JP2008146960A - 鉛蓄電池 - Google Patents

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Abstract

【課題】ストラップと耳部との界面が電解液から露出した状態で、蓄電池が使用され続けた場合においても、ストラップ界面での腐食が発生することなく、安定した寿命性能を有する鉛蓄電池を提供する。
【解決手段】耳部1と格子部2、3とを備えた格子基材と前記耳部の表面にのみ配された表面層とを有する負極格子を備えた鉛蓄電池において、前記表面層は鉛を主材としてAg,Bi,Co,Cu,Fe,Ge,Ni,およびZnの少なくとも一種を含むことを特徴とする。
【選択図】図1

Description

本発明は鉛蓄電池に関する。
鉛蓄電池は、正負極ともに鉛、または鉛合金製の格子体に、正極には二酸化鉛を、負極には海綿状の金属鉛を保持させたものを極板とし、正極板と負極板とをセパレータを介して交互に積層したのち、キャスト・オン・ストラップ法やバーニング法などを用いて正極ストラップおよび負極ストラップを形成し、正極板および負極板をそれぞれ一体化して極板群とし、それを電槽に収納し、前記電槽に希硫酸水溶液を主成分とする電解液を注液したものであり、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池等の新規な二次電池が開発されている現在でも安定した品質を提供しつつ、コストが安いという経済的有利性を有していることから、自動車用、バックアップ用などの分野で広く用いられている。
鉛蓄電池を構造上から分類すると、電解液が正、負極板およびセパレータに含浸、保持され遊離の電解液がほとんど存在せず、注液口あるいは弁座といわれる部分に制御弁を装着した、いわゆる制御弁式鉛蓄電池と称するものと、遊離の電解液が十分に存在する液式鉛蓄電池と称するものとに大別される。前者は、メンテナンスフリー特性が要求されるUPS等の緊急時のバックアップ用電源として多く使用されており、後者は、自動車用に多く使用されている。
近年、自動車用液式鉛蓄電池では、メンテナンスフリー化にともなって、格子合金にはSbを実質的に含まないPb−Ca−Sn系合金が広く使用されている。しかし、ストラップなどの接続部材には、機械的強度の観点から、Pb−Sb系合金が使用されているのが一般的である。
自動車用液式鉛蓄電池は以前から、特許文献1などに記載されているように、ストラップと耳部との界面が電解液から露出した状態で、蓄電池が使用され続けたときに、正極格子またはストラップなどの合金に含まれるSbが、蓄電池使用中の充放電によって、耳部とストラップとの溶接界面に存在する隙間に吸着し、吸着したSbと格子合金との局部反応によって、ストラップ界面で異常な腐食が発生し、蓄電池の故障に至る場合があった。また、この現象はSbだけによるものではなく、蓄電池内に添加・混入している種々の物質によっても引き起こされる可能性がある。
それを回避するために、例えば上記特許文献1などでは、耳部表面に高濃度のSnを含んだPb−Sn合金層を設けて、ストラップと耳部との溶接性を改善し、隙間を形成させにくくすることが記載されているが、ストラップの形成条件などの変化・ばらつきによって、その効果が充分に得られず、腐食が発生する場合があった。
特開平11−329399号公報
本願発明の解決しようとする課題は、ストラップと耳部との界面が電解液から露出した状態で、蓄電池が使用され続けた場合においても、ストラップ界面での腐食が発生することなく、安定した寿命性能を有する鉛蓄電池を提供することにある。
上記課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、耳部と格子部とを備えた格子基材と前記耳部の表面にのみ配された表面層とを有する負極格子を備えた鉛蓄電池において、前記表面層は鉛を主材としてAg,Bi,Co,Cu,Fe,Ge,Ni,およびZnの少なくとも一種を含むことを特徴とする鉛蓄電池である。
請求項2に記載の発明は、前記表面層中のAg、Bi、Co、Cu、Fe、Ge、Ni、およびZnの合計が、表面層に占める質量比で0.005〜20質量%であることを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池である。
本発明の鉛蓄電池は、耳部と格子部とを備えた格子基材と前記耳部の表面にのみ配された表面層とを有する負極格子を備え、前記表面層は鉛を主材としてAg,Bi,Co,Cu,Fe,Ge,Ni,およびZnの少なくとも一種を含むことによって、ストラップと耳部との界面が電解液から露出した状態で、蓄電池が使用され続けた場合においても、ストラップ界面での腐食を抑制し、蓄電池の早期劣化および断線の危険性が回避されるため、その工業的効果が極めて大である。
Ag、Bi、Co、Cu、Fe、Ge、Ni、またはZnを含む表面層を耳部表面に設けることによる、ストラップ界面での腐食抑制メカニズムについては、はっきりわかっていないが、吸着したSbがPbよりも表面層に添加された元素と優先的に局部反応を起こすことによって、Pbの腐食が抑制されることが一つの可能性として考えられる。
本発明にかかる鉛蓄電池は、耳部と格子部とを備えた格子基材と前記耳部の表面にのみ配された表面層とを有する負極格子を備え、前記表面層は鉛を主材としてAg,Bi,Co,Cu,Fe,Ge,Ni,およびZnの少なくとも一種を含むことを特徴とする。
さらに表面層中の、Ag、Bi、Co、Cu、Fe、Ge、Ni、およびZnの合計が、表面層に占める質量比で0.005〜20質量%であればより好ましい。
前記表面層は、負極耳部以外の負極格子表面に設けられていても、腐食に対する抑制効果は同様にあるものの、表面層の負極耳部以外への被覆割合が多くなると、蓄電池の自己放電速度や減液速度が大きくなり、メンテナンスフリー特性を損なうことになるので、負極耳部のみに設けたほうが良い。
次に、本願発明の効果を明らかにするためにおこなった実験結果について以下に説明する。
(実験1)
以下に記載する通りに、JIS D 5301に規定されている65D23サイズの鉛蓄電池(公称電圧:12V、定格容量:52Ah)を作製した。
まず、基材である厚み10mmのPb−0.06質量%Ca−0.5質量%Sn合金の連続鋳造板を圧延ローラで圧延することによって厚み1.0mmの圧延シートとしたのち、ロータリー式エキスパンド機を用いて網目状に展開して格子とした。
作製した格子の耳部全面に、表1に示すそれぞれの組成の混合溶融物を溶射することによって、耳部だけに種々の組成の表面層を有する負極格子を作製した。表面層の厚みはおよそ50μmとした。
その格子に、酸化鉛を主成分とする鉛粉にリグニン、バリウム化合物、カーボンおよび所定量の希硫酸を添加・混合して得られた負極板用ペーストを前記格子に充填し、35℃で3日間熟成して65D23用未化成負極板とした。
正極板には、Pb−0.06質量%Ca−1.5質量%Sn合金のエキスパンド格子を用い、酸化鉛を主成分とする鉛粉と所定量の希硫酸を混合して得られた正極活物質ペーストを前記格子に充填し、35℃で3日間熟成して65D23用未化成正極板とした。
押し出し成型法により作製されたポリエチレン樹脂製セパレータを、二つ折にした後に、その両側部をメカニカルシールによって一端だけに開口部を有する袋状とし、前記セパレータに負極板を収納した。
正極板6枚とセパレータに収納された負極板7枚とを交互に積層したのち、キャスト・オン・ストラップ法を用いて正極ストラップおよび負極ストラップを形成し、正極板および負極板をそれぞれ一体化して、65D23用未化成極板群を作製した。なお、ストラップ合金としては、Pb−3%Sb合金を用いた。
これら未化成極板群を65D23用電槽に挿入し、蓋を溶着した後、所定比重の希硫酸を注入し、25℃の水槽中で電槽化成(電気量:正極活物質の理論容量の280%、化成時間:18時間)を行い、65D23形鉛蓄電池を完成させた。
各蓄電池の表面層の組成と寿命試験結果の一覧を表1に示す。寿命試験は、75℃水槽中において、13.8Vの定電圧過充電をおこない、ストラップと耳部との接合部が外れた時点、または、電解液が極板高さの半分以下になった時点を寿命と判断した。表中の寿命時間は、表面層を設けていない蓄電池Aの寿命時間を100としたときの相対値で示す。
Figure 2008146960
Figure 2008146960
Figure 2008146960
Ag、Bi、Co、Cu、Fe、Ge、NiまたはZn、いずれの元素単独の場合でも、また、これら元素が複数混在した場合においても、寿命時間が向上した。表面層中におけるこれら元素の合計が0.005質量%未満の場合には効果が小さく、寿命時間はあまり延長せず、また、20質量%を超える場合には、表面層に含まれる元素に起因して過充電量が増大し、極板高さの半分以下に減液して、寿命時間が短くなる傾向があった。このことから、表面層中のAg、Bi、Co、Cu、Fe、Ge、Ni、およびZnの合計が、表面層に占める質量比で0.005〜20質量%であることが好ましい。
この結果から、負極格子の耳部に、Ag、Bi、Co、Cu、Fe、Ge、Ni、またはZnを含む表面層を設けることによって、優れた寿命性能を有する鉛蓄電池が得られることがわかる。
なお、本実験では、表面層としてPbと各元素との二元系、Pb−Ag−Bi系、およびPb−Ag−Bi−Zn系を用いた場合についてのみ記載したが、この結果から、Ag、Bi、Co、Cu、Fe、Ge、Ni、またはZnを2種類またはそれ以上組み合わせた場合においても同様の効果が得られることは容易に類推できる。さらに、表面層中に、Ca、Sn、Sb、Al、Se、Asなどの鉛蓄電池で一般的に使用されている元素を含んだ場合においても、同様の結果が得られることを本願発明者は確認している。
また、本実験では、ストラップ合金として、Pb−3%Sb合金を用いた場合について記載したが、本発明の効果は、それに限定されるものではなく、例えば、Sbを実質的に含まない合金でストラップ形成した場合においても、同様の効果が得られる。
さらに、表面層の厚みは、50μmの場合について記載したが、その厚みに限定されるものではない。
(実験2)
次に、表面層を設ける部位についての評価をおこなった。表面層を設けた部位としては、(1)負極格子の耳部のみ、(2)負極格子の耳部および上額部、(3)負極格子全体(耳部、上額部、およびメッシュ部)、の3種類を評価した。試験に用いた鉛蓄電池は実験1と同様の方法で作製した。
各蓄電池の表面層の組成および被覆部位と試験結果の一覧を表2に示す。試験は、40℃水槽中において、14.4Vの定電圧過充電をおこない、減液量を測定した。表中の減液量は、各組成の表面層を負極格子部耳部のみに設けた蓄電池の減液量を100としたときの相対値で示す。
Figure 2008146960
この結果からわかるように、表面層を負極格子の耳部のみに設けたときと比較して、上額部や格子全体に表面層を設けると、いずれの組成の表面層においても、減液が大幅に増大して、メンテナンスフリー特性を損なうことになるので、表面層は負極格子の耳部のみに設けるほうが良い。
なお、本実験では、Ag、Bi、Co、およびCuを含むPb合金層表面層の結果のみについて記載したが、本発明におけるその他の元素を含む層や、これらの元素を2種類以上含む表面層についても同様の傾向があることは容易に類推できる。
(実験3)
最後に、耳部に表面層を設ける方法を変えて評価した。実験1および実験2では溶射によって表面層を形成する方法を用いたが、本実験では格子基材である鉛合金板と表面層である鉛合金シートとを一体圧延することによって表面層を形成した。
蓄電池としては実験1と同様、JIS D 5301に規定されている65D23サイズの鉛蓄電池(公称電圧:12V、定格容量:52Ah)とした。作製方法を以下に示す。
まず、基材である厚み9.5mmのPb−0.06質量%Ca−0.5質量%Sn合金の連続鋳造板の両面に、各種元素を含む厚み0.25mmの鉛合金シートを重ね合わせ、圧延ローラで圧延することによって一体化された厚み1.0mmの圧延シートを作製した。
これによって、基材の両面に厚さ25μmの各種組成の鉛合金層を有する圧延シートを作製した。次に、作製した圧延シートを、各表面層が格子耳部になるように、ロータリー式エキスパンド機を用いて網目状に展開して格子とした。その格子に、酸化鉛を主成分とする鉛粉にリグニン、バリウム化合物、カーボンおよび所定量の希硫酸を添加・混合して得られた負極板用ペーストを前記格子に充填し、35℃で3日間熟成して65D23用未化成負極板とした。
以上のようにして作製した負極板を用い、実験1と同じ方法で65D23形鉛蓄電池を完成させた。
各蓄電池の表面層の組成と寿命試験結果の一覧を表3に示す。寿命試験は、実験1と同じく、75℃水槽中において、13.8Vの定電圧過充電をおこない、ストラップと耳部との接合部が外れた時点、または、電解液が極板高さの半分以下になった時点を寿命と判断した。表中の寿命時間は、表面層を設けていない蓄電池Qの寿命時間を100としたときの相対値で示す。
Figure 2008146960
格子基材である鉛合金板と表面層である鉛合金シートとを一体圧延することによって表面層を形成した場合でも、溶射で表面層を形成した実験1の結果と同様の効果があった。この結果から、表面層を設けることによる寿命延長効果は表面層を設ける方法には限定されないことがわかる。表面層を設けるそのほかの方法としては、溶融鉛合金への浸漬、電気メッキなどの方法がある。
エキスパンド格子の模式図
符号の説明
1 負極格子の耳部
2 負極格子の上額部
3 負極格子のメッシュ部

Claims (2)

  1. 耳部と格子部とを備えた格子基材と前記耳部の表面にのみ配された表面層とを有する負極格子を備えた鉛蓄電池において、
    前記表面層は鉛を主材としてAg,Bi,Co,Cu,Fe,Ge,Ni,およびZnの少なくとも一種を含むことを特徴とする鉛蓄電池。
  2. 前記表面層中のAg、Bi、Co、Cu、Fe、Ge、Ni、およびZnの合計が、表面層に占める質量比で0.005〜20質量%であることを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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