JP2008255372A - アルミニウム合金厚板の製造方法およびアルミニウム合金厚板 - Google Patents

アルミニウム合金厚板の製造方法およびアルミニウム合金厚板 Download PDF

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Abstract

【課題】生産性に優れ、表面状態および平坦度の制御が容易であり、板厚精度を向上させたアルミニウム合金厚板の製造方法およびアルミニウム合金厚板を提供する。
【解決手段】Mgを所定量含有し、さらに、Si、Fe、Cu、Mn、Cr、Zn、Ti、Zrのうち少なくとも1種以上を所定量含有し、かつ、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金を溶解する溶解工程(S1)と、溶解されたアルミニウム合金から水素ガスを除去する脱水素ガス工程(S2)と、水素ガスを除去したアルミニウム合金から介在物を除去するろ過工程(S3)と、介在物を除去したアルミニウム合金を鋳造して鋳塊を製造する鋳造工程(S4)と、鋳塊を熱処理する熱処理工程(S5)と、熱処理された鋳塊を所定厚さにスライスするスライス工程(S6)と、をこの順に行うことを特徴とする。
【選択図】図1

Description

本発明は、アルミニウム合金厚板の製造方法およびアルミニウム合金厚板に関する。
一般に、アルミニウム合金厚板等のアルミニウム合金材は、ベース基板、搬送装置、真空装置用チャンバー等の半導体関連装置の他、電機電子部品やその製造装置、生活用品、機械部品等さまざまな用途で使用されている。
このようなアルミニウム合金材は、原料であるアルミニウム合金を溶解、鋳造して鋳塊を製造し、必要に応じて均質化熱処理した後、この鋳塊を所定厚さまで圧延することにより製造するのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
また、プレス用金型に用いる金型素材としては、量産生産用には鉄鋼、鋳鋼等が、また試作用としては、亜鉛合金鋳物材、アルミニウム合金鋳物材等が使用されている。さらに、近年においては、多品種少量化の傾向から、中少量生産用として、アルミニウム合金の圧延あるいは鍛造材等の展伸材が普及している。
特開2005−344173号公報(段落0037〜0045)
しかしながら、前記した圧延によるアルミニウム合金材の製造方法では、以下に示す問題があった。
鋳造後に圧延を行う方法では、圧延板の表面状態および平坦度(特に長手方向の平坦度)の制御は圧延ロールのみで行うことになり、また、熱間圧延により圧延板表面に厚い酸化皮膜が形成されるため、表面状態および平坦度の制御が困難であるという問題があった。また、圧延ロールでは、板厚を制御しにくいため、板厚精度の向上を図りにくいという問題、板厚方向中心部で、金属間化合物のサイズが大きくなることにより、アルマイト処理した場合に、板厚方向断面における表面にムラを生じるという問題があった。さらに、鋳塊を圧延する場合には、圧延の回数の増加により作業工程が増えることで、コストが増大するという問題があった。
本発明は前記課題に鑑みてなされたものであり、生産性に優れ、表面状態および平坦度の制御が容易であり、板厚精度を向上させたアルミニウム合金厚板の製造方法およびこの製造方法により得られたアルミニウム合金厚板を提供することを目的とする。
前記課題を解決するため、請求項1に係るアルミニウム合金厚板の製造方法は、Mg:1.5質量%以上12.0質量%以下を含有し、さらに、Si:0.7質量%以下、Fe:0.8質量%以下、Cu:0.6質量%以下、Mn:1.0質量%以下、Cr:0.5質量%以下、Zn:0.4質量%以下、Ti:0.1質量%以下、Zr:0.3質量%以下のうち少なくとも1種以上を含有し、かつ、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金を溶解する溶解工程と、前記溶解工程で溶解されたアルミニウム合金から水素ガスを除去する脱水素ガス工程と、前記脱水素ガス工程で水素ガスを除去したアルミニウム合金から介在物を除去するろ過工程と、前記ろ過工程で介在物を除去したアルミニウム合金を鋳造して鋳塊を製造する鋳造工程と、前記鋳造工程で製造された鋳塊を200℃以上400℃未満の温度で1時間以上保持して熱処理する熱処理工程と、前記熱処理工程で熱処理された鋳塊を所定厚さにスライスするスライス工程と、をこの順に行うことを特徴とする。
請求項2に係るアルミニウム合金厚板の製造方法は、Mn:0.3質量%以上1.6質量%以下を含有し、さらに、Si:0.7質量%以下、Fe:0.8質量%以下、Cu:0.5質量%以下、Mg:1.5質量%以下、Cr:0.3質量%以下、Zn:0.4質量%以下、Ti:0.1質量%以下、Zr:0.3質量%以下のうち少なくとも1種以上を含有し、かつ、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金を溶解する溶解工程と、前記溶解工程で溶解されたアルミニウム合金から水素ガスを除去する脱水素ガス工程と、前記脱水素ガス工程で水素ガスを除去したアルミニウム合金から介在物を除去するろ過工程と、前記ろ過工程で介在物を除去したアルミニウム合金を鋳造して鋳塊を製造する鋳造工程と、前記鋳造工程で製造された鋳塊を200℃以上400℃未満の温度で1時間以上保持して熱処理する熱処理工程と、前記熱処理工程で熱処理された鋳塊を所定厚さにスライスするスライス工程と、をこの順に行うことを特徴とする。
請求項3に係るアルミニウム合金厚板の製造方法は、Si:0.2質量%以上1.6質量%以下、Mg:0.3質量%以上1.5質量%以下を含有し、さらに、Fe:0.8質量%以下、Cu:1.0質量%以下、Mn:0.6質量%以下、Cr:0.5質量%以下、Zn:0.4質量%以下、Ti:0.1質量%以下、Zr:0.3質量%以下のうち少なくとも1種以上を含有し、かつ、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金を溶解する溶解工程と、前記溶解工程で溶解されたアルミニウム合金から水素ガスを除去する脱水素ガス工程と、前記脱水素ガス工程で水素ガスを除去したアルミニウム合金から介在物を除去するろ過工程と、前記ろ過工程で介在物を除去したアルミニウム合金を鋳造して鋳塊を製造する鋳造工程と、前記鋳造工程で製造された鋳塊を200℃以上400℃未満の温度で1時間以上保持して熱処理する熱処理工程と、前記熱処理工程で熱処理された鋳塊を所定厚さにスライスするスライス工程と、をこの順に行うことを特徴とする。
請求項4に係るアルミニウム合金厚板の製造方法は、Mg:0.4質量%以上4.0質量%以下、Zn:3.0質量%以上9.0質量%以下を含有し、さらに、Si:0.7質量%以下、Fe:0.8質量%以下、Cu:3.0質量%以下、Mn:0.8質量%以下、Cr:0.5質量%以下、Ti:0.1質量%以下、Zr:0.25質量%以下のうち少なくとも1種以上を含有し、かつ、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金を溶解する溶解工程と、前記溶解工程で溶解されたアルミニウム合金から水素ガスを除去する脱水素ガス工程と、前記脱水素ガス工程で水素ガスを除去したアルミニウム合金から介在物を除去するろ過工程と、前記ろ過工程で介在物を除去したアルミニウム合金を鋳造して鋳塊を製造する鋳造工程と、前記鋳造工程で製造された鋳塊を200℃以上350℃未満の温度で1時間以上保持して熱処理する熱処理工程と、前記熱処理工程で熱処理された鋳塊を所定厚さにスライスするスライス工程と、をこの順に行うことを特徴とする。
これらのような製造方法によれば、アルミニウム合金厚板の所定の元素の含有量を所定範囲に限定することによって、アルミニウム合金厚板の金属間化合物の微細化や強度が向上する。また、脱水素ガス工程により、水素ガスを除去することによって、鋳塊中の水素濃度が限定され、鋳塊中の結晶粒が粗大化しても、鋳塊の表面近傍の粒界に水素が集積、濃化せず、鋳塊のフクレ、およびフクレに起因するアルミニウム合金厚板のメクレが抑制されるとともに、厚板の表面欠陥として現れる厚板表面の潜在的欠陥が抑制される。さらに、アルミニウム合金厚板の強度が向上する。また、ろ過工程により、アルミニウム合金から酸化物や非金属等の介在物が除去される。そして、熱処理工程で鋳塊を熱処理することにより、アルミニウム合金厚板の内部応力が除去され、また、内部組織が均一化する。さらに、スライス工程で鋳塊をスライスすることにより、酸化皮膜厚が減少するとともに、アルミニウム合金厚板の表面状態、平坦度および板厚精度が向上し、また、生産性が向上する。
請求項5に係るアルミニウム合金厚板の製造方法は、前記スライス工程の後に、スライスされた所定厚さのアルミニウム合金厚板の表面に、さらに表面平滑化処理を行うことを特徴とする。
このような製造方法によれば、アルミニウム合金厚板の表面状態および平坦度がさらに向上する。また、表面の平滑化により、厚板表面のガス溜りがなくなる。
請求項6に係るアルミニウム合金厚板の製造方法は、前記表面平滑化処理を、切削法、研削法および研磨法から選択された1種以上の方法で行うことを特徴とする。
このような製造方法によれば、アルミニウム合金厚板の表面状態および平坦度がさらに向上する。また、厚板表面の平滑化により、ガス溜りがなくなる。
請求項7に係るアルミニウム合金厚板の製造方法は、前記スライス工程において、前記鋳塊の厚さをTとしたときに、厚さ方向中央部から、厚さ方向のそれぞれの表面に向かい、均等の厚さで、合計T/30〜T/5厚さを除去することを特徴とする。
このような製造方法によれば、アルマイト処理後の厚板表面や断面にムラが生じ易い鋳塊の中央部分が除去され、アルマイト処理後の外観性に優れた厚板を得ることができ、また、ロット内のバラツキが少なくなる。
請求項8に係るアルミニウム合金厚板は、前記記載のアルミニウム合金厚板の製造方法により製造されたアルミニウム合金厚板であって、平均結晶粒径が400μm以下であることを特徴とする。
このようなアルミニウム合金厚板によれば、アルミニウム合金厚板の表面状態、平坦度および板厚精度が向上し、また、厚板表面の平滑化により、ガス溜りがなくなる。更にアルミニウム合金厚板における金属間化合物のサイズが小さいため、アルマイト処理後の厚板断面にムラが生じにくくなる。
本発明の請求項1〜4に係るアルミニウム合金厚板の製造方法によれば、アルミニウム合金厚板の平坦度、強度ならびに切削性のバランスが向上する。すなわち、鋳塊に、400℃以上の温度で加熱する熱処理を施せばスライス後の平坦度は向上するが、強度は低下し、切削性(切り屑分断性)も低下する。一方、鋳塊に200℃以上400℃未満(請求項4では、200℃以上350℃未満)の温度で熱処理を施すことにより、延性が高まるのを防止することがでるため、切削性(切り屑分断性)を低下させずに、アルミニウム合金厚板の内部応力の除去、内部組織の均一化を図ることができ、良好な平坦度・板厚精度とすることができると共に、強度を維持させることができる。さらに、鋳塊をスライスしてアルミニウム合金を製造するため、従来のアルミニウム合金のように熱間圧延によって厚さを減少させる必要がなくなり、作業工程の省略化を図ることができ、生産性を向上させることができる。また、厚板の断面における表面のムラが解消され、平坦度やアルマイト処理後の外観性状を向上させることができ、板厚精度も向上させることができる。
請求項5および請求項6に係るアルミニウム合金厚板の製造方法によれば、スライスされたアルミニウム合金厚板の表面に表面平滑化処理を行うので、アルミニウム合金厚板の表面状態および平坦度をさらに向上させることができる。また、表面の平滑化により、ガス溜りがなくなるため、真空装置用チャンバーに使用した場合には、チャンバーの真空度を向上させることができる。
請求項7に係るアルミニウム合金厚板の製造方法によれば、アルマイト処理後の厚板表面や断面にムラが生じ易い鋳塊の中央部分を除去することで、アルマイト処理後の外観性に優れた厚板を得ることができる。また、ロット内のバラツキを少なくすることができる。
請求項8に係るアルミニウム合金厚板によれば、アルミニウム合金厚板の表面状態、平坦度および板厚精度が良好であり、また、表面の平滑化により、ガス溜りがなくなり、高品質なアルミニウム合金厚板とすることができる。さらに、アルマイト処理後の表面外観にムラが生じにくくなる。そのため、多種多様な用途に使用することができ、また、他用途へのリサイクルも可能である。
次に、図面を参照して本発明に係るアルミニウム合金厚板の製造方法およびアルミニウム合金厚板について詳細に説明する。なお、参照する図面において、図1は、アルミニウム合金厚板の製造方法のフローを示す図、図2は、スライス工程において除去する鋳塊の中央部分を示す模式図である。
≪アルミニウム合金厚板の製造方法≫
図1に示すように、アルミニウム合金厚板(以下、適宜「厚板」という)の製造方法は、アルミニウム合金を溶解する溶解工程(S1)と、脱水素ガス工程(S2)と、ろ過工程(S3)と、鋳造工程(S4)と、熱処理工程(S5)と、スライス工程(S6)と、をこの順に行うものである。また、必要に応じて、スライス工程(S6)の後に、表面平滑化処理工程(S7)を含めてもよい。
この製造方法では、まず、原料であるアルミニウム合金が溶解工程(S1)により溶解される。溶解工程(S1)で溶解されたアルミニウム合金は、脱水素ガス工程(S2)で水素ガスが除去され、ろ過工程(S3)で酸化物や非金属等の介在物が除去される。次に、このアルミニウム合金は、鋳造工程(S4)で鋳造されて鋳塊となり、この鋳塊は、熱処理工程(S5)で熱処理された後、スライス工程(S6)で所定厚さにスライスされる。その後、スライスされた所定厚さのアルミニウム合金厚板は、必要に応じて、表面平滑化処理工程(S7)により、表面平滑化処理される。
次に、アルミニウム合金厚板の製造方法における各工程について説明する。
<溶解工程>
溶解工程(S1)は、5000系のAl−Mg系合金を溶解する工程である。なお、アルミニウム合金は、5000系のAl−Mg系合金の他、3000系のAl−Mn系合金、6000系のAl−Mg−Si系合金、7000系のAl−Zn−Mg系合金であってもよい。
(Al−Mg系合金)
本発明に用いるAl−Mg系合金は、Mg:1.5質量%以上12.0質量%以下を含有し、さらに、Si:0.7質量%以下、Fe:0.8質量%以下、Cu:0.6質量%以下、Mn:1.0質量%以下、Cr:0.5質量%以下、Zn:0.4質量%以下、Ti:0.1質量%以下、Zr:0.3質量%以下のうち少なくとも1種以上を含有し、かつ、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金である。
以下に、各成分の含有量を数値限定した理由について説明する。
[Mg:1.5質量%以上12.0質量%以下]
Mgは、アルミニウム合金の強度を向上させる効果がある。Mgの含有量が1.5質量%未満であるとこの効果は小さく、一方、Mgの含有量が12.0質量%を超えると、鋳造性が著しく低下し、製品製造が不可能となる。よって、Mgの含有量は、1.5質量%以上12.0質量%以下とする。
アルミニウム合金は、前記のMgを必須成分として含有し、さらに、以下のSi、Fe、Cu、Mn、Cr、Zn、Ti、Zrのうち少なくとも1種以上を含有する。
[Si:0.7質量%以下]
Siは、アルミニウム合金の強度を向上させる効果がある。Siは、通常、地金不純物としてアルミニウム合金中に混入するものであり、鋳造工程(S4)等において、鋳塊中にMnやFeと相まってAl−(Fe)−(Mn)−Si系金属間化合物を生じさせる。Siの含有量が0.7質量%を超えると、粗大な金属間化合物が鋳塊中に生じ、アルマイト処理後の表面外観にムラが生じ易くなる。よって、Siの含有量は、0.7質量%以下とする。
[Fe:0.8質量%以下]
Feは、アルミニウム合金の結晶粒を微細化、安定化させるとともに、強度を向上させる効果がある。Feも、通常、地金不純物としてアルミニウム合金中に混入し、鋳造工程(S4)等において、鋳塊中にMnやSiと相まってAl−Fe−(Mn)−(Si)系金属間化合物を生じさせる。Feの含有量が0.8質量%を超えると、粗大な金属間化合物が鋳塊中に生じ、アルマイト処理後の表面外観にムラが生じ易くなる。よって、Feの含有量は、0.8質量%以下とする。
[Cu:0.6質量%以下]
Cuは、アルミニウム合金の強度を向上させる効果がある。ただし、厚板としての使用に耐えうる強度を確保するためにはCuの含有量が0.6質量%で十分である。よって、Cuの含有量は0.6質量%以下とする。
[Mn:1.0質量%以下]
Mnは、アルミニウム合金中に固溶して強度を向上させる効果がある。Mnの含有量が1.0質量%を超えると粗大な金属間化合物が生じ、アルマイト処理後の表面外観にムラが生じ易くなる。よって、Mn含有量は1.0質量%以下とする。
[Cr:0.5質量%以下]
Crは、鋳造工程(S4)および熱処理工程(S5)において、微細な化合物として析出し、結晶粒成長を抑制する効果がある。Crの含有量が0.5質量%を超えると、初晶として粗大なAl−Cr系金属間化合物が生じ、アルマイト処理後の表面外観にムラが生じ易くなる。よって、Crの含有量は、0.5質量%以下とする。
[Zn:0.4質量%以下]
Znは、アルミニウム合金の強度を向上させる効果がある。ただし、厚板としての使用に耐えうる強度を確保するためにはZnの含有量が0.4質量%で十分である。よって、Znの含有量は0.4質量%以下とする。
[Ti:0.1質量%以下]
Tiは、鋳塊の結晶粒を微細化させる効果がある。Tiの含有量が0.1質量%を超えてもその効果は飽和する。よって、Tiの含有量は0.1質量%以下とする。
[Zr:0.3質量%以下]
Zrは、鋳塊の結晶粒を微細化させる効果がある。Zrの含有量が0.3質量%を超えてもその効果は飽和する。よって、Zrの含有量は0.3質量%以下とする。
[残部:Alおよび不可避的不純物]
アルミニウム合金の成分は前記の他、残部がAlおよび不可避的不純物からなるものである。なお、不可避的不純物として、例えば、V、B等を含有することが考えられるが、これらの含有量は、それぞれ0.01質量%以下であれば、本発明のアルミニウム合金厚板の特性に影響しない。
(Al−Mn系合金)
本発明に用いるAl−Mn系合金は、Mn:0.3質量%以上1.6質量%以下を含有し、さらに、Si:0.7質量%以下、Fe:0.8質量%以下、Cu:0.5質量%以下、Mg:1.5質量%以下、Cr:0.3質量%以下、Zn:0.4質量%以下、Ti:0.1質量%以下、Zr:0.3質量%以下のうち少なくとも1種以上を含有し、かつ、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金である。
以下に、各成分の含有量を数値限定した理由について説明する。
なお、Si、Fe、Cu、Cr、Zn、Ti、Zrの限定理由および不可避的不純物については、前記Al−Mg系合金と同様であるので、ここでは説明を省略する。
[Mn:0.3質量%以上1.6質量%以下]
Mnは、アルミニウム合金中に固溶して強度を向上させる効果がある。Mnの含有量が0.3質量%未満であるとこの効果は小さく、一方、Mnの含有量が1.6質量%を超えると粗大な金属間化合物が生じ、アルマイト処理後の表面外観にムラが生じ易くなる。よって、Mn含有量は0.3質量%以上1.6質量%以下とする。
アルミニウム合金は、前記のMnを必須成分として含有し、さらに、Si、Fe、Cu、Mg、Cr、Zn、Ti、Zrのうち少なくとも1種以上を含有する。
[Mg:1.5質量%以下]
Mgは、アルミニウム合金の強度を向上させる効果がある。ただし、厚板としての使用に耐えうる強度を確保するためにはMgの含有量が1.5質量%で十分である。よって、Mgの含有量は1.5質量%以下とする。
(Al−Mg−Si系合金)
本発明に用いるAl−Mg−Si系合金は、Si:0.2質量%以上1.6質量%以下、Mg:0.3質量%以上1.5質量%以下を含有し、さらに、Fe:0.8質量%以下、Cu:1.0質量%以下、Mn:0.6質量%以下、Cr:0.5質量%以下、Zn:0.4質量%以下、Ti:0.1質量%以下、Zr:0.3質量%以下のうち少なくとも1種以上を含有し、かつ、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金である。
以下に、各成分の含有量を数値限定した理由について説明する。
なお、Fe、Mn、Cr、Ti、Zrの限定理由および不可避的不純物については、前記Al−Mg系合金と同様であるので、ここでは説明を省略する。
[Si:0.2質量%以上1.6質量%以下]
Siは、アルミニウム合金の強度を向上させる効果がある。Siは、通常、地金不純物としてアルミニウム合金中に混入するものであり、鋳造工程(S4)等において、鋳塊中にAl−(Fe)−Si系とSi系の金属間化合物を生じさせる。Siの含有量が0.2質量%未満であると強度を向上させる効果は小さく、一方、Siの含有量が1.6質量%を超えると、粗大なSi系金属間化合物が鋳塊中に生じ、アルマイト処理後の表面外観にムラが生じ易くなる。よって、Siの含有量は、0.2質量%以上1.6質量%以下とする。
[Mg:0.3質量%以上1.5質量%以下]
Mgは、Siと共存してMgSiを形成して、アルミニウム合金の強度を向上させる効果がある。Mgの含有量が0.3質量%未満であるとこの効果は小さく、一方、Mgの含有量が1.5質量%を超えても強度向上の効果は飽和してしまう。よって、Mgの含有量は0.3質量%以上1.5質量%以下とする。
アルミニウム合金は、前記のSi、Mgを必須成分として含有し、さらに、Fe、Cu、Mn、Cr、Zn、Ti、Zrのうち少なくとも1種以上を含有する。
[Cu:1.0質量%以下]
Cuは、アルミニウム合金の強度を向上させる効果がある。Cuの含有量が1.0質量%を超えると、耐食性が低下する。よって、Cuの含有量は1.0質量%以下とする。
[Zn:0.4質量%以下]
Znは、アルミニウム合金の強度を向上させる効果がある。Znの含有量が0.4質量%を超えると、耐食性が低下する。よって、Znの含有量は0.4質量%以下とする。
(Al−Zn−Mg系合金)
本発明に用いるAl−Zn−Mg系合金は、Mg:0.4質量%以上4.0質量%以下、Zn:3.0質量%以上9.0質量%以下を含有し、さらに、Si:0.7質量%以下、Fe:0.8質量%以下、Cu:3.0質量%以下、Mn:0.8質量%以下、Cr:0.5質量%以下、Ti:0.1質量%以下、Zr:0.25質量%以下のうち少なくとも1種以上を含有し、かつ、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金である。
以下に、各成分の含有量を数値限定した理由について説明する。
なお、Cr、Ti、Zrの限定理由および不可避的不純物については、前記Al−Mg系合金と同様であるので、ここでは説明を省略する。
[Mg:0.4質量%以上4.0質量%以下]
Mgは、アルミニウム合金の強度を向上させる効果がある。Mgの含有量が0.4質量%未満であるとこの効果は小さく、一方、Mgの含有量が4.0質量%を超えると、アルマイト処理後の表面外観にムラが生じ易くなる。よって、Mgの含有量は0.4質量%以上4.0質量%以下とする。
[Zn:3.0質量%以上9.0質量%以下]
Znは、アルミニウム合金の強度を向上させる効果がある。Znの含有量が3.0質量%未満であるとこの効果は小さく、一方、Znの含有量が9.0質量%を超えると、アルマイト処理後の表面外観にムラが生じ易くなる。よって、Znの含有量は3.0質量%以上9.0質量%以下とする。
アルミニウム合金は、前記のMg、Znを必須成分として含有し、さらに、Si、Fe、Cu、Mn、Cr、Ti、Zrのうち少なくとも1種以上を含有する。
[Si:0.7質量%以下]
Siは、通常、地金不純物としてアルミニウム合金中に混入するものであり、鋳造工程(S4)等において、鋳塊中にAl−(Fe)−Si系金属間化合物を生じさせる。Siの含有量が0.7質量%を超えると、粗大なAl−(Fe)−Si系金属間化合物が鋳塊中に生じ、アルマイト処理後の表面外観にムラが生じ易くなる。よって、Siの含有量は、0.7質量%以下とする。
[Fe:0.8質量%以下]
Feも、通常、地金不純物としてアルミニウム合金中に混入し、鋳造工程(S4)等において、鋳塊中にAl−Fe系金属間化合物を生じさせる。Feの含有量が0.8質量%を超えると、粗大なAl−Fe系金属間化合物が鋳塊中に生じ、アルマイト処理後の表面外観にムラが生じ易くなる。よって、Feの含有量は、0.8質量%以下とする。
[Cu:3.0質量%以下]
Cuは、アルミニウム合金の強度を向上させる効果がある。Cuの含有量が3.0質量%を超えると、耐食性が低下する。よって、Cuの含有量は3.0質量%以下とする。
[Mn:0.8質量%以下]
Mnは、結晶組織を微細化させる効果がある。Mnの含有量が0.8質量%を超えると粗大な金属間化合物が生じ、アルマイト処理後の表面外観にムラが生じ易くなる。よって、Mn含有量は0.8質量%以下とする。
<脱水素ガス工程>
脱水素ガス工程(S2)は、溶解工程(S1)で溶解されたアルミニウム合金から水素ガスを除去する工程である。
水素ガスは、燃料中の水素や地金等に付着している水分、その他有機物等から発生する。水素ガスが多く含まれていると、ピンホールの原因となったり、製品の強度が弱くなったりする。また、鋳塊の表面近傍の粒界に水素が集積、濃化し、鋳塊のフクレ、およびフクレに起因するアルミニウム合金厚板のメクレが発生するとともに、厚板の表面欠陥として現れる厚板表面の潜在的欠陥が生じる。
そのため、水素ガスは、アルミニウム合金100g中0.2ml以下とするのが好ましく、0.1ml以下とするのがより好ましい。
脱水素ガス工程における水素ガスの除去は、溶湯をフラクシング、塩素精錬、またはインライン精錬等を行うことによって好適に行うことができるが、脱水素ガス装置にスニフやポーラスプラグ(特開2002−146447号公報参照)を用いて行うと、より好適に除去することができる。
ここで、鋳塊の水素ガスの濃度は、例えば、熱処理前の鋳塊からサンプルを切り出し、アルコールとアセトンで超音波洗浄を行ったものを、例えば、不活性ガス気流融解熱伝導度法(LIS AO6−1993)により求めることができる。また、アルミニウム合金厚板の水素ガスの濃度は、例えば、アルミニウム合金厚板からサンプルを切り出し、NaOH浸漬後、硝酸で表面の酸化皮膜を除去し、アルコールとアセトンで超音波洗浄を行ったものを、真空加熱抽出容量法(LIS AO6−1993)により求めることができる。
<ろ過工程>
ろ過工程(S3)は、ろ過装置により、アルミニウム合金から主として酸化物や非金属の介在物を除去する工程である。
ろ過装置には、例えば1mm程度の粒子のアルミナが用いられたセラミックチューブが設けられており、これに溶湯を通すことによって前記の酸化物や介在物を除去することができる。
これらの脱水素ガスやろ過により、鋳造工程(S4)において、高度に品質を確保したアルミニウム合金を鋳塊とすることができる。また酸化物の堆積物(ドロス)の堆積を抑制できるので、ドロス除去の手間を低減することができる。
<鋳造工程>
鋳造工程(S4)は、例えば、水冷鋳型を含んで構成されている鋳造装置で、アルミニウム合金の溶湯を直方体形状等の所定の形状に形成して固化することで鋳塊を製造するための工程である。
鋳造方法としては、半連続鋳造法を用いることができる。
半連続鋳造法は、底部が開放された金属製の水冷鋳型に、上方より金属の溶湯を注入し、水冷鋳型の底部より凝固した金属を連続的に取り出し、所定厚さの鋳塊を得るものである。なお、半連続鋳造法は、縦向き、横向きのどちらで行ってもよい。
前記鋳造工程(S4)で製造された鋳塊をスライスする前に、熱処理工程(S5)において、内部応力の除去、内部組織の均一化を目的とした熱処理を実施する。
熱処理を施すことにより、平坦度・板厚精度やアルマイト処理後の外観性状が向上する。
<熱処理工程>
熱処理工程(S5)は、鋳造工程(S4)で製造された鋳塊を熱処理する工程である。
熱処理は、常法にしたがって、前記Al−Mg系合金、前記Al−Mn系合金、前記Al−Mg−Si系合金の場合は、処理温度200℃以上400℃未満、前記Al−Zn−Mg系合金の場合は、処理温度200℃以上350℃未満の温度で1時間以上保持することにより行う。
処理温度が200℃未満であると、内部応力の除去量が小さくなり、敢えて熱処理を施した効果は小さい。よって、処理温度は200℃以上とする。また、処理温度が400℃以上(前記Al−Zn−Mg系合金の場合は350℃以上)であると、延性が高まり、強度や切削性が低下する。なお、ここでの切削性とは、切り屑分断性のことをいう。切り屑は、細かく分断されるのがよく、切り屑が長いと、加工ツール(刃)に絡まって一緒に回転し、厚板表面を傷付けたり、ツールが破損したりして問題となる。よって、処理温度は400℃未満(前記Al−Zn−Mg系合金の場合は350℃未満)とする。このような温度条件で熱処理することにより、強度や切削性を低下させることなく、平坦度・板厚精度を向上させることができる。
また、処理時間が1時間未満であると、金属間化合物の固溶が不十分となり析出し易い。よって、処理時間は1時間以上とする。また、処理時間が8時間程度を超えると、熱処理の効果がそれ以上向上せずに飽和してくるため、エネルギーロスとなることから、処理時間は、8時間以下とすることが好ましい。
<スライス工程>
スライス工程(S6)は、熱処理工程(S5)で熱処理されたアルミニウム合金厚板を所定厚さにスライスする工程である。
スライス方法としては、スラブスライス法を用いることができる。
スラブスライス法は、前記した半連続鋳造法で製造した鋳塊を、帯鋸切断機等によってスライスすることにより、鋳塊を鋳造方向に切り出す方法であり、これにより所定厚さのアルミニウム合金厚板が製造される。ここで、アルミニウム合金厚板の厚さは、15〜200mmが好ましいが、特に限定されるものではなく、アルミニウム合金厚板の用途により、適宜変更することができる。
スライスの方法としては、帯鋸を用いるのが好ましいが、特に限定されるものではなく、丸鋸切断機により切断してもよい。また、レーザーや水圧等により切断してもよい。
このように、鋳塊をスライスすることにより、圧延材に比較して、表面状態、平坦度、板厚精度等に優れたアルミニウム合金厚板、例えば、平坦性の評価において、鋳造方向1m当たりの平坦度(反り量)を、0.4mm以下/1m長さ、板厚精度を±100μm以下とする厚板を得ることができる。
また、図2に示すように、スライス工程(S6)において、鋳塊1の厚さをTとしたときに、厚さ方向中央部Aから、厚さ方向のそれぞれの表面に向かい、均等の厚さで、合計T/30〜T/5厚さを除去することが好ましい(鋳塊1の中央部分B(図2の斜線部分)、なお、図2では、約T/5厚さを示している)。ここで、除去する鋳塊1の中央部分Bにおける上下の厚さb1、b2は、同じ厚さ(上下均等)とする。ただし、30%程度の厚さの違いは、許容される。なお、ここでの厚さ方向中央部Aとは、鋳塊1の厚さ方向の中央における、鋳塊1の厚さTの約1/2の部分、すなわち、約T/2の部分のことをいう。
鋳塊1の中央部分Bは、アルマイト処理後の厚板表面や断面にムラ(色調ムラ)が生じ易いが、この部分を除去することにより、アルマイト処理後の外観性に優れた厚板を得ることができ、また、ロット内のバラツキを少なくすることができる。除去する厚さがT/30未満であると、アルマイト処理後の表面外観に色調ムラが生じた厚板が発生し易く、ロット内のバラツキが生じ易い。一方、T/5を超えると、除去量が多くなりすぎて、生産性が低下し易くなる。よって、鋳塊1の中央部分Bの除去量は、厚さ方向中央部Aから、厚さ方向のそれぞれの表面に向かい、均等の厚さで、合計T/30〜T/5厚さとすることが好ましい。
前記スライス工程(S6)で所定厚さにスライスされたアルミニウム合金厚板は、適宜必要に応じて、厚板表面に形成された晶出物や酸化物を除去するため、また、厚板表面のガス溜りをなくすため、表面平滑化処理を行ってもよい。
<表面平滑化処理工程>
表面平滑化処理工程(S7)は、スライス工程(S6)でスライスされたアルミニウム合金厚板の表面を平滑化する工程である。
表面平滑化処理法としては、エンドミル切削やダイヤモンドバイト切削等の切削法、表面を砥石等で削る研削法、バフ研磨等の研磨法等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
ここで、アルミニウム合金厚板の用途の一つである真空装置用チャンバーは、高真空に減圧した際、チャンバーの内側表面からの吸着ガスの放出や、厚板に固溶しているガス原子の表面への放出により、真空度が低下する。そのため、目標の真空度に達するまでの時間が長くなり、生産効率が低下する。よって、チャンバーに用いるアルミニウム合金厚板は、チャンバーの内側部分に位置する厚板の表面に吸着するガスが少なく、高真空になっても厚板に固溶しているガス原子が放出されないことが求められる。
したがって、アルミニウム合金厚板をチャンバー用とする場合には、表面平滑化処理を行うことは特に有効である。
前記した製造方法により得られたアルミニウム合金厚板は、前記したように、表面状態、平坦度および板厚精度が良好である。そのため、ベース基板、搬送装置、真空装置用チャンバー等の半導体関連装置の他、電機電子部品やその製造装置、生活用品、機械部品等さまざまな用途に使用することができ、また、他用途へのリサイクルも可能である。
次に、本発明に係るアルミニウム合金厚板について説明する。
≪アルミニウム合金厚板≫
アルミニウム合金厚板は、前記したアルミニウム合金厚板の製造方法により製造されたものであり、平均結晶粒径を400μm以下としたものである。
厚板の平均結晶粒径を400μm以下とすることにより、アルマイト処理後の外観性に優れた厚板を得ることができ、また、ロット内のバラツキを少なくすることができる。
また、厚板における金属間化合物のサイズが大きくなると、アルマイト処理した場合に厚板断面に色調ムラを生じるが、金属間化合物のサイズを小さくすることにより、色調ムラが生じにくくなる。
このような結晶粒径の測定方法としては、例えば、鋳塊の厚さをTとしたときに、片側表面からもう一方の片側表面に向かう、T/5、2T/5、3T/5、4T/5の4箇所の厚さ断面における測定値の平均を求めることにより行うことができる。このような測定値を求める一例として、アルミニウム合金厚板の断面をバーカー法によりエッチングし、光学顕微鏡観察により切断法にて行うことができる。
また、平均結晶粒径の制御としては、鋳造時の冷却速度(液相線温度から固相線温度までの平均冷却速度)を0.2℃/秒以上とすることにより平均結晶粒径400μm以下とすることができる。さらには、前記したように、0.1質量%以下のTi、あるいは、0.3質量%以下(Al−Zn−Mg系合金の場合は0.25質量%以下)のZrを添加することにより、より結晶粒径を微細化することができる。
なお、耐食性については、ベース基板用や搬送装置用は、クリーンルーム内での使用のため、一般的な耐食性は不要である。また、真空装置用チャンバーに使用する場合でも、腐食性ガスの暴露が少ない環境となるためシビアな耐食性は不要である。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではない。
次に、本発明の特許請求の範囲を満たす実施例の効果について、本発明の特許請求の範囲から外れる比較例と比較して具体的に説明する。なお、本発明は、合金成分、溶解工程、脱水素ガス工程、ろ過工程、鋳造工程、スライス工程、熱処理工程等に特徴があるが、特に、スライス工程に特徴を有するものであるため、本実施例においては、合金としては、主に5000系のAl−Mg系合金を使用して試験を行った。
[第1実施例]
初めに、表1に示す組成を有するアルミニウム合金を溶解し、脱水素ガス処理、ろ過を行った後、鋳造して板厚500mmの鋳塊を作製した。次に、作製した鋳塊を350℃で4時間加熱して熱処理した。この鋳塊をスライスまたは熱間圧延して、厚さ20mm×幅1000mm×丈2000mmのアルミニウム合金厚板(スライス材、熱間圧延材)を作製した。
このスライス材および熱間圧延材について、以下の試験を行った。
<平坦性評価試験>
平坦性評価は、スライス材については、鋳造方向1mあたりの反り量(平坦度)、熱間圧延材については、圧延方向1mあたりの反り量(平坦度)を測定した。平坦度が0.4mm/1m長さ以下のものを合格(○)、0.4mm/1m長さを超えるものを不合格(×)とした。
<板厚精度評価試験>
板厚精度評価は、厚板の4隅並びに長辺の丈方向(長手方向)の半分の長さの部位の辺から、幅方向への内側20mmの部位の計6点の厚さを、マイクロメータを用いて測定した。6点共19.94mm以上20.06mm以下のものを良好(◎)、19.90mm以上20.10mm以下のものを合格(○)とした。
<強度試験>
強度は、アルミニウム合金厚板より、JIS5号試験片を作製して引張試験を行い、引張強さ、0.2%耐力を測定することにより行った。
引張強さが180N/mm以上のものを合格(○)、引張強さが180N/mm未満のものを不合格(×)とした。
<アルマイト性評価試験>
アルマイト性評価は、アルミニウム合金厚板の表面および断面の外観を観察することにより行った。
アルミニウム合金厚板(スライス材、熱間圧延材)の表面および断面に、硫酸アルマイト処理(15%硫酸、20℃、電流密度2A/dm)にて厚さ10μmのアルマイト皮膜を形成した。この厚板の表面および断面の外観を観察し、外観にムラが無いものを合格(○)、ムラがあるものを不合格(×)とした。
なお、厚板の結晶粒径がアルマイト性に影響するため、厚板の平均結晶粒径を求めた。
平均結晶粒径の測定方法としては、鋳塊の厚さをTとしたときに、片側表面からもう一方の片側表面に向かう、T/5、2T/5、3T/5、4T/5の4箇所の厚さ断面における測定値の平均を求めることにより行った。なお、ここでは、アルミニウム合金厚板の断面をバーカー法によりエッチングし、光学顕微鏡観察により切断法にて行った。
これらの結果を表2、3に示す。
Figure 2008255372
Figure 2008255372
Figure 2008255372
表2、3に示すように、スライス材(合金成分1〜13、15〜22)については、加工歪みが少なく、反りが小さかった。すなわち、平坦度が良好であった。また、板厚精度が優れていた。
合金成分14では、Mgが上限を超えるため、鋳造割れが発生し、製造が不可能であった。
合金成分13では、Mgの含有量が下限値未満のため、強度が不足した。
合金成分1〜13、17、20〜22は、アルミニウム合金厚板のアルマイト処理後の表面の外観にムラを生じなかった。
合金成分15、16、18、19は、それぞれ、Si、Fe、Mn、Crの含有量が上限値を超えるため、粗大な金属間化合物が生じ、アルマイト処理後の表面の外観にムラを生じた。
合金成分1〜13、15〜22については、アルミニウム合金厚板のアルマイト処理後の断面の外観にムラを生じなかった。
なお、合金成分17、20、21、22については、それぞれ、Cu、Zn、Ti、Zrの含有量が上限値を超え、その効果が飽和したものであり、経済性に劣るものである。
一方、熱間圧延材(合金成分1〜13、15〜22)については、加工歪みが蓄積され、圧延方向に反りが大きかった。すなわち、平坦度が不良であった。また、板厚精度は、スライス材に比べてやや劣るものが多かった。
合金成分14では、Mgが上限を超えるため、鋳造割れが発生し、製造が不可能であった。
合金成分13では、Mgの含有量が下限値未満のため、強度が不足した。
合金成分15、16、18、19は、それぞれ、Si、Fe、Mn、Crの含有量が上限値を超えるため、粗大な金属間化合物が生じ、アルマイト処理後の表面の外観にムラを生じた。
合金成分1〜13、15〜22については、アルミニウム合金厚板のアルマイト処理後の断面の外観にムラを生じた。
[第2実施例]
初めに、表1に示す番号3の組成を有するアルミニウム合金(合金成分3)を溶解し、脱水素ガス処理、ろ過を行った後、鋳造して板厚500mmの鋳塊を作製した。次に、作製した鋳塊を表4に示す条件で、熱処理した。この鋳塊をスライスして、厚さ20mm×幅1000mm×丈2000mmのアルミニウム合金厚板(スライス材)を作製した。
このスライス材について、平坦性評価試験、板厚精度評価試験および切削性評価試験を行った。
<平坦性評価試験>
平坦性評価は、鋳造方向1mあたりの反り量(平坦度)を測定した。平坦度が0.4mm/1m長さ以下のものを合格(○)、0.4mm/1m長さを超えるものを不合格(×)とした。
<板厚精度評価試験>
板厚精度評価試験の方法、評価基準については、前記第1実施例と同様である。
<切削性評価試験>
切削性、すなわち切り屑分断性の評価は、ドリルで孔あけ加工を行った時の切り屑の単位質量当たりの個数を測定した。直径5mmφのドリルを用いて、回転数7000rpm、送り速度300mm/分にて孔加工を行い、発生した切り屑10g当たりの個数を測定し、1000個/10g以上のものを合格(○)、1000個/10g未満のものを不合格(×)とした。
これらの結果を表4に示す。
Figure 2008255372
表4に示すように、実施例1、2では、熱処理の条件が、本発明の範囲を満たすため、平坦度、板厚精度および切削性が良好であった。比較例3では、熱処理を行っていないため、平坦度が不良であった。また、板厚精度が、実施例1、2に比べて、やや劣った。比較例4では、熱処理温度が本発明の範囲よりも高いため、切削性が劣るものであった。比較例5では、熱処理温度が本発明の範囲よりも低いため、平坦度が不良であった。また、板厚精度が、実施例1、2に比べて、やや劣った。
[第3実施例]
次に、3000系合金を使用して試験を行った。
試験材の作製方法は、表5に示す組成を有するアルミニウム合金を溶解し、脱水素ガス処理、ろ過を行った後、鋳造して板厚500mmの鋳塊を作製した。次に、作製した鋳塊を350℃で4時間加熱して熱処理した。この鋳塊をスライスまたは熱間圧延して、厚さ20mm×幅1000mm×丈2000mmのアルミニウム合金厚板(スライス材、熱間圧延材)を作製した。
このスライス材および熱間圧延材について、平坦性評価試験、板厚精度評価試験、強度試験、アルマイト性評価試験を行った。
各試験の評価方法および評価基準は、前記第1実施例と同様である。ただし、合金種により、厚板の特性が異なるため、強度の評価基準は、以下のとおりとした。
強度は、引張強さが90N/mm以上のものを合格(○)、引張強さが90N/mm未満のものを不合格(×)とした。
合金組成およびこれらの結果を表5、6に示す。
Figure 2008255372
Figure 2008255372
表6に示すように、スライス材(合金成分23〜26)については、加工歪みが少なく、反りが小さかった。すなわち、平坦度が良好であった。また、板厚精度が優れていた。
合金成分25は、Mnの含有量が下限値未満のため、強度が不足した。
合金成分26は、Mnの含有量が上限値を超えるため、粗大な金属間化合物が生じ、アルマイト処理後の表面の外観にムラを生じた。
合金成分23〜26については、アルミニウム合金厚板のアルマイト処理後の断面の外観にムラを生じなかった。
一方、熱間圧延材(合金成分23〜26)については、加工歪みが蓄積され、圧延方向に反りが大きかった。すなわち、平坦度が不良であった。また、板厚精度は、スライス材に比べてやや劣るものが多かった。
合金成分25は、Mnの含有量が下限値未満のため、他の熱間圧延材に比べ、強度がやや劣った。
合金成分26は、Mnの含有量が上限値を超えるため、粗大な金属間化合物が生じ、アルマイト処理後の表面の外観にムラを生じた。
合金成分23〜26については、アルミニウム合金厚板のアルマイト処理後の断面の外観にムラを生じた。
[第4実施例]
次に、6000系合金を使用して試験を行った。
試験材の作製方法は、表7に示す組成を有するアルミニウム合金を溶解し、脱水素ガス処理、ろ過を行った後、鋳造して板厚500mmの鋳塊を作製した。次に、作製した鋳塊を350℃で4時間加熱して熱処理した。この鋳塊をスライスまたは熱間圧延して、厚さ20mm×幅1000mm×丈2000mmのアルミニウム合金厚板(スライス材、熱間圧延材)を作製した。更に、得られた厚板を520℃で溶体化処理し、175℃で8時間の時効処理を施した。
このスライス材および熱間圧延材について、強度試験、アルマイト性評価試験を行った。
各試験の評価方法および評価基準は、前記第1実施例と同様である。ただし、合金種により、厚板の特性が異なるため、強度の評価基準は、以下のとおりとした。
強度は、引張強さが200N/mm以上のものを合格(○)、引張強さが200N/mm未満のものを不合格(×)とした。
合金組成およびこれらの結果を表7、8に示す。
Figure 2008255372
Figure 2008255372
表8に示すように、スライス材については、合金成分29、31は、それぞれ、Si、Mgの含有量が下限値未満のため、強度が不足した。
合金成分30は、Siの含有量が上限値を超えるため、粗大な金属間化合物が生じ、アルマイト処理後の表面の外観にムラを生じた。
合金成分32は、Mgの含有量が上限値を超え、その効果が飽和したものであり、経済性に劣るものである。
合金成分27〜32については、アルミニウム合金厚板のアルマイト処理後の断面の外観にムラを生じなかった。
一方、熱間圧延材については、合金成分29、31は、それぞれ、Si、Mgの含有量が下限値未満のため、強度が不足した。
合金成分30は、Siの含有量が上限値を超えるため、粗大な金属間化合物が生じ、アルマイト処理後の表面の外観にムラを生じた。
合金成分32は、Mgの含有量が上限値を超え、その効果が飽和したものであり、経済性に劣るものである。
合金成分27〜32については、アルミニウム合金厚板のアルマイト処理後の断面の外観にムラを生じた。
[第5実施例]
次に、7000系合金を使用して試験を行った。
試験材の作製方法は、表9に示す組成を有するアルミニウム合金を溶解し、脱水素ガス処理、ろ過を行った後、鋳造して板厚500mmの鋳塊を作製した。次に、作製した鋳塊を300℃で4時間加熱して熱処理した。この鋳塊をスライスまたは熱間圧延して、厚さ20mm×幅1000mm×丈2000mmのアルミニウム合金厚板(スライス材、熱間圧延材)を作製した。更に、得られた厚板を470℃で溶体化処理し、120℃で48時間の時効処理を施した。
このスライス材および熱間圧延材について、強度試験、アルマイト性評価試験を行った。
各試験の評価方法および評価基準は、前記第1実施例と同様である。ただし、合金種により、厚板の特性が異なるため、強度の評価基準は、以下のとおりとした。
強度は、引張強さが250N/mm以上のものを合格(○)、引張強さが250N/mm未満のものを不合格(×)とした。
合金組成およびこれらの結果を表9、10に示す。
Figure 2008255372
Figure 2008255372
表10に示すように、スライス材については、合金成分35、37は、それぞれ、Mg、Znの含有量が下限値未満のため、強度が不足した。
合金成分36、38は、それぞれ、Mg、Znの含有量が上限値を超えるため、アルマイト処理後の表面の外観にムラを生じた。
合金成分33〜38については、アルミニウム合金厚板のアルマイト処理後の断面の外観にムラを生じなかった。
一方、熱間圧延材については、合金成分35、37は、それぞれ、Mg、Znの含有量が下限値未満のため、強度が不足した。
合金成分36、38は、それぞれ、Mg、Znの含有量が上限値を超えるため、アルマイト処理後の表面の外観にムラを生じた。
合金成分33〜38については、アルミニウム合金厚板のアルマイト処理後の断面の外観にムラを生じた。
以上、本発明に係るアルミニウム合金厚板の製造方法およびアルミニウム合金厚板について最良の実施の形態および実施例を示して詳細に説明したが、本発明の趣旨は前記した内容に限定されることなく、その権利範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈しなければならない。なお、本発明の内容は、前記した記載に基づいて広く改変・変更等することができることはいうまでもない。
本発明に係るアルミニウム合金厚板の製造方法のフローを示す図である。 スライス工程において除去する鋳塊の中央部分を示す模式図である。
符号の説明
S1 溶解工程
S2 脱水素ガス工程
S3 ろ過工程
S4 鋳造工程
S5 熱処理工程
S6 スライス工程
S7 表面平滑化処理工程
A 鋳塊の厚さ方向中央部
B 鋳塊の中央部分
T 鋳塊の厚さ
1 鋳塊

Claims (8)

  1. Mg:1.5質量%以上12.0質量%以下を含有し、さらに、Si:0.7質量%以下、Fe:0.8質量%以下、Cu:0.6質量%以下、Mn:1.0質量%以下、Cr:0.5質量%以下、Zn:0.4質量%以下、Ti:0.1質量%以下、Zr:0.3質量%以下のうち少なくとも1種以上を含有し、かつ、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金を溶解する溶解工程と、
    前記溶解工程で溶解されたアルミニウム合金から水素ガスを除去する脱水素ガス工程と、
    前記脱水素ガス工程で水素ガスを除去したアルミニウム合金から介在物を除去するろ過工程と、
    前記ろ過工程で介在物を除去したアルミニウム合金を鋳造して鋳塊を製造する鋳造工程と、
    前記鋳造工程で製造された鋳塊を200℃以上400℃未満の温度で1時間以上保持して熱処理する熱処理工程と、
    前記熱処理工程で熱処理された鋳塊を所定厚さにスライスするスライス工程と、をこの順に行うことを特徴とするアルミニウム合金厚板の製造方法。
  2. Mn:0.3質量%以上1.6質量%以下を含有し、さらに、Si:0.7質量%以下、Fe:0.8質量%以下、Cu:0.5質量%以下、Mg:1.5質量%以下、Cr:0.3質量%以下、Zn:0.4質量%以下、Ti:0.1質量%以下、Zr:0.3質量%以下のうち少なくとも1種以上を含有し、かつ、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金を溶解する溶解工程と、
    前記溶解工程で溶解されたアルミニウム合金から水素ガスを除去する脱水素ガス工程と、
    前記脱水素ガス工程で水素ガスを除去したアルミニウム合金から介在物を除去するろ過工程と、
    前記ろ過工程で介在物を除去したアルミニウム合金を鋳造して鋳塊を製造する鋳造工程と、
    前記鋳造工程で製造された鋳塊を200℃以上400℃未満の温度で1時間以上保持して熱処理する熱処理工程と、
    前記熱処理工程で熱処理された鋳塊を所定厚さにスライスするスライス工程と、をこの順に行うことを特徴とするアルミニウム合金厚板の製造方法。
  3. Si:0.2質量%以上1.6質量%以下、Mg:0.3質量%以上1.5質量%以下を含有し、さらに、Fe:0.8質量%以下、Cu:1.0質量%以下、Mn:0.6質量%以下、Cr:0.5質量%以下、Zn:0.4質量%以下、Ti:0.1質量%以下、Zr:0.3質量%以下のうち少なくとも1種以上を含有し、かつ、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金を溶解する溶解工程と、
    前記溶解工程で溶解されたアルミニウム合金から水素ガスを除去する脱水素ガス工程と、
    前記脱水素ガス工程で水素ガスを除去したアルミニウム合金から介在物を除去するろ過工程と、
    前記ろ過工程で介在物を除去したアルミニウム合金を鋳造して鋳塊を製造する鋳造工程と、
    前記鋳造工程で製造された鋳塊を200℃以上400℃未満の温度で1時間以上保持して熱処理する熱処理工程と、
    前記熱処理工程で熱処理された鋳塊を所定厚さにスライスするスライス工程と、をこの順に行うことを特徴とするアルミニウム合金厚板の製造方法。
  4. Mg:0.4質量%以上4.0質量%以下、Zn:3.0質量%以上9.0質量%以下を含有し、さらに、Si:0.7質量%以下、Fe:0.8質量%以下、Cu:3.0質量%以下、Mn:0.8質量%以下、Cr:0.5質量%以下、Ti:0.1質量%以下、Zr:0.25質量%以下のうち少なくとも1種以上を含有し、かつ、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金を溶解する溶解工程と、
    前記溶解工程で溶解されたアルミニウム合金から水素ガスを除去する脱水素ガス工程と、
    前記脱水素ガス工程で水素ガスを除去したアルミニウム合金から介在物を除去するろ過工程と、
    前記ろ過工程で介在物を除去したアルミニウム合金を鋳造して鋳塊を製造する鋳造工程と、
    前記鋳造工程で製造された鋳塊を200℃以上350℃未満の温度で1時間以上保持して熱処理する熱処理工程と、
    前記熱処理工程で熱処理された鋳塊を所定厚さにスライスするスライス工程と、をこの順に行うことを特徴とするアルミニウム合金厚板の製造方法。
  5. 前記スライス工程の後に、スライスされた所定厚さのアルミニウム合金厚板の表面に、さらに表面平滑化処理を行うことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のアルミニウム合金厚板の製造方法。
  6. 前記表面平滑化処理を、切削法、研削法および研磨法から選択された1種以上の方法で行うことを特徴とする請求項5に記載のアルミニウム合金厚板の製造方法。
  7. 前記スライス工程において、前記鋳塊の厚さをTとしたときに、厚さ方向中央部から、厚さ方向のそれぞれの表面に向かい、均等の厚さで、合計T/30〜T/5厚さを除去することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載のアルミニウム合金厚板の製造方法。
  8. 請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載のアルミニウム合金厚板の製造方法により製造されたアルミニウム合金厚板であって、平均結晶粒径が400μm以下であることを特徴とするアルミニウム合金厚板。
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