本発明は、車両に搭載されるサスペンションシステム、詳しくは、電磁式アクチュエータと流体式スプリングとを含んで構成されるサスペンションシステムに関する。
近年では、車高調整を行うために、流体の圧力を利用して車輪の各々についてのばね上部とばね下部との距離(以下、「ばね上ばね下間距離」という場合がある)を調整することで車高調整を行うことが可能な流体式スプリングを設けたサスペンションシステムが存在する。一方、サスペンションシステムとして、電磁式アクチュエータを備えたいわゆる電磁式サスペンションシステムが検討されており、その電磁式アクチュエータを振動減衰のためのアブソーバとして機能させることが検討されている。下記特許文献に記載されているサスペンションシステムは、上記の流体式スプリングと電磁式アクチュエータとの両者を備えるものとされており、それらの動作を協調させた車高調整を実行可能とされている。
特開2006−117210号公報
流体式スプリングと電磁式アクチュエータとの両者を備えた車両用サスペンションシステムは、開発が始められたばかりであることから、未だ開発途上であり、それら流体式スプリングと電磁式アクチュエータとを協働させて行う車高調整に関しては、改良の余地を多分に残すものとなっている。そのため、種々の改良を施すことによって、そのシステムの実用性が向上すると考えられる。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、実用性の高い車両用サスペンションシステムを提供することを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明の車両用サスペンションシステムは、ばね上部とばね下部との間に流体式スプリングと電磁式のアクチュエータとが並列的に配設されたシステムであって、車高変更の際、流体式スプリングに対して流体を流出・流入させる流体流出入装置を定まった能力の下で作動させて、流体式スプリングに対して流体を流出あるいは流入させつつ、アクチュエータの発生させるアクチュエータ力によって、流体スプリングによるばね上ばね下間距離の変化速度より速い速度でばね上ばね下間距離を目標距離に到達させ、その後に、予め設定された漸減規則、つまり、流体式スプリングへの流体の流出あるいは流入の継続によってもばね上ばね下間距離が変化しないように定められた規則に基づいて、アクチュエータ力を漸減させるように構成する。
本発明のサスペンションシステムにおいては、アクチュエータ力を利用することで、流体式スプリングによるばね上ばね下間距離の変化速度より速い速度で、ばね上ばね下間距離を目標距離まで到達させることから、本発明のシステムによれば、車高を迅速に変更することが可能である。また、本発明のシステムにおいては、ばね上ばね下間距離を維持しつつ最終的に流体スプリングの力によってばね上ばね下間距離を維持させるべく、アクチュエータ力を予め設定された漸減規則に基づいて漸減させている。このため、本発明のシステムによれば、例えば、流体スプリング内の圧力等に基づくことなく、比較的簡便な手法によって、流体式スプリングと電磁式アクチュエータとを協調させた車高調整が実現される。
発明の態様
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に相当し、(2)項が請求項2に、(3)項が請求項3に、(4)項が請求項4に、(7)項が請求項5に、それぞれ相当する。
(1)ばね上部とばね下部との間に配設され、流体の流出・流入によってばね上部とばね下部との上下方向における距離であるばね上ばね下間距離を変更可能な流体式スプリングと、
その流体式スプリングに対して流体を流出・流入させる流体流出入装置と、
前記流体式スプリングと並設され、電磁モータを有してその電磁モータの力に依拠してばね上部とばね下部とを接近・離間させる方向の力であるアクチュエータ力を発生させる電磁式のアクチュエータと、
前記流体流出入装置を制御することで前記流体スプリングに対する流体の流出・流入を制御するとともに、前記アクチュエータを制御することで前記アクチュエータ力を制御する制御装置と
を備えた車両用サスペンションシステムであって、
前記制御装置が、
ばね上ばね下間距離を目標距離まで変更する際に、前記流体流出入装置を定まった能力の下で作動させて前記流体式スプリングに対して流体を流出あるいは流入させつつ、前記アクチュエータ力によって前記流体式スプリングへの流体の流出あるいは流入によるばね上ばね下間距離の変化速度よりも速い速度でばね上ばね下間距離を目標距離に到達させ、その到達後に、前記流体式スプリングへの流体の流出あるいは流入によってもばね上ばね下間距離が変化しないように予め設定された漸減規則に基づいて、アクチュエータ力を漸減させる距離協調変更制御を実行するように構成された車両用サスペンションシステム。
車高を変更する際に流体式スプリングのみで車高を変更する場合には、実際の車高が目標車高となるまで流体式スプリングに対して流体を流出あるいは流入させつづけ、目標車高となった時点で流体の流出あるいは流入を止めるような制御が実行される場合が多い。このような流体式スプリングのみによる車高調整は、車高を変化させる速度が低いという問題がある。そのため、流体式スプリングと電磁式アクチュエータとの両者を協調させてばね上ばね下間距離を変更することで、流体式スプリングへの流体の流出あるいは流入によるばね上ばね下間距離の変化速度(以下、「流体依拠変化速度」という場合がある)よりも速い速度でばね上ばね下間距離を変更し、車高を迅速に変更することが可能とされている。本項に記載の態様においても、流体式スプリングと電磁式アクチュエータとの協働により、車高を迅速に変更させている。
ところが、ストロークセンサ等により検出される実際のばね上ばね下間距離に基づき、その実際のばね上ばね下間距離が目標距離となった場合において流体スプリングに対する流体の流入・流出を停止させるような制御が実行される場合を考える。この場合、アクチュエータ力を付加して、流体依拠変化速度よりも速い速度でばね上ばね下間距離を目標距離まで到達させれば、その到達時点で流体式スプリングに対する流体の流出・流入が停止させられることになる。その状態において、ばね上ばね下間距離を目標距離に維持するためには、電磁式アクチェータがその時点でのアクチュエータ力を発生させ続けなければならない。したがって、単に、ばね上ばね下間距離が目標距離となったときに流体スプリングの作動を停止させる制御が実行されるシステムでは、アクチュエータ力を付加した車高調整を行えば、システムの消費電力が大きくなってしまうのである。
以上のことに鑑み、例えば、流体スプリング内の圧力を検出可能な圧力センサを設け、その圧力に基づいて流体スプリングへの流体の流出・流入とアクチュエータ力とを制御することで、ばね上ばね下間距離を維持しつつ、アクチュエータ力を漸減させて消費電力の抑制を図ることが可能である。ところが、このような流体スプリングとアクチュエータとの協調制御を実行する場合、圧力センサ等の機器を必要とすることに加え、圧力センサの検出値に基づく流体スプリング内の流体量およびアクチュエータ力の制御といった高度な制御手法を採用しなければならず、システムが複雑化してしまうことになる。
本項の態様のシステムでは、アクチュエータ力を付加してばね上ばね下間距離を目標距離に到達させた後、流体式スプリングへの流体の流出あるいは流入を継続させつつ、アクチュエータ力を漸減させるような構成を採用し、そのアクチュエータ力の漸減を、流体流出入装置の所定の能力を前提として予め定められた漸減規則に基づいて、ばね上ばね下間距離を変化させないように行っている。このような流体式スプリングとアクチュエータとの協調制御が可能とされていることから、本項の態様によれば、アクチュエータ力を利用しつつも最終的にはアクチュエータ力に依存しない車高調整を、圧力センサを用いることなく、しかも、簡便な制御手法によって実現することが可能となるのである。
本項に記載の「距離協調変更制御」において、アクチュエータ力によってばね上ばね下間距離を目標距離に到達させる際に、ストロークセンサ等を用いてばね上ばね下間距離を検出しつつ、その検出によって得られた実際のばね上ばね下間距離が目標距離となるまでアクチュエータ力を増加させるような制御を実行してもよい。また、実際のばね上ばね下間距離の検出を行わず、上記流体依拠変化速度を考慮して予め設定された増加規則に基づいて、アクチュエータ力を増加させることで、ばね上ばね下間距離を目標距離に到達させるような制御を実行してもよい。
距離協調変更制御において、アクチュエータ力を漸減させる際には、必ずしも、ばね上ばね下間距離が目標距離から変化しないように行うことを要しない。つまり、本項の距離協調制御では、例えば、目標距離の若干手前の距離において、ばね上ばね下間距離が維持されるような態様も含まれるのである。アクチュエータを漸減させる場合に、目標距離においてばね上ばね下間距離を維持する態様においては、例えば、アクチュエータ力が実質的に0になった時点で流体式スプリングに対する流体の流出あるいは流入を終了させればよい。また、目標距離の若干手前の距離において、ばね上ばね下間距離を維持する態様においては、例えば、アクチュエータ力が0にまで漸減させられた後、ばね上ばね下間距離の実測値が目標距離となった時点で流体式スプリングに対する流体の流出あるいは流入を終了させればよい。
本項の態様における「流体式スプリング」には、例えば、流体としての圧縮空気が圧力室に封入されたダイヤフラム式のエアスプリングや、流体としての作動油が充満するシリンダとそのシリンダと連通するアキュムレータとを含んで構成される油圧式スプリング等、種々のスプリングを採用することが可能である。また本項の態様における「電磁式のアクチュエータ」は、例えば、アクチュエータ力をばね上部とばね下部との接近・離間に対する抵抗力として作用させることが可能なもの、つまり、ばね上部とばね下部との相対振動に対する減衰力を発生させる電磁式アブソーバとして機能するものを採用可能である。また、ばね上部とばね下部との接近・離間に対する推進力や、ばね上ばね下間距離を所定の距離に維持するような力となるようなアクチュエータ力を発生可能なものであってもよい。このようなアクチュエータ力によれば、いわゆるスカイフックダンパ理論,グランドフックダンパ理論に基づく減衰力制御、つまり、ばね上速度,ばね下速度に基づく減衰力制御が可能となり、また、車体のロール,ピッチ等の抑制を目的とした車体の姿勢制御が可能となる。なお、電磁式アクチュエータが備える「電磁モータ」は、回転モータであってもよく、リニアモータであってもよい。
本項に記載の「漸減規則」は、時間の経過に伴うアクチュエータ力の変化を示すものであればよく、例えば、経過時間をパラメータとする演算式の形式で設定されていてもよく、経過時間に対応するアクチュエータ力の値によって構成されるマップデータの形式で設定されていてもよい。
(2)前記漸減規則が、予め知得されている前記流体式スプリングへの流体の流出あるいは流入によるばね上ばね下間距離の変化速度に基づいて設定された(1)項に記載の車両用サスペンションシステム。
流体式スプリングに対しての流体の流出あるいは流入を継続させつつばね上ばね下間距離を維持するためには、その流体の流出あるいは流入によるばね上ばね下間距離の変化を相殺するようにアクチュエータ力を低減させればよい。流体流出入装置の能力が定まっている場合、流体式スプリングに対して流体を流出あるいは流入させたときのばね上ばね下間距離の速度、つまり、上記流体依拠変化速度は、理論上の計算,実験等によって、予め知得することが可能である。本項の態様では、既知の変化速度のばね上ばね下間距離の変化を相殺するようにして、漸減規則が設定されており、その規則に従えば、流体式スプリングに対しての流体の流出あるいは流入を継続させた場合において、容易に、ばね上ばね下間距離の変化を伴わないアクチュエータ力の低減が可能となる。
(3)前記制御装置が、前記距離協調変更制御において、前記目標距離を維持しつつ前記アクチュエータ力を漸減させるように構成された(1)項または(2)項に記載の車両用サスペンションシステム。
本項の態様によれば、車高を変化させる際、一旦、車高が目標車高となった後には、車高が変化させられないことから、車両の乗員に違和感を与えない車高変更、つまり、車両の乗り心地を損なわない車高調整が可能となる。
(4)前記制御装置が、前記距離協調変更制御において、前記アクチュエータ力が漸減させられて前記アクチュエータが実質的に前記アクチュエータ力を発生していない状態となった時点若しくはその状態となることが推認される時点で、前記流体式スプリングへの流体の流出あるいは流入を終了させるように構成された(1)項ないし(3)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
本項の態様は、車高を変更するための制御の終了時点を特定するための手法についての限定を加えた態様である。本項の態様によれば、タイミングよく、流体式スプリングに対する流体の流入あるいは流出が停止されるため、アクチュエータ力に拠らず、かつ、目標車高を維持した状態において、確実に車高変更を終了させることが可能となる。また、先に説明したように、流体式スプリングに対する流体の流出あるいは流入を終了させる時点の特定は、例えば、流体式スプリング内の流体の圧力を検出するためのセンサを設け、そのセンサによる検出値に基づいて行うこともできるが、本項に記載の態様では、そのようなセンサを設ける必要がないため、本項の態様のシステムによれば、構成の簡便化を図ることが可能である。なお、本項に記載の「実質的にアクチュエータ力を発生していない状態となった時点」は、アクチュエータ力が0となった時点であってもよく、小さな値に設定された閾アクチュエータ力以下のアクチュエータ力しか発生させなくなった時点であってもよい。
(5)前記制御装置が、設定された許容条件を充足する場合に前記距離協調変更制御の実行を許容する構成とされ、かつ、前記距離協調変更制御におけるばね上ばね下間距離の前記目標距離の到達後に、前記許容条件を充足しない状況となった場合に、前記流体スプリングに対する流体の流出あるいは流入を停止し、前記アクチュエータ力の漸減を停止してその時点のアクチュエータ力を維持させるように構成された(1)項ないし(4)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
例えば、路面の凹凸によって車両に振動が発生している場合、車体にロール,ピッチ等が発生している場合,車両が坂道に停車している場合等には、適切な車高変更を行い得ない。本項の態様では、そのようなことに考慮し、上記「許容条件」として、適切な車高変更を行い得るための条件を採用することが可能である。具体的には、例えば、車体にロールモーメント,ピッチモーメントが作用していないこと、ばね上部とばね下部とのいずれにも振動が発生していないこと、4輪のばね上ばね下間距離がある許容範囲内に揃っていること等の1以上を、許容条件として採用することが可能である。本項の態様によれば、許容条件を充足しなくなった時点において、一旦、距離協調変更制御が中断され、流体式スプリングの力と、アクチュエータ力との両者によって、その中断した時点のばね上ばね下間距離が維持されることになる。したがって、本項の態様によれば、適切な車高変更が行い得ない状況下において車高が変化されられず、その状況下においても車両の乗り心地が害されることがない。
(6)前記制御装置が、前記許容条件を充足しない状況の後、再度前記許容条件を充足した場合には、前記流体スプリングに対する流体の流出あるいは流入と、前記アクチュエータ力の漸減とを再開するように構成された(5)項に記載の車両用サスペンションシステム。
許容条件を充足しない状況の後、再度許容条件を充足した場合において、車高変更を中断したままであれば、アクチュエータ力が発生させ続けることになる。そのことは、アクチュエータの省電力化という目的に反する結果を招くことなる。本項の態様によれば、許容条件を充足する場合に距離協調変更制御が再開させられるため、最終的にはアクチュエータ力に依存しない目標車高の維持が実現し、省電力化が担保されたシステムが実現されることになる。
(7)前記制御装置が、前記距離協調変更制御におけるばね上ばね下間距離の前記目標距離の到達後に、前記流体流出入装置による流体の流出あるいは流入が実行され得ない状況に陥った場合に、その状況に陥った時点の前記アクチュエータ力を維持させるように構成された(1)項ないし(5)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
距離協調変更制御においてばね上ばね下間距離が目標距離に到達した後に、流体式スプリングによってばね上ばね下間距離を変化させ得ない状況に陥った場合に、アクチュエータ力を漸減させると、ばね上ばね下間距離が変化することになる。本項の態様によれば、そのような状況に陥っても、ばね上ばね下間距離を維持することが可能となる。
(8)前記制御装置が、前記アクチュエータ力をばね上部とばね下部との接近・離間動作に対する減衰力として発生させる減衰力制御を実行可能に構成され、その減衰力制御によって、前記アクチュエータがショックアブソーバとして機能する(1)項ないし(7)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
(9)前記制御装置が、前記アクチュエータ力を車両の旋回に起因する車体のロールと車両の加減速に起因する車体のピッチとの少なくとも一方を抑制するための力として発生させる車体姿勢変動抑制制御を実行可能とされた(1)項ないし(8)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
上記2つの項の態様は、アクチュエータの別の機能に関する限定を加えた態様である。上記2つの項の態様によれば、多機能なアクチュエータによって、より実用的な電磁式サスペンションシステムを実現させることが可能となる。
(10)前記アクチュエータが、
互いに螺合する雄ねじ部と雌ねじ部とを含んで構成されるねじ機構を有し、前記雄ねじ部と前記雌ねじ部との一方がばね上部とばね下部との一方に設けられ、前記雄ねじ部と前記雌ねじ部との他方がばね上部とばね下部との他方に設けられるとともに、ばね上部とばね下部との接近・離間に伴って前記雄ねじ部と雌ねじ部との一方が他方に対して回転する構造とされ、かつ、前記電磁モータが前記雄ねじ部と雌ねじ部との一方の回転に回転力を付与することで、前記アクチュエータ力を発生する構造とされた(1)項ないし(9)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
本項に記載の態様は、アクチュエータの構造に関する限定を加えた態様である。本項の態様においては、ねじ機構を利用し、そのねじ機構を構成する雄ねじ部と雌ねじ部とに対して相対回転力を付与することで、アクチュエータ力を発生させており、本項の態様によれば、電磁式のアクチュエータを、比較的簡便な構造とすることが可能である。ばね上部とばね下部とのいずれに雄ねじ部を設け、いずれに雌ねじ部を設けるかは、任意である。さらに、雄ねじ部を回転不能とし、雌ねじ部を回転可能とするような構成としてもよく、逆に、雌ねじ部を回転不能とし、雄ねじ部を回転可能とするような構成としてもよい。
以下、請求可能発明の実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本請求可能発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
≪サスペンションシステムの構成および機能≫
図1に、実施例の車両用サスペンションシステム10を模式的に示す。本システム10は、前後左右4つの車輪12に対応して設けられた4つのサスペンション装置20と、それらサスペンション装置20の制御を担う制御装置とを含んで構成されている。転舵輪である前輪のサスペンション装置20と非転舵輪である後輪のサスペンション装置20とは、車輪を転舵可能とする機構を除き略同様の構成とみなせるため、説明の簡略化に配慮して、後輪のサスペンション装置20を代表して説明する。
図2に示すように、サスペンション装置20は、独立懸架式のものであり、マルチリンク式のサスペンション装置とされている。サスペンション装置20は、それぞれがサスペンションアームである第1アッパアーム30,第2アッパアーム32,第1ロアアーム34,第2ロアアーム36,トーコントロールアーム38を備えている。5本のアーム30,32,34,36,38のそれぞれの一端部は、車体に回動可能に連結され、他端部は、車輪12を回転可能に保持するアクスルキャリア40に回動可能に連結されている。それら5本のアーム30,32,34,36,38により、アクスルキャリア40は、車体に対して略一定の軌跡を描くような上下動が可能とされている。
サスペンション装置20は、サスペンションスプリングと、ショックアブソーバとして機能するアクチュエータとが一体化されたスプリング・アクチュエータAssy50を備えている。スプリング・アクチュエータAssy50は、ばね上部の一構成部分であるタイヤハウジングに設けられたマウント部52と、ばね下部の一構成部分である第2ロアアーム36との間に、それらを連結するようにして配設された電磁式のアクチュエータ54と、それと並列的に設けられた流体式スプリングとしてのエアスプリング56とを備えている。
アクチュエータ54は、図3に示すように、アウターチューブ60と、そのアウターチューブ60に嵌入してアウターチューブ60の上端部から上方に突出するインナチューブ62とを含んで構成されている。アウターチューブ60は、それの下端部に設けられた取付部材64を介して第2ロアアーム36に連結され、一方、インナチューブ62は、それの上端部に形成されたフランジ部66においてマウント部52に連結されている。アウターチューブ60には、その内壁面にアクチュエータ54の軸線の延びる方向(以下、「軸線方向」という場合がある)に延びるようにして1対のガイド溝68が設けられるとともに、それらのガイド溝68の各々には、インナチューブ62の下端部に付設された1対のキー70の各々が嵌まるようにされており、それらガイド溝68およびキー70によって、アウターチューブ60とインナチューブ62とが、相対回転不能、軸線方向に相対移動可能とされている。ちなみに、アウターチューブ60の上端部には、シール72が付設されており、後に説明する圧力室74からのエアの漏れが防止されている。
また、アクチュエータ54は、ねじ溝が形成された雄ねじ部としてのねじロッド80と、ベアリングボールを保持してそのねじロッド80と螺合する雌ねじ部としてのナット82とを含んで構成されたボールねじ機構と、電磁モータ(3相のDCブラシレスモータであり、以下、単に「モータ」という場合がある)84とを備えている。モータ84はモータケース86に固定して収容されるとともに、そのモータケース86の鍔部がマウント部52の上面側に固定されており、モータケース86の鍔部にインナチューブ62のフランジ部66が固定されていることで、インナーチューブ62は、モータケース86を介してマウント部52に連結されている。モータ84の回転軸であるモータ軸88は、ねじロッド80の上端部と一体的に接続されている。つまり、ねじロッド80は、モータ軸88を延長する状態でインナチューブ62内に配設され、モータ84によって回転させられる。一方、ナット82は、ねじロッド80と螺合させられた状態で、アウタチューブ60の内底部に付設されたナット支持筒90の上端部に固定支持されている。
エアスプリング56は、マウント部52に固定されたハウジング100と、アクチュエータ54のアウタチューブ60に固定されたエアピストン102と、それらを接続するダイヤフラム104とを備えている。ハウジング100は、概して有蓋円筒状をなし、蓋部106に形成された穴にアクチュエータ54のインナチューブ62を貫通させた状態で、蓋部106の上面側においてマウント部52の下面側に固定されている。エアピストン102は、概して円筒状をなし、アウタチューブ60を嵌入させた状態で、アウタチューブ60の上部に固定されている。それらハウジング100とエアピストン102とは、ダイヤフラム104によって気密性を保ったまま接続されており、それらハウジング100とエアピストン102とダイヤフラム104とによって圧力室74が形成されている。その圧力室74には、流体としての圧縮エアが封入されている。このような構造から、エアスプリング56は、その圧縮エアの圧力によって、第2ロアアーム36とマウント部52、つまり、ばね上部とばね下部とを相互に弾性的に支持しているのである。
ばね上部とばね下部とが接近・離間する場合、アウターチューブ60とインナチューブ62とは、軸線方向に相対移動する。その相対移動に伴って、ねじロッド80とナット82とが軸線方向に相対移動するとともに、ねじロッド80がナット82に対して回転する。モータ84は、ねじロッド80に回転トルクを付与可能とされ、この回転トルクによって、ばね上部とばね下部との接近・離間動作に対して抵抗力を発生させることが可能とされている。この抵抗力がばね上部とばね下部との接近・離間動作に対する減衰力となることで、アクチュエータ54は、いわゆるショックアブソーバ(「ダンパ」と呼ぶこともできる)として機能するものとなっている。言い換えれば、アクチュエータ54は、自身が発生させる軸線方向の力であるアクチュエータ力によって、ばね上部とばね下部との相対移動に対して減衰力を付与する機能を有しているのである。この機能を利用して、ばね上部とばね下部との相対振動に対する減衰制御を実行することが可能とされている。また、アクチュエータ54は、アクチュエータ力によって、ばね上部とばね下部とを積極的に接近・離間させる機能,ばね上部とばね下部との距離を所定距離に維持する機能をも有している。これら機能を利用して、いわゆるスカイフックダンパ理論,グランドフックダンパ理論等に基づく振動減衰制御、旋回時の車体のロール,加速・減速時の車体のピッチ等に起因する車体の姿勢変化の抑制、車高の調整等を行うことが可能とされている。
なお、アウタチューブ60の上端内壁面には環状の緩衝ゴム110が貼着されており、アウタチューブ60の内部底壁面にも緩衝ゴム112が貼着されている。ばね上部とばね下部とが接近・離間する際、それらが離間する方向(以下、「リバウンド方向」という場合がある)にある程度相対移動した場合には、キー70が緩衝ゴム110を介してアウターチューブ60の縁部114に当接し、逆に、ばね上部とばね下部とが接近する方向(以下、「バウンド方向」という場合がある)にある程度相対移動した場合には、ねじロッド80の下端が緩衝ゴム112を介してアウタチューブ60の内部底壁面に当接するようになっている。つまり、スプリング・アクチュエータAssy50は、ばね上部とばね下部との接近・離間に対するストッパ(いわゆるバウンドストッパおよびリバウンドストッパ)を有しているのである。
サスペンションシステム10は、各スプリング・アクチュエータAssy50が有するエアスプリング56に対して流体としてのエア(空気)を流出・流入させるための流体流出入装置、詳しく言えば、エアスプリング56の圧力室74に接続されて、その圧力室74にエアを供給し、圧力室74からエアを排出するエア供排装置120を備えている。図4に、そのエア給排装置120の模式図を示す。エア給排装置120は、圧縮エアを圧力室74に供給するコンプレッサ122を含んで構成される。コンプレッサ122は、ポンプ124と、そのポンプ124を駆動するポンプモータ126とを備え、そのポンプ124によって、フィルタ128,逆止弁130を経てエアを吸入し、そのエアを加圧して逆止弁132を介して吐出するものである。そのコンプレッサ122は、個別制御弁装置134を介して前記4つのエアスプリング56の圧力室74に接続されている。個別制御弁装置134は、各エアスプリング56の圧力室74に対応して設けられてそれぞれが常閉弁である4つの個別制御弁136を備え、各圧力室74に対する流路の開閉を行うものである。なお、それらコンプレッサ122と個別制御弁装置136とは、圧縮エアの水分を除去するドライヤ138と、絞り140と逆止弁142とが互いに並列に設けられた流通制限装置144とを介して、共通通路146によって接続されている。また、その共通通路146は、コンプレッサ122とドライヤ138との間から分岐しており、その分岐する部分に圧力室74からエアを排気するための排気制御弁148が設けられている。
上述の構造から、本サスペンションシステム10は、エア給排装置120によって、各エアスプリング56の圧力室74内のエア量を調整することが可能とされており、エア量の調整によって、ばね上部とばね下部との上下方向の距離(以下、「ばね上ばね下間距離」という場合がある)を変化させることが可能とされている。具体的に言えば、圧力室74のエア量を増加させてばね上ばね下間距離を増大させ、エア量を減少させてばね上ばね下間距離を減少させることが可能とされている。
本サスペンションシステム10は、サスペンション電子制御ユニット(ECU)150によって、スプリング・アクチュエータAssy50の作動、つまり、アクチュエータ54およびエアスプリング56の作動の制御が行われる。詳しくは、アクチュエータ54のモータ84およびエア給排装置120の制御が行われる。ECU150は、CPU,ROM,RAM等を備えたコンピュータを主体として構成されたコントローラ152と、エア給排装置120の駆動回路としてのドライバ154と、各アクチュエータ54が有するモータ84に対応する駆動回路としてのインバータ156とを有している(図18参照)。そのドライバ154およびインバータ156は、コンバータ158を介して電力供給源としてのバッテリ160に接続されており、エア給排装置120が有するポンプモータ126,各制御弁136等、および、各アクチュエータ54のモータ84には、そのバッテリ160から電力が供給される。なお、モータ84は定電圧駆動されることから、モータ84への供給電力量は、供給電流量を変更することによって変更され、モータ84の力は、その供給電流量に応じた力となる。ちなみに、供給電流量は、各インバータ156がPWM(Pulse Width Modulation)によるパルスオン時間とパルスオフ時間との比(デューティ比)を変更することによって行われる。
コントローラ152には、イグニッションスイッチ170,操舵量としてのステアリングホイールの操作角を検出するためのステアリングセンサ172,車体に実際に発生する横加速度である実横加速度を検出する横加速度センサ174,車体に発生する前後加速度を検出する前後加速度センサ176,車体のマウント部52に設けられてばね上縦加速度(ばね上上下加速度)を検出するばね上縦加速度センサ178,第2ロアアーム36に設けられてばね下縦加速度(ばね下上下加速度)を検出するばね下縦加速度センサ180,ばね上ばね下間距離を検出するストロークセンサ182,モータ84の回転角を検出するモータ回転角センサ184,運転者の操作によって車高を変更するための車高変更スイッチ186が接続されている。コントローラ152には、さらに、ブレーキシステムの制御装置であるブレーキ電子制御ユニット(以下、「ブレーキECU」という場合がある)188が接続されている。ブレーキECU188には、4つの車輪12のそれぞれに対して設けられてそれぞれの回転速度を検出するための車輪速センサ190が接続され、ブレーキECU188は、アンチスキッド制御等を実行するために必要な機能として、それら車輪速センサ190の検出値に基づいて車両の走行速度(以下、「車速」という場合がある)を推定する機能を有している。コントローラ152は、必要に応じ、ブレーキECU188から車速を取得するようにされている。
さらに、コントローラ152は、各インバータ156,ドライバ154にも接続され、それらを制御することで、各モータ84,各制御弁136,ポンプモータ126を制御する。なお、コントローラ152のコンピュータが備えるROMには、後に説明する車高調整に関するプログラム,アクチュエータ力の制御に関するプログラム,各種のデータ等が記憶されている。なお、本システム10では、運転者の選択可能な設定車高は、設定標準車高(N車高),設定標準車高より高い車高として設定された設定高車高(Hi車高),設定標準車高より低い車高として設定された設定低車高(Low車高)の3つが設定されており、運転者の車高変更スイッチ186の操作によって所望の設定車高に選択的に変更される。この車高変更スイッチ186は、設定車高を段階的に高い側の設定車高あるいは低い側の設定車高にシフトさせるような指令、つまり、車高増加指令あるいは車高減少指令が発令される構造とされている。
≪サスペンションシステムの制御≫
本サスペンションシステム10では、4つのスプリング・アクチュエータAssy50をそれぞれ独立して制御することが可能となっている。それらスプリング・アクチュエータAssy50の各々において、アクチュエータ54のアクチュエータ力が独立して制御されて、車体および車輪12の振動、つまり、ばね上振動およびばね下振動を減衰するための制御(以下、「減衰力制御」という場合がある),車体のロールを抑制する制御(以下「ロール抑制制御」という場合がある),車体のピッチを抑制する制御(以下、「ピッチ抑制制御」という場合がある)が実行される。また、アクチュエータ54とエアスプリング56とが協働させられて、あるいは、エアスプリング56のみによって、ばね上ばね下間距離を調整する制御(以下、「車高調整制御」という場合がある)が実行される。上記減衰力制御,ロール抑制制御,ピッチ抑制制御は、アクチュエータ力を、それぞれ、減衰力,ロール抑制力,ピッチ抑制力として作用させることによって実行される。詳しく言えば、減衰力制御,ロール抑制制御,ピッチ抑制制御の各制御ごとのアクチュエータ力の成分である減衰力成分,ロール抑制力成分,ピッチ抑制力成分を合計して目標アクチュエータ力を決定し、アクチュエータ54が、その目標アクチュエータ力を発生させるように制御されることで一元的に実行される。また、車高調整制御のうち運転者の操作等によって目標車高が変更された場合においてばね上ばね下間距離を変更する制御(以下、「車高変更制御」という場合がある)は、エアスプリング56のエア量を調整するエア給排装置120を制御するとともに、車高を変更させるアクチュエータ力成分である車高変更成分を加えて目標アクチュエータ力を決定し、その目標アクチュエータ力を発生させるようにアクチュエータ54を制御することで実行される。以下に、減衰力制御,ロール抑制制御,ピッチ抑制制御の各々を、それら各々におけるアクチュエータ力成分の決定方法を中心に説明し、さらに、車高調整制御を、エア給排装置120の作動、および、車高変更成分の決定方法を中心に、詳しく説明する。ちなみに、ロール抑制制御およびピッチ抑制制御は、車体の姿勢変動を抑制することから、車体姿勢変動抑制制御の一種と考えることができる。なお、以下の説明において、アクチュエータ力およびそれの成分は、車体と車輪12とを離間させる方向(リバウンド方向)のものが正の値,車体と車輪12とを接近させる方向(バウンド方向)のものが負の値となるものとして扱うこととする。
i)減衰力制御
減衰力制御では、車体および車輪12の振動を減衰するためにその振動の速度に応じた大きさのアクチュエータ力を発生させるべく、減衰力成分FGが決定される。具体的には、車体のマウント部52に設けられた縦加速度センサ178によって検出され計算される車体のマウント部52の上下方向の動作速度、いわゆる、ばね上絶対速度VUと、ロアアーム36に設けられた縦加速度センサ180によって検出され計算される車輪12の上下方向の動作速度、いわゆる、ばね下絶対速度VLとに基づいて、次式に従って、減衰力成分FGが演算される。
FG=CU・VU−CL・VL
ここで、CUは、車体のマウント部52の上下方向の動作速度に応じた減衰力を発揮させるためのゲインであり、CLは、車輪12の上下方向の動作速度に応じた減衰力を発揮させるためのゲインである。つまり、CU,CLは、いわゆる減衰係数である。上記式に従う減衰力制御は、いわゆるスカイフックダンパ理論およびグランドフックダンパ理論に基づく減衰力制御であるが、その制御に代え、減衰力成分FGを他の手法で決定する制御を実行することも可能である。例えば、車体と車輪12との相対速度の指標値として、モータ84に設けられている回転角センサ184の検出値から得られたモータ84の回転速度Vに基づき、次式に従って決定することも可能である。
FG=C・V(C:減衰係数)
ii)ロール抑制制御
ロール抑制制御では、車両の旋回時において、その旋回に起因するロールモーメントに応じて、旋回内輪側のアクチュエータ54にバウンド方向のアクチュエータ力を、旋回外輪側のアクチュエータ54にリバウンド方向のアクチュエータ力を、それぞれ、ロール抑制力として発揮させる。具体的に言えば、まず、車体が受けるロールモーメントを指標する横加速度として、ステアリングホイールの操舵角δと車速vに基づいて推定された推定横加速度Gycと、横加速度センサ174によって実測された実横加速度Gyrとに基づいて、制御に利用される横加速度である制御横加速度Gy*が、次式に従って決定される。
Gy*=K1・Gyc+K2・Gyr (K1,K2:ゲイン)
そのように決定された制御横加速度Gy*に基づいて、ロール抑制力成分FRが、次式に従って決定される。
FR=K3・Gy* (K3:ゲイン)
iii)ピッチ抑制制御
ピッチ抑制制御では、車体の制動時等に発生する車体のノーズダイブに対しては、そのノーズダイブを生じさせるピッチモーメントに応じて、前輪側のアクチュエータ54にリバウンド方向のアクチュエータ力を、後輪側のアクチュエータ54にバウンド方向のアクチュエータ力をそれぞれピッチ抑制力として発揮させる。また、車体の加速時等に発生する車体のスクワットに対しては、そのスクワットを生じさせるピッチモーメントに応じて、後輪側のアクチュエータ54にリバウンド方向のアクチュエータ力を、前輪側のアクチュエータ54にバウンド方向のアクチュエータ力をピッチ抑制力として発揮させる。具体的には、車体が受けるピッチモーメントを指標する前後加速度として、前後加速度センサ176によって実測された実前後加速度Gxが採用され、その実前後加速度Gxに基づいて、ピッチ抑制力成分FPが、次式に従って決定される。
FP=K4・Gx (K4:ゲイン)
iv)車高調整制御
本サスペンションシステム10おける車高調整制御では、基本となる制御として、車高を一定に維持する制御(以下、「一定車高維持制御」という場合がある)が行われる。この制御は、いわゆるオートレベリングと呼ばれる制御であり、原則として、例えば、乗員の車両への乗り降り,荷物の積載量の変化等による車高の変動に対処することを目的としている。この一定車高維持制御は、専ら、エアスプリング56の動作が制御されることによって行われ、現時点での目標車高、具体的には、現時点において目標とされているばね上ばね下間距離(以下、「目標距離」という場合がある)h*と、ストロークセンサ182により検出される実ばね上ばね下間距離hとが比較され、エアスプリング56の圧力室74のエア量が調整されることで、車高が調整される。
具体的には、車高を上げる場合のエア給排装置120の作動(以下、「車高増加作動」という場合がある)では、まず、ポンプモータ126が作動させられるとともに、個別制御弁136が開弁されることで、圧縮エアがエアスプリング56の圧力室74に供給される。その状態が継続された後、ばね上ばね下間距離が目標距離h*となった場合に、個別制御弁136が閉弁され、車高を上げる必要があったすべての車輪12についてのばね上ばね下間距離が目標距離h*となった後に、ポンプモータ126の作動が停止させられる。一方、車高を下げる場合のエア給排装置120の作動(以下、「車高減少作動」という場合がある)では、まず、排気制御弁148が開弁されるとともに、個別制御弁136が開弁されることで、エアスプリング56の圧力室74からエアが大気に排気される状態とされる。その後、ばね上ばね下間距離が目標距離h*となった場合に、個別制御弁136が閉弁され、車高を下げる必要があったすべての車輪12についてのばね上ばね下間距離が目標距離h*となった後に、排気制御弁148が閉弁される。
ただし、上記の車高増加作動,車高減少作動は、あらかじめ設定された許容条件(以下、「車高調整許容条件」という場合がある)を充足する場合に実行が許容される。具体的には、車体にロールモーメント,ピッチモーメントが作用していないこと、ばね上部とばね下部とのいずれにも振動が発生していないこと、4輪のばね上ばね下間距離がある許容範囲内に揃っていることの全てが充足されると、上記の車高増加作動,車高減少作動が許容される。一方、上記車高調整許容条件が充足されない場合においては、個別制御弁136が閉弁され、ポンプモータ126の作動の停止あるいは排気制御弁148の閉弁が行われ、エアスプリング56の圧力室74内のエア量が維持される。なお、後に詳しく説明するが、ポンプモータ126の故障等のためにエア給排装置120によるエアの流出あるいは流入ができない場合においても、車高調整許容条件を充足しない場合と同様に、エアスプリング56の圧力室74内のエア量が維持される。
本サスペンションシステム10による車高調整制御では、上述した目標車高、つまり、目標距離h*が変更された場合において車高を変更するための制御(以下、「車高変更制御」という場合がある)も実行される。この車高変更制御は、悪路走行等への対処を目的する運転者の意思に基づく車高変更、乗員の車両への乗降の容易性を考慮したイグニッションスイッチ連動型の車高変更、高速走行時の走行安定性の向上を目的とした車速連動型の車高変更等の際に実行される。この車高変更制御は、上述した一定車高維持制御と異なり、エアスプリング56とアクチュエータ54とを協調させて車高変更を行う制御とされている。このことから、本システム10における車高変更制御は、距離協調変更制御の一種と考えることができる。
本システム10の備えるエア給排装置120は、定まった能力の下で作動させられて、例えば、図5に示すように、エアスプリング56の圧力室74内のエア量を変化させ(一点鎖線)、圧力室74内のエア量の変化に伴って、ばね上ばね下間距離が、図5の実線に示すように変化する。ちなみに、図5は、車高を上昇させる場合の様子を示す図であり、圧力室74内のエア量は増加させられ、ばね上ばね下間距離が増大させられる。
エアスプリング56へのエアの流出あるいは流入によるばね上ばね下間距離の変化速度(以下、「流体依拠変化速度」という場合がある)は、比較的遅い。そこで、本システム10の車高変更制御では、まず、流体依拠変化速度よりも速い速度でばね上ばね下間距離を目標距離h*に到達させるべく、エアスプリング56に対してエアを流入あるいは流出させつつ、アクチュエータ力を増加させるように発生させる制御が実行される。詳しく言えば、エアスプリング56に対してエアを流入あるいは流出させるとともに、次式に従って、アクチュエータ54に発生させるアクチュエータ力の車高変更成分FHが決定され、ばね上ばね下間距離が目標距離h*になるまで、アクチュエータ54は、その車高変更成分FHに基づくアクチュエータ力を発生させるように制御される。
FH=K5・t (車高増加時)
FH=−K5・t (車高減少時)
K5は、車高変更成分FHの時間に対する変化の勾配を規定する係数であり、上記式に従えば、車高変更成分FHは、図6の2点鎖線に示すように変化し、ばね上ばね下間距離は、流体依拠変化速度よりも速い速度で目標距離h*に到達する(実線)。ちなみに、図6も、図5と同様、ばね上ばね下間距離を増加させる場合を示している。上記式に従う車高変更成分FHは、ストロークセンサ182により検出される実ばね上ばね下間距離hが目標距離h*となるまで、増加させられ、そして、実ばね上ばね下間距離hが目標距離h*に到達した時点で増加が止められる。つまり、ストロークセンサ182の検出値を基に、ばね上ばね下間距離を目標距離h*にまで変化させる制御、つまり、目標距離到達制御が実行される。
本システム10の車高制御では、次いで、実ばね上ばね下間距離hが目標距離h*となった後、つまり、目標距離到達制御が終了した後、エアスプリング56に対してエアを流出あるいは流入させ続けるとともに、目標距離h*を維持しつつ車高変更成分FHを漸減させる制御が実行される。詳しく言えば、目標距離到達制御が終了した後も、エアスプリング56に対して、そのままエアを流出あるいは流入させ続け、その一方で、目標距離到達制御が終了した直後に、予め設定された漸減規則に従って、アクチュエータ力を減少させる制御が実行される。この漸減規則は、車高変更成分FHを、エアスプリング56へのエアの流出あるいは流入を維持した状態において、ばね上ばね下間距離が目標距離h*から変化しないように、アクチュエータ力を減少させるための規則であり、流体依拠変化速度を考慮して設定されている。
なお、あるばね上ばね下間距離から別のあるばね上ばね下間距離へ変化する際の流体依拠変化速度は、予め知得されており(本システム10では、車両が標準的な状態にある場合において実測されており)、漸減規則は、その知得されている流体依拠変化速度に基づいて設定されている。具体的にいえば、定まった能力の下では、エア給排装置120は、エアスプリング56に対して、例えば、図5に示すようにエアを流入させ、また、例えば、図7に示すようにエアを流出させることが既知であり、そして、その結果、ばね上ばね下間距離が、例えば、図5に示すように増加、あるいは、図7に示すように減少させられれることが、予め分かっているのである。このような既知の流体依拠変化速度を考慮し、目標距離到達制御の後のエアスプリング56へのエアの流出あるいは流入によって、ばね上ばね下間距離が目標距離h*から変化することを防止するように、車高変更成分FHを減少させる規則として、上記漸減規則が設定されているのである。
さらに具体的に言えば、上記漸減規則は、時間tmをパラメータとする車高変更成分FHの変化を示すマップデータとして、コントローラ152内に格納されている。また、そのマップデータは、車高変更制御の実行が開始される時点のばね上ばね下間距離、つまり、車高変更制御の初期におけるばね上ばね下間距離である初期距離h0と、車高変更制御によって到達させられるべきばね上ばね下間距離である目標距離h*とに対応して、それら、初期距離h0および目標距離h*の組み合わせごとに、複数設定されている。例えば、設定標準車高(N車高)から設定高車高(Hi車高)に車高を変更する際にHi車高を維持しつつ車高変更成分FHを漸減するためのマップデータを概念的に示せば、図8(a)のようになり、また、設定標準車高(N車高)から設定低車高(Low車高)に車高を変更する際にLow車高を維持しつつ車高変更成分FHを漸減するためのマップデータを概念的に示せば、図8(b)のようになる。ちなみに、車高を減少させる場合の流体依拠変化速度(図7)は、車高を増加させる場合の流体依拠変化速度(図5)より高くなっていることから、車高を減少させる場合の車高変更成分FHの時間経過に対する変化勾配(図8(b))は、車高を増加させる場合の車高変更成分FHの変化勾配(図8(a))より大きくなっている。
目標距離到達制御が終了した後には、上述したマップデータ、つまり、初期距離h0と目標距離h*とに応じたマップデータに基づいて車高変更成分FHが決定され、アクチュエータ54は、その車高変更成分FHに基づくアクチュエータ力を発生させるように制御される。そして、エアスプリング56へのエアの流出あるいは流入は、マップデータに基づき決定される車高変更成分FHが0となる時点まで続けられる。言い換えれば、漸減規則に基づくアクチュエータ力が0となった時点で、エアスプリング56に対するエアの流出あるいは流入が停止させられる。目標距離到達制御の後に行われる制御は、エアスプリング56へのエアの流出あるいは流入を継続させても目標距離h*を維持することができるように、予め設定された漸減規則に基づいて車高変更成分FHを漸減させる制御、つまり、アクチュエータ力漸減目標距離維持制御(以下、単に「目標距離維持制御」という場合がある)が実行される。
以上のように、本サスペンションシステム10では、車高変更制御において、エアスプリング56とアクチュエータ54との作動が協調させられてばね上ばね下間距離を変更する制御、つまり、距離協調変更制御が実行され、その制御は、最初に実行される目標距離到達制御と、その後に実行される目標距離維持制御とが組み合わされた制御とされているのである。
上述した車高変更制御によって、設定標準車高(N車高)から設定高車高(Hi車高)に車高を変更する際におけるばね上ばね下間距離,エアスプリング56内のエア量,アクチュエータ力の車高変更成分FHの変化を、図9に、概略的に示す。この図から解るように、本システム10の車高変更制御では、目標距離到達制御によってばね上ばね下間距離が目標距離h*とされた後も、目標距離維持制御において、エアスプリング56へのエアの流入は継続して行われ、さらに、設定された漸減規則に基づいて車高変更成分FHが0まで漸減させられる。その結果、車高変更制御が終了した後において、目標距離h*を維持するのに必要な力は、エアスプリング56にのみ依存するものとなっている。したがって、本サスペンションシステム10は、アクチュエータ力を利用した迅速な車高変更が可能であるというメリットに加え、車高変更後におけるアクチュエータ54による電力消費を抑えることが可能であるというメリットをも有することになる。また、マップデータを利用して車高変更成分FHを漸減させていることから、比較的簡便な制御手法によって、上記メリットを有する車高変更の実行が可能となっている。なお、本システム10においては、車高変更制御終了後には、前述の一定車高維持制御が実行されるようになっていることから、車高変更制御において、実ばね上ばね下間距離hが目標距離h*から若干ずれていたとしても、一定車高維持制御において、ばね上ばね下間距離hが目標距離h*に自動的に補正される。
また、本サスペンションシステム10では、ポンプモータ126の故障等に起因するエア給排装置120の失陥時には、エアスプリング56に対するエアの流出あるいは流入ができなくなり、その場合には、エアスプリング56とアクチュエータ54とを協調させた上述の車高変更を行うことができなくなる。そのため、本システム10では、目標距離到達制御の実行中にエア給排装置120が失陥した場合には、まず、その時点でのエアスプリング56の圧力室74内のエア量を維持するような制御が行われる。その場合においても、車高変更成分FHは、上記式に従って増加させられるため、専らアクチュエータ力によってばね上ばね下間距離が変更され、実ばね上ばね下間距離hが目標距離h*に到達させられることになる。そしてその後に、実ばね上ばね下間距離hが目標距離h*に到達した時点での車高変更成分FHを維持するような制御が実行される。それに対し、目標距離維持制御の実行中にエア給排装置120が失陥した場合には、エアスプリング56の圧力室74内のエア量を維持するとともに、車高変更成分FHのマップデータに基づく漸減を停止する制御が実行され、その時点での車高変更成分FHが維持される。
エア給排装置120が失陥した場合において上述したような車高変更制御が実行されることから、エア給排装置120の失陥時においても、アクチュエータ力を利用して、ばね上ばね下間距離が目標距離h*とすることができる。つまり、アクチュエータ力を利用した設定車高への変更,設定車高の維持が可能とされるのである。ちなみに、上記失陥時の制御が行われた場合におけるばね上ばね下間距離,エアスプリング56内のエア量,アクチュエータ54の車高変更成分FHの変化は、概略的には、図10および図11に示すようになる。図10は、目標距離到達制御の実行中に失陥が発生した場合の変化であり、図11は、目標距離維持制御の実行中に失陥が発生した場合の変化である。
また、目標距離到達制御、若しくは目標距離維持御の実行中において、先に述べた車高調整許容条件を充足しない状況となった場合には、その時点でのエアスプリング56の圧力室74内のエア量が維持され、その時点での車高変更成分FHが維持される。そして、その後に、車高調整許容条件を充足した場合には、目標距離到達制御の実行中であったときには、エアスプリング56へのエアの流出あるいは流入が再開され、上記式に従う車高変更成分FHの増加が再開される。一方、目標距離維持制御の実行中であったときには、エアスプリング56へのエアの流出あるいは流入が再開され、マップデータに基づく車高変更成分FHの漸減が再開される。図12に、目標距離維持制御の実行中に車高調整許容条件を充足しない状況となり、その後に、車高調整許容条件を充足した場合におけるばね上ばね下間距離,エアスプリング56内のエア量,アクチュエータ54の車高変更成分FHの変化を概略的に示しておく。
v)アクチュエータ力とモータの作動制御
アクチュエータ54の制御は、それが発生させるべきアクチュエータ力である目標アクチュエータ力に基づいて行われる。詳しく言えば、上述のようにして、減衰力成分FG,ロール抑制力成分FR,ピッチ抑制力成分FPおよび車高変更成分FHが決定されると、それらに基づき、次式に従って目標アクチュエータ力FAが決定され、
FA=FG+FR+FP+FH
その決定された目標アクチュエータ力FAを発生させるように、アクチュエータ54が制御される。つまり、本サスペンションシステム10では、上記減衰力制御,ロール抑制制御,ピッチ抑制制御、および、車高変更制御におけるアクチュエータ54の制御は、その目標アクチュエータ力FAを発生させるように制御されることで一元的に実行されるのである。
上記目標アクチュエータ力FAを発生させるためのモータ84の作動制御は、インバータ156によって行われる。詳しく言えば、決定された目標アクチュエータ力FAに基づくモータ力の発生方向およびデューティ比についての指令がインバータ156に発令され、そして、インバータ156の備えるスイッチング素子の切換えが上記指令に従った態様にて行なわれることで、モータ84の作動が制御される。このようなモータ84の作動制御によって、アクチュエータ54は、上記目標アクチュエータ力FAを発生させるように制御されるのである。
≪制御プログラム≫
上述のアクチュエータ力の制御、および、車高調整制御におけるエアスプリング56の制御は、それぞれ、図13にフローチャートを示すアクチュエータ制御プログラム,図14にフローチャートを示すエアスプリング制御プログラムが、短い時間間隔δt(例えば、数msec〜数十msec)をおいてコントローラ152により繰り返し実行されることによって行われる。本サスペンションシステム10が配備されている車両は、電子キーを採用しており、車両に設けられたセンサ(図示省略)は、その電子キーが車両から所定範囲内に存在する場合にその電子キーを検知可能とされており、上記2つのプログラムは、そのセンサによって電子キーが検知されてから、電子キーが検知されなくなった後に一定時間(例えば、60sec)が経過するまでの間実行される。なお、それら2つの制御プログラムに従う処理のうち車高を調整する処理は、目標車高に基づいて行われるのであり、その目標車高の決定は、図15にフローチャートを示す目標車高決定プログラムが、先の2つの制御プログラムと同じ期間実行されることによって行われる。なお、それら3つの制御プログラムは、互いに並行して実行される。以下に、それぞれのプログラムに従う制御処理の流れを、図に示すフローチャートを参照しつつ、簡単に説明する。
i)目標車高決定プログラム
図15にフローチャートを示す目標車高決定プログラムでは、目標となる車高を示すフラグである目標車高フラグfHが用いられ、そのフラグfHに基づいて目標となる車高が決定される。本サスペンションシステム10では、基本となる車高として、「標準車高」(以下、「N車高」という場合がある)と、N車高より低い「Low車高」、N車高より高い「Hi車高」との3つの車高が設定されており、目標車高フラグfHのフラグ値[1],[2],[3]は、それぞれ、Low車高,N車高,Hi車高に対応するものとされている。目標車高決定プログラムに従う処理では、基本的には、車高変更スイッチ186の操作に基づく指令が車高増加指令あるいは車高減少指令であるかに応じて、高車高側あるいは低車高側のいずれかに目標車高フラグfHのフラグ値が変更される。
また、本サスペンションシステム10では、車速感応車高調整を実行するものとされており、目標車高決定プログラムに従う処理では、Hi車高(fH=3)において車速vが閾速度v0(例えば、50km/h)以上となった場合には、車両の走行安定性に鑑み、N車高に戻すようにフラグ値が[2]に変更される。また、N車高(fH=2)において車速vが閾速度v1(例えば、80km/h)以上となった場合には、車両のさらなる走行安定性に鑑み、N車高よりδhだけ低い車高(Low車高より高い車高)である「高速時車高」に対応するフラグ値である[2’]とされるようになっている。なお、一旦車速が閾速度v1以上になった後に、閾速度v1未満となった場合には、N車高に戻るようにされている。
さらに、本サスペンションシステム10では、運転者の乗降や荷物の積み降ろしを容易にするための制御として乗降時の車高変更を実行するようにされている。乗降時の車高として、Low車高よりさらに低い車高である「乗降時車高」が設定されており、目標車高決定プログラムに従う処理では、イグニッションスイッチ170がOFFとされた場合に、目標車高フラグfHが乗降時車高に対応するフラグ値である[0]とされ、電子キーを携帯しているものがセンサで検知できる範囲外に移動した場合に、目標車高フラグfHのフラグ値が[2]とされるようになっている。逆に、電子キーを携帯しているものがセンサで検知できる範囲内に入った場合に、目標車高フラグfHのフラグ値が[0]とされ、イグニッションスイッチ170がONとされた場合に、目標車高フラグfHのフラグ値が[2]とされるようになっている。
ii)アクチュエータ制御プログラム
図13にフローチャートを示すアクチュエータ制御プログラム、および、図14にフローチャートを示すエアスプリング制御プログラムでは、車高制御フラグfCを採用する。この車高制御フラグfCは、車高調整制御におけるいずれの制御を行うかを示すフラグであり、アクチュエータ制御プログラムに従う処理では、それのフラグ値は、前述した一定車高維持制御が実行されるべきとき若しくは実行されているときに、<0>(初期値である)とされ、車高変更制御が実行されるべきとき若しくは実行されているときに、<1>若しくは<2>とされる。詳しく言えば、車高変更制御において上述の目標距離到達制御が実行されるべきとき若しくは実行されているときに、<1>とされ、目標距離維持制御が実行されるべきとき若しくは実行されているときに、<2>とされる。
アクチュエータ制御プログラムは、4つの車輪12にそれぞれ設けられたスプリング・アクチュエータAssy50のアクチュエータ54の各々に対して、個別、実行される。以降の説明においては、説明の簡略化に配慮して、1つのアクチュエータ54に対しての本プログラムによる処理についてのみ説明する。アクチュエータ制御プログラムに従う処理では、S21〜S23において、先に説明したように、減衰力成分FG,ロール抑制力成分FR,ピッチ抑制力成分FPがそれぞれ決定される。次いで、S24において、図16に示す車高変更成分決定サブルーチンが実行され、車高変更成分FHが決定される。
車高変更成分決定サブルーチンに従う処理では、まず、S31において、車高制御フラグfCのフラグ値が<0>であるか否かが判定される。フラグ値が<0>である場合には、S32において、目標車高決定プログラムにおいて決定されている目標車高に基づき目標距離h*が決定され、S33において、その決定された目標距離h*が変更されているか否かが判定される。詳しく言えば、車高変更制御が実行される直前のばね上ばね下間距離である初期距離h0が目標距離h*と同じであるか否かが判定される。同じと判定された場合には、目標距離h*が変更されていないことから、一定車高維持制御を実行すべく、車高を変更するためのアクチュエータ力を発生させないように、S34において、車高変更成分FHは0とされる。また、初期距離h0と目標距離h*とが異なると判定された場合には、目標距離h*が変更されたと認定され、車高変更制御を実行を開始すべく、車高制御フラグfCのフラグ値が<1>に変更される。そして、車高変更制御時の車高変更成分FHを決定すべく、S36において、図17に示す車高変更成分決定処理サブルーチンが実行される。
車高変更成分決定処理サブルーチンでは、まず、S41において、前述した車高調整許容条件を充足しているか否かが判定され、充足していると判定された場合には、車高制御フラグfCのフラグ値が<1>であるか否かが判定される。フラグ値が<1>である場合には、目標距離到達制御を実行すべく、S43において、ストロークセンサ182によって実ばね上ばね下間距離hが検出される。そして、S44,S45において、その検出された実ばね上ばね下間距離hと目標距離h*とが比較される。ばね上ばね下間距離を減少させる必要があると判定された場合には、S46において、バウンド方向に車高変更成分FHの大きさがδFH(図6参照)ずつ大きくされ、ばね上ばね下間距離を増加させる必要があると判定された場合には、S47において、リバウンド方向に車高変更成分FHの大きさがδFHずつ大きくされる。また、実ばね上ばね下間距離hが目標距離h*に到達したと判定された場合には、目標距離維持制御を実行すべく、S48において、車高制御フラグfCのフラグ値が<2>に変更され、S49において、目標距離維持制御の実行時間tmが0にリセットされる。
S49において目標距離維持制御の実行時間tmが0にリセットされた後、若しくは、S42において車高制御フラグfCのフラグ値が<2>である場合には、S50において、エア給排装置120が失陥しているか否かが判定される。エア給排装置120が失陥していないと判定された場合には、目標車高維持制御において、上述したように、車高変更成分FHがマップデータに基づいて決定される。詳しく言えば、S52において、目標車高維持制御の実行開始からの時間を計測すべく、上記実行時間tmにプログラムの実行間隔(厳密に言えば、プログラム実行の時間的ピッチ)δtが加えられ、S53において、その実行時間tmに対する車高変更成分FHが、初期距離h0と目標距離h*との組み合わせに応じたマップデータを参照して決定される。
なお、S50において、エア給排装置120が失陥していると判定された場合、若しくは、S41において、車高調整許容条件を充足していないと判定された場合には、その時点でのばね上ばね下間距離を維持するように、S51において、車高変更成分FHが前回の車高変更成分決定プログラムの実行時において決定された車高変更成分FHとされる。
本サブルーチンに従う処理によって車高変更成分FHが決定されると、メインプログラムのS25において、減衰力成分FGとロール抑制成分FRとピッチ抑制成分FPと車高変更成分FHとが合計されることによって、目標アクチュエータ力FAが決定される。次いで、決定された目標アクチュエータ力FAに対応する制御信号が、インバータ156を介してモータ84に送信され、アクチュエータ制御プログラムの1回の実行が終了する。
iii)エアスプリング制御プログラム
図14にフローチャートを示すエアスプリング制御プログラムは、各車輪12に対して個別に実行される。このプログラムに従う処理では、まず、S61において、前述した車高調整許容条件を充足しているか否かが判定され、充足していると判定された場合には、S62において、エア給排装置120が失陥しているか否かが判定される。エア給排装置120が失陥していないと判定された場合には、S63において、車高制御フラグfCのフラグ値が<0>であるか否かが判定される。フラグ値が<0>である場合には、一定車高維持制御が行われる。つまり、S64において、ストロークセンサ182によって実ばね上ばね下間距離hが取得され、S65,S66において、実車体車輪間距離hとアクチュエータ制御プログラムにおいて決定される目標離間距離h*とが比較される。ばね上ばね下間距離を増加させる必要があると判定された場合には、S68において、エアスプリング56の圧力室74内にエアが流入させられ、逆に、ばね上ばね下間距離を減少させる必要があると判定された場合には、S67において、圧力室74内からエアを流出させる。また、ばね上ばね下間距離を変化させる必要がないと判定された場合、若しくは、上記車高調整許容条件を充足していない場合、若しくは、エア給排装置120が失陥している場合には、S73において、上述したようにエア量が維持される。
また、S63において、車高制御フラグfCのフラグ値が<0>ではないと判定された場合には、S69以下において、車高変更制御が実行される。つまり、S70において、車高の変更方向が判定され、その判定に応じて、S67あるいはS68において、エアが流入あるいは流出させられる。また、アクチュエータ制御プログラムにおいて決定されるマップデータに基づく車高変更成分FHが0となった場合には、車高変更制御の実行を終了させるべく、S71において、車高制御フラグfCのフラグ値が<0>に変更され、S72において、初期距離h0が目標距離h*に変更されてた後に、S73において、上述したようにエア量が維持される。以上、一連の処理の後、本プログラムの1回の実行が終了する。
≪コントローラの機能構成≫
上記目標車高決定プログラム,アクチュエータ制御プログラムおよびエアスプリング制御プログラムとを実行するコントローラ152は、それが実行する処理に鑑みれば、図18に示すような機能構成を有するものと考えることができる。図から解るように、コントローラ152は、目標車高決定プログラムに従う処理を実行する機能部、つまり、車高調整制御における目標車高を決定する機能部として、目標車高決定部200を、アクチュエータ制御プログラムに従う処理を実行する機能部、つまり、アクチュエータ54の発生させるアクチュエータ力を制御する機能部としてアクチュエータ力制御部202を、エアスプリング制御プログラムに従う処理を実行する機能部、つまり、エア給排装置120を制御する機能部として流体流出入装置制御部204を、それぞれ有している。
アクチュエータ力制御部202について詳しく説明すれば、アクチュエータ力制御部202は、S21の処理を実行する機能部、つまり、減衰力成分FGを決定する機能部として、減衰力成分決定部206を、S22,S23の処理を実行する機能部、つまり、ロール抑制力成分FRとピッチ抑制力成分FPとを決定する機能部として、姿勢変動抑制力成分決定部208を、S24の処理を実行する機能部、つまり、車高変更成分FHを決定する機能部として、車高変更成分決定部210を、それぞれ備えている。車高変更成分決定部210は、S43〜S47の処理を実行する機能部、つまり、目標距離到達制御における車高変更成分FHを決定する機能部として、目標距離到達制御時決定部212を、S48〜S53の処理を実行する機能部、つまり、目標距離維持制御における車高変更成分FHを決定する機能部として、目標距離維持制御時決定部214を、それぞれ備えている。
また、上記流体流出入装置制御部204について説明すれば、その流体流出入装置制御部204は、S64〜S68,S73の処理を実行する機能部、つまり、一定車高維持制御を実行する機能部として、一定車高維持制御実行部216を、S67〜S73の処理を実行する機能部、つまり、車高変更制御を実行する機能部として、車高変更制御実行部218を、それぞれ備えている。
≪車高変更制御に関する変形例≫
なお、本システム10の目標距離維持制御においては、ばね上ばね下間距離hが目標距離h*から変化しないように車高変更成分FHを漸減させている。この制御に代えて、ばね上ばね下間距離hを目標距離h*の僅かに手前の距離に維持するように、言い換えれば、ばね上ばね下間距離hを目標距離h*の僅かに手前の距離において変化しないように車高変更成分FHを漸減させることも可能である。このようにアクチユエータ力を制御する場合、車高変更成分FHが0となっても、ばね上ばね下間距離hが目標距離h*になるまで、エアスプリング56に対してエアを流出あるいは流入を継続し、ばね上ばね下間距離hが目標距離h*になった時点で、エアの流出あるいは流入を停止すればよい。このエアの流出あるいは流入を停止する際には、先に説明した一定距離維持制御を利用して行うことが可能である。
請求可能発明の実施例である車両用サスペンションシステムの全体構成を示す模式図である。
図1の車両用サスペンションシステムの備えるサスペンション装置を示す模式図である。
サスペンション装置の備えるスプリング・アクチュエータAssyを示す概略断面図である。
スプリング・アクチュエータAssyとエア給排装置とを示す模式図である。
ばね上ばね下間距離を増加させる際におけるばね上ばね下間距離,エアスプリング内のエア量の変化を示す概略図である。
目標距離到達制御におけるばね上ばね下間距離,エアスプリング内のエア量、および、アクチュエータ力の車高変更成分の変化を示す概略図である。
ばね上ばね下間距離を減少させる際におけるばね上ばね下間距離,エアスプリング内のエア量の変化を示す概略図である。
目標距離維持制御において用いられるマップデータを概略的に示した図である。
設定標準車高から設定高車高に車高を変更する際におけるばね上ばね下間距離,エアスプリング内のエア量、および、アクチュエータ力の車高変更成分の変化を示す概略図である。
目標距離到達制御の実行中にエア給排装置の失陥が発生した場合におけるばね上ばね下間距離,エアスプリング内のエア量、および、アクチュエータ力の車高変更成分の変化を示す概略図である。
目標距離維持制御の実行中にエア給排装置の失陥が発生した場合におけるばね上ばね下間距離,エアスプリング内のエア量、および、アクチュエータ力の車高変更成分の変化を示す概略図である。
目標距離維持制御の実行中に車高調整許容条件を充足しない状況となり、その後に、車高調整許容条件を充足した場合におけるばね上ばね下間距離,エアスプリング内のエア量、および、アクチュエータ力の車高変更成分の変化を示す概略図である。
アクチュエータ制御プログラムを示すフローチャートである。
エアスプリング制御プログラムを示すフローチャートである。
目標車高決定プログラムを示すフローチャートである。
アクチュエータ制御プログラムにおいて実行される車高変更成分決定サブルーチンを示すフローチャートである。
アクチュエータ制御プログラムにおいて実行される車高変更成分決定処理サブルーチンを示すフローチャートである。
サスペンションシステムの制御を司る制御装置の機能を示すブロック図である。
符号の説明
10:車両用サスペンションシステム 36:第2ロアアーム(ばね下部) 52:マウント部(ばね上部) 54:アクチュエータ 56:エアスプリング(流体式スプリング) 80:ねじロッド(雄ねじ部) 82:ナット(雌ねじ部)
84:電磁モータ 120:エア給排装置(流体流出入装置) 150:サスペンション制御ユニット(制御装置)