本発明は、水蒸気蒸留によりクロルシクロヘキサンを含む有機物からクロルシクロヘキサンを回収するクロルシクロヘキサンの精製方法に関する。
水蒸気蒸留は、非特許文献1に記載の通り、水に不溶解な原料物質に水を加えて加熱する方法、あるいは飽和水蒸気や加熱水蒸気を直接吹き込みながら加熱する方法によって、原料中の揮発性成分を水と共に留出させる蒸留方法で、留出液は水相と目的成分相に分かれるため、両者の分離は容易に行うことができる。水蒸気蒸留では、揮発性成分の蒸気は水蒸気に伴われて発生するため、気相中の揮発性成分の分圧は通常の蒸留操作より小さくなり、蒸留温度もかなり低下する。したがって、水蒸気蒸留は、通常の蒸留では極めて高温または高真空でないと留出しないような蒸気圧の小さい物質を非揮発性物質から分離したり、蒸気圧の小さい不純物を非揮発性の目的物質から除去したりする蒸留法として、工業的にも広く用いられている。
例えば、特許文献1では、有機物廃液からの有価物の分離回収方法として、水蒸気蒸留によりアルコール成分、芳香族炭化水素成分および水を留出させ、留出液に水を添加して、水層にアルコール成分、油層に芳香族炭化水素成分をそれぞれ回収する方法により、蒸留設備のミニマイズや熱エネルギーコストの低減が提案されている。この場合、留出液に水を添加し、水相と油相との分離性を向上させているが、35℃程度での温度条件下での油水分離をクロルシクロヘキサンの精製に適用すると、水相とクロルシクロヘキサン相との分離性が悪い。
特許文献2では、クロロピリジン類の分離精製方法として、塩化水素存在下で水蒸気蒸留をすることにより、塩酸塩を形成させずに2,6−ジクロロピリジンのみ留出させることで高純度品を得て、2−クロロピリジンやピリジンは、気相中に共存する塩化水素と反応させて塩酸塩を形成させ、蒸気圧を小さくすることで留出を防止し、分離精製させる方法が提案されている。この場合、塩化水素の存在下においては、設備の防食対応が必要である。また、この方法を単にクロルシクロヘキサンの精製に適用しようとしても、シクロヘキサンの塩化ニトロシルによる光ニトロソ化反応から副生されるクロルシクロヘキサンを含む不純物から、クロルシクロヘキサン以外の成分を塩酸塩にすることは、もともと前記反応が塩化水素の存在下で行われていることから難しく、クロルシクロヘキサンのみを水蒸気蒸留にて留出させて高純度品を得ることは極めて困難である。
特許文献3では、2−クロルピリジンの精製法として、2−クロルピリジンの鉱酸塩を水抽出によって分離し、アルカリ中和後蒸留することで、ピリジン、2−クロルピリジンを水共沸させ、高純度の2−クロルピリジンを得る方法が提案されている。アルカリにはNaOH水溶液を用いて中和して蒸留を行い、留出分は粒状のNaOHを加えて脱水している。この場合、NaOH水溶液での中和後に蒸留操作をしている。NaOHは蒸気圧を持たないため、蒸留塔の塔頂付近やコンデンサでは、アルカリ濃度が低下する。したがって、この技術をクロルシクロヘキサンの精製に適用すると、クロルシクロヘキサンの熱分解により、塩化水素が発生し腐食の要因となる。また粒状のNaOHでの脱水操作では工業的な生産は難しく、効率的な水分の分離操作が水蒸気蒸留では必要になる。
クロルシクロヘキサンは、非特許文献2の記載によると、シクロヘキサンの塩素化やシクロヘキサノールと塩酸との加熱により得られる。工業的には、非特許文献3記載のように、シクロヘキサンの塩化ニトロシルによる光ニトロソ化反応において、シクロヘキサノンオキシムの副生成物として得られる。その他、副生成物には、クロルシクロヘキサンよりも高沸点であるジクロルシクロヘキサン、硝酸シクロヘキシル等が含有される。特許文献4によれば、光ニトロソ化反応によるカプロラクタム製造において、シクロヘキサノンオキシム生成に対して、一定量のクロルシクロへキサンが副生される。シクロヘキサノンオキシムは、シクロヘキサンとは溶解せず比重差で分離できる。クロルシクロヘキサンのほとんどは、未反応のシクロヘキサンと共に抜き出される。未反応のシクロヘキサンは蒸留操作により回収され、原料としてリサイクルされる。一方、蒸留塔の缶出液としてクロルシクロヘキサンを含む有機物を系外に排出されており、これを蒸留等の精製により、高純度のクロルシクロヘキサンを得ている。クロルシクロヘキサンは、シクロヘキセンの合成原料として用いられており、また、これらはN−シクロヘキシルチオフタルイミドの原料として用いられ、合成ゴムおよび天然ゴムのスコーチ防止剤用途に使用され、工業的に非常に有益な化学原料である。
非特許文献2の記載によると、クロルシクロヘキサンは、沸点142℃、比重1.000(20℃)、水に不溶である物性を有している。クロルシクロヘキサンと該成分よりも高沸点の有機物成分を含む有機物を蒸留により精製する場合、常圧条件下では蒸留温度(蒸留塔塔頂温度)は約142℃と高温になり、クロルシクロヘキサンが熱分解により塩化水素およびシクロヘキセンに微量に分解されることにより、蒸留塔の腐食や低沸分の増加による純度悪化の問題がある。一方、蒸留温度を下げるためには、減圧蒸留となり蒸留塔や真空設備等の高コスト設備となる。
改訂新版 化学工学通論I p140〜141
東京化学同人 化学事典 p409
石油学会誌 第17巻 第11号(1974) p52〜p56
特開平02−172585号公報
特開平03−058971号公報
特公昭60−020385号公報
特開2006−052163号公報
以上のように、水蒸気蒸留を用いた目的成分を回収、精製する方法は幅広く利用されている。しかしながら、クロルシクロヘキサンを目的成分として、水蒸気蒸留により、工業的にクロルシクロヘキサンを回収および精製する方法の提案はほとんどない。
特に、クロルシクロヘキサンは、比較的沸点が高く蒸気圧が高い点、熱的環境下において分解する点、比重が水と近い点といった特性がある。そのため、例えば、水蒸気蒸留により、常圧条件下でクロルシクロヘキサンを留出させると、クロルシクロヘキサンは水に不溶であるので、留出液中の水相およびクロルシクロヘキサン相を分離することができ、クロルシクロヘキサンを回収することができるが、クロルシクロヘキサンと水との比重がほぼ等しいため、分離性が十分でなく、還流液への水分の混入によるエネルギーロス、蒸留効率低下、クロルシクロヘキサン回収率低下、水相へのクロルシクロヘキサンの混入といった問題がある。
すなわち、本発明は、クロルシクロヘキサンと該成分よりも高沸点の有機物成分を含む有機物を水蒸気蒸留により精製する方法において、留出液中の水相とクロルシクロヘキサン相を効率的に分離することにより、クロルシクロヘキサンのロスを抑制し、工業的にクロルシクロヘキサンを精製する方法を提供することを課題とする。
そこで、これらの課題を解決するため鋭意検討を行った結果、水蒸気蒸留にて、留出凝縮液を水相とクロルシクロヘキサン相に分離するために、特定の温度条件下とすることにより、分離性が向上できることを見出した。また、さらにアルカリ水溶液を添加することで、分離性をさらに向上させ、かつクロルシクロヘキサンの分解により発生する塩化水素を中和することができ、機器の腐食を抑制できることを見出した。
上記目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用する。
(1)クロルシクロヘキサンと、それよりも高沸点の有機物成分を含む有機物を水蒸気蒸留により精製する方法において、留出蒸気を凝縮させた凝縮液を、分離温度が50℃以上かつ蒸留塔の塔頂温度以下で、クロルシクロヘキサンを含む有機相と水相とを分離させることを特徴とするクロルシクロヘキサンの精製方法。
(2)前記クロルシクロヘキサンを含む有機相と水相の分離において、前記分離温度が60℃〜95℃であることを特徴とする(1)に記載のクロルシクロヘキサンの精製方法。
(3)前記クロルシクロヘキサンを含む有機相と水相の分離において、アルカリ水溶液を添加することを特徴とする(1)または(2)に記載のクロルシクロヘキサンの精製方法。
(4)前記アルカリ水溶液のアルカリがNaOHであることを特徴とする(3)に記載のクロルシクロヘキサンの精製方法。
(5)前記クロルシクロヘキサンを含む有機相と水相の分離において、水相のpHが10以上であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のクロルシクロヘキサンの精製方法。
(6)前記アルカリ水溶液を、前記留出蒸気を凝縮させた凝縮液に添加することを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のクロルシクロヘキサンの精製方法。
(7)前記アルカリ水溶液を、前記蒸留塔において、クロルシクロヘキサンと該成分よりも高沸点の有機物成分を含む有機物を蒸留塔に供給する箇所から上部の位置、および/または還流液、に添加することを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のクロルシクロヘキサンの精製方法。
(8)前記クロルシクロヘキサンが、シクロヘキサンと塩化ニトロシルとを、光の照射により光化学反応させて得られたものであることを特徴とする請求項(1)〜(7)のいずれかに記載のクロルシクロヘキサンの精製方法。
本発明のように、クロルシクロヘキサンと該成分よりも高沸点の有機物成分を含む有機物からクロルシクロヘキサンを精製するために、水蒸気蒸留を適用して、留出凝縮液を水相とクロルシクロヘキサン相と分離性を向上させることで、水相へのクロルシクロヘキサンのロス、クロルシクロヘキサン相への水分の混入を抑制した、純度の高いクロルシクロヘキサンの効率的生産が可能となるという効果がある。
さらに、アルカリ水溶液を添加して分離操作を行うことで、留出凝縮液の分離性を向上でき、アルカリ水溶液を蒸留塔、コンデンサ、留出液や還流液に添加することで、塩化水素による機器の腐食を防止することができるという効果もある。
特に、シクロヘキサンの塩化ニトロシルによる光ニトロソ化反応を用いたカプロラクタムの製造において、シクロヘキサノンオキシムの副生成物として得られるクロルシクロヘキサンの精製での効果が高い。
以下、本発明の実施の形態を図1を参照して説明する。
本発明における水蒸気蒸留は、蒸留塔1内に水蒸気あるいは水の存在下で蒸留を行うことができればいずれでも良い。例えば、蒸留塔1に原料導入ライン2より供給する原料のクロルシクロヘキサン混合液に水を含有させて加熱する方法、蒸留塔1に水を添加して加熱する方法、あるいは飽和水蒸気や過熱水蒸気等の水蒸気を水蒸気導入ライン3より直接吹き込みながら加熱する方法やこれらを組み合わせた方法が好ましい。特に、再沸器のような間接熱交換器を必要とせず、水蒸気を熱エネルギーとして効率的に使用すると共に、クロルシクロヘキサンの分圧を下げることができるので、直接蒸留塔に飽和水蒸気を吹き込む方法が好ましい。水蒸気を直接吹き込む場合、蒸留塔1の塔底液に、水蒸気導入ライン3より水蒸気を吹き込むのが良い。
本発明の水蒸気蒸留に使用する蒸留塔1は、沸点差を利用してクロルシクロヘキサンを蒸留分離できる方法ならいずれでも良い。例えば、多孔板式や泡鐘式といった棚段塔、充填物を用いた充填塔が好ましい。特に、シクロヘキサンの塩化ニトロシルによる光ニトロソ化反応の副生物として得られるクロルシクロヘキサンを原料として用いる場合は、蒸留塔内で炭化物や粘性物による詰まりが生じやすいため、長期運転や洗浄の容易性から多孔板式の棚段塔がより好ましい。
例えば、充填塔の充填物には、市販品の充填物を使用すれば良く、ラシヒリング、ベルルサドル、ポールルリング、インターロックサドル、テラレット、カルケードミニリングスルザーパッキン、メラパック等が挙げられ、規則充填、不規則充填方式いずれでも良い。
本発明の蒸留塔1に原料導入ライン2より供給する原料は、クロルシクロヘキサンと該成分よりも高沸点の有機物成分を含む有機物である。クロルシクロヘキサンよりも低沸点成分を含有していても良いが、留出液中の低沸分が増加するので、留出液中のクロルシクロヘキサン濃度が低下する。したがって、原料中のクロルシクロヘキサンよりも低沸分は除去しておくことが望ましい。また、原料に水分を含有していても良いが、蒸留に必要な熱エネルギーが増加する点、水分率が変動する場合は蒸留効率が大きく変動する可能性が高いため、水分も除去もしくは低減することが望ましい。
本発明の原料となるクロルシクロヘキサンは、例えば、シクロヘキサンの塩素化やシクロヘキサノールと塩酸との加熱により得られるもの、その他光塩素化等によりクロルシクロヘキサンが合成、副生されるものであればいずれでも良い。特に、シクロヘキサンの塩化ニトロシルによる光ニトロソ化反応を用いて、シクロヘキサノンオキシムの副生成物として得られるクロルシクロヘキサンが望ましい。さらに、このクロルシクロヘキサンには未反応のシクロヘキサンや反応副生物であるジクロルシクロヘキサン、硝酸シクロヘキシル、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール、シクロヘキセン、水分等が含有されるので、クロルシクロヘキサンよりも低沸分であるシクロヘキサン、シクロヘキセン、水分は蒸留等により分離しておく方が好ましく、特に未反応で大量に存在するシクロヘキサンは分離回収することが望ましい。例えば、この場合の高沸点の有機物成分は、ジクロルシクロヘキサン、硝酸シクロヘキシル、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール等が挙げられる。
本発明のクロルシクロヘキサンと該成分よりも高沸点の有機物成分を含む有機物である原料におけるクロルシクロヘキサン濃度は、クロルシクロヘキサンが含有していればいずれでも良いが、生産性や高純度品からの観点からクロルシクロヘキサン濃度は高い方が望ましく、クロルシクロヘキサン濃度は40〜95wt%が好ましく、さらに、クロルシクロヘキサンの生産性を向上するには、クロルシクロヘキサン濃度は60wt%以上が好ましい。原料のクロルシクロヘキサンよりも低沸点の有機物成分は、1.0wt%以下が好ましく、例えばシクロヘキサンは0.05wt%以下、シクロヘキセン0.50wt%以下が好ましい。
本発明の留出蒸気を凝縮させた凝縮液は、水分を除く有機分のクロルシクロヘキサン濃度として95wt%以上とすることが好ましい。クロルシクロヘキサンの濃度が低下する場合は、原料由来の不純物や分解物が混入されており、これらの成分の影響で有機相の比重が変化し、水相と有機相との分離不良を起こすので、好ましくは95wt%以上とすることが好ましい。さらに、高純度の製品クロルシクロヘキサンを得るには、97wt%以上とすることが望ましい。
クロルシクロヘキサンよりも低沸分を分離しない、あるいは低沸分が含有される場合は、蒸留塔において、原料供給箇所から蒸留塔塔頂までの間から、サイドカットを取ることで、低沸分を低減あるいは除去されたクロルシクロヘキサンを得ることも可能である。
本発明の水蒸気蒸留における蒸留温度は、塔頂温度80℃〜120℃が好ましい。その際、クロルシクロヘキサンの飽和蒸気圧と飽和水蒸気圧との関係から、塔頂圧力は60kPa〜250kPa(絶対圧)となる。蒸留塔の設備コスト低減や運転の容易性から、常圧(101.3kPa)付近での操作が好ましい。例えば、常圧条件での蒸留温度は、クロルシクロヘキサンの飽和蒸気圧と飽和水蒸気圧との関係から理論上93℃となる。したがって、運転上の変動や圧力損失等を考慮して、蒸留塔塔頂温度は90℃〜100℃、蒸留塔塔頂圧力は常圧〜135kPaがより好ましい。
蒸留塔1の理論段数は2段以上が好ましい。留出蒸気ライン4より留出蒸気をコンデンサ5で凝縮した凝縮液ライン6の凝縮液にて、水分を除く有機物中のクロルシクロヘキサン濃度を95wt%以上とするには、濃縮部の段数を2段〜45段とすることが好ましい。蒸留塔1の缶出液ライン7より得られた缶出液にて、水分を除く有機物中のクロルシクロヘキサン濃度を35wt%以下とするためには、回収部の段数を1段〜25段とすることが好ましい。例えば、シクロヘキサンの塩化ニトロシルによる光ニトロソ化反応において、副生されるクロルシクロヘキサンを原料とした場合、該クロルシクロヘキサン濃度97wt%以上を得るには、濃縮部の段数を20〜30段とすることがさらに好ましい。
本発明の留出蒸気を凝縮させた凝縮液を得るには、留出蒸気を理論上全凝縮可能な熱交換容量を有すれば、どのようなコンデンサ5を用いても良い。例えば、コンデンサ5にはシェルアンドチューブ等の多管式熱交換器、スパイラル熱交換器、濡壁式熱交換器、プレート式熱交換器等の間接熱交換器を用いると良い。さらに、留出蒸気量やコンデンサ5の冷却水量の増減に対して、竪型シェルアンドチューブや濡壁式の熱交換器を用いることで、コンデンサ5内で凝縮液の落液は留出蒸気と向流接触させることが可能なため、凝縮液の温度を一定温度に保ち易いので、さらに好ましい。また、図2のように、コンデンサ5を蒸留塔1の塔頂に設けて、留出蒸気ライン4を省くこともでき、留出蒸気ラインの腐食抑制の点から好ましい。留出蒸気に、窒素、酸素や空気等のイナートガスが含まれる場合や防災上の観点からイナートガスライン13に窒素を導入する場合には、常温以下まで冷却可能な冷却器、熱交換器、スクラバー、シールポットなどを設置して、イナートガスに同伴される有機分を除去、回収することが好ましい。
本発明の凝縮液を、クロルシクロヘキサンを含む有機相(以下、クロルシクロヘキサン相)と水相に分離させて、クロルシクロヘキサン相をクロルシクロヘキサン相ライン8より、水相を水相ライン9より得て、分液させる分離温度は、50℃以上かつ蒸留塔の塔頂温度以下である。クロルシクロヘキサン相が水相に対して難溶解性であることから2相に分離できる。しかし、常温では比重差を得難く分離不良に陥りやすい、そこで、分離器10での分離温度、あるいは分離器10に導入される凝縮液ライン6の凝縮液の液温度を上昇させることで比重差を増大させることができる。しかし、分離温度が高温過ぎると、クロルシクロヘキサン相や水相の揮発、クロルシクロヘキサンの熱分解、クロルシクロヘキサンに対する水の溶解度上昇が生じるため、クロルシクロヘキサン相と水相に分離あるいは分液させる分離温度は、60℃〜90℃が好ましいが、95℃以下であっても好ましい結果が得られる。
さらに、連続運転において、分離温度の変動範囲、つまり分離温度の最大値と最小値との温度差は10℃以内にすることが好ましく、さらに、クロルシクロヘキサン相の水分や水相中のオイル分の変動範囲を小さくできるので、該温度の変動範囲は5℃以内にすることが好ましい。さらに、クロルシクロヘキサン相と水相の界面の上下変動を抑制でき、界面変動による分離不良を軽減できるので、該温度の変動範囲は3℃以下が好ましい。
本発明の凝縮液をクロルシクロヘキサン相と水相とに分離させる温度を制御する方法は、分離器10にて内外部より水蒸気やヒーター等の熱源にて間接加熱して、分離温度を管理しても良い。蒸留塔の熱エネルギーを有効に使うためには、留出蒸気をコンデンサ5にて凝縮するときの凝縮液温度を、50℃以上かつ蒸留塔の塔頂温度以下として凝縮液を得ることで、分離器10の温度を容易に管理しやすいため好ましい。さらに好ましくは、凝縮液温度を60℃〜90℃とするのが良いが、95℃以下であっても好ましい結果が得られる。
さらに、連続運転において、凝縮液温度の変動範囲、つまり凝縮液温度の最大値と最小値との温度差は10℃以内にすることが好ましく、さらに、クロルシクロヘキサン相の水分や水相中のオイル分の変動範囲を小さくできるので、該温度の変動範囲は5℃以内にすることが好ましい。さらに、クロルシクロヘキサン相と水相の界面の上下変動を抑制でき、界面変動による分離不良を軽減できるので、該温度の変動範囲は3℃以下が好ましい。さらに、配管や分離器での放熱ロスにより温度低下が生じるので、保温材や外部加熱により保温することが望まれる。
本発明の分離器10は、凝縮液中のクロルシクロヘキサン相と水相とを比重差を利用して分離、分液ができればいずれの装置でも良い。例えば、静置分離のような、上部にクロルシクロヘキサン相、下部に水相となるように、分離界面が確認、管理でき、分離可能な一定の滞留時間を有した単なるタンクや遠心力を利用したデカンタのような遠心分離器がある。さらに、静置分離のようなタンク式の分離器10でのクロルシクロヘキサン相と水相の滞留時間は、それぞれ0.5h以上とすることが好ましく、より安定的な分離性を得るには、それぞれ1h以上とすることが好ましい。さらに、静置分離のようなタンク式の分離器10を用いる場合、凝縮液は分離器10の液界面付近に供給することが、分離性向上のために好ましい。
本発明においてクロルシクロヘキサン相と水相に分離させる際、上記凝縮液にアルカリ水溶液を添加することは、クロルシクロヘキサン相と水相との比重差を増大させ、分離性が向上できるので好ましい。添加するアルカリ水溶液は、アルカリの揮発性が小さく、クロルシクロヘキサン相に溶解せず、水相に溶解し水相の比重を増大できればいずれでも良い。例えば、NaOH、KOH等の無機アルカリの水溶液が好ましい。さらに、安価で比較的容易に得られるので、NaOH水溶液が好ましい。アルカリ水溶液のアルカリ濃度は50wt%以下が良く、操作性から20〜30wt%が好ましい。
本発明のアルカリ水溶液の添加は、分離器10において水相にアルカリ水溶液が均一に溶解していれば、コンデンサ5、凝縮液ライン6や分離器10のいずれの箇所に添加しても良い。さらに、留出蒸気を凝縮させた凝縮液にアルカリ水溶液を添加することで、分離器10に供給される前に、アルカリ水溶液が凝縮液と均一に混合されて水相に溶解され、分離器10で分離し易いので、コンデンサ5あるいは/および凝縮液ライン6に添加するのがより好ましい。添加する箇所も1箇所でも、複数でも構わない。アルカリ水溶液の添加量は、分離器10においてクロルシクロヘキサン相と水相が分離できればいずれでも良いが、好ましくは水相のpHが10以上、更に好ましくはpH12以上となる添加量が良い。クロルシクロヘキサン相と水相との分離向上には、蒸留塔1に供給する原料の重量部に対して、アルカリ重量換算で0.05wt%以上が好ましく、さらには分離性向上には0.1wt%以上が良い。上限としては排水処理のアルカリ負荷の上昇の点から3.0wt%以下が好ましい。
さらに、クロルシクロヘキサンの蒸留において、クロルシクロヘキサンが熱分解され、微量に塩化水素を発生させ、機器の腐食の要因となるため、アルカリ水溶液の添加は、蒸留塔1、原料導入ライン2、クロルシクロヘキサン相ライン8、還流液ライン11に添加することが好ましい。さらに、微量の塩化水素による腐食の影響は、蒸留塔1の上部や留出蒸気ライン4、コンデンサ5で生じやすいため、蒸留塔へ原料を供給する箇所から上部の位置、および/または還流液、に添加することがより好ましい。機器の腐食抑制には、蒸留塔1に供給する原料の重量部に対して、アルカリ重量換算で0.3wt%以上が好ましい。さらに、機器の材質をアップせずに、長期間の腐食防止を達成するには、蒸留塔1に供給する原料の重量部に対して、アルカリ重量換算で0.6wt%以上が好ましい。
特に、前記分離性の向上として添加するアルカリ水溶液および腐食対策として添加するアルカリ水溶液を併せた総アルカリ水溶液の添加量は、蒸留塔1に供給する原料の重量部に対して、アルカリ重量換算で、0.7wt%以上が好ましいが、さらに1.0〜5.0wt%が好ましい。
例えば、アルカリ水溶液の添加箇所は、図1において、アルカリ添加ライン14〜20が挙げられる。クロルシクロヘキサン相ライン8にアルカリ水溶液を添加する場合は、製品クロルシクロヘキサンライン12のクロルシクロヘキサンに水分およびアルカリ水溶液が微量に含有されるので、後工程にて分離および脱水を行うのが好ましい。例えば、水分分離操作としては、滞留時間を十分に取った連続や回分式の静置分離方式、遠心分離方式、脱水操作としては、活性炭やゼオライトのような固体吸着材等が挙げられる。
以下実施例により、本発明を具体的に説明する。
実施例1〜4
精製に供するクロルシクロヘキサンは、シクロヘキサン(20m3/h)を光反応槽(150m3/槽)に供給し、高圧ナトリウムランプ(50KW/本)を浸漬させて、塩化水素ガスを含む塩化ニトロシル(6000Nm3/h)を供給し、光照射させて、光ニトロソ化反応によるシクロヘキサノンオキシム塩酸塩が得られるカプロラクタム製造工程において該シクロヘキサノンオキシムの生成の際に副生するクロルシクロヘキサンを用いた。精製に供するクロルシクロヘキサンは、下記の方法により調製し、粗クロルシクロヘキサンとした。
すなわち、上記シクロヘキサノンオキシムの生成時に副生するクロルシクロヘキサンは、未反応のシクロヘキサン中に溶存し、シクロヘキサノンオキシム塩酸塩とは溶解せず、約20〜25℃程度の温度で比重差によりシクロヘキサノンオキシム塩酸塩との分離を行った。未反応のシクロヘキサンに溶存したクロルシクロヘキサンは、NaOH水溶液を用いて、pH10にて中和後、蒸留によりシクロヘキサンを留出させ、缶出液として粗クロルシクロヘキサンを得た。この粗クロルシクロヘキサンを原料として用いた。
原料として用いる粗クロルシクロヘキサンの有機分の組成は、クロルシクロヘキサン75.74wt%、シクロヘキサン0.01wt%、シクロヘキセン0.05wt%、シクロヘキサノン1.23wt%、シクロヘキサノール1.15wt%、硝酸シクロヘキシル13.10wt%、1,2−ジクロルシクロヘキサン6.26wt%であった。
粗クロルシクロヘキサン(1.5m3/h)を用いて、図1の工程により水蒸気蒸留を行った。蒸留塔は多孔板式で、濃縮部の段数25段である。蒸留塔の塔頂温度を96℃として、132kPa−G(ゲージ圧)の飽和水蒸気を蒸留塔底部より直接投入した。蒸留塔の塔頂圧力は112kPa(絶対圧)である。
コンデンサには竪型シェルアンドチューブを用い、留出蒸気を凝縮した。冷却水として工業用水を用いて凝縮液の温度を制御した。分離器は円筒槽を用い、エネルギーバランスから求められる凝縮液量より、クロルシクロヘキサン相の滞留時間1.0h、水相の滞留時間1.2hとなる液界面に凝縮液を供給した。分離器底部より水相を分離し、該上部よりオーバーフローさせてクロルシクロヘキサン相を得た。該クロルシクロヘキサン相を、還流比2として、一部を蒸留塔の塔頂より1段目に還流させた。
腐食防止のために、25wt%NaOH水溶液を蒸留塔の塔頂より1段目、11段目に添加した。添加量は、原料重量部に対してNaOH重量換算量で1.0wt%である。
以下のように、NaOH添加量は原料重量部に対するNaOH重量換算量とする。
NaOH添加量(wt%)=25wt%NaOH水溶液中のNaOH量(kg/h)/原料供給量(kg/h)×100
製品クロルシクロヘキサンの有機分中のクロルシクロヘキサンの濃度は、98.10wt%であった。
原料の有機分の組成分析は、原料試料中の浮遊物および塩基性物質等を除去するために、分液ロートにて10%硫安水で分液した。有機相を無水硫酸ナトリウム(試薬1級)で脱水し、内標準物質を加えて、充填剤にPEG6000液相をコーティングしたパックドカラムを装着したTCD型ガスクロマトグラフィー(GC)分析装置(島津製作所社製、GC−8AT)にて測定した。各成分は、内標準物質としてシクロペンタノール(試薬特級)を用いた内部標準法で求めた。
製品クロルシクロヘキサンの組成分析は、有機相を無水硫酸ナトリウム(試薬1級)で脱水し、充填剤にPEG6000液相をコーティングしたパックドカラムを装着したTCD型GC分析装置(島津製作所社製、GC−8AT)にて測定した。相対面積百分率法で求めた。
コンデンサにて凝縮液温を調整し、分離器内での温度(温度計は分離器底部につき、水相温度である)を変化させて、分離操作を行った。実施例1、2、3および4は、それぞれ分離器の温度を51.0℃、60.1℃、74.5℃および87.0℃である。
分離性は、分離後のクロルシクロヘキサン相と水相をそれぞれ、250mlメスシリンダーに採取し、浮子式の標準比重計にて測定し、その比重差(=水相の比重−クロルシクロヘキサン相の比重)より評価した。放冷により液温が低下しないように、恒温槽や保温材により液温を保持して、素早く測定し、3回測定値の平均値を比重値とした。
また、分離器出の水相中に同伴されるオイル分から、分離器での分離性を評価した。水相中のオイル分析は、内標準物質としてクロルベンゼン(試薬特級)を添加したジクロルエタン(試薬特級)の抽出液と水相試料を振盪してオイル分を抽出し、静置分離した後、抽出液をTCD型GC分析装置(島津製作所社製、GC−8AT)にて測定し、水相中のオイル分(ppm)を求めた。オイル分は、クロルシクロヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキセン、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール、硝酸シクロヘキシル、1,2−ジクロルシクロヘキサンの合計値である。
また、分離器後のクロルシクロヘキサン相に同伴される水分より分離性を評価した。水分の分析は、クロルシクロヘキサン相の試料を採取し、アクアカウンター水分測定装置(平沼産業社製、AQ−6型)を用いて、カールフィッシャー法により水分(ppm)を定量した。
結果を表1に示す。
比較例1
分離器の温度を38.0℃として、その他の条件等は、実施例1〜4と同様に行った。結果を表1に示す。分離性が悪いので、クロルシクロヘキサン相の水分率が安定しないため、その変動範囲で示した。
実施例5〜9
原料の粗クロルシクロヘキサン供給量を1.5m3/hとし、還流比1.7となるように水蒸気を投入し蒸留した。分離器温度を81.9℃とした。製品クロルシクロヘキサンの有機分中のクロルシクロヘキサンの濃度は97.90wt%であった。
アルカリ添加は、腐食対策用としての蒸留塔への添加のほかに、コンデンサで凝縮した凝縮液にアルカリ添加ライン15より添加し分離性向上を試みた。NaOH添加量は原料重量部に対するNaOH重量換算量とする。
分離器出の水相のpHを測定(堀場製作所社製、F−14)した。
その他の条件等は、実施例1〜4と同様に行った。結果を表2に示す。
実施例10および11
実施例10および11では、原料の粗クロルシクロヘキサン供給量0.8〜1.8m3/hとし、還流比2〜4となるように水蒸気を投入し蒸留した。分離器は円筒槽を用い、分離器の高さの半分の位置に凝縮液を供給した。凝縮液量より、クロルシクロヘキサン相の滞留時間は0.6〜1.0h、水相の滞留時間は1.0〜1.8hである。
実施例10では、アルカリの添加は、腐食対策として、図1のアルカリ添加ライン18より、原料に添加した。実施例11では、腐食対策として、アルカリ水溶液を蒸留塔1の塔頂より1段目、11段目および分離器出のクロルシクロヘキサン相ライン8に添加した。図1より添加箇所はそれぞれ16、17および19である。分離向上のために凝縮液ライン6にも添加した。
実施例10では、原料へのアルカリ添加量は原料重量部に対してNaOH重量換算で0.31〜0.51wt%とした。
実施例11では、腐食対策としての添加箇所はそれぞれ16、17および19の添加量は原料重量部に対してNaOH重量換算で0.41〜0.92wt%、0.41〜0.93wt%および0.23〜0.51wt%とし、腐食対策してのNaOH量は、原料重量部に対してNaOH重量換算で1.05〜2.36wt%である。分離性向上のための凝縮液へのNaOH添加量は、原料重量部に対してNaOH重量換算で0.18〜0.39wt%とした。添加した総NaOH量は、原料重量部に対してNaOH重量換算で1.23〜2.75wt%である。
機器の腐食の状況を目視で確認した。運転期間は実施例10で6ヶ月、実施例11で1年である。
原料の有機分のクロルシクロヘキサン濃度は、実施例10および11での運転期間では、クロルシクロヘキサン60.78〜81.39wt%であった。
製品クロルシクロヘキサンの有機分中のクロルシクロヘキサン濃度は、実施例10および11での運転期間では、クロルシクロヘキサン97.4〜98.0wt%であった。
その他の条件等は、実施例1〜4と同様に行った。
結果を表3に示す。
なお、上記において運転条件に幅があるのは運転期間中の条件変動による。該条件変動は最大値と最小値を示した。表中の水分率変動幅はクロルシクロヘキサン相の水分率の最大値と最小値の差である。オイル分の変動幅は水相のオイル分の最大値と最小値の差である。
実施例12
分離器の温度を82〜87℃とし、その他の条件等は実施例11と同様に行った。運転期間は1ヶ月である。結果を表4に示す。
実施例13
実施例1〜4と同様に、光ニトロソ化反応により得られた粗クロルシクロヘキサンを原料として用いた。粗クロルシクロヘキサンの有機分の組成は、クロルシクロヘキサン70.3〜73.1wt%、シクロヘキサン0.001〜0.01wt%、シクロヘキセン0.001〜0.08wt%、シクロヘキサノン1.04〜1.27wt%、シクロヘキサノール0.04〜0.23wt%、硝酸シクロヘキシル12.6〜14.1wt%、1,2−ジクロルシクロヘキサン4.41〜5.52wt%であった。
粗クロルシクロヘキサン(0.8〜1.8m3/h)を用いて、図2の工程により水蒸気蒸留を行った。蒸留塔は多孔板式で、濃縮部の段数25段である。蒸留塔の塔頂温度を96.5〜98.5℃として、405.2kPa−G(ゲージ圧)の飽和水蒸気を蒸留塔底部より直接投入した。蒸留塔の塔頂圧力は101.6〜102.0kPa(絶対圧)である。
コンデンサには竪型シェルアンドチューブを用い、蒸留塔の塔頂にコンデンサを設置した。分離器は円筒槽を用い、分離器の高さの半分の位置に凝縮液を供給した。凝縮液量より、クロルシクロヘキサン相の滞留時間は0.6〜1.1h、水相の滞留時間は1.0〜2.1hである。分離器底部より水相を分離し、該上部よりオーバーフローさせてクロルシクロヘキサン相を得た。該クロルシクロヘキサン相を、還流比1.0〜4.2として、一部を蒸留塔の塔頂より1段目に還流させた。
分離向上のために、25wt%NaOH水溶液を凝縮液ライン6に添加し、アルカリ添加量は原料重量部に対してNaOH重量換算で0.14〜0.39wt%とした。
腐食対策として、アルカリ水溶液を蒸留塔1の塔頂より1段目、9段目および分離器出のクロルシクロヘキサン相ライン8に添加した。図2より添加箇所はそれぞれ16、17および19である。それぞれの添加量は原料重量部に対してNaOH重量換算で0.48〜1.65wt%、0.18〜0.55wt%および0.05〜0.47wt%とし、腐食対策してのNaOH量は、原料重量部に対してNaOH重量換算で0.71〜2.67wt%である。
図2の工程で添加した総NaOH量は0.85〜3.06wt%である。
製品クロルシクロヘキサンの有機分のクロルシクロヘキサン濃度は、クロルシクロヘキサン97.5〜98.1wt%であった。
その他の条件等は、実施例1〜4と同様に行った。運転期間は4ヶ月である。結果を表4に示す。
なお、上記において運転条件に幅があるのは運転期間中の条件変動による。該条件変動は最大値と最小値を示した。表中の水分率変動幅はクロルシクロヘキサン相の水分率の最大値と最小値の差である。オイル分の変動幅は水相のオイル分の最大値と最小値の差である。
以上の結果より、実施例1〜4により、分離温度を50℃以上にすることで、クロルシクロヘキサン相と水相との比重差が増大し、分離温度38℃の比較例1と比較すると、分離性が良好となった。さらに、水相中のクロルシクロヘキサン濃度は、比較例1と比べ半減しており、比重差の増大と共に、水相中のクロルシクロヘキサン濃度は減少傾向にあり、クロルシクロヘキサンのロスを低減し、排水負荷を低減することができる。特に、60〜95℃の範囲である実施例2〜4の水相中のクロルシクロヘキサン濃度が低い。比較例1では比重差が非常に小さく分離性が悪く、水相のオイル分が高く、またクロルシクロヘキサン相の水分率も高くかつ大きく変動した。
実施例6〜9では、NaOH水溶液を凝縮液に添加して、分離器にてクロルシクロヘキサン相と水相を分離させた結果、アルカリ添加により、無添加の実施例5に比べさらに比重差を増大させることができ、分離性がいっそう向上できた。アルカリの添加量は、水相のpHが10以上あれば、クロルシクロヘキサン相中の水分率をよりいっそう低減できた。特に、アルカリ添加量が多いほど、言い換えると水相のpHが12以上では良好な結果を得た。アルカリ添加によりクロルシクロヘキサン中の水分率を減少でき、高品質のクロルシクロヘキサンを得ることができ、後工程の水分除去工程を軽減できる。
実施例10では、原料にアルカリ添加して腐食対策を行ったが、6ヶ月で、蒸留塔の塔頂部天板、留出蒸気配管が一部腐食(材質:SUS316L)したので補修を行った。また、水相のpHの低下が酸性サイドになるときもあった。さらに、クロルシクロヘキサン相と水相との界面の位置が上下変動して、クロルシクロヘキサン相の水分および水相のオイル分が同伴されて上昇することがあった。実施例11では、蒸留塔の上部、還流液にもアルカリを添加することで、1年間腐食はなかった。原料の供給条件や還流条件を変動させて長期間運転したが、凝縮液にアルカリを添加することで、実施例10よりもクロルシクロヘキサン相の水分率および水相のオイル分が低位であり、その変動範囲も狭く、安定的に分離が可能であった。
実施例12では、分離器の温度を82〜87℃と温度変動の範囲を5℃とすることにより、実施例11の温度変動の9℃よりも安定して分離が可能であった。具体的には、クロルシクロヘキサン相の水分率および水相のオイル分の変動幅が小さい。
実施例13では、蒸留装置を変更して、蒸留条件を大きく変更して運転を行ったが、分離温度89〜92℃での高温条件は、比重差を大きく取ることができ、安定的にクロルシクロヘキサン相と水相とを分離でき、水相中へのオイル分の溶解も増大せず、水相中のオイル分は比較的低位で安定した。また、クロルシクロヘキサン相への水溶解度が増すと考えられるが、比重差が大きく取れることで水分の同伴が減少するため、大幅な増大はない。また、高温条件のためクロルシクロヘキサンの分解により発生するHClにより水相のpHの低下も懸念されたが、pHの低下もなく、製品クロルシクロヘキサンの有機分のクロルシクロヘキサン濃度の低下もなかった。さらに、分離器の温度変動の範囲を3℃とすることで、安定な界面位置を維持でき、実施例12よりもクロルシクロヘキサン相の水分率および水相のオイル分の変動幅が小さい。高温条件で分離できることにより、コンデンサでの冷却水量の削減が可能である。また、4ヶ月間の運転で工程の腐食は見受けられなかった。
クロルシクロヘキサンは、合成ゴムおよび天然ゴムの添加剤の原料やシクロヘキセンの合成原料として使用されているが、クロルシクロヘキサンを工業的な生産は数少なく、例えば、光ニトロソ化反応によるカプロラクタム製造において、副生されるクロルシクロヘキサンを精製しているが、不純物が含有し、比重等の物性や熱分解性といった観点から、安定かつロスの少ない精製方法が望まれていた。
本発明により、クロルシクロヘキサンと該成分よりも高沸点の有機物成分を含む有機物からクロルシクロヘキサンを回収、精製するために、水蒸気蒸留を適用して、蒸留温度を下げ、留出された凝縮液を水相とクロルシクロヘキサン相との分離を、分離温度やアルカリ添加により向上させることで、水相へのクロルシクロヘキサンのロス、クロルシクロヘキサン相への水分の混入を抑制して、機器の腐食を抑制し、安定的にクロルシクロヘキサンを精製することができ、環境負荷の少ない、水分の少ないクロルシクロヘキサンを提供することが可能となる。
図1は、本発明の実施形態の一例である。
図2は、本発明の実施形態の一例である。
符号の説明
1 蒸留塔
2 原料導入ライン
3 水蒸気導入ライン
4 留出蒸気ライン
5 コンデンサ
6 凝縮液ライン
7 缶出液ライン
8 クロルシクロヘキサン相ライン
9 水相ライン
10 分離器
11 還流液ライン
12 製品クロルシクロヘキサンライン
13 イナートガスライン
14 アルカリ添加ライン
15 アルカリ添加ライン
16 アルカリ添加ライン
17 アルカリ添加ライン
18 アルカリ添加ライン
19 アルカリ添加ライン
20 アルカリ添加ライン