JP2008106427A - 既存防波堤の嵩上げ方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】既存の防波堤の堤体安定性を保ちつつ、津波や高波に対する防波効果を増強させることができる既存防波堤の嵩上げ方法の提供。
【解決手段】直立した前面を有する既存防波堤の堤体前面上部を斜めに切断除去することにより上側が天端後部側に傾斜した堤体前部傾斜面15を形成し、その既存防波堤体12の天端面上に、堤体後面側に片寄せて、堤体安定性を損なわない重量及び高さの嵩上げ部17を設置する。好ましくは堤体前部傾斜面15を形成する際に切断除去した除去部材16を、その切断面を前面側に向けて前記防波堤の天端面上に積み重ねる。
【選択図】図1

Description

本発明は、既に構築されている防波堤の構造安定性を損なうことなく、津波や高潮に対しての防波機能を向上させる既存防波堤の嵩上げ方法に関する。
津波や高潮による災害を防止軽減する海岸構造物として、防波堤、護岸、防潮提などが構築されている。これらは津波や高潮に対する防壁を構築するものであり、一般的には防壁が高い程、その効果を発揮すると考えられる。そこで、堤体の高さを増して防波効果等を高める方法として、消波式構造物の嵩上げ工法(特許文献1)が知られている。また、堤体前面を斜面に形成すると共に該斜面にスリットを形成し、該スリットを通じて波を堤体前部の中空室に導いて消波効果を高めた斜面スリットケーソン(特許文献2)が知られている。
特開2001−207424号公報 特開平11−350450号公報
一般に、既存の防波堤は規格に基づいて安定性が確保されているので、津波や高潮対策の目的でその高さや重量を増せば、設計波に対して波力および底版反力が増加し、既存構造物の構造安定性を保持できなくなる可能性が高い。したがって,既存防波堤を嵩上げするには,構造全体の補強(例えば堤体幅の拡幅や鉄筋の補強)が必要となり、相当の施工時間が必要となり、さらに施工費用が嵩む場合が多い。
また、防波堤の前部を斜面に形成したものは、前部が直立形状の防波堤よりも作用波力および揚圧力が低下するものの、防波堤を越える越流量は直立形状の場合よりも増加するので、この越流量を抑制する対策が必要になる。
本発明は、上述の如き従来の問題に鑑み、既存の防波堤において、その構造全体の大幅な重量増加を招くことなく、堤体安定性を保ちつつ、津波や高波に対する防波効果を増強させることができ、かつ施工の容易な既存防波堤の嵩上げ方法の提供を目的としてなされたものである。
上述の従来の問題を解決し、所期の目的を達成するための請求項1に記載する発明の特徴は、直立した前面を有する既存防波堤の堤体前面上部を斜めに切断除去することにより上側が堤体天端後部側に傾斜した堤体前部傾斜面を形成し、該既存防波堤の堤体天端面上に、堤体安定性を損なわない重量及び高さの嵩上げ部を設置することを特徴とする既存防波堤の嵩上げ方法にある。
上記「堤体安定性を損なわない」とは、下記a及びbの条件をともに満たすことを指す。
a.堤体の水中部における重量から揚圧力を差し引いた値を堤体底部の摩擦係数を乗した後,水平波力で除した値(滑動に対する安全率)が規定値を下回らないことをさす。(例えば、港湾基準においては暴風時に1.2、その他の例としては1.0)
b.堤体の水中部における重量に堤体直立部の重量の合力の作用線から堤体後しまでの距離を乗した値から揚圧力による堤体後し回りのモーメントを差し引いた後、水平波力による堤体後し回りのモーメントで除した値(転倒に対する安全率)が規定値を下回らないことをさす。(暴風時において1.1)
上記、安全率とは、設計時の要求性能において定められている規定値(1.0〜1.2)であり、標準値は、滑動に対する安全率は暴風時に1.2、転倒に対する安全率は暴風時に1.1である。
請求項2に記載の発明の特徴は、上記請求項1の構成に加え、前記嵩上げ部の重量を、前記堤体の前面上端の切断除去した部分と同等の重量としたことにある。
請求項3に記載の発明の特徴は、上記請求項1又は2の構成に加え、前記嵩上げ部には、その前面側から後面側に貫通する孔部が設けられていることにある。
請求項4に記載の発明の特徴は、上記請求項1,2又は3の構成に加え、前記堤体前部傾斜面を形成する際に切断除去した除去部材を、その切断面を前面側に向けて前記防波堤の天端面上に積み重ねることにある。
本発明においては、直立した前面を有する既存防波堤の堤体前面上部を斜めに切断除去することにより上側が堤体天端後部側に傾斜した堤体前部傾斜面を形成し、該既存防波堤の堤体天端面上に、堤体後面側に片寄せて、前面側が前記堤体前部傾斜面と同様に傾斜させた嵩上げ部を設置することにより、全体の既存防波堤の全体の重量変化を少なくして嵩上げができ、しかも堤体前面上部及び嵩上げ部の前面が上側を後部側に傾斜させた傾斜面としているため、堤体に対する水平波力による外力を増加させないで、津波や高波の越波阻止機能を向上させることができる。
また、本発明においては、前記嵩上げ部の重量を、前記堤体の前面上端の切断除去した部分と同等の重量とすることにより、堤体の全体重量は前部が直立形状の嵩上げ前の堤体とほぼ同等であり、大幅な重量増加を生じないので、既存防波堤などの規格に適合した構造安定性を維持することができる。
更に、本発明においては、前記嵩上げ部には、その前面側から後面側に貫通する孔部が設けることにより、貫通する孔部の面積に対応して水平波力による外力を減少させることができ、嵩上げによる堤体の安定性が損なわれることを防止できる。
更に、本発明においては、前記堤体前部傾斜面を形成する際に切断除去した除去部材を、その切断面を前面側に向けて前記防波堤の天端面上に積み重ねるようにすることにより、既存の堤体に使用されている材料を利用して嵩上げができ、堤体の改築に伴う廃棄物量が極めて少なく、廃棄物処理が殆ど不要となり、工費が節減できる。
本発明に係る堤体構造の実施形態を図面に基づいて具体的に説明する。
図1は本発明に係る嵩上げ方法を既存防波堤に実施した一例を示す断面図である。この防波堤は、地盤10の上に捨石マウンド11が形成されており、該捨石マウンド11の上に堤体12が構築されている。堤体12の基礎部分は、例えば、10〜200kg/個程度の重量の基礎用捨石を地盤表面に積み上げて捨石マウンド11が造成され、該捨石マウンド11の上面には、堤体12の下側を除き、その表面を1ton/個程度の重量を有する被覆用捨石13が敷き詰められ、堤体12の根元部分には根固石14が設けられている。なお、堤体12の基礎部分は図示する態様に限らない。
堤体12の前面(波浪を受ける側の面)は、その上部に上側を天端後部側に傾斜させた堤体前部傾斜面15が形成されている。この傾斜面15は、既存の堤体12の前面上部の略直角二等辺三角形をした角部16が切断除去された形状となっている。
一方、堤体12の天端の後部には嵩上げ部17が設置されている。該嵩上げ部17は堤体12の矩形断面において上記斜面を形成する角部16の切断部分に相当する容量(重量)のものが嵩上げされた状態となっており、その前面は前記堤体前部傾斜面15と同様の傾斜の嵩上げ部前部傾斜面18となっている。
なお、図示する傾斜面15,18は、略45度の傾斜した形状となっているがこれら傾斜面の傾斜角度は施工条件に応じて適宜定め得る。
次に、図2について既存の堤体12について上記嵩上げ部17を形成する例を説明する。コンクリートケーソンまたは場所打ちコンクリートからなる既存堤体12について、直立配置の前面上部の角部16を切断して堤体前部傾斜面15を形成する。次いで、この切断した三角形断面を有する角部16を、その傾斜面が前面に向かうように天端後部に積重ねて固定し、嵩上げ部17を形成する。
上記嵩上げ部17には、必要に応じ、その傾斜面18から背面に通じる貫通孔19を設ける。該貫通孔19は堤体12の長手方向に沿って適宜の個数を設ければ良い。また、嵩上げ部17の貫通孔19による開口率は施工条件に応じて適宜定めれば良い。後述の試験例は、開口率がおのおの15%、30%、50%の例を示している。
尚、上述の施工方法では、既存堤体12から切り取った角部16を嵩上げ部17として利用した例を示しているが、この嵩上げ部は、新規な材料によって構築してもよく、この場合、その形状及び高さその他の条件は、上記に限らず、直立型、パラペット型、背面傾斜型等、各種の形態とすることができ、既存防波堤の天端面より高く、かつ、既存堤体12の堤体安定性を損なわない重さ、高さ、形状であればよい。
ここに云う「堤体安定性を損なわない」とは、下記a及びbの条件を、ともに満たすことを指す。
a.堤体の水中部における重量から揚圧力を差し引いた値を堤体底部の摩擦係数を乗した後,水平波力で除した値(滑動に対する安全率)が規定値を下回らないことをさす。(例えば、港湾基準においては暴風時に1.2、その他の例としては1.0)
b.堤体の水中部における重量に堤体直立部の重量の合力の作用線から堤体後しまでの距離を乗した値から揚圧力による堤体後し回りのモーメントを差し引いた後、水平波力による堤体後し回りのモーメントで除した値(転倒に対する安全率)が規定値を下回らないことをさす。(暴風時において1.1)
上記、安全率とは、設計時の要求性能において定められている規定値(1.0〜1.2)であり、標準値は、滑動に対する安全率は暴風時に1.2、転倒に対する安全率は暴風時に1.1である。
尚、安全率の値は、地方や発注者等によって若干異なる場合があるが、基本的には既存防波堤を設計したときに定められた規定値を基準とする。
〔防波効果の解析例〕
本発明に係る堤体構造について、津波と高潮に対する防波効果を、従来例(改造前)との比較試験によって示す。試験は設定したモデルについて越流量を数値計算によって示した。堤体直立部の波力および斜面部の波力は一般に知られている算定式(堤体直立部の波力は合田の波力算定式、斜面部の波力は細山田らの算定式)に基づいて算出した。式計算においては切断・撤去部と嵩上げ部は同等の容積・質量として計算した。本検討における天端角部の切断・撤去高は2m、切断角度は45度である。
上記数値計算のモデルを図3、図4に示す。図3は従来の改造前の堤体モデルであり、図4は本発明に係る改造後の堤体モデルである。図4の本発明の堤体モデルは、ケーソン部分および上部コンクリート部分の大きさは図3の堤体モデルと同一であり、上部コンクリートの天端前部は角部が切断された斜面であり、切断角部を天端後部に積重ねた形状を有している。
図3および図4の堤体モデルについて、最高波高10.0m、周期10.0Sの波が作用するものとした。この結果、図4の本発明モデルは、堤体が嵩上げされているにもかかわらず、図3の従来モデルに対して水平波力が97%、揚圧力が83%におのおの低減された。この結果から、本発明によれば、既存の防波堤を本発明の形状に改良することによって、水平波力や揚圧力などの作用外力を増加させずに、安定性を維持して、防波堤を嵩上げできることが判る。
図3および図4の堤体モデルについて、数値波動水路を用い、波高2.0m、周期120Sの津波時、および暴風時の越流量を比較した。図3の従来モデルの越流状態を図5に示し、図4の本発明モデルの越流状態を図6に示した。また、法線からの越流量と背面への越流量を図7、図8に示した。図7は津波時の越流量であり、図8は暴風時の越流量である。なお、図7の越流量は、本発明の堤体モデルについて貫通孔を設けた場合、その開口率を15%、30%、50%とした例を対比して示した。
図7の試験結果に示すように、津波時において、本発明の堤体モデルは天端前面が斜面形状に切断されているため、法線からの越流量は、改造前の従来モデルと比較して、約20%増加するものの、嵩上げ部が設けられているので背面への越流量は、約85%減少する。また、図8の試験結果に示すように、暴風時において、改造前の従来モデルと改造後の本発明モデルの背面への越流量はほぼ同量である。
以上の試験結果によれば、本発明に係る堤体構造によれば、暴風時における越流量について改造前の従来の堤体構造と同等の機能を維持しつつ、津波時の越流量を85%低減することが可能である。また、天端後部のバラペット(嵩上げ部)の開口率を15%以下に設定することによって、貫通孔を設けない場合と同等の越流量低減効果を得ることができる。また、本発明に係る堤体構造は、作用外力が低下するため、嵩上げ部が設けられているにもかかわらず、改造前の従来の堤体構造と同等の構造安定性が確保されている。
本発明に係る嵩上げ方法によって嵩上げされた防波堤の一例の断面図である。 本発明に係る既存防波堤の嵩上げ方法の一例を示す概念図である。 数値試験に用いた従来の堤体モデルを示す断面図である。 数値試験に用いた本発明の堤体モデルを示す断面図である。 従来の堤体モデルについて津波時の越流状態を示す概念図である。 本発明の堤体モデルについて津波時の越流状態を示す概念図である。 数値波動水路による津波時の越流量を示すグラフである。 暴風時の越流量を示すグラフである。
符号の説明
10−地盤
11−捨石マウンド
12−堤体
13−被覆用捨石
14−根固石
15−堤体前部傾斜面
16−角部
17−嵩上げ部
18−嵩上げ部前部傾斜面
19−貫通孔

Claims (4)

  1. 直立した前面を有する既存防波堤の堤体前面上部を斜めに切断除去することにより上側が堤体天端後部側に傾斜した堤体前部傾斜面を形成し、該既存防波堤の堤体天端面上に、堤体安定性を損なわない重量及び高さの嵩上げ部を設置することを特徴とする既存防波堤の嵩上げ方法。
  2. 前記嵩上げ部の重量を、前記堤体の前面上端の切断除去した部分と同等の重量としてなる請求項1に記載の既存防波堤の嵩上げ方法。
  3. 前記嵩上げ部には、その前面側から後面側に貫通する孔部が設けられている請求項1又は2に記載の既存防波堤の嵩上げ方法。
  4. 前記堤体前部傾斜面を形成する際に切断除去した除去部材を、その切断面を前面側に向けて前記防波堤の天端面上に積み重ねる請求項1,2又は3に記載の既存防波堤の嵩上げ方法。
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