本件出願は、コピー機等の電子写真現像装置で用いるトナーと併用される電子写真用フェライトキャリアコア材の品質測定方法に関する。
電子写真用フェライトキャリアコア材は、略球形に代表される形状のフェライト粒子であり、一般的には、フェライト粒子が集合したフェライト粉としての概念が適用される。従って、その品質評価には、粉体に適用される評価方法が広く適用されてきた。
例えば、特許文献1には、キャリア飛散を防止し、高品位な画質が得ることのできる電子写真現像剤用キャリア及び該キャリアを用いた現像剤の提供を目的として、球状磁性キャリア芯材の体積平均粒径が25〜45μm、キャリア粒子の平均空隙径が10〜20μm、体積粒度分布測定による粒径22μm以下が1%未満、磁場1KOeにおける磁化が67〜88emu/g、飛散物と本体との磁化の差が磁場1KOeにおいて10emu/g以下であることを特徴とする電子写真現像剤用キャリアを採用することが明記されている。即ち、キャリア飛散を防止し、高品位な画質が得ることのできる電子写真現像剤用キャリアの特定に、体積粒度分布測定(体積平均粒径)、平均空隙径、磁化特性の各特性を用いて電子写真現像剤用キャリアの特定を行っている。
また、特許文献2では、現像機内及びスリーブ上での流動性が良好で、キャリア付着、トナー飛散、カブリがなく、高画像濃度、細線やドットの再現性等に優れた高画質が長期にわたって達成できる電子写真現像剤用キャリアが開示されている。この電子写真現像剤用キャリアは、「F1=AD×FR」で示される流動性指数(F1)が63〜75sec/(50・cm3)、及び「F2=AD×Hc」で示される流動性指数(F2)が30〜100Oe・g/cm3であることを特徴とする電子写真現像剤用キャリアを採用している。また、3000Oeの印加磁場における飽和磁化が20〜45emu/gであることも好ましいとしている。なお、特許文献2において、ADは見掛け密度(g/cm3)、FRは流動度(sec/50g)、Hc(Oe)は保磁力を示している。即ち、特許文献2では、流動性指数、見掛け密度、流動度、保磁力、飽和磁化の各要素を電子写真現像剤用キャリアの特定に用いていると言える。
更に、特許文献3は、低抵抗化され、かつ高比表面積であり、低比重で長寿命化された不定形フェライトキャリアコア材及び該フェライトキャリアコア材を用いることによって、トナー飛散が防止され、高画像濃度で、高速化及びカラー化に対応できる電子写真現像剤の提供を目的としている。この目的を達成するため、粒子形状が不定形であり、40個数%以上がロック型氷砂糖形状及び/又は牡蠣殻形状の粒子であり、形状係数(SF−1=R2/S×π/4×100(Rは最大長、Sは面積をそれぞれ示す))が140〜250、その分布幅(δ)が60以下であることを特徴とする不定形フェライトキャリアコア材を採用している。そして、その他の特定因子として、見掛け密度、比表面積、平均粒径、飽和磁化、抵抗の各要素の最適な範囲を明示している。即ち、特許文献3では、これらの全ての特定因子を電子写真現像剤用キャリアの特定のために用いていると言える。
以上の述べてきたように、良好な品質の電子写真現像剤用フェライトキャリアコア材を特定するためには、上述のような特定因子を使用することが一般的に行われてきた。そして、総じて、良好な結果を残してきた。
特開2002−296846号公報
特開2002−357930号公報
特開2006−235460号公報
しかしながら、それぞれのフェライトキャリアコア材が、各特許文献の中で開示された特性の範囲に含まれても、目的とした品質を得られない場合もあるのが現実である。即ち、工業製品である限り、一定のレベルでの品質バラツキがあるのが通常だからである。
例えば、電子顕微鏡観察により、電子写真現像剤用フェライトキャリアコア材の粒子の表面の状態を観察すると、明らかに表面状態が異なる2種類の製品があると仮定する。この場合にも、特許文献1で用いた特定因子である体積粒度分布測定(体積平均粒径)、平均空隙径、磁化特性の各特性においては、殆ど一致する場合がある。そして、係る場合には、特許文献1で目的としたキャリア飛散を防止し、高品位な画質が得るという目的を達成できない製品が存在し、製品バラツキとして顕在化することになる。
また、例えば、電子写真用フェライトキャリアコア材の走査型電子顕微鏡観察像から判断できる粒子の表面状態と、BET比表面積の測定結果から判断できる粒子の表面状態とが一致しないという現実がある。ここで言う、BET比表面積は、電子写真用フェライトキャリアコア材の表面状態の評価指標として多用される。ところが、粒子の粒径が小さくなるほど、粒径の依存性が強くなり、大きな値が得られる。一方、電子写真用フェライトキャリアコア材粒子の内包された気泡、空隙(完全に表面とつながっていないと考えられる部分)の測定は不可能で、電子写真用フェライトキャリアコア材のバルク部分の備えるポーラスの状況を示す指標にはならないと言える。そもそも、BET比表面積は、1m2/g以上のものを測定するためのものであり、コア材のような比較的比表面積が小さい場合の粒子を測定できるだけの精度は十分ではない。また、レーザー回折式散乱分析法による体積平均粒径(D50)の値も、一定の体積累積粒径の粒度分布の中での平均値であり、粒度分布の測定精度によって、大きく変動するものである。これに対して、走査型電子顕微鏡観察像又はその画像解析法では、1粒子ごとの表面状態は理解できても、粉体を構成する粒子全体として、どの程度の表面性を持った電子写真用フェライトキャリアコア材であるかという判断ができないのが実状である。
以上のように、上記各特許文献の使用していたフェライトキャリアコア材の特定因子に加えて、より確実にフェライトキャリアコア材の備える粉体特性を、より正確に捉え得ることのできる特定因子を探し、使用することが望まれてきた。
そこで、本件発明者等が、鋭意研究した結果、従来の電子写真現像剤用フェライトキャリアコア材の評価方法又は特定因子は、当該電子写真現像剤用フェライトキャリアコア材の全体としての評価であると考えた。その結果、電子写真現像剤用フェライトキャリアコア材の粒子の一粒子ごとの状態と粒子の粉体としての状態とを分離して考ることができれば、電子写真現像剤用フェライトキャリアコア材の製品バラツキを減少できると考えた。その結果、本件出願に係る電子写真用フェライトキャリアコア材の品質測定法に想到した。以下、本件発明に関して述べる。
本件出願に係る電子写真用フェライトキャリアコア材の品質測定法は、交流抵抗測定法を用い、当該電子写真用フェライトキャリアコア材のインピーダンス測定を行い、X軸に実数インピーダンス(Z’)、Y軸に虚数インピーダンス(Z’’)を配したナイキスト線図(Cole−Coleプロット)を得て、このナイキスト線図を用いて電子写真用フェライトキャリアコア材粒子の特性を評価することを特徴としたものである。
本件出願に係る電子写真用フェライトキャリアコア材の品質測定法において、前記交流抵抗測定法で印加する周波数0.01Hz〜1MHzの範囲で変化させてナイキスト線図(Cole−Coleプロット)を得ることが好ましい。
本件出願に係る電子写真用フェライトキャリアコア材の品質測定法において、前記ナイキスト線図から得られるパラメータを用いて電子写真用フェライトキャリアコア材粒子の一粒子ごとの状態を評価することがこのましい。
本件出願に係る電子写真用フェライトキャリアコア材の品質測定法において、前記キャリア粒子を交流抵抗測定法で、後述する数3に示す等価回路でもってインピーダンス測定したときに得られる各交流抵抗値(定数を含む)である、|Rs|、Rp1、CPE−T1、CPE−P1、Rp2 、CPE−T2、CPE−P2の各値の1種又は2種以上の値を組み合わせて電子写真用フェライトキャリアコア材品質の判断を行う事が好ましい。
そして、本件出願に係る電子写真用フェライトキャリアコア材の品質測定法において、電子写真用フェライトキャリアコア材粒子の一粒子ごとの状態を評価するパラメータには、CPE−P1を主に用いることが好ましい。
本件出願に係る電子写真用フェライトキャリアコア材の品質測定法において、前記ナイキスト線図に現れる粒子の一粒子ごとの状態を表す時定数τ1と、粒子の粉体としての状態を表す時定数τ2との関係を用いて電子写真用フェライトキャリアコア材品質の判断を行う事が好ましい。
また、前記時定数には、粒子の表面付近の状態を表す時定数τ1がτ1=Rp1×(CPE−T1)、粒子の粉体としての状態を表す時定数τ2がτ2=Rp2×(CPE−T2)を用いる事が好ましい。
本件出願に係る電子写真用フェライトキャリアコア材の品質測定法は、交流抵抗測定法を用いることで、電子写真用フェライトキャリアコア材の粒子の一粒子ごとの状態と粒子の粉体としての状態との情報を同時且つ分離して取得することができる。従って、粒子の一粒子ごとの状態と粒子の粉体としての状態とを独自で判断する指標として用いることが出来る。その結果、上記各特許文献に示された特定因子と組み合わせて用いることで、電子写真用フェライトキャリアコア材を従来に無いレベルで選別可能とする。その結果、コピー機等の電子写真現像装置の装置毎の特性に合わせた電子写真用フェライトキャリアコア材の選別が可能となる。
以下、本件出願に係る電子写真用フェライトキャリアコア材の品質測定法の実施形態に関して述べる。本件出願に係る電子写真用フェライトキャリアコア材の品質測定法は、交流抵抗測定法を用い、当該電子写真用フェライトキャリアコア材のインピーダンス測定を行い、X軸に実数インピーダンス(Z’)、Y軸に虚数インピーダンス(Z’’)を配したナイキスト線図(Cole−Coleプロット)を得ることに始まる。
ここで最初に、本件出願の前記交流抵抗測定法で印加する周波数に関して述べておく。印加する周波数は、0.01Hz〜1MHzの範囲で変化させて、ナイキスト線図(Cole−Coleプロット)を得ることが好ましい。ナイキスト線図を作成し、それを用いて各応答成分を算出するにあたって、0.01Hz〜1MHzの広範囲に及ぶ周波数を選択使用することが好ましい。この測定するための印加周波数の値が、10Hz〜100kHzの範囲のように狭いと、必要なパラメータを精度良く算出することが困難になるからである。
最初に、交流抵抗測定法を用いた理由に関して説明する。電子写真用フェライトキャリアコア材は、酸化鉄を主成分とした粒子からなる粉体である。このような粉体に対して、直流電流を用いて直流抵抗を測定しても、その電子写真用フェライトキャリアコア材の組成と粒径の影響を受けるため、粒子の表面性の指標とはなり得ない。これに対して、交流抵抗測定法では、周波数を変化させながら、インピーダンスの測定が可能である。そして、このインピーダンス測定で得られる電気的な応答を調べることで可能になる。更に、具体的に言えば、試料(ここでは、電子写真用フェライトキャリアコア材である。)に高周波電場を印加したとき、緩和時間の小さい応答成分は電場の変化に対して良好な追随性を示す。一方、緩和時間の大きい応答成分は、電流が流れる前に逆の電場が印加されるため、電場の変化の追随することができない。この結果、緩和時間の小さい応答成分と緩和時間の大きい応答成分とを抽出する事が可能となる。
電子写真用フェライトキャリアコア材の場合には、緩和時間の小さい応答成分が電子写真用フェライトキャリアコア材の1粒子毎の情報を含む応答成分に相当し、緩和時間の大きい応答成分が電子写真用フェライトキャリアコア材の粉体としての情報を含むものに相当すると考えられる。図1には、当該電子写真用フェライトキャリアコア材のインピーダンス測定を行い、X軸に実数インピーダンス(Z’)、Y軸に虚数インピーダンス(Z’’)を配したナイキスト線図(Cole−Coleプロット)の一例を示す。この図1から分かるように、図1に2つの半円状のプロットの円弧がある。この各々の円弧が、電子写真用フェライトキャリアコア材の1粒子毎の情報を含む応答成分、電子写真用フェライトキャリアコア材の粉体としての情報を含む応答成分となる。一般的に考えれば、図1の矢印Aが粒子毎の情報を含む半円、矢印Bが粉体としての情報を含む半円と捉えることが出来る。しかしながら、電子写真用フェライトキャリアコア材粒子の形状、成分等の影響により、交流抵抗測定条件によっては一定しない。
図1に示すようなCole−Coleプロットから、直ぐに各々の電気的な応答が判断できれば問題ない。しかし、現実には、それぞれの応答成分の緩和時間を考慮して、応答成分の分離を行うことは容易ではない。そこで、フィッティング手法を用いてデータ解析する必要性が出てくる。従って、電子写真用フェライトキャリアコア材の交流抵抗測定を行う場合の等価回路を考える必要がある。一般的に、等価回路は、抵抗RとコンデンサCとを組み合わせた所謂RC回路として考えられる。このときCが、電場変化に対応する応答遅れを代用的に示すものなる。しかし、電子写真用フェライトキャリアコア材のインピーダンス測定の結果をみると、経験的に通常のRC 回路で等価回路を表わすことは困難と判断した。そこで、CをCole−Coleプロットの半円の歪みを表すCPE(Constant Phase Element)に拡張し、電子写真用フェライトキャリアコア材は、粒子表面のみに電荷がたまる金属ではなく、金属と比べて抵抗が高く粒子全体に電荷がたまるので、誘電体と同様に取り扱う事が好ましいと判断した。その結果、以下の数3に示す等価回路を採用した。
但し、Rsは算出時の誤差を小さくするための仮想的な抵抗(電極表面・静電気等の影響を考慮した抵抗)であり、正負いずれの値を採りうる。ここで、CPE−Tは静電容量(F)、CPE−Pをある状態からのずれの程度を表す指数(無次元)としたとき、CPE1とCPE2とのそれぞれのインピーダンスZCPE1及びZCPE2とは、以下の数4に示すように表せる。ここでjは複素数を、ωは角速度を表わす。
本件出願に係る電子写真用フェライトキャリアコア材の品質測定法は、数3に示す等価回路を前提として、インピーダンス測定したときに得られる各交流抵抗値(定数を含む)を電子写真用フェライトキャリアコア材の品質測定に用いるのである。即ち、測定により、|Rs|、Rp1、CPE−T1、CPE−P1、Rp2、CPE−T2、CPE−P2の各値が得られる。そして、その1種又は2種以上の値を組み合わせて電子写真用フェライトキャリアコア材品質の判断を行う。
例えば、このインピーダンス測定から得られる電気的な特性は、Rp1,CPE−T1に含まれている。また、電子写真用フェライトキャリアコア材の一粒子ごとの状態に関する情報を示すと考えられるCPE−P1は、単位の無い無次元量であるため電子写真用フェライトキャリアコア材の組成による影響をある程度受けるとしても、粒径及び抵抗を無視して、電子写真用フェライトキャリアコア材粒子の一粒子ごとの状態(コア材粒子内部に存在する空隙等を含めて考えることも可能)の客観的評価指標とすることができる可能性が高い。
そして、電子写真用フェライトキャリアコア材は、鉄酸化物を主成分とするため、金属酸化物として取り扱える可能性が高い。そうであれば、電子写真用フェライトキャリアコア材の組成を無視して、電子写真用フェライトキャリアコア材の一粒子ごとの状態を評価できる可能性が高くなる。このようにして、インピーダンス測定から得られる値を、種々の粉体特性と照らし合わせて判断すると、従来の評価方法では見いだし得なかった電子写真用フェライトキャリアコア材の粉体又は粒子としての評価を行うことが出来る。
また、一般的に誤差成分として考えられがちな、|Rs|の値も、ある種の電子写真用フェライトキャリアコア材の場合には、一定の粉体特性の指標として使用できる場合がある。この概念は、全ての電子写真用フェライトキャリアコア材に適用できるものでもなく、且つ、交流抵抗測定の条件によっても変化する。特に、本件出願に係る電子写真用フェライトキャリアコア材の品質測定法は、測定対象物である電子写真用フェライトキャリアコア材の特質、測定対象項目に応じて、機動的に最適の測定条件を定めるべきである。即ち、上述の等価回路を用いた交流抵抗測定で得られる各値は、電子写真用フェライトキャリアコア材のいかなる粉体特性との相関があるかを、測定対象物である電子写真用フェライトキャリアコア材の種類毎に判断すべきである。
更に、ここで言う時定数のような緩和時間を評価し積極的に使用することも好ましい。本件出願に係る電子写真用フェライトキャリアコア材の品質測定法において、前記ナイキスト線図には、粒子の一粒子ごとの状態を表す時定数τ1と、粒子の粉体としての状態を表す時定数τ2とを分離して表せる場合がある。係る場合には、これらの時定数の関係を用いて電子写真用フェライトキャリアコア材品質の判断を行う事が好ましい。この時定数とは、図1に示すようなCole−Coleプロットの半円の頂点の周波数f=1/(2πf)の関係が成立し、数3の等価回路を前提とすると、粒子の表面付近の状態を表す時定数τ1がτ1=Rp1×(CPE−T1)、粒子の粉体としての状態を表す時定数τ2がτ2=Rp2×(CPE−T2)を用いる事になる。この時定数は、電子写真用フェライトキャリアコア材に電場を時間的に変化させながら印加したときの緩和時間を捉えたものであり、電子写真用フェライトキャリアコア材の電気的特性を顕著に示す指標として使用できる。
以下の実施例では、交流抵抗測定法を用いた電子写真用フェライトキャリアコア材の測定結果の一例を示す。
この実施例では、交流抵抗測定法で得られた値と、従来の測定値であるBET比表面積との相関関係の有無に関して述べる。交流抵抗測定には、図2に示す基本構成を備えるソーラトロン社(英国)製の1260型周波数応答解析装置(FRA)2を用いて、1296型誘電体インターフェース3を接続して使用した。そして、図2のように、1296型誘電体インターフェース3から、当該交流抵抗測定装置のシールドボックス4の中のサンプルセル5の入力電極、出力電極、ガード電極の各電極に結線した。このとき、電子写真用フェライトキャリアコア材サンプル1(図2において位置を破線で示唆)がサンプルセル5に入っている。このときの電子写真用フェライトキャリアコア材は、マンガンとリチウムとを一定量含有したMn−Liフェライトキャリアコア材である。なお、このときの測定データは、図2のパーソナルコンピュータ6に取り込んだ。
そして、測定データは、米国ナショナルインスツルメント社製 GP−IBインターフェースを介して、1260型周波数応答解析装置(FRA)2から自動的にパーソナルコンピュータ6内にデータを取り込むようにした。このとき、測定装置はSMaRTソフトウエアを用いて制御した。
更に、測定条件は、次の通りである。交流電圧は実効値5Vを印加し、周波数は1MHzから0.01Hzまでログスケールで1桁の間で6点ずつスイープさせた。そして、サンプルセルは静電容量2pFで、サンプル容量1ccの東陽テクニカ製LF−21液体電極用を使用した。また、サンプルの電子写真用フェライトキャリアコア材は、重量(g)=「サンプルの見かけ密度(g/cc)」×1ccとなるように秤量し、サンプルセルに入れて測定するようにした。
以上のようにして、電子写真用フェライトキャリアコア材サンプルを測定した後、英国ソーラトロン社製解析ソフトウエアZVIEWを用いて評価した。その評価内容を具体的に言えば、図3において示したように|Rs|,Rp1,CPE1,Rp2,CPE2で構成される等価回路を設定し、得られた測定データを数値演算(フィッティング)することにより、|Rs|、Rp1、CPE−T1、CPE−P1、Rp2、CPE−T2、CPE−P2を求めた。このとき、Cole−Coleプロットで、円弧から大きく外れたサンプルについては、周波数を区切ることにより、|Rs|、Rp1、CPE−T1、CPE−P1、Rp2、CPE−T2、CPE−P2のそれぞれを、当該ソフトウエアZVIEWの機能の一つである「instant fit」を行い各パラメーターの値を求めた。この結果を、図3及び図4に各種電子写真用フェライトキャリアコア材サンプルの評価結果として示した。なお、試料には、BET比表面積及び体積平均粒径の測定を行い、且つ、電子顕微鏡観察等も加えて、ほぼ確実なBET比表面積及び体積平均粒径の測定が出来ていると考えられる7つの試料(試料1〜試料7)を抽出して使用した。
比較例
この比較例は、上記実施例1との対比用に用いる。前記試料1〜試料7の各電子写真用フェライトキャリアコア材サンプルに対して、50V及び1000Vの直流電圧を印加したときの抵抗値(Ω)を測定した。このときの測定方法は、次のとおりである。即ち、電極間間隔6.5mmとして、非磁性の平行平板電極(10mm×40mm)を対向させ、その間に、試料200mgを秤量して充填する。そして、磁石(表面磁束密度:1500Gauss、電極に接する磁石の面積:10mm×30mm)を平行平板電極に付けることにより電極間に試料を保持させ、50V及び1000Vの電圧を順に印加し、それぞれの印加電圧における抵抗を絶縁抵抗計(東亜ディケーケー株式会社製 SM−8210)にて測定した。なお、測定は、室温25℃、湿度55%に制御された恒温恒湿室内で行った。この結果を、図3及び図4に各種電子写真用フェライトキャリアコア材サンプルの評価結果として、実施例と対比可能なように示した。
実施例と比較例との対比: 最初に実施例の状況に関して述べる。ここで、図3として示した比較表を見る。この図3として示した表は、BET法で測定した比表面積と交流抵抗測定値との相関を見るため、BET比表面積の測定値を測定値順に並べている。そして、このときの体積平均粒径(D50)の値を併記している。この結果、BET比表面積と、交流抵抗測定で得られた|Rs|の値と、BET比表面積との値とが良好な相関性を示すことが理解できる。このとき体積平均粒径の値の並び方を確認すると、|Rs|の値との相関性は見られない。即ち、交流抵抗測定で得られた|Rs|の値をみれば、粒径に依存することなく、電子写真用フェライトキャリアコア材粒子の一粒子ごとの状態の推測が付き、BET比表面積との相関が採れることが分かる。
次に、図4として示した比較表を見る。この図4として示した表は、体積平均粒径(D50)と交流抵抗測定値との相関を見るため、体積平均粒径(D50)の測定値を測定値順に並べている。そして、このときのBET比表面積の値を併記している。ここから理解できるのは、交流抵抗測定で得られたCPE−P2、R2の各値と、体積平均粒径(D50)との値とが良好な相関性を示すことである。即ち、交流抵抗測定で得られたCPE−P2、R2の各値をみれば、BET比表面積に依存することなく、電子写真用フェライトキャリアコア材粒子の粉体としての状態の推測が付き、体積平均粒径(D50)との相関が採れることが分かる。
ここで、図3と図4とに示した比較例の直流抵抗値と、BET比表面積、体積平均粒径(D50)との相関をみるに、いずれの特性とも直流抵抗自体の相関は認められない。従って、電子写真用フェライトキャリアコア材粉の粉体特性の評価に、直流抵抗法を用いることは困難であり、交流抵抗測定法を用いなければならないことが明らかとなる。
この実施例では、従来の測定値であるBET比表面積の値では表し得ない電子写真用フェライトキャリアコア材粒子の一粒子ごとの状態を、交流抵抗測定により得られる値が示すことを以下に述べる。
ここでは、体積平均粒径(D50)の値が35μmで、BET比表面積が0.08m2/gの試料Aを基準試料として用いた。この試料Aの走査型電子顕微鏡観察像(倍率450)を、図5にしめす。このときの試料AのCPE−P1の値は、0.89であった。
これに対し、体積平均粒径(D50)の値が等しく、且つ、BET比表面積(0.28m2/g)の値が全く異なる試料Bを準備した。この試料Bの走査型電子顕微鏡観察像(倍率450)を、図6にしめす。このときの試料BのCPE−P1の値は、0.88であった。
更に、体積平均粒径(D50)の値が等しく、且つ、試料Aに近似したBET比表面積(0.07m2/g)の値を備える試料Cを準備した。この試料Cの走査型電子顕微鏡観察像(倍率450)を、図7にしめす。このときの試料CのCPE−P1の値は、0.96であった。
ここで述べた内容を考えるに、試料AのBET比表面積は0.08m2/g、試料Bでは0.28m2/gであり、大きな差がある。しかし、試料Aと試料BとのCPE−P1の値は、0.88と0.89と極めて近似したものになっている。ここで、双方の走査型電子顕微鏡観察像(図5、図6)を対比すると、電子写真用フェライトキャリアコア材粒子を構成する粒界の大きさが、ほぼ同一であり、CPE−P1の値が、電子写真用フェライトキャリアコア材の一粒子ごとの状態を表わしていると言える。
更に、試料AのBET比表面積は0.08m2/g、試料Cでは0.07m2/gであり、その差は殆ど無いと言える。しかしながら、試料Aと試料CとのCPE−P1の値を対比すると、試料AのCPE−P1の値は0.89、試料CのCPE−P1の値は0.96であり、明瞭な差異が認められる。ここで、双方の走査型電子顕微鏡観察像(図5、図7)を対比すると、双方の電子写真用フェライトキャリアコア材粒子の一粒子ごとの状態が全く異なっていることが容易にわかる。即ち、BET比表面積が表し得なかった電子写真用フェライトキャリアコア材粒子の一粒子ごとの状態を、CPE−P1の値を使用すれば表せることが明らかと言える。
本件出願に係る電子写真用フェライトキャリアコア材の品質測定法は、交流抵抗測定法を用いることで、従来の粉体特性の代替え指標としての種々の交流抵抗値を得ることが出来る。その結果、電子写真用フェライトキャリアコア材粒子の粒子の一粒子ごとの状態と粒子の粉体としての状態との情報を同時且つ分離して取得することも可能になる。従って、粒子の一粒子ごとの状態と粒子の粉体としての状態とを、一回の分析によって、判断可能な複数の情報が得られるようになる。この結果、複数の粉体特性を測定するための、複数の分析手段、測定手段を用いる必要がなくなるという利点がある。
電子写真用フェライトキャリアコア材粉体のインピーダンス測定で得られるナイキスト線図(Cole−Coleプロット)の一例である。
交流抵抗測定を行う際の周波数応答解析装置の基本構成を示す概念図である。
実施例の交流抵抗測定値と比較例の直流抵抗値とのBET比表面積との相関関係を主体に対比した対比表である。
実施例の交流抵抗測定値と比較例の直流抵抗値との体積平均粒径(D50)との相関関係を主体に対比した対比表である。
電子写真用フェライトキャリアコア材粒子(試料A)の走査型電子顕微鏡観察像(倍率450)である。
電子写真用フェライトキャリアコア材粒子(試料B)の走査型電子顕微鏡観察像(倍率450)である。
電子写真用フェライトキャリアコア材粒子(試料C)の走査型電子顕微鏡観察像(倍率450)である。