本発明は、球状黒鉛鋳鉄鋳物を製造するにあたり、その冷却工程を改良した球状黒鉛鋳鉄鋳物の製造方法に関するものである。
従来、鋳造品(鋳物)を製造する場合には、注湯後の生型の型ばらしを行うと共に、鋳造品と砂(ばらし砂)とに分離し、高温の鋳造品及び砂をクーリングドラム内で移動させながら冷却(水冷)する方法が一般に知られている(例えば特許文献1参照)。つまり、この方法によれば、クーリングドラム(回転ドラム)を回転させつつ、クーリングドラムの一端部からその内部に注湯後の生型(鋳造品を含む)を導入し、分離される鋳造品と砂とを攪拌しながらクーリングドラムの一端部から他端部へ向かって移動させ、その移動の途中で散水して鋳造品及び砂を冷却し、冷却された鋳造品をクーリングドラムの他端部から排出させるようにしている。
ここで、上記クーリングドラムを用いた冷却、すなわちドラムクーラー冷却工程を備えた球状黒鉛鋳鉄鋳物の製造方法の一例として、当該製造方法(製造工程)に係る冷却曲線をグラフ化したものを図3に示すと共に、以下に説明する。なお、図3から理解できるように、従来技術に係る球状黒鉛鋳鉄鋳物の製造方法では、球状黒鉛鋳鉄の溶湯を砂型に注湯する注湯工程と、前記砂型に注湯された球状黒鉛鋳鉄の溶湯を凝固させて、その凝固により得られる球状黒鉛鋳鉄鋳物をその温度がA
1変態点に到達するまで砂型内でそのまま冷却する砂型内冷却工程と、前記球状黒鉛鋳鉄鋳物の温度がA
1変態点に到達した前記砂型内冷却工程後に、前記砂型から球状黒鉛鋳鉄鋳物を取り出す型ばらしを行うと共に、球状黒鉛鋳鉄鋳物をA
1変態点(図3の例では、700℃)から150℃まで冷却するドラムクーラー冷却工程とを順に実施することで、球状黒鉛鋳鉄鋳物は製造されている。
特開平9−225624号公報
しかしながら、上述した従来技術に係る球状黒鉛鋳鉄鋳物の製造方法は、図3の例示のように、ドラムクーラー冷却工程において、球状黒鉛鋳鉄鋳物をA1変態点(図3の例では、700℃)から150℃まで冷却するのに長時間〔図3の例では、6000秒(100分)〕要していた。また、球状黒鉛鋳鉄鋳物の冷却時間を短縮するために、型ばらし後の球状黒鉛鋳鉄鋳物を急冷することが考えられるが、この場合には、当該急冷に起因して球状黒鉛鋳鉄鋳物に残留応力(歪み)が発生し易くなってしまうという問題がある。
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、球状黒鉛鋳鉄鋳物の冷却時間を短縮できると共に、球状黒鉛鋳鉄鋳物の残留応力の発生を抑制して従来技術に係る球状黒鉛鋳鉄鋳物の製造方法により得られるものと同等以上の機能を発揮できる球状黒鉛鋳鉄鋳物の製造方法を提供することにある。
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、従来技術に係るドラムクーラー冷却工程とは異なり、砂型内冷却工程後において所定の成分組成からなる球状黒鉛鋳鉄鋳物のA1変態点から500℃までの冷却速度を所定範囲に制御する冷却工程を採用することで、その冷却時間の短縮を図りつつ、得られる球状黒鉛鋳鉄鋳物の機能を損なわないようにできるということを見出すと共に、500℃以下の冷却過程における冷却速度も所定範囲に制御する冷却工程を採用することで、当該球状黒鉛鋳鉄鋳物の製造に係る冷却時間の更なる短縮を図ることができるということを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、請求項1に記載の発明における球状黒鉛鋳鉄鋳物の製造方法は、炭素(C):3.2質量%〜4.2質量%、シリコン(Si):1.9質量%〜4.5質量%、マンガン(Mn):0.5質量%以下、リン(P):0.08質量%以下、イオウ(S):0.03質量%以下、マグネシウム(Mg):0.02質量%〜0.10質量%を含有すると共に、残部が鉄及び不可避的不純物からなる球状黒鉛鋳鉄の溶湯を砂型に注湯する注湯工程と、前記砂型に注湯された球状黒鉛鋳鉄の溶湯を凝固させて、その凝固により得られる球状黒鉛鋳鉄鋳物をその温度がA1変態点に到達するまで砂型内でそのまま冷却する砂型内冷却工程と、前記球状黒鉛鋳鉄鋳物の温度がA1変態点に到達した前記砂型内冷却工程後に、前記砂型から球状黒鉛鋳鉄鋳物を取り出す型ばらしを行うと共に、球状黒鉛鋳鉄鋳物のA1変態点から500℃までにおける冷却過程において、当該球状黒鉛鋳鉄鋳物を15℃/min〜50℃/minの冷却速度で冷却する第1冷却工程と、前記第1冷却工程後の球状黒鉛鋳鉄鋳物を前記第1冷却工程における冷却速度以上の冷却速度で冷却する第2冷却工程とを順に実施することをその要旨としている。なお、本明細書中において、「球状黒鉛鋳鉄鋳物の温度」とは、球状黒鉛鋳鉄鋳物の表面温度をいう。
ここで、球状黒鉛鋳鉄の溶湯の成分組成について説明する。炭素は、鋳造性を確保するために必要であるが、過剰であれば、球状黒鉛鋳鉄鋳物の引張強度が低下するおそれがある。従って、溶湯中の炭素は、3.2質量%〜4.2質量%である必要があり、3.4質量%〜3.9質量%であることが好ましい。また、シリコンは、鋳造性及び被削性の確保、組織の安定化のために必要である。従って、溶湯中のシリコンは、1.9質量%〜4.5質量%である必要があり、2.4質量%〜3.4質量%であることが好ましい。更に、マンガンは基地組織中のパーライトを安定させ、引張強さ及び耐力を向上させるのに必要であり、過剰であれば、伸びを低下させるおそれがある。従って、溶湯中のマンガンは、0.5質量%以下である必要がある。リンは、黒鉛の球状化阻害元素であることから、溶湯中のリンは、0.08質量%以下である必要がある。イオウは、黒鉛の球状化阻害元素であることから、溶湯中のイオウは、0.03質量%以下である必要がある。マグネシウムは、黒鉛の球状化のために必要であり、過剰であれば、被削性に悪影響を及ぼすおそれがある。従って、溶湯中のマグネシウムは、0.02質量%〜0.10質量%である必要がある。
また、第1冷却工程の冷却速度を15℃/min〜50℃/minに設定したのは、冷却速度が15℃/min未満の場合、球状黒鉛鋳鉄鋳物の製造に係る冷却時間の短縮を図ることができないからであり、冷却速度が50℃/minを超える場合、基地組織にマルテンサイトが析出すると共に、球状黒鉛鋳鉄鋳物に残留応力が発生し易くなるため、球状黒鉛鋳鉄鋳物に割れや変形が生じて当該球状黒鉛鋳鉄鋳物がその機能を十分に発揮できないからである。また、第2冷却工程の冷却速度を第1冷却工程の冷却速度以上に設定したのは、第2冷却工程の冷却速度が第1冷却工程の冷却速度より遅い場合には、球状黒鉛鋳鉄鋳物の製造に係る冷却時間の短縮効果が十分に得られなくなってしまうからである。なお、本明細書中において、「残留応力」とは、鋳造後、肉厚不同、局部的拘束部の存在、場所による冷却条件の違い等のために鋳物内部に生じた応力が冷却後まで残留しているものをいう。
請求項1に記載の発明によれば、所定の成分組成を有する球状黒鉛鋳鉄の溶湯を砂型に注湯する注湯工程と砂型内冷却工程とを順に実施した後、砂型から球状黒鉛鋳鉄鋳物を取り出す型ばらしを行うと共に、球状黒鉛鋳鉄鋳物のA1変態点から500℃までにおける冷却過程において、当該球状黒鉛鋳鉄鋳物を15℃/min〜50℃/minの冷却速度で冷却する第1冷却工程を行うことで、基地組織中にマルテンサイトが析出することが防止されると共に、球状黒鉛鋳鉄鋳物に残留応力が発生し難くなることから、得られる球状黒鉛鋳鉄鋳物に割れや変形が生じに難く、得られる球状黒鉛鋳鉄鋳物の機能も損なわれ難くなり、しかも、従来技術の場合に比して球状黒鉛鋳鉄鋳物の製造に係る冷却時間の短縮が図られる。そして、第1冷却工程後の球状黒鉛鋳鉄鋳物を第1冷却工程における冷却速度以上の冷却速度で冷却する第2冷却工程を実施することで、得られる球状黒鉛鋳鉄鋳物の機能が損なわれることなく、球状黒鉛鋳鉄鋳物の製造に係る冷却時間の短縮効果が十分に得られるようになる。従って、請求項1に記載の発明によれば、球状黒鉛鋳鉄鋳物の製造に係る冷却時間が短縮されると共に、球状黒鉛鋳鉄鋳物の残留応力の発生が抑制されて従来技術に係る球状黒鉛鋳鉄鋳物の製造方法により得られるものと同等以上の機能が発揮されることとなる。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の球状黒鉛鋳鉄鋳物の製造方法において、前記第2冷却工程では、前記球状黒鉛鋳鉄鋳物の500℃から150℃までにおける冷却過程において、冷却速度が20℃/min〜940℃/minに設定されていることをその要旨としている。ここで、球状黒鉛鋳鉄鋳物の500℃から150℃までにおける冷却過程において、冷却速度を20℃/min〜940℃/minに設定することは、好ましい。
請求項2に記載の発明によれば、第2冷却工程では、前記球状黒鉛鋳鉄鋳物の500℃から150℃までにおける冷却過程において、冷却速度が20℃/min〜940℃/minに設定されていることから、請求項1に記載の発明の第2冷却工程に係る作用効果がより確実に奏される。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の球状黒鉛鋳鉄鋳物の製造方法において、前記第2冷却工程における冷却は、前記球状黒鉛鋳鉄鋳物を水浴に浸漬させることにより行うことをその要旨としている。
請求項3に記載の発明によれば、第2冷却工程において、球状黒鉛鋳鉄鋳物を水浴に浸漬させるだけで、当該球状黒鉛鋳鉄鋳物が所定の冷却速度で容易かつ確実に冷却される。また、球状黒鉛鋳鉄鋳物を水浴に浸漬させるだけで、第1冷却工程の冷却速度(15℃/min〜50℃/min)よりも速い冷却速度で球状黒鉛鋳鉄鋳物を冷却することが可能となる。
請求項1に記載の発明によれば、球状黒鉛鋳鉄鋳物の製造に係る冷却時間を短縮できると共に、球状黒鉛鋳鉄鋳物の残留応力の発生を抑制して従来技術に係る球状黒鉛鋳鉄鋳物の製造方法により得られるものと同等以上の機能を発揮できる球状黒鉛鋳鉄鋳物を製造することができる。すなわち、請求項1に記載の発明によれば、従来技術に係るドラムクーラー冷却工程とは異なり、砂型内冷却工程後に球状黒鉛鋳鉄鋳物のA1変態点から500℃までの冷却速度を15℃/min〜50℃/minに制御(第1冷却工程)すると共に、更に500℃以下の冷却過程における冷却速度を第1冷却工程の冷却速度以上に制御(第2冷却工程)する冷却工程を採用することで、製造される球状黒鉛鋳鉄鋳物の機能を損ねることなく、当該球状黒鉛鋳鉄鋳物の製造に係る冷却時間の短縮を図ることができる。
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果をより確実に奏する。
請求項3に記載の発明によれば、第2冷却工程において、球状黒鉛鋳鉄鋳物を水浴に浸漬させるだけで、当該球状黒鉛鋳鉄鋳物を所定の冷却速度で容易かつ確実に冷却することができる。
以下に、本発明を具体化した実施の形態について詳述する。
本発明の球状黒鉛鋳鉄鋳物の製造方法では、炭素(C):3.2質量%〜4.2質量%、シリコン(Si):1.9質量%〜4.5質量%、マンガン(Mn):0.5質量%以下、リン(P):0.08質量%以下、イオウ(S):0.03質量%以下、マグネシウム(Mg):0.02質量%〜0.10質量%を含有すると共に、残部が鉄(Fe)及び不可避的不純物からなる球状黒鉛鋳鉄の溶湯を砂型に注湯する注湯工程と、前記砂型に注湯された球状黒鉛鋳鉄の溶湯を凝固させて、その凝固により得られる球状黒鉛鋳鉄鋳物をその温度がA1変態点に到達するまで砂型内でそのまま冷却する砂型内冷却工程と、前記球状黒鉛鋳鉄鋳物の温度がA1変態点に到達した前記砂型内冷却工程後に、前記砂型から球状黒鉛鋳鉄鋳物を取り出す型ばらしを行うと共に、球状黒鉛鋳鉄鋳物のA1変態点から500℃までにおける冷却過程において、当該球状黒鉛鋳鉄鋳物を15℃/min〜50℃/minの冷却速度で冷却する第1冷却工程と、前記第1冷却工程後の球状黒鉛鋳鉄鋳物を前記第1冷却工程における冷却速度以上の冷却速度で冷却する第2冷却工程とを順に実施する必要がある。
注湯工程において、砂型としては、生砂、フラン砂等により造型した砂型を採用することができる。また、砂型内冷却工程においては、球状黒鉛鋳鉄鋳物の表面温度がA1変態点に到達するまで砂型内でそのまま冷却する必要がある。この場合、予め温度センサ等を用いて球状黒鉛鋳鉄鋳物の表面温度が注湯工程時から何分後にA1変態点に到達するかを実験的に求めておくことが好ましい。そうすれば、鋳造毎に球状黒鉛鋳鉄鋳物の温度を測定する必要が無くなるため、球状黒鉛鋳鉄鋳物の生産性を向上させることが可能となる。
第1冷却工程において、球状黒鉛鋳鉄鋳物を冷却する冷却方法としては、エアー冷却、シャワー等の水冷、流動層による冷却等を挙げることができる。また、第1冷却工程において、冷却速度を15℃/min〜50℃/minに制御できるのであれば、冷却方法は特に限定されるものではない。第1冷却工程における冷却速度としては、20℃/min〜50℃/min、30℃/min〜50℃/minであることが好ましく、40℃/min〜50℃/minであることがより好ましく、45℃/min〜50℃/minであることが更に好ましい。第1冷却工程における冷却速度をできるだけ速く制御することで、球状黒鉛鋳鉄鋳物の製造に係る冷却時間の短縮効果が高められる。
第2冷却工程において、球状黒鉛鋳鉄鋳物を冷却する冷却方法としては、エアー冷却、シャワー等の水冷、流動層による冷却等を例示できるが、特にこれらの冷却方法に限定されるものではない。つまり、第2冷却工程において、第2冷却工程の冷却速度を第1冷却工程の冷却速度以上に制御できるのであれば、冷却方法は特に限定されない。第2冷却工程における冷却方法としては、球状黒鉛鋳鉄鋳物を水浴に浸漬させる冷却方法が好ましい。水浴に浸漬させるだけで、所定の冷却速度に制御することが容易だからである。また、水浴の温度を調整しておくことで、冷却速度を調整することも可能である。
第2冷却工程において、冷却速度を20℃/min〜940℃/minに設定することは好ましい。また、第2冷却工程における冷却速度としては、100℃/min〜940℃/min、200℃/min〜940℃/min、300℃/min〜940℃/minであることが好ましく、400℃/min〜940℃/min、500℃/min〜940℃/min、600℃/min〜940℃/minであることがより好ましく、700℃/min〜940℃/min、800℃/min〜940℃/min、830℃/min〜940℃/minであることが更に好ましい。第2冷却工程における冷却速度をできるだけ速く制御することで、球状黒鉛鋳鉄鋳物の製造に係る冷却時間の短縮効果が更に高められる。
球状黒鉛鋳鉄鋳物としては、その基地組織がパーライト及び/又はフェライトのものを例示できる。また、基地組織にマルテンサイトが析出していないことが好ましい。このような球状黒鉛鋳鉄鋳物は、自動車部品、例えばエキゾーストマニホルド、タービンハウジング一体型エキゾーストマニホルド、ターボチャージャの一部を構成するタービンハウジング、キャリパー等に採用できる。
以下、本発明を更に具体化した実施例1〜6、及び、比較例1〜6について説明する。
まず、実施例1では、球状黒鉛鋳鉄の溶湯として、鉄(Fe)を主成分とすると共に、表1に示す成分組成となるように調製されたものを用意した。なお、表1においては、Fe及び不可避的不純物の成分組成(質量%)を省略してある。そして、図1に示した球状黒鉛鋳鉄鋳物の製造方法(製造工程)に係る冷却曲線に基づいて、球状黒鉛鋳鉄鋳物を製造した。図3の従来技術に係る例では、球状黒鉛鋳鉄鋳物をA1変態点(図3の例では、700℃)から150℃まで冷却するのに長時間〔図3の例では、6000秒(100分)〕要していたが、図1の例では、球状黒鉛鋳鉄鋳物をA1変態点(図1の例では、700℃)から150℃まで冷却するのに短時間〔図1の例では、1000秒(約17分)〕で冷却することができる。
表1に示した球状黒鉛鋳鉄の溶湯(実施例1)を1インチYブロック形状のキャビティを有する砂型に注湯(注湯温度:1400℃)する注湯工程を行った。次に、砂型に注湯された球状黒鉛鋳鉄の溶湯(実施例1)を凝固させて、その凝固により得られる1インチYブロック形状の球状黒鉛鋳鉄鋳物(以下、「1インチYブロック」という)をその温度がA1変態点(図1の例では、700℃)に到達するまで砂型内でそのまま冷却する砂型内冷却工程を行った。
そして、1インチYブロックの温度がA1変態点(図1の例では、700℃)に到達した砂型内冷却工程後に、砂型から1インチYブロックを取り出す型ばらしを行うと共に、1インチYブロックのA1変態点(図1の例では、700℃)から500℃までにおける冷却過程において、1インチYブロックを15.5℃/minの冷却速度で冷却する第1冷却工程を行った。第1冷却工程後の1インチYブロックを第1冷却工程の冷却速度よりも速い840℃/minの冷却速度で冷却する第2冷却工程を実施することで、1インチYブロックの試験片を得た。なお、第2冷却工程における冷却は、1インチYブロックの試験片を水浴に浸漬させることにより行った。得られた実施例1の試験片のパーライト面積率及びビッカース硬さをそれぞれ求めた。その結果を表2に示す。
なお、本明細書中において、「パーライト面積率」とは、球状黒鉛鋳鉄鋳物(実施例及び比較例では、1インチYブロック)の基地組織の全体面積(100%)に対して基地組織中のパーライトが占める面積の割合を意味する。また、「ビッカース硬さ」とは、対面角136°の正四角錐のダイヤモンド圧子を一定の試験荷重で試験片の試験面に押込み、生じた永久くぼみの大きさから得られる硬さであり、JIS Z 2244の試験方法に準じて試験片のビッカース硬さを求めた。更に、表2において、「−」は、測定しなかったことを表している。表2に示したように、実施例1のパーライト面積率は、4.1%であり、実施例1のビッカース硬さは、161HVであった。なお、実施例1の試験片における基地組織中には、マルテンサイトの析出は観察されなかった。
また、図1に示した球状黒鉛鋳鉄鋳物の製造方法(製造工程)に係る冷却曲線に基づいて、上記表1のように調製された溶湯(実施例1)を1インチYブロック形状のキャビティを有する砂型に注湯(注湯温度:1400℃)する注湯工程を行った。次に、砂型に注湯された球状黒鉛鋳鉄の溶湯(実施例1)を凝固させて、その凝固により得られる1インチYブロックをその温度がA1変態点(図1の例では、700℃)に到達するまで砂型内でそのまま冷却する砂型内冷却工程(鋳型内冷却工程)を行った。
そして、1インチYブロックの温度がA1変態点(図1の例では、700℃)に到達した砂型内冷却工程後に、砂型から1インチYブロックを取り出す型ばらしを行うと共に、1インチYブロックのA1変態点(図1の例では、700℃)から500℃までにおける冷却過程において、1インチYブロックを15.5℃/minの冷却速度で冷却する第1冷却工程を行った。第1冷却工程後の1インチYブロックを第1冷却工程の冷却速度よりも速い840℃/minの冷却速度で冷却する第2冷却工程を実施することで、1インチYブロックの供試材を得た。なお、第2冷却工程における冷却は、1インチYブロックの供試材を水浴に浸漬させることにより行った。
1インチYブロック形状の供試材を水浴から取り出して乾燥させ、この供試材からJIS4号試験片(D=14mm、R=15mm、L〔標点距離〕=50mm、P〔平行部〕=60mm)を切り出し加工した。次に、この試験片を用いて、金属材料引張試験方法(JIS Z 2201−1980)に準じて試験を行うと共に、オートグラフ測定機(島津製作所製)に応力−ひずみ線図を描かせ、その応力−ひずみ線図から引張強さ(最大応力)、耐力(0.2%耐力)及び伸び(破断伸び)を各々求めた。その結果を表2に示す。表2に示したように、実施例1において、引張強さは463MPa、耐力は325MPa、伸びは26%であった。なお、実施例1では、残留応力を測定しなかった。
更に、図1に示した球状黒鉛鋳鉄鋳物の製造方法(製造工程)に係る冷却曲線に基づいて、上記表1のように調製された溶湯(実施例1)を砂型に注湯(注湯温度:1400℃)する注湯工程を行った。次に、砂型に注湯された球状黒鉛鋳鉄の溶湯(実施例1)を凝固させて、その凝固により得られる球状黒鉛鋳鉄鋳物をその温度がA1変態点(図1の例では、700℃)に到達するまで砂型内でそのまま冷却する砂型内冷却工程を行った。
そして、球状黒鉛鋳鉄鋳物の温度がA1変態点(図1の例では、700℃)に到達した砂型内冷却工程後に、砂型から球状黒鉛鋳鉄鋳物を取り出す型ばらしを行うと共に、球状黒鉛鋳鉄鋳物のA1変態点(図1の例では、700℃)から500℃までにおける冷却過程において、球状黒鉛鋳鉄鋳物を15.5℃/minの冷却速度で冷却する第1冷却工程を行った。第1冷却工程後の球状黒鉛鋳鉄鋳物を第1冷却工程の冷却速度よりも速い840℃/minの冷却速度で冷却する第2冷却工程を実施することで、外径145mm、内径100mm、長さ300mmの円筒状のテストピース(球状黒鉛鋳鉄鋳物)を得た。なお、第2冷却工程における冷却は、球状黒鉛鋳鉄鋳物(円筒状のテストピース)を水浴に浸漬させることにより行った。
そして、この円筒状のテストピースに対し、被削性評価試験を行った。被削性評価試験においては、超硬コーティングが施されたサンドビック製の刃部を備えた切削工具を用いて、切削速度150m/min、送り量0.4mm/rev、切込量0.5mmとなるように設定し、テストピースの外周面における9点の切削加工距離(1021m、2013m、2976m、3911m、4817m、5695m、6543m、7363m、8155m)まで切削した。そして、各9点における切削工具の刃部の摩耗量をそれぞれ測定した。
被削性評価試験における実施例1の試験結果は、切削加工距離1021mでは刃部摩耗量が0.055mm、切削加工距離2013mでは刃部摩耗量が0.062mm、切削加工距離2976mでは刃部摩耗量が0.070mm、切削加工距離3911mでは刃部摩耗量が0.082mm、切削加工距離4817mでは刃部摩耗量が0.093mm、切削加工距離5695mでは刃部摩耗量が0.111mm、切削加工距離6543mでは刃部摩耗量が0.120mm、切削加工距離7363mでは刃部摩耗量が0.132mm、切削加工距離8155mでは刃部摩耗量が0.143mmであった。
実施例2では、球状黒鉛鋳鉄の溶湯として、鉄(Fe)を主成分とすると共に、表1に示す成分組成となるように調製されたものを用意した。そして、実施例1の製造方法と同様にして、試験片(実施例2)を作製し、実施例2の試験片のパーライト面積率及びビッカース硬さをそれぞれ求めた。その結果を表2に示す。表2に示したように、実施例2のパーライト面積率は、3.8%であり、実施例2のビッカース硬さは、188HVであった。なお、実施例2の試験片における基地組織中には、マルテンサイトの析出は観察されなかった。
また、実施例1の場合と同様にして、実施例2の試験片の引張強さ(最大応力)、耐力(0.2%伸び)及び伸び(破断伸び)を各々求めた。その結果を表2に示す。表2に示したように、実施例2において、引張強さは575MPa、耐力は455MPa、伸びは22%であった。なお、実施例2については、被削性評価試験を行わなかった。
更に、実施例2の試験片の残留応力も求めた。残留応力は、ひずみゲージ法により、試験片の3箇所についてそれぞれ測定した。その結果を表2に示す。ひずみゲージ法とは、検査物(試験片)の残留応力を測定したい箇所(本測定では3箇所)に対し、測定方向を考慮してひずみゲージを貼付し、その測定箇所での応力が「0(零)」となるように計測器を調整した後、その測定箇所を切り取って応力を開放することで、この時に計測器で測定された応力値がその測定箇所の残留応力となるものです。表2に示すように、実施例2において、残留応力は、20〜57MPaであった。
実施例3では、球状黒鉛鋳鉄の溶湯として、鉄(Fe)を主成分とすると共に、表1に示す成分組成となるように調製されたものを用意した。そして、実施例1の製造方法と同様にして、試験片(実施例3)を作製し、実施例3の試験片のパーライト面積率及びビッカース硬さをそれぞれ求めた。その結果を表2に示す。表2に示したように、実施例3のパーライト面積率は、2.4%であり、実施例3のビッカース硬さは、227HVであった。なお、実施例3の試験片における基地組織中には、マルテンサイトの析出は観察されなかった。
また、実施例1の場合と同様にして、実施例3の試験片の引張強さ(最大応力)、耐力(0.2%伸び)及び伸び(破断伸び)を各々求めた。その結果を表2に示す。表2に示したように、実施例3において、引張強さは622MPa、耐力は528MPa、伸びは7%であった。
更に、実施例3についても、実施例1と同様の条件にて被削性評価試験を行った。被削性評価試験における実施例3の試験結果は、切削加工距離1021mでは刃部摩耗量が0.075mm、切削加工距離2013mでは刃部摩耗量が0.091mm、切削加工距離2976mでは刃部摩耗量が0.126mm、切削加工距離3911mでは刃部摩耗量が0.153mm、切削加工距離4817mでは刃部摩耗量が0.182mm、切削加工距離5695mでは刃部摩耗量が0.228mm、切削加工距離6543mでは刃部摩耗量が0.0239mm、切削加工距離7363mでは刃部摩耗量が0.0314mm、切削加工距離8155mでは刃部摩耗量が0.370mmであった。
また、実施例2の場合と同様にして、実施例3の試験片の残留応力も求めた。その結果を表2に示す。表2に示すように、実施例3において、残留応力は、0〜66MPaであった。
(比較例1)
比較例1では、球状黒鉛鋳鉄の溶湯として、鉄(Fe)を主成分とすると共に、表1に示す成分組成となるように調製されたもの(実施例1と同様の溶湯)を用意した。そして、図3に示した球状黒鉛鋳鉄鋳物の製造方法(製造工程)に係る冷却曲線に基づいて、球状黒鉛鋳鉄鋳物を製造した。すなわち、表1に示した球状黒鉛鋳鉄の溶湯(比較例1)を1インチYブロック形状のキャビティを有する砂型に注湯(注湯温度:1400℃)する注湯工程を行った。次に、砂型に注湯された球状黒鉛鋳鉄の溶湯(実施例1)を凝固させて、その凝固により得られる1インチYブロックをその温度がA1変態点(図3の例では、700℃)に到達するまで砂型内でそのまま冷却する砂型内冷却工程を行った。
そして、1インチYブロックの温度がA1変態点(図3の例では、700℃)に到達した砂型内冷却工程後に、砂型から1インチYブロックを取り出す型ばらしを行うと共に、1インチYブロックのA1変態点(図3の例では、700℃)から150℃まで冷却する従来技術に係るドラムクーラー冷却工程を実施することで、1インチYブロックの試験片を得た。得られた比較例1の試験片のパーライト面積率及びビッカース硬さをそれぞれ求めた。その結果を表2に示す。表2に示したように、比較例1のパーライト面積率は、6.2%であり、比較例1のビッカース硬さは、165HVであった。なお、比較例1の試験片における基地組織中には、マルテンサイトの析出は観察されなかった。
また、実施例1の場合と同様にして、比較例1の試験片の引張強さ(最大応力)、耐力(0.2%伸び)及び伸び(破断伸び)を各々求めた。その結果を表2に示す。表2に示したように、比較例1において、引張強さは468MPa、耐力は330MPa、伸びは25%であった。なお、比較例1では、残留応力を測定しなかった。
更に、比較例1についても、実施例1と同様の条件にて被削性評価試験を行った。被削性評価試験における比較例1の試験結果は、切削加工距離1021mでは刃部摩耗量が0.055mm、切削加工距離2013mでは刃部摩耗量が0.073mm、切削加工距離2976mでは刃部摩耗量が0.075mm、切削加工距離3911mでは刃部摩耗量が0.087mm、切削加工距離4817mでは刃部摩耗量が0.095mm、切削加工距離5695mでは刃部摩耗量が0.112mm、切削加工距離6543mでは刃部摩耗量が0.125mm、切削加工距離7363mでは刃部摩耗量が0.134mm、切削加工距離8155mでは刃部摩耗量が0.144mmであった。
(比較例2)
比較例2では、球状黒鉛鋳鉄の溶湯として、鉄(Fe)を主成分とすると共に、表1に示す成分組成となるように調製されたもの(実施例2と同様の溶湯)を用意した。そして、比較例1の製造方法と同様にして、試験片(比較例2)を作製し、比較例2の試験片のパーライト面積率及びビッカース硬さをそれぞれ求めた。その結果を表2に示す。表2に示したように、比較例2のパーライト面積率は、4.5%であり、比較例2のビッカース硬さは、193HVであった。なお、比較例2の試験片における基地組織中には、マルテンサイトの析出は観察されなかった。
また、比較例1の場合と同様にして、比較例2の試験片の引張強さ(最大応力)、耐力(0.2%伸び)及び伸び(破断伸び)を各々求めた。その結果を表2に示す。表2に示したように、比較例2において、引張強さは575MPa、耐力は453MPa、伸びは23%であった。なお、比較例2についても、実施例2と同様に、被削性評価試験を行わなかった。
更に、実施例2の場合と同様にして、比較例2の試験片の残留応力も求めた。その結果を表2に示す。表2に示すように、比較例2において、残留応力は、68〜122MPaであった。
(比較例3)
比較例3では、球状黒鉛鋳鉄の溶湯として、鉄(Fe)を主成分とすると共に、表1に示す成分組成となるように調製されたものを用意した。そして、比較例1の製造方法と同様にして、試験片(比較例3)を作製し、比較例3の試験片のパーライト面積率及びビッカース硬さをそれぞれ求めた。その結果を表2に示す。表2に示したように、比較例3のパーライト面積率は、2.5%であり、比較例3のビッカース硬さは、232HVであった。なお、比較例3の試験片における基地組織中には、マルテンサイトの析出は観察されなかった。
また、比較例1の場合と同様にして、比較例3の試験片の引張強さ(最大応力)、耐力(0.2%伸び)及び伸び(破断伸び)を各々求めた。その結果を表2に示す。表2に示したように、比較例3において、引張強さは620MPa、耐力は525MPa、伸びは6%であった。
更に、比較例3についても、実施例1と同様の条件にて被削性評価試験を行った。被削性評価試験における比較例3の試験結果は、切削加工距離1021mでは刃部摩耗量が0.082mm、切削加工距離2013mでは刃部摩耗量が0.113mm、切削加工距離2976mでは刃部摩耗量が0.145mm、切削加工距離3911mでは刃部摩耗量が0.158mm、切削加工距離4817mでは刃部摩耗量が0.179mm、切削加工距離5695mでは刃部摩耗量が0.231mm、切削加工距離6543mでは刃部摩耗量が0.245mm、切削加工距離7363mでは刃部摩耗量が0.325mm、切削加工距離8155mでは刃部摩耗量が0.363mmであった。
また、実施例2の場合と同様にして、比較例3の試験片の残留応力も求めた。その結果を表2に示す。表2に示すように、比較例3において、残留応力は、49〜142MPaであった。
(比較例4)
比較例4では、球状黒鉛鋳鉄の溶湯として、鉄(Fe)を主成分とすると共に、表1に示す成分組成となるように調製されたもの(実施例2、比較例2と同様の溶湯)を用意した。そして、表1に示した球状黒鉛鋳鉄の溶湯(比較例4)を1インチYブロック形状のキャビティを有する砂型に注湯(注湯温度:1400℃)する注湯工程を行った。次に、砂型に注湯された球状黒鉛鋳鉄の溶湯(比較例4)を凝固させて、その凝固により得られる1インチYブロックをその温度がA1変態点(700℃)に到達するまで砂型内でそのまま冷却する砂型内冷却工程を行った。
そして、1インチYブロックの温度がA1変態点(700℃)に到達した砂型内冷却工程後に、砂型から1インチYブロックを取り出す型ばらしを行うと共に、図示しないが、1インチYブロックのA1変態点(700℃)から150℃までにおける冷却過程において、1インチYブロックを急冷(冷却速度500℃/min)することで、1インチYブロックの試験片を得た。なお、急冷は、A1変態点(700℃)にある1インチYブロックの試験片を水浴に浸漬させることにより行った。
また、得られた比較例4の試験片の残留応力を実施例2の場合と同様にして求めた。その結果を表2に示す。表2に示すように、比較例4において、残留応力は、3〜133MPaであった。なお、比較例4では、試験片の基地組織中にマルテンサイトの析出が観察されたため、パーライト面積率、ビッカース硬さ、引張強さ、耐力、伸び及び刃部摩耗量については、測定しなかった。
(比較例5)
比較例5では、球状黒鉛鋳鉄の溶湯として、鉄(Fe)を主成分とすると共に、表1に示す成分組成となるように調製されたもの(実施例3、比較例3と同様の溶湯)を用意した。そして、比較例4の製造方法と同様にして、試験片(比較例5)を得た。また、得られた比較例5の試験片の残留応力を実施例2の場合と同様にして求めた。その結果を表2に示す。表2に示すように、比較例5において、残留応力は、34〜90MPaであった。なお、比較例5では、試験片の基地組織中にマルテンサイトの析出が観察されたため、パーライト面積率、ビッカース硬さ、引張強さ、耐力、伸び及び刃部摩耗量については、測定しなかった
(実施例と比較例との比較検討)
ここでは、同様の溶湯からなる実施例と比較例とを比較検討することとした。
まず、実施例1と比較例1とを比較した場合、両者共に基地組織中にマルテンサイトの析出は無く、パーライト面積率で2.1%の若干の違いがあるが、この違いは顕著なものであるとは言い難く、ビッカース硬さ、引張強さ、耐力及び伸びについては、両者に顕著な違いは認められなかった。また、実施例2と比較例2とを比較した場合、両者共に基地組織中にマルテンサイトの析出は無く、パーライト面積率で0.7%の差があるが、この差は、ほとんどないものと認められ、ビッカース硬さ、引張強さ、耐力及び伸びについては、両者に顕著な違いは認められなかった。更に、実施例3と比較例3とを比較した場合、両者共に基地組織中にマルテンサイトの析出は無く、パーライト面積率、ビッカース硬さ、引張強さ、耐力及び伸びについては、両者に顕著な違いはなかった。以上のことから、実施例1〜3のように製造に係る冷却時間を比較例1〜3(従来技術)に比して短縮した場合でも、比較例1〜3と同等以上の機能(マルテンサイトの析出無し、パーライト面積率、ビッカース硬さ、引張強さ、耐力及び伸び)を発揮する球状黒鉛鋳鉄鋳物(実施例1〜3)を製造できるということを確認できた。
次に、被削性評価結果について、実施例1と比較例1との比較、実施例3と比較例3との比較をした場合でも、両者にほとんど差は認められなかった。このことから、実施例1,3のように製造に係る冷却時間を比較例1,3(従来技術)に比して短縮した場合でも、比較例1,3と同等以上の被削性を発揮する球状黒鉛鋳鉄鋳物(実施例1〜3)を製造できるということを確認できた。
更に、残留応力の測定結果について、実施例2と比較例2,4との比較、実施例3と比較例3,5との比較をした場合には、両者に顕著な違いが認められた。すなわち、比較例2〜5では、急冷に起因して球状黒鉛鋳鉄鋳物に残留応力が発生し易くなっているのに対し、実施例2,3では、球状黒鉛鋳鉄鋳物に残留応力が発生しにくくなっているということを確認できた。なお、実施例2,3の場合(マルテンサイトの析出無し)と異なり、比較例4,5では、700℃から150℃までにおける冷却過程において急冷したことにより、球状黒鉛鋳鉄鋳物の基地組織中にマルテンサイトが析出していることを観察できた。
(変更例)
図2は、図1の第2冷却工程を変更した一例であって、その他の注湯工程、砂型内冷却工程及び第1冷却工程の各工程は図1の各工程と同じ条件である。図2の第2冷却工程における冷却速度は、第1冷却工程の冷却速度(15.5℃/min)よりも速い20.5℃/minの冷却速度に設定されている。ここで、図3の従来技術に係る例では、球状黒鉛鋳鉄鋳物をA1変態点(図3の例では、700℃)から150℃まで冷却するのに長時間〔図3の例では、6000秒(100分)〕要していたが、図2の変更例では、球状黒鉛鋳鉄鋳物の機能を損ねること無く、球状黒鉛鋳鉄鋳物をA1変態点(図2の例では、700℃)から150℃まで冷却するのに短時間〔図2の例では、1800秒(30分)〕で冷却することができる。
本実施形態の球状黒鉛鋳鉄鋳物の製造方法(製造工程)に係る冷却曲線を時間(s)と温度(℃)との関係で示すグラフである。
球状黒鉛鋳鉄鋳物の製造方法(製造工程)の変更例に係る冷却曲線を時間(s)と温度(℃)との関係で示すグラフである。
従来技術の球状黒鉛鋳鉄鋳物の製造方法(製造工程)に係る冷却曲線を時間(s)と温度(℃)との関係で示すグラフである。