図1は、本発明の実施の一形態のブレード翼型設計方法(以下、単に「設計方法」という)を示すフローチャートである。図2は、図1の設計方法を実行する設計装置20を示すブロック図である。図3は、ヘリコプタ10の前進飛行時におけるロータブレード(以下、単に「ブレード」という)11の対気速度分布を示す平面図である。図4は、ブレード3の迎角分布を示すグラフである。ヘリコプタ10には、複数枚の翼であるブレード11が設けられるが、図3には、1枚のブレード11だけを仮想的に示す。
以下の説明において用いる変数のうち、代表的なものは、次のようなものである。
Vad:ヘリコプタの前進速度
VT:ブレードが回転しているときの対気速度
α:迎角
α0:零揚力迎角=揚力が0となる迎角
φ:アジマス角=後方の角度位置を0度とし、回転方向Aを正として表すブレード11の角度位置
ω1:ブレード(ロータ)の回転角速度
q:動圧=0.5×空気密度×対気速度2
CD:抵抗係数=抵抗/(動圧×基準面積)
CL:揚力係数=揚力/(動圧×基準面積)
CL300:抵抗係数が0.03に達する迎角での揚力係数;以下、「指標揚力係数」という。
CLMAX:最大揚力係数
CLbuff:空気力が振動(Buffet;バフェット)を始める迎角での揚力係数
Cm:ピッチングモーメント係数=ピッチングモーメント/(動圧×基準面積×基準長さ)
Cm0:零揚力迎角でのピッチングモーメント係数;以下、「零揚力モーメント係数」という。
Cmmin:動的解析中での一周期中の最小ピッチングモーメント係数;以下、「最小モーメント係数」いう。
ΔCm:零揚力モーメント係数Cm0からのピッチングモーメント変動分
M:マッハ数=対気速度/音速
Mlim:マッハ数限界
MDD:抵抗発散マッハ数
ここに、「基準面積」は、2次元翼型の場合、その弦長をもち単位長さのスパン長をもつ翼の面積を基準面積とする。
「基準長さ」は、2次元翼型の場合、その弦長を用いる。
「マッハ数限界」は、流れのマッハ数が高まると、翼近辺に衝撃波が発生することにより抵抗の急増やモーメントの急変を生じ、それ以上のマッハ数では運用できない限界が存在する。これをマッハ数限界と呼ぶ。
「抵抗発散マッハ数」は、マッハ数限界の算定方法のひとつで、抵抗が急増するマッハ数を示す。いくつかの定義法があるが、マッハ数M=0.6の抵抗係数から0.002だけ増えた点を用いる。
たとえば高性能ヘリコプタであるヘリコプタ10のブレード11の翼型は、計算流体力学(Computational Fluid Dynamics;略称CFD)に基づく解析(以下「CFD解析」という)を用いて、数値的最適化法とも呼ばれる自動最適設計法によって設計される。この自動最適設計法は、翼型を定義するパラメータを修正しながら翼型の性能の評価を、たとえば数十回から数千回繰返すことによって、最適な翼型を設計する方法である。自動最適設計法で用いられる最適化エンジンなどとも呼ばれる最適化アルゴリズムには、たとえば単目的最適化アルゴリズムと、多目的最適化アルゴリズムがある。
単目的最適化アルゴリズムでは、複数の目的関数が存在する場合、各目的関数に重み付けをして足し合わせるなどして、見かけ上、単目的関数化している。このような単目的最適化アルゴリズムでは、各目的関数の重みの付け方によって得られる最適解が異なり、精度が低くなってしまうという問題がある。これに対して多目的最適化アルゴリズムでは、各目的関数について個別に評価し、少なくとも1つの目的関数に関して、他のよりも優れている点がある設計変数が、パレート解となる。このような多目的最適化アルゴリズムで得られたパレート解の中には、目的関数の重要度に応じた複数の設計変数が含まれており、精度の高い最適解が含まれている。
本発明に従う設計方法では、翼型を表すパラメータを設計変数とし、ブレード11の翼型に要求される性能を表す複数の目的関数に関して、多目的最適化アルゴリズムによって、設計変数を評価しながら最適化してパレート解を求める。このパレート解として得られる翼型の中には、ヘリコプタの飛行条件、ブレード11の部位などによって異なる性能の重要度に応じた複数の翼型が含まれている。
ヘリコプタ10のブレード11は、たとえば上方から見て反時計まわりとなる回転方向Cへの回転を伴いながら、ヘリコプタ10が前進する速度である前進速度Vadで飛行方向Bへ前進し、かつピッチ角とも呼ばれる迎角αを変化させる、という複雑な運動をしている。無風状態であると仮定する場合、ブレード11のある位置の対気速度(=大気に対する相対速度)VTは、回転速度Rω1と前進速度Vadのブレードに対して垂直な方向成分(回転方向の成分)Vadsinφとの和(=Rω1+Vadsinφ)で表される。Rは、回転中心からの距離である。ホバリング状態では、飛行速度Vadは0であり、対気速度VTは、ブレード11の角度位置に関わらず、回転速度Rω1なる。
対気速度Vaの一例を、マッハ数Mで示すと、ホバリング状態では、たとえば、翼根12の対気速度VaはM=0.2となり、翼端13の対気速度VaはM=0.6である。また飛行速度VがM=0.2である場合、ブレード11の翼端13の対気速度Vaは、1回転中に、前進側のアジマス角φが90°の角度位置でM=0.8となり、後退側のアジマス角φが270°の位置でM=0.4となる。本実施の形態では、このような広範囲の対気速度Vaの全域にわたって用いることができる評価指標を用いて、翼型の性能を評価し、翼型を設計する。本実施の形態では、M=0.4以下を低速域とし、M=0.7以上を高速域とし、低速域と高速域の間を中速域とする。以下、対気速度Vaの意味で、単にマッハ数Mだけを示す場合がある。
本発明において、比較的高速の領域は、前記高速域(M≧0.7)を含む比較的高い速度の領域を意味し、高速域だけに限定されるものではなく、M=約0.6以上の領域を意味する。また本発明において、比較的低速の領域は、前記低速域(M≦0.4)を含む比較的低い速度の領域を意味し、低速域だけに限定されるものではなく、M=約0.6未満の領域を意味する。
図2に示す設計装置20は、入力手段21と、記憶手段22と、外部記録手段23と、演算手段24と、出力手段25とを備える。この設計装置20は、たとえばスーパーコンピュータなどのコンピュータ呼ばれる計算装置を用いて実現される。入力手段21は、翼型を定義するパラメータの情報、翼型の評価および設計を指令する指令情報を含む情報を入力するための手段、たとえばキーボードなどである。
記憶手段22は、コンピュータ内部に設けられる媒体に情報を記憶するための手段、たとえばハードディスクドライブおよび半導体メモリなどであり、たとえば本発明の設計方法および評価方法を実行するための演算プログラム、および演算プログラムによる演算に必要なデータなどが記憶される。外部記録手段23は、たとえばコンパクトディスク(略称CD)およびデジタルバーサタイルディスク(略称DVD)などの着脱可能な記録媒体に、情報を記録し、記録媒体に記録される情報を再生する手段であり、たとえば本発明の設計方法および評価方法を実行するための演算プログラム、および演算プログラムによる演算に必要なデータなどが記憶される。記憶手段22および外部記録手段23を含んで、演算プログラムおよびデータなどの情報を保持する情報保持手段が構成される。
演算手段24は、たとえば中央演算処理ユニット(略称CPU)によって実現され、入力手段21によって入力される指令情報に基づいて、記憶手段22および外部記録手段23のいずれかから、最適設計演算プログラム、CFD解析演算プログラムなどを含む演算プログラムおよびデータを読込み、入力手段21によって入力されるパラメータの情報を用いて、翼型の評価および設計のための演算を実行する。出力手段25は、演算手段24による演算結果を出力する手段であり、たとえば表示装置である。演算手段24による演算結果は、外部記録手段23によって記録媒体に記録するようにして出力してもよい。したがって出力手段25および外部記録手段23を含んで、演算結果を出力するための結果出力手段が構成される。
このような設計装置20によって、具体的には、演算手段24によって、設計方法が実行される。本実施の形態では、この設計方法に、静的CFD解析を用いた多目的遺伝的アルゴリズム(Multiple-Objective Genetic Algorithm;略称MOGA)を利用する。以下、1つの翼型を、個体という場合がある。
演算手段24は、入力手段21によって、翼型を定義するパラメータの初期値を表す情報が入力され、翼型の設計を指令する指令情報が与えられると、図1に示すように、ステップs0で設計を開始し、ステップs1に進む。ステップs1の初期設定工程では、演算手段24は、ブレード11の翼型を定義するパラメータを初期化する。パラメータは、翼形を表す値であり、たとえば翼厚、キャンバ、翼弦長、前縁半径などを含む。たとえば乱数アルゴリズム、乱数表などの乱数を用いて、その乱数をパラメータとして設定する。本実施の形態では、60個体分のパラメータを設定する。
ステップs1でのパラメータ初期化が終了すると、ステップs2に進む。ステップs2の翼型定義工程では、演算手段24は、設定されるパラメータによって翼型を定義する。本実施の形態では60個体の翼型を定義する。ステップs2での翼型の定義が終了すると、ステップs3に進む。
ステップs3のモーメント調整工程では、演算手段24は、定義される翼型に対して、キャンバを修正し、零揚力モーメント係数Cm0の絶対値|Cm0|が小さくなるように、調整する。ピッチングモーメントは、ブレードに対するピッチング方向のモーメントであり、ねじりモーメントを含む。
ヘリコプタ10のブレード11は、細長い翼であり、ねじり剛性が低いので、空気力による大きなねじりモーメントが加わるとねじり変形を生じ、想定の空力特性が得られないことがある。零揚力モーメント係数Cm0の絶対値|Cm0|を小さくすることによって、ブレード11のねじり変形を防止することができる。ステップs3での零揚力モーメント係数Cm0の調整が終了すると、ステップs4に進む。
ステップs4の解析評価工程では、演算手段24は、定義される翼型に対して、翼の性能を表す複数の目的関数に関して、静的CFD解析に基づいて評価する。複数の目的関数には、低速性能、中速性能、高速性能、最大翼圧およびピッチングモーメント性能が含まれる。これ以外の性能に関する目的関数に関して評価する構成であってもよいが、本実施の形態では、この5つの目的関数に関して評価する。
表1は、目的関数を示す表である。
低速性能は、低速性能限界を表し、ブレード11の対気速度VaがM=0.4の場合の指標揚力係数CL300で表す。この低速性能を、以下、「低速指標揚力係数」といい、「CL300@M=0.4」と表記する。低速指標揚力係数CL300@M=0.4が大きくなるほど、低速性能が高いと評価する。
中速性能は、中速性能限界、翼端13付近のホバリング性能を表し、ブレード11の対気速度VaがM=0.6の場合の指標揚力係数CL300で表す。この中速性能を、以下、「中速指標揚力係数」といい、「CL300@M=0.6」と記す。中速指標揚力係数CL300@M=0.6が大きくなるほど、中速性能が高いと評価する。
高速性能は、高速限界を表し、抵抗係数CDが0.03を超えるマッハ数と、M=0.6の場合のモーメント係数Cmの値から、モーメント係数Cmが0.02変化(上昇)するマッハ数のうち、小さい方を表す。この高速性能を、以下、「マッハ数限界」といい、「Mlim@α0」と記す。マッハ数限界Mlim@α0が大きくなるほど、高速性能が高いと評価する。
最大翼圧は、翼の厚み寸法の最大値を表し、「Tmax」と記す。最大翼圧は、大きくなるほど、最大翼圧に関する性能が高いと評価し、15%コード長以上は、十分に大きいとみなす。
ピッチングモーメント性能は、ブレード11の対気速度Vaが、M=0.6の場合の零揚力モーメント係数Cm0の絶対値|Cm0|を表す。このピッチングモーメント性能を、以下、「規定モーメント係数」といい、「|Cm0|@M=0.6」と記す。規定モーメント絶対値|Cm0|@M=0.6が小さくなるほど、ピッチングモーメント性能が高いと評価し、0.01以下は、十分小さいとみなす。
目的関数としてピッチングモーメント性能があるにも拘わらず、ステップs3で|Cm0|を調整するのは、ステップs3の段階でのモーメント調整は簡易的(非粘性、非圧縮性)な手法で行っており、目的関数評価時のCFD解析による値とは一般に異なり、ステップs3では小モーメントであったのにCFD解析ではそうでない場合があるため、目的関数評価の段階でもモーメントの評価を加えている。
ステップs4での評価が終了すると、ステップs5に進む。ステップs5の判定工程では、演算手段24は、ステップs4の解析評価工程における翼型の評価結果に基づいて、パレート解を求め、そのパレート解が成熟しているか否かを判定する。本実施の形態では、最適化アルゴリズムとして、多目的遺伝的アルゴリズムを用いているので、単一の最適解に収束するのではなく、複数の非劣解の集合としてのパレート解が成熟することによって、最適パレート解となる。ステップs5では、この最適パレート解が得られているか否かを判定している。このステップs5で、パレート解が成熟していないと判定すると、ステップs6に進み、パレート解が成熟していると判定すると、ステップs7に進む。
ステップs6のパラメータ修正工程では、演算手段24は、たとえば選択、交配、突然変位などによってパラメータを修正、変更し、次世代の個体を生成し、ステップs2に進む。このようにステップs5の判定工程で成熟していないと判定する場合、前記パラメータを修正して再度設定し、ステップs2の前記翼型定義工程からステップs5の判定工程までを繰返す。このように2回目以降のステップs2からステップs5までを繰返す工程は、いわば繰返し工程である。
このようなステップs1からステップs6までの工程を含んで、静的CFD解析を用いたMOGAによる翼型設計の工程が構成され、ステップs5でパレート解が成熟していると判定する場合、そのパレート解を、静的CFD解析を用いたMOGAによる翼型設計の工程における解として結果出力する。このようなステップs1〜s6の工程は、いわゆる自動最適設計法の手順である。
ステップs7では、演算手段24は、ステップs5で、パレート解が成熟していると判定されて得られる最適パレート解の翼型に対して、動的CFD解析を行い、その翼型の動的性能を求め、ステップs8に進む。ステップs8では、演算手段24は、ステップs7で求められる動的性能が良好か否か、具体的には必要性能を満たしているか否かを判定する。ステップs8で判定される動的性能に関する必要性能は、たとえば設計動作を開始する前に、パラメータの初期値とともに入力手段21によって入力される。ステップs8で、動的性能が良好であると判定すると、ステップs9に進み、動的性能が良好ではないと判定すると、ステップs1に進む。
ステップs9では、演算手段24は、最適パレート解の翼型を用いて、3次元のロータを定義し、ステップs10に進む。ステップs10では、演算手段24は、ステップs9で定義されるロータに対して、3次元CFD解析を行い、ロータの3次元的性能を求め、ステップs11に進む。ステップs11では、演算手段24は、ステップs10で求められる3次元的性能が良好か否か、具体的には必要性能を満たしているか否かを判定する。ステップs11で判定される3次元性能に関する必要性能は、たとえば設計動作を開始する前に、パラメータの初期値とともに入力手段21によって入力される。ステップs11で、3次元的性能が良好であると判定すると、ステップs12に進み、設計動作を終了し、3次元的性能が良好ではないと判定すると、ステップs1に進む。
ステップs8またはステップs11からステップs1に進んだ場合、ステップs1におけるパラメータ初期化は、設計動作をスタートして最初にパラメータを初期化する場合と同様の初期化であってもよいし、ステップs8から移行する場合、ステップs7の結果に基づいて初期値を新たに演算して求めるようにしてもよいし、ステップs11から移行する場合、ステップs10の結果に基づいて初期値を新たに演算して求めるようにしてもよい。
このように本実施の形態では、静的CFD解析に加えて、ステップs7〜s11の動的CFD解析および3次元CFD解析によって、性能が確認されるので、より好適な翼型を設計することができる。ステップs7〜s11の工程は、必須の構成ではなく、本発明の実施の他の形態として、ステップs7〜s11を備えない構成であってもよい。
以下、本実施の形態について、さらに詳しく説明する。本発明に従う設計方法は、たとえば速度300km/hでの水平飛行時に性能低下を生じないという数値目標を満足するブレード翼型を得ることを可能にすること、またたとえば、最高速度は250km/hでよいが、ホバリング能力をできる限り高めるというような、新しい設計ターゲットに対応する、自動設計を可能にすることも、目的としている。この設計方法は、ブレード11に限らず、様々な航空機および空力機械の翼型設計にも流用でき、各要素についてのノウハウを蓄積することで、新たな設計目標に対しても、直ちに対応できる柔軟性を翼型の最適化設計が可能である。
CFD解析について、以下に説明する。速度変動を伴う動的空力現象のブレード設計への利用が本発明の柱となる。動的空力現象を、実験で再現するのは不可能に近い。そこで、CFD解析を用いて動的空力現象をシミュレートする。動的な物理現象を解析するために、CFD解析においても動的な非定常解析を行う。動的解析のためには、約20万ステップ、現在の最速のワークステーションと呼ばれる計算機を用いても、約1日を要するなど、演算に膨大な時間を要する。最適化設計では、数十回から数千回の繰返しを要するので、動的解析をそのまま最適化設計に用いるのは困難である。そこで前述のような目的関数に関して解析、評価することによって、静的解析だけを行っても、動的に十分な性能を有する設計が可能である。
CFD解析の基本について、以下に説明する。CFD解析では、2次元RANS(
Reynolds Averaged Navier-Stokes)方程式に基づくCFD解析方法で翼型を解析する。基礎方程式は次式(1)で示される。
Qt+Ex+Fy=Rx+Sy+H …(1)
ここで、Qt,Ex,Fy,Rx,Syは、各々、保存変数、x,y方向の非粘性流速、x,y方向の粘性流束、Hは、翼型に固定された座標系が並進・回転することによる慣性力項を示す各々4変数のベクトル量である。また、外部境界条件も翼の運動に伴って非定常に変化させる。
数値解析方法としては次のようなものが用いられる。まず1つ目として、空間離散化には、MUSCL(Monotone Upstream-biased Scheme for Conservation Laws;空間2次精度)及びSHUS(Simple High Resolution Upwind Scheme)を用いる。2つ目として、時間積分には、MFGS(Matrix Free Gauss-Seidel)陰解法を用いる。粘性項には、二次精度中心差分を用いる。
ブレード翼型の用いられる高レイノルズ数の乱流場を解析するには乱流モデルが必要であるが、ここではRANSで取り扱い、RANSの乱流モデルとしてはSpalart-Allmarasモデルを用いる。層流から乱流への遷移条件は全場乱流とする。時間積分は、一次精度
Euler陰解法とするが、MFGS陰解法に伴う線形化およびヤコビアン簡略化を補うため陰解法の非線形性の補正のための2回の内部反復を行う。また各々の内部反復のなかで、
Gauss-Seidel反復を20回実施する。
図5は、解析に用いる格子30を示す図である。CFD解析のために翼型のまわりに設定する格子は、図4に示すような翼型O型構造格子であり、格子点数は周方向に263点、半径方向に60点であり、半径方向の最小格子間隔は1×10−5×(翼弦長)である。静的解析の場合は、式(1)においてH=0とし、定常解への収束加速法として一般的な、局所時間法を用いて計算時間を短縮する。
ブレード11の運動の模擬について、以下に説明する。前述のように回転するブレード11上のある一つの翼断面に着目する。その翼断面の大気速度VTは、前述のように、次式(2)で表すことができる。
VT=Rω1+Vadsinφ …(2)
ここで時刻をtとすると、φは次式(3)で表される。
φ=ω1t …(3)
式(2)、式(3)で表される系を、第1系とする。
第1系とは別に、一様流中で前進後退する2次元翼を考え、これを第2系とする。前進後退の振幅をA、一様流の速度をVunif、前進構体の角速度をω2とすると、気流に対する相対速度Vrelは、次式(4)で表される。
Vrel=Vunif+Aω2sinω2t …(4)
ここで、第1系の音速、翼弦長、動粘性係数を、a1,C1,ν1とし、第2系の音速、翼弦長、動粘性係数を、a2,C2,ν2とし、式(5)の平均周速マッハ数MR、式(6)の前進比(Advance Ratio)m、式(7)の無次元角速度(Reduced Frequency)k、式(8)のレイノルズ数Re2の4つの無次元パラメータを一致させることによって、第2系によって第1系を模擬する。ただし無次元角速度の基準速度としては、平均となる周速度Rω1を用いている。
一様流中で2次元翼が迎角変動を伴いながら前後運動する第2系を風洞試験で実現する事は原理的には可能だが、後退側の動的失速が顕著になる高速時の条件を実現するのは、風洞試験全般において困難なレイノルズ数の一致を別にしても、現実には、かなり難しい。たとえば、代表的な中型のヘリコプタの速度250km/hでの飛行を模擬するには、翼弦長を0.33mとして、M=0.6の一様流中において振幅A=1.78m、周期T=0.16secで模型を前後に振動させる必要がある。詳細は省略するが、模型寸法に比例して振幅Aは減少するが、周期Tも短縮するので縮小模型を用いても模擬がやさしくなるわけではない。
本実施の形態では、ブレード11の運動を2次元CFD解析で次のように模擬する。第1に、ロータ特性に重要なブレード11の翼端13近くの位置、たとえば95%の翼長方向位置の翼型に着目し、一周期中の迎角と対気速度のデータを取り出す。翼長方向位置は、回転中心を0とし、翼端13の端面を100とする百分率で表す、ブレード11の長手方向の位置である。
第2に、25%のコード位置を中心に回転することでピッチ運動を模擬する。コード位置とは、前縁を0とし、後縁を100とする翼弦方向の百分率で表す位置である。第3に、回転中心を基準点として一様流で前後に往復運動させることで速度変動を模擬する。周速度が一様流速度に、前進後退の最大速度がヘリコプタの前進速度に対応する。
迎角変動について、以下に説明する。ヘリコプタ10のブレード11は、ロータの回転に同期してサイクリックピッチと呼ばれる迎角αを変化させる動作をしている。この動作は、スワッシュプレートとピッチリンクとによって駆動されているので、単純な正弦波で表される動作ではなく高周波数成分を含む。したがって、一般に一様流に対する迎角αは、式(9)で表される。
本実施の形態では一次の近似として、式(10)のように近似する。
α=α0−α1sinωt …(10)
周速動圧基準と局所動圧基準の空力係数について、以下に説明する。ブレード11に働く空気力を表示するのには、式(11)〜式(14)で表される無次元係数を用いる。
揚力係数CL=揚力/(基準面積×動圧) …(11)
抵抗係数CD=抵抗/(基準面積×動圧) …(12)
ピッチングモーメント係数Cm=25%コード位置周りのモーメント
/(基準長×基準面積×動圧) …(13)
動圧=(密度×速度2)/2 …(14)
本実施の形態で扱う動的解析においては、アジマス角φによって対気速度VTが異なるので、動圧は1つではない。本実施の形態では、目的によって次の2つの基準動圧を使い分ける。
1つ目は、周速動圧基準の動圧である。周速動圧基準の動圧は、アジマス角φによらず、ロータの周速=動的解析の平均速度を用いた動圧で無次元化したものである。すべてのアジマス位置φで同じ動圧を用いるので、空力係数に定数をかけると、力およびモーメントの絶対値が求められる。たとえば、周速動圧基準のモーメントはブレードのねじり変形およびピッチリンクに対する荷重に直結する。
2つ目は、局所動圧基準の動圧である。局所動圧基準の動圧は、アジマス角φによって異なる、局所対気速度VTを用いた動圧で無次元化したものである。各マッハ数での静特性の空力係数は、局所対気速度を用いていることと等価であるから、翼型の性能限界等をみるには局所動圧基準が適当である。
ブレード用翼型のための性能評価の方法と設計の目標について、以下に説明する。まず従来の性能評価の方法について、以下に説明する。ブレード11の翼型は、前進飛行中には、ロータが一周する間に、高速低迎角(前進側)から低速高迎角(後退側)までの気流にさらされる。動圧が大きく、ロータの大部分の揚力(また、その前方への成分が推進力となる)を発生する翼端13およびその付近(以下「チップ部」という)では、前進側で翼面上に超速流と衝撃波とが発生し、後退側で大迎角に伴う流れの剥離が発生するという、翼の限界状況が、短時間のうちに繰返される過酷な状況となる。
さらに、ブレード11は、極めて細長く、ピッチング(捻り上げ下げ)の方向の剛性はそれほど高いものではない。また、もしも、ブレード11自体が充分高い剛性を有していても、その翼根12およびその付近(以下「根本部」という)において、ピッチング方向の運動による荷重は、ピッチリンクのみによって支えられており、ピッチリンクの荷重制限がヘリコプタの性能限界となることもある。したがって、ブレード11にピッチング方向の空気力を与えるピッチングモーメント係数Cmは、は小さな値に保たれなければならない。そこで、従来、ブレード11の翼型の設計においては、次のような3つのポイントが考慮されてきた。
1つ目のポイントは、低速での最大揚力係数CLMAXである。前述のように高速前進飛行時には後退側での迎角が大きくなる。高迎角においても剥離を発生しない、即ち、後退側における低速(M<0.4)における最大揚力係数CLMAXの大なることが必要である。また、前進速度0のホバリング状態における揚力発生能力は、最大離陸重量の増加や高空性能の向上に不可欠である。ホバリング時には翼端13付近は、M=0.6程度であり、この中速域での最大揚力係数CLMAXも重要な評価項目である。最大揚力係数CLMAX発生付近の迎角αでは、低中速においても、ブレード11の前縁付近では流れが超音速まで加速することがあり、圧縮性の効果が効いて来るので、低速と中速の最大揚力係数CLMAXの値は異なり、また翼型によってもそのバランスは異なる。
2つ目のポイントは、低迎角での抵抗発散マッハ数MDDである。高速前進飛行時の前進側ではM>0.8となり、揚力は0に近い。そこで、高速特性の指標として抵抗発散マッハ数MDDが用いられる。抵抗発散マッハ数MDDには、にはいくつかの定義方法があるが、代表的には、ある揚力係数CLでの抵抗係数CDがM=0.6の場合の値より0.002(=20ドラグカウント)増えるマッハ数として定義される。低迎角での抵抗係数CDは100カウント程度なので、抵抗が僅かに増え始めるマッハ数という意味である。
3つ目のポイントは、零揚力モーメント係数Cm0の絶対値|Cm0|であり、|Cm0|<0.01となるようにする。前述のようにピッチングモーメント係数Cmを小さくする必要があるが、その指標として零揚力時のピッチングモーメント係数の絶対値|Cm0|が0.01未満(|Cm0|<0.01)であれば充分小さいと判断する。圧縮性の効果により、マッハ数Mによって値は異なるが、低速(M=0.3)での値が用いられることが多い。この零揚力モーメント係数Cm0の絶対値|Cm0|は、M=0.6辺りまでは、大きな変化はない。
本件発明者らは、これらの指標について、試験などを行って見直し、本実施の形態では、これらに代わる指標を採用するようにしている。本実施の形態で用いられる指標について、以下に説明する。
まず最大揚力係数CLMAXに替わる指標揚力係数CL300について、説明する。M>0.6の速度域では、明確な最大揚力係数CLMAXが発生せず、迎角増加と共に、揚力係数CLがどこまでも緩やかに増加してゆくことがある。しかし、揚力係数CLが増加しても、このような高迎角が実際に使用できるわけではない。ある迎角以上になると、抵抗が急増すると共に、空気力が非定常になりブレード11が振動(バフェット)を始める。実用的には、バフェットが発生する揚力係数CLが限度となり、バフェット発生揚力係数CLbuffと呼ばれる。本件発明者らが、様々な翼型について試験した結果、中低速における最大揚力係数CLにおいても、中高速におけるバフェット発生揚力係数CLbuffにおいても、同じく抵抗が急増し、抵抗係数CDが0.03(300カウント)に達する付近が翼の使用限度になることがわかった。このポイントを踏まえ、新たな指標として、指標揚力係数CL300を用いる。
指標揚力係数CL300の利用には次のような利点がある。第1に、低速域から中高速域まで同じ指標で評価できる。第2に、CFD解析を用いて求める場合、用いる乱流モデルによってはどこまでも揚力が増加して明確な最大揚力係数MLmaxが得られない場合があるが、そのような場合でも抵抗係数CDの急増は再現され、乱流モデルによる差が小さく、解析の信頼性が高い。第3に、指標揚力係数CL300は、抵抗の急増するポイントを意味し、抵抗の急増は、それ自体、重要な空力現象である。さらに、最大揚力係数MLmaxとの関係でも述べたように、抵抗の急増するポイントにおいて、それまで徐々に増えてきた揚力が減少に転じる、ピッチングモーメント係数Cmが急変するなど、翼の様々な特性に非線形を生じるという意味でも重要な指標である。第4に、後述のように高速限界についての性能評価にも用いることができる。
次に、抵抗発散マッハ数MDDに替わる指標揚力係数CL300について、説明する。固定翼機の場合には、抵抗発散マッハ数MDDは、その近辺での巡航が最も効率が良いという重要な意味がある。ジェットエンジンの効率は、高速ほど良くなり、空気抵抗は、抵抗発散マッハ数MDD以上で急増する。その兼ね合いで、抵抗がやや増えはじめた抵抗発散マッハ数MDD付近で総合的な燃費効率が最大となる。しかし、ブレード11の翼型においては、抵抗発散マッハ数MDD付近で定常的に運用されることはなく、状況が全く異なる。抵抗発散マッハ数MDDを超えて多少抵抗係数CDが増えても、一瞬であればそれによる性能へのインパクトは小さい。
また、本実施の形態における目標の1つの例である速度300km/hでの水平飛行時の前進側マッハ数M=0.845以上の抵抗発散マッハ数MDDを有するブレード11は、極端な薄翼でなければ不可能である。このような極端な薄翼は、低速高迎角での運用には向かず、ヘリ翼型に適用できない。したがって、最高速側では、抵抗発散マッハ数MDD以上での運用が不可避である。
中低速域での状況と同じく、高速域での遷音速現象による特性の非線形化の指標としても、指標揚力係数CL300を適用することが可能である。遷音速現象は、翼付近の流れ場に亜音速、超音速領域が混在し、衝撃波の発生によって様々な非線形現象が発生する現象である。指標揚力係数CL300は、最大揚力係数CLMAXと異なり、マッハ数Mを固定して迎角αを変化させるのではなく、迎角αまたは揚力を固定してマッハ数Mを変化させる計算方法をとるが、抵抗係数CDが0.03となる、揚力係数CLとマッハ数Mとの組み合わせという点で意味は同じである。
抵抗発散マッハ数MDDは、M=0.6から抵抗係数CDが20カウント増加するポイントであり、M=0.6での抵抗係数CDは、約100カウントなので、指標揚力係数CL300は、抵抗係数CDが約200カウント増加するポイントということになる。抵抗発散マッハ数MDDでは、衝撃波抵抗が発生し始めるが、まだ使用できる状況なのに対し、指標揚力係数CL300では、使用限度を示しているということができる。
次に、衝撃波、剥離を考慮した非定常解析による低ピッチングモーメント係数(低Cm)の評価について、説明する。中低速域での低迎角においては、ピッチングモーメント係数Cmは、零揚力モーメント係数Cm0と大きく変らない。しかし、後退側大迎角時の剥離および前進側高速時の衝撃波発生といった非線形減少で状況は大きく変り、低速低迎角でピッチングモーメント係数Cmの絶対値|Cm|の小さい翼型が必ずしも、このような限界状況でも、ピッチングモーメント係数Cmの絶対値|Cm|が小さいことを保障するわけではない。
特に、高速前進側では、動圧が大きく荷重が大きくなること、そこでの頭下げモーメントによる捻り下げは、空気力へのポジティブフィードバックによりブレードコントロールの発散を招く危険がある。つまり、高速性能の観点から抑えるべきは、低負荷時のピッチングモーメント係数Cmではなく、高速時の最大値である。無論、全領域でピッチングモーメント係数Cmが小さいのが良いのには違いないが、実際の運用条件でのバランスから決められるべきである。そこで、本実施の形態では、ピッチングモーメント係数Cmも参考にするが、最終的な選択には、実運用に近い、非定常解析結果のモーメントの大小を評価対象にする。ここでの頭下げモーメントとは、ブレード11の前縁部分を下方にねじり曲げ、弾性変形によってロータ端ほど翼の迎角が減少させるようなモーメントをいう。
速度300km/hでの水平飛行を実現するのに必要な空力性能について、説明する。図6は、ブレード11における位置毎のマッハ数Mと揚力係数CLとの関係を示すグラフである。図7は、既存の翼型のマッハ数Mと揚力係数CLとの関係を示すグラフである。図6には、ロータ性能計算プログラムで予測した、中型民間ヘリコプタが160kt(約296km/h)で水平飛行するときの、1周期の間にうける揚力係数CLを、ブレード11の各位置毎に示す。図6には、実線で96%の翼長方向位置の揚力係数CLを示し、一点鎖線で77%の翼長方向位置の揚力係数CLを示し、破線で52%の翼長方向位置の揚力係数CLを示す。
翼型の空力特性としては、高いマッハ数で高い揚力係数CLを実現するのが実現の難しいターゲットなので、図6において右上に位置する要求性能ほど、これを実現する設計が難しくなる。したがって、図6において右上に位置するチップ部の翼型の設計が最も困難である。そこで、本実施の形態ではチップ部の95%の翼長方向位置の翼型の設計に注力する。
本件発明者らは、静的CFD解析結果の指標揚力係数CL300が、図6に示される各マッハ数Mでの必要な揚力係数CLを上回っていれば、剥離等の大きな性能低下を生じないことを確認しているので、各マッハ数Mでの指標揚力係数CL300が、必要な揚力係数CLを上回っていればよい。しかし図6と図7とを比較してわかるように、既存の翼型でこの要求を満たすものは存在していない。
最適化設計方法について、以下に説明する。
「最適化」とは「Optimization」の和訳であり、応用数学において、関数の最大、最小値と、それを与える変数値を求めることを意味する。ごく単純な関数の場合以外には、この問題を解析的に解くことはできない。そこで、関数が容易に表現できない場合も含めて、最大、最小値を得るための数値的方法が、多数提案されている。変数として、設計を代表するパラメータをとり、目的関数を性能指標と考えれば、そのパラメータで表現できる範囲内から、最良の性能を与えるパラメータ、即ち設計を選択できることになる。このような方法が、最適設計または最適化設計と呼ばれる方法である。
たとえば、空力設計において、翼型をいくつかの実数パラメータ(たとえば、最大翼厚および前縁半径など)で表現し、そのパラメータが表す翼型の何らかの空力特性(たとえば最大揚力係数)をCFD解析で計算できれば、形式的には、最大揚力係数CLを設計パラメータで表現できたことになる。つまり目的関数の評価の中身は、実際には、格子生成、CFD解析、計算結果後処理を含む、かなり複雑な解析作業となる。
設計は、複数の変数で表現されるので、一つの設計を表現するパラメータの集まりを「パラメータ列」と呼ぶ。数多くの最適化方法があるが、複数のパラメータ列の目的関数の結果から、次の改良された結果を生むパラメータ列を算出し、漸進的に設計を改善してゆくのは共通した特徴である。
このような最適化設計は次の3つの独立した要素からなる。第1に、設計の「パラメータ列による表現方法」。第2に、設計の「性能(目的関数)評価法」。第3に、パラメータ列と性能評価から改善が予測される次のパラメータ列を算出する「最適化エンジン」。最適化エンジンは、最適化アルゴリズムとも呼ばれる。
これら3つ要素を決めると、最適化設計方法を規定できる。第1および第2の要素は、最適化設計のみならず、一般の設計においても必要な項目であり、この2段階が設計装置20(コンピュータ)上で実現されていれば、設計パラメータ列と性能指標を結びつける物理過程、たとえば、高速での抵抗増加は衝撃波の発生による過程などを、表面上考慮せずとも、より良い設計を算出できるのが最適化設計の大きなメリットである。ただし、物理過程を斟酌する必要がないのは、最適化エンジンにおいてだけであって、パラメータ表現および性能評価法においては設計対象の特性や物理過程を深く理解して設定しなければならないのは言うまでもない。
パラメータ列による翼型表現の方法について、説明する。パラメータ表現方法は、次の項目を考慮して選択する。まず第1に、パラメータ数をできる限り、減らす。パラメータ数は探索すべき設計空間の次元数となるので、パラメータが増えると探索すべき点が飛躍的に増える。第2に、できる限り、幅広いパラメータ列で滑らかで、実用的な翼型を表現できるようにする。第3に、幅広い翼型が表現できるようにする。
これらを満足する方法として次の方法を選択した。図8は、翼型の定義の仕方を示すグラフである。図9は、キャンバを示すグラフである。図10は、翼厚分布を示すグラフである。翼型は、尖鋭となる先端の点である後縁と、後縁から最も遠い点である前縁とを結ぶ翼弦線をX軸にとるとともに、これに垂直にY軸をとり、前縁と後縁との距離であり翼弦長を1として、XY座標で表される。図8において、破線がキャンバラインを示し、実線が翼型の上面を示し、一点鎖線が翼型の下面を示す。
翼型を、キャンバ(Camber)ラインと翼厚分布とで定義し、これらの双方をベジェ曲線で表現する。ベジェ曲線は、点数に応じた次数をもち、全般にわたって充分な滑らかさをもつ曲線を常に与える利点を持つ。キャンバは、6点のベジェ曲線で定義し、各点のX座標は、0.0,0.05,0.2,0.5,0.8,1.0に固定する。Y座標に関しては、X座標が0.0,1.0の前縁および後縁の2点では0に固定し、残りの中間の4点のY座標を設計パラメータとする。
翼厚分布は、7点のベジェ曲線で定義し、各点のX座標は、0.0,0.0,0.05,0.2,0.5,0.8,1.0に固定する。Y座標に関しては、前縁は0に固定し、後縁は0.01に固定し、残りの中間5点のY座標を設計パラメータとする。前縁側2点のX座標を0に重ねることで丸い前縁を表現する。後述する最適化設計ケースのように、形状範囲を限定するためいくつかのパラメータを固定することが可能である。
さらに具体的な翼型表現方法として、翼型の最大翼圧を固定する場合の翼型表現方法について、説明する。翼厚Tは、翼弦長を100として、百分率で表される。初期値として、翼厚分布を与えるベジェ曲線の、X=0での入力点Y座標を0.05に固定して、翼座標を生成する。ベジェ曲線の性質から、他の設計変数の値次第で、最大翼厚Tmaxが丁度10%になるとは限らないので、後縁点を除く、全ての制御点の位置をY方向にスケーリングして、翼厚が10%になるスケーリングを繰返し計算で求める。一点を固定するので、翼厚分布のパラメータは1個減って4個となる。
また他の具体的な翼型表現方法として、零揚力モーメント係数Cm0指定の場合の翼型表現方法について、説明する。後縁の傾きを変えるために、後縁から2番目、X座標0.8の位置での、キャンバライン用ベジェ入力点を制御して、零揚力モーメント係数Cm0が指定した値になるようにする。従って、キャンバラインの設計パラメータは1個減って3個となる。方法としては、生成された翼型について、2次元非粘性のポテンシャル流れをパネル法によって解くことで空力特性を求め、零揚力モーメント係数Cm0が指定された値になるように、繰返し計算で、パラメータを求める。パネル法は数秒で終わるので計算負荷は増えない。本実施の形態では、図1のステップs3の工程では、この後縁から2番目の点の操作でキャンバラインを修正している。
適用する性能評価法、目的関数について、説明する。第1の目的関数として、最大翼圧Tmaxを用いる。翼厚は、翼型のY軸に平行な方向の寸法であり、最大翼厚Tmaxは、翼型の翼厚の最大値である。最大翼厚Tmaxは、図10に示すようなベジェ曲線で定義される形状データから抽出する。高速低迎角での抵抗は衝撃波抵抗の小さい薄翼が優れているが、機械的強度などを考えると構造的には厚い翼が望ましいので、最大翼厚Tmaxを評価に加える。
第2の目的関数として、零揚力モーメント係数Cm0の絶対値|Cm0|を用いる。M=0.6、レイノルズ数Re=4.61×106の条件でCFD解析を実施し、迎角α=0°を初期条件として、反復計算によって、揚力係数CL=0となる迎角を求め、そこでのピッチングモーメント係数Cmを、零揚力モーメント係数Cm0として得る。最適化設計においては、零揚力モーメント係数Cm0の絶対値|Cm0|<0.01は、十分小さい。零揚力モーメント係数Cm0の絶対値|Cm0|が0.01未満であるか否かを評価するために、max(|Cm0|,0.01)を評価値とすることができる。
第3の目的関数として、低速指標揚力係数CL300@M=0.4を用いる。低速指標揚力係数CL300@M=0.4は、M=0.4での指標揚力係数CL300である。M=0.4において、零揚力迎角α0から、抵抗係数CDが0.3に到達するまで、したがってCD≧0.3となるまで1°刻みで徐々に迎角αを増加させる。到達したら、直前の迎角での値との直線内挿によって、抵抗係数CD=0.3となる迎角αでの揚力係数CLを算出する。この低速指標揚力係数CL300@M=0.4は、低速での最大揚力係数に対応する。
第4の目的関数として、中速指標揚力係数CL300@M=0.6を用いる。中速指標揚力係数CL300@M=0.6は、M=0.6での指標揚力係数CL300である。M=0.6において、零揚力迎角α0から、抵抗係数CDが0.3に到達するまで、したがってCD≧0.3となるまで1°刻みで徐々に迎角αを増加させる。到達したら、直前の迎角での値との直線内挿によって、抵抗係数CD=0.3となる迎角αでの揚力係数CLを算出する。この低速指標揚力係数CL300@M=0.6は、ホバリング状態での最大揚力係数に対応する。
第5の目的関数として、マッハ数限界Mlim@α0を用いる。迎角αを零揚力迎角α0に固定し、M=0.7から0.01刻みでマッハ数Mを徐々に増加させ、次の2つのうち、どちらか小さい方をマッハ数限界Mlim@α0とする。
図11は、マッハ数限界Mlim@α0の一例を示すグラフである。このグラフの値は、翼型によって異なるものであり、マッハ数限界Mlim@α0に示すあくまでも一例である。図11には、縦軸に空力係数を示し、空力係数には、揚力係数CL,抵抗係数CD,ピッチングモーメント係数Cmが含まれる。破線31は、抵抗係数CD=0.3を示し、破線32は、|ΔCm|≧0.02を示す。実線33は、抵抗係数CDを示し、実線34は、ピッチングモーメント係数Cmを示し、実線35は、揚力係数CLを示す。■36が、揚力限界を示し、■37が、モーメント限界を示す。
マッハ数限界の1つめは、揚力限界(CL300限界)である。抵抗係数CD≧0.3となるまで0.01刻みでマッハ数Mを増加させる。到達したら、直前のマッハ数Mでの値との直線内挿によって、CD=0.3となるマッハ数Mを算出する。このマッハ数が揚力限界のマッハ数である。マッハ数限界の2つめは、モーメント限界である。M=0.6でのピッチモーメント係数Cmからの、ピッチモーメント係数Cmの変動量をΔCmとする。その変動量の絶対値|ΔCm|≧0.02となるまでマッハ数Mを増加させる。到達したら、直前のマッハ数での値との直線内挿によって、|ΔCm|=0.02となるマッハ数を算出する。このマッハ数がモーメント限界のマッハ数である。
図1を参照して説明したときには、これら第1〜第5の目的関数を用いるように説明したが、さらに加えて、第6の目的関数として、80%コード位置翼厚T@80%を用いる。この80%コード位置翼厚T@80%は、80%のコード位置における翼厚Tであり、ベジェ曲線で定義された、形状データから抽出する。経験上、空力特性上有利な翼は、後縁付近が極めて薄い翼であるので、目的関数に含めるようにしてもよい。既存翼との比較から、3%の翼厚があれば十分であると判断し、80%のコード位置における翼厚Tが、3%以上であるか否か評価するために、min(T@80%,0.03)を、実際の評価値とすることができる。
速度300km/hでの水平飛行を可能にするために必要な性能評価値について、説明する。速度300km/hでの水平飛行を可能にする翼型を設計する場合、前述の目標関数に関して評価値をそれぞれ設定する。この評価値は、設計目標によって異なるものであり、ここでは、あくまでも一例を示す。
最大翼厚Tmaxに関しては、設定しない。零揚力モーメント係数Cm0の絶対値|Cm0|は、小さいほど良い。低速指標揚力係数CL300@M=0.4は、図6に示す条件から、CL300@M=0.4>1.55とする。低速指標揚力係数CL300@M=0.6は、図6に示す条件から、CL300@M=0.6>0.95とする。マッハ数限界Mlim@α0は、図6に示す条件から、Mlim@α0>0.845とする。このように設定すれば、図6に示す速度300km/hでの水平飛行を可能にするための要求性能を満たす翼型を設計可能である。
最適化エンジン(最適化アルゴリズム)の種別について、説明する。最適化エンジンは、以下に述べるものだけではないが、ここでは、代表的な最適化エンジンについて、説明する。
1つ目は、勾配法である。1個の初期値から出発し、パラメータ列の変化による目的関数変化率(勾配)を差分などの方法で算出する。目的関数が最大(または最小)なる方向に、徐々にパラメータ列を変化させて設計を改良してゆく。複数点での勾配情報を巧妙に利用して、極大(極小)値を推定するBFGS法が代表的である。探索の効率は高いが、得られる解は初期値から辿り付ける極大値に限られており、これが、大域的な最大値である保障はない。そのため、初期値を探索範囲でランダムに振って、複数回の試行を実施するという対策がとられる。目的関数が複数ある場合には、各々の目的関数に重みをつけて足し合わせる等で、見かけ上、単目的に変換して用いる必要がある。
2つ目は、ダウンヒルシンプレックス(略称DS)法である。N次元のパラメータ空間に対して、N+1個の頂点をもつシンプレックス(2次元では3角形、3次元では4面体)を定義し、頂点における評価結果を用いて、シンプレックスを徐々に移動、変形させることによって、設計を改良させてゆく。シンプレックス内での目的関数の線形性を仮定すると、N+1個の評価により勾配が決定されることを用いる点で勾配法と似ている。BFGSに比べて収束性は劣るが、初期のN+1個の分布を計算空間で充分広く取れば、その中にある最大値に辿り付く可能性は高い。勾配法と同様に基本的に単目的の最適化方法である。
3つ目は、遺伝的アルゴリズム(GA)である。生物の遺伝的変化による進化を模擬する方法である。パラメータ空間の次元数よりも充分多い評価点での評価を繰返すことを特徴とする。生物の例にならって、評価点を個体、繰返し回数を世代、パラメータ列を遺伝子、と呼ぶ。DNAによる遺伝子レベルの進化メカニズムとダーウィンの進化論を用いて、次のようなステップで進化計算を行う。
まず、初期個体群に対して、目的関数の評価を行う。次に、評価の良いものほど、高い確率で次世代を残す(適者生存)。さらに、次世代の生成に当たっては、2つの個体の遺伝子をランダムに内挿して新しい遺伝子を生成する(交配)。さらに、ある確率で遺伝子にランダムなノイズを加える(突然変異)。さらに新世代に対して、目的関数の評価、適者生存、交配、突然変異を繰返す。
GAは、多数の評価点を用いること、勾配情報を使用しないことから、局所最大値に収束する危険は少ない。個体数×世代の目的関数評価が必要となるので、評価の計算量が莫大なものになってしまうのが欠点である。しかし、個体数分の評価は完全に並列に実行できるので、多数のコンピュータを接続した並列コンピュータ上での並列化効率は非常に良い。また、GA単独では基本的に単目的の最適化方法である。
4つ目は、多目的遺伝的アルゴリズム(略称MOGA)である。生物の進化においては、1種類の最適な形質に収斂することはなく、微妙な環境の変化に応じて、様々な生物種が同時に生息している。すなわち、生存に有利に働く性質が複数あるときに、環境によって、各性質の重要性が異なるので、適者生存といっても、一種には決まらないということである。このような場合の形質ごとの優劣の比較に便利なのが、パレート最適の概念である。パレート最適である個体をパレート解と呼ぶが、パレート解であれば、重み付け次第で最適解になる可能性があるということを意味する。生物の話に戻ると、環境次第で最適合の形質になる可能性があるということである。パレートランクを設定し、各個体をパレートランクに割り当て、最も高いパレートランクに属する非劣解の集合をパレート解とする。
図12は、パレート解のイメージを示すグラフである。図12には、目的関数が2つの場合、たとえば低速性能と、マッハ数限界との場合を例に示し、○が第1世代、第2世代を示し、●が第3世代を示す。またパレート解には、符号「40」を付す。パレートランクは、次のような手順で決める。初期には、全個体のランクを0(最高ランク)に初期化する。全ての個体について、自分以外の全ての他の個体と、目的関数に関して比較する。全ての目的関数で自分より評価の高い個体に出会ったら、自分のランクを1つ落とす。このようにして全ての個体に対してパレートランクでランク付けする。ランクが0(最高ランク)のままで残った個体は、他のどの個体と各々比べたときでも、少なくとも1つは有利な点を持っている、ということである。即ち、最高のパレートランクを持つ個体は1つではない。原理的には無数に存在し得る。このような最高ランクの個体の集合がパレート解となる。
図12の場合、パレート解は、右上の方に概ね一本の曲線上にある解の集合となる。この集合を結ぶ線を、パレートエッジ、トレードオフカーブなどと呼ぶ。MOGAでは、世代を重ねることで、パレートエッジを徐々に右上方向に前進させて行く。成熟すると、パレートエッジの上昇が停止し、最適パレート解となる。図12のように、翼端13付近(チップ部)に重要な目的関数、たとえばマッハ数限界と、翼根12付近(ハブ寄りの部分)に重要な目的関数、たとえば低速性能とで評価して得られるパレート解には、翼端13付近に適した翼型と、翼根12付近に適した翼型とが、含まれている。つまり1回の設計で、ブレード11の翼根12から翼端13までの各部位に適した翼型を得ることができる。
MOGAでは、このランク(パレートランク)をMOGA内部での評価値とする。GAでは、もともと、多くの個体を用いて進化計算を行うので、GAから評価の部分を変えるだけで、このMOGA手順は自然かつ容易に導入できる。
多目的最適化について、説明する。前述のように、ブレード11の翼型の設計においては、5〜6個程度の評価項目(目的関数に相当する項目)に関して、同時に向上させる必要がある。また、設計開始前には、色々な目的関数が、どのような重みで実現できるのかは不明である。したがって、目的関数の重み付平均についての単目的最適化方法は適用が難しい。
そこで、本実施の形態では多目的最適化エンジンであるMOGAを、最適化エンジンとして用いている。MOGAを用いるブレード11の翼型の設計の手順は、図1のフローチャートに示すとおりである。MOGAの場合、設計計算が進展しても、唯一の最適形状に収束するわけではない。世代を繰返しても、パレート解で際立ったものが現れなくなり、パレートエッジの前進が停まるのが収束に対応し、成熟ともいえる。
以下に、本実施の設計方向で設計された翼型について、説明する。図13は、本発明に従う設計方法で設計された翼型の一例を示すグラフである。図14は、本発明に従う設計方法で設計された翼型の他の例を示すグラフである。図15は、本発明に従う設計方法で設計された翼型のさらに他の例を示すグラフである。図16は、本発明に従う設計方法で設計された翼型のさらに他の例を示すグラフである。図17は、既存の翼型の一例を示すグラフである。図18は、既存の翼型の他の例を示すグラフである。図19は、既存の翼型のさらに他の例を示すグラフである。図13〜図19には、翼弦線をX軸にとり、これと垂直にY軸をとり、翼弦長を1とするXY座標で示す。また図13〜図16において、線Uが、上面を示し、線Lが下面を示す。
以下、便宜上、図13の型番Case5−No50の翼型を、第1実施例翼型といい、図14の型番Case5−No178の翼型を、第2実施例翼型といい、図15の型番Case5−No142の翼型を、第3実施例翼型といい、図16の型番Case5−No195の翼型を、第4実施例翼型という。また図17の型番NACA23012の翼型を、第1既存翼型といい、図18の型番NACA23008の翼型を、第2既存翼型といい、図19の型番AK100Dの翼型を、第3既存翼型という。
表2は、図13の第1実施例翼型の座標データを示す。表3は、図13の第1実施例翼型の座標データを示す。表4は、図15の第3実施例翼型の座標データを示す。表5は、図16の第4実施例翼型の座標データを示す。表1〜表4において、XUは、上面を示す線UのX座標であり、YUは、上面を示す線UのY座標であり、XLは、下面を示す線LのX座標であり、YLは、下面を示す線LのY座標である。番号(No.)で関連付けられているXU,YUが、上面を規定する座標(XU,YU)であり、番号(No.)で関連付けられているXL,YLが、下面を規定する座標(XL,YL)である。番号(No.)1から100まで順に座標(XU,YU)の点を結ぶ線Uが上面を規定し、番号(No.)1から100まで順に座標(XL,YL)の点を結ぶ線Lが上面を規定する。
表6は、第1〜第4実施例翼型および第1〜第3既存翼型の性能を示す。
第1〜第4実施例翼型は、前述の第1〜第6の目的関数に関して評価しながら最適化して得られたパレート解に含まれる翼型である。これら第1〜第4実施例翼型は、次のような特徴を有している。図13の第1実施例翼型は、ブレード11における翼根12寄りの部分に適した翼型であり、たとえば80%の翼長方向位置から翼根12までの部分の翼型として好適である。図14〜図16の第2〜第4実施例翼型は、ブレード11における翼端13付近の部分に適した翼型であり、たとえば80%の翼長方向位置から翼端13までの部分の翼型として好適である。
さらに図14の第2実施例翼型は、動特性による平均揚抗特性が最良かつ、零揚力モーメント係数の絶対値|Cm0|が、第1〜第3既存翼のいずれよりも小さく、速度300km/hでの水平飛行での効率が最良であるという性能を有している。図15の第3実施例翼型は、零揚力モーメント係数の絶対値|Cm0|がやや大きく劣るが、その他は、全ての項目で、既存翼型の中で最良翼型といわれる第3既存翼型を上回る、良好な性能を有している。図16の第4実施例翼型は、ピッチングモーメントの変動が最小であり、ねじり剛性との兼ねあいで、最小モーメント係数Cmminが運用上の制限となる場合には、この翼型が最良の翼型となり得る。
これら第1〜第4実施例翼型を含めて、本発明に従う設計方法で設計される翼型は、いずれも、比較的小さい前縁半径と比較的強い前縁ドループを持っている。これは、中速域(M=0.6付近)における最大揚力付近で発生する超音速領域と衝撃波を緩和するためには小前縁半径が適しており、それによって低下する低速の最大揚力を前縁ドループでカバーするのが有効だからである。上に凸のキャンバーである前縁ドループによるモーメントを打ち消すために、後半に下に凸のキャンバーを有している。また比較的薄翼で、高い性能を有している。
本発明に従う設計方法で、1回で、これらの翼型を含む多数の翼型を設計することができる。したがって様々な優れた性能を有する複数の翼型を設計することができ、これらの翼型から、ブレード11の部位毎に適した翼型を選ぶことができる。したがって1つのブレードであっても位置によって要求される性能が異なるヘリコプタ10のブレード11の翼型を1回で設計することができる。つまり翼根12付近に適した翼型から翼端13付近に適した翼型までを、1回で設計することができる。
図20は、本発明に従う設計方法で設計された翼型のパレート解を、マッハ数限界で整理して示すグラフである。図13〜図16の第1〜第4実施例翼型は、このパレート解に含まれている。図20には、「CL300」を「CL300」と記し、「Mlim@α0」を「Mlim」と記している。この図20から明らかなように、マッハ数限界Mlim@α0が小さいほど、低速指標揚力係数CL300@=0.4および中速指標揚力係数CL300@=0.6で示される揚力限界が大きく、翼根12寄りの部分に適した翼型である。この図20からもあきらかなように、翼根12付近に適した翼型から翼端13付近に適した翼型までを、1回で設計することができる。
図21は、図14の第2実施例翼型の動的解析によるモーメント特性を示すグラフである。図22は、図19の第3既存翼型の動的解析によるモーメント特性を示すグラフである。図21および図22には、横軸に、ブレードの回転によって変化する対気速度VTをマッハ数Mで示し、縦軸に、頭下げモーメントのモーメント係数を示す。縦軸の「standard q base」は前述の周速基準動圧で無次元化した値を示し、「l ocal q base」は局所基準動圧で無次元化した値を示す。図21および図22の円で囲った領域を比較して明らかなように、第2実施例翼型は、高速側での頭下げモーメントが小さく、高速性能に優れた翼型であることが判る。
図23は、図14の第2実施例翼型の動的解析による抵抗特性を示すグラフである。図24は、図19の第3既存翼型の動的解析による抵抗特性を示すグラフである。図23および図24には、横軸に、ブレードの回転によって変化する対気速度VTをマッハ数Mで示し、縦軸に、抵抗係数CDを示す。図23および図24の円で囲った領域を比較して明らかなように、第2実施例翼型は、中速指標揚力係数CL300@=0.6が大きく、M=0.6付近での抵抗を小さく抑えることができる、優れた翼型であることが判る。
以上の説明から明らかなように、本発明に従う設計方法では、ブレード11の翼型に要求される複数の性能が、目的関数としてそれぞれ表され、これら複数の目的関数で評価しながら、MOGAによって最適化され、翼型の最適パレート解が求められる。目的関数には、低速性能、中速性能、高速性能、最大翼圧およびピッチングモーメント性能が含まれ、これらの各性能が評価された翼型が設計される。これによって複数の性能に関して評価された翼型がいわば自動的に設計され、ヘリコプタ10のブレード11に適した翼型を設計することができる。しかもパレート解として得られる複数の翼型の中には、ブレード11の翼根12付近に適した翼型から翼端13付近に適した翼型まで、ブレード11の部位毎に適した複数の翼型が含まれている。したがってブレード11の翼根12から翼端13まで、部位毎に適した複数の翼型を、一度の設計演算によって設計することができ、設計効率を高くし、短時間かつ低コストで翼型を設計することができる。
また図1のステップs3として示すように、キャンバが修正されるので、ピッチングモーメント性能が向上された翼型を設計することができる。キャンバは、キャンバを定義するベジェ曲線を規定する点の位置をY軸方向に変化させて、修正される。
図25は、キャンバの修正方法を示す図である。図25には、4点ベジェ曲線でキャンバを定義する場合を例に挙げる。キャンバを修正するにあたって、図25(1),図25(2)のように、後縁の点44の位置を変更すると、前縁の点41を固定するとしても、残りの点42,43が設計点となる。図25のように、4点ベジェ曲線とする場合、2つの点42,43が設計点となる。これに対して、前縁および後縁の2つの点41,44を固定し、後縁から2つ目の点43の位置を変更して修正すると、設計点が1つの点42になり、設計点を減らすことができる。本実施の形態では、この後縁から2つめの点の位置を変更することによって、キャンバを修正し、設計点を少なくして、修正を容易にすることができる。
図26は、零揚力モーメント係数Cm0を0となるように調整した場合のパレート解を、マッハ数限界で整理して示すグラフである。図27は、零揚力モーメント係数Cm0を−0.02となるように調整した場合のパレート解を、マッハ数限界で整理して示すグラフである。図26,図27には、「CL300」を「CL300」と記し、「Mlim@α0」を「Mlim」と記している。これら図26,図27は、零揚力モーメント係数Cm0の調整の影響を示すためのグラフであり、図20に示したパレート解が得られた設計演算とは別に実行された設計演算で得られたパレート解を示す。図26,図27から明らかなように、零揚力モーメント係数Cm0が0になるようにキャンバを修正するよりも、零揚力モーメント係数Cm0が−0.02になるようにキャンバを修正する方が、低速指標揚力係数CL300@=0.4および中速指標揚力係数CL300@=0.6で示される揚力限界が大きい翼型が得られることが判る。つまりキャンバの修正は、零揚力モーメント係数Cm0が0ではなく、0付近かつ0寄り小さい値、たとえば−0.015程度になるように調整することによって、正のキャンバを有する翼型となり、零揚力モーメント係数Cm0以外の性能が良好な翼型を得ることができる。
また前述のように本実施の形態の設計方法で設計される翼型は、ヘリコプタ10のブレードの翼型として好適な翼型である。この翼型を有するブレード11は、高速性、経済性、快適性の高いブレードである。このように高性能のブレード11を実現することができる。
前述の実施の形態は、本発明の例示に過ぎず、本発明の構成を変更することができる。たとえば目的関数は、前述の第1〜第6の目的関数とは異なってもよいし、また第1〜第6の目的関数全てについて評価する必要はなく、いずれかを選択して用いてもよい。また最適化アルゴリズムは、MOGAに限定されるものではなく、他の多目的最適化アルゴリズムであってもよい。