JP2008064243A - ころおよびスラストころ軸受 - Google Patents
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Abstract
【課題】軸受機能を向上することができるころを提供する。
【解決手段】ころ11には、浸炭窒化処理が施されており、ころ11の外径面13に設けられたフルクラウニングは、第一のクラウニング14aと、第二のクラウニング14bと、第三のクラウニング14cとを含む。ころ11の転動軸心方向の長さがころ11の径方向の長さの2倍以下である場合には、ころ11の端面12aからころの転動軸心方向の長さの32%の位置における第一のクラウニング14aの曲率半径R1は、R551〜R1000であり、ころ11の端面12aからころの転動軸心方向の長さの23%の位置における第二のクラウニング14bの曲率半径R2は、R321〜R550であり、ころ11の端面12aからころの転動軸心方向の長さの15%の位置における第三のクラウニング14cの曲率半径R3は、R200〜R320である。
【選択図】図1
【解決手段】ころ11には、浸炭窒化処理が施されており、ころ11の外径面13に設けられたフルクラウニングは、第一のクラウニング14aと、第二のクラウニング14bと、第三のクラウニング14cとを含む。ころ11の転動軸心方向の長さがころ11の径方向の長さの2倍以下である場合には、ころ11の端面12aからころの転動軸心方向の長さの32%の位置における第一のクラウニング14aの曲率半径R1は、R551〜R1000であり、ころ11の端面12aからころの転動軸心方向の長さの23%の位置における第二のクラウニング14bの曲率半径R2は、R321〜R550であり、ころ11の端面12aからころの転動軸心方向の長さの15%の位置における第三のクラウニング14cの曲率半径R3は、R200〜R320である。
【選択図】図1
Description
この発明は、ころおよびスラストころ軸受に関するものである。
回転軸を支持するころ軸受において、スラスト荷重が負荷される場合には、スラストころ軸受が使用される。カーエアコン用コンプレッサやオートマチックトランスミッション、マニュアルトランスミッション及びハイブリッド自動車等に使用されるスラストころ軸受は、近年の省燃費化や小型化、高出力化の要求により、高速回転、希薄潤滑環境等、過酷な使用環境下でも使用に耐えうる特性が要求される。過酷な使用環境に耐えうるスラストころ軸受が、特許3604458(特許文献1)や特許3661133(特許文献2)に開示されている。
特許3604458(段落番号0018、図3)
特許3661133(段落番号0020〜0021、図1、図2)
特許文献1によると、スラストころ軸受は、ころおよびレース(軌道輪)を有する。ころの転動軸心方向の外周面には、曲率の異なる第一および第二のクラウニングが設けられている。こうすることにより、軌道輪の撓みに応じて、接触面圧を小さくし、過大負荷の発生を抑制して、軸受機能の安定化および寿命の向上を図っている。しかし、ころの径方向の長さところの転動軸心方向の長さとの関係が不明であり、ころのサイズに応じて、最適なクラウニングを形成することができない。
ここで、特許文献2に開示のスラスト針状ころ軸受に含まれるころは、ころの径方向の長さところの転動軸心方向の長さの比が1.2〜2.0であって、軌道面との接触長さがころの転動軸心方向の長さの3/4以下となるようにクラウニングが設けられている。こうすることにより、ころの姿勢を安定させ、寿命の向上等を図ることにしている。
しかし、ころに設けられるクラウニングは部分クラウニングであり、ころの転動軸心方向にクラウニングが設けられていない部分もある。そうすると、上記した過酷な使用環境下において、種々の不具合を生じるおそれがある。
この発明の目的は、軸受機能を向上することができるころを提供することである。
この発明の他の目的は、軸受機能を向上したスラストころ軸受を提供することである。
この発明に係るころは、外径面にフルクラウニングが設けられている。ころには、浸炭窒化処理が施されている。フルクラウニングは、ころの転動軸心方向の中央に設けられる第一のクラウニングと、第一のクラウニングに連なるように第一のクラウニングの両端面側に設けられる第二のクラウニングと、第二のクラウニングに連なるように第二のクラウニングの両端面側に設けられる第三のクラウニングとを含む。ここで、ころの転動軸心方向の長さがころの径方向の長さの2倍以下である場合には、ころの両端面からころの転動軸心方向の長さの32%の位置における第一のクラウニングの曲率半径R1は、R551〜R1000であり、ころの両端面からころの転動軸心方向の長さの23%の位置における第二のクラウニングの曲率半径R2は、R321〜R550であり、ころの両端面からころの転動軸心方向の長さの15%の位置における第三のクラウニングの曲率半径R3は、R200〜R320である。また、ころの転動軸心方向の長さがころの径方向の長さの2倍よりも長く3倍未満である場合には、ころの両端面からころの転動軸心方向の長さの22%の位置における第一のクラウニングの曲率半径R4は、R561〜R670であり、ころの両端面からころの転動軸心方向の長さの16%の位置における第二のクラウニングの曲率半径R5は、R421〜R560であり、ころの両端面からころの転動軸心方向の長さの12%の位置における第三のクラウニングの曲率半径R6は、R310〜R420である。
このようなころは、サイズに応じて、負荷される荷重を適切に受けることができる。具体的には、ころの転動軸心方向の長さところの径方向の長さの比に応じて、比較的小さな荷重を受ける場合には、大きい曲率半径の第一のクラウニングで荷重を受けることができる。また、比較的大きな荷重や、軸受取付座面の撓みや傾きが小さい場合には、大きい曲率半径の第一のクラウニングおよびやや大きい曲率半径の第二のクラウニングで荷重を受けることができる。さらに大きな荷重や、軸受取付座面の撓みや傾きが大きい場合には、大きい曲率半径の第一のクラウニング、やや大きい曲率半径の第二のクラウニングおよび小さい曲率半径の第三のクラウニングで荷重を受けることができる。そうすると、様々な荷重負荷条件に対して、曲率半径の異なる各クラウニングで適切に荷重を受けることができる。
また、浸炭窒化処理が施されているため、強度や靭性等を向上させることができる。
したがって、寿命や静粛性の向上、トルクの軽減等を図ることができ、軸受機能を向上させることができる。
この発明の他の局面においては、スラストころ軸受は、上記したころと、中央に穴が形成されている円板形状の部材であって、厚み方向に貫通してころを収容する複数のポケット、およびポケットの径方向外側の壁面の径方向外側に位置し、円板の外周に沿って軸方向に延びる外周鍔部を含む保持器とを備える。ころは、端面に転動軸心方向に膨出した曲面を有する。外周鍔部は、径方向内側の壁面にころの端面を案内する案内面を有する。
上記構成のスラストころ軸受は、軸受回転時にころの端面に形成された曲面の頂上と、外周鍔部に設けられた案内面とが接触する。ここで、ころの端面の周速は、ころの回転軸心(ころ径の中心)が最も小さく、径方向外側に向かって大きくなる。そこで、曲面の頂上ところの回転軸心とを一致させることによって、ころ端面と保持器案内面との接触部分のPV値を低下させることができ、接触部分の摩耗を有効に抑制することができる。なお、「PV値」とは、ころ端面と保持器案内面との接触面圧P(MPa)と、すべり速度V(m/min)とを乗じた値を指す。
また、上記構成の保持器は、曲げ加工によって保持器の形状を形成した後にポケットの打ち抜き加工を行うことができるので、高精度の加工が行いやすい。その結果、製造コストを低減したスラストころ軸受を得ることができる。
好ましくは、ポケットの径方向外側の壁面は、中央が径方向外側に膨出する曲面を含み、外周鍔部の径方向内側の壁面は、複数のポケットそれぞれの径方向外側の壁面に形成された曲面の頂上に接する円上から軸方向に立ち上がってころの端面を案内する案内面を含む。
このように構成することによっても、軸受回転時にころの端面に形成された曲面の頂上と外周鍔部の径方向内側の壁面に形成された案内面とが接触する。したがって、ころ端面と保持器案内面との接触部分のPV値を低下させることができ、接触部分の摩耗を有効に抑制することができる。
さらに好ましくは、外周鍔部は、径方向内側の壁面にころの端面を案内する案内面を有し、外周鍔部からポケットに至る領域には、外周鍔部からポケットの径方向外側の壁面に向けて傾斜する傾斜面が設けられている。
このように構成することによっても、軸受回転時にころの端面に形成された曲面の頂上と外周鍔部の径方向内側の壁面に形成された案内面とが接触する。したがって、ころ端面と保持器案内面との接触部分のPV値を低下させることができ、接触部分の摩耗を有効に抑制することができる。
また、傾斜面を設けたことによって、外周鍔部からポケットに至る領域を大きくしてもころの端面がポケットの径方向外側の壁面に接触するのを防止することができる。その結果、製造コストを低減したスラストころ軸受を得ることができる。
さらに好ましくは、ポケットは、ころの転動面に対面する壁面にころのポケットからの脱落を防止する複数の抜け止め部と、隣接する抜け止め部の間にころの転動面を案内する複数の案内部とを有し、ポケットの径方向外側の壁面から複数の案内部のうちの径方向外側に位置する案内部までの距離をL14、ポケットの径方向内側の壁面から複数の案内部のうちの径方向内側に位置する案内部までの距離をL16とすると、L14>L16を満たす。
上記構成のように、案内部を径方向内側に移動させたことにより、ころの径方向外側を向く端面の動きが自由になる。その結果、ポケットの径方向外側の端面との接触部分の発熱量が低下し、高速回転、希薄潤滑環境等、過酷な使用環境下において長寿命なスラストころ軸受を得ることができる。
このようなころは、サイズに応じて、負荷される荷重を適切に受けることができる。そうすると、様々な荷重負荷条件に対して、曲率半径の異なる各クラウニングで適切に荷重を受けることができる。また、浸炭窒化処理が施されているため、強度や靭性等を向上させることができる。したがって、寿命や静粛性の向上、トルクの軽減を図ることができ、軸受機能を向上させることができる。
また、この発明に係るスラストころ軸受によれば、寿命や静粛性の向上を図ることができると共に、トルクの軽減も図ることができ、軸受機能を向上させることができる。
以下、この発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は、ころの転動軸心方向の長さがころの径方向の長さの2倍以下であるころを、ころの転動軸心を含む平面で切断した場合のころの一部を示す断面図である。ころ11の転動軸心方向の長さLwは、ころ11の径方向の長さDwの2倍以下である。すなわち、Lw/Dw≦2の関係を有する。
図1を参照して、ころ11は、転動軸心方向の両端に位置する両端面12a、12bと、転動面となる外径面13を有する。ころ11の両端面12a、12bは、F端面、すなわち、平らな端面である。
外径面13には、フルクラウニングが設けられている。フルクラウニングとは、ころ11の面取り部を除いた転動軸心方向の全域に対して、クラウニングが設けられた形状をいう。フルクラウニングは、ころ11の転動軸心方向の中央に設けられる第一のクラウニング14aと、第一のクラウニング14aに連なるように第一のクラウニング14aの両端面12a、12b側に設けられる第二のクラウニング14bと、第二のクラウニング14bに連なるように第二のクラウニング14bの両端面12a、12b側に設けられる第三のクラウニング14cとを含む。すなわち、第一〜第三のクラウニング14a〜14cは、滑らかに連なるように設けられている。
ここで、ころの転動軸心方向の長さLwの32%を長さL1とすると、ころ11の一方の端面12aからL1の位置における第一のクラウニング14aの曲率半径R1は、R551〜R1000である。他方の端面12b側においても同じ構成である。すなわち、第一のクラウニング14aは、ころ11の両端面12a、12bからころの転動軸心方向の長さLwの32%の位置における曲率半径R1が、R551〜R1000となるように設けられている。
また、ころの転動軸心方向の長さLwの23%を長さL2とすると、ころ11の一方の端面12aからL2の位置における第二のクラウニング14bの曲率半径R2は、R321〜R550である。他方の端面12b側においても同じ構成である。すなわち、第二のクラウニング14bは、ころ11の両端面12a、12bからころの転動軸心方向の長さLwの23%の位置における曲率半径R2が、R321〜R550となるように設けられている。
また、ころの転動軸心方向の長さLwの15%を長さL3とすると、ころ11の一方の端面12aからL3の位置における第三のクラウニング14cの曲率半径R3は、R200〜R320である。他方の端面12b側においても同じ構成である。すなわち、第三のクラウニング14cは、ころ11の両端面12a、12bからころの転動軸心方向の長さLwの15%の位置における曲率半径R3が、R200〜R320となるように設けられている。
このように構成することにより、ころ11は、負荷される荷重を適切に受けることができる。具体的には、比較的小さな荷重を受ける場合には、大きい曲率半径R1の第一のクラウニング14aで荷重を受けることができる。また、比較的大きな荷重や、軸受取付座面の撓みや傾きが小さい場合には、大きい曲率半径R1の第一のクラウニング14aおよびやや大きい曲率半径R2の第二のクラウニング14bで荷重を受けることができる。さらに大きな荷重や、軸受取付座面の撓みや傾きが大きい場合には、大きい曲率半径R1の第一のクラウニング14a、やや大きい曲率半径R2の第二のクラウニング14bおよび小さい曲率半径R3の第三のクラウニング14cで荷重を受けることができる。そうすると、様々な荷重負荷条件に対して、曲率半径の異なる第一〜第三のクラウニング14a〜14cで適切に荷重を受けることができる。
ここで、一方の端面12aからころ11の外径面13の頂点15までのころ11の転動軸心方向の長さをaとし、他方の端面12bからころ11の外径面13の頂点15までのころ11の転動軸心方向の長さをbとすると、その長さの差|a−b|を、ころの転動軸心方向の長さLwの4%以下とする。こうすることにより、双方の端面12a、12b側に設けられた左右の第一、第二および第三のクラウニング14a、14b、14cに対し、ころ11に負荷された荷重をほぼ均等に分配して受けることができる。したがって、ころ11の挙動を安定させることができる。
また、第一、第二および第三のクラウニング14a〜14cが設けられた部分でのころ11の真円度を、それぞれ1.5μm以下とすることが好ましい。さらに、一方の端面12a側に設けられたクラウニングと、他方の端面12b側に設けられたクラウニングとのクラウニング量の差は、1μm以下とすることが好ましい。このように構成することにより、さらに軸受機能の向上を図ることができる。なお、クラウニング量とは、ころ11の外径面13の頂点15において、ころ11の転動軸心と平行に仮想の直線を引き、その仮想直線から上記した左右の第一〜第三のクラウニング14a〜14cまでのL1、L2、L3の位置におけるそれぞれの最短の長さをいう。
図2は、ころの転動軸心方向の長さがころの径方向の長さの2倍より長く3倍未満のころを、ころの転動軸心を含む平面で切断した場合のころの一部を示す断面図であり、図1に対応する。ころ16の転動軸心方向の長さLw’は、ころ16の径方向の長さDw’の2倍よりも長く3倍未満である。すなわち、2<Lw’/Dw’<3の関係を有する。
図2を参照して、上記したころ11と同様、ころ16の外径面18には、フルクラウニングが設けられている。フルクラウニングは、ころ16の転動軸心方向の中央に設けられる第一のクラウニング19aと、第一のクラウニング19aに連なるように第一のクラウニング19aの両端面17a、17b側に設けられる第二のクラウニング19bと、第二のクラウニング19bに連なるように第二のクラウニング19bの両端面17a、17b側に設けられる第三のクラウニング19cとを含む。第一〜第三のクラウニング19a〜19cは、滑らかに連なるように設けられている。
ここで、ころの転動軸心方向の長さLw’の22%を長さL4とすると、ころ16の一方の端面17aからL4の位置における第一のクラウニング19aの曲率半径R4は、R561〜R670である。他方の端面17b側においても同じ構成である。すなわち、第一のクラウニング19aは、ころ16の両端面17a、17bからころの転動軸心方向の長さLw’の22%の位置における曲率半径R4が、R561〜R670となるように設けられている。
また、ころの転動軸心方向の長さLw’の16%を長さL5とすると、ころ16の一方の端面17aからL5の位置における第二のクラウニング19bの曲率半径R5は、R421〜R560である。他方の端面17b側においても同じ構成である。すなわち、第二のクラウニング19bは、ころ16の両端面17a、17bからころの転動軸心方向の長さLw’の16%の位置における曲率半径R5が、R421〜R560となるように設けられている。
また、ころの転動軸心方向の長さLw’の12%を長さL6とすると、ころ16の一方の端面17aからL6の位置における第三のクラウニング19cの曲率半径R6は、R310〜R420である。他方の端面17b側においても同じ構成である。すなわち、第三のクラウニング19cは、ころ16の両端面17a、17bからころの転動軸心方向の長さLw’の12%の位置における曲率半径R6が、R310〜R420となるように設けられている。
このように構成することにより、上記したころ11と同様に、ころの転動軸心方向の長さがころの径方向の長さの2倍よりも長く3倍未満であるころ16は、負荷される荷重を適切に受けることができる。そうすると、様々な荷重負荷条件に対して、曲率半径の異なる第一〜第三のクラウニング19a〜19cで適切に荷重を受けることができる。
また、一方の端面17aからころ16の外径面18の頂点20までのころ16の転動軸心方向の長さをa’とし、他方の端面17bからころ16の外径面18の頂点20までのころ16の転動軸心方向の長さをb’とすると、その長さの差|a’−b’|を、ころの転動軸心方向の長さLw’の3%以下とする。こうすることにより、双方の端面17a、17b側に設けられた左右のクラウニングに対し、ころ16に負荷された荷重をほぼ均等に分配して受けることができる。したがって、ころ16の挙動を安定させることができる。
また、この場合も同様に、第一、第二および第三のクラウニング19a〜19cが設けられた部分でのころ16の真円度を、それぞれ1.5μm以下とすることが好ましい。さらに、一方の端面17a側に設けられたクラウニングと、他方の端面17b側に設けられたクラウニングとのクラウニング量の差は、1μm以下とすることが好ましい。
次に、上記した構成のころを含むスラストころ軸受と、従来のころを含むスラストころ軸受との寿命試験、音響試験およびトルク試験を行った。寿命試験、音響試験においては、実施例および比較例のすべてについて、ころの外径面にフルクラウニングが設けられたころを使用している。また、トルク試験においては、寿命試験および音響試験に用いたころ、すなわち、ころの外径面にフルクラウニングが設けられたころ以外に、比較例の追加として、ころの外径面に部分クラウニングが設けられたころについても試験している。表1および表2は、実施例1、2と比較例1〜8の構成を示す。表1において示す実施例1および比較例1〜4は、ころの転動軸心方向の長さがころの径方向の長さの2倍以下であるころである。また、表2において示す実施例2および比較例5〜8は、ころの転動軸心方向の長さがころの径方向の長さの2倍より長く3倍未満であるころである。なお、以下の評価試験に関して、用いた軸受サイズについては、ころの転動軸心方向の長さがころの径方向の長さの2倍以下の場合は、内径φ41mm×外径φ55.6mm×幅(ころの径方向の長さ)3mmとし、ころの本数を32本とする。また、ころの転動軸心方向の長さがころの径方向の長さの2倍より長く3倍未満の場合は、内径φ41mm×外径φ60.4mm×幅(ころの径方向の長さ)3mmとし、ころの本数を32本とする。なお、以下の表中、「ころ長さ」とは、「ころの転動軸心方向の長さ」を示す。
次に、寿命試験の試験条件を表3に、試験結果を表4および表5に示す。なお、寿命試験の試験結果については、実施例1、2の寿命を1とした寿命比で示している。
表1〜表5を参照して、実施例1と比較例1、実施例2と比較例5とを比較すると、比較例1の寿命は、0.71、比較例5の寿命は、0.64であり、いずれも寿命が短くなっている。これには、以下の理由が考えられる。比較例1、5は、実施例1、2に対して、ころの外径面の頂点の位置が、ころの転動軸心方向の中央位置からずれているため、ころの挙動が安定しない。そうすると、ころがスキューしやすくなり、ころの滑りが生じてしまう。したがって、油膜切れを引き起こし、金属接触となって接触部が発熱し、表面損傷や表面起点型の剥離が発生したためである。
実施例1と比較例2、実施例2と比較例6とを比較すると、比較例2の寿命は、0.83、比較例6の寿命は、0.88であり、いずれも寿命が短くなっている。これには、以下の理由が考えられる。比較例2、6は、実施例1、2に対して、各クラウニングの真円度の値が大きい。各クラウニングの真円度の値が大きいと、ころの転動方向の回転が不安定となる。したがって、ころの挙動が安定せず、円滑に回転することができないためである。また、局部的に接触している部分が増加するため、局部的に接触面圧が高くなり、内部起点型の剥離が発生したためである。
実施例1と比較例3、実施例2と比較例7とを比較すると、比較例3の寿命は、0.36、比較例7の寿命は、0.29であり、いずれも寿命が短くなっている。これには、以下の理由が考えられる。比較例3、7は、実施例1、2に対して、各クラウニングRが小さく構成されている。したがって、ころの挙動が不安定となり、さらに、全体的に接触面圧が高くなり、内部起点型の剥離が発生したためである。
実施例1と比較例4、実施例2と比較例8とを比較すると、比較例4の寿命は、0.22、比較例8の寿命は、0.14であり、いずれも寿命が短くなっている。これには、以下の理由が考えられる。比較例4、8は、実施例1、2に対して、各クラウニングRが大きく構成されている。そうすると、全体的に接触面圧が低くなるが、エッジロードが発生する。したがって、局部的に接触面圧は高くなり、内部起点型の剥離が発生したためである。また、スキューにより、ころの滑りが発生しやすくなる。したがって、油膜切れを引き起こし、金属接触となって接触部が発熱し、表面損傷や表面起点型の剥離が発生したためである。
上記より、比較例1〜4に対して実施例1の方が寿命が長く、比較例5〜8に対して、実施例2の方が寿命が長い。
次に、音響試験の試験条件を表6に、試験結果を表7および表8に示す。また、音響試験の試験結果については、音響値は、試験回数を10回とした場合の平均値である。
表6〜表8を参照して、実施例1と比較例1、実施例2と比較例5とを比較すると、実施例1の音響値は、65.2dBAであるのに対して、比較例1の音響値は、72.6dBAであり、実施例2の音響値は、66.0dBAであるのに対して、比較例5の音響値は、72.3dBAであり、いずれも音響値が高くなっている。これには、以下の理由が考えられる。比較例1、5は、実施例1、2に対して、ころの外径面の頂点の位置が、ころの転動軸心方向の中央位置からずれている。したがって、ころの挙動が安定しないためである。
実施例1と比較例2、実施例2と比較例6とを比較すると、比較例2の音響値は、76.2dBA、比較例6の音響値は、77.4dBAであり、いずれも音響値が高くなっている。これには、以下の理由が考えられる。比較例2、6は、実施例1、2に対して、各クラウニングの真円度の値が大きい。各クラウニングの真円度の値が大きいと、ころの転動方向の回転が不安定となる。したがって、ころの挙動が安定せず、円滑に回転することができないためである。
実施例1と比較例3、実施例2と比較例7とを比較すると、比較例3の音響値は、71.9dBA、比較例7の音響値は、71.0dBAであり、いずれも音響値が高くなっている。これには、以下の理由が考えられる。比較例3、7は、実施例1、2に対して、各クラウニングRが小さく構成されている。したがって、ころの挙動が不安定であるためである。
実施例1と比較例4、実施例2と比較例8とを比較すると、比較例4の音響値は、65.3dBA、比較例8の音響値は、66.0dBAであり、いずれも実施例1、2と同程度である。これには、以下の理由が考えられる。比較例4、8は、実施例1、2に対して、各クラウニングRが大きく構成されている。したがって、ころの挙動が安定しているためである。
上記より、比較例1〜3に対して、実施例1の音響値の方が低く、比較例5〜7に対して、実施例2の音響値の方が低い。
次に、トルク試験の試験条件を表9に、試験結果を表10および表11に示す。また、トルク試験の試験結果については、実施例1、2の回転トルクを1とした回転トルク比で示している。また、比較例9として、ころの転動軸心方向の長さがころの径方向の長さの2倍以下であって、部分クラウニングが設けられた部分クラウニングころ、比較例10として、ころの転動軸心方向の長さがころの径方向の長さの2倍より長く3倍未満であって、部分クラウニングが設けられた部分クラウニングころを示している。
表9〜表11を参照して、実施例1と比較例1、実施例2と比較例5とを比較すると、比較例1の回転トルクは、1.4、比較例5の回転トルクは、1.4であり、いずれもトルクが高くなっている。これには、以下の理由が考えられる。比較例1、5は、実施例1、2に対して、ころの外径面の頂点の位置が、ころの転動軸心方向の中央位置からずれているため、ころの挙動が安定しない。したがって、ころがスキューしやすくなり、ころの滑りが生じてしまうためである。
実施例1と比較例2、実施例2と比較例6とを比較すると、比較例2の回転トルクは、1.0、比較例6の回転トルクは、1.0であり、いずれも実施例1、2と同程度である。これには、以下の理由が考えられる。比較例2、6は、実施例1、2に対して、各クラウニングの真円度が大きい。各クラウニングの真円度が大きいと、ころの挙動は安定しないが、ころの転動方向の回転が不安定となるだけで、ころの滑りが生じることはないためである。
実施例1と比較例3、実施例2と比較例7とを比較すると、比較例3の回転トルクは、1.1、比較例7の回転トルクは、1.1となり、いずれもトルクが高くなっている。これには、以下の理由が考えられる。比較例3、7は、実施例1、2に対して、各クラウニングRが小さく構成されている。したがって、ころの挙動が不安定となり、さらに、全体的に接触面圧が高くなり、弾性ヒステリシス損失が大きくなるためである。
実施例1と比較例4、実施例2と比較例8とを比較すると、比較例4の回転トルクは、1.7、比較例8の回転トルクは、1.9となり、いずれもトルクが高くなっている。これには、以下の理由が考えられる。比較例4、8は、実施例1、2に対して、各クラウニングRが大きく構成されている。したがって、ころのスキューにより、ころの滑りが発生しやすくなり、ころの滑りおよびころの滑りによる転がり粘性抵抗が大きくなるためである。
実施例1と比較例9、実施例2と比較例10とを比較すると、比較例9は、2.5、比較例10は、3.2となり、いずれもトルクが高くなっている。これには、以下の理由が考えられる。比較例9、10は、実施例1、2と比べて、有効接触長さが長い。したがって、スキューしやすく、ころの滑りが大きいためである。また、ころの挙動の安定度に関わらず、転がり粘性抵抗が高いためである。
上記より、比較例1、3、4、9に対して実施例1の方がトルクが低く、比較例5、7、8、10に対して、実施例2の方がトルクが低い。
以上より、スラストころ軸受に含まれるころを、上記のように構成することにより、寿命や静粛性を向上し、トルクを軽減させることができる。
なお、上記したころは、浸炭窒化処理を行うことにより、長寿命等を実現することができる。ころを840℃で2〜3時間浸炭窒化処理し、230℃で焼戻した後、上記したようにころにフルクラウニングを設ける。こうすることにより、ころの表層(表面から0.05mmまで)における残留オーステナイト量を、全体の15%〜35%とすることができる。したがって、強度や靭性等を向上させることができ、長寿命を実現して、さらに軸受機能を向上させることができる。
なお、スラストころ軸受に含まれ、上記したころを保持する保持器については、様々な構成のものが適用される。ここで、保持器の外周鍔部は、径方向内側の壁面にころの端面を案内する案内面を有するタイプの保持器であることが好ましい。
図3および図4を参照して、この発明の一実施形態に係るスラストころ軸受21を説明する。なお、図3はこの発明の一実施形態に係るスラストころ軸受21の平面図、図4は図3のIV−IVにおける断面図である。
スラストころ軸受21は、ころの外径面に上記したフルクラウニングを設けた複数のころ22と、隣接するころ22の間隔を保持する保持器23とを備えるケージ&ローラタイプの軸受であって、主にカーエアコン用コンプレッサ、オートマチックトランスミッション、マニュアルトランスミッション、およびハイブリッド自動車等に使用される。
ころ22は、円筒形状の転動面と、両端面に転動軸心方向に膨出した曲面を有する端面とを有する円筒ころである。端面形状は、JIS規格(Japanese Industrial Standards:B 1506)で規定されるA端面、またはAR端面であって、端面に形成された曲面の頂上はころ22の回転軸心と一致する。
保持器23は、中央に穴24が形成されている円板形状の部材であって、金属製の平板をプレス加工等によって折り曲げて形成されている。そして、穴24の外周に沿って形成される内周鍔部25と、保持器23の外周に沿って形成される外周鍔部28と、内周鍔部25および外周鍔部28の間にころ22を収容する複数のポケット27が形成されて径方向に延在する柱部26とを有する。
内周鍔部25は、保持器23の厚み方向一方側に向けて所定長さ折り曲げられた後、180°折り返して形成されている。また、内周鍔部25の穴24に対面する壁面は、回転軸に組み込まれたときに軸をガイドするガイド面25aとして機能する。なお、この発明において、内周鍔部25は必須の構成要素ではないが、内周鍔部25を設けることによって、保持器23の剛性が向上する。
柱部26は、保持器23の厚み方向に屈曲しながら径方向に延在し、厚み方向に貫通する複数のポケット27が長手方向を径方向に向けて軸受回転軸線に対して放射状に配置されている。
ポケット27は、ころ22の外形に沿う矩形形状であって、ポケット27のころ22の転動面に対面する壁面は、保持器23の厚み方向一方側の径方向中央部にころ22の軸方向一方側への抜けを防止する第1抜け止め部27aと、保持器23の厚み方向他方側の径方向両端部にころ22の軸方向他方側への抜けを防止する第2抜け止め部27bと、第1および第2抜け止め部27a,27bを連結する傾斜部27cとを有する。
第1および第2抜け止め部27a,27bは、ポケット27の長手方向一方側の壁面から他方側の壁面に向かって突出し、ころ22の転動面と当接して、保持器23の軸方向の変位を規制する。
外周鍔部28は、ポケット27の径方向外側の壁面27dのさらに径方向外側に位置し、内周鍔部25と同様に保持器23の厚み方向一方側に向けて所定長さ折り曲げられた後、180°折り返して形成されている。外周鍔部28を設けることによっても保持器23の剛性が向上する。さらに、外周鍔部28の径方向内側の壁面には、ころ22の端面を案内する案内面28aが形成されている。
次に、図5および図6を参照して、ころ22の端面と外周鍔部28に設けられた案内面28aとの関係について説明する。なお、図5は図4のP部の拡大図であってころ22の端面と案内面28aとが接触していない状態を示す図、図6は図4のP部の拡大図であってころ22の端面と案内面28aとが接触している状態を示す図である。また、両図とも上段は平面図、下段は側断面図を示す。
まず、図5を参照して、ポケット27の長手方向の長さは、ころ22のころ長さより僅かに長いので、軸受停止時においては、ころ22の径方向外側の端面と外周鍔部28の案内面28aとは接触していない場合がある。
案内面28aは、外周鍔部28の径方向内側の壁面のうち、両端の折り曲げ部分を除いた軸受回転軸線の方向に延びる円筒部分を指し、その軸方向長さをL11、ころ22のころ径をDとすると、L11/D>0.3を満たすように設定する。
保持器23は、ポケット27に第1および第2抜け止め部27a,27bを設けることによってころ案内となる。そのため、案内面28aの軸方向長さL11が短いと、保持器23が軸方向に偏ったときにころ22の端面が案内面28aから外れる恐れがある。そこで、案内面28aの軸方向長さL11を保持器23の軸方向の変位量より長く設定することにより、軸受回転時にころ22の端面が案内面28aに常に接触した状態とすることができる。なお、保持器23の軸方向の変位量は、抜け止め部27a,27bの突出量によって調整することができる。
一方、ころ22の転動面がスラストころ軸受21の厚み方向両側の軌道面と接触するためには、保持器23の厚み寸法L0がころ径Dより小さいことが必要となる。また、プレス加工で製造される保持器23においては、案内面28aの両端の折り曲げ部分をなくすことは困難である。したがって、案内面28aの軸方向長さL11は、L11<L0<Dを満たす範囲内で設定する必要がある。
また、保持器23をころ案内とすることによって、保持器23の厚み方向の壁面と軌道面とが非接触となるので、軸受回転時のトルク損失を抑えることができると共に、保持器23の厚み方向の壁面と軌道面との間の通油性が向上する。これにより、軸受回転時に生じる発熱量を低減することが可能となる。
次に、図6を参照して、ころ22は、スラストころ軸受21の回転に伴う遠心力によって径方向外側に移動する。このとき、ころ22の端面は、外周鍔部28に設けられた案内面28aとのみ接触し、ポケット27の径方向外側の壁面27dとは接触しない。具体的には、ころ22の端面に設けられた曲面の頂上と案内面28aとが接触する。
ここで、ころ22の端面の周速は、ころ22の回転軸心(ころ径の中心)が最も小さく、径方向外側に向かって大きくなる。したがって、ころ径の中心に一致する曲面の頂上と案内面28aとを接触させることによって、接触部分の摩耗を効果的に抑制することができる。
また、ころ22の端面と案内面28aとの接触部分の摩耗をさらに効果的に抑制する方法として、案内面28aの表面粗さRaをRa<2μmを満たすように設定する。同様に、ころ22の端面の表面粗さも上記範囲内とすることが望ましい。
次に、上記構成の保持器23の製造方法を説明する。保持器23は、炭素鋼等の鋼板を出発材料として、プレス加工によって製造される。まず、鋼板を円板形状に打ち抜くと共に中央に穴24を形成する。次に、曲げ加工によって、内周鍔部25、外周鍔部28、およびころ保持部となる柱部26となる部分を形成する。その後、打ち抜き加工によって、保持器23の厚み方向に貫通するポケット27、および第1および第2抜け止め部27a,27bを形成する。このとき、ポケット27は、一つずつ加工してもよいが、全てのポケット27を同時に加工することにより、加工時間を短縮できると共に、加工精度を向上することができる。最後に、案内面28aに研削加工を施して表面粗さを所定値以下にする。
上記の方法によって製造された保持器23には、硬度等の所定の機械的性質を得るために、軟窒化処理または浸炭焼入、焼戻し等の熱処理が施される。なお、上記に示した保持器23の加工は加工部分に潤滑油を供給しながら行うので、熱処理の前に保持器23の表面に付着した潤滑油の洗浄および乾燥を行っておくことが望ましい。
上記の製造工程のように外周鍔部28の曲げ加工の後にポケット27の打ち抜き加工を行うことにより、ポケット27の加工精度が向上する。これにより、ポケット27に収容されるころ22がスムーズに回転することができる。
なお、上記の保持器23の製造方法において、案内面28aの表面粗さを所定値以下にする方法として研削加工の例を示したが、これに限ることなく、他の方法を採用してもよい。例えば、バレル処理であってもよい。または、外周鍔部28を形成する際に使用するパンチとダイスとの間の隙間を、保持器23の板厚より2%〜3%程度小さくしてしごき加工することにより、外周鍔部28の形成と同時に案内面28aの表面粗さを上記範囲内とすることができる。
ただし、上記の順序で加工を行うためには、ポケット27の径方向外側の壁面27dが、外周鍔部28の径方向内側の壁面からある程度離れている必要がある。具体的には、ポケット27の径方向外側の壁面27dの外周鍔部28の径方向内側の壁面からの突出量δ1が20μm〜40μm程度必要である。そこで、突出量δ1をこの範囲内とした場合でもころ22の端面とポケット27の径方向外側の壁面とが接触しないように、ころ22のころ径、端面の曲率半径、保持器23の軸方向への変位量等を設定する必要がある。
上記構成とすることにより、ころ22と案内面28aとの接触部分の摩耗を抑制し、軸受回転時の発熱量を低下させることにより、カーエアコン用コンプレッサ、オートマチックトランスミッション、マニュアルトランスミッション、およびハイブリッド自動車等の高速回転、希薄潤滑環境等、過酷な使用環境下において、耐久性に優れ、かつ信頼性の高いスラストころ軸受21を得ることができる。
また、ポケットは、ころの外形に沿う略矩形形状であって、径方向外側の壁面は中央が径方向外側に膨出する曲面を含んでもよい。
図7および図8を参照して、ころ32の端面と外周鍔部38に設けられた案内面38aとの関係について説明する。なお、図7は、図3におけるQ部に相当する部分の拡大図、図8は、図4におけるP部に相当する部分の拡大図である。
まず、図7を参照して、外周鍔部38は、保持器33の外周に沿って設けられており、内周鍔部と同様に保持器33の厚み方向一方側に向けて所定長さ折り曲げられた後、180°折り返して形成されている。外周鍔部38を設けることによっても保持器33の剛性が向上する。さらに、外周鍔部38の径方向内側の壁面は、複数のポケット37それぞれの曲面の頂上に外接する円上から軸方向に立ち上がってころ32の端面を案内する案内面38aが形成されている。
ポケット37の径方向外側の壁面37dと案内面38aを含む外周鍔部38の径方向内側の壁面とは、壁面37dの曲面の頂上で接している。また、外周鍔部38に形成された案内面38aの曲率半径をR11、ポケット37の径方向外側の壁面37dに形成された曲面の曲率半径をR12、ころ32の端面に形成された曲面の曲率半径をR13とすると、R11>R12>R13を満たすように設定する。なお、(R11−10mm)<R12<R11を満たすように設定するのがさらに望ましい。
したがって、外周鍔部38の径方向内側の壁面を基準として、ポケット37の径方向内側の壁面37dの中央部の突出量は限りなく小さくなり、両端部に近づくにつれて突出量が大きくなっている。
次に、図8を参照して、ころ32は、スラストころ軸受31の回転に伴う遠心力によって径方向外側に移動する。このとき、ころ32の端面は、外周鍔部38に設けられた案内面38aとのみ接触し、ポケット37の径方向外側の壁面37dとは接触しない。
具体的には、ころ32の端面に設けられた曲面の頂上と案内面38aとが接触する。このとき、ころ32の端面に形成された曲面の曲率半径R13をポケット37の径方向外側の壁面37dに形成された曲面の曲率半径R12より小さく(R12>R13)設定しているので、ころ32の端面が壁面37dの案内面38aから突出する部分に接触することがない。
ここで、上記したように、ころ32の端面の周速は、ころ32の転動軸心(ころ径の中心)が最も小さく、径方向外側に向かって大きくなる。したがって、ころ径の中心に一致する曲面の頂上と案内面38aとを接触させることによって、接触部分の摩耗を効果的に抑制することができる。
さらに、案内面38aの軸方向長さをL12、ころ32のころ径をDとすると、L12/D>0.3を満たすように設定する。なお、案内面38aとは、外周鍔部38の径方向内側の壁面のうち、図8中の上側の折り曲げ部分を除いた軸受回転軸線方向に延びる円筒部分を指す。
一方、保持器33は、ポケット37に第1および第2抜け止め部を設けることによってころ案内となる。そのため、案内面38aの軸方向長さL12が短いと、保持器33が軸方向に偏ったときにころ32の端面が案内面38aから外れる恐れがある。
そこで、案内面38aの軸方向長さL12を保持器33の軸方向の変位量より長く設定することにより、軸受回転時にころ32の端面が案内面38aに常に接触した状態とすることができる。なお、保持器33の軸方向の変位量は、抜け止め部の突出量によって調整することができる。
一方、ころ32の転動面がスラストころ軸受31の厚み方向両側の軌道面と接触するためには、保持器33の厚み寸法L0がころ径Dより小さいことが必要となる。また、プレス加工で製造される保持器33においては、案内面38aの両端の折り曲げ部分をなくすことは困難である。したがって、案内面38aの軸方向長さL12は、L12<L0<Dを満たす範囲内で設定する必要がある。
また、保持器33をころ案内とすることによって、保持器33の厚み方向の壁面と軌道面とが非接触となるので、軸受回転時のトルク損失を抑えることができると共に、保持器33の厚み方向の壁面と軌道面との間の通油性が向上する。これにより、軸受回転時に生じる発熱量を低減することが可能となる。
また、外周鍔部からポケットに至る領域には、外周鍔部からポケットの径方向外側の壁面に向けて直線的に傾斜する傾斜面が設けるようにしてもよい。
図9および図10を参照して、ころ42の端面と外周鍔部48に設けられた案内面48aとの関係について説明する。なお、図9は図3のQ部および図4のP部の拡大図であってころ42の端面と案内面48aとが接触していない状態を示す図、図10は図3のQ部および図4のP部の拡大図であってころ42の端面と案内面48aとが接触している状態を示す図である。また、両図とも上段は平面図、下段は側断面図を示す。
カーエアコン用コンプレッサ、オートマチックトランスミッション、マニュアルトランスミッション、およびハイブリッド自動車等の高出力化に伴って負荷容量の高いスラストころ軸受41が求められている。スラストころ軸受41の負荷容量を高める方法としては、例えば、ころ42の本数を増やしたり、ころ42の有効長さ(転動面の長さを指す)を長くしたりすることが考えられる。
しかし、スラストころ軸受41の軸受サイズ(内外径、厚み寸法等)は、軸受の組み込みスペースによって決定される。また、ころ42の本数を増やすためには、隣接するポケット47の間の間隔を小さくする必要があるので、保持器43の剛性を維持する観点からは安易なころ本数の増加は適切でない。
したがって、スラストころ軸受41の負荷容量を高めるための現実的、かつ有効な方法としては、ころ長さを長くする方法がある。ただし、ころ42のころ長さを長くすると、軸受回転時にころ42の端面とポケット47の径方向外側の壁面47dとが接触し、接触部分にドリリング摩耗が発生する恐れがある。また、後述する保持器43の製造上の問題から、ポケット47と外周鍔部48との間にはある程度の隙間が必要である。
そこで、ころ42の端面とポケット47の径方向外側の壁面47dとが接触するのを防止する手段として、外周鍔部48からポケット47に至る領域には、外周鍔部48からポケット47の径方向外側の壁面47dに向けて直線的に傾斜する傾斜面47eが設けられている。具体的には、案内面48aの根元部分から径方向内側に向けて所定長さの平端部が設けられており、そのさらに径方向内側にポケット47の径方向外側の壁面47dに向けて徐々に板厚が薄くなる傾斜面47eが設けられている。この傾斜面47eを設けることにより、ころ42のころ長さを長くした場合でも、ころ42の端面とポケット47の径方向外側の壁面47dとの最小隙間δ2を、常にδ2>0の状態に維持することができる。なお、上述したように、案内面48aの軸方向長さL13は、L13<L0<Dを満たす範囲内で設定する必要がある。
ただし、保持器43の剛性を確保する観点から、保持器43の板厚をt0、ポケット47の径方向外側の壁面47dの厚み寸法をtとすると、t/t0>1/3を満たし、かつ傾斜面47eの案内面48aに対する傾斜角度θは、30°≦θ≦60°を満たすように設定する。
また、図11を参照して、ポケット57の径方向外側の壁面から2箇所の案内部57cのうちの径方向外側に位置する案内部57cまでの距離をL14、2箇所の案内部57cの間の距離をL15、ポケット57の径方向内側の壁面から2箇所の案内部57cのうちの径方向内側に位置する案内部57cまでの距離をL16とすると、L14>L16を満たすように設定することにしてもよい。なお、上記の各距離は保持器53の厚み方向中央部で測定したものである。すなわち、2箇所の第2抜け止め部57bのうちの径方向外側に位置する第2抜け止め部57bの長さを径方向内側に位置する第2抜け止め部57bの長さより長く設定する。
上記構成のスラストころ軸受51において、ころは、スラストころ軸受51の回転に伴う遠心力によってポケット57内を径方向外側に移動する。そこで、L14>L16とすることによってころの径方向外側を向く端面の動きを自由にすることにより、ころとポケット57との接触部分の発熱量が低下し、高速回転、希薄潤滑環境等、過酷な使用環境下においても長寿命なスラストころ軸受を得ることができる。
また、保持器53は、ポケット57に第1および第2抜け止め部57a,57bを設けることによってころ案内となる。これにより、保持器53の厚み方向の壁面と軌道面とが非接触となるので、軸受回転時のトルク損失を抑えることができると共に、保持器53の厚み方向の壁面と軌道面との間の通油性が向上する。これにより、軸受回転時に生じる発熱量を低減することが可能となる。
なお、上記構成のスラストころ軸受51は、鋼板を屈曲させて断面形状を略W形とした保持器を採用した例を示したが、これに限ることなく、任意の形状とすることができる。
また、上記の各実施形態における保持器53は、鋼板やアルミニウム合金をプレス加工して形成したものであってもよいし、樹脂材料を切削加工、又は、射出成形したものであってもよい。
また、上記の各実施形態におけるポケット57には、軸方向中央部の1箇所に厚み方向一方側に偏在する第1抜け止め部57aと、軸方向両端部の2箇所に厚み方向他方側に偏在する第2抜け止め部57bとを設けた例を示したが、これに限ることなく、ころの脱落を防止可能な任意の配置とすることができる。
次に、表12〜表15および図12を参照して、この発明の効果を確認するために行った試験について説明する。表12〜表14は効果確認試験に使用したスラストころ軸受の寸法等を規定した表、表15および図12は効果確認試験の結果を示す。
まず、表12〜表14は、効果確認試験に使用したスラストころ軸受のころサイズ毎の、ポケット内での径方向外側の壁面から径方向外側に位置する案内部57cまでの距離(L14)、2箇所に設けられた案内部57cの間の距離(L15)、および径方向内側の壁面から径方向内側に位置する案内部57cまでの距離を(L16)のポケット57の径方向寸法に対する割合を規定したものである。
なお、表12はこの発明の一実施形態に係るスラストころ軸受であって、L14>L16に設定したスラストころ軸受(実施例3)、表13は従来の一般的なスラストころ軸受であって、L14=L16に設定したスラストころ軸受(従来例)、表14は表12に示すスラストころ軸受の比較例としてL14<L16に設定したスラストころ軸受(比較例11)をそれぞれ示す。また、従来の一般的なスラストころ軸受(L14=L16)であって、表13に対してL15を大きくしたスラストころ軸受(比較例12)についても試験を行った。
なお、試験に使用するスラストころ軸受は、表12〜表14のうちのころサイズがφ3.0(mm)×7.8(mm)のもの、および同サイズの比較例12である。また、試験条件としては、基本動定格荷重をC(kN)、軸受荷重をP(kN)とすると、P/C=0.2の荷重を負荷した状態で、回転速度を1000(r/min),3000(r/min),5000(r/min),7000(r/min),9000(r/min)と変化させた時の軸受近傍温度を測定した。さらに、潤滑剤としてはATFオイルを使用し、100ml/minで強制循環とした。試験結果を表15および図12に示す。なお、表15の温度は、各軸受(実施例3、従来例、比較例11、比較例12)について上記の試験を10回行い、その結果の平均値を示している。
表15および図12を参照して、3000(r/min)以上の試験においては実施例3の軸受近傍温度が最も低く、L14<L16に設定した比較例11の軸受近傍温度が最も高い。すなわち、案内部を径方向内側に移動させて、ころの径方向外側を向く端面の動きを自由にする程、ころとポケットとの接触部分の発熱量が低下することが確認された。
また、各回転速度域での軸受近傍温度の差(最高温度と最低温度との差)は、回転速度が1000(r/min)での軸受近傍温度は1.8℃とほとんど差が無かったのに対し、3000(r/min)では10.7℃、5000(r/min)では23.1℃、7000(r/min)では37.5℃、9000(r/min)では55.7℃と、高速回転となるにつれて差が大きくなっている。すなわち、この発明は高速回転環境下でより有利な効果を奏することが確認された。
表12および表13を参照して、この発明の一実施形態に係るスラストころ軸受は、L14を従来のスラストころ軸受と比較して3.4%〜7.9%程度長く設定し、反対にL16を従来のスラストころ軸受と比較して3.4%〜7.9%程度短く設定する。これにより、案内部の位置を従来と比較して径方向内側に移動させることができる。
また、表12に示したこの発明の一実施形態に係るスラストころ軸受は、L14をL16の1.27倍〜1.72倍とし、効果確認試験で使用したスラストころ軸受においては1.31倍程度としている。この数値が小さ過ぎる(L14≒L16)と、この発明の効果を得ることが難しい。一方、この数値が大き過ぎる(L14>>L16)と、ころのポケット内での挙動が不安定となる。
また、表12に示したこの発明の一実施形態に係るスラストころ軸受において、L15をポケットの径方向寸法に対して40%〜45%程度としたが、この数値が大きすぎると、L14を十分に大きくすることができず、この発明の効果を得ることが難しい。一方、この数値をこれ以上小さくすることは、抜け止め部の加工の観点から困難である。
また、上記の実施形態において、ころの端面に形成された曲面の頂上ところの回転軸心とが一致する例を示したが、曲面の頂上が回転軸心近傍の比較的周速の小さい場所に位置していれば、両者が厳密に一致していなくともこの発明の効果を得ることはできる。
また、上記の実施形態において、内周鍔部および外周鍔部は、保持器の厚み方向一方側に向けて所定長さ折り曲げられた後、180°折り返して形成された例を示したが、これに限ることなく、保持器の剛性を向上する任意の形状とすることが可能である。
また、上記の実施形態において、保持器をころ案内とした例を示したが、これに限ることなく、軌道面案内の保持器であってもよい。
また、上記の実施形態におけるスラストころ軸受は、ころと保持器とからなるケージ&ローラタイプの軸受の例を示したが、これに限ることなく、軸方向の一方または両方を覆う軌道輪をさらに備えるものであってもよい。
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
この発明に係るころおよびスラストころ軸受は、寿命や静粛性が向上され、トルクの低減を図ることができるため、高速回転下において長寿命等が要求されるカーエアコン用コンプレッサやオートマチックトランスミッション、マニュアルトランスミッション及びハイブリッド自動車等に、有効に利用される。
11,16,22,32,42 ころ、12a,12b,17a,17b 端面、13,18 外径面、14a,19a 第一のクラウニング、14b,19b 第二のクラウニング、14c,19c 第三のクラウニング、15,20 頂点、21,31,41,51 スラストころ軸受、23,33,43,53 保持器、24 穴、25 内周鍔部、25a ガイド面、26 柱部、27,37,47,57 ポケット、27a,27b,57a,57b 抜け止め部、27c,47c,57c 傾斜部、27d,37d,47d 壁面、28,38,48 外周鍔部、28a,38a,48a 案内面、47e 傾斜面。
Claims (5)
- 外径面にフルクラウニングが設けられたころであって、
前記ころには、浸炭窒化処理が施されており、
前記フルクラウニングは、前記ころの転動軸心方向の中央に設けられる第一のクラウニングと、前記第一のクラウニングに連なるように前記第一のクラウニングの両端面側に設けられる第二のクラウニングと、前記第二のクラウニングに連なるように前記第二のクラウニングの両端面側に設けられる第三のクラウニングとを含み、
前記ころの転動軸心方向の長さが前記ころの径方向の長さの2倍以下である場合には、前記ころの両端面から前記ころの転動軸心方向の長さの32%の位置における前記第一のクラウニングの曲率半径R1は、R551〜R1000であり、前記ころの両端面から前記ころの転動軸心方向の長さの23%の位置における前記第二のクラウニングの曲率半径R2は、R321〜R550であり、前記ころの両端面から前記ころの転動軸心方向の長さの15%の位置における前記第三のクラウニングの曲率半径R3は、R200〜R320であり、
前記ころの転動軸心方向の長さが前記ころの径方向の長さの2倍よりも長く3倍未満である場合には、前記ころの両端面から前記ころの転動軸心方向の長さの22%の位置における前記第一のクラウニングの曲率半径R4は、R561〜R670であり、前記ころの両端面から前記ころの転動軸心方向の長さの16%の位置における前記第二のクラウニングの曲率半径R5は、R421〜R560であり、前記ころの両端面から前記ころの転動軸心方向の長さの12%の位置における前記第三のクラウニングの曲率半径R6は、R310〜R420である、ころ。 - 請求項1に記載のころと、
中央に穴が形成されている円板形状の部材であって、厚み方向に貫通してころを収容する複数のポケット、および前記ポケットの径方向外側の壁面の径方向外側に位置し、前記円板の外周に沿って軸方向に延びる外周鍔部を含む保持器とを備え、
前記ころは、端面に転動軸心方向に膨出した曲面を有し、
前記外周鍔部は、径方向内側の壁面に前記ころの端面を案内する案内面を有する、スラストころ軸受。 - 前記ポケットの径方向外側の壁面は、中央が径方向外側に膨出する曲面を含み、
前記外周鍔部の径方向内側の壁面は、複数の前記ポケットそれぞれの径方向外側の壁面に形成された前記曲面の頂上に接する円上から軸方向に立ち上がって前記ころの端面を案内する案内面を含む、請求項2に記載のスラストころ軸受。 - 前記外周鍔部は、径方向内側の壁面に前記ころの端面を案内する案内面を有し、
前記外周鍔部から前記ポケットに至る領域には、前記外周鍔部から前記ポケットの径方向外側の壁面に向けて傾斜する傾斜面が設けられている、請求項2または3に記載のスラストころ軸受。 - 前記ポケットは、前記ころの転動面に対面する壁面に前記ころの前記ポケットからの脱落を防止する複数の抜け止め部と、隣接する前記抜け止め部の間に前記ころの転動面を案内する複数の案内部とを有し、
前記ポケットの径方向外側の壁面から前記複数の案内部のうちの径方向外側に位置する案内部までの距離をL14、
前記ポケットの径方向内側の壁面から前記複数の案内部のうちの径方向内側に位置する案内部までの距離をL16とすると、
L14>L16
を満たす、請求項2〜4のいずれかに記載のスラストころ軸受。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2006244395A JP2008064243A (ja) | 2006-09-08 | 2006-09-08 | ころおよびスラストころ軸受 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2006244395A JP2008064243A (ja) | 2006-09-08 | 2006-09-08 | ころおよびスラストころ軸受 |
Publications (1)
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JP2008064243A true JP2008064243A (ja) | 2008-03-21 |
Family
ID=39287126
Family Applications (1)
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JP2006244395A Withdrawn JP2008064243A (ja) | 2006-09-08 | 2006-09-08 | ころおよびスラストころ軸受 |
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JP (1) | JP2008064243A (ja) |
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2012007644A (ja) * | 2010-06-23 | 2012-01-12 | Jtekt Corp | 摺動式トリポード型等速ジョイント |
-
2006
- 2006-09-08 JP JP2006244395A patent/JP2008064243A/ja not_active Withdrawn
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