JP2008076914A - プラスチック光学製品の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】湿式法によって反射防止膜をプラスチック光学製品のハードコート層表面に形成させる際により密着性や耐擦傷性を向上させることが可能なプラスチック光学製品の製造方法を提供すること。
【解決手段】プラスチック光学製品を製造する際に、プラスチック製光学基材の表面にハードコート層を形成させ、その表面に湿式で2層の膜層からなる反射防止膜を形成する。下層膜は反射防止膜は金属酸化物を主成分とした膜層とから構成し、上層膜を有機ケイ素化合物及び無機ケイ素化合物を主成分とした膜層と金属酸化物を主成分とした膜層とから構成する。そしてこれらの膜層を形成させた後に湿熱処理を施すようにする。
【選択図】なし

Description

本発明は例えばプラスチック製の眼鏡レンズのように反射防止膜が形成されたプラスチック光学製品の製造方法に関するものであり、特に密着及び強度の優れた反射防止膜が形成されたプラスチック光学製品の製造方法に関するものである。
プラスチックレンズはガラスレンズよりも軽量で割れにくく着色しやすいという利点があるため視力矯正用のレンズやサングラスのような眼鏡レンズとして多用されている。しかし、一方でガラスレンズに比べて柔らかく傷が付きやすいという特性があるため、従来からその表面にハードコート層を形成するようにしている。また、特にメガネレンズの場合、レンズに映りこんだ反射光がレンズ内で乱反射することによりゴーストやちらつきが起こり、メガネレンズを掛けている人にとってうっとうしく感ずることがある。更に、このような反射光は眼鏡レンズの外観(他人にレンズを見られた場合のレンズの見た目)上好ましくない。そこで、ゴーストやちらつきを低減するために、反射防止層を設けることは広く行われている。このようなハードコート層表面に反射防止膜がコーティングされている例として特許文献1を挙げる。
特開2005−292646号公報 特開昭58−46301号公報
特許文献1の技術はハードコート層表面にいわゆる湿式法の一態様である塗布によって反射防止膜を形成させるというものである。このような湿式法による反射防止膜の形成は従来の蒸着法よりも成膜用の装置を小型化及び簡易化できることから製造コストの削減に貢献できるという利点があるものの、下層となるハードコート層との密着性や耐擦傷性、つまり反射防止膜の強度の点では従来の蒸着法によって形成した反射防止膜と比べて劣ることとなっていた。
更に特許文献1の技術では単層の反射防止膜についての知見が述べられているが、湿式法で形成した単層の反射防止膜は同じく湿式法で形成した複層の反射防止膜に比べて膜強度が劣るという傾向がある。そのため、湿式法で用いられる反射防止膜では特許文献2のように複層構造とすることが妥当と考えられる。
更に、反射防止膜の反射光は膜が単層である場合には所望の反射色が得られにくいことから一般的には所望の反射光を発現させるためにも複層の反射防止膜とすることが多い。そのため特に複層の反射防止膜を湿式法で形成する場合に、密着性や耐擦傷性について最適な条件であり、反射色などの外観に影響を与えにくいような製造方法が求められていた。
本発明は、上記課題を解消するためになされたものであり、その目的は湿式法によって反射防止膜をプラスチック光学製品のハードコート層表面に形成させる際により密着性や耐擦傷性を向上させることが可能なプラスチック光学製品の製造方法を提供することにある。
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明では、プラスチック製光学基材の表面に直接又は他の層を介してハードコート層を形成させ、同ハードコート層の表面に湿式で複層の膜層からなる反射防止膜を形成するようにしたプラスチック光学製品の製造方法であって、前記反射防止膜を有機ケイ素化合物及び無機ケイ素化合物を主成分とした膜層と金属酸化物を主成分とした膜層とから構成するとともに、少なくとも最上層を有機ケイ素化合物及び無機ケイ素化合物を主成分とした膜層とし、これらすべての膜層を下層域から順に形成させた後に湿熱処理を施すようにしたことをその要旨とする。
本発明に使用されるプラスチック製光学基材としては例えばポリメチルメタクレート及びその共重合体、ポリカーボネート、ポリジエチレングリコールビスアリルカーボネート(CR−39)、セルロースアセテート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン樹脂、ポリチオウレタン、その他硫黄含有樹脂等が一例として挙げられる。光学基材の用途例としては代表的には眼鏡用のプラスチックレンズが挙げられる。
本発明のハードコートは熱硬化性樹脂でも紫外線硬化樹脂のどちらでもよい。眼鏡レンズの場合、硬度の要求性能が高いため、熱硬化の特に有機ケイ素系ハードコートが好ましい。その主成分としては有機ケイ素化合物の加水分解物を用いることが好ましい。有機ケイ素化合物は一般式として、
12 nSiX3-n( n=0 or 1) ・・・(1)
で表される有機ケイ素化合物。
(式(1)中、R1は重合可能な反応基を有する有機基、R2は炭素数1〜6の炭化水素基、Xは加水分解基)
で表される物質である。
ここに、R1の具体例として重合可能な反応基の具体例としては、例えばビニル基、アリル基、アクリル基、メタクリル基、エポキシ基、メルカプト基、シアノ基、アミノ基等が挙げられる。ここでR1としてはエポキシ基が最も好ましい。エポキシ基が存在することでシラン化合物の加水分解物は開環重合し、耐擦傷性、耐候性、耐薬品性が向上するためである。
また。R2の具体例としては、例えばメチル基、エチル基、ブチル基、ビニル基、フェニル基等が挙げられる。
また、Xは加水分解可能な官能基であり、その具体例として、メトキシ基、エトキシ基、メトキシエトキシ基等のアルコキシ基、クロロ基、ブロモ基等のハロゲン基、アシルオキシ基等が挙げられる。Xとしてはアルコキシ基が最も好ましい。
上記(A)のシラン化合物の具体例としては、ビニルトリアルコキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトシキ)シラン、アリルトリアルコキシシラン、アクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルジアルコキシメチルシラン、γ−グリシドオキシプロピルトリアルコキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリアルコキシシラン、メルカプトプロピルトリアルコキシシラン、γ−アミノプロピルトリアルコキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジアルコキシシラン等が挙げられる。なお、一般式(1)の有機ケイ素化合物のほかにテトラアルコキシシランやメチルトリアルコキシシラン等を併用して硬度等の物性を調節することも可能である。
また、本発明のハードコート層の第2の主成分としては金属酸化物微粒子を用いることが好ましい。
金属酸化物微粒子は、チタン、シリコン、アルミニウム、錫、ジルコニウム、鉄、アンチモン、ニオブ、タンタル、タングステン等から選ばれる1種以上の酸化物であればよい。
ハードコート層は一般的には湿式で形成される。ここで湿式とはディップ法、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法の公知の方法でハードコート液を基材に塗布し、乾燥させ、必要に応じて加熱することで被膜層を形成する方式である。ハードコート膜はこれらのいずれかの方法によってハードコート液を光学基材表面に展着させ、その後公知の方法にて溶媒を蒸発させて形成される。ハードコート液は水又はアルコール系の溶媒に上記有機ケイ素化合物又は/及び金属酸化物微粒子を混合させた液である。
またハードコート液中には必要に応じ、硬化触媒として、アセチルアセトン金属塩、エチレンジアミン四酢酸金属塩、脂肪族アミン、有機多価カルボン酸などを添加することも可能である。さらに必要に応じ、界面活性剤、着色剤、溶媒などを添加してコーティング剤を調整することも可能である。ハードコート膜を構成する樹脂に紫外線吸収剤を添加することでレンズ本体、プライマー、ハードコートを構成する樹脂類の劣化を防止する他、膜の耐久性向上が可能となる。
ハードコート膜の膜厚は0.5〜5.0μm、特に1.0〜3.0μmの範囲が好ましい。このような範囲とした点についてまず膜厚0.5μm以上としたのは、膜厚をきわめて薄くすることで干渉縞を防止する効果が期待できるものの、薄過ぎる場合にはレンズの耐擦傷性の効果を発揮できなくなるためである。一方、膜厚を5.0μm以上にすると硬度は上げ易いが、本レンズのクラックが発生しやすくなり、さらに脆くなりやすいなど物性面への問題が生じるためこのように上限を設定することが好ましい。
また、基材の屈折率によってハードコート膜の屈折率を選択することが必要である。屈折率の設定は上記金属酸化物微粒子の配合量や配合割合によって異なる。基材とハードコート膜との屈折率に差が生じると、ハードコート膜とレンズの界面からの反射光とハードコート膜表面からの反射光が互いに干渉して、干渉縞が発生してしまう。そのため、理論的にはレンズ本体とハードコート膜の各屈折率が同等であることが好ましい。
また、光学基材は通常塗布前に前処理を行う。前処理は基材表面の酸-アルカリによる脱脂処理、プラズマ処理、超音波洗浄等が挙げられる。これら前処理によって基材表面の層の密着性に影響のある汚れの除去や表面改質効果があるとされる。
また、光学基材とハードコート層との間にはプライマー層を介在させる、つまりハードコート層をプライマー層の上に形成するようにしてもよい。つまり、光学基材の表面にプライマー層が形成されている場合にはプライマー層を光学基材の表面と解釈できる。ここにプライマー層はハードコート層とレンズ基材との密着性の向上のためこの位置に配置される連結層であって、例えばウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、有機ケイ素系樹脂等から構成される。ディップ法、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法の湿式法を用いることも自由である。プライマー層は一般にレンズ基材をプライマー液に浸漬させて成膜させる。プライマー液は水又はアルコール系の溶媒にこれらから選択された樹脂材料と必要に応じて金属酸化物微粒子を混合させた液である。
本発明の反射防止膜は、基本的に各層は低屈折率層と高屈折率層の交互層から構成されている。低屈折率層は、有機ケイ素化合物を主成分とし、必要に応じて無機ケイ素化合物を入れてもよい。
有機ケイ素化合物としては、次式で表される有機ケイ素化合物が用いられる。
1 a2 bSi(OR3)4-(a+b)
1 a2 bSiX4-(a+b)
(ここで、R1は、炭素数1〜6のアルキル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリルオキシ基、メルカプト基、アミノ基からなる群から選ばれる有機基を有する炭素数1〜6のアルキル基であり、R2は炭素数1〜3のアルキル基、アルキレン基、シクロアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基であり、R3は炭素数1〜4のアルキル基、アルキレン基、シクロアルキル基、アルコキシアルキル基、アリールアルキル基である。Xはハロゲン原子である。また、a=0または1、b=0,1または2である)。
上記式で表される有機ケイ素化合物としては、具体的には、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、トリメチルクロロシラン、α-グルシドキシメチルトリメトキシシラン、α-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)-エチルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)-エチルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキキシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジエトキキシラン等を挙げることができる。これらは、単独で用いても、2種以上を併用することも可能である。
本発明の反射防止膜は、基本的に各層は低屈折率層と高屈折率層の交互層から構成されている。2層反射防止膜の場合には、最上層から低屈折率層、高屈折率層の順に構成される。低屈折率層には有機ケイ素化合物や低屈折率物質のSiO2の無機ケイ素化合物が多く用いられる。高屈折率層には有機ケイ素化合物に加えてジルコニウム,タンタル,チタン、スズ、インジウム等から選ばれる1種類以上の金属酸化物であればよい。3層反射防止膜の場合には、最上層から低屈折率層、高屈折率層、低屈折率層の順に構成されるが、基板上側の低屈折率は最上層の低屈折率層と高屈折率層の屈折率がこれらの中間の屈折率であることが好ましい。この層を中屈折率層と呼ぶ。中屈折率層にはアルミニウム,ジルコニウム,タンタル,チタン,スズ,インジウム等から選ばれる1種類以上の金属酸化物あるいは低屈折率物質のSiO2と、高屈折率物質のジルコニウム,タンタル,チタン, スズ,インジウム等から選ばれる1種類以上の金属酸化物から構成された等価膜層が多く用いられている。また、高屈折率層の金属酸化物微粒子の成分比率を変更することで中屈折率層とすることも行われている。
本発明では少なくとも最上層が有機ケイ素化合物及び無機ケイ素化合物を主成分とした膜層とされている。つまり最上層は低屈折率層である。金属酸化物を主成分とした膜層は高屈折率層又は中屈折率層とされる。
本発明の反射防止膜は湿式で形成される。ここで湿式とはディップ法、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法の公知の方法で各層用に調整された反射防止処理液を塗布し、乾燥させ、必要に応じて加熱させることで被膜層を形成する方式である。
反射防止膜の加熱方法としては熱風、赤外線などで行うことが可能である。加熱温度は適用される光学基材及び使用されるコーティング組成物によって決定されるが、通常は室温から250℃、より好ましくは60℃から150℃が使用される。常温よりも低温では硬化又は乾燥が不十分であり、またこれより高温になると基材や膜の黄変などの問題点を生ずる。
反射防止処理液は水又はアルコール系の溶媒に上記各層を形成するための有機ケイ素化合物及び/又は金属酸化物を混合させた液である。反射防止膜はこれらのいずれかの方法によって第1層用の反射防止処理液をまずハードコート膜表面に展着させ、その後公知の方法にて溶媒を蒸発させて第1層目を形成させる。次いで第2層用の反射防止処理液を同様に第1層の表面に展着させ同様の工程で第2層目を形成させる。更に必要に応じて第3層・・・と所望の膜数となるまで積層させていく。
低屈折率膜の屈折率は、1.38〜1.50が好ましく、1.38〜1.45がさらに好ましい。高屈折率膜の屈折率は、1.63〜1.75であると好ましく、1.68〜1.75であるとさらに好ましい。中屈折率膜の屈折率は1.50〜1.60が好ましく、1.53〜1.58が更に好ましい。
各膜層の膜厚は50〜200nmが好ましく、特に60〜130nmの範囲が好ましい。
湿式で成膜する場合は真空蒸着法よりも成膜用の装置を小型化及び簡易化できることから製造コストの削減に貢献できるものである。しかしながら、反射防止膜と下層となるハードコート層との密着性や耐擦傷性、つまり反射防止膜の強度の点では従来の蒸着法によって形成した反射防止膜と比べて劣る。また、単層反射防止膜の場合、低屈折率材料が必須となり、また反射防止膜の下層となるハードコート層の屈折率をある一定以上に上げる必要が出てくる。しかし、複層反射防止膜の場合、前述の必要はなく、さらに反射色や反射率などの所望の光学特性を得やすい。
本発明では湿式の複層反射防止膜について基本的にハードコート層との密着性や反射防止膜層間の密着性及び耐擦傷性を向上させることを主目的としている。また、反射防止膜の反射色の変色を防止することを第2の目的としている。そのために、本発明では湿熱処理を反射防止膜を構成するすべての膜層が形成されてから行うようにしている。
本発明における湿熱処理とは反射防止膜を形成したプラスチックレンズを高濃度の水分の存在下において加熱する処理を言う。例えば空気中であれば温度50℃から95℃、相対湿度60%〜99%の雰囲気下に置いて所定時間処理することが挙げられる。また、空気中以外に熱水(90℃〜100℃)中で所定時間処理する場合も含む。温度条件にも左右されるが一般に空気中での処理時間は比較的長く、少なくとも1時間から10数時間の処理時間とされる。一方、熱水での処理時間は比較的短く、少なくとも5分から数十分の処理時間とされる。
このようにして形成された反射防止膜は撥水処理によって撥水層が形成されることが好ましい。撥水層は公知の蒸着法あるいは湿式法等により形成することが可能である。
撥水層は、一般に有機ケイ素化合物を重縮合させたものである。重縮合によって、被膜の厚膜化、緻密化が可能となり、基材との密着性および表面硬度が高く、汚れの拭き取り性に優れた被膜層が得られやすくなる。
重縮合前の有機ケイ素化合物は、−SiR3−y(Rは1価の有機基、Xは加水分解可能な基、yは0から2までの整数)で表される含ケイ素官能基を有する化合物である。
ここにXとしては、例えばOCH3、OCH2CH3等のアルコキシ基、OCOCH3等のアシロキシ基、ON=CRaRb等のケトオキシム基、Cl、Br等のハロゲン基、NRcRd等のアミノ基(Ra、Rb、Rc、Rdはそれぞれ一価の有機基を表す)などの基が挙げられる。
このような有機ケイ素化合物として含フッ素有機ケイ素化合物が好適である。含フッ素有機ケイ素化合物は撥水撥油性、電気絶縁性、離型性、耐溶剤性、潤滑性、耐熱性に優れている。特に、分子内にパーフルオロアルキル基あるいはパーフルオロポリエーテル基を持つ分子量1000〜50000程度の比較的大きな有機ケイ素化合物は特に防汚性に優れる。
上記各請求項に記載の発明によれば、湿式の複層反射防止膜について従来の湿式の複層反射防止膜と比べて密着性や耐擦傷性が向上する。
(実施例1)
<使用レンズ>
ノルボルネンジイソシアネ−ト50重量部、ペンタエリスリト−ルテトラキス(3−メルカプトプロピオネ−ト)25重量部、ビス(メルカプトメチル)−3,6,9−トリチア−1,11−ウンデカンジオ−ル25重量部の合計100重量部に対して、触媒としてジブチルチンジクロライド0.03重量部を配合した均一溶液をレンズ用モ−ルドに注入し、20℃〜130℃まで20時間かけ昇温硬化させ、屈折率1.594、アッベ数42の光学特性を有する度数0.00のフラットレンズを形成した。これを玉型加工したものを光学基材としてのプラスチックレンズとした。
<ハードコート液の調整>
テトラエトキシシランを66.3重量部、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを66.3重量部、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランを33.2重量部に、メタノール50重量部加え、氷冷下攪拌しながら0.01N塩酸43重量部を滴下して加水分解を行い、更に5℃で1昼夜撹拌した(この溶液をベース溶液とする)。
このベース溶液に対して商品名「オプトレイク1130Z(U−25)」(触媒化成工業株式会社製)を237.5重量部、シリコーン系界面活性剤0.5重量部、アルミニウムアセチルアセトネート1.66重量部を加え、5℃で更に1昼夜撹拌して固形分約30%のハードコート液を得た。「オプトレイク1130Z(U−25)」は主成分を酸化チタンとするとともに酸化ジルコニウム及び酸化シリコンをその他の微粒子として複合微粒子を構成している。より、具体的には酸化チタンと酸化シリコンの結合体を酸化チタンと酸化ジルコニウムの結合体で包囲する構造とされ、更にこれを外方から酸化シリコンと酸化ジルコニウムの結合体で包囲する構造とされている。固形分濃度30%で分散溶媒としてメタノールを使用している。
<ハードコート層の形成>
前処理された基材にハードコート組成物をディッピング法(引き上げ速度300mm/min )により塗布し、100℃×1時間の条件にて硬化させ膜厚2.0〜3.0μmのハ−ドコ−ト層を得た。
<反射防止膜層>
ハ−ドコ−ト層表面に外面側から下層(高屈折率層)及び上層(低屈折率層)の2層の膜層からなる反射防止膜を形成した。
a.下層膜の形成
酸化ジルコニウム微粉末(住友大阪セメント社製、粒径10−30nm)2.0重量部と、プロピレグリコールモノメチルエーテル10重量部と、エチルアルコール88.0重量部を混合し、これに界面活性剤(旭電化工業社製、アデカコールCS141E)を添加して混合し、その後、この溶液を超音波ホモジナイザー(セントラル化学社製;ソニファイヤー450)を用いて10分間分散させ、均一塗料とした。最後に固形分5%となるようエチルアルコールにて濃度希釈し、下層膜用の反射防止処理液を調整した。
この反射防止処理液を、
スピンコート条件:回転数1500rpm 回転時間60秒
で処理してハ−ドコ−ト層表面に反射防止膜層の第1層となる高屈折率層を形成させ、80℃で10分間加熱硬化させた(層間キュア処理)。
b.上層膜層用の形成
テトラエチルオルトシリケート63重量部、メタノール632重量部、0.01N塩酸100重量部、メタノールシリカゾル(日産化学製;固形分30%)33重量部を添加し、加水分解終了後、さらにpHを5に調整しコロイド溶液化を行い、イソプロピルアルコール200重量部、メチルアルコール300重量部を添加したベース液を作成した。
このベース液1000重量部に対して、γ- グリシドキシプロピルトリメトキシシラン加水分解物[γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン30重量部、メチルアルコール60重量部、0.01N塩酸105重量部]を添加し、24時間室温にて攪拌する。さらに、シリコーン系界面活性剤1.0重量部、アルミニウムアセチルアセトネートを2重量部添加し、上層用の反射防止処理液を調整した。
この反射防止処理液を
スピンコート条件:回転数3000rpm 回転時間30秒
で処理して高屈折率層表面に反射防止膜層の第2層となる低屈折率層を形成させ、120℃で1.5時間加熱硬化させた。
このようにして2層の膜層からなる反射防止膜が形成された実施例1のプラスチックレンズについて湿熱処理を行った。湿熱処理として恒温恒湿槽(楠本化成株式会社製:HIFLEX)を使用し、60℃で95%の湿度雰囲気中に1時間静置した。
このような実施例1のプラスチックレンズについて耐摩耗性試験及び変色の有無の確認を行った。
耐摩耗性試験は#000のスチールウールで塗膜面を1Kg荷重をかけて擦り、表面状態を確認し、次のように判定した。
「○」・・・反射防止膜が擦り取れない。
「△」・・・は反射防止膜が一部擦り取れ、反射色が変色する。
「×」・・・、反射防止膜が擦り取られ、白くなる。
変色の有無は湿熱処理を行わない以外は全て同加工条件にて作成し、湿熱処理のみを行わなかった場合との反射色の違いを目視によって観察した。変色がなければ「○」とし、変色した場合には「×」とした。
耐摩耗性試験及び変色の有無の確認の結果を表1に示す。
(実施例2)
実施例2では実施例1の湿熱処理工程において試料を95℃の熱水中に10分間浸漬させたこと以外は実施例1と同じ条件で反射防止膜を形成させプラスチックレンズを得た。このレンズについて実施例1と同様に耐摩耗性試験及び変色の有無の確認を行った。実施例2のプラスチックレンズについて行った耐摩耗性試験及び変色の有無の確認の結果を表1に示す。
(実施例3)
実施例3では実施例1の層間キュア処理時間について1時間としたこと以外は実施例1と同じ条件で反射防止膜を形成させプラスチックレンズを得た。このレンズについて実施例1と同様に耐摩耗性試験及び変色の有無の確認を行った。実施例3のプラスチックレンズについて行った耐摩耗性試験及び変色の有無の確認の結果を表1に示す。
(実施例4)
実施例4では実施例1の湿熱処理工程において試料を95℃の熱水中に10分間浸漬させるようにしたことと、層間キュア処理時間について1時間としたことが異なる以外は実施例1と同じ条件で反射防止膜を形成させプラスチックレンズを得た。このレンズについて実施例1と同様に耐摩耗性試験及び変色の有無の確認を行った。実施例4のプラスチックレンズについて行った耐摩耗性試験及び変色の有無の確認の結果を表1に示す。
(実施例5)
実施例5では実施例1の湿熱処理工程において試料を60℃で95%の湿度雰囲気中に12時間静置したことが異なる以外は実施例1と同じ条件で反射防止膜を形成させプラスチックレンズを得た。このレンズについて実施例1と同様に耐摩耗性試験及び変色の有無の確認を行った。実施例4のプラスチックレンズについて行った耐摩耗性試験及び変色の有無の確認の結果を表1に示す。
(実施例6)
実施例6では実施例5のプラスチックレンズについてその湿熱処理後に撥水処理を施したものについて耐摩耗性試験及び変色の有無の確認を行ったものである。撥水処理は含フッ素シラン化合物(商品名「KY−8」信越化学工業株式会社製)をパーフルオロヘキサンに希釈して0.2%溶液を調整し、ディッピング処理液とし、そのディッピング処理液に実施例5のプラスチックレンズと同じレンズを浸漬(浸漬時間60秒)した後、引き上げ速度100mm/minにて引き上げ、その後、オーブンにて100℃にて10分間加熱処理して撥水層を形成させた。このレンズについて実施例1と同様に耐摩耗性試験及び変色の有無の確認を行った。
その結果を表1に示す。
(実施例7)
実施例7では実施例5のプラスチックレンズについてその湿熱処理前に撥水処理を施しその後湿熱処理を施した。撥水層は実施例6と同じディッピング処理液を使用し同様の操作によって撥水層を形成させた。このレンズについて実施例1と同様に耐摩耗性試験及び変色の有無の確認を行った。
その結果を表1に示す。
(実施例8)
実施例8は反射防止膜を上記各実施例と異なり3層で形成させたものである。反射防止膜が3層構造であること以外の条件は実施例5と同様である。実施例8における上層膜層は成分、作製方法とも上記各実施例における上層膜層と同じである。また、上記下層膜層と同じ成分で同じ作製条件で作製された膜層が高屈折率の中間膜層とされるとともにハードコート層とこの中間膜層との間に下層膜層が形成されている。新たな下層膜層は中屈折率層とされる。新たな下層膜層は次のように形成される。
テトラエトキシシランを21.6重量部、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを27.0重量部、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランを5.4重量部に、メタノール100重量部を加え、氷冷下攪拌しながら0.01N塩酸14.4重量部を滴下して加水分解を行い、さらに5℃で1昼夜撹拌した。
このベース液に対して、上記「オプトレイク1130Z(U-25)」を64.6重量部、シリコーン系界面活性剤1.0重量部、アルミニウムアセチルアセトネート0.5重量部、メタノールを760重量部を加え、5℃で更に1昼夜撹拌して固形分約5%の新たな下層膜用の反射防止処理液を調整した。
この反射防止処理液を、
浸漬引き上げ条件:浸漬時間10秒 引き上げ速度100mm/min
で処理してハ−ドコ−ト層表面に反射防止膜層の第1層となる中屈折率層を形成させ、80℃で10分間加熱硬化させた(層間キュア処理)。
実施例8のプラスチックレンズについて実施例1と同様に耐摩耗性試験及び変色の有無の確認を行った。その結果を表1に示す。
(比較例1)
比較例1では上記実施例1又は2の湿熱処理を省略した以外は実施例1又は2と同じ条件で反射防止膜を形成させプラスチックレンズを得た。このレンズについて実施例1と同様に耐摩耗性試験及び変色の有無の確認を行った。比較例1のプラスチックレンズについて行った耐摩耗性試験及び変色の有無の確認の結果を表1に示す。
(比較例2)
比較例2では上記実施例3又は4の湿熱処理を省略した以外は実施例3又は4と同じ条件で反射防止膜を形成させプラスチックレンズを得た。このレンズについて実施例1と同様に耐摩耗性試験及び変色の有無の確認を行った。比較例2のプラスチックレンズについて行った耐摩耗性試験及び変色の有無の確認の結果を表1に示す。
(比較例3)
比較例3では上記実施例8の湿熱処理を省略した以外は実施例8と同じ条件で反射防止膜を形成させプラスチックレンズを得た。このレンズについて実施例1と同様に耐摩耗性試験及び変色の有無の確認を行った。比較例3のプラスチックレンズについて行った耐摩耗性試験及び変色の有無の確認の結果を表1に示す。
(比較例4)
比較例4は実施例1〜8が反射防止層を構成する全膜層が形成されてから湿熱処理を行ったのに対して、各膜層毎に湿熱処理を行ったものである。各膜層の成分、作製方法とも実施例1と同様である。
比較例4の湿熱処理は次のような工程で行われる。まず、下層膜層を形成させ、60℃で95%の湿度雰囲気中に1時間静置した。その後、室温(約25℃)にて30分放置させて表面の微少水滴を乾燥させた後、上層膜層を形成させ再度60℃で95%の湿度雰囲気中に1時間静置した。
このような比較例4のプラスチックレンズについて実施例1と同様に耐摩耗性試験及び変色の有無の確認を行った。その結果を表1に示す。
(比較例5)
比較例5は比較例4において下層膜層及び上層膜層についてそれぞれ60℃で95%の湿度雰囲気中に1時間静置する代わりに下層膜層及び上層膜層についてそれぞれ95℃の熱水中に10分間浸漬させるようにしたものである。その他の条件は比較例4と同様である。
このような比較例5のプラスチックレンズについて実施例1と同様に耐摩耗性試験及び変色の有無の確認を行った。その結果を表1に示す。
(比較例6)
比較例6では、層間キュア処理時間について1時間としたことが異なる以外は比較例4と同じ条件で反射防止膜を形成させプラスチックレンズを得た。このレンズについて実施例1と同様に耐摩耗性試験及び変色の有無の確認を行った。比較例6のプラスチックレンズについて行った耐摩耗性試験及び変色の有無の確認の結果を表1に示す。
(比較例7)
比較例7では、層間キュア処理時間について1時間としたことが異なる以外は比較例5と同じ条件で反射防止膜を形成させプラスチックレンズを得た。このレンズについて実施例1と同様に耐摩耗性試験及び変色の有無の確認を行った。比較例7のプラスチックレンズについて行った耐摩耗性試験及び変色の有無の確認の結果を表1に示す。
(比較例8)
比較例8では、比較例6において上層膜層について湿熱処理をしなかったことが異なる以外は比較例6と同じ条件で反射防止膜を形成させプラスチックレンズを得た。このレンズについて実施例1と同様に耐摩耗性試験及び変色の有無の確認を行った。比較例8のプラスチックレンズについて行った耐摩耗性試験及び変色の有無の確認の結果を表1に示す。
(比較例9)
比較例9では、比較例7において上層膜層について湿熱処理をしなかったことが異なる以外は比較例7と同じ条件で反射防止膜を形成させプラスチックレンズを得た。このレンズについて実施例1と同様に耐摩耗性試験及び変色の有無の確認を行った。比較例9のプラスチックレンズについて行った耐摩耗性試験及び変色の有無の確認の結果を表1に示す。
Figure 2008076914
<結果>
上記耐候性試験の結果、実施例はいずれも耐摩耗性はよく反射色の変色も認められなかった。一方、比較例1〜3のようにまったく湿熱処理をしない場合にはいずれも耐摩耗性が劣っていた。更に、比較例4〜7のよう各膜層毎に湿熱処理を行った場合や比較例8及び9のように下層膜層のみ湿熱処理を行った場合では比較的低い温度で行った比較例4及び6及び8の場合では反射色の変色は認められないものの耐摩耗性が劣っていた。一方、高温で湿熱処理を行った比較例5及び7及び9の場合では耐摩耗性は維持されたものの反射色の変色が認められた。

Claims (1)

  1. プラスチック製光学基材の表面に直接又は他の層を介してハードコート層を形成させ、同ハードコート層の表面に湿式で複層の膜層からなる反射防止膜を形成するようにしたプラスチック光学製品の製造方法であって、
    前記反射防止膜を有機ケイ素化合物及び無機ケイ素化合物を主成分とした膜層と金属酸化物を主成分とした膜層とから構成するとともに、少なくとも最上層を有機ケイ素化合物及び無機ケイ素化合物を主成分とした膜層とし、これらすべての膜層を下層域から順に形成させた後に湿熱処理を施すようにしたことを特徴とするプラスチック光学製品の製造方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2021119410A (ja) * 2017-07-28 2021-08-12 ピーピージー・インダストリーズ・オハイオ・インコーポレイテッドPPG Industries Ohio, Inc. 多層反射防止被覆物品

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