JP2008259965A - 表面処理方法および摺動部材 - Google Patents
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Abstract
【課題】摺動部材に適用可能な部材表面の摩擦抵抗を低減する。
【解決手段】基材12の表面に、吸湿性化合物16を含有する被覆層24を形成する。吸湿性化合物16は、好ましくは吸湿性を有するナトリウム化合物であり、好適には、炭酸ナトリウム、硝酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む。被覆層24は、さらに撥水性フッ素化合物26を含有することも可能であり、好適である。
【選択図】図3
【解決手段】基材12の表面に、吸湿性化合物16を含有する被覆層24を形成する。吸湿性化合物16は、好ましくは吸湿性を有するナトリウム化合物であり、好適には、炭酸ナトリウム、硝酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む。被覆層24は、さらに撥水性フッ素化合物26を含有することも可能であり、好適である。
【選択図】図3
Description
本発明は、表面処理方法および摺動部材に関する。より詳細には、基材表面の摩擦抵抗を低減する表面処理方法および該方法により表面処理された部材を摺動させて使用する摺動部材に関する。
一般に、複数の部材を相互に摺動させる摺動部材において、各基材間の、特に摺動面の摩耗劣化を抑制するために、固体接触部分の摩擦係数を下げることが重要である。例えば、ピストンリングやピストンスカートなどのエンジン部品においては、摺動部分における摩擦の低減により、摺動する各部材表面の損耗や劣化が抑制されるだけでなく、さらにエネルギー損失が低減されることにより、燃費の向上にもつながるため、摺動部材における摩擦抵抗の低減は特に重要な課題である。
摩擦係数を低減するために、例えば、固体潤滑剤を配合した被覆層による摺動部の表面処理などによる検討が行なわれてきた。
特許文献1には、摺動する2つの部材のうち、一方の部材の、少なくとも摺動する他方の部材に対する摺動面部を二硫化モリブデン(MoS2)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、グラファイトの固体潤滑材とポリアミドイミド樹脂バインダからなる低熱樹脂被覆層面とした摺動部材について記載されている。
また、特許文献2には、耐熱性樹脂をベース材とするピストンリング用被覆材において、潤滑性向上成分として、グラファイト、PTFE、MoS2、WS2のうちから選ばれる少なくとも1種の固体潤滑剤を含むものについて記載されている。
PTFEやMoS2などの固体潤滑剤の添加による摩擦係数を低減させる機序は一般に、これらの固体潤滑剤が有する層状構造に起因した層間すべりにより、固体接触部におけるせん断抵抗を低下させることによるものとされる。このため、固体潤滑剤の添加による摩擦係数の低減効果には自ずと限界があり、また固体潤滑剤の大量の添加はむしろ、耐摩耗性など、機械的強度の低下に繋がるおそれがある。特に、想定荷重以上の強い荷重で固体接触することが想定されるような場合には、大量の固体潤滑剤の配合により摺動部分の焼きつきや摩耗の可能性がさらに高まる。
一方、摩擦抵抗を低下させる別の方法として、摺動する部材間にグリースや液体潤滑剤などの潤滑油剤を塗布することも広く知られている。また、摺動部材間に塗布する潤滑油剤として、例えばポリ−α−オレフィン(PAO)などの合成油からなる、トラクション係数の低い基油を選択することにより、潤滑油剤層内のせん断抵抗を下げ、摩擦抵抗を低下させることが可能である。しかし、このようなトラクション係数の低い基油は、一般に高価であり、全体としてコストの増大に繋がる傾向にあるため、実用性の観点から適当でない場合があった。また、このような高価な基油を選択した場合であっても、画期的なトラクション係数の低下に繋がる場合はそれほど多くはなく、費用対効果の観点から、あまり適さない場合もあった。
本発明は、摩擦係数の低い摺動部材を作製することが可能な表面処理方法を提供することを目的とする。
また、本発明の他の目的は、低摩擦な摺動部材の提供にある。
本発明の構成は以下のとおりである。
(1)基材の表面に、吸湿性化合物を含有する被覆層を形成する工程を含む、表面処理方法。
(2)上記(1)に記載の表面処理方法において、前記被覆層を形成する工程は、溶媒中に、吸湿性化合物と、バインダとを含む表面処理液を調製する工程と、前記表面処理液を前記基材の表面に塗布する工程と、溶媒を除去する工程と、を含む、表面処理方法。
(3)上記(2)に記載の表面処理方法において、前記表面処理液は、さらに撥水性を有するフッ素化合物を含有する、表面処理方法。
(4)上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の表面処理方法において、前記吸湿性化合物が、ナトリウム化合物である、表面処理方法。
(5)上記(4)に記載の表面処理方法において、前記ナトリウム化合物が、炭酸ナトリウム、硝酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む、表面処理方法。
(6)第1の部材と、第2の部材とを相互に摺動させる摺動部材であって、前記第1の部材および前記第2の部材のうち少なくとも一方は、基材と、前記基材の表面を被覆する被覆層と、を備え、前記被覆層は、吸湿性化合物を含有する、摺動部材。
(7)上記(6)に記載の摺動部材において、前記被覆層は、さらに撥水性を有するフッ素化合物を含有する、摺動部材。
(8)第1の基材を含む第1の部材と、第2の基材を含む第2の部材とを相互に摺動させる摺動部材であって、前記第2の部材に対面する前記第1の基材の表面には、吸湿性化合物を含有する第1の被覆層が、前記第1の部材に対面する前記第2の基材の表面には、撥水性を有するフッ素化合物を含有する第2の被覆層が、それぞれ形成されている、摺動部材。
(9)上記(6)から(8)のいずれか1つに記載の摺動部材において、前記吸湿性化合物が、ナトリウム化合物である、摺動部材。
(10)上記(9)に記載の摺動部材において、前記ナトリウム化合物が、炭酸ナトリウム、硝酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む、摺動部材。
部材表面の摩擦係数を低減することが可能となる。
以下、図面を用いて詳細に説明する。なお、各図面において、同様の構成については同一の符号を付すとともに、重複する説明については省略する。
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施の形態における、摩擦係数の低い摺動面を有する摺動部材に適用可能な部材10の構成の概略を示す断面図である。図1に示す部材10は、基材12の表面に被覆層14が形成されている。また、被覆層14は、吸湿性化合物16を含有している。他の材料として、好適には吸湿性化合物16を被覆層14全体に均一に分散させた状態で保持するバインダ18を含有し、さらに図示しない固体潤滑剤などを含有している場合もある。
図1は、本発明の実施の形態における、摩擦係数の低い摺動面を有する摺動部材に適用可能な部材10の構成の概略を示す断面図である。図1に示す部材10は、基材12の表面に被覆層14が形成されている。また、被覆層14は、吸湿性化合物16を含有している。他の材料として、好適には吸湿性化合物16を被覆層14全体に均一に分散させた状態で保持するバインダ18を含有し、さらに図示しない固体潤滑剤などを含有している場合もある。
図1に示す基材12の表面に被覆層14を形成させた部材10を作製する方法として、必ずしもこれに限定されるわけではないが、例えば適当な溶媒中に、吸湿性化合物16と、バインダ18と、必要に応じて用いられる図示しない固体潤滑剤などと、を含む表面処理液を調製し、この表面処理液を基材12の表面に塗布し、その後、溶媒を除去することにより行なうことが可能である。
本実施の形態において、吸湿性化合物16とは、吸湿性を有する種々の物質を指すが、ここでいう「吸湿性を有する」とは、図2に示す水層22を実質的に形成可能なことを意味しており、必ずしも吸湿性化合物16そのものが有意の吸湿性を有するものでなくてもよい。このような吸湿性化合物は、例えば、過塩基性Naスルフォネートなどの液体を使用することも可能であるが、成形性の観点から、少なくとも常温にて固体のものが好ましい。好ましい吸湿性化合物として、具体的には硝酸マグネシウムや硫酸マグネシウムなどのマグネシウム化合物、炭酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウムなどのナトリウム化合物、シリカゲル(SiO2・nH2O)などを挙げることが可能であるが、これに限定されない。
また、図1に示す吸湿性化合物16として特に好適に用い得るナトリウム化合物として、上述した物質に限らず、種々のものを用いることができる。ただし、基材12の材質によっては腐食や劣化の要因となり得るものはあまり好ましくない(例えば、水酸化ナトリウムや塩化ナトリウムなど)。また著しい潮解性を有するものも被覆層14そのものの安定性が確保できない可能性があるため適当でない(例えば、水酸化ナトリウムなど)。また、高温状態において用いる可能性のある場合には、分解性の高いものも好ましくない(例えば、炭酸水素ナトリウムなど)。吸湿性化合物16として好適に用い得る、種々の使用条件や基材12の材質に依存しない、汎用的なナトリウム化合物として、炭酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウムなどの正塩(中性塩)を挙げることができる。これらのナトリウム化合物から1つを選択し、もしくは複数を組み合わせて用いることができる。これらの物質は一般に入手が容易であり、安価であるという利点も兼備しており、好適である。
また、他の実施の形態として、吸湿性化合物16として特に好適に用い得るナトリウム化合物として、炭酸ナトリウム、硝酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種と、他の吸湿性化合物および/または吸湿性を有する他のナトリウム化合物と、を組み合わせて使用することも可能である。また、他の実施の形態として、基材12や被覆層14の組成によっては、強酸と強塩基からなる正塩である硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウムなどが好適である場合もある。また、他の実施の形態として、水和物を使用しても無水物を使用しても良いが、安定な無水物が得られない物質を使用する場合を除き、吸湿性のより良好と思われる無水物が好適である。
また、本実施の形態において、被覆層14中に配合するバインダ18として、以下のものに限定されるわけではないが、例えばポリイミドアミド、ポリイミド、エポキシなどの有機バインダや、SiO(酸化ケイ素、ポリシラザン法による)、酸化チタンなどの無機バインダなど、種々のものを選択し、使用することができる。
さらに、本実施の形態において、被覆層14中に、場合によっては配合することのできる固体潤滑剤として、グラファイト、MoS2、WS2などを挙げることができる。
本実施の形態において、表面処理液に適応し得る溶媒として、バインダ18を均一に溶解し得るものであればいかなるものも好適に使用可能である。具体的にはn−メチルピロリドン、キシレン、トルエン、およびそれらのうち2種以上を含む混合物などを例示することが可能であるが、これらに限定されない。
また、表面処理液に使用した溶媒の除去は、基材12および被覆層14の変形等の影響を与えない限り、いかなる方法によるものであっても良いが、例えば所定の温度に維持したオーブンや温風による乾燥が好適である。
図2は、図1に示す部材10(第1の部材)を用いて構成される、本発明の実施の形態における摺動部材について説明する断面概略図である。図2に示す摺動部材100は、第1の部材10と、第2の部材40とを相互に摺動させるように構成され、用いられる。なお、図2において、第1の部材10と、第2の部材40との界面は通常、実際には摺動面同士が固体接触するような構成を有しているが、ここでは説明を容易にするために、各部材間に所定の間隔を有する構成として示している。
図2に示すような構成を有する摺動部材100による、第1の部材10と第2の部材40との間の摩擦抵抗低減の機序は、完全には解明されていないが、概ね次のような理由によるものであると考えられる。
すなわち、第1の部材10の表面に形成された被覆層14中に含有する吸湿性化合物16の吸湿作用により、摺動面近傍の大気中および/または後述する潤滑油剤中に含まれる水分が引き寄せられ、被覆層14の表面全体またはその一部に薄膜状の水層22が形成される。このため、(摺動面同士が固体接触するように配置されているはずの)第1の部材10と第2の部材40との間に水層22の薄膜が形成されることにより、第1の部材10と第2の部材40との間の摩擦抵抗が低減する。
本実施の形態において、基材12として熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、金属材料、さらにそれらを組み合わせたものなど、摺動部材の基材として適用し得るものであればいかなるものを使用することも可能である。好適な金属材料として、具体的には、炭素鋼やステンレス鋼、またアルミニウムや銅などを含有する合金材などを挙げることが可能であるが、これに限定されない。
また、第2の部材40として、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、金属材料、さらにそれらを組み合わせたものなど、基材12と同様、摺動部材の基材として適用し得るものであればいかなるものを使用することも可能である。なお、基材12と第2の部材40は、同一のものを採用しても良く、また異なるものであっても構わない。
本実施の形態において、図1に示す被覆層14の厚みは、基材12の材質や第2の部材40との摺動面積、被覆層14に配合する材料の種類やその形状等の諸条件により適宜設定することが可能であるが、例えば5〜20μmとすることができる。一般に被覆層14の厚みが概ね5μm未満の場合には、吸湿性化合物や固体潤滑剤等の均一な配置が困難となる可能性があり、また、場合によっては摺動面からの欠落や脱離につながる可能性がある。一方、被覆層14の厚みが概ね20μmを超える場合には、基材12からの剥離などに伴い、摺動特性へ影響を及ぼす可能性がある。
また、本実施の形態において、吸湿性化合物16の形状は、特に限定されるわけではなく、粉末状、粒子状、結晶状など、いかなる形状のものを使用することも可能であり、また形状や大きさを揃える必要もない。ただし、吸湿性化合物16の大きさが大き過ぎると、被覆層14中での分布が偏ってしまったり、被覆層14の厚さによっては被覆層14内から脱落したりする場合も想定されるため、最大の外寸を5μm以下程度に調整することが好ましい。
また、本実施の形態において、被覆層14中に配合する吸湿性化合物16の配合量は、吸湿性化合物の寸法や吸湿性の程度により適宜設定することが可能であり、特に限定されるわけではないが、より具体的には、バインダ18に対して例えば3〜20vol%とすることが可能である。被覆層14中に配合する吸湿性化合物の配合量がバインダ18に対して3vol%未満の場合には、図2に示すような摺動部材100を適用する際、水層22が十分に形成されず、摺動面に対する摩擦抵抗低減の効果が十分に発揮されない場合がある。一方、被覆層14中に配合する吸湿性化合物の配合量がバインダ18に対して20vol%を超える場合には、被覆層14の強度低下や、過度に水層22が形成されることにより、摺動面に対する摩擦抵抗低減の効果が十分に発揮されない場合がある。
このように、基材12の表面に、吸湿性化合物16を含有する被覆層14を形成した第1の部材10を、図2に示す摺動部材100に適用することにより、互いに摺動する各部材間の摩擦抵抗を低減させることが可能となる。
また、図2に示すように、摺動部材100に潤滑油剤をさらに適用することも可能である。図2に例示するような場合には、第1の部材10と第2の部材40との間、より詳細には、水層22と第2の部材40との間に、潤滑油剤に由来する油層20がさらに形成されていると想定される。このとき、図2に示す摺動部材100における第1の部材10と第2の部材40との摺動に伴う摩擦抵抗は、主として部材間に形成された水層22および/または油層20におけるせん断応力に起因するものとなると考えられ、被覆層14を有しない従来の摺動部材と比較して、摩擦抵抗を低下させることが可能となる。
<実施の形態2>
図3は、本発明の他の実施の形態における、摩擦係数の低い摺動面を有する摺動部材に適用可能な部材30の構成の概略を示す断面図である。図3に示す部材30は、基材12の表面に、被覆層14に代えて被覆層24が形成されていることを除き、図1に示す部材10と同様の構成を有している。
図3は、本発明の他の実施の形態における、摩擦係数の低い摺動面を有する摺動部材に適用可能な部材30の構成の概略を示す断面図である。図3に示す部材30は、基材12の表面に、被覆層14に代えて被覆層24が形成されていることを除き、図1に示す部材10と同様の構成を有している。
図3において、被覆層24は、吸湿性化合物16および撥水性フッ素化合物26を含有している。より具体的には、バインダ18に対し、吸湿性化合物16および撥水性フッ素化合物26が均一に分散された構成を有している。
本実施の形態において、撥水性フッ素化合物26とは、撥水性を有するフッ素化合物を意味するものである。具体的な撥水性フッ素化合物26の例として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PEA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などの撥水性を有するフッ素樹脂を挙げることが可能である。ただし撥水性フッ素化合物26は、これに限定されるものではなく、所定の撥水性を有するものであればいかなるフッ素化合物を使用することも可能である。
図4は、図3に示す部材30を用いて構成される、本発明の他の実施の形態における摺動部材について説明する断面概略図である。図4において、摺動部材200は、第1の部材10に代えて(第1の)部材30を適用したことを除き、図2に示す摺動部材100とほぼ同様の構成を有しており、第1の部材30と、第2の部材40とを相互に摺動させるように構成され、用いられる。なお、図4において、第1の部材30と、第2の部材40との界面は通常、実際には摺動面同士が固体接触するような構成を有しているが、図2と同様の理由により、各部材間に所定の間隔を有する構成として示している。
図4に示すような構成を有する摺動部材200による、第1の部材30と第2の部材40との間の摩擦抵抗低減の機序は、図2に示す摺動部材100と同様、完全には解明されていないが、概ね次のような理由によるものであると考えられる。
すなわち、図2に示す摺動部材100と同様に、第1の部材30の表面に形成された被覆層24中に含有する吸湿性化合物16の吸湿作用により、摺動面近傍の大気中および/または後述する潤滑油剤中に含まれる水分が引き寄せられ、被覆層24の表面全体またはその一部に薄膜状の水層22が形成される。このため、(摺動面同士が固体接触するように配置されているはずの)第1の部材30と第2の部材40との間に水層22の薄膜が形成されることにより、第1の部材30と第2の部材40との間の摩擦抵抗が低減する。
一方、被覆層24中に含有する撥水性フッ素化合物26による撥水作用により、第2の部材40に対面する第1の部材30表面は図2に示す第1の部材10表面と比較して水に対する濡れ性が低下している。このような構成を有する摺動部材200は、第1の部材30(または被覆層24)と水層22との間の摩擦抵抗がさらに低下しているものと想定される。このため、図4に示す摺動部材200は、図2に示す摺動部材100と同等またはそれ以上の摩擦抵抗低減効果を有するものと考えられる。
本実施の形態において、図3に示す被覆層24の厚みは、適宜設定することが可能であるが、例えば5〜20μmとすることができる。基材12の材質や第2の部材40(図4)との摺動面積、被覆層24に配合する材料の種類やその形状等の諸条件にもよるが、一般に被覆層24の厚みが5μm未満の場合には、吸湿性化合物や固体潤滑剤等の均一な配置が困難となる可能性があり、また、場合によっては摺動面からの欠落や脱離につながる可能性がある。一方、被覆層24の厚みが20μmを超える場合には、基材12からの剥離などに伴い、摺動特性へ影響を及ぼす可能性がある。
本実施の形態において、被覆層24中に配合する吸湿性化合物16の配合量は、吸湿性化合物の寸法や吸湿性の程度により適宜設定することが可能であり、特に限定されるわけではないが、より具体的には、バインダ18に対して例えば3〜15vol%とすることが可能である。被覆層24中に配合する吸湿性化合物の配合量がバインダ18に対して3vol%未満の場合には、図4に示すような摺動部材200を適用する際、水層22が十分に形成されず、摺動面に対する摩擦抵抗低減の効果が十分に発揮されない場合がある。一方、被覆層24中に配合する吸湿性化合物の配合量がバインダ18に対して15vol%を超える場合には、被覆層24の強度低下や、過度に水層22が形成されることにより、摺動面に対する摩擦抵抗低減の効果が十分に発揮されない場合がある。
また、本実施の形態において、被覆層24中に配合する撥水性フッ素化合物26の形状は、特に限定されるわけではなく、粉末状、粒子状、結晶状など、いかなる形状のものを使用することも可能であり、また形状や大きさを揃える必要もない。ただし、撥水性フッ素化合物26の大きさが大き過ぎると、被覆層24中での分布が偏ってしまったり、被覆層24の厚さによっては被覆層24内から脱落したりする場合も想定されるため、最大の外寸を5μm以下程度に調整することが好ましい。
本実施の形態において、被覆層24中に配合する撥水性フッ素化合物26の配合量は、撥水性フッ素化合物の寸法や撥水性の程度により適宜設定することが可能であり、特に限定されるわけではないが、より具体的には、バインダ18に対して例えば5〜30vol%とすることが可能である。被覆層24中に配合する撥水性フッ素化合物の配合量がバインダ18に対して5vol%未満の場合には、図4に示すような摺動部材200を適用する際、水層22に対する撥水効果が十分に発揮されず、摺動面に対するさらなる摩擦抵抗低減の効果が発揮されない場合がある。一方、被覆層24中に配合する撥水性フッ素化合物の配合量がバインダ18に対して30vol%を超える場合には、被覆層24の強度が低下し、耐摩耗性が低下する要因に繋がる場合がある。また、他の実施の形態として、被覆層24中に配合する撥水性フッ素化合物26の配合量を、バインダ18の質量に対して例えば5〜30質量%とすることが可能である。
このように、基材12の表面に、吸湿性化合物16と、撥水性フッ素化合物26とを含有する被覆層24を形成した第1の部材30を図4に示す摺動部材200に適用することにより、各部材間の摩擦抵抗を低減させることが可能となる。
また、図4に示すように、摺動部材200に潤滑油剤をさらに適用することも可能である。図4に例示するような場合には、第1の部材30と第2の部材40との間、より詳細には、水層22と第2の部材40との間に、潤滑油剤に由来する油層20がさらに形成されていると想定される。このとき、図4に示す摺動部材200における第1の部材30と第2の部材40との摺動に伴う摩擦抵抗は、図2に示す摺動部材100と同様、主として部材間に形成された水層22および/または油層20におけるせん断応力に起因するものとなると考えられ、被覆層24を有しない従来の摺動部材と比較して、摩擦抵抗を低下させることが可能となる。
<実施の形態3>
図5は、本発明の他の実施の形態における、摩擦係数の低い摺動面を有する摺動部材に適用可能な各部材の構成の概略を示す断面図である。図5(a)に示す部材50は、基材32の表面に、撥水性フッ素化合物26を含有する被覆層34が形成されている。一方、図5(b)に示す第1の部材10は、基材12の表面に、吸湿性化合物16を含有する被覆層14が形成されており、図1に示す部材10と同様の構成を有する部材を用いることができる。
図5は、本発明の他の実施の形態における、摩擦係数の低い摺動面を有する摺動部材に適用可能な各部材の構成の概略を示す断面図である。図5(a)に示す部材50は、基材32の表面に、撥水性フッ素化合物26を含有する被覆層34が形成されている。一方、図5(b)に示す第1の部材10は、基材12の表面に、吸湿性化合物16を含有する被覆層14が形成されており、図1に示す部材10と同様の構成を有する部材を用いることができる。
図6は、図5(a)に示す第2の部材50と図5(b)に示す第1の部材10とを用いて構成される、本発明の他の実施の形態における摺動部材について説明する断面概略図である。図6において、摺動部材300は、第1の部材10と、第2の部材50とを相互に摺動させるように構成されており、第2の部材40に代えて第2の部材50を適用したことを除き、図2に示す摺動部材100とほぼ同様の構成を有している。なお、図6において、第1の部材10と、第2の部材50との界面は通常、実際には摺動面同士が固体接触するような構成を有しているが、図2と同様の理由により、各部材間に所定の間隔を有する構成として示している。
図6において、第2の部材50に対面する第1の基材12の表面に、吸湿性化合物16を含有する第1の被覆層14が形成された第1の部材10と、第1の部材10に対面する第2の基材32の表面に、撥水性フッ素化合物26を含有する第2の被覆層34が形成された第2の部材50とを互いに摺動させるような構成を有している。図6に示すような摺動部材300による、第1の部材10と第2の部材50との間の摩擦抵抗低減の機序は、前述した他の実施の形態と同様、完全には解明されていないが、概ね次のような理由によるものであると考えられる。
すなわち、図2に示す摺動部材100と同様に、第1の部材10の表面に形成された被覆層14中に含有する吸湿性化合物16の吸湿作用により、摺動面近傍の大気中および/または後述する潤滑油剤中に含まれる水分が引き寄せられ、被覆層14の表面全体またはその一部に薄膜状の水層22が形成される。このため、摺動面同士が固体接触するように配置されているはずの第1の部材10と第2の部材50との間に水層22の薄膜が形成されることにより、第1の部材10と第2の部材50との間の摩擦抵抗が低減する。
第1の部材10と第2の部材50との間に形成された水層22は、被覆層34中に含有する撥水性フッ素化合物26による撥水作用により、第2の部材50表面との濡れ性が低下することにより、第2の部材50(または被覆層34)と水層22との間の摩擦抵抗がさらに低下する。このため、図6に示す摺動部材300は、図2、4にそれぞれ示す摺動部材100,200と同等またはそれ以上の摩擦抵抗低減効果を有するものと考えられる。
本実施の形態において、図5(a)に示す被覆層34の厚みは、基材32の材質や第1の部材10との摺動面積、被覆層34に配合する固形材料の種類やその形状等の諸条件により適宜設定することが可能であるが、例えば5〜20μmとすることができる。一般に被覆層34の厚みが5μm未満の場合には、吸湿性化合物や固体潤滑剤等の均一な配置が困難となる可能性があり、また、場合によっては摺動面からの欠落や脱離につながる可能性がある。一方、被覆層34の厚みが20μmを超える場合には、基材32からの剥離などに伴い、摺動特性へ影響を及ぼす可能性がある。
本実施の形態において、被覆層34中に配合する撥水性フッ素化合物26の配合量は、撥水性フッ素化合物の寸法や撥水性の程度により適宜設定することが可能であり、特に限定されるわけではないが、より具体的には、バインダに対して例えば5〜30vol%とすることが可能である。被覆層34中に配合する撥水性フッ素化合物の配合量がバインダに対して5vol%未満の場合には、図6に示すような摺動部材300を適用する際、水層22に対する撥水効果が十分に発揮されず、摺動面に対する摩擦抵抗低減の効果が十分に得られない場合がある。一方、被覆層34中に配合する撥水性フッ素化合物の配合量がバインダに対して30vol%を超える場合には、被覆層34の強度が低下し、経時劣化の要因に繋がる場合がある。また、他の実施の形態として、被覆層34中に配合する撥水性フッ素化合物26の配合量を、バインダ18の質量に対して例えば5〜30質量%とすることが可能である。
このように、基材12の表面に、吸湿性化合物16を含有する被覆層14を形成した第1の部材10と、基材32の表面に、撥水性フッ素化合物26を含有する被覆層34を形成した第2の部材50とを、図6に示す摺動部材300に適用することにより、各部材間の摩擦抵抗を低減させることが可能となる。
また、図6に示すように、摺動部材300に潤滑油剤をさらに適用することも可能である。図6に例示するような場合には、第1の部材10と第2の部材50との間、より詳細には、水層22と第2の部材50との間に、潤滑油剤に由来する油層20がさらに形成されていると想定される。このとき、図6に示す摺動部材300における第1の部材10と第2の部材50との摺動に伴う摩擦抵抗は、主として部材間に形成された水層22および/または油層20におけるせん断応力に起因するものと考えられ、被覆層14,34を有しない従来の摺動部材と比較して、摩擦抵抗を低下させることが可能となる。
以上説明した、本発明の実施の形態として図2,4,6に示した各摺動部材において、第1の部材(10,30,10)と第2の部材(40,40,50)との組み合わせはそれぞれ、あくまでも例示であって、これらに限定されるものではない。例えば、図2において、第2の部材40に代えて、図1に示す部材10または図3に示す部材30と同様の構成を有する部材を適用することも可能である。また、図4において、第2の部材40に代えて、図3に示す部材30または図5(a)に示す部材50と同様の構成を有する部材を適用することも可能である。ただし、言及するまでもないことであるが、これら各構成の選択に応じて、吸湿性化合物および/または撥水性フッ素化合物の含有量など、適宜変更することが可能である。
本発明の実施の形態に係る摺動部材に相当する被験試料をそれぞれ作製し、その摩擦抵抗の低減効果を、通常の摺動部材に相当する被験試料と比較した。
[評価の概要]
スラストタイプの鈴木式摩擦摩耗試験機(EFM−III、(株)エー・アンド・デイ製)を用いて、被験試料(試験片)間の動摩擦係数を測定した。試験機要部の概略について図7に示す。平板状のディスク試験片52に対し円筒状のリング試験片54を一定荷重にて押し当てた接触面56が試験部位となる。この状態で、リング試験片54を所定の速度にて回転させることにより、接触面においてディスク試験片52とリング試験片54が摺動する。このときの動摩擦係数を経時的に測定することにより、摺動部材間の摩擦抵抗の変化の様子を確認することができる。
スラストタイプの鈴木式摩擦摩耗試験機(EFM−III、(株)エー・アンド・デイ製)を用いて、被験試料(試験片)間の動摩擦係数を測定した。試験機要部の概略について図7に示す。平板状のディスク試験片52に対し円筒状のリング試験片54を一定荷重にて押し当てた接触面56が試験部位となる。この状態で、リング試験片54を所定の速度にて回転させることにより、接触面においてディスク試験片52とリング試験片54が摺動する。このときの動摩擦係数を経時的に測定することにより、摺動部材間の摩擦抵抗の変化の様子を確認することができる。
[表面処理液1の調製]
n−メチルピロリドン、キシレンを質量比3:1で含有する溶媒100質量部に対して、バインダとしてポリアミドイミド樹脂(1000(商品名)、ポリプラスチックス株式会社製)を80質量部、吸湿性化合物として炭酸ナトリウム(試薬特級Na2CO3、高杉製薬製)、固体潤滑剤としてMoS2(Cパウダー(商品名)、平均粒径1.2μm、株式会社ダイゾー製)をそれぞれ添加して撹拌し、均一に分散させて、表面処理液1を調製した。なお、Na2CO3、MoS2は、乾燥時において、ポリアミドイミド樹脂に対し、それぞれ10vol%、10vol%となるように換算し、添加した。
n−メチルピロリドン、キシレンを質量比3:1で含有する溶媒100質量部に対して、バインダとしてポリアミドイミド樹脂(1000(商品名)、ポリプラスチックス株式会社製)を80質量部、吸湿性化合物として炭酸ナトリウム(試薬特級Na2CO3、高杉製薬製)、固体潤滑剤としてMoS2(Cパウダー(商品名)、平均粒径1.2μm、株式会社ダイゾー製)をそれぞれ添加して撹拌し、均一に分散させて、表面処理液1を調製した。なお、Na2CO3、MoS2は、乾燥時において、ポリアミドイミド樹脂に対し、それぞれ10vol%、10vol%となるように換算し、添加した。
[表面処理液2の調製]
n−メチルピロリドン、キシレンを質量比3:1で含有する溶媒100質量部に対して、バインダとしてポリアミドイミド樹脂(1000(商品名))を80質量部、吸湿性化合物として炭酸ナトリウム(試薬特級Na2CO3、高杉製薬製)、撥水性フッ素化合物としてPTFE(fluon(商品名)、平均粒径7μm、旭硝子株式会社製)、固体潤滑剤としてMoS2(Cパウダー(商品名))をそれぞれ添加して撹拌し、均一に分散させて、表面処理液2を調製した。なお、Na2CO3、PTFE、MoS2は、乾燥時において、ポリアミドイミド樹脂に対し、それぞれ10vol%、5vol%、10vol%となるように換算し、添加した。
n−メチルピロリドン、キシレンを質量比3:1で含有する溶媒100質量部に対して、バインダとしてポリアミドイミド樹脂(1000(商品名))を80質量部、吸湿性化合物として炭酸ナトリウム(試薬特級Na2CO3、高杉製薬製)、撥水性フッ素化合物としてPTFE(fluon(商品名)、平均粒径7μm、旭硝子株式会社製)、固体潤滑剤としてMoS2(Cパウダー(商品名))をそれぞれ添加して撹拌し、均一に分散させて、表面処理液2を調製した。なお、Na2CO3、PTFE、MoS2は、乾燥時において、ポリアミドイミド樹脂に対し、それぞれ10vol%、5vol%、10vol%となるように換算し、添加した。
[表面処理液3の調製]
n−メチルピロリドン、キシレンを質量比3:1で含有する溶媒100質量部に対して、バインダとしてポリアミドイミド樹脂(1000(商品名))を80質量部、撥水性フッ素化合物としてPTFE(fluon L173J(商品名))をそれぞれ添加して撹拌し、均一に分散させて、表面処理液3を調製した。なお、PTFEは、乾燥時において、ポリアミドイミド樹脂に対し、5vol%となるように換算し、添加した。
n−メチルピロリドン、キシレンを質量比3:1で含有する溶媒100質量部に対して、バインダとしてポリアミドイミド樹脂(1000(商品名))を80質量部、撥水性フッ素化合物としてPTFE(fluon L173J(商品名))をそれぞれ添加して撹拌し、均一に分散させて、表面処理液3を調製した。なお、PTFEは、乾燥時において、ポリアミドイミド樹脂に対し、5vol%となるように換算し、添加した。
[表面処理液4の調製]
シクロヘキサン、キシレンを含有する溶媒100質量部に対して、バインダとして市販のペルヒドロポリシラザン(SiH2NH)を20質量部、撥水性フッ素化合物としてPTFE(fluon L173J(商品名))をそれぞれ添加して撹拌し、均一に分散させて、表面処理液4を調製した。なお、PTFEは、乾燥時において、被覆層の体積に対し、5vol%となるように換算し、添加した。
シクロヘキサン、キシレンを含有する溶媒100質量部に対して、バインダとして市販のペルヒドロポリシラザン(SiH2NH)を20質量部、撥水性フッ素化合物としてPTFE(fluon L173J(商品名))をそれぞれ添加して撹拌し、均一に分散させて、表面処理液4を調製した。なお、PTFEは、乾燥時において、被覆層の体積に対し、5vol%となるように換算し、添加した。
[表面処理液5の調製]
n−メチルピロリドン、キシレンを質量比3:1で含有する溶媒100質量部に対して、バインダとしてポリアミドイミド樹脂(1000(商品名)、ポリプラスチックス株式会社製)を80質量部、固体潤滑剤としてMoS2(Cパウダー(商品名)、平均粒径1.2μm、株式会社ダイゾー製)をそれぞれ添加して撹拌し、均一に分散させて、表面処理液5を調製した。なお、MoS2は、乾燥時のポリアミドイミド樹脂に対し、乾燥時に10vol%となるように換算し、添加した。
n−メチルピロリドン、キシレンを質量比3:1で含有する溶媒100質量部に対して、バインダとしてポリアミドイミド樹脂(1000(商品名)、ポリプラスチックス株式会社製)を80質量部、固体潤滑剤としてMoS2(Cパウダー(商品名)、平均粒径1.2μm、株式会社ダイゾー製)をそれぞれ添加して撹拌し、均一に分散させて、表面処理液5を調製した。なお、MoS2は、乾燥時のポリアミドイミド樹脂に対し、乾燥時に10vol%となるように換算し、添加した。
[ディスク(1)の作製]
図7に示すディスク試験片52の基材材料として炭素鋼S45C焼入れ焼戻し(愛知製鋼製、HV650〜700)を使用した。この試験片に対しスプレーコーティングにより表面処理液1を塗布した後、200℃のオーブンにて30分間乾燥させて、厚さ5μm、表面粗さRa=0.4μmの表面被覆層を有するディスク(1)を作製した。なお、スプレーコーティングは、口径0.5μmのノズルを用い、2.5〜3.5Pa・secのスプレー圧にて、15〜20cm程度の距離を設けて行なった。
図7に示すディスク試験片52の基材材料として炭素鋼S45C焼入れ焼戻し(愛知製鋼製、HV650〜700)を使用した。この試験片に対しスプレーコーティングにより表面処理液1を塗布した後、200℃のオーブンにて30分間乾燥させて、厚さ5μm、表面粗さRa=0.4μmの表面被覆層を有するディスク(1)を作製した。なお、スプレーコーティングは、口径0.5μmのノズルを用い、2.5〜3.5Pa・secのスプレー圧にて、15〜20cm程度の距離を設けて行なった。
[ディスク(2)の作製]
表面処理液1に代えて表面処理液2を使用したことを除き、ディスク(1)の作製と同様の方法により、厚さ5μm、表面粗さRa=0.5μmの表面被覆層を有するディスク(2)を作製した。
表面処理液1に代えて表面処理液2を使用したことを除き、ディスク(1)の作製と同様の方法により、厚さ5μm、表面粗さRa=0.5μmの表面被覆層を有するディスク(2)を作製した。
[ディスク(3)の作製]
表面処理液1に代えて表面処理液5を使用したことを除き、ディスク(1)の作製と同様の方法により、厚さ5μm、表面粗さRa=0.5μmの表面被覆層を有するディスク(3)を作製した。
表面処理液1に代えて表面処理液5を使用したことを除き、ディスク(1)の作製と同様の方法により、厚さ5μm、表面粗さRa=0.5μmの表面被覆層を有するディスク(3)を作製した。
[ディスク(4)の作製]
基材材料に表面処理液を使用しない、ディスク(4)を作製した。ディスク(1)〜(3)と同程度の表面粗さになるように表面を研磨し、表面粗さRa=0.5μmとしたものを用いた。
基材材料に表面処理液を使用しない、ディスク(4)を作製した。ディスク(1)〜(3)と同程度の表面粗さになるように表面を研磨し、表面粗さRa=0.5μmとしたものを用いた。
[リング(1)の作製]
図7に示すリング試験片54の基材材料として炭素鋼S45C焼入れ焼戻し(愛知製鋼製、HV650〜700)を使用した。この試験片に対しスプレーコーティングにより表面処理液3を塗布した後、200℃のオーブンにて30分間乾燥させて、厚さ5μm、表面粗さRa=0.5μmの表面被覆層を有するリング(1)を作製した。なお、スプレーコーティングは、口径0.5μmのノズルを用い、2.5〜3.5Pa・secのスプレー圧にて、15〜20cm程度の距離を設けて行なった。
図7に示すリング試験片54の基材材料として炭素鋼S45C焼入れ焼戻し(愛知製鋼製、HV650〜700)を使用した。この試験片に対しスプレーコーティングにより表面処理液3を塗布した後、200℃のオーブンにて30分間乾燥させて、厚さ5μm、表面粗さRa=0.5μmの表面被覆層を有するリング(1)を作製した。なお、スプレーコーティングは、口径0.5μmのノズルを用い、2.5〜3.5Pa・secのスプレー圧にて、15〜20cm程度の距離を設けて行なった。
[リング試験片(2)の作製]
表面処理液3に代えて表面処理液4を使用したことを除き、リング(1)の作製と同様の方法により、厚さ5μm、表面粗さRa=0.5μmの表面被覆層を有するリング(2)を作製した。なお、スプレーコーティングは、口径0.3μmのノズルを用い、2.5〜3.5Pa・secのスプレー圧にて、15〜20cm程度の距離を設けて行なった。
表面処理液3に代えて表面処理液4を使用したことを除き、リング(1)の作製と同様の方法により、厚さ5μm、表面粗さRa=0.5μmの表面被覆層を有するリング(2)を作製した。なお、スプレーコーティングは、口径0.3μmのノズルを用い、2.5〜3.5Pa・secのスプレー圧にて、15〜20cm程度の距離を設けて行なった。
[リング試験片(3)の作製]
基材材料に表面処理液を使用しない、リング(3)を作製した。リング(1)、(2)と同程度の表面粗さになるように表面を研磨し、表面粗さRa=0.5μmとしたものを用いた。
基材材料に表面処理液を使用しない、リング(3)を作製した。リング(1)、(2)と同程度の表面粗さになるように表面を研磨し、表面粗さRa=0.5μmとしたものを用いた。
表1に、ディスク(1)〜(4)、リング(1)〜(3)についてまとめた。
[実施例1]
図7に示すディスク試験片52としてディスク(1)を、リング試験片54としてリング(3)をそれぞれ使用して、動摩擦抵抗の測定を行なった。潤滑油剤として80℃に加温した150N基油(出光興産社製、添加物として酸化防止剤を含有)を使用し、リング試験片の回転速度を0.3m/s、試験面圧5MPa〜10MPaになるまで所定のなじみ試験(概ね2分程度)を実施した後、10MPaの一定荷重を加えた状態で60分間、摩擦試験を行なった。10分毎に動摩擦係数を測定した結果を表3に示す。
図7に示すディスク試験片52としてディスク(1)を、リング試験片54としてリング(3)をそれぞれ使用して、動摩擦抵抗の測定を行なった。潤滑油剤として80℃に加温した150N基油(出光興産社製、添加物として酸化防止剤を含有)を使用し、リング試験片の回転速度を0.3m/s、試験面圧5MPa〜10MPaになるまで所定のなじみ試験(概ね2分程度)を実施した後、10MPaの一定荷重を加えた状態で60分間、摩擦試験を行なった。10分毎に動摩擦係数を測定した結果を表3に示す。
[実施例2]
ディスク(1)に代えてディスク(2)を使用したことを除き、実施例1と同様にして、動摩擦抵抗の測定を行なった。結果を表3に示す。
ディスク(1)に代えてディスク(2)を使用したことを除き、実施例1と同様にして、動摩擦抵抗の測定を行なった。結果を表3に示す。
[実施例3]
リング(3)に代えてリング(2)を使用したことを除き、実施例1と同様にして、動摩擦抵抗の測定を行なった。結果を表3に示す。
リング(3)に代えてリング(2)を使用したことを除き、実施例1と同様にして、動摩擦抵抗の測定を行なった。結果を表3に示す。
[実施例4]
リング(3)に代えてリング(1)を使用したことを除き、実施例1と同様にして、動摩擦抵抗の測定を行なった。結果を表3に示す。
リング(3)に代えてリング(1)を使用したことを除き、実施例1と同様にして、動摩擦抵抗の測定を行なった。結果を表3に示す。
[比較例1]
ディスク(1)に代えてディスク(3)を使用したことを除き、実施例1と同様にして、動摩擦抵抗の測定を行なった。結果を表3に示す。
ディスク(1)に代えてディスク(3)を使用したことを除き、実施例1と同様にして、動摩擦抵抗の測定を行なった。結果を表3に示す。
[比較例2]
ディスク(1)に代えてディスク(4)を使用したことを除き、実施例1と同様にして、動摩擦抵抗の測定を行なった。結果を表3に示す。
ディスク(1)に代えてディスク(4)を使用したことを除き、実施例1と同様にして、動摩擦抵抗の測定を行なった。結果を表3に示す。
上記実施例および比較例における、図7に示すディスク試験片52とリング試験片54との組み合わせについて表2にまとめた。
固体潤滑剤であるMOS2を含有する被覆処理を施した比較例1では、動摩擦係数が0.065〜0.06程度となっており、摺動する双方の部材ともに処理を行なっていない比較例2(0.085〜0.08程度)よりはいくらかの摩擦抵抗の低減がなされているが、なお不十分である。
これらの比較例に対し、吸湿性化合物を含有する被覆層を有する実施例1では、試験開始直後より動摩擦係数が0.04程度とほぼ安定した摩擦係数の低減効果が発揮されている。この理由として、次のようなことが推定される。被覆層に添加したNa2CO3により摺動面に対し環境中のH2Oが吸着することにより、摺動部に油層/水層が混在する薄膜が生じると、油層と水層との境界部分でせん断を受けることになる。このとき、あたかも油層と水層との境界付近が摺動しているかのように振る舞うため、水層の薄膜が生じない従来の摺動部材と比較して摺動部材自身がおける摩擦が低減するものと考えられる。
また、実施例2,4においても、動摩擦係数は試験開始直後からいずれも0.04程度となっており、比較例に比して摩擦抵抗が低減している。また、試験時間の経過とともに、動摩擦係数はさらに低下し、60分経過後においては0.03付近まで動摩擦係数が低下している。この理由として、次のようなことが推定される。実施例1と同様に、被覆層に添加したNa2CO3により摺動面に対し環境中のH2Oが吸着することにより、摺動部に油層/水層が混在する薄膜が生じると、油層と水層との境界部分でせん断を受けることになるため、摩擦抵抗は低下の方向に向かう。これに加えて、撥水性フッ素化合物であるPTFEが摺動面付近にさらに存在することにより、PTFEを有する被覆層と水層を含む薄膜との間の親和力が小さくなる。このPTFE/H2O層間に対しても、摺動によるせん断を受けることになるため、さらに摩擦抵抗が低減することになるものと考えられる。
さらに、実施例3,4に関しては、バインダの組成を除きほぼ同様の構成を有している。これらがほぼ同程度の摩擦抵抗を有していることから、本発明の効果は一般に、有機系、無機系などのバインダの種類に関わらず、主として被覆層に含有する吸湿性化合物や撥水性フッ素化合物によるものであると考えられる。
本発明は、摩擦抵抗の低減を所望する種々の基材の表面処理に利用することが可能であり、特に各種摺動部材の摺動面に適用することが可能である。
10,30,40,50 部材、12,32 基材、14,24,34 被覆層、16 吸湿性化合物、18 バインダ、20 油層、22 水層、26 撥水性フッ素化合物、52 ディスク試験片、54 リング試験片、56 接触面、100,200,300 摺動部材。
Claims (10)
- 基材の表面に、吸湿性化合物を含有する被覆層を形成する工程を含むことを特徴とする表面処理方法。
- 請求項1に記載の表面処理方法において、
前記被覆層を形成する工程は、
溶媒中に、吸湿性化合物と、バインダとを含む表面処理液を調製する工程と、
前記表面処理液を前記基材の表面に塗布する工程と、
溶媒を除去する工程と、
を含むことを特徴とする、表面処理方法。 - 請求項2に記載の表面処理方法において、
前記表面処理液は、さらに撥水性を有するフッ素化合物を含有することを特徴とする、表面処理方法。 - 請求項1から3のいずれか1項に記載の表面処理方法において、
前記吸湿性化合物が、ナトリウム化合物であることを特徴とする、表面処理方法。 - 請求項4に記載の表面処理方法において、
前記ナトリウム化合物が、炭酸ナトリウム、硝酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする、表面処理方法。 - 第1の部材と、第2の部材とを相互に摺動させる摺動部材であって、
前記第1の部材および前記第2の部材のうち少なくとも一方は、
基材と、前記基材の表面を被覆する被覆層と、
を備え、
前記被覆層は、吸湿性化合物を含有することを特徴とする摺動部材。 - 請求項6に記載の摺動部材において、
前記被覆層は、さらに撥水性を有するフッ素化合物を含有することを特徴とする、摺動部材。 - 第1の基材を含む第1の部材と、第2の基材を含む第2の部材とを相互に摺動させる摺動部材であって、
前記第2の部材に対面する前記第1の基材の表面には、吸湿性化合物を含有する第1の被覆層が、
前記第1の部材に対面する前記第2の基材の表面には、撥水性を有するフッ素化合物を含有する第2の被覆層が、
それぞれ形成されていることを特徴とする摺動部材。 - 請求項6から8のいずれか1項に記載の摺動部材において、
前記吸湿性化合物が、ナトリウム化合物であることを特徴とする摺動部材。 - 請求項9に記載の摺動部材において、
前記ナトリウム化合物が、炭酸ナトリウム、硝酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする摺動部材。
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Legal Events
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Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621 Effective date: 20090922 |
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A761 | Written withdrawal of application |
Effective date: 20110322 Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A761 |