含有する場合は、水素化物の形態が変化するため、回折ピークが高角度側、例えば28.5°付近に現れるが、そのような回折ピークは観察されず、水素化物は実質的にRH2水素化物であることがわかる。
本発明によるR−Fe−B系合金粉末の含有水素量は、0.03質量%以上、0.15質量%以下である。含有水素量が0.03質量%以下であると、合金の脆化が不充分なために粉砕が不充分になり、また次工程の微粉砕工程において、著しく能率が低下する。一方、0.15質量%以上となると、水素が過剰に進入した状態になり、例えば水素化物がRH3等の形態になったり、R214B系正方晶化合物(Tは主としてFeを含む金属元素)中にも水素が含有することとなり、合金粉末の化学的安定性が著しく低下してしまい、工程中の酸素等の不純物の取り込み量が増加したり、工程中に発火するような事故の危険が高まる。さらに好ましい含有水素量は0.06質量%以上、0.10質量%以下である。
なお、合金粉末の水素量は、例えば溶解法で測定することができる。
(実施例1)
[原料合金]
まず、公知のストリップキャスト法で所望の組成を有するR−Fe−B系磁石用合金の原料合金を用意する。具体的には、Nd:31.5wt%(質量%)、B:1.0wt%、Co:1.0wt%、Al:0.2wt%、Cu:0.1wt%、残部Feおよび不可避不純物からなる組成の合金を高周波溶解によって溶融し、合金溶湯を形成する。この合金溶湯を1350℃に保持した後、単ロール法によって、合金溶湯を急冷し、厚さ約0.3mmの合金鋳塊を得た。このときの急冷条件は、ロール周速度約1m/秒、冷却速度500℃/秒程度に設定し得る。こうして作製した急冷合金鋳片を、次の水素粉砕前に大きさ10mm×10mm以下のフレーク状に粉砕することが好ましい。なお、ストリップキャスト法による原料合金の製造方法は、例えば、米国特許第5,383,978号明細書に開示されている。
ストリップキャスト法による原料合金(母合金)は、前述したように組織が細かく、粒界相の分散性に優れているため、粒界相だけを水素脆化することにより粗粉サイズを単結晶レベルにできる利点がある。また、後工程となる微粉砕工程に要する時間を短縮するなどの利点もある。これに対してインゴット合金では、母合金の結晶サイズが相対的に大きいため、粒界相だけの水素化では粗粉砕が不充分となるおそれがある。
なお、ストリップキャスト合金では、特に真空中の加熱が困難である。これは、ストリップキャスト合金は、比表面積が大きく、金属光沢を持つので、外部から供給される熱を吸収しにくいためと考えられる。従って、自己発熱によって温度を高める本発明の製造方法は、より効率的である。
[水素粉砕工程]
フレーク状に粗く粉砕された原料合金鋳片(20kg)をステンレス鋼製容器に充填した。この容器を加圧熱処理炉(水素炉)の内部へ挿入し、水素粉砕工程を開始した。
なお、処理物温度は、原料合金の入った容器にシース型熱電対(JIS−K)を差し込むことによって測定した。
本実施例における水素粉砕処理は、図4(a)、(b)に示す水素の炉内圧力および温度にて実行した。図4(a)は、実施例1における炉内圧力(水素圧)の時間変化を示すグラフであり、図4(b)は、炉内温度および処理物温度の時間変化を示すグラフである。
本実施例では、真空引きを15分間実行した後、水素炉内への水素供給を開始し、水素の絶対圧を130kPaに保持した(水素加圧:水素吸蔵工程)。一方、真空排気開始から5分経過した後、目標温度を300℃に設定して炉の加熱を開始した。これにより、水素供給を開始する時点において、炉内の温度は200℃程度に達していたが処理物温度はほぼ室温のままであった。
水素吸蔵工程においては、水素ガスの圧力が炉内の水素消費に伴って低下すると、その低下を補うように水素ガスの追加導入を行った。これにより、水素吸蔵工程における水素圧力は、130kPa程度に制御された。図4(a)においても、水素の「炉内圧力」が水素加圧時に130kPa付近で変動している様子が示されている。
水素導入から約3分経過したとき、水素吸蔵が開始された。処理物の最高温度は、水素導入から4分経過したときに最高温度310℃に達した。この後、炉内温度が約300℃に到達し、炉内が加熱されていたことにより、処理物の温度は大きく低下することなく、290℃付近で安定した。水素吸蔵も水素導入から6分経過した後は進行しなかった。
水素導入から10分後、炉内温度を300℃に維持したまま、水素のアルゴンガスによる置換を開始した(脱水素工程の開始)。
置換導入から15分経過後、ロータリポンプによる真空排気を開始するとともに、昇温を開始し、炉内温度を500℃で保持した。このときの真空度は、水素圧に比べて格段に小さいため、図4(a)では、グラフの右側における縦軸で大きさを示している。ピラニ真空計による炉内雰囲気の測定によれば、炉内温度を500℃に保持した時から3時間経過後に充分な真空度が達成され、脱水素工程が終了した。この後、炉内にアルゴンガスを導入しつつ、冷却を行った。
得られた合金は、ほぼ粉末状となっており、大きな塊状の合金も触れると崩壊する程度に脆化していた。
この合金粉末の粒度を、めのう乳鉢とふるいを用いて106μm以下とした後、X線(CuKα線)を用い、粉末X線回折法の測定を行った。その結果を図10に示す。図中、矢印で示す2θ=28.3°付近に粉砕前の母合金や焼結後には認められない大きな回折ピークがある。このピークがRH2水素化物の最強線に該当する。図10の結果から、主相R214B相の格子定数を求めたところ、a=0.880nm、c=1.222nmであった。
また、得られた合金粉末のうち、塊状のものをできるだけ粉化させない状態で樹脂に埋め込み、研磨して断面の金属組織を偏光顕微鏡で観察した。この結果を図11に示す。大きなクラックと共に、主相の柱状晶組織の粒界が通常の原料合金の観察時より高いコントラストで観察され、粒界がRH2水素化物となって膨張し、押し拡げられた状態にあるものと思われる。
一方、この合金粉末について、堀場製作所製水素分析装置を用いた溶解法による水素分析を行ったところ、含有水素量は0.08質量%であった。
次に、この合金粉末中の水素の含有状況を確認するため、示差熱分析DTAを行うことにより水素の放出挙動を測定した。測定装置は理学電機製TAS−200システムのシングルTG−DTA、試料パンはアルミナ、試料は30mgとし、標準試料はアルミナ粉末を用いた。雰囲気はArフロー、昇温速度は20℃/分とした。測定結果を図12に示す。
図12のグラフにおいて水素放出は吸熱反応として示される。図12から明らかなように、吸熱ピークは700℃付近からの一箇所しか認められず、水素化物の形態がRH2のみであることがわかる。もしR2Fe14B系正方晶化合物中に水素が固溶したり、RH3型水素化物が生成していた場合は、200℃−400℃の範囲に水素放出に伴う吸熱反応が起こるが、本発明による合金粉末ではそのような現象は認められない。
なお、図12における315℃付近の変曲点は、キュリー温度Tcに対応する。この温度は、本実施例の合金組成におけるキュリー温度に一致し、主相には水素が固溶していないことがわかる。もし主相が水素を含有している場合、キュリー温度は明確な上昇が観測される。
(実施例2)
本実施例では、実施例1における原料合金と同一の原料合金を用いて、水素粉砕処理の条件のみを変更した。
本実施例における水素粉砕処理は、図5(a)、(b)に示す炉内圧力(水素圧)および温度にて実行した。図5(a)は、実施例2における炉内圧力(水素圧)の時間変化を示すグラフであり、図5(b)は、炉内温度および処理物温度の時間変化を示すグラフである。すなわち、まず真空引きを実行した後、水素炉内への水素供給を開始し、水素の絶対圧を130kPaに保持した(水素吸蔵工程の開始)。このとき、目標温度を300℃に設定して炉の加熱を開始した。本実施例では、水素供給を開始する時点においては、炉内の温度が200℃よりも充分に低いレベルにあった。
水素導入から約3分経過したとき、水素吸蔵が開始された。処理物の最高温度は、水素導入から4分経過したときに最高温度340℃に達した。この後、処理物の温度は一時的に270℃まで低下したが、炉内温度が300℃に加熱されたため、水素導入から20分経過後には290℃付近で安定し、水素吸蔵も停止した。
水素導入から30分後、炉内温度を300℃に維持したまま、水素のアルゴンガスによる置換を開始した(脱水素工程の開始)。置換開始から15分経過後、ロータリポンプによる真空排気を開始するとともに、昇温を開始し、炉内温度を500℃で保持した。ピラニ真空計による炉内雰囲気の測定によれば、炉内温度を500℃に保持した時から3時間経過後に充分な真空度が達成され、脱水素工程が終了した。この後、炉内にアルゴンガスを導入しつつ、冷却を行った。
(比較例)
比較例では、実施例1における原料合金と同一の原料合金を用いて、水素粉砕処理の条件のみを変更した。
比較例における水素粉砕処理は、図6(a)、(b)に示す炉内圧力(水素圧)および温度にて実行した。図6(a)は、比較例における炉内圧力(水素圧)の時間変化を示すグラフであり、図6(b)は、炉内温度および処理物温度の時間変化を示すグラフである。すなわち、まず真空引きを実行した後、室温で水素炉内への水素供給を開始し、水素の絶対圧を130kPaに保持した(水素吸蔵工程の開始)。
水素導入から約7分経過したとき、水素吸蔵が開始された。処理物の最高温度は、水素導入から9分経過したときに290℃に達した。この後、処理物の温度は徐々に低下したが、水素吸蔵も僅かずつ進行した。
水素導入から120分後、処理物温度は50℃まで低下したことを確認し、水素吸蔵は終了しないまま、水素のアルゴンガスによる置換を開始した(脱水素工程の開始)。
置換開示から15分経過後、ロータリポンプによる真空排気を開始するとともに、昇温を開始し、炉内温度を500℃で保持した。ピラニ真空計による炉内雰囲気の測定によれば、炉内温度を500℃に保持した時から5.5時間経過後に充分な真空度が達成され、脱水素工程が終了した。この後、炉内にアルゴンガスを導入しつつ、冷却を行った。
昇温は1時間に設定したが、処理物温度が450℃以上に達するのに4時間を要した。
(実施例3)
実施例2における水素吸蔵工程の炉内温度(水素化温度)を100〜500℃の範囲で変化させた。他の点は、実施例2の条件と同一である。なお、水素吸蔵工程は、水素化反応の終了の有無によらず、水素供給から3時間経過するまで行った。
図7(a)は、水素化所要時間および脱水素所要時間と保持温度(水素化温度)との関係を示すグラフである。図7(a)からわかるように、水素化温度が高くなるほど、処理に要する時間が短くなっている。水素化温度(第1処理室温度T1)は、200℃以上500℃以下の範囲内に設定することが好ましい。
図7(b)は、ΔTと保持温度との関係を示すグラフである。ここで、ΔTは、水素吸蔵工程において、処理物の温度が到達する最高温度Tmaxを基準として、最高温度到達後に処理物の温度が低下する幅であり、前述の通り、ΔT=Tmax−Tminである。
図7(b)からわかるように、水素化温度を高く設定するほど、ΔTは小さくなっている。ただし、水素化温度が400℃や500℃の場合でも、炉内温度の上昇が水素化反応による昇温よりも遅れるため、水素化反応による昇温で処理物が最高温度に達した後、やや温度低下が認められる。
水素化処理の所要時間を決定する際、水素化反応によって消費された水素を補うために炉内に水素が導入された後、20分以上、次の水素導入が行われなかったとき、その最後の導入時を水素化処理終了時と判定した。脱水素処理の終了は、炉内圧力がピラニ真空計の指示値で5Paに到達した時点とした。
図8は、水素化および脱水素処理の所要時間とΔTとの関係を示すグラフである。ΔTが100℃を超えて大きくなると、ΔTの増加に応じて所要時間が増大することがわかる。ΔTは100℃以下に設定することが好ましい。
図9は、各水素化温度条件で水素化処理を行った原料合金を用い、同一条件で作製した磁石の密度ρ、残留磁束密度Br、および保磁力HcJを示している。磁石特性に大きな違いは無いが、500℃で処理した磁石では密度ρおよび保磁力Brの低下が観察される。
このように、本発明の実施例によれば、水素吸蔵工程の時間が従来は90分必要であった場合に、15分程度に短縮することができ、水素消費量を30%に低減することが可能になる。また、脱水素工程の時間を7.5時間から5.5時間に短縮することが可能になり、全体として水素粉砕工程の消費電力を大きく低減することが可能になる。
上記各実施例では、水素吸蔵工程中の炉内水素圧力は、絶対圧で130kPaに制御したが、炉内水素圧力は、例えば50〜300kPaの範囲に設定され得る。
本発明は、磁石特性を劣化させることなく水素粉砕処理の時間、水素消費量、電力消費量を低減できるため、R−Fe−B系永久磁石の量産化に大いに寄与する。
Nd−Fe−B系希土類磁石合金に吸蔵される水素の濃度と水素化温度との関係を示すグラフである。 本発明における炉内設定温度および処理物温度の時間変化の一例を示すグラフである。 従来例における炉内設定温度および処理物温度の時間変化を示すグラフである。 (a)は、本発明の実施例1における炉内圧力(水素圧)の時間変化を示すグラフであり、(b)は、炉内温度および処理物温度の時間変化を示すグラフである。 (a)は、本発明の実施例2における炉内圧力(水素圧)の時間変化を示すグラフであり、(b)は、炉内温度および処理物温度の時間変化を示すグラフである。 (a)は、比較例における炉内圧力(水素圧)の時間変化を示すグラフであり、(b)は、炉内温度および処理物温度の時間変化を示すグラフである。 (a)は、本発明の実施例3における水素化所要時間および脱水素所要時間と保持温度(水素化温度)との関係を示すグラフであり、(b)は、ΔTと水素化温度との関係を示すグラフである。 実施例3における水素化および脱水素処理の所要時間とΔTとの関係を示すグラフである。 実施例3における水素化温度条件で水素化処理を行った原料合金を用い、同一条件で作製した磁石の密度ρ、残留磁束密度Br、および保磁力HcJを示している。 本発明の合金粉末の粉末X線回折パターンを示すグラフである。図中矢印は、NdH2の回折ピークを示す。 本発明の合金粉末の断面の偏光顕微鏡写真である。 本発明の合金粉末の示差熱分析結果を示すグラフである。

Claims (8)

  1. R−Fe−B系磁石合金を用意する工程と、
    処理室内で前記合金に水素を吸蔵させる水素吸蔵工程と、
    前記処理室内から水素を排気し、前記合金を加熱することによって脱水素処理を行う脱水素工程と、
    を含むR−Fe−B系永久磁石の製造方法であって、
    前記水素吸蔵工程は、前記合金が水素との反応により自己発熱して前記合金の温度が最高温度Tmaxに到達した後、最高温度Tmaxから100℃を超えて低下しないように前記処理室内の温度を第1処理室温度T1に加熱する工程を含み、
    前記脱水素工程は、前記第1処理室温度T1よりも高い第2処理室温度T2で脱水素処理を行う、R−Fe−B系永久磁石の製造方法。
  2. 前記第1処理室温度T1を200℃以上500℃以下の範囲内に設定する請求項1に記載のR−Fe−B系永久磁石の製造方法。
  3. 前記処理室内の温度を第1処理室温度T1に加熱する工程は、前記処理室内に水素を供給する前に加熱を開始し、前記合金の温度が最高温度Tmaxに到達した後第1処理室温度T1に到達させる、請求項1または2に記載のR−Fe−B系永久磁石の製造方法。
  4. 前記R−Fe−B系磁石合金は、ストリップキャスト法により作製した合金である、請求項1から3のいずれかに記載のR−Fe−B系永久磁石の製造方法。
  5. 前記合金の温度が最高温度Tmaxに到達したときにおける前記処理室の温度は、最高温度Tmaxよりも低い温度に設定される、請求項1から4のいずれかに記載のR−Fe−B系永久磁石の製造方法。
  6. 前記処理室内の温度を第1処理室温度T1以上に加熱する工程を行った後、前記処理室内の温度を低下させることなく、前記脱水素工程を開始する請求項1に記載のR−Fe−B系永久磁石の製造方法。
  7. 格子定数a:0.878≦a≦0.882nm、
    格子定数c:1.218≦c≦1.225nmの条件を満足するR2Fe14B系正方晶化合物を主相とし、RH2水素化物を含有するR−Fe−B系合金粉末であって、
    前記R2Fe14B系正方晶化合物は水素を含有せず、前記合金粉末中に前記RH3水素化物を含有しないR−Fe−B系合金粉末。
  8. 水素含有量が0.03質量%以上、0.15質量%以下である、請求項7に記載のR−Fe−B系合金粉末。
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