以下では図面等を参照して本発明の実施の形態について詳しく説明する。
図1は本実施形態における自動変速機の構成を示すスケルトン図である。本実施形態における自動変速機は、前進7速後退1速の有段式自動変速機であり、エンジンEgの駆動力がトルクコンバータTCを介して入力軸Inputから入力され、4つの遊星ギアと7つの摩擦要素とによって回転速度が変速されて出力軸Outputから出力される。また、トルクコンバータTCのポンプインペラと同軸上にオイルポンプOPが設けられ、エンジンEgの駆動力によって回転駆動され、オイルを加圧する。
また、エンジンEgの駆動状態を制御するエンジンコントローラ(ECU)10と、自動変速機の変速状態等を制御する自動変速機コントローラ(ATCU)20と、ATCU20の出力信号に基づいて各締結要素の油圧を制御するコントロールバルブユニット(CVU)30とが設けられている。なお、ECU10とATCU20とは、CAN通信線等を介して接続され、相互にセンサ情報や制御情報を通信により共有している。
ECU10には、運転者のアクセルペダル操作量を検出するAPOセンサ1、エンジン回転速度を検出するエンジン回転速度センサ2、及びスロットル開度を検出するスロットルセンサ7が接続されている。ECU10は、エンジン回転速度やアクセルペダル操作量に基づいて燃料噴射量やスロットル開度を制御し、エンジンの回転速度及びトルクを制御する。
ATCU20には、第1キャリアPC1の回転速度を検出する第1タービン回転速度センサ3、第1リングギアR1の回転速度を検出する第2タービン回転速度センサ4及び運転者のシフトレバー操作状態を検出するインヒビタスイッチ6が接続され、Dレンジにおいて車速Vspとアクセルペダル操作量APOとに基づく最適な指令変速段を選択し、コントロールバルブユニットCVUに指令変速段を達成する制御指令を出力する。
次に、入力軸Inputの回転を変速しながら出力軸Outputへと伝達する変速ギア機構について説明する。変速ギア機構には入力軸Input側から軸方向出力軸Output側に向けて、順に第1遊星ギアセットGS1及び第2遊星ギアセットGS2が配置されている。また、摩擦要素として複数のクラッチC1、C2、C3及びブレーキB1、B2、B3、B4が配置され、さらに複数のワンウェイクラッチF1、F2が配置されている。
第1遊星ギアG1は、第1サンギアS1と、第1リングギアR1と、両ギアS1、R1に噛み合う第1ピニオンP1を支持する第1キャリアPC1と、を有するシングルピニオン型遊星ギアである。第2遊星ギアG2は、第2サンギアS2と、第2リングギアR2と、両ギアS2、R2に噛み合う第2ピニオンP2を支持する第2キャリアPC2と、を有するシングルピニオン型遊星ギアである。第3遊星ギアG3は、第3サンギアS3と、第3リングギアR3と、両ギアS3、R3に噛み合う第3ピニオンP3を支持する第3キャリアPC3と、を有するシングルピニオン型遊星ギアである。第4遊星ギアG4は、第4サンギアS4と、第4リングギアR4と、両ギアS4、R4に噛み合う第4ピニオンP4を支持する第4キャリアPC4と、を有するシングルピニオン型遊星ギアである。
入力軸Inputは、第2リングギアR2に連結され、エンジンEgからの回転駆動力をトルクコンバータTC等を介して入力する。出力軸Outputは、第3キャリアPC3に連結され、出力回転駆動力をファイナルギア等を介して駆動輪に伝達する。
第1連結メンバM1は、第1リングギアR1と第2キャリアPC2と第4リングギアR4とを一体的に連結するメンバである。第2連結メンバM2は、第3リングギアR3と第4キャリアPC4とを一体的に連結するメンバである。第3連結メンバM3は、第1サンギアS1と第2サンギアS2とを一体的に連結するメンバである。
第1遊星ギアセットGS1は、第1遊星ギアG1と第2遊星ギアG2とを、第1連結メンバM1と第3連結メンバM3とによって連結して、4つの回転要素から構成される。また、第2遊星ギアセットGS2は、第3遊星ギアG3と第4遊星ギアG4とを、第2連結メンバM2によって連結して、5つの回転要素から構成される。
第1遊星ギアセットGS1では、トルクが入力軸Inputから第2リングギアR2に入力され、入力されたトルクは第1連結メンバM1を介して第2遊星ギアセットGS2に出力される。第2遊星ギアセットGS2では、トルクが入力軸Inputから直接第2連結メンバM2に入力されるとともに、第1連結メンバM1を介して第4リングギアR4に入力され、入力されたトルクは第3キャリアPC3から出力軸Outputに出力される。
インプットクラッチC1は、入力軸Inputと第2連結メンバM2とを選択的に断接するクラッチである。ダイレクトクラッチC2は、第4サンギアS4と第4キャリアPC4とを選択的に断接するクラッチである。
H&LRクラッチC3は、第3サンギアS3と第4サンギアS4とを選択的に断接するクラッチである。また、第3サンギアS3と第4サンギアS4との間には、第2ワンウェイクラッチF2が配置されている。これにより、H&LRクラッチC3が解放され、第3サンギアS3よりも第4サンギアS4の回転速度が大きい時、第3サンギアS3と第4サンギアS4とは独立した回転速度を発生する。よって、第3遊星ギアG3と第4遊星ギアG4が第2連結メンバM2を介して接続された構成となり、それぞれの遊星ギアが独立したギア比を達成する。
フロントブレーキB1は、第1キャリアPC1の回転を選択的に停止させるブレーキである。また、フロントブレーキB1と並列に第1ワンウェイクラッチF1が配置されている。ローブレーキB2は、第3サンギアS3の回転を選択的に停止させるブレーキである。2346ブレーキB3は、第1サンギアS1及び第2サンギアS2を連結する第3連結メンバM3の回転を選択的に停止させるブレーキである。リバースブレーキB4は、第4キャリアPC4の回転を選択的に停止させるブレーキである。
次に図2を参照しながらCVU30の油圧回路について説明する。図2はCVUの油圧回路を表す回路図である。
油圧回路には、エンジンにより駆動された油圧源としてのオイルポンプOPと、運転者のシフトレバー操作と連動して、ライン圧PLを供給する油路を切り換えるマニュアルバルブMVと、ライン圧を所定の一定圧に減圧するパイロットバルブPVとが設けられる。
また、ローブレーキB2の締結圧を調圧する第1調圧弁CV1と、インプットクラッチC1の締結圧を調圧する第2調圧弁CV2と、フロントブレーキB1の締結圧を調圧する第3調圧弁CV3と、H&RLクラッチC3の締結圧を調圧する第4調圧弁CV4と、2346ブレーキB3の締結圧を調圧する第5調圧弁CV5と、ダイレクトクラッチC2の締結圧を調圧する第6調圧弁CV6とが設けられる。
また、ローブレーキB及びインプットクラッチC1への供給油路のうち、どちらか一方のみを連通状態に切り換える第1切換弁SV1と、ダイレクトクラッチC2に対しDレンジ圧及びRレンジ圧の供給油路のうち、どちらか一方のみを連通状態に切り換える第2切換弁SV2と、リバースブレーキB4に対して供給する油圧を第6調圧弁CV6からの供給油圧とRレンジ圧からの供給油圧との間で切り換える第3切換弁SV3と、第6調圧弁CV6から出力された油圧を油路123と油路122との間で切り換える第4切換弁SV4とが設けられる。
また、ATCU20からの制御信号に基づいて、第1調圧弁CV1に対し調圧信号を出力する第1ソレノイドバルブSOL1と、第2調圧弁CV2に対し調圧信号を出力する第2ソレノイドバルブSOL2と、第3調圧弁CV3に対し調圧信号を出力する第3ソレノイドバルブSOL3と、第4調圧弁CV4に対し調圧信号を出力する第4ソレノイドバルブSOL4と、第5調圧弁CV5に対し調圧信号を出力する第5ソレノイドバルブSOL5と、第6調圧弁CV6に対し調圧信号を出力する第6ソレノイドバルブSOL6と、第1切換弁SV1及び第3切換弁SV3に対し切り換え信号を出力する第7ソレノイドバルブSOL7とが設けられる。
エンジンにより駆動されるオイルポンプOPの吐出圧は、ライン圧に調圧された後、油路101及び油路102に供給される。油路101には、運転者のシフトレバー操作に連動して作動するマニュアルバルブMVと接続された油路101aと、フロントブレーキB1の締結圧の元圧を供給する油路101bと、H&LRクラッチC3の締結圧の元圧を供給する油路101cとが接続される。
マニュアルバルブMVには、油路105と、後退走行時に選択されるRレンジ圧を供給する油路106が接続され、シフトレバー操作に応じて油路105と油路106とを切り換える。
油路105には、ローブレーキB2の締結圧の元圧を供給する油路105aと、インプットクラッチC1の締結圧の元圧を供給する油路105bと、2346ブレーキB3の締結圧の元圧を供給する油路105cと、ダイレクトクラッチC2の締結圧の元圧を供給する油路105dと、後述する第2切換弁SV2の切り換え圧を供給する油路105eとが接続される。
油路106には、第2切換弁SV2の切り換え圧を供給する油路106aと、ダイレクトクラッチC2の締結圧の元圧を供給する油路106bと、リバースブレーキB4の締結圧を供給する油路106cとが接続される。
油路102にはパイロットバルブPVを介してパイロット圧を供給する油路103が接続される。油路103には、第1ソレノイドバルブSOL1にパイロット圧を供給する油路103aと、第2ソレノイドバルブSOL2にパイロット圧を供給する油路103bと、第3ソレノイドバルブSOL3にパイロット圧を供給する油路103cと、第4ソレノイドバルブSOL4にパイロット圧を供給する油路103dと、第5ソレノイドバルブSOL5にパイロット圧を供給する油路103eと、第6ソレノイドバルブSOL6にパイロット圧を供給する油路103fと、第7ソレノイドバルブSOL7にパイロット圧を供給する油路103gとが設けられる。
次に、図3、図4を参照しながら変速ギア機構の作動について説明する。図3は、変速段ごとの各締結要素の締結状態を示す締結表であり、○印は当該締結要素が締結状態となることを示し、(○)印はエンジンブレーキが作動するレンジ位置が選択されているときに当該締結要素が締結状態となることを示す。図4は、各変速段における各回転部材の回転状態を示す共線図である。
1速では、ローブレーキB2のみが締結され、第1ワンウェイクラッチF1及び第2ワンウェイクラッチF2が係合する。またエンジンブレーキ作用時は、フロントブレーキB1及びH&LRクラッチC3がさらに締結される。
第1ワンウェイクラッチF1が係合することで、第1キャリアPC1の回転が制止されるので、入力軸Inputから第2リングギアR2に入力された回転は、第1遊星ギアセットGS1によって減速され、この回転は第1連結メンバM1から第4リングギアR4に出力される。また、ローブレーキB2が締結され、第2ワンウェイクラッチF2が係合することで、第3サンギアS3及び第4サンギアS4の回転が制止されるので、第4リングギアR4に入力された回転は、第2遊星ギアセットGS2により減速され、第3キャリヤPC3から出力される。
すなわち、図4の共線図に示すように、入力軸Inputの回転は第1遊星ギアセットGS1で減速され、さらに第2遊星ギアセットGS2で減速され、出力軸Outputから出力される。
2速では、ローブレーキB2及び2346ブレーキB3が締結され、第2ワンウエイクラッチF2が係合する。またエンジンブレーキ作用時は、H&LRクラッチC3がさらに締結される。
2346ブレーキB3が締結されることで、第1サンギアS1及び第2サンギアS2の回転が制止されるので、入力軸Inputから第2リングギアR2に入力された回転は、第2遊星ギアG2のみによって減速され、この回転は第1連結メンバM1から第4リングギアR4に出力される。また、ローブレーキB2が締結され、第2ワンウェイクラッチF2が係合することで、第3サンギアS3及び第4サンギアS4の回転が制止されるので、第4リングギアR4に入力された回転は、第2遊星ギアセットGS2によって減速され、第3キャリヤPC3から出力される。
すなわち、図4の共線図に示すように、入力軸Inputの回転は第1遊星ギアセットGS1で減速され、さらに第2遊星ギアセットGS2で減速され、出力軸Outputから出力される。
3速では、ローブレーキB2、2346ブレーキB3及びダイレクトクラッチC2が締結される。
2346ブレーキB3が締結されることで、第1サンギアS1及び第2サンギアS2の回転が制止されるので、入力軸Inputから第2リングギアR2に入力された回転は、第2遊星ギアG2により減速され、この回転が第1連結メンバM1から第4リングギアR4に出力される。また、ダイレクトクラッチC2が締結されることで、第4遊星ギアG4は一体となって回転する。従って、第4遊星ギアG4はトルク伝達に関与するが減速作用には関与しない。また、ローブレーキB2が締結されることで、第3サンギアS3の回転が制止されるので、第4リングギアR4と一体に回転する第4キャリヤPC4から第2連結メンバM2を介して第3リングギアR3に入力された回転は、第3遊星ギアG3により減速され、第3キャリヤPC3から出力される。
すなわち、図4の共線図に示すように、入力軸Inputの回転は第1遊星ギアセットGS1で減速され、さらに第2遊星ギアセットGS2のうち第3遊星ギアG3で減速され、出力軸Outputから出力される。
4速では、2346ブレーキB3、ダイレクトクラッチC2及びH&LRクラッチC3が締結される。
2346ブレーキB3が締結されることで、第1サンギアS1及び第2サンギアS2の回転が制止されるので、入力軸Inputから第2リングギアR2に入力された回転は、第2遊星ギアG2のみによって減速され、この回転は第1連結メンバM1から第4リングギアR4に出力される。また、ダイレクトクラッチC2及びH&LRクラッチC3が締結されることで、第2遊星ギアセットGS2は一体で回転するので、第4リングギアR4に入力された回転は、そのまま第3キャリヤPC3から出力される。
すなわち、図4の共線図に示すように、入力軸Inputの回転は第1遊星ギアセットGS1で減速され、第2遊星ギアセットGS2では減速されることなく、出力軸Outputから出力される。
5速では、インプットクラッチC1、ダイレクトクラッチC2及びH&LRクラッチC3が締結される。
インプットクラッチC1が締結されることで、入力軸Inputの回転は第2連結メンバM2に直接入力される。また、ダイレクトクラッチC2及びH&LRクラッチC3が締結されることで、第2遊星ギアセットGS2は一体で回転するので、入力軸Inputの回転は、そのまま第3キャリアPC3から出力される。
すなわち、図4の共線図に示すように、入力軸Inputの回転は第1遊星ギアセットGS1及び第2遊星ギアセットGS2で減速されることなく、そのまま出力軸Outputから出力される。
6速では、インプットクラッチC1、H&LRクラッチC3及び2346ブレーキB3が締結される。
インプットクラッチC1が締結されることで、入力軸Inputの回転は第2リングギアに入力されると共に、第2連結メンバM2に直接入力される。また、2346ブレーキB3が締結されることで、第1サンギアS1及び第2サンギアS2の回転は制止されるので、入力軸Inputの回転は第2遊星ギアG2により減速され、第1連結メンバM1から第4リングギアR4に出力される。
また、H&LRクラッチC3が締結されることで、第3サンギアS3及び第4サンギアS4は一体回転するので、第2遊星ギアセットGS2は、第4リングギアR4の回転と、第2連結メンバM2の回転とによって規定される回転を第3キャリヤPC3から出力する。
すなわち、図4の共線図に示すように、入力軸Inputの回転の一部は第1遊星ギアセットGS1において減速され、第2遊星ギアセットGS2においては増速されて、出力軸Outputから出力される。
7速では、インプットクラッチC1、H&LRクラッチC3及びフロントブレーキB1が締結され、第1ワンウェイクラッチF1が係合する。
インプットクラッチC1が締結されることで、入力軸Inputの回転は第2リングギアR2に入力されると共に、第2連結メンバM2に直接入力される。また、フロントブレーキB1が締結されることで、第1キャリアPC1の回転は制止されるので、入力軸Inputの回転は第1遊星ギアセットGS1により減速され、この回転は第1連結メンバM1から第4リングギアR4に出力される。
また、H&LRクラッチC3が締結されることで、第3サンギアS3及び第4サンギアS4は一体回転するので、第2遊星ギアセットGS2は、第4リングギアR4の回転と、第2連結メンバM2の回転とによって規定される回転を第3キャリヤPC3から出力する。
すなわち、図4の共線図に示すように、入力軸Inputの回転の一部は第1遊星ギアセットGS1において減速され、第2遊星ギアセットGS2においては増速されて、出力軸Outputから出力される。
後退速では、H&LRクラッチC3、フロントブレーキB1及びリバースブレーキB4が締結される。
フロントブレーキB1が締結されることで、第1キャリアPC1の回転は制止されるので、入力軸Inputの回転は第1遊星ギアセットGS1により減速され、この回転が第1連結メンバM1から第4リングギアR4に出力される。
また、H&LRクラッチC3が締結されることで、第3サンギアS3及び第4サンギアS4は一体的に回転し、リバースブレーキB4が締結されることで、第2連結メンバM2の回転は制止されるので、第2遊星ギアセットGS2では、第4リングギアR4の回転が第4サンギアS4、第3サンギアS3、第3キャリアPC3と、反転しながら伝達され、第3キャリヤPC3から出力する。
すなわち、図4の共線図に示すように、入力軸Inputの回転は第1遊星ギアセットGS1において減速され、第2遊星ギアセットGS2において反転されて、出力軸Outputから出力される。
自動変速機は以上のように構成され、車速及びスロットル開度に基づいて設定される変速線に従って、1速〜7速の間で所望の変速段に切り換えられる。このとき、いずれかの摩擦要素が故障した場合には所望の変速段を達成することができなくなり、走行性が悪化する。そこで、摩擦要素が故障した場合にATCU20において行う制御について図5のフローチャートを参照しながら説明する。
図5は、本実施形態における自動変速機の制御を示すフローチャートである。本制御は、自動変速機のいずれかの摩擦要素が故障した場合に、故障した摩擦要素を特定するとともにその故障が解放故障であるか締結故障であるかを特定し、故障部位及び故障形態に応じてリンプホーム制御を行うものである。なお、解放故障とは締結指令を出力した摩擦要素が完全締結することなく解放したままとなる故障であり、締結故障とは解放指令を出力した摩擦要素が解放することなく締結したままとなる故障である。
ステップS1(故障検出手段)では、インターロック故障、ギア比異常、ニュートラル異常及び過回転のいずれかの異常を検知したか否かを判定する。いずれかの異常を検知した場合にはステップS2へ進み、いずれも検知していなければ再度ステップS1を実行する。
インターロック故障とは、摩擦要素の締結指令に対して、指令されていない余分な摩擦要素が締結することにより変速機の入力軸Input又は出力軸Outputの回転がロックされる状態をいい、例えばブレーキ非作動時の車両の減速度が所定値以上となったときインターロック故障が発生したと検知される。
ニュートラル異常とは、摩擦要素の締結指令に対して、指令されている摩擦要素の一部が締結しないことにより入力軸の動力が出力軸に伝達されない状態をいい、例えば指令変速段のギア比に対して実ギア比が所定値以上大きくなったときニュートラル異常が発生したと検知される。
ギア比異常とは、摩擦要素の締結指令に対して、摩擦要素の締結容量が不足している状態、又は指令されていない余分な摩擦要素が締結容量を有する状態をいい、例えば指令変速段のギア比に対して実ギア比が所定値以上乖離している場合であって、ニュートラル異常と判定されないときギア比異常が発生したと検知される。
過回転とは、入力軸Input及び出力軸Output以外の回転メンバの回転速度が、正常に指令変速段を達成しているときにはとり得ない回転速度まで上昇している状態をいい、例えば所定の回転メンバの回転速度を直接又は間接的に検出し、この回転速度が所定値以上となった場合に過回転が発生したと検知される。
ステップS2では、ステップS1において検出された故障又は異常に応じて暫定リンプホームを行う。暫定リンプホームは、例えば変速段を故障又は異常が検知されたときの変速段以外の変速段に固定することで行われる。
ステップS3では、車両が停止したか否かを判定する。車両が停止していればステップS4へ進み、停止していなければ再度ステップS3を実行する。なお、車両が停止したか否かは車速が所定車速(例えば5km/h)以下になったか否かによって判定する。
ステップS4(故障部位特定制御手段)では、ステップS1において検出された故障がニュートラル異常であって、かつ検出時の指令変速段が1〜3速であるか否かを判定する。条件を満足する場合にはステップS5(リンプホーム制御手段)へ進み、本リンプホームとして4、5、6速を用いて変速制御を行う。ニュートラル異常でない場合又は指令変速段が1〜3速でない場合にはステップS6へ進む。
検出された故障がニュートラル異常であって、かつ検出時の指令変速段が1〜3速である場合には、1〜3速において常に締結状態であるローブレーキB2の解放故障が発生したと推定できるので、ローブレーキB2を使用する1〜3速を避けて4、5、6速を用いて変速制御を行う。
以下に示す制御では、指令変速段を1速から3速まで経験させて、指令変速段に対して実変速段が正常な値を示すか否かによって故障部位を特定するように探り制御を行う。
ステップS6では、指令変速段を1速に設定する。ここで、指令変速段は車速やスロットル開度にかかわらず1速に設定される。後述するステップS17、S28においても同様にそれぞれ2速、3速に固定される。すなわち、本ステップ以降のステップを実行中に車速やスロットル開度に基づいてシフトアップ又はシフトダウンすることは禁止される。
ステップS7では、出力軸回転速度センサ5、第1タービン回転速度センサ3、第2タービン回転速度センサ4、スロットルセンサ7、エンジン回転速度センサ2及びインヒビタスイッチ6の各信号が正常であるか否かを判定する。信号が正常であればステップS9へ進み、信号が異常であればステップS8へ進んで指令変速段を1速に固定し、以降は1速にて走行を続ける。
ここで、指令変速段が1速のときにはローブレーキB2に対して締結指令がなされ、この状態で他の摩擦要素が締結故障しても実ギア比が1速に対応するギア比以外となるだけで、インターロックなどの故障がさらに生じることはない。そこで、信号が異常となって故障部位を正確に特定することができないような状況では、指令変速段を1速に固定することで、誤ったリンプホームを行って走行性の悪化や摩擦要素の過剰な摩耗が生じることを防止する。
ステップS9(故障特定禁止判定手段)では、車速Vspが所定速度より高いか否か、タービンランナの回転速度TbnREVが所定回転より高いか否か、スロットルバルブの開度Tvoが所定開度より大きいか否か、エンジン回転速度からタービンランナの回転速度を減算した値Ne−Ntが所定値より大きいか否かをそれぞれ判定する。全ての条件を満足する場合にはステップS10へ進み、1つでも満たさない場合にはステップS7へ戻る。
変速機の出力軸Outputが回転してないとギア比を正確に検出することができないので、所定速度はギア比を正確に検出できる程度の車速であることを判断できるような値に設定される。また、同様に変速機の入力軸Inputが回転してないとギア比を正確に検出することができないので、所定回転はギア比を正確に検出できる程度にタービンランナが回転していることを判断できるような値に設定される。さらに、エンジンEgの駆動力が変速機の入力軸Inputから出力軸Outputへと伝達されていること、すなわちコースト状態でなくドライブ状態であることを判断できるように、所定開度及び所定値が設定される。
ステップS10(レバー位置検知手段)では、レンジ信号がP、R、N以外であるか否かを判定する。レンジ信号がP、R、N以外、すなわち前進走行レンジであればステップS11へ進み、レンジ信号がP、R、NであればステップS7へ戻る。
摩擦要素は、摩擦要素の油圧を調圧する調圧弁のスプールとバルブボディのボアとの間にコンタミなどを噛み込むことでバルブスティックによる締結故障を生じることが多い。このような故障を生じているときに、前進走行レンジからP、R、Nレンジへとレンジが変更されると油圧がマニュアルポートから排出されるので、調圧弁に作用している油圧の変動が大きく、その結果スプールがバルブボディからはずれて、締結故障が解消されることがある。そこで、本制御実行中に前進走行レンジからP、R、Nレンジへとレンジが変更されたときは、それまでのデータをリセットして再度制御をやり直すこととする。
ステップS11では、実ギア比を検出する。実ギア比は変速機の入力軸Inputの回転速度から出力軸Outputの回転速度を除算して演算される。
ステップS12では、指令変速段が1速に設定されてから所定時間が経過したか否かを判定する。所定時間は、ステップS9の条件を一時的に満たした場合を除外するのに十分な時間とされ、例えば2sに設定される。
ステップS13(故障部位特定制御手段)では、実ギア比が1.5速相当であるか否かを判定する。実ギア比が1.5速相当であればステップS14(リンプホーム制御手段)へ進んで、本リンプホームとして3、4、5速を用いて変速制御を行い、実ギア比が1.5速以外であればステップS15へ進む。ここで、実ギア比が1.5速相当となるのは、図6の共線図よりローブレーキB2、第1ワンウェイクラッチF1及びダイレクトクラッチC2が締結されるときである。現在の指令変速段は1速であり締結指令はローブレーキB2にのみ出力されていることから、ダイレクトクラッチC2が締結故障していると判断できる。よって、ダイレクトクラッチC2を締結する変速段である3、4、5速のみを用いて変速制御する。
ステップS15(故障部位特定制御手段)では、実ギア比が2速相当であるか否かを判定する。実ギア比が2速相当であればステップS16(リンプホーム制御手段)へ進んで、本リンプホームとして2、3、4速を用いて変速を行い、実ギア比が2速以外であればステップS17へ進む。ここで、指令変速段が1速であるにもかかわらず実ギア比が2速相当となるのは、図3の締結表の1速と2速とを見比べると2346ブレーキが締結故障している場合であるので、2346ブレーキを締結する変速段のうち2、3、4速のみを用いて変速制御する。
ステップS17では、指令変速段を2速に設定する。
ステップS18では、出力軸回転速度センサ5、第1タービン回転速度センサ3、第2タービン回転速度センサ4、スロットルセンサ7、エンジン回転速度センサ2及びインヒビタスイッチ6の各信号が正常であるか否かを判定する。信号が正常であればステップS20へ進み、信号が異常であればステップS19へ進んで指令変速段を1速に固定する。
ステップS20(故障特定禁止判定手段)では、車速Vspが所定速度より高いか否か、タービンランナの回転速度TbnREVが所定回転より高いか否か、スロットルバルブの開度Tvoが所定開度より大きいか否か、エンジン回転速度からタービンランナの回転速度を減算した値Ne−Ntが所定値より大きいか否かをそれぞれ判定する。全ての条件を満足する場合にはステップS21へ進み、1つでも満たさない場合にはステップS18へ戻る。
ステップS21(レバー位置検知手段)では、レンジ信号がP、R、N以外であるか否かを判定する。レンジ信号がP、R、N以外、すなわち前進走行レンジであればステップS22へ進み、レンジ信号がP、R、NであればステップS6へ戻る。
前述のステップS10において説明したように、摩擦要素の締結故障は、前進走行レンジからP、R、Nレンジへとレンジが変更されることで解消されることがあるので、この場合に指令変速段を1速として行ったステップS6〜S16での故障部位特定制御により得られた結果を保持したまま以下の制御を続行すると、過剰な制御によって走行性が悪化することがある。そこで、前進走行レンジからP、R、Nレンジへとレンジが変更されたときは再度指令変速段を1速に設定して故障部位特定制御を初めからやり直すこととしている。
ステップS22では、実ギア比を検出する。
ステップS23では、指令変速段が2速に設定されてから所定時間が経過したか否かを判定する。所定時間経過していればステップS24へ進み、所定時間経過していなければステップS18へ戻る。
ステップS24(故障部位特定制御手段)では、実ギア比が1速相当であるか否かを判定する。実ギア比が1速相当であればステップS25(リンプホーム制御手段)へ進んで、本リンプホームとして1、5、7速を用いて変速制御を行い、実ギア比が1速以外であればステップS26へ進む。ここで、指令変速段が2速であるにもかかわらず実ギア比が1速相当となるのは、図3の締結表の1速と2速とを見比べると2346ブレーキが解放故障している場合であるので、2346ブレーキを解放する変速段である1、5、7速のみを用いて変速制御する。
ステップS26(故障部位特定制御手段)では、実ギア比がインターロック相当のギア比(ILK)であるか否かを判定する。実ギア比がインターロック相当のギア比であればステップS27(リンプホーム制御手段)へ進んで、本リンプホームとして1、2.5、7速を用いて変速を行い、実ギア比がインターロック相当のギア比以外であればステップS28へ進む。インターロック故障のうち入力軸がロックしたときはギア比が小さくなり、出力軸がロックしたときはギア比が大きくなるので、ギア比が、1速相当のギア比より大きいとき、又は2速相当のギア比より小さいとき、インターロック相当のギア比であると判断される。
指令変速段が2速のとき、図7の共線図に示すようにローブレーキB2及び2346ブレーキB3に締結指令が出力されるが、この状態でフロントブレーキB1が締結故障した場合には第1キャリアPC1の回転が制止されるので入力軸Inputがロックするインターロック故障が発生する。よって、フロントブレーキB1を締結する変速段である1、2.5、7速のみを用いて変速制御する。
ステップS28では、指令変速段を3速に設定する。
ステップS29では、出力軸回転速度センサ5、第1タービン回転速度センサ3、第2タービン回転速度センサ4、スロットルセンサ7、エンジン回転速度センサ2及びインヒビタスイッチ6の各信号が正常であるか否かを判定する。信号が正常であればステップS31へ進み、信号が異常であればステップS30へ進んで指令変速段を1速に固定する。
ステップS31(故障特定禁止判定手段)では、車速Vspが所定速度より高いか否か、タービンランナの回転速度TbnREVが所定回転より高いか否か、スロットルバルブの開度Tvoが所定開度より大きいか否か、エンジン回転速度からタービンランナの回転速度を減算した値Ne−Ntが所定値より大きいか否かをそれぞれ判定する。全ての条件を満足する場合にはステップS32へ進み、1つでも満たさない場合にはステップS29へ戻る。
ステップS32(レバー位置検知手段)では、レンジ信号がP、R、N以外であるか否かを判定する。レンジ信号がP、R、N以外、すなわち前進走行レンジであればステップS33へ進み、レンジ信号がP、R、NであればステップS6へ戻る。
ステップS33では、実ギア比を検出する。
ステップS34では、指令変速段が3速に設定されてから所定時間が経過したか否かを判定する。所定時間経過していればステップS35へ進み、所定時間経過していなければステップS29へ戻る。
ステップS35(故障部位特定制御手段)では、実ギア比が2速相当であるか否かを判定する。実ギア比が2速相当であればステップS36(リンプホーム制御手段)へ進んで、本リンプホームとして1、2速を用いて変速制御を行い、実ギア比が2速以外であればステップS37へ進む。ここで、指令変速段が3速であるにもかかわらず実ギア比が2速相当となるのは、図3の締結表の2速と3速とを見比べるとダイレクトクラッチC2が解放故障している場合であるので、ダイレクトクラッチC2を解放する変速段のうち1、2速のみを用いて変速制御する。
ステップS37(故障部位特定制御手段)では、実ギア比がインターロック相当のギア比であるか否かを判定する。実ギア比がインターロック相当のギア比であればステップS38(リンプホーム制御手段)へ進んで、本リンプホームとして4、5、6、7速を用いて変速を行い、実ギア比がインターロック相当のギア比以外であればステップS39へ進む。
指令変速段が3速のとき、図8の共線図に示すようにダイレクトクラッチC2、ローブレーキB2及び2346ブレーキB3に締結指令が出力されるが、この状態でH&LRクラッチC3が締結故障した場合には第4キャリアPC4の回転が制止されるので出力軸Outputがロックするインターロック故障が発生する。よって、H&LRクラッチC3を締結する変速段である4、5、6、7速のみを用いて変速制御する。
ステップS39(リンプホーム制御手段)では、本リンプホームとして1、2、3速のみを用いて変速させる。1速から3速までを経験させながら各指令変速段のときに検出される実ギア比から故障を推定してきたが、いずれにも該当しなかった場合に本ステップが実行されるので、推定される故障としてはインプットクラッチC1の締結故障及び解放故障、並びにH&LRクラッチC3の解放故障が考えられる。そこで、上記いずれの故障であっても影響のない1、2、3速を用いて変速制御する。
以上のように本実施形態では、摩擦要素の故障が検知されたとき、指令変速段を1速から3速まで順次移行させながら故障した摩擦要素を特定する制御を行い、1速から3速までの変速段に移行させても故障した摩擦要素を特定できなかった場合には、リンプホーム制御として1速から3速までの変速段を使用して変速制御を行うので、走行性がある程度確保できる場合には、故障した摩擦要素を特定するために全ての変速段を経験させる必要がなく、より早くリンプホーム制御を開始できるので走行性の悪化を最小限に抑えることができる(請求項1に対応)。
また、指令変速段と、実ギア比から推定される実際の変速段とに基づいて故障した摩擦要素を特定するので、ギア比が指令変速段から乖離していることを全変速段についてそれぞれ判定する必要がなく、早期に故障した摩擦要素を特定することができる(請求項2に対応)。
さらに、故障した摩擦要素が特定できたときには、次の、選択された変速段へ移行させることなくリンプホーム制御を行うので、故障した摩擦要素を特定できた後に指令変速段を順次移行させることによる無駄な制御を省略することができ、走行性の悪化をさらに抑えることができる(請求項3に対応)。
さらに、指令変速段を所定時間ごとに順次移行させるので、車速とスロットル開度に基づいて変速指示を行う場合に比べて走行状態にかかわらず確実に変速段を移行させることができ、より早期に摩擦要素を特定することができる。特に故障時には、運転者がアクセルペダルをあまり踏み込まないので、車速とスロットル開度とによって指令変速段を移行させることにすると、指令変速段が切り替わるのに多くの時間を要することになり、本実施形態によればより早期に摩擦要素を特定することができる(請求項4に対応)。
さらに、指令変速段は所定時間ごとに順次移行され、ダウンシフトは禁止されるので、指令変速段を選択された変速段に確実に移行させることができ、早期に故障した摩擦要素を特定することができる(請求項5に対応)。
さらに、車速Vspが所定速度より高いか否か、タービンランナの回転速度TbnREVが所定回転より高いか否か、スロットルバルブの開度Tvoが所定開度より大きいか否か、エンジン回転速度からタービンランナの回転速度を減算した値Ne−Ntが所定値より大きいか否かという条件を1つでも満たさない場合には摩擦要素の特定を中止し、上記条件が満足されたとき、摩擦要素の特定を中止したときの指令変速段から摩擦要素の特定を再開するので、一時的に上記条件を満たさなくなった後に再度条件を満足した場合に、既に経験した指令変速段を再度経験させることがなく、より早期に故障した摩擦要素を特定することができる(請求項6に対応)。
レンジ信号がP、R、Nであると検知されたとき、故障した摩擦要素の特定を中止し、レンジ信号がP、R、N以外になったときは指令変速段を1速に戻して初めから故障した摩擦要素の特定制御をやり直すので、摩擦要素の一時的な故障であってレンジ位置が前進走行レンジからP、R、Nレンジへと変更されたことで故障が解消された場合に、それまで行った摩擦要素の特定制御の結果をリセットすることができ、過剰な制御を行うことなく走行性の悪化を抑制することができる(請求項7に対応)。
以上説明した実施形態に限定されることなく、その技術的思想の範囲内において種々の変形や変更が可能である。