JP6016409B2 - 眼鏡レンズおよびその製造方法 - Google Patents
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Description
このように、眼鏡レンズにおいて硬化被膜の厚膜化と耐久性向上を両立することは、従来困難であった。
そこで本発明者らは、上記新たな課題を解決するために更なる検討を重ねた結果、硬化被膜間の水系樹脂層の膜厚が0.5μm超では、累積成膜された硬化被膜中の硬化被膜の破壊荷重値が、層間剥離が発生する荷重値を上回るため、最表層の硬化被膜の傷に起因して層間剥離が優先して発生してしまうのに対し、硬化被膜間の水系樹脂層の膜厚が0.5μm以下になると、0.5μm超の場合と比べて硬化被膜の破壊荷重値が上昇し剥離が発生する荷重値と一致するという、従来知られていなかった現象を見出すに至った。したがって、上記現象に起因し、三層以上の硬化被膜を累積成膜するにあたり硬化被膜間に形成する水系樹脂層の膜厚を0.5μm以下とすれば、硬化被膜の破壊耐性が向上するため上記したクラックの発生を防ぐことができるとともに、層間剥離も抑制できることとなる。
本発明は、以上の知見に基づき完成された。
[1]レンズ基材上に、三層以上の硬化被膜が水系樹脂層を介して累積成膜された積層構造を有し、該硬化被膜間に存在する水系樹脂層の膜厚は0.5μm以下であることを特徴とする眼鏡レンズ。
[2]硬化被膜の表層側表面はプラズマ処理面である[1]に記載の眼鏡レンズ。
[3]前記硬化被膜は、有機ケイ素化合物および金属酸化物粒子を含む熱硬化性組成物を加熱処理することで形成された硬化被膜である[1]または[2]に記載の眼鏡レンズ。
以下、本発明の眼鏡レンズについて、更に詳細に説明する。
本発明の眼鏡レンズにおいて、表層側からレンズ基材側に向かって、「硬化被膜/水系樹脂層/(硬化被膜/水系樹脂層)n/硬化被膜/任意に設けられる機能性膜(例えば水系樹脂層)/レンズ基材」の層構成において、nは1以上の整数であり、例えば1〜8の範囲の整数であることができる。上記積層構造の層厚を、例えば5μm〜50μmの範囲とすることで、厚膜の硬化被膜と同等の機能を持たせることができるうえに、単層厚膜の硬化被膜におけるクラック発生という課題の解決も可能となる。
(R1)a(R3)bSi(OR2)4-(a+b) ・・・(I)
R2で表される炭素数1〜4のアシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、オレイル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
R2で表される炭素数6〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基、キシリル基、トリル基等が挙げられる。
R3で表される炭素数1〜6のアルキル基は、直鎖または分岐のアルキル基であって、具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
R3で表される炭素数6〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基、キシリル基、トリル基等が挙げられる。
上記一般式(I)で表される化合物の具体例としては、特開2007−077327号公報段落[0073]に記載されているものを挙げることができる。一般式(I)で表される有機ケイ素化合物は硬化性基を有するため、塗布後に硬化処理を施すことにより、硬化膜としてハードコート層を形成することができる。
以下の実施例および比較例では、スピンコーターとしてミカサ株式会社製1H-DX IIを使用し、レンズ基材上に形成した全層の総膜厚は分光計により測定し、各層の膜厚は成膜条件から算出した。
1.ハードコート形成用塗布液の調製
有機ケイ素化合物γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製KBM−403)17質量部にメタノールを溶媒として30質量部添加した。
これを10分間撹拌した後にpH調整剤として1mol/Lの硝酸を1.2質量部添加し、さらに10分間撹拌した。こうして得られた溶液にコロイダルシリカ(GRACE社製ルドックスAM)44質量部を添加し24時間室温で撹拌した。
24時間撹拌後、硬化剤としてアルミニウムアセチルアセトナート1質量部とレベリング剤(東レ・ダウコーニング株式会社製FZ−77)0.1質量部を添加し、さらに48時間室温撹拌してハードコート形成用塗布液を調製した。得られた塗布液の粘度は9mPa・S(20℃)であった。
HOYA株式会社製プラスチックレンズ(商品名「ニュールックス」)の平面上に、以下の方法でスピンコート法により水系ポリウレタン樹脂層を形成した。
水系ポリウレタン樹脂組成物として、株式会社ADEKA製商品名アデカボンタイターHUX−232(ポリエステルポリオールを基本骨格にもちカルボキシル基を含有する末端イソシアネートプレポリマーを水に分散させた結果得られた水分散液、固形分30質量%、樹脂成分の粒径0.1μm未満、25℃での粘度20mPa・s、25℃でのpH8.5)をプロピレングリコールモノメチルエーテルにて6倍に希釈したものを使用した。滴下量約1cc、スピンコート回転条件を500rpm/5sec→2000rpm/15secとして、上記組成物をレンズ平面上にスピンコートにより塗布した後、レンズを加熱炉内(炉内温度60℃)で20分間加熱処理することにより乾燥させて膜厚0.6μmのプライマー層(水系樹脂層)を形成した。
(1)上記2.で形成したプライマー層を加熱炉から取り出した後に約5分間放冷した。その後、プラズマ処理装置(サムコ社製コンパクトエッチャー)を使用し、プライマー層表面をプラズマ処理した(プラズマ処理条件:20W/20sec、O2流量:20sccm)。
(2)プライマー層のプラズマ処理面に、上記1.で調製したハードコート形成用塗布液を、滴下量約1.5cc、スピンコート回転条件を200rpm/3sec→500〜1200rpm/5secとしてスピンコートにより塗布した。塗布後、レンズを加熱炉内(炉内温度60℃)で20分間加熱処理することで予備硬化させた。加熱炉内から取り出したレンズを約5分間放冷し、上記と同様の方法で予備加熱後のハードコート層表面をプラズマ処理した。
(3)上記ハードコート層プラズマ処理面に、上記2.で調製した水系ポリウレタン樹脂組成物を滴下量約1ccの、スピンコート回転条件を500rpm/5sec→500rpm以上/15secとしてスピンコートにより塗布した後、レンズを加熱炉内(炉内温度60℃)に配置し20分間加熱処理することで乾燥させてプライマー層(水系樹脂層)を形成した。その後、形成したプライマー層表面に、上記と同様の方法でプラズマ処理を施した。
(4)上記(3)で形成したプライマー層のプラズマ処理面に、上記(2)と同様の方法でハードコート層の形成およびプラズマ処理を行った。
(5)上記(4)で形成したハートコート層のプラズマ処理面に、上記(3)と同様の方法でプライマー層(水系樹脂層)の形成およびプラズマ処理を行った。
(6)上記(5)で形成したプライマー層のプラズマ処理面に、上記(2)と同様の方法でハードコート層の形成を行った。
(7)以上の工程でレンズ基材上にプライマー層とハードコート層を積層したレンズを、加熱炉内(炉内温度100℃)に配置し120分間加熱処理することで、各ハードコート層を本硬化させた。
上記3.において層間プライマー層の形成を行わなかった点以外は同様として、レンズ基材側から表層に向かって、プライマー層1/ハードコート層1/ハードコート層2/ハードコート層3、がこの順に累積成膜された眼鏡レンズを得た。比較例5の眼鏡レンズにおける各ハードコート層の膜厚は2.4μmであった。
連続荷重式引っ掻き試験機を用いて、以下の方法により層間剥離荷重値、破壊荷重値を測定した。
測定対象レンズを連続荷重式引っ掻き試験機に設置し、最表層の硬化被膜表面上で傷つけツールを水平方向0.25mm/secで移動させ、垂直方向に0.25g/secで連続的に荷重をかけることにより表面に傷をつけ、その時の垂直方向分力および水平方向分力を同時に計測し、その波形より層間剥離荷重値および破壊荷重値を求めた。水平方向分力の波形から発生している現象(層間剥離、ハードコート破壊)を判断することができ、当該現象が発生した垂直方向分力を層間剥離荷重値、ハードコート層破壊荷重値として決定した。傷つけツールは多結晶ダイヤモンドバイト(先端径R0.06mm)を使用した。
得られた結果を、プライマー層2、3の膜厚に対してプロットしたグラフが図1である。下記表1に、図1に示した層間剥離荷重値とハードコート破壊荷重値の大小関係を示す。
上記実施例、比較例の眼鏡レンズをQ−Lab社製QUV紫外線蛍光管式促進耐候試験機において紫外線照射と暗所での結露発生のサイクルを250時間繰り返した後、蛍光灯下でハードコート層におけるクラックの有無を評価したところ、比較例1〜4の眼鏡レンズでは重度のクラックが発生していたのに対し、実施例1、2の眼鏡レンズではクラックは確認されなかった。また、層間にプライマー層を形成しなかった比較例5の眼鏡レンズでは、層間剥離の発生が確認された。
Claims (5)
- レンズ基材上に、三層以上の硬化被膜が水系ポリウレタン樹脂層を介して累積成膜された積層構造を有し、
前記硬化被膜は、有機ケイ素化合物および金属酸化物粒子を含む硬化性組成物を硬化した硬化被膜であり、かつ
前記硬化被膜間に存在する水系ポリウレタン樹脂層の膜厚は0.5μm以下であることを特徴とする眼鏡レンズ。 - 硬化被膜の表層側表面はプラズマ処理面である請求項1に記載の眼鏡レンズ。
- 眼鏡レンズの製造方法であって、
前記眼鏡レンズは、レンズ基材上に、三層以上の硬化被膜が水系ポリウレタン樹脂層を介して累積成膜された積層構造を有し、該硬化被膜間に存在する水系ポリウレタン樹脂層の膜厚は0.5μm以下である眼鏡レンズであり、
前記硬化被膜を、有機ケイ素化合物および金属酸化物粒子を含む硬化性組成物を硬化することにより形成することを含む、前記眼鏡レンズの製造方法。 - 前記硬化を、加熱処理により行う請求項3に記載の眼鏡レンズの製造方法。
- 前記眼鏡レンズに含まれる前記硬化被膜の表層側表面はプラズマ処理面である、請求項3または4に記載の眼鏡レンズの製造方法。
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