以下、図1〜図10を参照して、本発明に係る筒内圧センサの出力特性検出装置及び出力補正装置を具体化した一実施形態について説明する。なお、本実施形態のシステムは、コモンレール式の燃料噴射装置を備えたディーゼルエンジンを制御対象にするエンジン制御システムである。本実施形態の検出装置及び補正装置は、いずれもこのシステムに搭載され、同システムでは、これらの装置により、制御対象とするエンジンの各シリンダにそれぞれ設けられて燃焼室の圧力(筒内圧力)を検出する筒内圧センサの各々を対象にして、それら各センサの出力特性を検出する。そして、その検出した出力特性に基づいて各センサの出力を補正する。
まず図1を参照して、本実施形態に係るエンジン制御システムの概略構成について説明する。図中の信号線は配線レイアウトに相当する。なお、このシステムの制御対象とするエンジン(図中のエンジン10)としては、4輪自動車(例えばAT車)に搭載される多気筒(例えば直列4気筒)エンジンを想定している。ただし、この図1においては、説明の便宜上、1つのシリンダ(図中のシリンダ20)のみを図示している。このエンジン10は、4ストローク(4×ピストン行程)のレシプロ式ディーゼルエンジン(内燃機関)である。すなわちこのエンジン10では、吸排気弁21,22のカム軸(図示略)に設けられた気筒判別センサ(電磁ピックアップ)にてその時の対象シリンダが逐次判別され、例えば図中のシリンダ20をシリンダ#1とする4つのシリンダ#1〜#4について、それぞれ吸入・圧縮・燃焼・排気の4行程による1燃焼サイクルが「720°CA」周期で、詳しくは例えば各シリンダ間で「180°CA」ずらして、シリンダ#1,#3,#4,#2の順に逐次実行される。これら4つのシリンダ#1〜#4の構成は基本的には同様の構成となっているため、ここでは1つのシリンダ20に注目して、当該システムについての説明を行う。
同図1に示されるように、このシステムは、シリンダ20内での燃焼を通じて生成したトルクにより出力軸であるクランク軸10a(図示部分はクランク軸に装着されたパルサ歯車)を回転させるエンジン10を制御対象として、該エンジン10を制御するための各種センサ及びECU(電子制御ユニット)70等を有して構築されている。以下、制御対象のエンジン10をはじめとするこのシステムを構成する各要素について詳述する。
ここで制御対象とされるエンジン10(ディーゼルエンジン)は、基本的には、シリンダブロック20aとシリンダヘッド20bとによりシリンダ(気筒)20が形成されて構成されている。シリンダブロック20aには、冷却水がエンジン10内を循環するための冷却水路(ウォータジャケット)21aと、同水路21a内の冷却水の温度(冷却水温)を検出する水温センサ21bと、が設けられており、その冷却水によりエンジン10が冷却されている。また、シリンダ20内には、ピストン20cが収容され、そのピストン20cの往復動により、エンジン10の出力軸であるクランク軸10aが回転するようになっている。なお、クランク軸10aの外周側には、所定クランク角毎に(例えば30°CA周期で)クランク角信号を出力するクランク角センサ10b(例えば電磁ピックアップ)が配設され、同クランク軸10a(エンジン出力軸)の回転角度位置や回転速度(エンジン回転速度)等が検出可能とされている。
シリンダブロック20a上端面に固定されるシリンダヘッド20bと、シリンダ20内のピストン20c冠面との間には、燃焼室20dが形成されている。シリンダヘッド20bには、燃焼室20dに開口する吸気ポート(吸気口)11と排気ポート(排気口)12とが例えば1つのシリンダに対して2つずつ(計4ポート)形成されている。そして、これら吸気ポート11及び排気ポート12が、それぞれ図示しないカム(詳しくはクランク軸10aと連動するカム軸に取り付けられたカム)によって駆動される吸気弁(吸気バルブ)21と排気弁(排気バルブ)22とにより開閉されるようになっている。さらに、これら各ポートを通じてシリンダ20内の燃焼室20dと車外(外気)とを連通可能にすべく、吸気ポート11には、シリンダ20に外気(新気)を吸入するための吸気管30(吸気通路)が接続され、排気ポート12には、各シリンダから燃焼ガス(排気)を排出するための排気管40(排気通路)が接続されている。
エンジン10の吸気系を構成する吸気管30には、最上流部のエアクリーナ(図示略)を通じて空気中の異物が除去されつつ新気が吸入され、エアクリーナの下流側には、その新気の流量(新気量)を電気信号として検出するエアフロメータ31(例えばホットワイヤ式エアフロメータ)が設けられている。また、このエアフロメータ31の近傍には、吸入空気の圧力を検出する吸気圧センサ32が設けられている。さらに、これらエアフロメータ31及び吸気圧センサ32よりも下流側には、過給用の吸気コンプレッサ50a(詳しくは後述)と、DCモータ等のアクチュエータによって電子的に開度調節される電子制御式のスロットル弁33(吸気絞り弁)と、このスロットル弁33の開度(スロットル弁開度)や動き(開度変動)を検出するためのスロットル開度センサ33aとが設けられている。
他方、エンジン10の排気系を構成する排気管40には、過給用の排気タービン50b(詳しくは後述)と、排気浄化装置としての酸化触媒44及びDPF(Diesel Particulate Filter)45とが配設されている。また、同DPF45の上流及び下流側近傍には、それぞれ排気温度センサ43a,43bが設けられている。これらセンサ43a,43bは、例えば再生処理時においてDPF45の中心温度を求めるためなどに用いられる。
ここで、上記DPF45は、排気中のPM(Particulate Matter、粒子状物質)を捕集する連続再生式のPM除去用フィルタであり、例えば出力トルクを主に生成するための燃料噴射であるメイン噴射後のポスト噴射等で捕集PMを繰り返し燃焼除去する(再生処理に相当)ことにより継続的に使用することができるものである。また、同DPF45は、例えばコーディエライト等の耐熱性セラミックにより、図示しない白金系の酸化触媒を担持しており、PM成分の1つである可溶性有機成分(SOF)と共に、HCやCOを除去することができるようになっている。
また、このDPF45を備える排気管40には、DPF45入口付近の圧力とDPF45出口付近の圧力との差圧を検出する差圧センサ46がさらに設けられている。この差圧センサ46により検出される差圧は、上記DPF45による圧力損失に相当し、上記PM捕集によるDPF45の目詰まりの度合を示すものとなる。このため、この差圧を参照することにより、上記DPF45にて捕集されたPMの量(PM捕集量)を検出することが可能になる。
さらに上記酸化触媒44の上流側近傍には、リニア検出式の酸素濃度センサであるA/Fセンサ42が設けられている。そして、このセンサ42の出力は、例えばEGR制御などに用いられる。
一方、このシステムの燃料供給系においては、燃料供給方式として筒内噴射式を採用している。すなわち、シリンダ20内において燃焼室20dには、図示しないコモンレール(蓄圧配管)から供給された高圧燃料(例えば噴射圧力「1000気圧」以上の軽油)を、同燃焼室20d内へ直接的に噴射供給する電磁駆動式の燃料噴射弁としてのインジェクタ15が、さらに設けられている。そして、エンジン10においては、こうしたインジェクタの開弁駆動により各シリンダに対して所要の量の燃料が随時噴射供給されている。すなわち、エンジン10の運転時には、吸気弁21の開動作により吸入空気が吸気管30からシリンダ20の燃焼室20d内へ導入され、これがインジェクタ15から噴射供給された燃料と混ざり、混合気の状態でシリンダ20内のピストン20cにより圧縮されて着火(自己着火)、燃焼し、排気弁22の開動作により燃焼後の排気が排気管40へ排出されることになる。
また燃焼室20dには、同燃焼室20d内に位置する検出部(燃焼室20d内に差し込まれたプローブの先端部)にてシリンダ20内の圧力(筒内圧力)を測定してその測定値に対応した検出信号(電気信号)を出力する筒内圧センサ18が、例えば着火補助装置としてのグロープラグと一体にして設けられている(詳しくはシリンダヘッド20bに固定されている)。そしてこれにより、シリンダ20内における燃焼状態の把握、すなわち着火時期や燃焼温度の推定、さらにはノッキング検出、燃焼圧のピーク位置検出、失火検出等が可能とされている。なお、この筒内圧センサ18は、前述した簡易センサに相当するものである。また、上記インジェクタ15と同様、この筒内圧センサ18も、エンジン10の各シリンダ(4つ全て)の各燃焼室に対して、それぞれ設けられている。
さらに、このシステムにおいて、吸気管30と排気管40との間にはターボチャージャが配設されている。このターボチャージャは、いわゆる可変ノズル式のターボチャージャであり、吸気管30の中途に設けられた吸気コンプレッサ50aと、排気管40の中途に設けられた排気タービン50bとを有し、これらコンプレッサ50a及びタービン50bが、図示しないシャフトにて連結されている。すなわち、排気管40を流れる排気によって排気タービン50bが回転し、その回転力がシャフトを介して吸気コンプレッサ50aへ伝達され、この吸気コンプレッサ50aにより、吸気管30内を流れる空気が圧縮されて過給が行われる。またここで、排気タービン50bは、周知の弁機構からなる可変ノズル機構50cを備え、この可変ノズル機構50cの開閉動作に応じて排気流路の面積が変化することで、同タービン50bにぶつかる排気の流速、ひいては同タービン50bの回転速度も変化するようになっている。このターボチャージャでは、こうした可変ノズル機構50cに対する指令値に基づき、排気タービン50bの回転速度を制御して、このタービン50bの回転に応じた吸気コンプレッサ50aの回転による過給量を可変制御する(ノズルを絞るほど過給量は多くなる)ことができるようになっている。そしてこの過給により、各シリンダに対する吸入空気の充填効率が高められることになる。なお、必要に応じて、吸入空気を冷却するインタクーラ等も、吸気管30に対して設けられる。
またさらに、排気の一部をEGR(Exhaust Gas Recirculation)ガスとして吸気系に還流させるためのEGR装置も、同じく吸気管30と排気管40との間に配設されている。このEGR装置は、基本的には、吸気管30と排気管40とを連通するように設けられたEGR配管60aと、吸気管30のスロットル弁33よりも排気下流側に設けられた電磁弁等からなるEGR弁60bと、によって構成されている。そして、EGR弁60bのバルブ開度により、EGR配管60aの通路面積、ひいてはEGR率(排気全体に対してシリンダに戻されるEGRガスの占める割合)が調節可能とされている。ちなみに、この調整は、上記A/Fセンサ42の出力に基づいて行われ、例えばEGR弁60bが全閉された状態では、EGR配管60aが遮断され、EGR量は「0」となる。また必要に応じて、EGRガスを冷却するEGRクーラ等も、EGR配管60aに対して設けられる。このEGR装置では、こうした構成に基づき、EGR配管60aを通じて排気の一部を吸気系に再循環することにより燃焼温度を下げてNOxの発生を低減している。
さらに、上記エンジン10を動力に利用して走行する図示しない車両(例えば4輪乗用車又はトラック等)には、上記各センサの他にも、車両制御のための各種のセンサが設けられている。例えば運転者の要求トルクを車両側に知らせるための運転操作部に相当するアクセルペダルには、同ペダルの状態(変位量)に応じた電気信号を出力するアクセルセンサ71が、運転者によるアクセルペダルの操作量(踏み込み量)を検出するために設けられている。
こうしたシステムの中で、本実施形態の検出装置及び補正装置として機能するとともに、電子制御ユニットとして主体的にエンジン制御を行う部分がECU70である。このECU70(エンジン制御用ECU)は、周知のマイクロコンピュータ(図示略)を備えて構成され、上記各種センサの検出信号に基づいてエンジン10の運転状態やユーザの要求を把握し、それに応じて上記スロットル弁33やインジェクタ15等の各種アクチュエータを操作することにより、その時々の状況に応じた最適な態様で上記エンジン10に係る各種の制御を行っている。例えばエンジン10の定常運転時には、上記各センサの検出信号に基づいて、各種の燃焼条件(例えば噴射時期や燃料噴射量等)を算出するとともに、各種アクチュエータを操作することで、上記各シリンダ内(燃焼室)での燃料燃焼を通じて生成される図示トルク(生成トルク)、ひいては実際に出力軸(クランク軸10a)へ出力される軸トルク(出力トルク)を制御する。なお本実施形態の制御システムでも、周知のディーゼルエンジン用システムと同様、定常運転時には、新気量増大やポンピングロス低減等の目的で、同エンジン10の吸気通路(吸気管30)に設けられた吸気絞り弁(スロットル弁33)が略全開状態に保持される。したがって、定常運転時の燃焼制御(特にトルク調整に係る燃焼制御)としては燃料噴射量のコントロールが主となっている。
またここで、ECU70に搭載されるマイクロコンピュータは、基本的には、各種の演算を行うCPU(基本処理装置)、その演算途中のデータや演算結果等を一時的に記憶するメインメモリとしてのRAM(Random Access Memory)、プログラムメモリとしてのROM(読み出し専用記憶装置)、データ保存用メモリとしてのEEPROM(電気的に書換可能な不揮発性メモリ)やバックアップRAM(ECUの主電源停止後も車載バッテリ等のバックアップ電源により常時給電されているメモリ)、さらにはA/D変換器やクロック発生回路等の信号処理装置、外部との間で信号を入出力するための入出力ポート等といった各種の演算装置、記憶装置、信号処理装置、通信装置、及び電源回路等によって構成されている。そして、ROMには、当該センサの出力特性検出及び出力補正に係るプログラムを含めたエンジン制御に係る各種のプログラムや制御マップ等が、またデータ保存用メモリ(例えばEEPROM)には、エンジン10の設計データをはじめとする各種の制御データ等が、それぞれ予め格納されている。
ところで、本実施形態の装置も、前述した特許文献1に記載の装置と同様、所定の圧力検出タイミングで、筒内圧力(特許文献1の装置でいえば出力値Sr1,Sr2に相当)を検出するとともに、その検出した筒内圧力の検出値に基づいて、筒内圧センサ18(対象センサ)の出力特性を示すゲイン及びオフセットを推定するものである。そして、その検出した出力特性に基づいて、上記筒内圧センサ18の出力補正を行うようにしている。ただし本実施形態では、所定のパラメータ(参照パラメータ)、詳しくは燃料燃焼の着火時期を予測するパラメータに基づいて、上記圧力検出タイミングの1つを可変設定するようにしている。
次に、図2〜図10を併せ参照して、本実施形態に係る筒内圧センサ18の出力補正の一態様について説明する。なお、ここでは一例として、同センサ18の出力を燃料噴射時期の補正に適用した場合について説明する。
図2は、その燃料噴射時期補正の処理手順を示すフローチャートである。なお、この一連の処理は、基本的には、ECU70でROMに記憶されたプログラムが実行されることにより、エンジン10の各シリンダについてそれぞれ1燃焼サイクルにつき1回の頻度で順に実行される。また、この処理において用いられる各種パラメータの値は、例えば上記ECU70に搭載されたRAMやEEPROM、あるいはバックアップRAM等の記憶装置に随時記憶され、必要に応じて随時更新される。
同図2に示されるように、この制御においては、まず、ステップS1で、筒内圧センサ18の出力特性の算出に用いるクランク角度θ1,θ2(圧力検出タイミング)を設定する。この設定に際しては、角度θ1を固定値(例えば圧縮行程初期に設定)として、角度θ2を可変値として設定するようにしている。図3に、この角度θ2の設定手順をフローチャートとして示す。以下、この図3を参照して、この角度θ2の設定に係る一連の処理について説明する。
同図3に示されるように、この角度θ2の設定に際しては、まず、ステップS101で、所定のパラメータ、例えばその時のエンジン回転速度(クランク角センサ10bによる実測値)及び燃料噴射量(別ルーチンで設定される上記インジェクタ15の通電時間)を取り込む。次いで、ステップS102で、このステップS101で取り込んだエンジン回転速度及び燃料噴射量に基づいて、1燃焼サイクル中における最先の噴射に係る目標着火時期θignを設定する。なお、この目標着火時期θignは、これから制御しようとする着火時期の目標値、すなわち燃料燃焼の着火時期を予測するパラメータに相当し、例えば所定のマップを参照することにより、上記各パラメータに応じた最適な時期が設定される。また、この時期θignの単位はATDC(上死点後)であり、TDC(上死点)よりも進角側は「負」の符号を、遅角側は「正」の符号をとる。
次に、ステップS103で、DPF45(図1)の再生条件(例えば排気温度センサ43a,43bによるDPF45の中心温度、及び差圧センサ46による差圧が、所定値よりも大きいことなどを成立要件とする条件)が成立しているか否かを判断する。そして、このステップS103でDPF45の再生条件が成立している旨判断された場合には、続くステップS103aにおいて、先のステップS102で設定した目標着火時期θignを、DPF再生用に予め用意された特定値Yへ変更する(θign=Y)。他方、上記ステップS103でDPF45の再生条件が成立していない旨判断された場合には、こうした変更は行わず、先のステップS102で設定した目標着火時期θignのままとする。
本実施形態では、燃焼室20dでの燃焼の開始タイミングに相当する着火時期を、上記のように設定された目標着火時期θignに対して制御している。すなわち、目標着火時期θignにより一意的に定められるタイミングにおいて、1燃焼サイクル中における最先の噴射が(例えばメイン噴射だけの単段噴射であればメイン噴射が、パイロット噴射・メイン噴射の2段噴射であればパイロット噴射が)行われることになる。
続くステップS104では、目標着火時期θignが、TDCに相当する値「0」よりも大きいか否かを判断する。そして、目標着火時期θignが「0」よりも大きい旨判断された場合には、着火時期がTDCよりも遅いとして、続くステップS104aで、角度θ2を、圧縮行程にあってTDC(「0」)の進角側近傍、すなわちTDCよりも所定角度(ここでは固定値、ただし可変値でも可)前(負側)に設定する。他方、目標着火時期θignが「0」よりも大きくない旨判断された場合には、着火時期がTDCよりも遅くないとして、続くステップS104bで、角度θ2を、圧縮行程にあって上記目標着火時期θign(着火時期に相当)の進角側近傍、すなわち目標着火時期θignよりも所定角度(ここでは固定値、ただし可変値でも可)前(負側)に設定する。
本実施形態では、こうしてエンジン10の各シリンダについてそれぞれ1燃焼サイクルごとに角度θ2が逐次設定される。以下、図4及び図5を参照して、この角度θ2の設定態様、特に角度θ2の設定位置についてさらに説明する。
図4(a)は、着火時期がTDCよりも早い場合の圧力特性を示すグラフである。このグラフにおいて、実線L11aは、着火された場合の圧力特性を、破線L11bは、着火していない場合の圧力特性を、それぞれ示している。
同図4(a)に示されるように、着火時期がTDCよりも早い場合には、圧縮行程にあっても、着火後には、その着火に伴う圧力変化によりポリトロープ変化が乱れるようになる。この点、先の図3のステップS104bでは、この図4(a)に示す場合において、同図に示されるように、角度θ2が、圧縮行程にあって着火時期よりも所定角度前(着火時期の進角側近傍)、いわばポリトロープ変化領域にあってその遅角側境界付近に設定されることになる。
一方、図4(b)は、着火時期がTDCよりも遅い場合の圧力特性を示すグラフである。このグラフにおいて、実線L12aは、着火された場合の圧力特性を、破線L12bは、着火していない場合の圧力特性を、それぞれ示している。
同図4(b)に示されるように、着火時期がTDCよりも遅い場合には、圧縮行程の全域においてポリトロープ変化が得られるものの、圧縮行程を外れるTDC後には、ポリトロープ変化が乱れるようになる。この点、先の図3のステップS104aでは、この図4(b)に示す場合において、同図に示されるように、角度θ2が、圧縮行程にあってTDCよりも所定角度前(TDCの進角側近傍)、いわばポリトロープ変化領域にあってその遅角側境界付近に設定されることになる。
次に、図5(a)及び(b)は、メイン噴射Mnだけによる単段噴射の場合とパイロット噴射Pt・メイン噴射Mnによる2段噴射の場合とのそれぞれについて、上記角度θ2の設定態様を示すグラフである。
まず、例えばメイン噴射Mnだけによる単段噴射において、当該メイン噴射Mnに係る着火時期がTDCよりも遅い場合には、図5(a)に示されるように、圧縮行程にあってTDCよりも所定角度前に対して、上記角度θ2が設定される(図4(b))。これに対し、パイロット噴射Pt・メイン噴射Mnによる2段噴射において、「1燃焼サイクル中における最先の噴射」に相当するパイロット噴射Ptに係る着火時期がTDCよりも早い場合には、当該メイン噴射Mnに係る着火時期がTDCよりも遅くても、図5(b)に示されるように、圧縮行程にあって当該パイロット噴射Ptに係る着火時期よりも所定角度前に対して、上記角度θ2が設定される(図4(a))。
このように、TDCよりも早い時期に着火する噴射があれば、その噴射のうち、最も早い噴射(1燃焼サイクル中における最先の噴射)係る着火時期を基準にして、上記角度θ2の設定が行われることになる。
先の図2のステップS1では、以上のような処理を通じて、上記筒内圧センサ18の出力特性の算出に用いるクランク角度θ1,θ2が設定される。そして、続くステップS2,S3では、その設定した角度θ1,θ2に基づいて、上記筒内圧センサ18の出力特性(オフセット及びゲイン)を算出する。以下、図6〜図9を併せ参照して、これらステップS2,S3の処理についてより詳細に説明する。ここでは、図6及び図7を参照して、ステップS2のオフセットに係る処理について説明した後、図8及び図9を参照して、ステップS3のゲインに係る処理について説明する。
図6は、オフセットの算出及び異常判定に係る処理の処理手順を示すフローチャート、図7は、その処理態様を示すグラフである。なお、図7(a)は、真の圧力(実際の筒内圧力)と筒内圧センサ18の出力との関係を示すグラフである。この図7(a)においては、オフセットが重畳していない状態での出力特性(基準特性)を実線にて、また所定のオフセットが重畳している状態での出力特性(2種類)を破線にて、それぞれ示している。また、図7(b)は、クランク角度と筒内圧力との関係を示すグラフである。この図7(b)においては、筒内圧センサ18の出力特性を実線にて、また真の圧力の特性を破線にて、それぞれ示している。図7(b)において、クランク角度θ1〜θ2の期間は、エンジン10の運転期間にあってポリトロープ変化を示す圧縮行程に相当し、この期間にあっては、燃焼室20d内の圧力と温度との関係が、等温変化と断熱変化との中間的な変化になり、物理特性が安定する。
図6に示されるように、この一連の処理においては、まず、ステップS11で、クランク角度θ1(図7(b))における筒内圧センサ18のセンサ値Ps1を取り込む。次に、ステップS12で、上記データ保存用メモリ(ECU70に搭載)から、このクランク角度θ1のクランク角度位置に対応するシリンダ容積(燃焼室20dの容積)V1を読み出す。そして、さらに続くステップS13,S14では、クランク角度θ1の場合と同様に、今度はクランク角度θ2(図7(b))について、筒内圧センサ18のセンサ値Ps2を取り込み、上記データ保存用メモリから、同角度θ2のクランク角度位置に対応するシリンダ容積V2を読み出す。
続くステップS15では、データ保存用メモリ(ECU70に搭載)から、クランク角度θ1〜θ2の期間に対応するポリトロープ指数nを読み出す。ポリトロープ指数は、例えば筒内圧力(または吸気圧力)とエンジン回転速度とに基づいて求められるものであり、例えばそれら筒内圧力とエンジン回転速度とを座標軸にしてマップ化されて記憶されている。
続くステップS16では、上記各ステップにおいて取得した各パラメータに基づき、上記2点のクランク角度位置(クランク角度θ1,θ2)の圧力比κを、
κ=(V1/V2)^n …(式2)
の関係式から算出する。ちなみに、この(式2)は、ポリトロープ変化中において、「P1・V1^n=P2・V2^n」(この式中、P1、P2は、それぞれV1、V2における圧力)が成り立つことから求められる。
そして、続くステップS17では、同じく上記各ステップにおいて取得した各パラメータ、詳しくはクランク角度θ1,θ2における筒内圧センサ18のセンサ値Ps1,Ps2(ステップS11,S13)、及び圧力比κ(ステップS16)に基づいて、オフセット値Offset0を、
Offset0=(κ・Ps1−Ps2)/(κ−1) …(式3)
の関係式から算出する。すなわちこの処理をもって、筒内圧センサ18の出力に係るオフセット値(バイアス量)が算出されたことになる。なお、図7(a)中に破線で示されるように、オフセットが含まれる場合は、基準値としての本来のセンサ出力(実線)に対して正側または負側に出力特性がシフトすることになる。
次に、この算出されたオフセット値Offset0について、その異常の有無を判定する。すなわち、まず、ステップS18で、許容範囲を定める下限値及び上限値として、それぞれ規定値m1,m2を設定する。そして、続くステップS19において、その規定値m1,m2に基づき、すなわち「m1<Offset0<m2」の関係式を満足するか否かに基づき、オフセット値Offset0の異常の有無を判定する。なお、規定値m1,m2は、例えば燃焼室20dの体積等のエンジン設計データ、もしくは実験値等に基づいて決定される。
このステップS19の異常判定においては、例えば図7(a)に破線で示されるように、オフセットが存在する場合でも、それが同図中に一点鎖線で示される許容範囲(規定値m1よりも大きくて且つ規定値m2未満)に収まるものであれば、正常である旨の判定がなされる。そして、このステップS19でオフセット値Offset0が正常である旨判定された場合には、この図6の一連の処理を終了して、図2のステップS3へ移行する。
他方、オフセット値Offset0が許容範囲に収まらない場合には、ステップS19で、オフセット値Offset0が異常である旨の判定がなされる。そして、ステップS191において、オフセット異常時用に予め設定されたフェイルセーフ処理が実行された後、この図6の一連の処理は終了する。その後、ステップS191のフェイルセーフ処理で制御の中断が指示されない場合に限り、正常時と同様、図2のステップS3へ移行する。本実施形態においては、ステップS191のフェイルセーフ処理として、オフセット信号のドリフト量を補正するとともに、筒内圧センサに異常がある旨を運転者に知らせるべく、例えば警告灯(図示略)を点灯させるようにする。すなわち、フェイルセーフ処理を実行した後も、図6のフローチャートに係る制御は継続され、同図6の一連の処理の終了後は、図2のステップS3へ移行されることになる。
続けて、ゲインに係る処理について説明する。図8は、ゲインの算出及び異常判定に係る処理の処理手順を示すフローチャート、図9は、その処理態様を示すグラフである。なお、図9(a)は、真の圧力(実際の筒内圧力)と筒内圧センサ18の出力との関係を示すグラフである。この図9(a)においては、ゲインに誤差が含まれない場合の出力特性(基準特性)を実線で、ゲインに誤差が含まれる場合の出力特性(2種類)を破線で示している。また、図9(b)は、クランク角度と筒内圧力との関係を示すグラフである。この図9(b)においては、筒内圧センサ18の出力特性を実線で、基準圧力(センサ値補正用の基準値)の特性を破線で示している。そして、この図9(b)においても、図7(b)と同様、クランク角度θ1〜θ2の期間は、ポリトロープ変化を示す圧縮行程に相当する。
図8に示されるように、この一連の処理においては、まず、ステップS21で、吸気弁21の開弁時期を入力し、続くステップS22で、この入力値に基づき、吸気圧センサ32のセンサ値の取り込み時期を決定する(例えば閉弁の5°CA前など)。さらに続くステップS23では、その取り込み時期に基づき、クランク角度θ1,θ2(図9(b))について吸気圧センサ32のセンサ値を取り込み、次のステップS24では、その取り込んだセンサ値に対応する基準圧力Pk1,Pk2の圧力差「Pk2−Pk1」(図9(b))を、データ保存用メモリ(ECU70に搭載)から読み出す。次いで、ステップS25,S26で、クランク角度θ1,θ2における筒内圧センサ18のセンサ値Ps1,Ps2を、それぞれ取り込む。
そして、続くステップS27では、上記各ステップにおいて取得した各パラメータ、詳しくは基準圧力差「Pk2−Pk1」(ステップS24)、及びクランク角度θ1,θ2における筒内圧センサ18のセンサ値Ps1,Ps2(ステップS25,S26)に基づいて、ゲイン値Gain0を、
Gain0=(Ps2−Ps1)/(Pk2−Pk1) …(式4)
の関係式から算出する。すなわちこの処理をもって、筒内圧センサ18の出力に係るゲイン値(センシング感度係数)が算出されたことになる。なお、図9(a)中に破線で示されるように、ゲインに誤差が含まれる場合は、基準値としての本来のセンサ出力(実線)に対して正側(傾き大)または負側(傾き小)に出力特性がシフトすることになる。
次に、この算出されたゲイン値Gain0について、その異常の有無を判定する。すなわち、まず、ステップS28で、許容範囲を定める下限値及び上限値として、それぞれ規定値n1,n2を設定する。そして、続くステップS29において、その規定値n1,n2に基づき、すなわち「n1<Gain0<n2」の関係式を満足するか否かに基づき、ゲイン値Gain0の異常の有無を判定する。なお、規定値n1,n2は、例えば燃焼室20dの体積等のエンジン設計データ、もしくは実験値等に基づいて決定される。
このステップS29の異常判定においては、例えば図9(a)に破線で示されるように、ゲインに誤差が含まれる場合でも、それが同図中に一点鎖線で示される許容範囲(規定値n1よりも大きくて且つ規定値n2未満)に収まるものであれば、正常である旨の判定がなされる。そして、このステップS29でゲイン値Gain0が正常である旨の判定がなされた場合には、この図8の一連の処理を終了して、図2のステップS4へ移行する。
他方、ゲイン値Gain0が許容範囲に収まらない場合には、ステップS29で、ゲイン値Gain0が異常である旨判定される。そして、ステップS291において、ゲイン異常時用に予め設定されたフェイルセーフ処理が実行された後、この図8の一連の処理は終了する。その後、ステップS291のフェイルセーフ処理で制御の中断が指示されない場合に限り、正常時と同様、図2のステップS4へ移行する。本実施形態においては、ステップS291のフェイルセーフ処理として、筒内圧センサ18の出力を用いた燃料噴射時期制御に係るフィードバック制御をオープンループ制御へ切り替え、同センサ28のセンサ値の代替値として所定の規定値を設定することにより退避走行を行うようにしている。すなわち、このフェイルセーフ処理により図8のフローチャートに係る制御は一旦中断され、退避走行の制御に移ることになる。なお、ここで代替値として用いる規定値は、様々な状況を想定してその全般に対応することのできるものを選んで設定することが望ましい。
このように、上記図6及び図8の処理によって、筒内圧センサ18の出力特性(ゲイン及びオフセット)が算出される。そしてこの際、同センサ18の出力特性はいずれも、先の図3の処理により適切なタイミングに設定された角度θ2に基づいて算出される。これにより、本実施形態では、筒内圧センサ18の出力特性が高い精度で推定されることになる。図10は、固定された角度θ1に対し、角度θ2として各異なる角度(角度θ2a〜θ2c)が設定された場合の、ゲインの算出態様をそれぞれ示すグラフである。なお、図10のグラフにおける横軸の基準圧力は、センサ出力の推定に用いられる上記基準圧力Pk1,Pk2に相当するものであり、真値に対応するかたちで設定されている。また、この図10中、実線L0,L2にて示されるものは、それぞれ真値の圧力特性(実線L0)、及び筒内圧センサ18の出力特性(実線L2)である。ちなみに、この図10の例では、着火時期がTDCよりも遅い場合を想定している。すなわち、圧縮行程の全域において上記ポリトロープ変化が得られる。
同図10に示されるように、角度θ2がTDCに近いほど(ただし圧縮行程内)、上記図8の処理により得られるゲイン(破線L2a〜L2c)は、より正確に上記筒内圧センサ18の出力特性(実線L2)を示すようになる。すなわち、この図10に示す各ゲイン(破線L2a〜L2c)に関しては、角度θ2aにより算出されるゲイン(破線L2a)よりも、角度θ2b(>角度θ2a)により算出されるゲイン(破線L2b)の方が、また、このゲイン(破線L2b)よりも、TDC近傍の角度θ2c(>角度θ2b)により算出されるゲイン(破線L2c)の方が、より正確に上記筒内圧センサ18の出力特性(実線L2)を示すことになる。この点、上述のように本実施形態では、先の図3のステップS104aの処理により、角度θ2が、TDCの進角側近傍(例えば角度θ2c)に設定される。このため、筒内圧センサ18のゲインを高い精度で推定することができる。
また、着火時期がTDCよりも早い場合には、先の図3のステップS104bの処理により、角度θ2が、着火時期の進角側近傍に設定される。すなわち、この場合も、角度θ2が、ポリトロープ変化領域にあってその遅角側境界付近に設定されることになり、上述と同様、筒内圧センサ18のゲインを高い精度で推定することができる。さらにオフセットを算出(推定)する場合も、このゲインの場合に準ずるかたちで、その推定精度が高められる。
先の図2のステップS2,S3では、以上のような処理を通じて、筒内圧センサ18のゲイン及びオフセットの値が算出される。続くステップS4においては、これらステップS2,S3で算出されたゲイン値及びオフセット値に基づいて筒内圧力を補正(直線性ずれやゲインずれ等の補償に相当)する。さらに、続くステップS5においては、そのステップS4で補正された筒内圧力に基づいて着火時期を算出する(演算処理)。そして、続くステップS6においては、このステップS5の演算結果に基づいて、エンジン10の各シリンダにおける燃料噴射時期を補正する。詳しくは、ステップS5で算出された今回燃焼(今回の燃焼サイクル)での着火時期に基づいてその着火時期の誤差を求めるとともに、その誤差分を補償すべく、次回燃焼(次の燃焼サイクル)での燃料噴射時期に係る補正係数を更新する。そして、このステップS6の処理をもって、図2の一連の処理は終了する。
このように、本実施形態では、上記図2の一連の処理を繰り返し実行することで、筒内圧センサ18のセンサ出力の補正を行いながら、その補正後のセンサ出力に基づいて、燃料噴射時期、ひいては着火時期を、所望の目標値へ制御するようにしている。そしてこの際、先の図3の処理により角度θ2が適切なタイミングに設定されることで、上述のように、同センサ18の出力特性(ゲイン及びオフセット)がより高い精度で算出されることになる(図10参照)。また、こうして同センサ18の出力特性が高い精度で算出されることで、この出力特性に基づく出力補正についてもこれが、高い精度で行われることになる。
以上説明したように、本実施形態に係る筒内圧センサの出力特性検出装置及び出力補正装置によれば、以下のような優れた効果が得られるようになる。
(1)各シリンダ内の燃焼室での燃焼によるエネルギーを機械的な運動(回転運動)へ変換するエンジン10(内燃機関)に適用され、該エンジン10における所定のシリンダ(4つ全て)について燃焼室の圧力である筒内圧力を検出する筒内圧センサ18を対象にして同センサ18の出力特性を検出する。こうした筒内圧センサの出力特性検出装置として、2つの圧力検出タイミング(角度θ1,θ2に相当)で筒内圧力を検出するとともに、その検出した2つの筒内圧力の検出値(センサ値Ps1,Ps2)に基づいて、筒内圧センサ18の出力特性を示すゲイン及びオフセットを推定するプログラム(出力特性推定手段、図2のステップS2,S3)と、燃料燃焼の着火時期を予測する目標着火時期θign(参照パラメータ)に基づいて、角度θ2(圧力検出タイミング)を可変設定するプログラム(タイミング設定手段、図2のステップS1)と、を備える構成とした。こうすることで、目標着火時期θignに基づいて、角度θ2を可変設定することが可能になり、より高い精度で筒内圧センサ18の出力特性を検出することができるようになる。
(2)燃料燃焼の着火時期を予測する目標着火時期θignに基づいて上記角度θ2を可変設定するようにしたことで、同角度θ2を着火時期に応じた適切なタイミングに設定することができる。
(3)着火時期の制御を、エンジン運転条件(燃焼条件)に係るパラメータ、詳しくは噴射時期の可変設定に基づいて行うようにした。こうすることで、着火時期を所望の目標値に対して容易且つ的確に制御することが可能になる。
(4)エンジン10を、燃焼室20dでの燃料燃焼によるエネルギーに基づいて出力軸(クランク軸10a)を回転させつつ、該出力軸の回転に応じて燃焼室20dの容積を変化させることにより同燃焼室20dにて燃料と空気との混合気の圧縮を行うとともに、該圧縮を利用して燃料を燃焼させるものとした。さらに上記センサ値Ps1,Ps2の検出タイミングについてはこれを、出力軸の回転角度位置で定められるものとし、これらの検出タイミング(圧力検出タイミング)として、圧縮行程にあって燃焼室20dの容積が最も小さくなる出力軸角度である基準角度(TDC)よりも進角(早い)側に相当する角度θ1(第2タイミング)と、同じく圧縮行程にあって該角度θ1よりも進角側に相当する角度θ2(第1タイミング)とを採用した。そして、上記(式3)及び(式4)を用いることにより、上記角度θ1,θ2に基づいてセンサ出力特性(ゲイン及びオフセット)を推定するようにした。こうすることで、センサ出力特性を高い精度で推定することが可能になる。
(5)1燃焼サイクル中における最先の噴射についての着火時期がTDC(基準角度)に比して遅いか否かを判断するプログラム(判断手段、図3のステップS104)をさらに備える構成とした。そして、図3のステップS104a,S104bにおいては、ステップS104での判断結果に応じて上記角度θ2の設定位置を変更するようにした。より詳しくは、ステップS104aにおいては、ステップS104にて着火時期がTDCよりも遅い旨判断された場合に、上記角度θ2を、TDCの進角側近傍に設定するようにした。また、ステップS104bにおいては、ステップS104にて着火時期がTDCよりも遅くない(早い)旨判断された場合に、上記角度θ2を着火時期の進角側近傍に設定するようにした。こうすることで、着火時期がTDCよりも遅い場合には、上記角度θ2がTDCの進角側近傍、いわば筒内圧力がポリトロープ変化を示す範囲にあってその遅角側境界付近に設定され、上記センサ出力特性をより正確に推定することができるようになる。また、着火時期がTDCよりも早い場合にも、上記角度θ2が着火時期の進角側近傍、いわば筒内圧力がポリトロープ変化を示す範囲にあってその遅角側境界付近に設定され、上記センサ出力特性をより正確に推定することができるようになる。
(6)図2のステップS2,S3においては、角度θ1での筒内圧力(センサ値Ps1)と角度θ2での筒内圧力(センサ値Ps2)とに基づいて、筒内圧センサ18のゲイン及びオフセットを推定するようにした。これにより、これら出力特性の両方について、その推定精度を高めることができる。そしてこの際、特にゲインの推定精度を高める場合について、その推定精度の向上度合が大きい。
(7)対象のセンサ(筒内圧センサ18)を、簡易センサとした。これにより、低コスト化などを図ることが可能になる。
(8)図2のステップS2,S3により推定された筒内圧センサ18の出力特性に基づいて、該センサ18の性能劣化の度合(例えば経年変化による性能劣化)を検出するプログラム(図6のステップS18以降、図8のステップS28以降)を備える構成とした。こうすることで、筒内圧センサ18の異常の有無などを的確に検出することができる。
(9)さらに、筒内圧センサの出力補正装置としては、図2のステップS2,S3により推定された筒内圧センサ18の出力特性に基づいて、該センサ18のセンサ出力に対して補正を施すプログラム(補正手段、図2のステップS4)を備える構成とした。こうすることで、より高い精度で筒内圧センサ18の出力特性を補正(校正)することが可能になる。
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・上記実施形態では、目標着火時期θign(参照パラメータ)に基づいて上記角度θ2を可変設定するようにした。しかしこれに限られず、燃焼室20dでの燃焼状態(例えば着火直前の筒内圧力波形)に基づいて着火時期を予測するプログラム(着火時期予測手段、例えば図示しない別ルーチンで予測を逐次実行)をさらに備える構成とし、このプログラムにより予測された着火時期(着火時期の予測値)に基づいて上記角度θ2を可変設定するようにしてもよい。こうした場合も、前記(2)の効果に準ずる効果を得ることができる。
・上記実施形態では、角度θ1を固定値としたが、角度θ2と共に、この角度θ1についてもこれを、可変設定するようにしてもよい。なお、この角度θ1は、例えば筒内圧力がポリトロープ変化を示す範囲にあってその進角側境界付近(圧縮行程初期)に設定することが好ましい。したがってこの場合は、燃料燃焼の着火時期を予測するパラメータに限らず、任意のもの(例えばエンジンの状態や運転条件等)を、参照パラメータとして用いることが好ましい。
・上記図2のステップS1〜S4にて測定された時々の出力特性や出力誤差(補正係数)をエンジン運転条件等に関連付けて、所定の記憶装置に保存するプログラムを備える構成とすることも有効である。こうした構成であれば、筒内圧力の出力特性の算出をその都度行わずとも上記記憶装置に保存しておいた筒内圧力を用いることが可能になる。なお、ここで用いる記憶装置としては、例えばEEPROMやバックアップRAM等の不揮発に保存可能な記憶装置が有効である。こうした構成であれば、例えばエンジン10が停止され(例えばイグニッションスイッチがオフされ)、当該装置(ECU70)に対する給電が遮断された後も、データ(各タイミングでの筒内圧力等)が不揮発に保持されるようになり、次回エンジン始動時も、前回エンジン始動時のデータに基づいて上記補正等を行うことができるようになる。
・上記図2のステップS1〜S4にて測定された時々の出力特性や出力誤差(補正係数)は、燃料噴射制御には用いずに、例えばデータ蓄積によるデータ解析や、故障診断等だけに用いるようにしてもよい。
・上記実施形態では、基準圧力(センサ値補正用の基準値)として、吸気時の吸気ポート圧力を用いるようにしたが、これに限られることなく、例えば燃焼室の体積等のエンジン設計データや、空燃比、機関冷却水温等のエンジン制御の条件、等々に基づいて基準圧力を算出するようにしてもよい。
・上記実施形態では、一例として燃料噴射時期制御について言及したが、筒内圧センサ18の用途は、これに限られることはない。筒内圧センサ18は、例えば空燃比の制御などに用いても有益である。そしてこの場合も、基本的には上記実施形態と同様の形態により本発明を適用することができる。
・対象とする筒内圧センサ18は、廉価な筒内圧センサ(簡易センサ)に限られず、高価な筒内圧センサ(一般センサ)であってもよい。
・その他、制御対象とするエンジンの種類やシステム構成も、用途等に応じて適宜に変更可能である。例えば圧縮着火式のディーゼルエンジンに限られず火花点火式のガソリンエンジン等にも本発明は適用可能であり、またレシプロエンジンに限られずロータリーエンジン等にも本発明は適用可能である。そして、上記実施形態についてこうした構成の変更を行う場合には、上述した各種の処理(プログラム)についても、その細部を、実際の構成に応じて適宜最適なかたちに変更(設計変更)することが好ましい。
・上記実施形態及び変形例では、各種のソフトウェア(プログラム)を用いることを想定したが、専用回路等のハードウェアで同様の機能を実現するようにしてもよい。
10…エンジン、15…インジェクタ、18…筒内圧センサ、20…シリンダ(気筒)、20d…燃焼室、32…吸気圧センサ、45…DPF(Diesel Particulate Filter)、46…差圧センサ、70…ECU(電子制御ユニット)。