JP2008163394A - 導電性中空パイプの焼き入れ装置および導電性中空パイプの焼き入れ方法 - Google Patents

導電性中空パイプの焼き入れ装置および導電性中空パイプの焼き入れ方法 Download PDF

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Abstract

【課題】スチール製ゴルフシャフトのような肉薄の導電性のパイプ材料に対する高周波誘導加熱を用いた焼き入れ技術において、表面における凹凸の発生を抑え、また焼き入れ部分の冷却不良を抑える。
【解決手段】肉薄パイプ形状のゴルフシャフトWを加熱コイル210内で下降させ高周波加熱を行い、その後ゴルフシャフトWを焼入油310に漬けて冷却を行うことでゴルフシャフトWに対する焼き入れを行う。この際、ゴルフシャフトW内に不活性ガスを供給し、ゴルフシャフトWの内部に焼入油310が侵入しないようにする。こうすることで、ゴルフシャフトWの内部における焼入油310の沸騰が抑えられ、沸騰に伴う焼入油310の吹き上がりが防止される。そして、焼入油310の吹き上がりによる不均一な冷却が防止される。
【選択図】図1

Description

本発明は、例えばスチール製のゴルフシャフトに利用される導電性中空パイプへの焼き入れを行うための装置および焼き入れの方法に関する。
高周波を用いてスチール製のゴルフシャフトに焼き入れを行う技術として、例えば特許文献1や2に記載されたものが知られている。これらの技術では、誘導加熱された部分を水冷ジャケット内で移動させ、その際に水流を当てることで、冷却を行い焼き入れを行っている。
特開昭59−16624号 特許第3499476号
一般に効果的な焼き入れを行うには、加熱した部分を急冷することが重要となる。この点、冷却方法として液体を用いる方法は、急冷を行うには効果的である。しかしながら、水流を当てる方式は、冷却液の接触が不均一になり易く、焼き入れした部分の表面に最大で20μm程度の高低差の凹凸が発生する。この凹凸は、ゴルフシャフトの意匠性を低下させるので好ましくない。
一方、水流を当てるのではなく、冷却液にゴルフシャフトの加熱した部分を浸漬し、冷却を行う方法もある。しかしながら、この方法では、ゴルフシャフトの内部に侵入した冷却液が、沸騰し易く、ゴルフシャフト内側の焼き入れが不均一になる問題が発生する。シャフトの焼き入れ部分をその軸方向に移動させて冷却液に下していった場合、シャフト内部の焼き入れ部分に接触した冷却液は、瞬間的に沸騰する。この結果、シャフト内部における冷却液の吹き上がりが発生する。冷却液の吹き上がりが発生すると、シャフト表面(この場合は内面)への冷却液の接触が不均一な状態となり、周方向における均一な冷却が阻害され、焼き入れにムラが発生する。焼き入れにムラが発生すると、シャフトの曲がり変形や強度の低下が発生し易い。特にゴルフシャフトのような肉薄のパイプ材料に対する高周波焼き入れにおいては、この問題が顕著となる。
そこで本発明は、スチール製ゴルフシャフトのような肉薄の導電性のパイプ材料に対する高周波誘導加熱を用いた焼き入れ技術において、表面における凹凸の発生を抑え、また焼き入れ部分の冷却不良を抑えることで変形が少なく、高い強度と靱性のバランスの良い導電性のパイプ材料を得る技術の提供を目的とする。
請求項1に記載の発明は、導電性中空パイプを加熱コイル内で移動させ、前記導電性中空パイプに対して誘導加熱を行う誘導加熱手段と、前記導電性中空パイプをその先端から冷却液に浸し、前記誘導加熱が行われた部分を冷却する冷却手段と、前記導電性中空パイプの内部に気体を供給する気体供給手段とを備えることを特徴とする導電性中空パイプの焼き入れ装置である。
請求項1に記載の発明によれば、導電性中空パイプの内側に気体を供給しつつ冷却液に浸しての冷却を行うので、導電性中空パイプ内部における冷却液の沸騰が抑えられ、それによる冷却液に吹き上がりを抑えることができる。このため、冷却液の吹き上がりに起因して冷却効果が不均一になることを抑制し、それにより変形の発生を抑え、また強度の低下を抑えることができる。また、冷却液に漬けて導電性中空パイプの被加熱部分を冷却するので、パイプの周方向における冷却効果を均一なものとすることができる。そのため、導電性中空パイプの外周に凹凸が発生することを抑えることができる。
請求項2に記載の発明は、導電性中空パイプを加熱コイル内で移動させ、前記導電性中空パイプに対して誘導加熱を行う誘導加熱手段と、前記導電性中空パイプをその先端から冷却液に浸し、前記誘導加熱が行われた部分を冷却する冷却手段と、前記導電性中空パイプの内部に気体を供給し、前記導電性中空パイプの内部の圧力を外部の圧力に対して大きな値にする気体供給手段とを備えた導電性中空パイプの焼き入れ装置である。
導電性中空パイプとしては、各種の金属材料、特に各種のスチール材料を挙げることができる。本発明は、高周波誘導による誘導加熱を行う技術に関するものであるから、導電性中空パイプは、焼入性の良い材質であることが好ましい。このような材質としては、炭素鋼,構造用鋼などを挙げることができる。
請求項2に記載の発明によれば、導電性中空パイプの内側の圧力を外側に圧力に対して高くすることで、導電性中空パイプ外側における冷却液の液面位置に比較して、導電性中空パイプ内側における冷却液の液面位置を下げることができる。このため、冷却液が導電性中空パイプ内側の高温部分(未冷却部分)に接触しないようにすることができ、導電性中空パイプ内側における冷却液の沸騰、およびそれに伴う吹き上がりを防止することができる。そして、冷却液の吹き上がりに起因して冷却効果が不均一になることを抑制し、それにより変形の発生を抑え、また強度の低下を抑えることができる。また、冷却液に漬けて導電性中空パイプの被加熱部分を冷却するので、パイプの周方向における冷却効果を均一なものとすることができる。そのため、導電性中空パイプの外周に凹凸が発生することを抑えることができる。
また請求項3に記載の発明は、導電性中空パイプを加熱コイル内で移動させ、前記導電性中空パイプに対して誘導加熱を行う誘導加熱手段と、前記導電性中空パイプをその先端から冷却液に浸し、前記誘導加熱が行われた部分を冷却する冷却手段と、前記導電性中空パイプの外部の圧力を減圧状態とし、前記導電性中空パイプの外部の圧力を内部の圧力に対して小さな値とする減圧手段とを備える導電性中空パイプの焼き入れ装置である。
請求項2に記載の発明によれば、導電性中空パイプの外部を内部に比較して減圧状態とすることで、導電性中空パイプ内における冷却液の液面を外部の液面に比較して低くすることができる。このため、導電性中空パイプ内側において、冷却液が高温部分(未冷却部分)に接触しないようにすることができ、導電性中空パイプ内側における冷却液の沸騰、およびそれに伴う吹き上がりを防止することができる。そして、冷却液の吹き上がりに起因して冷却効果が不均一になることを抑制し、それにより変形の発生を抑え、また強度の低下を抑えることができる。
請求項4に記載の発明は、導電性中空パイプを加熱コイル内で移動させ、前記導電性中空パイプに対して誘導加熱を行う誘導加熱手段と、前記導電性中空パイプをその先端から冷却液に浸し、前記誘導加熱が行われた部分を冷却する冷却手段とを備え、前記導電性中空パイプの先端を塞いだ状態で前記冷却が行われることを特徴とする導電性中空パイプの焼き入れ装置である。
請求項4に記載の発明によれば、冷却液に浸漬される導電性中空パイプの先端に栓がされ、塞がれるので、導電性中空パイプ内部への冷却液の侵入が防止される。このため、導電性中空パイプ内側において、冷却液が高温部分(未冷却部分)に接触しないようにすることができ、導電性中空パイプ内側における冷却液の沸騰、およびそれに伴う吹き上がりを防止することができる。そして、冷却液の吹き上がりに起因する冷却が不均一になることを抑制することができる。
請求項5に記載の発明は、導電性中空パイプを加熱コイル内で移動させ、前記導電性中空パイプに対して誘導加熱を行う誘導加熱手段と、前記導電性中空パイプをその先端から冷却液に浸し、前記誘導加熱が行われた部分を冷却する冷却手段と、前記冷却時に前記導電性中空パイプの内部における前記冷却液の液面の位置を、前記導電性中空パイプの外部における前記冷却液の液面の位置よりも低い位置に設定する液面設定手段とを備えることを特徴とする導電性中空パイプの焼き入れ装置である。
請求項5に記載の発明によれば、意図的に冷却液の液面の位置を調整し、導電性中空パイプ内部の冷却液面の位置を導電性中空パイプ外部の冷却液面の位置に比較して低くすることで、請求項1〜4のいずれかに記載された発明と同様な効果を得ることができる。請求項5に記載の発明における液面設定手段としては、例えば請求項1または2に記載された気体供給手段、請求項3に記載された減圧手段、請求項4に記載された導電性中空パイプの先端を塞ぐ構成、更にこれらの組み合わせ等を挙げることができる。
以上説明した構成において、請求項6に記載するように、加熱コイルを覆うチャンバーと、このチャンバー内に気体を供給する気体供給手段とを備えることが好ましい。この態様によれば、加熱コイルがチャンバー内に収められ、そこに気体が供給されることで、油煙が加熱されて発火することを抑えることができる。これにより、焼き入れ工程における安全性を高めることができる。
また、請求項6に記載した発明において、導電性中空パイプの内部の圧力は、チャンバー内の圧力よりも高く設定され、チャンバー内の圧力は、チャンバー外の圧力よりも高く設定されることが望ましい。この態様によれば、圧力差により、導電性中空パイプの内部に冷却液が侵入することが規制され、さらにチャンバー内の圧力をチャンバー外の圧力よりも高くすることで、チャンバー内を供給した気体で満たすことができる。
チャンバーの下端は、冷却液に接触している状態とすることが好ましい。この態様によれば、チャンバーの下方が冷却液の液面によって塞がれるので、効率良くチャンバー内の圧力調整を行うことができる。また、チャンバー内に供給する気体の消費量を減らすことができる。
請求項9に記載の発明は、導電性中空パイプを加熱コイル内で移動させ、前記導電性中空パイプに対して誘導加熱を行う誘導加熱手段と、前記導電性中空パイプをその先端から冷却液に浸し、前記誘導加熱が行われた部分を冷却する冷却手段と、前記加熱コイルを覆うチャンバーと、前記チャンバーの内部に気体を供給する気体供給手段とを備えることを特徴とする導電性中空パイプの焼き入れ装置である。
請求項9に記載の発明によれば、加熱コイルがチャンバー内に収められ、そこに気体が供給されることで、油煙が加熱されて発火することを抑えることができる。これにより、焼き入れ工程における安全性を高めることができる。
請求項10に記載の発明は、導電性中空パイプを加熱コイル内で移動させ、前記導電性中空パイプに対して誘導加熱を行う誘導加熱手段と、前記導電性中空パイプをその先端から冷却液に浸し、前記誘導加熱が行われた部分を冷却する冷却手段と、前記加熱コイルを覆うチャンバーと、前記チャンバーの内部に気体を供給し、前記チャンバーの内部の圧力を外部の圧力に対して大きな値にする気体供給手段とを備えることを特徴とする導電性中空パイプの焼き入れ装置である。
請求項11に記載の発明は、導電性中空パイプを加熱コイル内で移動させ、前記導電性中空パイプに対して誘導加熱を行う誘導加熱手段と、前記導電性中空パイプをその先端から冷却液に浸し、前記誘導加熱が行われた部分を冷却する冷却手段と、前記加熱コイルを覆うチャンバーと、前記チャンバーの外部の圧力を減圧状態とし、前記チャンバーの外部の圧力を内部の圧力に対して小さな値とする減圧手段とを備えることを特徴とする導電性中空パイプの焼き入れ装置である。
請求項12に記載の発明は、導電性中空パイプを加熱コイル内で移動させ、前記導電性中空パイプに対して誘導加熱を行う誘導加熱手段と、前記導電性中空パイプをその先端から冷却液に浸し、前記誘導加熱が行われた部分を冷却する冷却手段と、前記加熱コイルを覆うチャンバーと、前記冷却時に前記チャンバーの内部における前記冷却液の液面の位置を、前記チャンバーの外部における前記冷却液の液面の位置よりも低い位置に設定する液面設定手段とを備えることを特徴とする導電性中空パイプの焼き入れ装置である。
請求項12に記載の発明における液面設定手段としては、請求項9または10に記載の発明における気体供給手段、請求項11に記載の発明における減圧手段を挙げることができる。請求項10〜12に記載の発明によれば、請求項9に記載の発明と同様に油煙が加熱されて発火することを抑えることができる。
請求項13に記載の発明は、請求項6〜12のいずれか一項に記載の発明において、チャンバーには、導電性中空パイプが通過する開口が形成されており、この開口の部分にチャンバーと導電性中空パイプとの隙間を塞ぐシール部材が配置されていることを特徴とする。この態様によれば、チャンバー内の圧力を大気圧に対して高い圧力に保つ圧力制御を容易にまた正確に行うことができる。また、チャンバー内に供給する気体の消費量を減らすことができる。
請求項14に記載の発明は、導電性中空パイプやチャンバー内に供給される気体が空気または不活性ガスであることを特徴とする。不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等の希ガス、二酸化炭素ガス、あるいはこれらガスの混合ガスを利用することができる。また、空気と不活性ガスとを混合したものを利用することもできる。特に不活性ガスを利用することは、加熱部分の酸化防止、および油煙の発火を抑える上で好ましい。
請求項1〜3のいずれか一項に記載の発明において、導電性中空パイプの冷却液に浸されない他端に接続され、導電性中空パイプ内に気体を供給するノズルを備える構成とすることが好ましい。この態様によれば、導電性中空パイプの内部には、ノズルから気体が供給され、導電性中空パイプ内の圧力の制御が行われる。
また、このノズルが導電性中空パイプを移動させる手段を兼ねる構成であることが好ましい。この態様によれば、ノズルに導電性中空パイプが接続され、ノズルが動くことで、導電性中空パイプの移動が行われる。
本発明は、導電性中空パイプの焼き入れ方法として把握することもできる。すなわち、請求項17に記載の発明は、導電性中空パイプを加熱コイル内で移動させ、前記導電性中空パイプに対して誘導加熱を行う共に、前記導電性中空パイプをその先端から冷却液に浸し、前記誘導加熱が行われた部分を冷却し、前記冷却時に前記導電性中空パイプの内部に供給することを特徴とする導電性中空パイプの焼き入れ方法である。
請求項18に記載の発明は、導電性中空パイプを加熱コイル内で移動させ、前記導電性中空パイプに対して誘導加熱を行う共に、前記導電性中空パイプをその先端から冷却液に浸し、前記誘導加熱が行われた部分を冷却し、前記冷却時に前記導電性中空パイプの前記加熱コイルおよび前記冷却液に浸る空間を外部の空間から遮断し、該空間の内部に期待を供給することを特徴とする導電性中空パイプの焼き入れ方法である。
請求項19に記載の発明は、導電性中空パイプを加熱コイル内で移動させ、前記導電性中空パイプに対して誘導加熱を行う共に、前記導電性中空パイプをその先端から冷却液に浸し、前記誘導加熱が行われた部分を冷却し、前記冷却時に前記導電性中空パイプの内部における前記冷却液の液面の位置を、前記導電性中空パイプの外部における前記冷却液の液面の位置よりも低い位置にすることを特徴とする導電性中空パイプの焼き入れ方法である。
請求項20に記載の発明は、導電性中空パイプを加熱コイル内で移動させ、前記導電性中空パイプに対して誘導加熱を行う共に、前記導電性中空パイプをその先端から冷却液に浸し、前記誘導加熱が行われた部分を冷却し、前記冷却時に前記導電性中空パイプの内部への前記冷却液の侵入を制限することを特徴とする導電性中空パイプの焼き入れ方法である。
本発明によれば、スチール製ゴルフシャフトのような肉薄の導電性のパイプ材料に対する高周波誘導加熱を用いた焼き入れ技術において、表面における凹凸の発生を抑え、また焼き入れ部分の冷却不良を抑えることができる。そのため意匠性に優れ、変形が少なく、また高い強度と靱性のバランスの良い導電性のパイプ材料を得ることができる。
(1)第1の実施形態
(1−1)焼き入れ装置の構成
本実施形態では、導電性中空パイプの一例としてゴルフシャフトを例に挙げ、またこの
ゴルフシャフトへの焼き入れを行う焼き入れ装置の例を説明する。またここでは、導電性中空パイプ内部への冷却液の侵入を制限する手法として、導電性中空パイプ内に不活性ガスを導入し、その圧力を周囲の圧力よりも高くすることで、導電性中空パイプ内の冷却液面の位置を制御する場合の例を説明する。
図1は、本発明を利用した焼き入れ装置の概要を示す概念図である。図1には、焼き入れ装置1が示されている。焼き入れ装置1は、搬送装置100、加熱装置200、油槽300、シャフト用気体供給装置400、チャンバー500およびチャンバー用気体供給装置600を備えている。
ここで、符号Wは、ゴルフシャフトである。このゴルフシャフトWは、長尺なパイプ状(管状)であり、鉄を主成分としたスチール製である。具体的には、材質がC,Si,Mn,Ni,Crを主成分とする鉄材料である。ゴルフシャフトWは、その厚みが薄肉(この例では、平均300μm)であり、外径および厚みが長手方向に徐々に変化している。ゴルフシャフトの材質としては、上述した例示以外に、C,Si,Mn,Ni,Cr,Mo,VやC,Si,Mn,Cr,Moなど主成分とするスチール材料を利用することができる。
搬送装置100は、ゴルフシャフトWを上下に移動させる機能を有している。搬送装置100は、焼き入れ装置1が固定された床に対して垂直に固定された取り付け板2に固定されている。搬送装置100は、昇降用アクチュエータ111を備えている。昇降用アクチュエータ111は、図示省略した駆動モータと、この駆動モータによって駆動されるボールネジドライブ機構を備えている。昇降用アクチュエータ111には、昇降用シリンダー112が設けられている。昇降用シリンダー112の側面(図の右側側面)には、スリットが設けられており、このスリットを介して可動台座113が、前述のボールネジドライブ機構に接続されている。ボールネジドライブ機構が駆動されると、昇降用シリンダー112に対して、可動台座113が上下に移動する。可動台座113には、ガイドノズル120を固定するガイドノズル固定部113が固定されている。この機構によれば、昇降用アクチュエータ111内のボールドライブ機構により、ガイドノズル120を上下に移動させることができる。
ガイドノズル120は、非導電性で非磁性の部材(例えばセラミックス)で形成されており、ガイドノズル120の先端がゴルフシャフトWの後端に挿入されて、ゴルフシャフトWがガイドノズル120に固定される。ガイドノズル120に対するゴルフシャフトWの固定構造は、締め付け部材を用いる等の他の構造であってもよい。ガイドノズル120は非導電性で非磁性の部材で形成されているため、ガイドノズル120が加熱装置200内で移動しても、ガイドノズル120は誘導加熱されない。ガイドノズル120は、ゴルフシャフトWの上端と接続することによりゴルフシャフトWを上下に移動させるとともに、シャフト用気体供給装置400から供給される不活性ガス(この例では窒素ガス)をゴルフシャフトWの内部に供給する。
加熱装置200は、加熱コイル210を備えている。加熱コイル210は、ソレノイドコイル構造を有し、この加熱コイル210の略軸中心上をゴルフシャフトWが上下に移動する。図示省略した高周波電源から加熱コイル210に高周波電流を供給することで、加熱コイル210内に移動してきたゴルフシャフトWに対して誘導加熱が行われる。加熱コイル210に供給される高周波電流の電力の値は、ゴルフシャフトWの外径および厚みの変化に応じて制御することができる。加熱コイル210に供給する高周波電圧を制御することで、ゴルフシャフトWの加熱状態を調整することができる。これにより、ゴルフシャフトWのオーステナイトの結晶粒微細化が実現できる。また、オーステナイトの分布や割合を適切なものに調整することができる。このため、強度と靱性のバランスの優れたシャフト材を得ることができる。なお、利用される高周波としては、周波数が30〜200kHz程度、投入電力が10〜120kW程度の範囲から選択される。加熱条件は、予め実験的に求めておき、それに基づいてコンピュータ制御により制御されるようにする。
加熱装置200における制御内容の一例としては、ゴルフシャフトWの外径が小さい部分では、加熱装置200が供給する電圧を大きくし、ゴルフシャフトWの外径が大きい部分では、加熱装置200が供給する電圧を小さくし、焼き入れ効果の均一性を確保する例を挙げることができる。また、長手方向における焼き入れの程度を制御するために、長手方向における投入電力の分布を制御する例を挙げることもできる。
油槽300は、冷却液として焼入油310を保持しており、ゴルフシャフトWを略垂直にした状態で、焼入油310にゴルフシャフトWの全体を浸せる深さに成型されている。加熱装置200により加熱されたゴルフシャフトWは、ゴルフシャフトWの先端から焼入油310に浸され、誘導加熱により加熱された部分が順次焼入油310によって冷却される。焼入油は、沸点が500℃程度の市販の焼入用油を利用する。冷却液として、油を利用するのは水に比べて冷却速度が遅くまた沸点が高いため、ゴルフシャフトWにおける冷却速度のムラが発生し難いためである。
シャフト用気体供給装置400は、ガイドノズル120を介して、ゴルフシャフトWの内部に不活性ガス(この例では窒素ガス)を供給する。これにより、ゴルフシャフトWの先端から焼入油310がゴルフシャフトWの内部に侵入するのを制限することができる。この例において、シャフト用気体供給装置400は、ゴルフシャフトWの先端が焼入油310に浸された時点で、ゴルフシャフトWの内部の圧力を外部の圧力(大気圧=常圧)に対して大きな値に変化させ、ゴルフシャフトWの内部における焼入油310の油面の位置をゴルフシャフトWの外部における焼入油310の油面の位置よりも低い位置になるように調整を行う。
チャンバー500は、加熱コイル210とゴルフシャフトWの加熱された部分を覆い、焼入油310の油面にチャンバー500の下端が接触する位置に配置されている。チャンバー500には、チャンバー用気体供給装置600から配管601を介して、不活性ガス(この例では窒素ガス)が供給され、内部の圧力が調整される。
チャンバー500は、開口部510を備えている。この開口部510に、耐熱性のゴムで構成され、中央に開口を有したシール材520が配置されている。このシール材520の開口部分にゴルフシャフトWが挿入され、この開口中をゴルフシャフトWが移動可能とれている。この開口は、開口部510を通過するゴルフシャフトWとチャンバー500との隙間を塞いでいる。この開口は、ゴルフシャフトWの最小外径部分よりも径が小さいため、この開口の径より大きいゴルフシャフトWは、ゴムの変形でシール材520と常に接触する。したがって、長手方向で外径が変化するゴルフシャフトWを上下に移動させても、チャンバー500の上部でゴルフシャフトWとチャンバー500との間に隙間が発生することが防止される。そのため、チャンバー500内に供給された不活性ガスの圧力を大気圧に比較して高く調整することが容易となる。また、チャンバー500内に供給された不活性ガスの消費を抑えることができる。
チャンバー用気体供給装置600は、図1に示すように、チャンバー500の左方向および右方向からチャンバー500内に不活性ガスを供給する。図1には、チャンバー用気体供給装置600からチャンバー500に不活性ガスを供給する右側の配管601が示されている。
チャンバー500内を大気圧に対して高い圧力にすることで、チャンバー内を不活性ガスで満たし、加熱されたゴルフシャフトWが酸化するのを防止することができる。また、チャンバー500内への不活性ガスの供給は、チャンバー500内の圧力が、ゴルフシャフトWの内部の圧力よりも低くなるように調整する。
(1−2)焼き入れ装置の動作の例
次に焼き入れ装置1の焼き入れ動作の一例について図を参照して説明する。まず、図1に示すように、ゴルフシャフトWの後端に搬送装置100のガイドノズル120の先端を接続する。そして、加熱装置200から加熱コイル210に高周波電流を供給する。また、チャンバー用気体供給装置600からチャンバー500内に不活性ガスを供給し、さらにシャフト用気体供給装置400からガイドノズル120を介してゴルフシャフトWの内部に不活性ガスを供給する。この際、チャンバー500内およびゴルフシャフト内の圧力を例えば3気圧とする。なお、ここで1気圧は、焼き入れ装置1が置かれた環境の圧力を基準とした圧力(大気圧)として定義される。
そして、搬送装置100により加熱装置200の加熱コイル210内にゴルフシャフトWを上方から下方に向けて移動させる。この際、加熱コイル210の中心軸上をゴルフシャフトWが移動するようにする。加熱コイル210内をゴルフシャフトWが移動する際、ゴルフシャフトWに誘導電流が流れ、ゴルフシャフトWが誘導加熱される。また、ゴルフシャフトWを移動させる際、ゴルフシャフトWの外径および厚みの変化に応じて加熱コイル210に供給する電力の値を制御し、加熱の状態を調整する。この調整は、予め実験的に採取しておいたデータを利用して行われる。
ゴルフシャフトWがある程度下降すると、ゴルフシャフトWは、その先端から油槽300の焼入油310に浸される。この際、加熱された部分が冷却され、焼き入れが行われる。また、ゴルフシャフトWの先端が焼入油310に浸されたタイミングでシャフト用気体供給装置400から供給される不活性ガスの圧力を増大させ、ゴルフシャフトWの先端から焼入油310がゴルフシャフトWの内側に入り込まないようにする。つまり、パイプ形状のゴルフシャフトWの内部における油面の位置が、ゴルフシャフトWの先端部分に概略位置するようにシャフト用気体供給装置400から供給される不活性ガスの圧力を調整する。この圧力の調整は、予め実験的に取得しておいたデータに基づいて行われる。なお、ゴルフシャフトWの先端が、焼入油310に浸かった後の状態において、大気圧<チャンバー500内の圧力<ゴルフシャフトW内の圧力の関係が保たれる。
ゴルフシャフトWを下降させてゆくことで、加熱コイル210から誘導される誘導電流による加熱が先端部分から上に向かって徐々に行われ、また加熱された部分が焼入油310に浸かることで、その部分の冷却が行われる。そして、ゴルフシャフトWの上端(あるいは所定部分)が焼入油310に浸かった段階で加熱コイル210に供給する高周波電流をゼロにし、その後ゴルフシャフトWを引き上げる。こうしてゴルフシャフトWに対する焼き入れが終了する。
(1−3)実施形態の優位性
この実施形態においては、ゴルフシャフトWの先端が冷却液に浸かった状態において、ゴルフシャフトWの内部にシャフト用気体供給装置400から不活性ガスが供給され、ゴルフシャフトW外部の圧力に比較して内部の圧力が高くなるように調整が行われる。これにより、ゴルフシャフト500の内部における焼入油310の油面が、ゴルフシャフトW周囲の油面より低くなり、ゴルフシャフトWの内部における油面を誘導加熱された高温の部分から遠ざけることができる。そのためゴルフシャフトW内部における焼入油310の沸騰が抑えられ、焼入油310の噴き上げを防止することができる。そして、ゴルフシャフトW内部における焼入油310の吹き上がりにより焼き入れ効果が不均一になる現象が抑制され、強度特性と靱性特性のバランスがとれたゴルフシャフトを得ることができる。また、ゴルフシャフトWの内部で、焼入油310の油煙の発生が抑えられ、その発火の可能性を低減することができる。このため、焼き入れ工程における安全性を高めることができる。
また、チャンバー500内にチャンバー用気体供給装置600から不活性ガスが供給され、チャンバー内が不活性ガスで満たされる。これにより、油煙の発火を抑えることができ、作業時における安全性を高めることができる。
(1−4)焼き入れ処理の効果
本実施形態で説明した焼き入れ方法を採用したゴルフシャフトの物性の一例を説明する。図2は、図1に示す装置で焼き入れ処理を施したゴルフシャフトの表面の凹凸状態を計測した結果を示すグラフである。図2において、横軸は、ゴルフシャフトの周方向の距離を示し、縦軸は凹凸の上下方向の変位を示す。図2において、実線が本実施形態を利用して焼き入れを行った場合の計測値である。また、点線は、本実施形態の焼入油による冷却を行う方法に代えて、周囲から水流を当てて冷却を行う水冷ジャケット構造を利用しての冷却を行った場合の計測値である。なお、冷却方法以外の条件は、両者で同じである。
図2を見ると、本発明を利用した場合、水冷ジャケット方式に比較して、表面の凹凸の変化を大きく抑えることが可能であることが分かる。ゴルフシャフトは、意匠性が重要であるので、図2の点線で示されるような凹凸の存在は好ましくない。また、肉厚が700μm程度以下と薄いので、最大で20μmを超える凹凸の存在は、強度を確保する点でも好ましくない。本発明を利用すると、凹凸の高低差を1.5μm程度以下に抑えることができ、またその起伏を緩やかなものとすることができる。このため、意匠性および強度確保の点で好ましいものとなる。
図3は、焼き入れ前後におけるゴルフシャフトの曲がり変形量を示すグラフである。図3において、横軸はゴルフシャフトの長手方向の位置を示し、縦軸は曲がり変形量を示す。曲がり変形量というのは、ゴルフシャフトが完全な直線である場合の位置から軸に垂直な方向に変位した値である。図3において、実線は、本実施形態で示す装置および方法を用いて焼き入れを行った場合(液面調整有)におけるゴルフシャフトの長手方向における曲がり変形量の変化を示す。また、点線は、本実施形態で示す装置において、ガイドノズル120から不活性ガスをゴルフシャフトWの内側に供給しない条件で焼き入れを行った場合(液面調整無)におけるゴルフシャフトの長手方向における曲がり変形量の変化を示す。つまり、実線は、ゴルフシャフトの内部における冷却液の液面位置を下げて加熱後の冷却を行うことで、ゴルフシャフト内部における焼入油の吹き上がりを防止しつつ冷却を行った場合のデータである。また、点線は、ゴルフシャフトの内部における冷却液の液面位置の調整を行わずに加熱後の冷却を行った場合のデータである。なお、両者でゴルフシャフトW内への不活性ガスの供給の有無以外は、焼き入れ条件は同じとした。
図3から明らかなように、ゴルフシャフトの内部における冷却液面位置の調整を行わない場合、点線のデータで示すように、ゴルフシャフトは、長手方向において大きく変形する。これは、以下の理由によるものであると推察される。すなわち、ゴルフシャフトの内部において、高温に加熱された部分に冷却液が接触すると、狭い空間であるが故にその部分で冷却液が沸騰する。そしてこの沸騰に伴って冷却液のゴルフシャフト内における吹き上がりが発生する。吹上がりはゴルフシャフトの内面円周方向で均一にならないので、ゴルフシャフト内側における焼き入れ部分の円周方向の冷却が不均一なものとなり、それに起因してゴルフシャフトの曲がりが発生する。
一方、ゴルフシャフトの内部における冷却液面位置を低くした場合、実線のデータで示されるように、曲がり変形量を抑えることができる(実線データを参照)。これは、ゴルフシャフトの内部における冷却液の液面の位置を外部の液面の位置に比較して下げ、それによりゴルフシャフト内で冷却液が沸騰しないようにし、ゴルフシャフト内での冷却液の吹き上がりを防止した効果によるものであると推察される。
以上のように、図3のデータから、誘導加熱により導電性中空パイプを加熱し、それを冷却液に先端から浸して冷却する場合、導電性中空パイプの内側に冷却液がその先端から入り込まないようにする制限することで、焼き入れ後のゴルフシャフトにおける曲がり変形を抑えることができることが分かる。
ゴルフシャフトは、厚さが200〜700μm程度であるので、高周波誘導加熱による焼き入れを行う場合、焼き入れ部分を瞬間的に高温状態とすることができる。このため、より細かな緻密な結晶粒を有したオーステナイト成分を生成することができる。結晶粒の細かいオーステナイト成分を生成させることで、高強度(高硬度)を有し、且つ靱性を有した材質とすることができる。
オーステナイトの結晶粒の大きさ(γ粒Noと表記)は、誘導加熱時の投入電力やゴルフシャフトの移送速度によって調整することができる。一般に、高周波電力を小さくし、またゴルフシャフトの移送速度を速くすると、オーステナイトの結晶粒は小さくなる傾向があり、その逆の条件とすると、大きくなる傾向にある。
図4は、本実施形態に示す装置および方法を利用して焼き入れを行ったゴルフシャフトのγ粒Noと破断荷重との関係とを示すグラフである。また、図5は、同様にγ粒Noと破断変位との関係を示すグラフである。
図4および5において、γ粒Noは、その数値が大きくなるほど、粒度が小さいことを示す。本実施形態においてγ粒Noは、加熱コイルに供給する高周波電力の値を制御することで図示する範囲で調整することができる。すなわち、高周波電力の値を大きくすると、γ粒Noは小さくなる傾向があり、高周波電力の値を小さくすると、γ粒Noは大きくなる傾向がある。
図4に示す要求値は、ゴルフシャフトに要求とされる破断荷重の値である。また、図5に示す要求値は、ゴルフシャフトに要求とされる破断変位の値である。図4および図5から、γ粒Noを12.5以上とすれば、いずれの要求値も満足できることが分かる。
(1−5)変形例
冷却液としては、水に水溶性焼入剤を加えて沸点を高めた液体やソルトバスを用いることもできる。また、本実施形態では、ガイドノズル120を介して、ゴルフシャフトWの内部に不活性ガス(この例では窒素ガス)を供給するが、空気であってもよい。ただし、油煙への発火防止効果の点で不活性ガスがより好ましい。また、窒素ガス以外に不活性ガスとしてアルゴンガスやヘリウムガスを利用することもできる。また、低コスト化を計るために不活性ガスと空気との混合ガスを利用することもできる。
本実施形態では、ゴルフシャフトWの内部に焼入油310が侵入するのを防止しているが、ゴルフシャフトWの内部に焼入油310がある程度侵入する構成としてもよい。この例として、シャフト用気体供給装置400から不活性ガスが供給されることにより、ゴルフシャフトWの内部に侵入した焼入油310の液面が、ゴルフシャフトWの先端から常に10cm程度上の位置を保つように調整する例を挙げることができる。なおこの例において、ゴルフシャフトWの先端が焼入油310に侵入した直後から、ゴルフシャフトWの先端が焼入油310に10cm程度浸かるまでの間は、ゴルフシャフトWの内部に焼入油310が侵入しないようにシャフト用気体供給装置400から供給される不活性ガスの圧力が調整される。
また本実施形態では、チャンバー500下端の縁部分が、焼入油310の油面に接触する位置に配置されているが、チャンバー500下端の縁部分が焼入油310の油面に接触しないようにしてもよい。この場合、チャンバー用気体供給装置600から供給される不活性ガスの供給量を本実施形態に比べて多くして、チャンバー500と油面との間の隙間から不活性ガスが周囲環境に吹き出すようにする。こうすることで、油煙をチャンバー500から周囲に強制的に排気することができ、油煙の発火を抑えることができる。
(2)第2の実施形態
(2−1)焼き入れ装置の構成
本実施形態では、ゴルフシャフト内への焼入油の侵入を制限する手法として、ゴルフシャフトの内部を大気圧に開放し、周囲の雰囲気圧力を減圧にした場合の例を説明する。
図6は、本実施形態の焼き入れ装置の概要を示す概念図である。図6には、焼き入れ装置2が示されている。図6において、図1と同じ符号部分は、図1と同じである。したがって、以下においては、図1と異なる部分について主に説明する。焼き入れ装置2は、油槽300を備えているが、この油槽300は、図1に示す例と異なり、上部が蓋部320で覆われ、内部が密閉される構造とされている。蓋部320には、開口が設けられ、そこに配管703が接続されている。配管703は、油槽用排気ポンプ702に接続されている。油槽用排気ポンプ702は、油槽300上部の空間(焼入油310が存在していない空間)330の空気を排気し、そこを減圧状態にする。
また、焼き入れ装置2は、図1に示す装置と同様にチャンバー500を備えている。チャンバー500には、配管704を介してチャンバー用排気ポンプ705が接続されている。チャンバー用排気ポンプ705は、チャンバー500内の空気を排気し、そこを減圧状態にする。
この例において、ノズル120は、ゴルフシャフトWの内部を大気圧に開放するための経路(空気圧の逃げ道)を備えている。このため、ゴルフシャフトW内部は、常に大気圧に保たれる。
(2−2)焼き入れ装置の動作
この例では、焼き入れ時に空間330とチャンバー500の内部が減圧状態とされる。この減圧状態は、空間330内の圧力<チャンバー500内の圧力<大気圧、となるように調整する。具体的な圧力の設定は、例えば、空間330内の圧力を0.4気圧、チャンバー500内の圧力を0.75気圧とする。なお、ここでは大気圧を1気圧として定義している。
そしてこの状態において、第1の実施形態の場合と同じようにして、ゴルフシャフトWを通電した加熱コイル210の中心軸上で下方に向かって動かし、ゴルフシャフトWに対する加熱を行う。そして加熱された部分が焼入油310の液面に接触した段階で焼入油310によって被加熱部分が冷却され、焼き入れが行われる。この焼き入れは、ゴルフシャフトWの上部から下部に向かって連続的に順次行われる。
この焼き入れの動作において、チャンバー500内の圧力<大気圧、であるから、ゴルフシャフトW内部における油面の位置は、チャンバー550内の油面の位置よりも低くなる。また、空間330内の圧力<チャンバー500内の圧力であるから、チャンバー500内における油面の位置(チャンバー500内におけるゴルフシャフトW周囲の油面の位置)は、チャンバー500外の油面の位置よりも高くなる。こうして、第1の実施形態の場合と同様な効果を得ることができる。
(2−3)変形例
チャンバー500内や空間320内に意図的に不活性ガスを供給し、不活性ガスがそれら空間から強制的に排気されるようにしてもよい。こうすることで、油煙による発火や被加熱部分の酸化を防ぐことができる。また、この例では、ゴルフシャフトWの内部を大気に開放したが、そこに不活性ガスを充填してもよい。この場合も油煙による発火や被加熱部分の酸化を防ぐことができる。また、ゴルフシャフトWの内部を大気圧ではなく、大気圧を超えた圧力にする制御を組み合わせても良い。
(3)第3の実施形態
(3−1)実施形態の構成
本実施形態では、ゴルフシャフト内への焼入油の侵入を制限する手法として、冷却液に浸けるゴルフシャフトの先端に蓋をし、ゴルフシャフトの内部に冷却液が侵入しないようにした場合の例を説明する。
図7は、本実施形態の焼き入れ装置の概要を示す概念図である。図7には、焼き入れ装置3が示されている。図7において、図1と同じ符号部分は、図1と同じである。したがって、以下においては、図1と異なる部分について主に説明する。焼き入れ装置3は、油槽300を備えているが、この油槽300は、図1に示す例と異なり、内部にシリンダー340とピストン350を備えている。
ピストン350は、上下に動き、シリンダー340に出入りする。シリンダー340とピストン350は、オイルダンパーとして機能する構造を有し、ピストン350をシリンダー340に対して押して行くと、所定の抵抗力を示しながらピストン350がシリンダー340の内部に入って行く。また、ピストン350がシリンダー340に入った状態からピストン350を引くと、所定の抵抗力を受けながら、ピストン350をシリンダー340から引き出すことができる。
ピストン350は、少なくともその上部が耐熱セラミックスで構成されている。また、ピストン350は、負荷が与えられていない状態において、その上部が焼入油310の油面から数センチメートル程度突出した構成とされている。なおこの例において、ノズル120は、ゴルフシャフトWの内部を大気圧に開放するための経路(空気圧の逃げ道)を備えている。
ピストン350の上端は、ゴルフシャフトWの下端に接触した状態において、ゴルフシャフトWの下端に蓋をする蓋部材として機能する構造を備えている。図8は、ピストンの上端部分の構造を示す斜視図である。
図8に示されるように、ピストン350の上端の端面には、円形の溝360が形成されている。この円形の溝360は、ゴルフシャフトWの先端部分が入り込む(あるいは嵌り込む)形状および寸法とされている。
(3−2)実施形態の動作
図7に示す焼き入れ装置の動作の一例を説明する。図1の実施例で説明したのと同様にゴルフシャフトWを下方に移動させつつ加熱コイル210による誘導加熱をゴルフシャフトWに対して行う。この際、ゴルフシャフトWが下降してゆくと、ある段階でゴルフシャフトWの先端がピストン350の上部に接触する。この際、ピストン側の円形の溝360(図8参照)にゴルフシャフトWの先端部分が入り込む。そして、円形の溝360の底の部分にゴルフシャフトWの下端が押し付けられることで、ゴルフシャフトWの下端部分に蓋がされる。
そして、ゴルフシャフトWがさらに下降して行くと、ピストン350がシリンダー340から受ける制動効果によって、ゴルフシャフトW下端に相対的にピストン350が押し付けられ、ゴルフシャフトW下端に蓋をする効果がより確実とされる。
ピストン350は、押せば下方に下がるので、ゴルフシャフトWを下方に移動させながらの焼き入れに従って、ピストン350が下降する。こうして、ゴルフシャフトWの下端に蓋がされ、シャフト内部に焼入油310が侵入しない状態が保たれての高周波焼き入れ処理が行われる。焼き入れが終了したら、ゴルフシャフトWを引き上げ、処理が終了する。この例示におけるゴルフシャフトWの内部に焼入油を入れないようにして冷却を行うことの優位性は、第1の実施形態において説明したのと同じである。
(4)焼き入れする導電性中空パイプの他の例
以上の例示においては、導電性中空パイプの例としてスチール製のゴルフシャフトの例を説明したが、導電性中空パイプは、ゴルフシャフトに限定されるものではない。本発明を利用した焼き入れ装置は、特に肉薄のパイプへの焼き入れに適している。したがって、肉薄(例えば厚さが1mm程度以下)のスチール製パイプ材料の焼き入れに本発明を利用することができる。このような導電性中空パイプの例としては、医療や光ファイバー関連や各種配管部品などを上げることができる。これらは、肉薄で、さらに強度と靱性のバランスを追究した材質とする必要がある。したがって本発明を利用しての焼き入れを行うのに適している。
本発明は、誘導加熱を行うことができるパイプ形状の金属材料への焼き入れ技術に利用することができる。
本発明を利用した焼き入れ装置の一例を示す概念図である。 焼き入れ処理を施したゴルフシャフトの表面の凹凸状態を計測した結果を示すグラフである。 焼き入れ前後におけるゴルフシャフトの曲がり変形量を示すグラフである。 ゴルフシャフトのγ粒Noと破断荷重との関係とを示すグラフである。 ゴルフシャフトのγ粒Noと破断変位との関係とを示すグラフである。 本発明を利用した焼き入れ装置の一例を示す概念図である。 本発明を利用した焼き入れ装置の一例を示す概念図である。 実施形態におけるピストンの上端部分を拡大して示す斜視図である。
符号の説明
1…焼き入れ装置、100…搬送装置、120…ガイドノズル、200…加熱装置、210…加熱コイル、300…油槽、310…焼入油、400…シャフト用気体供給装置、500…チャンバー、510…開口部、520…シール材、600…チャンバー用気体供給装置、W…ゴルフシャフト。

Claims (20)

  1. 導電性中空パイプを加熱コイル内で移動させ、前記導電性中空パイプに対して誘導加熱を行う誘導加熱手段と、
    前記導電性中空パイプをその先端から冷却液に浸し、前記誘導加熱が行われた部分を冷却する冷却手段と、
    前記導電性中空パイプの内部に気体を供給する気体供給手段と
    を備えることを特徴とする導電性中空パイプの焼き入れ装置。
  2. 導電性中空パイプを加熱コイル内で移動させ、前記導電性中空パイプに対して誘導加熱を行う誘導加熱手段と、
    前記導電性中空パイプをその先端から冷却液に浸し、前記誘導加熱が行われた部分を冷却する冷却手段と、
    前記導電性中空パイプの内部に気体を供給し、前記導電性中空パイプの内部の圧力を外部の圧力に対して大きな値にする気体供給手段と
    を備えることを特徴とする導電性中空パイプの焼き入れ装置。
  3. 導電性中空パイプを加熱コイル内で移動させ、前記導電性中空パイプに対して誘導加熱を行う誘導加熱手段と、
    前記導電性中空パイプをその先端から冷却液に浸し、前記誘導加熱が行われた部分を冷却する冷却手段と、
    前記導電性中空パイプの外部の圧力を減圧状態とし、前記導電性中空パイプの外部の圧力を内部の圧力に対して小さな値とする減圧手段と
    を備えることを特徴とする導電性中空パイプの焼き入れ装置。
  4. 導電性中空パイプを加熱コイル内で移動させ、前記導電性中空パイプに対して誘導加熱を行う誘導加熱手段と、
    前記導電性中空パイプをその先端から冷却液に浸し、前記誘導加熱が行われた部分を冷却する冷却手段と
    を備え、
    前記導電性中空パイプの先端を塞いだ状態で前記冷却が行われることを特徴とする導電性中空パイプの焼き入れ装置。
  5. 導電性中空パイプを加熱コイル内で移動させ、前記導電性中空パイプに対して誘導加熱を行う誘導加熱手段と、
    前記導電性中空パイプをその先端から冷却液に浸し、前記誘導加熱が行われた部分を冷却する冷却手段と、
    前記冷却時に前記導電性中空パイプの内部における前記冷却液の液面の位置を、前記導電性中空パイプの外部における前記冷却液の液面の位置よりも低い位置に設定する液面設定手段と
    を備えることを特徴とする導電性中空パイプの焼き入れ装置。
  6. 前記加熱コイルを覆うチャンバーと、
    前記チャンバー内に気体を供給する気体供給手段と
    を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の導電性中空パイプの焼き入れ装置。
  7. 前記導電性中空パイプの内部の圧力は、前記チャンバー内の圧力よりも高く設定され、
    前記チャンバー内の圧力は、前記チャンバー外の圧力よりも高く設定されることを特徴とする請求項6に記載の導電性中空パイプの焼き入れ装置。
  8. 前記チャンバーの下端は、前記冷却液に接触していることを特徴とする請求項6または7に記載の導電性中空パイプの焼き入れ装置。
  9. 導電性中空パイプを加熱コイル内で移動させ、前記導電性中空パイプに対して誘導加熱を行う誘導加熱手段と、
    前記導電性中空パイプをその先端から冷却液に浸し、前記誘導加熱が行われた部分を冷却する冷却手段と、
    前記加熱コイルを覆うチャンバーと、
    前記チャンバーの内部に気体を供給する気体供給手段と
    を備えることを特徴とする導電性中空パイプの焼き入れ装置。
  10. 導電性中空パイプを加熱コイル内で移動させ、前記導電性中空パイプに対して誘導加熱を行う誘導加熱手段と、
    前記導電性中空パイプをその先端から冷却液に浸し、前記誘導加熱が行われた部分を冷却する冷却手段と、
    前記加熱コイルを覆うチャンバーと、
    前記チャンバーの内部に気体を供給し、前記チャンバーの内部の圧力を外部の圧力に対して大きな値にする気体供給手段と
    を備えることを特徴とする導電性中空パイプの焼き入れ装置。
  11. 導電性中空パイプを加熱コイル内で移動させ、前記導電性中空パイプに対して誘導加熱を行う誘導加熱手段と、
    前記導電性中空パイプをその先端から冷却液に浸し、前記誘導加熱が行われた部分を冷却する冷却手段と、
    前記加熱コイルを覆うチャンバーと、
    前記チャンバーの外部の圧力を減圧状態とし、前記チャンバーの外部の圧力を内部の圧力に対して小さな値とする減圧手段と
    を備えることを特徴とする導電性中空パイプの焼き入れ装置。
  12. 導電性中空パイプを加熱コイル内で移動させ、前記導電性中空パイプに対して誘導加熱を行う誘導加熱手段と、
    前記導電性中空パイプをその先端から冷却液に浸し、前記誘導加熱が行われた部分を冷却する冷却手段と、
    前記加熱コイルを覆うチャンバーと、
    前記冷却時に前記チャンバーの内部における前記冷却液の液面の位置を、前記チャンバーの外部における前記冷却液の液面の位置よりも低い位置に設定する液面設定手段と
    を備えることを特徴とする導電性中空パイプの焼き入れ装置。
  13. 前記チャンバーには、前記導電性中空パイプが通過する開口が形成されており、
    前記開口の部分に前記チャンバーと前記導電性中空パイプとの隙間を塞ぐシール部材が配置されていることを特徴とする請求項6〜12のいずれか一項に記載の導電性中空パイプの焼き入れ装置。
  14. 前記気体が空気または不活性ガスであることを特徴とする請求項1、2、6、7、8、9または10に記載の導電性中空パイプの焼き入れ装置。
  15. 前記導電性中空パイプの冷却液に浸されない他端に接続され、前記導電性中空パイプ内に前記気体を供給するノズルを備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の導電性中空パイプの焼き入れ装置。
  16. 前記ノズルが前記導電性中空パイプを移動させる手段を兼ねることを特徴とする請求項15に記載の導電性中空パイプの焼き入れ装置。
  17. 導電性中空パイプを加熱コイル内で移動させ、前記導電性中空パイプに対して誘導加熱を行う共に、
    前記導電性中空パイプをその先端から冷却液に浸し、前記誘導加熱が行われた部分を冷却し、
    前記冷却時に前記導電性中空パイプの内部に供給することを特徴とする導電性中空パイプの焼き入れ方法。
  18. 導電性中空パイプを加熱コイル内で移動させ、前記導電性中空パイプに対して誘導加熱を行う共に、
    前記導電性中空パイプをその先端から冷却液に浸し、前記誘導加熱が行われた部分を冷却し、
    前記冷却時に前記導電性中空パイプの前記加熱コイルおよび前記冷却液に浸る空間を外部の空間から遮断し、該空間の内部に気体を供給することを特徴とする導電性中空パイプの焼き入れ方法。
  19. 導電性中空パイプを加熱コイル内で移動させ、前記導電性中空パイプに対して誘導加熱を行う共に、
    前記導電性中空パイプをその先端から冷却液に浸し、前記誘導加熱が行われた部分を冷却し、
    前記冷却時に前記導電性中空パイプの内部における前記冷却液の液面の位置を、前記導電性中空パイプの外部における前記冷却液の液面の位置よりも低い位置にすることを特徴とする導電性中空パイプの焼き入れ方法。
  20. 導電性中空パイプを加熱コイル内で移動させ、前記導電性中空パイプに対して誘導加熱を行う共に、
    前記導電性中空パイプをその先端から冷却液に浸し、前記誘導加熱が行われた部分を冷却し、
    前記冷却時に前記導電性中空パイプの内部への前記冷却液の侵入を制限することを特徴とする導電性中空パイプの焼き入れ方法。
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CN114540747A (zh) * 2022-01-25 2022-05-27 北京科技大学 一种内表面梯度强化钢管制备装置及应用方法

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