本発明の皮革様シートは、JIS L 1061(1987)B−1法(定荷重法)で得られる耐バギング性の値が4〜8mmである。好ましくは、7mm以下であり、より好ましくは6mm以下である。定荷重法における耐バギング性の値が8mmを超えると、特に力の掛かりやすい部位において型崩れがしやすくなり、本発明の期待する効果が得られない。一方、この値は小さいほど耐バギング性は良いことを示すが、本発明においては、衣料の着用感を重視し、なじみ等が優れることから、4mm以上であり、好ましくは5mm以上である。
また、本発明の皮革様シートは、さらにJIS L 1061(1987)B−2法(定伸長法)で得られる耐バギング性の値が4〜8mmである。好ましくは7mm以下であり、より好ましくは6mm以下である。定伸長法における耐バギング性の値が8mmを超えると、特に伸びやすい部分において型崩れがしやすくなり、本発明の期待する効果が得られない。また、本発明においては、衣料の着用感を重視し、なじみ等が優れることから、4mm以上であり、好ましくは5mm以上である。
本発明の皮革様シートは、定伸長法及び定荷重法の耐バギング性を特定の範囲で両立させるところに特徴があり、これにより着用感に優れ、かつ、型崩れなく長期に使用できる衣料を提供することが可能となる。
また、本発明の皮革様シートは、より着用感を高めるため、いずれか一方向の伸長率が5〜25%であることが好ましい。7%以上であることがより好ましく、10%以上であることがさらに好ましい。また、20%以下であることがより好ましい。
伸長率が5%以上であれば、着用感に優れると共に、特に定伸長法による耐バギング性が向上するため好ましい。一方、着用感の観点からは伸長率は高いほどよい傾向を示すが、25%以下であると、定荷重法による耐バギング性が向上するため好ましい。
ここで、伸長率はタテ方向およびヨコ方向のいずれも5〜25%の範囲にあることが好ましい。一方のみであると、上述した定伸長法または定荷重法のいずれか、又は、その両方の耐バギング性が劣る傾向があるため、いずれも5〜25%の範囲にあることが好ましいのである。
また、皮革様シートのタテ方向とヨコ方向の伸長率の比は、定伸長法及び定荷重法の耐バギング性を本発明の数値範囲とするために重要であり、タテ方向の伸長率をヨコ方向の伸長率で割った値が0.6〜1.3の範囲であることが好ましく、0.6〜1.1であることがより好ましく、0.7〜1.0であることがさらに好ましい。0.6以上および1.3以下であると、荷重や伸長が一定方向に偏ることなく、良好な耐バギング性を得ることができる。
なお、本発明において、皮革様シートの形成方向をタテ方向とし、幅方向をヨコ方向とするものである。形成方向は、構成する繊維の配向方向、ニードルパンチや高速流体処理等によるスジ跡や処理跡、織編物の組織等の複数の要素から、一般に判断可能である。これらの複数の要素による判断が相反している、明確な配向がない、またはスジ跡などがない等の理由で、明確なタテ方向の推定や判断が不可能な場合には、引張強力が最大となる方向をタテ方向として、それと直交する方向をヨコ方向とするものである。
本発明でいう伸長率とはJIS L 1096(1999)8.14.1 A法(定速伸長法)で規定される試験片幅5cm(つかみ間隔20cm)に対し14.7Nの荷重をかけた場合(試験片幅1cmあたり2.94N)の伸長率(%)をいう。
また、本発明の皮革様シートは、いずれか一方向の伸長回復率が80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。伸長回復率が80%以上であれば、繰り返しの伸長による型崩れを起こしにくくなるため好ましい。なお、タテ方向およびヨコ方向のいずれも、80%以上であることがより好ましい。いずれの方向も伸長回復率に優れることによって、本発明の特に定伸長法における耐バギング性を向上させることができる。ここで、伸長回復率とは、JIS L 1096(1999)8.14.2 A法(つかみ間隔20cm)で規定されるものをいう。
本発明の皮革様シートは、少なくとも不織布と織編物から構成される。
本発明の皮革様シートを構成する不織布は、平均単繊維繊度が0.0001〜0.5デシテックスの極細繊維からなる。平均単繊維繊度は、好ましくは0.001〜0.3デシテックス、より好ましくは0.005〜0.15デシテックスである。平均単繊維繊度が0.0001デシテックス未満であると、皮革様シートの強度が低下するため好ましくない。また平均単繊維繊度が0.5デシテックスを越えると、皮革様シートの風合いが堅くなり、また、繊維の絡合が不十分になって、皮革様シートの表面品位が低下したり、耐摩耗性が低下したりする等の問題も発生するため好ましくない。なお、本発明の効果を損なわない範囲で、単繊維繊度が0.0001デシテックス未満の繊維もしくは単繊維繊度が0.5デシテックスを越える繊維が含まれていてもよい。単繊維繊度が0.0001デシテックス未満の繊維および単繊維繊度が0.5デシテックスを越える繊維の含有量は、数にして、不織布を構成する繊維の30%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、全く含まれないことがもっとも好ましい。
本発明でいう平均単繊維繊度は、繊維断面を100個無作為に選んで断面積を測定した後、100個の繊維断面積の数平均を求め、繊維の比重から繊度を計算により求めた値を用いる。なお、繊維の比重はJIS L 1015 8.14.2(1999)に従って求めた値を用いる。
本発明では、不織布においてこれらの繊維同士が相互に絡合していることが、皮革様シートの耐摩耗性が向上するため好ましい。従来の極細繊維からなる皮革様シートの大半は、極細繊維が集束した繊維束の状態で絡合した構造を有している。しかし、繊維束がほとんど確認できない程度にまで極細繊維同士が相互に絡合した構造を有していると、耐摩耗性を大幅に向上させることができる。特に繊維長が1cm以上の場合、その傾向は顕著である。なお、本発明の効果が損なわれない範囲で繊維束の状態で絡合した構造が含まれていてもよい。
不織布は短繊維からなるものでも、長繊維からなるものでもよい。短繊維不織布は高品位な表面となる点で好ましいが、長繊維不織布は製造工程を単純化できる点で好ましい。
また、短繊維不織布の場合、その製造方法から乾式不織布と湿式不織布に類別することができるが、乾式不織布が高品位な表面を形成できるため好ましい。
短繊維の平均繊維長は、特に限定されるものではないが、20mm以上が好ましく、30mm以上がより好ましい。また、100mm以下が好ましく、70mm以下がさらに好ましい。平均繊維長が20mm未満では耐摩耗性が低下し、100mmを越えるとストレッチ性や表面品位が低下する傾向があるので好ましくない。また、さらに、表面品位を向上させる目的で、20mm〜100mmの極細繊維の中に、0.1mm以上、20mm未満の極細繊維を混在させることも、好ましい態様である。
本発明でいう平均繊維長は、任意の3箇所からそれぞれ繊維を100本抜き出して繊維長を測定し、測定した300本分の繊維長の数平均を用いる。
また、長繊維不織布の場合、スパンボンド法によって得られる不織布を用いることができ、連続フィラメントの状態で捕集されるものであれば、皮革様シートとする過程において繊維の一部が切断されていてもよい。
不織布の目付は、30g/m2以上であることが好ましく、50g/m2以上であることがより好ましく、70g/m2以上であることがさらに好ましい。150g/m2以下であることが好ましく、120g/m2以下であることがより好ましく、100g/m2以下であることがさらに好ましい。30g/m2以上であれば、表面に織編物の露出が目立たなく高品位な表面を容易に得ることができる。また150g/m2以下であれば、表面に凹凸が形成され難く、同様に高品位な表面を容易に得ることができると共に、より高い耐摩耗性を得ることができる。
不織布を構成する繊維は、非弾性繊維からなることが好ましい。具体的には、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン等からなる繊維が好ましく用いられる。ポリエーテルエステル系繊維やいわゆるスパンデックス等のポリウレタン系繊維などの弾性繊維は好ましくない。
ポリエステルとしては、繊維化が可能なものであれば特に限定されるものではない。具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレ−ト、ポリエチレン−1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレート等が挙げられる。中でも最も汎用的に用いられているポリエチレンテレフタレートまたは主としてエチレンテレフタレート単位を含むポリエステル共重合体が好適に使用される。
また、ポリアミドとしては、たとえばナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12、等のアミド結合を有するポリマーを挙げることができる。
これらのポリマーには、隠蔽性を向上させるためにポリマー中に酸化チタン粒子等の無機粒子を添加してもよいし、潤滑剤、顔料、熱安定剤、紫外線吸収剤、導電剤、蓄熱材、抗菌剤等、種々目的に応じて添加することもできる。
また、本発明では織編物を必須の構成要素とし、これにより良好な耐バギング性を得ることができる。織編物がない場合、高分子弾性体を多量に繊維と接着するように付与することで、例えば定荷重法における耐バギング性を向上させることは可能である。しかし、逆に定伸長法における耐バギング性は低下する傾向にある。ここで、織編物とは織物と編物を指すが、編物は織物と比較して形態安定性に劣る傾向があるため、織物であることがより好ましい。
織編物に用いられる繊維は特に限定されるものではないが、皮革様シートの伸長率や耐バギング性に大きく影響する点に留意して選択し、好ましくは伸長性を有する繊維とする。また、表面への露出によるいらつきを防止するため、非弾性繊維であることが好ましい。また、リサイクル性や染色性等を考慮して、皮革様シートを構成する繊維、すなわち、不織布及び織編物を構成する繊維が単一素材となるように選択することがより好ましい。
ここで単一素材とは、同一の染料で実用上問題ないレベルで染色できる素材の範囲を示し、例えばポリエステル単一素材であれば、ポリエチレンテレフタレートのほか、分散染料で染色できる素材としてポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等や、その共重合体を含むが、堅牢度に問題が生じるナイロン6は含まない。逆に、ポリアミド単一素材であれば、酸性染料で染色できるナイロン6、ナイロン66、ナイロン12等や、その共重合体等をいう。
また、織編物の伸長率はいずれか一方向の5〜40%であることが好ましく、10〜30%であることがより好ましく、10〜25%であることがさらに好ましい。特に伸長率を5%以上とすると、皮革様シートの伸長率を5%以上とすることが容易となり、定伸長法の耐バギング性が向上できる点で好ましい。また、40%以下とすると、皮革様シートとした場合の定荷重法の耐バギング性が向上でき、ドレープ性やシルエットの悪化を防ぐことができる点で好ましい。なお、タテ方向、ヨコ方向のいずれも上記範囲とすることが、良好な耐バギング性を得る点で好ましい態様である。
さらに、皮革様シートの伸長率は織編物の伸長率に大きく影響されるため、皮革様シートのタテ方向の伸長率をヨコ方向の伸長率で割った値を0.6〜1.3の範囲とするために、織編物のタテ方向の伸長率とヨコ方向の伸長率を0.6〜2.5の範囲とすることが好ましい。ここで、タテ方向の伸長率をヨコ方向の伸長率で割った値は、織編物の方が皮革様シートよりも大きくしておくことが、容易に本発明の皮革様シートを得ることができる点で有効である。これは、ヨコ方向の伸長率は織編物の影響を比較的強く反映できる半面、タテ方向の伸長率は、工程張力により低下する傾向があるためである。
また、本発明において好ましい態様である実質的に繊維素材からなる皮革様シートとする場合においては、不足する反発感を織編物で補うことが好ましい。そのため、二以上のポリエステルがサイドバイサイド型または偏心芯鞘型に接合された複合繊維を含むことが好ましい。
二以上のポリエステルとは、物理的および/または化学的性質を異にする二以上のポリエステルを用いることを意味する。すなわち、二以上のポリエステルがサイドバイサイド型または偏心芯鞘型に接合されたとは、物理的および/または化学的性質を異にする二以上のポリエステルが、繊維長さ方向に沿ってサイドバイサイド型または偏心芯鞘型に接合されていることを意味する。これにより、物理的または化学的要因によって、複合繊維に捲縮を発現させることができる。捲縮発現が容易である点で、好ましくは熱収縮性の異なるポリエステルを二以上使用することが好ましい。これにより、前記複合繊維をリラックス処理することによって、容易に捲縮を発現させることができる。複合繊維に捲縮を発現させることにより、反発感が優れる皮革様シートが得られる。熱収縮性の異なるポリエステルとしては、例えば、ポリマーの重合度が異なるもの、異なるポリマーをブレンドしたもの、等が挙げられる。本発明においては、特に反発感が優れる皮革様シートが得られる点で、極限粘度が0.35〜0.45の低粘度ポリエステルと極限粘度が0.65〜0.85の高粘度ポリエステルとが複合された複合繊維が好ましい。この場合、一般に高粘度ポリエステルの方が、低粘度ポリエステルよりも、熱収縮性が高くなる。低粘度ポリエステルの極限粘度が0.35未満であると紡糸安定性が低下するため好ましくない。また低粘度ポリエステルの極限粘度が0.45を超えると、皮革様シートの反発感が低下するため好ましくない。また高粘度ポリエステルの極限粘度が0.85を超えると紡糸安定性が低下するため好ましくない。高粘度ポリエステルの極限粘度が0.65未満であると、皮革様シートの反発感が低下するため好ましくない。反発感に優れる皮革様シートを得るために、低粘度ポリエステルと高粘度ポリエステルの極限粘度差は、0.20〜0.40の範囲が好ましい。なお、極限粘度[η]は、温度25℃においてオルソクロロフェノール溶液として測定した値を用いた。
また、二以上のポリエステルの複合比率は、製糸性および捲縮を発現させた際の繊維長さ方向のコイルの寸法均質性の点で、高収縮成分:低収縮成分=75:25〜35:65(重量%)の範囲が好ましく、65:35〜45:55の範囲がより好ましい。
複合形態としては、サイドバイサイド型および偏心芯鞘型のいずれでもよいが、反発感に優れる皮革様シートが得られる点でサイドバイサイド型が好ましい。
複合繊維の平均単繊維繊度は、特に限定されないが、1〜15デシテックスが好ましい。1デシテックス未満であると良好な反発感が得られにくく、15デシテックスを超えると皮革様シートの風合いが硬くなる傾向がある。
さらに、マルチフィラメントの撚数が600T/m以上であることが好ましく、800T/m以上であることがより好ましい。また、3000T/m以下であることが好ましく、2000T/m以下であることがより好ましい。600T/m以上であるとストレッチ性や反発感が優れる点で好ましいが、3000T/mを超えると風合いが硬くなるため好ましくない。単フィラメントが分散した状態や、捲縮の位相がずれている場合はこの好ましい形状が得られ難い傾向を示すため、エアー交絡処理等を行い集合させることが好ましい。
織編物の組織は特に限定されるものではなく、織物としては例えば平織、綾織、朱子織等が挙げられ、編物としてはたて編み、よこ編みが挙げられる。この内、コストや平滑性の点で平織であることが好ましいが、通気量向上の点で紋紗等適宜選択することができる。
また、織編物の目付は、目的とする皮革様シートの目付に合わせ適宜調整することができる。衣料用途の場合は10g/m2以上であることが好ましく、30g/m2以上であることがより好ましい。また、150g/m2以下であることが好ましく、100g/m2以下であることがより好ましい。織編物の目付が10g/m2未満であると、織編物の形態が不安定であり、取り扱い性が悪くなり、150g/m2を超えると得られる皮革様シートのドレープ性が低下するため好ましくない。
織編物の皮革様シートにおける重量比は、皮革様シート全体の10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。また、50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましい。重量比が10%以上となると耐バギング性や、織編物の有する特性を皮革様シートに反映することが容易となる。ただし、重量比が50%を超えると、得られた皮革様シートが織編物様の風合いとなり、皮革様シートとしての高級感が得られにくくなると共に、耐バギング性も低下するため、好ましくない。
皮革様シートの中でも、一般に合成皮革や人工皮革と称されるものは、ポリウレタン等の高分子弾性体と繊維材料から構成される。しかしながら、本発明の皮革様シートは、例えばリサイクル性、発色性、耐光性、耐黄変性等の課題を解決するため、さらにはストレッチ性が低下することを抑制するため、実質的に繊維素材からなることが好ましい。ここで、実質的に繊維素材からなるとは、実質的に高分子弾性体を含まないものをいう。実質的に高分子弾性体を含まないとは、皮革様シートに高分子弾性体が全く含まれていないものの他、本発明の効果を損なわない範囲で少量の高分子弾性体が含まれていることを許容するものである。具体的には、皮革様シートに含まれる高分子弾性体が5重量%以下であることが好ましく、3重量%以下であることがより好ましく、1重量%以下であることがさらに好ましく、全く高分子弾性体を含まないことが最も好ましい。
高分子弾性体が5重量%以下であれば、ストレッチ性等の他の機能を害することなく、耐バギング性を向上させることが可能である。5重量%を超えると、特に定伸長法の耐バギング性が低下する傾向があり、好ましくない。なお、高分子弾性体を含まない場合、耐バギング性は低下する傾向にあるが、本発明では、上述したように、織編物によってこれを向上させるものである。
風合いの調整や耐摩耗性の向上等の目的で高分子弾性体を含む場合、高分子弾性体としては、例えばポリウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミノ酸系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、エチレン−ビニルエステル共重合系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂、SBR、NBR、およびその共重合体等が挙げられる。この中では特にエチレン−ビニルエステル共重合系樹脂やポリウレタン系樹脂が耐摩耗性向上効果と柔軟性のバランスが優れる点で好ましく、耐摩耗性向上効果の点でエチレン−ビニルエステル共重合系樹脂がより好ましく、柔軟性の点ではポリウレタン系樹脂がより好ましい。エチレン−ビニルエステル共重合系樹脂又はポリウレタン系樹脂に微粒子を組み合わせると、耐摩耗性向上効果がさらに向上するため好ましい。
ここでエチレン−ビニルエステル共重合系樹脂とは、エチレン単位とビニルエステル単位を含む共重合体からなる樹脂である。ビニルエステル単位としては、例えば、イソノナン酸ビニル、酢酸ビニル、ピバリン酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、酪酸ビニルなどのアルキル酸ビニルエステルなどが挙げられる。ビニルエステル単位として、2種類以上のビニルエステル単位からなっても良い。とくに、耐水性、耐アルカリ性、耐候性、合成繊維などの非極性素材とのなじみの点からエチレン−酢酸ビニル共重合体が好ましい。
エチレン−ビニルエステル共重合系樹脂やポリウレタン系樹脂が含まれる場合、その含有率は皮革様シートの全繊維重量に対して、0.01重量%以上であることが好ましく、0.2重量%以上であることがより好ましい。また、10重量%以下であることが好ましく、5重量%以下であることがより好ましい。前記含有率が0.01重量%以上で高い耐摩耗性を得ることができるが、10重量%を超えると風合いが硬くなりやすく、好ましくない。
また、エチレンービニルエステル共重合系樹脂またはポリウレタン系樹脂を含み、かつ微粒子を含むとさらに高い耐摩耗性が得られる点で好ましい。また、微粒子を含むことによって、ドライ感やきしみ感等の風合いを得ることもできる。微粒子の材質は水に不溶であれば特に限定されるものではなく、例えばシリカやコロイダルシリカ、酸化チタン、アルミニウム、マイカ等の無機物質や、メラミン樹脂等の有機物質を例示することができる。
また、微粒子の平均粒子径は、好ましくは0.001μm以上であり、より好ましくは0.01μm以上、さらに好ましくは0.05μm以上である。また、好ましくは30μm以下であり、より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下である。微粒子の平均粒子径が0.001μm未満であると、期待する効果が得られにくくなる。また微粒子の平均粒子径が30μmを越えると、微粒子の脱落によって洗濯耐久性が低下しやすくなる。なお、微粒子の平均粒子径は個々の材質やサイズに応じて適した測定方法、例えばBET法やレーザー法、動的散乱法、コールター法などを用いて測定することができる。本発明においては、特にBET法を用いて求めた体積(質量)平均粒子径が好ましい。
これらの微粒子は、本発明の効果が発揮できる範囲で適宜使用量を調整することができる。微粒子の含有量は、好ましくは皮革様シートの0.01重量%以上であり、より好ましくは0.02重量%以上、さらに好ましくは0.05重量%以上である。また、好ましくは10重量%以下であり、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下である。含有量が0.01重量%以上であれば、耐摩耗性の向上効果が顕著に発揮でき、量を増加させる程、その効果は大きくなる傾向がある。ただし、含有量が10重量%を越えると皮革様シートの風合いが硬くなり、好ましくない。
また、柔軟な風合いとなめらかな表面タッチを得るために、本発明の皮革様シートは柔軟剤を含むことが好ましい。柔軟剤としては、人工皮革や織編物に一般的に使用されているものを繊維種に応じて適宜選択することができる。
皮革様シートの目付は、好ましくは130g/m2以上であり、より好ましくは150g/m2以上、さらに好ましくは170g/m2以上である。また、好ましくは550g/m2以下であり、より好ましくは500g/m2以下、さらに好ましくは450g/m2以下である。皮革様シートの目付が130g/m2未満であると、耐バギング性が低下すると共に、良好な反発感が得られにくくなるため好ましくない。また皮革様シートの目付が550g/m2を越える場合は、種々の用途への加工性が低下する傾向があるため好ましくない。また、皮革様シートの繊維見掛け密度は、好ましくは0.25g/cm3以上であり、より好ましくは0.29g/cm3以上、さらに好ましくは0.30g/cm3以上である。また、好ましくは0.70g/cm3以下であり、より好ましくは0.60g/cm3以下、さらに好ましくは0.45g/cm3以下である。繊維見掛け密度が0.25g/cm3未満であると、特に耐摩耗性が低下するため好ましくない。また、繊維見掛け密度が0.70g/cm3を越えると、種々の用途への加工性が低下するため好ましくない。
本発明の皮革様シートは、本発明の効果を逸脱しない範囲において、上述した以外に、他の染料、柔軟剤、風合い調整剤、ピリング防止剤、抗菌剤、消臭剤、撥水剤、耐光剤、耐侯剤等の機能性薬剤が含まれていてもよい。
次に、本発明の皮革様シートを得る製造方法の一例を述べる。
本発明の皮革様シートにおいて、不織布を構成するいわゆる極細繊維の製造方法は特に限定されず、通常のフィラメント紡糸法の他、スパンボンド法、メルトブロー法、エレクトロスピニング法、フラッシュ紡糸法等の、不織布として製造する方式であってもよい。また、極細繊維を得る手段として、直接極細繊維を紡糸する方法、通常繊度の繊維であって極細繊維を発生する事ができる繊維(以下、極細繊維発生型繊維という)を紡糸し、次いで、極細繊維を発生させる方法でもよい。
ここで、極細繊維発生型繊維を用いて極細繊維を得る方法としては、具体的には、海島型繊維を紡糸してから海成分を除去する方法、あるいは、分割型繊維を紡糸してから分割して極細化する方法等の手段を採用することができる。
これら手段の中でも、本発明においては、極細繊維を容易に安定して得ることができる点で、極細繊維発生型繊維によって製造することが好ましく、さらには皮革様シート状物とした場合、同種の染料で染色できる同種ポリマーからなる極細繊維を容易に得ることができる点で、海島型繊維によって製造することがより好ましい。
海島型繊維を得る方法としては、特に限定されず、例えば、以下の(1)〜(4)に記載する方法等が挙げられる。
(1)2成分以上のポリマーをチップ状態でブレンドして紡糸する方法。
(2)予め2成分以上のポリマーを混練してチップ化した後、紡糸する方法。
(3)溶融状態の2成分以上のポリマーを紡糸機のパック内で静止混練器等で混合する方法。
(4)特公昭44−18369号公報、特開昭54−116417号公報等の複合口金を用いて製造する方法。
本発明においては、いずれの方法でも良好に製造することができるが、ポリマーの選択が容易である点で上記(4)又はこれに類する方法が最も好ましい。
かかる(4)の方法において、海島型繊維および海成分を除去して得られる島繊維の断面形状は特に限定されず、例えば、丸型、多角形型、Y字型、H字型、X字型、W字型、C字型、π字型等が挙げられる。
また、用いられるポリマー種の数も特に限定されるものではないが、紡糸安定性や染色性を考慮すると2〜3成分であることが好ましく、特に海成分が1成分で、島成分が1成分の計2成分で構成されることが好ましい。また、このときの成分比は、島繊維の海島型繊維に対する重量比で0.3以上であることが好ましく、0.4以上がより好ましく、0.5以上がさらに好ましい。また、0.99以下であることが好ましく、0.97以下がより好ましく、0.8以下がさらに好ましい。0.3未満であると、海成分の除去率が多くなるためコスト的に好ましくない。また、0.99を越えると、島成分同士の合流が生じやすくなり、紡糸安定性の点で好ましくない。
また、海島型繊維を製造する方法については、特に限定されず、例えば、上記(4)の方法に示した口金を用いて通常2500m/分以下の紡速で紡糸した未延伸糸を引き取った後、湿熱または乾熱、あるいはその両者によって1段〜3段延伸する方法や、4000m/分以上の紡速で引き取る方法により得ることができる。
次いで、得られた極細繊維発生型短繊維をウェブ化する。その方法としては、不織布が短繊維不織布の場合、カード、クロスラッパー、ランダムウエバー等を用いる乾式法や、抄紙法等の湿式法を採用することができる。また、長繊維不織布の場合は、スパンボンド法を採用することができる。
本発明では、実質的に繊維素材からなる皮革様シートを容易に製造できる点でニードルパンチ法と高速流体処理の2種の絡合方法を組み合わせた乾式法が好ましい。
乾式法の場合、極細繊維発生型短繊維から、カード、クロスラッパー等を用いてウェブを得る。得られたウェブを、ニードルパンチ処理によって、繊維見掛け密度が好ましくは0.12g/cm3以上、より好ましくは0.15g/cm3以上となるようにする。また、好ましくは0.30g/cm3以下、より好ましくは0.25g/cm3以下となるようにする。繊維見掛け密度が0.12g/cm3未満であると、繊維の絡合が不十分であり、引張強力、引裂強力、耐摩耗性等の物性について良好な値が得られにくくなる。また繊維見掛け密度の上限は特に限定されないが、0.30g/cm3を越えると、ニードル針の折れや、針穴が残留するなどの問題が生じるため、好ましくない。
また、ニードルパンチを行う際には、極細繊維発生型繊維の平均単繊維繊度が1デシテックス以上であることが好ましく、2デシテックス以上がより好ましい。また、10デシテックス以下であることが好ましく、8デシテックス以下がより好ましく、6デシテックス以下がさらに好ましい。平均単繊維繊度が1デシテックス未満である場合や10デシテックスを越える場合は、ニードルパンチによる絡合が不十分となり、良好な物性を得ることが困難になる。
本発明においてニードルパンチは、単なる工程通過性を得るための仮止めとしての役割ではなく、繊維を十分に絡合させることが好ましい。従って好ましくは、100本/cm2以上の打ち込み密度がよく、より好ましくは500本/cm2以上、さらに好ましくは1000本/cm2以上がよい。また、ニードルは表面品位が優れる点で、1バーブ型を用いることが好ましい。
一方、スパンボンド法の場合、ポリマーを口金から溶融吐出して連続フィラメントを形成させ、これをエジェクター等の牽引作用により2000〜8000m/分の速度で紡糸し、移動する捕集装置上に捕集して長繊維ウェブを得ることができる。
得られた長繊維ウェブは、コストの観点からは巻き取ることなくそのまま織編物と積層することが好ましいが、搬送性や取扱い性、製造スピードの調整等の観点から一旦巻き取ることも可能である。この場合、巻き取るために一定の形態安定性を付与する観点から80〜240℃の加熱下でプレス処理をすることもできるが、風合いや品位に優れる点では上述と同様の方法でニードルパンチを行うことが好ましい。
このようにして得られた短繊維、又は、長繊維のウェブは、乾熱処理または湿熱処理、あるいはその両者によって収縮させ、さらに高密度化することが好ましい。
次いで、極細繊維発生型繊維からなるウェブは極細化処理により、極細繊維ウェブとする。この極細繊維ウェブは高速流体処理により、極細繊維同士の絡合を行って不織布を得ることが好ましい。極細化処理をした後に高速流体処理を行ってもよいし、極細化処理と同時に高速流体処理を行っても良い。また極細化処理と同時に高速流体処理を行い、その後に、さらに高速流体処理を行ってもよい。高速流体処理を極細化処理と同時に行う場合、少なくとも極細化処理が大部分終了した後にも高速流体処理を行うことが、極細繊維同士の絡合をより進める上で好ましい。極細化処理を行った後に、高速流体処理を行うことがより好ましい。なお、後述するように、極細繊維ウェブを不織布とすると同時に、織編物と積層一体化することが、剥離強力が向上するため好ましい。
極細化処理の方法としては、特に限定されるものではないが、例えば機械的方法、および、化学的方法が挙げられる。機械的方法とは、物理的な刺激を付与することによって、極細繊維発生型繊維を極細化する方法である。具体的には、例えば上記のニードルパンチ法やウォータージェットパンチ法等の衝撃を与える方法の他に、ローラー間で加圧する方法、超音波処理を行う方法等が挙げられる。また化学的方法としては、例えば、海島型繊維を構成する少なくとも1成分に対し、薬剤によって膨潤、分解、溶解等の変化を与える方法が挙げられる。特に、海成分としてアルカリ易分解性ポリマーを用いた極細繊維発生型繊維でウェブを作製し、次いで中性〜アルカリ性の水溶液で処理して極細化する方法は、有機溶剤を使用せず作業環境上好ましいことから、本発明の好ましい態様の一つである。ここでいう中性〜アルカリ性の水溶液とは、pH6〜14を示す水溶液である。例えば有機または無機塩類を含み、上記範囲のpHを示す水溶液を好ましく用いることができる。有機または無機塩類としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。また、必要によりトリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン等のアミンや減量促進剤、キャリアー等を併用することもできる。中でも水酸化ナトリウムが価格や取り扱いの容易さ等の点で好ましい。さらに上述の中性〜アルカリ性の水溶液処理を施した後、必要に応じて中和および洗浄して残留する薬剤や分解物等を除去してから乾燥を施すことが好ましい。
高速流体処理としては、作業環境の点で、水流を使用するウォータージェットパンチ処理が好ましい。ウォータージェットパンチ処理において、水は柱状流の状態で行うことが好ましい。柱状流は、通常、直径0.06〜1.0mmのノズルから圧力1〜60MPaで水を噴出させることで得られる。効率的な絡合および良好な表面品位の不織布を得るために、ノズルの直径は0.06〜0.15mm、間隔は5mm以下であることが好ましく、直径0.08〜0.14mm、間隔は1mm以下がより好ましい。これらの構成のノズルプレートは、複数回処理する場合すべて同じものとする必要はなく、例えば大孔径と小孔径のノズルが含まれるノズルプレートを使用したり、異なる構成のノズルプレートを併用したり、また上記範囲外のノズルプレートを併用することも可能である。ノズルの直径が0.15mmを超えると極細繊維同士の絡合が低下し、表面がモモケやすくなるとともに、表面平滑性も低下するため好ましくない。従ってノズル孔径は小さい方が好ましいが、0.06mm未満となるとノズル詰まりが発生しやすくなるため、水を高度に濾過する必要性からコストが高くなり好ましくない。また、ノズル間隔が5mmを超えると、発生する筋が目立ちやすくなるため好ましくない。厚さ方向に均一な交絡を達成する目的、および/または不織布表面の平滑性を向上させる目的で、高速流体処理を複数回繰り返して行うことが好ましい。
流体の圧力は、処理する極細繊維ウェブの目付によって適宜選択し、高目付のもの程高圧力とすることが好ましい。さらに、極細繊維同士を高度に絡合させ、目的の引張強力、引裂強力、耐摩耗性等の物性を得るため、少なくとも1回は10MPa以上の圧力で処理することが好ましい。圧力は、15MPa以上であることがより好ましく、20MPa以上であることがさらに好ましい。また圧力の上限は特に限定されないが、圧力が上昇する程コストが高くなり、また、低目付不織布の場合は不織布が不均一になりやすく、繊維の切断により毛羽が発生する場合もあるため、好ましくは40MPa以下であり、より好ましくは35MPa以下である。
なお、少なくとも1回の処理とは、複数のノズル孔を有するノズルプレートを含む1ノズルヘッド(1インジェクター)で処理することを意味する。連続的に複数ノズルヘッドで処理した場合はその複数ノズルヘッド数の回数を処理したとし、1回とはカウントしない。
極細繊維発生型繊維から得た極細繊維の場合、極細繊維が集束した繊維束の状態で絡合しているものが一般的であるが、前記のような条件で高速流体処理を行うことによって、繊維束の状態のままでの絡合がほとんど観察されない程度にまで極細繊維同士が絡合した極細不織布を得ることができる。これにより、一旦繊維束で絡合し、これに加えて極細繊維が絡合することになり、実質的に繊維素材からなる皮革様シートを得ることができ、また耐バギング性を向上させることに寄与すると共に、耐摩耗性等の表面特性をも向上させることができる。なお、高速流体処理を行う前に、水浸漬処理を行ってもよい。さらに不織布表面の品位を向上させるために、ノズルヘッドと不織布を相対的に移動させる方法や、不織布とノズルの間に金網等を挿入して散水処理する等の方法を行うこともできる。
なお、極細化処理と高速流体処理を同時に行う方法としては、例えば、海成分として水可溶性ポリマーを用いた海島型繊維を用い、ウォータージェットパンチによって海成分の除去と極細繊維の絡合を行う方法、海成分としてアルカリ易溶解性ポリマーを用いた海島型繊維を用い、アルカリ処理液を通して海成分を分解処理した後に、ウォータージェットパンチによって海成分の最終除去および極細繊維の絡合処理を行う方法、等が挙げられる。
次に織編物の製造方法を述べる。織編物に用いる繊維の製造方法は特に限定されるものではなく、公知の製造方法を適用することができ、例えば二以上のポリエステルがサイドバイサイド型または偏心芯鞘型に複合された繊維の製造方法は、特公昭63−42021号公報、特開平4−308271号公報、特開平11−43835号公報等に記載された方法を適用することができる。また、これらの繊維を用い、必要とする組織に応じてそれに適した織編機を使用することによって、織物または編物等の織編物とすることができる。なお、織物、編物のいずれでも良いが、織物の方が張力による皺の発生が少なく本発明の製法で安定に生産できる点で好ましい。
織物を製造する場合、ウォータージェット織機やエアジェット織機のようなシャトルレス織機やフライシャトル織機、タペット織機やドビー織機、ジャカード織機等織機は特に限定されるものではない。そしてカバーファクターによって通気量を制御することができ、同一繊維を使用した場合、低密度ほど通気量は向上する。
また、編物においては、よこ編、たて編のいずれでもよく、よこ編としては、例えばよこ編機、丸編機等、たて編としてはトリコット機、ミラニーズ機、ラッセル機等により製造することができる。
次いで、織編物は必要に応じてリラックス処理して収縮させ、中間セットを行うことが好ましい。例えば、織編物が二以上のポリエステルがサイドバイサイド型または偏心芯鞘型に複合された複合繊維からなる織編物である場合、リラックス処理によって捲縮を発現させることが好ましい。この工程は、織物に伸長率を付与する点で重要となる。同一繊維から製造された織編物であっても、リラックス処理や中間セットの条件によって、伸長率が大きく異なるためである。
リラックス処理を行うに際しては、オープンソーパー、リラクサー、ソフサー等の連続拡布状リラックス処理機や、ジッガー、ウィンス、液流染色機等のバッチ式処理機等によって、80〜140℃、好ましく90〜130℃、より好ましくは105〜120℃の温度で処理する。80℃未満であると伸長率が低下する傾向があり、好ましくない。一方、140℃を超える場合、伸長率が大きくなりすぎると共に、密度が増加して不織布と織物の一体性が低下し、耐バギング性も低下するため好ましくない。なお、連続拡布状リラックス処理では、ヨコ方向の伸長率を効果的に向上させることができるが、タテ方向の伸長率を向上させにくく、結果として、タテ方向の伸長率をヨコ方向の伸長率で割った値が0.6未満となりやすい。一方、液流染色機を用いたリラックス処理は、タテ方向の伸長率を向上させて、上記値を0.6以上とすることができ、本発明においては特に好ましい方法である。液流染色機を用いるリラックス処理に先立って、連続拡布状リラックス処理機で予備収縮を行うことは、均一な収縮処理ができる点で好ましい。
また、中間セットは一般に100〜190℃であり、セット性等を考慮して適宜設定できる。積層後に織編物を構成する繊維の熱収縮を抑制するため、中間セットは140℃以上であることが好ましく、165℃以上であることがより好ましく、175℃以上であることがさらに好ましい。
また、中間セットにおいて、タテ方向にオーバーフィードすることが、タテ方向の伸長率を容易に付与できる点で好ましい。オーバーフィード率は1%以上であることが好ましく、2%以上がより好ましい。また、15%以下であることが好ましく、10%以下がより好ましい。
また、裏面品位を向上させるため、上述した織編物と不織布の積層シートに、さらに織編物が露出した面に不織布を積層することも可能である。この場合、当該不織布は抄造法により製造することが、容易に目的を達成できる点で好ましい。抄造法の一例としては、例えば繊維をパルパー、ビーター等で離解した後、分散剤を加えて分散液を調整し、丸網、傾斜短網等の抄紙機により抄造ウェブを得、ついで絡合する。
スエード調やヌバック調の立毛を有した皮革様シートを得る場合は、上述の製法で得た積層シートの表面をサンドペーパーやブラシ等により起毛処理する。かかる起毛処理は、後述する染色工程の後に行うとサンドペーパーやブラシに着色が生じるため、染色前に行うことが好ましい。
このようにして得られた皮革様シートは染色することが好ましい。染色方法は特に限定されるものではなく、用いる染色機としても、液流染色機、サーモゾル染色機、高圧ジッガー染色機等いずれでもよいが、得られる皮革様シートの風合いが優れる点で液流染色機を用いて染色することが好ましい。また、伸長性に優れる織物と不織布を積層するに際して、織物が工程張力により伸長し、皮革様シートのタテ方向の伸長率が低下する場合がある。この場合、液流染色機等により揉み効果を与えて緩和させることが、タテ方向の伸長性を向上させる点で好ましい。
皮革様シートに柔軟剤、樹脂や微粒子等を付与する手段としては、パッド法、液流染色機やジッガー染色機を用いる方法、スプレーで噴射する方法等、適宜選択することができる。これらは、好ましくは染色後に付与する。染色前に付与すると、染色時の脱落により効果が減少する場合や、染色ムラが発生する場合があるため好ましくない。
以下、本発明を実施例で詳細に説明する。なお、実施例中の各物性値の測定方法は、以下の方法を用いた。
(1)繊維目付、繊維見掛け密度
繊維目付(g/m2)はJIS L 1096 8.4.2(1999)に記載された方法で測定した。また、厚み(mm)として、ダイヤルシックネスゲージ((株)尾崎製作所製、商品名“ピーコックH”)により、無作為に10箇所測定してその平均値を小数点2桁に丸めた値を用い、目付の値を厚みの値で割って、繊維見掛け密度(g/cm3)を求め、小数点3桁に丸めて示した。
(2)伸長率、伸長回復率
JIS L 1096(1999)8.14.1 A法(定速伸長法)にて伸長率を測定した(つかみ間隔は20cmである)。
また、JIS L 1096(1999)8.14.2 A法(繰り返し定速伸長法)により伸長回復率を求めた(繰り返し定速伸長法)(つかみ間隔は20cmである)。
(3)耐バギング性
JIS L 1061(1987)B−1法(定荷重法)、およびB−2法(定伸長法)により耐バギング性を評価した。
(4)平均繊維長
任意の3箇所から、それぞれ繊維を100本抜き出して繊維長を測定した。測定した300本分の繊維長の数平均を求めた。
(5)平均単繊維繊度
光学顕微鏡にて繊維断面を100個ランダムに選んで断面積を測定した後、100個の繊維断面積の数平均を求めた。求められた繊維断面積の平均値と繊維の比重から、繊度を計算により求めた。なお、繊維の比重はJIS L 1015(1999)に基づいて測定した。
製造例1
極限粘度が0.50のポリエチレンテレフタレート100%からなる低粘度成分と、極限粘度が0.75のポリエチレンテレフタレートからなる高粘度成分とを重量複合比50:50でサイドバイサイドに貼りあわせて紡糸および延伸し、56デシテックス12フィラメントの複合繊維を得た。これを1300T/mで追撚した後、94×65本/2.54cmの織密度で製織した。
ついでソフサーにて85〜98℃で処理し、液流染色機にて115℃で処理した後、オーバーフィード率3%、180℃でテンターにてセットした。
得られた織物の密度は123×89本/2.54cm、目付は64.1g/m2、伸長率はタテ18.9%、ヨコ22.4%であった。
製造例2
極限粘度が0.50のポリエチレンテレフタレート100%からなる低粘度成分と、極限粘度が0.75のポリエチレンテレフタレートからなる高粘度成分とを重量複合比50:50でサイドバイサイドに貼りあわせて紡糸および延伸し、56デシテックス12フィラメントの複合繊維を得た。これを1500T/mで追撚した後、94×65本/2.54cmの織密度で製織した。ついで液流染色機にて130℃で処理した後、オーバーフィード率3%、180℃でテンターにてセットした。
得られた織物の密度は136×85本/2.54cm、目付は65.4g/m2、伸長率はタテ12.8%、ヨコ34.2%であった。
製造例3
製造考例1において、ソフサーに変え、ドラム型リラクサーを用い、かつ液流染色機を用いて110℃でリラックス処理を行った。
得られた織物の密度は121×90本/2.54cm、目付は62.1g/m2、伸長率はタテ20.4%、ヨコ18.9%であった。
製造例4
56デシテックス24フィラメントのポリエチレンテレフタレートからなる仮撚り加工糸を経糸とし、緯糸に製造例1で用いたものと同一の繊維を用いて平織し、93×80本/2.54cmの織密度で製織した。その後、製造例1と同様にリラックス処理した。
得られた織物の密度は、118×84本/2.54cm、目付70.9g/m2、伸長率はタテ5.0%、ヨコ34.3%であった。
実施例1
海成分としてポリスチレン45部、島成分としてポリエチレンテレフタレート55部からなる平均単繊維繊度3デシテックス、36島、平均繊維長51mmの海島型複合短繊維を、カード機およびクロスラッパーに通してウェブを作製した。得られたウェブを、1バーブ型のニードルパンチ機を用いて、2500本/cm2の打ち込み密度でニードルパンチ処理し、繊維見掛け密度0.22g/cm3の複合短繊維不織布を得た。次に95℃に加温した重合度500、ケン化度88%のポリビニルアルコール(PVA)5%の水溶液に2分間浸積し、PVAを不織布に、不織布重量に対し固形分換算で12%の付着量になるように含浸させると同時に収縮処理を行った。その後、不織布を100℃にて乾燥して水分を除去した。次いで、この複合短繊維不織布を30℃のトリクレンでポリスチレンが完全に除去されるまで処理することにより、複合短繊維から平均単繊維繊度0.046デシテックスの極細繊維を発現させた。これにより得られたシートを、室田製作所(株)製の標準型漉割機を用いて、厚み方向に対して垂直に2枚にスプリット処理して繊維目付90.5g/m2の極細繊維ウェブを得た。
一方、抄造法により作製した平均単繊維繊度0.33デシテックス、繊維長5mm、目付33g/m2のポリエチレンテレフタレートからなる抄造ウェブに、製造例1で作製した織物をタテ方向に10%伸ばしながら重ね、抄造ウェブ側から0.1mmの孔径で、0.6mm間隔のノズルプレートが挿入されたノズルヘッドを有するウォータージェットパンチ機にて、7m/分の処理速度で、9MPaの圧力で3回ウォータージェットパンチ処理を行った。
次に、極細繊維ウェブを製造例1で得られた織物が中央になるように重ね、極細繊維ウェブの方から上記と同一のウォータージェットパンチ機を用い、7m/分の処理速度で、17MPaの圧力で3回処理し、ついで裏側から同様に3回処理した。
このようにして得られた積層シートの極細繊維不織布側を、株式会社菊川鉄工所製のワイドベルトサンダを用い、粒度がP500の炭化ケイ素砥粒のサンドペーパーにて起毛処理した。さらに、液流染色機にて分散染料で染色した。
このようにして得られた皮革様シートの評価結果を表1に示した。
実施例2
実施例1において、染色前に、エチレン−酢酸ビニル共重合体の水エマルジョン(商品名;“スミカフレックス”(登録商標)755、住化ケムテックス(株)製)をウェットピックアップ率150%でディップニップして乾燥し、固形分1重量%となるように付与した。ついで、実施例と同様に染色した。
このようにして得られた皮革様シートの評価結果を表1に示した。
実施例3
製造例3により得た織物を用い、後は実施例1と同様に処理した。このようにして得られた皮革様シートの評価結果を表1に示した。
実施例4
極細繊維ウェブの目付を158g/m2とした以外は実施例1と同様に処理した。このようにして得られた皮革様シートの評価結果を表1に示した。
比較例1
製造例2の織物を用いた以外は実施例1と同様に処理して皮革様シートを得た。
得られた皮革様シートの評価結果は表1に示したように、実施例1と比較して耐バギング性に劣ることが判った。織物自体の伸長率は優れるものであったが、織物の高密度性が不織布との一体性を阻害し、皮革様シートの伸長率が低下したことが原因と推定される。
このようにして得られた皮革様シートの評価結果を表1に示した。
比較例2
製造例4により得た織物を用い、後は実施例1と同様に処理した。このようにして得られた皮革様シートの評価結果を表1に示した。
比較例3
海成分としてポリスチレン45部、島成分としてポリエチレンテレフタレート55部からなる平均単繊維繊度3デシテックス、36島、平均繊維長51mmの海島型複合短繊維を、カード機およびクロスラッパーに通してウェブを作製した。得られたウェブを、1バーブ型のニードルパンチ機を用いて、2800本/cm2の打ち込み密度でニードルパンチ処理し、繊維見掛け密度0.25g/cm3の複合短繊維不織布を得た。次に95℃に加温した重合度500、ケン化度88%のポリビニルアルコール(PVA)5%の水溶液に2分間浸積し、PVAを不織布に、不織布重量に対し固形分換算で12%の付着量になるように含浸させると同時に収縮処理を行った。その後、不織布を100℃にて乾燥して水分を除去した。次いで、この複合短繊維不織布を30℃のトリクレンでポリスチレンが完全に除去されるまで処理することにより、複合短繊維から平均単繊維繊度0.046デシテックスの極細繊維を発現させた。
次に、ポリエーテル系ポリウレタンのジメチルホルムアミド(以下、DMF)溶液を用い、固形分として対島繊維あたり30重量%となるように含浸させ、湿式凝固した。
このシートを厚み方向に半裁し、このようにして得られた積層シートの極細繊維不織布側を、株式会社菊川鉄工所製のワイドベルトサンダを用い、粒度がP320の炭化ケイ素砥粒のサンドペーパーにて起毛処理した。さらに、液流染色機にて分散染料で染色した。
このようにして得られた皮革様シートの評価結果を表1に示した。
比較例4
海成分としてポリエチレン50部、島成分としてナイロン50部を混合紡糸してなる平均単繊維繊度3デシテックス、平均繊維長51mmの海島型複合短繊維を、カード機およびクロスラッパーに通してウェブを作製した。得られたウェブを、1バーブ型のニードルパンチ機を用いて絡合させた後、ポリエーテル系ポリウレタンのDMF成液を用い、固形分で対繊維あたり60重量%となるように含浸させ、湿式凝固した。次いで、ポリエチレンをパ−クレンで処理して除去し、株式会社菊川鉄工所製のワイドベルトサンダを用い、粒度がP180の炭化ケイ素砥粒のサンドペーパーにて起毛処理した。その後、液流染色機にて酸性染料で染色した。
得られたシートは、ポリウレタンと極細繊維の間に空隙が広く、かつ、低目付であるため、非常に伸びやすい構造であった。
このようにして得られた皮革様シートの評価結果を表1に示した。