JP2008245576A - 免疫調節作用が期待できる乳酸菌及び菌体外多糖類 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 3位置換グルコース、6位置換ガラクトース、2位3位置換グルコースおよび非還元末端グルコースから成る4糖繰り返しを単位とする主要成分と、3位置換グルコース、6位置換ガラクトース、2位3位置換グルコースおよび非還元末端ガラクトースから成る4糖繰り返しを単位とするマイナー成分と、から構成される多糖類を産生することを特徴とする、新規な乳酸菌ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)TDS030603株、該乳酸菌が産生する菌体外多糖類、免疫調節作用が期待できる新規な乳酸菌ラクトバチルス・ヘルベティカスTDS030903株、これらを含有する食品、免疫調節剤並びに物性改善剤を提供する。
【選択図】 なし
Description
特許文献1は、ラクトバチルス・ファーメンタム変異株VRI003株に関する特許であるが、本発明のファーメンタム株とはL−アラビノース、マンノース、マルトース、トレハロースの発酵性において差異があり、全く異なるものである。
特許文献2は、ラクトバチルス・ファーメンタムの高濃度乳酸菌乾燥物をカプセルに充填することを特徴とする健康食品に関するものであるが、株の特徴付けがなされておらず、本発明のファーメンタム株を開示していない。
特許文献4は、ラクトバチルス・ファーメンタムCP34株がIgE抗体量を減少させることを開示しているが、糖発酵性が相違していることから、本発明と全く異なる株であることは明らかである。
特許文献6は、複数の乳酸菌株を組み合わせて効果を得る抗腫瘍活性剤に関するもので、一種類の菌株のみで効果が得られる本発明とは異なる。
特許文献8は、複数種の乳酸菌と酵母を共生培養して得られる発酵乳を有効成分として含有する免疫増強組成物に関するものであるが、単一菌株による本発明とは別異のものである。
よって、本発明は、食品として摂取することにより、免疫力を高め、抗炎症作用、抗アレルギー作用、抗腫瘍作用などを発揮し、体質改善を図ることができる免疫調節剤を提供することを目的とする。
その結果、ラクトバチルス・ファーメンタムTDS030603株とその菌体外多糖類及びラクトバチルス・ヘルベティカスTDS030903株に、優れた免疫調節作用が期待できることを初めて明らかにした。
これらの知見に基づいて、本発明は完成されたのである。
請求項2に記載の本発明は、ラクトバチルス・ファーメンタムがTDS030603株(NITE AP−338)である請求項1に記載のラクトバチルス・ファーメンタムである。
請求項3に記載の本発明は、3位置換グルコース、6位置換ガラクトース、2位3位置換グルコースおよび非還元末端グルコースから成る4糖繰り返しを単位とする主要成分と、3位置換グルコース、6位置換ガラクトース、2位3位置換グルコースおよび非還元末端ガラクトースから成る4糖繰り返しを単位とするマイナー成分と、から構成される多糖類である。
請求項4に記載の本発明は、請求項1あるいは2に記載のラクトバチルス・ファーメンタムの菌体を、生菌で107/g以上、あるいは死菌体で0.1〜100重量%含有することによって免疫調節作用が期待できる食品又は食品用素材である。
請求項5に記載の本発明は、請求項3に記載の多糖類を食品中に0.1〜100重量%含有することによって免疫調節作用が期待できる食品又は食品用素材である。
請求項6に記載の本発明は、請求項1あるいは2に記載のラクトバチルス・ファーメンタムの菌体を有効成分として含有する免疫調節剤である。
請求項7に記載の本発明は、請求項3に記載の多糖類を有効成分として含有する免疫調節剤である。
請求項8に記載の本発明は、請求項3に記載の多糖類を有効成分として含有する物性改善剤である。
請求項9に記載の本発明は、免疫調節作用が期待できるラクトバチルス・ヘルベティカスTDS030903株(NITE AP−339)である。
請求項10に記載の本発明は、請求項9に記載のラクトバチルス・ヘルベティカスTDS030903株の菌体を0.1〜100重量%含有することによって免疫調節作用が期待できる食品又は食品用素材である。
請求項11に記載の本発明は、請求項9に記載のラクトバチルス・ヘルベティカスTDS030903株の菌体を有効成分として含有する免疫調節剤である。
また、本発明のラクトバチルス・ファーメンタムの生産する菌体外多糖類は、食品として利用する場合には、物性を改善するという作用とともに、免疫力を調節するという2つの効果が期待できる機能性素材として利用できる。
本発明の乳酸菌ラクトバチルス・ファーメンタムは、3位置換グルコース、6位置換ガラクトース、2位3位置換グルコースおよび非還元末端グルコースから成る4糖繰り返しを単位とする主要成分と、3位置換グルコース、6位置換ガラクトース、2位3位置換グルコースおよび非還元末端ガラクトースから成る4糖繰り返しを単位とするマイナー成分と、から構成される多糖類を産生することを特徴とするものである。
本発明のラクトバチルス・ファーメンタムは、上記多糖類を菌体外に産生・蓄積するものであればどのようなものでもよく、例えばラクトバチルス・ファーメンタムTDS030603株が挙げられる。
本発明の多糖類は上記の構造を有するものであればよく、その由来は特に限定されない。例えば、ラクトバチルス・ファーメンタム等の乳酸菌、特にラクトバチルス・ファーメンタムTDS030603株由来のものが好適に使用できる。
発酵乳検体を滅菌した生理食塩水に段階希釈し、MRS寒天培地(De Man, J. D., Rogosa, M., Sharpe, M. E. (1960).J. Appl. Bact. 23, 130-135.)、M17寒天培地(Terzaghi, B. E., and Sandine, W. E.(1975). Appl. Environ. Microbiol. 29, 807-813.)に0.1mlを塗沫し、炭酸ガス置換下で嫌気培養を32℃で行い、画線分離して純粋な株とした。グラム陽性、カタラーゼ陰性のものを乳酸菌と見なし、生育温度試験、グルコースからのガス産生、細菌同定用検査キット API−50CH(日本ビオメリュー製)を用いた糖の発酵性、及び16SrDNAの部分配列に基づいて同定した。
本発明の多糖類の構造の模式図を化1に示す。
また、本発明のラクトバチルス・ファーメンタムの培養物から分離精製した多糖類、及び本発明のヘルベティカス株菌体は、それぞれマウス由来マクロファージの培養細胞においてインターロイキン−12(IL−12)の産生を促進する傾向があった。さらに、オボアルブミン感作マウスにおいて、本発明のファーメンタムのホエー培養物の凍結乾燥物を経口投与することで、血清中のオボアルブミン特異的IgEの産生を低下させる傾向にあった。以上から、本発明の乳酸菌及び多糖類はともに、ヒトにおいてもI型アレルギーを抑制することが期待できる。
また、本発明の多糖類は水に容易に溶解し、水の粘稠性を高める性質を有していることから、食品用の増粘剤などの物性改善剤の製造に利用することができる。
これら培地は、微量のマンガンを含んでいることが好ましい。培地中のマンガンの濃度は硫酸マンガン濃度として0.00001〜1重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%である。マンガン濃度が前記の下限値未満であると、菌体外多糖類の産生量が著しく減少するため好ましくない。なお、培地中に含まれるマンガンは、どのような形態で含まれていても良い。例えば、食品添加物や食品成分のうち、マンガンを多く含有するものとして酵母エキスなどが知られている。それゆえ、培地に酵母エキスなどを加えることで、発酵が促進され、多糖類産生量を増加させることが可能となる。また、例えば硫酸マンガンなどの無機塩として培地に添加してもよい。
なお、本発明のラクトバチルス・ファーメンタム以外の乳酸菌を培地に添加して混合培養することにより、特徴的な発酵乳を得ることができる。ここで、組み合わせる乳酸菌としては、目的にあったものであればいずれでも良い。
また、このようにして培養した後、得られた培養物(培地)をそのまま、又は必要に応じてさらに処理することにより、本発明の食品用素材又は免疫調節剤として摂取することができる。例えば、培養終了後の培養物をそのまま濃縮したもの、これを粉末化したもの、培養終了後の培養物から遠心分離、濾過等により集菌して菌体のみとしたもの、これを凍結乾燥菌体としたもの、さらに加熱処理した菌体、菌体破砕物等も本発明の食品用素材又は免疫調節剤とすることができる。また、上記のものをさらに通常用いられる補助剤を添加して製剤化したものや、種々の食品に配合したもの等も、本発明の免疫調節剤とすることができる。
本発明のラクトバチルス・ファーメンタム菌体を用いた食品、食品用素材、及び免疫調節剤に含まれるラクトバチルス・ファーメンタム菌体は、発酵乳以外に用いる場合には生菌体でも死菌体でも良い。何故なら、乳酸菌を経口摂取し、腸管まで到達すると、腸管上皮細胞上のM細胞から取り込まれた後に免疫器官であるパイエル板で処理され、免疫応答が開始される。この時にパイエル板に認識される部位は細胞壁成分(ペプチドグリカン、リポテイコ酸、表層タンパク質など)であることがこれまでの研究から明らかにされている。そのため、必ずしも生菌である必要がない。(Kitazawa, H., Ueha, S., Itoh, S., Watanabe, H., Konno, K., Kawai, Y., Saito, T., Itoh, T., Yamaguchi, T. (2001). Int. J. Food Microbiol. 65, 149-162.及びIliev, ID., Kitazawa, H., Shimosato, T., Katoh, S., Morita, H., He, F., Hosoda, M., Saito, T. (2005). Cell Microbiol. 7(3), 403-414.)。また、本発明に用いた経口投与による免疫学的試験では、加熱死菌体を用いて各種試験を実施している。
また、本発明のラクトバチルス・ファーメンタム菌体を有効成分として含有する免疫改善剤におけるラクトバチルス・ファーメンタム菌体の含有量は菌体含有量では0.1〜100%、好ましくは0.1〜20%である。
また、培養後に得られた培養物(培地)をそのまま、又は必要に応じてさらに処理することにより、本発明の食品用素材、免疫調節剤又は物性改善剤とすることができる。例えば、培養終了後の培養物から遠心分離、濾過等により菌体を除去したもの、及びこれを濃縮、精製等したもの等も本発明の食品用素材、免疫調節剤又は物性改善剤とすることができる。また、上記のものをさらに通常用いられる補助剤を添加して製剤化したものや、種々の食品に配合したもの等も、本発明の免疫調節剤又は物性改善剤とすることができる。
また、本発明の多糖類を有効成分として含有する免疫改善剤における多糖類の含有量は0.1〜100重量%、好ましくは0.1〜20重量%である。
さらに、本発明の多糖類を有効成分として含有する物性改善剤における多糖類の含有量は0.1〜100重量%、好ましくは0.1〜20重量%である。
ここで、培養に用いる培地は、本発明のTDS030903株が生育可能な培地であればどのようなものでも利用可能であり、上記のラクトバチルス・ファーメンタムと同様のものを用いることができる。また、培養方法も上記のラクトバチルス・ファーメンタムと同様とすることができるが、培養温度は20〜45℃、好ましくは25〜40℃とすることができる。
なお、本発明のラクトバチルス・ヘルベティカス以外の乳酸菌を培地に添加して混合培養することにより、特徴的な発酵乳を得ることができる。ここで、組み合わせる乳酸菌としては、目的にあったものであればいずれでも良い。
また、このようにして培養した後、得られた培養物(培地)をそのまま、又は必要に応じてさらに処理することにより、本発明の食品用素材又は免疫調節剤とすることができる。例えば、培養終了後の培養物から遠心分離、濾過等により集菌して菌体のみとしたもの、これを凍結乾燥菌体としたもの、さらに加熱処理した菌体、菌体破砕物等も本発明の食品用素材又は免疫調節剤とすることができる。また、上記のものをさらに通常用いられる補助剤を添加して製剤化したものや、種々の食品に配合したもの等も、本発明の免疫調節剤とすることができる。
本発明のTDS030903株菌体を用いた食品、食品用素材、及び免疫調節剤に含まれるTDS030903株菌体は、生菌体であることが好ましいが、死菌体であってもよい。死菌体であっても良い理由は、ラクトバチルス・ファーメンタムについて述べたのと同様な理由である。
また、本発明のTDS030903株菌体を有効成分として含有する免疫改善剤におけるTDS030903株菌体の含有量は0.1〜100重量%、好ましくは0.1〜10重量%である。このような範囲指定の理由は、ラクトバチルス・ファーメンタムについて述べたのと同様な理由である。
なお、本発明の乳酸菌TDS030603株及びTDS030903株は、前記したように所定の微生物保存機関に寄託されており、十分に開示されている。
TDS030603株とTDS030903株の性状を調べて同定を行った。
上記乳酸菌の糖の発酵性を、それぞれ細菌同定用検査キット API50CH(日本ビオメリュー製)で調べた。なお、測定方法の詳細はメーカーの指示する方法に従った。
また、上記乳酸菌の基本的性状と16Sr−DNAの配列に基づく同定結果を用いて最終的な同定結果とした。その結果をそれぞれ表1と表2に示す。
ラクトバチルス・ファーメンタムTDS030603株を使用して発酵乳を試作した実施例を示す。
新鮮なラクトバチルス・ファーメンタムTDS030603株の培養液を単独で、あるいはストレプトコッカス・サーモフィラスの培養液と組み合わせてスターターとして用い、殺菌した牛乳にそれぞれ1%接種し、30℃で19.5時間培養した。培養後、10℃以下まで十分冷却して、食した。
できたばかりの発酵乳は、ファーメンタム単独のものもサーモフィラスと組み合わせたものも良好な物性と風味を有していたが、TDS030603株がヘテロ発酵性であるため、やや泡立っていた。
TDS030603株をMRS液体培地で常法により培養し観察した結果、培養物が粘稠性を示し、多糖類を産生することが明らかであった。MRS培地には硫酸マンガンが成分として0.004重量%含まれている。この硫酸マンガンを培地成分から除いて培養した結果、著しく多糖の生成が減少することが明らかとなった。また、本菌株を種菌として用いて乳を培地として上記と同様に培養した場合にも、微量のマンガンが含まれていないと多糖の生成は少なかった。
ホエーパウダー(よつ葉乳業製)を10重量%の割合で水に還元し、121℃で15分間オートクレーブすると、含まれているタンパク質等が凝集物を生成した。この凝集物を遠心分離により除去し、10%除タンパクホエー液とした。これに上述の添加物を表3に示す割合で加え、121℃で15分間オ−トクレーブしたものを培地(除タンパクホエー培地)として使用した。
スターターとして使用するTDS030603株培養液は、培地由来のマンガンの影響を除くため、1%トリプトンを添加した上記の10%除タンパクホエー液を121℃で15分間オートクレーブして得た培地に、TDS030603株のコロニー1個分を無菌的に接種し、30℃で24時間培養したものを用いた。このように調製したスターターは培地成分にマンガンを極微量にしか含まず、スターター自体に含まれるマンガンを培地に持ち込む影響を避けることができる。
次に、培養液中に生じた多糖のおおよその量(粗多糖類の量)をエタノール沈殿により測定した。まず、培養液に等量のエタノールを加え、5℃で一晩放置した。遠心後沈殿を回収し、イオン交換水を加え、70℃において30分間攪拌しながら溶解させた。遠心後、上清を回収し、凍結乾燥したものの重量を測定した。なお、多糖類の産生量の測定は、粘度が高いものについてのみ実施した。
本試験の結果、酵母エキスを5重量%といった大量に培地に添加することで、多糖類の産生が著しく促進されることが明らかになった。特に、酵母エキス(LYII−P)の添加が最も効果的であった。また、発酵促進のためのペプチド類を添加することで、酵母エキスの量を減らしても多糖生成がある程度維持されることがわかった。トリプトンや乳ペプチド単独の添加では、粘度から見て多糖の生成にはあまり促進効果がないことも示された。
以上の結果から、酵母エキスなどの安全な食品添加物を添加することで、ホエーを用いて本発明の多糖類を生産することが可能であることが示された。
イオン交換水にホエーパウダー(よつ葉乳業製)を10重量%溶解させ、121℃で15分間オートクレーブしたものを、12000rpmにて20分間遠心分離を行ってタンパクを除去した。これに、1%のトリプトンと0.004%の硫酸マンガンを加え、121℃で15分間オートクレーブしたものを培地とした。
これに、同じ培地でTDS030603株を30℃で1日培養した前培養液を5%添加し、25℃において24時間培養した。培養液3Lに、冷却した同量のエタノールを加えて一晩5℃で放置し、遠心して沈殿をイオン交換水で回収した。さらに、イオン交換水で1Lにメスアップし、水酸化ナトリウムで中和し透析を行ったものを、イオン交換水で3Lにメスアップし、攪拌しながら70℃で30分間溶解させた。これを遠心し、上清を回収して凍結乾燥した。これを粗精製多糖として以下の試験に用いた。この粗精製多糖は、常温で容易に水に溶解できた。
実施例4で得た粗精製多糖を、蒸留水に0.0、0.1、0.5、1.0、1.5、2.0重量%の各濃度で溶解させ10℃に冷却し、東機産業(株)製80LB型粘度計を用いて粘度を測定した。測定条件は、R−Lアダプタを使用し、回転数12rpmにおいて60秒後の粘度を測定した。測定結果は表4に示す。
また、同じ粘度計を用いて、回転数60、30、12rpmで測定を行った。測定結果は表5に示す。
その結果、粘度測定時の回転数が高いほど低い粘度を示すシュドプラスチック(擬塑性)粘性を示した。このことから、TDS030603株の産生する本発明の菌体外多糖類は、水の粘稠性を高めることがわかる。また、測定データから、粘度は添加量に応じて上昇することがわかる。それ故、効果の範囲は0%超の添加であればそれに呼応して粘度の上昇が見られる。物性改善剤としては、特に多糖類の添加量の範囲を指定することなく、利用できる。しかし、添加量0.1%以上で顕著な粘度の増加が見られ、実用的には20%未満程度が物性改善に望ましい。
(I)1H−NMR
実施例4で調製した粗精製多糖を、50mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.7)200mlに溶解したものを、同緩衝液で平衡化したDEAE−Sephadex A−50アニオン交換樹脂 200mlと混合し、攪拌しながら室温に1時間置いた。次いで、ブフナー漏斗でろ過して樹脂を除いた溶液を、水道水で48時間、2Lの蒸留水で24時間透析し、凍結乾燥することにより精製多糖を得た。
まず、上記において精製された多糖を重水に溶解し、凍結乾燥した。この操作を3度繰り返した後に得られた凍結乾燥物(約0.5mg)の全量を重水200μLに溶解し、マイクロNMRチューブに入れ、Bruker社製NMR装置Advance−600 NMRにて、温度70℃の条件下で1H−NMRスペクトルの測定を行った。その結果得られた1H−NMRスペクトルを図1に示す。
この結果、アノマープロトンのシグナルが4個存在し、α結合に由来するピークが2個、β結合に由来するピークが2個観測された。すなわち、当該多糖は4糖繰り返し単位で、α結合とβ結合が2個ずつであると考えられる。
次に、本発明の多糖の構成糖残基間のグリコシド結合の様式をメチル化分析によって解析した。メチル化分析方法は、Hakomori, S. (1964). J. Biochem. (Tokyo), 55(2), 205-208.の記載に従った。
GC−MSにはHewlett Packard社製ガスクロマトグラフHP5890/重量分析計HP5972MSDを用い、カラムはAgilent Technologies社製DB−17を用いた。温度条件は(1)150℃(1min)、(2)150−200℃(昇温速度15℃/min)、(3)200℃であった。
なお、グルコースとガラクトースの判別については、既知試料の同条件下でのピークの保持時間と、下記(IV)における酸分解による構成糖分析の結果をもとに行った。
図2及び表6の結果から、本発明の多糖は、1残基の非還元末端(図2のピークA)と1残基の分岐点(ピークE)を持つ4糖繰り返しであるが、他に非還元末端由来のマイナーピーク(ピークB)が存在しており、非還元末端をグルコースとする主要成分と非還元末端をガラクトースとするマイナー成分の混合物であることが推察された。
本発明の多糖の単糖組成を分析するために、酸加水分解によって多糖のグリコシド結合を切断し、単糖にした上で、高速液体クロマトグラフィーによって分離定量を行った。
すなわち、まず、(I)で得た精製多糖1.5mgを1.5mLねじ栓付試験チューブに入れ、そこに蒸留水を0.6mL加え、多糖を懸濁させた。次いで、この多糖懸濁液に3.3Mトリフルオロ酢酸(TFA)水溶液を0.9mL加えて、100℃に設定したアルミブロック恒温槽を用いて3時間保温し、加水分解反応を行った。反応終了後、試験チューブを凍結し、遠心エバポレーターで凍結乾燥させた。さらに、凍結乾燥物を蒸留水に溶解して糖分析用サンプルとした。
この2つのクロマトグラムの比較より、本発明の多糖を構成している単糖は、GalとGlcであることが示された。また、ピークの面積比から計算した構成糖の存在比は、Gal:Glc=1:2.4−2.6であった。
本発明の菌体外多糖類の最終的な構造の模式図を化2に示した。
(1)材料と方法
7週齢のBALB/cマウス、メス(SFC)を使用し、一群10匹で試験した。Colon26結腸癌細胞株を皮下に移植した結腸癌担癌マウスに対して、TDS030603株の凍結乾燥菌体を200μg/マウス/日の割合で、またTDS030903株の凍結乾燥菌体を1800μg/マウス/日の割合で、移植翌日より一日1回、14日間連続経口投与した。それぞれ、15日目に解剖を行い、脾臓、胸腺、肝臓および腫瘍部の重量、並びに、血漿中のサイトカインであるIL−6及びTNF−αを測定した。
TDS030603株及びTDS030903株は、それぞれMRS液体培地で培養し、培地mlあたりの菌数を測定した。培養物を遠心分離後、適当量の水に再懸濁し、遠心、再懸濁を2回くりかえした。その後、80℃で10分間加熱し殺菌した。このようにして得られた洗浄菌体を凍結乾燥し、重量を測定した。凍結乾燥物gあたりの殺菌前の菌数を算出し、それぞれ凍結前の菌数として約108CFU/日投与に相当する量となるように投与した。具体的には、約TDS030603株の凍結乾燥菌体を4mg秤量し、4ml滅菌蒸留水で溶解した。また、TDS030903株の凍結乾燥菌体は36mgを秤量し、4mlの滅菌蒸留水に溶解した。その溶液をそれぞれ200μL/マウスになるように投与した。
in vitroにおいて継代しているColon26結腸癌細胞株を用いた。0.1%トリプシン0.02%を培養液に加えて細胞を剥離した後に、1600rpm、4℃で5分間遠心分離した。培養液を捨て、沈殿した細胞をピペッティングしてほぐし、滅菌生理食塩水を5ml加えて混和させ、細胞数測定用に採取した。
採取した細胞浮遊液は、細胞浮遊液50μL、4%トリパンブルー950μLの割合で混合した後、ヘモサイトメーターを用いて顕微鏡下にて細胞数ならびにセルバイアビリティーを計測した。
一方、残りの細胞浮遊液は、再度遠心分離した後、上清を捨て、沈殿した細胞をピペッティングしてほぐし、滅菌生理食塩水を用いて細胞数1×106個/mlになるように再浮遊させた。細胞数5×105個/100μLをマウス背側頸部皮下に注射筒を用いて移植し、Colon26担癌マウスを作製した。
解剖前日からの絶食は行わない。解剖当日はネンブタール(40mg/kg)麻酔下において開腹し、腹大静脈よりヘパリン加採血を行った。脾臓、胸腺、肝臓および腫瘍部を摘出し、重量を測定した。採血した血液は、4℃、5000rpmで20分間遠心分離して血漿を採血し、サイトカイン測定まで−80℃で保存した。採血した血漿は4℃において解凍し、市販のELISAキット(BIOSOURSE社製)を用いてTNF−α及びIL−6の濃度を測定した。測定方法はキットの説明書の記載に従った。
試験結果は平均値±標準偏差で表し、データについては一元配置分散分析を行った後、フィッシャーのPLSD法により、各群間の有意差検定を行った。
結果を表7に示す。
TDS030603株投与群では、腫瘍細胞重量は対照群に比べ減少傾向であったが、対照群と有意差はなかった。炎症性サイトカインであるTNF−α濃度は対照群に比べて低い値を示したが、有意差はなかった。同じく炎症性サイトカインであるIL−6の濃度は、5%の危険率で対照群に比べて有意な差があった。それ故、TDS030603株菌体は、腫瘍の増殖を抑制する傾向があり、炎症性サイトカインであるIL−6の産生を抑制する物質であると確認された。
一方、TDS030903株投与群では、腫瘍重量の増加を抑制する傾向があったが対照群と有意な差はなかった。またTNF−αについては、5%の危険率で対照群に比して有意に産生を抑制した。IL−6については、対照群に比して1%の危険率で有意に産生を抑制した。それ故、TDS030903株菌体は、腫瘍の増殖を抑制する傾向があり、炎症性サイトカインであるTNF−αならびにIL−6の産生を抑制する物質であると確認された。
<材料及び方法>
マウス由来マクロファージJ774.1細胞(理研cell bank)を用いた。J774.1細胞の培養は、培地[RPMI1640培地(GIBCO社製)+10%FBS+50U/mlペニシリン+50μg/mlストレプトマイシン液(GIBCO社製)+5×10−5M 2−メルカプトエタノール]を用いて定法に従って行った。
被検体として、TDS030603株の培養物から分離した十分に精製した多糖類凍結乾燥物(実施例6(I)で分析用に調製した精製多糖)及びTDS030903株菌体凍結乾燥物(実施例7に用いたものと同じ)を用いた。対照として、ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)ATCC53103株及びラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)JCM1120株の凍結乾燥菌体を用いた。これらの凍結乾燥菌体の調製は実施例7に用いた方法に準じた。
その後、上清を回収し、ELISA kit(ENDOGEN社製)を用いてIL−12産生量を測定した。この試験は2連で2回実施し、合計4連の結果を平均してIL−12の濃度とした。
結果を表8に示す。データは4連の平均値を示している。ATCC53103株については、さらに2回の試験を行い8連の平均値を示している。
リポ多糖(LPS、Sigma社製)をポジティブコントロールとし、ATCC53103株、JCM1120株の凍結乾燥菌体を一般の乳酸菌として対照に用いた。なお、ATCC53103株は一般にプロバイオティクスであるLGG菌として知られ、アトピー性皮膚炎に関する報告(例えば、Isolauri, E., Arvola, T., Sutas, Y., Moilanen, E., Salminen, S., (2000). Clin. Exp. Allergy, 30(11), 1604-1620.参照)があることから対照とした。
一方、TDS030903株菌体においては、他の菌株に比べて相対的により強くIL−12の産生を促進している。IL−12はサイトカインであるインターフェロン−γの強力な誘導因子であり、産生が増強されるとTh1を優位な状態へ傾け、抗アレルギー効果が期待できる。
ラクトバチルス・ファーメンタムTDS030603株及びラクトバチルス・ヘルベティカスTDS030903株の抗アレルギー効果について、オボアルブミン(OVA)感作マウスを用いた経口投与の試験を行った。TDS030603株は菌体外多糖類を産生するので、菌体のみを分離して投与するのではなく、菌体外多糖類を含む培養物全体での抗アレルギー効果を評価した。TDS030903株は、実施例8と同様に菌体乾燥物について評価した。
8週齢のBALB/cマウスを用い、一群10匹で試験した。
対照群の餌はCE−2(クレア社製)を用いた。試験群は、CE−2にTDS030603株培養物(ホエー培地での培養物の凍結乾燥物)5%、又はTDS030903株菌体(凍結乾燥菌体)0.1%を含有するように混合し、いずれも自由摂取させた。ここで、TDS030603株培養物の混合量をTDS030903株菌体に比べて多く設定したのは、被検体(TDS030603株培養物)中に占める菌体成分よりも培地成分由来のものが多いことを考慮したためである。水は水道水を自由摂取させた。環境温度25℃、湿度55%、照明は8時〜20時の12時間照明とした。予備飼育期間は1週間とした。
マウスに対する免疫は20μgオボアルブミン(OVA)+20mg水酸化アルミニウムゲルの腹腔内投与を0日目、14日目の2回実施した。21日目に解剖し、腹部大動脈から全採血し、血清を採取した。
血清中のOVA特異的IgE量の測定は、DSマウスIgE ELISA (OVA)(大日本住友製薬(株)製)を用いて、製造者のプロトコールに従って行った。
各群の血清中OVA特異的IgE量を表9に示す。ばらつきが大きいので比較は難しいが、コントロール(対照)に比べて試験食摂取群で平均値の減少が見られた。それ故、TDS030603株のホエー培養物とTDS030903株菌体は、ともにこのような条件下でIgEを低減する効果が期待できると予想された。すなわち、これらの乳酸菌培養物あるいは菌体の摂取で、抗アレルギー効果が十分に期待できることが分かった。
Claims (11)
- 3位置換グルコース、6位置換ガラクトース、2位3位置換グルコースおよび非還元末端グルコースから成る4糖繰り返しを単位とする主要成分と、3位置換グルコース、6位置換ガラクトース、2位3位置換グルコースおよび非還元末端ガラクトースから成る4糖繰り返しを単位とするマイナー成分と、から構成される多糖類を産生することを特徴とするラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)。
- ラクトバチルス・ファーメンタムがTDS030603株(NITE AP−338)である請求項1に記載のラクトバチルス・ファーメンタム。
- 3位置換グルコース、6位置換ガラクトース、2位3位置換グルコースおよび非還元末端グルコースから成る4糖繰り返しを単位とする主要成分と、3位置換グルコース、6位置換ガラクトース、2位3位置換グルコースおよび非還元末端ガラクトースから成る4糖繰り返しを単位とするマイナー成分と、から構成される多糖類。
- 請求項1あるいは2に記載のラクトバチルス・ファーメンタムの菌体を、生菌で107/g以上、あるいは死菌体で0.1〜100重量%含有することによって免疫調節作用が期待できる食品又は食品用素材。
- 請求項3に記載の多糖類を食品中に0.1〜100重量%含有することによって免疫調節作用が期待できる食品又は食品用素材。
- 請求項1あるいは2に記載のラクトバチルス・ファーメンタムの菌体を有効成分として含有する免疫調節剤。
- 請求項3に記載の多糖類を有効成分として含有する免疫調節剤。
- 請求項3に記載の多糖類を有効成分として含有する物性改善剤。
- 免疫調節作用が期待できるラクトバチルス・ヘルベティカスTDS030903株(NITE AP−339)。
- 請求項9に記載のラクトバチルス・ヘルベティカスTDS030903株の菌体を0.1〜100重量%含有することによって免疫調節作用が期待できる食品又は食品用素材。
- 請求項9に記載のラクトバチルス・ヘルベティカスTDS030903株の菌体を有効成分として含有する免疫調節剤。
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