本発明は、駆動軸と被駆動軸の間で磁力によりトルクを伝達する磁気式トルク伝達装置に関し、さらに詳しくは、過負荷になった際に、駆動軸の回転方向と同一方向のトルクのみを駆動軸から被駆動軸へ伝達する磁気式トルクリミッタを備えた磁気式トルク伝達装置に関する。
例えば、モータで昇降装置、搬送用コンベヤ、シュレッダー等を駆動する場合、例えば、昇降装置や搬送コンベヤにおいては、積載した荷物が重すぎて過大な負荷がモータに掛かって、過大電流がモータに流れることによって、モータが焼損したり、あるいは、シュレッダーにおいては、細断する書類の中に混入しているステープラーの針などを噛み込んだ結果、過大電流がモータに流れることによって、モータが焼損するというトラブルが懸念されている。
このような問題を解決するものとして、図18に示したように、駆動軸1に固設された駆動円盤3と被駆動軸2に固設された被駆動円盤4を有し、両円盤3、4には、図19に示したように、異極、すなわちN極、S極の永久磁石5、6が、円周方向に交互に固定されている磁気式トルク伝達装置10が知られている。なお、図19は、図18で軸心X−Xに対して垂直な仮想面、すなわち、XIX−XIX線で切断したときに被駆動側から駆動側を見た時の駆動円盤3を示した図である。
この磁気式トルク伝達装置10によれば、最大伝達トルクを越えて滑り状態となっても、駆動軸1と被駆動軸2が、磁力によって空隙を介して接合されており、機械的に接触していないので摩擦熱が生じない。したがって、大きな負荷が被駆動軸2側に生じた場合であってもモータに過大な負荷が掛かってモータが焼損するようなことがない(例えば、特許文献1参照)。
特開平5−168222号公報(特に、第3頁第6段落〜同第7段落、第5頁第13段落、図1、図2を参照)
ところが、図18及び図19の記載から分かるように、特許文献1に開示された磁気式トルク伝達装置10では、駆動円盤3と被駆動円盤4の間で対向する永久磁石5のS極及び永久磁石6のN極による異極間の磁気的吸引力及び隣接する同極間の磁気的反発力により、駆動円盤3の回転に追従回転していた被駆動円盤4は、最大伝達トルクを越えると、駆動円盤3に追従できなくなり、いわゆる脱調状態となる。この脱調状態では、回転にしたがって周期的に磁気的吸引力と磁気的反発力が働くとともに、それに応じて被駆動軸2には、駆動軸回転方向と同方向のトルク、すなわち正のトルク、及び、駆動軸回転方向と逆方向のトルク、すなわち負のトルクが交互に掛かる。そして、脱調状態においても駆動円盤3と被駆動円盤4の隙間が固定されているため、正のトルクと同じ大きさの負のトルクが発生し、見かけ上は、正負のトルクは相殺し、伝達トルク平均値がゼロとなる。
また、最大伝達トルクを調整する際には、図19に記載した駆動円盤3に固設した永久磁石5のN極、S極の取付直径R及び図示はされていないが、被駆動円盤4に固設された永久磁石6のN極、S極の取付直径Rを小さくしたり大きくしたりする必要があり、それを実現するためには、非常に複雑な機構が必要になっていた。
さらに、特許文献1に開示された磁気式トルク伝達装置10では、負荷が最大伝達トルクを越えた状態から、負荷が減少して上述した最大伝達トルク未満になったとしても、駆動軸1側から被駆動軸2側に回転トルクを伝達する状態に復帰できない場合がある。また、脱調状態では、被駆動軸2が駆動軸1の回転に追随できないので、周期的に被駆動軸2側に最大伝達トルクまでの正負のトルクが伝達され、不安定な動作が継続されることになる。また、装置の寸法精度やガタ等を原因として動力伝達時に駆動円盤3と被駆動円盤4とが磁気的吸引力によって直接接触してしまうことも懸念されていた。
そこで、本発明の第1の目的は、過負荷が掛かり、駆動軸の回転に被駆動軸の回転が追随できない、いわゆる脱調状態になった場合に、駆動軸から被駆動軸への負のトルクの伝達を抑え、正方向の一定の押し当て力を発生させるとともに、負荷が軽くなった際に速やかに通常状態に復帰する磁気式トルク伝達装置を提供することにある。
また、本発明の第2の目的は、簡単な構成で最大伝達トルクを可変することができる磁気式トルク伝達装置を提供することにある。
さらに、本発明の第3の目的は、駆動円盤側の永久磁石と被駆動円盤側の永久磁石とが直接接触しない磁気式トルク伝達装置を提供することにある。
そこで、請求項1に係る磁気式トルク伝達装置は、駆動軸に螺設され、円周方向にN極、S極の磁極を所定のピッチで交互に配置した駆動円盤と、被駆動軸に回転方向には固定され、軸方向には移動可能に装着され、円周方向にN極、S極の磁極を前記所定のピッチで交互に配置した被駆動円盤を所定の空隙を介して前記磁極同士が対向するように配置し、対向する前記磁極間に作用する磁気的吸引力及び磁気的反発力を利用して前記駆動軸の回転トルクを前記被駆動軸に伝達する磁気式トルク伝達装置であって、前記被駆動円盤が、バネ手段によって、前記駆動円盤方向に付勢されていることによって、上記の目的を達成するものである。
なお、本発明において、対向する磁極間に作用する磁気的吸引力及び磁気的反発力を利用して駆動軸の回転トルクを被駆動軸に伝達するとは、詳述すると次のように説明することができる。静止状態にある場合、駆動円盤側に配置されたN極、S極の磁極と、被駆動円盤側に配置されたS極、N極の磁極とが、ちょうど異極同士(N極とS極)が対向することによって、磁気的吸引力が最大になると共に、駆動軸側から被駆動軸側への回転トルクの伝達は、ゼロになっている。駆動軸が回転し出すと対向していたN極とS極にずれが生じるが、磁気的吸引力によりN極とS極のずれを戻す力が働き、また、N極とS極のずれと同様に、同極同士が近づくため、磁気的反発力によりずれを戻す力が働く。このときの力がトルクとなり、駆動軸から被駆動軸に回転トルクが伝達される。そして、駆動軸側のN極とS極のちょうど中心に被駆動軸側のN極(あるいはS極)がくると、磁気的吸引力と磁気的反発力が釣り合い状態になり、この時、最も大きい回転トルクが発生し、駆動軸から被駆動軸に伝達される。
また、請求項2に係る磁気式トルク伝達装置は、請求項1に係る磁気式トルク伝達装置が有する構成に加えて、前記駆動円盤が装着される側の前記駆動軸に雄ねじが螺刻されており、前記駆動円盤の中心に穿孔された軸孔内周面に、前記雄ねじと螺合する雌ねじが螺刻されており、さらに、この螺合された駆動円盤及び駆動軸と協働してダブルナット機構を構成するナットが、前記駆動軸に配備されていることによって、上記の目的を解決するものである。
また、請求項3に係る磁気式トルク伝達装置は、請求項1又は請求項2に係る磁気式トルク伝達装置が有する構成に加えて、駆動軸の先端面及び被駆動軸の先端面にそれぞれの軸心方向に螺設されたストッパを有することによって、上記の目的を解決するものである。
なお、本発明において、「所定のピッチ」及び「所定の空隙」の記載における「所定」とは、特定の値に限定されるわけではなく、所定のピッチとは、例えば、一周に12個の磁石が並ぶ30°ピッチであり、所定の空隙とは、最も結合力を強くするための狭い間隔を意味しており、例えば、0.5〜1.5mm程度である。
請求項1に係る磁気式トルク伝達装置によれば、駆動軸に螺設され、円周方向にN極、S極の磁極を所定のピッチで交互に配置した駆動円盤と、被駆動軸に回転方向には固定され、軸方向には移動可能に装着され、円周方向にN極、S極の磁極を前記所定のピッチで交互に配置した被駆動円盤を所定の空隙を介して磁極同士が対向するように配置し、対向する前記磁極間に作用する磁気的吸引力及び磁気的反発力を利用して駆動軸の回転トルクを被駆動軸に伝達する磁気式トルク伝達装置であって、被駆動円盤が、バネ手段によって、駆動円盤方向に付勢されていることによって、被駆動円盤が、駆動軸の回転に追随できない、いわゆる脱調状態になった場合、同極同士が対向することで発生する磁気的反発力によって、被駆動円盤が駆動円盤から後退するため、脱調状態での駆動軸から被駆動軸への負のトルク伝達が抑えられ、また、次に異極同士が対向することで発生する磁気的吸引力と、バネ手段による駆動円盤方向への付勢によって、素速くもとの位置に戻ることができるため、脱調状態での正方向のトルクが抑えられないように伝達され、伝達トルク平均値を正とすることができる。
また、バネ手段の付勢力の大きさを変えることによって、脱調状態時における伝達トルク平均値の大きさを調整することができるとともに、負荷が軽くなった際に、バネ手段の付勢力によって脱調状態から通常状態への復帰を確実にする効果がある。
さらに、脱調状態に陥った場合であっても、本発明の技術的特徴事項の1つである軸方向に後退可能な被駆動円盤とバネ手段によって、駆動軸に掛かる負荷を所定の伝達トルク平均値まで低減させるため、モータが焼損するような事故を未然に防ぐことができる。
なお、本発明におけるモータとは、必ずしも電動モータに限定されるものではなく、超音波モータ等の小型モータであっても、本発明のようなトルクリミタ機構を内装あるいは外付けすることにより、機器の破損防止が有効に行われる。
また、自動車用昇降窓の駆動源として適用した場合には、誤って、人の指などが挟まれた場合に自動的に駆動源からの回転トルクの伝達が低減され、安全性が向上する。一方、モータの回転運動をネジ・ナット機構により直線運動に変換する電動式シリンダ(直線作動機)の駆動源として適用した場合、推力の調整が簡単に行われるとともに、シリンダが壁などに当たり、押し付け停止すると、磁気カップリングが脱調しモータを保護しつつ押付力が発生する。そして、壁が取り除かれると、自動復帰する。
さらに、本発明は、磁気式トルク伝達装置としてモータに接続して単体で使用することを想定しているが、被駆動円盤が後退したことを、リミットスイッチ又は近接スイッチ等で検出し、モータ制御回路にフィードバックさせることによって、機器の安全性、信頼性を一層高めることが可能である。しかも、本発明のトルク伝達装置は、磁気式であるため、空気圧式、油圧式のような騒音、ミストの飛散がなく、環境に優しい装置が構成される。
請求項2に係る磁気式トルク伝達装置によれば、請求項1に係る発明が奏する効果に加えて、前記駆動円盤が装着される側の前記駆動軸に雄ねじが螺刻されており、前記駆動円盤の中央に穿孔された軸孔内周面には、前記雄ねじと螺合する雌ねじが螺刻されており、さらに、前記駆動円盤と協働してダブルナット機構を構成するナットが前記駆動軸に配備されていることによって、前記駆動円盤と前記被駆動円盤との距離を本発明の技術的特徴事項の1つであるダブルナット機構を調整することで、前記駆動円盤側の磁極と前記被駆動円盤側の磁極との距離を簡単な操作で可変することができるため、最大伝達トルクを簡単に可変することができ、操作性が向上する。
請求項3に係る磁気式トルク伝達装置によれば、請求項1又は請求項2に係る発明が奏する効果に加えて、本発明の技術的特徴事項の1つである駆動軸の先端面及び被駆動軸の先端面にそれぞれの軸心方向に螺設されたストッパを有することによって、駆動円盤と被駆動円盤とが直接接触することが防止され、その結果、装置の耐久性が向上する。
本発明の実施の形態の一つを実施例1に基づき、図1乃至図11を参照して説明する。
図1は、本発明の磁気式トルク伝達装置の一例を示す斜視図であり、磁気式トルク伝達装置の内部の構造が分かるように、駆動軸及び被駆動軸の軸心を中心に、その4分の1を切断して示している。図2は、図1に示した磁気式トルク伝達装置の組立図であり、組み立てられたときの外観を合わせて記載している。図3は、本実施例1の磁気式トルク伝達装置100の被駆動軸110の側からみた正面図である。この図において140bの参照符号を付した部材がベース部材であり、134の参照符号を付した部材が本願発明の技術的特徴の1つであるバネ手段を構成する四角形状の板バネである。
図4は、図3のIV−IV線で切断した時の断面図を示している。この図は、駆動軸120と被駆動軸110とが、駆動軸120に螺刻された雄ねじに螺合している駆動側ナット164とその片側に固設された駆動板162に固設された永久磁石板166の磁極と、被駆動軸110に固着されたバックベース142にバックベース側スペーサ138を介して固定された板バネ134とこの板バネ134と図示はされていないが被駆動円盤側スペーサ137を介して固定されたヨーク132に固設された永久磁石板136の磁極とが磁気的吸引力によってわずかな空隙を介して吸着された状態を示している。そして、過負荷時に駆動円盤160の回転に被駆動円盤130が追随できなくなり、永久磁石板166及び永久磁石板136の同極同士が対峙することによって生じる磁気的反発力によって被駆動円盤130が板バネ134の付勢力に抗して後退し、駆動円盤160と被駆動円盤130との空隙が広がり、駆動円盤160から被駆動円盤130への回転トルクの伝達が抑制される。
一方、駆動側ナット164は、ナット168と協働してダブルナット機構を構成しており、駆動板162に固設された永久磁石板166とヨーク132に固設された永久磁石板136との空隙(間隔)を所定の距離となるように調整している。ちなみに本実施例においては、装置の寸法精度を考慮して、1.0mmとしている。
なお、本実施例1においては、駆動板162、駆動側ナット164及び永久磁石板166を合わせて駆動円盤160と称し、同様に、ヨーク132及び永久磁石板136を合わせて被駆動円盤130と称している。また、駆動板162と駆動側ナット164は、図2に示したように固設あるいは一体成形されており、その軸中心に軸孔167が穿孔されている。そして、その軸孔167の内周面に雌ねじが螺刻されており、駆動軸120の外周面に螺刻された雄ねじと螺合している。
また、駆動板162及びヨーク132に固設された永久磁石板166及び永久磁石板136における永久磁石の取付パターンとしては、例えば、図17(a)や図17(b)のような配置が考えられる。上述した従来例(図18及び図19参照)と違って、駆動軸側から被駆動軸側に伝達される最大伝達トルクの調整は、駆動軸側に設けたダブルナット機構で2つの永久磁石板166及び永久磁石板136の距離を可変することによって行うため、永久磁石の取付直径Rを小さくしたり大きくしたりする必要がなく、磁石部分の面積が大きい(駆動側)永久磁石板166を駆動板162に、(被駆動側)永久磁石板136をヨーク132に固設することができる。その結果、大きな磁気的吸引力及び磁気的反発力を得ることができる。
駆動軸120及び被駆動軸110は、それぞれ、外側ベアリング172、182及び内側ベアリング174、184によりベース部材140a、140bに対して回転可能に枢設されている。そして、駆動軸120の軸方向の略中腹部には、凸部122が設けられており、この凸部122とUナット176とが協働して、駆動軸120が軸心方向前後に移動することなく、ベース140aに枢設されている。同様に、被駆動軸110の軸方向の略中腹部には、凸部112が設けられており、この凸部112とUナット186とが協働して、被駆動軸110が軸方向前後に移動することなく、ベース部材140bに枢設されている。
また、駆動軸120の先端面には、駆動円盤160が駆動軸120から抜けることを防ぐため、駆動側ストッパ170が螺設されており、同様に、被駆動軸110の先端面には、被駆動円盤130が被駆動軸110から抜けることを防ぐため、被駆動側ストッパ180が螺設されている。したがって、駆動円盤160と被駆動円盤130との間には、必ず所定の空隙が形成され、双方が有する(駆動側)永久磁石板166と(被駆動側)永久磁石板136とが接触することを防止している。さらに、図2に示したように、一対のベース部材140a、140bが、3本の支柱152、154、156により離間されており、6本の皿ねじ152a、154a、156a、152b、154b、156bにより固定されている。
図5は、図3と同じ磁気式トルク伝達装置100の駆動軸120の側からみた正面図である。この図において参照符号140aを付した部材は、ベース部材である。図6は、図5のVI−VI線で切断した時の断面図を示している。この図では、磁気式トルク伝達装置100の被駆動円盤130が磁気的反発力で板バネ134の付勢力に抗して後退した状態を示している。この時、磁気的反発力によってできた空隙によって、駆動円盤160から被駆動円盤130への回転トルクの伝達が抑制される。なお、図6に示した図は、上記の点を除けば、図4に示したものと同じであるので、参照符号を一部省略している。
また、図7は、上記の説明の理解を助けるために、図4の断面図に相当する側面図を図示している。さらに、図8は、図7に示した側面図の内、被駆動部だけを拡大して示している。ここで、図7、図8において参照符号131を付した部材は、バックベース側スペーサ138を介して板バネ134をバックベース142に固定するための、又は被駆動円盤側スペーサ137を介して板バネ134を被駆動円盤130に固定するための板バネ固定ピンである。
なお、上述した実施例では、板バネは1枚であるが、図9に示すように複数の板バネを用いて、被駆動円盤230が後退するときのストロークを長くすることも可能である。図9は、3枚の板バネ234を用いたものを示しており、永久磁石板236とヨーク232からなる被駆動円盤230と板バネ234に挟持される被駆動円盤側スペーサ237と、3枚の板バネ234の間に挟持される中間スペーサ239と、バックベース242と板バネ234の間に挟持されるバックベース側スペーサ238を示している。図10は、図9に示した複数の板バネ234を用いたときの被駆動側の主要部の斜視図を示している。
本発明においては、四角形状の板バネを用いて、回転方向の力を駆動円盤側から被駆動円盤側に伝達すると共に、被駆動円盤の軸心方向への移動を可能にしているが、円形状の板バネを用いることも可能である。さらに、板バネに代えて皿バネを用いることも可能である。図11は、皿バネを用いたときの被駆動側の主要部の垂直断面図を示している。図11(a)が、通常時の状態を示している。この時、皿バネ334を使用していることにより、回転方向の力は伝達されるとともに、軸方向は、皿バネ334のストローク分移動できるようになっている。軸方向は、(図示はされていないが)駆動円盤160側の永久磁石板166(図4参照)と被駆動円盤330側の永久磁石板336が磁気的吸引力で接触しないようにストッパ380を設けている。
一方、図11(b)は、磁気的反発力を受けて、被駆動円盤330が後退したときの状態を示している。被駆動円盤330とバックベース342との間に配置された皿バネ334は、磁気的反発力により被駆動円盤330が後退して撓むことによって拡径し、被駆動円盤330がバックベース342に接近する。皿バネを用いた場合には、板バネの時に用いたスペーサが不要になるため、装置構成が簡略化される。また、実施例1による磁気トルク伝達装置によれば、機械的摺動部がないため脱調しても摩耗粉等が発生しないため、クリーン環境での使用に適し、長寿命、低騒音、オイルフリーなどの効果が奏される。
本発明の別の実施の形態の一つを、実施例2に基づき、図12乃至図15を参照して説明する。なお、実施例1と対応する部材については、下二桁を同じにした400番台の参照符号を付している。
図12は、実施例2の磁気式トルク伝達装置を示す斜視図であり、磁気式トルク伝達装置の内部の構造が分かるように、駆動軸及び被駆動軸の軸心を中心に、その4分の1を切断して示している。図13は、図12に示した磁気式トルク伝達装置の組立図であり、組み立てられたときの外観を合わせて記載している。図14は、本実施例2の磁気式トルク伝達装置400の被駆動軸410の側からみた正面図である。この図において440bの参照符号を付した部材がベース部材である。
図15は、図14のXV−XV線で切断した時の断面図を示している。この図は、駆動軸420と被駆動軸410とが、駆動軸420に螺刻された雄ねじに螺合している駆動側ナット464とその片側に固設された駆動板462に固設された永久磁石板466の磁極と、被駆動軸410に刻設されたスプライン413に係合し、被駆動軸410に対して回転方向には固定され、軸方向には移動可能に装着されたヨーク兼スプラインナット432に固設された永久磁石板436の磁極とが磁気的吸引力によってわずかな空隙を介して吸着された状態を示している。ヨーク兼スプラインナット432と被駆動軸410の凸部412の間には、本発明の技術的特徴の1つであるバネ手段を構成するコイルバネ434が装着されている。なお、本実施例2に採用したスプラインは、図13に示したように被駆動軸410の表面に軸方向に刻設したスプライン413を採用しているが、この形状に限定されることなく、図16(a)〜(d)に示したような変形例を使用することも可能である。
そして、過負荷時に駆動円盤460の回転に被駆動円盤430が追随できなくなり、永久磁石板466及び永久磁石板436の同極同士が対峙することによって生じる磁気的反発力によって被駆動円盤430がコイルバネ434の付勢力に抗して後退し、駆動円盤460と被駆動円盤430との空隙が広がり、駆動円盤460から被駆動円盤430への回転トルクの伝達が抑制される。
一方、駆動側ナット464は、ナット468と協働してダブルナット機構を構成しており、駆動板462に固設された永久磁石板466とヨーク兼スプラインナット432に固設された永久磁石板436との空隙(間隔)を所定の距離となるように調整している。ちなみに本実施例においては、装置の寸法精度を考慮して、1.0mmとしている。
なお、本実施例2においては、駆動板462、駆動側ナット464及び永久磁石板466を合わせて駆動円盤460と称し、同様に、ヨーク兼スプラインナット432及び永久磁石板436を合わせて被駆動円盤430と称している。また、駆動板462と駆動側ナット464は、図13に示したように固設あるいは一体成形されており、その軸中心に軸孔467が穿孔されており、その軸孔467の内周面に雌ねじが螺刻されており、駆動軸420の外周面に螺刻された雄ねじと螺合している。
また、駆動板462及びヨーク兼スプラインナット432に固設された永久磁石板466及び永久磁石板436における永久磁石の取付パターンとしては、図17(a)や図17(b)のような配置が考えられる。上述した従来例(図18及び図19参照)と違って、駆動軸側から被駆動軸側に伝達される最大伝達トルクの調整は、駆動軸側に設けたダブルナット機構で2つの永久磁石板466、436の距離を可変することによって行うため、永久磁石の取付直径Rを小さくしたり大きくしたりする必要がなく、磁石部分の面積が大きい(駆動側)永久磁石板466を駆動板462に、(被駆動側)永久磁石板436をヨーク兼スプラインナット432に固設することができる。その結果、大きな磁気的吸引力及び磁気的反発力を得ることができる。
駆動軸420及び被駆動軸410は、それぞれ、外側ベアリング472、482及び内側ベアリング474、484によりベース部材440a、440bに対して回転可能に枢設されている。そして、駆動軸420の軸方向の略中腹部には、凸部422が設けられており、この凸部422とUナット476とが協働して、駆動軸420が軸心方向前後に移動することなく、ベース440aに枢設されている。同様に、被駆動軸410の軸方向の略中腹部には、凸部412が設けられており、この凸部412とUナット486とが協働して、被駆動軸410が軸方向前後に移動することなく、ベース部材440bに枢設されている。
また、駆動軸420の先端面には、駆動円盤460が駆動軸420から抜けることを防ぐため、駆動側ストッパ470が螺設されており、同様に、被駆動軸410の先端面には、被駆動円盤430が被駆動軸410から抜けることを防ぐため、被駆動側ストッパ480が螺設されている。したがって、駆動円盤460と被駆動円盤430との間には、必ず所定の空隙が形成され、双方が有する(駆動側)永久磁石板466と(被駆動側)永久磁石板436とが接触することを防止している。さらに、図13に示したように、一対のベース部材440a、440bが、3本の支柱452、454、456により離間されており、6本の皿ねじ452a、454a、456a、452b、454b、456bにより固定されている。
なお、上述した実施例では、駆動軸側に駆動円盤と被駆動円盤との隙間を調整するダブルナット機構を設け、被駆動軸側に後退した被駆動円盤を付勢するバネ手段を設けているが、駆動軸側にバネ手段を、被駆動軸側にダブルナット機構を設けても同様の効果が得られることは、言うまでもない。
本発明は、モータ等の駆動源の回転トルクを被駆動装置に伝達する磁気式トルク伝達装置において、過負荷が掛かった際に確実に駆動側から被駆動側への伝達トルクを小さくすることができ、また、簡単な構成で最大伝達トルクを可変することができ、さらに駆動円盤と被駆動円盤が直接接触することを防止することができるものであって、塵埃などの発生が少ないため、クリーンな環境で使用するのに適しており、産業上の利用可能性は、きわめて大きい。
実施例1の磁気式トルク伝達装置の一部を切り欠いた状態を示す斜視図。
図1に示した磁気式トルク伝達装置の組み立て図。
結合状態にある実施例1の磁気式トルク伝達装置の正面図。
図3のIV−IV線で切断したときの断面図。
遮断状態にある実施例1の磁気式トルク伝達装置の正面図。
図5のVI−VI線で切断したときの断面図。
結合状態にある実施例1の磁気式トルク伝動装置の側面図。
図7に示した磁気式トルク伝達装置の被駆動側の側面図。
3枚の板バネを用いた磁気式トルク伝達装置の被駆動側の側面図。
図9に示した磁気式トルク伝達装置の被駆動側の斜視図。
皿バネを用いたときの被駆動円盤側の通常時(a)と被駆動円盤が後退したとき(b)を示す概念図。
実施例2の磁気式トルク伝達装置の一部を切り欠いた状態を示す斜視図。
図12の磁気式トルク伝達装置の組み立て図。
結合状態にある実施例2の磁気式トルク伝達装置の正面図。
図14のXV−XV線で切断したときの断面図。
本発明の実施例2に用いたスプラインの変形例。
本発明の駆動円盤及び被駆動円盤に用いられる永久磁石のパターンの例。
従来の磁気式トルク伝達装置の断面図。
図18のXIX−XIX線で切断したときの断面図。
符号の説明
100、400 ・・・ 磁気式トルク伝達装置
110、310、410 ・・・ 被駆動軸
112、122、412、422 ・・・ 凸部
120、420 ・・・ 駆動軸
130、230、330、430 ・・・ 被駆動円盤
131 ・・・ 板バネ固定ピン
132、232、332 ・・・ (被駆動円盤の)ヨーク
134、234 ・・・ 板バネ
136、236、336、436 ・・・ (被駆動円盤の)永久磁石板
137、237 ・・・ 被駆動円盤側スペーサ
138、238 ・・・ バックベース側スペーサ
140a、140b、440a、440b ・・・ ベース部材
142、242、342 ・・・ バックベース
152、154、156 ・・・ 支柱
152a、152b、154a、154b、156a、156b ・・・ 皿ねじ
160、460 ・・・ 駆動円盤
162、462 ・・・ (駆動円盤の)駆動板
164、464 ・・・ (駆動円盤の)駆動側ナット
166、466 ・・・ (駆動円盤の)永久磁石板
167、467 ・・・ (駆動円盤の)軸孔
168、468 ・・・ ナット
170、470 ・・・ 駆動側ストッパ
172、182、472、482 ・・・ 外側ベアリング
174、184、474、484 ・・・ 内側ベアリング
176、186、476、486 ・・・ Uナット
180、380、480 ・・・ 被駆動側ストッパ
334 ・・・ 皿バネ
432 ・・・ ヨーク兼スプラインナット
434 ・・・ コイルバネ
452、454、456 ・・・ 支柱
452a、452b、454a、454b、456a、456b ・・・ 皿ねじ