図1はこの発明にかかる画像形成装置の一実施形態を示す図である。また、図2は図1の画像形成装置の電気的構成を示すブロック図である。この装置は、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の4色のトナー(現像剤)を重ね合わせてフルカラー画像を形成したり、ブラック(K)のトナーのみを用いてモノクロ画像を形成する画像形成装置である。この画像形成装置では、ホストコンピュータなどの外部装置から画像信号がメインコントローラ11に与えられると、このメインコントローラ11からの指令に応じてエンジンコントローラ10に設けられたCPU101がエンジン部EG各部を制御して所定の画像形成動作を実行し、シートSに画像信号に対応する画像を形成する。
このエンジン部EGでは、感光体22が図1の矢印D1方向に回転自在に設けられている。感光体22は、感光体駆動モータ29により回転駆動されている。また、この感光体22の周りにその回転方向D1に沿って、帯電ユニット23、ロータリー現像ユニット4およびクリーニング部25がそれぞれ配置されている。帯電ユニット23は所定の帯電バイアスを印加されており、感光体22の外周面を所定の表面電位に帯電させる。クリーニング部25は一次転写後に感光体22の表面に残留付着したトナーを除去し、内部に設けられた廃トナータンクに回収する。これらの感光体22、帯電ユニット23およびクリーニング部25は一体的に感光体カートリッジ2を構成しており、この感光体カートリッジ2は一体として装置本体に対し着脱自在となっている。
そして、この帯電ユニット23によって帯電された感光体22の外周面に向けて露光ユニット6から光ビームLが照射される。この露光ユニット6は、外部装置から与えられた画像信号に応じて光ビームLを感光体22上に露光して画像信号に対応する静電潜像を形成する。
こうして形成された静電潜像は現像ユニット4によってトナー現像される。すなわち、この装置では、現像ユニット4は、図1紙面に直交する回転軸中心に回転自在に設けられた支持フレーム40、支持フレーム40に対して着脱自在のカートリッジとして構成されてそれぞれの色の非磁性一成分トナーを内蔵するイエロー用の現像器4Y、シアン用の現像器4C、マゼンタ用の現像器4M、およびブラック用の現像器4Kを備えている。この現像ユニット4は、エンジンコントローラ10により制御される現像ユニット駆動モータ(図示省略)により矢印D3方向に回転駆動されている。
そして、エンジンコントローラ10からの制御指令に基づいて、現像ユニット4が回転駆動されるとともにこれらの現像器4Y,4C,4M,4Kが選択的に感光体22と対向する現像位置に位置決めされると、当該現像器に設けられて選択された色のトナーを担持する現像ローラ44が感光体22に対し対向配置され、その対向位置において現像ローラ44から感光体22の表面にトナーを付与する。これによって、感光体22上の静電潜像が選択トナー色で顕像化(現像)される。
上記のようにして現像ユニット4で現像されたトナー像は、一次転写領域TR1で転写ユニット7の中間転写ベルト71上に一次転写される。転写ユニット7は、複数のローラ72〜75に掛け渡された中間転写ベルト71と、感光体駆動モータ29の回転力を輪列を介してローラ73に伝達することで中間転写ベルト71を所定の回転方向D2に回転させる駆動部(図示省略)とを備えている。そして、カラー画像をシートSに転写する場合には、感光体22上に形成される各色のトナー像を中間転写ベルト71上に重ね合わせてカラー画像を形成するとともに、カセット8から取り出され搬送経路FFに沿って二次転写位置TR2まで搬送されてくるシートS上にカラー画像を二次転写する。
二次転写位置TR2は、ローラ73に掛け渡された中間転写ベルト71の表面と、該ベルト表面に対し離当接する二次転写ローラ86とが当接するニップ部である。カセット8に積層貯留されたシートSは、ピックアップローラ88の回転によって1枚ずつ取り出されて搬送経路FFに乗せられる。そして、フィードローラ84およびゲートローラ81の回転によって搬送経路FFに沿って矢印Df方向に二次転写位置TR2まで搬送される。
このとき、中間転写ベルト71上の画像をシートS上の所定位置に正しく転写するため、二次転写位置TR2にシートSを送り込むタイミングが管理されている。具体的には次の通りである。搬送経路FF上において二次転写位置TR2の手前側にゲートローラ81が設けられるとともに、さらにその手前側にゲート前シート検出センサ801が設けられている。そして、搬送経路FF上を搬送されてきたシートSが到達したことがゲート前シート検出センサ801により検出されるとシートSの搬送はいったん停止され、中間転写ベルト71の周回移動のタイミングに同期させてゲートローラ81の回転を再開することにより、シートSが所定のタイミングで二次転写位置TR2に送り込まれる。こうして二次転写位置TR2を通過するシートSの表面に、中間転写ベルト71上に形成されたトナー像が二次転写される。
こうしてカラー画像が形成されたシートSは定着ユニット9によりトナー像を定着される。定着ユニット9は2つのローラ91および92からなる定着ローラ対と、この定着ローラ対を回転駆動する定着ローラ対駆動モータ99とを備えている。定着ローラ対により形成される定着ニップ(後述)から送り出されたシートSは、排出前ローラ82および排出ローラ83を経由して装置本体の上面部に設けられた排出トレイ部89に搬送される。また、シートSの両面に画像を形成する場合には、上記のようにして片面に画像を形成されたシートSの後端部が排出前ローラ82後方の反転位置PRまで搬送されてきた時点で排出ローラ83の回転方向を反転し、これによりシートSは反転搬送経路FRに沿って矢印Dr方向に搬送される。そして、ゲートローラ81の手前で再び搬送経路FFに乗せられるが、このとき、二次転写位置TR2において中間転写ベルト71と当接し画像を転写されるシートSの面は、先に画像が転写された面とは反対の面である。このようにして、シートSの両面に画像を形成することができる。
また、シート搬送経路FFにおいて二次転写位置TR2と定着ユニット9との間の位置には例えばマイクロスイッチからなるシート検出センサ802が設けられており、当該位置におけるシートSのたわみ量が所定量を超えるとマイクロスイッチの接点が閉じシート検出センサ802の出力がオンとなるように構成されている。
また、ローラ75の近傍には、クリーナ76が配置されている。このクリーナ76は図示を省略する電磁クラッチによってローラ75に対して近接・離間移動可能のクリーナブレードを備えている。そして、ローラ75側に移動した状態でクリーナ76がローラ75に掛け渡された中間転写ベルト71の表面に当接し、二次転写後に中間転写ベルト71の外周面に残留付着しているトナーを掻き落として除去する。
このクリーナ76は、二次転写位置TR2においてシートSへの画像の転写が行われるときに、それと同じ周回において中間転写ベルト71上に残留付着するトナーを除去するように、離当接制御される。したがって、例えば装置がモノクロ画像を連続的に形成する場合には、一次転写領域TR1において中間転写ベルト71に転写された画像が直ちに二次転写位置TR2でシートSに転写されるので、クリーナ76は当接状態に保持される。一方、カラー画像を形成する場合には、各色のトナー像が互いに重ね合わされる間、クリーナ76を中間転写ベルト71から離間させておく必要がある。そして、各色のトナー像が互いに重ね合わされてフルカラー画像が完成し、シートSに二次転写されるのと同一の周回において、残留トナーを除去すべくクリーナ76が中間転写ベルト71に当接されることとなる。
また、ローラ75の近傍には濃度センサ60および垂直同期センサ77が配置されている。この濃度センサ60は、中間転写ベルト71の表面に対向して設けられており、必要に応じ、中間転写ベルト71の外周面に形成されるトナー像の画像濃度を測定する。そして、その測定結果に基づき、この装置では、画像品質に影響を与える装置各部の動作条件、例えば各現像器に与える現像バイアスや、光ビームLの強度などの調整を行っている。この濃度センサ60は、例えば反射型フォトセンサを用いて、中間転写ベルト71上の所定面積の領域の画像濃度に対応した信号を出力するように構成されている。そして、CPU101は、中間転写ベルト71を周回移動させながらこの濃度センサ60からの出力信号を定期的にサンプリングすることで、中間転写ベルト71上のトナー像各部の画像濃度を検出することができる。
また、垂直同期センサ77は、中間転写ベルト71の基準位置を検出するためのセンサであり、中間転写ベルト71の回転駆動に関連して出力される同期信号、つまり垂直同期信号Vsyncを得るためのセンサとして機能する。そして、この装置では、各部の動作タイミングを揃えるとともに各色で形成されるトナー像を正確に重ね合わせるために、装置各部の動作はこの垂直同期信号Vsyncに基づいて制御される。
また、この装置では、図2に示すように、メインコントローラ11のCPU111により制御される表示部12を備えている。この表示部12は、例えば液晶ディスプレイにより構成され、CPU111からの制御指令に応じて、ユーザへの操作案内や画像形成動作の進行状況、さらに装置の異常発生やいずれかのユニットの交換時期などを知らせるための所定のメッセージを表示する。
なお、図2において、符号113はホストコンピュータなどの外部装置よりインターフェース112を介して与えられた画像を記憶するためにメインコントローラ11に設けられた画像メモリである。また、符号106はCPU101が実行する演算プログラムやエンジン部EGを制御するための制御データなどを記憶するためのROM、また符号107はCPU101における演算結果やその他のデータを一時的に記憶するRAMである。また、符号151および152はそれぞれ、感光体駆動モータ29および定着ローラ対駆動モータ99を駆動するモータドライバである。モータドライバ151および152は、CPU101から出力されるクロック信号に応じた回転速度でそれぞれ個別に感光体駆動モータ29および定着ローラ対駆動モータ99を回転させる。
図3は二次転写位置から定着ニップに至るシート搬送経路を示す図である。図3(a)に示すように、定着ユニット9は、定着ローラ対をなす2つのローラ91、92が当接してなる定着ニップFNを形成している。ローラ91は、内部にヒータ91cを備えた直径15〜40mmの金属製パイプ91aの表面に、弾性を有する樹脂製の表面層91bを設けた加熱ローラである。ヒータ91cは例えばハロゲンヒータであり数百〜1000W程度の発熱量を有する。また、表面層91bは、弾性および耐熱性を有する樹脂により構成され、例えばシリコンゴム層の表面にPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)などのフッ素樹脂をコーティングしたものを用いることができる。もう一方のローラ92は直径15〜40mmの金属製パイプ92aの表面に加熱ローラ91と同様の表面層92bを設けた加圧ローラであるが、必要に応じて内部にヒータを設けてもよい。
そして、これらのローラの少なくとも一方が定着ローラ対駆動モータ99により回転駆動されて、加熱ローラ91および加圧ローラ92はそれぞれ図3(a)に示す矢印方向に回転する。また、ヒータ91cおよび図示を省略する温度制御機構により定着ニップは所定の定着温度(代表的には摂氏200度程度)に昇温されている。
また、二次転写位置TR2と定着ニップFNとの間にはシートガイド部材87が設けられており、二次転写位置TR2でトナー像を転写されたシートSが速度Vt2で送り出されてくると、図3(b)に示すように、シートSの先端がシートガイド部材87の先端部87aによって確実に定着ニップFNに案内されるようになっている。定着ニップFNを通過したシートSは、表面のトナー像を永久定着されるとともに、定着ローラ対の回転により速度Vfで定着ニップFNから送り出される。
ここで、定着ニップFNにおけるシートSの送り出し速度Vfが二次転写位置TR2からの送り出し速度Vt2と同じであれば、シートSは常にほぼ一定の経路FFを通って二次転写位置TR2から定着ニップFNへ送られることとなる。また、定着ニップFNにおける送り出し速度Vfの方が速い場合、二次転写位置TR2においてシートSの滑りが発生する。これは、定着ローラ対の表面が弾性を有する上に高いニップ圧を有しているため、定着ニップFNにおいてシートSに対する摩擦力が大きくなっているからである。このような滑りは中間転写ベルト71からシートSに画像が転写される際に画像の乱れを生じさせるため好ましくない。
一方、定着ニップFNにおける送り出し速度Vfが二次転写位置TR2からの送り出し速度Vt2よりも遅い場合、図3(c)に示すように、シートSは次第にたわみ搬送経路FFから逸れてゆく。この実施形態ではシートガイド部材87を搬送経路FFから後退した位置に設けることにより若干のたわみを吸収するようにしているが、さらにたわみが大きくなってシートSがシートガイド部材87の曲面にほぼ添う状態にまでたわんでしまうと、それ以上のたわみは吸収しきれなくなり、やはり二次転写位置TR2における滑りを生じたり、シートSが屈曲してしまい画像を乱してしまう。また、静電気が蓄積されたシートSが中間転写ベルト71や二次転写ローラ86等の部材に接近することで放電を起こし、画像を乱す場合もある。
このことから、図3(d)に示す、シートSはたわみが全くないときの経路FFと、シートSがシートガイド部材87の曲面に密着したわみ量が最大許容量となるときの経路Fmaxとの間の経路を通ってシートSが搬送されることが必要となる。つまり、定着ニップFNにおける送り出し速度Vfと二次転写位置TR2からの送り出し速度Vt2との間には、Vf≦Vt2であり、かつシートSが二次転写位置TR2を抜けるまでの間たわみ量が許容量を超えないような関係が維持されなければならない。
二次転写位置TR2からの送り出し速度Vt2については、ローラ73および86の寸法精度および感光体駆動モータ29の回転数制御の精度を高めることで、比較的精度よく制御することが可能である。また、この速度は画像形成プロセスそのもののタイミングに関わっているので、この目的のために変更すべきものではない。その一方、定着ニップFNからの送り出し速度Vfについてはその精度を高めることが難しい。その第1の理由は、加熱ローラ91や加圧ローラ92の表面には弾性を有する樹脂層が設けられており、これらが当接したニップ部ではローラ表面が変形して実効的なローラ径が変動することである。また、第2の理由は、加工段階で加熱ローラ91や加圧ローラ92の寸法精度を高めたとしても、高温に昇温された状態では熱膨張や変形を生じるためその精度を保証することが難しく、たとえローラの回転速度を高精度に制御したとしても定着速度Vfはばらついてしまうからである。
定着ニップFNからの送り出し速度Vfを所定値に維持するために、シートの速度を監視しておき、フィードバック制御によりローラ対駆動モータの回転速度を常時制御することも考えられるが、このようにすると画像を定着する際にシートの送り出し速度が微妙に変動することになり、画像品質上は好ましくない。
この実施形態では、図3(c)に示すように、シートSのたわみ量が許容される最大量に達したときにオンとなるようなシート検出センサ802をシートガイド部材87の近傍にたわみ検出センサとして設けるとともに、このセンサ802の出力に基づいて二次転写位置TR2からの送り出し速度Vt2と定着ニップFNからの送り出し速度Vfとの速度差を制御する、より具体的には速度Vt2を一定に保つとともに速度Vfを調節する速度調整処理を予め行っておき、これによって上記関係を維持するようにしている。以下にその詳細について説明する。
図4は本実施形態における速度調整方法の説明に用いる用語の定義を示す図である。以下の説明では、シートSの端部のうち、その搬送方向Dfにおける先頭側の端部を「シート先端」と称する一方、後端側の端部を「シート後端」と称する。また、シートSのうち、余白を除き実際に画像が形成される領域を「画像領域IM」、搬送方向Dfにおける画像領域IMの後端を「画像後端」と称する。また、用紙先端から用紙後端までの長さをLp、用紙先端から画像後端までの長さをLimとする。
図5は搬送経路上におけるたわみ発生の原理を説明する図である。ゲートローラ81の位置を原点として、搬送方向Dfに沿った搬送経路FF上の各点の原点からの距離を位置Xと定義する。搬送経路FFに沿って図の左側から供給されるシートSは、ゲートローラ81の回転により、転写ベルト71と二次転写ローラ86とが当接する二次転写位置TR2に向けて速度Vgで送り出される。ゲートローラ81から二次転写位置TR2までの経路長をLgtとする。また、ゲートローラ81からの送り出し開始時刻を起点として、シート先端が二次転写位置TR2に到達する時刻をt1とすると、t1=Lgt/Vgである。
速度Vgと二次転写位置TR2からの送り出し速度Vt2との関係については、部品の寸法精度を高め、ゲートローラ81と中間転写ベルト71とを同一のモータで駆動することにより、ほぼ同じにすることができるので、以後の説明ではVg=Vt2と考えることとする。したがって、ゲートローラ81から二次転写位置TR2までの経路上でのシートSのたわみや滑りはほとんど起こらない。
一方、定着ニップFNからの送り出し速度Vfについては、前記したように、ローラ表面が弾性的に変形することや熱による膨張・変形などによりばらつきやすく、これに起因してシートSの滑りやたわみが生じる。このような滑りやたわみは、シート先端が定着ニップFNに到達する時刻t2から発生し始める。この時刻t2は、二次転写位置TR2から定着ニップFNまでの経路長をLtfとして次式:
t2=t1+Ltf/Vt2=(Lgt+Ltf)/Vt2 …(式1)
により表すことができる。
二次転写位置TR2と定着ニップFNとの間の区間においてたわみが発生すると、同区間にあるシートSの長さは同区間の経路長Ltfよりも増加する。この増加分を「たわみ量」と称することにすると、たわみ量は、図5下部のグラフに示すように、時刻t2まではゼロ、時刻t2以降では時刻の経過に比例して増加してゆくことになる。また、その傾きは、二次転写位置TR2からの送り出し速度Vt2と、定着ニップFNからの送り出し速度Vfとの速度差ΔV(=Vt2−Vf)に比例して大きくなる。
シートSがシートガイド部材87(図3)の曲面に密着しそれ以上のたわみが吸収できなくなるまでに許容される許容たわみ量をΔLmaxとする。シートSのたわみ量がこの許容たわみ量ΔLmaxに達する時刻を時刻t3とすると、図5に示す時刻t3(1)や時刻t3(2)のように、速度差ΔVの大きさによってその値は変化する。より具体的には、速度差ΔVが小さいほど時刻t3の値は大きくなる。そして、速度差ΔVがゼロのとき、たわみ量もゼロとなり時刻t3の値は無限大となる。また、速度差ΔVが負、つまり定着ニップFNからの送り出し速度Vfの方が大きいときにはたわみは発生しないが、二次転写位置TR2においてシートSの滑りが発生しトナー像の二次転写に支障を来たすのでこのような事態は避けなければならない。
図6は搬送経路上におけるシート各部の軌跡を示す図である。シートSがゲートローラ位置まで搬送されてきた状態では、シート先端がゲートローラ位置(X=0)、シート後端がより後方の位置(X=−Lp)にある。またこのとき、シートSのうち画像後端はシート後端よりは前方の位置(X=−Lim)にある。ゲートローラ81の回転によりシートSの搬送が開始されると、シート先端および後端、画像後端はいずれも速度Vg(=Vt2)で移動してゆく。
シート先端の動きに着目すると、時刻t1においてシート先端は二次転写位置(X=Lgt)に到達し、次いで時刻t2において定着ニップ位置(X=Lgt+Ltf)に到達する。シート先端が定着ニップ位置に到達すると、以後は定着ローラ対の回転により速度Vfで送り出されてゆくことになる。
一方、シート後端の動きに着目すると、シート後端は、二次転写位置TR2を通過する時刻t5までの間は速度Vt2で移動する。したがって、シート先端が定着ニップ位置に到達する時刻t2からシート後端が二次転写位置を通過する時刻t5までの間、速度差ΔV(=Vt2−Vf)に起因するたわみが生じる。シート後端が二次転写位置TR2を通過してしまうと、シートの弾性によりたわみがほぼ解消するまでいったん停止し、その後は速度Vfで移動する。
このような関係から、二次転写位置TR2からのシート送り出し速度Vt2と定着ニップFNからのシート送り出し速度Vfとの関係について次のことが言える。まず、二次転写位置TR2におけるシートの滑りを回避するため、速度差ΔVの下限はゼロ、すなわち、
Vt2≧Vf
の関係は必ず守られなければならない。理想的にはVt2=Vfであるが、前記した理由によりこのように制御することは難しく、現実的には、速度差ΔVをゼロよりわずかに大きな値にする、つまり定着ニップFNからの送り出し速度Vfを二次転写位置TR2からの送り出し速度Vt2よりも若干大きく設定すればよい。
速度差ΔVの上限については次のように考えることができる。すなわち、シート先端が定着ニップ位置を通過する時刻t2からシート後端が二次転写位置TR2を通過する時刻t5までの間に生じるたわみ量ΔLt5が、装置の構成上搬送経路において許容される許容たわみ量ΔLmax以下となるようにすればよい。こうすることで、シートのたわみ量が許容量を超えることはなくなり、たわみに起因する諸問題を解消することができる。ただし、たわみに起因してシートS上において生じる画像の乱れを防止する、という観点のみからは、画像後端が二次転写位置TR2を通過する時刻t4におけるたわみ量ΔLt4が許容たわみ量ΔLmax以下である、という関係が少なくとも成立すればよい。言い換えれば、シート後端または画像後端が二次転写位置TR2に到達する時刻t5またはt4が、シートのたわみ量が許容たわみ量ΔLmaxに達する時刻t3以下となるように、速度差ΔVを設定すればよい。
以下では、画像の乱れを防止する観点から、画像後端が通過する時刻t4までのたわみ量ΔLt4が許容たわみ量ΔLmax以下となるような速度差ΔVの調整方法について、具体的に説明する。なお、長さの異なる複数種のシートを取り扱うことができるように構成された画像形成装置においては、それらのうち最も長いシートを対象として以下の調整方法を適用すればよい。
図7はこの実施形態におけるシート搬送速度の調整方法の原理を示す図である。加熱ローラ91および加圧ローラ92からなる定着ローラ対は、定着ローラ対駆動モータ99によって回転駆動されており、CPU101は、定着ローラ対駆動モータ99を制御するモータドライバ152(図2)に与える基準クロックを適宜調整することによりモータ回転数を制御することが可能となっている。モータ回転数については公知の制御技術によって比較的高精度に制御することが可能であるが、それによっても、実効的なローラ径の変動により定着ニップFNにおけるシート送り出し速度Vfがばらついてしまうことは前記した通りである。
この実施形態では、定着ローラ対を定着温度まで昇温させた状態で、モータ回転速度をある初期値N0に仮設定し定着ローラ対を回転させながら、二次転写位置TR2から定着ニップFNまでの搬送経路で実際にシートを通過させる。このときのモータ回転速度N0とは、そのときの定着ニップFNにおけるシートの送り出し速度Vf0が、二次転写位置TR2における送り出し速度Vt2よりも遅くなるような値である。つまり、シート送り出し速度Vf0はモータ回転速度N0に比例するので、
Vf0=K・N0<Vt2
となるように、モータ回転速度N0を設定する。係数Kは定着ローラ対を構成するローラの実効的な半径とモータの減速比に応じて定まる比例係数である。昇温時には実効的なローラ径のばらつきが大きくなるため、比例係数Kはある範囲のばらつきを有するが、このばらつきはある程度予想可能なものであり、その値が最大の場合でも、つまり実効的なローラ径が最大の場合でも上式が満たされるように、モータ回転速度N0を小さめに設定するか減速比を変更すればよい。
このようにしてシートを搬送すると、速度差に起因するたわみが確実に発生するため、搬送を開始してからシートSのたわみ量が許容たわみ量ΔLmaxに達するまでの時間は必ず有限の値となる。そこで、たわみが最大となるときの経路に相当する経路Fmaxにたわみ検出センサとしてのシート検出センサ802を設け、該センサ出力がオンになる時刻t3を検出する。図7のグラフより、
ΔV0=(Vt2−Vf0)=(Vt2−K・N0)=ΔLmax/(t3−t2) …(式2)
の関係があることがわかる。
一方、たわみによる画像の乱れを生じないためには、画像後端が二次転写位置TR2を通過する時刻t4におけるたわみ量がΔLmax以下であればよいことから、許容される速度差の最大値ΔVtは、
ΔVt=(Vt2−K・Nt)=ΔLmax/(t4−t2) …(式3)
により表される。ここで、符号Ntは速度差ΔVtを得るために必要なモータ99の回転速度であり、その値は、画像の乱れを生じさせないために必要な最小のモータ回転速度を意味する。この値Ntは次のようにして求めることができる。
(式2)および(式3)より、比例係数Kを消去すると、
Nt・{Vt2−ΔLmax/(t3−t2)}=N0・{Vt2−ΔLmax/(t4−t2)} …(式4)
の関係が成り立つ。また、図6を参照すると、速度Vt2で移動する画像後端が二次転写位置TR2に到達する時刻t4については次式:
t4=(Lgt+Lim)/Vt2 …(式5)
により表すことができる。(式1)および(式5)を(式4)に代入しNtについて整理すると、
Nt=A・N0・(Vt2・t3−B)/(Vt2・t3−C) …(式6)
が得られる。ここに、
A={Lim−(Ltf+ΔLmax)}/(Lim−Ltf)
B=Ltf+ΔLmax
C=Lgt+Ltf+ΔLmax
である。このように、定着ローラ対駆動モータ99の回転速度をN0に設定してシートを搬送したときにシート検出センサ802の出力が変化する時刻t3を計測すれば、その計測結果および既知の値に基づいて、たわみに起因する画像の乱れを生じさせないために必要なモータの回転速度Ntを求めることができる。
具体的には、次のような速度調整処理を実行することにより、二次転写位置TR2からの送り出し速度Vt2と、定着ニップFNからの送り出し速度Vfとの間の相対速度を調整すればよい。この速度調整処理は、少なくとも装置の組立が終わって出荷される前や、転写ユニット7または定着ユニット9が交換された直後などに実行されることが望ましいが、専任オペレータによる定期点検の際などのタイミングにも実行するようにしてもよい。
図8は速度調整処理を示すフローチャートである。この処理では、まず定着ローラ対を所定の定着温度まで昇温させる(ステップS101)。そして、速度調整処理用のテストシートを搬送経路FFに沿ってゲートローラ位置(X=0)まで搬送する(ステップS102)。このテストシートは予め用意された専用のものであってもよく、また記録材として使用されるプリンタ用紙などのシートSと同じものであってもよい。特に、記録材と同じ素材・厚さのテストシートを使用すると、搬送経路におけるシートの滑りやたわみ方などの条件を実際の画像形成時とほぼ同じ条件とすることができるので、より精度よく速度調整を行うことができる。この点から、カセット8に収容されたシートSの1枚を通常の画像形成時と同様に搬送経路FFに沿って搬送するのが簡便である。搬送経路FFに沿ったテストシートの長さについては、記録材としてのシートSの長さと同じとすることが望ましい。なお、当該装置において複数サイズの記録材を扱うことができる場合には、それらのうち最も長い記録材の長さとするのがよい。
次に、定着ローラ対駆動モータ99の回転速度を初期値N0に仮設定し(ステップS103)、中間転写ベルト71および定着ローラ対の回転を開始する(ステップS104)。この初期値N0については、前述のように定着ニップFNからの送り出し速度が二次転写位置TR2からの送り出し速度よりも確実に遅くなるような値とする。ただし、たわみ量が大きくなってジャムが発生する可能性があるので、あまり遅くしすぎるのは好ましくない。
そして、ゲートローラ81を回転させてテストシートの搬送を開始するとともに、CPU101に設けられた内部タイマ(図示省略)の計時を開始する(ステップS105、S106)。このとき、シート検出センサ802の出力を監視しておき(ステップS107)、出力がオフからオンに変わったことが検出されるとタイマ計時を停止し、その計時結果を値t3として記憶する(ステップS108)。定着ニップFNを通過したテストシートについては排出トレイ部89に排出する。
本来必要なのは、シート先端が定着ニップFNに到達してからたわみ量が許容量の上限に達するまでの時間であるが、ここではゲートローラ位置を通過してからの時間を計測することにより間接的に上記時間を計測する。その第1の理由は、ゲートローラ位置から定着ニップまでの搬送に要する時間のばらつきは極めて小さいため、このような方法によっても十分な精度が得られることである。また、第2の理由は、上記時間を直接計測するためには定着ニップFNの直近にセンサを設ける必要があるが、二次転写位置TR2で転写されるトナー像は静電的にシートSに付着しているに過ぎず極めて不安定であるため、定着ニップFNまでの間でシート検出センサを当接させるのは好ましくないことである。
続いて、モータ回転速度の仮設定値N0およびこの計測値t3を上記した(式6)に代入して、たわみによる画像の乱れを生じないためのモータ回転速度の最小値Ntを算出する(ステップS109)。そして、以後の動作における定着ローラ対駆動モータ99の回転速度を、ここで求めた値Ntに設定する(ステップS110)。以上がこの実施形態における速度調整処理の内容である。
前記したように、(式5)により求められる値Ntは、たわみによる画像の乱れを生じないために必要なモータ回転速度の最小値である。したがって、モータ回転速度はこの値Nt以上とすればよいのであるが、ここではNtとしている。その理由は次の通りである。前記の通り、原理的にはモータ回転速度を値Nt以上とすればたわみに起因する画像の乱れは生じないが、回転速度を大きくしすぎると二次転写位置TR2からの送り出し速度を上回ってしまいシートの滑りを生じることになる。上記の調整方法ではモータ回転速度の上限を求めていないので、回転速度をどこまで上げられるか明確でない。そこで、この実施形態では、モータ回転速度を必要かつ十分な値Ntに設定することにより、たわみや滑りによる画像の乱れを確実に防止するようにしている。
以上のように、この実施形態では、定着ニップFNを定着温度に昇温させ、定着ニップFNにおける記録材の送り出し速度Vfを二次転写位置TR2における送り出し速度Vt2よりも遅くなるように仮設定した状態で、シートSを搬送経路FFに送り込む。そして、シートのたわみ量が許容量の上限に達するまでの時間を計測し、その結果に基づいて定着ローラ対の回転速度を決定するようにしている。そのため、定着ニップFNにおける記録材の送り出し速度Vfと二次転写位置TR2における送り出し速度Vt2との間の相対速度を適正に設定することができる。その結果、この実施形態では、たわみや滑りに起因して生じる画像の乱れを確実に防止することができる。
以上説明したように、この実施形態においては、転写ユニット7および定着ユニット9がそれぞれ本発明の「転写手段」および「定着手段」として機能している。また、エンジンコントローラ10、特にCPU101が本発明の「速度調節手段」として機能している。また、この実施形態では、加熱ローラ91および加圧ローラ92が本発明の「定着ニップ形成部材」に相当しており、これらが本発明の「定着ニップ形成部材対」をなしている。また、ヒータ91cおよび定着ローラ対駆動モータ99がそれぞれ本発明の「加熱部」および「駆動手段」として機能している。また、シート検出センサ802が本発明の「検知手段」として機能している。また、この実施形態においては、二次転写位置TR2が本発明の「転写位置」に相当しており、二次転写位置TR2からのシート送り出し速度Vt2が本発明の「第1速度」に相当する。一方、定着ニップFNからのシート送り出し速度Vfが本発明の「第2速度」に相当している。さらに、この実施形態では、記録材であるシートSを本発明の「速度調節用シート体」として機能させている。
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記した実施形態では、ゲートローラ81の回転を開始する時刻を基準として時間の計測を行っているが、時間の基準および計測方法についてはこれに限定されず、少なくともシート先端が定着ニップFNに到達してからたわみ量が許容上限値ΔLmaxに達するまでの時間を把握することができる限りにおいて他の方法によってもよい。例えば前記したように、定着ニップの近傍に設けたセンサによりシートの到達時刻を特定するようにしてもよい。この場合におけるセンサは、シート上のトナー像を乱さないよう非接触にてシートの有無を検出するものが好ましく、例えばフォトインタラプタのように光学的にシートを検出する手段を持つものを使用することができる。
また、上記実施形態は、たわみ量を検出するためのシート検出センサを内蔵した画像形成装置であるが、装置本体にはセンサを設けず、必要に応じて装置に取り付ける調整用治具にセンサを設けるようにしてもよい。というのは、この速度調節処理は装置の出荷時やメンテナンス作業時、部品交換時などの限られたタイミングにのみ実行されればよい処理であり、この目的のためだけにセンサを常備しておく必要は必ずしもないからである。このように、シート検出センサを外付け治具に搭載することにより、装置本体のコストを低減するとともに、二次転写位置から定着ニップまでの距離をさらに縮めて装置の小型化を図ることが可能となる。なお、本実施形態のようにセンサを装置本体に設けた場合、ジャム検出等他の目的のためにセンサを利用することも可能である。
また、上記実施形態では、画像後端が二次転写位置TR2を通過する時刻t4においてたわみ量が許容たわみ量ΔLmax以下となるようなモータ回転速度を求めている。これは、少なくとも画像後端が二次転写位置TR2を通過するまでの間、たわみ量が許容範囲を超えないようにすることで画像の乱れを防止するためである。これに代えて、シート後端が二次転写位置TR2を通過する時刻t5においてたわみ量が許容たわみ量ΔLmax以下となるように、モータ回転速度を定めてもよい。このようにすると、画像後端が二次転写位置TR2を抜けるまでの間、たわみ量が許容範囲内に収まることとなるので、上記実施形態と同様に画像の乱れを防止することができる。
また、上記実施形態では、感光体2および転写ユニット7の回転駆動を1つの感光体駆動モータ29によって行う一方、定着ユニット9の回転駆動を別の定着ローラ対駆動モータ99によって行うように構成しているが、定着ニップFNからの送り出し速度Vfを二次転写位置TR2からの送り出し速度Vt2とは独立して調節できるものであれば、これ以外の構成によってもよい。例えば、特許文献1に記載されているプーリやギヤ、ベルト等によって速度調節を行うようにしてもよい。また、定着ニップFNを形成するのは上記実施形態のようなローラ対に限定されず、ベルトとローラ、またはベルトとベルト等の組み合わせによって定着ニップを形成するようにしてもよい。
さらに、上記実施形態は4色のトナーを使用して中間転写ベルト上にカラー画像を形成可能な画像形成装置であるが、トナーの色数やその種類は上記に限定されない。また、中間転写ベルトに代えて中間転写ドラムなど他の中間転写体を備えてもよい。また、中間転写体を備えない装置に対しても、本発明を適用することができる。
7…転写ユニット(転写手段)、 9…定着ユニット(定着手段)、 10…エンジンコントローラ(速度調節手段)、 91…加熱ローラ(定着ニップ形成部材)、 91c…ヒータ(加熱部)、 92…加圧ローラ(定着ニップ形成部材)、 99…定着ローラ対駆動モータ(駆動手段)、 101…CPU(速度調節手段)、 802…シート検出センサ(検知手段)、 FN…定着ニップ、 S…シート(記録材、速度調節用シート体)、 TR2…二次転写位置(転写位置)、 Vt2…(二次転写位置TR2からの)シート送り出し速度(第1速度)、 Vf…(定着ニップFNからの)シート送り出し速度(第2速度)