JP2008304038A - 高圧タンク製造方法、高圧タンク - Google Patents
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Abstract
【課題】高圧タンクにおける省スペース化と疲労耐久性の向上を両立させる。
【解決手段】中空のライナに対し、非硬化状態にある熱硬化性樹脂が含浸された繊維径の大きな炭素繊維束を巻回し、1〜3層をフィラメントワインディング成形(FW成形)する(S12)。続いて、繊維径が中程度の炭素繊維繊束を巻回して4〜24層をFW成形し(S14)、さらに、繊維径が小さな繊維強化複合材を巻回して25〜36層をFW成形する(S16)。一般に、繊維径が大きな炭素繊維束では、繊維密度が小さいため、巻き締めによる内層の繊維体積含有率の上昇を抑制することが可能となる。
【選択図】図3
【解決手段】中空のライナに対し、非硬化状態にある熱硬化性樹脂が含浸された繊維径の大きな炭素繊維束を巻回し、1〜3層をフィラメントワインディング成形(FW成形)する(S12)。続いて、繊維径が中程度の炭素繊維繊束を巻回して4〜24層をFW成形し(S14)、さらに、繊維径が小さな繊維強化複合材を巻回して25〜36層をFW成形する(S16)。一般に、繊維径が大きな炭素繊維束では、繊維密度が小さいため、巻き締めによる内層の繊維体積含有率の上昇を抑制することが可能となる。
【選択図】図3
Description
本発明は、繊維強化複合材を巻回して製造される高圧タンクに関する。
ライナの外側に繊維強化複合材を複数層にわたって巻回することにより、高圧タンクを製造する技術が知られている。
下記特許文献1には、樹脂未含浸の大径繊維束である第1繊維束と、小径繊維束を熱可塑性樹脂で被覆した第2繊維束とを組み上げ(ブレイディング)、加熱溶融により熱可塑性樹脂を第1繊維束に含浸させて硬化させる高圧タンクを製造する技術が開示されている。この技術では、組み上げる過程、あるいは、含浸や硬化をさせる過程において、第1繊維束に加える張力を第2繊維束に加える張力よりも大きくして、第1繊維束と第2繊維束との結合を強化することにより、製造時間の短縮と強度の維持を目指すものである。
下記特許文献2には、補強用の繊維束をフープ巻き及びヘリカル巻きして航空機用の高圧タンクを製造する技術が開示されている。この技術では、フープ巻きには繊維の本数を多くした太い繊維束を用い、ヘリカル巻きには繊維の本数を少なくした細い繊維束を用いている。また、ストラップを取り付ける部分の繊維の巻回ピッチを密にし、一般の部分の繊維の巻回ピッチを疎にしている。
下記特許文献3には、金属製タンクの外面に炭素繊維強化プラスチックを複数層にわたって巻回して高圧タンクを製造する技術が開示されている。この技術では、炭素繊維強化プラスチックの巻回ピッチを、内層側で密とし、外層側で疎とするように巻回を行っている。
下記特許文献4には樹脂、コンクリート、しっくい、金属などの補強に用いられる補強用繊維織物についての記載がある。この補強用繊維織物では、縦糸と横糸に用いる繊維束の少なくとも一方の表面に多数の毛羽立ちが形成され、また、長手方向に沿って多数の凹凸が形成されている。
下記特許文献5には、熱可塑性の樹脂管の外周に、熱可塑性樹脂粉末を含む補強用の繊維複合材を巻回し、加熱により融着させて繊維強化された熱可塑性樹脂管を製造する技術が開示されている。この技術では、樹脂管に接する表層部において、繊維含有率が他の部分に比べて少なくなる補強繊維複合材を用いることにより、樹脂管や補強繊維複合材を加熱した場合における樹脂管の変形を防止している。
繊維強化複合材では、その外側に巻回される繊維強化複合材による巻き締めの効果などのために、繊維束間に満たされる樹脂が浸み出してしまう傾向にある。すなわち、内層(ライナ側の層)ほど、繊維密度(あるいは繊維体積含有率Vf)が高くなる(樹脂が少なくなる)。特に、高圧タンクの使用圧を高める場合には、強度を確保するために繊維強化複合材層を増やす必要があり、内層におけるVf上昇が顕著となる。
一般に、Vfが高い繊維強化複合材層では、亀裂が生じやすくなるなど疲労耐久性能が低下することが知られている。特に、高圧タンクに高圧の気体や液体を充填した場合には、内層側の繊維強化複合材層ほど大きな応力が作用する傾向にあり、高圧タンクの疲労耐久性を高め、寿命を延ばすためには、内層におけるVfを比較的低くすることが望ましい。
しかしながら、単純に高圧タンク全体でVfを低くしたのでは、樹脂が多くなる分だけ外径が大きくなってしまう。さらに、上記特許文献1乃至5の技術も、この課題を解決するものではない。上記特許文献1,2の技術では、内層の疲労耐久性を高めることについての言及や示唆はなされていない。また、上記特許文献3の技術は、内層の繊維密度を高めるためものであり、本発明とは課題及び解決手段が全く異なっている。さらに、上記特許文献4の技術は、繊維と樹脂等との間の界面接着力を高めることを目的とする技術にすぎない。そして、上記特許文献5の技術は、熱可塑性樹脂を用いる点や、樹脂管と繊維複合材との融着の強化や加熱による変形防止を目的とする点で、本願とは大きく異なるものである。
本発明の目的は、高圧タンクにおける省スペース化と疲労耐久性の向上を図ることにある。
本発明の別の目的は、車載用の利便性を向上させた高圧タンクを提供することにある。
本発明の高圧タンク製造方法の一態様においては、中空のライナの外周に、複数の繊維からなる第1繊維束と各繊維間に非硬化状態で設けられた熱硬化性樹脂とを含む第1繊維強化複合材を巻回し、第1繊維強化複合材層を積層形成するステップと、前記第1繊維強化複合材層の外周に、複数の繊維からなる第2繊維束と各繊維間に非硬化状態で設けられた熱硬化性樹脂とを含む第2繊維強化複合材を巻回し、第2繊維強化複合材層を積層形成するステップと、前記第1繊維強化複合材層及び前記第2繊維強化複合材層が積層形成された後に、加熱により前記熱硬化性樹脂を硬化させるステップと、を含み、少なくとも巻回される前においては、前記第1繊維強化複合材の繊維密度は、前記第2繊維強化複合材の繊維密度に比べて低く設定されている。
高圧タンクは、気体(ガス)あるいは液体を高圧で保持可能な容器であり、耐圧タンクや圧力容器などとも呼ばれる。また、ライナは高圧タンクの内筒として用いられる容器であり、典型的には内部に充填されるガスあるいは液体の保持力が高い樹脂や金属などにより作られる。繊維強化複合材は、複数の繊維が束ねられた繊維束と、これらの繊維間に設けられる熱硬化性樹脂とを含む素材であり、ライナの外周に巻回されてライナの強度、そして高圧タンク自体の強度を高める。繊維束は複数の繊維が単に寄せ集められたものであってもよいし、複数の繊維が織り上げられたものであってもよい。また、繊維束を構成する繊維は連続したもの(巻回される一端から他端まで途切れていない)であってもよいし、不連続なものであってもよい。繊維の例としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維などを挙げることができる。また、繊維間に設けられる熱硬化性樹脂の例としては、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂などを挙げることができる。
第1繊維強化複合材は、少なくとも巻回される直前の段階では、第2繊維強化複合材に比べて繊維密度が低く設定された素材である。第1繊維強化複合材中で、あるいは、第2繊維複合強化材中で、繊維密度が一様である必要はないが、少なくとも第1繊維強化複合材における最も高い繊維密度は、第2繊維強化複合材における最も低い繊維密度よりも低く設定される。第1繊維強化複合材は、ライナの外周に巻回されて第1繊維強化複合材層を形成する。第1繊維強化複合材層は、ライナの外周を全面的(開口部や把手部などの特異な箇所はこの限りではない)に覆うように形成される。この第1繊維強化複合材層は、典型的には、第1繊維強化複合材を厚さ方向(ライナから遠ざかる方向)に複数回巻くことで形成される。同様にして、第2繊維強化複合材は、第1繊維強化複合材層の外周に巻回されて第2繊維強化複合材層を形成する。第2繊維強化複合材層は、基本的には、第1繊維強化複合材層の外周を全面的に覆うように形成され、また、厚さ方向に複数回巻くことで形成される。
第1繊維強化複合材層は、ライナと接するように、あるいは、ライナの外表面に設けられた別の部材と接するように設けられる。言い換えれば、第1繊維強化複合材層は、繊維強化複合材層としては、最も内側に位置するように設けられる。また、第2繊維強化複合材層は、第1繊維強化複合材層よりも外側に設けられる。典型的には、第2繊維強化複合材層は、第1繊維強化複合材層と接するように設けられるが、第1繊維強化複合材層との間に別の部材が挟まれていてもよい。なお、第1繊維強化複合材と第2繊維強化複合材は、不連続な素材(つまり樹脂や繊維が物理的に繋がっていない素材)であってもよいが、連続した素材(樹脂あるいは繊維の少なくとも一方が物理的に繋がっている素材)であって連続的に巻回されるものであってもよい。
この構成によれば、巻回された第1繊維強化複合材から比較的多くの量の樹脂が漏れだしても、第1繊維強化複合材層における繊維密度は比較的低く保たれる。特に、最内側の層付近では、外側の層に比べて、巻き締めにより樹脂の浸み出し量が大きくなる傾向にあり、また、高圧タンクに気体あるいは液体を充填した際に大きな応力が作用する傾向にある。そこで、この付近に巻回される前記第1繊維強化複合材の繊維密度を、少なくとも巻回される前においては、前記第2繊維強化複合材の繊維密度に比べて低く設定している。これにより、巻回前の第1繊維強化複合材と第2繊維強化複合材の繊維密度を同じにした場合に比べて、少なくとも第1繊維強化複合材層の繊維密度が第2繊維強化複合材層の繊維密度より高くなる度合いが抑制される。なお、第1繊維強化複合材における繊維密度と第2繊維強化複合材における繊維密度の差の調整、あるいは、巻回する際の張力の調整などを行うことで、第1繊維強化複合材層の繊維密度と第2繊維強化複合材層の繊維密度を同程度に設定してもよいし、第1繊維強化複合材層の繊維密度を第2繊維強化複合材層の繊維密度よりも低く設定してもよい。第1繊維強化複合材層の繊維密度と第2繊維強化複合材層の繊維密度をどの程度に設定するかは、高圧タンクの強度、疲労耐久性、大きさなどを考慮した上で、実験的あるいは理論的根拠に基づいて決めることができる。いずれにせよ、本構成によれば、繊維強化複合材層を比較的薄くして省スペース化を図るとともに、繊維強化複合材層の疲労耐久性を高めることが可能となる。
また、本発明によれば、高圧タンクの周囲の繊維強化複合材層を比較的薄くすることが可能となる。この省スペース化は、例えば、移動体(例えば車両、船舶、航空機)のように利用可能な空間が限られた状況下で特に有効となる。
本発明の高圧タンク製造方法の一態様においては、前記第1繊維束には前記第2繊維束に含まれる繊維に比べて太い繊維が含まれ、これにより、少なくとも巻回される前においては、前記第1繊維強化複合材では前記第2繊維強化複合材束に比べて繊維密度が低く設定されている。
本発明の高圧タンク製造方法の一態様においては、前記第1繊維束に含まれる各繊維は、前記第2繊維束に含まれるいずれの繊維よりも太い。
本発明の高圧タンク製造方法の一態様においては、前記第1繊維束は一部の繊維を他の繊維に対して交差させて束ねられており、前記一部の繊維には前記他の繊維と前記第2繊維束の繊維に比べて太い繊維が含まれる。つまり、前記一部の繊維の全部または一部が、前記他の繊維と前記第2繊維束の繊維に比べて太く設定される。
本発明の高圧タンク製造方法の一態様においては、第1繊維強化複合材層を積層形成するステップには、少なくとも巻回される前においては、前記第1繊維強化複合材の幅を前記第2繊維強化複合材の幅よりも幅広に設定され、これにより、前記第1繊維強化複合材の繊維密度は、前記第2繊維強化複合材の繊維密度に比べて低く設定される。経験的には、幅広に設定すると、繊維のばらけ方が大きくなって繊維密度の低下が促進され、幅狭に設定すると、繊維のばらけ方が小さくなって繊維密度の低下が抑制される。幅の調整は、例えばアイ口によって行うことができる。
本発明の高圧タンク製造方法の一態様においては、前記第1繊維束に含まれる少なくとも一部の繊維の表面には突起が設けられ、これにより、少なくとも巻回される前においては、前記第1繊維強化複合材では前記第2繊維強化複合材束に比べて繊維密度が低く設定されている。繊維の表面に突起がある場合、この突起のために繊維間の距離が離れて配置されるため、あるいは、表面張力の変化もしくは摩擦力の変化により繊維の周囲に樹脂を保持する機能が高められるため、第1繊維強化複合材の繊維密度を低く設定することができる。なお、第2繊維束の繊維にも突起が設けられてもよいが、その場合には、第1繊維束の繊維に比べて突起量や突起数が少なく設定される。突起は、例えば、繊維の製造時に設けられてもよいし、製造後に繊維の表面を傷つけて毛羽立たせることにより設けられてもよい。
本発明の高圧タンクの製造方法の一態様においては、前記第1繊維束は、一部の繊維を他の繊維に対して交差させて束ねられており、前記第2繊維束は、全ての繊維を交差せずに束ねられ、または、前記第1繊維束に比べて少量の繊維を他の繊維に対して交差させて束ねられており、これにより、少なくとも巻回される前においては、前記第1繊維強化複合材では前記第2繊維強化複合材束に比べて繊維密度が低く設定されている。繊維が交差した繊維束は、クロスの繊維束と呼ばれることがある。クロスの繊維束では、繊維が交差することによって繊維間に相対的に大きな隙間があり、繊維間には比較的大量の樹脂が設けられる。このため、第1繊維束における繊維の太さは、第2繊維束と同程度であってもよく、さらには、細くても繊維密度差を確保できる場合がある。
本発明の高圧タンク製造方法の一態様においては、第1繊維強化複合材層を積層形成するステップ及び第2繊維強化複合材層を積層形成するステップにおいては、含浸によって液状の前記熱硬化性樹脂が各繊維間に設けられる。ここで、液状とは、半硬化状態よりも流動性がある状態、例えば、滴となってしたたり落ちる程度の流動性をもつ状態をいう。流動性が高いと、巻回時における第1繊維強化複合材層からの樹脂の浸み出し量が増大する傾向にある。
本発明の高圧タンクの一態様においては、中空のライナと、前記ライナの外周に設けられ、複数の繊維及び繊維間を満たす熱硬化樹脂を含む第1繊維強化複合材層と、前記第1繊維強化複合材層の外周に設けられ、複数の繊維及び繊維間を満たす熱硬化樹脂を含む第2繊維強化複合材層と、を備え、前記第1繊維強化複合材層には、前記第2繊維強化複合材層に比べ太い繊維が含まれる。
本発明の高圧タンクの一態様においては、前記第1繊維強化複合材層に含まれる各繊維は、前記第2繊維強化複合材層におけるいずれの繊維よりも太い。
本発明の高圧タンクの一態様においては、前記第1繊維強化複合材層においては一部の繊維を他の繊維に対して交差させた繊維束が巻回されて形成され、前記一部の繊維には前記他の繊維と前記第2繊維束の繊維に比べて太い繊維が含まれる。
本発明の高圧タンクの一態様においては、中空のライナと、前記ライナの外周に設けられ、複数の繊維及び繊維間を満たす熱硬化樹脂を含む第1繊維強化複合材層と、前記第1繊維強化複合材層の外周に設けられ、複数の繊維及び繊維間を満たす熱硬化樹脂を含む第2繊維強化複合材層と、を備え、前記第1繊維強化複合材層は、前記第2繊維強化複合材層に比べて幅広の形状をもつ繊維束が巻回されて形成されている。
本発明の高圧タンクの一態様においては、中空のライナと、前記ライナの外周に設けられ、複数の繊維及び繊維間を満たす熱硬化樹脂を含む第1繊維強化複合材層と、前記第1繊維強化複合材層の外周に設けられ、複数の繊維及び繊維間を満たす熱硬化樹脂を含む第2繊維強化複合材層と、を備え、前記第1繊維強化複合材層には、前記第2繊維強化複合材層に比べ、多数の突起または大きな突起が表面に形成された繊維が含まれる。
本発明の高圧タンクの一態様においては、中空のライナと、前記ライナの外周に設けられ、複数の繊維及び繊維間を満たす熱硬化樹脂を含む第1繊維強化複合材層と、前記第1繊維強化複合材層の外周に設けられ、複数の繊維及び繊維間を満たす熱硬化樹脂を含む第2繊維強化複合材層と、を備え、前記第1繊維強化複合材層の前記複数の繊維は、一部の繊維を他の繊維に対して交差させて束ねられており、前記第2繊維強化複合材層の前記複数の繊維は、全ての繊維を交差せずに束ねられ、または、前記第1繊維強化複合材層に比べて少量の繊維を他の繊維に対して交差させて束ねられている。
以下に本発明の実施の形態を例示する。
図1は、本実施の形態にかかる高圧タンク10の概略的な断面図である。高圧タンク10では、円筒形状に作られた樹脂製のライナ12の外周に、繊維強化複合材としての炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が巻回されたCFRP層14が形成されており、さらにCFRP層14の外周には保護層としてのガラス層16が形成されている。そして、ライナ12の両端には、金属製の口金18,20が取り付けられている。
この高圧タンク10は、水素あるいは天然ガスなどの燃料ガスを高圧で貯蔵する容器である。高圧タンク10は据え置き型として用いられても良いし、移動体に搭載されて用いられても良い。例えば、燃料電池車に搭載されて使用される場合には、典型的には全長が800〜1500mm、直径が200〜500mm程度の高圧タンク10が用意され、満タン時には数十MPa〜100MPa程度の圧力の燃料ガスが充填される。
図2は、図1に符号22で示した高圧タンク10の側面の断面構造を示す図である。図2(a)に示すように、高圧タンク10では、最も内側にライナ12があり、その外側にCFRP層14が設けられ、さらに、その外側にガラス層16が設けられている。CFRP層14は、複数(例えば数千本〜数万本)の炭素繊維を含む束状のCFRPが巻回され多層化(例えば10層程度から数十層程度)されたものである。
図2(b),(c),(d)は、CFRP層14の部分的な断面構造を示した図である。ここでは、CFRP層14を36層とした場合について例示している。図2(b)は外側の25〜36層、図2(c)は中央付近4〜24層、図2(d)は内側の1〜3層の各位置における断面構造を同程度の拡大率で示している。この例では、1〜3層は第1繊維強化複合材層に相当し、4〜36層は第2繊維強化複合材層に相当しており、第2繊維強化複合材層は4〜24層と25〜36層のサブ構造に分類することができる。図においては、円形部分が炭素繊維を表しており、炭素繊維と炭素繊維の間はここに満たされたエポキシ樹脂を表している。図から明らかな通り、炭素繊維は、図2(b)で最も細く、図2(c)においては中程度であり、図2(d)では最も太い。炭素繊維の太さは様々に設定可能であるが、一例として、図2(b)の炭素繊維の直径を5μm、図2(c)の炭素繊維の直径を7μm、図2(d)の炭素繊維の直径を10μmとする態様を挙げることができる。
また、CFRP層14に占める炭素繊維の割合(繊維体積含有率)は、図2(b)で最も高く図2(c)で中程度であり、図2(d)で最も低い。言い換えれば、炭素繊維間を満たしている樹脂の量は、図2(b)で最も少なく、図2(c)で中程度であり、図2(d)で最も多い。
一般に、同じ直径の円形断面をもつ炭素繊維が最密に並べられている場合には、炭素繊維の割合は、直径によらず一定である。つまり、CFRP層14において、炭素繊維が最密に並べられている場合には、繊維体積含有率は、図2(b),(c),(d)において一定となる。しかし、図示した例では、炭素繊維は最密には並べられておらず、不規則に束ねられている。この場合、実験的には、炭素繊維の直径が小さいほど密になる傾向があり、炭素繊維の直径が大きいほど疎になる傾向がある。
続いて図3,4を用いて、高圧タンク10の製造方法について説明する。図3は、高圧タンク10の製造手順を示したフローチャートであり、図4は、CFRP層14を形成する過程を示した模式図である。
製造過程においては、まず、口金を取り付けたライナ12が回転軸30にセットされる(S10)。そして、1〜3層に対しては、直径が10μmである炭素繊維が2万本程度束ねられた繊維束32を用いて、CFRP層14がフィラメントワインディング成形(以下FW成形と呼ぶことがある)される(S12)。ここで、フィラメントワインディング成形とは、樹脂を含浸させた繊維束を巻回する成形方法を指す。繊維束の幅が比較的広い場合には、テープワインディング成形と呼ばれることもある。繊維束は例えば、幅方向に数mm、厚み方向にその0.1mm〜数mm程度に設定される。
FW成形では、具体的には、ボビンから送られる繊維束32を液状のエポキシ樹脂が蓄えられた含浸バスに対して繊維間にエポキシ樹脂を充填した後に、ライナ12の周囲に巻回していく。なお、含浸された樹脂を液状に保ったまま巻回を行ってもよいし(WET)、半硬化状にした後に巻回を行ってもよい(プリプレグ)。また、巻回の方法は特に限定されるものではなく、例えば、フープ巻き(図4に示すように、繊維束32を回転軸30にほぼ垂直にセットし、徐々に巻回箇所をずらしていく巻き方)であっても、ヘリカル巻き(繊維束32を回転軸30に対して斜めにセットし、巻回箇所を大きくずらしていく巻き方)であってもよいし、また、複数の繊維束を編み上げて(ブレイディング)から巻回を行ってもよい。
1〜3層のFW成形が終了すると、直径が7μmの炭素繊維を用いて4〜24層のFW成形が行われ(S14)、続いて、直径が5μmの炭素繊維を用いて25〜36層のFW成形が行われる(S16)。このように、順次、外側の層を成形していく段階では、FW成形にともなう張力によって、内側の層が巻き締められ、繊維間から樹脂が浸み出す現象が見られる(巻き締め効果)。そこで、外側の層のFW成形においては、内側の層のFW成形に比べて、相対的に弱い張力で巻回を行い、浸み出し現象を抑制するようにしてもよい。
36層までFW成形が終了すると、その表面にガラス繊維によるFW成形が行われ、ガラス層が設けられる(S18)。ガラス繊維のFW成形には、CFRP層14と同じエポキシ樹脂を用いることがある。そして、最後に、CFRP層14のエポキシ樹脂、及びガラス層の樹脂を硬化させるため、高圧タンク10が加熱処理される(S20)。
図5は、このようにして製造された高圧タンク10のCFRP層14における繊維体積含有率Vfについて模式的に説明する図である。図5においては、横軸はVfを表し、縦軸はCFRP層14の層を表している。そして、図5(a)は、参考として全層に対して同じ直径をもつ繊維を用いた場合を示しており、図5(b)は、図2乃至図4で説明したように、三段階に異なる直径をもつ繊維を用いた場合を示している。
図5(a)の例では、内側の層ほどVfの値が大きくなる。これは、巻回する前の繊維束においてはVfの値は一定であるが、巻回にともなう張力を多く受ける内側の層では、樹脂が浸み出して樹脂含浸量が低下する(繊維の比率が高まる)ためである。同様に、図5(b)の例でも、1〜3層、4〜24層、25〜36層の中では、内側の層ほどVfが高くなっている。しかし、図5(b)の例では、太い繊維を用いた1〜3層では、巻回前の繊維束におけるVfの値が最も小さい(樹脂の量が最も多く)ために、巻回後に樹脂が浸み出しても、Vfの値は比較的小さく保たれる。また、中程度の繊維を用いた4〜24層でも、25〜36層に比べて巻回前の繊維束におけるVfの値が小さいために、巻回後もVfの値は比較的小さく保たれる。これにより、図5(b)の例では、3層と4層の間、及び、24層と25層の間においてVfの値が不連続に分布し、全体としてみれば、各層間におけるVfのバラツキが小さくなっている。
以上の説明においては、繊維の直径を三段階に変化させた。しかし、変化の段階を二段階に変化させたり四段階以上に変化させたりすることも可能であるし、連続的に変化させる(連続的に太さが変化する繊維を利用する)ことも可能である。また、繊維の直径を内側ほど大きくすることによる疲労耐久性の向上効果が、特に最内層側において顕著となることを考慮すれば、最内層側において最も太い繊維を使用しさえすれば、その外側における繊維の太さ分布を一様または単調減少としなくてもよい場合も考えられる。例えば、最内層側において最も太い繊維を使用し、中間層で最も細い繊維を使用し、最外層側でやや太い繊維を使用するような態様も考えられる。さらに、以上の例では、第1繊維強化複合材層を1〜3層としたが、疲労耐久性能や、繊維強化複合材層全体の厚みを考慮して、例えば1〜5層や1〜10層にするなど、適宜変更することが可能である。
続いて、図6乃至図8を用いて、本実施の形態における三つの変形例を説明する。
図6は、炭素繊維強化プラスチックの繊維束として、クロスの繊維束40を用いた態様を示している。クロスの繊維束40には、巻回時に張力がかかる方向に伸びる複数の繊維42,44,...(これを0度方向の繊維群50と呼ぶ)と、これに交差する複数の繊維52,54,...(これをクロス方向の繊維群60と呼ぶ)とが含まれている。
このクロスの繊維束40を用いる場合にも、上述の例と同様に、ライナに接する最内層側で全ての繊維を太くし、その外側の層で全ての繊維を細くするようにしてもよい。しかし、クロスの繊維束40を用いる場合には、クロス方向の繊維群60の直径のみを変化させるようにすることも可能である。具体的には、ライナに接する最内層側では、それよりも外側の層に比べて、クロス方向の繊維群60の直径を太くする例を挙げることができる。この場合、0度方向の繊維群50は、例えば、外側の層ではクロス方向の繊維群60の直径と同程度とし、最内側の層ではクロス方向の繊維群60の直径よりも太く設定される。また、クロスの繊維束40において、0度方向の繊維群50の直径とクロス方向の繊維群の直径を、ともにその外側の層の繊維と同程度の太さに設定したり、その外側の層の繊維よりも細く設定することも可能である。クロス方向の繊維群60は、0度方向の繊維群50における繊維間に隙間を作り、含浸される樹脂量を多くする効果がある。したがって、繊維の太さを変えなくても、一方向のみの繊維束に比べて、あるいは、交差の度合いが小さな繊維に比べて、含新される樹脂量が増大すると考えられるからである。そして、クロス方向の繊維群60の繊維径を太くした場合には、含浸される樹脂量がさらに増大するものと期待される。
なお、クロス方向の繊維群60が0度方向の繊維群50と交差する角度(配交角)は、典型的には90度(直交)に設定されるが、0度より大きく180度よりも小さい他の角度であってもよい。また、例えば、複数の配交角(例えば、60度と120度)をもつクロスの繊維束40を使用することも可能である。さらに、クロス方向の繊維群60の繊維径を変化させる代わりに、0度方向の繊維群60の繊維径を変化させることも可能である。また、例えば、最内層側でクロスの繊維束40を使用し、その外側においては、一方向のみの繊維束を使用する態様も考えられる。
図7は、FW成形において用いられるアイ口(アイクチ)について説明する図である。アイ口は、高圧タンク側に送り出される繊維束の幅を調整する器具であり、樹脂が含浸された繊維をどの程度の幅で束ねるのか調整することにより、繊維束の繊維密度を変更している。
図7(a)は、内側のCFRP層を巻回する際に用いるアイ口70と、このアイ口70で整えられる繊維束80を示している。ここでは、アイ口70の弧の曲率半径Rが比較的大きく設定されている。このため、繊維束80を構成する繊維72,74,76,...は、周辺部から中央部に向かう力をあまり受けずに比較的幅広にバラける。したがって、繊維束80の繊維密度は小さくなる(繊維束80内を満たす樹脂量が多くなる)。他方、図7(b)は、外側のCFRP層を巻回する最に用いるアイ口90と、このアイ口90で整えられる繊維束100を示している。アイ口90の弧の曲率半径rは、アイ口70の弧の曲率半径Rよりも小さい(つまり、アイ口90の方が弧の曲がりが大きい)。このため、繊維束100を構成する繊維92,94,96,...は周辺部から中央部に向かう力を受けて比較的幅狭に凝縮される。したがって、繊維束100の繊維密度は、繊維束80に比べて大きくなる(繊維束100内を満たす樹脂量が少なくなる)。
このように、アイ口の弧の曲率半径を変更することで、繊維束の繊維密度を調整することが可能となる。アイ口の弧の曲率半径は三段階以上に変更してもよい。なお、アイ口によって繊維束が変形される度合いは、アイ口から受ける力の大きさにも依存する可能性があり、必要であれば、変形度合いに応じてアイ口を通す繊維束の張力を調整すればよい。また、曲率半径が段階的に異なる複数のアイ口を通過させてゆっくりと確実に変形を行うことや(例えば、曲率半径を段階的に小さなアイ口を通過させて、凝縮させる確実性を高める態様を挙げることができる)、整流方向が異なる複数のアイ口を使用して異なる方向に変形を行うこと(例えば、縦方向に凝縮させた後で、横方向にも凝縮させる態様を挙げることができる)も可能である。
図8は、FW成形に用いられる繊維束を説明する模式図である。図示した3本の繊維110,112,114は、内側のCFRP層を巻回する際に用いられる繊維束の一部を示している。この繊維110,112,114には、表面に突起120,122,124,...が設けられている。これは、当初は滑らかであった繊維110,112,114の表面を傷をつけることで形成された毛羽立ちである。この突起120,122,124,...は、束ねられた繊維110,112,114が互いに密着することを防止し、繊維密度を低くしている。また、突起120,122,124,...は、繊維110,112,114間に含浸された樹脂の流動性を低下させるため、巻き締め効果によって外側に漏れ出す樹脂量を減少させることになる。なお、外側の層に対しては、突起を有さない繊維や、突起量が小さいあるいは突起数が少ない繊維を利用すればよい。これにより、内側の層における繊維密度を相対的に低くすることが可能となる。
10 高圧タンク、12 ライナ、14 CFRP層、16 ガラス層、18,20 口金、30 回転軸、32 繊維束。
Claims (14)
- 中空のライナの外周に、複数の繊維からなる第1繊維束と各繊維間に非硬化状態で設けられた熱硬化性樹脂とを含む第1繊維強化複合材を巻回し、第1繊維強化複合材層を積層形成するステップと、
前記第1繊維強化複合材層の外周に、複数の繊維からなる第2繊維束と各繊維間に非硬化状態で設けられた熱硬化性樹脂とを含む第2繊維強化複合材を巻回し、第2繊維強化複合材層を積層形成するステップと、
前記第1繊維強化複合材層及び前記第2繊維強化複合材層が積層形成された後に、加熱により前記熱硬化性樹脂を硬化させるステップと、
を含み、
少なくとも巻回される前においては、前記第1繊維強化複合材の繊維密度は、前記第2繊維強化複合材の繊維密度に比べて低く設定されていることを特徴とする高圧タンク製造方法。 - 請求項1に記載の高圧タンク製造方法において、
前記第1繊維束には前記第2繊維束に含まれる繊維に比べて太い繊維が含まれ、これにより、少なくとも巻回される前においては、前記第1繊維強化複合材では前記第2繊維強化複合材束に比べて繊維密度が低く設定されていることを特徴とする高圧タンク製造方法。 - 請求項2に記載の高圧タンク製造方法において、
前記第1繊維束に含まれる各繊維は、前記第2繊維束に含まれるいずれの繊維よりも太いことを特徴とする高圧タンク製造方法。 - 請求項2に記載の高圧タンク製造方法において、
前記第1繊維束は一部の繊維を他の繊維に対して交差させて束ねられており、前記一部の繊維には前記他の繊維と前記第2繊維束の繊維に比べて太い繊維が含まれる、ことを特徴とする高圧タンク製造方法。 - 請求項1に記載の高圧タンク製造方法において、
第1繊維強化複合材層を積層形成するステップには、
少なくとも巻回される前においては、前記第1繊維強化複合材の幅を前記第2繊維強化複合材の幅よりも幅広に設定され、これにより、前記第1繊維強化複合材の繊維密度は、前記第2繊維強化複合材の繊維密度に比べて低く設定される、ことを特徴とする高圧タンク製造方法。 - 請求項1に記載の高圧タンク製造方法において、
前記第1繊維束に含まれる少なくとも一部の繊維の表面には突起が設けられ、これにより、少なくとも巻回される前においては、前記第1繊維強化複合材では前記第2繊維強化複合材束に比べて繊維密度が低く設定されている、ことを特徴とする高圧タンク製造方法。 - 請求項1に記載の高圧タンク製造方法において、
前記第1繊維束は、一部の繊維を他の繊維に対して交差させて束ねられており、
前記第2繊維束は、全ての繊維を交差せずに束ねられ、または、前記第1繊維束に比べて少量の繊維を他の繊維に対して交差させて束ねられており、
これにより、少なくとも巻回される前においては、前記第1繊維強化複合材では前記第2繊維強化複合材束に比べて繊維密度が低く設定されている、ことを特徴とする高圧タンク製造方法。 - 請求項1乃至7のいずれか1項に記載の高圧タンク製造方法において、
第1繊維強化複合材層を積層形成するステップ及び第2繊維強化複合材層を積層形成するステップにおいては、含浸によって液状の前記熱硬化性樹脂が各繊維間に設けられる、ことを特徴とする高圧タンク製造方法。 - 中空のライナと、
前記ライナの外周に設けられ、複数の繊維及び繊維間を満たす熱硬化樹脂を含む第1繊維強化複合材層と、
前記第1繊維強化複合材層の外周に設けられ、複数の繊維及び繊維間を満たす熱硬化樹脂を含む第2繊維強化複合材層と、
を備え、
前記第1繊維強化複合材層には、前記第2繊維強化複合材層に比べ太い繊維が含まれる、ことを特徴とする高圧タンク。 - 請求項9に記載の高圧タンクにおいて、
前記第1繊維強化複合材層に含まれる各繊維は、前記第2繊維強化複合材層におけるいずれの繊維よりも太い、ことを特徴とする高圧タンク。 - 請求項9に記載の高圧タンクにおいて、
前記第1繊維強化複合材層においては一部の繊維を他の繊維に対して交差させた繊維束が巻回されて形成され、前記一部の繊維には前記他の繊維と前記第2繊維束の繊維に比べて太い繊維が含まれる、ことを特徴とする高圧タンク。 - 中空のライナと、
前記ライナの外周に設けられ、複数の繊維及び繊維間を満たす熱硬化樹脂を含む第1繊維強化複合材層と、
前記第1繊維強化複合材層の外周に設けられ、複数の繊維及び繊維間を満たす熱硬化樹脂を含む第2繊維強化複合材層と、
を備え、
前記第1繊維強化複合材層は、前記第2繊維強化複合材層に比べて幅広の形状をもつ繊維束が巻回されて形成されている、ことを特徴とする高圧タンク。 - 中空のライナと、
前記ライナの外周に設けられ、複数の繊維及び繊維間を満たす熱硬化樹脂を含む第1繊維強化複合材層と、
前記第1繊維強化複合材層の外周に設けられ、複数の繊維及び繊維間を満たす熱硬化樹脂を含む第2繊維強化複合材層と、
を備え、
前記第1繊維強化複合材層には、前記第2繊維強化複合材層に比べ、多数の突起または大きな突起が表面に形成された繊維が含まれる、ことを特徴とする高圧タンク。 - 中空のライナと、
前記ライナの外周に設けられ、複数の繊維及び繊維間を満たす熱硬化樹脂を含む第1繊維強化複合材層と、
前記第1繊維強化複合材層の外周に設けられ、複数の繊維及び繊維間を満たす熱硬化樹脂を含む第2繊維強化複合材層と、
を備え、
前記第1繊維強化複合材層の前記複数の繊維は、一部の繊維を他の繊維に対して交差させて束ねられており、
前記第2繊維強化複合材層の前記複数の繊維は、全ての繊維を交差せずに束ねられ、または、前記第1繊維強化複合材層に比べて少量の繊維を他の繊維に対して交差させて束ねられている、ことを特徴とする高圧タンク。
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