本発明は、セラミック製品の成形に用いられるスクリュー式の押出成形機に関する。
従来から、棒状や筒状のように断面が同形状の成形体を得るための成形方法として、押出成形法が用いられている。この押出成形法の中でも2mを超える長尺成形体の成形には、スクリュー式の押出成形機が一般的に用いられており、粘土状に調製された成形原料である坏土を特定の出口形状を有する金型から押し出すことによって、特定の断面形状を有する成形体を連続的に成形することができるので、棒状や筒状の長尺成形体を得ることができる。
図6は、従来のスクリュー式の押出成形機の一例を示す概略断面図である。
図6に示すスクリュー式の押出成形機31は、上段バレル部33内に並列に2本設置されたシャフト34aおよび羽根34bからなる上段スクリュー34(図6においては紙面に垂直な方向に2本が重なっている。)と、複数の孔が開孔している坏土分割治具35と、下段バレル部37内に設置されたシャフト38aおよび羽根38bからなる下段スクリュー38とを有している。なお、上段スクリュー34は上段軸受け40に両側で接続固定され、下段スクリュー38は下段軸受け41に片側支持で接続固定され、上段スクリュー34および下段スクリュー38は図示しない動力源に接続されている。また、上段スクリュー34と下段スクリュー38との間には真空室36を備え、押出成形機31の内部を真空引きするための図示しない真空ポンプが接続されている。さらに、上段バレル部33の一部に坏土の投入口32を開口してあり、下段バレル部37の出口側に金型39が接続された構成とされている。
次に、この押出成形機31を用いた筒状の長尺成形体の成形手順を説明する。
まず、セラミックスの粉体とバインダと水とを混合し、混練して粘土状の坏土とする。そして、この坏土を押出成形機31の投入口32より投入し、上段バレル部33内に並列に2本設置された上段スクリュー34同士の間に坏土を巻き込むように2本の上段スクリュー34を互いに逆回転させることによって、投入した坏土が羽根34bと上段バレル部33の内壁との間隙を通り、複数の孔が開孔している坏土分割治具35によって坏土が分割された形で真空室36へと押し出される。真空室36へと押し出された坏土は、真空室36に接続された真空ポンプによって減圧されて坏土の内部の気泡を排出する。その後、坏土は下段スクリュー38の回転により、羽根38bと下段バレル部37の内壁との間隙を通って金型39の方向へと押し進められ、この坏土が金型39を通過することにより特定の断面形状を有する筒状の長尺成形体が得られる。そして、筒状の長尺成形体を乾燥して焼成することにより長尺のセラミック製品が得られる。
そして、このようなスクリュー式の押出成形機31においては、成形体,その後の乾燥体や焼結体に歪み等の欠陥を生じさせないためには、十分に混練された均質な坏土を用いる必要があることから、スクリューの形状について様々な検討がなされている。
例えば、特許文献1では、駆動軸と、前記駆動軸に形成された螺旋状のフライトを有する押出機用スクリューであって、前記駆動軸の前端側に、複数の羽根部を前記駆動軸の軸方向に対し傾けて配設してなるプロペラ状撹拌羽根を備えた押出機用スクリューおよびこれを用いたスクリュー式押出機が提案されている。また、実施の形態を示す図において、駆動軸を中心として連続する螺旋状のフライトと、螺旋状のフライトの後端側に断続的な複数の扇形のフライトとが配置された押出機用スクリューが記載されている。このような押出機用スクリューを用いたスクリュー式押出機によれば、得られる圧縮物(坏土)の各部分における特性が不均一となり、その分布にバラツキを生じてしまったり、あるいは、得られる圧縮物の内部に不連続なスクリュー痕が形成されてしまったりするといった事態を有効に防止することができるというものである。
また、特許文献2では、粘土を押出成型する土練機(押出成形機)において、粘土を送出するスクリューを送出スクリュー部材と先端スクリュー部材に分割自在とし、送出スクリュー部材は1枚の螺旋羽根を連続形成し、一方先端スクリュー部材は2枚の螺旋羽根を有すると共に、一方の螺旋羽根に対し他方の螺旋羽根を対称位置に設け、又先端スクリュー部材を洞貫する断面多角形状の取付シャフトを送出スクリュー部材の先端部に一体形成し、一方取付シャフトに対応する取付孔を先端スクリュー部材に設けた土練機が提案されている。この土練機によれば、粘土の性状および量、押出出力によって変わるスクリュー先端部から押し出される粘土量の不均一性に対応して先端スクリュー部材の取付角度を変えれば、スクリューより送られる粘土を先端スクリュー部材によって分けたり、合流させたりする量を変えたりすることができる。また、条件に適合するように先端スクリュー部材を位置決めすれば、スクリュー先端部からの押出量の均一化を図ることができ、押し出された粘土の不均質による成型品の歪みの発生を防止できるというものである。
特開2006−224563号公報
特開平7−9423号公報
しかしながら、特許文献1に記載の押出機用スクリューおよびこれを用いたスクリュー式押出機は、得られる圧縮物(坏土)の各部分における特性が不均一となり、その分布にバラツキを生じてしまったり、あるいは、得られる圧縮物の内部に不連続なスクリュー痕が形成されてしまったりするといった事態を有効に防止することができるものの、セラミックスの粉体とバインダと水とを混合し混練した粘土状の坏土との摩擦により螺旋状のフライトや羽根部は磨耗しやすく、これらが磨耗したときには、螺旋状のフライトや羽根部を含む駆動軸全体を交換しなければならないため、メンテナンスコストが非常に高くなるという問題があった。
また、特許文献2に記載の土練機は、スクリュー先端部からの押出量の均一化を図ることができ、押し出された粘土の不均質による成型品の歪みの発生を防止できるものの、坏土に十分なせん断力が付与されず坏土の表面が乾燥し硬くなりやすいために、高い押出圧力が必要となるなど成形しにくくなるおそれがあった。なお、部分的な螺旋羽根の磨耗には分割自在であることから部分的な交換に対応できるので、特許文献1の土練機よりもメンテナンスコストについては優れているものの、交換場所によっては、全ての送出スクリューを外して交換しなければならず、交換に時間がかかるという問題があった。
また、坏土との摩擦によって螺旋羽根が磨耗すると、坏土内に磨耗粉が混入し、焼成後の製品に異なる色調として現れ、製品の外観を著しく損ねるばかりか、機械的特性が低下するという問題があった。
本発明は、上記課題を解決すべく案出されたものであり、坏土に十分なせん断力を付与できるとともに、坏土と羽根との磨耗によって混入する磨耗粉による不具合を抑制し、磨耗した羽根の部分的な交換が可能なセラミック製品の成形に用いられるスクリュー式の押出成形機を提供することを目的とする。
本発明の押出成形機は、坏土の押出部にスクリューを用いた押出成形機であって、前記スクリューはシャフトの外周にセラミックス製の複数の羽根が押出側の面を斜めにして着脱可能に取り付けられており、前記羽根同士が間隙を有して配置されていることを特徴とするとするものである。
また、本発明の押出成形機は、上記構成において、複数の前記羽根が前記シャフトの軸方向から見たときに周方向に等間隔に取り付けられていることを特徴とするものである。
また、本発明の押出成形機は、上記構成において、複数の前記羽根が前記シャフトの軸方向に螺旋状の配置で取り付けられていることを特徴とするものである。
また、本発明の押出成形機は、上記構成において、複数の前記羽根の押出側の面が、互いに連ねてみたときに連続的な螺旋の面からずれていることを特徴とするものである。
また、本発明の押出成形機は、上記構成において、軸方向から見たときに前記羽根の幅が羽根同士の間隔よりも大きいことを特徴とするものである。
また、本発明の押出成形機は、上記構成において、前記羽根が前記坏土の主成分と同じ材質からなることを特徴とするものである。
本発明の押出成形機によれば、坏土の押出部にスクリューを用いた押出成形機であって、スクリューはシャフトの外周にセラミックス製の複数の羽根が押出側の面を斜めにして着脱可能に取り付けられており、前記羽根同士が間隙を有して配置されていることによって、従来の押出成形機の連続した螺旋羽根と比較して、羽根同士が間隙を有して配置されているため、スクリューが回転したときに、この羽根同士の間隙に坏土が入り込んでせん断され、高いせん断力を付与することができる。また、押出側の面を斜めにして取り付けられていることにより、坏土にせん断力を付与しながらスクリューの回転によって坏土を押出方向に押し進めることができる。さらに、複数の羽根がセラミックス製であることにより、耐磨耗性に優れているので、坏土との磨耗による磨耗粉の生じる量が少なくすることができる。また、坏土との摩擦により羽根が磨耗したとしても、着脱可能としてあるため磨耗の激しい羽根のみを交換すればよく、従来の押出成形機と比較して大幅にメンテナンスコストを抑えることができる。
また、本発明の押出成形機によれば、複数の羽根がシャフトに軸方向から見たときに周方向に等間隔に取り付けられているときには、坏土に均等にせん断力を付与しつつ一定量の坏土を押し出すことが可能となり、より均質な成形体を製造することが可能となる。
また、本発明の押出成形機によれば、複数の羽根がシャフトの軸方向に螺旋状の配置で取り付けられているときには、坏土を良好に押し進めて安定した量の坏土を金型へ供給することができるので、成形条件の設定が容易であるとともに密度ばらつきの少ない良好な成形体を得ることができる。
また、本発明の押出成形機によれば、複数の羽根の押出側の面が、互いに連ねてみたときに連続的な螺旋の面からずれているときには、複数の羽根同士の軸方向や周方向に間隙を有することとなるので、坏土がこれらの間隙に入り込みやすくなり、シャフトを回転させることによって、坏土により大きなせん断力を付与することができる。
また、本発明の押出成形機によれば、軸方向から見たときに羽根の幅が羽根同士の間隔よりも大きいときには、羽根同士の間隙に入り込んだ坏土をせん断することにより大きなせん断力を付与しつつ、坏土を押出側の面で押出方向へ押し進めることができる。
また、本発明の押出成形機によれば、羽根が坏土の主成分と同じ材質からなるときには、羽根が坏土との摩擦により磨耗してその磨耗粉が坏土に混入したとしても、磨耗粉が坏土と同材質であるために、成形後の焼成工程で熱処理を施したときに、磨耗粉が起因する発色がないので製品の外観を損ねたり、機械的性質が低下したりするなどの不具合が生じることはない。
以下、本発明の押出成形機の実施の形態の例について説明する。
図1は、本発明のスクリュー式の押出成形機の実施の形態の一例を示す概略断面図である。
図1に示す例のスクリュー式の押出成形機1は、上段バレル部3内に並列に2本設置されたシャフト4aおよび羽根4bからなる上段スクリュー4(図1においては紙面に垂直な方向に2本が重なっている。)と、複数の孔が開孔している坏土分割治具5と、下段バレル部7内に設置されたシャフト8aおよび羽根8bからなる下段スクリュー8とを有している。なお、上段スクリュー4は上段軸受け10に両側で接続固定され、下段スクリュー8は下段軸受け11に片側支持で接続固定され、上段スクリュー4および下段スクリュー8は図示しない動力源に接続されている。また、上段スクリュー4と下段スクリュー8との間には真空室6を備え、押出成形機1の内部を真空引きするための図示しない真空ポンプが接続されている。さらに、上段バレル部3の一部に坏土の投入口2を開口してあり、下段バレル部7の出口側に金型9が接続した構成としてある。
このとき、本発明の押出成形機は、坏土の押出部にスクリューを用いた押出成形機であって、スクリューはシャフトの外周にセラミックス製の複数の羽根が押出側の面を斜めにして着脱可能に取り付けられており、前記羽根同士が間隙を有して配置されていることが重要である。
図2は、本発明の押出成形機における上段スクリューの構成の実施の形態の一例を示す概略図である。
図2に示す例の上段スクリュー4は、シャフト4aの外周にセラミックス製の複数の羽根4bが押出側の面を斜めにして着脱可能に取り付けられている。このような構成であることにより、従来の押出成形機の連続した螺旋羽根と比較して、羽根4b同士に間隙があるので、上段スクリュー4が回転したときに、この羽根4b同士の間隙に坏土が入り込んでせん断されるので、高いせん断力を付与することができる。このように、高いせん断力を付与された坏土は、十分に混練されているので押出成形機1内で坏土の表面が乾きにくく、坏土の硬さばらつきの少ない均質な坏土とすることができる。
また、複数の羽根4bがシャフト4aの軸に対し、押出側の面を斜めにして取り付けられていることにより、垂直に取り付けられたときと比較して、坏土にせん断力を付与しながら上段スクリュー4の回転によって坏土を押出方向に押し進めることができる。なお、羽根4bは、シャフト4aの外周に設けられた羽根受け部4cに嵌め込み、ボルト等で締結することにより押出側を斜めにして取り付けられるものであり、シャフト4aの軸に対し直角に交わる線を基準(0°)としたとき、坏土を押出方向に押し進めて良好な成形速度を維持するには3°〜45°斜めとなる羽根4bを設置するのが良い。
さらに、複数の羽根4bがセラミックス製であることにより、耐磨耗性に優れているので坏土との磨耗による磨耗粉の生じる量が少なくすることができる。また、羽根4bが着脱可能に取り付けられていることから、坏土との摩擦によって羽根4bが磨耗したとしても、従来のようにシャフト4aおよび羽根4bが一体で形成されているスクリューと比較して、羽根4bを着脱可能としてあるため磨耗した羽根4bのみを交換すればよいので、メンテナンスコストを抑えることができる。また、羽根4bを短時間で交換することができるので、従来よりも生産効率を高めることができる。
なお、下段スクリュー8についても同様の構成とすれば、同様の効果を得ることができることはいうまでもない。いずれか一方であれば、上段スクリュー4が上記構成であることが好ましく、上段スクリュー4,下段スクリュー8がともに上記構成であることがより好ましい。
図3は、本発明の押出成形機における羽根の実施の形態の一例を示す、(a)は平面図であり、(b)は正面図である。
図3に示す例の羽根4bは、羽根部21と台座22とねじ孔23とからなり、羽根部21は、シャフト4aに取り付けられたときに斜めになる押出側の面24を有している。このように、シャフトの回転方向の羽根部21の厚みを薄くすれば、坏土に羽根部21が食い込みやすく、摩擦による磨耗粉の混入を少なくすることができる。また、扇状のように角部が少ないことによっても、摩擦による磨耗粉の混入を少なくすることができる。そして、図2に示すように、シャフト4aに形成された羽根受け部4cに台座22を嵌め込み、ねじ孔23にボルトを挿入して締結することにより羽根4bを取り付けることができる。
また、本発明の押出成形機は、複数の羽根がシャフトの軸方向から見たときに周方向に等間隔に取り付けられていることが好ましい。
図4は、本発明の押出成形機における上段スクリューの構成を示す、(a)は概略正面図であり、(b)は(a)のE−E’線での断面図である。
図4(a)は、シャフト4aおよび複数の羽根4b(A,B,C,D)からなる上段スクリュー4の概略断面図であり、図4(b)はシャフト4aの軸方向から見た(a)のE−E’線での断面図である。このように、各羽根4bのA,B,C,Dの中心線をそれぞれA1,B1,C1,D1としたとき、双方向矢印で示すA1〜B1,B1〜C1,C1〜D1,D1〜A1の周方向の間隔が等しいことが好ましい。これにより、坏土に均等にせん断力を付与しつつ一定量の坏土を押し出すことが可能となり、より均質な成形体を製造することが可能となる。
なお、羽根4bの取付け間隔としては、中心線A1と中心線B1とをシャフト4aの中心に向かって延長したときに交わる角度(この図4(b)に示す例においては90°。)を30°〜180°の範囲内で設定し、周方向に設定した角度でずらしながら等間隔に取り付けるとよい。30°未満では、羽根4bの枚数が多くなり、大きなせん断力を坏土に付与することはできるものの、坏土を押し進めるには上段スクリュー4に大きな回転力が必要となり、動力源の負荷が大きくなり過ぎて故障したり、大きな回転力を与えることのできる動力源は導入するにはコストがかかり過ぎたりするので好ましくない。また、180°を超えると、坏土を押し進めることはできるものの、十分なせん断力を付与することができないおそれがある。周方向に等間隔に羽根4bが取り付けられ、坏土に十分なせん断力を均等に付与しつつ、一定量の坏土を押出方向に押し進めるには、この角度は60°〜120°であることがより好ましい。
さらに、本発明の押出成形機は、複数の羽根がシャフトの軸方向に螺旋状の配置で取り付けられていることが好ましい。
複数の羽根4b,8bがシャフト4a,8aの軸方向に螺旋状の配置で取り付けられているときには、坏土を良好に押し進めて安定した量の坏土を金型へ供給することができるので、成形条件の設定が容易であるとともに密度ばらつきの少ない良好な成形体を得ることができる。
また、本発明の押出成形機は、複数の羽根の押出側の面が、互いに連ねてみたときに連続的な螺旋の面からずれていることが好ましい。これにより、複数の羽根4b同士および羽根8b同士の軸方向や周方向に間隙を有することとなるので、坏土がこれらの間隙に入り込みやすくなり、シャフト4aやシャフト8aを回転させることによって、坏土により大きなせん断力を付与することができる。より大きなせん断力を付与された坏土は、押出成形機1内で水分量を一定に保ち、坏土の表面が乾燥することによって硬くなるのを抑制し、均質なものとなるので、良好な成形体を得ることができる。
また、本発明の押出成形機は、軸方向からみたときに羽根の幅が羽根同士の間隔よりも大きいことが好ましい。
図5は、本発明の押出成形機における上段スクリューの断面図である。
このように、軸方向から平面視したときの羽根4bの最も広い幅である幅Fが、上段バレル3側の羽根4b同士の最も広い間隔である間隔Gよりも大きいときには、羽根4b同士の間隙に入り込んだ坏土をせん断することにより大きなせん断力を付与しつつ、坏土を押出側の面で押出方向へ押し進めることができる。より好ましくは、羽根4bの幅Fに対し、羽根4b同士の間隔Gが40%〜60%であることがよい。
また、本発明の押出成形機は、羽根が坏土の主成分と同じ材質からなることが好ましい。
例えば、羽根4bや羽根8bが金属からなり、セラミックスの粉体とバインダと水とを混合し混練した粘土状の坏土を用いて押出成形をすれば、坏土との摩擦により羽根4bや羽根8bが磨耗し、金属の磨耗粉が坏土に混入する。この金属の磨耗粉は、焼成工程で熱処理を施したときに、磨耗粉が起因となる発色によって製品の外観を損ねる。また、磨耗粉の混入が多いときには、発色し製品の外観を損ねるばかりか機械的あるいは電気的な諸特性を低下させるおそれがある。
これに対し、羽根4bや羽根8bが坏土の主成分と同じ材質であるときには、押出成形することによって羽根4bや羽根8bが坏土との摩擦により磨耗しその磨耗粉が坏土に混入したとしても、磨耗粉が坏土と同材質であるために、焼成工程で熱処理を施したときに磨耗粉が起因する発色はなく、機械的特性が低下することもない。また、上段バレル部3および下段バレル部7の内面を、羽根4bや羽根8bと同様に坏土の主成分と同じ材質とすることにより、さらに磨耗粉の影響を抑制することができる。
次に、図1に示す例の本発明の押出成形機1の製造方法について説明する。
まず、上段スクリュー4における羽根4bの作製を行なう。坏土の主成分と同材質であり、純度が80%以上,平均粒径が1μm前後のセラミックス1次原料と、焼結助剤と、各種バインダおよび水とを所定量ずつ秤量し混合してスラリーとした後、噴霧乾燥装置(スプレードライヤー)を用いて造粒された顆粒である2次原料を得る。そして、この2次原料を図3(a)に示すような羽根4bの形状が得られる成形型に充填し、粉末プレス成形法にて成形するか、もしくは静水圧プレス成形法(ラバープレス成形法)にて成形体を得た後に切削加工を施し、台座22,シャフトへ締結するための2ヶ所のねじ孔23,押出側の面24を有する羽根4bの形状の成形体を得る。
次に、この成形体を焼成炉に入れて、大気雰囲気中または非酸化雰囲気中で所定の焼成温度で焼成する。焼成後、研削加工により最終仕上げすることにより、本発明の押出成形機1における羽根4bを得る。
そして、複数の羽根受け部4cおよびねじ孔23を形成したシャフト4aを作製し、図2に示すようにシャフト4aに形成された羽根受け部4cに羽根4bを嵌め込み、ねじ孔23にボルトを挿入して締結することにより、上段スクリュー4を得ることができる。
また、下段スクリュー8については、上段スクリュー4と同様の作製方法にて得ることができる。そして、図1に示すように、上段スクリュー4を上段軸受け10で接続固定して上段バレル部3内に設置し、下段スクリュー8を下段軸受け11で接続固定して下段バレル部7内に設置し、下段バレル部7の出口側に金型9を接続することにより、本発明の押出成形機1を得ることができる。なお、上段バレル部3の一部には、投入口2が開口してあり、上段スクリュー4により押し進められた坏土を分割する坏土分割治具5を有している。
次に、図1に示す例の本発明の押出成形機1を用いた筒状成形体の製造方法について説明する。
まず、セラミックス1次原料粉末とバインダと水とを混合し、ニーダー等の混練機を用いて混練し粘土状の坏土とする。そして、坏土を押出成形機1の投入口2より投入する。投入口2より投入された坏土は、上段バレル部3内に並列に2本設置された上段スクリュー4同士の間に坏土を巻き込むように互いに逆回転させることによって、羽根4b同士の間隙、羽根4bと上段バレル部3の内壁との間隙を通って、せん断力を与えられながら押し進められ、坏土分割治具5によって細かく分割され真空室6へと押し出される。坏土分割治具5は、金属やセラミックの板に複数の貫通孔を設けたものなど、上段スクリュー4の回転による押出力を利用して坏土を細かく分割することのできる治具の形状であれば、どのような形状であっても良い。
次に、坏土分割治具5により分割された真空室6へ押し出された坏土は、真空室6に接続された真空ポンプによって減圧されて坏土内の気泡が取り除かれる。従って、気泡が少ない成形体を得るには、坏土分割治具5によって細かく坏土を分割することが好ましい。そして、真空室6内を通過した坏土は下段バレル部7内の下段スクリュー8上に落下し、下段スクリュー8の回転によって羽根8b同士の間隙、羽根8bと下段バレル部7の内壁との間隙を通って金型9の方向へ押し進められ、金型9を通過することにより特定の断面形状を有する筒状成形体を得ることができる。
本発明の押出成形機1を用いれば、坏土に十分なせん断力を付与することができるので、押出成形機1内で坏土の表面が乾きにくく、坏土の硬さばらつきが少ない均質な坏土とすることができる。また、羽根4bおよび羽根8bがセラミックスからなることから、耐磨耗性に優れ、羽根4bおよび羽根8bが坏土の主成分と同じ材質からなるときには、磨耗粉が坏土に混入したとしても、製品の外観を損ねたり、機械的特性が低下したりすることが少ない。また、押出成形を繰り返すことによって、羽根4bや羽根8bに磨耗が生じたとしても部分的な交換が可能であるため、短時間で交換できるので従来よりも生産効率を高めることができる。
以下、本発明の実施例を示す。
(実施例1)
図1に示す例の本発明の押出成形機1を用いて、成形性およびスクリューの羽根の磨耗度合および成形体への異物の混入について評価する試験を実施した。
まず、本発明の押出成形機1におけるシャフト4aに取り付ける羽根4bを、アルミナ質焼結体を用いて作製した。純度が90%以上であり、平均粒径が1μmのアルミナ1次原料を用意し、このアルミナ1次原料を100質量%に対し、Ca,Si,Mgのいずれか1種以上の酸化物からなる焼結助剤を1〜5質量%,バインダとしてPVAを1〜1.5質量%,溶媒を100質量%,分散剤を0.5質量%秤量し、撹拌機の容器内に投入し混合・撹拌してスラリーとした。その後、このスラリーを噴霧造粒装置(スプレードライヤー)にて噴霧乾燥し、造粒された顆粒である2次原料を得た。そして、この2次原料から静水圧プレス成形法(ラバープレス成形法)にてブロック状の成形体を得た後に、図3(a)に示す例の羽根4bとなる形状に切削加工を施し、これを焼成炉に入れて大気雰囲気中で1500〜1700℃の最高温度で焼成した。焼成後、研削加工により最終仕上げを施し、台座22の縦が35mm,横が25mm,厚みが10mmであり、羽根部21の高さが台座22の底部から30mm,羽根部21の最大幅が45mmであり、2ヶ所にねじ孔23を設けた羽根4bを得た。
次に、下段スクリュー8の羽根8bについては、羽根4bと同様の作製方法にて、台座の縦が70mm,横が60mm,厚みが20mmであり、羽根部の高さが台座の底部から60mm、羽根の最大幅が90mmであり、2ヶ所にねじ孔23を設けた羽根8bを得た。なお、羽根4bおよび羽根8bともに坏土を押し出す押出側の面を、それぞれのシャフト4aおよびシャフト8bの軸に対し垂直に交わる線を基準として、5°の角度で交わるように斜めに形成してある。
次に、金属材料に加工を施し、複数の羽根受け部およびねじ孔を備えたシャフト4aおよびシャフト8aを得た。なお、羽根受け部については、図4(b)に示す例のように、中心線A1と中心線B1とをシャフト4aの中心に向かって延長したときに交わる角度が90°であり、複数の羽根4bの間隔が等しくなるように加工を施した。シャフト8aについても同様である。
そして、羽根4bおよび羽根8bを金属製のシャフト4aおよびシャフト8aの羽根受け部に嵌め込み、ねじ孔にボルトを挿入して締結することにより、上段スクリュー4および下段スクリュー8を得た。そして、図1に示すように、上段スクリュー4を上段軸受け10で接続固定して上段バレル部3内に設置し、下段スクリュー8を下段軸受け11で接続固定して下段バレル部7内に設置し、下段バレル部7の出口側に金型9を接続した。なお、上段バレル部3の一部には、投入口2が開口してあり、上段スクリュー4により押し進められた坏土を分割する坏土分割治具5を有している。
次に、この本発明の押出成形機1を用いて、外辺が150mmの正方形であり、中空部の1辺が100mmの正方形の断面形状であり、長さが3mのアルミナ質焼結体からなる長尺筒体を数十本成形した。
まず、坏土の原料となる純度が95%以上であり、平均粒径が1μmのアルミナ1次原料を用意し、このアルミナ1次原料を100質量%に対し、Ca,Si,Mgの酸化物からなる焼結助剤を1〜5質量%,バインダとしてPVAを1〜1.5質量%,水を100質量%,分散剤を0.5質量%秤量し、ニーダーに投入して混練し、粘土状の坏土を得た。そして、この坏土を本発明の押出成形機1の投入口2より投入した。投入された坏土は、上段バレル部3内に並列に2本設置された上段スクリュー4同士の間に坏土を巻き込むように互いに逆回転させることによって、羽根4b同士の間隙、羽根4bと上段バレル部3の内壁との間隙を通って、せん断力を与えられながら押し進められ、坏土分割治具5によって細かく分割され真空室6へと押し出された。
次に、坏土分割治具5により分割された真空室6へ押し出された坏土は、真空室6に接続された真空ポンプによって減圧されて坏土内の気泡が取り除かれ、真空室6内を通過した坏土は下段バレル部7内の下段スクリュー8上に落下し、下段スクリュー8の回転によって羽根8b同士の間隙や羽根8bと下段バレル部7の内壁との間隙を通って金型9の方向へ押し進められ、金型9を通過させて成形体を得た。
そして、この成形体を120℃で24時間乾燥した後、大型の焼成炉に入れて大気雰囲気中で1500〜1700℃の最高温度で焼成してアルミナ焼結体とし、さらに最終仕上げとして研削加工を施すことにより、外辺が150mmの正方形であり、中空部の1辺が100mmの正方形の断面形状であり、長さが3mのアルミナ質焼結体からなる長尺筒体を30本得た。また、比較例として、金属からなり、シャフトに連続した螺旋状の羽根を一体に形成した図6に示す従来の押出成形機31を用いて、同形状のアルミナ質焼結体からなる長尺筒体を30本成形した。
その結果、従来の押出成形機31で成形したときには、成形速度が安定しなかったため、坏土に十分なせん断力を付与することができず、押出成形機31内で坏土の表面が乾燥し、坏土の硬さばらつきが生じているものと考えられる。また、成形後の乾燥工程で数本の成形体の表面に亀裂が発生しており、坏土が均質でないために、収縮ばらつきが生じていることが分かった。また、成形体を乾燥後に焼成したところ、坏土との摩擦によって混入した磨耗粉が要因と考えられるアルミナの色調と異なる斑点が多数焼結体の表面に存在しており、外観を損ねていた。
また、製品からJIS R 1601−1995に準拠して曲げ強度試験用の抗折試験片を研削加工により切り出し、3点曲げ強度試験を実施したところ、一般的なアルミナ質焼結体の曲げ強度と比較して5〜10%の強度低下が確認された。さらに、押出成形機31の内部を確認したところ、羽根が著しく磨耗しており、スクリュー全体を交換しなければならず、生産効率が低下し、メンテナンスコストもかかった。
これに対し、本発明の押出成形機1で成形したときには、高いせん断力を付与することができるので、押出成形機1内で坏土の表面が乾きにくく、坏土の硬さばらつきが少なく、成形速度も安定していた。また、焼結体の表面に斑点も見受けられず、磨耗粉の混入が少ないことが確認された。さらに、押出成形機1の内部を確認したところ、従来の押出成形機31よりも磨耗は少ないものの、上段スクリュー4の羽根4b,下段スクリューの羽根8bの一部に若干の磨耗が見られたため、磨耗が見られた羽根4bや羽根8bのみを取り外して交換を行なった。これにより、本発明の押出成形機1であれば、部分的な交換を短時間で行なうことができるので、メンテナンスにかかる費用および時間を大幅に削減できることが確認された。
(実施例2)
次に、シャフトの軸方向から見たときに、周方向に取り付ける複数の羽根の間隔による成形性や製品に与える影響について確認を行なった。
まず、実施例1と同様の方法により、図4bに示す例のように、中心線A1と中心線B1,中心線B1と中心線C1,中心線C1と中心線D1,中心線D1と中心線A1において、シャフト4aの中心に向かって延長したときに交わる角度が90°となるシャフト4a,シャフト8aを作製した。
次に、中心線A1と中心線B1,中心線B1と中心線C1,中心線C1と中心線D1,中心線D1と中心線A1において、シャフト4aの中心に向かって延長したときに交わる角度がそれぞれ80°,100°,80°,100°となるシャフト4a’,シャフト8a’を作製した。そして、それぞれのシャフトに複数の羽根4b,羽根8bを取り付けて、それぞれ押出成形機1で成形を行なった。
その結果、周方向に取り付けた複数の羽根4b,羽根8bの間隔が異なるシャフト4a’,シャフト8a’を用いて成形した成形体は、周方向に取り付けた複数の羽根4b,羽根8bの間隔が等しいシャフト4a,シャフト8aを用いて成形した成形体よりも乾燥後の変形量が大きく、成形中の成形速度にも若干ばらつきが生じていたため、シャフト4a,シャフト8aの軸方向から見たときに、周方向に取り付ける複数の羽根4b,羽根8bの間隔は等しいことが好ましいことが確認された。
(実施例3)
次に、複数の羽根の押出側の面が、互いに連ねて見たときに連続的な螺旋の面を構成しているか否かによる成形性や製品に与える影響について確認を行なった。
複数の羽根4b,羽根8bの押出側の面が、互いに連ねて見たときに連続的な螺旋の面を構成しているときには、成形速度にばらつきが少なく、金型への坏土の安定供給の点で優れていた。これに対し、複数の羽根4b,羽根8bの押出側の面が、互いに連ねて見たときに連続的な螺旋の面からずれているときには、成形体を乾燥させた乾燥体およびこれを焼成した焼結体においても変形が少なかったため、坏土により大きなせん断力を付与することができることから、押出成形機1内で水分量を一定に保ち、坏土の表面が乾燥することによって硬くなるのを抑制し、均質な坏土とできることが分かった。
(実施例4)
次に、軸方向から見たときの羽根の幅と羽根同士の間隔との関係による成形性や製品に与える影響について確認を行なった。
図5に示す上段スクリュー4の断面図における、羽根4bの幅Fと羽根4b同士の間隔Gとの関係が、F<G,F=Gと比較してF>Gであるときには、羽根4b同士の間隙に入り込んだ坏土をせん断することにより大きなせん断力を付与しつつ、坏土を押出側の面で押出方向へ押し進めることができたので、安定した成形速度であるとともに、成形体を乾燥させた乾燥体およびこれを焼成した焼結体においても変形が少なかった。
これらの実施例の結果より、本発明の押出成形機1を用いれば、坏土に十分なせん断力を付与することができるので、押出成形機1内で坏土の表面が乾きにくく、坏土の硬さばらつきの少ない均質な坏土とすることができることが確認された。また、羽根4bおよび羽根8bがセラミックスからなることから、耐磨耗性に優れ、さらに羽根4bおよび羽根8bが坏土の主成分と同じ材質からなるときには、磨耗粉が坏土に混入したとしても、磨耗粉が起因する焼結体の色調と異なる色調の斑点が生じることによって製品の外観を損ねたり、機械的特性が低下したりすることが少ないことが確認された。また、押出成形を繰り返すことによって、羽根4bや羽根8bに磨耗が生じたとしても部分的な交換が可能であるため、短時間で交換できるので従来よりも生産効率を高めることが確認された。
本発明のスクリュー式の押出成形機の実施の形態の一例を示す概略断面図である。
本発明の押出成形機における上段スクリューの構成の実施の形態の一例を示す概略図である。
本発明の押出成形機における羽根の実施の形態の一例を示す、(a)は平面図であり、(b)は正面図である。
本発明の押出成形機における上段スクリューの構成を示す、(a)は概略図であり、(b)は(a)のE−E’線での断面図である。
本発明の押出成形機における上段スクリューの断面図である。
従来のスクリュー式の押出成形機の一例を示す概略断面図である。
符号の説明
1:押出成形機
2:投入口
3:上段バレル
4:上段スクリュー
4a:シャフト
4b:羽根
5:坏土分割治具
6:真空室
7:下段バレル
8:下段スクリュー
8a:シャフト
8b:羽根
9:金型
10:上段軸受け
11:下段軸受け