ところで、上記のようにゼロクロスタイミングの間隔に基づきゼロクロスタイミングから基準の角度となるまでに要する時間を把握することで規定タイミングを設定する場合、この設定を高精度に行なうためにはモータの回転速度が安定していることが必要であることが発明者らによって見出されている。このため、モータ起動時のみならず、回転速度が大きく変動するときには、一般に、基準の角度となるタイミングを高精度に設定することができず、ひいてはモータの制御性が低下するおそれがある。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、電力変換回路のスイッチング素子を操作することで回転電機を制御するに際し、回転速度の変動にかかわらず、回転電機の誘起電圧が基準電圧となるゼロクロスタイミングに基づき基準となる角度となるタイミングをより適切に把握することのできる回転電機の制御装置を提供することにある。
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
請求項1記載の発明は、前記回転電機の回転速度の変化に関する情報を前記ゼロクロスタイミングの検出結果から抽出する抽出手段と、前記情報に基づき前記規定タイミングを設定する設定手段とを備えることを特徴とする。
上記発明において、ゼロクロスタイミングの間隔は、回転電機の回転速度と相関を有する。このため、回転電機の回転速度が安定している定常時にあっては、特定のゼロクロスタイミングから規定タイミングまでの所要時間を、ゼロクロスタイミングの間隔から把握される回転速度に基づき高精度に算出することができる。しかし、回転速度が変動するときには、あるゼロクロスタイミングの間隔における回転速度は、別のゼロクロスタイミングの間隔における回転速度とは相違するおそれがある。このため特に、規定タイミングの設定に際して参照するゼロクロスタイミングの間隔における回転速度が、規定タイミングの直前における回転速度と相違するおそれがある。この場合には、特定のゼロクロスタイミングから規定タイミングまでの所要時間を、規定タイミングとなる以前のゼロクロスタイミングの間隔のみによって定めたのでは、同間隔における回転速度と規定タイミング直前の回転速度とが相違することで真の所要時間から離間するおそれがある。
一方、回転速度が変動する場合、ゼロクロスタイミングの検出結果は、その変動に関する情報と相関を有する。上記発明では、この点に着目し、回転電機の回転速度の変化に関する情報をゼロクロスタイミングから抽出する。こうして抽出される情報は、規定タイミング以前についての回転速度の変化についての情報ではあるが、この回転速度の変化から、規定タイミングの設定に際して参照する間隔における回転速度と規定タイミング直前における回転速度との差を把握することができると考えられる。このため、この情報に基づき、特定のゼロクロスタイミングから規定タイミングまでの所要時間を高精度に算出することができ、ひいては規定タイミングを高精度に設定することができる。
なお、上記情報は、3つ以上のゼロクロスタイミングから抽出することが望ましい。これにより、ゼロクロスタイミングの間隔を2つ以上取得することができるため、時間的に前後する回転速度と相関を有するパラメータを2つ以上取得することができる。このため、上記前後する回転速度の差として、回転速度の変化に関する情報を取得することができる。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記情報に基づく規定タイミングの設定は、前記回転速度の増大側の変化量が大きいほど規定タイミングを進めることで行われることを特徴とする。
回転電機の回転速度の増大量が大きくなるほど規定タイミングとなるまでの所要時間が短くなる。この点、上記発明では、回転速度の増大量が大きいほど規定タイミングを進めることで、回転速度の変動にかかわらず規定タイミングを高精度に設定することができる。
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記設定手段は、前記規定タイミングの直前のゼロクロスタイミングから前記規定タイミングまでの所要時間を前記ゼロクロスタイミングの間隔から算出する所要時間算出手段と、前記情報に基づき、前記所要時間を補正する補正手段とを備えることを特徴とする。
上記発明では、規定タイミングの直前のゼロクロスタイミングから規定タイミングまでの所要時間をゼロクロスタイミングの間隔から算出することで、回転電機の回転速度が安定しているときには、所要時間を高精度に算出することができる。そして、上記情報に基づき所要時間を補正する手段を備えることで、回転電機の回転速度が変動しているときであっても、所要時間を高精度に算出することができる。
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、前記電力変換回路は、前記スイッチング素子毎にこれと並列接続された整流手段を備えるものであり、前記回転電機の端子電圧と基準電圧との大小関係を比較する比較手段と、前記ゼロクロスタイミングから所定期間に渡って前記比較手段による比較を無効化する無効化手段とを更に備え、前記ゼロクロスタイミングは、前記比較手段の比較結果の反転タイミングとして検出され、前記抽出手段は、前記無効化手段による無効化の解除から前記ゼロクロスタイミングとなるまでの時間に基づき、前記情報を取得することを特徴とする。
スイッチング素子の操作の切り替えがなされた直後には、整流手段を介して電流が流れるために、電力変換回路によって電圧が印加されていないにもかかわらず、端子電圧が誘起電圧と等しくならない。この点、上記発明では、規定タイミングから所定期間に渡って比較手段の比較結果が無効とされるために、規定タイミング近傍においてスイッチング素子の操作が切り替えられたとしても、これに伴って整流手段に電流が流れる期間における比較手段の比較結果に基づきゼロクロスタイミングを誤って検出することを回避することができる。
ここで無効化の解除からゼロクロスタイミングの検出までに要する時間は、その区間における回転電機の回転速度に依存する。このため、無効化の解除からゼロクロスタイミングとなるまでの時間に基づき上記情報を取得することができる。
請求項5記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、前記抽出手段は、前記ゼロクロスタイミングの間隔についての複数の値に基づき回転電機の加速度を算出する手段であり、前記設定手段は、前記加速度を前記情報として用いて前記規定タイミングを設定することを特徴とする。
ゼロクロスタイミングの間隔は、回転電機の回転速度と相関を有する。このため、上記間隔についての複数の値には、互いに異なる時刻での複数の回転速度情報が含まれている。上記発明では、この点に着目し、上記間隔についての複数の値から加速度を算出することができる。このため、加速度を上記情報として用いることができる。
請求項6記載の発明は、請求項1〜5のいずれかに記載の発明において、前記電力変換回路は、前記スイッチング素子毎にこれと並列接続された整流手段を備えるものであり、前記回転電機の端子電圧と基準電圧との大小関係を比較する比較手段と、前記ゼロクロスタイミングから所定期間に渡って前記比較手段による比較を無効化する無効化手段とを更に備え、前記ゼロクロスタイミングは、前記比較手段の比較結果の反転タイミングとして検出され、前記所要時間は、前記規定タイミングの直前のゼロクロスタイミングからの所要時間であり、前記無効化手段による無効化の解除時において前記直前のゼロクロスタイミングを既に過ぎているとき、前記誘起電圧に基づき前記直前のゼロクロスタイミングから現在までの経過時間を推定する推定手段を更に備えることを特徴とする。
無効化手段による無効化の解除時において前記直前のゼロクロスタイミングを既に過ぎているときには、ゼロクロスタイミングを検出することができないため、ゼロクロスタイミングの検出から規定タイミングまでの所要時間を算出することはできない。一方、無効化の解除後にあっては、端子電圧が誘起電圧と等しくなるため、誘起電圧を検出することができる。そして、誘起電圧には、ゼロクロスタイミングから現在時までの経過時間に関する情報が含まれている。上記発明では、この点に着目し、誘起電圧に基づき経過時間を推定することで、ゼロクロスタイミングから規定タイミングまでの所要時間を算出することができる。
請求項7記載の発明は、請求項1〜6のいずれかに記載の発明において、前記ゼロクロスタイミングの間隔についての複数の値に基づき回転電機の加速度を算出する加速度算出手段と、前記算出される加速度に応じて前記通電量を制限する制限手段とを更に備えることを特徴とする。
ゼロクロスタイミングの間隔は、回転電機の回転速度と相関を有する。このため、上記間隔についての複数の値には、互いに異なる時刻での複数の回転速度情報が含まれている。上記発明では、この点に着目し、上記間隔についての複数の値から加速度を算出する。ここで、例えば加速度が過大となるとき等にあっては、ゼロクロスタイミングの間隔に基づく上記所要時間の算出精度が低下する。この点、上記発明では、加速度に応じて通電量を制限することで、所要時間の算出精度の低下を抑制するように加速度を抑制することができ、ひいては、規定タイミングを高精度に設定することができる。
請求項8記載の発明は、請求項1〜7のいずれかに記載の発明において、前記設定手段は、前記回転電機の始動時において、前記抽出される情報に基づく前記規定タイミングの設定を行うことを特徴とする。
始動時においては、特に回転速度の変化が顕著となる。このため、始動時においては、ゼロクロスタイミング間の時間間隔から把握される回転速度相当量に基づき規定タイミングを定めたのでは、同タイミングが所望の角度となるタイミングからずれたものとなりやすい。この点、上記発明では、始動時において設定手段を用いることで、こうした問題を好適に回避することができる。
請求項9記載の発明は、前記ゼロクロスタイミングの間隔についての複数の値に基づき回転電機の加速度を算出する加速度算出手段と、前記算出される加速度に応じて前記通電量を制限する制限手段とを備えることを特徴とする。
ゼロクロスタイミングの間隔は、回転電機の回転速度と相関を有する。このため、上記間隔についての複数の値には、互いに異なる時刻での複数の回転速度情報が含まれている。上記発明では、この点に着目し、上記間隔についての複数の値から加速度を算出する。ここで、例えば加速度が過大となるとき等にあっては、ゼロクロスタイミングの間隔に基づく上記所要時間の算出精度が低下する。この点、上記発明では、加速度に応じて通電量を制限することで、所要時間の算出精度を低下させない程度に加速度を抑制することができ、ひいては、規定タイミングを高精度に設定することができる。
請求項 10記載の発明は、請求項1〜9のいずれかに記載の発明において、前記回転電機が多相回転電機であり、前記回転電機の始動に先立ち、前記回転電機の一部の相から別の一部の相に電流を流すことで前記回転電機の回転角度を所定角度に固定する位置決め手段を更に備え、前記一部の相又は前記別の一部の相の少なくとも一方が複数の相からなることを特徴とする。
誘起電圧は回転電機の回転によって生じるものであるため、回転電機の始動に際しては回転電機の誘起電圧に基づく回転角度の検出をすることが困難である。このため、回転電機の始動に際して回転電機の回転角度を所定角度に固定するいわゆる位置決め処理を行うことが周知である。ただし、この位置決めに際して回転電機の1相から別の1相に電流を流す場合には、回転角度が所定角度に収束するまでの時間が長期化し、ひいては回転電機の始動が遅れるおそれがある。
この点、上記発明では、回転電機の一部の相から別の一部の相へ電流を流して且つ、これら一部の相又は別の一部の相の少なくとも一方を複数の相とすることで、回転電機の回転角度が所定角度からずれると所定角度方向に戻そうとする力が働くようにすることができる。このため、所定角度への収束時間を短縮することができ、ひいては回転電機の始動時間を短縮することができる。
請求項11記載の発明は、前記回転電機の始動に先立ち、前記回転電機の一部の相から別の一部の相に電流を流すことで前記回転電機の回転角度を所定角度に固定する位置決め手段を更に備え、前記一部の相又は前記別の一部の相の少なくとも一方が複数の相からなることを特徴とする。
誘起電圧は回転電機の回転によって生じるものであるため、回転電機の始動に際しては回転機の誘起電圧に基づく回転角度の検出をすることが困難である。このため、回転電機の始動に際して回転電機の回転角度を所定角度に固定するいわゆる位置決め処理を行うことが周知である。ただし、この位置決めに際して回転電機の1相から別の1相に電流を流す場合には、回転角度が所定角度に収束するまでの時間が長期化し、ひいては回転電機の始動が遅れるおそれがある。
この点、上記発明では、回転電機の一部の相から別の一部の相へ電流を流して且つ、これら一部の相又は別の一部の相の少なくとも一方を複数の相とすることで、回転電機の回転角度が所定角度からずれると所定角度方向に戻そうとする力が働くようにすることができる。このため、所定角度への収束時間を短縮することができ、ひいては回転電機の始動時間を短縮することができる。
なお、上記請求項10又は11記載の発明は、請求項12記載の発明によるように、前記回転電機が3相回転電機であることを特徴としてもよい。
請求項13記載の発明は、請求項10〜12のいずれかに記載の発明において、前記位置決め手段は、前記回転電機の一部の相から別の一部の相に電流を流す処理の後、前記回転電機の電源の正極側又は負極側のいずれかと前記回転電機の全相とを導通状態とすることで前記回転電機の全相を短絡させる短絡手段を備えることを特徴とする。
正極又は負極のいずれか一方と回転電機の全相とを導通状態とする場合、回転電機の全相が短絡されることとなる。この場合、回転電機の回転に伴う誘起電圧により回転電機に電流が流れることとなり、この電流は電流経路内の抵抗等の影響で減衰していく。換言すれば、回転エネルギが減衰していく。上記発明では、この点に着目し、回転電機の全相を電源の正極又は負極のいずれかと導通させることで回転電機の回転エネルギを迅速に低減させることができる。このため、所定角度への収束時間を更に短縮することができる。
請求項14記載の発明は、請求項10〜13のいずれかに記載の発明において、前記位置決め手段は、前記回転電機の一部の相から別の一部の相に電流を流す処理を、前記一部の相及び前記別の一部の相を変更しつつ複数回行うことで、前記回転電機の回転角度を前記所定角度に固定することを特徴とする。
回転電機が停止状態にあるときの回転電機の回転角度によっては、特定の1部の相から別の特定の一部の相に電流を流しても、回転トルクがほとんど生じないことがある。この場合、回転電機の回転角度を所定角度に固定することが困難である。この点、上記発明では、一部の相から別の一部の相に電流を流す処理を、一部の相及び別の一部の相を変更しつつ複数回行うことで、所定角度への固定を確実に行う。すなわち、最終的な処理によっては回転トルクが生じない回転角度が初期条件であったとしても、その前の処理によっては回転トルクが生じるため、初期条件に対して回転角度を変化させることができる。このため、最終的な処理によって所定角度に確実に固定することができる。
この際、変更前の処理によって固定されると想定される角度は、これに続く処理によって所定以上の回転トルクが生じ得る角度となるようにする。
請求項15記載の発明は、請求項14記載の発明において、前記位置決め手段は、前記一部の相から前記別の一部の相に電流を流した後、これら一部の相及び前記別の一部の相を変更するに先立ち、前記回転電機の電源の正極側又は負極側のいずれかと前記回転電機の全相とを導通状態とすることで前記回転電機の全相を短絡させる処理を行う手段を更に備えることを特徴とする。
正極又は負極のいずれか一方と回転電機の全相とを導通状態とする場合、回転電機の全相が短絡されることとなる。この場合、回転電機の回転に伴う誘起電圧により回転電機に電流が流れることとなり、この電流は電流経路内の抵抗等の影響で減衰していく。換言すれば、回転エネルギが減衰していく。上記発明では、この点に着目し、回転電機の全相を電源の正極又は負極のいずれかと導通させることで回転電機の回転エネルギを迅速に低減させることができる。このため、一部の相及び別の一部の相に電流を流す処理のうち最終的な処理以外の処理による回転角度の収束時間を短縮することができる。
請求項16記載の発明は、請求項10〜15のいずれかに記載の発明において、前記位置決め手段による通電操作によって前記回転電機を流れる電流量が所定値以上となるとき、前記通電量を制限する制限手段を更に備えることを特徴とする。
上記発明では、位置決め手段による通電操作によって回転電機を流れる電流量が所定値以上となるときに通電量を制限することで、位置決め手段の処理による消費電力が過度に大きくなることを回避することができる。このため、位置決め手段の処理によって生じるトルクが過大となることを抑制し、回転角度の収束時間を短縮することができる。
請求項17記載の発明は、請求項10〜16のいずれかに記載の発明において、前記位置決め手段は、前記所定角度を、前記回転電機の始動に伴う最初のスイッチング操作の状態を仮に継続した場合の前記回転電機の回転角度の収束値に対して「180°」遅角した角度よりも進角側から、前記収束値に対して「30°」進角した角度よりも遅角側までの角度領域に設定することを特徴とする。
上記所定角度の設定によれば、始動時間を短縮することができる。
請求項18記載の発明は、請求項1〜17のいずれかに記載の発明において、前記回転電機は、車載エンジンシステムに搭載されるものであり、前記回転電機の電源の電圧が予め定められた規定電圧以上となるまで前記回転電機の始動を待機する待機手段を更に備えることを特徴とする。
電源の電圧が低いときには、制御装置によるスイッチング操作を適切に行うことができないおそれがある。そしてスイッチング操作を適切に行うことができないと、始動を適切に行うことができない。一方、車載エンジンシステムの電源にあっては、始動時に一時的に電圧が低下する傾向にある。この点、上記発明では、電源の電圧が規定電圧以上となるまで回転電機の始動を待機するために、こうした問題を回避することができる。
請求項19記載の発明は、請求項18記載の発明において、前記待機手段は、前記規定電圧以上となる期間が所定時間継続するまで前記回転電機の始動を待機することを特徴とする。
上記発明では、電源の電圧が規定電圧以上となる期間が所定時間継続するまで始動を待機することで、電源の電圧が安定した状態で始動をすることができる。このため、回転電機の始動時の電源の電圧が過度に低下する事態を回避することができる。
なお、請求項1〜19のいずれかに記載の発明は、請求項20記載の発明によるように、前記回転電機がフューエルポンプのアクチュエータであることを特徴としてもよい。
(第1の実施形態)
以下、本発明にかかる回転電機の制御装置を車載ブラシレスモータの制御装置に適用した第1の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1に、本実施形態にかかるブラシレスモータの制御装置の全体構成を示す。
図示されるブラシレスモータ10は、3相モータであり、自動2輪車に搭載される内燃機関のフューエルポンプのアクチュエータである。ブラシレスモータ10の3つの相(U相、V相、W相)には、インバータ12が接続されている。このインバータ12は、3相インバータであり、バッテリ14側の電圧をブラシレスモータ10の3つの相に適宜印加する。詳しくは、インバータ12は、3つの相のそれぞれとバッテリ14の正極側又は負極側とを導通させるべく、スイッチング素子SW1、SW2(U相レッグ)とスイッチング素子SW3,SW4(V相レッグ)とスイッチング素子SW5,SW6(W相レッグ)との並列接続体を備えて構成されている。そして、スイッチング素子SW1及びスイッチング素子SW2を直列接続する接続点がブラシレスモータ10のU相と接続されている。また、スイッチング素子SW3及びスイッチング素子SW4を直列接続する接続点がブラシレスモータ10のV相と接続されている。更に、スイッチング素子SW5及びスイッチング素子SW6を直列接続する接続点がブラシレスモータ10のW相と接続されている。そして、これらスイッチング素子SW1〜SW6にはそれぞれ、フライホイールダイオードD1〜D6が並列接続されている。
なお、本実施形態では、各レッグの上側(上側アーム)のスイッチング素子SW1、SW3,SW5は、PチャネルMOSトランジスタにて構成され、各レッグの下側(下側アーム)のスイッチング素子SW2、SW4,SW6は、NチャネルMOSトランジスタにて構成されている。そして、上記フライホイールダイオードD1〜D6は、上記MOSトランジスタの寄生ダイオードとして構成されている。
制御装置20は、インバータ12を操作することで、ブラシレスモータ10の出力を制御する。詳しくは、制御装置20は、ドライバ22と、電流検出部24と、スイッチング制御部26とを備えている。ここで、電流検出部24は、スイッチング素子SW1〜SW6を流れる電流をそれぞれ検出し、スイッチング制御部26に出力する部分である。詳しくは、本実施形態では、スイッチング素子SW1〜SW6を流れる電流を、これらのオン抵抗に基づき検出する。すなわち、電流検出部24は、スイッチング素子SW1〜SW6のそれぞれについて、これを流れる電流を検出するための検出用トランジスタを備える。そして、スイッチング素子SW1〜SW6及び対応する検出用トランジスタについて、これらのソース同士及びゲート同士を短絡させることで、カレントミラー回路を構成する。これにより、検出用トランジスタの出力電流に基づきスイッチング素子SW1〜SW6を流れる電流を検出することができる。なお、実際には、電流検出部24は、インバータ12の近傍に形成されることが望ましい。ちなみに、カレントミラー回路を構成することで電流を検出する手法としては、例えば特開平10−256541号公報に記載されている。
スイッチング制御部26は、ドライバ22を介してスイッチング素子SW1〜SW6をオン・オフ操作する。ここでは、基本的には、120°通電方式にてスイッチング制御を行う。詳しくは、ブラシレスモータ10の各相の端子電圧vu,vv,vwが誘起電圧と一致するタイミングを利用して、誘起電圧がブラシレスモータ10の中性点電圧(基準電圧vref)となるタイミング(ゼロクロスタイミング)を検出する。そして、ゼロクロスタイミングから所定の電気角度(例えば「30°」)遅角したタイミング(規定タイミング)においてスイッチング素子SW1〜SW6の操作を切り替える。ただし、電流検出部24によって検出される電流が電流制限値を越える際には、ブラシレスモータ10を流れる電流(通電量)を制限すべく、PWM制御を行う。このPWM制御は、120°通電方式においてスイッチング素子SW1〜SW6がオン操作される「120°」の期間を、オン操作許可期間として、この期間内であっても、電流制限値を超えるときにはオン操作を禁止することで行うことができる。
なお、スイッチング制御部26は、論理回路にて構成してもよく、また中央処理装置及びプログラムを記憶する記憶装置によって構成してもよい。
図2に、120°通電制御時におけるスイッチング制御部26によるスイッチング制御態様を示す。詳しくは、図2(a)に、実線にてU相の端子電圧の推移を示し、2点鎖線にてU相の誘起電圧の推移を示し、一点鎖線にて基準電圧vrefを示す。また、図2(b)に、ゼロクロスタイミングの検出に関する信号(ゼロクロス検出信号)の推移を示し、図2(c)に、スイッチング素子SW1の操作信号の推移を示し、図2(d)に、スイッチング素子SW2の操作信号の推移を示す。なお、V相、W相についても、U相のスイッチング制御態様と同様であるため、その説明及び記載を割愛する。
図示されるように、スイッチング素子SW1、SW2がオン状態であるときには、端子電圧vuは、バッテリ14の正極側の電位又は負極側の電位と一致する。これに対し、スイッチング素子SW1及びスイッチング素子SW2の双方がオフ状態にある期間(誘起電圧露出期間)においては、U相に電流が流れない期間が存在し、このときには端子電圧vuは、誘起電圧となる。ただし、スイッチング素子SW1及びスイッチング素子SW2の双方がオフ状態にある期間においても、ダイオードD1,D2に電流が流れる状態(転流過渡状態)にあっては、端子電圧は誘起電圧と一致しない。
このため、スイッチング素子SW1及びスイッチング素子SW2の双方がオフ状態にある期間であって且つダイオードD1,D2に電流が流れない期間において端子電圧vuと基準電圧vrefとが一致するタイミングが、誘起電圧と基準電圧vrefとが一致するゼロクロスタイミングであることとなる。このため、ゼロクロスタイミングから所定電気角度(例えば「30°」)遅角したタイミングを規定タイミングとして、スイッチング素子SW1,SW2のオフ操作からオン操作への切り替えタイミングとし、オン状態を規定タイミングから120°の期間に渡って継続する。詳しくは、誘起電圧の上昇過程において基準電圧vrefと一致するゼロクロスタイミングから所定電気角度(例えば「30°」)遅角した規定タイミングを、上側アームのスイッチング素子SW1をオン状態に切り替えるタイミングとする。また、誘起電圧の下降過程において基準電圧vrefと一致するゼロクロスタイミングから所定電気角度(例えば「30°」)遅角した規定タイミングを、下側アームのスイッチング素子SW2をオン状態に切り替えるタイミングとする。このように、U相のスイッチング素子SW1、SW2のオン状態への切り替えタイミングは、U相の誘起電圧の上昇過程におけるゼロクロスタイミングと下降過程におけるゼロクロスタイミングとによって定めることができる。このため、本実施形態では、上昇過程におけるゼロクロスタイミングにおいて立ち上がり下降過程におけるゼロクロスタイミングにおいて立ち下がるゼロクロス検出信号を生成し、この立ち上がりエッジ及び立ち下がりエッジを、規定タイミングを設定する際に利用する。
図3に、ブラシレスモータ10の回転速度が安定する定常状態におけるスイッチング制御態様を示す。詳しくは、図3(a)に、端子電圧vu,vv,vwの推移を示し、図3(b)に、端子電圧と基準電圧vrefとの大小関係の比較信号の推移を示し、図3(c)に、ゼロクロス検出信号の推移を示し、図3(d)に、各種カウンタの値の推移を示し、図3(e)に、スイッチング素子SW1〜SW6の操作信号の推移を示す。なお、図3(e)に示す操作信号は、上側アームのスイッチング素子SW1、SW3,SW5の操作信号U+、V+、W+と、下側アームのスイッチング素子SW2,SW4,SW6の操作信号U−、V−、W−とを示している。そして、上側アームのスイッチング素子SW1、SW3,SW5は、Pチャネルトランジスタであるため、これらの操作信号U+、V+、W+が論理「L」となる期間がオン状態となる期間となる。
図3(d)に実線にて示されるのは、互いに隣接するゼロクロスタイミングの間隔を計時する計測カウンタの値を示している。図示されるように、計測カウンタは、ゼロクロスタイミングとなる度に初期化され、新たに計時動作を再開する。ここで、互いに隣接するゼロクロスタイミングの間隔は、回転速度と相関を有する。このため、初期化される直前の計測カウンタの値(計測カウンタの最大値)は、回転速度と相関を有するパラメータとなる。
一方、図3(d)に1点鎖線にて示されるのは、ゼロクロスタイミングから規定タイミングとなるまでの所要時間をカウントすることで規定タイミングを設定する規定タイミング設定カウンタの値を示している。規定タイミング設定カウンタは、ゼロクロスタイミングにおいて、計測カウンタの初期化前の値を初期値として、これをデクリメントしていくことでゼロとなるタイミングを規定タイミングとして設定するものである。この際、ゼロクロスタイミング及び規定タイミング間の間隔が「30°」であるなら、デクリメントのスピードを、計測カウンタのインクリメントのスピードの2倍とする。これは、互いに隣接するゼロクロスタイミングの間隔が「60°」であることによる。このため、回転速度が一定であるなら、規定タイミング設定カウンタが「0」となるタイミングは、ゼロクロスタイミングから「30°」遅角したタイミングと等しくなるはずである。
また、図3(d)に2点鎖線にて示されるのは、端子電圧vu,vv,vwと基準電圧vrefとの大小比較に基づくゼロクロスタイミングの検出を禁止(無効化)する期間(マスキング期間)を定めるマスキング期間カウンタの値を示す。このカウンタは、ダイオードD1〜D6を電流が流れる期間において端子電圧vu,vv,vwが基準電圧vrefと一致することでゼロクロスタイミングであると誤判断することを回避するためのものである。このカウンタも、ゼロクロスタイミングにおいて、計測カウンタの初期化前の値を初期値として、これをデクリメントしていき、ゼロとなるまでの期間をマスキング期間として設定する。ここで、マスキング期間をゼロクロスタイミングから「45°」の期間とするなら、デクリメントのスピードを、計測カウンタのインクリメントのスピードの「3/2」倍とする。
以下、図4及び図5を用いて、本実施形態にかかるスイッチング制御の処理手順について更に説明する。図4は、上記3つのカウンタのカウンタ値の設定処理についての手順を示す。この処理は、制御装置20により、例えば所定周期で繰り返し実行される。
この一連の処理では、まずステップS10において、マスキング期間カウンタが「0」であるか否かを判断する。そしてゼロであると判断されると、ステップS12において、比較信号Uc,Vc,Wcのいずれかが反転したか否かを判断する。この処理は、実際には、上記ゼロクロス検出信号の立ち上がりエッジ又は立ち下がりエッジのタイミングであるか否かを判断する処理である。そして、ステップS12においていずれかが反転したと判断されるときには、ステップS14において、規定タイミング設定カウンタ及びマスキング期間カウンタの値を計測カウンタの値とする。そして、ステップS16においては、計測カウンタを初期化する。
一方、ステップS10、S12において否定判断されるときには、ステップS18において、計測カウンタをインクリメントする。続くステップS20においては、規定タイミング設定カウンタがゼロであるか否かを判断する。そして、規定タイミング設定カウンタがゼロでないときには、ステップS22において規定タイミング設定カウンタをデクリメントする。一方、上記ステップS20において肯定判断されるときやステップS22の処理が完了するときには、ステップS24において、マスキング期間カウンタがゼロであるか否かを判断する。そして、マスキング期間カウンタがゼロでないときには、ステップS26において、マスキング期間カウンタをデクリメントする。
なお、ステップS24において肯定判断されるときや、ステップS16,26の処理が完了するときには、この一連の処理を一旦終了する。
図5に、スイッチング素子SW1〜SW6をオン状態へと切り替える処理の手順を示す。この処理は、制御装置20により、例えば所定周期で繰り返し実行される。
この一連の処理では、まずステップS30において、規定タイミング設定カウンタがゼロであるか否かを判断する。この処理は、規定タイミングとなったか否かを判断するものである。そして、規定タイミング設定カウンタがゼロとなったと判断されると、スイッチング素子SW1〜SW6のいずれかをオン状態に切り替える処理を行なう。すなわち、規定タイミング設定カウンタの値を計測カウンタの値に設定したゼロクロスタイミングがU相のゼロクロスタイミングであって(ステップS32:YES)且つ、ゼロクロス検出信号が立ち上がったときには(ステップS34:YES)、スイッチング素子SW1をオン状態に切り替え(ステップS36)、ゼロクロス検出信号が立ち下がったときには(ステップS34:NO)、スイッチング素子SW2をオン状態に切り替える(ステップS38)。
一方、上記ゼロクロスタイミングがV相のゼロクロスタイミングであって(ステップS40:YES)且つ、ゼロクロス検出信号が立ち上がったときには(ステップS42:YES)、スイッチング素子SW3をオン状態に切り替え(ステップS44)、ゼロクロス検出信号が立ち下がったときには(ステップS42:NO)、スイッチング素子SW4をオン状態に切り替える(ステップS46)。更に、上記ゼロクロスタイミングがW相のゼロクロスタイミングであって(ステップS40:NO)且つ、ゼロクロス検出信号が立ち上がったときには(ステップS48:YES)、スイッチング素子SW5をオン状態に切り替え(ステップS50)、ゼロクロス検出信号が立ち下がったときには(ステップS48:NO)、スイッチング素子SW6をオン状態に切り替える(ステップS52)。
なお、スイッチング素子SW1〜SW6をオフ状態に切り替える手法についても特定の規定タイミング(先の図3参照)から所定電気角度(例えば「30°」)遅角したタイミングとするものである。詳しくは、自身と異なる相の誘起電圧の上昇過程におけるゼロクロスタイミングから所定電気角度遅角したタイミングで上側アームのスイッチング素子SW1、SW3,SW5をオフ状態に切り替え、下降過程におけるゼロクロスタイミングから所定電気角度遅角したタイミングで下側アームのスイッチング素子SW2,SW4,SW6をオフ状態に切り替える。これについても、図5の処理と同様にして行うことができるため、ここではその説明を割愛する。
ところで、図6に加速時の場合を例示するように、ゼロクロスタイミングは、ブラシレスモータ10の回転速度に依存する。このため、ブラシレスモータ10の回転速度が変動するときにあっては、初期化直前の計測カウンタの値によっては、初期化時のゼロクロスタイミング及び次のゼロクロスタイミングの間隔の回転速度を高精度に表現することができない。このため、規定タイミング設定カウンタがゼロとなるタイミングが規定タイミングからずれたものとなるおそれがある。
図7に、回転速度が変動するときの一例として、加速時における規定タイミングの設定誤差の実験結果を示す。図7(a)のように初期速度ゼロから所定速度まで加速する際に、図7(b)に示すように回転子の角度の検出誤差(位相ズレ)が生じた。図示されるように、加速時においては、低速領域で特にずれが大きくなっている。
そこで本実施形態では、ゼロクロスタイミングの検出結果から、ブラシレスモータ10の回転速度の変化に関する情報を抽出し、これに基づき規定タイミングを設定する。すなわち、上記情報における回転速度の変化は、規定タイミングよりも前の期間におけるものであるものの、規定タイミング直前の隣接するゼロクロスタイミングの間隔における回転速度と規定タイミング直前の回転速度との差を把握するために用いることができると考えられる。このため、上記情報に基づき上記差を把握しつつ規定タイミングを設定する。
図8に、本実施形態にかかる規定タイミングの設定の処理手順を示す。この処理は、制御装置20により、例えば所定周期で繰り返し実行される。
この一連の処理では、ステップS60においてマスキング解除時であるか否かを判断する。すなわち、マスキング期間カウンタがゼロとなったときであるか否かを判断する。そして、マスキング解除時であるときには、ステップS62において、加速検出カウンタをインクリメントする。一方、ステップS64においては、先の図4のステップS12と同様、比較信号Uc,Vc,Wcのいずれかが反転したか否かを判断する。そして、ステップS64において肯定判断されるときには、ステップS66において、加速検出カウンタ値が所定値α以下であるか否かを判断する。この処理は、ブラシレスモータ10が加速状態であるか否かを判断するためのものである。ここでは、マスキング期間がゼロクロスタイミングから「45°」までの期間であって且つ、加速検出カウンタのインクリメントスピードが計測カウンタのインクリメントスピードと同一であるなら、加速検出カウンタの値が、前回の計測カウンタの値の「1/4」倍よりも小さい場合、ブラシレスモータ10が加速状態にあると判断することができる。このため、この場合には、所定値αを、前回の計測カウンタ値の「1/4」倍の値よりも小さい値とする。
ステップS66において加速状態であると判断されるときには、ステップS68において、規定タイミング設定カウンタ値を補正する補正量Δを、加速検出カウンタの値に応じて設定する。ここでは、図中、下方に示すように、加速検出カウンタ値が小さいほど加速度が大きいことに鑑み、補正量Δを大きい値に設定する。続くステップS70においては、規定タイミング設定カウンタ値を、規定タイミング設定カウンタ値から補正量Δを減算した値とする。
上記ステップS66において否定判断されるときや、ステップS70の処理が完了するときには、ステップS72において、加速検出カウンタを初期化する。なお、上記ステップS60,64において否定判断されるときや、ステップS72の処理が完了するときには、この一連の処理を一旦終了する。
図9に、本実施形態にかかる加速時のブラシレスモータの出力制御の態様を示す。詳しくは、図9(a)に、回転子の角度の推移を示し、図9(b)に、回転速度の推移を示し、図9(c)に、相電流の推移を示す。図示されるように、加速時においても規定タイミングの検出誤差が小さいため、回転速度を円滑に所望の回転速度まで上昇させることができる。これに対し、先の図8に示した計測カウンタの補正処理を行なわない場合には、図10に示されるように、規定タイミングの誤差が大きく、回転速度を円滑に上昇させることができない。ちなみに、図10(a)〜図10(c)は、図9(a)〜図9(c)と対応している。
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)ブラシレスモータ10の回転速度の変化に関する情報をゼロクロスタイミングの検出結果から抽出し、これに基づき、規定タイミングを設定した。このため、特定のゼロクロスタイミングから規定タイミングまでの所要時間(規定タイミング設定カウンタの値)を高精度に算出することができ、ひいては規定タイミングを高精度に設定することができる。
(2)規定タイミングの直前のゼロクロスタイミングから規定タイミングまでの所要時間(規定タイミング設定カウンタの初期値)をゼロクロスタイミングの間隔(計測カウンタの値)から算出して且つ、上記情報に基づき、これを補正した。これにより、回転速度が変動しているときであっても、所要時間(規定タイミング設定カウンタの初期値)を高精度に算出することができる。
(3)マスキング解除時からゼロクロスタイミングとなるまでの時間に基づき上記情報を取得した。これにより、上記情報を適切に取得することができる。
(4)ゼロクロスタイミングとなるまでの時間が短いほど、規定タイミングを進めた。これにより、加速度の大小に応じて、規定タイミングを高精度に設定することができる。
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
本実施形態では、ゼロクロスタイミングの検出結果からブラシレスモータ10の加速度を算出し、加速度に応じて規定タイミングを可変設定する。
図11に、本実施形態にかかる規定タイミングの設定にかかる処理の手順を示す。この処理は、制御装置20により、例えば所定周期で繰り返し実行される。
この一連の処理では、ステップS80、S82において、先の図4のステップS10、S12の処理を行なうことで、ゼロクロスタイミングであるか否かを判断する。そして、ゼロクロスタイミングであるときには、ステップS84において、加速度Aiを算出する処理を行なう。ここでは、前回のゼロクロスタイミングから今回のゼロクロスタイミングまでの時間間隔の逆数N(i)と、前前回のゼロクロスタイミングから前回のゼロクロスタイミングまでの時間間隔の逆数N(i−1)との差によって加速度Aiを算出する。実際には、この処理は、今回の計測カウンタの最大値の逆数から前回の計測カウンタの最大値の逆数を減算することで算出すれよい。
続くステップS86においては、算出された加速度Aiに応じて、規定タイミング設定カウンタを補正する補正量Δを算出する。ここでは、図11の下方に示すように、加速度Aiが所定値β(>0)以上であるときに、加速度Aiが大きいほど補正量Δを絶対値の大きい負の値に設定する。これに対し、加速度Aiが所定値α(<0)以下であるときには、加速度Aiが小さいほど補正量Δを絶対値の大きい正の値に設定する。
続くステップS88においては、規定タイミング設定カウンタに補正量Δを加算することで規定タイミング設定カウンタを補正する。なお、ステップS80、S82において否定判断されるときや、ステップS88の処理が完了するときには、この一連の処理を一旦終了する。
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1)、(2)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(5)ゼロクロスタイミングの間隔についての複数の値に基づきブラシレスモータ10の加速度を算出し、これに基づき規定タイミングを設定した。これにより、回転速度の変動にかかわらず規定タイミングを高精度の設定することができる。
(第3の実施形態)
以下、第3の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
上記マスキング期間カウンタがゼロとなるまでの間にゼロクロスタイミングとなる場合には、規定タイミングを適切に設定することや、マスキング期間カウンタ等を適切に設定することができなくなる。そこで本実施形態では、こうした状況下、そのときの誘起電圧に基づきゼロクロスタイミングから現在までの経過時間を推定する。
図12に、上記推定にかかる処理の手順を示す。この処理は、制御装置20により、例えば所定周期で繰り返し実行される。
この一連の処理では、まずステップS90においてマスキング期間カウンタがゼロに変化するマスキング解除時であるか否かを判断する。そして、マスキング解除時であるときには、ステップS92において、ゼロクロスタイミングを既に通過しているか否かを判断する。この処理は、誘起電圧の上昇過程にある場合には端子電圧が基準電圧vrefを既に超えているか否かを、また誘起電圧の下降過程にある場合には端子電圧が基準電圧vrefを既に下回っているか否かを判断することで行うことができる。
そして、既にゼロクロスタイミングを通過していると判断されるときには、ステップS94に移行する。ステップS94においては、前回の計測カウンタ値と端子電圧とに基づき、ゼロクロスタイミングから現在までの経過時間を推定する。ここで、端子電圧は、マスキング解除時においては、誘起電圧を示している。そして、誘起電圧の値と基準電圧vrefとの差には、上記経過時間に関する情報が含まれている。ただし、誘起電圧の振幅は回転速度に依存するため、現在の誘起電圧のみによっては経過時間を高精度に把握することはできない。そこで本実施形態では、回転速度と相関を有するパラメータとしての前回の計測カウンタの最大値と現在の誘起電圧とに基づき、経過時間を推定する。ここでは例えば、上記スイッチング制御部26をマイコンにて構成して且つ、前回の計測カウンタの最大値及び現在の誘起電圧と経過時間との関係を定めるマップを用いて経過時間を推定するようにすればよい。
ステップS96においては、規定タイミング設定カウンタ及びマスキング期間カウンタを、現在の計測カウンタ値から経過時間を減算した値に設定する。この処理は、推定されるゼロクロスタイミングに基づき、規定タイミングやマスキング期間を設定するための処理である。そして、ステップS98においては、計測カウンタを経過時間に設定する。
なお、ステップS90、S92において肯定判断されるときや、ステップS98の処理が完了するときには、この一連の処理を一旦終了する。
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1)〜(4)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(6)マスキング解除時において直前のゼロクロスタイミングを既に過ぎているとき、誘起電圧に基づき直前のゼロクロスタイミングから現在までの経過時間を推定した。これにより、直前のゼロクロスタイミングから規定タイミングまでの所要時間を推定することができる。
(第4の実施形態)
以下、第4の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
本実施形態では、ブラシレスモータ10の加速度に応じてスイッチング素子SW1〜SW6を流れる電流の制限値を可変設定する。図13に、上記電流制限値の設定処理の手順を示す。この処理は、制御装置20により、例えば所定周期で繰り返し実行される。
この一連の処理では、まずステップS100において、加速度Aiを算出する。この処理は、先の図11のステップS84の処理と同様である。続くステップS102においては、加速度Aiが第1規定加速度Amax以上であるか否かを判断する。ここで第1規加速度Amaxは、ゼロクロスタイミングの間隔に基づく規定タイミングの設定精度の低下が顕著となる過大な加速度に応じて設定されている。そして第1規定加速度Amax以上であると判断されるときには、ステップS104において、電流制限値をΔA(>0)だけ低減する。これは、ブラシレスモータ10の加速度を低減するための処理である。
一方、第1規定加速度未満であると判断されると、ステップS106において、第2規定加速度以下であるか否かを判断する。ここで、第2規定加速度Aminは、ゼロクロスタイミングの間隔に基づく規定タイミングの設定精度の低下が顕著となる過小な加速度(過大な減速度)に応じて設定されている。そして第2規定加速度Amin以下であると判断されるときには、ステップS108において、電流制限値をΔB(>0)だけ増大させる。これは、ブラシレスモータ10の加速度の絶対値を低減するための処理である。
このように、本実施形態では、加速度の絶対値が過度に大きくなることで規定タイミングの設定精度が顕著に低下する状況下、加速度の絶対値を低減させるための処理を行なうことで、規定タイミングの設定精度を向上させる。こうした設定は、本実施形態のように、基本的には120°通電方式によって通電を行なうことで回転速度を簡易的に制御する設定には特に有効である。すなわち、この場合、加速度はブラシレスモータ10の出力軸に加わる負荷等によって定まるものであり、都度の状況に応じて変動する。例えばフューエルポンプの燃料の粘性が低いときには、ブラシレスモータ10の出力軸に加わる負荷が小さいため、起動時等において加速度が過度に大きくなるおそれがある。これに対し、燃料の粘性の低い状況において加速度が過度に大きくならないように適合する場合には、燃料の粘性が高い状況にあっては、起動時間が伸長する。このように起動時間を短縮するとの要求があることなどから、加速度が過度に大きくなることを回避するは困難である。
なお、スイッチング素子SW1〜SW6を流れる電流が電流制限値を超える場合には、120°の期間スイッチング素子SW1〜SW6をオン状態とする代わりに、PWM制御を行うが、このときのスイッチング素子SW1〜SW6は、規定タイミングから120°の期間内において、オン状態及びオフ状態が切り替えられることとなる。そして、この際、スイッチング素子SW1〜SW6が最初にオン状態となるタイミングや最後にオフ状態となるタイミングは、必ずしも規定タイミングとは一致しない。
また、PWM制御によってスイッチング素子SW1〜SW6のオン・オフ操作を行う場合、ダイオードD1〜D6に電流が流れることで端子電圧vu,vv,vwと基準電圧Vrefとが一致しない期間が新たに生じるため、マスキング期間を追加設定する。
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1)〜(4)の効果に加えて更に以下の効果が得られるようになる。
(7)加速度に応じて電流制限値を可変設定した。これにより、ゼロクロスタイミングの間隔による所要時間の算出精度を過度に低下させない程度に加速度の絶対値の増大を抑制することができる。このため、回転速度の変化に関する情報を併せ用いることで、規定タイミングをいっそう高精度に設定することができる。
(第5の実施形態)
以下、第5の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
ブラシレスモータ10の誘起電圧は、ブラシレスモータ10の回転に伴って生じる。このため、ブラシレスモータ10が停止状態にあるとき、これを始動する際には、誘起電圧に基づくスイッチング操作を行うことができない。そこで、ブラシレスモータ10の始動に際しては、図14(a)に示すように、特定の相から別の特定の相に電流を流すことで回転子の角度(電気角)を固定するいわゆる位置決め処理がなされていた。図5では、上側アームのスイッチング素子SW1と、下側アームのスイッチング素子SW6とをオン状態とすることで、U相からW相に電流を流し、これによりブラシレスモータ10の回転子の角度を固定する例を示す。この処理により回転子の角度を固定するに際しては、その回転子の角度が収束するまでに長時間を要することがある。このため、ブラシレスモータ10の始動時間が長期化するおそれがある。
そこで本実施形態では、図14(b)に示すように、ブラシレスモータ10の上側アームの1相のスイッチング素子と下側アームの2相のスイッチング素子とをオン状態とすることで、1相から2相に電流を流し(1相2相通電)、ブラシレスモータ10の回転子の角度を所定角度に固定する処理を行う。図14(b)では、上側アームのスイッチング素子SW1と、下側アームのスイッチング素子SW4、SW6とをオン状態とすることで、U相からV相及びW相に電流を流す場合を例示している。これにより、ブラシレスモータ10の回転子の角度の所定角度に対するずれを低減する側の力が働くようになるため、所定角度への収束時間を短縮することができる。
図15(a)に、図14(a)の位置決め処理による回転子の角度の収束態様を示し、図15(b)に、図14(b)の位置決め処理による回転子の角度の収束態様を示す。図示されるように、本実施形態にかかる位置決め処理によれば、回転子の角度の収束時間が短いために、回転子の角度の変動と相関を有する電流の変動が早期に収まっている。
次に、本実施形態にかかる所定角度の設定手法について説明する。図16に、所定角度と始動時間との関係を示す。ここで、角度「0°」は、ブラシレスモータ10の始動に際しての最初のスイッチング操作状態を仮に継続したとした場合に収束すると想定される角度に定めている。また、図では、位置決め処理に際してブラスレスモータ10に流れる電流を制限しない場合と、制限する場合とについての始動時間を示している。
図示されるように、所定角度を「150°」遅角した角度よりも進角側であって且つ「30°」進角した角度よりも遅角側の領域とするなら、始動を良好に行うことができる。これは、ブラシレスモータ10の始動に伴うスイッチング操作の開始時の発生トルクと所定角度との間に図17の関係があることと関係している。ここで、正の値のトルクは、ブラシレスモータ10を正方向に回転させるトルクであることを意味する。図示されるように、進角側の領域では、ブラスレスモータ10を逆回転させるトルクが生じるために、ブラシレスモータ10が逆回転しやすい。一方、「60°」遅角した角度において出力トルクが最大となる。このため、先の図16に示されるように、「60°」遅角した角度近傍においては、位置決め処理に際してのブラシレスモータ10に流れる電流の制限の有無にかかわらず、特に始動時間を短縮することができる。このため、本実施形態では、「60°」遅角した角度近傍に所定角度を設定する。
図18に、本実施形態にかかるブラシレスモータ10の始動にかかる処理手順を示す。この処理は、イグニッションスイッチがオン操作されることをトリガとして、制御装置20により実行される。
この一連の処理では、イグニッションスイッチがオンとされるとき、まずステップS110において、上記1相2相通電による位置決め処理を行う。そして、ステップS112においては、位置決め処理の開始から所定時間Tdiが経過したか否かを判断する。この所定時間Tdiは、1相2相通電によって回転子の角度が所定角度に収束すると想定される時間以上であって且つ極力短い時間に設定されている。そして、所定時間Tdiが経過すると、ステップS114において、位置決め処理を終了する。すなわち、上側アームの1相と下側アームの2相とのオン操作を停止し、これらをオフ操作状態に切り替える。そして、ステップS116においては、ブラシレスモータ10を始動する。なお、ステップS114の処理は、上記1相2相通電のためのスイッチング操作状態を、ブラシレスモータ10の始動に伴うスイッチング操作の最初の状態に切り替える処理としてもよい。
上記ステップS116の処理が完了すると、この一連の処理を一旦終了する。
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1)〜(4)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(8)ブラシレスモータ10の始動に先立ち、ブラシレスモータ10の1相から別の2相に電流を流すことでブラシレスモータ10の回転子の角度を所定角度に固定した。これにより、所定角度への収束時間を短縮することができ、ひいてはブラシレスモータ10の始動時間を短縮することができる。
(9)所定角度を、ブラシレスモータ10の始動に伴う最初のスイッチング操作状態を仮に継続した場合のブラシレスモータ10の回転子の角度の収束値に対して、「60°」遅角した角度近傍に設定した。これにより、最初のスイッチング操作によって正方向の大きな回転トルクを生成することができ、ひいては始動時間を短縮することができる。
(第6の実施形態)
以下、第6の実施形態について、先の第5の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
上記1相2相通電よる位置決め処理を行う場合、位置決め処理を開始する前のブラシレスモータ10の停止位置によっては、1相2相通電によって回転トルクを生成することができない場合がある。すなわち、先の図17からもわかるように、所定角度と停止位置とが「180°」ずれている場合には、回転トルクを生じない。このため、こうした場合には、上記処理によっては位置決めを適切に行うことができないおそれがある。
そこで本実施形態では、1相2相通電を2回行うことで位置決め処理を行う。図19に、本実施形態にかかるブラシレスモータ10の始動処理の手順を示す。この処理は、イグニッションスイッチがオンとされることをトリガとして、制御装置20により実行される。
この一連の処理では、まずステップS120において、1相2相通電による仮の位置決め処理を行う。ここでは、所定角度とは異なる角度に固定する処理を行う。そして、所定時間Tdiが経過すると(ステップS122:YES)、ステップS124において、仮の位置決め処理を終了する。続くステップS126においては、1相2相通電によって最終的な位置決め処理、すなわち所定角度への位置決め処理を行う。ここで、所定角度は、上記第1の実施形態と同様、ブラシレスモータ10の始動に際しての最初のスイッチング操作状態を仮に継続したときの回転子の角度の収束値を基準として「60°」遅角した角度近傍とする。そして、上記仮の位置決め処理によって固定される角度と最終的な位置決め処理によって固定される角度との角度差は、「0°」より大きく「180°」未満となるように設定する。より望ましくは、角度差が略「60°」となるように設定する。そして、最終的な位置決め処理時間が所定時間Tdiとなると、ステップS130において、最終的な位置決め処理を終了する。そして、ステップS132において、ブラシレスモータ10を始動させる。
上記処理によれば、ブラシレスモータ10の回転子の角度と所定角度との差が「180°」であった場合であっても、仮の位置決め処理によってブラシレスモータ10を回転させ、所定角度との差を「180°」未満とすることができる。このため、最終的な位置決め処理によって、ブラシレスモータ10の回転子の角度を確実に所定角度に固定することができる。また、位置決め処理の開始前のブラシレスモータ10の回転子の角度が仮の位置決め処理によって回転トルクが生じない角度である場合、この角度は、最終的な位置決め処理によって回転トルクが生じる角度となる。このため、最終的な位置決め処理によって所定角度へと回転させることが可能である。
なお、仮の位置決め処理による固定角度と所定角度との差を「60°」に近づけることで、上記ステップS128における所定時間Tdiは、先の図18のステップS112の所定時間Tdiと比較して短くすることが可能である。これは、最終的な位置決め処理を開始するときにブラシレスモータ10に生じる回転トルクが大きくなるため、仮の位置決め処理によって固定される角度から所定角度まで変位するのに要する所要時間が短くなるためである。
以上説明した本実施形態によれば、先の第5の実施形態の上記(8)〜(9)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(10)固定位置を変化させつつ1相2相通電を2回行うことでブラシレスモータ10の回転子の角度を所定角度に固定した。これにより、位置決め処理前のブラシレスモータ10の回転子の角度にかかわらず、所定角度に確実に固定することができる。
(第7の実施形態)
以下、第7の実施形態について、先の第5の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
図20に、本実施形態にかかるブラシレスモータ10の始動処理の手順を示す。この処理は、イグニッションスイッチがオンとされることをトリガとして、制御装置20により実行される。なお、図20において、先の図18と対応する処理については、便宜上同一のステップ番号を付している。
この一連の処理では、ステップS112において所定時間Tdisが経過したと判断されるときには、ステップS140において、上側アームのスイッチング素子SW1,SW3,SW5又は下側アームのスイッチング素子SW2,SW4,SW6を全てオン状態とする全相短絡処理を行う。そして、全相短絡処理を所定時間Ts行うと(ステップS142:YES)、ブラシレスモータ10を起動する。
上記全相短絡処理によれば、ブラシレスモータ10の回転に伴う誘起電圧によりブラシレスモータ10に電流が流れることとなり、この電流は電流経路内の抵抗等の影響で減衰していく。換言すれば、回転エネルギが減衰していく。このため、ブラシレスモータ10を所定角度にてより迅速に停止させることができる。なお、上記所定時間Tsは、全相短絡処理によってブラシレスモータ10が所定角度へと収束するように振動が減衰し、略停止すると想定される時間以上であって且つ極力短時間に設定される。
上記処理によれば、ステップS112の所定時間Tdisを、ブラシレスモータ10の回転子の角度が所定角度へと収束するまでの時間に応じて定める必要がなく、所定角度へと変位させるのに要する時間に応じて定めることができる。このため、所定時間Tdisは、先の図18のステップS112の所定時間Tdiよりも短い時間とすることができる。
以上説明した本実施形態によれば、先の第5の実施形態の上記(8)〜(9)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(11)1相2相通電処理の後にブラシレスモータ10の全相を短絡させた。これにより、所定角度への収束時間を更に短縮することができる。
(第8の実施形態)
以下、第8の実施形態について、先の第6の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
図21に、本実施形態にかかるブラシレスモータ10の始動処理の手順を示す。この処理は、イグニッションスイッチがオンとされることをトリガとして、制御装置20により実行される。なお、図20において、先の図19と対応する処理については、便宜上同一のステップ番号を付している。
この一連の処理では、仮の位置決め処理のための1相2相通電を所定時間Tdis行ったとき (ステップS122:YES)と、最終的な位置決め処理のための1相2相通電を所定時間Tdis行ったとき(ステップS128:YES)とに、それぞれ全相短絡処理を行う(ステップS144,S146)。これにより、先の第6の実施形態と比較して、位置決めに要する時間を短縮することが可能となる。
(第9の実施形態)
以下、第9の実施形態について、先の第6の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
上述したように、120°通電制御にてスイッチング素子SW1〜SW6に流れる電流が所定以上となるときには、これを制限するようにPWM制御を行った。本実施形態では、位置決め処理時においてスイッチング素子SW1〜SW6を流れる電流が所定以上であるときにもPWM制御を行う。
図22に本実施形態にかかる電流制限制御の処理手順を示す。この処理は、制御装置20により、例えば所定周期で繰り返し実行される。
この一連の処理では、まずステップS150において、位置決め処理がなされている時であるか否かを判断する。そして、位置決め処理時であると判断されるときには、ステップS152において、上側アームのスイッチング素子SW1,SW3,SW5の電流量が閾値電流ε以上であるか否かを判断する。この処理は、位置決め処理時の電流量が過大となっているか否かを判断するものである。そして、閾値電流ε以上と判断されるときには、ステップS154において、下側アームのスイッチング素子SW2,SW4,SW6を全てオフとする。
なお、上記ステップS150,S152において否定判断されるときや、ステップS154の処理が完了するときには、この一連の処理を一旦終了する。
以上説明した本実施形態によれば、先の第5の実施形態の上記(8)〜(9)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(12)位置決め処理の1相2相通電処理によってブラシレスモータ10を流れる電流量が所定値以上となるとき、通電量を制限した。これにより、位置決め処理の消費電力が過度に大きくなることを回避することができる。そして、位置決めのための通電操作によって生じるトルクが過大となることを抑制し、回転角度の収束時間を短縮することができる。
(第10の実施形態)
以下、第10の実施形態について、先の第6の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
図23に、本実施形態にかかるブラシレスモータ10の始動処理の開始に関する処理の手順を示す。この処理は、イグニッションスイッチがオンとなることをトリガとして、制御装置20により、例えば所定周期で繰り返し実行される。
図示されるように、この一連の処理では、バッテリ14の電圧が規定電圧Vth以上となる期間が所定期間Tv以上となるとき(ステップS160:YES)、制御装置20内におけるブラシレスモータ10の制御のための各種パラメータを初期化し(ステップS162)、ブラシレスモータ10の始動にかかる処理を行う(ステップS164)。すなわち、先の図18に示した処理を行う。
ここで、上記規定電圧Vthは、制御装置20の動作が安定するために必要な電圧に所定のマージンを加算した値に設定されている。そして、バッテリ14の電圧が規定電圧Vth以上となる状態が所定期間Tv以上継続するまでブラシレスモータ10の始動を待機することで、図24に示すように、バッテリ14の電圧が安定したときにブラシレスモータ10を始動することができる。
なお、ステップS162の初期化処理は、制御装置20に印加される電圧が一旦低くなることで制御装置20内で用いられるパラメータの信頼性が低下しているおそれがあるためになされる処理である。
以上説明した本実施形態によれば、先の第5の実施形態の上記(8)〜(9)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(13)ブラシレスモータ10の電圧が予め定められた規定電圧γ以上となるまでブラシレスモータ10の始動を待機した。これにより、制御装置20の動作の不安定化のためにブラシレスモータ10の回転状態が制御不能になる事態などを回避することができる。このため、ブラシレスモータ10の回転を停止させた後、始動処理を再度行う事態を回避することができる。
(14)バッテリ14の電圧が規定電圧γ以上となる期間が所定時間Tv継続するまでブラシレスモータ10の始動を待機した。これにより、バッテリ14の電圧が安定した状態で始動をすることができる。
(その他の実施形態)
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・第9の実施形態において、上側アームのスイッチング素子をオフ状態とすることで電流制限を行ってもよい。ただし、この場合、例えば下側アームのスイッチング素子を流れる電流値の和が所定以上となるか否かに応じて、電流を制限する処理を行う。
・第9の実施形態における第5の実施形態との変更点を、第6〜第8の実施形態に適用してもよい。
・第10の実施形態における第5の実施形態との変更点を、第1〜第5、第7〜第9の実施形態に適用してもよい。
・位置決め処理としては、上側アームの1相のスイッチング素子と下側アームの他の2相のスイッチング素子とをオン操作することで1相から別の2相に電流を流すものに限らない。例えば上側アームの2相のスイッチング素子と下側アームの別の1相のスイッチング素子とをオン操作することで2相から別の1相に電流を流すものであってもよい。また、ブラシレスモータ10として、4相以上のものを用いる場合、例えば上側アームの2相のスイッチング素子をオンとするとともに、下側アームの2相のスイッチング素子をオンとするものであってもよい。
・所定角度としては、上記実施形態で例示したものに限らない。この際、「180°」遅角した角度よりも進角側から、「30°」進角した角度よりも遅角側までの角度領域とすることが望ましい。また、ブラシレスモータ10を始動させるための最初のスイッチング操作によって正のトルクを生成するためには、遅角側に設定することが望ましい。更に、電流制限の有無にかかわらず始動時間を短縮する観点からは、「120°」遅角した角度よりも進角側とすることが望ましい。
・上記第3の実施形態では、直前のゼロクロスタイミングから現在までの経過時間を誘起電圧と回転速度とに基づき推定したが、これに限らない。例えば前回のマスキング解除期間における誘起電圧の最大値又は最小値と現在の誘起電圧とに基づき経過時間を推定してもよい。すなわち、上記実施形態では誘起電圧の振幅は回転速度に依存することに鑑みて回転速度を用いたのであるが、これに代えて、前回の誘起電圧の最大値又は最小値を用いても振幅を把握することができる。
・規定タイミングの設定手法としては、ゼロクロスタイミングの間隔に応じて直前のゼロクロスタイミングから規定タイミングまでの所要時間を算出し、これを回転速度の変化に応じて補正するものに限らない。例えば回転速度及び加速度と所要時間との関係を定める2次元マップを用いてもよい。また例えば、ゼロクロスタイミングから規定タイミングまでの所定角度と回転速度Niと加速度Aiから、「所定角度=Ni×t+(1/2)×Ai×t×t」によって所要時間tを算出してもよい。
・ゼロクロスタイミングの検出結果から回転速度の変化に関する情報を抽出し、同情報に基づき規定タイミングを設定する手法としては、上記各実施形態やその変形例で例示したものに限らない。例えばゼロクロスタイミングにおいて、規定タイミング設定カウンタ値を、「今回の計測カウンタ値×(今回の計測カウンタ値/前回の計測カウンタ値)」としてもよい。また、規定タイミング設定カウンタ値を、「今回の計測カウンタ値−K×(今回の計測カウンタ値―前回の計測カウンタ値)」としてもよい。すなわち、3つ以上のゼロクロスタイミングの検出結果を用いることで上記情報を抽出し、これに基づき規定タイミングを設定するものであればよい。
・上記第4の実施形態において、加速度が正で過大なときのみ電流制限値を変更してもよい。
・電流検出部24の構成としては、上記実施形態で例示したものに限らない。例えば各スイッチング素子SW1,SW3,SW5とバッテリ14の正極電位間にシャント抵抗を設け、シャント抵抗による電圧降下量に基づきこれらを流れる電流を検出してもよい。
・ブラシレスモータ10としては、フューエルポンプに搭載されるアクチュエータに限らず、例えば車載内燃機関のラジエータを冷却するファンのアクチュエータであってもよい。更に、車載ナビゲーションシステム等に搭載されるデータ記録装置や再生装置、すなわちDVD(Digital Versatile Disc)やCD−ROM(Compact Disc Read Only Memory)、ハードディスク等のディスク媒体のデータ記録装置や再生装置の備える電動機であってもよい。また、回転電機としては、モータに限らず、発電機であってもよい。
・電源としては、バッテリ14に限らず、例えば車載内燃機関の回転エネルギを電気エネルギに変換する発電機であってもよい。
10…ブラシレスモータ、12…インバータ、20…制御装置、22…ドライバ、24…電流検出部、26…スイッチング制御部、SW1〜SW6…スイッチング素子、D1〜D6…ダイオード。