JP2008214663A - 焼結体の製造方法および焼結体 - Google Patents

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Abstract

【課題】所定の目的とする含有率で炭素を含有し、例えば、炭素含有率を低く抑えることにより、機械的特性および化学的特性に優れた低炭素の焼結体を効率よく製造することができる焼結体の製造方法、および、かかる製造方法により製造されたものであり、目的とする含有率で炭素を含み、目的の特性を示す高品質の焼結体を提供すること。
【解決手段】本発明の焼結体の製造方法は、Feを主成分とする平均粒径7μm以下の金属粉末とバインダとを含む組成物を成形して成形体を製造し、この成形体を300〜500℃と700〜840℃の各温度で0.5〜3時間ずつ保持する少なくとも2回の温度保持過程を含む脱脂条件で脱脂し、次いで、得られた脱脂体を850〜990℃と1000〜1200℃の各温度で0.5〜3時間ずつ保持する少なくとも2回の温度保持過程を含む焼成条件で焼結させることを特徴とする。
【選択図】図1

Description

本発明は、焼結体の製造方法および焼結体に関するものである。
金属粉末を含む成形体を焼結して金属製品を製造するのに際し、成形体の製造方法として、例えば、金属粉末とバインダとを混合し、この混合物を成形型のキャビティ内に充填するとともに、混合物を加圧して、成形体を作製する圧粉成形(圧縮成形)法が知られている。
また、別の成形体の製造方法として、例えば、金属粉末とバインダとを混合、混練し、この混練物を用いて射出成形する金属粉末射出成形(MIM:Metal Injection Molding)法が知られている。
このような各種成形方法により作製された成形体は、脱脂処理(脱バインダ処理)が施されてバインダが除去された後、焼結に供されることにより、目的とする金属製品(焼結体)となる。
このようにして得られる焼結体の機械的特性および化学的特性は、特に、脱脂処理の条件や、焼結の条件に大きく影響を受ける。このため、各特性に優れた焼結体を製造すべく、これらの各条件の最適化が図られている。
例えば、特許文献1では、成形体に対して、いくつかの異なる脱脂条件下で脱脂処理を行い、脱脂処理中に成形体から発生するガスの種類を脱脂条件ごとに測定し、各脱脂条件におけるガスの種類の変化に基づいて、最適な脱脂条件を決定する方法が開示されている。
ところが、焼結体の製造に用いる金属粉末として、粒径の小さいもの(例えば、平均粒径7μm以下のもの)を用いた場合、特許文献1に記載の方法では、最適な脱脂条件を見出すことができないことがわかってきた。
これは、金属粉末の平均粒径が7μmを下回るようになると、脱脂や焼結における金属粉末の挙動が大きく変化することに起因していると推察される。
例えば、平均粒径7μm以下の金属粉末を用いた場合、通常の焼結温度よりも低温で焼結することも、そのような金属粉末の形状作用によるものと考えられる。
したがって、粒径の小さい金属粉末を用いた場合には、脱脂や焼結の際に、成形体中からバインダを除去し終える前に、焼結が進行してしまい、最終的に得られる焼結体中に、バインダ由来の炭素が閉じ込められるという問題が生じている。
このような問題が生じると、焼結体の炭素含有率は、金属粉末の炭素含有率から大きく変化してしまい、目的とする炭素含有率の焼結体を得ることは困難である。
特開平10−153560号公報
本発明の目的は、目的とする所定の含有率で炭素を含有し、例えば、炭素含有率を低く抑えることにより、高密度かつ低炭素で機械的特性および化学的特性に優れた焼結体を効率よく製造することができる焼結体の製造方法、および、かかる製造方法により製造されたものであり、目的とする含有率で炭素を含み、目的の特性を示す高品質の焼結体を提供することにある。
上記目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の焼結体の製造方法は、金属粉末とバインダとを含む組成物を成形して、成形体を得る成形工程と、
該成形体を徐々に昇温するように加熱することにより、前記成形体中から前記バインダを除去して、脱脂体を得る脱脂工程と、
該脱脂体を徐々に昇温するように加熱することにより、前記脱脂体を焼結させ、焼結体を得る焼成工程とを有し、
前記金属粉末は、Fe(鉄)を主成分とする平均粒径7μm以下のものであり、
前記脱脂工程において、前記成形体を、300〜500℃の温度TD1で0.5〜3時間保持し、次いで、700〜840℃の温度TD2で0.5〜3時間保持する、少なくとも2回の温度保持過程を経た後、前記成形体の加熱を終了することとし、
前記焼成工程において、前記脱脂体を、850〜990℃の温度TS1で0.5〜3時間保持し、次いで、1000〜1200℃の温度TS2で0.5〜3時間保持する、少なくとも2回の温度保持過程を経た後、前記脱脂体の加熱を終了することを特徴とする。
これにより、目的とする所定の含有率で炭素を含有し、例えば、炭素含有率を低く抑えることにより、高密度かつ低炭素で機械的特性および化学的特性に優れた焼結体を効率よく製造することができる。
本発明の焼結体の製造方法では、前記温度TD1と前記温度TD2との差TD2−TD1は、250〜450℃であることが好ましい。
これにより、成形体全体における脱脂処理の進行の度合いが、さらに均一になる。これにより、成形体中のバインダが、分解・気化して、成形体の外部により効率よく放出される。
本発明の焼結体の製造方法では、前記温度TS1と前記温度TS2との差TS2−TS1は、100〜300℃であることが好ましい。
これにより、脱脂体全体における焼結の進行の度合いが、さらに均一になる。これにより、脱脂体中のバインダが、分解・気化して、脱脂体の外部により効率よく放出される。
本発明の焼結体の製造方法では、前記脱脂工程において、前記各温度保持過程以外での平均昇温速度は、10〜100℃/時間であることが好ましい。
これにより、急激な昇温によるバインダの突発的な分解・気化を防止しつつ、十分な速度でバインダを分解することができる。その結果、バインダの突発的な気化による成形体の変形・亀裂の発生を確実に防止しつつ、十分な速度で成形体に脱脂処理を施すことができる。
本発明の焼結体の製造方法では、前記焼成工程において、前記各温度保持過程以外での平均昇温速度は、30〜250℃/時間であることが好ましい。
これにより、急激な昇温によって脱脂体の温度が不均一になるのを防止しつつ、十分な速度で脱脂体を焼結させることができる。
本発明の焼結体の製造方法では、前記焼成工程における前記各温度保持過程の前に、前記脱脂体を、前記温度TS1より低温で0.5〜3時間保持する、少なくとも1回の温度保持過程を経ることが好ましい。
これにより、脱脂体全体における焼結の進行の度合いが、さらに均一になる。
本発明の焼結体の製造方法では、前記脱脂工程において、還元性雰囲気中で、前記成形体を加熱することが好ましい。
これにより、還元性雰囲気の作用で、成形体中のバインダを速やかに分解することができ、成形体中から除去することができる。その結果、最終的に得られる焼結体中に、バインダおよびその変化物の残存量を極めて少なく抑えることができる。
本発明の焼結体の製造方法では、前記還元性雰囲気は、還元性ガスとして水素ガスを含むことが好ましい。
これにより、成形体に対する脱脂処理をより高速かつ十分に行うことができ、バインダ由来の炭素が焼結体中に残存するのを確実に防止することができる。また、水素ガスを構成する水素分子は、その分子サイズが非常に小さいため、成形体に生じた隙間に容易に侵入することができる。このため、水素ガスによれば、成形体の内部に存在するバインダも容易に分解・除去することができる。これにより、焼結体の表層部はもちろん、中心部においても、バインダの分解・除去を確実に行うことができる。
本発明の焼結体の製造方法では、前記金属粉末は、ステンレス鋼を主材料とするものであることが好ましい。
ステンレス鋼は、炭素含有率に応じて種々の特性を取り得るため、本発明の作用・効果がより有効である。すなわち、本発明によれば、得られる焼結体の炭素含有率を制御することができるので、ステンレス鋼を主材料とする金属粉末を用いることにより、用途に応じて、目的とする特性を発揮する焼結体を容易に製造することができる。
本発明の焼結体の製造方法では、前記金属粉末は、アトマイズ法で製造されたものであることが好ましい。
アトマイズ法で製造された金属粉末は、真球に比較的近い球形状をなしているため分散性や流動性に優れており、成形時に金属粉末を成形型に充填する際、その充填性を高めることもできる。
本発明の焼結体の製造方法では、前記バインダは、ポリビニルピロリドンおよびポリビニルアルコールの少なくとも一方を主成分とするものであることが好ましい。
これらのバインダは、低価格で入手が容易であるにもかかわらず、結合力が強い。また、加熱によって容易に熱分解するため、意図しない成分が残留し難い、すなわち脱バインダ特性が高いという利点もある。
本発明の焼結体の製造方法では、前記組成物において、前記バインダの量は、前記金属粉末1kg当たり3〜20gであることが好ましい。
これにより、金属粉末の各粒子の表面のほぼ全面をバインダで十分に被覆しつつ、被覆に寄与しないバインダが多量に残存するのを確実に防止することができる。
本発明の焼結体の製造方法では、前記金属粉末の炭素含有率をXとし、前記焼結体の炭素含有率をYとしたとき、これらの差の前記Xに対する割合(Y−X)/Xが、30%以下であることが好ましい。
これにより、金属粉末の炭素含有率Xと焼結体の炭素含有率Yとの間に特に強い相関関係が認められることとなる。したがって、金属粉末の炭素含有率Xを設定することで、焼結体の炭素含有率Yをより容易かつ厳密に調整することができるようになる。
本発明の焼結体は、本発明の焼結体の製造方法により製造されたことを特徴とする。
これにより、目的とする含有率で炭素を含み、目的の特性を示す高品質の焼結体が得られる。
以下、本発明の焼結体の製造方法および焼結体について、詳細に説明する。
図1は、本発明の焼結体の製造方法の実施形態を示す工程図である。
本発明の焼結体の製造方法は、図1に示すように、組成物(金属粉末およびバインダ)を用意し、この組成物を造粒して造粒粉末を製造する造粒工程と、造粒粉末を成形して成形体を製造する成形工程と、成形体に対して脱脂処理を行う脱脂工程と、脱脂体に対して焼成を行う焼成工程とを有する。以下、これらの工程の順にしたがって説明する。
[A]造粒工程
まず、金属粉末を用意する。
金属粉末を構成する金属材料としては、Feを主成分とする金属材料を用いることができ、具体的には、ステンレス鋼、ダイス鋼、高速度工具鋼、低炭素鋼、Fe−Ni合金、Fe−Ni−Co合金等の各種Fe系合金等が挙げられる。
これらの中でも、金属粉末としては、ステンレス鋼を主材料とするものが好ましい。ステンレス鋼は、炭素含有率に応じて種々の特性を取り得るため、本発明の作用・効果がより有効である。すなわち、本発明によれば、得られる焼結体の炭素含有率を制御することができるので、ステンレス鋼を主材料とする金属粉末を用いることにより、用途に応じて、目的とする特性を発揮する焼結体を容易に製造することができる。
ステンレス鋼の具体例としては、SUS304、SUS316、SUS316L、SUS317、SUS329、SUS410、SUS430、SUS440、SUS630等が挙げられる。
また、組成の異なる2種類以上の金属粉末を混合して用いてもよい。これにより、従来、鋳造では製造できなかったような合金組成の焼結体をも製造することもできる。また、新規な機能や多機能を有する焼結体が容易に製造でき、焼結体の機能・用途の拡大を図ることができる。
また、金属粉末と後述するバインダとは、互いに化学反応しないものであるのが好ましい。
また、金属粉末として、本発明では、平均粒径7μm以下の金属粉末を用いるが、平均粒径5μm以下の金属粉末を用いるのが好ましく、平均粒径3μm以下の金属粉末を用いるのがより好ましい。このように粒径の小さい金属粉末を用いることにより、最終的に得られる焼結体の結晶組織の粒径(以下、省略して「結晶粒径」とも言う。)を著しく小さくすることができる。
ここで、焼結体の機械的特性は、結晶粒径の1/2乗に反比例して高まることが経験的に知られている。これは、微細な結晶組織の集合体では、亀裂の進展が抑制され、破壊確率が低下するためと考えられる。したがって、前述のような粒径の小さい金属粉末を用いることにより、引張強度や硬度等の機械的特性に特に優れた高密度の焼結体が得られる。
また、金属粉末の平均粒径の下限値は、特に限定されないが、金属粉末の製造技術を考慮すると、好ましくは1μm程度とされる。
また、特に、比表面積が150m/kg以上の金属粉末を用いるのが好ましく、300〜900m/kg程度の金属粉末を用いるのがより好ましい。このように比表面積の広い金属粉末は、表面の活性(表面エネルギー)が適度に高くなり、より低いエネルギーの付与でも容易に焼結することができる。したがって、後述する焼成工程[D]において、脱脂体中のバインダが除去される前に脱脂体が焼結してしまうのを防止しつつ、脱脂体をより短時間で焼結させることができる。
また、金属粉末のタップ密度は、3Mg/m以上であるのが好ましく、3.2Mg/m以上であるのがより好ましい。これにより、特に密度の高い焼結体が得られる。
また、金属粉末は、例えば、アトマイズ法(例えば、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、高速回転水流アトマイズ法等)、還元法、カルボニル法、粉砕法により製造されたものを用いることができるが、アトマイズ法により製造されたものを用いるのが好ましい。アトマイズ法によれば、極めて微小な金属粉末を効率よく製造することができる。
また、アトマイズ法で製造された金属粉末は、真球に比較的近い球形状をなしているため分散性や流動性に優れており、成形時に金属粉末を成形型に充填する際、その充填性を高めることもできる。
一方、バインダを溶媒に溶解して、バインダ溶液を調製する。
バインダとしては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、エチレンビスステアロアミド、エチレンビニル共重合体、パラフィン、ワックス、アルギン酸ソーダ、寒天、アラビアゴム、レジン、しょ糖等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を混合して用いることができる。
この中でも、ポリビニルアルコールまたはポリビニルピロリドンが好ましい。このようなバインダは、低価格で入手が容易であるにもかかわらず、結合力が強い。また、加熱によって容易に熱分解するため、意図しない成分が残留し難い、すなわち脱バインダ特性が高いという利点もある。
さらに、これらのバインダは、金属材料に対して濡れ性が高いため、組成物中に空気を巻き込み難いという利点もある。
なお、本発明で用いられるバインダは、上述したものに限定されず、原料粒子同士の結合材として機能するものであればよく、公知のものの中から鹸化度や重合度に応じて適宜選択して用いることができる。
また、溶媒としては、バインダを溶解し得るものであれば特に限定されないが、例えば、水、二硫化炭素、四塩化炭素等の無機溶媒や、ケトン系溶媒、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、セロソルブ系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、芳香族複素環化合物系溶媒、アミド系溶媒、ハロゲン化合物系溶媒、エステル系溶媒、アミン系溶媒、ニトリル系溶媒、ニトロ系溶媒、アルデヒド系溶媒等の溶媒等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を混合したものを用いることができる。
また、溶媒に溶解させるバインダの重量は、金属粉末1kg当たり3〜20g程度であるのが好ましく、3〜18g程度であるのがより好ましい。これにより、金属粉末の各粒子の表面のほぼ全面をバインダで十分に被覆しつつ、被覆に寄与しないバインダが多量に残存するのを確実に防止することができる。
また、バインダの溶解に用いる溶媒の重量は、バインダ1g当たり5〜100g程度であるのが好ましく、7〜70g程度であるのがより好ましい。溶媒の重量を前記範囲内に設定することにより、バインダを確実に溶解するとともに、溶媒の量が多くなり過ぎて、バインダ溶液の粘性が著しく低下するのを防止する。その結果、金属粉末を確実に造粒することができる。
次に、金属粉末に対して、調製したバインダ溶液を供給しつつ、金属粉末の造粒を行う。
この造粒は、例えば、転動流動造粒法、転動造粒法、噴霧乾燥法(スプレードライヤー)、撹拌混合造粒、押出造粒、破砕造粒、圧縮造粒等の各種造粒方法により行うことができるが、特に、転動流動造粒法、転動造粒法または噴霧乾燥法により行うのが好ましい。これらの方法によれば、粒度分布の比較的狭い造粒粉末を効率よく製造することができる。
このような造粒により、造粒粉末が得られる。造粒粉末は、金属粉末中の複数の粒子同士が、バインダの結着作用により、互いに結着してなる造粒粒子を含んでいる。
また、造粒粉末においては、金属粉末とバインダとがそれぞれ均一に分散している。
ここで、金属粉末を造粒する際、バインダ溶液の供給速度は、特に限定されないが、金属粉末1kg当たり1〜40g/分程度であるのが好ましく、2〜32g/分程度であるのがより好ましく、4〜24g/分程度であるのがさらに好ましい。バインダ溶液の供給速度を前記範囲内に設定することにより、金属粉末の全体にわたってバインダ溶液をムラなく行き渡らせるとともに、得られる造粒粉末の粒度分布をより狭いものとすることができる。
これに対し、バインダ溶液の供給速度が前記下限値を下回ると、造粒ムラが発生するおそれがある。一方、バインダ溶液の供給速度が前記上限値を上回ると、金属粉末の一部で造粒が過度に進む可能性がある。このため、得られる造粒粉末の粒度分布が広がってしまうおそれがある。
また、造粒を行う時間は、特に限定されないが、3〜180分間程度であるのが好ましく、5〜150分間程度であるのがより好ましく、10〜120分間程度であるのがさらに好ましい。
このようにして得られた造粒粉末は、その平均粒径が、40〜180μm程度であるのが好ましく、45〜140μm程度であるのがより好ましく、50〜100μm程度であるのがさらに好ましい。造粒粉末の平均粒径を前記範囲内に設定することにより、造粒粉末を成形型に充填して成形体を形成する際に、造粒粉末が、流動性および成形型への充填性に優れたものとなる。
なお、平均粒径が前記下限値を下回ると、造粒粉末の流動性が安定せず、焼結体(成形体)の寸法バラツキが大きくなる可能性がある。一方、平均粒径が前記上限値を上回ると、特に小さい成形体を形成する際に、造粒粉末の充填ムラが起こり易くなり、焼結体(成形体)の寸法バラツキが大きくなる可能性がある。
なお、造粒粉末は、その他の成分として、可塑剤、分散剤、界面活性剤、潤滑剤等の各種添加物を含んでいてもよい。このような各種添加物は、例えば、金属粉末やバインダ溶液等に含ませておけばよい。
[B]成形工程
次に、得られた造粒粉末を成形型に充填し、成形することにより成形体を得る。
このとき、成形方法としては、例えば、圧粉成形(圧縮成形)法、金属粉末射出成形(MIM:Metal Injection Molding)法、押出成形法等の各種成形法を用いることができる。
このうち、圧粉成形法の場合の成形条件は、用いる金属粉末の組成や粒径、バインダの組成、およびこれらの配合量等の諸条件によって異なるが、成形圧力が200〜1000MPa(2〜10t/cm)程度であるのが好ましい。
また、金属粉末射出成形法の場合の成形条件は、諸条件によって異なるものの、材料温度が80〜210℃程度、射出圧力が50〜500MPa(0.5〜5t/cm)程度であるのが好ましい。
また、押出成形法の場合の成形条件は、諸条件によって異なるものの、材料温度が80〜210℃程度、押出圧力が50〜500MPa(0.5〜5t/cm)程度であるのが好ましい。
このようにして得られた成形体は、金属粉末の複数の粒子の間隙に、バインダが分布した状態となる。
なお、作製される成形体の形状寸法は、以降の脱脂工程および焼成工程における成形体の収縮分等を見込んで決定される。
[C]脱脂工程
次に、得られた成形体に脱脂処理(脱バインダ処理)を施し、脱脂体を得る。
具体的には、成形体を加熱して、バインダを分解することにより、成形体中からバインダを除去して、脱脂処理がなされる。
ここで、金属粉末として、平均粒径7μm以下の非常に小さな粒子からなる粉末を用いる場合、従来の脱脂方法および焼結方法では、成形体中のバインダが除去される前に成形体の焼結が進行してしまったり、バインダが成形体の外部に排出し難くなるという問題があった。これは、金属粉末の平均粒径が7μmを下回るようになると、脱脂や焼結における金属粉末の挙動が大きく変化することに起因するものであると推察される。
したがって、平均粒径が7μm以下の金属粉末を用いた場合には、最終的に得られる焼結体中にバインダ、すなわち炭素が閉じ込められるという問題が発生していた。このような焼結体では、炭素含有率が高くなり、それに伴って、焼結体の耐食性が低下する等の問題が発生していた。
すなわち、従来の焼結体の製造方法では、その製造過程で炭素含有率が大きく変化してしまうため、焼結体中の炭素含有率を厳密に制御することが困難であった。
上記のような問題に対し、本発明者は、炭素を所定の目的とする含有率で含み、機械的特性および化学的特性に優れた焼結体を製造するための条件について鋭意検討した。その結果、脱脂工程における脱脂条件と、焼成工程における焼成条件とを、それぞれ下記に示す条件に設定することが、前記問題を解決するために有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明では、まず、脱脂工程において、成形体を加熱する際に、成形体を300〜500℃の温度TD1で0.5〜3時間保持し、次いで、700〜840℃の温度TD2で0.5〜3時間保持する、少なくとも2回の温度保持過程を経た後、加熱を終了して脱脂体を得る。
続いて、この脱脂体を加熱して焼結させる焼成工程において、脱脂体を加熱する際に、脱脂体を850〜990℃の温度TS1で0.5〜3時間保持し、次いで、1000〜1200℃の温度TS2で0.5〜3時間保持する、少なくとも2回の温度保持過程を経た後、加熱を終了して焼結体を得る。
以上のような脱脂条件および焼成条件で焼結体を製造することにより、平均粒径7μm以下の非常に小さな粒子からなる金属粉末を用いたとしても、成形体中からバインダを確実に除去することができる。その結果、成形体が脱脂工程および焼成工程を経て焼結体となったとき、焼結体の炭素含有率が、金属粉末における炭素含有率に比べて、著しく増加するのを防止することができる。
すなわち、本発明によれば、金属粉末の炭素含有率を確実に反映した炭素含有率の焼結体を得ることができるので、所定の目的とする含有率で炭素を含有する焼結体を、容易に製造することができる。
以下、上述した脱脂条件および焼成条件について、より具体的に説明する。
図2は、本実施形態にかかる脱脂工程における加熱の際の温度プロファイルを示すグラフである。図2のグラフの横軸は、脱脂工程における加熱時間を示し、縦軸は、脱脂工程における加熱温度(雰囲気温度)を示す。
本実施形態では、脱脂条件の一例として、成形体に対し、室温から18時間をかけて800℃まで昇温するような条件で脱脂処理を施す場合について説明する。
このような本実施形態にかかる脱脂条件は、図2に示すように、脱脂処理の途中と最後とに、加熱温度を所定時間、一定に保持する2つの温度保持過程31、32を有している。
この2つの温度保持過程31、32のうち、低温側の温度保持過程31は、その温度TD1が300〜500℃とされるが、好ましくは350〜450℃とされる。また、温度保持過程31の保持時間は、0.5〜3時間とされるが、好ましくは1〜2時間とされる。
一方、高温側の温度保持過程32は、その温度TD2が700〜840℃とされるが、好ましくは750〜820℃とされる。また、温度保持過程32の保持時間は、0.5〜3時間とされるが、好ましくは1〜2時間とされる。
脱脂条件が、このような温度の異なる少なくとも2つの温度保持過程31、32を有することにより、成形体全体の温度をほぼ均一に保持しつつ、成形体の温度を高め、脱脂処理を行うことができる。
このような効果は、以下の現象に基づいて得られると推察される。
すなわち、成形体を加熱する際、成形体の外部から加熱することが一般的であるため、熱源に近い表層側の方が内部よりも高温になり易い。このため、成形体は、必然的に表層側と内部とで温度差が発生した状態となる。
この状態で、成形体が温度保持過程を経ることにより、上記の温度差が徐々に緩和される。なお、この温度差の緩和は、成形体が上記の温度保持過程を1回経ただけでは不十分であり、上記の2回の温度保持過程を経ることによって、初めて十分な緩和がもたらされる。その結果、成形体全体の温度がほぼ均一になり、成形体全体で脱脂処理の進行の度合いがより均一になる。
また、低温側の温度保持過程31を経ることにより、成形体中のバインダが徐々に分解・気化を開始するため、成形体中のバインダの体積が徐々に減少して、隙間が形成される。このため、高温側の温度保持過程32で、バインダの分解・気化が本格化したときに、バインダの分解物がこの隙間を通って成形体の外部に効率よく放出される。
また、温度保持過程31の温度TD1と温度保持過程32の温度TD2との差TD2−TD1は、250〜450℃程度であるのが好ましく、300〜400℃程度であるのがより好ましい。これにより、成形体全体における脱脂処理の進行の度合いが、さらに均一になる。すなわち、前述のような効果がより顕著なものとなる。
なお、本実施形態では、脱脂条件が2つの温度保持過程31、32を有している場合を例に説明したが、温度保持過程は、上記の他に1つ以上あってもよい。
また、各温度保持過程31、32においては、その温度を一定に保持するのが好ましいが、各温度保持過程31、32の温度範囲内で変動してもよい。
また、本実施形態にかかる脱脂条件は、図2に示すように、室温から温度保持過程31の加熱温度に到達するまでの昇温過程33と、温度保持過程31の加熱温度から温度保持過程32の加熱温度に到達するまでの昇温過程34とを有している。
この2つの昇温過程33、34における平均昇温速度は、10〜100℃/時間であるのが好ましく、30〜70℃/時間であるのがより好ましい。平均昇温速度を前記範囲内に設定することにより、急激な昇温によるバインダの突発的な分解・気化を防止しつつ、十分な速度でバインダを分解することができる。その結果、バインダの突発的な気化による成形体の変形・亀裂の発生を確実に防止しつつ、十分な速度で成形体に脱脂処理を施すことができる。
なお、本実施形態では、2つの昇温過程33、34における昇温速度が、それぞれほぼ同等であるが、これらは異なっていてもよい。
また、2つの昇温過程33、34における昇温速度は、それぞれ一定に保持されているが、これらは前記平均昇温速度の範囲内で変動してもよい。この場合、2つの昇温過程33、34の途中で、温度が降下しないようにするのが好ましい。これにより、成形体の温度にムラが生じるのを防止することができる。
また、上記のような脱脂条件で加熱した後、続けて、焼成工程に供されてもよいが、本実施形態では、得られた脱脂体は、自然冷却により室温に戻す。
なお、以下では、図2に示す温度プロファイルのうち、温度保持過程31を「第1の温度保持過程」と言い、温度保持過程32を「第2の温度保持過程」とも言う。また、昇温過程33を「第1の昇温過程」と言い、昇温過程34を「第2の昇温過程」とも言う。
また、脱脂工程における雰囲気は、例えば、水素ガス、アンモニア分解ガスのような還元性雰囲気、窒素ガス、アルゴンガスのような不活性ガス雰囲気等の非酸化性雰囲気、減圧(真空)雰囲気等が挙げられる。
このうち、脱脂工程は、還元性雰囲気中で行うのが好ましい。これにより、還元性雰囲気の作用で、成形体中のバインダを速やかに分解することができ、成形体中から除去することができる。これにより、最終的に得られる焼結体中に、バインダおよびその変化物の残存量を極めて少なく抑えることができる。
また、還元性雰囲気の中でも、特に水素ガスを含む雰囲気を用いるのが好ましい。水素ガスは、還元作用が強いため、成形体中のバインダをより速やかに分解することができる。このため、成形体に対する脱脂処理をより高速かつ十分に行うことができ、バインダ由来の炭素が焼結体中に残存するのを確実に防止することができる。
さらに、水素ガスを構成する水素分子は、その分子サイズが非常に小さいため、成形体に生じた隙間に容易に侵入することができる。このため、水素ガスによれば、成形体の内部に存在するバインダも容易に分解・除去することができる。これにより、焼結体の表層部はもちろん、中心部においても、バインダの分解・除去を確実に行うことができる。
なお、水素ガスを含む雰囲気の場合、水素ガス濃度は、特に限定されないが、50vol%以上であるのが好ましく、70vol%以上であるのがより好ましい。これにより、還元性雰囲気の安全性を担保しつつ、水素ガスによるバインダの分解作用が十分に発揮される。
また、減圧雰囲気の圧力は、1×10−6〜1×10−1Torr(1.33×10−4〜13.3Pa)であるのが好ましい。
[D]焼成工程
次に、得られた脱脂体を加熱して焼成する。この焼成により、金属粉末が焼結され、焼結体が得られる。
この焼結により、金属粉末では、粒子同士の界面で拡散が生じ、粒成長して、結晶組織を構成する。これにより、全体的に緻密な、すなわち低空孔率で高密度の焼結体が得られる。
図3は、本実施形態にかかる焼成工程における加熱の際の温度プロファイルを示すグラフである。図3のグラフの縦軸は、焼成工程における加熱時間を示し、縦軸は、焼成工程における加熱温度(雰囲気温度)を示す。
本実施形態では、焼成条件の一例として、脱脂体に対し、室温から15時間半をかけて1150℃まで昇温するような条件で焼成工程を行う場合について説明する。
このような本実施形態にかかる焼成条件は、図3に示すように、焼成工程の途中と最後とに、加熱温度を所定時間、一定に保持する4つの温度保持過程41、42、43、44を有している。
これらの4つの温度保持過程41、42、43、44のうち、低温側の2つの温度保持過程41、42は、必要に応じて設ければよく、省略することもできる。ただし、焼成工程において、本実施形態のように、温度保持過程43、44の前に、少なくとも1つの温度保持過程(本実施形態では、2つの温度保持過程41、42)を経るのが好ましい。
具体的には、2つの温度保持過程41、42は、それぞれ、温度保持過程43の温度TS1より低温で、保持時間が0.5〜3時間であるのが好ましい。これにより、脱脂体全体における焼結の進行の度合いが、さらに均一になる。
より具体的には、最も低温側の温度保持過程41は、その温度が400〜600℃であるのが好ましく、450〜550℃であるのがより好ましい。
また、温度保持過程41に次いで低温側の温度保持過程42は、その温度が700〜840℃であるのが好ましく、750〜820℃であるのがより好ましい。
また、これらの2つの温度保持過程41、42の保持時間は、それぞれ0.5〜3時間であるのが好ましく、1〜2時間であるのがより好ましい。
一方、4つの保持過程41、42、43、44のうち、最も高温側の温度保持過程44と、温度保持過程44に次いで高温側の温度保持過程43とは、脱脂体の焼結に特に大きな影響を与える。
このうち、温度保持過程43は、その温度TS1が850〜990℃とされるが、好ましくは900〜970℃とされる。また、温度保持過程43の保持時間は、0.5〜3時間とされるが、好ましくは1〜2時間とされる。
また、温度保持過程44は、その温度TS2が1000〜1200℃とされるが、好ましくは1050〜1170℃とされる。また、温度保持過程44の保持時間は、0.5〜3時間とされるが、好ましくは1〜2時間とされる。
焼成条件が、このような温度の異なる少なくとも2つの温度保持過程43、44を有することにより、脱脂体全体の温度をほぼ均一に保持しつつ、脱脂体の温度を高め、脱脂体を焼成することができる。
このような効果は、以下の現象に基づいて得られると推察される。
すなわち、脱脂体を加熱する際、脱脂体の外部から加熱することが一般的であるため、熱源に近い表層側の方が内部よりも高温になり易い。このため、脱脂体は、必然的に表層側と内部とで温度差が発生した状態となる。
この状態で、脱脂体が温度保持過程を経ることにより、上記の温度差が徐々に緩和される。
以上のような理由から、脱脂体全体の温度がほぼ均一になり、その結果、脱脂体全体で焼結の進行の度合いが、より均一になる。その結果、脱脂体中のバインダが、分解・気化して、脱脂体の外部に効率よく放出される。そして、脱脂体を焼結してなる焼結体の炭素含有率が、金属粉末における炭素含有率に比べて、著しく増加するのを確実に防止することができる。
また、温度保持過程43を経ることにより、脱脂体の表層部分が焼結し始める前に、脱脂体の内部に残留している炭素と酸素が反応(いわゆる脱酸)することができるため、脱脂体中から効率よくガスを放出することができる。
また、温度保持過程43の温度TS1と温度保持過程44の温度TS2との差TS2−TS1は、100〜300℃程度であるのが好ましく、150〜250℃程度であるのがより好ましい。これにより、脱脂体全体における焼結の進行の度合いが、さらに均一になる。すなわち、前述のような効果がより顕著なものとなる。
また、本実施形態では、焼成条件が4つの温度保持過程41、42、43、44を有している場合を例に説明したが、温度保持過程は、上記の他に1つ以上あってもよい。
また、各温度保持過程41、42、43、44においては、その温度を一定に保持するのが好ましいが、各温度保持過程41、42、43、44の温度範囲内で変動してもよい。この場合、4つの昇温過程41、42、43、44の途中で、温度が降下しないようにするのが好ましい。これにより、脱脂体の温度にムラが生じるのを防止することができる。
また、本実施形態にかかる焼成条件は、図3に示すように、室温から温度保持過程41の加熱温度に到達するまでの昇温過程45と、温度保持過程41の加熱温度から温度保持過程42の加熱温度に到達するまでの昇温過程46と、温度保持過程42の加熱温度から温度保持過程43の加熱温度に到達するまでの昇温過程47と、温度保持過程43の加熱温度から温度保持過程44の加熱温度に到達するまでの昇温過程48とを有している。
この4つの昇温過程45、46、47、48における平均昇温速度は、30〜250℃/時間であるのが好ましく、100〜200℃/時間であるのがより好ましい。平均昇温速度を前記範囲内に設定することにより、急激な昇温によって脱脂体の温度が不均一になるのを防止しつつ、十分な速度で脱脂体を焼結させることができる。
なお、4つの昇温過程45、46、47、48における昇温速度は、それぞれ同等であってもよく、異なっていてもよい。
また、4つの昇温過程45、46、47、48における昇温速度は、それぞれ一定に保持されているが、これらは変動してもよい。
なお、以下では、図3に示す温度プロファイルのうち、温度保持過程41を「第1の温度保持過程」と言い、以下、各温度保持過程42、43、44を、それぞれ、「第2の温度保持過程」、「第3の温度保持過程」、「第4の温度保持過程」とも言う。また、昇温過程45を「第1の昇温過程」と言い、以下、各昇温過程46、47、48を、それぞれ、「第2の昇温過程」、「第3の昇温過程」、「第4の昇温過程」とも言う。
また、焼成工程における雰囲気は、例えば、水素ガス、アンモニア分解ガスのような還元性雰囲気、窒素ガス、アルゴンガスのような不活性ガス雰囲気等の非酸化性雰囲気、減圧(真空)雰囲気等が挙げられる。
このうち、脱脂工程は、還元性雰囲気中で行うのが好ましい。これにより、脱脂体中の金属粉末が酸化するのを防止しつつ、脱脂体を焼成することができる。また、脱脂体中の金属粉末の一部が酸化していたとしても、その酸化物を還元することができる。
なお、水素ガスを含む雰囲気の場合、水素ガス濃度は、特に限定されないが、50vol%以上であるのが好ましく、70vol%以上であるのがより好ましい。
また、減圧雰囲気の圧力は、1Torr(133Pa)以下の減圧(真空)下であるのが好ましく、1×10−6〜1×10−2Torr(1.33×10−4〜1.33Pa)の減圧(真空)下であるのがより好ましい。
このようにして製造された焼結体は、前述したように、その炭素含有率が、金属粉末の炭素含有率をより忠実に反映したものとなる。
したがって、例えば、金属粉末として炭素含有率の低いものを用いた場合、炭素含有率の低い焼結体を容易に得ることができる。
具体的には、例えば、金属粉末としてステンレス鋼SUS316Lの粉末を用いて、焼結体を製造した場合、炭素含有率が0.03wt%以下であり、かつ、密度が7.68Mg/m以上の焼結体を製造することができる。このような焼結体は、炭素含有率が極めて低いため、特に化学的特性に優れており、また、密度が高いので、機械的特性にも特に優れたものとなる。
なお、金属粉末の炭素含有率Xに対する、焼結体の炭素含有率Yの増減量の割合(Y−X)/Xを算出した場合、この割合(以下、省略して「増減率」とも言う。)が小さいほど、原材料である金属粉末の炭素含有率と、最終形態である焼結体の炭素含有率との間に、より強い相関関係が認められることとなる。そして、この相関関係が強いほど、金属粉末の炭素含有率を所定の値に設定することにより、焼結体の炭素含有率を目的の値に容易に近付けることができるようになる。
かかる観点から、前記増減率(Y−X)/Xは、30%以下であるのが好ましく、20%以下であるのがより好ましい。前記増減率が前記範囲内であれば、金属粉末の炭素含有率と焼結体の炭素含有率との間に特に強い相関関係が認められることとなる。したがって、金属粉末の炭素含有率を設定することで、焼結体の炭素含有率をより容易かつ厳密に調整することができるようになる。
以上のようにして、本発明の焼結体を得ることができる。
以上、本発明の焼結体の製造方法および焼結体について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、焼結体の製造方法では、必要に応じて、任意の工程を追加することもできる。
1.焼結体の製造
(実施例1)
[1]まず、金属粉末として、水アトマイズ法により製造された以下の条件のステンレス鋼粉末(エプソンアトミックス(株)製、PF−10F)を用意した。
<金属粉末の条件>
・組成 :SUS316L
・平均粒径 :6.1μm
・比表面積 :320m/kg
・タップ密度 :4.27Mg/m
[2]一方、バインダとして、ポリビニルピロリドン(BASF(株)製)粉末を用意し、この粉末を水(溶媒)に溶解してバインダ溶液を調製した。
なお、バインダ溶液におけるバインダの量は、金属粉末1kg当たり7gとした。また、バインダ溶液における溶媒の量は、バインダ1g当たり50gとした。
[3]次に、金属粉末を、転動流動造粒装置((株)パウレック製、MP−01)の処理容器内に投入した。そして、処理容器内の金属粉末に向けて、スプレーノズルからバインダ溶液を噴霧しつつ、金属粉末を転動・造粒し、平均粒径75μmの造粒粉末を得た。
[4]次に、得られた造粒粉末を用い、以下の成形条件で成形し、成形体を得た。
<成形条件>
・成形方法 :圧粉成形
・成形圧力 :600MPa(6t/cm
[5]次に、この成形体を以下の脱脂条件で脱脂し、脱脂体を得た。なお、この脱脂条件の温度プロファイルを図4(a)に実線で示す。
<脱脂条件>
・第1の昇温過程の昇温速度 :50℃/時間
・第1の温度保持過程の温度 :400℃
・第1の温度保持過程の保持時間:1時間
・第2の昇温過程の昇温速度 :50℃/時間
・第2の温度保持過程の温度 :800℃
・第2の温度保持過程の保持時間:1時間
・脱脂雰囲気 :水素ガス雰囲気
[6]次に、得られた脱脂体を室温に戻した後、以下の焼成条件で焼成し、焼結体を得た。なお、この焼成条件の温度プロファイルを図4(b)に実線で示す。
<焼成条件>
・第1の昇温過程の昇温速度 :535℃/時間
・第1の温度保持過程の温度 :500℃
・第1の温度保持過程の保持時間:2時間
・第2の昇温過程の昇温速度 :150℃/時間
・第2の温度保持過程の温度 :800℃
・第2の温度保持過程の保持時間:2時間
・第3の昇温過程の昇温速度 :90℃/時間
・第3の温度保持過程の温度 :950℃
・第3の温度保持過程の保持時間:3時間
・第4の昇温過程の昇温速度 :100℃/時間
・第4の温度保持過程の温度 :1150℃
・第4の温度保持過程の保持時間:2時間
・焼成雰囲気 :アルゴン減圧雰囲気
(実施例2)
焼成条件において、第1の温度保持過程および第2の温度保持過程を省略し、室温から第3の温度保持過程の温度まで一定の昇温速度(110℃/時間)で加熱するようにした以外は、前記実施例1と同様にして焼結体を得た。
(実施例3)
金属粉末として、水アトマイズ法により製造された以下の条件のステンレス鋼粉末(エプソンアトミックス(株)製、PF−5F)を用いた以外は、前記実施例1と同様にして焼結体を得た。
<金属粉末の条件>
・組成 :SUS316L
・平均粒径 :4.0μm
・比表面積 :470m/kg
・タップ密度 :3.89Mg/m
(実施例4)
金属粉末として、水アトマイズ法により製造された以下の条件のステンレス鋼粉末(エプソンアトミックス(株)製、PF−3F)を用いた以外は、前記実施例1と同様にして焼結体を得た。
<金属粉末の条件>
・組成 :SUS316L
・平均粒径 :2.9μm
・比表面積 :650m/kg
・タップ密度 :3.58Mg/m
(実施例5)
金属粉末として、水アトマイズ法により製造された以下の条件のステンレス鋼粉末(エプソンアトミックス(株)製、PF−2F)を用いた以外は、前記実施例1と同様にして焼結体を得た。
<金属粉末の条件>
・組成 :SUS316L
・平均粒径 :2.3μm
・比表面積 :820m/kg
・タップ密度 :3.38Mg/m
(比較例1)
脱脂条件を以下の条件に変更した以外は、前記実施例1と同様にして焼結体を得た。なお、この脱脂条件の温度プロファイルを図4(a)に破線で示す。
<脱脂条件>
・第1の昇温過程の昇温速度 :200℃/時間
・第1の温度保持過程の温度 :600℃
・第1の温度保持過程の保持時間:1時間
(比較例2)
焼成条件のうちの一部を、以下の条件に変更した以外は、前記実施例1と同様にして焼結体を得た。なお、この焼成条件の温度プロファイルを図4(b)に破線で示す。
<焼成条件>
・第3の昇温過程の昇温速度 :90℃/時間
・第3の温度保持過程の温度 :1150℃
・第3の温度保持過程の保持時間:2時間
(比較例3)
脱脂条件を比較例1における脱脂条件と同様にし、焼成条件を比較例2における焼成条件と同様にした以外は、前記実施例1と同様にして焼結体を得た。なお、この脱脂条件の温度プロファイルを図4(a)に破線で示し、焼成条件の温度プロファイルを図4(b)に破線で示す。
以上のような各実施例および各比較例における焼結体の製造条件を表1に示す。
Figure 2008214663
2.評価
2.1 炭素含有率の評価
各実施例および各比較例で用いた金属粉末、各実施例および各比較例で得られた脱脂体・焼結体について、それぞれの炭素含有率を、炭素・硫黄同時分析装置(LECO社製、CS−200)により測定した。
また、得られた測定値から、金属粉末の炭素含有率Xに対する焼結体の炭素含有率Yの増減量の割合(Y−X)/X、すなわち増減率を求めた。
2.2 焼結体の密度の評価
各実施例および各比較例で得られた焼結体について、それぞれ密度を測定した。なお、密度の測定は、アルキメデス法(JIS Z 2501に規定)に準じた方法により行った。
以上、2.1〜2.2の評価結果を表2に示す。
Figure 2008214663
表1に示すように、各実施例で得られた焼結体は、いずれも、炭素含有率の増加率が小さく、かつ、密度が大きいものであった。また、金属粉末として、炭素含有率が0.03wt%以下の「低炭素」材料を用いた場合、炭素含有率0.03wt%以下で、かつ、密度の高い高品質の焼結体を得ることができた。
一方、各比較例で得られた焼結体は、炭素含有率の増加率が大きく、かつ、密度がやや小さいものであった。
本発明の焼結体の製造方法の実施形態を示す工程図である。 本実施形態にかかる脱脂工程における加熱の際の温度プロファイルを示すグラフである。 本実施形態にかかる焼成工程における加熱の際の温度プロファイルを示すグラフである。 実施例にかかる脱脂工程および焼成工程における加熱の際の温度プロファイルを示すグラフである。
符号の説明
31……第1の温度保持過程 32……第2の温度保持過程 33……第1の昇温過程 34……第2の昇温過程 41……第1の温度保持過程 42……第2の温度保持過程 43……第3の温度保持過程 44……第4の温度保持過程 45……第1の昇温過程 46……第2の昇温過程 47……第3の昇温過程 48……第4の昇温過程 A……造粒工程 B……成形工程 C……脱脂工程 D……焼成工程

Claims (14)

  1. 金属粉末とバインダとを含む組成物を成形して、成形体を得る成形工程と、
    該成形体を徐々に昇温するように加熱することにより、前記成形体中から前記バインダを除去して、脱脂体を得る脱脂工程と、
    該脱脂体を徐々に昇温するように加熱することにより、前記脱脂体を焼結させ、焼結体を得る焼成工程とを有し、
    前記金属粉末は、Fe(鉄)を主成分とする平均粒径7μm以下のものであり、
    前記脱脂工程において、前記成形体を、300〜500℃の温度TD1で0.5〜3時間保持し、次いで、700〜840℃の温度TD2で0.5〜3時間保持する、少なくとも2回の温度保持過程を経た後、前記成形体の加熱を終了することとし、
    前記焼成工程において、前記脱脂体を、850〜990℃の温度TS1で0.5〜3時間保持し、次いで、1000〜1200℃の温度TS2で0.5〜3時間保持する、少なくとも2回の温度保持過程を経た後、前記脱脂体の加熱を終了することを特徴とする焼結体の製造方法。
  2. 前記温度TD1と前記温度TD2との差TD2−TD1は、250〜450℃である請求項1に記載の焼結体の製造方法。
  3. 前記温度TS1と前記温度TS2との差TS2−TS1は、100〜300℃である請求項1または2に記載の焼結体の製造方法。
  4. 前記脱脂工程において、前記各温度保持過程以外での平均昇温速度は、10〜100℃/時間である請求項1ないし3のいずれかに記載の焼結体の製造方法。
  5. 前記焼成工程において、前記各温度保持過程以外での平均昇温速度は、30〜250℃/時間である請求項1ないし4のいずれかに記載の焼結体の製造方法。
  6. 前記焼成工程における前記各温度保持過程の前に、前記脱脂体を、前記温度TS1より低温で0.5〜3時間保持する、少なくとも1回の温度保持過程を経る請求項1ないし5のいずれかに記載の焼結体の製造方法。
  7. 前記脱脂工程において、還元性雰囲気中で、前記成形体を加熱する請求項1ないし6のいずれかに記載の焼結体の製造方法。
  8. 前記還元性雰囲気は、還元性ガスとして水素ガスを含む請求項7に記載の焼結体の製造方法。
  9. 前記金属粉末は、ステンレス鋼を主材料とするものである請求項1ないし8のいずれかに記載の焼結体の製造方法。
  10. 前記金属粉末は、アトマイズ法で製造されたものである請求項1ないし9のいずれかに記載の焼結体の製造方法。
  11. 前記バインダは、ポリビニルピロリドンおよびポリビニルアルコールの少なくとも一方を主成分とするものである請求項1ないし10のいずれかに記載の焼結体の製造方法。
  12. 前記組成物において、前記バインダの量は、前記金属粉末1kg当たり3〜20gである請求項1ないし11のいずれかに記載の焼結体の製造方法。
  13. 前記金属粉末の炭素含有率をXとし、前記焼結体の炭素含有率をYとしたとき、これらの差の前記Xに対する割合(Y−X)/Xが、30%以下である請求項1ないし12のいずれかに記載の焼結体の製造方法。
  14. 請求項1ないし13のいずれかに記載の焼結体の製造方法により製造されたことを特徴とする焼結体。
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