本発明は、導電性物質を含む複合材であって、特に半導体よりも電気抵抗率が高い複合材の配合比を同定する方法に関する。
一般に、導体および半導体よりも電気抵抗率が高い複合材の配合比は、顕微鏡を用いた観察あるいは電気抵抗率の測定により同定されている。
顕微鏡を用いた観察は、配合比を測定する対象物の一部を切り出して、光学顕微鏡若しくは電子顕微鏡等の顕微鏡により観察される異種物質のコントラストの違いから配合比を同定する方法である。
また、電気抵抗率の測定は、4端子法若しくは体積抵抗法に代表される方法である(例えば、特許文献1を参照。)。この測定法は、予め既知の配合比を持つ標準サンプルの電気抵抗率を測定しておき、測定対象物の一部を切り出して、その表面に電極を接触させて測定した電気抵抗率を、標準サンプルの電気抵抗率と照合し、配合比を推定する方法である。
4端子法は、図20に示すように、測定対象物の一部60の表面に等間隔で4本の針状の電極61を接触せしめ、表面の接触抵抗を排除した条件にて体積抵抗率を求める方法である。一方、体積抵抗法は、図21に示すように、測定対象物の一部60の両面に、平板電極62,62を接触せしめ、体積抵抗率を求める方法である。
一方、コイルのインピーダンスの変化を利用して導体あるいは半導体の導電率を測定する方法が知られている。この方法は、渦電流法として、導電率の測定のみならず、金属の探傷にも広く利用されている。
特開2001−281280号公報(特許請求の範囲、要約書等)
しかし、上述のような従来の方法には、次のような問題がある。顕微鏡を用いた観察および電気抵抗率の測定を行う場合には、測定対象物を測定に供するために適切な大きさと形状に切り出す必要があり、前処理に多大な労力と時間が必要となる。
一方、上述の渦電流法は、1オーム・メートル以下の体積抵抗率を有する導体あるいは1〜100オーム・メートルの体積抵抗率を有する一般的な半導体を対象とする場合には適しているが、100オーム・メートル以上の体積抵抗率を有する材料の場合には、その体積抵抗率を正確に測定することはできない。特に、不導体に導体を混ぜた複合材の場合、不導体に対する導体の配合比が低い領域では、その配合比の同定は難しい。
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、測定対象物を破壊せずに、測定対象物の配合比を迅速かつ簡便に同定することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明は、複合材に含まれる導電性物質の配合比を同定する方法であって、当該配合比を同定する対象となる対象複合材に、所定周波数の交流を流す電極を接触させてキャパシタンスを測定する測定ステップと、既知の配合比を持つ複数の標準複合材に対して、測定ステップと同様のステップを行うことによって得られた既知の配合比とキャパシタンスとの相関関係に、対象複合材を用いて得られたキャパシタンスを照合して、対象複合材の配合比を同定する配合比同定ステップとを有する複合材の配合比同定法としている。
このように、インピーダンスアナライザを用いて、複合材のキャパシタンスを測定することによっても、配合比を同定することが可能である。複合材のキャパシタンスは、電極を複合材に接触させて調べることができるので、複合材を加工する必要がなく、非破壊にて測定を実現できる。また、キャパシタンスを測定する時間は1秒以内であるため、極めて短時間で配合比を求めることができる。また、キャパシタンスは、複合材に占める導電性物質の割合(配合比)に敏感に検出できるため、配合比が低い範囲にあっても同定可能である。
また、別の本発明は、標準複合材における導電性物質の占める割合を、標準複合材の全重量に対して7.5〜20.0重量部の範囲にある複合材の配合比同定法としている。
本発明では、既知の配合比を持つ標準複合材として種々の配合比を持つ複合材を適用できるが、導電性物質の占める割合が7.5以上20.0重量部以下の範囲にある標準複合材を用いる方がより好ましい。配合比と、上述のキャパシタンスとの間に、より良好な相関関係がみられるからである。
なお、以下の方法を採用することもできる。すなわち、複合材に含まれる導電性物質の配合比を同定する方法であって、当該配合比を同定する対象となる対象複合材に、コイル単独の共振周波数よりも低い励振周波数または高い励振周波数の交流にて励振されたコイルを接近させて、コイルのインピーダンスの変化を測定する測定ステップと、X軸およびY軸をそれぞれインピーダンスの抵抗成分およびリアクタンス成分とするXY座標にインピーダンスの変化をベクトルとして表すインピーダンス変化ベクトルにおいて、その抵抗成分の値をリアクタンス成分の値で除した第1の値およびリアクタンス成分である第2の値をそれぞれX座標値およびY座標値とする座標をXY座標上に表し、原点から当該座標までの距離を算出する距離算出ステップと、既知の配合比を持つ複数の標準複合材に対して、測定ステップおよび距離算出ステップと同様のステップを行うことによって得られた距離と既知の配合比との相関関係に、対象複合材を用いて算出された距離を照合して、対象複合材の配合比を同定する配合比同定ステップとを有する複合材の配合比同定法である。
このような同定法を採用し、未知の配合比を持つ複合材のインピーダンス特性を測定することにより、当該複合材の配合比を同定することができる。インピーダンスの変化はインピーダンスアナライザのコイルを複合材に接近させる動作で調べることができるので、複合材を加工する必要がなく、しかも非破壊にて測定を実現できる。また、インピーダンスの変化を測定する時間は1秒以内であるため、極めて短時間で配合比を求めることができる。また、インピーダンスの変化は、複合材に占める導電性物質の割合(配合比)に極めて敏感に検出できるため、配合比が0.1重量部以下であっても同定可能である。したがって、導電性物質の配合比が低い複合材であっても、その配合比を同定できることになる。
また、先の発明における低い励振周波数を、コイル単独の共振周波数よりも10〜20%低い周波数とする複合材の配合比同定法を採用することもできる。
コイル単独の共振周波数と測定に用いられる励振周波数との関係は、複合材の種類に依存する。ポリプロピレンにカーボンナノチューブを混ぜた複合材を用いる場合には、励振周波数をコイル単独の共振周波数よりも10〜20%程低い周波数を用いるのが好ましい。このような範囲の励振周波数を用いると、複合材に占めるカーボンナノチューブの配合比と、距離算出ステップにて得られる距離との間に、より良好な相関関係がみられる。
また、前述の高い励振周波数を、コイル単独の共振周波数よりも0.5〜10%高い周波数とする複合材の配合比同定法を採用することもできる。
ポリプロピレンにカーボンナノチューブを混ぜた複合材を用いる場合には、励振周波数をコイル単独の共振周波数よりも0.5〜10%程高い周波数を用いることもできる。このような範囲の励振周波数を用いると、複合材に占めるカーボンナノチューブの配合比と、距離算出ステップにて得られる距離との間に、より良好な相関関係がみられる。
また、複合材に含まれる導電性物質の配合比を同定する方法であって、当該配合比を同定する対象となる対象複合材に、コイル単独の共振周波数よりも高い励振周波数の交流にて励振されたコイルを接近させて、コイルのインピーダンスの変化を測定する測定ステップと、X軸およびY軸をそれぞれインピーダンスの抵抗成分およびリアクタンス成分とするXY座標に、インピーダンスの変化をベクトルとして表すインピーダンス変化ベクトルにおいて、その抵抗成分の値をリアクタンス成分の値で除した第1の値およびリアクタンス成分である第2の値をそれぞれX座標値およびY座標値とする座標をXY座標上に表し、原点と当該座標を結ぶ直線のX軸若しくはY軸に対する傾きを算出する傾き算出ステップと、既知の配合比を持つ複数の標準複合材に対して、測定ステップおよび傾き算出ステップと同様のステップを行うことによって得られた傾きと既知の配合比との相関関係に、対象複合材を用いて算出された傾きを照合して、対象複合材の配合比を同定する配合比同定ステップとを有する複合材の配合比同定法を採用することもできる。
このような同定法を採用し、未知の配合比を持つ複合材のインピーダンス特性を測定することにより、当該複合材の配合比を同定することができる。インピーダンスの変化はインピーダンスアナライザーのコイルを複合材に接近させる動作で調べることができるので、複合材を加工する必要がなく、しかも非破壊にて測定を実現できる。また、インピーダンスの変化を測定する時間は1秒以内であるため、極めて短時間で配合比を求めることができる。また、インピーダンスの変化は、複合材に占める導電性物質の割合(配合比)に極めて敏感に検出できるため、配合比が0.1重量部以下であっても、同定可能である。したがって、導電性物質の配合比が低い複合材であっても、その配合比を同定できることになる。
また、前述の高い励振周波数を、コイル単独の共振周波数よりも0.5〜10%高い周波数とする複合材の配合比同定法とすることもできる。
コイル単独の共振周波数と測定に用いられる励振周波数との関係は、複合材の種類に依存する。ポリプロピレンにカーボンナノチューブを混ぜた複合材を用いる場合には、励振周波数をコイル単独の共振周波数よりも0.5〜10%程高い周波数を用いるのが好ましい。このような範囲の励振周波数を用いると、複合材に占めるカーボンナノチューブの配合比と、傾き算出ステップにて得られる傾きとの間に、より良好な相関関係がみられる。
また、前述の標準複合材における導電性物質の占める割合を、標準複合材の全重量に対して20.0重量部以下とする複合材の配合比同定法とすることもできる。
本発明では、既知の配合比を持つ標準複合材として種々の配合比を持つ複合材を適用できるが、導電性物質の占める割合が0より大きく20.0重量部以下の範囲にある標準複合材を用いる方がより好ましい。配合比と、上述の距離若しくは上述の傾きとの間に、より良好な相関関係がみられるからである。
また、インピーダンスの変化に基づいて配合比を同定する方法(これを、インピーダンス法と称する。)と、キャパシタンスに基づいて配合比を同定する方法(これを、キャパシタンス法と称する。)とを組み合わせることによって、対象複合材の配合比をより正確に同定することも可能である。インピーダンス法は、複合材に占める導電性物質の配合比が特に20.0重量部以下の複合材に対してより好適に採用できる方法である。一方、キャパシタンス法は、複合材に占める導電性物質の配合比が特に7.5以上20.0重量部以下の複合材に対してより好適に採用できる方法である。このため、例えば、配合比0.1以上7.5重量部以下の範囲にある標準複合材を用いてインピーダンス法による相関関係を求め、配合比7.5より大きく20.0重量部以下の範囲にある標準複合材を用いてキャパシタンス法による相関関係を求めておくと、対象複合材の配合比が0.1以上20.0重量部の範囲にあれば、インピーダンス法若しくはキャパシタンス法のいずれかに基づくデータによって正確な配合比を調べることができる。
本発明によれば、測定対象物を破壊せずに、測定対象物の配合比を迅速かつ簡便に同定することができる。
以下、本発明に係る複合材の配合比同定法の参考形態および実施の形態について説明する。
(参考形態)
まず、インピーダンスの変化を利用した配合比の同定方法について説明する。図1は、複合材の配合比同定法に使用する装置を示す図である。
この装置は、インピーダンスアナライザ1と、これに接続されるパーソナルコンピュータ(以後、「パソコン」という。)2とから構成される。インピーダンスアナライザ1には、コイル3が備えられている。交流電源に接続されるコイル3を複合材4に接近させることによって、複合材4に接近させる前後におけるコイル3のインピーダンスの変化を測定することができる。
図2は、インピーダンスアナライザ1を用いてインピーダンスの変化を測定する原理を説明するための図である。
いま、周波数f(Hz)の交流i(A)によって励振されるコイル3に、コイル3を鎖交する磁束Φcが発生しているものとする。このコイル3を複合材4に接近させると、複合材4に、磁束Φcと鎖交する渦電流ie(A)が流れる。この渦電流ie(A)によって生成される磁束Φeにより、コイル3の磁束Φcが変化する。この結果、コイル3のインピーダンスが変化する。
図3は、複合材4にコイル3を接近させる前後におけるインピーダンスの変化を示す図である。横軸はインピーダンスの抵抗成分Rであり、縦軸はインピーダンスのリアクタンス成分ωLである(ω:角周波数、L:コイル3のインダクタンス)。
コイル3と配線から成る交流回路の場合、インピーダンスは、抵抗成分Rとリアクタンス成分ωLとをそれぞれX座標およびY座標とするXY平面座標上のベクトルで表すことができる。この場合、インピーダンスの大きさは、(R2+(ωL)2)1/2と表すことができる。図3に示すように、コイル3を複合材4に接近させることによって、複合材4に接近する前のコイル3のインピーダンスベクトルZがインピーダンスベクトルZeに変化すると、インピーダンスベクトルZeからインピーダンスベクトルZを引くことによって、複合材4にコイル3を接近させたことによって変化した分のインピーダンス変化ベクトルZcを求めることができる。
図4は、パソコン2の内部構造を示すブロック図である。
パソコン2は、インピーダンスアナライザ1にて測定したインピーダンスに関するデータを処理する役割を有しており、そのために必要なプログラムを格納し、それを実行する。パソコン2は、その本体の内部に、CPU(Central Processing Unit)10と、P−ROM(Programmable Read Only Memory)11と、RAM(Random Access Memory)12と、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)13と、HDD(Hard Disk Drive)14と、I/F(Interface)回路15と、ビデオ回路16とを備えている。これら10,11,12,13,14,15,16は、バス17によって接続され、互いに信号の送受信が可能となっている。
CPU10は、パソコン2で行う各種処理を統括的に制御する部分であり、P−ROM11内の制御プログラムに基づく各種制御を実行する。P−ROM11は、CPU10用の制御プログラムを格納する読み出し専用のメモリである。RAM12は、各種処理を行うにあたり、データまたはプログラムを読み書き可能に格納しておくメモリである。EEPROM13は、データを一時的に記憶しておく、電気的に消去可能なメモリである。
HDD14は、オペレーティングシステム(Operating System:OS)の他、各種プログラムを格納する部分である。HDD14は、インピーダンスアナライザ1によって測定したデータを受け取り、これをデータ処理するためのプログラムを格納している。
CPU10は、このプログラムを実行して、既知の配合比を持つ標準複合材について、インピーダンス変化ベクトルの抵抗成分の値をリアクタンス成分の値で除した第1の値およびリアクタンス成分の値である第2の値をそれぞれX軸およびY軸にとって表すXY座標上の座標から原点までの距離、および当該座標と原点とを結ぶ直線とX軸との傾きを求め、当該距離若しくは当該傾きと標準複合材の配合比との相関関係を求める処理を行う。
また、CPU10は、このプログラムを実行して、配合比を同定する対象となる対象複合材について、インピーダンス変化ベクトルの抵抗成分の値をリアクタンス成分の値で除した第1の値およびリアクタンス成分の値である第2の値をそれぞれX軸およびY軸にとって表すXY座標上の座標から原点までの距離、および当該座標と原点とを結ぶ直線とX軸との傾きを求め、先に求めた相関関係のデータと照合して、対象複合材の配合比を同定する処理を行う。
I/F回路15は、キーボードあるいはポインティングデバイス等の入力装置18とパソコン2本体との間のデータのインターフェイスとなる回路である。また、I/F回路15は、CD(Compact Disk)ドライブあるいはDVD(Digital Versatile Disk)ドライブといった各種のディスクドライブ19との間でデータのインターフェイスとなる回路である。また、ビデオ回路16は、ディスプレイ20に、演算結果等を表示するための回路である。
次に、標準複合材および対象複合材を用いた配合比同定法の流れについて説明する。
図5は、標準複合材の配合比と、インピーダンス変化ベクトルの抵抗成分の値をリアクタンス成分の値で除した第1の値およびリアクタンス成分の値である第2の値をそれぞれX軸およびY軸にとって表すXY座標上の座標から原点までの距離との相関関係を求めるまでの処理の流れを示すフローチャートである。
まず、既知の配合比を持つ複数種の標準複合材を試料として、その各々についてインピーダンスの変化を測定する(ステップS21:測定ステップ)。標準複合材は、マトリックスとなる不導体に導電性物質を混ぜたものである。例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエーテルエーテルケトン等をマトリックスとして、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、金属微粒子等の第2成分を混ぜた複合材を用いることができる。また、試料として用いる標準複合材の数は、2以上であれば、その数は限定されないが、5以上とする方が好ましい。
また、ここでは、コイル3を励振する交流の励振周波数を、コイル3単独の共振周波数よりも低い周波数としている。さらに、具体的には、励振周波数を、コイル3単独の共振周波数よりも10〜20%低い周波数としている。ただし、標準複合材の種類および導電性物質の量に応じて、励振周波数の値は任意に決定可能である。
インピーダンスの測定後、コイル3を標準複合材に接近させる前後で変化したインピーダンスをベクトルとして、パソコン2のディスプレイ20に表示する(ステップS22)。ただし、このインピーダンス変化ベクトルをディスプレイ20に表示しなくても、ベクトルのデータを生成するだけでも、ベクトル表示ステップに含まれる。
次に、コイル3を接近させる前後でインピーダンスの抵抗成分Rをリアクタンス成分ωLで除した値がどれだけ変化したかを示す値(第1の値:ΔR/ωL)と、コイル3を接近させる前後でインピーダンスのリアクタンス成分ωLがどれだけ変化したかを示す値(第2の値:ΔωL/ωL)を算出する(ステップS23)。
次に、図6に示すように、ΔR/ωLおよびΔωL/ωLをそれぞれX軸およびY軸にとって表すXY座標上に、各標準複合材を用いて得られた座標(ΔR/ωL,ΔωL/ωL)を表し、原点から当該座標までの距離を算出する(ステップS24:距離算出ステップ)。
次に、各標準複合材の配合比と、各標準複合材についてステップS24にて求めた距離との相関関係を表示する(ステップS25)。この相関関係を求めるステップは、ディスプレイ20にグラフ化して表示する場合も、表示しない場合も含む。
図7は、配合比を同定する対象となる対象複合材の配合比を同定するまでの処理の流れを示すフローチャートである。
まず、対象複合材についてインピーダンスの変化を測定する(ステップS31:測定ステップ)。対象複合材は、先に述べた標準複合材と同じマトリックスおよび第2成分を有する。
インピーダンスの測定後、コイル3を対象複合材に接近させる前後で変化したインピーダンスをベクトルとして、パソコン2のディスプレイ20に表示する(ステップS32)。
次に、コイル3を接近させる前後でインピーダンスの抵抗成分Rをリアクタンス成分ωLで除した値がどれだけ変化したかを示す値(第1の値:ΔR/ωL)と、コイル3を接近させる前後でインピーダンスのリアクタンス成分ωLがどれだけ変化したかを示す値(第2の値:ΔωL/ωL)を算出する(ステップS33)。
次に、図6に示したグラフと同様、ΔR/ωLおよびΔωL/ωLをそれぞれX軸およびY軸にとって表すXY座標上に、対象複合材を用いて得られた座標(ΔR/ωL,ΔωL/ωL)を表し、原点から当該座標までの距離を算出する(ステップS34:距離算出ステップ)。
次に、ステップS34にて求めた距離と、ステップS25にて求めた相関関係とを照合して、対象複合材の配合比を同定する(ステップS35:配合比同定ステップ)。
なお、図5および図7に示すフローチャートは、コイル3の励振周波数を、コイル3単独の共振周波数よりも低い周波数とした場合の処理の流れであるが、励振周波数を、コイル3単独の共振周波数よりも高い周波数とすることもできる。さらに、具体的には、励振周波数は、コイル3単独の共振周波数よりも0.5〜10%高い周波数とすることができる。ただし、標準複合材の種類に応じて、励振周波数の値は任意に決定可能である。
励振周波数をコイル3単独の共振周波数よりも高くする場合には、ステップS24において原点と座標とを結ぶ直線のX軸に対する傾きと、配合比との相関もみられる。したがって、ステップS24およびステップS34では、図6のグラフから傾きを算出し、ステップS35において、対象複合材を用いて得られた傾きを、標準複合材の傾きと配合比との相関関係と照合して、対象複合材の配合比を同定することができる。なお、ステップS24およびステップS34において、傾きと距離とを両方算出するようにしても良い。
(実施の形態)
次に、キャパシタンスを利用した配合比の同定方法について説明する。図8は、本発明の実施の形態に係る複合材の配合比同定法に使用する装置を示す図である。
この装置は、インピーダンスアナライザ1と、これに接続されるパソコン2とから構成される。インピーダンスアナライザ1には、2枚の電極40,40が接続されている。これらの電極40,40により複合材4をはさむことによって、複合材4のキャパシタンスを測定することができる。
本発明の実施の形態におけるパソコン2の構成は、本発明の参考形態におけるパソコン2の構成と同様の構成であるため、当該構成の説明は省略する。ただし、実施の形態におけるデータの処理方法は、参考形態のそれと異なるため、異なる処理の内容について説明する。
CPU10は、HDD14に格納されるプログラムを実行して、既知の配合比を持つ複数の標準複合材に対して、所定周波数の交流電源に接続された電極を接触させて測定したキャパシタンスと各標準複合材の配合比との相関関係を求める。また、CPU10は、配合比を同定する対象となる対象複合材に対して測定したキャパシタンスと先の相関関係とを照合して、配合比の同定を行う。
次に、標準複合材および対象複合材を用いた配合比同定法の流れについて説明する。
図9は、標準複合材の配合比とキャパシタンスとの相関関係を求めるまでの処理の流れを示すフローチャートである。
まず、既知の配合比を持つ複数種の標準複合材を試料として、交流電源の周波数を変化させてキャパシタンスを測定する(ステップS41:測定ステップ)。標準複合材は、マトリックスとなる不導体に導電性物質を混ぜた参考形態と同様の材料である。なお、標準複合材の種類および導電性物質の量は、上述のものに限定されない。
次に、ある1つの周波数における各標準複合材のキャパシタンスと、その各々の配合比と各標準複合材の配合比との相関関係を求める(ステップS42)。この相関関係を求めるステップは、ディスプレイ20にグラフ化して表示する場合も、表示しない場合も含む。ここで、「ある1つの周波数」は、配合比との相関関係が明確になる周波数として任意に選択できる。この選択は、パソコン2の処理により行っても良く、手動によって行っても良い。後者の場合には、図9のフローチャートのステップS41とステップS42との間に、「周波数の選択指示」というステップ(ステップS41a)が実行される。
図10は、配合比を同定する対象となる対象複合材の配合比を同定するまでの処理の流れを示すフローチャートである。
まず、対象複合材について、標準複合材のデータに使用された「ある1つの周波数」と同一の周波数の交流電源にてキャパシタンスを測定する(ステップS51:測定ステップ)。対象複合材は、先に述べた標準複合材と同じマトリックスおよび第2成分を有する。
次に、測定の結果得られたキャパシタンスと、ステップS51にて求めた相関関係とを照合して、対象複合材の配合比を同定する(ステップS52:配合比同定ステップ)。
次に、本発明の配合比同定法により複合材の配合比を同定した例を説明する。
(参考例1)
「インピーダンス法による配合比の同定」
標準複合材として、ポリプロピレンをマトリックス材とし、気相成長カーボンナノファイバ(Vapor Grown Carbon nano-Fiber:VGCF)をフィラ材とする繊維強化プラスチックを用いた。VGCFは、平均径150nm、平均長10〜20μmのファイバである。また、測定に用いた標準複合材の配合比は、複合材の全重量に占めるVGCFの重量の割合が0、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、7.5、10.0、15.0および20.0重量部とした。
インピーダンスの測定には、Agilent Technologies社製のインピーダンスアナライザ(機種No.4294A)を用いた。各種配合比の標準複合材を用いたインピーダンスの変化の測定に先立ち、コイル3を励振する周波数fを4.0〜7.0MHzに変化させた時のインピーダンス特性を測定した。
図11および図12は、各種標準複合材のインピーダンス−周波数特性および位相−周波数特性を、それぞれ示すグラフである。各曲線を指す表示の内、アルファベットの部分(PP、PQ等)は各標準複合材を区別する記号であり、その後ろのカッコ内の数字はVGCFの重量%である。以後の図においても同様である。なお、これらのインピーダンス特性に、コイル3の特性も含まれている。コイル3単独の共振周波数は、約5.48MHzである。図11および図12から明らかなように、標準複合材の配合比が大きくなるほど、共振周波数が5.48MHzより低い側にシフトしていくことがわかった。この結果より、コイル3の励振周波数を5.48MHzより約18%低い4.51MHzとして、各種標準複合材を用いた際のインピーダンスの変化を調べた。
図13は、配合比の違いによるインピーダンスグラフである。
図13に示すグラフは、励振周波数4.51MHzにより励振させたコイル3を各種標準複合材に接近させることによるインピーダンス変化を調べ、抵抗成分Rをリアクタンス成分ωLで除した値の変化値(ΔR/ωL)をX軸にとり、リアクタンス成分ωLの変化値(ΔωL/ωL)をY軸にとり、各種標準複合材の各座標(ΔR/ωL,ΔωL/ωL)をプロットしたものである。図13(13B)は、図13(13A)の円で囲った部分Xを拡大して示すグラフである。
図14は、図13に示すインピーダンスグラフにおける各座標(ΔR/ωL,ΔωL/ωL)の原点からの距離と、各種標準複合材の配合比との関係を示すグラフである。
図14に示すグラフから明らかなように、標準複合材の配合比が高くなる程、原点から座標(ΔR/ωL,ΔωL/ωL)までの距離が非線形的に大きくなることがわかった。
次に、未知の配合比を持ち配合比同定の対象となる2種類の対象複合材(複合材A、複合材B)を用いて、励振周波数4.51MHzにて励振させたコイル3の接近前後におけるインピーダンスの変化から、図13と同様のグラフ上の各座標(ΔR/ωL,ΔωL/ωL)の原点からの各距離を求めた。当該各距離を、図14に示すグラフから求められる相関関係と照合すると、表1に示すように、複合材AおよびBの配合比は、それぞれ約2.6重量部および約7.0重量部と同定できた。同じ複合材AおよびBの配合比を4端子法により測定した電気伝導率から求めると、それぞれ2.7重量部および7.2重量部であった。この結果から、インピーダンスの変化に基づき、座標(ΔR/ωL,ΔωL/ωL)の原点からの距離から配合比を同定する方法は、正確な配合比を求める1つの有効な方法であると考えられる。
(参考例2)
「インピーダンス法による配合比の同定」
用いた標準複合材およびインピーダンスアナライザ1は、参考例1と同一である。励振周波数は、コイル3単独の共振周波数5.48MHzより約0.5%高い5.5MHzとした。
図15は、配合比の違いによるインピーダンスグラフである。
図15に示すグラフは、励振周波数5.5MHzにより励振させたコイル3を各種標準複合材に接近させることによるインピーダンス変化を調べ、抵抗成分Rをリアクタンス成分ωLで除した値の変化値(ΔR/ωL)をX軸にとり、リアクタンス成分ωLの変化値(ΔωL/ωL)をY軸にとり、各種標準複合材の各座標(ΔR/ωL,ΔωL/ωL)をプロットしたものである。
図16は、図15に示すインピーダンスグラフにおける各座標(ΔR/ωL,ΔωL/ωL)の原点からの距離と、各種標準複合材の配合比との関係を示すグラフである。
図16に示すグラフから明らかなように、標準複合材の配合比が高くなる程、原点から座標(ΔR/ωL,ΔωL/ωL)までの距離が大きくなることがわかった。
次に、未知の配合比を持ち配合比同定の対象となる2種類の対象複合材(複合材C、複合材D)を用いて、励振周波数5.5MHzにて励振させたコイル3の接近前後におけるインピーダンスの変化から、図15と同様のグラフ上の各座標(ΔR/ωL,ΔωL/ωL)の原点からの各距離を求めた。当該各距離を、図16に示すグラフから求められる相関関係と照合すると、表2に示すように、複合材CおよびDの配合比は、それぞれ約8.0重量部および約0.1重量部と同定できた。同じ複合材CおよびDの配合比を4端子法により測定した電気伝導率から求めると、それぞれ7.8重量部および0.1重量部であった。この結果から、インピーダンスの変化に基づき、座標(ΔR/ωL,ΔωL/ωL)の原点からの距離から配合比を同定する方法は、正確な配合比を求める1つの有効な方法であると考えられる。
図17は、図15に示すインピーダンスグラフにおける各座標(ΔR/ωL,ΔωL/ωL)のX軸に対する傾き(tanθ値)と、各種標準複合材の配合比との関係を示すグラフである。
図17に示すグラフから明らかなように、標準複合材の配合比が高くなる程、X軸に対する座標(ΔR/ωL,ΔωL/ωL)の角度が小さくなることがわかった。
次に、未知の配合比を持ち配合比同定の対象となる2種類の対象複合材(複合材C、複合材D)を用いて、励振周波数5.5MHzにて励振させたコイル3の接近前後におけるインピーダンスの変化から、図16と同様のグラフ上の各座標(ΔR/ωL,ΔωL/ωL)のX軸に対する角度を求めた。当該各角度を、図17に示すグラフから求められる相関関係と照合すると、表3に示すように、複合材CおよびDの配合比は、それぞれ約7.9重量部および約0.1重量部であると同定できた。この結果から、座標(ΔR/ωL,ΔωL/ωL)と原点とを結ぶ直線のX軸に対する傾きから配合比を同定する方法は、正確な配合比を求める1つの有効な方法であると考えられる。
(実施例1)
「キャパシタンス法による配合比の同定」
用いた標準複合材およびインピーダンスアナライザ1は、参考例1および参考例2と同一である。キャパシタンス測定時の交流電源の周波数は、1〜14MHzの範囲とした。
図18は、配合比の違いによるキャパシタンス−周波数特性を示すグラフである。
図18に示すグラフから、配合比が高くなるにつれて、キャパシタンスも大きくなることがわかった。また、配合比の高い標準複合材ほど、周波数の変化に対するキャパシタンスの変化も大きいことがわかった。
図19は、周波数10MHzにおける各標準複合材の配合比とキャパシタンスとの関係を示すグラフである。
図19に示すように、標準複合材のキャパシタンスは、その配合比が高くなるにつれて大きくなる関係があることが認められた。
次に、未知の配合比を持ち配合比同定の対象となる2種類の対象複合材(複合材E、複合材F)を用いて、交流電源の周波数を10MHzとした条件にてキャパシタンスを測定した。その結果、複合材Eのキャパシタンスは12ピコファラッド(pF)であり、複合材Fのキャパシタンスは42ピコファラッド(pF)であった。これらのキャパシタンスを図19に示すグラフから求められる相関関係と照合すると、表4に示すように、複合材EおよびFの配合比は、それぞれ約5.0重量部および約20.0重量部であることがわかった。同じ複合材EおよびFの配合比を4端子法により測定した電気伝導率から求めると、それぞれ4.9重量部および19.8重量部であった。この結果から、キャパシタンスに基づき配合比を同定する方法は、正確な配合比を求める1つの有効な方法であると考えられる。
以上、本発明の各実施の形態および実施例について説明したが、本発明は、これらに限定されることなく、種々変形を施した形態にて実施可能である。
インピーダンスの変化に基づいて配合比を同定する方法において、コイル3の励振周波数は、コイル3単独の共振周波数よりも10〜20%低い周波数を用いたが、その範囲の周波数に限定されるものではない。複合材に混ぜる第2成分の種類および量に応じて、励振周波数を、共振周波数よりも0.5から10%未満の範囲あるいは20より大きく30%以下の範囲の低い周波数とすることもできる。
また、同様に、コイル3の励振周波数をコイル3単独の共振周波数よりも高い値とする場合には、共振周波数よりも0.5〜10%高い周波数を励振周波数とするのが好ましいが、その範囲の周波数に限定されるものではない。複合材に混ぜる第2成分の種類および量に応じて、励振周波数を、共振周波数よりも10より大きく30%以下の範囲の高い周波数とすることもできる。
配合比を調べる対象となる対象複合材に占める第2成分の配合比は、20重量部以下の範囲ではなく、20より大きく40重量部以下の範囲でも良い。導電性の低い第2成分を混ぜた複合材の場合には、20より大きく40重量部以下の範囲で混ぜたものでも、精度良く、その配合比を求めることができる。
また、インピーダンス法において、座標(ΔR/ωL,ΔωL/ωL)のX軸に対する傾きを採用したが、Y軸に対する傾きを採用しても良い。また、傾きは、tanθ値で示される場合に限定されず、ラジアンで表しても良い。
また、インピーダンスアナライザ1とパソコン2とを一体化した装置を用いて、インピーダンスの変化を測定し、測定後のデータの処理を行うようにしても良い。また、本発明の配合比同定法におけるデータ処理に属する各ステップを記述したコンピュータプログラムをCD−ROM、MO等の情報記録媒体に格納して、業として第三者に譲渡することも可能である。この場合、当該情報記録媒体をパソコン2にセットして、内部のコンピュータプログラムをパソコン2にインストールしてから同コンピュータプログラムを実行することによって、本発明の配合比同定法のデータ処理を行うことができる。また、当該コンピュータプログラムの譲渡は、情報記録媒体を介さず、インターネット等の通信回線を利用して配布するとによっても可能である。
ポリプロピレンにVGCFを混ぜた複合材を試料とす場合、本発明の複合材の配合比同定法の内、インピーダンスの変化に基づく同定法は、複合材に占める第2成分の配合比が7.5重量部より低いと予想される場合に適している。一方、同試料を用いる場合、本発明の複合材の配合比同定法の内、キャパシタンスに基づく同定方法は、複合材に占める第2成分の配合比が7.5〜20重量部の範囲にあると予想される場合に適している。このため、インピーダンス法とキャパシタンス法とを組み合わせることによって、20.0重量部以下の配合比を有する複合材の配合比をより正確に同定することが可能となる。
本発明は、複合材を成形加工する際のモニタとして使用できるので、製品の品質管理に利用可能である。その他、本発明は、定期的に複合材のインピーダンスの変化を調べることにより、保守検査を行う非破壊検査手法としても利用できる。
本発明の参考形態に係る複合材の配合比同定法に使用する装置を示す図である。
図1に示すインピーダンスアナライザを用いてインピーダンスの変化を測定する原理を説明するための図である。
複合材にコイルを接近させる前後におけるインピーダンスの変化を示す図である。
図1に示すパーソナルコンピュータの内部構造を示すブロック図である。
本発明の参考形態にかかる複合材の配合比同定法において、標準複合材の配合比と、インピーダンス変化ベクトルの抵抗成分の値をリアクタンス成分の値で除した第1の値およびリアクタンス成分の値である第2の値をそれぞれX座標およびY座標にとってXY座標上に示す座標から原点までの距離との相関関係を求めるまでの処理の流れを示すフローチャートである。
図5の処理において、ΔR/ωLおよびΔωL/ωLをそれぞれX座標およびY座標とするXY座標上に、インピーダンス変化ベクトルの抵抗成分の値をリアクタンス成分の値で除した第1の値およびリアクタンス成分の値である第2の値を座標として示す図である。
本発明の参考形態にかかる複合材の配合比同定法において、配合比を同定する対象となる対象複合材の配合比を同定するまでの処理の流れを示すフローチャートである。
本発明の実施の形態に係る複合材の配合比同定法に使用する装置を示す図である。
本発明の実施の形態にかかる複合材の配合比同定法において、標準複合材の配合比とキャパシタンスとの相関関係を求めるまでの処理の流れを示すフローチャートである。
本発明の実施の形態にかかる複合材の配合比同定法において、配合比を同定する対象となる対象複合材の配合比を同定するまでの処理の流れを示すフローチャートである。
本発明の参考例1において、各種標準複合材のインピーダンス−周波数特性を示すグラフである。
本発明の参考例1において、各種標準複合材の位相−周波数特性を示すグラフである。
本発明の参考例1において、配合比の違いによるインピーダンスグラフである。
図13に示すインピーダンスグラフにおける各座標(ΔR/ωL,ΔωL/ωL)の原点からの距離と、各種標準複合材の配合比との関係を示すグラフである。
本発明の参考例2において、配合比の違いによるインピーダンスグラフである。
図15に示すインピーダンスグラフにおける各座標(ΔR/ωL,ΔωL/ωL)の原点からの距離と、各種標準複合材の配合比との関係を示すグラフである。
図15に示すインピーダンスグラフにおける各座標(ΔR/ωL,ΔωL/ωL)と原点とを結ぶ直線のX軸に対する傾きと、各種標準複合材の配合比との関係を示すグラフである。
本発明の実施例1において、配合比の違いによるキャパシタンス−周波数特性を示すグラフである。
本発明の実施例1において、周波数10MHzにおける各標準複合材の配合比とキャパシタンスとの関係を示すグラフである。
従来の4端子法を説明するための図である。
従来の体積抵抗法を説明するための図である。
符号の説明
1 インピーダンスアナライザ
3 コイル
4 複合材