従来から、セラミック製の長尺の柱状体や筒状体を得るための成形方法として押出成形法が用いられている。この押出成形法は、連続して成形できる形状の成形体に用いられ、他の成形方法と比べて量産性に優れている。
この押出成形法に用いる押出成形機には、プランジャ式やスクリュー式等があるが、押出成形法に用いる坏土中のセラミック材料とバインダと水との互いの分散性をより高めることができるという点で、スクリュー式の押出成形機が一般的によく用いられる。
図4は、従来のスクリュー式の押出成形機の一例を示す概略断面図である。
図4に示す従来の押出成形機30は、一部に坏土の投入口33を開口した成形機外装34の内部上段に2本のパッグスクリュー32(図4においては紙面に垂直な方向に2本が重なっている。)を備えた混練室36と、オーガスクリュー31を備えた成型室37とを有しており、混練室36と成型室37とは流路38で連通している。そして、成形機外装34の出口側の端部に、バレル41,金型42が順に接続された構成としてある。
また、パッグスクリュー32は、一方を流路38側に設けた軸受け39に、他方を不図示の動力源に接続することにより支持されており、オーガスクリュー31は、動力源40に片側支持で接続固定されている。さらに、押出成形機30内を真空引きするための真空ポンプ(不図示)も備えている。
次に、この押出成形機30を用いた、成形体の成形手順を説明する。
まず、セラミック材料とバインダと水とを攪拌混合機にて混合し、さらにニーダー等の混練機で混練して、成形用の坏土を作製する。そして、作製した坏土を押出成形機30の投入口33から2本のパッグスクリュー32を並列に備えた混練室36へ投入する。この投入された坏土は、2本のパッグスクリュー32を異方向に回転させることでパッグスクリュー32のフィンにより剪断力を加えられて混練されながら成形室37の方向へ送られる。そして混練室36から流路38を通って成形室37へ送られた坏土は、オーガスクリュー31の回転によりオーガスクリュー31と成形機外装34の内面35との隙間を通ってバレル40へ向かって押し出され、金型42を通過することにより、特定形状の断面が連続した成形体が得られる。なお、坏土内の気泡は、押出成形機30内を不図示の真空ポンプで真空引きすることにより除去される。
この押出成形機30によれば、特に長尺の柱状体や筒状体の成形については連続して良好な成形が可能であるが、実際には、坏土との磨擦により押出成形機30のオーガスクリュー31表面の磨耗が生じるために、押出成形機30の定期的なメンテナンスが必要となるばかりか、Fe,Cr成分等を主成分とした金属磨耗粉が坏土に混入し、この金属磨耗粉を含んだ坏土を用いて押出成形法にて成形し焼成したセラミック焼結体は、表面にシミや斑点等が生じたり、機械的特性や電気的特性が劣ったりするという問題があった。
この問題に対し、特許文献1には、金属磨耗粉を含む坏土をオーガスクリューの送り出し方向と逆方向に、もしくはオーガスクリューの送り出し方向に機外排出する手段を備えたスクリュー式の押出成形機が開示されている。このスクリュー式の押出成形機によれば、オーガスクリューと坏土との磨耗によって発生する金属磨耗粉がオーガスクリューの先端部中心軸付近に集まるので、これをオーガスクリューの中空内面を通して機外へ排出するか、またはオーガスクリューの送り出し方向に流量調節可能な導路(坏土排出管)を設けて機外へ排出することが開示されている。これによれば、金属磨耗粉を取り除いた坏土で成形できるので、物理化学的に均質な製品が得られるというものである。また、坏土排出管に導流フィンを設けることが開示され、これによれば、坏土排出管によって坏土の流路の一部が阻害されて生ずる偏流を防止できるというものである。
また、特許文献2には、被成形材(坏土)をスクリュー式の押出成形機に設けられた成形孔を有する金型から押出して所定の形状に成形する成形用金型において、スクリューの中心部に対応する金型部分に被成形材(坏土)を排出する排出孔を設けた押出成形用金型が開示されている。これによれば、スクリューの中心部に集まった金属磨耗粉を含む坏土をスクリューの中心部に対応する金型部分に設けた排出孔から排出することができるというものである。
特開昭64−20117号公報
実開平2−144404号公報
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
図1は、本発明の坏土改良用治具を用いたスクリュー式の押出成形機の実施の形態の一例を示す概略断面図である。
このスクリュー式の押出成形機1は、一部に坏土の投入口4を開口した成形機外装5の内部上段に2本のパッグスクリュー3(図1においては紙面に垂直な方向に2本が重なっている。)を備えた混練室7と、オーガスクリュー2を備えた成型室8とを有し、混練室7と成型室8とは流路9で連通している。そして、成形機外装5の出口側の端部に、バレル12,本発明の坏土改良用治具20,金型13が順に接続された構成としてある。
また、パッグスクリュー3は、一方を流路9側に設けた軸受け10に、他方を不図示の動力源に接続することにより支持されており、オーガスクリュー2は、動力源11に片側支持で接続固定されている。さらに、押出成形機1内を真空引きするための真空ポンプ(不図示)も備えている。
次に、図1の押出成形機1を用いた成形手順を説明する。まず、セラミック材料とバインダと水とを攪拌混合機にて混合し、さらにニーダー等の混練機で混練して成形用の坏土を作製する。そして、作製した坏土を押出成形機1の投入口4から2本のパッグスクリュー3を並列に備えた混練室7へ投入する。この投入された坏土は、2本のパッグスクリュー3を異方向に回転させることでパッグスクリュー3のフィンにより剪断力を加えられて混練されながら成形室8の方向へ送られる。そして混練室7から流路9を通って成形室8へ送られた坏土は、オーガスクリュー2の回転によりオーガスクリュー2と成形機外装5の内面6との隙間を通ってバレル12へ向かって押し出され、金属磨耗粉を含んだ坏土を坏土改良用治具20により排出して、その余の坏土が金型13を通過することにより、特定形状の断面が連続した成形体が得られる。なお、坏土内の気泡は、押出成形機1内を不図示の真空ポンプで真空引きすることにより除去される。
図2は、本発明の坏土改良用治具の実施の形態の一例を示す、(a)は金属磨耗粉を含んだ坏土の排出路を2本,(b)は4本,(c)は6本設置した坏土改良用治具をオーガスクリュー側から見た正面図および側面図である。
本発明の坏土改良用治具20は、スクリュー式の押出成形機1においてバレル12と金型13との間に配置されるものであって、坏土が金型へ向けて通過していく坏土の流出路22と、流出路22の中央に配置された中央坏土の流入口21と、流入口21から流出路22の外側に向けて均等に配置された複数の排出路23とを備えて構成されていることが重要である。また、流入口21を有する複数の排出路23は支持部25により支持されており、排出路23の端部には金属磨耗粉を含んだ坏土を機外へ排出するための排出口24も備えている。なお、金属磨耗粉を含む坏土が流入口21から入って排出口24まで排出される路の数を排出路23の本数としており、図2(a)の例では2本を、(b)の例では4本を、(c)の例では6本を流入口21から流出路22の外側に向かって均等配置している。
従来の金属磨耗粉を含む坏土の排出路(坏土排出管)については、流入口から流出路の外側に向けて1本の排出路が配置されていたが、本発明では、この排出路23を複数とし、さらに均等に配置したことに特徴を有している。
このような構造とする理由は、坏土が坏土改良用治具20を通過する際に坏土に均等に剪断力を付与し、通過するときの坏土の速度を均一にするためである。従来の排出路は、流入口から外側に向かって1本の排出路を設置した構成であるために、坏土に対して均等に剪断力が付与されなかった。また、坏土が排出路を通過するときには、この排出路の存在が抵抗となり坏土の流速が遅くなり、排出路の近傍を通過した坏土と排出路の近傍を通過しない坏土とに速度差が生じていた。このように均等に剪断力が付与されず速度差の生じた坏土では、密度にバラツキがあり成形体が変形するという問題が生じていた。これに対し、本発明の坏土改良用治具20を用いれば、このような金型13へ供給される坏土の密度のバラツキを少なくし、金型13から押出される成形体に変形を生じることのない、良好な成形体を得ることが可能となる。
また、流入口21から流出路22の外側の排出口24に向けて複数の排出路23を備え、流出路22の外側に向かって複数の排出路23を均等に配置した構造としたものであって、排出路23の近傍を通過する坏土に均等に剪断力を加えられれば、排出路23は何本でもよい。しかし、排出路23の本数を増加させた場合は、坏土が排出路23の近傍を通過する速度が全体的に遅くなり、金型13へ供給する坏土を押し出す速度が低下する傾向があるため、坏土に均等に剪断力を付与し、金型13へ供給する坏土を押し出す速度を維持するには、排出路23を2〜6本とするのがよい。
図3は、本発明の坏土改良用治具の実施の形態の一例を示す、(a)はオーガスクリュー側から見た正面図、(b)は(a)に示す点線部の拡大図、(c)は(b)に示すA−A’線での断面図であり、(d)は坏土改良用治具の実施の形態の他の例を示すオーガスクリュー側から見た正面図、(e)は(d)に示す点線部の拡大図、(f)は(e)に示すB−B’線での断面図である。
これらの坏土改良用治具20は、坏土の流出路22と、流出路22の中央に配置された中央坏土の流入口21と、流入口21から流出路22の外側に向けて均等に配置された2つの排出路23とを備えており、排出路23の形状を図3(a)〜(c)に示す例では(c)の断面図に示すように曲面形状(この例では楕円形状)とし、図3(d)〜(f)に示す例では(f)の断面図に示すようにテーパ形状としてある。このように、排出路23は坏土の通過に際し抵抗を上昇させないような形状とするのが好ましい。
また、本発明の坏土改良用治具20の流入口21は、図1のスクリュー式の押出成形機1のオーガスクリュー2の軸心と対向するように配置されるのが好ましく、オーガスクリュー2の軸心と一致することがより好ましい。これは、金属磨耗粉がオーガスクリュー2と坏土中のセラミック粒子との磨耗によって生じ、この磨耗によって生じた金属磨耗粉は、オーガスクリュー2の表面と接触する坏土に付着したままバレル12内に送られ、金属磨耗粉を含んだ坏土はオーガスクリュー2の軸心に当たる中央部に集中して存在しており、本発明の坏土改良用治具20の流入口21をオーガスクリュー2の軸心と一致させるようにバレル12と金型13との間に配置すれば、金属磨耗粉を多く含んだ坏土を除去することができるからである。すなわち、そのように配置することにより、金属磨耗粉の混入の少ない良質な坏土に改良し、流出路22より金型13へ改良された坏土を送ることが可能となる。流入口21の口径としては、図1に示すオーガスクリュー2の外径にもよるが、10〜50mmの範囲内とすれば、押し出される坏土の中心部に集まる金属磨耗粉を含む坏土を好適に除去することが可能である。
また、排出口24については、流入口21から流出路22の外側に向けて配置された複数の排出路23を支持する支持部25の外側の側面に設置するのがより好適である。これにより、各排出路23内を通過した金属磨耗粉を含む坏土は、支持部25の外側の側面にある排出口24から流出路22外へ排出されるため、従来のように成形体と同方向に金属磨耗粉を含む坏土が排出される場合と比較して、成形体を取り出し易く、成形作業の妨げとならないために好ましい。
さらに、支持部25の形状は、図1に示すような押出成形機のバレル12および金型13の形状に合わせて両者間に固定することが可能であれば、どのような形状にも変更可能である。
また、本発明の坏土改良用治具20を構成する材質については、金属,セラミックスが適用可能である。特に、使用する坏土に含有されるセラミックスに合わせ、セラミック製とするのがよい。さらに、押出成形に用いられるセラミック材料としては、最も一般的なアルミナが多いため、アルミナ坏土の押出成形を実施する場合には、アルミニウム合金の一種であるジュラルミン製とするのがよい。これは、ジュラルミンの主成分がアルミニウムであり、アルミナ坏土中にジュラルミンの磨耗粉が混入しても、焼成時にアルミナと反応して、機械的特性や外観を悪化させる反応生成物を生成することがないためである。
以上のような特徴を有する本発明の坏土改良用治具20を、図1に示すようなスクリュー式の押出成形機1に適用すれば、従来と同様に、坏土中の金属磨耗粉を除去した成形体を成形でき、かつ坏土に均等な剪断力が付与され、坏土の流速を均等にすることができることから、密度差やセラミック粒子の配向性の差のない成形体を製造することができる。そして、このような成形体であれば、乾燥、焼成における収縮率差により発生する内部応力の発生がなく、焼結体としても、金属磨耗粉と坏土中のセラミック粒子との反応生成物による機械的特性の劣化のない優れたセラミック製品を製造可能となる。
ここで、図1に示す押出成形機1へ図2に示す坏土改良用治具20を設置する場合には、スクリュー外径をD、オーガスクリュー2の先端部から流入口21までの距離をLとしたとき、L=1/2D〜10Dで表される範囲内に設置するのがよい。これは、発生した金属磨耗粉を含む坏土をオーガスクリュー2の軸心とほぼ一致するバレル12の中央部に安定して存在させるまでには距離を要するためである。このLの値が1/2Dより短い場合には、金属磨耗粉を含んだ坏土がバレル12の中央部に安定して集まりきれておらず、十分に除去することができない傾向がある。また、Lの値が10Dを超えると、オーガスクリュー2から金型13までの距離が長すぎ、坏土とバレル12内面との磨耗抵抗によりバレル12内の坏土流速が低下し、その結果、金型13への供給速度や供給密度の低下を招き、成形体の密度低下が起こる傾向があるために好ましくない。より好適には、Lの値は1D〜5Dの範囲とするのがよい。
次に、図2に示す本発明の坏土改良用治具20を設置した本発明のスクリュー式の押出成形機1による押出成形方法について詳細を説明する。
まず、押出成形に用いる坏土を作製する。坏土作製に用いるセラミック材料としては、一般的なセラミック材料であるアルミナ,ジルコニア,窒化珪素,炭化珪素のいずれも適用可能であり、これらの複合材料や、各種サーメット材料等が適用可能である。ここでは、最も一般的なアルミナ材料を用いた押出成形方法について説明する。
押出成形に用いるアルミナ材料としては、純度が90%以上,平均粒径が1〜10μmの1次原料を用いる。純度が90%未満の場合には、機械的強度の低下や外観の不具合を招くおそれがあるために好ましくない。また、平均粒径が1μm未満では、成形後に成形装置の細部までアルミナ材料が入り込み、除去できなくなるために好ましくない。一方、10μmを超えると、大きなセラミックスの硬質粒子が含まれた坏土となり、このような坏土を押出成形しようとすると、オーガスクリュー2と坏土との磨耗で坏土中に多量の金属磨耗粉が混入されるために好ましくない。また、アルミナ材料に添加する焼結助剤としては、一般的なアルミナの焼結助剤であるSiO2,CaO,MgOを、アルミナ材料に対して0.5〜5質量%添加すればよい。
さらに、坏土作製に用いるバインダとしては、押出成形に用いられるアクリル樹脂系等の一般的なバインダが使用可能であり、それらを複数組み合わせて使用することもできる。その添加量としては、アルミナ1次原料100質量%に対し、15〜30質量%程度添加すればよい。バインダ量が15質量%未満では、坏土を適正粘度に保持することが困難となって、保形性の悪い成形体しか製造することができない傾向がある。一方、添加量が30質量%を超えると、脱脂や焼成時にバインダが焼失する際の収縮率が大きくなり、焼結体に変形や破損を生じやすくなるために好ましくない。
また、坏土に添加する溶媒としては、室温から80℃までの温度域で、坏土中に安定して存在するものであれば使用可能である。特に本発明においては、イオン交換水等の不純物を含まない水がよく、成形中の蒸発量も考慮して押出成形により得られたアルミナ成形体の粘度が成形前の坏土の粘度と変化の少なくできる溶媒の添加量は、アルミナ1次原料100質量%に対し、10〜20質量%の割合とするのがよい。10質量%未満の添加量では、押出成形坏土に粘性を持たせることが困難となって、保形性の悪い成形体しか製造できなくなる傾向がある。また、20質量%を超える添加量では、乾燥時の収縮率が高くなるため、成形体に変形が生じやすくなるために好ましくない。
そして、このような焼結助剤とバインダと溶媒とを所定の範囲で適正量に調整してアルミナ材料へ添加し、これを一般的な攪拌混合機にて所定時間攪拌・混合し、さらにこれをニーダー混練機により所定時間混練して坏土とする。混練後の坏土は、その粘度を5MPaの面圧力で金型13より押出された際に、1×104〜1×106Pa・sの粘度範囲となるように調整するのがよい。
次に、混練した坏土を押出成形機1の投入口4から2本のパッグスクリュー3を並列に備えた混練室7へ投入する。この投入された坏土は、2本のパッグスクリュー3を異方向に回転させることでパッグスクリュー3のフィンにより剪断力を加えられ混練されながら成形室8の方向へ送られる。そして混練室7から流路9を通って成形室8へ送られた坏土は、オーガスクリュー2の回転によりオーガスクリュー2と成形機外装5の内面6との隙間を通ってバレル12へ向かって押し出され、金属磨耗粉を含んだ坏土を坏土改良用治具20により排出し、金型13を通過させることにより、特定形状の断面が連続した成形体が得られる。なお、坏土内の気泡は、押出成形機1内を不図示の真空ポンプで真空引きすることにより除去する。
ここで、押出成形圧力としては、2〜5MPaとするのがよい。2MPa未満では、成形圧力が低すぎ、金型13から成形体を押し出すことができなくなる。一方、5MPaを超えると、成形圧力が高すぎ、成形体の緻密化は促進されるものの、押出成形機1の動力源11に与える負荷が大きく、成形機1の寿命が極めて短くなるために好ましくない。また、成形速度については、100〜300mm/分の速度で金型13から成形体が押し出されるようにするのがよい。100mm/分未満の成形速度では、成形速度が遅く、成形体の生産効率が悪い。また、300mm/分を超えると押出成形機1の動力源11へ与える負荷が大きく、押出成形機1の寿命が著しく短くなるため好ましくない。さらに、押出成形機1内での坏土の温度は10〜40℃とするのが好ましい。10℃未満とするには、高性能の冷却装置を用いる必要があり、このような高性能の冷却装置を取り付けるとなると製造コストが高くなる。また他の方法としては、成形速度を極端に遅くして、押出成形機1と坏土との磨耗熱を発生しないようにする方法があるが、生産効率が低下するために好ましくない。また、40℃を超えると、坏土中の溶媒が蒸発し、坏土の粘度が低下し、成形体の保形性が著しく悪化するため好ましくない。
なお、坏土の混練中は磨耗熱により坏土中の溶媒が蒸発して粘度低下が起こり、成形後の成形体の保形性が著しく悪くなるため、押出成形機1中や金型13中に冷却管(不図示)を配置した構造とし、冷却用の液体を循環させ、溶媒成分の蒸発を防止することが好ましい。
次に、成形後の成形体を乾燥する。乾燥は、成形体形状にもよるが、長尺である場合には、収縮による変形を防止するために長時間かけて自然乾燥するのがよいが、製造効率を考慮すると、高周波乾燥や熱風乾燥等の乾燥手段を用いるとよい。乾燥温度としては、例えば成形体中の残留溶媒量が成形体の全重量の5〜10質量%未満となるまでは50℃以下の低温で乾燥し、その後、100℃前後の高温で乾燥する等の乾燥方法を用いることができる。成形体が変形しないように均一乾燥するのは非常に難しく、成形体中の溶媒量をモニタリングしながら、成形体の変形が極力抑えられる範囲で乾燥温度パターンを工夫するのがよい。
次に、成形体を乾燥後、焼成を実施する。焼成は、一般的なアルミナの焼成パターンで焼成することも可能であるが、好ましくは、バインダ添加量がプレス成形法等の他の製造方法に比べて多いため、バインダの焼失温度域で一定の保持時間を設けて脱脂するのがよい。具体的には、200〜600℃の間で10時間以内の保持時間を設定し、その後、1500〜1700℃の温度で1〜5時間の保持時間を設けるのがよい。
なお、乾燥,焼成時の成形体や焼結体の変形の問題に関しては、あらかじめ成形体を所定形状のサヤ上に載置して実施することで抑制することも可能である。例えば、長尺の円筒体を製造する場合には、断面がV字形状のサヤ上に円筒体を載置して乾燥,焼成を実施すれば、円筒体はその長さ方向で、サヤのV字形状の部分に支持され、成形体の自重が作用して、乾燥,焼成の際の収縮変形が抑制される。
このようにして、本発明の坏土改良用治具20が配置された図1に示す本発明のスクリュー式の押出成形機1により押出成形され製造されたアルミナ焼結体は、変形が少なく、従来のプレス成形法や静水圧プレス成形法により製造されたアルミナ焼結体と同等の機械的特性を有しており、また押出成形機1のオーガスクリュー2と坏土の磨耗により生じた金属磨耗粉の混入の少ない良好なアルミナ焼結体からなる製品を得ることが可能である。
以下、本発明の実施例を示す。
(実施例1)
図2(a)に示す本発明の坏土改良用治具20を設置した図1に示す本発明のスクリュー式の押出成形機1を用いてセラミック材料の押出成形を実施し、成形体を乾燥,焼成した後、スクリューからの金属磨耗粉の混入の有無を製品の外観検査により確認する試験を行なった。
まず、押出成形用の坏土を作製した。用いるセラミック材料としては、純度が95%,平均粒径が1μmの市販のアルミナ1次原料を購入してこれを用いた。そして、これにアルミナ1次原料100質量%に対し3質量%の焼結助剤と、アルミナ1次原料100質量%に対し15質量%のバインダと、溶媒としてアルミナ1次原料100質量%に対し15質量%のイオン交換水とをそれぞれ添加し、市販の混合攪拌機にて混合した。しかる後、さらにこれをニーダー攪拌機により混練し、押出成形用の坏土とした。
次に、この押出成形用の坏土を図1に示すスクリュー式の押出成形機1の投入口4から投入して押出成形を行なった。押出成形機1の金型13とバレル12との間には、図2(a)に示す本発明のジュラルミン製の坏土改良用治具20を配置して成形を実施した。
なお、押出成形機1の冷却管(不図示)には予め10℃以下の冷却水を冷却装置により循環させておき、さらに真空ポンプ(不図示)を作動させて押出成形機1内を真空雰囲気として、成形を開始した。ここで、オーガスクリュー2の直径は250mmとし、オーガスクリュー2から流入口21までの距離はオーガスクリュー2の直径の2倍である500mmとした。
さらに、成形に用いる金型13としては、製品の断面形状が、縦横が375mm,それぞれの肉厚が25mmの正方形状で中空となるものを用いており、製品長さは3200mmとなるようにし、金型13より3200mm押出されたところで金型13の表面に沿って切断機により切断して中空の角筒のアルミナ成形体を得た。
そして、この成形体を断面がV形状の乾燥治具上で24時間自然乾燥した後、さらにこれを熱風乾燥機内において50℃で3時間,100℃で2時間の乾燥パターンにより乾燥した。しかる後、バインダを焼失させるために脱脂を行ない、1650℃の最高温度で2時間焼成し、縦横が300mm,それぞれの肉厚が20mm,長さが2.5mの長尺で中空の角筒のアルミナ焼結体を得た。
そして、焼成後に焼結体表面の外観検査を実施した。検査方法としては、オーガスクリュー2の表面にはFe成分を含むクロムメッキ加工が施してあり、金属磨耗粉の主成分がFe,Crであるため、アルミナと反応すると生成物は赤色となるという現象を利用して、アルミナ焼結体表面の赤い斑点の有無により金属磨耗粉による反応生成物の有無の確認を行なった。また、反応生成物は焼結体の表面だけでなく、内部にも存在するため、焼結体を10分割し、その断面についても確認した。さらに、機械的強度を確認するために、JIS R 1601−1995に基づき、3点曲げ強度試験を実施した。
また、長さ方向の変形量について、焼成後のアルミナ焼結体を定盤上に載置し、アルミナ焼結体の側面と定盤表面との隙間(間隔)を4面測定し、最大値を長さ方向の変形量とした。
なお、比較例として、本発明の坏土改良用治具20を取り外して成形を実施し、同形状のアルミナ成形体を焼成して、同様の評価方法を用いて評価を行なった。
その結果、本発明の坏土改良用治具20を設置せずに成形を実施して製造されたアルミナ焼結体には、その表面,断面ともに10箇所以上の赤い斑点が存在することが確認された。また、3点曲げ強度は300MPaで、長さ方向の変形量は12mmであった。
これと比較して、本発明の坏土改良用治具20が設置された図1に示す押出成形機1により成形されたアルミナ焼結体には、その表面,断面ともに、赤い斑点が見られず、また、3点曲げ強度も370MPaの高い値が得られ、さらに長さ方向の変形量も1mmと低い値であった。これにより、押出成形機1のオーガスクリュー2からの金属磨耗粉の混入の少ない良好なアルミナ焼結体からなる製品を製造可能であることが確認された。
(実施例2)
次に、図2(a)に示す本発明の坏土改良用治具20と、それに対して排出路23を片側1つだけにした治具とを作製して、これを図1に示す押出成形機1に設置して、実施例1と同形状のアルミナ焼結体を同様の製造方法にて製造した。
そして、製造後に排出路23を均等に配置した効果を確認するために、実施例1と同様の方法にて、長さ方向の変形量の測定を実施した。
その結果、排出路23を1本にした治具にて製造したアルミナ焼結体は、長さ方向に10mm以上の変形が生じた。
これと比較して、本発明の図2(a)に示す坏土改良用治具20を備えた本発明のスクリュー式の押出成形機1を用いて製造したアルミナ焼結体は、長さ方向の変形量が1mm以下であり、変形のない良好なアルミナ焼結体が得られることが確認できた。