JP2008082297A - 内燃機関のデコンプ装置 - Google Patents

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俊和 岩間
Masafumi Taki
雅文 瀧
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Abstract

【課題】カム軸に挿入されてプランジャと係合するデコンプ軸がメンテナンス時などに抜け方向に移動可能な状態にあるとき、プランジャがプランジャ孔から離脱するのを防止する。
【解決手段】デコンプ装置は、カム軸Cの中空部21e内に抜き差し可能に組み付けられるデコンプ軸40と、デコンプ軸40により操作されてデコンプ位置とデコンプ解除位置との間で移動するプランジャ50と、中空部21e内に配置される係止ピン71及び該係止ピン71に当接可能な当接部72とから構成される位置規制手段70とを備える。プランジャ50は、プランジャ孔60内で係合位置を占めるデコンプ軸40による操作可能位置に保持される一方、デコンプ軸40が非係合位置を占めるときに操作可能位置から離脱する。当接部72が係止ピン71に当接することで、非係合位置へのデコンプ軸40の移動が阻止され、プランジャ孔60からのプランジャ50の離脱が防止される。
【選択図】図3

Description

本発明は、内燃機関の始動時に、機関弁を開弁することで圧縮圧力を低減して始動を容易にすべく、該機関弁を駆動する動弁カムが設けられたカム軸に設けられるデコンプ装置に関し、詳細には、内燃機関のメンテナンス時などに、デコンプ軸と係合するデコンプ素子が、収容空間内での操作可能位置から離脱することを防止するための構造に関する。
カム軸の中空部内に配置されるデコンプ軸と、カム軸に設けられた収容空間(例えばプランジャ孔)内に移動可能に配置されるデコンプ素子(例えばプランジャ)とを備える内燃機関のデコンプ装置において、プランジャ軸とデコンプ素子とは互いに係合し、駆動機構により駆動されるデコンプ軸により操作されるデコンプ素子が、機関弁を開弁させるデコンプ位置と機関弁を開弁させないデコンプ解除位置との間で移動するものは知られている(例えば特許文献1参照)。
特開2006−144627号公報
デコンプ素子は、中空部内に軸方向から抜き差し可能に挿入されてカム軸に組み付けられたデコンプ軸との係合により、収容空間内でデコンプ軸に操作され得る位置である操作可能位置に保持される。このため、内燃機関のメンテナンス時などに、デコンプ軸を駆動する駆動機構がカム軸から外されるなどして、中空部内に挿入されているデコンプ軸がカム軸からの抜け方向に移動して、カム軸から抜けたり、またはデコンプ素子との係合が解除されると、デコンプ素子を前記操作可能位置に保持するための手段がなくなるために、デコンプ素子が前記操作可能位置から離脱し、メンテナンス作業に手間がかかることになる。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、請求項1〜3記載の発明は、カム軸の中空部内に軸方向に抜き差し可能に挿入されてデコンプ素子と係合するデコンプ軸が、内燃機関のメンテナンス時などに抜け方向に移動可能な状態にあるときに、デコンプ軸を利用することで、デコンプ素子が収容空間内でのデコンプ軸による操作が可能な位置から離脱するのを防止することを目的とする。そして、請求項2記載の発明は、さらに、デコンプ軸の移動を規制する係止部材のカム軸への組付を容易にしながら、部品点数を増やすことなく係止部材のカム軸からの抜止めを行うことを目的とし、請求項3記載の発明は、さらに、カム軸の回転位置に関わらずデコンプ素子の離脱を確実に防止すると共にデコンプ軸の剛性を高めることを目的とする。
請求項1記載の発明は、機関弁を駆動する動弁カムが設けられたカム軸に設けられるデコンプ装置であって、前記カム軸の中空部内に配置されると共に前記カム軸の軸方向に抜き差し可能に組み付けられるデコンプ軸と、前記カム軸に設けられた収容空間内に移動可能に配置されるデコンプ素子とを備え、前記デコンプ軸は、前記カム軸への組付時に前記デコンプ素子に係合しない非係合位置から前記デコンプ素子に係合する係合位置まで軸方向に移動可能であり、前記デコンプ素子は、前記係合位置を占める前記デコンプ軸により前記収容空間内で操作可能位置に保持される一方、前記デコンプ軸が前記非係合位置を占めるときに前記操作可能位置または前記カム軸から離脱し、前記係合位置を占める前記デコンプ軸により操作される前記デコンプ素子が、前記機関弁を開弁させるデコンプ位置と前記機関弁を開弁させないデコンプ解除位置との間で移動する内燃機関のデコンプ装置において、前記係合位置にある前記デコンプ軸が前記非係合位置に移動することを阻止する位置規制手段を備え、前記位置規制手段は、前記カム軸に設けられて前記中空部内に配置される係止部材と、前記デコンプ軸に設けられて前記中空部内で前記係止部材に当接可能な当接部とから構成され、前記当接部が前記係止部材に当接することにより前記非係合位置への前記デコンプ軸の移動が阻止される内燃機関のデコンプ装置である。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の内燃機関のデコンプ装置において、前記カム軸には、前記カム軸を回転駆動する駆動トルクが入力される入力部材が取り付けられ、前記カム軸に緩く嵌合する前記係止部材が、前記カム軸に取り付けられた前記入力部材により、前記カム軸から抜け止めされるものである。
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の内燃機関のデコンプ装置において、前記当接部は、前記デコンプ軸に径方向外方に突出して一体成形されて設けられると共に周方向での任意の位置で前記係止部材に当接可能な突出部であるものである。
請求項1記載の発明によれば、カム軸の中空部内に軸方向に抜き差し可能に挿入されてデコンプ素子と係合するデコンプ軸が、内燃機関のメンテナンス時などに抜け方向に移動可能な状態にあるときに、当接部が係止部材に当接することで、デコンプ軸が係合位置から非係合位置へ移動することが阻止されるので、デコンプ軸がカム軸から抜けることが阻止され、しかもデコンプ軸とデコンプ素子との係合状態が確保される。このため、デコンプ素子は、該デコンプ素子をデコンプ位置およびデコンプ解除位置に移動させるデコンプ軸による操作が可能な位置である操作可能位置に保持されて、操作可能位置から離脱することが防止されるので、メンテナンスの作業性が向上する。さらに、係止部材および当接部はいずれも中空部内に配置されるので、カム軸の周辺に配置される部材の配置の自由の増加に寄与する。
請求項2記載の事項によれば、係止部材はカム軸に緩く嵌合するので、カム軸への係止部材の組付が容易になって、その組付性が向上する。しかも、係止部材の抜止めのためにカム軸を駆動するためにカム軸に取り付けられる入力部材が利用されるので、抜止め専用の部材が不要になって、コストが削減される。
請求項3記載の事項によれば、当接部はカム軸の回転位置に無関係に係止部材に当接可能であるので、カム軸の回転位置に関わらずデコンプ素子の離脱が確実に防止される。そのうえ、径方向外方に突出する突出部である当接部がデコンプ軸に一体成形されるので、デコンプ軸の剛性が高められる。
以下、本発明の実施形態を図1〜図8を参照して説明する。
図1を参照すると、本発明が適用されたデコンプ装置を備える内燃機関Eは、車両としての自動2輪車に搭載される単気筒4ストローク内燃機関である。内燃機関Eは、ピストン4が往復動可能に嵌合するシリンダ1と、シリンダ1の上端に結合されるシリンダヘッド2と、シリンダヘッド2の上端に結合されるヘッドカバー3とから構成される機関本体を備える。そして、シリンダヘッド2とヘッドカバー3とにより、内燃機関Eに備えられる頭上カム軸型の動弁装置20が収容される動弁室5が形成される。
シリンダヘッド2には、シリンダ軸線方向でピストン4と対向する位置に設けられる燃焼室6と、燃焼室6に開口する1対の吸気口7aを有する吸気ポート7と、燃焼室6に開口する1対の排気口8aを有する排気ポート8とが設けられ、さらに、両吸気口7aおよび両排気口8aをそれぞれ開閉するいずれもポペット弁からなる1対の吸気弁11および1対の排気弁12と、燃焼室6の中央部に臨む点火栓13(図2参照)とが設けられる。機関弁としての吸気弁11および排気弁12は、シリンダヘッド2に圧入された弁スリーブ14にそれぞれ摺動自在に嵌合され、弁ばね15の弾発力により閉弁方向に常時付勢される。
併せて図2,図3を参照すると、動弁装置20は、シリンダヘッド2に設けられるカムホルダ16を介して回転可能に支持されるカム軸Cと、カム軸Cの軸本体21に設けられる1対の動弁カムとしての吸気カム22およびカム軸Cの軸方向(以下、「軸方向」という。)で両吸気カム22の間に配置される1つの動弁カムとしての排気カム23と、1対の吸気カム22にそれぞれ当接して1対の吸気弁11をそれぞれ開閉させる1対のカムフォロアとしてのバルブリフタ24と、排気カム23に当接して1対の排気弁12をそれぞれ開閉させる1つのカムフォロアとしてのロッカアーム25とを備える。カム軸Cは、シリンダヘッド2にボルトB1で締結されるカムホルダ16に一対の軸受17を介して支持される。
なお、明細書または特許請求の範囲において、軸方向は、カム軸Cの回転中心線Lcに平行な方向であり、径方向および周方向とは、回転中心線Lcを中心とする径方向および周方向である。
カム軸Cは、コンロッド(図示されず)を介してピストン4により回転駆動されるクランク軸(図示されず)の回転中心線と平行な回転中心線Lcを有し、動弁用伝動機構Tを介して伝達されるクランク軸から出力される駆動トルクにより、クランク軸の1/2の回転速度で回転駆動される。該動弁用伝動機構Tは、クランク軸に結合される駆動スプロケットと、軸本体21の軸端部21aに結合される被動回転体としてのカムスプロケット27と、前記駆動スプロケットおよびカムスプロケット27に掛け渡された無端伝動帯としてのタイミングチェーン28とから構成されて、シリンダ1、シリンダヘッド2およびヘッドカバー3により形成される伝動室としてのチェーン室18内に収容される。
また、排気カム23は、排気弁12を閉弁状態に保つベース円部23aと、排気弁12を開弁状態にするカム山部23bと、ベース円部23aおよびカム山部23bに渡って排気カム23の全周に形成されると共に後述するローラ25aに摺接するカム面S(図7(A)も参照)とを有する。
各バルブリフタ24はカムホルダ16に一体形成されたガイド筒16a内に摺動可能に支持される。また、カムホルダ16に保持されたロッカ軸26に揺動可能に支持されるロッカアーム25は、排気カム23に転がり接触するカム当接部としてのローラ25aと、U字状に二股に分岐した1対の分岐部により構成されて排気弁12を押圧する1対の弁押圧部25bとを有する。
この動弁装置20により、各吸気カム22はバルブリフタ24を介して吸気弁11を、また排気カム23はロッカアーム25を介して1対の排気弁12を、それぞれクランク軸の回転に同期して、所定の開閉時期およびリフト量で開閉する。
そして、吸気ポート7の入口が開口するシリンダヘッド2の側部2iに取り付けられる吸気管を有する吸気装置を通って吸入された空気は、気化器などの燃料供給装置から供給された燃料と混合して混合気を形成し、吸気行程において開弁した吸気弁11を経て吸気ポート7を通って燃焼室6に吸入され、ピストン4が上昇する圧縮行程において混合気の状態で圧縮される。該混合気は圧縮行程の終期に点火栓13により点火されて燃焼し、ピストン4が下降する膨張行程において燃焼ガスの圧力により駆動されるピストン4がクランク軸を回転駆動する。燃焼ガスは、ピストン4が上昇する排気行程において開弁した排気弁12を経て、排気ガスとして燃焼室6から排気ポート8を通った後、排気ポート8の出口が開口するシリンダヘッド2の側部2eに取り付けられる排気管を有する排気装置を通って内燃機関Eの外部に排出される。
図2〜図4を参照すると、内燃機関Eの始動装置としてのキック式始動装置などのマニュアル式始動装置または始動電動機の負荷を軽減するデコンプ装置はカム軸Cに設けられる。このデコンプ装置は、カム軸Cにおける取付部としての軸端部21aにカム軸Cと一体に回転するように取り付けられるベース部材としての入力部材Pと、入力部材Pに設けられる駆動機構30と、カム軸Cに移動可能に設けられて内燃機関Eの始動時の運転状態に応じて駆動機構30により駆動される操作部材としてのデコンプ軸40と、カム軸Cに径方向に移動可能に設けられてデコンプ軸40により操作されるデコンプ素子としてのプランジャ50と、プランジャ50と係合状態にあるデコンプ軸40がプランジャ50と係合しない非係合状態になる位置に移動することを阻止する位置規制手段70と、を備える。
カム軸Cを回転駆動する駆動トルクがタイミングチェーン28を通じて入力される入力部材Pは、軸端部21aの外周に圧入されて結合される環状のホルダ29と、ホルダ29に固定手段としてのボルトB2により結合されるカムスプロケット27とから構成される。ホルダ29は、軸端部21aが挿入される挿入孔29cを形成すると共に軸端部21aの外周を全周に渡って囲む円筒状のボス部29aと、ボス部29aから径方向外方に張り出して設けられてカムスプロケット28が結合される1対の結合部29bとを有する。軸端部21aにおいてボス部29aが取り付けられる取付領域は、軸方向で、動弁室5および1対の軸受17の外側であって、チェーン室18内に位置する。また、各結合部29bにはボルトB2が螺合する。
スプロケット27は、歯部27aと該歯部27aの径方向内方に設けられる円環状のディスク部27bとを有する。ディスク部27bは、軸端部21aおよびボス部29aが挿入される貫通孔27cが設けられた平板状の底壁27b1と、歯部27aに対して径方向内方に近接して位置すると共に軸方向に延びる円筒状の外周壁27b2とを有する。
底壁27b1と外周壁27b2とで形成される凹部の空間27e内に配置される駆動機構30は、ディスク部27bに回転中心線Lcから偏心した位置に圧入されて固定される支持軸31、該支持軸31に枢支されるデコンプウエイト32と、デコンプウエイト32に弾発力を作用させて遠心力により回動するデコンプウエイト32の位置を制御する制御ばね33と、デコンプウエイト32の回動量を規定する開始ストッパ34および終了ストッパ35と、から構成される。
支持軸31により規定される回動中心線Lwを中心に回動するデコンプウエイト32は、デコンプウエイト32の回動が始まる初期位置を規定する開始ストッパ34に当接する開始当接部32aと、デコンプウエイト32の回動が終了する終了位置を規定する終了ストッパ35に当接する終了当接部32bと、遠心力で回動するときのデコンプウエイト32による駆動力をデコンプ軸40に作用させる作用部32cとを有する。デコンプウエイト32のほぼ全体は空間27e内に収容される。
開始当接部32aは、デコンプウエイト32での径方向内方寄りの部分である内側部分32iに設けられ、回転中心線Lcを中心とする円弧状を呈する。終了当接部32bは、デコンプウエイト32での径方向外方寄りの部分である外側部分32oにおいて回動中心線Lwに最も近い部分またはその近傍に設けられる。デコンプ軸40の入力ピン44が挿入される孔32dが設けられ作用部32cは、孔32d内の入力ピン44と係合することにより、駆動機構30が発生する駆動力をデコンプ軸40に伝達する。
開始ストッパ34は、デコンプ軸40にカム軸Cと同軸に設けられた円柱状の突出部により構成され、底壁27b1に対して軸方向に突出する。終了ストッパ35は、外周壁27b2の一部により構成される。
捩りコイルばねからなる制御ばね33は、支持軸31の外周に摺動可能に嵌合するデコンプウエイト32のボス部32eを囲んで配置されて該ボス部32eに支持される。制御ばね33の一端部33aは底壁27b1に係止され、その他端部33bはデコンプウエイト32に係止される。
そして、内燃機関Eが停止状態にあるときを含めて、機関回転速度が内燃機関Eがクランキング状態を脱した時点での機関回転速度である設定回転速度以下であるとき、図4に実線で示されるように、デコンプウエイト32は、制御ばね33により付勢されて、開始ストッパ34に当接している。また、機関回転速度が前記設定回転速度を越えると、図4に二点鎖線で示されるように、デコンプウエイト32は、制御ばね33の弾発力に抗して開始ストッパ34から離れて回動し、終了当接部32bが終了ストッパ35に当接して終了位置を占める。
図1〜図3を参照すると、デコンプ軸40は、軸本体21に設けられた中空部21eが両端で開放する中空のカム軸C内に設けられて、軸本体21に回動可能に支持される。軸本体21と同軸の円柱状の空間である中空部21eに配置されるデコンプ軸40は、軸方向で、カムスプロケット27と、一方の吸気カム22および排気カム23間に配置されるプランジャ50との間に位置する。デコンプ軸40は、回転中心線Lcと平行に延びる伝達部としての軸部41と、軸部41の両端部に設けられる入力部としての基端部42および出力部としての先端部43と、基端部42に設けられる開始ストッパ34と、駆動機構30からの駆動力が入力される基端部42に設けられる入力端としての凸部からなる入力ピン44と、先端部43に設けられてプランジャ50を操作する操作部である操作側係合部としての凸部からなる出力ピン45と、後述する当接部72を有する単一の部材である。
円板状の基端部42(図4も参照)は、軸方向でデコンプウエイト32に隣接する位置で軸端部21aの内側に摺動可能に嵌合し、軸受部としての該軸端部21aに回動可能に支持される一方のジャーナル部を兼ねる。円板状の先端部43は、軸方向で、駆動機構30寄りでプランジャ50に隣接する位置において軸本体21の内側に設けられる軸受部21bに摺動可能に嵌合し、軸受部21bに回動可能に支持される他方のジャーナル部を兼ねる。軸受部21bは、軸方向で、吸気カム22と排気カム23との間に位置し、径方向内方に突出する円環状の部分である。
デコンプ軸40は、駆動機構30およびホルダ29(または入力部材P)がカム軸Cに組み付けられる前に、軸端部21aからプランジャ孔60に向かって、中空部21e内に軸方向に抜き差し可能に挿入される。そして、出力ピン45が、プランジャ孔60内に配置されたプランジャ50の凹部54に係合し、基端部42および先端部43がそれぞれ軸端部21aおよび軸受部21bに支持される状態で、カム軸Cへのデコンプ軸40の組付が完了する。それゆえ、デコンプ軸40は、カム軸Cへの組付時に、中空部21e内で、プランジャ50に係合しない非係合位置からプランジャ50に係合する係合位置まで軸方向に移動可能である。
図2,図3,図7(A)を参照すると、プランジャ50は、軸方向で軸受部21bと排気カム23との間に設けられる収容空間としてのプランジャ孔60に径方向に移動可能に、かつ摺動可能に収容される。
プランジャ孔60は、回転中心線Lcと交差する中心軸線Lbを有する柱状、この実施形態では円柱状の孔であり、周方向で排気カム23のベース円部23aの形成範囲(以下、「ベース円形成範囲」という。)Aaから、周方向で排気カム23のカム山部23bの形成範囲(以下、「カム山形成範囲」)Abに向かって、カム軸Cの直径方向にドリル加工により形成され、軸方向で、軸受部21bの近傍から排気カム23の一部と重なる位置までの範囲に設けられる。
さらに、プランジャ孔60は、排気カム23のベース円部23aのカム面Sa、排気カム23の側面23cおよび軸本体21の外周面21cに跨って開口する第1開口部61と、回転中心線Lcを挟んで第1開口部61とは反対側で側面23cおよび外周面21cに開口する第2開口部62とを有する。そして、プランジャ50は、第1開口部61からプランジャ孔60内に挿入されて、カム軸Cに組み付けられる。
図5を併せて参照すると、第1開口部61が軸方向でカム面Saの一部と重なる位置に開口し、軸方向でのプランジャ孔60の中心(中心軸線Lb)と軸方向でのカム面Saの中心Lsとが、軸方向にずれている。このため、第1開口部61が開口するカム面Saにおいては、軸方向で第1開口部61に隣接する部分がカム面Sa1として残されているので、カム面Sは排気カム23の全周に渡って連続している。これにより、カム面Sが全周に渡って連続することによる排気カム23のカム面Sの良好な潤滑性を維持しながら、プランジャ50の外径を大きくすることが可能になってローラ25aとの当接によるプランジャ50の倒れが防止され、しかも軸方向でのローラ25aの大型化およびカム軸Cの長軸化を抑制することができる。
プランジャ50は、ロッカアーム25を介して排気弁12を押圧する押圧部51aを有する一端部51と、径方向で一端部51とは反対側の他端部52と、両端部51,52の間の部分であって主に中空部21eに位置する中間部53と、中間部53に設けられて出力ピン45からの操作力を受ける被操作部である被操作側係合部としての凹部54とを有する単一の部材である。
プランジャ50は、出力ピン45と凹部54とが係合する係合位置を占めるデコンプ軸40により、プランジャ孔60内でデコンプ軸40により操作され得る位置である操作可能位置に保持される一方、デコンプ軸40が、出力ピン45と凹部54とが係合しない非係合位置を占めるとき、前記操作可能位置から離脱する。
プランジャ50が操作可能位置から離脱すると、プランジャ50は第1開口部61を通じてプランジャ孔60から抜け出てカム軸Cから抜け落ち、動弁室5内に落下する。また、プランジャ50がプランジャ孔60内に留まる場合でも、プランジャ50がプランジャ孔60内で回動したり、中心軸線Lbに沿って移動する。このような場合には、出力ピン45と凹部54とを再度係合状態にするのに手間がかかり、メンテナンスの作業性が低下する。
そして、前記操作可能位置にあるプランジャ50は、出力ピン45と凹部54とからなる係合構造を介してデコンプ軸40により操作されて、押圧部51aが径方向外方である進出方向と、押圧部51aが径方向内方である後退方向とに、進退移動する。プランジャ50は、プランジャ孔60内でデコンプ軸40と係合している状態で、押圧部51aがベース円部23aのカム面Saよりも径方向外方に位置して排気弁12を開弁させるデコンプ位置、および該デコンプ位置よりも径方向内方に位置して排気弁12を開弁させないデコンプ解除位置を占める。
図2,図3,図6を参照すると、位置規制手段70は、カム軸Cの軸本体21に設けられて中空部21e内に配置される係止部材としての柱状の係止ピン71と、軸方向で入力ピン44と出力ピン45との間でデコンプ軸40に設けられて中空部21e内で係止ピン71に当接可能な当接部72とから構成され(図4も参照)、当接部72が係止ピン71に当接することにより前記非係合位置へのデコンプ軸40の移動が阻止される。
カム軸Cに保持される円柱状の係止ピン71は、ボス部29aが取り付けられる前記取付領域内に設けられた径方向での円孔からなる貫通孔73に緩く嵌合すると共に、装着用空間としての該貫通孔73を貫通して中空部21e内で軸部41に向かって径方向に延びている。係止ピン71は、カム軸Cへのデコンプ軸40の組付が完了した後に、径方向外方から貫通孔73に挿入されてカム軸Cに取り付けられ、その後、軸端部21aに取り付けられるホルダ29のボス部29aにより、貫通孔73が径方向外方から覆われて閉塞されることで、径方向外方への移動が規制されて、カム軸Cから抜止めされる。貫通孔73は、プランジャ孔60と平行に、かつ径方向でプランジャ孔60と同じ方向からの孔加工であるドリル加工により形成される。このように、プランジャ孔60および貫通孔73が同じ方向に形成されるので、カム軸Cに両孔60,73が形成される場合の加工が容易になる。
係止ピン71がカム軸Cに組み付けられた状態で、係止ピン71の内端部71aと軸部41との径方向での間には、係止ピン71の外端部71bがボス部29aの内周面に当接した状態で、径方向での貫通孔73の長さtよりも小さな隙間Grが形成され、当接部72に当接可能な内端部71aと当接部72との軸方向での間には、出力ピン45と凹部54との軸方向での係合範囲Rよりも小さい隙間Gaが形成される。また、係止ピン71は、チェーン室18内においてヘッドカバー3により形成される室部分18aに位置するので、ヘッドカバー3が外された状態で、カムホルダ16に支持されたカム軸Cへの取付が容易である。
当接部72は、軸部41に、軸方向で係止ピン71に対してプランジャ50側の位置に、径方向外方に突出して一体成形されて設けられる環状、ここでは円環状の突出部であるフランジにより構成される。そして、この当接部72は、周方向での任意の位置で係止ピン71に当接可能な形状を有する。
それゆえ、係止ピン71が組み付けられた後は、内燃機関Eのメンテナンス時などに駆動機構30およびカムスプロケット27がカム軸Cから外されたとき、デコンプ軸40は、隙間Gaの範囲で、軸方向で抜け方向に移動可能であるものの、当接部72が係止ピン71と当接することで、デコンプ軸40がカム軸Cから抜けることが阻止され、しかも前記係合位置にあるデコンプ軸40が前記非係合位置にまで移動することが阻止されて、プランジャ50が前記操作可能位置から離脱すること、さらにはカム軸Cから離脱して落下することが防止される。それゆえ、位置規制手段70は、プランジャ50が前記操作可能位置またはカム軸Cから離脱することを防止するための離脱防止構造である。
図4,図7を参照して、デコンプ装置の動作について説明する。
図4に実線で示されるように、内燃機関Eの停止時には、デコンプウエイト32は、制御ばね33に付勢されて開始当接部32aが開始ストッパ34に当接した初期位置にあって、プランジャ50は、押圧部51aがカム面Saよりも径方向外方に突出するデコンプ位置にある。そして、クランク軸が始動装置により回転駆動されるクランキング状態になると、カム軸Cが前記動弁用伝動機構を介してクランク軸により回転駆動され、デコンプウエイト32がカム軸Cと一体に回転する。機関回転速度が前記設定回転速度以下であるとき、デコンプウエイト32に発生する遠心力は小さく、デコンプウエイト32は初期位置を占めている。
この状態で、内燃機関Eの圧縮行程時には、図7(A)に示されるように、デコンプ位置にあるプランジャ50の押圧部51aにロッカアーム25のローラ25aが当接してロッカアーム25が駆動され、該ロッカアーム25により駆動される排気弁12(図1参照)がデコンプリフト量で開弁するデコンプ状態になる。これによって、圧縮行程時に燃焼室6内の圧縮圧力が解放されて減圧される。
機関回転速度が前記設定回転速度を越えると、デコンプウエイト32に発生する遠心力が、制御ばね33の弾発力に打ち勝って、デコンプウエイト32が図3において時計方向に回動し、図4に二点鎖線で示されるように、終了当接部32bが回動終了ストッパ35に当接した状態で停止する終了位置を占める。デコンプウエイト32が初期位置から終了位置に移動するまでの過程で、作用部32cは入力ピン44に駆動力を作用させて、デコンプ軸40を回動させ、軸部41(図2参照)を介して伝達された駆動トルクにより、出力ピン45が凹部54に操作力を作用させて、プランジャ50を後退方向に移動させる。そして、デコンプウエイト32が終了位置を占めるとき、図7(B)に示されるように、プランジャ50はデコンプ解除位置を占める。この状態では、圧縮行程時にプランジャ50によりロッカアーム25が駆動されることがなく、したがって排気弁12が開弁することがないデコンプ解除状態になる。
また、内燃機関Eの運転終了操作により、機関回転速度が前記設定回転速度を経た後に内燃機関Eが停止するときには、前述とは逆の動作が行われて、デコンプウエイト32が初期位置を占め、プランジャ50がデコンプ位置を占める。
このように、デコンプ装置のデコンプウエイト32は、機関回転速度に応じて初期位置および終了位置の間で回動し、それに対応して、駆動機構30により駆動されるデコンプ軸40により操作されるプランジャ50は、デコンプ位置とデコンプ解除位置との間においてプランジャ孔60内で径方向に移動する。
次に、前述のように構成された実施形態の作用および効果について説明する。
デコンプ装置は、プランジャ50との前記係合位置にあるデコンプ軸40が前記非係合位置に移動することを阻止する位置規制手段70を備え、位置規制手段70は、カム軸Cに設けられて中空部21e内に配置される係止ピン71と、デコンプ軸40に設けられて中空部21e内で係止ピン71に当接可能な当接部72とから構成され、当接部72が係止ピン71に当接することにより前記非係合位置へのデコンプ軸40の移動が阻止される。これにより、カム軸Cの中空部21e内に軸方向に抜き差し可能に挿入されてプランジャ50と係合するデコンプ軸40が、内燃機関Eのメンテナンス時などに抜け方向に移動可能な状態にあるときに、位置規制手段70により、デコンプ軸40が抜け方向に移動したとしても、当接部72が係止ピン71に当接することで、デコンプ軸40が前記係合位置から前記非係合位置へ移動することが阻止されるので、デコンプ軸40がカム軸Cから抜けることが阻止され、しかもデコンプ軸40とプランジャ50との係合状態が確保される。このため、プランジャ50は、該プランジャ50をデコンプ位置およびデコンプ解除位置に移動させるデコンプ軸40による操作が可能な位置である前記操作可能位置に保持されて、該操作可能位置から離脱すること、またはカム軸Cから抜け落ちることが防止されるので、メンテナンスの作業性が向上する。さらに、デコンプ軸40を利用することにより、プランジャ50の離脱が防止されるので、プランジャ50の離脱防止構造が簡単になり、しかも係止ピン71および当接部72はいずれも中空部21e内に配置されるので、カム軸Cの周辺に配置される部材の配置の自由の増加に寄与する。
カム軸Cには、カム軸Cを回転駆動する駆動トルクが入力されるカムスプロケット27を有する入力部材Pのホルダ29が取り付けられ、カム軸Cに緩く嵌合する係止ピン71が、カム軸Cに取り付けられたホルダ29により、カム軸Cから抜け止めされることにより、係止ピン71はカム軸Cに緩く嵌合するので、カム軸Cへの係止ピン71の組付が容易になって、その組付性が向上する。しかも、係止ピン71の抜止めのためにカム軸Cを駆動するためにカム軸Cに取り付けられるホルダ29が利用されるので、抜止め専用の部材が不要になって、コストが削減される。
当接部72は、デコンプ軸40に径方向外方に突出して一体成形されて設けられると共に周方向での任意の位置で係止ピン71に当接可能な突出部であることにより、当接部72はカム軸Cの回転位置に無関係に係止ピン71に当接可能であるので、カム軸Cの回転位置に関わらず、前記操作可能位置からのプランジャ50の離脱が確実に防止される。そのうえ、径方向外方に突出する突出部である当接部72がデコンプ軸40に一体成形されるので、デコンプ軸40の剛性が高められる。
以下、前述した実施形態の一部の構成を変更した実施形態について、変更した構成に関して説明する。
当接部72は、軸方向で係止ピンに対してプランジャ50側に位置する段部であってもよい。この場合、該段部は、例えば図8(A)に示されるように、デコンプ軸40の軸部41に全周に渡って環状溝を形成する凹部74の両側壁のうちのプランジャ50側の側壁74aにより構成され、または図8(B)に示されるように、軸部41が小径部41aおよび大径部41bを有する段付きの軸で構成されるときの小径部41aと大径部41bとの境の段部75により構成される。
当接部72は、デコンプ軸40とは別個の部材により構成されてもよい。
係止ピン71は、ホルダ29のボス部29aおよび軸本体21を貫通してカム軸Cに取り付けられてもよい。その場合、例えば係止ピン71をボス部29aに螺合させるなどの固定手段により、係止ピン71がカム軸Cに対して保持される。また、圧入の代わりまたは圧入との併用の形態で、係止ピン71が、カム軸Cに対するホルダ29または入力部材Pの取付手段を兼ねてもよい。
軸方向で、デコンプ軸40のジャーナル部(前記実施形態では基端部42)が係止ピン71に対してプランジャ50側に設けられる場合には、該ジャーナル部が当接部72を兼ねてもよい。
係止部材は、板状の部材であってもよい。
プランジャ孔60は、カム面Sに開口することなく、カム軸Cの外周面21cに開口していてもよい。
デコンプ素子が配置される収容空間は、有底の孔、または溝であってもよい。デコンプ軸は、デコンプ素子をデコンプ位置およびデコンプ解除位置に移動させるために、軸方向に移動するものであってもよい。
デコンプ素子は、プランジャ以外の部材であってもよく、カム軸に対して回転または軸方向に移動可能な部材であってもよい。
本発明が適用されたデコンプ装置を備える内燃機関の要部縦断面図であり、デコンプ装置がデコンプ状態にあるときの図である。 図1の内燃機関のヘッドカバーを外したときの、一部を断面で示す要部平面図である。 図2に示される回転位置とは異なる回転位置にあるときのカム軸の要部断面図であり、図4の概ねIII線での断面に相当する。 図2のIV矢視でのデコンプ装置の要部の図である。 図4のV矢視での要部の図である。 図4のVI矢視での要部の図である。 図1のデコンプ装置の動作を説明するための図3のVII−VII線断面図を中心とする図であり、(A)は、デコンプ状態を示し、(B)は、デコンプ解除状態を示す。 (A)、(B)は本発明の実施形態の変形例を示す要部断面図である。
符号の説明
2…シリンダヘッド、12…排気弁、20…動弁装置、23…排気カム、27…カムスプロケット、29…ホルダ、32…デコンプウエイト、40…デコンプ軸、45…出力ピン、50…プランジャ、54…凹部、60…プランジャ孔、70…位置規制手段、71…係止ピン、72…当接部、
E…内燃機関、C…カム軸、P…入力部材。

Claims (3)

  1. 機関弁を駆動する動弁カムが設けられたカム軸に設けられるデコンプ装置であって、
    前記カム軸の中空部内に配置されると共に前記カム軸の軸方向に抜き差し可能に組み付けられるデコンプ軸と、前記カム軸に設けられた収容空間内に移動可能に配置されるデコンプ素子とを備え、
    前記デコンプ軸は、前記カム軸への組付時に前記デコンプ素子に係合しない非係合位置から前記デコンプ素子に係合する係合位置まで軸方向に移動可能であり、
    前記デコンプ素子は、前記係合位置を占める前記デコンプ軸により前記収容空間内で操作可能位置に保持される一方、前記デコンプ軸が前記非係合位置を占めるときに前記操作可能位置または前記カム軸から離脱し、
    前記係合位置を占める前記デコンプ軸により操作される前記デコンプ素子が、前記機関弁を開弁させるデコンプ位置と前記機関弁を開弁させないデコンプ解除位置との間で移動する内燃機関のデコンプ装置において、
    前記係合位置にある前記デコンプ軸が前記非係合位置に移動することを阻止する位置規制手段を備え、前記位置規制手段は、前記カム軸に設けられて前記中空部内に配置される係止部材と、前記デコンプ軸に設けられて前記中空部内で前記係止部材に当接可能な当接部とから構成され、前記当接部が前記係止部材に当接することにより前記非係合位置への前記デコンプ軸の移動が阻止されることを特徴とする内燃機関のデコンプ装置。
  2. 前記カム軸には、前記カム軸を回転駆動する駆動トルクが入力される入力部材が取り付けられ、前記カム軸に緩く嵌合する前記係止部材が、前記カム軸に取り付けられた前記入力部材により、前記カム軸から抜け止めされることを特徴とする請求項1記載の内燃機関のデコンプ装置。
  3. 前記当接部は、前記デコンプ軸に径方向外方に突出して一体成形されて設けられると共に周方向での任意の位置で前記係止部材に当接可能な突出部であることを特徴とする請求項1または2記載の内燃機関のデコンプ装置。
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