本発明は、半導体受光素子、特に、アバランシェ・フォトダイオード(APD)に関し、さらに、アバランシェ・フォトダイオード(APD)を用いた光受信機に関する。
アバランシェ・フォトダイオード(APD)は、PINフォトダイオード、ショットキーフォトダイオードなどと比較すると、その内部に信号増幅機能を持つことを特徴とする受光素子である。このようなAPDとしては、増倍と光吸収の機能が一体化されている一体型構造のAPDと、光吸収とキャリア増倍の役割を分離した構造とするSAM (separated absorption and multiplication) 型構造とがある。
化合物半導体を用いてAPDを作製する場合、SAM型構造を用いることが有効であることが知られている。SAM型構造においては、光吸収層と増倍層とでそれぞれ最適の材料を選ぶことができ、一体型構造と比較して、より受光能力及び増倍能力の高いAPDを設計することができるためである。
SAM型APDの一例を図10に示す。
図10に示すSAM型APDにおいては、半導体基板10−1上に、n型バッファ層10−2を形成し、n型バッファ層10−2上に順に増倍層10−3、電界緩和層10−4、第1p型光吸収層10−5、第2p型光吸収層10−6、p型バッファ層10−7、p型コンタクト層10−8が形成されている。
このような層構造を有する面入射型APD若しくは導波路型APDに対して光を照射すると、第1及び第2p型光吸収層10−5、10−6においてキャリアが発生し、印加した電圧に依存して内部に与えられる電界に応じて走行し、一方のキャリアは増倍層10−3に導入される。増倍層10−3に導入されたキャリアは増倍層10−3の内部で衝突イオン化し、発生したキャリアがまた衝突イオン化する連鎖反応を起こす。これにより信号キャリアは雪崩増倍(アバランシェ増倍)されて外部の電極(あるいは電線)に送り出される。
具体例として、渡辺らの報告(アイ・トリプル・イー・フォトニクス・テクノロジー・レターズ、5巻675ページ、1993年、米国)(I. Watanabe, et al., IEEE Photon. Technol. Lett., vol.5, p.675, 1993)によれば、インジウム燐(InP)基板上に形成するSAM型APDの構造において、増倍層として0.23μmのInAlGaAs/InAlAs超格子構造、光吸収層としてInGaAsを用いて、増倍暗電流が0.16μA(@M=10)、量子効率65%(波長1.5μm)、最大帯域15GHz、GB積120GHzを得ている。
このようなSAM型構造においてはその増倍能力は増倍層の材料及び構造に強く依存するが、特に層厚依存性については、同一の材料の場合、層厚が薄くなるほどに増倍特性が良くなるということが知られている。
例えば、牧田らは、エレクトロニクス・レター35巻2228ページ、1999年、英国(K. Makita, et al., Electron. Lett., 1999, 35,pp. 2228-2229)では、InAlGaAs/InAlAs超格子増倍層を0.13μmまで薄膜化することによってGB積を200GHzまで向上させた例を報告している。
また、InAlAsを用いて薄膜化した例としては、レノらがアイ・トリプル・イー・フォトニクス・テクノロジー・レターズ11巻1162ページ(1999)米国(C. Lenox, et al., IEEE Photon. Technol. Lett., 11, p.1162(1999))に発表した報告がある。この報告によれば、InAlAs層を0.2μmまで薄膜化し、GB積の最大値として290GHzが得られている。
また、最も薄膜の増倍層を使った例としては、ニイらがアイ・トリプル・イー・フォトニクス・テクノロジー・レターズ10巻409ページ、1998年、米国(H. Nie, et al., IEEE Photon. Technol. Lett., 10, p.409, (1998))に発表した報告がある。この報告によれば、GaAs基板上にSAM型APDを構成する際に、Al(0.2)Ga(0.8)Asを用いて増倍層を構成し、層厚を80nmまで薄膜化している。これにより、GB積の最大値として290GHzを得ている。
図11は、従来のAPD光受信機の一例を示す。
APD光受信機においては、図11に示すように、光ファイバ11−1から導入された信号はレンズ11−2を通ってAPD11−3に入力される。APD11−3はプリアンプ11−4に接続されており、APD11−3に入力された信号はマイクロストリップライン(MSL)11−5を通って高周波コネクタ11−6へと出力される。
10Gb/s信号の受信感度は、疑似ランダム信号(Pseudo random bit stream=PRBS)23段を伝送した場合に、ビットエラーレート(BER)1×10-9を与える光強度で表現する。
例えば、10Gb/s帯での受信感度評価の結果は、次のようなものが知られている。
ツェンらの報告(アイ・トリプル・イー・フォトニクス・テクノロジー・レターズ、第8巻1229ページ、1996年、米国)(L. D. Tzeng, et. al., IEEE Photon. Technol. Lett., vol.8, p.1229, 1996)では、受信感度−28.7dBmが得られており、また、ユンらの報告(アイ・トリプル・イー・フォトニクス・テクノロジー・レターズ、第8巻1232ページ、1996年、米国)(T.Y. Yun, et. al., IEEE Photon. Technol. Lett., vol.8, p.1232, 1996)では、受信感度−28.5dBmが得られている。
40Gb/s用の光受信機としてPIN−PDを用いたものは多く報告されているが、APDを用いた受信機はこれまでに報告例がない。
従来報告されている40Gb/s用受信機は、PIN−PDに高周波アンプを接続したものであるが、変調信号を受信するためには、0dBm程度以上の光入力を要求されているものが多い。
図12は、光プリアンプを用いた従来の光受信機の一例を示すブロック図である。
図12に示す光受信機は、光プリアンプ12−3と、PIN−PD光受信機12−4と、光プリアンプ12−3とPIN−PD光受信機12−4とを接続する光ファイバ12−1と、からなる。
光プリアンプ12−3とPIN−PD光受信機12−4とが光受信機12−6を構成している。
光ファイバ12−1を介して光受信機12−6に入力された光信号12−2は、電気信号12−5として光受信機12−6から出力される。
図12に示すように、従来の光受信機12−6は、ファイバアンプなどを用いた光プリアンプ12−3を前段に配置し、受信した光を増幅した後、PIN−PD光受信機12−4に入射させる構成をとっており、光プリアンプ12−3は欠かせない構成要素となっている。
従来例にみられるように増倍層を薄膜化することはGB積向上の面から非常に有効であるが、同時に暗電流劣化を引き起こす原因ともなる。増倍暗電流を抑圧するためには、増倍層のバンドギャップが大きいことが望ましい。
GaAs基板上のSAM型APDの例としては、Al(0.2)Ga(0.8)Asを用いて80nmの層厚の増倍層を構成してGB積の向上を図り、GB積の最大値として290GHzを得たことが前記ニイらの報告に記載されている。
一方で、InP基板上の格子整合する材料のうち、最もワイドギャップを与える材料としては一般的にはInAlAsが知られている。
InAlAsを用いて増倍層を形成した場合、例えば、0.2μmの層厚で構成した例が前記レノらの報告に記載されている。この例では、GB積の最大値として290GHzと高いGB積が得られているが、Mが30以上での値であり、光通信へ応用する際の実用域であるM=1〜15ではGB積の最大値はおよそ150GHz程度である。
M=1〜15付近で得られるGB積をより一層向上するためには、最大帯域の高いデバイス設計と共に高いGB積値が得られる増倍層が必要となっている。
そこで、増倍層材料としてInAlAsを用い、薄膜化してGB積の向上を図ることが考えられる。
しかしながら、0.1μm未満まで増倍層の厚みを薄くすると、暗電流劣化が顕著に見られるようになる。暗電流劣化が顕著となると、薄膜化によるGB積向上の効果も失われる。
従って、InAlAsを用いた場合では、0.1μm未満の増倍層を用いた場合には、0.1μm以上の層厚の増倍層を用いた場合と比較してGB積が劣化してしまう。
この結果、このような薄膜のAPDを用いて2.5Gb/s乃至40Gb/sのビットレートの光受信機を構成した場合、層厚が0.1μm以上の増倍層を用いて構成した光受信機と比較して感度は下がってしまう。
このことから、薄膜の増倍層を使ったAPDでは、信号増倍の機能は残るものの、感度向上につながる増倍特性は得られていなかった。従って、200GHz以上の高いGB積のAPDとプリアンプとを用いた構造を有する光受信機は実現できなかった。
また、薄膜化を図った場合でも従来構造では、増倍層の両側を、増倍層と同一のバンドギャップの材料か、あるいは、増倍層よりも低いバンドギャップの材料で構成している。
SAM型APDに対して電圧を印加した場合、図13に示すように、増倍層13−4に隣接した層13−3、13−5にも増倍可能な電界が印加される。この結果、増倍層13−4の厚みを0.1μm以下まで薄膜化したような場合、隣接した層13−3、13−5の濃度によっては、無視できないほどの層厚で空乏化がおきてしまう。これにより、有効な増倍領域の幅13−6は、増倍層13−4の厚さよりも広がってしまい、増倍層13−4の厚みを薄くした効果が低減する。
例えば、増倍層13−4に隣接する層13−3、13−5の濃度を1×1017cm-3とした場合、増倍層13−4の層厚や材料にも依存するが、電界緩和に必要な層厚は0.5μm以上になると見積もられる。
このような場合に、0.1μm未満の層厚を持つ増倍層13−4を作製しても、実際には、0.2乃至0.3μmの幅で増倍がおきることとなり、薄膜化の効果を有効に発揮することができない。
以上のように、従来の光受信機においては、GB積が高く、かつ、暗電流が低いAPDが得られていなかったため、10Gb/sにおけるAPD光受信機の受信感度の限界は、−28乃至−29dBm(ビットエラーレート(BER)1×10-9、疑似ランダム信号(PRBS)23段での評価時)程度であった。
これは、ショットノイズ限界で決まっているものではなく、理論的なAPD受信機の感度限界に迫るものではない。
40Gb/s用のPIN−PDとプリアンプICとを用いた従来の光受信機では、受信感度が非常に低く、受信に際して高い光強度を必要としている。このため、ファイバーアンプなどを用いた光アンプを光受信機の前段に配置して光プリアンプとして構成し、全体で光受信機としての機能を果たす構成になっている。
この光受信機では、光受信機に必要な入力レベルとして0dBm程度が必要であり、ファイバアンプの消費電力が大きくなってしまうという欠点があった。
本発明は、以上のような従来の半導体受光素子及びそれを用いた光受信機における問題点に鑑みてなされたものであり、薄膜の増倍層であって、GB積が高く、かつ、暗電流が低い増倍特性を持つ増倍層を提供し、この増倍層を備え、高速・高感度な半導体受光素子及びその半導体受光素子を用いた光受信機を提供することを目的とする。
この目的を達成するため、本発明は、インジウム燐(InP)基板上に形成する増倍層であって、インジウム燐基板に格子整合するかしないかを問わず、In(0.52)Al(0.48)Asよりもワイドギャップの材料からなり、層厚が0.01μm以上0.1μm未満の増倍層を備えることを特徴とする半導体受光素子を提供する。
増倍層の材料としては、例えば、In(x)Al(1−x)As(0≦x<0.52)を用いることができる。
上記のIn(x)Al(1−x)As(0≦x<0.52)におけるxの値は次式に従って決定することができる。
(1−x)≧k1log10(dm)+k2
ただし、k1はk1≦−0.3を満たす任意の値であり、k2は上式の曲線が(dm=0.1、x=0.52)の点を通過するように決められるものとする。
増倍層の材料としては、Si、GaN、AlN、InN、AlP、AlAs、GaP、AlSbまたはこれらの化合物(AlGaN、InGaN、AlInN、InAlGaN、GaP、AlGaP、AlAsP、AlGaAsP、AlAsSb等)を選択することができる。
これらの材料を用いた場合でも増倍電界の上昇に伴う暗電流劣化が避けられない場合には、増増倍の層厚を0.02μm以上とすることが好ましい。
上述の半導体受光素子はアバランシェ・フォトダイオード(APD)として構成することができる。
また、本発明は、GaN、AlN、InN、AlP、AlAs、GaP、AlSbあるいはこれらの化合物からなり、0.01μm以上0.1μm以下の層厚を有する増倍層を備えることを特徴とする半導体受光素子を提供する。
この半導体受光素子は、例えば、SAM(separated absorption and multiplication)型アバランシェ・フォトダイオード(APD)として構成することができる。
また、本発明は、増倍層と、増倍層の両側に形成された増倍抑止層と、を備え、増倍抑止層は、0.1μm以下の増倍層に対して、有効な増倍層厚が広がることを防止するものであることを特徴とする半導体受光素子を提供する。
さらに、本発明は、インジウム燐(InP)基板と、インジウム燐基板上に形成される増倍層と、増倍層の両側に形成された増倍抑止層と、を備え、増倍抑止層はIn(x)Al(1−x)As(x≦0.4)からなるものであることを特徴とする半導体受光素子を提供する。
例えば、増倍抑止層は、増倍層をなす材料よりもさらにワイドギャップの材料からなる半導体層として構成することができる。
増倍抑止層の層厚は増倍層の層厚とほぼ同じにすることが好ましい。
例えば、増倍抑止層は0.02μm以上0.1μm以下の厚さを有するように設定される。
例えば、増倍抑止層はAlAsからなるものとすることができる。
増倍抑止層の濃度は、アンドープまたは任意のドーピング量により、1×1017cm-3以上の不純物濃度とすることが好ましい。
薄膜増倍層の高速特性を生かすため、この層構造を用いてAPDを作製する場合、pn接合面積は1000平方μm程度以下として接合容量の低減を図り、CR制限速度の大きなAPDとすることが好ましい。
このような高いGB積の半導体受光素子とプリアンプICとを接続し、2.5Gb/s以上40Gb/sなどの帯域において、従来の光受信機よりも高感度なAPD受信機を構成することができる。
すなわち、本発明は、上述の半導体受光素子と、半導体受光素子に接続されたプリアンプICと、を備えることを特徴とする光受信機を提供する。
また、本発明は、上述の半導体受光素子と、半導体受光素子に接続されたプリアンプICと、を備え、ビットエラーレート(BER)1×10-9を与える光強度が−26dBm以下となる受信感度を有する10Gb/s通信用APD光受信機を提供する。
さらに、本発明は、上述の半導体受光素子と、半導体受光素子に接続されたプリアンプICと、を備え、ビットエラーレート(BER)1×10-9を与える光強度が−7dBm以下となる受信感度を有する40Gb/s通信用APD受信機を提供する。
すなわち、前段に光プリアンプが配置された光受信機の場合、本発明においては、本発明により受信感度が向上した範囲内で光プリアンプの増幅量を削減し。あるいは、光プリアンプそのものを省略して光受信機を構成する。
本発明によりInP基板上に作製した0.1μm未満の層厚を持つ増倍層では、キャリアの増倍は薄い増倍層の内部で起きるので、短時間で多数のキャリア発生につながり、高いGB積を提供することができる。
また、従来考えられていた材料よりもワイドギャップの材料で構成されているため、増倍暗電流が0.1乃至1μA以下、最大でも2μA以下まで抑圧され、この層構造を元にして得られたAPDなどの半導体受光素子は2.5乃至40Gbpsの範囲で高感度受光素子として使用することができる。
特に、増倍層の両側に増倍抑止層を設けた場合、増倍抑止層内部では、増倍確率が大幅に下がるため、空乏層の広がりに伴う有効な増倍層厚の広がりを防止でき、キャリアは増倍層の内部でのみ選択的に増倍を起こす。
増倍抑止層のドーピング濃度を1×1017cm-3以上にした場合には、電界緩和の効果を持ち、増倍抑止層に対して増倍層と反対側に隣接する層での増倍が低減される。
このようにして作製したAPDなどの半導体受光素子をプリアンプICに接続することにより、2.5Gb/s乃至40Gb/sなどの帯域において、高感度受信機として機能する。
たとえば、1.5μm帯の光を受光した場合、変換効率をT(A/W)、増倍率M、プリアンプのトランスインピーダンスをAΩとすると、T・M・A(V/W)の変換効率を持つ受信機が構成される。
前段に光プリアンプを配置している光受信機の場合、本発明により後段の受信感度が上がった分の電力を省略することができる。光プリアンプ全体を省略した場合でも、受信感度が向上しているため、光信号の受信に支障はない。
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
(第一の実施の形態)
図1は本発明の第1の実施形態に係る半導体受光素子の構造を示す。本実施形態においては、半導体受光素子は、半導体基板上に形成したSAM型APDとして形成されている。
このSAM型APDは、半導体基板1−1と、半導体基板1−1上にこの順番に形成されたn型バッファ層1−2、増倍層1−3、電界緩和層1−4、第1p型光吸収層1−5、第2p型光吸収層1−6、p型バッファ層1−7及びp型コンタクト層1−8と、からなる。
なお、本実施形態に係るSAM型APDの層構造としては、半導体基板1−1上に先ずp型バッファ層1−7を構成し、p型バッファ層1−7上にこの順番に第1p型光吸収層1−5、第2p型光吸収層1−6、電界緩和層1−4、増倍層1−3、n型バッファ層1−2及びn型コンタクト層1−8を積層した構造とすることも可能である。
第1p型光吸収層1−5のp型不純物濃度は第2p型光吸収層1−6のp型不純物濃度よりも低く設定されている。また、第1p型光吸収層1−5の層厚は、0.01μm以上2μm以下の範囲で、第2p型光吸収層1−6の層厚は、0μm以上0.5μm以下の範囲でそれぞれ作製する。
光吸収層1−5、1−6の層厚が厚すぎると、キャリアの走行時間が長くなり、高速・高感度特性を得ることができなくなる。このため、高速・高感度特性を得ることができる層厚の範囲として上記の範囲を設定した。
薄膜増倍層1−3は電界を均一に印加するために、可能な限り不純物濃度を低く作製する。薄膜増倍層1−3の層厚は、GB積向上の観点から0.1μm未満、増倍暗電流抑圧の観点から0.02μm以上とする。
しかしながら、このような薄膜の増倍層1−3を、例えば、InP基板上に構成するAPDにおいて、InPに格子整合するInAlAsで増倍層1−3を構成した場合、増倍暗電流が増大し、2.5Gb/s乃至40Gb/sの伝送帯域において信号電流が発生するショットノイズと比較して同等レベルあるいはそれ以上のノイズ成分を発生し、高感度化が望めない。
そこで、より暗電流を低減する材料として、InAlAsのAl組成を高めたIn(x)Al(1−x)As(1−x>0.48)を用いる。
一般に、このように基板上の格子不整合な材料を積層した場合、臨界膜厚までは積層する層に歪みが導入されるが、それ以上の層厚を積層すると格子欠陥が導入されて格子緩和が起きることが知られている。
しかしながら、本発明者は実験により、格子不整合の材料を臨界膜厚以上に積層することにより生じた格子緩和に起因する結晶欠陥が導入された場合に、In(0.52)Al(0.48)Asよりワイドギャップな材料であれば、この材料をAPDの増倍層に適用した場合に増倍特性に影響がなく、また、増倍暗電流も抑圧される、という結果を得た。このことから、ワイドギャップ材料の適用は増倍層、あるいは、その他の受光素子を形成する層構造に対して有効であることが理解できた。
仮に、格子不整合量を少なく設計したい場合には、膜厚dmに反比例させてアルミニウム組成を増やす設計も可能である。
例えば、In(x)Al(1−x)Asの組成の決定を次式に従って行うことができる。
(1−x)=k1・log10(dm)+k2・0.01<dm<0.1、k1<−0.3
ただし、上式で表される曲線がdm=0.1、(1−x)=0.48を通るように決定する。
格子整合の作製条件からのずれを最も小さくし、その効果を十分得るためには、図2の2−1に示すように、k1=−0.3とし、増倍層厚が0.1μmの場合の組成が格子整合するように、すなわち、dm=0.1の時に(1−x)=0.48になるように、係数k2を決めると効果的である。この場合、k2=0.18である。
ただし、格子不整合量は大きくなってもワイドギャップ側にずれる場合には問題ないので、実際には、上式で決定されるAl組成よりも大きなAl組成で作製すればよい。つまり、k1≦−0.3を満たし、増倍層厚が0.1μmの場合の組成が格子整合するように、すなわち、dm=0.1の時にx=0.52になるように、係数k2 を決めておけばよい。これは、図2の2−2で示す範囲に相当する。
このように、増倍特性は格子緩和に影響されず、In(0.52)Al(0.48)Asに比較して十分ワイドギャップであれば、増倍特性が得られる。このことを利用すると、薄膜増倍層の材料として、GaN、AlN、AlN、InN、AlP、GaP及びこれら材料を任意の混合比で組み合わせた材料を用いることができる。
電界緩和層1−4はp型不純物を含有しており、光吸収層1−5、1−6及び増倍層1−3と同一の材料からなる。電界緩和層1−4の層厚は約0.02乃至約0.2μmであり、p型不純物濃度0.5×1018乃至2×1018cm-3を有する。
n型バッファ層1−2は、1×1017乃至1×1020cm-3のn型不純物濃度を有しており、約0.1乃至約0.5μmの層厚を有している。
光電流のパンチスルーの特性を改善するためには、n型バッファ層1−2と光吸収層1−5、1−6との間のバンド不連続を緩和することが必要となる。このために、4元層やInP層、トンネル効果を利用した薄膜障壁層をn型バッファ層1−2と光吸収層1−5、1−6との間に挿入しても良い。
このようにして構成した層構造を用いて、最大帯域がおおよそ10Gb/sや40Gb/sに適用できるような構造のAPDを作製する。この場合、pn接合容量が重要なパラメータとなっている、周波数応答に関するCR制限を避けるため、pn接合面積は1000平方μm以下に設計するのが有効である。
それぞれのAPDは、帯域に応じた高速アンプと接続し、10Gb/sや40Gb/sにおいて高感度な光受信機として利用できる。40Gb/sにおいては、光プリアンプの動作電力を削減したり、あるいは、光プリアンプ全体を省略することができる。
(第二の実施の形態)
第二の実施の形態においては、半導体受光素子としてSAM型APDを構成する。
本実施形態に係るSAM型APDの構造を図3−(B)に示す。本実施形態に係るSAM型APDは、半導体基板3−18と、半導体基板3−18上にこの順番に形成されたn型バッファ層3−17と、第1増倍抑止層3−16と、増倍層3−15と、第2増倍抑止層3−14と、電界緩和層3−13と、p-型光吸収層3−12と、p+型光吸収層3−11と、p型バッファ層3−10と、p型コンタクト層3−9と、からなる。
これに対して、図3−(A)は従来のSAM型APDの構造を示す。従来のSAM型APDは、半導体基板3−8と、半導体基板3−8上にこの順番に形成されたn型バッファ層3−7と、増倍層3−6と、電界緩和層3−5と、p-型光吸収層3−4と、p+型光吸収層3−3と、p型バッファ層3−2と、p型コンタクト層3−1と、からなる。
本実施形態に係るSAM型APDにおいては、半導体基板3−18はGaAsやInPを用いる。
p+型光吸収層3−11はp-型光吸収層3−12よりも不純物濃度が高く設定されている。p+型光吸収層3−11の層厚は0.0μm以上0.5μm以下の範囲に設定されており、p-型光吸収層3−12の層厚は0.01μm以上2μm以下の範囲に設定されている。
光吸収層3−11、3−12の層厚が厚すぎると、キャリアの走行時間が長くなり、高速・高感度特性を得ることができなくなる。このため、高速・高感度特性を得ることができる層厚の範囲として上記の範囲を設定した。
光吸収層3−11、3−12のバンドギャップはバンドギャップが小さなものから選び、なるべく広範囲の波長を受光可能なように設計する。
なお、光吸収層3−11、3−12はそれぞれn+、n-型光吸収層として構成することも可能である。
光吸収層3−11、3−12の材料としては、InP基板上に形成する場合にはIn(0.53)Ga(0.47)Asを、GaAs基板上に形成する場合にはIn(0.1)Ga(0.9)As等を用いる。
増倍層3−15は、電界を均一に印加するために、可能な限り不純物濃度を低く作製する。層厚は、GB積向上の観点から0.1μm未満とし、暗電流劣化防止の観点から0.01μm以上とする。
図3−(A)に示す従来のSAM型APDにおいては、増倍層3−06の両側を構成する層、すなわち、電界緩和層3−05及びn型バッファ層3−07は増倍層3−06と同一のバンドギャップまたは増倍層3−06のバンドギャップよりも小さいバンドギャップの材料で構成されている。このため、従来のSAM型APDの構造では、電圧を印加して高電界部分が広がった際に実際の有効増倍層厚が広がってしまう。
これに対して、第2の実施の形態に係るSAM型APDにおいては、増倍層3−15の両側にアバランシェ増倍の確率の非常に低い増倍抑止層3−14、3−16を設けることにより、この有効増倍層厚の広がりを防ぐことができる。
増倍抑止層3−14、3−16は、増倍層3−15よりもブレークダウン電界の高い材料を用いて構成する。
一般には、増倍電界は、バンドギャップが同じであれば、層厚依存性を持つ(同じ層厚であればバンドギャップに依存する)ため、バンドギャップが増倍層3−15に対して110%程度あるような材料を用いることが望ましい。
増倍抑止層3−14、3−16の層厚は、増倍層3−15の層厚と同等か、より薄い層厚で構成する。
ただし、増倍抑止層3−14、3−16の層厚を0.02μm以上とすることにより、その効果は大きくすることができる。
また、バンドギャップ差が十分あれば、増倍抑止層3−14、3−16の増倍電界は十分高くなるので、増倍抑止層3−14、3−16の厚みを増倍層3−15より厚くすることができる。
増倍抑止層3−14、3−16を挿入することにより、薄膜増倍層3−15の中でアバランシェ増倍がおきる確率が高くなり、隣接する増倍抑止層3−14、3−16で増倍する確率を低くすることができる。従って、増倍キャリアの主流な増倍は増倍層3−15の内部に閉じこめることができる。
増倍抑止層3−14、3−16では、増倍抑止層3−14、3−16の外部に高電界が印加されて増倍がおきるのを防ぐため、層厚0.1μmでは1×1017cm-3以上、層厚0.05μmでは2×1017cm-3以上、層厚0.02μmでは5×1017cm-3以上の濃度、これらの層厚の中間の層厚ではこれらの濃度を補完して得られた濃度以上の濃度を有するように設計することにより、より高い効果を期待できる。この場合には、増倍抑止層3−14、3−16が電界緩和層3−13としての機能も兼ねていることとなる。
(第三の実施の形態)
格子整合する材料のバンドギャップはよく知られているので、バンドギャップから組成を計算し、層構造を決定するのは容易である。
InP基板上に構成したSAM型APDの場合、格子整合する材料系としては、In(0.52)Al(0.48)Asがワイドギャップ材料として知られている。
これに対する増倍抑止層は、格子整合する材料でバンドギャップが110%以上大きなものが知られていないために、構成することができない。
そこで、格子不整合のワイドギャップ材料を用いる。例えば、In(x)Al(1−x)As(x<0.52)を用いると、InAlAsよりもワイドギャップ材料で挟むことができたのと同等であり、有効増倍層厚の増加を防ぐことができる。
ここで、InP基板上に形成されたIn(x)Al(1−x)As(x<0.52)、特に格子緩和が起きるほどの層厚を積層した場合のバンドギャップを正確に得ることは難しいので、バンドギャップからみた材料の組成設計は容易ではない。
増倍暗電流の観点から推定した場合、0.06μmのIn(0.4)Al(0.6)Asは0.1μmのIn(0.52)Al(0.48)Asと比較してバンドギャップ差が十分見られることが分かっている。
従って、このIn(0.4)Al(0.6)AsをInAlAs増倍層に対する増倍抑止層として利用することができる。
また、この材料よりもAl組成を増やした場合についても特に弊害はないので、In(x)Al(1−x)As、(1−x>0.6)、層厚0.06μmを用いて増倍抑止層を構成すれば、増倍抑止の効果が期待できる。
特に、増倍抑止層をAlAsで構成した場合には増倍抑止の効果を一層期待することができ、その層厚は0.02μmでもよい。
このとき、n側増倍抑止層の濃度は1×1017cm-3以上あると電界が緩和され、増倍抑止層に隣接した層での増倍抑止効果も得られる。
このようにして得られた層構造を元にして、高速・高GB積のAPDを得ることができる。
これらのAPDは、さらに、高感度受信機に応用することが期待できる。特に、APDをプリアンプに接続することにより、10Gb/sのような帯域では超高感度受信機として、40Gb/sの帯域でも従来のPIN−PD受信機と同様の光受信機として、ただし、より高感度の受信機として使用することができる。
特に、40Gb/s帯に応用した場合、前置する光プリアンプの増倍率を抑制して省電力化することが可能であり、特に、近距離では光プリアンプを用いない40Gb/s伝送系を構成することが可能となる。
本発明により、InP基板上で0.1μm未満の増倍層厚を持ったAPDにおいて、0.1μm以上の層厚を持つAPDと比較して、M=1乃至15の範囲でGB積が向上させることができると同時に増倍暗電流のレベルを0.1乃至1マイクロアンペア以下と低く押さえることができる。
このような高いGB積を得ることにより、2.5Gb/sや10Gb/s通信では、M>10の高い増倍域でも実用特性を得ることが可能である。
また、例えば、導波路型構造などのように、50%以上の量子効率を有し、かつ、最大帯域が40GHzを越えるような設計をすることにより、40Gb/sへも適用可能となる。
さらに、増倍抑止層を導入することにより、0.1μm以下のような薄膜増倍層に対して、増倍領域の拡大を防ぎ、GB積の一層の向上を図ることができる。増倍抑止層にドーピングを施した場合、特に、1×1017cm-3以上に設定した場合には、増倍抑止層に対して増倍層と反対側に接した層の内部で増倍する確率を低減することができ、GB積を向上させる効果がより一層高まる。
このような高GB積のAPDを得ることにより、10Gb/s光通信においては、ショットノイズ限界により近づいた受信感度を持つAPD受信機を実現することができる。
例えば、帯域がfc>10GHz、量子効率η>80%のAPDをトランスインピーダンス1KΩを持つプリアンプに接続した場合、−29dBmの受信感度あるいはそれ以上が得られるようになる。
また、組み立て等の歩留まりを考えても−26dBm程度が得られる。
また、従来には例のない40Gb/s帯のAPD受信機を実現することができる。この40Gb/s用APD受信機は、その特性から、前段の光プリアンプの増幅量を低減することができ、あるいは、光プリアンプそれ自体を省略することもできる。これは、光プリアンプの大きな消費電力を削減するのに有効である。これにより、低消費電力の40Gb/s光受信機を構成することができる。
本実施例は第一の実施の形態に対応するものである。
図4は実施例1に係る半導体受光素子の層構造の図である。本実施例に係る半導体受光素子はAPDとして構成されている。
実施例1に係るAPDは、n型インジウム燐(InP)基板4−1と、n型インジウム燐(InP)基板4−1上にこの順番に形成されたn型InPバッファ層4−2(層厚1μm)と、n型InAlAsバッファ層4−3(層厚0.5μm)と、In(0.4)Al(0.6)Asn型バッファ層4−4(層厚0.05μm)と、In(0.4)Al(0.6)As増倍層4−5(層厚0.05μm)と、第1p型In(0.4)Al(0.6)As電界緩和層4−6(層厚0.05μm)と、第2p型InAlGaAs電界緩和層4−7(層厚0.05μm)と、第1p型InGaAs光吸収層4−8(層厚1μm)と、第2p型InGaAs光吸収層4−9(層厚0.1μm)と、p型InPバッファ層4−10(層厚1μm)と、p型InGaAsコンタクト層4−11(層厚0.5μm)と、からなる。
これらの各層は結晶成長装置を用いて形成される。
この層構造を元に、図5に示すような面入射型の高速・高感度APDを作製した。
以下、図5に示すAPDの製造方法を説明する。
先ず、ウェットエッチング(ブロム系等)やドライエッチング(RIE等)を用いて直径20μm、高さ3乃至5μmのメサを形成する。これによりAPD層構造5−4を持ったメサが形成される。
この場合には、メサ面積がpn接合面積とほぼ等しく、おおよそ314平方μmとなっている。
次いで、ポリイミドを用いてパッシベーション膜を形成する。
次いで、p型コンタクト層4−11の上面及びn型層が露出するメサ底面にそれぞれ、p型コンタクト電極5−6及びn型コンタクト電極5−5を形成する。
次いで、Ti/Pt/Auを用いて、p電極5−7、n電極5−8を、コンタクト電極5−5、5−6を覆うように形成する。
その際、n電極5−8はn型コンタクト電極5−5から表面まで引き出すように配線する。
なお、APD層構造5−4はInP基板5−3上に形成されており、APD層構造5−4とは反対側のInP基板5−3の表面には反射防止膜5−2が形成されている。信号光5−1は反射防止膜5−2を介してAPD層構造5−4に入射れる。
このデバイスの特性を評価したところ、ブレークダウン電圧は20Vであり、増倍暗電流は0.5μAであった。量子効率は80%を得た。最大応答周波数は50Ω負荷のときに10GHzであり、GB積は220GHzを得た。特に、増倍率M=2乃至20での周波数応答は10GHzを維持していた。
本実施例に係るAPDと1KΩ以上のトランスインピーダンスを持つプリアンプとを接続して周波数特性を評価したところ、帯域10GHzを得た。
本実施例に係るAPD及びプリアンプを用いて光受信機を構成し、10Gb/sのビットレートにおいて受信感度を評価したところ、23段の疑似ランダム信号を使った場合にビットエラーレート(BER)1×10-9を与える光強度は−30dBmであった。
また、本実施例に係るAPD及びプリアンプからなる光受信機を連続して数多く作製したところ、結合効率の差や実装条件の僅かな違いなどに起因する受信感度のばらつきが見られた。
この時の統計を取ると、受信機の平均的な受信感度は、−29dBmであり、最も低いものでも−26dBmを確保することができた。これは、10Gb/s用としては、非常に高感度なAPD光受信機である。
本実施例は第一の実施の形態に対応するものである。
図6は実施例2に係る半導体受光素子の層構造の図である。本実施例に係る半導体受光素子はAPDとして構成されている。
実施例2に係るAPDは、SI型インジウム燐(InP)基板6−1と、SI型インジウム燐(InP)基板6−1上にこの順番で形成されたn型InPバッファ層6−2(層厚2μm)と、n型InAlGaAs中間屈折率層6−3(0.5μm)と、n型In(0.4)Al(0.6)Asバッファ層6−4(層厚0.05μm)と、In(0.4)Al(0.6)As増倍層6−5(層厚0.05μm)と、第1p型In(0.4)Al(0.6)As電界緩和層6−6(層厚0.05μm)と、第2p型InAlGaAs電界緩和層6−7(層厚0.05μm)と、第1p型InGaAs光吸収層6−8(層厚0.4μm)と、第2p型InGaAs光吸収層6−9(層厚0.1μm)と、p型InAlGaAs中間屈折率層6−10(0.5μm)と、p型InPクラッド層6−11(層厚2μm)と、p型InGaAsコンタクト層6−12(層厚0.5μm)と、からなる。
これらの各層は結晶成長装置を用いて形成される。
本実施例においては、図6に示した層構造を用いて、図7に示すような導波路型のAPDを構成する。
以下、図7に示す導波路型APDの製造方法を説明する。
先ず、ウェットエッチング(ブロム系等)やドライエッチング(RIE等)を用いて長さ10μm、幅5μm、高さ4乃至5μmのAPDメサ7−2を形成する。
このAPDメサ7−2の周囲にn型コンタクト電極を形成するための領域を残してウェット又はドライエッチングを用いて高さ2乃至3μm程度のn電極用メサ7−3を形成する。この場合、APDメサ7−2の面積がpn接合面積と等しく、おおよそ50平方μmとなるようにする。
次いで、ポリイミド又は窒化膜を用いてパッシベーション膜を形成する。
p型コンタクト層6−12の上面及びn型層が露出するAPDメサ7−2の上面にコンタクト電極を形成する。
Ti/Pt/Auからなるコンタクト電極を、n電極7−4及びp電極7−5を覆うように形成する。
n電極7−4及びp電極7−5は、コプレーナ線路もしくはマイクロストリップラインまたは両者を組み合わせて接続する形状を持たせる。
図7では、コプレーナ線路の場合を示した。
この場合、素子を形成した基板裏面にグラウンドを構成する金属を蒸着などにより形成する。
さらに、基板の側面には反射防止膜7−6が形成されており、信号光7−1はこの反射防止膜7−6を介して導波路型APDに入射される。
このデバイスの特性を評価したところ、ブレークダウン電圧は12Vで増倍暗電流は0.5μAであった。量子効率は70%を得た。最大応答周波数は50Ω負荷で40GHzであり、GB積は最大220GHzを得た。特に、増倍率M=2乃至5における周波数応答は36GHz以上を維持していた。
本実施例に係る導波路型APDと100Ωのトランス・インピーダンスを持つプリアンプとを接続して周波数特性を評価したところ、帯域40GHzを得た。
また、本実施例に係る導波路型APD及びプリアンプを用いて受信機を構成し、40Gb/sのビットレートにおいて受信感度を評価したところ、23段の疑似ランダム信号を使った場合にビットエラーレート(BER)1×10-9を与える光強度は−10dBmであった。これは、40Gb/s用としては、高感度な光受信機である。
実施例1と同様に、本実施例に係る導波路型APD及びプリアンプからなる多数の光受信機を連続して構成し、評価したところ、ばらつきが生じたが、最も低い受信感度のものでも−7dBmを得ることができた。
このAPD光受信機を用いた場合、光プリアンプとして接続しているファイバアンプの出力を3dB低減でき、消費電力が1Wであったが、およそ半分の0.5Wまで低減できた。
また、10km程度あるいはそれより短い光ファイバ伝送路を用いた場合、光プリアンプなしに40Gb/sの信号を受信できた。
本実施例は第二の実施の形態に対応するものである。
図8は実施例3に係る半導体受光素子の層構造の図である。本実施例に係る半導体受光素子はAPDとして構成されている。
実施例3に係るAPDは、ガリウムヒ素(GaAs)基板8−1と、ガリウムヒ素(GaAs)基板8−1上にこの順番で形成されたn型Al(0.2)Ga(0.8)Asバッファ層8−2(層厚1μm)と、n型Al(0.12)Ga(0.88)As中間屈折率層8−3(層厚0.5μm)と、AlAs増倍抑止層8−4(層厚0.05μm)と、Al(0.2)Ga(0.8)As増倍層8−5(層厚0.05μm)と、AlAs増倍抑止層8−6(層厚0.05μm)と、p型Al(0.2)Ga(0.8)As電界緩和層8−7と、第1p型In(0.1)Ga(0.9)As光吸収層8−8(層厚0.2μm)と、第2p型In(0.1)Ga(0.9)As光吸収層8−9(層厚0.1μm)と、p型Al(0.12)Ga(0.88)As中間屈折率層8−10(層厚0.5μm)と、p型Al(0.2)Ga(0.8)Asバッファ層8−11(層厚1μm)と、p型GaAsコンタクト層8−12(層厚0.2μm)と、からなる。
これらの各層は結晶成長装置により形成される。
上記層構造を元に、導波路型APDを構成する。導波路型APDは実施例2と同様な図7の構造をとる。
以下、本実施例に係る導波路型APDの製造方法を説明する。
先ず、ウェットエッチングやドライエッチング(RIE等)を用いて、長さ20μm、幅4μm、高さ4乃至5μmの第1メサを形成する。この第1メサの周囲にn型コンタクト電極を形成するための領域を残してウェット又はドライエッチングを用いて高さ2乃至3μm程度の第2メサを形成する。
この場合、第1メサと第2メサとのメサ総面積はpn接合面積と等しく、おおよそ80平方μmとなっている。
次いで、ポリイミド又は窒化膜を用いてパッシベーション膜を形成する。
次いで、p型コンタクト層の上面及びn型層が露出するメサ上面にコンタクト電極を形成する。
Ti/Pt/Auからなるコンタクト電極を、n電極及びp電極を覆うように形成する。n電極及びp電極はコプレーナ線路もしくはマイクロストリップラインまたは両者を組み合わせて接続する形状を持つものとする。
この場合、素子を形成した基板裏面にグラウンドを構成する電極を形成する。
このデバイスの特性を評価したところ、ブレークダウン電圧は10Vで増倍暗電流は0.1μAであった。
量子効率は波長依存性を持つが、最大で50%を得た。受光可能な波長は0.8μm以下の領域であった。最大応答周波数は50Ω負荷で36GHzであり、GB積は最大330GHzを得た。特に、増倍率M=2乃至8での周波数応答は36GHz以上を維持していた。
本実施例に係る半導体受光素子をプリアンプICと接続して光受信機を構成する。
この光受信機を用いると、波長0.4μmから0.8μmの10GHz以上の高速変調信号を高感度で受信することが可能となる。これは、例えば、プラスチックファイバーを用いた光通信などで用いられる、可視光乃至赤外光を使った通信の受光素子として有効である。
本実施例は第三の実施の形態に対応するものである。
図9は実施例4に係る半導体受光素子の層構造の図である。本実施例に係る半導体受光素子はAPDとして構成されている。
実施例4に係るAPDは、SI型インジウム燐(InP)基板9−1と、SI型インジウム燐(InP)基板9−1上にこの順番で形成されたn型InPバッファ層9−2(層厚2μm)と、n型InAlGaAs中間屈折率層9−3(0.5μm)と、n型In(0.2)Al(0.8)As増倍抑止層9−4(層厚0.05μm)と、In(0.4)Al(0.6)As増倍層9−5(層厚0.05μm)と、p型In(0.2)Al(0.8)As増倍抑止層兼電界緩和層9−6(層厚0.05μm)と、p型InAlGaAs電界緩和層9−7(層厚0.05μm)と、第1p型InGaAs光吸収層9−8(層厚0.4μm)と、第2p型InGaAs光吸収層9−9(層厚0.1μm)と、p型InAlGaAs中間屈折率層9−10(層厚0.5μm)と、p型InPバッファ層9−11(層厚2μm)と、p型InGaAsコンタクト層9−12(層厚0.5μm)と、からなる。
これらの各層は結晶成長装置を用いて形成される。
本実施例では、この構造を用いて、実施例2を説明する図7に示すような導波路型のAPDを構成する。
以下、本実施例に係る導波路型APDの製造方法を説明する。
先ず、ウェットエッチング(ブロム系等)やドライエッチング(RIE等)を用いて、長さ10μm、幅5μm、高さ4乃至5μmの第1メサを形成する。
この第1メサ及び長辺に隣接してn型コンタクト電極を形成するための領域を残して、ウェット又はドライエッチングを用いて、高さ2乃至3μm程度の第2メサを形成する。
この場合、第1メサと第2メサとのメサ総面積がpn接合面積と等しく、おおよそ50平方μmとなっている。
次いで、ポリイミド又は窒化膜を用いてパッシベーション膜を形成する。
次いで、p型コンタクト層の上面及びn型層が露出するメサ上面にコンタクト電極を形成する。
Ti/Pt/Auからなるコンタクト電極を、n電極及びp電極を覆うように形成する。n電極及びp電極はコプレーナ線路もしくはマイクロストリップラインまたは両者を組み合わせて接続する形状を持つものとする。
この場合、素子を形成した基板裏面にグラウンドを構成する電極を形成する。
この場合、素子を形成した基板裏面にグラウンドを構成する電極を形成する。
このデバイスの特性を評価したところ、ブレークダウン電圧は12Vであり、増倍暗電流は0.5μAであった。量子効率は70%を得た。最大応答周波数は50Ω負荷で40GHzであり、GB積は最大250GHzを得た。特に、増倍率M=2乃至5における周波数応答は40GHz以上を維持していた。
本実施例に係る導波路型APDと100Ωのトランス・インピーダンスを持つプリアンプとを接続して周波数特性を評価したところ、帯域40GHzを得た。
また、本実施例に係る導波路型APD及びプリアンプを用いて受信機を構成し、40Gb/sのビットレートにおいて受信感度を評価したところ、23段の疑似ランダム信号を使った場合にビットエラーレート(BER)1×10-9を与える光強度は−12dBmであった。これは、40Gb/s用としては、高感度な光受信機である。
このAPD受信機を用いると、40Gb/sの伝送路を構成する際に、APD受信機の前段に配置する光プリアンプの増幅量を削減でき、低消費電力な光受信機を構成することが可能である。
また、伝送距離が1乃至10km以内のような場合、伝送損失は0.2乃至5dB以内と見積もられるため、送信光出力を0乃至3dBm程度に設定することにより、光アンプを省略した光受信機により光信号を受信することが可能となる。
本発明の第1の実施の形態に係る半導体受光素子における層構造を示す説明図である。
増倍層に適用可能なIn(x)Al(1−x)Asの組成を示すグラフである。
本発明の第2の実施の形態に係る半導体受光素子の構造(図3(A))と従来の半導体受光素子の構造(図3(B))とを示す説明図である。
実施例1に係る半導体受光素子の層構造を示す説明図である。
実施例1に係る半導体受光素子の構造を示す断面図である。
実施例2に係る半導体受光素子の層構造を示す説明図である。
実施例2に係る半導体受光素子の構造を示す断面図である。
実施例3に係る半導体受光素子の構造を示す断面図である。
実施例4に係る半導体受光素子の構造を示す断面図である。
従来のSAM型APDの層構造を示す説明図である。
従来のAPD受信機の構成を示す概略図である。
光プリアンプを用いた従来の光受信機のブロック図である。
従来のSAM型APDの電界分布の説明図である。
符号の説明
1−1 半導体基板
1−2 n型バッファ層
1−3 薄膜増倍層
1−4 電界緩和層
1−5 p型光吸収層1
1−6 p型光吸収層2
1−7 p型バッファ層
1−8 p型コンタクト層
2−1 (1−x)=−0.3log10(dm)+0.18
2−2 薄膜増倍層として適用可能なInAlAsの組成範囲
3−01 p型コンタクト層
3−02 p型バッファ層
3−03 p+光吸収層
3−04 p-光吸収層
3−05 電界緩和層
3−06 増倍層
3−07 n型バッファ層
3−08 基板
3−09 p型コンタクト層
3−10 p型バッファ層
3−11 p+型光吸収層
3−12 p-型光吸収層
3−13 電界緩和層
3−14 増倍抑止層
3−15 増倍層
3−16 増倍抑止層
3−17 n型バッファ層
3−18 基板
4−1 n型InP基板
4−2 n型InPバッファ層
4−3 n型InAlAsバッファ層
4−4 n型In(0.4)Al(0.6)Asバッファ層
4−5 In(0.4)Al(0.6)As増倍層
4−6 第1p型In(0.4)Al(0.6)As電界緩和層
4−7 第2p型InAlGaAs電界緩和層
4−8 第1p型InGaAs光吸収層
4−9 第2p型InGaAs光吸収層
4−10 p型InP層
4−11 p型InGaAsコンタクト層
5−1 信号光
5−2 反射防止膜
5−3 InP基板
5−4 APD層構造
5−5 n型コンタクト電極
5−6 p型コンタクト電極
5−7 p電極
5−8 n電極
6−1 SI型InP基板
6−2 n型InPバッファ層
6−3 n型InAlGaAs中間屈折率層
6−4 n型In(0.4)Al(0.6)Asバッファ層
6−5 In(0.4)Al(0.6)As増倍層
6−6 第1p型In(0.4)Al(0.6)As電界緩和層
6−7 第2p型InAlGaAs電界緩和層
6−8 第1p型InGaAs光吸収層
6−9 第2p型InGaAs光吸収層
6−10 p型InAlGaAs中間屈折率層
6−11 p型InPバッファ層
6−12 p型InGaAsコンタクト層
7−1 信号光
7−2 APDメサ
7−3 n電極メサ
7−4 n電極
7−5 p電極
7−6 反射防止膜
8−1 GaAs基板
8−2 n型Al(0.2)Ga(0.8)Asバッファ層
8−3 n型Al(0.12)Ga(0.88)As中間屈折率層
8−4 AlAs増倍抑止層
8−5 Al(0.2)Ga(0.8)As増倍層
8−6 AlAs増倍抑止層
8−7 p型Al(0.2)Ga(0.8)As電界緩和層
8−8 第1p型In(0.1)Ga(0.9)As光吸収層
8−9 第2p型In(0.1)Ga(0.9)As光吸収層
8−10 p型Al(0.12)Ga(0.88)As中間屈折率層
8−11 p型Al(0.2)Ga(0.8)Asバッファ層
8−12 p型GaAsコンタクト層
9−1 SI型InP基板
9−2 n型InPバッファ層
9−3 n型InAlGaAs中間屈折率層
9−4 n型In(0.2)Al(0.8)As増倍抑止層
9−5 In(0.4)Al(0.6)As増倍層
9−6 p型In(0.2)Al(0.8)As増倍抑止層
9−7 p型InAlGaAs電界緩和層
9−8 第1p型InGaAs光吸収層
9−9 第2p型InGaAs光吸収層
9−10 p型InAlGaAs中間屈折率層
9−11 p型InPバッファ層
9−12 p型InGaAsコンタクト層
10−1 半導体基板
10−2 n型バッファ層
10−3 増倍層
10−4 電界緩和層
10−5 第1p型光吸収層
10−6 第2p型光吸収層
10−7 p型バッファ層
10−8 p型コンタクト層
11−1 光ファイバ
11−2 レンズ
11−3 APD
11−4 プリアンプ
11−5 MSL
11−6 高周波コネクタ
11−7 端子
12−1 光ファイバ
12−2 光信号
12−3 光プリアンプ
12−4 PIN−PD光受信機
12−5 電気信号
12−6 光プリアンプ付きで構成する光受信機
13−1 p+層
13−2 光吸収層
13−3 電界緩和層
13−4 増倍層
13−5 n+層
13−6 実効増倍層幅