JP2008278830A - 腹膜透析下での腹膜障害モデル動物及びその利用 - Google Patents

腹膜透析下での腹膜障害モデル動物及びその利用 Download PDF

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Abstract

【課題】腹膜透析下での腹膜障害モデル動物を提供する。
【解決手段】腹膜表面に組織障害を有する非ヒト動物を準備する準備工程と、この非ヒト動物の腹腔内に補体活性化因子を投与する投与工程とを備える、腹膜透析下での腹膜障害モデル動物の作製方法。前記準備工程は、非ヒト動物の腹膜表面を擦過することを含む工程としてもよい。前記投与工程は、非ヒト動物の腹腔に補体活性化因子とともに腹膜透析用液または同等の浸透圧液を投与する工程としてもよく、投与工程を複数回実施してもよい。さらに前記投与工程は、補体活性化因子として真菌由来の細胞膜成分、特にザイモザン、を投与する工程であってもよい。
【選択図】図1

Description

本発明は、腹膜透析療法の合併症である腹膜硬化症や被嚢性腹膜硬化症等のモデル動物となる腹膜透析下での腹膜障害モデル動物、その作製方法及びその利用に関する。
腎不全は、各種の腎疾患により腎機能が障害された状態であって、末期腎不全では透析治療を必要とする。透析治療のなかでも腹膜透析療法(CAPD:Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis(連続携行式腹膜透析)及びAPD:Automated Peritoneal Dialysis(自動腹膜透析)は、社会復帰を希望する患者や小児によって有用な治療法である。腹膜透析療法は、腹膜及び血管の透過性を利用して老廃物及び水分を除去する治療法である。しかしながら、腹膜炎などの感染症を合併することがあるとともに、長期の施行に伴って、腹膜硬化症、腹膜線維症、被嚢性腹膜硬化症等の重篤な腹膜障害により腹膜機能低下を引き起こすことが知られている。このため、腹膜透析療法の持続期間はおおよそ8年までとされている。
腹膜透析療法において見られる腹膜硬化症等の腹膜障害については種々の因子や事象の関与が推測されているが、その成因は解明されていない。現状では、漂白剤や殺菌剤であるグルコン酸クロルヘキシジンを腹腔内に注入して、腹膜硬化症モデルラット等を作製することが行われ(例えば、非特許文献1、2等)、こうしたモデル動物を用いて腹膜硬化症等の原因の解明や有効な薬剤の探索が試みられている。
一方、腹膜透析療法中の合併症である一部の細菌や真菌などによる感染性腹膜炎の予後は一般的に非常に悪く、腹膜透析のためのカテーテル抜去が必要となってしまうことが知られている。さらに、カテーテル抜去後あるいはカテーテルを残して腹膜洗浄を継続しても腹膜硬化症が進むことがあることが知られており、腹膜炎は、腹膜硬化症の危険因子と考えられている(例えば、非特文献3等)。しかしながら、こうした腹膜炎の予後における腹膜硬化症発症機序はほとんど解明されていない。
Levineら、Perit.Dial.Int。1996,NOV−Dec;16(6):613−616 Hiraharaら、Nephrol.Dial.Transplant.2004,July、19(7);1732−1741 原茂子、日腎会誌2003;45(2):65−75
現在得られている腹膜硬化症モデルは、毒性の高い化学物質を用いた急性腹膜硬化症モデルであるため、腹膜透析療法下での腹膜硬化症の発症機序とは大きく異なっている。また、真菌感染性腹膜炎等の腹膜炎治癒後に発生する腹膜硬化症の発症機序とも大きく異なっているといえる。
したがって、長期の腹膜透析療法下での腹膜機能劣化や真菌性腹膜炎治癒後における腹膜機能劣化の機序解析や有効な薬剤スクリーニングのための適切な動物モデルが得られていないのが現状である。
そこで、本発明は、腹膜透析療法下での腹膜障害モデル動物を提供することを一つの目的とする。また、本発明は感染性腹膜炎治癒後の腹膜硬化症等の腹膜障害モデル動物を提供することを他の一つの目的とする。さらに、本発明は、こうした新たなモデル動物を利用した腹膜透析療法下での腹膜障害の予防又は治療用の薬剤のスクリーニング方法、腹膜透析療法下での腹膜障害の予防又は治療用の薬剤及び提供することを他の目的とする。
本発明者らは、腹膜透析療法下での腹膜障害ひいては腹膜硬化症の発症機序について補体活性化の関与の可能性について検討した。そこで、腹膜透析療法下で腹膜表面の組織障害と真菌由来の補体活性化物質により補体活性化系とを人工的に形成することで、補体活性化物質投与停止後も持続的に進行する腹膜炎モデルを構築できることを見出した。さらに、このモデルにおいて、補体反応を抑制する抗補体薬を投与することにより、腹膜炎様の組織変化や腹膜肥厚を抑制できることを見出した。本発明によれば、これらの知見に基づいて以下の手段が提供される。
本発明によれば、腹膜透析下での腹膜障害モデル動物の作製方法であって、腹膜表面に組織障害を有する非ヒト動物を準備する準備工程と、前記非ヒト動物の腹腔内に補体活性化因子を投与する投与工程と、を備える、作製方法が提供される。
本作製方法では、前記投与工程は、前記非ヒト動物の腹腔に前記補体活性化因子とともに腹膜透析用液又は同等の浸透圧液を投与する工程としてもよいし、前記投与工程を複数回実施してもよい。さらに、前記投与工程は、補体活性化因子として真菌由来の細胞膜成分を投与する工程であってもよい。前記真菌由来の細胞膜成分はザイモザンとすることができる。
本作製方法では、前記投与工程後に、前記非ヒト動物の腹腔に腹膜透析液又は同等の浸透圧液を投与する工程を備えることができる。
また、本作製方法では、前記準備工程は、前記非ヒト動物の腹膜表面を擦過することを含む工程としてもよい。
本作製方法では、前記モデル動物は腹膜炎後の腹膜硬化症のモデル動物とすることができる。前記腹膜炎は、特に、感染性腹膜炎、より好ましくは真菌感染性腹膜炎である。前記腹膜硬化症には、被嚢性腹膜硬化症も含まれる。また、前記準備工程は、前記非ヒト動物としてげっ歯類を用いる工程としてもよい。
本発明によれば、上記いずれかの作製方法によって得られる、腹膜透析下での腹膜障害非ヒトモデル動物が提供される。
また、本発明によれば、腹膜透析下での腹膜障害非ヒトモデル動物であって、腹膜下組織に補体系成分の沈着傾向を有する、非ヒトモデル動物が提供される。前記補体系成分はC3及び/又はC5b−9を含むことができる。また、腹膜下組織における補体制御因子量の低減が観察されるものであってもよい。
本発明によれば、腹膜透析下における腹膜障害の予防又は治療用剤のスクリーニング方法であって、上記いずれかに記載の非ヒトモデル動物に被験成分を投与する投与工程と、前記被験成分を投与した非ヒトモデル動物における腹膜障害を評価する評価工程と、を備える、スクリーニング方法が提供される。前記被験成分は、補体活性化を抑制する可能性のある化合物とすることができる。
本発明によれば、腹膜透析下における腹膜障害の予防又は治療用剤であって、補体活性化を抑制する化合物を有効成分とする、予防又は治療用剤が提供される。腹膜炎後に投与することを目的とすることができる。特に、腹膜硬化症又は被嚢性腹膜硬化症の予防を目的とすることができる。
本発明によれば、腹膜透析液であって、補体活性化を抑制する腹膜劣化抑制剤を含有する、腹膜透析液が提供される。また、こうした腹膜透析液あるいは別個に腹膜劣化抑制剤を投与する腹膜透析療法も提供される。
本発明の腹膜透析下での腹膜障害モデル動物の作製方法によれば、腹膜表面に形成した組織障害と腹腔内投与した補体活性化物質とによって、非ヒト動物において、補体活性化因子除去後も持続的でかつ進行性の腹膜炎様の腹膜障害を発生させることができる。したがって、この非ヒト動物を、腹膜透析下での腹膜障害モデル動物として利用できる。さらに、この非ヒト動物を、腹膜透析下の感染性腹膜炎のモデル動物、感染性腹膜炎沈静後の腹膜硬化症移行又は発症モデルとしても利用できる。
以下、本発明の実施形態である腹膜透析下での腹膜障害モデル動物の作製方法及びモデル動物、モデル動物を用いた薬剤のスクリーニング方法並びに腹膜透析下での腹膜障害の予防又は治療用剤等について説明する。
なお、本明細書において、「腹膜透析」とは、半透過性の腹膜を透析膜として利用して体液を透析およびろ過することをいう。「腹膜透析」は、より具体的には、腹膜を介して腹膜中の毛細血管を流れる体液(血液)と腹腔内に貯留させる透析液との間に拡散を行うことにより、体内に貯留した老廃物(尿毒素)を取り除き、また腹腔内に貯留させる透析液の浸透圧を高くして、透析液と、腹膜上の毛細血管中の体液(血液)との間に浸透圧較差を生じさせることにより、体内に蓄積した余剰水分を毛細血管の限外ろ過能を介して透析液中に除去することをいう。腹膜透析には、CAPD(連続携行式腹膜透析)及びAPD(自動腹膜透析)が現在行われており、「腹膜透析」には、これら双方の形態を含むことができるほか、同様の基本原理を用いるものを含むことができる。
本明細書において、「腹膜硬化症」とは、腹膜炎後における腹膜硬化症のほか、同様の病理学的所見を呈するいわゆる腹膜線維症も含むものであり、さらに、被嚢性腹膜硬化症も含む。また、本明細書において、「補体系成分」とは、補体のほか補体活性化産物も含む。
(モデル動物の作製方法)
本発明のモデル動物作製方法は、腹膜表面に組織障害を有する非ヒト動物を準備する準備工程と、前記非ヒト動物の腹腔内に補体活性化因子を投与する投与工程と、を備えることができる。
(準備工程)
本作製方法で準備する非ヒト動物は、特に限定しないでヒト以外の霊長類、非霊長哺乳類等を使用できる。具体的には、ヒト以外の霊長類としては類人猿、新世界ザル及び旧世界ザルが挙げられる。非霊長哺乳類としては、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、イヌ、ニワトリのほか、ウサギ、ラット、マウス、ハムスター、ギニアピッグ等のげっ歯類が挙げられる。なかでも、ウサギ、ラット、マウス等のげっ歯類は、実験動物として入手及び取り扱い等において都合がよい。特に、ラットやマウスが好ましい。
腹膜表面に備えられる組織障害は、炎症反応を誘導可能な組織障害又はそれに準じた組織障害であればよい。例えば、腹膜表面の細胞が損壊された状態に細菌や真菌等に感染した状態が挙げられる。非ヒトモデル動物を作製するのにあたっては、腹膜表面に対して外傷を付与することが好ましい。例えば、機械的外力による切創、割創、刺創、擦過創等が挙げられる。また、熱や赤外線等による熱傷、電流による電撃傷、放射線損傷、酸・アルカリ等による化学損傷が挙げられる。これらのうち2種類以上を組み合わせてもよい。操作の簡易性を考慮すると、機械的外力による擦過創等が好ましい。こうした外傷は、例えば、非ヒト動物を開腹し、腹膜表面を棒状体等で所定回数擦過し、その後閉腹することなどとすることで形成できる。
(投与工程)
次に、この非ヒト動物の腹腔内に補体活性化物質を投与する。腹膜表面に組織障害を形成した非ヒト動物の腹腔に補体活性化物資を投与することで、腹膜表面にて補体系が活性化される結果、ヒトにおける腹膜炎、特に、沈静後にも継続的に進行する腹膜炎様の障害状態を形成することができる。
補体活性化物質は、補体系を活性化できれば特にその経路を問わない。すなわち、古典経路、代替経路及びMBL(マンナン結合レクチン)経路のいずれを活性化する物質であってもよい。こうした補体活性化物質としては、例えば、IgG、IgMを含む抗原抗体複合体などにおける補体結合性抗体等(古典経路の活性化物質)、酵母などの真菌細胞壁成分(酵母にあってはザイモザン)、オプソニン化ザイモザン、β−(1,3)(1,6)グルカン、グラム陽性菌の細胞壁成分、グラム陰性桿菌の内毒素(エンドトキシン)、コブラ蛇毒因子、腎炎因子、ウサギ赤血球及び凝集IgA等(以上、代替経路の活性化物質)及び糖類(MBL経路の活性化物質)が挙げられる。なかでも、代替経路を活性化する補体活性化物質を用いることが好ましい。代替経路活性化物質としては、酵母など真菌の細胞壁成分、典型的にはザイモザンを用いることが好ましい。
補体活性化物質は単独で投与されてもよいが、好ましくは、ヒトに用いられる腹膜透析液あるいは同等の浸透圧液(以下、これらを総称して高浸透圧液という。)とともに投与される。これらの液剤とともに投与されることで腹膜透析療法下に類似した環境を形成できるからである。高浸透圧液は、少なくとも高浸透圧を確保するための浸透圧調節物質を含み、その他、電解質及びpH調整物質等を含むことができる。補体活性化物質と共に非ヒト動物に投与するにあたり、腹膜透析環境に近似させるには、腹膜透析液の成分(少なくとも浸透圧調節物質、電解質及びpH調整物質(アルカリ化剤))を含有する高浸透圧液を用いることが好ましい。
浸透圧調節物質としては、生体に安全な浸透圧調節物質であればよく、そのような物質として知られている糖類、ペプチド、アミノ酸などが挙げられるが、糖類が好ましい。糖類としては、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトースなどの単糖類、スクロース、マルトース、ラクトース、トレハロースなどの二糖類、グリコーゲン、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、オリゴグリコシルスクロース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖などの多糖類、マルチトール、エリスリトール、キシリトールなどの糖アルコールなど、およびこれらの誘導体が挙げられる。好ましくは、グルコースおよびグルコース誘導体である。グルコース誘導体は、グルコースを化学修飾したものでも構わないし、グルコースを基本単位とする多糖類でも構わない。グルコース誘導体としては、分岐又は環状化したグルコースを基本単位とする多糖類であってもよい。より好ましくはD−グルコースである。高浸透圧液は、上記浸透圧調節物質を、通常、0.1w/v%以上10w/v%以下の濃度で含む。好ましくは、1.5w/v%以上5.0w/v%以下である。
浸透圧調節物質としては、アミノ酸を単独で又は糖類と組み合わせて用いることもできる。例えば、ロイシン、バリン、スレオニン、イソロイシン、リジン、ヒスチジン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、アラニン、プロリン、アルギニン、グリシン、セリン、チロシン、アスパラギン酸塩、およびグルタミン酸塩のアミノ酸混合物を含むことができる。
高浸透圧液は、通常、260mOsm/kg〜600mOsm/kg程度、さらには280mOsm/kg〜500mOsm/kg程度であるの好ましい。
高浸透圧液は、必要に応じてさらに他の成分を含有していてもよい。例えば、電解質(ナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、クロルイオンなど)を含むことができる。
高浸透圧液は、酸性でも中性でもよい。酸性の場合、pH4.5程度であり、中性の場合pHpH5.0以上7.5以下程度さらには6.0以上7.5以下程度であるのが好ましい。
高浸透圧液の液の電気的中性を保つために、乳酸イオン、重炭酸イオンなどのアルカリ化剤などを含むこともできる。また、たとえば総カチオンとクロルイオンとの濃度差に応じて有機酸などを含有することができる。このような有機酸としては、たとえばプロピオン酸、リンゴ酸、フマル酸、コハク酸、オキサル酢酸、N−アセチルグリシン、N−アセチル−L−システイン、グルタル酸、グルクロン酸、アスコルビン酸、クエン酸、イソクエン酸、グルコン酸、N−アセチル−L−アスパラギン酸、N−アセチル−L−グルタミン酸、N−アセチル−L−メチオニン、N−アセチル−L−プロリン、N−アセチル−L−バリン、N−アセチル−L−グルタミン、N−アセチル−L−アルギニン、N−アセチル−L−ヒスチジン、N−アセチル−L−ロイシン、N−アセチル−L−トリプトファン、およびこれらの塩などが挙げられる。
高浸透圧液の調製方法は特に限定されない。たとえば塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、乳酸ナトリウム、カルシウム塩、マグネシウム塩、重炭酸ナトリウムなどのカチオンおよびクロルイオン源、酸成分などを水に溶解する一般的な腹膜透析
液と同様に調製することができる。なお、各溶質を溶解して調製された腹膜透析 液は、軟質プラスチック製バッグあるいはガラス製容器などに封入した後、高圧蒸気滅菌や熱水滅菌を行うことが好ましい。
補体活性化物質又は当該物質と高浸透圧液とを非ヒト動物の腹腔内に投与する投与法は特に限定しないが、細い穿刺針を備えた注射等やカテーテルを用いることができる。投与に際し、補体活性化物質の用量は、特に限定しないで、用いる非ヒト動物や非ヒト動物に負荷しようとする障害の程度等によって適宜調節することができる。例えば、1mg/2〜20ml以上50mg/2〜20ml以下程度の溶液又は懸濁液等として投与することができる。また、投与量としては、4μg/体重g/日〜200μg/体重g/日とすることが好ましい。投与は1日あたり1回から数回に分けて実施してもよい。
また、補体活性化物質と高浸透圧液とを投与する場合には、同時投与でなくべそれぞれ別個に投与してもよいが、補体活性化物質を高浸透圧液に溶解又は懸濁等して投与することが好ましい。高浸透圧液を投与する場合には、使用する非ヒト動物の種類等にもよるが、1ml以上2000ml以下程度を一日1回から数回に分けて投与することができる。例えば、ラット程度の大きさであれば、2ml〜10ml程度である。継続的に実施することで、ヒトにおける腹膜透析環境に近似した環境を非ヒト動物において形成できる。
こうした投与は、複数回繰り返して実施することが好ましく、より好ましくは一定期間、例えば、2日以上30日以下程度継続して行うことが好ましい。必要な回数を連日(5日間)行うことが好ましいが、数日投与を行い、一旦投与を休止し、しかる後に再び投与を開始してもよい。
補体活性化物質投与後においては、非ヒト動物をそのまま何ら処置せずにおいても、持続的に腹膜炎が進行するが、投与工程後に、非ヒト動物の腹腔に高浸透圧液のみを投与することもできる。ヒトにおいては、腹膜炎後、腹膜透析液(高浸透圧液)の投与を停止しても腹膜硬化症が進行する場合があり、非ヒト動物において、補体活性化物質投与停止後高浸透圧液を投与しない場合は、こうした環境に近似した環境を形成することができる。一方、ヒトにおいて、腹膜炎後、腹膜透析腋(高浸透圧液)の投与を再開する場合もあり、非ヒト動物において、補体活性化物質投与停止後に、高浸透圧液のみを投与するときは、こうした環境に近似した環境を形成することができる。
以上の工程により、本発明のモデル動物を得ることができる。このモデル動物は、補体活性化物質投与中止後においても、持続的でかつ進行性の腹膜炎様の腹膜障害を有している。すなわち、本発明方法によれば、腹膜透析下での腹膜障害モデル動物及び腹膜透析下の感染性腹膜炎のモデル動物を提供することができる。
また、このモデル動物が有する腹膜障害は、ヒトにおける腹膜炎、特に感染性腹膜炎の沈静後に継続的かつ潜在的に進行する持続性進行性腹膜炎様の障害である。本発明者らによれば、こうした持続性進行性腹膜炎は、腹膜透析療法の重大な合併症である腹膜硬化症及び被嚢性腹膜硬化症を引き起こすと考えられる。このため、本発明方法によれば、感染性腹膜炎沈静後の腹膜硬化症(被嚢性腹膜硬化症を含む)移行又は発症モデル動物を提供することができる。
(腹膜傷害非ヒト動物モデル)
本発明の腹膜透析下での腹膜障害モデル動物は、既述したように、持続性進行性腹膜炎様の障害を有するという特徴を有している。この特徴は、以下の所見によっても説明することができる。なお、以下の特徴は、持続性進行性腹膜炎様障害の一側面であり、全てを常に備えている必要はない。
(1)病理学的所見
腹膜中の炎症細胞の集積度が正常腹膜に比して高いこと、腹膜肥厚の進展、腹膜中のフィブリン析出の継続及び新生毛細脈管の形成が挙げられる。これらは、いずれも、上記方法で作製したモデル動物においては補体活性化物質投与停止後であっても観察される。
(2)肉眼的所見
壁側腹膜におけるプラークの形成及びプラークの拡大(補体活性化物質投与停止後における)及び新生毛細血管の形成が挙げられる。
(3)補体分布
腹膜下組織における補体の沈着傾向が挙げられる。ここで沈着傾向とは、正常のモデル動物に比して腹膜組織下により多くの補体系成分が分布することを意味している。また、腹膜表面に組織障害を形成したモデル動物に高浸透圧液のみを投与したモデル動物に比して腹膜組織下により多くの補体系成分が分布していることを意味している。腹膜組織下とは、腹膜表層から浸潤細胞層までに至る層を意味している。補体系成分の沈着傾向は、補体活性化物質の投与中及び投与停止も一定期間継続される。腹膜組織下において沈着傾向がある補体系成分としては、C3及びC5b−9のいずれか又は双方が挙げられる。補体系成分は、例えば、血液、得られた組織の免疫染色や腹腔内洗浄液等により検出することができる。
(4)補体制御因子分布
腹膜表層における補体制御因子量の低減が観察される。例えば、低減する補体制御因子としては、C55が挙げられる。また、腹膜表層とその直下の浸潤細胞層における補体制御因子CD59量の増大が挙げられる。補体制御因子は、例えば、得られた組織を免疫染色したり、可溶化した組織を用いてウエスタンブロット解析や発現しているmRNAにより検出することができる。
本モデル動物における動物としては、上記した非ヒト動物が挙げられる。また、本モデル動物は、上記本発明のモデル動物の作製方法によって作製することができる。本モデル動物は、腹膜透析下での腹膜障害モデル動物、腹膜透析下の感染性腹膜炎のモデル動物、腹膜炎(特に感染性腹膜炎、なかでも真菌感染性腹膜炎)沈静後の腹膜硬化症(被嚢性腹膜硬化症を含む)移行又は発症モデル動物として利用できる。
(腹膜透析下における腹膜障害の予防又は治療用剤のスクリーニング方法)
本発明のスクリーニング方法は、本発明のモデル動物に被験成分を投与する投与工程と、前記被験成分を投与した非ヒトモデル動物における腹膜障害を評価する評価工程と、
を備えることができる。本スクリーニング方法によれば、ヒトにおける腹膜透析下で発症する腹膜炎、腹膜炎後の腹膜硬化症及び被嚢性腹膜硬化症の予防又は治療用の薬剤をスクリーニングすることができる。
本スクリーニング方法で探索対象とする被験成分は、特に限定されない。腹膜硬化症や被嚢性腹膜硬化症の発症を促進する化合物であっても発症を抑制する可能性のある化合物であってもよい。ある被験成分をモデル動物に投与して腹膜障害の促進を肯定できる評価が得られたときには、当該化合物の活性を低下させ、あるいは当該化合物の受容体をブロックするなどの化合物を腹膜障害の予防又は治療用剤として利用できる。また、ある被験成分をモデル動物に投与して腹膜障害の抑制を肯定できる評価が得られたときには、当該化合物又はその誘導体を腹膜障害の予防又は治療用剤として利用できる。
被験成分としては、例えば、補体活性化を抑制する可能性のある化合物が挙げられる。本発明者らによれば、補体活性化が腹膜硬化症等の起因となると考えられることから、補体活性化を抑制する化合物は、腹膜透析下における腹膜障害の予防又は治療に有効である。補体活性化を抑制する化合物としては、補体制御因子であるH因子、I因子,C1インヒビター、C4結合蛋白、S蛋白、クラステリン、カルボキシペプチダ−ゼN、カルボキシペプチダ−ゼR、CD46、CD55、CD59、Crry、TP10やTP20の様なCR1由来の蛋白等が、合成物質ではFUT−175、K−76COONa、NGD2000−1、W−54011等が挙げられる。また、他に、TS0−12/22の様な抗C5抗体等の抗補体抗体が挙げられる。例えば、抗補体抗体が結合する補体系成分としては、MBL、C3活性化産物であるC3b、アナフィラトキシンであるC3a、C5a等のほか、既述C3及びC5b−9等が挙げられる。また、補体活性化物質に結合等して不活性化する化合物としては、例えば、H因子関連分子、H因子、I因子、CR1、CD55等が挙げられる。
被験成分としては、腹膜硬化症等の症状を緩和又は改善する可能性のあるものとして、公知の又は可能性ある抗アレルギー剤、公知の又は可能性あるサイトカイン放出抑制剤、公知の又は可能性ある血管新生阻害剤、公知の又は可能性ある成長因子阻害剤、公知の又は可能性あるエンドセリン受容体拮抗剤、公知の又は可能性あるAGE阻害剤、公知の又は可能性あるカルボニル捕捉剤(SH化合物、メイラード反応阻害剤等)、公知の又は可能性あるHMG−CoA還元酵素阻害剤、公知又は可能性ある、腹膜中皮細胞に対する増殖活性剤、遊走活性剤及び接着活性剤が挙げられる。
投与工程は、モデル動物の腹腔内に上記被験成分を投与することにより実施する。投与方法は、カテーテルでも注射等によってもよい。腹膜内に配置するものであってもよい。また、代用の投与経路としては、静脈内や皮内投与であってもよい。
評価工程は、モデル動物における腹膜障害を評価するが、評価項目としては、用いる被験成分によっても異なるが、一般的な肉眼的又は病理学的所見のほか、ヒトにおける腹膜硬化症や被嚢性腹膜硬化症における生化学検査項目(炎症反応(抹消白血球数、CRP陽性);低アルブミン;採取した腹膜透析液又は排液中のIL等)等を適宜採用できる。また、本発明の動物モデルを使用する観点から、既述の本動物モデルにおける病理的所見、肉眼的所見、補体及び補体制御因子分布等に基づく評価項目を適宜採用できる。なお、補体に関しては、採取した腹膜透析液(又は排液)中の補体価及び補体活性化産物などの補体系成分の濃度も評価項目として利用できる。なお、補体系成分としては、C3やC5b−9のほか、sC5b−9(Soluble
FormのsC5b−9)とすることができる。補体価はMayer法による免疫比濁法等の公知の方法で測定することができる。また、特定の補体やsC5b−9については、免疫比濁法、ELISA等の酵素免疫法やネフェロメトリー法等により測定することができるほか、mRNAを抽出してRT−PCRにより測定することもできる。さらにまた、採取した腹膜透析液(又は排液)中のFDP(フィブリン及びフィブリノーゲン分解物)、フィブリノーゲン、炎症性サイトカインも同様に利用できる。FDP及びフィブリノーゲンは、抗フィブリノーゲン抗体を用いてラテックス凝集法等の公知の方法で測定することができる。炎症性サイトカインは、ELISAや抽出mRNAを用いるRT−PCR等のPCR法により測定することができる。
(腹膜劣化抑制剤、腹膜透析下における腹膜障害の予防又は治療用剤)
本発明の腹膜劣化抑制剤又は腹膜透析下における腹膜障害の予防若しくは治療用剤は、、補体活性化を抑制する化合物を有効成分とすることができる。本発明の腹膜劣化抑制剤又は腹膜障害の予防若しくは治療用剤によれば、腹膜透析等における腹膜劣化を抑制でき、また、感染等による腹膜炎、腹膜硬化症並びに被嚢性腹膜硬化症を予防又は治療することができる。補体活性化を抑制する化合物としては、既述の上記化合物の他、上記スクリーニング方法で補体活性化抑制作用に基づいて腹膜障害の抑制が肯定された化合物を用いることができる。また、本剤においては、有効成分である補体活性化抑制化合物は、1種又は2種以上の複数の化合物を組み合わせて使用してもよい。
本剤の調製方法は、特に限定されない。例えば、適当な溶液に溶解後、フィルター等で濾過滅菌してそのまま無菌の容器に封入して上記剤として利用できる。本剤は、投与経路次第で医薬的に許容される添加物を共に含むことができる。添加剤としては特に限定されないが、担体、賦形剤、防腐剤、安定剤、結合剤、酸化防止剤、膨化剤、等張剤、溶解補助剤、保存剤、緩衝剤、希釈剤等が挙げられる。使用し得る添加剤は、特に限定されないが、例えば、水、生理食塩水、医薬的に許容される有機溶媒、ゼラチン、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、トラガント、カゼイン、寒天、ジグリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン(HSA)、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、PBS、非イオン性界面活性剤、生体内分解性ポリマー、無血清培地、医薬添加物として許容される界面活性剤あるいは生体内で許容し得る生理的pHの緩衝液などが挙げられる。使用される担体は、使用部位に応じて上記の中から適宜あるいは組合せて選択されるが、これらに限定されるものではない。また、本剤は、適当な容器に封入した後、凍結乾燥してもよい。凍結乾燥にすることにより、長期保存が可能になる。また乾燥させた後、成形して錠剤にしてもよい。
本剤は、腹膜劣化抑制又は腹膜透析下における腹膜障害の予防若しくは治療を目的として、その有効量がヒトを含む動物に投与される。ヒトを含む動物としては、特に限定されないが、哺乳動物、好ましくはヒト、サル、ネズミ、家畜等が挙げられる。本剤は、腹腔において本剤の効果が発現される限り、投与経路に制限はなく、経口的にまたは非経口的に全身あるいは局所的に投与することができる。投与経路として、腹腔内投与、静脈内投与、経口投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、坐薬、注腸、経口性腸溶剤などを選択することができ、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。これらのうち、腹腔内投与、静脈内投与および経口投与が好ましい。
直接腹腔に投与する方法として、腹膜透析液に混ぜて腹膜透析 時に腹腔内に投与したり、または腹膜透析用カテーテルを介して腹膜透析液に混ぜずに直接投与することができる。静脈注射により投与すれば、透析用カテーテルを介さずに投与することもできる。また経口投与を行えば、特別な器具がなくても摂取可能である。これらの方法をもちいれば、患者に対して低侵襲に且つ効率良く、本剤を患部にデリバリーすることが可能である。本剤は、腹腔内に投与すれば、患部である腹膜に直接投与することになるため、有効成分濃度を、腹膜で有効な最小限の至適濃度で調剤することができる。また、局所投与であることを含めて、副作用を低減できると考えられる。
本剤の有効投与量は、特に限定されないが、患者あたり1〜1000mg、好ましくは5〜50mgの投与量を選ぶことができる。特に限定されないが、投与濃度としては、1μg/ml以上10mg/ml以下が好ましい。より好ましくは、0.1mg/ml以上2mg/ml以下である。
本発明のこれらの剤は、腹膜透析療法のどの段階において用いることもできる。例えば、本剤は腹膜劣化の抑制目的に使用できる。また、腹膜炎又はその増悪の予防(症状の緩和を含む)目的に使用できる。さらに、腹膜硬化症及び被嚢性腹膜硬化症の予防(症状の緩和を含む)又は治療目的に使用できる。さらにまた、本剤は、腹膜炎後の潜在的な持続性進行性腹膜炎、腹膜硬化症及び被嚢性腹膜硬化症を予防及び治療を目的として、腹膜炎罹患時及びその後において投与されることが好ましい。
(腹膜透析液)
本発明の腹膜透析液は、補体活性化を抑制する化合物を含有することができる。腹膜透析液に含まれる当該有効成分の量は、特に限定されないが、投与濃度としては、1μg/ml以上10mg/ml以下が好ましい。より好ましくは、0.1mg/ml以上2mg/ml以下である。腹膜透析液としては、既述の高浸透圧液のうちで腹膜透析液の形態で使用することができる。
なお、本発明の腹膜透析液は、予め腹膜透析液(二液キットの場合には、いずれか一方でもよい。)中に有効成分が混合されていてもよいが、用時に腹膜透析液に混合する製剤形態であってもよい。
(腹膜透析療法)
本発明の腹膜透析療法は、腹膜透析に伴って補体活性化を抑制する化合物を投与する工程を備えることができる。補体活性化抑制化合物は、腹膜透析液とともにあるいは別個に投与することができる。投与方法については、既に記載した範囲で適宜選択すればよい。
(腹膜劣化、腹膜炎後の予後、腹膜硬化症及び被嚢性腹膜硬化症の診断方法)
本発明の診断方法は、被験個体から採取した腹膜液、腹膜透析液及び腹膜透析排液の補体価及び/又は補体系成分を測定する工程を備えることができる。この診断方法によれば、これらの項目を測定することで、腹膜内における補体活性化傾向を検出することができる。補体活性化傾向を肯定できる場合には、腹膜劣化、腹膜炎後における予後の悪化傾向(持続性進行性腹膜炎の存在)、腹膜硬化症及び被嚢性腹膜硬化症への進行段階を診断することができる。測定対象となる補体及び補体活性化産物は、必要に応じて選択されるが、既に説明した補体系成分を対象とすることができる。また、これらについての測定方法も既に説明した方法の他公知の方法を適宜選択することができる。
以下、本発明を実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。当業者であれば、本発明及びその実施形態に基づいて適宜改変して実施することができる。
(1)ラットの作製
本実施例におけるプロトコールを図1に示す。まず、SDラットを吸入麻酔下で、傍左正中切開を行い開腹し、60秒間15mlのPP製チューブで右壁側腹膜を擦過した。その後速やかに閉腹した。その際の最後の糸を掛ける時に、グループ1には4.25w/v%酸性腹膜透析液(以下、PD液)のみ2mlを、グループ2には4.25w/v%%酸性PD液2mlザイモザンを懸濁して、初日(図1におけるDay0に相当する。)の腹腔内投与を行った。擦過処理の術者による差の要素を防ぐため、同一の術者によって行われ、術者に盲目的に群の振り分けは行われた。
図1に示すように、上記操作から24時間毎に4回(それぞれ図1におけるDay1、2、3及び4に相当する。)に腹腔内注入を行う。創部からの液漏れを防ぐため、腹腔内注射の容量は、Day1は5mlとし、その後は10mlとした。注射は擦過部分を含む組織評価予定部位を避けて行った。
(2)作製したラットにおける腹膜の評価
第一にDay1、3及び5にラットを屠殺し、開腹して、肉眼的に評価した。さらに、その後、免疫組織化学的解析のために凍結切片と、病理学的評価を行うために、10%ホルマリン液での固定切片とをそれぞれ作製した。免疫組織化学的解析としては、浸潤細胞数、および補体系(C3、C5b−9等補体の活性化物質の沈着、および膜補体制御因子の分布)について評価を行った。病理学的評価としては、腹膜表層および下層の肥厚の評価(光学顕微鏡下で厚さの測定を任意の5点で行い、その平均値を、各個体の代表値とした。)を含めた病理的検討を行った。
さらに、ザイモザン暴露が消失した状況でも、炎症が持続するかどうか、検討するために、グループ1及び2について、Day4までの5回の投与後、投与を中止し、その2週間後(図1におけるDay18及び36に相当する。)に屠殺し、上記の免疫組織化学的解析及び病理学的解析を行った。
(3)結果
[肉眼的評価]
肉眼的評価結果を図2に示す。図2に示すように、ザイモザンを投与したグループ2では明らかにプラーク形成が壁側腹膜表面に認められた。これに対して、グループ1では、Day18までの間を通じて、明らかなプラーク形成が認められなかった。グループ1とグループ2のプラーク形成の差は、Day3及びDay5において徐々に顕著になるとともに、Day18では、一層顕著であった。Day18では、グループ2の壁側腹膜に、プラークの拡大と共に新生毛細血管が確認することができた。また、グループ2のDay36では、肉眼的に腹膜下に走行する血管が腹膜の肥厚のため確認し難くなった。
[免疫組織化学的解析]
免疫組織化学的解析結果を図3〜図5に示す。図3は、補体の沈着傾向の評価結果であり、図4は、正常ラットにおける膜補体制御因子の分布を示す図であり、図5は、補体制御因子C55及びC59の分布の評価結果を示す図である。
図3に示すように、腹膜組織の表層から浸潤層において、グループ2においては、Day1及び3を中心にして活性化した補体であるC3及びC5b−9の沈着が多量に認められた。一方、Day5では、沈着はやや認められたものの、その程度は軽減していた。さらに、Day18でも、少量ながら補体の沈着が認められた。これに対して、グループ1では、Day1及び3では、いくらかの補体の沈着は認められたが、Day5では、ほとんど認められなかった。さらに、Day18においては有意な沈着は認められなかった。
図4及び図5に示すように、いずれのグループも、Day1及び3で補体制御因子の腹膜表層での発現は低下したが、グループ2では、グループ1と比較して、膜補体制御因子(CD59等)の有意に多い強陽性の細胞の集積が、腹膜表層とその直下に認められた。
[病理学的評価]
腹膜の厚さの評価結果を図6に示す。グループ1及び2の間で比較検討すると、図6に示すように、ザイモザンを投与しないグループ1では、Day3をピークにその後は減少していった。これに対し、ザイモザンを投与したグループ2では、Day5以降、少なくともDay18までは、腹膜の肥厚は増悪することが観察された。この肥厚性変化はDay36においても増悪が認められた。
また、炎症細胞の集積を含めたその他の病理学的変化について、図2に併せて示す。図2に示すように、グループ1では、Day5で既に初期の細胞浸潤の程度は軽減する傾向が見られ、腹膜のフィブリンの析出も消失していた。Day18では腹膜の肥厚は明らかに軽減し、主体もfibrosisに変わっていくのが観察された。これに対して、ザイモザンを投与したグループ2では、Day5でも腹膜中のフィブリンの析出は継続して観察され、Day18でも腹膜中の細胞の集積は高度であった。同時期には新生毛細脈菅が観察された。さらにグループ2では、Day36でも多量の細胞の集積と毛細血管を伴った腹膜の肥厚、肉芽腫用変化が観察された。
以上の結果から、真菌感染(ザイモザン)が、PD腹膜炎を増悪すること、特に一度感染すると、感染そのものが収まっても、引き続き炎症が進展していく可能性がこの動物モデルで示された。さらに、腹膜表層の膜補体制御因子発現の減少や補体活性化産物の沈着の所見から、真菌感染により初期には補体の活性化の増加ひいては補体の望まれない活性化が、真菌感染後の被嚢性腹膜硬化症を含めた腹膜障害の初期のトリガーになっていることがわかった。
本実施例では、真菌に関わる初期の腹膜炎症増悪に補体活性化が関わっているか、さらに抗補体治療の可能性があるのかどうかを確認した。
(1)ラットの作製
補体活性化抑制のために、使用したのはラットに存在するC3レベルでの補体の活性化を制御している膜補体制御因子Crry(ヒトのCD46とCD55の機能を併せ持った分子)をヒト免疫グロブリンのFc部分に融合したリコンビナント蛋白(Crry−Ig)を使用した。半減期が、単なるリコンビナント蛋白より長くなる。このリコンビナントタンパク質は、Hepburn, N. J., A. S. Williams, et al. (2006). "Generation and
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effective anti-complement reagents with extended half-life in vivo. Clin. Exp.
Immunol. 129:198-207, 2002に開示されており、引用により本明細書にその内容が取り込まれるものとする。
本実施例のプロトコールを図7に示す。図7に示すように、本実施例では、実施例のグループ2のDay0、2及び4の計3回の投与時に、上記Crry-Igを併せて投与した群をグループ4とし、実施例2のグループ2にCrry-Igに替えて同一の媒体を加えた群をグループ3とした。評価はDay5に屠殺して、実施例1と同様の評価方法を用いて行った。
(2)結果
[肉眼的評価]
Day5における肉眼的評価結果を図8に示す。図8に示すように、ザイモザンを投与したグループ3では明らかにプラーク形成が壁側腹膜表面に認められた。これに対して、膜補体制御因子リコンビナントタンパク質を併せて投与したグループ4では、明らかにプラークが少なかった。
[免疫組織化学的解析]
Day5における免疫組織化学的解析結果を図9に示す。図9に示すように、補体の組織への沈着については、グループ4ではほとんど認められず、局所での抗補体治療の効果が認められた。
[病理学的評価]
Day5における病理学的評価結果を図8及び図10に示す。図8及び図10に示すように、腹膜の肥厚は補体抑制群であるグループ4では、非抑制群であるグループ3に比べて明らかに軽減していた。すなわち、グループ4における腹膜肥厚は、実施例1のグループ1とほぼ同程度に抑制されていた。
実施例1におけるグループ1及び2についてのプロトコールを示す図である。 実施例1のDay3、5、18及び36における肉眼的評価結果及び病理学的評価結果を示す図である。それぞれの左側に肉眼像を示し、右側に組織像を示す。 実施例1における補体の沈着傾向の評価結果を示す図である。 正常ラットにおける膜補体制御因子の分布を示す図である。 実施例1のDay5における補体制御因子CD55及びCD59の分布の評価結果を示す図である。 実施例1における病理学的評価結果(腹膜下組織厚さの変化:Day1〜Day18)を示す図である。 実施例2のグループ3及び4についてのプロトコールを示す図である。 実施例2のDay5における肉眼的評価結果及び病理学的評価結果を示す図である。それぞれの上段に肉眼像を示し、下段に組織像を示す。 実施例2のDay5における免疫組織化学的解析結果を示す図である。 実施例2のDay5における病理学的評価結果(腹膜下組織厚さ)を示す図である。

Claims (18)

  1. 腹膜透析下での腹膜障害モデル動物の作製方法であって、
    腹膜表面に組織障害を有する非ヒト動物を準備する準備工程と、
    前記非ヒト動物の腹腔内に補体活性化因子を投与する投与工程と、
    を備える、作製方法。
  2. 前記投与工程は、前記非ヒト動物の腹腔に前記補体活性化因子とともに腹膜透析用液又は同等の浸透圧液を投与する工程である、請求項1に記載の作製方法。
  3. 前記投与工程を複数回実施する、請求項1又は2に記載の作製方法。
  4. 前記投与工程は、補体活性化因子として真菌由来の細胞膜成分を投与する工程である、請求項1〜3のいずれかに記載の作製方法。
  5. 前記真菌由来の細胞膜成分はザイモザンである、請求項4に記載の作製方法。
  6. 前記投与工程後に、前記非ヒト動物の腹腔に腹膜透析液又は同等の浸透圧液を投与する工程を備える、請求項1〜5のいずれかに記載の作製方法。
  7. 前記準備工程は、前記非ヒト動物の腹膜表面を擦過することを含む工程である、請求項1〜6のいずれかに記載の作製方法。
  8. 前記モデル動物は腹膜炎後の腹膜硬化症のモデル動物である、請求項1〜7のいずれかに記載の作製方法。
  9. 前記準備工程は、前記非ヒト動物としてげっ歯類を用いる工程である、請求項1〜6のいずれかに記載の作製方法。
  10. 請求項1〜9のいずれかによって得られる、腹膜透析下での腹膜障害非ヒトモデル動物。
  11. 腹膜透析下での腹膜障害非ヒトモデル動物であって、
    腹膜下組織に補体系成分の沈着傾向を有する、非ヒトモデル動物。
  12. 前記補体系成分はC3及び/又はC5b−9を含む、請求項11に記載の非ヒトモデル動物。
  13. 腹膜下組織における補体制御因子量の低減が観察される、請求項11又は12に記載のモデル動物。
  14. 腹膜透析下における腹膜障害の予防又は治療用剤のスクリーニング方法であって、
    請求項10〜13のいずれかに記載の非ヒトモデル動物に被験成分を投与する投与工程と、
    前記被験成分を投与した非ヒトモデル動物における腹膜障害を評価する評価工程と、
    を備える、スクリーニング方法。
  15. 前記被験成分は、補体活性化を抑制する可能性のある化合物である、請求項14に記載のスクリーニング方法。
  16. 腹膜透析下における腹膜障害の予防又は治療用剤であって、
    補体活性化を抑制する化合物を有効成分とする、予防又は治療用剤。
  17. 腹膜炎後に投与される、請求項16に記載の予防又は治療用剤。
  18. 腹膜透析液であって、
    補体活性化を抑制する腹膜劣化抑制剤を含有する、腹膜透析液。
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