JP2008171995A - 永久磁石及び永久磁石の製造方法 - Google Patents

永久磁石及び永久磁石の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 焼結磁石の結晶粒界相にDyやTbを拡散させるとき、Ndリッチ相に酸化物が多く存在していると、DyやTbがNdリッチ相の酸化物と反応し、磁気特性の向上に寄与しない反応生成物が多く形成され、また、DyやTbの結晶粒界相への拡散が妨げらる。
【解決手段】 鉄−ホウ素−希土類系の焼結磁石Sの表面の少なくとも一部に、Dy、Tbの少なくとも一方を付着させる第一工程と、所定温度下で熱処理を施して焼結磁石の表面に付着したDy、Tbの少なくとも一方を焼結磁石の結晶粒界相に拡散させる第二工程とを実施する。その際、焼結磁石として酸素濃度が6000ppm以下のものを用いる。
【選択図】 図2

Description

本発明は、永久磁石及び永久磁石の製造方法に関し、特に、Nd−Fe−B系の焼結磁石の結晶粒界相にDyやTbを拡散させてなる高磁気特性の永久磁石及びこの永久磁石の製造方法に関する。
Nd−Fe−B系の焼結磁石(所謂、ネオジム磁石)は、鉄と、安価であって資源的に豊富で安定供給が可能なNd、Bの元素の組み合わせからなることで安価に製造できると共に、高磁気特性(最大エネルギー積はフェライト系磁石の10倍程度)を有することから、電子機器など種々の製品に利用され、近年では、ハイブリッドカー用のモーターや発電機への採用も進んでいる。
他方、上記焼結磁石のキュリー温度は、約300℃と低いことから、採用する製品の使用状況によっては所定温度を超えて昇温する場合があり、所定温度を超えると、熱により減磁するという問題がある。また、上記焼結磁石を所望の製品に利用するに際しては、焼結磁石を所定形状に加工する場合があり、この加工によって焼結磁石の結晶粒に欠陥(クラック等)や歪などが生じて磁気特性が著しく劣化するという問題がある。
このため、Nd−Fe−B系の焼結磁石を得る際に、Ndより大きい4f電子の磁気異方性を有し、Ndと同じく負のスティーブンス因子を持つことで、主相の結晶磁気異方性を大きく向上させるDyやTbを添加することが考えられるものの、Dy、Tbは主相結晶格子中でNdと逆向きのスピン配列をするフェリ磁性構造を取ることから磁界強度、ひいては、磁気特性を示す最大エネルギー積が大きく低下する。
このことから、Nd−Fe−B系の焼結磁石の表面全体に亘って、DyやTbを所定膜厚(磁石の体積に依存して3μm以上の膜厚で形成される)で成膜し、次いで、所定温度下で熱処理を施して、表面に成膜されたDyやTbを磁石の結晶粒界相に拡散させて均一に行き渡らせることが提案されている(非特許文献1参照)。
上記方法で作製した永久磁石は、結晶粒界相に拡散したDyやTbが各結晶粒表面の結晶磁気異方性を高めることで、ニュークリエーション型の保磁力発生機構を強化し、その結果、保磁力を飛躍的に向上させると共に、最大エネルギー積がほとんど損なわれないという利点がある(例えば残留磁束密度:14.5kG(1.45T)、最大エネルギー積:50MG0e(400kj/m)で、保磁力:23k0e(3MA/m)の性能の磁石ができることが非特許文献1に報告されている)。
Improvement of coercivity on thin Nd2Fe14B sintered permanent magnets(薄型Nd2Fe14B系焼結磁石における保磁力の向上)/ 朴起兌、東北大学 博士論文 平成12年3月23日)
ところで、Nd−Fe−B系の焼結磁石の製造方法の一例としては粉末冶金法が知られており、この方法では、先ず、Nd、Fe、Bを所定の組成比で配合し、溶解、鋳造して合金原料を作製し、例えば水素粉砕工程により一旦粗粉砕し、引き続き、例えばジェットミル微粉砕工程により微粉砕して、合金原料粉末を得る。次いで、得られた合金原料粉末を磁界中で配向(磁場配向)させ、磁界を印加した状態で圧縮成形して成形体を得る。最後に、この成形体を所定の条件下で焼結させて焼結磁石が作製される。この製造工程においては、希土類合金原料の発火性が高いことから、その取り扱いが容易になるように、例えばジェットミル微粉砕工程を酸素含有の窒素雰囲気の下で行い、酸素を供給して安定化させることが一般的である。このため、通常、上記焼結磁石では、Ndリッチ相に酸化物(Nd)が多く存在している。
ところが、上記のように作製した焼結磁石に対し、DyやTbをその結晶粒界相に拡散させる上記処理を施すと、DyやTbがNdと反応し、磁気特性の向上に寄与しない反応生成物が多く形成され、資源的に乏しく高価なDyやTbが無駄に消費されるという問題がある。また、Ndリッチ相に酸化物(Nd)が多く存在すると、DyやTbの結晶粒界相への拡散が妨げられ、短時間で拡散処理ができず、生産性が悪くなる。
そこで、上記点に鑑み、本発明の第一の目的は、焼結磁石表面に付着したDy、Tbを効率よく結晶粒界相に拡散でき、高い生産性で高磁気特性の永久磁石が作製できる永久磁石の製造方法を提供することにある。また、本発明の第二の目的は、Nd−Fe−B系の焼結磁石の結晶粒界相にDy、Tbが効率よく拡散し、高い磁気特性を有する永久磁石を提供することにある。
上記課題を解決するために、請求項1記載の永久磁石の製造方法は、鉄−ホウ素−希土類系の焼結磁石の表面の少なくとも一部に、Dy、Tbの少なくとも一方を付着させる第一工程と、所定温度下で熱処理を施して焼結磁石の表面に付着したDy、Tbの少なくとも一方を焼結磁石の結晶粒界相に拡散させる第二工程とを含む永久磁石の製造方法において、前記焼結磁石として酸素濃度が6000ppm以下のものを用いたことを特徴とする。
本発明によれば、酸素濃度が6000ppm以下の焼結磁石を用いるため、Ndリッチ相に酸化物(Nd)が少なくなり、DyやTbの結晶粒界相への拡散が妨げられず、短時間で効率よく結晶粒界相に拡散させて行き渡らすことができる。その上、磁気特性の向上に寄与しない反応生成物が多く形成されないため、資源的に乏しく高価なDyやTbが無駄に消費されることを抑制できる。
前記焼結磁石を処理室に配置して加熱すると共に、同一または他の処理室に配置したDy、Tbの少なくとも一方を含有する蒸発材料を加熱して蒸発させ、この蒸発したDy、Tbの金属原子を、焼結磁石表面への供給量を調節して付着させ、この付着した金属原子を、焼結磁石表面に蒸発材料からなる薄膜が形成される前に焼結磁石の結晶粒界相に拡散させ、前記第一工程及び第二工程を行うことが好ましい。
これによれば、蒸発したDyやTbの金属原子が、所定温度まで加熱された焼結磁石表面に供給されて付着する。その際、焼結磁石を最適な拡散速度が得られる温度に加熱すると共に、焼結磁石表面への金属原子の供給量を調節したため、表面に付着した金属原子は、薄膜を形成する前に焼結磁石の結晶粒界相に順次拡散されて行く(即ち、焼結磁石表面へのDyやTb等の金属原子の供給と焼結磁石の結晶粒界相への拡散とが一度の処理で行われる(真空蒸気処理))。このため、永久磁石の表面状態は、上記処理を実施する前の状態と略同一であり、作製した永久磁石表面が劣化する(表面粗さが悪くなる)ことが防止され、また、特に焼結磁石表面に近い粒界内にDyやTbが過剰に拡散することが抑制され、別段の後工程が不要となって高い生産性を達成できる。
また、Ndリッチ相の酸化物と反応することなく、DyやTbを焼結磁石の結晶粒界相に拡散させて均一に行き渡らせることで、結晶粒界相にDy、Tbのリッチ相(Dy、Tbを5〜80%の範囲で含む相)を有し、さらには結晶粒の表面付近にのみDyやTbが拡散し、その結果、高い保磁力を有し、高磁気特性の永久磁石が得られる。さらに、焼結磁石の加工時に焼結磁石表面付近の結晶粒に欠陥(クラック)が生じている場合には、そのクラックの内側にDy、Tbのリッチ相が形成されて、磁化および保磁力を回復できる。
上記処理に際しては、前記焼結磁石と蒸発材料とを離間して配置しておけば、蒸発材料を蒸発させるとき、溶けた蒸発材料が直接焼結磁石に付着することが防止できてよい。
また、前記処理室内に配置される前記蒸発材料の比表面積を変化させて一定温度下における蒸発量を増減すれば、例えばDy、Tbの焼結磁石表面への供給量を増減する別個の部品を処理室内に設ける等、装置の構成を変えることなく、簡単に焼結磁石表面への供給量の調節ができてよい。
DyやTbを結晶粒界相に拡散させる前に焼結磁石表面に吸着した汚れ、ガスや水分を除去するために、前記焼結磁石を収納した処理室の加熱に先立って、処理室内を所定圧力に減圧して保持することが好ましい。
この場合、表面に吸着した汚れ、ガスや水分の除去を促進するために、前記処理室を所定圧力に減圧した後、処理室内を所定温度に加熱して保持することが好ましい。
他方、DyやTbを結晶粒界相に拡散させる前に焼結磁石表面の酸化膜を除去すべく、前記焼結磁石を収納した処理室の加熱に先立って、プラズマによる前記焼結磁石表面のクリーニングを行うことが好ましい。
前記焼結磁石の結晶粒界相にDyやTbを拡散させた後、上記温度より低い所定温度下で永久磁石の歪を除去する熱処理を施すようにすれば、磁化および保磁力がさらに向上または回復した高磁気特性の永久磁石が得られる。
また、前記焼結磁石の結晶粒界相に前記金属原子を拡散させた後、磁場配向方向に直角な方向で所定の厚さに切断するようにして永久磁石を作製してもよい。これにより、所定寸法を有するブロック状の焼結磁石を複数個の薄片に切断し、この状態で処理室に並べて収納した後、上記真空蒸気処理を施す場合と比較して、例えば処理室への焼結磁石の出し入れが短時間で行うことができ、上記真空蒸気処理を施す前準備が容易になって生産性を向上できる。
この場合、ワイヤーカッタ等により所望形状に切断すると、焼結磁石表面の主相である結晶粒にクラックが生じて磁気特性が著しく劣化する場合があるが、上記真空蒸気処理を施すと、結晶粒界相にDyリッチ相を有し、さらには結晶粒の表面付近にのみDyが拡散しているため、後工程で複数個の薄片に切断して永久磁石を得ても磁気特定が劣化することが防止され、仕上げ加工が不要なことと相俟って生産性に優れた永久磁石が得られる。
さらに、上記課題を解決するために、請求項10記載の永久磁石は、酸素濃度が6000ppm以下の鉄−ホウ素−希土類系の焼結磁石を用い、この焼結磁石を、処理室に配置して加熱すると共に、同一または他の処理室に配置したDy、Tbの少なくとも一方を含有する蒸発材料を加熱して蒸発させ、この蒸発したDy、Tbの金属原子を、焼結磁石表面への供給量を調節して付着させ、この付着した金属原子を、焼結磁石表面に蒸発材料からなる薄膜が形成される前に焼結磁石の結晶粒界相に拡散させてなることを特徴とする。
以上説明したように、本発明の永久磁石の製造方法は、DyやTbが無駄に消費され難く、焼結磁石表面に付着したDy、Tbを効率よく結晶粒界相に拡散でき、高い生産性で高磁気特性の永久磁石を作製できるという効果を奏する。また、本発明の永久磁石は、特に高い保磁力を有する高磁気特性のものであるという効果を奏する。
図1及び図2を参照して説明すれば、本発明の永久磁石Mは、所定形状に加工されたNd−Fe−B系の焼結磁石Sの表面に、Dy、Tbの少なくとも一方を含有する蒸発材料Vを蒸発させて金属原子を付着させ、焼結磁石Sの結晶粒界相に拡散させて均一に行き渡らせる一連の処理(真空蒸気処理)を同時に行って作製される。
出発材料であるNd−Fe−B系の焼結磁石Sは、公知の方法で次のように作製されている。即ち、Fe、B、Ndを所定の組成比で配合して、公知のストリップキャスト法により0.05mm〜0.5mmの合金原料を先ず作製する。他方で、公知の遠心鋳造法で5mm程度の厚さの合金原料を作製するようにしてもよい。また、配合の際、Cu、Zr、Dy、AlやGaを少量添加してもよい。次いで、作製した合金原料を、公知の水素粉砕工程により一旦粗粉砕し、引き続き、ジェットミル微粉砕工程により窒素雰囲気中で微粉砕して合金原料粉末を得る。ジェットミル微粉砕工程を、酸素含有の窒素雰囲気中で行い、酸素を供給して合金原料粉末を安定化させている。そして、公知の圧縮成形機によって、得られた合金原料粉末を磁場配向して金型で直方体や円柱など所定形状に成形した後、所定の条件下で焼結させて上記焼結磁石が作製される。
ところで、上記のように作製した焼結磁石では、Ndリッチ相に酸化物(Nd)が多く存在している。このため、DyやTbをその結晶粒界相に拡散させるとき、DyやTbがNdリッチ相の酸化物と反応し、磁気特性の向上に寄与しない反応生成物が多く形成されないようにする必要があり、また、DyやTbの結晶粒界相への拡散が妨げられないようにする必要がある。
本実施の形態では、例えば、ジェットミル微粉砕工程での窒素雰囲気中の酸素添加量を最適化して、焼結磁石Sの酸素濃度が6000ppm以下、好ましくは、3000ppm以下、より好ましくは500ppm以下となるようにし、Ndリッチ相の酸化物(Nd)を少なくすることとした。これにより、DyやTbの結晶粒界相への拡散が妨げられず、短時間で効率よく結晶粒界相に拡散させて行き渡らすことができる。その上、磁気特性の向上に寄与しない反応生成物が多く形成されないため、資源的に乏しく高価なDyやTbが無駄に消費されることを防止できる。
また、合金原料粉末を圧縮成形する際に、合金原料粉末に公知の潤滑剤を添加している場合には、焼結磁石Sの作製の各工程において条件をそれぞれ最適化し、焼結磁石Sの平均結晶粒径が4μm〜8μmの範囲にすることが好ましい。これにより、焼結磁石内部に残留する炭素の影響を受けずに、焼結磁石表面に付着したDyやTbが結晶粒界相に効率よく拡散できる。
平均結晶粒径が4μmより小さいと、DyやTbが結晶粒界相に拡散したことで、高い保磁力を有する永久磁石となるが、磁界中での圧縮成形時に流動性を確保し配向性を向上させるという合金原料粉末への潤滑剤添加の効果が薄れ、焼結磁石の配向度が悪くなり、その結果、磁気特性を示す残留磁束密度及び最大エネルギー積が低下する。他方で、平均結晶粒径が8μmよ大きいと、結晶が大きいため保磁力が低下し、その上、結晶粒界の表面積が少なくなることで、結晶粒界付近の残留炭素の濃度比が高くなることで、保磁力がさらに大きく低下する。また、残留炭素がDyやTbと反応し、Dyの結晶粒界相への拡散が妨げられ、拡散時間が長くなって生産性が悪い。
図2に示すように、上記処理を実施する真空蒸気処理装置1は、ターボ分子ポンプ、クライオポンプ、拡散ポンプなどの真空排気手段11を介して所定圧力(例えば1×10−5Pa)まで減圧して保持できる真空チャンバ12を有する。真空チャンバ内12には、上面を開口した直方体形状の箱部21と、開口した箱部21の上面に着脱自在な蓋部22とからなる箱体2が設置される。
蓋部22の外周縁部には下方に屈曲させたフランジ22aがその全周に亘って形成され、箱部21の上面に蓋部22を装着すると、フランジ22aが箱部21の外壁に嵌合して(この場合、メタルシールなどの真空シールは設けていない)、真空チャンバ11と隔絶された処理室20が画成される。そして、真空排気手段11を介して真空チャンバ12を所定圧力(例えば、1×10−5Pa)まで減圧すると、処理室20が真空チャンバ12より略半桁高い圧力(例えば、5×10−4Pa)まで減圧されるようになっている。
処理室20の容積は、蒸発材料Vの平均自由行程を考慮して蒸気雰囲気中の金属原子が直接または衝突を繰返して複数の方向から焼結磁石Sに供給されるように設定されている。また、箱部21及び蓋部22の壁面の肉厚は、後述する加熱手段によって加熱されたとき、熱変形しないように設定され、蒸発材料Vと反応しない材料から構成されている。
即ち、蒸発材料VがDy、Tbであるとき、一般の真空装置でよく用いられるAlを用いると、蒸気雰囲気中のDy、TbとAlが反応してその表面に反応生成物を形成すると共に、Al原子がDyやTbの蒸気雰囲気中に侵入する虞がある。このため、箱体2を、例えば、Mo、W、V、Taまたはこれらの合金(希土類添加型Mo合金、Ti添加型Mo合金などを含む)やCaO、Y、或いは希土類酸化物から作製するか、またはこれらの材料を他の断熱材の表面に内張膜として成膜したものから構成している。また、処理室20内で底面から所定の高さ位置には、例えばMo製の複数本の線材(例えばφ0.1〜10mm)を格子状に配置することで載置部21aが形成され、この載置部21aに複数個の焼結磁石Sを並べて載置できる。他方、蒸発材料Vは、主相の結晶磁気異方性を大きく向上させるDy及びTbまたはDy、Tbの少なくとも一方を含有する合金であり、処理室20の底面、側面または上面等に適宜配置される。
真空チャンバ12にはまた、加熱手段3が設けられている。加熱手段3は、箱体2と同様にDy、Tbの蒸発材料Vと反応しない材料製であり、例えば、箱体2の周囲を囲うように設けられ、内側に反射面を備えたMo製の断熱材と、その内側に配置され、Mo製のフィラメントを有する電気加熱ヒータとから構成される。そして、減圧下で箱体2を加熱手段3で加熱し、箱体2を介して間接的に処理室20内を加熱することで、処理室20内を略均等に加熱できる。
次に、上記真空蒸気処理装置1を用いた永久磁石Mの製造について説明する。先ず、箱部21の載置部21aに上記方法で作製した焼結磁石Sを載置すると共に、箱部21の底面に蒸発材料VであるDyを設置する(これにより、処理室20内で焼結磁石Sと蒸発材料Vが離間して配置される)。そして、箱部21の開口した上面に蓋部22を装着した後、真空チャンバ12内で加熱手段3によって周囲を囲まれる所定位置に箱体2を設置する(図2参照)。そして、真空排気手段11を介して真空チャンバ12を所定圧力(例えば、1×10−4Pa)に達するまで真空排気して減圧し、(処理室20は略半桁高い圧力まで真空排気される)、真空チャンバ12が所定圧力に達すると、加熱手段3を作動させて処理室20を加熱する。
減圧下で処理室20内の温度が所定温度に達すると、処理室20の底面に設置したDyが、処理室20と略同温まで加熱されて蒸発を開始し、処理室20内にDy蒸気雰囲気が形成される。Dyが蒸発を開始した場合、焼結磁石SとDyとを離間して配置したため、溶けたDyは、表面Ndリッチ相が溶けた焼結磁石Sに直接付着することはない。そして、Dy蒸気雰囲気中のDy原子が、直接または衝突を繰返して複数の方向から、Dyと略同温まで加熱された焼結磁石S表面に向かって供給されて付着し、この付着したDyが焼結磁石Sの結晶粒界相に拡散されて永久磁石Mが得られる。
ところで、図3に示すように、Dy層(薄膜)L1が形成されるように、Dy蒸気雰囲気中のDy原子が焼結磁石Sの表面に供給されると、焼結磁石S表面で付着して堆積したDyが再結晶したとき、永久磁石M表面を著しく劣化させ(表面粗さが悪くなる)、また、処理中に略同温まで加熱されている焼結磁石S表面に付着して堆積したDyが溶解して焼結磁石S表面に近い領域R1における粒界内に過剰に拡散し、磁気特性を効果的に向上または回復させることができない。
つまり、焼結磁石S表面にDyの薄膜が一度形成されると、薄膜に隣接した焼結磁石表面Sの平均組成はDyリッチ組成となり、Dyリッチ組成になると、液相温度が下がり、焼結磁石S表面が溶けるようになる(即ち、主相が溶けて液相の量が増加する)。その結果、焼結磁石S表面付近が溶けて崩れ、凹凸が増加することとなる。その上、Dyが多量の液相と共に結晶粒内に過剰に侵入し、磁気特性を示す最大エネルギー積及び残留磁束密度がさらに低下する。
本実施の形態では、焼結磁石の1〜10重量%の割合で、単位体積当たりの表面積(比表面積)が小さいバルク状(略球状)のDyを処理室20の底面に配置し、一定温度下における蒸発量を減少させるようにした。それに加えて、蒸発材料VがDyであるとき、加熱手段3を制御して処理室20内の温度を800℃〜1050℃、好ましくは900℃〜1000℃の範囲に設定することとした(例えば、処理室内温度が900℃〜1000℃のとき、Dyの飽和蒸気圧は約1×10−2〜1×10−1Paとなる)。
処理室20内の温度(ひいては、焼結磁石Sの加熱温度)が800℃より低いと、焼結磁石S表面に付着したDy原子の結晶粒界層への拡散速度が遅くなり、焼結磁石S表面に薄膜が形成される前に焼結磁石の結晶粒界相に拡散させて均一に行き渡らせることができない。他方、1050℃を超えた温度では、Dyの蒸気圧が高くなって蒸気雰囲気中のDy原子が焼結磁石S表面に過剰に供給される。また、Dyが結晶粒内に拡散する虞があり、Dyが結晶粒内に拡散すると、結晶粒内の磁化を大きく下げるため、最大エネルギー積及び残留磁束密度がさらに低下することになる。
焼結磁石S表面にDyの薄膜が形成される前にDyをその結晶粒界相に拡散させるために、処理室20の載置部21aに設置した焼結磁石Sの表面積の総和に対する処理室20の底面に設置したバルク状のDyの表面積の総和の比率が、1×10−4〜2×10の範囲になるように設定する。1×10−4〜2×10の範囲以外の比率では、焼結磁石S表面にDyやTbの薄膜が形成される場合があり、また、高い磁気特性の永久磁石が得られない。この場合、上記比率が1×10−3から1×10の範囲が好ましく、また、上記比率が1×10−2から1×10の範囲がより好ましい。
これにより、蒸気圧を低くすると共にDyの蒸発量を減少させることで、焼結磁石SへのDy原子の供給量が抑制されることと、焼結磁石Sの酸素濃度を6000ppm以下にしつつ焼結磁石Sを所定温度範囲で加熱することで拡散速度が早くなることとが相俟って、焼結磁石S表面に付着したDy原子を、焼結磁石S表面で堆積してDy層(薄膜)を形成する前に焼結磁石Sの結晶粒界相に効率よく拡散させて均一に行き渡らせることができる(図1参照)。その結果、永久磁石M表面が劣化することが防止され、また、焼結磁石表面に近い領域の粒界内にDyが過剰に拡散することが抑制され、結晶粒界相にDyリッチ相(Dyを5〜80%の範囲で含む相)を有し、さらには結晶粒の表面付近にのみDyが拡散することで、磁化および保磁力が効果的に向上し、その上、仕上げ加工が不要な生産性に優れた永久磁石Mが得られる。
ところで、図4に示すように、上記焼結磁石を作製した後、ワイヤーカッタ等により所望形状に加工すると、焼結磁石表面の主相である結晶粒にクラックが生じて磁気特性が著しく劣化する場合があるが(図4(a)参照)、上記真空蒸気処理を施すと、表面付近の結晶粒のクラックの内側にDyリッチ相が形成されて(図4(b)参照)、磁化および保磁力が回復する。他方で、上記真空蒸気処理を施すと、結晶粒界相にDyリッチ相を有し、さらには結晶粒の表面付近にのみDyが拡散しているため、ブロック状の焼結磁石に上記真空蒸気処理を施した後、後工程としてワイヤカッタ等により複数個の薄片に切断して永久磁石Mを得ても、この永久磁石の磁気特定は劣化し難い。これにより、所定寸法を有するブロック状の焼結磁石を複数個の薄片に切断し、この状態で箱体2の載置部21aに並べて収納した後、上記真空蒸気処理を施す場合と比較して、例えば箱体2への焼結磁石Sの出し入れが短時間で行うことができ、上記真空蒸気処理を施す前準備が容易になり、前工程及び仕上げ加工が不要なことと相俟って高い生産性が達成される。
また、従来のネオジム磁石では防錆対策が必要になることからCoを添加していたが、Ndと比較して極めて高い耐食性、耐候性を有するDyのリッチ相が表面付近の結晶粒のクラックの内側や結晶粒界相に存することで、Coを用いることなく、極めて強い耐食性、耐候性を有する永久磁石となる。尚、焼結磁石の表面に付着したDyを拡散させる場合、焼結磁石Sの結晶粒界にCoを含む金属間化合物がないため、焼結磁石S表面に付着したDy、Tbの金属原子はさらに効率よく拡散される。
最後に、上記処理を所定時間(例えば、1〜72時間)だけ実施した後、加熱手段3の作動を停止させると共に、図示しないガス導入手段を介して処理室20内に10KPaのArガスを導入し、蒸発材料Vの蒸発を停止させ、処理室20内の温度を例えば500℃まで一旦下げる。引き続き、加熱手段3を再度作動させ、処理室20内の温度を450℃〜650℃の範囲に設定し、一層保磁力を向上または回復させるために、永久磁石の歪を除去する熱処理を施す。最後に、略室温まで急冷し、箱体2を取り出す。
尚、本実施の形態では、蒸発材料VとしてDyを用いるものを例として説明したが、拡散速度を早くできる焼結磁石Sの加熱温度範囲(900℃〜1000℃の範囲)で、蒸気圧が低いTbを用いることができ、またはDy、Tbの合金を用いてもよい。また、一定温度下における蒸発量を減少させるために比表面積が小さいバルク状の蒸発材料Vを用いることとしたが、これに限定されるものではなく、例えば、箱部21内に断面凹状の受皿を設置し、受皿内に顆粒状またはバルク状の蒸発材料Vを収納することで比表面積を減少させるようにしてもよく、さらに、受皿に蒸発材料Vを収納した後、複数の開口を設けた蓋(図示せず)を装着するようにしてもよい。
また、本実施の形態では、処理室20内に焼結磁石Sと蒸発材料Vとを配置したものについて説明したが、焼結磁石Sと蒸発材料Vとを異なる温度で加熱できるように、例えば、真空チャンバ12内に、処理室20とは別個に蒸発室(他の処理室:図示せず)を設けると共に蒸発室を加熱する他の加熱手段を設け、蒸発室で蒸発材料Vを蒸発させた後、処理室20と蒸発室とを連通する連通路を介して、処理室20内の焼結磁石に、蒸気雰囲気中の金属原子が供給されるようにしてもよい。
この場合、蒸発材料VがDyである場合、蒸発室を700℃〜1050℃(700℃〜1050℃のとき、Dyの飽和蒸気圧は約1×10−4〜1×10−1Paになる)の範囲で加熱すればよい。700℃より低い温度では、結晶粒界相にDyが拡散されて均一に行き渡るように、焼結磁石S表面にDyを供給できる蒸気圧に達しない。他方、蒸発材料VがTbである場合、蒸発室を900℃〜1150℃の範囲で加熱すればよい。900℃より低い温度では、焼結磁石S表面にTb原子を供給できる蒸気圧に達しない。他方、1150℃を超えた温度では、Tbが結晶粒内に拡散してしまい、最大エネルギー積及び残留磁束密度を低下させる。
また、DyやTbを結晶粒界相に拡散させる前に焼結磁石S表面に吸着した汚れ、ガスや水分を除去するために、真空排気手段11を介して真空チャンバ12を所定圧力(例えば、1×10−5Pa)まで減圧し、処理室20が真空チャンバ12より略半桁高い圧力(例えば、5×10−4Pa)まで減圧した後、所定時間保持するようにしてもよい。その際、加熱手段3を作動させて処理室20内を例えば100℃に加熱し、所定時間保持するようにしてもよい。
他方、真空チャンバ12内で、ArまたはHeプラズマを発生させる公知構造のプラズマ発生装置(図示せず)を設け、真空チャンバ12内での処理に先だってプラズマによる焼結磁石S表面のクリーニングの前処理が行われるようにしてもよい。同一の処理室20内に焼結磁石Sと蒸発材料Vとを配置する場合、公知の搬送ロボットを真空チャンバ12内に設置し、真空チャンバ12内で蓋部22をクリーニング終了後に装着するようにすればよい。
また、本実施の形態では、箱部21の上面に蓋部22を装着して箱体2を構成するものについて説明したが、真空チャンバ12と隔絶されかつ真空チャンバ12を減圧するのに伴って処理室20が減圧されるものであれば、これに限定されるものではなく、例えば、箱部21に焼結磁石Sを収納した後、その上面開口を例えばMo製の薄で覆うようにしてもよい。他方、例えば、真空チャンバ12内で処理室20を密閉できるようにし、真空チャンバ12とは独立して所定圧力に保持できるように構成してもよい。
さらに、本実施の形態では、高い生産性を達成するため、真空蒸気処理する場合について説明したが、公知の蒸着装置やスパッタリング装置を用いて焼結磁石表面にDyやTbを付着させ(第一工程)、次いで、熱処理炉を用いて表面に付着したDyやTbを焼結磁石の結晶粒界相に拡散させる拡散処理を施して(第二工程)、永久磁石を得るものについても、本発明を適用でき、高磁気特性の永久磁石Mが得られる。
Nd−Fe−B系の焼結磁石として、組成が31Nd−2Co−1B−0.2Al−0.3Zr−bal.Feのものを用い、20×20×10mmの直方体形状に加工した。この場合、Fe、Nd、B、Co、Al及びZrを上記組成比で配合して、ストリップキャスト法で約0.5mmの合金を作製し、公知の水素粉砕工程により一旦粗粉砕し、引き続き、ジェットミル微粉砕工程により微粉砕して合金原料粉末を得た。この場合、ジェットミル微粉砕工程を、所定の混同割合で酸素を添加した窒素雰囲気中で行った。
次いで、この合金原料粉末を、公知の一軸加圧式の圧縮成形機のキャビティに充填し、磁界中で所定形状に成形した後(成形工程)、この成形体を公知の焼結炉内に収納し、所定の条件過下で焼結させた(焼結工程)。そして、酸素濃度が約11000ppm〜100ppmの範囲である焼結磁石Sを得た。尚、酸素濃度は、ICP分析により求めた。
次に、上記真空蒸気処理装置1を用い、上記真空蒸気処理によって永久磁石Mを得た。この場合、Mo製の箱体2内で載置部21a上に100個の焼結磁石Sを等間隔で配置することとした。また、蒸発材料として純度99.9%のバルク状のDy(約1mm)を用い、150gの総量で処理室20の底面に配置した。次いで、真空排気手段を作動させて真空チャンバを1×10−4Paまで一旦減圧する(処理室内の圧力は5×10−3Pa)と共に、加熱手段3による処理室20の加熱温度を950℃に設定した。そして、処理室20の温度が950℃に達した後、この状態で0.5〜60時間、上記真空蒸気処理を行い、次いで、永久磁石の歪を除去する熱処理を行った。この場合、熱処理温度を400℃、処理時間を90分に設定した。そして、最も高い磁気特性が得られる最適真空蒸気処理時間(つまり、Dyの最適拡散時間)を求めた。
図5は、上記条件で永久磁石を得たときの磁気特性の平均値を、真空蒸気処理前の磁気特性の平均値と共に示す表である。これによれば、酸素濃度が6000ppm以下(本実施例では、5721ppm)であるとき、Dyの拡散の妨げとなるNdリッチ相の酸化物が少なくなることで、6時間の短時間の真空蒸気処理で保磁力が向上し、酸素濃度が121ppmであるとき、0.5時間の極めて短い時間で30k0eを超える高い保磁力が得られたことが判る。尚、酸素濃度が6000ppmより高いとき(8352ppm)、保磁力を向上させるには、48時間が必要となり、高い生産性が達成できないことが判る。
本発明で作製した永久磁石の断面を模式的に説明する図。 本発明の処理を実施する真空処理装置を概略的に示す図。 従来技術により作製した永久磁石の断面を模式的に説明する図。 (a)は、焼結磁石表面の加工劣化を説明する図。(b)は、本発明の実施により作製した永久磁石の表面状態を説明する図。 実施例1で作製した永久磁石の磁気特性と最適真空蒸気処理時間を示す表。
符号の説明
1 真空蒸気処理装置
12 真空チャンバ
20 処理室
21 箱体
22 蓋体
3 加熱手段
S 焼結磁石
M 永久磁石
V 蒸発材料

Claims (10)

  1. 鉄−ホウ素−希土類系の焼結磁石の表面の少なくとも一部に、Dy、Tbの少なくとも一方を付着させる第一工程と、所定温度下で熱処理を施して焼結磁石の表面に付着したDy、Tbの少なくとも一方を焼結磁石の結晶粒界相に拡散させる第二工程とを含む永久磁石の製造方法において、前記焼結磁石として酸素濃度が6000ppm以下のものを用いたことを特徴とする永久磁石の製造方法。
  2. 前記焼結磁石を処理室に配置して加熱すると共に、同一または他の処理室に配置したDy、Tbの少なくとも一方を含有する蒸発材料を加熱して蒸発させ、この蒸発したDy、Tbの金属原子を、焼結磁石表面への供給量を調節して付着させ、この付着した金属原子を、焼結磁石表面に蒸発材料からなる薄膜が形成される前に焼結磁石の結晶粒界相に拡散させ、前記第一工程及び第二工程を行うことを特徴とする請求項1記載の永久磁石の製造方法。
  3. 前記焼結磁石と蒸発材料とを離間して配置したことを特徴とする請求項2記載の永久磁石の製造方法。
  4. 前記処理室内に配置される前記蒸発材料の比表面積を変化させて一定温度下における蒸発量を増減し、前記供給量を調節することを特徴とする請求項2または請求項3記載の永久磁石の製造方法。
  5. 前記焼結磁石を収納した処理室の加熱に先立って、処理室内を所定圧力に減圧して保持することを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれかに記載の永久磁石の製造方法。
  6. 前記処理室を所定圧力に減圧した後、処理室内を所定温度に加熱して保持することを特徴とする請求項5記載の永久磁石の製造方法。
  7. 前記焼結磁石を収納した処理室の加熱に先立って、プラズマによる前記焼結磁石表面のクリーニングを行うことを特徴とする請求項2乃至請求項6のいずれかに記載の永久磁石の製造方法。
  8. 前記焼結磁石の結晶粒界相に前記金属原子を拡散させた後、前記温度より低い所定温度で永久磁石の歪を除去する熱処理を施すことを特徴とする請求項2乃至請求項7のいずれかに記載の永久磁石の製造方法。
  9. 前記焼結磁石の結晶粒界相に前記金属原子を拡散させた後、磁場配向方向に直角な方向で所定の厚さに切断することを特徴とする請求項2乃至請求項8のいずれかに記載の永久磁石の製造方法。
  10. 酸素濃度が6000ppm以下の鉄−ホウ素−希土類系の焼結磁石を用い、この焼結磁石を、処理室に配置して加熱すると共に、同一または他の処理室に配置したDy、Tbの少なくとも一方を含有する蒸発材料を加熱して蒸発させ、この蒸発したDy、Tbの金属原子を、焼結磁石表面への供給量を調節して付着させ、この付着した金属原子を、焼結磁石表面に蒸発材料からなる薄膜が形成される前に焼結磁石の結晶粒界相に拡散させてなることを特徴とする永久磁石。
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