JP2008056969A - 転がり軸受 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】軌道輪及び転動体の何れかの構成部材が、C:0.3〜1.2質量%、Si:0.3〜2.2質量%、Mn:0.2〜2.0質量%を含有し且つMo:2質量%以下、Ni:4質量%以下の何れか1種類以上の合金元素を含有する鋼に浸炭窒化処理又は窒化処理を施してなり、当該構成部材の表面層の窒化濃度を0.2〜2.0質量%、当該構成部材の表面層のSi・Mn系窒化物の面積率を1%以上20%以下とすることで、耐圧痕性、耐摩耗性を向上して長寿命化を図る。また、軌道輪軌道面の残留オーステナイト量をγrAB、転動体表面の残留オーステナイト量をγrCとした場合に、γrAB−15≦γrC≦γrAB+15とすることで、大型軸受の焼入れ性を確保する。
【選択図】図12
Description
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたものであり、鋼の成分、表面窒素濃度、Si・Mn系窒化物の適正化を図ることで、より長寿命で、耐圧痕性、耐摩耗性に優れる転がり軸受を提供することを目的とするものである。
数値の臨界的意義は以下の通りである。
本発明では、軌道輪(外方部材及び内方部材)又は転動体の表面層に所定の窒素を富化させるために浸炭窒化処理を行う。窒素は、炭素と同じように、マルテンサイトの固溶強化及び残留オーステナイトの安定確保に作用するだけでなく、窒化物又は炭窒化物を形成して耐圧痕性、耐摩耗性を向上させる作用がある。図1には耐圧痕性試験の様子を、図2には2円筒摩耗試験の様子を示す。耐圧痕性試験は、直径2mmの鋼球を試料に5GPaで押付けた後、圧痕の深さを測定する方法で行った。2円筒摩耗試験は、モータ12で直接駆動する高速側(駆動側)円筒試験片11を周速10min−1で回転し、低速側(従動側)円筒試験片13とモータ12との間には減速ギヤ14を介装して周速7min−1で回転することで強制的に滑りを与え、両試験片のトルクをトルク計15で検出しながら、試験開始から20時間後の駆動側、従動側円筒試験片の摩耗量の平均値を測定した。
試験条件は以下の通りである。
試験荷重:5880N
回転数:1000min−1
潤滑油:VG68
異物の硬さ:Hv870
異物の大きさ:74〜147μm
異物混入量:200ppm
析出強化の理論において析出物粒子間距離の小さい方が強化能に優れるので、窒化物の面積率が同じであっても、面積375μm2の範囲の、0.05μm以上1μm以下のSi・Mn系窒化物を100個以上とすることで、析出数を増やし、析出物粒子間距離を小さくして強化することが好ましい。また、0.05μm以上のSi・Mn系窒化物のうち、0.05μm〜0.50μmのSi・Mn系窒化物の個数比率を20%以上にすることにより、更に強化することが可能になる。
Cは、鋼に必要な強度と寿命を得るために重要な元素である。Cが少なすぎると十分な強度が得られないだけでなく、後述する浸炭窒化の際に必要な硬化層深さを得るための熱処理時間が長くなり、熱処理コストの増大につながる。そのため、C含有量は、0.3質量%以上、好ましくは0.5質量%以上とする。また、C含有量が多すぎると製鋼時に巨大炭化物が生成され、その後の焼入れ特性や転動疲労寿命に悪影響を与えるほか、ヘッダー性が低下してコストの上昇を招く恐れがあるため、上限を1.2質量%とした。より好ましくは0.95〜1.10質量%とする。
前述したように、Si・Mn系窒化物を十分に析出させるためには、Si及びMnを多く含有した鋼を用いる必要がある(SUJ2(Si含有量0.25質量%、Mn含有量0.4質量%)では、浸炭窒化などで窒素を過剰に付与しても、Si・Mn系窒化物量が少ない)。このため、Si及びMnの含有量は以下の値を臨界値とする。
[Si:0.3〜2.2質量%]
本発明に係る窒化物の析出に必要な元素であり、Mnの存在によって、0.3質量%以上の添加で、窒素と効果的に反応して顕著に析出する。また、靭性の低下や深部への窒素の拡散を抑制するためには2.2質量%以下が好ましく、より好ましくは0.70質量%以下とする。
本発明に係る窒化物の析出に必要な元素であり、Siとの共存によって、0.2質量%以上の添加でSi・Mn系窒化物の析出を促進させる作用がある。また、Mnはオーステナイトを安定化する働きがあるので、硬化熱処理後に残留オーステナイトが必要以上に増加するといった問題を防止するため、2.0質量%以下、より好ましくは1.15質量%以下とする。
[Mo:2.0質量%以下]
Moは、焼入れ性を増加させる元素であり、なおかつ前述したSi・Mn系窒化物やセメンタイトに顕著に濃化しないので、浸炭窒化処理後にも焼入れ性を確保させるために有効である。この効果を更に得るためにMoを0.05質量%以上とすることが好ましい。
一方、Moの過剰な添加は、残留オーステナイトが必要以上に増加することや鋼材コストが上昇するといった問題を生じるため、2.0質量%以下とする。
Niは、焼入れ性を増加させる元素であり、なおかつ前述したSi・Mn系窒化物やセメンタイトに顕著に濃化しないので、浸炭窒化処理後にも焼入れ性を確保させるために有効である。この効果を更に得るためにNiを0.2質量%以上とすることが好ましい。一方、Niの過剰な添加は、残留オーステナイトが必要以上に増加することや鋼材コストが上昇するといった問題を生じるため、2.0質量%以下とする。
また、Crは、焼入れ性を向上させ、結晶の粗大化を防ぎ、化合物の球状化を向上させるものであり、この効果を得るためには0.9質量%以上が好ましく、加工性とコストのために1.8質量%以下が好ましく、1.6質量%以下がより好ましい。
前述したように、残留オーステナイト量が少なくなると、耐圧痕性、耐摩耗性が向上する一方で、表面の残留オーステナイト量が多いほど剥離寿命が延長する。即ち、転動体を中心に考えると、転動体表面のオーステナイト量が少ないほど転動体の耐圧痕性、耐摩耗性が向上し、軌道輪の寿命は延長するが、転動体自身の寿命は低下する。従って、最長軸受寿命に最適な転動体の残留オーステナイト量が存在するが、その最適な範囲は軌道輪の残留オーステナイト量によって異なる。軌道輪の残留オーステナイト量が多い場合には、軌道輪の寿命が長くなり、軌道輪の耐圧痕性が低下して軌道輪と転動体との接線力も大きくなるため、転動体の耐圧痕性、耐摩耗性をあげるより、転動体の寿命を延ばす必要がある。そのため、軌道輪の残留オーステナイト量が多い場合には、転動体の残留オーステナイト量も多くしなければならない。即ち、最長軸受寿命を達成する転動体の残留オーステナイト量(γrC)の範囲は、軌道輪の残留オーステナイト量(γrAB)によって変化するため、γrAB−15≦γrC≦γrAB+15、γrAB≦50(但し、γrAB≦50、γrC≦50)の形をとる(数値限定理由は後述する)。また、残留オーステナイト量が多すぎると硬さが下がり、耐圧痕性、耐摩耗性が低下するだけでなく、高温で使用される場合の寸法安定性も悪化するため上限値を50%とした。
図1は、本実施形態の転がり軸受の断面図である。この転がり軸受は、内方部材である内輪1、外方部材である外輪2、転動体3、保持器4を備えた、呼び番号L44649/610の円錐ころ軸受である。
この円錐ころ軸受を用い、異物混入潤滑環境下での寿命試験を行った。試験条件は以下の通りである。
試験荷重:ラジアル荷重Fr=12kN、アキシアル荷重Fa=3.5kN
回転数:3000min−1
潤滑油:VG68
異物の硬さ:Hv870
異物の大きさ:74〜134μm
異物混入量:0.1g
図13には、軌道輪軌道面の残留オーステナイト量が10、20、30%の夫々の場合の転動体転動面の残留オーステナイトと寿命比との関係を示す。軌道輪軌道面の残留オーステナイト量が多いほど長寿命の傾向を示すが、その寿命は転動体転動面の残留オーステナイト量に依存しており、転動体の残留オーステナイト量を本発明範囲に規定することにより、軸受全体としての長寿命を達成している。また、転動体の残留オーステナイト量が本発明範囲未満の場合は全て転動体が破損し、本発明範囲より多い場合には全て軌道輪が破損しており、本発明範囲内にすることにより、転動体と軌道輪の寿命をバランスよく延ばし、軸受全体として長寿命が達成されていることが分かる。
一方、前記表3に示す鋼種1〜9について種々のサイズの転動体を作製し、これまでの実施例で良好な寿命特性が得られた浸炭窒化条件を適用して軸受を作製した。下記表4に、夫々の熱処理品質及び寿命試験結果の寿命比を示す。なお、寿命比は、比較例23の寿命を1として表している。この比較例23は、前記表2の比較例1と同じである。
なお、この実施例では、主に転動体に関して記述しているが、大型の軌道輪に関しても同様に適用できる。
2は外輪(外方部材)
3は転動体
4は保持器
Claims (2)
- 内周面に転動面を有する外方部材と、外周面に転動面を有する内方部材と、外方部材の転動面と内方部材の転動面との間に転動自在に配設された複数の転動体とを備えた転がり軸受において、前記外方部材及び内方部材及び転動体の少なくとも1つの構成部材が、C:0.3〜1.2質量%、Si:0.3〜2.2質量%、Mn:0.2〜2.0質量%を含有し且つMo:2質量%以下、Ni:4質量%以下の何れか1種類以上の合金元素を含有する鋼に浸炭窒化処理又は窒化処理を施してなり、当該構成部材の表面層の窒化濃度を0.2〜2.0質量%、当該構成部材の表面層のSi・Mn系窒化物の面積率を1%以上20%以下としたことを特徴とする転がり軸受。
- 前記外方部材の軌道面及び内方部材の軌道面の残留オーステナイト量をγrAB、前記転動体表面の残留オーステナイト量をγrCとした場合に、γrAB−15≦γrC≦γrAB+15、γrAB≦50、γrC≦50であることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
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