JP2008181074A - 偏光ビームスプリッタおよび偏光変換素子 - Google Patents

偏光ビームスプリッタおよび偏光変換素子 Download PDF

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Abstract

【課題】 少ない膜層数の誘電体多層膜により偏光分離膜を形成でき、400〜750nmの広い波長領域で良好な偏光分離機能を実現できる偏光ビームスプリッタを実現する。
【解決手段】 偏光分離すべき光LIの入射角:54〜66度の範囲で有効で、1対の透明基板12の間に、一方の透明基板を接着するための接着層14と、設計基準波長の異なる2種以上の誘電体多層膜と、1層の誘電体膜を少なくとも有する偏光分離膜13とを有し、実質的に可視波長領域の光に対して偏光分離機能を持つ偏光ビームスプリッタである。
【選択図】 図1

Description

この発明は、偏光ビームスプリッタおよび偏光変換素子に関する。
偏光ビームスプリッタは一般に、1対の透明基板により偏光分離膜を挟持してなり、入射光を、互いに直交する偏光面を持つ「透過光と反射光」に分離する光学素子であり、種々の光学装置に使用されている。
偏光ビームスプリッタは、例えば光ピックアップのような「単色光を用いる光学装置」に使用する場合には、比較的容易に良好な偏光分離特性を実現できるが、例えば、液晶プロジェクタに用いる偏光変換素子として使用する場合などには「可視波長領域にわたって良好な偏光分離機能を有する」ことが要請される。
偏光分離膜を誘電体多層膜として形成し、可視波長領域にわたって良好な偏光分離機能を実現した偏光ビームスプリッタとして特許文献1記載のものが知られている。
特許文献1記載の偏光ビームスプリッタは、2つの透光性基体間に、高屈折率物質と低屈折率物質とを交互に蒸着してなる誘電体多層膜が設けられ、この誘電体多層膜が「設計基準波長が互いに異なる2つの誘電体多層膜」により構成され、これら2つの誘電体多層膜は「高屈折率物質と低屈折率物質の組合せ」が互いに異なり、2つの誘電体多層膜に用いる高屈折率物質の屈折率がともに2.6以上のものである。
特許文献1の具体的な実施例によれば、45度±2度の入射角範囲の光で、波長:410〜700nmの範囲の光に対してP偏光成分の透過率:80%以上、S偏光成分の透過率:実質0%という良好な偏光分離機能が実現されている。
特許文献1に記載された実施例では「偏光分離膜をなす誘電体多層膜の積層数」が特定されていない。特許文献1に記載された発明の開示内容に従って、膜設計を行って見たが、積層数が60層程度であると、P偏光成分の透過率としては400〜700nmの波長範囲で80%以上を達成できるが、上記波長範囲におけるS偏光成分の透過率は15%程度あり、偏光分離性能としては必ずしも十分でない。
また、誘電体多層膜の積層数を120層程度にしてみると、波長:400〜550nmの範囲では、P偏光成分の透過率が実質100%、S偏光成分の透過率が実質0%で、偏光分離機能は極めて良好であるが、良好な偏光分離機能を持つ波長範囲が可視波長領域に対して狭く、赤色系の光に対しては偏光分離機能を発揮し得ない。
このような点から考えると、特許文献1記載の偏光ビームスプリッタで、実施例記載のような良好な偏光分離機能を実現するには、誘電体多層膜の積層数を非常に大きくする必要があると考えられる。誘電体多層膜の積層数が大きいと、偏光分離膜の形成に時間を要し、偏光ビームスプリッタの製造効率を高めるのが難しいと考えられる。
また、特許文献1の実施例記載の偏光ビームスプリッタでは、透明基板として「屈折率:1.85の高屈折率ガラス」が使用されており、誘電体多層膜に用いられる高屈折率物質が屈折率:2.6以上の極めて高い屈折率を必要とする。これら高屈折率ガラスや高屈折率物質は高価であり、偏光ビームスプリッタを低コストで効率よく大量に製造するのは困難であると思われる。
特開平11−211916号公報
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、比較的少ない積層数の誘電体多層膜により偏光分離膜を形成でき、400〜750nmという広い可視波長領域で良好な偏光分離機能を実現できる新規な偏光ビームスプリッタの実現およびかかる偏光ビームスプリッタを用いる偏光変換素子の実現を課題とする。
この発明の偏光ビームスプリッタは、入射光を偏光分離する偏光ビームスプリッタであって、以下の特徴を有する(請求項1)。
即ち、偏光分離すべき光の入射角が54〜66度の範囲で有効である。
一般に偏光分離性は「ブリュースタ条件」により、入射角:56〜60度のあたりで最もよくなる。この発明は、この事実を有効に利用するものである。即ち、この発明の偏光ビームスプリッタは、ブリュースタ条件に近い上記入射角の範囲で入射する光に対して有効、即ち「良好な偏光分離特性」を持つ。
入射角を54〜66度の範囲で良好な偏光分離特性を持つので、入射光が「高度に平行光束化されている場合」には、このような入射光に対する入射角を上記54〜66度の範囲に任意に設定することができる。
また、偏光ビームスプリッタへの入射光に若干の方向分散性があることが考えられる。例えば、入射角が±Δθの範囲で「ばらついて」いるような場合、ばらつきの範囲が±6度の程度であれば、偏光ビームスプリッタへの「基準的な入射角を60度に設定」しておけば、入射角:60±6度の範囲で入射する光に対して良好な偏光分離機能を実現できる。
偏光ビームスプリッタは1対の透明基板を有し、これら1対の透明基板間に、接着層と、2種以上の誘電体多層膜と、1層の誘電体膜とを少なくとも有する。
「接着層」は、一方の透明基板を接着するための層である。
「2種以上の誘電体多層膜」は、互いに設計基準波長が異なる。
2種以上の「誘電体多層膜」のそれぞれは、高屈折率膜と中間屈折率膜とを「設計基準波長に応じた光学的厚さで交互に積層して偶数の層数」としてなる。誘電体多層膜は積層数が偶数であるから、各誘電体多層膜における「両端の誘電体膜」の、一方は高屈折率膜、他方は中間屈折率膜である。
「1層の誘電体膜」は、2種以上の誘電体多層膜のうちで「接着層側の誘電体多層膜の接着層側」に配置される。この1層の誘電体膜は「接着層側の誘電体多層膜の第1層(接着層と最も離れた誘電体膜)と同じ(組成・厚さの)誘電体膜」である。
これら「2種以上の誘電体多層膜と1層の誘電体膜」が偏光分離膜を構成し、実質的に可視波長領域の光に対して偏光分離機能を持つ。
補足すると、2種以上の誘電体多層膜は、1対の透明基板における一方の基板上に順次に成膜・積層されて形成される。この形成の過程では、最後に積層された誘電体多層膜に続いて、上記1層の誘電体膜が形成される。この1層の誘電体膜は上記「最後に積層された誘電体多層膜において、積層の第1層をなす誘電体膜」と組成・厚さが同一である。
透明基板の形態は「平行平板状」であってもよいが、これに限らず「底角を入射角に等しく設定された三角プリズム状や台形プリズム状」であってもよい。
偏光分離されるべき光は「偏光分離膜を挟持する透明基板を介して偏光分離膜に入射」するので、「入射角」は透明基板の入射面への入射角である。従って、例えば、60度の底角を持つ台形形状の断面形状を持つ透明基板の側面(斜面部)を入射面として光を入射させる場合に、入射角を例えば54度に設定したものとすれば、このとき透明基板による屈折の作用により、偏光分離膜への入射角は54度よりも小さくなる。
上記高屈折率膜における「高屈折率」は一般的な意味での高屈折率で「2.0以上」の屈折率である。中間屈折率膜における「中間屈折率」は一般に言う高屈折率と低屈折率との間の屈折率領域、例えば「1.56〜1.75程度の大きさの範囲」を言う。
請求項1記載の偏光ビームスプリッタにおける1対の透明基板のうち、少なくとも「誘電体多層膜を成膜される透明基板(接着層による接着が行われない透明基板)」は、1.46〜1.58の範囲内の屈折率を有する光学ガラスであることが好ましい(請求項2)。
この請求項2の場合において「設計基準波長の異なる各種の誘電体多層膜」における高屈折率膜は「Nb」により形成され、中間屈折率膜は「NbとSiOとの混合物」により形成される。また、「設計基準波長の異なる各種の誘電体多層膜」における中間屈折率膜の屈折率が「NbとSiOとの混合比」により調整される。さらに、「設計基準波長の異なる各種の誘電体多層膜」における高屈折率膜と中間屈折率膜とは、設計基準波長:λに対して光学的厚さをλ/4に設定されていることができる(請求項3)。
請求項3記載の偏光ビームスプリッタにおける2種以上の誘電体多層膜はそれぞれ「積層数が8〜20、好ましくは12〜16の範囲に設定されている」ことが好ましい(請求項4)。なお、積層数の上限は、偏光分離機能の面からは20より多くても差し支えないが、20層以上の誘電体多層膜は成膜に時間を要し、偏光ビームスプリッタ製造の効率が低下するので、製造コストの面から20層程度が適当である。
請求項3または4記載の偏光ビームスプリッタにおいて、2種以上の誘電体多層膜と1層の誘電体膜は「1対の挟持用中間屈折率膜により挟持され、この挟持用中間屈折率膜はNbとSiOの混合物により形成され、且つ、誘電体多層膜における中間屈折率膜とは異なる屈折率を有し、2以上の誘電体多層膜の設計基準波長の何れとも異なる波長:Λに対して厚さをΛ/4に設定されている」ことが好ましい(請求項5)。
請求項3または4または5記載の偏光ビームスプリッタは、1対の透明基板の間に3種の誘電体多層膜と1層の誘電体膜とを有し、上記3種の誘電体多層膜に対する設計基準波長をλ1=610nm、λ2=830nm、λ3=940nmに設定することができる(請求項6)。この場合、3種の誘電体多層膜と1層の誘電体膜を挟持する「1対の挟持用中間屈折率膜(請求項5)」を有し、これら挟持用中間屈折率膜の光学的厚さを規定する波長:Λを「Λ=840nmに設定」するのがよい(請求項7)。
上記請求項6または7記載の偏光ビームスプリッタにおいては、設計基準波長:λ1=610nm、λ2=830nm、λ3=940nmによる3種の誘電体多層膜の積層数が14であることができる(請求項8)。
上記請求項6または7記載の偏光ビームスプリッタにおいては、設計基準波長ごとの誘電体多層膜の積層数を変えて、「λ1=610nmの誘電体多層膜」の積層数が少なくとも6層、「λ2=830nmの誘電体多層膜+λ3=940nmの誘電体多層膜」の積層数が少なくとも6層、好ましくは「λ1=610nmの誘電体多層膜」の積層数が少なくとも8層、「λ2=830nmの誘電体多層膜+λ3=940nmの誘電体多層膜」の積層数が少なくとも10層で実用レベルの偏光分離膜が得られる(請求項9)。
上における高屈折率膜、中間屈折率膜、挟持用中間屈折率膜の「光学的厚さ」は「膜自体の厚さ(物理的膜厚)と膜成分の屈折率との積」である。
請求項3〜9のうちの任意の一項に記載の偏光ビームスプリッタでは、高屈折率膜がNbにより形成され、中間屈折率膜がNbとSiOの混合物により形成される。この場合、高屈折率膜は「Nbの反応性スパッタにより成膜」することにより形成することができ、中間屈折率膜は「Siの反応性スパッタと、Nbの反応性スパッタとを同時に行う」ことにより形成できる(請求項10)。
中間屈折率膜を「Siの反応性スパッタと、Nbの反応性スパッタとを同時に行う」ことにより形成する際に、Siのスパッタ強度とNbのスパッタ強度との大小関係を調整することにより、中間屈折率膜の屈折率を調整することができる。即ち、Nbは、2.34程度の高屈折率を持ち、SiOは1.43程度の低屈折率である。
「Siの反応性スパッタとNbの反応性スパッタとを同時に行う」と、反応によりSiOとNbが同時に生成され、成膜された膜の成分は「SiOとNbとの混合物」となる。従って、上記のように「Siのスパッタ強度とNbのスパッタ強度との大小関係を調整」して膜成分であるSiOとNbの混合比を制御することにより1.43〜2.34の間の任意の屈折率を実現できる。
中間屈折率膜は文字通り中間屈折率(例えば、1.56〜1.75程度)の屈折率に調整されるので、このような設計上の中間屈折率を実現するように「Siのスパッタ強度とNbのスパッタ強度との大小関係を調整」するのである。
一方、Nbによる高屈折率膜は、Nbの反応性スパッタリングによりNbを生成させて成膜することにより形成できる。このとき、反応性スパッタリングにより、主としてNbが生成されるが、Nbが100%生成されると言うわけではなく、同時に少量ではあるが「Nbのような異種生成物」も生成される。
このため、実際に成膜された高屈折率膜の成分は「純粋のNb」と言うわけではなく、上記異種生成物が少量混入したものとなる。また、膜の充填密度もばらつきがある。そのため「Nbによる高屈折率膜」の屈折率は(2.07〜2.34程度の範囲)変化することになるが、成膜条件を調整して一定に制御することにより、高屈折率膜の屈折率を再現性良く一定に制御できる。したがって、高屈折率膜の形成上の問題はない。
請求項1〜10のうちの任意の一項に記載の偏光ビームスプリッタにおける「1対の透明基板」は、BK7により形成することができる(請求項11)。
この発明の偏光変換素子は請求項1〜11のうちの任意の一項に記載の偏光ビームスプリッタを多段に重ね、互いに平行に隣接する偏光分離膜間では透明基板を共通化し、偏光分離膜に対して略60度をなす互いに平行な切断面により「共通化された透明基板」を切断し、切断面に直交する方向から見て「互いに平行な偏光分離膜が相互に密接もしくは近接するように構成された偏光分離膜アレイ」の、切断面の一方を入射側として、偏光分離すべき光を入射させるようにし、入射した光を偏光成分に応じて個々の偏光分離膜で「透過光と反射光に分離」すると共に、反射された反射光を「隣接する偏光分離膜で反射させる」ことにより、入射光と同方向に伝搬する光が、他方の切断面から射出するようにし、この切断面における上記透過光もしくは反射光の射出する部位に1/2波長板を配して、偏光状態の揃った光を得るように構成されたことを特徴とする(請求項12)。
請求項12記載の偏光変換素子は、入射面および/または射出面に対して、全ての偏光分離膜が60度をなして傾き、入射方向および/または射出方向から見て偏光分離膜が互いに密接するように配置されていることが好ましい(請求項13)。
以上に説明したように、この発明によれば新規な偏光ビームスプリッタおよび偏光変換素子を提供できる。
この発明の偏光ビームスプリッタは、後述する実施例や変形例に示すように、比較的少ない積層数の誘電体多層膜により偏光分離膜を形成でき、400〜750nmという広い波長領域に対し、入射角:54〜66度の範囲で良好な偏光分離機能を実現可能である。
また、透明基板の材質として例えば「BK7」のような安価に入手可能な「1.46〜1.58の範囲内の屈折率を有する光学ガラス」を使用でき、誘電体多層膜の高屈折率膜の材料もNbのように2.3程度の屈折率で安価に実現できるものを用いることができるので偏光ビームスプリッタの低コスト化が可能である。
また、この発明の偏光ビームスプリッタは偏光分離機能が優れているので、これを用いて構成される偏光変換素子は良好な偏光変換特性を実現できる。
以下、発明の実施の形態を説明する。
図1は、偏光ビームスプリッタの実施の形態を説明するための図である。
図1に示す偏光ビームスプリッタ10は、入射光を偏光分離する偏光ビームスプリッタであって、偏光分離すべき光の入射角は60度に設定されている。
偏光ビームスプリッタ10は、1対の透明基板11、12の間に、一方の透明基板を接着するための接着層14と、偏光分離膜13とを少なくとも有する構成である。
図1の実施の形態では、偏光分離膜13は透明基板10に成膜形成され、このように成膜形成された偏光分離膜13が接着層14により透明基板12に接着されている。即ち、接着層13は一方の透明基板12を偏光反射膜13に接着している。
1対の透明基板11、12は図示の如く、断面形状が台形形状であり「断面形状をなす台形の底角は60度に設定され、偏光分離すべき入射光LIは、透明基板11の「図で左側の側面」から、側面に直交するように入射する。したがって、入射光LIは偏光分離膜13に「入射角:60度」をもって入射する。
偏光分離膜13に入射した入射光のうち、図面に直交する面内の偏光成分は偏光分離膜13により反射されてS偏光LSとして透明基板11の「図で右側の側面」から、この側面に直交して射出する。また、図面に平行な偏光成分は、偏光分離膜13と接着層14を透過し、透明基板12の「図で右側の側面」から、この側面に直交するP偏光LPとして射出する。従って、図1の偏光ビームスプリッタ10に、入射角:60度をもって入射する入射光LIは、互いに60度の角をなすS偏光LS、P偏光LPに偏光分離される。
なお、P偏光LPが射出する透明基板11の右側面の底角、S偏光LSが射出する透明基板12の右側面の底角を調整することにより、分離したP偏光LPとS偏光LSとのなす角を上記60度以外の角に調整することができる。
偏光反射膜13は「設計基準波長の異なる2種以上の誘電体多層膜」を有する。
2種以上の誘電体多層膜はそれぞれ「高屈折率膜と中間屈折率膜とを、設計基準波長に応じた光学的厚さで交互に積層」してなる。そして、偏光分離膜13は、実質的に可視波長領域の光に対して偏光分離機能を持つ。
ここで「図1に示す偏光ビームスプリッタの具体的な実施例」を挙げる。
「実施例1」
実施例1の偏光ビームスプリッタは図1に示したように、入射角を60度として設計されている。実施例1の偏光ビームスプリッタの構成を表1に示す。
Figure 2008181074
表1における表記を説明する。最上欄における「層」とは、1対の透明基板と誘電体膜を表す。表1の上側に記載された「基板」は、図1における透明基板11に相当する。表1の下側に記載された「基板」は、図1における透明基板12に相当する。また、層の欄における数値:1〜46(以下、層番号:1〜46という。)は、基板11の側から成膜形成された誘電体膜および接着層の形成の順序を示している。また「物質」とあるのは「透明基板」および各「誘電体膜」の材質である。「中心波長」とあるのは上に説明した「設計基準波長」である。「屈折率」とあるのは透明基板および各「誘電体膜」の屈折率である。「膜厚」とあるのは各「誘電体膜」の「膜の屈折率と膜自体の厚さとの積」、即ち、前述の「光学的厚さ」である。「物理的膜厚」は上記「膜自体の厚さ」である。
設計基準波長である中心波長は「λ0」と表記される。屈折率は「n」と表記される。物理的膜厚は「d」と表記されている。従って、膜厚は「nd」である。そして、この実施例1において、全ての「膜」の膜厚:ndは「λ0/4(=0.25λ0 表1中に「0.25λ」と表記されている。)」に設定されている。
表1において、第1の多層膜、第2の多層膜、第3の多層膜とあるのは、上に説明した「誘電体多層膜」である。これら第1〜第3の多層膜は、中心波長:λ0即ち「設計基準波長」が互いに異なる。
各「誘電体膜」の材質の欄における「Nb2O5」は「Nb」を表し、「Nb2O5/SiO2」は「NbとSiOとの混合組成」を表す。又以下の説明においても同様の表現を使用することがある。
1対の透明基板から説明すると、これらの透明基板(表1における上下の「基板」)の材料BSC7(商品名 保谷硝子)は、通常BK7と呼ばれる「最も一般的な光学ガラス材料」で屈折率は1.52である。
表1における上の基板(図1の透明基板11)に「層番号:1」として形成された誘電体膜は、中心波長:λ0=840nmに対して膜厚:0.25λ0を実現するべく、膜の混合組成:Nb2O5/SiO2におけるNbとSiOとの混合比を「屈折率:1.572を実現する」ように設定されている。実際の物理的膜厚は133.60nmで、133.60×1.572=210.0=840/4が光学的厚さである。「層番号:1の誘電体膜」は「1対の挟持用中間屈折率膜」の一方に相当する。
第1の多層膜(第1種の誘電体多層膜)は、層番号:2〜15の14層の膜で構成され、中心波長(第1種の設計基準波長):λ0=610nmとしている。この第1の多層膜の偶数の層番号を持つ膜は、高屈折率物質:Nb(中心波長:610nmに対する屈折率:nH1=2.213)の膜である。この第1の多層膜の奇数の層番号を持つ膜は、中心波長:610nmに対する屈折率:nL1=1.613を実現するように混合比を調整された中間屈折率物質:Nb2O5/SiO2の膜である。これら高屈折率膜と中間屈折率膜が交互に14層に積層されて第1の多層膜を構成している。
高屈折率膜は物理的膜厚(d):68.90で屈折率(n):2.212であるから、膜厚(nd):68.90×2.213=152.5=610/4である。中間屈折率膜は物理的膜厚:94.60、屈折率:1.613であるから、膜厚:94.60×1.613=152.5=610/4である。
次に、第2の多層膜(第2種の誘電体多層膜)は、層番号:16〜29の14層の膜で構成されているが、中心波長(第2種の設計基準波長):λ0=830nmとしている。この第2の多層膜の偶数の層番号の膜は高屈折率物質:Nb(中心波長:830nmに対する屈折率:nH2=2.170)の膜である。この第2の多層膜の奇数の層番号の膜は、中心波長:830nmに対する屈折率:nL2=1.623を実現するように混合比を調整された中間屈折率物質:Nb2O5/SiO2の膜である。これら高屈折率膜と中間屈折率膜が交互に14層に積層されて第2の多層膜を構成しているのである。
高屈折率膜は物理的厚さ:95.60、屈折率:2.170であるから、膜厚は95.60×2.170=207.5=830/4である。また、中間屈折率膜は物理的膜厚:127.9、屈折率:1.623であるから、膜厚:127.9×1.623=207.5=830/4である。
第3の多層膜(第3種の誘電体多層膜)は、層番号:30〜43の14層の膜で構成されるが、中心波長(第3種の設計基準波長):λ0=940nmとしている。この第3の多層膜の偶数の層番号の膜は高屈折率物質:Nb(中心波長:940nmに対する屈折率:nH3=2.159)の膜である。この第3の多層膜の奇数の層番号の膜は、中心波長:940nmに対する屈折率:nL3=1.616を実現するように混合比を調整された中間屈折率物質:Nb2O5/SiO2の膜である。これら高屈折率膜と中間屈折率膜が交互に14層に積層されて第3の多層膜を構成しているのである。
高屈折率膜は物理的厚さ:108.8、屈折率:2.159であるから、膜厚は108.8×2.159=235=940/4である。また、中間屈折率膜は物理的膜厚:145.4、屈折率:1.616であるから、膜厚:145.4×1.616=235=940/4である。
第1〜第3の多層膜の中で、第3の多層膜は「接着層(層番号:46)の側の多層膜」である。この第3の多層膜に続けて成膜されている層番号:44の誘電体膜は「1層の誘電体膜」であり、第3の多層膜における第1層、即ち「層番号:30の誘電体膜」と同じ(組成・厚さの)膜であり、高屈折率物質:Nb(中心波長:940nmに対する屈折率:nH3=2.159)の膜である。
層番号:44の「1層の誘電体膜」に続いて「層番号:45の誘電体膜」が形成されている。層番号:45の誘電体膜は、中心波長:λ0=840nmに対して膜厚:0.25λ0を実現すべく、膜の混合組成:Nb2O5/SiO2におけるNbとSiOとの混合比を「屈折率:1.572を実現する」ように設定されている。実際の物理的膜厚は133.60nmであり、133.60×1.572=210.0=840/4が光学的厚さである。即ち、層番号:45の誘電体膜は、層番号:1の誘電体膜と同じであり、層番号:1の誘電体膜とともに「1対の挟持用中間屈折率膜」を構成する。
この層番号:45の誘電体膜が、接着剤による「接着層(層番号:46)」により、他方の基板(図1の透明基板12に相当する。)に接着される。接着層をなす接着剤としては「市販のエポキシ系等の接着剤」を使用することができる。
上記の如く、第1〜第3の多層膜(層番号:2〜43)と1層の多層膜(層番号:44)は、これのみで偏光分離膜を構成できる。実施例1では、これらと共に、これらを挟持する挟持用中間屈折率層(層番号:1、45)により偏光分離膜が構成されている。
上記第1〜第3の多層膜を挟持する1対の透明基板は、図1に示したように、断面形状が底角:60度の台形形状を持ち、入射光LIは透明基板の側面から偏光分離膜に対して60度の角をなして入射する。
実施例1の偏光ビームスプリッタは上記の如くに構成されている。
すでに述べたように、この発明の偏光ビームスプリッタは「400〜750nmという広い可視波長領域で良好な偏光分離機能を実現可能」とするものであるが、後述するように、実施例1の偏光ビームスプリッタは、入射角:60度の入射光に対し、波長380〜780nmという開始領域を超える広い波長領域で、P偏光LPの透過率:95%以上、S偏光LSの透過率:実質0%という極めて良好な偏光分離機能が実現されている。
ここで、実施例1の偏光ビームスプリッタにおける第1〜第3の多層膜の作用を簡単に説明する。
入射光LIは、第1の多層膜に入射角:60度をもって入射するので、第1の多層膜を透過する光の伝搬方向は、第1の多層膜の各「誘電体膜」の厚さ方向に対して傾き、実際に誘電体膜を透過する距離は、実際の物理的膜厚よりもずっと大きくなる。このとき、誘電体膜を実際に透過する距離を「光学的有効膜厚」という。光学的有効膜厚は、膜に斜め入射する光が誘電体膜を透過する距離を「垂直入射」の場合に換算した膜厚である。
第1の多層膜における「高屈折率膜に対する光学的有効膜厚」は494/4nm、「中間屈折率膜に対する光学的有効膜厚」は360/4nmである。第1の多層膜は、これらの平均値である427nm近傍を中心とする波長領域の偏光分離を受け持つ。
同様に、第2の多層膜における「高屈折率物質の光学的有効膜厚」は672/4nm、「中間屈折率物質の光学的有効膜厚」は490/4nmである。第2の多層膜は、これらの平均値である581nm近傍を中心とする波長領域の偏光分離を受け持つ。
第3の多層膜では「高屈折率物質の光学的有効膜厚」は761/4nm、「中間屈折率物質の光学的有効膜厚」は555/4nmで、第3の多層膜は、これらの平均値である658nm近傍を中心とする波長領域の偏光分離を受け持つ。
このようにして、第1の多層膜により427nm近傍を中心とする波長領域、第2の多層膜により555nm近傍を中心とする波長領域、第3の多層膜により658nm近傍を中心とする波長領域で偏光分離が行われ、全体としては380〜780nmの波長領域で良好な偏光分離機能が得られる。
図2に、実施例1の偏光ビームスプリッタに入射角:60度で「偏光分離するべき光」を入射させたときの「偏光分離機能」を示す。縦軸は「透過率を%単位」で示し、横軸は「波長をnm単位」で示している。
図2において、符号2−1で示す曲線は「P偏光の透過率」であり、図の如く、可視波長領域を超える波長:380〜800nmの範囲で95%以上である。符号2−2で示す曲線は「S偏光の透過率」で0%が理想であるが「波長:380〜780nmの範囲で実質0%」である。
これから明らかなように、実施例1の偏光ビームスプリッタは、入射角の設計値:60度で入射する光に対して、可視波長領域を超える「380〜780nmの波長範囲」で極めて良好な偏光分離機能を示す。しかも、偏光分離膜は「第1〜第3の多層膜と1層の誘電体膜」を合わせて43層(層番号:2〜44)、これらを挟持する「2層の挟持用中間屈折率膜(層番号:1、45)」を入れても全45層と少ない膜構成数であり、透明基板は低屈折率で安価なBK7を用いている。多層膜における高屈折率膜の屈折率も2.2前後である。
即ち、実施例1の偏光ビームスプリッタは安価な透明基板材料を用い、膜構成数も45層と少ないので、成膜に要する時間・コストが少なく、従って安価に製造でき、なおかつ広い可視波長領域で良好な偏光分離機能を発揮する。
ここで、実施例1の偏光ビームスプリッタに入射する「偏光分離するべき光」の入射角が設計入射角:60度から±6度ずれた場合に、P偏光、S偏光の透過率がどのようになるかを図3に示す。
実施例1における透明基板は、図1に示すように、底角:60度の台形形状の断面形状を持ち、設計上の入射角:60度を持って入射する光は、台形形状の斜面部分に直交して入射するので、入射面での屈折角は0であって、偏光分離膜にもそのまま入射角:60度で入射する。
上のように、入射角が60度から±6度ずれる場合には、入射角は上記台形形状の斜面部分に対して直交する方向から±6度ずれるので、透明基板への入射面で屈折が生じ、このために偏光分離膜への入射角は、60度に対して±6度ずれるのではなく、透明基板(BK7)の屈折率(=1.52)を考慮すると、偏光分離面への入射角は±3.95度変化することになる。
図3(a)、(b)において、曲線2−1、2−2は入射角:60度におけるP偏光の透過率(図3(a))とS偏光の透過率(図3(b))を示し、これらは図2における曲線2−1、2−2と同じである。図3(a)における曲線3−1、3−2は偏光分離膜への入射角:56.09度、63.95度の場合の「P偏光の透過率」であり、波長:350〜800nmの波長範囲で80%以上である。また、図3(b)における曲線3−3、3−4は偏光分離面への入射角:入射角:56.09度、63.95度の場合の「S偏光の透過率」であり、波長:400〜775nmの波長範囲で実質的に0%である。
即ち、偏光分離効果は、入射角が60度から±6度ずれると、入射角:60度での入射の場合に比して若干減ずるが、実用的な見地から見て十分に使用に耐えるものである。
例えば、実施例1の偏光ビームスプリッタを液晶プロジェクタ等に使用する場合、光源からの光束は、平行光束化した後も若干の方向分散性があり、一般には、±4度程度の範囲で光の方向が分散している。このような場合にも、実施例1の偏光ビームスプリッタは、上記の如く入射角が±6度程度変化しても十分に実用に耐える偏光分離機能を有するから十分に使用に耐える。
上に説明した実施例1は、偏光分離膜を挟持する1対の透明基板をBK7により形成した例であるが、透明基板の材質はBK7に限られず「1.46〜1.58の範囲内の屈折率を有する光学ガラス」を用いることができる。そこで、実施例1の変形例として、実施例1における第1〜第3の多層膜・挟持用中間屈折率膜・接着層を同一とし、透明基板として屈折率の異なる光学ガラスを用いる場合を変形例として挙げる。
「変形例1」
変形例1では、透明基板(実施例1と同じく底角:60度の台形形状の断面形状を持ち、入射角は60度に設定されている。)の屈折率を1.48とした。
図4(a)に、変形例1におけるP偏光の透過率(曲線4−1)とS偏光の透過率(曲線4−2)を示す。P偏光の透過率は、波長:360〜800nmの範囲で80%以上、S偏光の透過率は波長:400〜800nmの範囲で実質0%であるから、偏光分離機能は良好である。
「変形例2」
変形例2では、透明基板(実施例1と同じく底角:60度の台形形状の断面形状を持ち、入射角は60度に設定されている。)の屈折率を1.58とした。
図4(b)に、変形例2におけるP偏光の透過率(曲線4−3)とS偏光の透過率(曲線4−4)を示す。P偏光の透過率は、波長:350〜800nmの範囲で80%以上、S偏光の透過率は波長:350〜750nmの範囲で実質0%であるから、偏光分離機能は良好である。
次に、実施例1における他の変形例として、第1〜第3の多層膜における「中間屈折率膜の屈折率」を変化させた場合の例を示す。
「変形例3」
変形例3では、中間屈折率膜(NbとSiOの混合材料による膜)の屈折率を1.58とした。
図5(a)に、変形例3におけるP偏光の透過率(曲線5−1)とS偏光の透過率(曲線5−2)を示す。P偏光の透過率は、波長:350〜800nmの範囲で85%以上、S偏光の透過率は波長:380〜780nmの範囲で実質0%であるから、偏光分離機能は良好である。
「変形例4」
変形例4では、中間屈折率膜(NbとSiOの混合材料による膜)の屈折率を1.72とした。
図5(b)に、変形例4におけるP偏光の透過率(曲線5−3)とS偏光の透過率(曲線5−4)を示す。P偏光の透過率は、波長:350〜800nmの範囲で84%以上、S偏光の透過率は波長:420〜780nmの範囲で5%以下であるから、実用上の偏光分離機能は十分である。
なお、変形例3における中間屈折率膜の屈折率:1.58、変形例4における中間屈折率膜の屈折率:1.72は、波長:550nmにおける代表値であり、実際の中心波長:610nm、830nm、940nmにおける値は、変形例3において、1.572、1.553、1.546であり、変形例4において、1.711、1.693、1.688である。
次に、実施例1における別の変形例として、第1〜第3の多層膜における「高屈折率膜の屈折率」を変化させた場合の例を示す。
「変形例5」
変形例5では、高屈折率膜(Nbによる膜)の屈折率を2.086とした。
図6(a)に、変形例5におけるP偏光の透過率(曲線6−1)とS偏光の透過率(曲線6−2)を示す。P偏光の透過率は、波長:350〜800nmの範囲で95%以上、S偏光の透過率は波長:400〜750nmの範囲で5%程度以下であるから、実用上の偏光分離機能は十分である。
「変形例6」
変形例6では、高屈折率膜(Nbによる膜)の屈折率を2.336とした。
図6(b)に、変形例6におけるP偏光の透過率(曲線6−3)とS偏光の透過率(曲線6−4)を示す。P偏光の透過率は、波長:400〜800nmの範囲で90%以上、S偏光の透過率は波長:400〜800nmの範囲で実質0%であるから、実用上の偏光分離機能は十分である。
変形例5における高屈折率膜の屈折率:2.086、変形例6における高屈折率膜の屈折率:2.236は、波長:550nmにおける代表値であり、実際の中心波長:610nm、830nm、940nmにおける値は、変形例5において、2.063、2.020、2.009であり、変形例6において、2.313、2.271、2.259である。
次に、実施例1における他の変形例として、第1〜第3の多層膜の構成を実施例1と同一とし、挟持用中間屈折率膜(層番号:1、45)の屈折率を変化させた場合を示す。
「変形例7」
変形例7では、挟持用中間屈折率膜(NbとSiOの混合材料による膜)の屈折率を1.555とした。
図7(a)に、変形例7におけるP偏光の透過率(曲線7−1)とS偏光の透過率(曲線7−2)を示す。P偏光の透過率は、波長:400〜800nmの範囲で実質100%、S偏光の透過率は波長:400〜780nmの範囲で実質0%であるから、偏光分離機能は十分である。
「変形例8」
変形例8では、挟持用中間屈折率膜(NbとSiOの混合材料による膜)の屈折率を1.65とした。
図7(b)に、変形例8におけるP偏光の透過率(曲線7−3)とS偏光の透過率(曲線7−4)を示す。P偏光の透過率は、波長:400〜800nmの範囲で95%以上、S偏光の透過率は波長:390〜780nmの範囲で実質0%であるから、偏光分離機能は十分である。
変形例7における挟持用中間屈折率膜の屈折率:1.555、変形例8における挟持用中間屈折率膜の屈折率:1.65は、波長:550nmにおける代表値であり、実際の中心波長:610nm、830nm、940nmにおける値は、変形例7において、1.547、1.527、1.521であり、変形例8において、1.641、1.623、1.616である。
実施例1および変形例2〜8から明らかなように、透明基板の屈折率は「1.48〜1.58」に対して良好な偏光分離特性が得られており、1.46〜1.58の範囲内の屈折率を有する光学ガラスを好適に使用することが可能である。例えば画像表示装置に用いる場合、このように透明基板の屈折率が1.46〜1.58の範囲内であれば、波長400nm〜750nmの間でP偏光の透過率が略80%以上となり、S偏光の透過率は実質0%となるので、実装に耐えうる。第1〜第3の多層膜の中間屈折率膜については屈折率:1.58〜1.72(波長:555nmでの値)の範囲で良好な偏光分離特性が得られており、高屈折率膜については屈折率:2.086〜2.336の範囲で好な偏光分離特性が得られており、挟持用中間屈折率膜については屈折率:1.565〜1.65の範囲で良好な偏光分離特性が得られている。
次に、挟持用中間屈折率膜の技術的意義を説明する。
「変形例9」
変形例9は、実施例1において、挟持用中間屈折率層(層番号:1、45の膜)を用いない場合である。
図8に、変形例9におけるP偏光の透過率(曲線8−1)とS偏光の透過率(曲線8−2)を示す。P偏光の透過率は、波長:380〜800nmの範囲で95%以上、S偏光の透過率は波長:400〜780nmの範囲で実質0%であるから、偏光分離機能は十分である。しかしながら、図8の偏光分離特性図を図2の偏光分離特性図(実施例1に関する偏光分離特性図)と比較してみると、P偏光の透過率は、実施例1(図2)においては、波長:380〜800nmの範囲で、97%以上であるが、変形例9の場合には、P偏光の透過率は、四角い枠で囲った部分、即ち、波長:400〜800nmの範囲で細かく振動している。
P偏光の透過率におけるこの「細かい振動」はリップルと呼ばれるが、挟持用中間屈折率膜を設けることにより、P偏光の透過率のリップルが改善されることが分る。従って、挟持用中間屈折率膜は、偏光分離膜中にこれを設けなくても、実用上問題のない偏光分離機能を実現できるけれども、これを設けることにより、P偏光の分光透過率をさらに改善できる。
先に述べたように、実施例1において、第1の多層膜は427nm近傍を中心とする波長領域の偏光分離を受け持ち、第2の多層膜は581nm近傍を中心とする波長領域の偏光分離を受け持ち、第3の多層膜は658nm近傍を中心とする波長領域の偏光分離を受け持つ。
ここで、第1〜第3の多層膜の1以上を用いた場合の偏光分離特性を示す。
まず、実施例1における第1の多層膜を単独で用いる場合に付いて説明する。
実施例1における基板(表の上側の基板)に、層番号:1の挟持用中間屈折率膜(中心波長:λ0=840nm、物質:Nb2O5/SiO2 屈折率:1.572 物理的膜厚:133.60)を設け、これに続けて、実施例1の層番号:2〜15の14層からなる「第1の多層膜」を形成し、さらに、層番号:2の誘電体膜(中心波長:610nm 物質:Nb 屈折率:2.213 物理的膜厚:68.90)と同じ組成・厚さの誘電体膜を「1層の誘電体膜」として設けて15層とし、続いて層番号:1の挟持用中間屈折率膜と同じ挟持用中間屈折率膜を形成して全17層の偏光分離膜とし、最後に積層した挟持用中間屈折率膜を接着層により他方の基板(表の下側の基板)に接着した。
表2にこの場合の構成を表1に倣って示す。
Figure 2008181074
図9に、このときのP偏光の透過率(曲線9−1)とS偏光の透過率(曲線9−2)を示す。波長:427nm近傍を中心とする波長領域に対して良好な偏光分離機能を持つ。
次に、実施例1における第2の多層膜を単独で用いる場合に付いて説明する。
実施例1における基板(表の上側の基板)に、層番号:1の挟持用中間屈折率膜(中心波長:λ0=840nm、物質:Nb2O5/SiO2 屈折率:1.572 物理的膜厚:133.60)を設け、これに続けて実施例1の層番号:16〜29の14層からなる「第2の多層膜」を形成し、さらに、層番号:16の誘電体膜と同じ誘電体膜(中心波長:830nm 物質:Nb 屈折率:2.170 物理的膜厚:95.60)を「1層の誘電体膜」として設けて15層とし、続けて層番号:1の挟持用中間屈折率膜と同じ挟持用中間屈折率膜を形成して全17層の偏光分離膜とし、最後に成膜した挟持用中間屈折率膜を接着層により他方の基板(表の下側の基板)に接着した。
表3にこの場合の構成を表1に倣って示す。
Figure 2008181074
表3における層番号:2〜15が、実施例1における層番号:16〜29に相当する。
図10に、このときのP偏光の透過率(曲線10−1)とS偏光の透過率(曲線10−2)を示す。波長:581nm近傍を中心とする波長領域において良好な偏光分離機能を有する。
次に、実施例1における第3の多層膜を単独で用いる場合に付いて説明する。
実施例1における基板(表の上側の基板)に、層番号:1の挟持用中間屈折率膜(中心波長:λ0=840nm、物質:Nb2O5/SiO2 屈折率:1.572 物理的膜厚:133.60)を設け、これに続いて実施例1の層番号:30〜43の14層からなる「第2の多層膜」を形成し、さらに、層番号:30の誘電体膜と同じ誘電体膜(中心波長:940nm 物質:Nb 屈折率:2.159 物理的膜厚:108.80)を「1層の誘電体膜」として設けて15層とし、さらに層番号:1の挟持用中間屈折率膜と同じ挟持用中間屈折率膜を形成して全17層の偏光分離膜とし、最後に成膜した挟持用中間屈折率膜を接着層により他方の基板(表の下側の基板)に接着した。
表4にこの場合の構成を表1に倣って示す。
Figure 2008181074
表4における層番号:2〜15が、実施例1における層番号:30〜43に相当する。
図11に、このときのP偏光の透過率(曲線11−1)とS偏光の透過率(曲線11−2)を示す。波長:658nm近傍を中心とする波長領域において良好な偏光分離機能を有する。
次に、実施例1の変形例10として、実施例1における第1および第2の多層膜を組合せた場合を変形例10として説明する。
「変形例10」
実施例1における基板(表の上側の基板)に、層番号:1の挟持用中間屈折率膜(中心波長:λ0=840nm、物質:Nb2O5/SiO2 屈折率:1.572 物理的膜厚:133.60)を設け、これに続けて実施例1の層番号:2〜15の14層からなる「第1の多層膜」を形成し、続けて実施例1の層番号:16〜29の14層からなる第2の多層膜を形成し、さらに層番号:16の誘電体膜と同じ誘電体膜(中心波長:830nm 物質:Nb 屈折率:2.170 物理的膜厚:95.60)を「1層の誘電体膜」として設けて29層とし、さらに層番号:1の挟持用中間屈折率膜と同じ挟持用中間屈折率膜を形成して全30層の偏光分離膜とし、最後に成膜した挟持用中間屈折率膜を接着層により他方の基板(表の下側の基板)に接着した。
表5にこの場合の構成を表1に倣って示す。
Figure 2008181074
表5における層番号:2〜29が、実施例1における層番号:2〜29に相当する。
図12に、このときのP偏光の透過率(曲線12−1)とS偏光の透過率(曲線12−2)を示す。P偏光の透過率は、波長:400〜800nmの範囲で97%以上、S偏光の透過率は波長:400〜650nmの範囲で実質0%である。図12は、図9と図10の偏光分離特性図の積になっている。
偏光分離できる波長領域は実施例1における380〜780nmに比して、400〜650nmとやや狭いが、実質的な可視波長領域をカバーしており、偏光ビームスプリッタとしての使用に耐えるものである。
即ち、この発明の偏光ビームスプリッタにおける偏光分離膜は、この変形例10のように、設計基準波長の異なる誘電体多層膜を最小限2つ有すれば良いのである。
図9、図10、図11の偏光分離特性図の積をとったものは、実施例1の偏光分離特性図を示す図2と同一になる。
なお、実施例1における第2、第3の多層膜を組合せる場合には、まず、実施例1における基板(表の上側の基板)に、層番号:1の挟持用中間屈折率膜(中心波長:λ0=840nm、物質:Nb2O5/SiO2 屈折率:1.572 物理的膜厚:133.60)を設ける。そして、これに続けて実施例1の層番号:16〜29の14層からなる「第2の多層膜」を形成する。さらに、続けて実施例1の層番号:30〜43の14層からなる第3の多層膜を形成する。そしてさらに層番号:30の誘電体膜と同じ誘電体膜(中心波長:940nm 物質:Nb 屈折率:2.159 物理的膜厚:108.80)を「1層の誘電体膜」として設けて29層とする。それからさらに層番号:1の挟持用中間屈折率膜と同じ挟持用中間屈折率膜を形成し、この挟持用中間屈折率膜を接着層により他方の基板(表の下側の基板)に接着すればよい。
表6にこの場合の構成を表1に倣って示す。
Figure 2008181074
表6における層番号:2〜29が、実施例1における層番号:16〜43に相当する。
この場合の偏光分離特性は、図10と図11との積をとったものになり、図13に示す如きものとなる。この場合は、P偏光の透過率(曲線13−1)は良好であるが、S偏光の透過率(曲線13−2)が短波長:400〜530nmの領域で大きくなるので、可視波長領域全域にわたる偏光分離機能を実現することはできない。しかしながら、530〜780nmの波長範囲の光については有効な偏光分離機能を有するので、可視光から、緑色成分を分離する偏光カラーフィルタとして好適に使用することができる。
また、この発明の偏光ビームスプリッタの偏光分離膜に用いられる2種以上の誘電体多層膜の積層数は8〜20、好ましくは12〜16である。実施例1および上に説明した各変形例では、誘電体多層膜における誘電体膜の積層数を14としている。この積層数を12とした場合を変形例11、積層数を10とした場合を変形例12として説明する。
「変形例11」
実施例1において、第1の多層膜を層番号:2〜13の12層の誘電体膜で構成する。そして、第2の多層膜を層番号:16〜27の12層の誘電体膜で構成する。さらに、第3の多層膜を層番号:30〜41の12層の誘電体膜で構成し、第3の多層膜に続けて層番号:44の誘電体膜(第3の多層膜における第1層の誘電体膜(層番号:30の誘電体膜)と同じもの)を1層の誘電体膜として設ける。それから層番号:45の挟持用中間屈折率膜と接着層を介して他方の基板を設けた。
図14に、このときのP偏光の透過率(曲線14−1)とS偏光の透過率(曲線14−2)を示す。P偏光の透過率は、波長:400〜800nmの範囲で97%以上、S偏光の透過率は波長:400〜750nmの範囲で実質0%であり、可視波長領域の光に対する偏光分離機能として十分である。
「変形例12」
実施例1において、第1の多層膜を層番号:2〜11の10層の誘電体膜で構成する。そして、第2の多層膜を層番号:16〜25の10層の誘電体膜で構成する。第3の多層膜を層番号:30〜39の10層の誘電体膜で構成し、第3の多層膜に続けて層番号:44の誘電体膜(第3の多層膜における第1層の誘電体膜(層番号:30の誘電体膜)と同じものを1層の誘電体膜として設ける。それから層番号:45の挟持用中間屈折率膜と接着層を介して他方の基板を設けた。
図15に、このときのP偏光の透過率(曲線15−1)とS偏光の透過率(曲線15−2)を示す。P偏光の透過率は、波長:400〜800nmの範囲で97%以上、S偏光の透過率は波長:400〜750nmの範囲で実質0%であり、可視波長領域の光に対する偏光分離機能として十分である。図14と図15を比較するとわかるように、多層膜の積層数を減らすと、図15において、符号15aで示す短波長領域と符号15bで示す長波長領域で「S偏光の透過率(曲線15−2)が増加する傾向」がある。また、積層数が減るに従い、偏光ビームスプリッタとして使用できる波長範囲が狭まる傾向がある。実用上の可視波長領域での使用を考える場合には、積層数は8程度が下限である。
この発明の偏光ビームスプリッタを「プロジェクタ装置」に使用する場合を想定し、入射角:60度で、波長:400〜700nmの可視波長領域においてP偏光の透過率:95%以上、S偏光の透過率:1%未満を設計条件とする場合、第1〜第3の多層膜は12〜16層の範囲が好適な範囲である。
上記実施例1および各変形例における検討では、各設計基準波長の誘電体多層膜の積層数を互いに等しいものとしている。また波長範囲も可視全域(400〜700nm)を想定している。しかしながらプロジェクタ装置に一般的に用いられている超高圧水銀ランプにおいては420nm以下及び680nm以上の波長成分はほとんど含まれていない。そこで有効波長範囲を420〜680nm、S偏光の透過率を5%未満(上記の積層数8層と同程度)、各基準波長の積層数は自由として検討しなおすことにより、総層数をさらに減じることができる。
以下にそのような場合の構成例である変形例13,14について述べる。
「変形例13」
変形例13は上記実施例1において、第1の多層膜を8層、第2の多層膜を6層、第3の多層膜を4層とした場合の偏光ビームスプリッタの構成例である。
表7にこの場合の構成を表1に倣って示す。
Figure 2008181074
図17は図2と同様の図であり、変形例13による偏光ビームスプリッタが有する偏光分離機能の特性を示す。
図17の偏光分離機能の特性では、図示の如く波長420〜680nmにおいてP偏光の透過率(曲線17−1)は98%以上(平均的には99%以上)、S偏光の透過率(曲線17−2)は3%以下(平均的には約1%)であり、十分に実用可能な特性が得られることが分かる。
図17に示すものと同程度の偏光分離機能の特性は、第1の多層膜を8層、「第2の多層膜+第3の多層膜」を10層とすることによっても得られる。
上記変形例13に対しさらに多層膜を構成する積層数を減らすとその分偏光ビームスプリッタの性能は劣化する。実用に耐えうる限界をどこに置くかは、使用する系の要求仕様にかかわってくるので一概にはいえないが、波長420〜680nmにおいて、S偏光の透過率が10%程度(平均的に3%程度)を限界と考えた場合、第1の多層膜が6層、「第2の多層膜+第3の多層膜」(すなわち第2の多層膜の積層数と第3の多層膜の積層数とを合計した層数)が8層よりなる構成まで積層数を減少可能である。
「変形例14」
変形例14は上記実施例1において、第1の多層膜を6層、第2の多層膜を6層、第3の多層膜を2層とした場合の偏光ビームスプリッタの構成例である。
表8にこの場合の構成を表1に倣って示す。
Figure 2008181074
図18も図2と同様の図であり、変形例14による偏光ビームスプリッタが有する偏光分離機能の特性を示す。この場合図示の如く、波長420〜680nmにおいてP偏光の透過率(曲線18−1)が98%以上(平均的には99%以上)、S偏光の透過率(曲線18−2)が最大約10%(平均的には約3%)となっている。
これらの値が実用に耐え得る値と言えるか否かは、使用するランプの分光特性や光学系全体の要求仕様によって変わる。このため、上記変形例13の偏光分離機能でも実用上の条件が満たされない場合もあり得、逆に上記変形例14の偏光分離機能より悪い値のものでも実用上の条件を満たす場合もあり得る。
すなわち、例えばLEDによる照明のように波長域が限定される光源を使用した系に適用する偏光ビームスプリッタの場合、可視全域にわたって良好な特性が得られる必要はなく、使用するLEDの波長に対応した波長域のみについて良好な特性が得られれば良い。したがって偏光ビームスプリッタを構成する多層膜の積層数を減らしても、実際に必要な波長域において偏光分離機能の良好な特性が得られれば実用上差し支えない。
偏光ビームスプリッタを構成する多層膜の積層数が減少すればコスト的に有利である点以外にも、偏光ビームスプリッタを構成する多層膜中の膜に吸収がある場合、多層膜を構成する層数を減らすことによって当該吸収による偏光ビームスプリッタの特性の劣化を効果的に抑え得るという特長を得ることが出来る。
例えば本発明の実施例或いは変形例における偏光ビームスプリッタを構成する中間屈折率層としてのNbとSiOの混成層は、その成膜条件によってはある波長域で吸収が起こり、もって偏光ビームスプリッタの特性が劣化することが考えられる。しかしながらこのような場合でも、吸収を起こす中間屈折率層の層数を少なくすることにより該当する特性劣化の度合を小さくすることが可能である。
図19は上記実施例1(14層、14層、14層の組み合わせによる構成)および変形例13(8層、6層、4層の組み合わせによる構成)の、それぞれの偏光ビームスプリッタの構成において、当該偏光ビームスプリッタを構成する膜に吸収があった場合の特性を比較したものである。
図19に図示の如く、膜の吸収がない場合(図中、左端)においては実施例1の方が高い有効光量を得ることが出来るが、膜の吸収が増加した場合(図中、右方向に移動した場合)の有効光量の減少率は実施例1の方が大きい。このため膜の吸収が若干増加すると変形例13の方が比較的有効光量が大きくなり、双方の性能の優劣が逆転することが分かる。したがって、当該偏光ビームスプリッタを使用する系の要求仕様上問題なければ、多層膜を構成する積層数を少なくすることにより、その分コストが削減可能となるともに、膜の吸収による偏光ビームスプリッタの特性劣化を効果的に低減した多層膜よりなる偏光ビームスプリッタを提供することが出来る。
ここで、前記図17,図18からも分るように、偏光ビームスプリッタの性能上支配的なのはS偏光の透過率である。
図20(a)〜(e)は第1の多層膜から第3の多層膜迄のそれぞれの多層膜の積層数の組合せに対するS偏光の透過率の最大値(以下Max値と称する)をプロットしたものである。
図20を参照するに、第1の多層膜に関しては、その積層数が8層以上(同図(a)〜(d))であれば第2の多層膜および第3の多層膜の層数を適正に選ぶことによってS偏光の透過率のMax値を5%以下にすることができるが、6層では10〜15%(同図,(e))、4層になると15%を超える(同図、(f))。S偏光の透過率の実用レベルの限界は10〜15%程度と考えられるため、第1の多層膜の積層数は少なくとも6層、高性能を狙うなら少なくとも8層以上が必要となる。
他方第2の多層膜および第3の多層膜に関しては「第2の多層膜+第3の多層膜」が少なくとも6層(第1の多層膜が6層あるいは8層の場合(図20(e)、(d))、高性能を狙うならば少なくとも10層が求められる。(第1の多層膜8層(同図(d)、「第2の多層膜+第3の多層膜」8層(第2の多層膜6層、第3の多層膜2層)で5%のS偏光の透過率が得られているが、安定的に5%以下を達するには「第2の多層膜+第3の多層膜」10層が必要と考えられる。)
したがって第1の多層膜の積層数が6層で「第2の多層膜+第3の多層膜」の積層数が6層、あるいは第1の多層膜の積層数が8層で「第2の多層膜+第3の多層膜」の積層数が10層は、所望の性能を得るために必要な最小限の積層数と言える。
上記図20からも分るように、上記積層数より更に積層数を増やせば性能がさらに向上する方向にあるため、性能上の積層数の上限というものは、理屈上は存在しない。但しあまりに膨大な積層数(100層を超える積層数等)にすれば吸収等の影響で実際上の性能が落ちる可能性はある。しかしながら実際は製造上の面からもコスト面からも必要最小限の積層数を狙って成膜することは当然であるので、上限値を設定することには意味がなく、上記の下限値が意味を持つ。また積層数を上記下限値に限定しないのは、実際の成膜に当たって、装置や材料のバラツキ等を考慮し、安定して所望の性能を得るためには積層数の増加の可能性を持たせておく必要があるためである。
なお、実施例1においては、挟持用中間屈折率層、第1〜第3の多層膜、1層の多層膜は図1における透明基板11の側から積層形成され、最後に形成される挟持用中間屈折率層(層番号:45)が接着層(層番号:46)により他方の透明基板に接着される。これとは逆に、他方の透明基板の側から、実施例1の各誘電体膜を(層番号:45から層番号:1に向かう順序で)積層形成し、層番号:1の挟持用中間屈折率層を上側の透明基板に接着層により接着しても良い。
この場合には、実施例1における層番号:44〜31の誘電体膜が「第1の多層膜」を構成することになる。そして、層番号:30〜17の誘電体膜が「第2の多層膜」を構成することになる。さらに、層番号:16〜3の誘電体膜が「第3の多層膜」を構成し、層番号:2の誘電体膜が「1層の誘電体膜」を構成することになる。
図16(a)は、この発明の「偏光変換素子」の実施の1形態を説明するための図である。
図16(a)に示す偏光変換素子は、自然偏光もしくはランダム偏光状態の入射光LIを入射され、偏光方向の揃った光として射出させる光学素子である。
符号ISは「入射面」を示し、入射光LIは入射面ISに直交するように入射する。符号OSは射出面を示す。入射面ISと射出面OSとは互いに平行である。
符号20で示す部分は「透明基板」を示し、符号Mは偏光分離膜(具体的には、実施例1や変形例2〜13で説明した「2種以上の誘電体多層膜と1層の誘電体膜と接着層」を少なくとも有するもの、さらにはこれらを挟持用中間屈折率膜で挟持したもの)である。
複数の偏光分離膜Mは互いに平行かつ等間隔に配列されて「偏光分離膜アレイ」を構成している。隣接する偏光分離膜Mの間では透明基板20が共通化されている。即ち、個々の偏光分離膜Mは、これを挟持する1対の透明基板の一方に成膜されて形成され、他方の透明基板に接着層により接着される。換言すれば、偏光分離膜Mによる偏光分離膜アレイと、これら偏光分離膜Mの間の透明基板20とは、上に説明した請求項1〜11のうちの任意の一項に記載の偏光ビームスプリッタを多段に重ねて一体化した構成である。
互いに平行且つ等間隔に配列した偏光分離膜Mは、入射面ISおよび射出面OSに対して60度の角をなして傾いている。換言すれば、多段に重ねられて一体化された偏光ビームスプリッタは「偏光分離膜Mに対して、60度をなす互いに平行な切断面により、共通化された透明基板20が切断」されている。これら切断面が入射面ISと射出面OSをなす。また、偏光分離膜アレイを構成する偏光分離膜Mは、上記切断面(入射面・射出面)に直交する方向(図の上下方向)から見ると「相互に密接」している。
入射光LI(簡単のために平行光束として説明する。)を図の如く入射させると、入射光は偏光分離膜Mに対して60度の入射角をもって入射し、上に説明したP偏光成分は偏光分離膜Mを透過光LTとして透過する。一方、S偏光成分は偏光分離膜Mにより反射される。反射されたS偏光成分は、透明基板20内を伝搬して「反射された偏光分離膜に隣接する、図で右隣の偏光分離膜」により更に反射され、透過光LTと平行な反射光LRとして射出面OSから射出する。即ち、射出面OSから射出する透過光LT、反射光LRはともに入射光LIと同方向に伝搬する。
偏光変換素子の射出面OSには、図面に直交する方向に細長い長方形形状の1/2波長板30が等間隔に設けられ、透過光LTの偏光面を90度旋回させるようになっている。
1/2波長板30の図面内での幅は、偏光分離膜Mの配列間隔の1/2である。透過光LTは1/2波長板30を透過することにより偏光面を90度旋回されるので、偏光分離膜Mにより反射される反射光LRと偏光面が同じ方向(図面に直交する方向)を向くようになる。
かくして、偏光変換素子に入射する「自然偏光もしくはランダム偏光状態」の入射光LIは、偏光状態の揃った光に変換されて、偏光変換素子から射出することになる。
図16(a)の例では、偏光分離膜Mを透過した透過光LTの偏光面を1/2波長板30により90度旋回させたが、これに限らず、偏光分離膜Mにより反射された反射光LRを1/2波長板に入射させて、反射光LRの偏光面を90度旋回させて透過光LTの偏光面とそろえるようにしても良い。
また、偏光分離膜Mの入射面・射出面に対する傾き角は、上の例では60度であるが、これに限らず60度近傍の値、例えば、60±6度の範囲に設定しても良い。
図16(b)は、従来から知られた偏光変換素子であり、入射面IS・射出面OSに対して45度に傾いた偏光分離膜M1と反射膜R1とが、透明基板21を介して交互に配列形成されている。
自然偏光もしくはランダム偏光状態にある入射光LIは偏光分離膜M1に入射すると、偏光成分に応じて偏光分離され、透過光LTと反射光LRとに分離する。そして、反射光LRは、偏光分離膜M1に隣接する反射膜R1に反射され、1/2波長板30により偏光面を90度旋回されて偏光面を透過光LTに揃えられて、偏光面の揃った光となる。
図16(b)に示す従来のタイプの偏光変換素子と、図16(a)に示すこの発明の偏光変換素子とを比較すると、この発明の偏光変換素子は反射膜R1を必要としない。このため、透明基板の積層数は、従来のものの略1/2でよく、従って、構成が簡素であり製造性に優れている。
偏光ビームスプリッタの実施の形態を説明するための図である。 実施例1の偏光ビームスプリッタの偏光分離機能を示す図である。 実施例1の偏光ビームスプリッタの偏光分離機能の入射角への依存性を説明するための図である。 変形例1、2における偏光分離機能を説明するための図である。 変形例3、4における偏光分離機能を説明するための図である。 変形例5、6における偏光分離機能を説明するための図である。 変形例7、8における偏光分離機能を説明するための図である。 変形例9における偏光分離機能を説明するための図である。 実施例1における第1の多層膜単独による偏光分離機能を説明するための図である。 実施例1における第2の多層膜単独による偏光分離機能を説明するための図である。 実施例1における第3の多層膜単独による偏光分離機能を説明するための図である。 変形例10における偏光分離機能を説明するための図である。 実施例1における第2、第3の多層膜を用いた場合の偏光分離機能を説明するための図である。 変形例11における偏光分離機能を説明するための図である。 変形例12における偏光分離機能を説明するための図である。 偏光変換素子の実施の1形態を説明するための図である。 変形例13における偏光分離機能を説明するための図である。 変形例14における偏光分離機能を説明するための図である。 実施例1および変形例13のそれぞれの構成における膜の吸収に対する特性の変化を比較して示す図である。 第1の多層膜から第3の多層膜迄のそれぞれの多層膜の積層数の組合せに対するS偏光の透過率の最大値をプロットした図である。
符号の説明
10 偏光ビームスプリッタ
11 透明基板
12 透明基板
13 偏光分離膜
14 接着層
LI 偏光分離されるべき入射光

Claims (13)

  1. 入射光を偏光分離する偏光ビームスプリッタであって、
    偏光分離すべき光の入射角が54〜66度の範囲で有効であり、
    1対の透明基板の間に、一方の透明基板を接着するための接着層と、設計基準波長の異なる2種以上の誘電体多層膜と、1層の誘電体膜を少なくとも有し、
    上記2種以上の誘電体多層膜はそれぞれ、高屈折率膜と中間屈折率膜とを、上記設計基準に応じた光学的厚さで交互に積層して偶数の層数としてなり、
    上記1層の誘電体膜は、接着層側に設けられる誘電体多層膜の上記接着層側に配置され、上記接着層側に設けられる誘電体多層膜における第1層と同じ誘電体膜であり、
    上記2種以上の誘電体多層膜と1層の誘電体膜とが偏光分離膜を構成し、実質的に可視波長領域の光に対して偏光分離機能を持つことを特徴とする偏光ビームスプリッタ。
  2. 請求項1記載の偏光ビームスプリッタにおいて、
    1対の透明基板のうち、少なくとも、誘電体多層膜を成膜される透明基板は、1.46〜1.58の範囲内の屈折率を有する光学ガラスであることを特徴とする偏光ビームスプリッタ。
  3. 請求項2記載の偏光ビームスプリッタにおいて、
    設計基準波長の異なる各種の誘電体多層膜における高屈折率膜がNbにより形成され、中間屈折率膜がNbとSiOの混合物により形成され、
    上記中間屈折率膜の屈折率がNbとSiOとの混合比により調整され、
    上記高屈折率膜と中間屈折率膜とは、設計基準波長:λに対して光学的厚さをλ/4に設定されていることを特徴とする偏光ビームスプリッタ。
  4. 請求項3記載の偏光ビームスプリッタにおいて、
    2種以上の誘電体多層膜はそれぞれ、積層数が8〜20の範囲および12〜16の範囲のうちのいずれかの範囲に設定されていることを特徴とする偏光ビームスプリッタ。
  5. 請求項3または4記載の偏光ビームスプリッタにおいて、
    2種以上の誘電体多層膜と1層の誘電体膜が、1対の挟持用中間屈折率膜により挟持され、この挟持用中間屈折率膜はNbとSiOの混合物により形成され、且つ、上記誘電体多層膜における中間屈折率膜とは異なる屈折率を有し、上記設計基準波長の何れとも異なる波長:Λに対して、光学的厚さをΛ/4に設定されていることを特徴とする偏光ビームスプリッタ。
  6. 請求項3または4または5記載の偏光ビームスプリッタにおいて、
    1対の透明基板の間に3種の誘電体多層膜と1層の誘電体膜を有し、
    上記3種の誘電体多層膜に対する設計基準波長がλ1=610nm、λ2=830nm、λ3=940nmに設定されていることを特徴とする偏光ビームスプリッタ。
  7. 請求項6記載の偏光ビームスプリッタにおいて、
    請求項5記載の1対の挟持用中間屈折率膜を有し、これら挟持用中間屈折率膜の光学的厚さを規定する波長:Λが840nmに設定されていることを特徴とする偏光ビームスプリッタ。
  8. 請求項6または7記載の偏光ビームスプリッタにおいて、
    設計基準波長:λ1=610nm、λ2=830nm、λ3=940nmによる3種の誘電体多層膜の積層数が14であることを特徴とする偏光ビームスプリッタ。
  9. 請求項6または7記載の偏光ビームスプリッタにおいて、
    前記誘電体多層膜の層数は、設計基準波長λ1の誘電体多層膜の積層数が少なくとも6層、設計基準波長λ2の誘電体多層膜および設計基準波長λ3の誘電体多層膜の積層数が少なくとも6層の組み合わせ、並びに設計基準波長λ1の誘電体多層膜の積層数が少なくとも8層、設計基準波長λ2の誘電体多層膜および設計基準波長λ3の誘電体多層膜の積層数が少なくとも10層の組み合わせのうちのいずれか一方の組み合わせに設定されていることを特徴とする偏光ビームスプリッタ。
  10. 請求項3〜9のうちの任意の一項に記載の偏光ビームスプリッタにおいて、
    中間屈折率膜を、Siの反応性スパッタと、Nbの反応性スパッタとを同時に行うことにより成膜し、高屈折率膜をNbの反応性スパッタにより成膜することを特徴とする偏光ビームスプリッタ。
  11. 請求項1〜10のうちの任意の一項に記載の偏光ビームスプリッタにおいて、
    1対の透明基板をBK7としたことを特徴とする偏光ビームスプリッタ。
  12. 請求項1〜11のうちの任意の一項に記載の偏光ビームスプリッタが多段に重ねられ、且つ、互いに平行に隣接する偏光分離膜間では透明基板を共通化され、且つ、上記偏光分離膜に対して、略60度をなす互いに平行な切断面により、上記共通化された透明基板が切断され、上記切断面に直交する方向から見て、上記互いに平行な偏光分離膜が、相互に密接もしくは近接するように構成された偏光分離膜アレイの、上記切断面の一方を入射側として、偏光分離すべき光を入射させるようにし、
    入射した光を偏光成分に応じて個々の偏光分離膜で、透過光と反射光に分離すると共に、上記反射光を隣接する偏光分離膜で反射させることにより、入射光と同方向に伝搬する光が、他方の切断面から射出するようにし、この切断面における上記透過光もしくは反射光の射出する部位に1/2波長板を配して、偏光状態の揃った光を得るように構成されたことを特徴とする偏光変換素子。
  13. 請求項12記載の偏光変換素子において、
    入射面および/または射出面に対して、全ての偏光分離膜が60度をなして傾き、入射方向および/または射出方向から見て偏光分離膜が互いに密接するように配置されていることを特徴とする偏光変換素子。
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