JP2008121073A - 金属被膜付き電鋳煉瓦及びその製造方法 - Google Patents

金属被膜付き電鋳煉瓦及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】緻密性の高い電鋳煉瓦が金属被膜で被覆された、耐久性が高く耐熱構造材として有用な金属被膜付き電鋳煉瓦を提供する。
【解決手段】電鋳煉瓦1の表面に規則的なアンカー用凹部3を形成し、白金族金属を含有する金属を電鋳煉瓦に溶射して、アンカー用凹部を満たし表面を被覆する金属被膜5を形成する。アンカー用凹部は、複数の溝が直交格子状に配設され、断面形状が長方形である。
【選択図】図2

Description

本発明は、金属被膜で電鋳煉瓦の表面を被覆した金属被膜付き電鋳煉瓦及びその製造方法に関し、特に、ガラス製造設備において溶融ガラスと接触する部分等のような耐熱性及び耐久性が必要とされる構造部分を構成する部材として使用可能な金属被膜付き電鋳煉瓦及びその製造方法に関する。
金属被膜で基材を被覆する方法として、プラズマ溶射、酸水素炎溶射等の溶射法がある(例えば、下記特許文献1参照)。これは、溶融金属を粒子状に噴射して基材に吹き付ける薄膜形成方法であり、導電性材料及び絶縁性材料の何れにも適用可能である。
金属溶射被膜で金属基材を被覆する際には、一般的に、金属基材と溶射被膜との定着性を向上させるために、金属基材表面にブラスト処理等の前処理が施される。詳細には、硬質セラミックス粒子を噴出して金属基材表面に衝突させることによって、適切な粗さの凹凸を金属基材表面に形成する。このような凹凸を形成することによって、溶射した金属粒子が凹部へ侵入するので、凹部で固化した金属がアンカー効果を発揮して金属基材と溶射金属被膜との接合が実現される。
上記の方法は、金属基材の柔らかさ及び塑性変形性の高さを利用しているが、煉瓦などのような金属製でない基材の場合は、基材の硬さや脆さ、塑性変形性の低さから、ブラスト処理の適用は困難である。
このため、煉瓦を溶射被膜で被覆する場合は、ゾル・ゲル法等によってセラミックの中間層を煉瓦表面に設け、これを介することによって、煉瓦基材及び金属溶射被膜との接着性の向上を図っている。この中間層は、セラミックと煉瓦中のガラス(シリカ)相との化学結合によって強固な接合を形成し、セラミック中間層に溶射金属粒子が食い込むことによって溶射被膜が固着している。
又、素材の多孔性を利用して、耐火物基材表面に存在する気孔に白金微粒子と無機質材料との混合物を充填して加熱焼成した後に、表面を研削して白金微粒子の一部を露出させて溶射被膜を形成する方法等が提案されている(下記特許文献2)
英国特許1242996号公報 特開平10−195623号公報
しかし、上述のセラミック中間層を用いた方法は、ガラス相を含まない基材に対しては、化学結合による固着を見込めないので有効ではない。従って、ガラス相の少ない電鋳煉瓦を溶射被膜で被覆する場合には不向きである。
又、上記特許文献2の方法は、多孔性の材料にのみ適用可能であるため、一般的に気孔率が低い電鋳煉瓦については適用が困難である。
このような状況から、ガラス相が少なく緻密性の高い電鋳煉瓦に対して、溶射によって金属被膜を形成することは困難であり、溶射した金属は、溶射中又は溶射後の冷却中に電鋳煉瓦から容易に剥離する。
本発明は、ガラス相が少なく緻密性の高いセラミック基材にしっかり固着し剥離し難い金属被膜を形成可能な金属被覆技術を開発し、耐久性が高く耐熱構造材として有用な金属被膜付き電鋳煉瓦を提供することを課題とする。
又、本発明は、被覆する金属被膜が応力によって剥離せず、耐熱構造材として利用できる金属被膜付き電鋳煉瓦を簡易且つ安定的に提供できる金属被膜付き電鋳煉瓦の製造方法を提供することを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、電鋳煉瓦の表面に形成する凹凸を工夫することによって、金属と煉瓦との熱収縮量の差による熱応力が適切に分散され、アンカー効果が好適に発揮される金属被膜を電鋳煉瓦の表面に設けることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の一態様によれば、金属被膜付き電鋳煉瓦は、規則的なアンカー用凹部が表面に形成される電鋳煉瓦と、前記電鋳煉瓦の表面を被覆し前記アンカー用凹部を埋込むように設けられた金属被膜とを有し、前記金属被膜は白金族金属を含有し、前記電鋳煉瓦は、気孔率が5容積%以下でガラス相の割合が15質量%以下であることを要旨とする。
又、本発明の一態様によれば、金属被膜付き電鋳煉瓦の製造方法は、気孔率が5容積%以下でガラス相の割合が15質量%以下である電鋳煉瓦の表面に規則的なアンカー用凹部を形成し、白金族金属を含有する金属を前記電鋳煉瓦に溶射して、前記アンカー用凹部を満たし且つ前記電鋳煉瓦の表面を被覆する金属被膜を形成することを要旨とする。
本発明によれば、電鋳煉瓦の表面に形成された規則的な凹凸において、金属被膜と電鋳煉瓦との間で生じる応力が適切に分散されて作用し、凸部の破断や金属被膜の歪みを生じることなくアンカー効果が好適に発揮される。従って、耐熱性及び耐久性が高く、温度変化による金属被膜の剥離が抑制された金属被膜付き電鋳煉瓦が提供され、耐熱構造材として有効に利用できる。
高温に加熱されるガラス窯用の耐熱構造材には耐火煉瓦が用いられており、中でも、耐久性を要するスロート部では、白金又は白金合金の溶射被膜で被覆した耐火煉瓦が使用されている。近年の技術の進歩によって強度が高い電鋳煉瓦の製造が確立したことから、ガラス窯用耐火物については、耐火煉瓦に代えて電鋳煉瓦の使用が定着している。
電鋳煉瓦は、耐火原料をエルー式アーク炉等で1900〜2500℃に加熱し、完全に溶融した耐火原料を所定形状の鋳型で鋳造及び徐冷固化することで得られる耐火物であり、高密度で、一般的な焼成煉瓦より強度及び耐久性が高い。しかし、電鋳煉瓦は、概してガラス相の割合が少ないので、金属被膜との接着性を高める手法として前述のセラミック中間層を用いるのは有効ではない。又、気孔も少なく、気孔率は概して5%以下のものが多いので、前述の特許文献2のような金属含有ペーストの気孔への充填を利用することも難しい。また、気孔は、炉材の製造方法を考慮すると、炉材の中に周期的に存在しているのではなく、まばらに存在している。従って、気孔へ金属含有ペーストを充填させた場合、その充填ペーストがアンカー効果を有するにしても、そのアンカー効果は当然まばらに存在することになる。この結果、アンカー効果のある部分と無い部分とで金属被膜と炉材との接着性が異なる部分が生じ、被膜全体に渡って安定的に接着した金属被膜を形成することは困難である。このため、金属被膜との接着性を向上させるには、金属基板の場合と同様にブラスト処理を施すことが考えられるが、実際には、ブラスト処理した電鋳煉瓦に白金溶射を施すと、溶射中又は直後に白金被膜が剥離し、白金被膜を固着させることは難しい。白金被膜の剥離は、ブラスト処理で形成された煉瓦表面の凸部が応力によって破断する状態で起こることから、原因は、溶射時の金属と電柱煉瓦との温度差によって熱収縮量に大きい差が生じるために多大な応力が発生すること、及び、ブラスト処理では有効なアンカー効果を発揮する凹凸を形成できないことにある。
このようなことから、電鋳煉瓦表面の凸部の破断を抑制するためには、金属被膜から加わる引っ張り応力を可能な限り均一に分散させ、且つ、アンカー効果が電鋳煉瓦表面に効果的に作用するような凹凸加工を電鋳煉瓦表面に施すことが肝要である。本発明では、電鋳煉瓦の表面にアンカー用凹部として規則的な凹凸を設け、この凹部を埋込んで表面を被覆するように煉瓦表面に金属を溶射する。以下、本発明について詳細に説明する。
金属溶射は、導電性基材だけでなく絶縁性基材に対しても金属被膜を形成可能な被覆方法であり、様々な金属の溶融粒子を射出可能であり、一般的には亜鉛、アルミニウム、錫、銅、真鍮、鋼等の金属が用いられるが、ガラス製造炉の構造材として使用可能な耐熱・耐久性金属溶射煉瓦を構成するには、融点が高いPt,Ir,Ru,Rh等の白金族金属、又は、白金族金属を1種以上含有する合金が用いられる。合金としては、例えば、Pt−5%Au、Pt−10%Ir、Pt−10%Rh等の白金合金などが挙げられる。これらの白金族金属及びその合金の熱膨張係数は概して8×10−6〜15×10−6(20℃)程度である。溶射法によって射出された金属粒子は、電鋳煉瓦の凹部を充填し表面上に堆積して被膜を形成する。金属溶射被膜の厚さは、溶射量によって適宜調整できる。過剰に厚い被膜は、引っ張り応力による歪みに耐えられない可能性があるので、被膜の厚さ(凹部を除く煉瓦表面上を被覆する厚さ)は100〜400μm程度が好ましく、より好ましい範囲は200〜350μmである。
煉瓦は、アルミナ、珪酸アルミナ、ジルコン−ムライト、シリカ又はチタニア等を構成成分とするセラミックで、粘土等の原料を固めて焼成することによって得られるのが焼成煉瓦であり、熱処理を行わずに化学結合材によって結合及び成形するのが耐火物煉瓦であるのに対し、電鋳煉瓦は、原料を電気炉で完全に溶解して鋳造する煉瓦である。電鋳煉瓦としては、AZS(Al−SiO−ZrO)煉瓦、αアルミナ質煉瓦、βアルミナ質煉瓦、αβアルミナ質煉瓦、アルミナ・クロム煉瓦等がある。電鋳煉瓦には、用途に応じて更に改良された煉瓦が存在し、例えば、ジルコニアの含有量を高めた高ジルコニア質煉瓦、気孔率を下げたボイドフリー(VF)煉瓦等が含まれ、各々、耐食性、緻密性等が向上している。
本発明において、電鋳煉瓦は、ガラス製造炉の構造材として利用した際の煉瓦の強度や生産される硝子の品質等の観点から、気孔率が5容積%以下、特に3容積%以下、ガラス相の割合が15容積%以下、特に10容積%以下であることが好ましい。ガラス相の割合が高いと、ガラス製造炉の構造材として使用したときに電鋳煉瓦中のガラス相成分が溶融ガラスに溶出して生産されるガラスの組成に悪影響を及ぼすおそれがあり、電鋳煉瓦自体の強度が低下する可能性もある。又、電鋳煉瓦の酸化珪素成分の割合も、組成によって異なるものの8質量%程度以下であることが好ましい。電鋳煉瓦の密度は、3.5〜5.5g/cmであることが好ましい。尚、AZS煉瓦はほとんどの場合、ガラス相の割合が15容積%超と高く、本発明では好ましく用いられない。
上述のような電鋳煉瓦は、セラミック中間層を介する溶射や金属含有ペーストを用いたアンカー接合は実施し難いが、本発明は、このような高密度、低ガラス相の硬質な電鋳煉瓦に適用可能である。
電鋳煉瓦は、概して、熱膨張係数が6×10−6程度〜8×10−6程度(20−800℃における平均熱膨張率)、曲げ強度は80〜120kg/cm程度であり、圧縮強度は200kg/cmを超え、高ジルコニア質電鋳煉瓦では2500kg/cmを超える高い圧縮強度を示す。しかし、金属被膜から受ける応力によって破断することなく金属被膜を定着させるためには、電鋳煉瓦表面に形成するアンカー用凹部の形態に工夫が必要である。
金属被膜から電鋳煉瓦に負荷される引っ張り応力を均一に分散させるには、アンカー用凹部は、電鋳煉瓦表面に凹部が規則的に細かく分散して配置するように形成する必要がある。アンカー用凹部の規則的な配列形態として、例えば、複数の溝を平行に配列する形態があり、更に等方性を考慮した配列形態として、複数の溝(線状の窪み)が交差する格子形状や、複数の円柱形又は多角柱形の凹部が均一に分散した斑状がある。凸部(凹部間の隔たり部分)の強度の点からは円形凹部による斑状形態が好ましく、一方、加工の容易さでは格子形状の溝が好ましく、実用的に格子形状が採用し易い。格子形状には、直交格子、菱目格子、かごめ格子、三角格子等があり、応力に対する凸部の強度の点では、図1(a)のような正方形直交格子(碁盤目)が好ましい。
次に、アンカー用凹部の断面(煉瓦表面に垂直な断面)の形状について考える。図1は、電鋳煉瓦1にアンカー用凹部3として断面形状が長方形である複数の直線溝gからなる格子状溝を設けた実施形態を示し、この形態では、各溝gの側面が煉瓦表面に垂直で溝幅wは一定である。この実施形態とは異なり、凹部の深部に向かって溝幅が狭くなるように側面が傾斜する場合では、金属被膜の収縮による引っ張り応力が側面に対して剪断応力として作用して剥離を引き起こし易い。逆に、凹部の深部に向かって溝幅が拡がるように側面が傾斜する場合では、側面にかかる応力が深部(凸部の根本)に集中して凸部が破断し易くなる。従って、側面への応力作用の観点から、図1のような断面が長方形の溝gでアンカー用凹部3を構成する形態は好適であり、応力は、煉瓦表面に垂直な溝の側面へ適切に作用し、側面に垂直な応力成分がアンカー効果として作用する。
以下に、図2を参照して、断面形状が長方形である格子状溝と金属被膜との関係について詳細に説明する。尚、図2は、図1の電鋳煉瓦1に金属を溶射して金属被膜5を形成した一例を示す。
アンカー効果が効果的に得られるには、アンカー用凹部3を構成する溝にはある程度の深さが必要であるが、過度に深い溝は、電鋳煉瓦1の表面部分の全体としての強度を低下させ、加工も難しい。従って、これらの点で好適な範囲を求めると、溝の深さは、50〜350μm程度が好ましく、より好ましくは150〜250μm程度となる。これは、前述の好適な金属被膜5の厚さの1/2〜5/4に相当し、金属被膜の厚さをm、溝の深さをdとして比率d/mを求めると、好ましいd/mは1/2〜1となり、より好ましくは1/2〜3/4となる。
一方、金属被膜5と電鋳煉瓦1との間で発生する応力の分散度は、溝ピッチ(溝間間隔)pによって変わり、応力を分散して一箇所にかかる応力を小さくするには溝ピッチpを小さくする必要がある。この点に関して金属被膜5の応力耐久性及び電鋳煉瓦1の強度を勘案すると、溝ピッチpは、2.5mm程度以下が好ましく、より好ましくは1.5mm程度以下となる。同じ理由により、溝幅wも狭い方が好ましく、又、電鋳煉瓦1の表面部分の強度を保持する点でも溝幅wは狭い方が好ましい。但し、溶射される金属粒子の粒径より溝幅wが狭いと、溶射粒子で溝を充填できないので、溝幅wは、溶射粒子の寸法によって制限される。通常、溶射粒子の粒径は100μm程度以上であるので、溝幅wも100μm程度以上、好ましくは150μm程度以上となる(溶射法によっては40μm程度まで減少可能である)。また、凸部が応力に抗して破断しない強度を保有するためには、応力に応じた凸部幅x(=溝間間隔、溝ピッチpと溝幅wとの差)を確保する必要がある。金属被膜5から加わる引っ張り応力は、電鋳煉瓦1上に形成される金属被膜5の厚さmに伴って増加するので、金属被膜が厚いほど凸部に要する幅は増加する。この点で、凸部幅xは、金属被膜の厚さmの4倍程度以上であると好ましく、更に、溝ピッチpを小さくする点を考慮すると、好ましい凸部幅xは、膜の厚さmの2.5〜5倍程度となる。つまり、x/m比は4〜5程度である。前述の好適な金属被膜の厚さmに基づいて必要な凸部幅xを定めると、凸部幅xは、700μm〜2.2mm程度が好ましく、より好ましくは750μm〜1.3mm程度となる。この結果、好ましい溝ピッチpは800μm〜2.5mm程度、より好ましい溝ピッチpは1〜1.5mm程度となる。従って、上記凸部幅x及び溝ピッチpを考慮すると、溝幅wは300μm以下が好ましく、より好ましくは250μm以下となる。
溝の側面にかかる応力は、溝が深い(側面が大きい)ほど側面全体に応力が分散し、凸部が破断し難くなる。従って、溝の深さdに対する溝ピッチpの割合:p/dが小さいほど、応力の分散性が高く、被覆の剥離を抑制し易くなる。前述の好適な溝ピッチp及び溝の深さdに基づいて応力が適切に分散されるp/d値を求めると、好ましくは3〜8程度となる。
上述の実施形態は、アンカー用凹部3を構成する溝gの両側面を各々1つの平面で規定して断面を長方形に構成したものであるが、実際の加工では、図3(a)〜(d)のように、溝の各側面が複数の平面又は曲面で規定されるような変更も可能である。これらのアンカー用凹部3a〜dでは、溝ga〜gdの側面が凹部に向かって僅かに突出又は凹むように、2つの平面11,13,21,23(図3(a)及び(c))又は曲面15,25(図3(b)及び(d))で構成したもので、溝ga〜gdは、電鋳煉瓦1a〜1dの表面から深部に向かって溝幅w’から溝幅wへ狭搾される。図3(a)及び(b)では、煉瓦表面付近において溝ga,gbのテーパー度が大きく、平面13及び深部の曲面15は煉瓦表面と垂直である。図3(c)及び(d)では、深部において溝gb、gdのテーパー度が大きく、平面21及び煉瓦表面付近の曲面25は煉瓦表面と垂直である。図3(a)及び(b)の形態は、凸部の耐久性を高める点で好ましい。但し、図3の実施形態においても、剪断応力による剥離を防止するためには実質的に長方形に近似可能な程度の変形であることが好ましいので、溝ga〜gdの狭搾率(煉瓦表面における溝幅w’に対する溝幅の減少量(w’−w)の百分率)が90%程度以下であるものが好適であり、狭搾度がこれを超える溝の割合は、アンカー用凹部を構成する溝全体の40%未満(割合は溝の長さに基づいて算出する)であることが好ましい。図1の断面が長方形の溝と、図3のような狭搾した溝とを組み合わせてアンカー用凹部を構成しても良い。この場合、アンカー用凹部を構成する溝全体のうち60%以上は、断面が長方形の溝g又は狭搾率が90%以下の溝ga〜gdであると好ましい。
アンカー用凹部として、斑状の凹部を設ける場合、加工を考慮すると円柱形凹部が実用的であり、この場合も、凹部の寸法及び配置の好適範囲は、上記と同様に決定される。つまり、凹部の深さは前述の溝の深さとなり、凹部の径は前述の溝幅となり、凹部間の間隔は前述の溝間間隔となり、凹部のピッチが前述の溝ピッチとなるように配置すればよい。
上述のようなアンカー用凹部を電鋳煉瓦表面に形成することによって、金属溶射被膜を安定に固着可能な電鋳煉瓦が得られる。溝の形成は、砥石、ダイヤモンドブレード等で構成される研削刃を装着した研削機を用いて機械的に行うことができる。或いは、レーザー等の高エネルギービームや高圧水流を用いて行っても良い。アンカー用凹部として斑状の凹部を形成する場合は、ピンドリル等の形態の研削具を用いればよい。アンカー用凹部を形成する前に、予め研削機による切り出し等によって電鋳煉瓦の表面を精度の高い平面に整えると、不測の凹凸に起因して金属溶射被膜が剥離するのを回避できる点で好ましい。
電鋳煉瓦は、ガラス相が少ないという他の煉瓦にはない特徴を有し、非常に強固で表面に凹凸加工を施すのは容易ではないので、通常、凹凸加工を行うことはない。しかし、幾つかの表面加工技術の試行錯誤を経て、漸くアンカー効果のある凹凸加工法と凸部破壊に至らない凹凸形状とを見出し、実現化が可能となっている。具体的には、被膜の突起部表面剥離の問題と被膜の応力による突起部破壊の問題とを試行錯誤により解決している。
又、本発明はガラス溶解等に用いる電鋳煉瓦基材に適用するものであり、その基材は直方体などの単純な形状である場合が多い、従って、溶射を実施する表面は平面であることが殆どである。しかし、電鋳煉瓦の適用範囲が広がるに従って、用途によっては煉瓦を曲面形状等に機械加工して比較的複雑な形状として用いる要求も少なくない。このような場合には、金属を溶射により被覆すべき表面も必然的に曲面を有する3次元形状となる。一般に、硬質で緻密な電鋳煉瓦は典型的な難加工材料であり、本発明で提案する形状及び寸法が厳密に制御された溝を上記のような3次元形状のものに加工するためには、高度な加工技術が必要であり、これに要するコストも無視することはできない。
前述のような3次元形状の表面への被覆が要求される場合には、溝の代替として断続的な孔加工を選択することが可能であり、加工の難度及びコストの点で大幅に有利である。本発明の効果が得られる孔は、直交格子(碁盤目)の交差位置に形成されていることが好ましく、或いは、孔ピッチ距離が同一となるように千鳥状の位置に配置されていることが好ましい。孔ピッチの距離は0.7〜2.5mm程度が好ましく、より好ましくは1〜1.6mm程度とする。その孔直径は0.2〜0.5mm程度が好ましく、より好ましくは0.3〜0.4mm程度とする。孔の深さは0.05〜0.35mm程度が好ましく、より好ましくは0.15〜0.25mm程度とする。
上述のようにアンカー用凹部を形成した電鋳煉瓦は、溶射法によって溶融金属粒子を射出して吹き付けた後、金属を冷却固化することによって金属溶射被膜が形成される。溶射法には、レーザー溶射法、ワイヤーフレーム溶射法、プラズマ溶射法、アーク溶射法、酸水素炎溶射法等があり、何れの方法でも良い。射出する金属粒子は細かい方が好ましく、溶射方法の種類によっては40μm程度まで減少可能であるが、概して、溶射法で射出される金属粒子は50〜150μm程度である。溶射金属粒子の温度は、概して、700〜1500℃程度であるので、溶射を施す際に電鋳煉瓦を加熱すると、溶射金属と電鋳煉瓦との温度差が減少し、煉瓦と溶射金属被膜との密着性が向上するので好ましく、電鋳煉瓦を加熱した状態で溶射した後に常温まで徐冷する。電鋳煉瓦の加熱温度は、溶射金属の温度程度以下、具体的には200〜500℃程度が好ましく、より好ましくは300〜400℃とする。徐冷時の降温速度はできる限り遅い方が良く、望ましくは10℃/分程度以下とする。金属溶射被膜は、粒子の堆積によって形成された被膜であるので、溶融金属の塗布等による固化膜などとは異なり、断面において粒状堆積構造が見られることによって区別される。このような構造では、相対的に密度比が低く、膨脹・収縮による応力が通常の金属膜に比べて緩和される。
上述のようにして、一旦金属溶射被膜で電鋳煉瓦を被覆してしまえば、金属溶射被膜はしっかりと煉瓦表面に固着され、実用時の温度変化がよほど激しくない限り、金属のクリープ変形や降伏能力によって剥離は回避される。得られる金属被膜付き電鋳煉瓦は、高温下での耐久性に優れ、ガラス製造設備用の耐火・耐熱構造材だけでなく、ガス用反応触媒壁等にも利用できる。
以下、実施例を参照して、本発明について具体的に説明する。
以下の操作に従って、電鋳煉瓦に溝加工を施した後に金属溶射を行って金属被膜付き電鋳煉瓦の試料を作成し、その間、金属溶射被膜の状態を観察した。実施例1〜3における試料の形態及び溶射結果を表1に記載する。
[実施例1]
(試料Z1)
高ジルコニア電鋳煉瓦(旭硝子社製:X950、密度5.45g/cm、酸化珪素4.5%、ZrO含量95質量%以上、圧縮強度400kg/cm、曲げ強度90kg/cm、引っ張り強度66.67kg/cm、熱膨張係数0.68、気孔率0.6容積%、ガラス相割合7容積%)を縦50mm×横50mm×高さ10mmの煉瓦片に切断し、この煉瓦片の50mm×50mmの一面を#100の砥石を装着した横軸研削機を用いて研削した。この研削面に、ダイヤモンドブレードを装着した加工機を用いて、溝幅w:0.2mm、溝の深さd:0.1mm、溝ピッチp:1mm、凸部幅x:0.8mmの直交格子形状の溝を形成した。
上記電鋳煉瓦片を大気雰囲気中で300℃まで加熱し、溝を形成した面上にワイヤーフレーム溶射法を用いて白金の溶射を開始し(飛行溶射粒子径:100μm程度、温度約100℃)、白金被膜の膜厚が300μmになるまで溶射を続けた後に、煉瓦片を常温まで徐冷した。溶射中において、膜厚が200μmの時点で溶射被膜の剥離が観察された。なお、溶射被膜の剥離とは、被膜の一部が炉材から剥がれた場合であっても剥離と記載している。
(試料Z2)
溝の直交格子形状を、溝幅w:0.2mm、溝の深さd:0.2mm、溝ピッチp:0.4mm、凸部幅x:0.2mmとしたこと以外は試料Z1と同様にして、電鋳煉瓦片の研削面に溝を形成して白金の溶射を行った。この結果、溶射した被膜の膜厚が100μmとなった時点で溶射被膜の剥離が観察された。
(試料Z3)
溝の直交格子形状を、溝幅w:0.2mm、溝の深さd:0.2mm、溝ピッチp:0.6mm、凸部幅x:0.4mmとしたこと以外は試料Z1と同様にして、電鋳煉瓦片の研削面に溝を形成して白金の溶射を行った。この結果、溶射した被膜の膜厚が100μmとなった時点で溶射被膜の剥離が観察された。
(試料Z4)
溝の直交格子形状を、溝幅w:0.2mm、溝の深さd:0.2mm、溝ピッチp:1mm、凸部幅x:0.8mmとしたこと以外は試料Z1と同様にして、電鋳煉瓦片の研削面に溝を形成して白金の溶射を行った。溶射中に溶射被膜の剥離は観察されず、冷却後も溶射被膜は電鋳煉瓦片に密着していた。溶射被膜の膜厚は300μmであった。また、被膜の耐久性も高く耐熱構造体としても有用である。
(試料Z5)
溝の直交格子形状を、溝幅w:0.2mm、溝の深さd:0.2mm、溝ピッチp:1.4mm、凸部幅x:1.2mmとしたこと以外は試料Z1と同様にして、電鋳煉瓦片の研削面に溝を形成して白金の溶射を行った。溶射中に溶射被膜の剥離は観察されず、冷却後も溶射被膜は電鋳煉瓦片に密着していた。溶射被膜の膜厚は300μmであった。また、被膜の耐久性も高く耐熱構造体としても有用である。
(試料Z6)
溝の直交格子形状を、溝幅w:0.3mm、溝の深さd:0.3mm、溝ピッチp:0.6mm、凸部幅x:0.3mmとしたこと以外は試料Z1と同様にして、電鋳煉瓦片の研削面に溝を形成して白金の溶射を行った。この結果、溶射中には溶射被膜の剥離は観察されなかったが、徐冷の時点で被膜の剥離が見られた。溶射被膜の膜厚は300μmであった。
(試料Z7)
溝の直交格子形状を、溝幅w:0.3mm、溝の深さd:0.3mm、溝ピッチp:1.2mm、凸部幅x:0.9mmとしたこと以外は試料Z1と同様にして、電鋳煉瓦片の研削面に溝を形成して白金の溶射を行った。溶射中に溶射被膜の剥離は観察されず、冷却後も溶射被膜は電鋳煉瓦片に密着していた。溶射被膜の膜厚は300μmであった。また、被膜の耐久性も高く耐熱構造体としても有用である。
[実施例2]
(試料A1)
アルミナ電鋳煉瓦(旭硝子社製:MB−A、密度3.9g/cm、酸化珪素1%、Al含量95質量%以上、圧縮強度250kg/cm、曲げ強度83kg/cm、引っ張り強度41.67kg/cm、熱膨張係数0.7、気孔率2.0容積%、ガラス相割合1容積%以下)を縦50mm×横50mm×高さ10mmの煉瓦片に切断し、この煉瓦片の50mm×50mmの一面を#100の砥石を装着した横軸研削機を用いて研削した。この研削面に、ダイヤモンドブレードを装着した加工機を用いて、溝幅w:0.2mm、溝の深さd:0.2mm、溝ピッチp:0.4mm、凸部幅x:0.2mmの直交格子形状の溝を形成した。
上記電鋳煉瓦片を大気雰囲気中で300℃まで加熱し、溝を形成した面上にワイヤーフレーム溶射法を用いて白金の溶射を開始し(飛行溶射粒子径:100μm程度、温度約1000℃)、白金被膜の膜厚が300μmになるまで溶射を続けた後に、煉瓦片を常温まで徐冷した。溶射中において、膜厚が100μmの時点で溶射被膜の剥離が観察された。
(試料A2)
溝の直交格子形状を、溝幅w:0.2mm、溝の深さd:0.2mm、溝ピッチp:1.4mm、凸部幅x:1.2mmとしたこと以外は試料A1と同様にして、電鋳煉瓦片の研削面に溝を形成して白金の溶射を行った。溶射中に溶射被膜の剥離は観察されず、冷却後も溶射被膜は電鋳煉瓦片に密着していた。溶射被膜の膜厚は300μmであった。また、被膜の耐久性も高く耐熱構造体としても有用である。
(試料A3)
溝の直交格子形状を、溝幅w:0.2mm、溝の深さd:0.2mm、溝ピッチp:5mm、凸部幅x:4.8mmとしたこと以外は試料A1と同様にして、電鋳煉瓦片の研削面に溝を形成して白金の溶射を行った。この結果、溶射中には溶射被膜の剥離は観察されなかったが、徐冷の時点で升目毎に被膜の剥離が見られた。溶射被膜の膜厚は300μmであった。
[実施例3]
(試料Z8)
溶射する金属を白金からPt−10%Rh合金に変更したこと以外は試料Z4と同様にして、研削面に溝を形成した電鋳煉瓦片に溶射を行った。溶射中に溶射被膜の剥離は観察されず、冷却後も溶射被膜は電鋳煉瓦片に密着していた。溶射被膜の膜厚は300μmであった。また、被膜の耐久性も高く耐熱構造体としても有用である。
(試料A4)
溶射する金属を白金からPt−10%Rh合金に変更したこと以外は試料A2と同様にして、研削面に溝を形成した電鋳煉瓦片に溶射を行った。溶射中に溶射被膜の剥離は観察されず、冷却後も溶射被膜は電鋳煉瓦片に密着していた。溶射被膜の膜厚は300μmであった。また、被膜の耐久性も高く耐熱構造体としても有用である。
(表1)
溝の形態と金属被膜の剥離
試料 溶射 溝 (mm) 被膜の剥離
金属 溝幅w 深さd ピッチp 凸部幅x
Z1 Pt 0.2 0.1 1.0 0.8 200μmで剥離
Z2 Pt 0.2 0.2 0.4 0.2 100μmで剥離
Z3 Pt 0.2 0.2 0.6 0.4 200μmで剥離
Z4 Pt 0.2 0.2 1.0 0.8 剥離しない
Z5 Pt 0.2 0.2 1.4 1.2 剥離しない
Z6 Pt 0.3 0.3 0.6 0.3 徐冷中に剥離
Z7 Pt 0.3 0.3 1.2 0.9 剥離しない
Z8 Pt-Rh 0.2 0.2 1.0 0.8 剥離しない
A1 Pt 0.2 0.2 0.4 0.2 100μmで剥離
A2 Pt 0.2 0.2 1.4 1.2 剥離しない
A3 Pt 0.2 0.2 5.0 4.8 升目毎に剥離
A4 Pt-Rh 0.2 0.2 1.4 1.2 剥離しない
[実施例4]
アンカー用凹部として、直交格子形状の溝の代わりに、ピッチ:1.4mmの直交格子の交点位置に直径:0.4mm、深さ:0.2mmの円柱形凹部が配置された斑状凹部を採用したこと以外は試料Z1と同様にして、電鋳煉瓦片の研削面にアンカー用凹部を形成して白金の溶射を行った。溶射中に溶射被膜の剥離は観察されず、冷却後も溶射被膜は電鋳煉瓦片に密着していた。
本発明における電鋳煉瓦の一実施形態を示す平面図(a)、及び、(a)の電鋳煉瓦のA−A線矢視断面図。 本発明の金属被膜付き電鋳煉瓦の一実施形態を示す断面図。 本発明における電鋳煉瓦の他の実施形態を示す断面図(a)〜(d)。
符号の説明
1,1a〜1d:電鋳煉瓦、3,3a〜3d:アンカー用凹部、
5:金属被膜、g,ga〜gd:溝、
11,13,21,23:平面、15,25:曲面
d:溝の深さ、p:溝ピッチ、x:突起幅、w:溝幅

Claims (13)

  1. 規則的なアンカー用凹部が表面に形成される電鋳煉瓦と、前記電鋳煉瓦の表面を被覆し前記アンカー用凹部を埋込むように設けられた金属被膜とを有し、前記金属被膜は白金族金属を含有し、前記電鋳煉瓦は、気孔率が5容積%以下でガラス相の割合が15質量%以下であることを特徴とする金属被膜付き電鋳煉瓦。
  2. 全機金族被膜の膜厚は、100〜400μmである請求項1記載の金属被膜付き電鋳煉瓦。
  3. 前記アンカー用凹部の60%以上は、断面形状が長方形である請求項1又は2記載の金属被膜付き電鋳煉瓦。
  4. 前記アンカー用凹部は、並行する規則的な複数の溝で構成され、前記複数の溝の溝間間隔は、前記金属被膜の膜厚の4〜5倍である請求項1〜3の何れかに記載の金属被膜付き電鋳煉瓦。
  5. 前記アンカー用凹部の溝の深さは、前記金属被膜の膜厚の1/2〜1倍である請求項1〜4の何れかに記載の金属被膜付き電鋳煉瓦。
  6. 前記金属被膜は、白金又は白金合金で構成される溶射被膜である請求項1〜5の何れかに記載の金属被膜付き電鋳煉瓦。
  7. ガラス製造設備用構造材料として使用される請求項1〜6の何れかに記載の金属被膜付き電鋳煉瓦。
  8. 前記電鋳煉瓦の酸化珪素含有量が10質量%以下である請求項1〜7の何れかに記載の金属被膜付き電鋳煉瓦。
  9. 気孔率が5容積%以下でガラス相の割合が15質量%以下である電鋳煉瓦の表面に規則的なアンカー用凹部を形成し、白金族金属を含有する金属を前記電鋳煉瓦に溶射して、前記アンカー用凹部を満たし且つ前記電鋳煉瓦の表面を被覆する金属被膜を形成することを特徴とする金属被膜付き電鋳煉瓦の製造方法。
  10. 前記アンカー用凹部は、並行する規則的な複数の溝を有し、前記複数の溝の間隔は、前記金属被膜の膜厚の4〜5倍であり、溝の断面形状が長方形である請求項9記載の金属被膜付き電鋳煉瓦の製造方法。
  11. 前記アンカー用凹部の深さは、前記金属被膜の膜厚の1/2〜1倍である請求項9又は10に記載の金属被膜付き電鋳煉瓦の製造方法。
  12. 前記金属被膜は白金又は白金合金で構成され、前記金属被膜の膜厚は100〜400μmであり、前記電鋳煉瓦は、酸化珪素含有量が10質量%以下である請求項9〜11の何れかに記載の金属被膜付き電鋳煉瓦の製造方法。
  13. 前記金属の溶射に際して、前記電鋳煉瓦は300〜500℃に加熱される請求項9〜12の何れかに記載の金属被膜付き電鋳煉瓦の製造方法。
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