以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態による窒化物系半導体レーザの構造を説明するための斜視図である。図2は、図1の200−200線に沿った断面図である。図3は、図1に示した第1実施形態による窒化物系半導体レーザの平面図である。図4は、図1に示した窒化物系半導体レーザ部の端面を拡大した図である。図1〜図4を参照して、本発明の第1実施形態による窒化物系半導体レーザ100の構造について説明する。
本発明の第1実施形態による窒化物系半導体レーザ100には、図1および図2に示すように、窒化物系半導体レーザ部1と、窒化物系半導体レーザ部1の一方の端面である光出射面に形成される端面コート膜2と、もう一方の端面である光反射面に形成される端面コート膜3とによって構成されている。なお、端面コート膜2および端面コート膜3は、後述するコンタクト層16、p側オーミック電極17およびSiO2膜18のリッジ状の端部上にも形成されている。
図1および図2に示すように、窒化物系半導体レーザ部1には、n型のGaN基板11の上面上に、Alを約7%含むAlGaNからなるn型クラッド層12が形成されている。また、n型クラッド層12の上面上には、MQW(多重量子井戸)発光層13が形成されている。なお、MQW発光層13は、本発明の「発光層」の一例である。ここで、第1実施形態では、MQW発光層13は、図4に示すように、GaN基板11側から約4nmの厚みを有するInを約13%含むInGaNからなる井戸層13aと、約21nmの厚みを有するInを約2%含むInGaNからなる障壁層13bとをそれぞれ3層積層した構造となっている。また、第1実施形態では、井戸層13aの端面は、凸状に形成されているとともに、障壁層13bの端面は凹状に形成されている。なお、井戸層13aは、障壁層13bに対して約1nm突出している。また、第1実施形態では、MQW発光層13は、後述するp型クラッド層15およびn型クラッド層12に対して、約1nm突出している。
また、MQW発光層13の上面上には、約100nmの厚みを有するアンドープGaNからなる光ガイド層14が形成されている。また、光ガイド層14の上面上には、Alを約7%含むAlGaNからなるp型クラッド層15が形成されている。なお、p型クラッド層15は、リッジ状に形成されている(図5〜図9参照)。また、p型クラッド層15のリッジ状の部分の上面上には、約3nmの厚みを有するInを約7%含むInGaNからなるコンタクト層16が形成されている。
また、コンタクト層16の上面上には、約1nmの厚みを有するPtからなる層と、約30nmの厚みを有するPdからなる層とから形成されるp側オーミック電極17が形成されている。なお、p側オーミック電極17は、本発明の「p側電極」の一例である。ここで、第1実施形態では、p側オーミック電極17は、実質的に窒化物系半導体レーザ部1の端面まで延びるように形成されている。たとえば、p側オーミック電極17が窒化物系半導体レーザ部1の端面まで形成されない素子構造の場合(p側オーミック電極17が素子ごとに離散的に形成されている構造)では、窒化物系半導体レーザ部1を劈開により加工するときに、加工の寸法精度が悪いと、p側オーミック電極17が形成されていない部分で素子が分離できなくなる場合がある。しかし、p側オーミック電極17を実質的に窒化物系半導体レーザ部1の端面まで延びる構造に形成する(p側オーミック電極17を素子間で連続的に形成する)ことにより、加工の寸法精度が悪くても、容易に、窒化物系半導体レーザ部1の構造を劈開により加工・形成することが可能となる。
また、p側オーミック電極17の厚みが100nmを超える大きな厚みの場合には、p側オーミック電極17下の半導体結晶の劈開性が悪く、劈開面に上下方向の凹凸が発生し、平滑面が得られないことが本願発明者により確認されている。したがって、p側オーミック電極17の厚みを約30nm程度(約1nmの厚みを有するPtからなる層と、約30nmの厚みを有するPdからなる層)とすることにより、p側オーミック電極17の厚みが約100nm以上の場合と異なり、複数の窒化物系半導体レーザ部1を劈開する際に、MQW発光層13の端面に、劈開性不良を原因とするnmオーダーの寸法を有する凹凸が形成されるのを抑制し、平坦な端面を得ることが可能となる。
また、p型クラッド層15の上面上、p型クラッド層15のリッジ状に形成されている部分の側面には、SiO2膜18が形成されている。また、p側オーミック電極17およびSiO2膜18の表面上の所定領域には、パッド電極19が形成されている。
また、GaN基板11の下面上には、約6nmの厚みを有するAl膜、約10nmの厚みを有するPd膜および約600nmの厚みを有するAu膜からなるn側オーミック電極20が窒化物系半導体レーザ部1の端面まで延びるように形成されている。なお、n側オーミック電極20は、本発明の「n側電極」の一例である。また、n側オーミック電極20は、GaN基板11の下面の全面に形成されている。これにより、窒化物系半導体レーザ100の放熱性を向上することが可能となる。また、n側オーミック電極20の厚みが約1μmを超える場合には、n側オーミック電極20下のGaN基板11の劈開性が非常に悪く、劈開面に上下方向の凹凸が多数発生し、MQW発光層13の端面までこの凹凸が波及するということが、本願発明者により確認されている。したがって、n側オーミック電極20の厚みを約600nm程度とすることにより、n側オーミック電極20の厚みが約1μm以上の場合と異なり、複数の窒化物系半導体レーザ部1のGaN基板11を劈開してバー状に加工する際に、MQW発光層13の端面に、端面に対してnmオーダーの寸法を有する凹凸が形成されるのを抑制することが可能となる。また、n側オーミック電極20をGaN基板11の下面上の全面に形成することにより、窒化物系半導体レーザ部1を組み立てた後の放熱性能が向上するので、窒化物系半導体レーザ部1の性能を向上することが可能となる。また、n側オーミック電極20は、p側オーミック電極17よりMQW発光層13から離れた位置にあるため、MQW発光層13に対し劈開不良の影響を与えにくいが、n側オーミック電極20の厚みが大きくなるにしたがって、n側オーミック電極20より上の半導体層の劈開時の平坦性を阻害するようになる。具体的には、n側オーミック電極20の厚みが約1μm以上になった場合、MQW発光層13の端面の平坦性に悪影響をおよぼし、凹凸形状になりやすくなる。
また、図1〜図3に示すように、窒化物系半導体レーザ部1の光出射面側には、約100nmの厚みを有するアルミナ(Al2O3)からなる端面コート膜2が形成されている。
また、図1〜図3に示すように、窒化物系半導体レーザ部1の光反射面側には、約60nmの厚みを有するアルミナ(Al2O3)膜3aが形成されている。また、アルミナ膜3aの表面上には、約45nmの厚みを有する酸化チタン(TiO2)膜と約69nmの厚みを有するSiO2膜とが各4層ずつ積層された多層絶縁膜3bが形成されている。また、多層絶縁膜3bの表面上には、約45nmの厚みを有する酸化チタン(TiO2)膜3cが形成されている。アルミナ膜3a、多層絶縁膜3bおよび酸化チタン膜3cによって端面コート膜3が構成されている。
図5〜図12は、それぞれ、本発明の第1実施形態による窒化物系半導体レーザの製造プロセスを説明するための図である。次に、図1〜図12を参照して、第1実施形態による窒化物系半導体レーザ100の製造プロセスについて説明する。
まず、図1および図2に示すように、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)装置を用いて、GaN基板11上に、約1100℃の基板成長温度でAlを約7%含むAlGaNからなるn型クラッド層12を形成する。また、n型クラッド層12の上面上に、約4nmの厚みを有するInを約13%含むInGaNからなる井戸層13aと、約21nmの厚みを有するInを約2%含むInGaNからなる障壁層13bとをそれぞれ3層積層したMQW発光層13を形成する(図4参照)。また、MQW発光層13の上面上に、約100nmの厚みを有するアンドープGaNからなる光ガイド層14を形成する。また、光ガイド層14の上面上に、約1100℃の基板成長温度でAlを約7%含むAlGaNからなるp型クラッド層15を形成する。また、p型クラッド層15の上面上には、約3nmの厚みを有するInを約7%含むInGaNからなるコンタクト層16を形成する。次に、約1nmの厚みを有するPtからなる層と、約30nmの厚みを有するPdからなる層とから、p側オーミック電極17を形成する。
次に、図5に示すように、p側オーミック電極17の上面上に、SiO2膜30を形成する。次に、SiO2膜30の上面上に、レジスト膜31を形成する。この後、図6に示すように、レジスト膜31をマスクとして、ICP(誘導結合型プラズマ: Inductively Coupled Plasma)装置を用いて、SiO2膜30、p側オーミック電極17、コンタクト層16およびp型クラッド層15をエッチングする。このとき、p型クラッド層15は、リッジ状に形成される。この後、レジスト膜31およびSiO2膜30を除去する。
次に、図7に示すように、プラズマCVD法を用いて、約200nmの厚みを有するSiO2膜18をp型クラッド層15の全面、コンタクト層16の側面およびp側オーミック電極17の上面上に形成する。この後、p側オーミック電極17の上部のSiO2膜18をドライエッチングにより開口する。
次に、図8に示すように、SiO2膜18の所定領域と、SiO2膜18の開口により露出したp側オーミック電極17の上面上とに、約30nmの厚みを有するTi膜、約150nmの厚みを有するPd膜および約2μmの厚みを有するAu膜からなるパッド電極19を形成する。なお、パッド電極19は、離散的に形成され、後述するようにパッド電極19を避ける位置に窒化物系半導体レーザ100を劈開する際の劈開線(図10参照)を設定する。
次に、図9に示すように、GaN基板11の下面を研磨することにより、GaN基板11の厚みを約100μmにする。次に、GaN基板11の下面上に、約6nmの厚みを有するAl膜、約10nmの厚みを有するPd膜および約600nmの厚みを有するAu膜からなるn側オーミック電極20を形成する。これにより、窒化物系半導体レーザ部1が形成される。
次に、図10に示すように、リッジストライプ方向(X方向)に連続して配置される複数の窒化物系半導体レーザ部1を劈開により分離する。これにより、図11に示すように、窒化物系半導体レーザ部1が形成される。なお、図示はしないが複数の窒化物系半導体レーザ部1がX方向と垂直な方向にも隣接して形成されている。
次に、図12に示すように、窒化物系半導体レーザ部1の劈開面に対して、RIE(Reactive Ion Etching)法を用いてエッチングを行う。ここで、第1実施形態では、エッチングの際の条件としては、反応ガスのガス圧力を約0.02Paに設定し、電力を約40Wに設定する。このようなエッチング条件により、MQW発光層13では、井戸層13aのInの組成(約13%)よりも障壁層13bのInの組成(約2%)の方が小さいので、障壁層13bの方が多くエッチングされる。これにより、井戸層13aは、障壁層13bに対して約1nm突出する。また、p型クラッド層15およびn型クラッド層12のAlの組成(約7%)が障壁層13bのAlの組成(0%)よりも大きいとともに、p型クラッド層15およびn型クラッド層12のInの組成(0%)が障壁層13bのInの組成(約2%)よりも小さいので、p型クラッド層15およびn型クラッド層12は、障壁層13bよりもエッチングレートが高くなる。これにより、p型クラッド層15およびn型クラッド層12の端面は、MQW発光層13よりも凹んだ構造となる。
次に、図2および図3に示すように、スパッタ法を用いて、窒化物系半導体レーザ部1の光出射面側に、約100nmの厚みを有するアルミナ(Al2O3)からなる端面コート膜2を形成する。
また、スパッタ法を用いて、窒化物系半導体レーザ部1の光反射面側に、約60nmの厚みを有するアルミナ(Al2O3)膜3aを形成する。また、アルミナ膜3aの表面上に、約45nmの厚みを有する酸化チタン(TiO2)膜と、約69nmの厚みを有するSiO2膜とが各4層ずつ積層された多層絶縁膜3bを形成する。また、多層絶縁膜3bの表面上に、約45nmの厚みを有する酸化チタン(TiO2)膜3cを形成する。これにより、アルミナ膜3a、多層絶縁膜3bおよび酸化チタン膜3cからなる端面コート膜3が形成される。
最後に、X方向(図10参照)と垂直な方向に連続的に配置された複数の窒化物系半導体レーザ100を個々に切断することにより、図1に示す窒化物系半導体レーザ100が完成する。
第1実施形態では、上記のように、MQW発光層13の光出射面側および光反射面側の端面が、井戸層13aの端面が凸状であるとともに、障壁層13bの端面が凹状である凹凸形状を有することによって、井戸層13aの端面が突出しているので、MQW発光層13の端面が平坦である場合と異なり、窒化物系半導体レーザ100の端面に流れる電流のうち、井戸層13aの端面に流れる電流を低減することができる。これにより、井戸層13aを含むMQW発光層13の端面付近の発熱を抑制することができるので、MQW発光層13の端面が変質するのを抑制することができる。その結果、MQW発光層13の端面の変質した部分にレーザ光が吸収されることによる変質程度の悪化および変質領域の拡大を抑制することができるので、窒化物系半導体レーザ100を高出力動作させた場合でも、窒化物系半導体レーザ100が劣化するのを抑制することができる。これにより、窒化物系半導体レーザ100の寿命の向上を図ることができる。
また、第1実施形態では、上記のように、MQW発光層13の端面がp型クラッド層15およびn型クラッド層12よりも突出していることによって、p型クラッド層15とn型クラッド層12との間を流れる電流のうち、井戸層13aの端面に流れる電流をより小さくすることができるので、井戸層13aを含むMQW発光層13の端面付近の発熱をより抑制することができる。
また、第1実施形態では、上記のように、井戸層13aのInの組成が10%以上(約13%)であるように構成することによって、たとえばプラズマエッチングによってMQW発光層13の端面を凹凸形状に加工・形成する際に、井戸層13aのInの組成が10%よりも小さい場合に比べて、エッチングのガスの圧力を小さくても加工ダメージによる劣化が抑制され、寿命の長い窒化物系半導体レーザ100を形成することができる。なお、この点は後述する本願発明者による実験3により確認済みである。また、エッチング条件、ガス種、LDエピ構造により、凹凸形状の状況やMQW発光層13へのダメージなどが顕著に異なる。たとえば、エッチングガス圧が高い場合には、副生物のデポのために、所望の凹凸形状が形成されない場合がある。また、ガス圧が低い場合には、井戸層13aおよび障壁層13bともにエッチングが進行し、凹凸が形成されても半導体へのダメージが大きく逆に素子端面の劣化の起点となる場合もある。また、LDエピ構造において、井戸層13aのIn組成が小さい場合には、低エネルギーのエッチングでもダメージの影響を受けやすく劣化の原因となりやすい。たとえば、井戸層13aのIn組成を5%とした場合、エッチング条件の調整により、1nm程度の凹凸を形成することが可能であるが、エッチング時間の増加によるMQW発光層13へのダメージが増加することにより、MQW発光層13が劣化しやすくなる。一方、In組成が高い場合には、井戸層13aの中でのIn組成が不均一になり、井戸層13aの中に局在準位が形成され、注入されたキャリアは結晶欠陥に捕まる前にこの局在準位に捕まり輻射的に再結合する。これにより、結晶欠陥の影響を受けにくくなるので、端面付近でのダメージに対して非発光再結合の確率を低減し、端面の温度の上昇を抑制する。したがって、端面の温度上昇を抑制することにより、MQW発光層13の端面の変質が防止できるので、窒化物系半導体レーザ100の劣化が抑制され、寿命が向上する。
また、第1実施形態では、上記のように、井戸層13aの厚みが5nm以下(約4nm)であるように構成することによって、容易に、寿命の長い窒化物系半導体レーザ100を形成することができる。なお、この点は後述する本願発明者による実験5により確認済みである。
また、第1実施形態では、上記のようにp側オーミック電極17およびn側オーミック電極20を実質的に窒化物系半導体レーザ部1の端面まで延びるように形成することによって、p側オーミック電極17およびn側オーミック電極20が窒化物系半導体レーザ部1の端面まで延びるように形成されていない場合と異なり、p側オーミック電極17とn側オーミック電極20との間の電流通過領域が広いので、発光領域も広くすることができる。これにより、同一電流密度という条件における窒化物系半導体レーザ100の発光量を大きくすることができる。すなわち、電流密度が大きくなると、窒化物系半導体レーザ100の劣化が促進されるが、上記のようにp側オーミック電極17およびn側オーミック電極20を構成することにより、劣化が少なく、かつ、高出力の窒化物系半導体レーザ100を形成することができる。
(第2実施形態)
図13は、本発明の第2実施形態による窒化物系半導体レーザの構造を説明するための斜視図である。図14は、図13の210−210線に沿った断面図である。図15は、図13に示した第2実施形態による窒化物系半導体レーザの平面図である。図4および図13〜図15を参照して、この第2実施形態では、上記第1実施形態と異なり、ECRプラズマによってMQW発光層13の端面に凹凸を形成する場合について説明する。
本発明の第2実施形態による窒化物系半導体レーザ101は、図13〜図15に示すように、窒化物系半導体レーザ部1と、窒化物系半導体レーザ部1の一方の端面である光出射面に形成される端面コート膜5と、もう一方の端面である光反射面に形成される端面コート膜6とによって構成されている。なお、端面コート膜5および端面コート膜6は、後述するコンタクト層16、p側オーミック電極17およびSiO2膜18のリッジ状の端部上にも形成されている。
図13および図14に示すように、窒化物系半導体レーザ部1には、n型のGaN基板11の上面上に、Alを約7%含むAlGaNからなるn型クラッド層12が形成されている。また、n型クラッド層12の上面上には、MQW(多重量子井戸)発光層13が形成されている。なお、MQW発光層13は、本発明の「発光層」の一例である。また、MQW発光層13は、図4に示すように、GaN基板11側から約4nmの厚みを有するInを約8%含むInGaNからなる井戸層13aと、約20nmの厚みを有するInを約2%含むInGaNからなる障壁層13bとをそれぞれ3層積層した構造となっている。ここで、第2実施形態では、井戸層13aの端面は、凸状に形成されているとともに、障壁層13bの端面は凹状に形成されている。なお、井戸層13aは、障壁層13bに対して約1nm突出している。また、第2実施形態では、MQW発光層13は、後述するp型クラッド層15およびn型クラッド層12に対して、約1nm突出している。
また、MQW発光層13の上面上には、約100nmの厚みを有するアンドープGaNからなる光ガイド層14が形成されている。また、光ガイド層14の上面上には、Alを約7%含むAlGaNからなるp型クラッド層15が形成されている。なお、p型クラッド層15は、第1実施形態と同様に、リッジ状に形成されている(図5〜図9参照)。また、p型クラッド層15の上面上には、約3nmの厚みを有するInを約7%含むInGaNからなるコンタクト層16が形成されている。
また、コンタクト層16の上面上には、約1nmの厚みを有するPtからなる層と、約30nmの厚みを有するPdからなる層とから形成されるp側オーミック電極17が形成されている。なお、p側オーミック電極17は、本発明の「p側電極」の一例である。ここで、第2実施形態では、p側オーミック電極17は、実質的に窒化物系半導体レーザ部1の端面まで延びるように形成されている。たとえば、p側オーミック電極17が窒化物系半導体レーザ部1の端面まで形成されない素子構造の場合(p側オーミック電極17が素子ごとに離散的に形成されている構造)では、窒化物系半導体レーザ部1を劈開により加工するときに、加工の寸法精度が悪いと、p側オーミック電極17が形成されていない部分で素子が分離できなくなる場合がある。しかし、p側オーミック電極17を実質的に窒化物系半導体レーザ部1の端面まで延びる構造に形成する(p側オーミック電極17を素子間で連続的に形成する)ことにより、加工の寸法精度が悪くても、容易に、窒化物系半導体レーザ部1の構造を劈開により加工・形成することが可能となる。
また、p側オーミック電極17の厚みが100nmを超える大きな厚みの場合には、p側オーミック電極17下の半導体結晶の劈開性が悪く、平滑面が得られないことが本願発明者により確認されている。したがって、p側オーミック電極17の厚みを約30nm程度とすることにより、p側オーミック電極17の厚みが約100nm以上の場合と異なり、複数の窒化物系半導体レーザ部1を劈開する際に、MQW発光層13の端面に、端面に対してnmオーダーの寸法を有する凹凸が形成されるのを抑制することが可能となる。
また、p型クラッド層15の上面上、p型クラッド層15のリッジ状に形成されている部分の側面には、SiO2膜18が形成されている。また、p側オーミック電極17およびSiO2膜18の表面上の所定領域には、パッド電極19が形成されている。
また、GaN基板11の下面上には、約6nmの厚みを有するAl膜、約10nmの厚みを有するPd膜および約600nmの厚みを有するAu膜からなるn側オーミック電極20が窒化物系半導体レーザ部1の端面まで延びるように形成されている。なお、n側オーミック電極20は、本発明の「n側電極」の一例である。また、n側オーミック電極20は、GaN基板11の下面の全面に形成されている。これにより、窒化物系半導体レーザ101の放熱性を向上することが可能となる。また、n側オーミック電極20の厚みが約1μmを超える場合には、n側オーミック電極20下のGaN基板11の劈開性が非常に悪く、劈開面に上下方向の凹凸が多数発生し、MQW発光層13の端面までこの凹凸が波及するということが、本願発明者により確認されている。したがって、n側オーミック電極20の厚みを約600nm程度とすることにより、n側オーミック電極20の厚みが約1μm以上の場合と異なり、複数の窒化物系半導体レーザ部1のGaN基板11を劈開してバー状に加工する際に、MQW発光層13の端面に、nmオーダーの寸法を有する凹凸が形成されるのを抑制することが可能となる。
また、図13〜図15に示すように、窒化物系半導体レーザ部1の光出射面側には、約150nmの厚みを有するアルミナ(Al2O3)からなる端面コート膜5が形成されている。
また、図13〜図15に示すように、窒化物系半導体レーザ部1の光反射面側には、約100nmの厚みを有するアルミナ(Al2O3)膜6aが形成されている。また、アルミナ膜6aの表面上には、約45nmの厚みを有する酸化チタン(TiO2)膜と約70nmの厚みを有するSiO2膜とが各5層ずつ積層された多層絶縁膜6bが形成されている。アルミナ膜6aおよび多層絶縁膜6bによって端面コート膜6が構成されている。
次に、図5〜図15を参照して、第2実施形態による窒化物系半導体レーザ101の製造プロセスについて説明する。
まず、図13および図14に示すように、MOCVD装置を用いて、GaN基板11上に、約1100℃の基板成長温度でAlを約7%含むAlGaNからなるn型クラッド層12を形成する。また、n型クラッド層12の上面上に、約850℃の基板成長温度で約4nmの厚みを有するInを約8%含むInGaNからなる井戸層13aと、約20nmの厚みを有するInを約2%含むInGaNからなる障壁層13bとをそれぞれ3層積層したMQW発光層13を形成する(図4参照)。また、MQW発光層13の上面上に、約100nmの厚みを有するアンドープGaNからなる光ガイド層14を形成する。また、光ガイド層14の上面上には、約1100℃の基板成長温度でAlを約7%含むAlGaNからなるp型クラッド層15を形成する。また、p型クラッド層15の上面上には、約3nmの厚みを有するInを約7%含むInGaNからなるコンタクト層16を形成する。
なお、p型クラッド層15をリッジ状に形成する工程、パッド電極19を形成する工程、複数の窒化物系半導体レーザ部1のGaN基板11を劈開してバー状に加工する工程およびn側オーミック電極20を形成する工程は、図5〜図11に示す、上記第1実施形態と同様である。
次に、第2実施形態では、図12に示すように、窒化物系半導体レーザ部1の劈開面に対して、ECR(Electron Cyclotron Resonance)プラズマをプラズマ源とするエッチングを行う。具体的には、ECR−スパッタ成膜装置を用いる。ここで、第2実施形態では、反応ガスとして、窒素ガスを用いるとともに、ガス圧力を約0.02Paに設定し、マイクロ波電力を約500Wに設定することによりECRプラズマを発生させる。なお、スパッタターゲットへの交流電源の印加は行わない。この後、プラズマ源と試料ホルダとの間に設けられたシャッタを開けてECRプラズマを照射することにより、窒化物系半導体レーザ部1の劈開面に対して約5分間エッチングを行う。このようなエッチングにより、MQW発光層13では、井戸層13aのInの組成(約8%)よりも障壁層13bのInの組成(約2%)の方が小さいので、障壁層13bの方が多くエッチングされる。これにより、井戸層13aは、障壁層13bに対して約1nm突出する。また、第2実施形態では、p型クラッド層15およびn型クラッド層12のAlの組成(約7%)が、障壁層13bのAlの組成(0%)よりも大きいとともに、p型クラッド層15およびn型クラッド層12のInの組成(0%)が、障壁層13bのInの組成(約2%)よりも小さいので、p型クラッド層15およびn型クラッド層12は、障壁層13bよりもエッチングレートが高くなる。これにより、p型クラッド層15およびn型クラッド層12は、MQW発光層13よりも凹んだ構造となる。
具体的な端面コート膜6の形成は、以下の手順によって行う。窒化物系半導体レーザ部1の光出射面側に上記ECRプラズマエッチングを行い、端面に凹凸を形成した後に、図13および図14に示すように、ECRスパッタ法を用いて、窒化物系半導体レーザ部1の光出射面側に、約150nmの厚みを有するアルミナ(Al2O3)からなる端面コート膜5を形成する。
また、窒化物系半導体レーザ部1の光反射面側に上記ECRプラズマエッチングを行い端面に凹凸形状を形成した後に、ECRスパッタ法を用いて、窒化物系半導体レーザ部1の光反射面側に、約100nmの厚みを有するアルミナ(Al2O3)膜6aを形成する。また、アルミナ膜6aの表面上に、約45nmの厚みを有する酸化チタン(TiO2)膜と、約70nmの厚みを有するSiO2膜とが各5層ずつ積層された多層絶縁膜6bを形成する。アルミナ膜6aおよび多層絶縁膜6bによって端面コート膜6が構成されている。
最後に、隣接した複数の窒化物系半導体レーザ101を個々に切断することにより、図13〜図15に示す窒化物系半導体レーザ101が完成する。
第2実施形態では、上記のように、ECRプラズマをプラズマ源とするエッチングの雰囲気ガスは、窒素を主体とする不活性ガスであり、エッチングのガス圧力は、0.015Pa以上0.08Pa以下(約0.02Pa)であるように構成することによって、容易に、寿命の長い窒化物系半導体レーザ101を形成することができる。なお、この点は後述する本願発明者による実験1により確認済みである。
(実験1)
次に、図16を参照して、プラズマエッチングにおけるガス圧力と窒化物系半導体レーザ101の素子寿命との関係を確認するために行った実験1について説明する。なお、実験1に用いられたサンプルの構造は、図4および図13〜図15に示す窒化物系半導体レーザ101と同様である。この実験1では、井戸層13aは、約4nmの厚みを有するInを約9%含むInGaNから形成されている。また、窒化物系半導体レーザ部1の劈開面に対して、ECRプラズマをプラズマ源として約5分間エッチングを行った。これにより、MQW発光層13の井戸層13aは凸状に形成されるとともに、障壁層13bは凹状に形成される。なお、窒化物系半導体レーザ101は、100mW連続出力で動作させた。
図16に示すように、ガス圧力が0.015Pa以上0.08Pa以下の範囲では、窒化物系半導体レーザ101の素子寿命は、5000時間以上になった。また、ガス圧力が0.015Paより小さい場合と、0.08Paより大きい場合とでは、窒化物系半導体レーザ101の素子寿命は、5000時間以下となった。また、ガス圧力が高くなるにしたがって素子寿命は短くなった。この理由としては、窒化物系半導体レーザ101の劈開面に、エッチングされた物とガスとが反応することにより生成される副生物が堆積しやすくなり、MQW発光層13の端面に凹凸形状が形成されないためであると考えられる。また、ガス圧力が小さい場合は、プラズマのエネルギーが大きくなるので、MQW発光層13の井戸層13aへのダメージが大きくなり、MQW発光層13の端面が凹凸形状に形成されていても窒化物系半導体レーザ101の素子寿命が短くなると考えられる。
(実験2)
次に、図17を参照して、エージング時間と窒化物系半導体レーザ101の素子寿命との関係を確認するために行った実験2について説明する。なお、実験2に用いられたサンプルの構造は、図4および図13〜図15に示す窒化物系半導体レーザ101と同様である。この実験2では、井戸層13aは、約4nmの厚みを有するInを約13%含むInGaNから形成されている。また、窒化物系半導体レーザ部1の劈開面に対して、ECRプラズマをプラズマ源とするエッチングを行った。また、反応ガスとして、窒素ガスを用いるとともに、ガス圧力を約0.015Paに設定し、約5分間エッチングを行った。これにより、MQW発光層13の井戸層13aは凸状に形成されるとともに、障壁層13bは凹状に形成される。また、比較例として、MQW発光層の端面が凹凸形状に形成されない素子を用意した(図示せず)。なお、窒化物系半導体レーザ101は、100mW連続出力で動作させた。
図17に示すように、MQW発光層の端面が凹凸形状に形成されない比較例では、1000時間未満で素子が破壊されたのに対して、MQW発光層13の端面に凹凸形状を有する本発明では、エージング時間が5000時間を越えても素子は破壊されなかった。これにより、MQW発光層13の端面に凹凸形状を形成することによって、素子の寿命が長くなることが確認された。
(実験3)
次に、図18を参照して、エッチングのガス圧力と井戸層13aのInの組成とを変化させたときの窒化物系半導体レーザ101の素子寿命の変化を確認するために行った実験3について説明する。なお、実験3に用いられたサンプルの構造は、図4および図13〜図15に示す窒化物系半導体レーザ101と同様である。この実験3では、井戸層13aは、約4nmの厚みを有するInGaNから形成されている。また、窒化物系半導体レーザ部1の劈開面に対して、ECRプラズマをプラズマ源として、反応ガスとして窒素ガスを用いて、約5分間エッチングを行った。これにより、MQW発光層13の井戸層13aは凸状に形成されるとともに、障壁層13bは凹状に形成される。なお、窒化物系半導体レーザ101は、100mW連続出力で動作させた。
図18に示すように、ガス圧力が0.015Pa以上0.08Pa以下の条件で形成された窒化物系半導体レーザ101の素子寿命は、5000時間以上であることが判明した。また、ガス圧力が0.015Pa未満でも、井戸層13aのInの組成が10%以上であれば、窒化物系半導体レーザ101の素子寿命は、5000時間以上であることが判明した。なお、井戸層13aのInの組成が10%以上であれば、窒化物系半導体レーザ101の素子寿命が5000時間以上であることは、後述する実験4によって確認されている。
(実験4)
次に、図19を参照して、井戸層13aのInの組成と窒化物系半導体レーザ101の素子寿命との関係を確認するために行った実験4について説明する。なお、実験4に用いられたサンプルの構造は、図4および図13〜図15に示す窒化物系半導体レーザ101と同様である。この実験4では、窒化物系半導体レーザ部1の劈開面に対して、ECRプラズマをプラズマ源とするプラズマエッチングを行った。また、反応ガスとして窒素ガスを用いるとともに、ガス圧力を約0.01Paに設定し、約5分間エッチングを行った。これにより、MQW発光層13の井戸層13aは凸状に形成されるとともに、障壁層13bは凹状に形成される。なお、窒化物系半導体レーザ101は、100mW連続出力で動作させた。
図19に示すように、井戸層13aのInの組成が10%以上の条件で形成された窒化物系半導体レーザ101の素子寿命は、5000時間以上であることが判明した。また、井戸層13aのInの組成が10%以上であれば、窒化物系半導体レーザ101の素子寿命が長くなる理由として、井戸層13aの端面でエッチングダメージが発生し、欠陥準位が増加しても井戸層13aのInの組成が高いことによって、InGaN中のInの組成が不均一になり、InGaN中に局在準位が形成されるので、電子がこの局在準位に捕えられて発光する確率が増えるため、欠陥準位による非発光再結合とそれに伴う発熱が抑制されたと考えられる。
(実験5)
次に、図20を参照して、井戸層13aの厚みと窒化物系半導体レーザ101の素子寿命との関係を確認するために行った実験5について説明する。なお、実験5に用いられたサンプルの構造は、図4および図13〜図15に示す窒化物系半導体レーザ101と同様である。この実験5では、井戸層13aのInの組成が約13%である窒化物系半導体レーザ部1の劈開面に対して、ECRプラズマをプラズマ源とするエッチングを行った。また、反応ガスとして窒素ガスを用いるとともに、ガス圧力を約0.015Paに設定し、約5分間エッチングを行った。これにより、MQW発光層13の井戸層13aは凸状に形成されるとともに、障壁層13bは凹状に形成される。なお、窒化物系半導体レーザ101は、100mW連続出力で動作させた。
図20に示すように、井戸層13aの厚みが5nm以下の窒化物系半導体レーザ101の素子寿命は、5000時間以上であることが判明した。
上記実験1〜実験5により、井戸層のInの組成が10%以上、井戸層の厚みが5nm以下、かつ、ガス圧力が0.015Pa以上0.08Pa以下の条件により、窒化物系半導体レーザの素子寿命が、5000時間以上になることが確認された。
また、ECRで形成したプラズマは、低エネルギー(数十eV)でも高密度であるので、MQW発光層に対して低いダメージで凹凸を形成するのに有利である。また、エッチング後、同一装置内でECRプラズマを用いた成膜も行う場合には、凹凸を形成した直後に大気に開放することがないので、表面に吸着物が無い状態で端面コート膜を成膜することが可能となる。これにより、端面コート膜と半導体との界面の表面準位を低減することが可能となるので、窒化物系半導体レーザが劣化するのを抑制することが可能となる。
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
たとえば、上記第1および第2実施形態では、半導体レーザ素子部に端面コート膜を形成する例を示したが、本発明はこれに限らず、端面コート膜を形成しなくてもよい。
また、上記第1および第2実施形態では、MQW発光層の端面がp型クラッド層およびn型クラッド層よりも突出している例を示したが、本発明はこれに限らず、MQW発光層の端面がp型クラッド層およびn型クラッド層の少なくとも一方より突出していればよい。
また、上記第1実施形態では、MQW発光層の井戸層のInの組成を約13%とする例を示したが、本発明はこれに限らず、Inの組成が10%以上であればよい。
また、上記第2実施形態では、ECRプラズマエッチングを行うときのガス圧力を約0.02Paに設定する例を示したが、本発明はこれに限らず、ガス圧力が0.015Pa以上0.08Pa以下であればよい。
また、上記第1および第2実施形態では、p側オーミック電極およびn側オーミック電極が実質的に窒化物系半導体レーザの端面まで延びるように形成されている例を示したが、本発明はこれに限らず、p側オーミック電極およびn側オーミック電極の少なくとも一方が実質的に窒化物系半導体レーザの端面まで延びるように形成されていればよい。
また、上記第2実施形態では、ECRプラズマをプラズマ源とするエッチングによってMQW発光層の端面に凹凸形状を形成する例を示したが、本発明はこれに限らず、マイクロ波プラズマ、誘導結合型プラズマまたは容量結合型プラズマをプラズマ源とするエッチングを行ってもよい。
また、上記第2実施形態では、ECRプラズマをプラズマ源とするエッチングの雰囲気ガスとして窒素を用いる例を示したが、本発明はこれに限らず、Arを用いてもよい。
また、上記第2実施形態では、ECRプラズマエッチングを行う装置としてECR−スパッタ装置を用いる例を示したが、本発明はこれに限らず、ECR−CVD成膜装置を用いてもよい。
また、上記第1実施形態および第2実施形態では、MQW発光層の端面の凹凸の高さは約1nmである例を示したが、本発明はこれに限らず、ダメージの低いエッチングであれば、凹凸が大きいほど効果的であるが、Å(0.1nm)レベルの凹凸であっても井戸層が凸であるとともに、障壁層が凹という形状になっていれば有意な素子寿命延長効果を得ることが可能となる。