本発明は、極性ビニルモノマーの立体規則性重合法に関するものである。更に詳しくは、特定の高度な立体規則性を有する極性ビニルポリマーの製造方法に関するものである。
従来、極性基を側鎖に有する極性ビニルポリマーは非極性ビニルポリマーと比較して様々な機能を有することが知られている。それら極性ビニルポリマーとしては、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール(ポリ酢酸ビニル)、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸メチル等が産業分野でも重要な役割を果たしてきた。
これら極性ビニルポリマーに更に高次の機能、性能を付与するには、非極性ビニルポリマーと同様に、生成ポリマーの一次構造、すなわち立体構造や分子量、末端基の制御、あるいは厳密なブロック構造の実現などの精密な設計、制御が必要不可欠である。
従来、これらのポリマーは主としてバルク系でのフリーラジカル重合法により合成されてきた。フリーラジカル重合は高活性なフリーラジカルを成長種とし、そのためにモノマーの構造、また水系、非水系を問わず多様な重合条件下での種々の高分子量体の調整を簡便に実現することができる。しかしながらフリーラジカル種は高活性な反面、他の重合法と比較して反応性の制御が困難でありポリマーの一次構造制御の実現が困難な為、現在までのところ新たな機能性発現には至っていない。
一方、非極性ポリマーの一次構造制御、特に立体構造の制御に関しては、既にZieglar−Natta触媒、メタロセン触媒などで知られる有機金属錯体触媒の適用で実現されているが、極性ビニルモノマー重合にこれら有機金属錯体触媒を適用した場合、極性基がしばしば触媒毒となり、触媒の重合活性そのものを失活してしまうため成功例は限られている。中でも立体構造を制御することによる立体規則性ビニルポリマー重合に関しては、希土類錯体触媒によるメタクリル酸エステルの重合(非特許文献1等参照)、極性ビニルモノマーの重合(非特許文献2等参照)、ジルコノセン錯体と硼素化合物からなる触媒によるメタクリル酸エステルの重合(非特許文献3等参照)が挙げられ、立体規則性ポリマー重合も報告されている。しかしながらこれらの錯体は例えばアクリロニトリルなど、メタクリル酸エステル以外の極性ビニルモノマーには立体規則性発現はおろか重合活性も乏しく、また空気中では不安定で取り扱い作業性に問題があり、現在までのところ工業化には至っていない。
また、極性ビニルモノマーにアニオン重合を適用することにより立体規則性を制御したポリマーを調整する報告も種々なされているが、これらはメタクリル酸エステルを除いては立体規則性を付与できる重合条件が限られていることや側鎖極性基によるアニオン成長種への副反応などの要因から、得られるポリマーの立体規則性や平均分子量、収率などの点で実用性に乏しい。例えばt−ブチルリチウムとトリアルキルアルミニウム系開始剤(非特許文献4等参照)、及びアルキルアルミニウムとホスフィン錯体(非特許文献5等参照)によるシンジオタクティックメタクリル酸エステルの重合が知られているが得られるポリマーの平均分子量は10万以下である。また、極性ビニルモノマーとしてアクリロニトリルを用いた場合、Mg、Be等のアルカリ土類金属のアルキル化物を成分とするアニオン重合触媒を70℃で作用させることによりアイソタクティック含率が50〜70%程度のポリアクリロニトリルの調整に成功しているが(非特許文献6、特許文献1、2及び3等参照)、高温でのアニオン重合でありシアノ基の副反応による副生成物の混在が避けられず重合収率も10〜30%程度である。またこの方法ではシンジオタクティシティーに富むポリアクリロニトリルの重合は困難である。
一方、極性ビニルモノマーの重合に最も適したフリーラジカル重合においてポリマーの立体規則性をも制御する試みもなされている。例えば古くは、尿素、胆汁酸誘導体などをホスト分子に用い、モノマーとの包摂化合物を調整後に低温にて放射線固相重合を行うことにより、高アイソタクティック含率のポリアクリロニトリルや高シンジオタクティックなポリメタクリル酸メチルが調整された(非特許文献7等参照)。また近年、かさ高いフルオロアルコールを溶媒かつモノマー包摂分子に用いて酢酸ビニルを低温にて光重合、鹸化することにより、アイソタクティック、シンジオタクティック含率の高いポリビニルアルコールが報告されている(非特許文献8、特許文献4及び5等参照)。包摂分子としてゼオライト等の多孔性無機化合物を用いたアイソタクティックリッチなポリアクリロニトリル光重合の報告もある(非特許文献9等参照)。ただしこれらはホスト分子の包摂能が機能しうるモノマー種がホスト分子の種類により限定され、汎用性に乏しい。またこれらの包摂ホスト化合物は−30℃以下の低温でのみ有効に機能し、室温下では容易に包摂化合物が解離、分解してしまう為、低温での光重合を行う必要があり、作業性、コスト面で実用性に欠けるのみならず、高度な立体規則性の制御は困難である。
近年、強力なルイス酸であり、かつ特異な反応活性を示す希土類金属のトリフルオロメタンスルホン酸塩などをモノマーに対して0.1等量前後(触媒量程度)添加し重合することによる高いシンジオタクティック及びアイソタクティック含率のアクリルアミド誘導体のラジカル重合が報告されている(非特許文献10等参照)。しかしこの場合も、満足できる高い立体規則性を発現するには−20℃程度の低温下での紫外線照射重合が必要であり、実用的な重合プロセス適用性に欠ける。またアクリルアミド以外のモノマー、すなわちメタクリル酸メチルやアクリロニトリル、又は酢酸ビニル等、工業的に有用な極性ビニルモノマーでは期待するほどの立体規則性の発現効果は認められていない。例えば酢酸ビニルにルイス酸として有機アルミニウム化合物を添加してラジカル重合後、鹸化して得られるポリビニルアルコールは、通常のラジカル重合に比べて高々1〜2%、トライアドのシンジオタクティシティーが増加する程度であり(特許文献6等参照)、実用上の有用性は低い。また希土類金属を含むルイス酸は高価なため、モノマーに対し0.1〜0.2等量の使用量であっても高コストと回収、再使用プロセスの問題を解決せねばならず、工業規模での大量重合には不適である。
特開平1−203406号公報
特開平3−68606号公報
特開平7−18012号公報
特開2000−26537号公報
特開2000−44607号公報
特開2001−200008号公報
「ジャーナル オブ ジ アメリカン ケミカル ソサエティ(Journal of the American Chemical Society)」、(米国)、1992年、114巻、12号、P.4908−4910
「マクロモレキュールズ(Macromolecules)」、(米国)、1996年、29巻、24号、P.8014−8016
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「ジャーナル オブ ジ アメリカン ケミカル ソサエティ(Journal of the American Chemical Society)」、(米国)、2001年、123巻、29号、P.7180−7181
本発明者は、上述のような従来の立体制御極性ビニルポリマーの製造技術の課題をもとに、極性ビニルポリマーのうち特にシンジオタクティシティーに富むポリアクリロニトリルやポリメタクリロニトリルなど、任意な立体規制が困難なモノマーに最適な立体規制重合において、汎用の重合設備、条件(温度、重合開始剤)が適用可能で、かつ高度な立体規則性の制御も可能な立体特異性アニオン重合法の開発、及び経済的、工業的にも有利な立体規則性ポリマーの製造方法を提供することを目的とするものである。
本発明者は極性ビニルモノマー、特にシンジオタクティックポリアクリロニトリルの立体規則性アニオン重合に関する研究を行い、モノマーと立体特異的に相互作用し、かつアニオン重合を開始しうる有機金属化合物を対象に検討を行った。その結果、驚くべきことに特定の構造からなるニ価の有機金属化合物が極性ビニルモノマーの好適なアニオン重合開始剤として有用であること、及びこれを用いた極性ビニルモノマーのアニオン重合を行うことにより、簡便かつ効果的に極性ビニルモノマーの立体規則性制御が可能であることを見出した。
すなわち、本発明の目的は、
下記一般式(1)で示される有機金属化合物或いはその誘導体の中から選ばれた少なくとも一種の化合物からなる、極性ビニルモノマーのアニオン重合開始剤によって達成することができる。
(式中、Xは置換されていても良い環状の脂肪族及び/又は芳香族基であり、Y,Zは夫々置換されていても良い同一或いは異なる二価のヘテロ結合及び/又は脂肪族基或いは芳香族系有機基である。またMは周期律表第I、II、III、VIII族の何れかに属する金属原子である。)
本発明の方法を用いることで、ポリマーの微細構造として三連子がracemo−racemo配置で整列したシンジオタクティックトライアド(rr)含量またはmeso−meso配置で整列したアイソタクティックトライアド(mm)が35%以上となる立体規則性を有する極性ビニルポリマーを製造することが可能となる。
更に本発明のアニオン重合開始剤を用いることで従来のアニオン重合反応系をそのまま用い、簡便かつ安価に立体規則性極性ポリマーを製造するに好適である。
本発明における立体規則性の発現機構については完全に解明されてはいないが、反応開始時の重合開始剤/モノマー付加体においては、立体的に込み合った二個の金属の活性中心がモノマーの付加方向を規制することでアニオン重合における成長種及び/又はモノマーのラセモ付加が優位となると推測される。この結果アニオン重合時のモノマー間の配列や、成長アニオンのモノマーへの配位反応の方向を厳密に制御し、得られるポリマーの立体規則性を発現していると考えられる。これらの立体規則性を有する微細構造の実現により、種々の極性ポリマーの熱的、機械的、化学的特性の改良や種々の機能を発現することが可能となり、更に新規なブロック、グラフトコポリマー、金属/ポリマーハイブリット等の機能性材料の実現にも有用である。
以下本発明について詳述する。
本発明で用いるアニオン重合開始剤としての有機金属化合物は、下記式(1)で表される。
(式中、Xは置換されていても良い環状の脂肪族及び/又は芳香族基であり、Y,Zは夫々置換されていても良い同一或いは異なる二価のヘテロ結合及び/又は脂肪族基或いは芳香族系有機基である。またMは周期律表第I、II、III、VIII族の何れかに属する金属原子である。)
Xとしては置換されていてもよい炭素数4〜20のシクロアルキル、アリール、ヘテロ環状有機基を表し、具体的環状構造としてシクロペンタン環、シクロヘキサン環、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環、チオフェン環、ピリジン環、ピロール環、フラン環、ピラン環、テトラヒドロフラン環、テトラヒドロピラン環及びこれらの核置換誘導体を挙げることができ、ベンゼン環、シクロヘキサン環、ナフタレン環が特に好ましい。
核置換基としてはハロゲン基、ニトロ基、ニトリル基、カルボニル基等及び/または炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルキルアミド基或いはアリールアミド基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基等を挙げることができ、具体的にはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル、2−エチルヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル等の脂肪族、及びフェニル、トルイル、ナフチル等の芳香族基、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ、イソプロピルオキシ、ブトキシ、イソブトキシ、t−ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、シクロヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、2−エチルヘキシルオキシ、オクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ、ドデシルオキシ等のオキシ脂肪族基、フェニルオキシ、トルイルオキシ、ナフチルオキシ、ベンジルオキシ基などのオキシ芳香族、半芳香族基、メチルアミド、エチルアミド、プロピルアミド、イソプロピルアミド、ブチルアミド、イソブチルアミド、t−ブチルアミド、ペンチルアミド、ヘキシルアミド、シクロヘキシルアミド、ヘプチルアミド、オクチルアミド、ノニルアミド、デシルアミド、ドデシルアミド等の脂肪族アミド、フェニルアミド、トルイルアミド、ナフチルアミド等の芳香族アミド基、アセチル、プロピオノイル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、シクロヘキサノイル、ヘプタノイル、オクタノイル、ノナノイル、デカノイル、ウンデカノイル、ドデカノイル、テトラデカノイル等のアルカノイル基、フェニルカルボニル、トルイルカルボニル、ナフチルカルボニルなどのアリールカルボニル基等を挙げることができる。
これらのうちメチル、エチル、プロピル、ブチル、t−ブチル、ヘキシル、シクロヘキシル、2−エチルヘキシル、フェニル、メトキシ、エトキシ、ブトキシ、ヘキシルオキシ、シクロヘキシルオキシ、2−エチルヘキシルオキシ、フェニルオキシ、ベンジルオキシ基などが特に好ましい。
Y,Zは夫々置換されていても良い同一或いは異なる二価のヘテロ結合及び/又は脂肪族基或いは芳香族系有機基である。具体的にはカルボニル基、エーテル基、アミド基、スルホン基、ウレタン基、イミノ基等のヘテロ結合、メチレン、エチレン、トリメチレン、プロピレン、テトラメチレン、ヘキサメチレン、オクタメチレン、デカメチレン、ドデカメチレン等のアルキレン基、シクロヘキシレン、1、4−シクロヘキサンジメチレン等のシクロアルキレン基、フェニレン、ナフチレン、ビフェニレン等のアリーレン基を挙げることができる。更にこれらへテロ結合と有機基の組み合わせの結合としてオキシメチレン、オキシエチレン、オキシプロピレン、オキシブチレン、オキシペンチレン、オキシヘキシレン、オキシシクロヘキシレン、オキシオクチレン、オキシデカメチレン、オキシドデカメチレン、オキシフェニレン、オキシナフチレン、オキシビフェニレン、カルボニルメチレン、カルボニルエチレン、カルボニルプロピレン、カルボニルブチレン、カルボニルペンチレン、カルボニルヘキシレン、カルボニルシクロヘキシレン、カルボニルオクチレン、カルボニルデカメチレン、カルボニルドデカメチレン、カルボニルフェニレン、カルボニルナフチレン、カルボニルビフェニレン、カルバモイルメチレン、カルバモイルエチレン、カルバモイルプロピレン、カルバモイルブチレン、カルバモイルペンチレン、カルバモイルヘキシレン、カルバモイルシクロヘキシレン、カルバモイルオクチレン、カルバモイルデカメチレン、カルバモイルドデカメチレン、カルバモイルフェニレン、カルバモイルナフチレン、カルバモイルビフェニレン、N−カルボニル、N−フェニルカルバモイルベンジルオキシ基等の組み合わせ結合を例示することができる。これらのうち特にオキシメチレン、オキシシクロヘキシレン、オキシフェニレン、オキシナフチレン、カルボニルメチレン、カルボニルシクロヘキシレン、カルボニルフェニレン、カルボニルナフチレン、カルバモイルメチレン、カルバモイルシクロヘキシレン、カルバモイルフェニレン、N−カルボニル、N−フェニルカルバモイルベンジルオキシ基等が好ましい。
Mは周期律表第I、II、III、VIII族の何れかに属する金属原子であり、具体的にはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、イットリウム、銅、イッテルビウム、スカンジウム、アルミニウム、ガリウム、コバルト、鉄、ニッケル等の金属元素を挙げることができる。これらのうちリチウム、ナトリウム、カリウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、銅、イットリウム、イッテルビウム、スカンジウム、アルミニウム、コバルト、鉄、ニッケルが好ましく、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、イットリウム、イッテルビウム、スカンジウム、コバルト、鉄、ニッケルが特に好ましい。
上記一般式(1)に挙げたこれらの構造の組み合わせのうち、本発明の目的に最も好適な開始剤構造の組み合わせよりなる有機金属化合物としては、下記に示される有機金属化合物の中から選ばれる化合物を挙げることができる。
ここでMは周期律表第I、II、III、VIII族の金属元素であり、前述した各種金属を挙げることができる。Rは水素原子或いは炭素数1〜18のアルキル基、アリール基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルカノイル基、アリロイル基、アルキルアミド基或いはアリールアミド基の何れかであり、具体的にはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル、2−エチルヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル等の脂肪族、及びフェニル、トルイル、ナフチル等の芳香族基、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ、イソプロピルオキシ、ブトキシ、イソブトキシ、t−ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、シクロヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、2−エチルヘキシルオキシ、オクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ、ドデシルオキシ等のオキシ脂肪族基、フェニルオキシ、トルイルオキシ、ナフチルオキシ、ベンジルオキシ基などのオキシ芳香族、半芳香族基、メチルアミド、エチルアミド、プロピルアミド、イソプロピルアミド、ブチルアミド、イソブチルアミド、t−ブチルアミド、ペンチルアミド、ヘキシルアミド、シクロヘキシルアミド、ヘプチルアミド、オクチルアミド、ノニルアミド、デシルアミド、ドデシルアミド等の脂肪族アミド、フェニルアミド、トルイルアミド、ナフチルアミド等の芳香族アミド基、アセチル、プロピオノイル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、シクロヘキサノイル、ヘプタノイル、オクタノイル、ノナノイル、デカノイル、ウンデカノイル、ドデカノイル、テトラデカノイル等のアルカノイル基、フェニルカルボニル、トルイルカルボニル、ナフチルカルボニルなどのアリロイル基等を挙げることができる。
これらのうちメチル、エチル、プロピル、ブチル、t−ブチル、ヘキシル、シクロヘキシル、2−エチルヘキシル、フェニル、メトキシ、エトキシ、ブトキシ、ヘキシルオキシ、シクロヘキシルオキシ、2−エチルヘキシルオキシ、フェニルオキシ、ベンジルオキシ基などが特に好ましい。
本発明のアニオン重合開始剤により重合可能なモノマーとしては、極性基を有するビニルモノマーが挙げられる。具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどのアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシルなどのメタクリル酸エステル類、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジイソプロピルアクリルアミド等のアクリルアミド類、塩化ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等を挙げることができる。このうち、好ましくはアクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリルを挙げることができ、更に好ましくはアクリロニトリルを挙げることができる。
本発明のアニオン重合開始剤による立体規則性極性ビニルポリマー製造における重合条件としては、無溶媒下あるいは溶媒の存在下に重合を行うことができる。重合溶媒は開始剤の重合能を阻害しない有機溶媒であれば特に限定されないが、立体規則性を高めるためには非プロトン性の有機溶媒を用いることが好ましく、非プロトン性であれば無極性及び/又は極性溶媒を用いることができる。それらの溶媒としては、非プロトン性無極性溶媒としてはヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等を、また非プロトン性極性溶媒として例えばテトラヒドロフラン、ジオキサン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルフォキシド等を用いることができるが、中でもシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等及びこれらの混合溶媒が好ましい。
重合条件として重要な重合温度については、アニオン重合が進行する温度であれば低温から高温まで適用することができるが、一般的には−75℃〜180℃の範囲内で行うことが好ましい。重合温度が−75℃より低いと重合速度が著しく低下しプロセス上好ましくなく、また重合温度が180℃より高いと、重合以外の副反応や重合ポリマーの分解などによりポリマー品位の低下が生じるため好ましくない。ポリマーの重合温度としては好ましくは−60℃〜150℃、特に好ましくは−50℃〜130℃である。
本発明のアニオン重合開始剤による立体規則性極性ビニルポリマー製造方法の結果得られるポリマーは、単独で繊維やフィルム、その他各種成型体への素材として使用するのみならず、ブレンド、複合化による他の素材の改質や機能化への使用、更にはプレポリマーとして引き続き種々のモノマーとの共重合成分へ応用することも可能である。共重合モノマーとしては、本発明での各種極性ビニルモノマー同士のみならず、メタクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ビニル酢酸、アリルアミン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ビニルスルホン酸及びその塩等の他の極性ビニル誘導体、エチレンやα―オレフィン等の非極性モノマー、更にイタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸及びマレイミド等のジ置換ビニル誘導体及びメタクリル酸ビニル、ジビニルベンゼン等のジビニル誘導体等を用いることができる。またこれらの共重合モノマー成分は、重合時に主モノマーの開始剤あるいは成長アニオン種への配位構造を破壊しない範囲の量であれば、一部存在させることが可能である。
この様にして得られる極性ビニルポリマーの微細構造については、隣り合う極性基同士がracemo−racemo配置で整列したシンジオタクティックトライアド(rr)含量が、meso−meso配置で整列したアイソタクティックトライアド(mm)及び/又はmeso−racemo配置で整列したmr(ヘテロタクティックトライアド)を含めた全微細構造中に35%以上存在するような、または隣り合う極性基同士がmeso−meso配置で整列したアイソタクティックトライアド(mm)含量が、racemo−racemo配置で整列したシンジオタクティックトライアド(rr)及び/又はmeso−racemo配置で整列したmr(ヘテロタクティックトライアド)を含めた全微細構造中に35%以上存在するような立体規則性を有する。
ここでいうmm、mr及びrr含量とは、α−モノ置換型の極性ビニルポリマーの場合、α―炭素の13C−NMRスペクトルにおけるmm、mr、rrの三種の立体構造に基づくピーク強度比より算出することができる。またポリメタクリル酸メチルの様にα位にアルキル基等の置換基を有するポリマーの場合、α置換基上の水素原子のmm、mr、rrの三種のピーク強度比より算出することも可能である。
立体規則構造の発現により極性ポリマーの力学特性、耐熱性、耐溶剤性、耐薬品性といった物理的、化学的性質を改良することが出来る。例えばアイソタクティックポリアクリロニトリルやシンジオタクティックポリアクリロニトリルではアタクティックな素材に比べて熱的、力学特性の向上が可能である。rr含量またはmm含量が35%に満たない場合、上述の物理的、化学的特性への微細構造の寄与が少なく、期待される機能発現への効果が少ないか、又は結びつかない。
以下、参考例および実施例によって本発明を更に詳しく説明する。ただし、以下の実施例は本発明を何ら限定するものではない。
なお、例中の「部」は特にことわらない限り「重量部」を表す。また重合におけるモノマー転化率及び得られたポリマーの組成は1H−NMRより、またポリマーの立体規則性(タクティシティー)は13C−NMR測定又は1H−NMR測定(270MHz JNR−EX−270 日本電子データム(株)製、溶媒DMSO−d6又はCDCl3)により定量し、アイソタクティックトライアド(mm)、シンジオタクティッティクトライアド(rr)、ヘテロタクティックトライアド(mr)を決定した。
[参考例1]1,3−ビス[(R)−(+)−3−ヒドロキシピペリジルカルボニル]−5−(2−エチルヘキシルオキシ)ベンゼンの合成:
(A)3−(2−エチルヘキシルオキシ)イソフタル酸の合成:
ジメチル−5−ヒドロキシイソフタレート63.057重量部、カリウム−tert.−ブトキシド33.666重量部を窒素導入口と末端を窒素排出口に接続したリービッヒ冷却管を取り付けた二口セパラブルフラスコ中にて脱水メタノール500mlに溶解した。
これに1−ブロモオクタン59.87重量部を添加し、油浴中にて撹拌、加熱還流することで反応を開始した。12時間後、室温まで放出冷することで析出した無機塩をロ別除去し、メタノールをエバポレーターにて減圧留去することによりジメチル−3−(2−エチルヘキシルオキシ)イソフタレートの粗生成物95重量部を得た。この粗生成物を水酸化ナトリウム14.3重量部、水10重量部およびエタノール500重量部の混合物に溶解し、リービッヒ冷却管を設置したセパラブルフラスコ中にて24時間撹拌、加熱還流した。
反応後にエタノールをエバポレーターにて減圧留去し、残渣をイオン交換水2000重量部に溶解し、水溶液のpHが7になるまで6規定の塩酸水溶液を滴下しながら撹拌した。生成した白色沈殿をロ別採取し、ついで2000重量部のイオン交換水で洗浄、ロ別する操作を3回繰り返した後に室温下24時間減圧乾燥した。
目的物の収量は84重量部(収率95%)であった。赤外スペクトル分析より2930,2872cm−1(メチレン基伸縮振動)、2640,2562cm−1(カルボキシル基OH伸縮振動)、1693cm−1(カルボニル基CO伸縮振動)、1462cm−1(ベンゼン核C=C伸縮振動)の特性吸収を確認した。
(B)3−(2−エチルヘキシルオキシ)イソフタル酸クロリドの合成:
3−(2−エチルヘキシルオキシ)イソフタル酸1重量部、オキサリルクロリド4.5重量部を窒素導入口と排出口を装備した二口セパラブルフラスコ中にて脱水塩化メチレン50mlに溶解した。これに室温下にピリジン1滴を加え、乾燥窒素雰囲気下に24時間撹拌、反応した。
反応後、溶媒および余剰のオキサリルクロリドを室温下減圧留去することで生成物の白色固体を得た。赤外スペクトル分析よりカルボキシル基OH伸縮振動の消失を確認した。更に2926,2856cm−1(メチレン基伸縮振動)、1762cm−1(クロロカルボニル基のCO伸縮振動)および1448cm−1(ベンゼン核C=C伸縮振動)の特性吸収を確認した。
(C)1,3−ビス[(R)−(+)−3−ヒドロキシピペリジルカルボニル]−5−(2−エチルヘキシルオキシ)ベンゼンの合成:
3−(2−エチルヘキシルオキシ)イソフタル酸クロリド1.127重量部、(R)−(+)−3−ヒドロキシピペリジン塩酸塩1重量部を窒素導入口と排出口を装備した二口セパラブルフラスコ中にて脱水塩化メチレン50mlに添加した。これに室温下に脱水したトリエチルアミン1.82重量部を加え、乾燥窒素雰囲気下に72時間撹拌、反応した。
反応後、溶媒を室温下減圧留去することで粗生成物の固体を得た。固体をクロロホルム200重量部に溶解し、分液ロート中にて1%塩酸含有生理食塩水200ml、生理食塩水200ml、イオン交換水200mlの順に震盪、洗浄した。クロロホルム層を分取し、無水硫酸ナトリウム10重量部を添加して24時間乾燥した。硫酸ナトリウムをロ別除去後、クロロホルムをエバポレーターにて減圧留去した後、残渣を石油エーテルで洗浄、乾燥することにより白色固体を得た。
目的物の収量は1.5重量部(収率95%)であった。赤外スペクトル分析より2930,2858cm−1(メチレン基伸縮振動)、1681cm−1(アミドカルボニル基のCO伸縮振動)および1459cm−1(ベンゼン核C=C伸縮振動)の特性吸収を確認した。
[実施例1]1,3−ビス[(R)−(+)−3−ヒドロキシピペリジルカルボニル]−5−(2−エチルヘキシルオキシ)ベンゼンを開始剤に用いたアクリロニトリルのアニオン重合:
窒素導入口と排出口を装備した二口セパラブルフラスコ中にて1,3−ビス[(R)−(+)−3−ヒドロキシピペリジルカルボニル]−5−(2−エチルヘキシルオキシ)ベンゼン0.087重量部を脱水ジメチルホルムアミド50mlに溶解した。これを5℃に冷却し、金属ナトリウム0.0087重量部を添加して均一に溶解した。
ついで溶液を撹拌しながら−40℃に冷却し、脱水アクリロニトリル2.015重量部を添加、そのまま48時間重合を行った。重合終了後に1%塩酸メタノール溶液を添加して触媒を失活したのち、1規定塩酸水溶液、脱イオン水ついでアセトンの順に十分洗浄して一夜真空乾燥することで生成ポリマー1.95重量部を得た。ポリマー100mgを重水素化ジメチルスルホキシド1mlに加熱溶解し、50℃にて13C−NMR測定を行いトライアドタクティシティーを定量したところ、mm/mr/rr=32.3/16.6/51.1であり、高いシンジオタクティシティーを有することが確認された。