JP2008094710A - 分子ふるい炭素の製造方法及び分子ふるい炭素 - Google Patents
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Abstract
【課題】分子ふるい炭素を簡単かつ低コストに製造できる分子ふるい炭素の製造方法を提供する。
【解決手段】天然木材料を不活性雰囲気下で炭化することを特徴とする、分子ふるい炭素の製造方法。好ましくは天然木材料にスギ又はヒノキの木質部又は樹皮部(バーク)を使用する。また、好ましくは天然木材料に天然木の廃材を使用する。また、好ましくは炭化温度を500〜1000℃とする。
【選択図】なし
【解決手段】天然木材料を不活性雰囲気下で炭化することを特徴とする、分子ふるい炭素の製造方法。好ましくは天然木材料にスギ又はヒノキの木質部又は樹皮部(バーク)を使用する。また、好ましくは天然木材料に天然木の廃材を使用する。また、好ましくは炭化温度を500〜1000℃とする。
【選択図】なし
Description
本発明は分子ふるい炭素を簡単かつ低コストに製造できる分子ふるい炭素の製造方法に関する。
従来から、各種混合ガス中から特定成分を分離、精製するための吸着剤として分子ふるい炭素が知られている。分子ふるい炭素は分子径によって分離を行う分子ふるい効果をもつ炭素であり、通常の気相用活性炭が数nm程度の吸着に関与する幅広い細孔分布を持つのに対し、分子ふるい炭素は1nm以下の気体分子とほぼ同程度の小さく且つ狭い細孔分布を有するのが特徴であり、そのため、分子ふるい炭素の工業的製造においては、細孔径の制御が最も重要である。
分子ふるい炭素の製造方法に関しては、種々の方法が提案されているが、大別すると、1)含浸法、2)熱分解法、3)熱分解炭素蒸着法等が挙げられる。
含浸法は、室温から300℃程度までの温度範囲で液状を示す炭化水素(ピッチ、樹脂等)を活性炭等の基材内部に浸透させ、次に炭化処理を施して、その熱分解炭素により基材のミクロ孔を狭める方法である(例えば、特許文献1等)。しかし、この方法は、基材となる活性炭及び液状の炭化水素を準備する必要があることから、製造原料の調達に煩雑さを伴う。また、基材内部への炭化水素の浸透量の制御が非常に難しいため、得られる分子ふるい炭素の品質が安定せず(再現性が悪い)、製品収率が低いために、製造コストも嵩む。
また、熱分解法は、特許文献2〜4等に開示されているように、炭素質基材を不活性ガス雰囲気中で熱処理(炭化)するだけで分子ふるい炭素を製造する方法である。この方法では、含浸法に比べて品質の安定化は容易である。しかしながら、炭素質基材自体の品質の安定が必要とされ、そのため炭素質基材として高価な樹脂材料(塩化ビニリデン樹脂、フェノール樹脂、脂肪族成分を特定量共重合させた芳香族ポリエステル、芳香族ポリイミド等)の使用を余儀なくされている。また、これら樹脂の炭素質基材とするための調製方法も非常に複雑である。
また、熱分解炭素蒸着法は、炭素質基材と炭化水素ガスを高温で接触させ、炭化水素から放出される熱分解炭素を炭素質基材の細孔の入り口付近に蒸着させることで、炭素質基材のミクロ孔を調整する方法である(特許文献5等)。この方法によれば、熱分解炭素の発生量を炭化水素ガスの濃度や温度で制御することができるため、品質の安定した分子ふるい炭素の製造が可能と考えられる。しかし、製造工程は複雑かつ煩雑であるという欠点は免れない。また、品質(性能)の安定した分子ふるい炭素を得るためには、炭素質基材のミクロ孔の孔径制御が必要であるが、そのような孔径制御がされた炭素質基材は原料としてはかなり高価なものである。
このように、従来の分子ふるい炭素の製造方法は、原料自体が高価であったり、原料の調製が簡単でなかったり、また、製造工程が複雑である等から、製造コストの増大が避けられない。特に、品質の安定した分子ふるい炭素を得るためには、各種原料の調製条件や炭化条件(温度条件)を厳密に管理することが必要になるために設備に要する費用も嵩み、製造コストがさらに増大してしまう。
一方、近年、森林の樹木や落葉、麦わら、家畜の糞など、生物体を構成する有機物等のバイオマスをエネルギー源として利用することが種々の産業分野で検討され、実用化もされている。その中でも、メタン発酵は、大規模に実用化されている。メタン発酵によって得られるガス(バイオガス)は、主としてメタンと二酸化炭素の混合ガスであるので、この混合ガスのメタンの純度を高くすることにより、単位容積当たりの発熱量が大きくなり燃料源のみならず、化学原料源としての用途も広がる。従って、メタンと二酸化炭素(炭酸ガス)を含む混合ガスから、メタンと二酸化炭素を効率的に分離し得る分子ふるい炭素をより安価に製造できれば、メタン発酵によって得られるガス(バイオガス)の利用がより促進されることが期待される。
また、エチレンは各種化学品の合成に使われるため精製は必須であり、エタンとエチレンを分離することは石油化学等にとって重要な操作である。従って、エチレンとエタンを含む混合ガスから、エチレンとエタンを効率的に分離し得る分子ふるい炭素をより安価に製造できれば、産業上の利用価値は極めて大きいといえる。
特開昭62−176908号公報
特開昭62−59510号公報
特開昭63−139009号公報
特開平11−43322号公報
特表平1−502743号公報
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、その解決しようとする課題は、分子ふるい炭素を簡単かつ低コストに製造できる分子ふるい炭素の製造方法を提供することであり、特に、二酸化炭素(炭酸ガス)以下の分子径のガスとメタン以上の分子径のガスの分離性能に優れる分子ふるい炭素を簡単かつ低コストに製造できる分子ふるい炭素の製造方法を提供することである。
また、二酸化炭素(炭酸ガス)以下の分子径のガスとメタン以上の分子径のガスの分離性能に優れる、極めて安価な分子ふるい炭素を提供することである。
さらにまた、プロパンとプロピレンを分離し得、さらにブタンとイソブタンを分離し得る、極めて安価な分子ふるい炭素を提供することである。
さらにまた、エチレンとエタンを分離し得る、極めて安価な分子ふるい炭素を提供することである。
また、二酸化炭素(炭酸ガス)以下の分子径のガスとメタン以上の分子径のガスの分離性能に優れる、極めて安価な分子ふるい炭素を提供することである。
さらにまた、プロパンとプロピレンを分離し得、さらにブタンとイソブタンを分離し得る、極めて安価な分子ふるい炭素を提供することである。
さらにまた、エチレンとエタンを分離し得る、極めて安価な分子ふるい炭素を提供することである。
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、例えば、スギやヒノキの木質部又は樹皮部(バーク)を特定温度で炭化することにより、その炭化物が、殆どの細孔が細孔径0.3〜0.6nmの範囲にある狭い細孔径分布を有する炭化物となって、分子ふるい炭素として機能し得、しかも、得られる細孔径分布が個々の天然木が有する組織構造や化学的組成に基づくものであることから、安定した品質の分子ふるい炭素が得られることを見出し、かかる知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)天然木材料を不活性雰囲気下で炭化することを特徴とする、分子ふるい炭素の製造方法。
(2)天然木材料を不活性ガスの気流中にて炭化する、上記(1)記載の方法。
(3)天然木材料がスギ又はヒノキの木質部又は樹皮部(バーク)である、上記(1)又は(2)記載の方法。
(4)天然木材料が天然木の廃材である、上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の方法。
(5)炭化温度が500〜1000℃である、上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の方法。
(6)天然木材料の炭化物からなる分子ふるい炭素。
(7)スギ又はヒノキの木質部又は樹皮部(バーク)の炭化物からなる分子ふるい炭素。
(8)760mmHg(1気圧)におけるメタンに対する二酸化炭素の吸着量の比が20倍以上であり、かつ、二酸化炭素の760mmHg(1気圧)における吸着量が30ml(s.t.p.)/g以上である、天然木材料の炭化物からなる分子ふるい炭素。
(9)二酸化炭素に対するメタンの吸着時定数の比が20倍以上であり、かつ、二酸化炭素の760mmHg(1気圧)における吸着量が30ml(s.t.p.)/g以上である、天然木材料の炭化物からなる分子ふるい炭素。
(10)760mmHg(1気圧)におけるエタンに対するエチレンの吸着量の比が10倍以上であり、かつ、エチレンの760mmHg(1気圧)における吸着量が30ml(s.t.p.)/g以上である、天然木材料の炭化物からなる分子ふるい炭素。
(11)エタンに対するエチレンの吸着時定数の比が5倍以上であり、かつ、エチレンの760mmHg(1気圧)における吸着量が30ml(s.t.p.)/g以上である、天然木材料の炭化物からなる分子ふるい炭素。
(12)760mmHg(1気圧)におけるプロパンに対するプロピレンの吸着量の比が10倍以上であり、かつ、プロピレンの760mmHg(1気圧)における吸着量が30ml(s.t.p.)/g以上である、天然木材料の炭化物からなる分子ふるい炭素。
(13)プロピレンに対するプロパンの吸着時定数の比が概ね20倍以上であり、かつ、プロピレンの760mmHg(1気圧)における吸着量が30ml(s.t.p.)/g以上である、天然木材料の炭化物からなる分子ふるい炭素。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)天然木材料を不活性雰囲気下で炭化することを特徴とする、分子ふるい炭素の製造方法。
(2)天然木材料を不活性ガスの気流中にて炭化する、上記(1)記載の方法。
(3)天然木材料がスギ又はヒノキの木質部又は樹皮部(バーク)である、上記(1)又は(2)記載の方法。
(4)天然木材料が天然木の廃材である、上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の方法。
(5)炭化温度が500〜1000℃である、上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の方法。
(6)天然木材料の炭化物からなる分子ふるい炭素。
(7)スギ又はヒノキの木質部又は樹皮部(バーク)の炭化物からなる分子ふるい炭素。
(8)760mmHg(1気圧)におけるメタンに対する二酸化炭素の吸着量の比が20倍以上であり、かつ、二酸化炭素の760mmHg(1気圧)における吸着量が30ml(s.t.p.)/g以上である、天然木材料の炭化物からなる分子ふるい炭素。
(9)二酸化炭素に対するメタンの吸着時定数の比が20倍以上であり、かつ、二酸化炭素の760mmHg(1気圧)における吸着量が30ml(s.t.p.)/g以上である、天然木材料の炭化物からなる分子ふるい炭素。
(10)760mmHg(1気圧)におけるエタンに対するエチレンの吸着量の比が10倍以上であり、かつ、エチレンの760mmHg(1気圧)における吸着量が30ml(s.t.p.)/g以上である、天然木材料の炭化物からなる分子ふるい炭素。
(11)エタンに対するエチレンの吸着時定数の比が5倍以上であり、かつ、エチレンの760mmHg(1気圧)における吸着量が30ml(s.t.p.)/g以上である、天然木材料の炭化物からなる分子ふるい炭素。
(12)760mmHg(1気圧)におけるプロパンに対するプロピレンの吸着量の比が10倍以上であり、かつ、プロピレンの760mmHg(1気圧)における吸着量が30ml(s.t.p.)/g以上である、天然木材料の炭化物からなる分子ふるい炭素。
(13)プロピレンに対するプロパンの吸着時定数の比が概ね20倍以上であり、かつ、プロピレンの760mmHg(1気圧)における吸着量が30ml(s.t.p.)/g以上である、天然木材料の炭化物からなる分子ふるい炭素。
本発明によれば、高価な原料を使用せず、実質的に原料(天然木)を炭化(焼成)するのみで分子ふるい炭素を得ることができるので、分子ふるい炭素を簡単かつ低コストに製造することができる。
また、0.43nm以上の径の細孔が殆ど存在しない細孔径分布を有する分子ふるい炭素を得ることが可能であり、メタン発酵ガス等の主として二酸化炭素(炭酸ガス)とメタンを含む混合ガスから二酸化炭素(炭酸ガス)とメタンを効率良く分離できる、極めて安価な分子ふるい炭素を得ることができる。
また、主としてプロパンとプロピレンを含む混合ガスからプロパンとプロピレンを分離できる、極めて安価な分子ふるい炭素を得ることができる。
また、主としてブタンとイソブタンを含む混合ガスからブタンとイソブタンを分離できる、極めて安価な分子ふるい炭素を得ることができる。
また、主としてエチレンとエタンを含む混合ガスからエチレンとエタンを分離できる、極めて安価な分子ふるい炭素を得ることができる。
また、0.43nm以上の径の細孔が殆ど存在しない細孔径分布を有する分子ふるい炭素を得ることが可能であり、メタン発酵ガス等の主として二酸化炭素(炭酸ガス)とメタンを含む混合ガスから二酸化炭素(炭酸ガス)とメタンを効率良く分離できる、極めて安価な分子ふるい炭素を得ることができる。
また、主としてプロパンとプロピレンを含む混合ガスからプロパンとプロピレンを分離できる、極めて安価な分子ふるい炭素を得ることができる。
また、主としてブタンとイソブタンを含む混合ガスからブタンとイソブタンを分離できる、極めて安価な分子ふるい炭素を得ることができる。
また、主としてエチレンとエタンを含む混合ガスからエチレンとエタンを分離できる、極めて安価な分子ふるい炭素を得ることができる。
以下、本発明をより詳しく説明する。
本発明の分子ふるい炭素の製造方法は、天然木材料を不活性雰囲気下で炭化することを主たる特徴とする。
本発明の分子ふるい炭素の製造方法は、天然木材料を不活性雰囲気下で炭化することを主たる特徴とする。
本発明でいう「天然木材料」とは天然木からの採取物の意味であり、木を伐採し、製材されたもの(製材品)だけでなく、製材所等での製材過程で発生する樹皮部(バーク)、製材端材、大鋸屑(おがくず)等の加工木屑等の廃材も含む。また、本発明において、天然木材料は木質部の採取物であっても、樹皮部(バーク)の採取物であってもよいし、製材品であっても、廃材であってもよい。なお、製材過程で発生する廃材は本来は廃棄されるものであるから、廃材を使用することでより安価な分子ふるい炭素を製造することができる。
本発明において、天然木材料における天然木の種類としては、その炭化によって殆どの細孔の細孔径が0.3〜0.6nm範囲内となる細孔径分布を有する炭化物になるものであれば、特に制限されないが、流通量が多く入手しやすい点等から、スギ、ヒノキが好ましい。
また、本発明において、天然木材料は天然木の木質部又は樹皮部からの採取物をそのまま使用してもよいが、採取物をさらに粉砕したものや、採取物を球状や円柱状等の成形物に圧縮成形し、該成形物を炭化してもよい。すなわち、天然木の粉砕物を炭化する態様、天然木の粉砕物や加工木屑等の粒状物を所望の形状に圧縮成形した成形物を炭化する態様等、種々態様を選択することができる。成形は、例えば、押し出し成形機等により行うことができる。この成形は室温で行なわれるが、加熱下で実施してもよい。なお、加熱下で行う場合は、木材に含まれるリグニンの軟化溶融を利用する点から、リグニンの軟化が始まる150℃以上で行うのが望ましい。しかし、温度が高すぎると、リグニンの分解が著しく、飛散するので、300℃以下で行うのが望ましい。
粉砕物、成形物の大きさは特に限定されないが、粉砕物の場合、その最大径部の径が概ね0.5〜2mmの範囲にある粉砕片を主体とする、個々の粉砕片の大きさが比較的揃った粉砕物であるのが好ましい。また、成形物の場合、円柱状の成形物では、直径が5〜15mm程度で、長さが5〜30mm程度であるのが好ましく、球状の成形物では直径が5〜15mm程度であるのが好ましい。また、オガライトのような円筒状であれば、その壁厚を15mm程度にするのが好ましい。成形物を得る場合の成形に使用する装置は、例えば、押し出しあるいはロール型の成形機等の装置で行うことができる。なお、上記の「オガライト」は商品名であり、オガクズを固めて造った円筒状の成形物であり、木質系固形燃料として市販されている。
後述の実施例からも明らかなように、本発明の分子ふるい炭素の製造方法では、実質的に天然木材料を炭化する際の炭化温度の調整のみで、炭化物における細孔径分布を制御することができ、得られた炭化物(分子ふるい炭素)は、特に、メタン発酵ガス等の主として二酸化炭素(炭酸ガス)とメタンを含む混合ガスにおける二酸化炭素(炭酸ガス)とメタンの分離用、主としてプロパンとプロピレンを含む混合ガスにおけるプロパンとプロピレンの分離用、主としてブタンとイソブタンを含む混合ガスにおけるブタンとイソブタンの分離用、主としてエチレンとエタンを含む混合ガスにおけるエチレンとエタンの分離用等に好適な分子ふるい炭素となる。なお、ここでいう「分離」とは、ガスの平衡吸着量の差に基づくガス分離と、ガスの吸着速度の差に基づくガス分離の両方が含まれる。
本発明において、天然木材料を炭化する温度(炭化温度)は、天然木の種類や採取部、ガス分離の対象となる混合ガスの種類等によっても異なるが、概ね500〜1000℃の範囲である。炭化温度が500℃を下回ると細孔が充分に発達せず、また1000℃を超えると細孔径や細孔容積が減少して、吸着容量(ガスの吸着量)が小さくなってしまうため、好ましくない。
例えば、ヒノキ木質部を800℃以上で炭化するか、或いは、ヒノキの樹皮部(バーク)、スギの木質部及びスギの樹皮部(バーク)から選ばれるいずれか1種か又は2種以上の混合物を1000℃付近で炭化することで、細孔径が0.43nm以上の細孔が殆ど存在しない細孔径分布の炭化物(すなわち、細孔径が0.43nm以上の細孔の容積が0.01ml/g未満の炭化物)を得ることができ、その炭化物は、二酸化炭素(炭酸ガス)とメタンの分離用の分子ふるい炭素、さらにプロパンとプロピレンの分離用の分子ふるい炭素として好適なものとなる。特に、スギの樹皮(バーク)を1000℃付近で炭化することで、細孔径が0.38nmを超える細孔が存在しない細孔径分布の炭化物を得ることができ、その炭化物は、二酸化炭素(炭酸ガス)とメタンの分離用の分子ふるい炭素(平衡吸着量の差に基づくガス分離をする分子ふるい炭素)として好適なものとなり、しかも、優れた分離効率が得られるものとなる。また、同様に、加工木屑(鋸屑)を900℃以上で炭化することで、その炭化物は、二酸化炭素(炭酸ガス)とメタンの分離用の分子ふるい炭素として好適なものとなる。
また、例えば、ヒノキの樹皮部(バーク)、スギの木質部及びスギの樹皮部(バーク)から選ばれるいずれか1種か2種以上の混合物を900℃以下で炭化するか、或いは、ヒノキの樹皮部(バーク)を700℃以下で炭化した場合は、細孔径が0.43nmを超える細孔が比較的多く存在する比較的ブロードな細孔径分布を有する炭化物になるが、該炭化物の場合、主としてプロパンとプロピレンを含む混合ガスにおけるプロパンとプロピレンの分離用の分子ふるい炭素として利用でき、さらに主としてブタンとイソブタンを含む混合ガスにおけるブタンとイソブタンの分離用の分子ふるい炭素としても利用できる。また、同様に加工木屑を800℃以下で炭化することで、主としてプロパンとプロピレンを含む混合ガスにおけるプロパンとプロピレンの分離用の分子ふるい炭素として利用することができる。
また、ヒノキ木質部か、或いは、ヒノキの樹皮部(バーク)、スギの木質部及びスギの樹皮部(バーク)から選ばれるいずれか1種か又は2種以上の混合物を800℃付近、もしくは、それ以上で炭化することで、その炭化物は、主としてエチレンとエタンを含む混合ガスにおけるエチレンとエタンの分離用の分子ふるい炭素としても利用できる。
従来の、樹脂材料(塩化ビニリデン樹脂、フェノール樹脂、脂肪族成分を特定量共重合させた芳香族ポリエステル等)を原料とする分子ふるい炭素の製造方法では、通常、樹脂材料の炭化処理に先立って樹脂材料を粒状物に成形することが行われるが、本発明方法では、形状に制約を受けることなく、数cm程度の天然木材料の破砕物(粉砕物)であれば、そのまま炭化して分子ふるい炭素を製造することができる。また、従来の、樹脂材料を原料とする分子ふるい炭素の製造方法では、樹脂材料を粒状物に成形する際、造粒剤(例えば、界面活性剤、硬化剤、架橋剤、可塑剤等)が添加されるが、本発明方法では、天然木材料の粉砕物、樹皮部(バーク)、加工木屑等を球状や円柱状の成形物に成形して使用する(炭化する)、或いは、該成形物を粉砕してから使用する(炭化する)場合、天然木材料がリグニンを含むことから、基本的に、天然木材料に造粒剤を添加することなく、容易に成形物を得ることができる。なお、成形物の強度を高める目的で造粒剤を添加してもよい。
樹皮部(バーク)や加工木屑は成形性がよく、所望の形状に成形した成形物を得てから、その成形物を炭化することで、所望の形状の分子ふるい炭素を得ることができる。例えば、分子ふるい炭素をガスの吸着塔に搭載(充填)しやすくするために、樹皮部(バーク)や加工木屑を円筒状や円柱状に成形してから炭化することで、円筒状や円柱状の分子ふるい炭素を容易に製造することができる。
天然木材料の炭化処理は、天然木材料を、不活性雰囲気下において、所定の昇温速度で、炭化温度(500〜1000℃の範囲)まで昇温し、該炭化温度を一定時間保つことで行われる。昇温速度は一般的には2〜20℃/分の範囲で調整されるが、10℃/分前後が好ましい。また、炭化時間(すなわち、炭化温度での保持時間)は十分な細孔が形成し得る時間であり、概ね60分迄でよく、30分程度がより好ましい。一般的に炭化時間が長くなると、熱収縮により細孔容積、細孔径が小さくなる傾向となるので、高温ほど炭化時間は短時間になる傾向である。また、不活性雰囲気には、例えば、窒素、アルゴン等の不活性ガスによる雰囲気が採用される。なお、炭化処理は、昇温速度、炭化温度を正確に設定でき、不活性雰囲気を維持できる装置であればどのような装置で行ってもよい。なお、不活性雰囲気は気流を有する雰囲気が好ましく、すなわち、不活性ガスの気流中にて天然木材料を炭化するのが好ましく、窒素気流中が特に好ましい。不活性ガスの気流中にて炭化することによって、天然木材料の熱分解で生成するタール分が系外へ排出されやすくなり、好ましい。不活性ガス気流の流速は概ね5〜50mm/秒程度が好ましい。
なお、炭化処理は、400〜1000℃の範囲内の低温域(例えば、500℃程度)で予備炭化してから、500〜1000℃の範囲内の高温域(例えば、1000℃程度)でさらに炭化を進行させる2段の炭化処理を行ってもよい。
本発明方法では、実質的に天然木材料を特定の炭化温度で炭化することのみによって、分子ふるい炭素を得ることができるので、設備やエネルギーに要するコストも少なくて済む。さらに、天然木材料の炭化に先立って天然木材料に造粒剤等を添加する必要もないので、材料コストが極めて少なくて済む。天然木材料に天然木の廃材を使用した場合は、材料コストをさらに低減できる。また、本発明方法で製造される分子ふるい炭素は、その細孔径分布が個々の天然木が有する組織構造や化学的組成に基づくものであることから、品質に大きな差が無く、高い製造歩留りも達成できる。よって、本発明方法で製造される分子ふるい炭素は極めて安価である。
本発明方法で製造される分子ふるい炭素において、前述の、ヒノキ木質部を800℃以上で炭化するか、或いは、ヒノキの樹皮部(バーク)、スギの木質部及びスギの樹皮部(バーク)から選ばれるいずれか1種か又は2種以上の混合物を1000℃で炭化することで得られる、細孔径が0.43nm以上の細孔が殆ど存在しない炭化物(分子ふるい炭素)は、平均細孔径が概ね0.36〜0.42nmの範囲にあり、かつ、平均細孔径をX(nm)とした時に、X±0.03nmの範囲に細孔径を有する細孔の占める容積が全細孔容積の99%以上という細孔容積分布を有するものとして特徴付けられる。
また、スギの樹皮(バーク)を1000℃付近で炭化することで得られる、細孔径が0.38nmを超える細孔が存在しない炭化物(分子ふるい炭素)は、平均細孔径が概ね0.37nmであり、かつ、平均細孔径をX(nm)とした時に、X±0.01nmの範囲に細孔径を有する細孔の占める容積が全細孔容積の99%以上という細孔容積分布を有するものとして特徴付けられる。
また、ヒノキの樹皮部(バーク)、スギの木質部及びスギの樹皮部(バーク)から選ばれるいずれか1種か又は2種以上の混合物を900℃以下で炭化するか、或いは、ヒノキの樹皮部(バーク)を700℃以下で炭化することで得られる、細孔径が0.43nmを超える細孔が比較的多く存在する比較的ブロードな細孔径分布を有する炭化物は、平均細孔径が概ね0.42〜0.46nmであり、かつ、平均細孔径をX(nm)とした時に、X±0.08nmの範囲に細孔径を有する細孔の占める容積が全細孔容積の99%以上という細孔容積分布を有するものとして特徴付けられる。また、そのうちの、スギの木質部又はヒノキの樹皮部(バーク)を900℃以下で炭化するか、或いは、ヒノキの木質部を700℃以下で炭化することで得られるものは、プロパンガスとプロピレンガスの速度差による分離に好適な分子ふるい炭素となり、好適には、平均細孔径が概ね0.42〜0.44nmの範囲で、かつ、平均細孔径をX(nm)とした時に、X±0.05nmの範囲に細孔径を有する細孔の占める容積が全細孔容積の99%以上という細孔容積分布を有するものとなる。
なお、本発明方法で製造される分子ふるい炭素において、プロピレンとプロパンの平衡吸着量の差によってガス分離を行う分子ふるい炭素としては、例えば、ヒノキの木質部を800〜900℃で炭化して得られる分子ふるい炭素が挙げられ、この分子ふるい炭素は、平均細孔径が概ね0.41nmで、かつ、平均細孔径をX(nm)とした時に、X±0.015nmの範囲に細孔径を有する細孔の占める容積が全細孔容積の99%以上という細孔容積分布を有するものとして特徴付けられる。
また、エチレンとエタンの平衡吸着量の差によってこれらのガス分離を行うことができる分子ふるい炭素となり得る、加工木屑を900℃付近で炭化して得られる炭化物は、平均細孔径が概ね0.38nmであり、かつ、平均細孔径をX(nm)とした時に、X±0.03nmの範囲に細孔径を有する細孔の占める容積が全細孔容積の99%以上という細孔容積分布を有するものとして特徴付けられる。
また、エチレンとエタンの平衡吸着量の差によってこれらのガス分離を行うことができる分子ふるい炭素となり得る、(i)ヒノキの樹皮部(バーク)を900℃付近で炭化して得られる炭化物、(ii)スギの樹皮部(バーク)を900℃付近で炭化して得られる炭化物、及び(iii)加工木屑の粉砕物を900℃付近で炭化して得られる炭化物は、いずれも、平均細孔径が概ね0.38nmであり、かつ、平均細孔径をX(nm)とした時に、X±0.05nmの範囲に細孔径を有する細孔の占める容積が全細孔容積の99%以上という細孔容積分布を有するものとして特徴付けられる。
本発明方法で製造される分子ふるい炭素は、そのミクロ孔容積が、通常、0.1〜0.3ml/gの範囲である。
本発明方法で製造される分子ふるい炭素において、前述の二酸化炭素(炭酸ガス)とメタンの分離用に使用できるものは、例えば、排ガスやランドフィルガス等の様な、炭酸ガス以下の分子径のガス(1種又は2種以上)とメタン以上の分子径のガス(1種又は2種以上)とから成る混合ガスから、炭酸ガス以下の分子径を有するガスを吸着除去して、メタン以上の分子径を有するガスのような利用価値の高い有機ガスを効率よく分離する目的でも使用できることはいうまでもない。ここで、炭酸ガス以下の分子径のガス(すなわち、0.33nm以下の分子径を有するガス)には、炭酸ガスの他、例えば、酸素、窒素等が挙げられ、メタン以上の分子径のガス(すなわち、0.38nm以上の分子径のガス)には、メタンの他、例えば、エタン、エチレン、プロパン等が挙げられる。
上記のとおり、本発明方法で製造される分子ふるい炭素は、二酸化炭素(炭酸ガス)とメタンの分離用、プロパンとプロピレンの分離用、エチレンとエタンの分離用、ブタン(分子径0.43nm)とイソブタン(分子径0.50nm)の分離用に使用することができ、これら以外に、空気分離(窒素と酸素の分離)にも使用できると考えられる。
より具体的には、後述の実施例から明らかなように、本発明では、平衡吸着量の差を利用した二酸化炭素(炭酸ガス)とメタンの分離用として、「760mmHg(1気圧)におけるメタンに対する二酸化炭素の吸着量の比が20倍以上であり、かつ、二酸化炭素の760mmHg(1気圧)における吸着量が30ml(s.t.p.)/g以上を示す、分子ふるい炭素」を実現できる。
また、吸着速度の差を利用した二酸化炭素(炭酸ガス)とメタンの分離用として、「二酸化炭素に対するメタンの吸着時定数の比が20倍以上であり、かつ、二酸化炭素の760mmHg(1気圧)における吸着量が30ml(s.t.p.)/g以上を示す、分子ふるい炭素」を実現できる。
また、平衡吸着量の差を利用したエチレンとエタンの分離用として、「760mmHg(1気圧)におけるエタンに対するエチレンの吸着量の比が10倍以上であり、かつ、エチレンの760mmHg(1気圧)における吸着量が30ml(s.t.p.)/g以上を示す、分子ふるい炭素」を実現できる。
また、吸着速度の差を利用したエチレンとエタンの分離用として、「エタンに対するエチレンの吸着時定数の比が5倍以上であり、かつ、エチレンの760mmHg(1気圧)における吸着量が30ml(s.t.p.)/g以上を示す、分子ふるい炭素」を実現できる。
また、平衡吸着量の差を利用したプロピレンとプロパンの分離用として、「760mmHg(1気圧)におけるプロパンに対するプロピレンの吸着量の比が10倍以上であり、かつ、プロピレンの760mmHg(1気圧)における吸着量が30ml(s.t.p.)/g以上を示す、分子ふるい炭素」を実現できる。
また、吸着速度の差を利用したプロピレンとプロパンの分離用として、「プロピレンとプロパンの吸着時定数の比が概ね20倍以上であり、かつ、二酸化炭素の760mmHg(1気圧)における吸着量が30ml(s.t.p.)/g以上を示す、分子ふるい炭素」を実現できる。
以下、実施例を示して、本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
1.原料
スギの木質部及び樹皮部(バーク)の粉砕物、ヒノキの木質部及び樹皮部(バーク)の粉砕物、並びに、スギの丸太製造時の木質部の加工屑(加工木屑)を原料とした。
用いたスギ及びヒノキの各木質部及び各樹皮部(バーク)の分析値が表1である。表中の「%」は「重量%」である。
スギの木質部及び樹皮部(バーク)の粉砕物、ヒノキの木質部及び樹皮部(バーク)の粉砕物、並びに、スギの丸太製造時の木質部の加工屑(加工木屑)を原料とした。
用いたスギ及びヒノキの各木質部及び各樹皮部(バーク)の分析値が表1である。表中の「%」は「重量%」である。
2.分子ふるい炭素の製造
[製造例1]
原料(スギの木質部、スギの樹皮部(バーク)、ヒノキの木質部、ヒノキの樹皮部(バーク))を窒素気流(線速:10mm/秒)中で、電気管状炉により昇温速度10℃/分で炭化温度まで昇温し、炭化温度で30分間保持して炭化させた。なお、炭化温度は500〜1000℃の間で変化させた。炭化の後、窒素気流中で炭化物を室温まで冷却して、炭化物を反応管から取り出した。
[製造例1]
原料(スギの木質部、スギの樹皮部(バーク)、ヒノキの木質部、ヒノキの樹皮部(バーク))を窒素気流(線速:10mm/秒)中で、電気管状炉により昇温速度10℃/分で炭化温度まで昇温し、炭化温度で30分間保持して炭化させた。なお、炭化温度は500〜1000℃の間で変化させた。炭化の後、窒素気流中で炭化物を室温まで冷却して、炭化物を反応管から取り出した。
[製造例2]
原料(スギの樹皮部(バーク)、ヒノキの樹皮部(バーク)、加工木屑)を、窒素雰囲気下、500℃で炭化した後、一旦、冷却し、さらに、窒素雰囲気下で炭化温度を600〜1000℃の間で変化させた。炭化の後、窒素雰囲気下で炭化物を室温まで冷却して、炭化物を取り出した。なお、加工木屑は主としてスギの丸太の製材過程で発生した加工木屑である。
原料(スギの樹皮部(バーク)、ヒノキの樹皮部(バーク)、加工木屑)を、窒素雰囲気下、500℃で炭化した後、一旦、冷却し、さらに、窒素雰囲気下で炭化温度を600〜1000℃の間で変化させた。炭化の後、窒素雰囲気下で炭化物を室温まで冷却して、炭化物を取り出した。なお、加工木屑は主としてスギの丸太の製材過程で発生した加工木屑である。
3.細孔構造の解析
得られた炭化物について、定容系吸着量測定装置(BELSORP28 日本ベル製)を用いて、298Kにおける分子径の異なるガス(二酸化炭素、エタン、ブタン、イソブタン、イソオクタン)の吸着等温線を測定し、分子プルーブ法により炭化物の細孔径分布を決定した。
得られた炭化物について、定容系吸着量測定装置(BELSORP28 日本ベル製)を用いて、298Kにおける分子径の異なるガス(二酸化炭素、エタン、ブタン、イソブタン、イソオクタン)の吸着等温線を測定し、分子プルーブ法により炭化物の細孔径分布を決定した。
4.重量変化(相対重量、相対重量減少速度)
熱天秤(TGA−50 島津製作所製)により各炭化温度毎の炭化物の相対重量と相対重量減少速度を測定した。
熱天秤(TGA−50 島津製作所製)により各炭化温度毎の炭化物の相対重量と相対重量減少速度を測定した。
5.分離能の評価
評価1)定容系吸着量測定装置(BELSORP28 日本ベル製)を用いて、吸着温度25℃における二酸化炭素、メタンの各々単一成分での吸着等温線を測定した。また、平衡吸着量に達するまでの吸着量の経時変化を求めた。そして、平衡吸着量の半分の吸着量に達するまでに要する時間(吸着時定数)を吸着速度の指標とした。
評価2)定容系の吸着量測定装置(BELSORP28 日本ベル製)を用いて、吸着温度25℃におけるプロパン、プロピレンの各々単一成分での吸着等温線を測定した。また、平衡吸着量に達するまでの吸着量の経時変化を求めた。そして、平衡吸着量の半分の吸着量に達するまでに要する時間(吸着時定数)を吸着速度の指標とした。
評価3)定容系吸着量測定装置(BELSORP28 日本ベル製)を用いて、吸着温度25℃におけるエチレン、エタンの各々単一成分での吸着等温線を測定した。そして、平衡吸着量の半分の吸着量に達するまでに要する時間(吸着時定数)を吸着速度の指標とした。
評価1)定容系吸着量測定装置(BELSORP28 日本ベル製)を用いて、吸着温度25℃における二酸化炭素、メタンの各々単一成分での吸着等温線を測定した。また、平衡吸着量に達するまでの吸着量の経時変化を求めた。そして、平衡吸着量の半分の吸着量に達するまでに要する時間(吸着時定数)を吸着速度の指標とした。
評価2)定容系の吸着量測定装置(BELSORP28 日本ベル製)を用いて、吸着温度25℃におけるプロパン、プロピレンの各々単一成分での吸着等温線を測定した。また、平衡吸着量に達するまでの吸着量の経時変化を求めた。そして、平衡吸着量の半分の吸着量に達するまでに要する時間(吸着時定数)を吸着速度の指標とした。
評価3)定容系吸着量測定装置(BELSORP28 日本ベル製)を用いて、吸着温度25℃におけるエチレン、エタンの各々単一成分での吸着等温線を測定した。そして、平衡吸着量の半分の吸着量に達するまでに要する時間(吸着時定数)を吸着速度の指標とした。
6.結果1(製造例1の結果)
図1はスギ木質部から得られた炭化物の細孔径分布を示し、図2はスギ樹皮部(バーク)から得られた炭化物の細孔径分布を示す。また、図3はヒノキ木質部から得られた炭化物の細孔径分布を示し、図4はヒノキ樹皮部(バーク)から得られた炭化物の細孔径分布を示す。それぞれ、炭化温度が500℃、600℃、700℃、800℃、900℃、1000℃の炭化物について示した。
図1はスギ木質部から得られた炭化物の細孔径分布を示し、図2はスギ樹皮部(バーク)から得られた炭化物の細孔径分布を示す。また、図3はヒノキ木質部から得られた炭化物の細孔径分布を示し、図4はヒノキ樹皮部(バーク)から得られた炭化物の細孔径分布を示す。それぞれ、炭化温度が500℃、600℃、700℃、800℃、900℃、1000℃の炭化物について示した。
(1)図1〜4から、スギ又はヒノキの木質部又は樹皮部(バーク)を500〜1000℃範囲で炭化すると、殆どの細孔が細孔径0.3〜0.6nmの範囲にある狭い細孔径分布を示す炭化物となることが分かる。
(2)図1、図3から、スギの木質部及びヒノキの木質部では、炭化温度の上昇に伴い、細孔径が小さくなっていることがわかる。また、炭化温度が800℃以上では、細孔径0.33nm以上の細孔容積はあまり変化がないが、細孔径0.4nm以上の細孔容積が大きく減少している。これは、熱収縮により細孔入口付近が狭まったためと考えられる。
(3)図5はスギの樹皮部(バーク)を1000℃で炭化した炭化物(図2中の黒四角のプロットを結ぶ細孔径分布を有する炭化物)に対する二酸化炭素とメタンの吸着等温線である。
図2(黒四角のプロットを結ぶ細孔径分布)から、スギの樹皮部(バーク)を1000℃で炭化した炭化物では、0.4nm以上の細孔径を有する細孔は存在しないことがわかる(平均細孔径は0.37nm)。
図2(黒四角のプロットを結ぶ細孔径分布)から、スギの樹皮部(バーク)を1000℃で炭化した炭化物では、0.4nm以上の細孔径を有する細孔は存在しないことがわかる(平均細孔径は0.37nm)。
図5から、メタンは吸着せず、二酸化炭素のみを吸着していることが分かるが、これは、メタンの分子径が約0.38nm、二酸化炭素の分子径が約0.33nmであることから、メタン分子を吸着できるサイズの細孔が炭化物に無いためにメタンを吸着できず、二酸化炭素分子を吸着できるサイズの細孔は存在するために二酸化炭素は吸着したと考えられる。よって、当該炭化物は、二酸化炭素(炭酸ガス)とメタンを含む混合ガスから二酸化炭素(炭酸ガス)とメタンを効率良く分離する、分子ふるい炭素になり得る。
(4)図6はヒノキの樹皮部(バーク)を1000℃で炭化した炭化物(図4中の黒四角のプロットを結ぶ細孔径分布を有する炭化物)に対する二酸化炭素とメタンの吸着量(平衡到達度)の経時変化を示す図である。この図から、炭化物に対する二酸化炭素とメタンのそれぞれの吸着時定数(平衡吸着量の半分の吸着量(平衡到達度0.5)に達するまでに要する時間)を求めると、二酸化炭素の吸着時定数は3.1s、メタンの吸着時定数は344sであり、二酸化炭素とメタンの吸着速度(吸着時定数)の比は111となる(すなわち、二酸化炭素の方が速く吸着する)。
図4(黒四角のプロットを結ぶ細孔径分布)に示されるように、炭化物の細孔径は0.4nm付近に集中している。この細孔径のサイズはメタンの分子径に非常に近い。このため、メタンが細孔内を拡散する際に細孔壁からの反発力が非常に大きくなって、拡散速度(吸着速度)が遅くなり、一方、二酸化炭素はメタンよりも分子径が小さいためにメタンと比較して細孔壁から受ける反発力が小さいためにメタンよりも速く拡散(吸着)し、この差が大きな吸着速度の差になったと考えられる。よって、当該炭化物は、この吸着速度の差によって、二酸化炭素(炭酸ガス)とメタンを含む混合ガスから二酸化炭素(炭酸ガス)とメタンを分離する、分子ふるい炭素になり得る。
(5)図7(A)、図7(B)は、それぞれ、ヒノキの木質部を800℃で炭化した炭化物(図3中の黒三角のプロットを結ぶ細孔径分布を有する炭化物)と900℃で炭化した炭化物(図3中の四角(白抜き)のプロットを結ぶ細孔径分布を有する炭化物)に対するプロピレンとプロパンの吸着等温線である。
図3(黒三角および四角(白抜き)のプロットを結ぶ細孔径分布)から、ヒノキの木質部を800℃、900℃で炭化した炭化物では、細孔径が0.4nmと0.43nmの間に集中していることがわかる(平均細孔径はともに0.41nm)。
図7(A)、図7(B)から、プロパンは吸着せず、プロピレンのみを吸着していることが分かる。これは、プロパンの分子径はプロピレンの分子径よりも僅かであるが大きいために、プロパン分子を吸着できるサイズの細孔が炭化物に無く、そのためにプロパンを吸着できず、プロピレン分子を吸着できるサイズの細孔は存在するためにプロピレンは吸着したと考えられる。よって、当該炭化物は、プロピレンとプロパンを含む混合ガスからプロピレンとプロパンを効率良く分離する、分子ふるい炭素になり得る。
(6)図8はヒノキの樹皮部(バーク)を800℃で炭化した炭化物(図4中の黒三角のプロットを結ぶ細孔径分布を有する炭化物)に対するプロパンとプロピレンの吸着量(平衡到達度)の経時変化を示す図である。この図から、炭化物に対するプロパンとプロピレンのそれぞれの吸着時定数(平衡吸着量の半分の吸着量(平衡到達度0.5)に達するまでに要する時間)を求めると、プロピレンの吸着時定数は5.6s、プロパンの吸着時定数は612sであり、プロピレンとプロパンの吸着速度(吸着時定数)の比は109となる(すなわち、プロピレンの方が速く吸着する)。
図4(黒三角のプロットを結ぶ細孔径分布)に示されるように、炭化物は細孔径が0.43nmを超える細孔が比較的多く存在する比較的ブロードな細孔径分布を有しており、これによって、プロピレンとプロパンの吸着速度に差が生じていると考えられる。当該炭化物は、この吸着速度の差によって、プロピレンとプロパンを含む混合ガスからプロピレンとプロパンを分離する、分子ふるい炭素になり得る。
(7)図9(A)、(B)は、それぞれ、スギの木質部と樹皮部(バーク)の炭化物の各炭化温度毎の相対重量と、相対重量減少速度を示す。
図9(A)より木質部よりも樹皮部(バーク)の方が揮発分が少なく、炭化物の収率が高くなっていることがわかる。また、図9(B)より重量減少速度のピークが見られるがこれは、スギに含まれるセルロース分の分解に相当する。また、400℃以上の緩やかな重量減少速度はリグニンの分解に由来する。以上のことから、木質部と樹皮部(バーク)に含まれる、セルロース、リグニンの量に違いがあり、これが重量減少挙動の違いとなって現れ、最終的には細孔構造の違いとしてあらわれたことが分かる。
図9(A)より木質部よりも樹皮部(バーク)の方が揮発分が少なく、炭化物の収率が高くなっていることがわかる。また、図9(B)より重量減少速度のピークが見られるがこれは、スギに含まれるセルロース分の分解に相当する。また、400℃以上の緩やかな重量減少速度はリグニンの分解に由来する。以上のことから、木質部と樹皮部(バーク)に含まれる、セルロース、リグニンの量に違いがあり、これが重量減少挙動の違いとなって現れ、最終的には細孔構造の違いとしてあらわれたことが分かる。
(8)図10(A)、(B)は、それぞれ、ヒノキの樹皮部(バーク)を800℃で炭化した炭化物(図4中の黒三角のプロットを結ぶ細孔径分布を有する炭化物)と、スギの樹皮部(バーク)を700℃で炭化した炭化物(図2中の三角(白抜き)のプロットを結ぶ細孔径分布を有する炭化物)に対するブタンとイソブタンの吸着等温線である。
図10(A)、図10(B)から、イソブタンは吸着せず、ブタンのみを吸着していることが分かる。これは、イソブタンの分子径はブタンの分子径よりも僅かであるが大きいために、イソブタン分子を吸着できるサイズの細孔が炭化物に無く、そのためにイソブタンを吸着できず、ブタン分子を吸着できるサイズの細孔は存在するためにブタンは吸着したと考えられる。よって、当該炭化物は、イソブタンとブタンを含む混合ガスからイソブタンとブタンを効率良く分離する、分子ふるい炭素になり得る。
7.結果2(製造例2の結果)
(1)図11(A)、(B)は、それぞれ、ヒノキの樹皮部(バーク)を500℃で炭化後、一旦冷却し、さらに900℃で炭化した炭化物と、スギの樹皮部(バーク)を500℃で炭化後、一旦冷却し、さらに900℃で炭化した炭化物に対するエチレンとエタンの吸着等温線である。
(1)図11(A)、(B)は、それぞれ、ヒノキの樹皮部(バーク)を500℃で炭化後、一旦冷却し、さらに900℃で炭化した炭化物と、スギの樹皮部(バーク)を500℃で炭化後、一旦冷却し、さらに900℃で炭化した炭化物に対するエチレンとエタンの吸着等温線である。
図11(A)、(B)から、エチレンを吸着し、エタンはあまり吸着しないことが分かる。これは、エタンの分子径はエチレンの分子径よりも僅かであるが大きいために、エタン分子を吸着できるサイズの細孔が炭化物に殆ど無く、そのためにエタンをあまり吸着できず、エチレン分子を吸着できるサイズの細孔は存在するためにエチレンは吸着したと考えられる。よって、当該炭化物は、エタンとエチレンを含む混合ガスからエタンとエチレンを分離する、分子ふるい炭素になり得る。
(2)図12は加工木屑を500℃で炭化後、一旦冷却し、さらに1000℃で炭化した炭化物に対する二酸化炭素とメタンの吸着等温線である。図12から、メタンは吸着せず、二酸化炭素のみを吸着していることが分かる。よって、当該炭化物は、二酸化炭素(炭酸ガス)とメタンを含む混合ガスから二酸化炭素(炭酸ガス)とメタンを効率良く分離する、分子ふるい炭素になり得る。
(3)図13は加工木屑を500℃で炭化後、一旦冷却し、さらに900℃で炭化した炭化物に対する二酸化炭素とメタンの吸着量(平衡到達度)の経時変化を示す図である。この図から計算される二酸化炭素とメタンの吸着速度(吸着時定数)の比は23.4である。よって、二酸化炭素の方が速く吸着するから、この吸着速度の差によって、二酸化炭素(炭酸ガス)とメタンを含む混合ガスから二酸化炭素(炭酸ガス)とメタンを分離する、分子ふるい炭素になり得る。
(4)図14は加工木屑を500℃で炭化後、一旦冷却し、さらに900℃で炭化した炭化物に対するエチレンとエタンの吸着等温線であり、この図からエチレンを吸着し、エタンはあまり吸着しないことが分かる。よって、加工木屑から得られる炭化物も、エタンとエチレンを含む混合ガスからエタンとエチレンを分離する、分子ふるい炭素になり得る。
(5)図15は加工木屑を500℃で炭化後、一旦冷却し、さらに800℃で炭化した炭化物に対するエタンとエチレンの吸着量(平衡到達度)の経時変化を示す図である。この図から計算されるエチレンとエタンの吸着速度(吸着時定数)の比は13.2である。よって、エチレンの方が速く吸着するから、この吸着速度の差によって、エチレンとエタンを含む混合ガスからエチレンとエタンを分離する、分子ふるい炭素になり得る。
(6)図16は加工木屑を500℃で炭化後、一旦冷却し、さらに800℃で炭化した炭化物に対するプロピレンとプロパンの吸着等温線であり、この図からプロピレンを吸着し、プロパンはあまり吸着しないことが分かる。よって、加工木屑から得られる炭化物も、プロピレンとプロパンを含む混合ガスからプロピレンとプロパンを分離する、分子ふるい炭素になり得る。
(7)また、図17は加工木屑を500℃で炭化した炭化物に対するプロピレンとプロパンの吸着量(平衡到達度)の経時変化を示す図、図18は加工木屑を500℃で炭化後、一旦冷却し、さらに600℃で炭化した炭化物に対するプロピレンとプロパンの吸着量(平衡到達度)の経時変化を示す図、図19は加工木屑を500℃で炭化後、一旦冷却し、さらに700℃で炭化した炭化物に対するプロピレンとプロパンの吸着量(平衡到達度)の経時変化を示す図である。
図17から計算されるプロピレンとプロパンの吸着速度(吸着時定数)の比は104、図18から計算されるプロピレンとプロパンの吸着速度(吸着時定数)の比は352、図19から計算されるプロピレンとプロパンの吸着速度(吸着時定数)の比は196である。よって、加工木屑から得られる炭化物も、その吸着速度の差によって、プロピレンとプロパンを含む混合ガスからプロピレンとプロパンを分離する、分子ふるい炭素になり得る。しかも、プロピレンとプロパンの吸着速度の比が大きいので、その分離能力も期待できる。
以上は、製造例1、2で製造された分子ふるい炭素の代表例について、その細孔径分布と細孔構造の生成メカニズム、ガスの平衡吸着量の半分の吸着量に達するまでに要する時間(吸着時定数)及びガスの吸着等温線を示して、天然木材料(木質部、樹皮部(バーク)、加工木屑)の炭化物が分子ふるい炭素として利用できることを説明した。以下、製造例1、2で製造した炭化物(分子ふるい炭素)を、ガス分離の対象ガス毎にその分離性能とともに表にして示す。
下記表2は、平衡吸着量の差を利用して二酸化炭素(炭酸ガス)とメタンを分離し得る炭化物(分子ふるい炭素)をまとめたものである。
下記の表3は、吸着速度差を利用して二酸化炭素(炭酸ガス)とメタンを分離し得る炭化物(分子ふるい炭素)をまとめたものである。
下記の表4は、平衡吸着量の差を利用してエチレンとエタンを分離し得る炭化物(分子ふるい炭素)をまとめたものである。
下記の表7は、吸着速度差を利用してプロピレンとプロパンを分離し得る炭化物(分子ふるい炭素)をまとめたものである。
Claims (13)
- 天然木材料を不活性雰囲気下で炭化することを特徴とする、分子ふるい炭素の製造方法。
- 天然木材料を不活性ガスの気流中にて炭化する、請求項1記載の方法。
- 天然木材料がスギ又はヒノキの木質部又は樹皮部(バーク)である、請求項1又は2記載の方法。
- 天然木材料が天然木の廃材である、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
- 炭化温度が500〜1000℃である、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
- 天然木材料の炭化物からなる分子ふるい炭素。
- スギ又はヒノキの木質部又は樹皮部(バーク)の炭化物からなる分子ふるい炭素。
- 760mmHg(1気圧)におけるメタンに対する二酸化炭素の吸着量の比が20倍以上であり、かつ、二酸化炭素の760mmHg(1気圧)における吸着量が30ml(s.t.p.)/g以上である、天然木材料の炭化物からなる分子ふるい炭素。
- 二酸化炭素に対するメタンの吸着時定数の比が20倍以上であり、かつ、二酸化炭素の760mmHg(1気圧)における吸着量が30ml(s.t.p.)/g以上である、天然木材料の炭化物からなる分子ふるい炭素。
- 760mmHg(1気圧)におけるエタンに対するエチレンの吸着量の比が10倍以上であり、かつ、エチレンの760mmHg(1気圧)における吸着量が30ml(s.t.p.)/g以上である、天然木材料の炭化物からなる分子ふるい炭素。
- エタンに対するエチレンの吸着時定数の比が5倍以上であり、かつ、エチレンの760mmHg(1気圧)における吸着量が30ml(s.t.p.)/g以上である、天然木材料の炭化物からなる分子ふるい炭素。
- 760mmHg(1気圧)におけるプロパンに対するプロピレンの吸着量の比が10倍以上であり、かつ、プロピレンの760mmHg(1気圧)における吸着量が30ml(s.t.p.)/g以上である、天然木材料の炭化物からなる分子ふるい炭素。
- プロピレンに対するプロパンの吸着時定数の比が概ね20倍以上であり、かつ、プロピレンの760mmHg(1気圧)における吸着量が30ml(s.t.p.)/g以上である、天然木材料の炭化物からなる分子ふるい炭素。
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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JP2011178641A (ja) * | 2010-03-03 | 2011-09-15 | Tokyo Metropolitan Industrial Technology Research Institute | 活性炭及びその製造方法 |
CN103691399A (zh) * | 2013-12-18 | 2014-04-02 | 北京科技大学 | 用于分离二氧化碳/甲烷的高性能炭分子筛的制备方法 |
JP2018537262A (ja) * | 2015-09-30 | 2018-12-20 | ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー | 活性炭から調製されて、プロピレン−プロパン分離に有用なカーボンモレキュラーシーブ吸着剤 |
CN113546604A (zh) * | 2020-04-23 | 2021-10-26 | 日商藤田股份有限公司 | 吸附材料 |
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2007
- 2007-09-12 JP JP2007237056A patent/JP2008094710A/ja active Pending
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