JP2008169286A - アンカー固定用接着剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】カプセルを必要としない被覆型のアンカー固定用接着剤において、中間層が硬化形成されても、コア部の内圧上昇から生じるコア部組成物の染み出しや中間層の破損の無いアンカー固定用接着剤を提供する。
【解決手段】未硬化のラジカル硬化型樹脂を含むコア部と、ラジカル硬化型樹脂の硬化剤を含みコア部の表面を被覆する硬化剤層と、コア部と硬化剤層との間に、ラジカル硬化型樹脂と硬化剤との反応生成物からなる中間層とを有するアンカー固定用の接着剤であって、前記コア部に、前記中間層の硬化形成にともなってコア部の収縮を許容する収縮許容体を混合したことを特徴とする。収縮許容体としては、少なくとも一つの開口を有する中空体や、スポンジ体を使用することができる。
【選択図】図1

Description

本発明は、例えばコンクリート床面等の母材に穿設した穴に対して、アンカーを固定する際に使用する接着剤に関する。
コンクリート床面等の母材に、ドリル等によって所定寸法の穴を穿設した後に、その穴の内部に接着剤を充填してからアンカー筋ないしはアンカーボルトを打ち込む方式(いわゆる接着アンカーと呼ばれる)は、従来からよく知られている。この接着アンカーに使用する接着剤としては、穴の内部に直接注入する注入式や、未硬化の樹脂とその硬化剤とを二室カプセル内にそれぞれ隔離した状態で封入したカプセル式のものがある。しかし、前者では穴の内部に接着剤を注入する作業が極めて煩雑であり、後者では接着剤を収容するカプセルが必要となるために余計な材料費がかかる。そこで、これら2つの問題を同時に解決できる技術として、本出願人は先に特許文献1に示すアンカー固定用接着剤を提案した。
特許文献1に記載のアンカー固定用接着剤によれば、未硬化のラジカル硬化型樹脂を含むコア部の表面に対して、前記ラジカル硬化型樹脂の硬化剤を含む硬化剤層が被覆されており、コア部の表面と硬化剤層の内面との間には、コア部に含まれるラジカル硬化型樹脂と硬化剤層に含まれる硬化剤との反応生成物からなる中間層が形成されている。この中間層は、コア部と硬化剤層とを互いに隔離しており、コア部に含まれるラジカル硬化型樹脂と硬化剤層に含まれる硬化剤との硬化反応が開始するのを防止している。
つまり、接着剤の断面を見たとき、内層(中心)側にはラジカル硬化型樹脂を含む層があり、その外周に硬化剤を含む層がある形態となっている。コンクリート床面等に穿設した穴にこの接着剤を充填してからアンカーを打ち込むと、この接着剤に対してアンカーの回転や衝撃などの物理的な力が作用することで中間層が破壊されて、ラジカル硬化型樹脂とその硬化剤との混練混和が行われる。これにより、ラジカル硬化型樹脂とその硬化剤との硬化反応が促進されるので、コンクリート床面に対してアンカーボルトを強力に固定することができる。この場合、アンカー固定用接着剤は、ラジカル硬化型樹脂とその硬化剤自体が保形性を有しているので、これらの樹脂及び硬化剤を収容するためのカプセルが不要である。このようなカプセルが廃されたアンカー固定用の接着剤のことを、本願明細書においては「被覆型」のアンカー固定用の接着剤と称する。
特開2005−330387号公報
特許文献1のアンカー固定用接着剤によれば、従来必要であったカプセルが不要であるという利点が得られる。しかし、中間層はコア部に含まれるラジカル硬化型樹脂と硬化剤層に含まれる硬化剤との硬化反応によって生成されるものであり、中間層は生成に伴って収縮する特性がある。これにより、中間層で外側全面を覆われたコア部には、内方向への圧力がかかることになる。そうすると、密状に充填されたコア部は逃げ場が無いので内圧が上昇し、中間層を破って外側に染み出すという問題が生じることが判明した。ここで、特許文献1のアンカー固定用接着剤には、コア部に骨材等としてガラス材などが混合されているが、当該ガラス材などはコア部の組成物の逃げ場を確保できる形態となっている訳ではなく、コア部の内圧上昇緩和には寄与していない。
そこで本発明の目的は、カプセルを必要としない被覆型のアンカー固定用接着剤において、中間層が硬化形成されても、コア部の内圧上昇から生じるコア部組成物の染み出しや中間層の破損の無いアンカー固定用接着剤を提供することにある。
本発明は、未硬化のラジカル硬化型樹脂を含むコア部と、ラジカル硬化型樹脂の硬化剤を含みコア部の表面を被覆する硬化剤層と、コア部と硬化剤層との間に、ラジカル硬化型樹脂と硬化剤との反応生成物からなる中間層とを有するアンカー固定用の接着剤であって、前記コア部に、前記中間層の硬化形成にともなってコア部の収縮を許容する収縮許容体を混合したことを特徴とする。ここで、本発明における収縮許容体とは、アンカー固定用接着剤の製造過程において、中間層が硬化収縮形成される際にコア部に内方向への圧力が加重されると、コア部の組成物がこれに混合した収縮許容体の中空内部に入り込んだり、収縮許容体自体が収縮することによって、コア部の外形寸法の収縮を許容して内圧上昇を緩和する働きをする部材を意味する。この意味において、微細孔や内部空間を有する素材であっても、前記のような内圧上昇緩和機能を発揮し得ない素材は本願発明における収縮許容体からは除外される。
具体的には、前記収縮許容体として少なくとも一つの開口を有する中空体や、スポンジ体を使用することができる。また、本発明のアンカー固定用接着剤では、前記硬化剤層の表面に対して樹脂製のコーティング層を被覆することもできる。
本発明によれば、カプセル等を必要としない被覆型のアンカー固定用の接着剤において、コア部にはこれの収縮を許容する収縮許容体を混合しているので、コア部の外周表面に中間層が硬化形成されるにともなってコア部に内方向の圧力がかかっても、収縮許容体のほぼ体積分コア部が収縮できるので、コア部の内圧上昇が緩和されてコア部組成物の染み出しや中間層の破損を確実に防止できる。
この場合、収縮許容体が少なくとも一つの開口を有する中空体であれば、コア部の組成物(ラジカル硬化型樹脂など)が開口を介して中空体の内部に入り込む。つまり、コア部には内圧上昇に伴う組成物の逃げ場が確保されているので、コア部が外側に染み出すことは無い。収縮許容体がスポンジ体であれば、コア部の内圧上昇に伴ってスポンジ体自体が収縮するので、内圧上昇が緩和されてコア部が外側に染み出すことはない。
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明するが、これに限定されることはなく、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜変更が可能である。図1は、本発明に係るアンカー固定用接着剤の一実施形態を示した斜視図である。図2は、図1のA−A線断面図である。そして、図3及び図4は、収縮許容体とコア部の挙動を示すコア部の要部拡大断面図である。
本発明に係るアンカー固定用の接着剤1は従来技術のようなカプセルを必要とせず、主としてラジカル硬化型樹脂を含む層の表面に、主として硬化剤を含む層を被覆することで内外に積層された状態となった被覆型のアンカー固定用の接着剤である。具体的には、図1及び図2において接着剤本体1は、未硬化のラジカル硬化型樹脂を含むコア部2と、ラジカル硬化型樹脂の硬化剤を含みコア部2の表面を被覆する硬化剤層3と、コア部2と硬化剤層3との間に、ラジカル硬化型樹脂と硬化剤との反応生成物からなる中間層4と、硬化剤層3の外周に有機溶剤などの揮散を防ぐ樹脂製のコーティング層5が被覆されている。つまり、図2に示す接着剤1の断面を見たとき、最内層(中心)側にコア部2が、コア部2の外層側に中間層4が、中間層4の外層側に硬化剤層3が、硬化剤層3の外層側であって、接着剤本体1の表層となるコーティング層5が、それぞれ配置された形態となっている。そして、本発明においては、コア部2に、中間層4の硬化形成にともなってコア部2の収縮を許容する収縮許容体7が混合されている点が注目される。
この接着剤本体1は、図1に示すような円柱形に形成されている。その外形寸法は、コンクリート床面等の母材に穿設する穴の寸法に合わせて適宜設定すればよい。一般的には、長さ50〜500mm、外径5〜50mmの範囲で選択できる。なお、接着剤本体1は図1に示す円柱形の他、例えば球状、ブロック状、円錐状又は多角柱状など、その他の形状に形成されたものであってもよい。
(コア部について)
コア部2は、未硬化のラジカル硬化型樹脂を含有している。ラジカル硬化型樹脂としては特に限定されないが、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリエステルアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ビニルウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂等を用いることができる。この中でも、特にエポキシアクリレート樹脂、あるいは不飽和ポリエステル樹脂を用いるのが好ましい。また、これらの樹脂のうち2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
そして、コア部2には、上記ラジカル硬化型樹脂に加えて収縮許容体7が混合されている。中間層4がコア部2の外面と硬化剤層3の内面との間に硬化形成されるとき、この中間層4は、コア部2のラジカル硬化型樹脂が硬化剤層3の硬化剤と化学反応して体積収縮しながら形成される。したがって、中間層4が硬化収縮形成されると、コア部2には中間層4によって内方向への圧力が加重される。このとき、収縮許容体7が混合されていないと、コア部2はラジカル硬化型樹脂などが密状に充填されて逃げ場がないので徐々に内圧が上昇し、果てには中間層4を破壊して外側に染み出す結果となる。本発明の収縮許容体7は、コア部2の内圧上昇を緩和してこのような問題を解決するためのものであり、少なくとも1つの開口を有する中空体や、それ自体が収縮(弾性変形)できるスポンジ体を使用することができる。したがって、単に微細孔を有するだけのセラミックやゼオライトなど、内部空間を有しないガラス粒子など、及び開口を有しないガラスバルーンなどは本発明での収縮許容体7には適さない。
少なくとも1つの開口を有する中空体としては、特に限定されないが、例えば左右に開口を有するガラス製細管や合成樹脂製のチューブ、1つ以上の開口を形成したガラス製中空ビーズなどを挙げることができる。また、スポンジ体としては、高い弾性(収縮性)を有していれば特に限定されず、例えばウレタン系、メラミン系、アクリル系、エポキシ系、フェノール系等の各種合成樹脂発泡体や、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、シリコーンゴム等の発泡ゴム等を挙げることができ、その形状も自由である。これら各種スポンジ体の弾性は、発泡剤の添加量などによって調整できる。
そして、収縮許容体7が少なくとも一つの開口を有する中空体であれば、図3に示すごとくコア部2の組成物(ラジカル硬化型樹脂など)が開口を介して中空体の内部に入り込む。つまり、コア部2には内圧上昇に伴う組成物の逃げ場が確保されている。また、収縮許容体7がスポンジ体であれば、図4に示すごとくコア部2の内圧上昇に伴ってスポンジ体自体が収縮するので、コア部2の内圧上昇を緩和できる。
収縮許容体7は、大容量(体積)のものを少数個混合するよりは、比較的小容量(体積)のものを多数個混合することが好ましい。例えば、細管やチューブであれば長さ1.0〜10.0mm×内径0.5〜3.0mmとし、開口を有する中空粒状体であれば平均粒径0.5〜3.0mmとし、スポンジ体であれば一辺が0.1〜3.0mmのブロック状や直径0.1〜3.0mmの球状とすることができる。これら数値の下限よりも小さくすると、内圧上昇緩和能が有効に発揮され難く、製造の困難性からコストも嵩むからである。また、これら数値の上限よりも大きく(大容量のものを使用)すれば、アンカーを打ち込んでコア部2のラジカル硬化型樹脂と硬化剤層3の硬化剤との混練が阻害される要因となったり、数が少ないことにより、コア部2内において均一な分散混合が困難になるからである。
その際の収縮許容体7の混合量は、中間層4の硬化形成に伴う体積収縮率に見合った量とすればよい。すなわち、収縮許容体7が許容できる収縮体積の総和が中間層4によってコア部2の体積が減少する分と同等とすることが好ましい。コア部2や硬化剤層3の組成の種類や反応条件などによってその体積収縮率も異なるが、例えばコア部2に混合する収縮許容体7の許容可能な体積の総和を、コア部2の体積(中間層4の硬化形成前基準)に対して0.1〜20%程度、好ましくは0.1〜5.0%程度、さらに好ましくは0.3〜1.0%程度を目安とすればよい。収縮許容体7の混合量が少なすぎると、コア部2中の組成物の逃げ場空間が少なくなってコア部2の内圧上昇を有効に緩和できず、コア部2の組成物が中間層4を破って外部に染み出してしまうからである。逆に収縮許容体7の混合量が多すぎると、コア部2の内圧上昇を確実に緩和はできるが、ラジカル硬化型樹脂の配合量が少なくなって接着性能が低下するか、若しくは製品寸法が大きくなり過ぎるからである。また、ラジカル硬化型樹脂とその硬化剤との混練が阻害されるおそれもある。
また、少なくとも1つの開口を有する中空体とスポンジ体とでは、中空体を混合する方が好ましい。スポンジ体は、接着剤本体1の製造工程においてこれを細かくカットするのに手間を要するし、コア部2内に均一な分散が難しいなどの製法上の困難性を有しており、また、アンカー固定用接着剤をアンカーなどで打ち壊すと、コア部2の内圧が開放されてスポンジ体が元の大きさに戻り、ラジカル硬化型樹脂とその硬化剤との混練に支障をきたすおそれがあるが、中空体はこのような不都合がないからである。
コア部2を構成する組成物としては、上記ラジカル硬化型樹脂や収縮許容体7に加えて、反応性モノマーを混合して使用することもできる。かかる反応性モノマーとしては、スチレンモノマー、メチル(メタ)アクリルレート、エチル(メタ)アクリルレート、エチレングリコールジメタクリレート、シクロヘキシルフタレート、n−ブチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルレート、ベンジル(メタ)アクリルレート、フェノキシエチル(メタ)アクリルレート、1,4−ブチレングリコールジ(メタ)アクリルレート、トリメタアクリル酸トリメチロールプロパン、マレイン酸ジメチル、イソボルニル(メタ)アクリルレート、ブタンジオール(メタ)アクリルレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルレート、2,2−ビス[4−(メタクリロキシ−ジエトキシ)]フェニルプロパン等を用いることができる。ラジカル硬化型樹脂、あるいはこれに上記の反応性モノマーを加えた成分は、コア部2を構成している組成物全体の重量に対して、好ましくは、20〜60重量%の範囲で使用される。コア部2にこれらの反応性モノマーを添加すると、ラジカル硬化型樹脂がある程度の流動性を持ったものとなり、穴の内部にアンカーを打ち込んだ際に、ラジカル硬化型樹脂とその硬化剤との混練混和が良好に行われ得る。
また、コア部2を構成している組成物中には、ラジカル硬化型樹脂の硬化促進剤を含めることができる。かかる硬化促進剤としては、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジメチル−P−トルイジン、N,N−ジヒドロキシプロピル−P−トルイジン、N,N−ジヒドロキシエチル−P−トルイジン等の芳香族アニリン類、ナフテン酸コバルト等の金属石鹸類、バナジルアセチルアセトネート等のキレート化合物等を用いることができる。これらの硬化促進剤は、ラジカル硬化型樹脂に対して、例えば、0.1〜5重量%の範囲で添加される。
また、コア部2を構成している組成物中には、そのコア部2自体に対して塑性や粘性を付与することのできる添加剤等を含めることができる。具体的には、珪酸、炭酸カルシウム、石膏、ガラスフレーク、マイカ、火山灰、シラス、シラスマイクロバルーン、コンクリート粉、ガラスマイクロバルーン、フライアッシュ等の無機化合物、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、グアーガム、ローカストビーンガム、ゼラチン、PVA、アラビアゴム、微結晶性セルロース、アミロース、アミロペクチン等の多糖類を含めることができる。また、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、シリカエーロゲル、有機改質粘土、クレー、シリカパウダー、酢酸セルロース、セピオライト、アエロジル(商品名、日本アエロジル社製)、チクソゲル(商品名、横浜化成社製)等のチクソトロピー付与剤を含めることができる。本発明においては、これらの添加剤を2種類以上組み合わせて使用することもできる。好ましくは、二酸化ケイ素、炭酸カルシウム、珪酸カルシウムを使用することができる。特に好ましくは、二酸化ケイ素を使用することができる。これらの添加剤を含めることによって、ラジカル硬化型樹脂を含むコア部2に対して塑性や粘性を付与できるので、接着剤本体1をプラスチック製のカプセル等に収容しなくとも、接着剤本体1の形状がほぼ一定に保たれる。このような添加剤は、好ましくは、ラジカル硬化型樹脂に対して300重量%以下の範囲で使用される。より好ましくは、ラジカル硬化型樹脂に対して5〜50重量%の範囲で使用される。
また、コア部2を構成している組成物中には、アンカーの固定強度を高めるための骨材類を含めることができる。このような骨材としては、特に限定されないが、マグネシアクリンカー、ガラス、セラミックス等の人工骨材、あるいは、硅石、大理石、御影石、珪砂、石英等の天然の無機系骨材等を使用することができる。また、硬質塩化ビニルのような硬質プラスチック製の有機系骨材を使用することもできる。
本発明において、コア部2を構成する組成物の粘度は、10Pa・s以上2000Pa・s以下の範囲であることが好ましい。なお、ここでいう「粘度」とは、20℃の条件で測定したときの粘度のことである。コア部2の中心部近傍と表層部近傍とでは粘度が異なる場合もあり得るが、ここでいう「粘度」とは、コア部2を構成する組成物の粘度を単独で20℃の条件で測定したときの値である。したがって、ここでいう「粘度」の意味は極めて明確である。コア部2を構成している組成物の粘度は、例えば、B型粘度計、E型粘度計、L型粘度計、R型粘度計、H型粘度計でのJIS K6833(粘度測定)あるいはこれに準じた粘度測定法によって測定することができる。コア部2を構成する組成物の粘度が10Pa・s未満であると、例えば射出成形機や押出成形機等によってコア部2を成形した場合に、コア部2が自身の形状を一定に維持することができなくなる。また、コア部2を構成する組成物の粘度が2000Pa・sよりも大きくなると、穴に接着剤本体1を充填してアンカーを打ち込んだ際における回転抵抗が高くなるとともに、コア部2に含まれるラジカル硬化型樹脂とその硬化剤との混合が良好に行われなくなる。コア部2を構成している組成物の粘度を10Pa・s以上2000Pa・s以下の範囲に調整するためには、上述した二酸化ケイ素等の各種の添加剤の量を調整すればよい。
(硬化剤層)
本発明に係るアンカー固定用接着剤では、未硬化のラジカル硬化型樹脂を含むコア部2の表面に対して、ラジカル硬化型樹脂の硬化剤を含む硬化剤層3が被覆される。この硬化剤としては、例えば、キュメンパーオキサイド等のハイドロオキサイド類、ジクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類、過酸化ベンゾイル等のジアシルパーオキサイド類、メチルエチルケトンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類、ビス−(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシケタール類、t−ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル類等の有機過酸化物、及びこれらの有機過酸化物をフタル酸ジシクロヘキシル等の有機物や、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム等の無機物で希釈したものも使用できる。好ましくは、パーオキサイド系硬化剤であり、より好ましくは、ジアシルパーオキサイド類であり、さらに好ましくは、過酸化ベンゾイル、及び過酸化ベンゾイルを希釈剤で希釈したものである。本発明においては、これらの各種硬化剤のうち2種類以上を組み合わせて使用することもできる。
また、硬化剤層3を構成している組成物中には、その硬化剤層3自体に対して塑性や粘性を付与することのできる添加剤等を含めることができる。具体的には、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、グアーガム、ローカストビーンガム、ゼラチン、PVA、アラビアゴム、微結晶性セルロース、アミロース、アミロペクチン等の多糖類、酢酸ビニル等である。また、石膏、粘土、珪酸ソーダ、珪酸カルシウム等も使用できる。さらに、各種接着剤、好ましくはアクリル系接着剤を使用することができる。本発明においては、これらの添加剤のうち2種類以上を組み合わせて使用することもできる。
また、硬化剤層3を構成している組成物中には、硫酸カルシウム等の適当な充てん剤を含めることもできる。例えば、繊維状、粉体状、粒状、チップ状あるいはフレーク状の硫酸カルシウムを含めることができる。このような充てん剤を含めることにより、硬化剤層3の強度の向上や成形性の向上を図ることができる。
また、硬化剤層3を構成している組成物中には、アンカーの固定強度を高めるための骨材類を含めることもできる。このような骨材としては、特に限定されないが、マグネシアクリンカー、ガラス、セラミックス等の人工骨材、あるいは、硅石、石英等の天然の無機系骨材を使用することができる。また、硬質塩化ビニルのような硬質プラスチック製の有機系骨材を使用することもできる。
また、硬化剤層3を構成している組成物中には、必要に応じて着色剤を添加することもできる。これにより、接着剤本体1に対して着色を施すことができるので、例えば用途やサイズの異なる複数種類の接着剤本体1を作製した場合であっても、これらの接着剤本体1の識別が容易になる。本発明において、硬化剤層3中に含める硬化剤としては、過酸化ベンゾイル等のパーオキサイド系硬化剤を使用することが好ましい。また、硬化剤層3に塑性や粘性を付与するための添加剤としては、アクリル系接着剤を使用することが好ましい。さらに、硬化剤層3中に含める充てん剤としては、硫酸カルシウムを使用することが好ましい。
コア部2の表面に対して硬化剤層3を被覆する方法としては、特に限定されないが、例えば、塗布、噴霧、侵漬、型成形等の手段を用いることができる。例えば、有機溶剤等に溶解させることで液状化された硬化剤を、スプレーガン等によってコア部2の表面に噴霧することにより被覆することができる。あるいは、有機溶剤等に溶解させることで液状化された硬化剤中に、コア部2の全体を侵漬させることによって被覆することができる。あるいは、粉体状に加工された硬化剤を、コア部2の表面にまぶすようにして被覆することもできる。あるいは、成形型の中央にセットしたコア部2の周囲に、ペースト状に調整した硬化剤を充填することによって被覆することができる。これらの手段を用いることにより、コア部2の表面に対して硬化剤層3をほぼ均一の厚みに被覆することができる。
(中間層)
図1及び図2に示すごとく、コア部2の外面と硬化剤層3の内面との間(界面近傍)には、中間層4が形成されている。この中間層4は、コア部2に含まれるラジカル硬化型樹脂と硬化剤層3に含まれる硬化剤との反応生成物からなるが、ある程度硬化形成されれば、それ以上反応が進行することなく、一定の厚みを保持している。もって、コア部2と硬化剤層3とを互いに隔離しており、コア部2に含まれるラジカル硬化型樹脂と硬化剤層3に含まれる硬化剤との硬化反応がそれ以上進行するのを防止している。これにより、コンクリート床面等の母材に穿設した穴に接着剤本体1を装填しても、アンカーボルトなどが打ち込まれるまでの間は、その穴に装填された接着剤本体1に含有されているラジカル硬化型樹脂を未硬化の状態に維持することができる。
中間層4は、ラジカル硬化型樹脂を含むコア部2の表面に対して、そのラジカル硬化型樹脂の硬化剤を例えば2段階で供給することにより形成することができる。例えば、コア部2の表面に対して先ず少量の硬化剤を供給することで薄い皮膜状の中間層4を形成した後に、その中間層4の上から残りの硬化剤を所定量供給することで硬化剤層3を被覆する。これにより、中間層4を間に挟んでコア部2及び硬化剤層3が層状に配置された多層構造の接着剤本体1を得ることができる。上述のように、ある程度中間層4が硬化形成されればそれ以上反応は進行しないので、コア部2の表面に対して硬化剤を1段階で供給した場合であっても、コア部2と硬化剤層3との間に皮膜状の中間層4を形成することができる。中間層4の厚みは、コア部2の表面に供給する硬化剤の量や濃度によって制御することができる。
本実施の形態に係る接着剤本体1においては、中間層4の厚みは、0.1μm以上2.0mm以下の範囲であることが好ましい。中間層4の厚みが0.1μm未満である場合には、コア部2と硬化剤層3との隔離が不十分となり、コア部2に含まれるラジカル硬化型樹脂と硬化剤層3に含まれる硬化剤との反応を完全に防ぐことができなくなるからである。反対に、中間層4の厚みが2.0mmよりも大きい場合には、コンクリート床面等に穿設した穴に接着剤本体1を装填してアンカーを打ち込んだ際に、この中間層4の破片によってラジカル硬化型樹脂とその硬化剤との混合が阻害されてしまうおそれがあるからである。
(コーティング層)
図1及び図2に示すごとく、本実施の形態に係る接着剤本体1には、硬化剤層3のさらに外側の表面に対して、樹脂製のコーティング層5が被覆されている。このコーティング層5が被覆されることによって、コア部2(もしくは硬化剤層3)に含まれている有機溶剤等の揮発性物質が大気中に揮散するのを防止することができる。
コーティング層5に用いられる樹脂としては、コア部2に含まれている有機溶剤等の揮散を防止できる樹脂であれば特に限定されないが、例えば、セラック樹脂、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂等を使用することができる。これらの樹脂のうち2種以上を組み合わせて使用することもできる。これらの樹脂の中では、セラック樹脂を使用することが特に好ましい。セラック樹脂は天然由来の成分からなるので、アンカー固定用接着剤を例えば素手で取り扱う際にも皮膚への影響が小さいからである。また、コーティング層5に使用する樹脂としては、透明あるいは半透明の樹脂を使用することが好ましい。コーティング層5が透明あるいは半透明であると、その内側の硬化剤層3の状態が透けて見えるので、硬化剤層3に含まれる硬化剤の劣化等を目視により確認することができる。また、コーティング層5に用いられる樹脂中には、樹脂以外のその他の成分、例えば、有機溶剤、着色料、顔料等が含有されていてもよい。
コーティング層5の厚みは、0.1μm以上1.0mm以下の範囲であることが好ましい。コーティング層5の厚みが0.1μm未満であると、コア部2(もしくは硬化剤層3)に含まれる有機溶剤等の揮発物質の揮散を十分に防止することができなくなるからである。反対に、コーティング層5の厚みが1.0mmよりも大きい場合には、コンクリート床面等に穿設した穴に接着剤本体1を装填してアンカーを打ち込んだ際に、このコーティング層5の破片によってラジカル硬化型樹脂とその硬化剤との混合が阻害されてしまうおそれがあるからである。
硬化剤層3の表面にコーティング層5を被覆する方法としては、特に限定されないが、例えば、塗布、噴霧、侵漬等の手段を用いることができる。例えば、加熱により溶融して液状化された樹脂を、刷毛やスプレーガン等を用いて硬化剤層3の表面に被覆することができる。あるいは、加熱により溶融して液状化された樹脂の中に、コア部2及び硬化剤層3が一体化された成型物を侵漬させることによって被覆することができる。これらの手段を用いることにより、硬化剤層3の表面に対してコーティング層5をほぼ均一の厚みに被覆することができる。なお、コーティング層5の厚みは、硬化剤層3の表面に樹脂を塗布する回数、硬化剤層3の表面に樹脂を噴霧する回数、樹脂の中に成型物を侵漬させる回数、樹脂の濃度や粘度等によって制御することが可能である。
(内圧上昇緩和効果確認試験)
以下に示す実施例及び比較例を用いて、アンカー固定用接着剤の成型時に中間層4の硬化形成によるコア部2の内圧の上昇から生じる組成物の染み出し及び中間層4の変形・破損の状況を確認した試験について説明する。なお、本実施例及び比較例は、本試験の性質上コア部2に中間層4を被覆したのみであり、完全なアンカー固定用接着剤としての形態ではない。つまり、硬化剤層3とコーティング層5とは形成していない。
(試験用接着剤の製造)
各実施例及び各比較例には、コア部に含有されるラジカル硬化型樹脂として、不飽和ポリエステル樹脂(スチレンモノマーを25重量%含有)を使用し、コア部に塑性を付与するための添加剤として二酸化ケイ素(商品名:ニップシール、日本シリカ工業社製)を、アンカーの固定強度を高めるための骨材として焼成骨材(セラミックスボール、粒径0.5〜1mm)をそれぞれ添加した。各実施例及び各比較例におけるこれらの配合量は表1に示す通りである。また、硬化剤層には、不飽和ポリエステル樹脂の硬化剤としてBPO(ベンゾイルパーオキサイド)粉末を使用し、これに充填剤として炭酸カルシウムを22重量%添加した。そして、不飽和ポリエステル樹脂と二酸化ケイ素と焼成骨材との混練樹脂に、所定の割合で収縮許容体を混合混練して押し出し成型したコア部の表面に対してBPO粉末を3g付与し、最終的に製品寸法が直径9mm×長さ100mmの円柱状の試験用接着剤を得た。
以下に、各実施例及び各比較例の収縮許容体の種類及び配合基準を説明する。
(実施例1)
収縮許容体7として、ポリエステルウレタンフォーム(商品名:激落ちバススポンジ、レック社製)を使用した。これを1辺が0.5mmの立方体にカットして、混練樹脂100gに対して10個の割合で混合した。
(実施例2)
収縮許容体7として、メラミンフォーム(商品名:激落ちくん、レック社製)を使用した。これを1辺が0.5mmの立方体にカットして、混練樹脂100gに対して8個の割合で混合した。
(実施例3−1〜3)
収縮許容体7として、外径1.56mm、内径0.96mmのテフロン(登録商標)製チューブ(商品名:チューコーフロースパゲッティチューブ、中興化成工業社製)を使用した。これをそれぞれ長さ3mm(実施例3−1)、5mm(実施例3−2)、10mm(実施例3−3)にカットして、混練樹脂100gに対して15個の割合で混合した。
(実施例4−1〜2)
収縮許容体7として、外径1.65mm、内径0.85mmのガラス製細管(商品名:ヘマトクリット毛細管、日電理化硝子社製)を使用した。これを長さ3.5mmにカットして、混練樹脂100gに対してそれぞれ10個(実施例4−1)、15個(実施例4−2)の割合で混合した。
(比較例1)
収縮許容体7として、外径1.56mm、内径0.96mmのテフロン(登録商標)製チューブ(商品名:チューコーフロースパゲッティチューブ、中興化成工業社製)を使用した。これを長さ1mmにカットして、混練樹脂100gに対して15個の割合で混合した。
(比較例2−1〜2)
収縮許容体7として、外径1.65mm、内径0.85mmのガラス製細管(商品名:ヘマトクリット毛細管、日電理化硝子社製)を使用した。これを長さ3.5mmにカットして、混練樹脂100gに対してそれぞれ3個(比較例2−1)、5個(比較例2−2)の割合で混合した。
(比較例3−1〜3)
収縮許容体7として、平均粒径60μm、真密度0.28〜0.34g/cmのガラスバルーン(開口なし)(商品名:CEL−STAR、東海興業社製)を使用した。これを混練樹脂100gに対してそれぞれ3g(比較例3−1)、5g(比較例3−2)、10g(比較例3−3)の割合で混合した。
(比較例4−1〜3)
収縮許容体7として、それぞれ粒径1〜2mmのパーライト粒子(商品名:パーライト、刀川平和農園社製)及びハロイサイト粒子(商品名:濾過一番サンド、ジェックス社製)を使用した。これを混練樹脂100gに対してそれぞれ3g(比較例4−1)、5g(比較例4−2)、10g(比較例4−3)の割合で混合した。
上記の要領で得た各実施例及び各比較例において、それぞれ試験用接着剤を成型後、中間層4が完全に硬化形成されたときの外観について目視により観察し、中間層形成時の硬化収縮によるコア部の内圧上昇から生じる組成物の染み出し及び中間層の変形・破損の有無を確認した。その結果を表1に示す。なお、その際の判定基準は、○:コア部組成物の染み出しや中間層の変形・破損は一切認められなかった、×:コア部組成物の染み出しや中間層の変形・破損が認められた、である。
Figure 2008169286
表1からも明らかなように、収縮許容体としてスポンジ体(実施例1、2)や開口を有する中空体(実施例3、4)を使用すれば、中間層が硬化形成されてもコア部内の組成物が染み出したり中間層に変形や破損を生じることがなかった。これに対して、収縮許容体として開口を有しないガラスバルーン(比較例3)や内部空間を有しない粒子(比較例4)を使用しても、コア部組成物の逃げ場がないことから内圧上昇緩和効果は得られないことが判る。また、比較例1、2のように収縮許容体の混合量が少ないと、許容できる体積の総和も少なくなるので、中間層の硬化収縮率に対してコア部組成物の逃げ場が足りないことから、良好な結果が得られないことが判明した。
(混合量確認試験)
そこで、どの程度の収縮許容体を混合すべきかの目安を算定するために、収縮許容体の混合量を段階的に変更して、その際の収縮許容効果を確認した。本試験での試験用接着剤は、上記内圧上昇緩和効果確認試験での実施例4や比較例2と同様に作成し、直径10mm、長さ100mmの円柱状試験用接着剤とした。このときの収縮量は32mmであった。収縮許容体としては、内径1.2mm、外径2mm、長さ6mm、(空間体積約6.8mm)のガラス製細管を使用した。その結果を表2に示す。
Figure 2008169286
表2からも明らかなように、コア部の体積が収縮する分と同等以上の収縮許容量があれば、外観的には全く問題がないことがわかる。また、収縮許容量がコア部の体積が収縮する分より若干低くても、大きな影響がない程度の効果は発揮できることがわかった。
アンカー固定用接着剤の斜視図である。 図1のA−A線断面図である。 中空体による内圧上昇緩和機構を示す説明図である。 スポンジ体による内圧上昇緩和機構を示す説明図である。
符号の説明
1 接着剤本体
2 コア部
3 硬化剤層
4 中間層
5 コーティング層
7 収縮許容体

Claims (4)

  1. 未硬化のラジカル硬化型樹脂を含むコア部と、ラジカル硬化型樹脂の硬化剤を含みコア部の表面を被覆する硬化剤層と、コア部と硬化剤層との間に、ラジカル硬化型樹脂と硬化剤との反応生成物からなる中間層とを有するアンカー固定用の接着剤であって、
    前記コア部に、前記中間層の硬化形成にともなってコア部の収縮を許容する収縮許容体を混合したことを特徴とするアンカー固定用接着材。
  2. 前記収縮許容体が、少なくとも一つの開口を有する中空体である請求項1記載のアンカー用接着剤。
  3. 前記収縮許容体が、スポンジ体である請求項1記載のアンカー用接着材。
  4. 前記硬化剤層の表面に対して、樹脂製のコーティング層が被覆されている請求項1乃至3のいずれかに記載のアンカー固定用接着剤。

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