上記課題に鑑み、本発明の目的は、出射される基本波の発振波長を切り替えることができるファイバ装置、このファイバ装置と波長変換素子を組み合わせた波長変換装置及び、この波長変換装置を光源として用いた画像表示装置を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明に係るファイバ装置は、レーザ活性物質を含み、少なくとも1つのファイバグレーティングが形成されたファイバを有するレーザ共振器と、前記ファイバに励起光を入射するレーザ光源とを備え、前記レーザ共振器は、前記レーザ共振器から出射されるレーザの基本波の発振波長を切り替え可能となるべく構成されている。
上記のファイバ装置では、異なる発振波長のレーザの基本波を出射することができる。
前記レーザ共振器から出射されるレーザの基本波の一部を前記レーザ共振器に戻すと共に、前記レーザ共振器への帰還光の光量を変更可能な帰還部、をさらに備え、前記ファイバグレーティングは、前記ファイバの前記レーザ光源側に配置された第1のファイバグレーティングと、前記ファイバの出射端側に配置された第2のファイバグレーティングと、を含み、前記帰還部により前記帰還部からの帰還光の光量が前記第2のファイバグレーティングからの反射光の光量以下となれば、前記レーザ共振器は前記第2のファイバグレーティングからの反射光を用いて第1の基本波を発振させ、前記帰還部により前記帰還部からの帰還光の光量が前記第2のファイバグレーティングからの反射光の光量を超えると、前記レーザ共振器は前記帰還部からの帰還光を用いて第2の基本波を発振させることが好ましい。
この場合、帰還部からの帰還光の光量を第2のファイバグレーティングからの反射光の光量に対して増減させることにより共振器の構成を切り替えて、出射されるレーザの基本波の発振波長を切り替えることができる。
前記ファイバグレーティングはさらに、前記第1及び第2のファイバグレーティング間で、かつ、前記第1のファイバグレーティングの近傍に配置された第3のファイバグレーティング、を含み、前記第3のファイバグレーティングの帯域は、前記第2のファイバグレーティングの帯域よりも長波長側に位置し、前記帰還部からの帰還光の光量が前記第2のファイバグレーティングからの反射光の光量以下であれば、前記レーザ共振器は前記第1のファイバグレーティング及び前記第2のファイバグレーティング間で前記第1の基本波を発振させ、前記帰還部からの帰還光の光量が前記第2のファイバグレーティングからの反射光の光量を超えると、前記レーザ共振器は前記第3のファイバグレーティング及び前記帰還部間で前記第2の基本波を発振させる。
この場合、第3のファイバグレーティングの帯域を第2のファイバグレーティングの帯域よりも長波長側に位置させることにより、第3のファイバグレーティングによる発振がより発生しやすくなる。このため、第1のファイバグレーティング及び第2のファイバグレーティング間の発振から第3のファイバグレーティング及び帰還部間の発振への切り替えをより円滑に行うことができる。
前記帰還部は、前記レーザ共振器から出射されるレーザの基本波を反射する反射部材と、前記反射部材からの反射光の、前記レーザ共振器に対する反射方向を変化させるべく前記反射部材を駆動する駆動部とを有し、前記駆動部により前記レーザ共振器に入射されるべき前記反射部材からの反射光の光量を増減させることが好ましい。
この場合、反射部材の反射方向の変化により帰還光の光量を増減させることができるので、帰還部を簡単な構成で実現することができる。
前記帰還部は、前記レーザ共振器から出射されるレーザの基本波を前記レーザ共振器方向に反射する反射部材と、前記反射部材の前記レーザ共振器側に配置され、前記反射部材からの反射光の光量を増減させるべく、自身を通過する光の光量を変更可能な低減部とを有することが好ましい。
この場合、低減部を通過する光量の低減により帰還光の光量を増減させることができるので、帰還部を簡単な構成で実現することができる。
本発明に係る波長変換装置は、上記のファイバ装置と、前記レーザ共振器から出射されるレーザの基本波を高調波に変換する波長変換素子とを備える。
上記の波長変換装置では、異なる発振波長のレーザの基本波を波長変換することにより、異なる発振波長の高調波を発振させることができる。
前記レーザ共振器から出射されるレーザの基本波の一部を前記レーザ共振器に戻すと共に、前記レーザ共振器への帰還光の光量を変更可能な帰還部、をさらに備え、前記ファイバグレーティングは、前記ファイバの前記レーザ光源側に配置された第1のファイバグレーティングと、前記ファイバの出射端側に配置された第2のファイバグレーティングと、を含み、前記帰還部が前記帰還部からの帰還光の光量を前記第2のファイバグレーティングからの反射光の光量以下とすれば、前記レーザ共振器は前記第2のファイバグレーティングからの反射光を用いて第1の基本波を発振させ、前記帰還部が前記帰還部からの帰還光の光量を前記第2のファイバグレーティングからの反射光の光量を超えるようにすると、前記レーザ共振器は前記帰還部からの帰還光を用いて第2の基本波を発振させ、前記波長変換素子は、前記第1及び第2の基本波のうちの少なくとも一方を波長変換することが好ましい。
この場合、帰還部からの帰還光の光量を第2のファイバグレーティングからの反射光の光量に対して増減させることにより共振器の構成を切り替えて、出射されるレーザの基本波の発振波長を切り替えることができる。
前記ファイバグレーティングはさらに、前記第1及び第2のファイバグレーティング間で、かつ、前記第1のファイバグレーティングの近傍に配置された第3のファイバグレーティング、を含み、前記第3のファイバグレーティングの帯域は、前記第2のファイバグレーティングの帯域よりも長波長側に位置し、前記帰還部からの帰還光の光量が前記第2のファイバグレーティングからの反射光の光量以下であれば、前記レーザ共振器は前記第1のファイバグレーティング及び前記第2のファイバグレーティング間で前記第1の基本波を発振させ、前記帰還部からの帰還光の光量が前記第2のファイバグレーティングからの反射光の光量を超えると、前記レーザ共振器は前記第3のファイバグレーティング及び前記帰還部間で前記第2の基本波を発振させる。
この場合、第3のファイバグレーティングの帯域を第2のファイバグレーティングの帯域よりも長波長側に位置させることにより、第3のファイバグレーティングによる発振がより発生しやすくなる。このため、第1のファイバグレーティング及び第2のファイバグレーティング間の発振から第3のファイバグレーティング及び帰還部間の発振への切り替えをより円滑に行うことができる。
前記帰還部は、前記レーザ共振器から出射されるレーザの基本波を反射する反射部材と、前記反射部材からの反射光の、前記レーザ共振器に対する反射方向を変化させるべく前記反射部材を駆動する駆動部とを有し、前記駆動部により前記レーザ共振器に入射されるべき前記反射部材からの反射光の光量を増減させることが好ましい。
この場合、反射部材の反射方向の変化により帰還光の光量を増減させることができるので、帰還部を簡単な構成で実現することができる。
前記レーザ共振器、前記波長変換素子、前記反射部材は、この順に配置され、前記反射部材の表面には、前記波長変換素子から出射される高調波を透過させ、前記レーザ共振器から出射されるレーザの基本波を反射する膜が形成されることが好ましい。
この場合、レーザ共振器、波長変換素子、反射部材を略直線状に配置することができるので、波長変換装置を小型化することができる。
前記帰還部は、前記レーザ共振器から出射されるレーザの基本波を前記レーザ共振器方向に反射する反射部材と、前記反射部材の前記レーザ共振器側に配置され、前記反射部材からの反射光の光量を増減させるべく、自身を通過する光の光量を変更可能な低減部とを有することが好ましい。
この場合、低減部を通過する光量の低減により帰還光の光量を増減させることができるので、帰還部を簡単な構成で実現することができる。
前記レーザ共振器、前記低減部、前記波長変換素子、前記反射部材は、この順に配置され、前記反射部材の表面には、前記波長変換素子から出射される高調波を透過させ、前記レーザ共振器から出射されるレーザの基本波を反射する膜が形成されることが好ましい。
この場合、波長変換素子から出射される高調波が低減部を通過することなく、レーザ共振器、波長変換素子、反射部材を略直線状に配置することができる。このため、高調波の光量を低減させることなく、波長変換装置を小型化することができる。
前記波長変換素子は、前記第1の基本波の発振波長に応じた位相整合条件を成立させることにより前記第1の基本波を波長変換する第1の領域と、前記第2の基本波の発振波長に応じた位相整合条件を成立させることにより前記第2の基本波を波長変換する第2の領域とを有し、前記第1及び第2の領域は、前記第1及び第2の基本波の入射方向に沿って順々に配置され、前記第1及び第2の基本波は、前記第1及び第2の領域を順々に通過することが好ましい。
この場合、第1及び第2の基本波の各発振波長に応じた位相整合条件を成立可能な第1及び第2の各領域に各基本波を入射させることができる。このため、異なる発振波長を持つ2つの高調波の発振が可能となる。
前記ファイバは、前記レーザ活性物質を含む、シングルモードファイバからなる第1のファイバと、前記ファイバグレーティングが形成された、偏波保持ファイバからなる第2のファイバと、を光学的に接続して構成されており、前記ファイバグレーティングは、前記第2のファイバが持つ複数の偏波軸のそれぞれに対応する複数の帯域を有し、入射光を前記複数の帯域により反射して複数のピークを持つ反射光を出射し、前記レーザ共振器は、前記ファイバグレーティングからの複数のピークを有する反射光を用いて複数の発振波長で基本波を発振させ、前記波長変換素子は、前記複数の発振波長の基本波のうちの少なくとも1つを波長変換することが好ましい。
この場合、第1のファイバをシングルモードファイバで、第2のファイバを偏波保持ファイバで、それぞれ構成することにより、偏波保持ファイバ内の複数の偏波軸のそれぞれの屈折率の違いを利用して得た複数の帯域を持つレーザ光を偏波無依存のシングルモードファイバ内で発振させることができる。このため、各帯域の光をいずれも損失させることないので、複数の発振波長の基本波を発振させることができる。
前記レーザ共振器はさらに、前記ファイバグレーティングの近傍に配置された第1の反射面と、前記レーザ光源の近傍に配置された第2の反射面と、を有し、前記レーザ光源から出射される励起光は、前記第2の反射面から入射された後、前記第1の反射面で反射されることにより、前記第2の反射面から前記第1の反射面までの間を一往復することが好ましい。
この場合、レーザ光源からファイバに入射する励起光は、ファイバの第2の反射面に入射した後、ファイバの第1の反射面で反射して、ファイバ内を往復してレーザ活性物質が関与するエネルギー準位により効率よく吸収される。従来、ファイバレーザに必要な長さは、励起光をほぼ全て吸収する長さが必要であったが、励起光をファイバレーザ内で折り返すことで半分の長さで励起光は吸収されることとなる。このため、ファイバレーザは従来の半分の長さのファイバで効率よく励起光を吸収し、高いゲインで基本波を発振して効率よく基本波を出射するので、波長変換装置は小型・高効率・低消費電力で構成できる。
さらに、従来と比べて半分の長さのファイバで励起光をほぼ吸収することができ、同時に基本波の吸収量もファイバの長さに比例して半分になる。このことにより、ファイバレーザの基本波は、光吸収量の多い1030nm付近の短波長側でも高出力のレーザ光として出力できるようになる。その結果、通常より短波長の基本波を入射光として用いると、波長変換素子から出力される高調波の波長も通常より短波長の光、例えば、視感度の高い515nm付近の緑色のレーザ光がW級の光出力で得られることとなる。
また、第1の反射面をファイバの他方の端部に設けることにより、ファイバと第1の反射面との間で光の伝搬を行うためのレンズ・ミラーなどの光学部品点数を削減でき、調整も不要となるため、コスト削減・信頼性向上を達成することができる。
さらに、第2の反射面をファイバの一方の端部に設けることにより、基本波を効率よく取り出すことができる。
前記レーザ共振器はさらに、前記第2の反射面の近傍に配置され、前記第1のファイバからの出射光の偏光方向を単一化することにより、前記レーザ共振器から出射されるレーザの基本波の偏光方向を単一化する単一化部、を備えることが好ましい。
この場合、第1のファイバから出射される複数の発振波長を持つ基本波の偏光方向を単一化することができる。このため、波長変換素子における基本波の波長変換をより効率よく行うことができる。
前記単一化部は、前記第1のファイバの出射端面であり、前記出射端面の切断角は、前記第1のファイバの光軸方向に対してブリュースター角をなすことが好ましい。
この場合、第1のファイバの出射端面の切断角をブリュースター角とすることにより、複数の発振波長を持つ基本波の偏光方向を単一化することができる。このため、簡単な構成により単一化部を実現することができる。
前記レーザ光源から出射される励起光を前記第2の反射面に伝搬し、前記レーザ共振器から出射されるレーザの基本波を前記波長変換素子に伝搬する光伝搬部、をさらに備えることが好ましい。
この場合、レーザの基本波がレーザ光源に戻ることがないので、基本波を波長変換素子に効率よく伝搬することができる。
前記光伝搬部は、前記レーザ光源から出射される励起光を透過させ、前記レーザ共振器から出射されるレーザの基本波を反射する反射部材を備えることが好ましい。
この場合、基本波の取り出しを簡単な構成で実現することができる。
前記反射部材の表面には、前記レーザ光源から出射される励起光を透過させ、前記レーザ共振器から出射されるレーザの基本波を反射する波長選択層が形成されることが好ましい。
この場合、ファイバレーザからの高出力の基本波が波長選択層で反射され、励起光を出射するレーザ光源には入射しないので、基本波の入射によるレーザ光源の損傷をさらに防止することができる。
前記反射部材は、狭帯域透過フィルタからなることが好ましい。
この場合、励起光の波長の半値幅が小さくなり、励起光がファイバレーザでより効率よく吸収され、励起光から基本波への光出力の変換がさらに高効率で実現できる。
前記レーザ光源から出射された後に前記反射部材で反射される励起光のうち、所定の狭帯域の波長を有する光を回折する回折部材を具備し、前記回折部材による回折光が前記レーザ光源に戻ることにより、前記レーザ光源の発振波長が前記回折部材による回折光の波長に固定されることが好ましい。
この場合、ファイバレーザで吸収量が大きい波長が励起光の波長として固定されることにより、励起光はファイバレーザ内でさらに効率よく吸収される。
前記回折部材は、入射される光を反射する反射型の回折格子からなることが好ましい。
この場合、1つの回折格子を調整するだけで、所望の波長の光を回折させることができ、波長選択の調整のための制御が容易となる。
前記回折部材は、入射される光を透過させる透過型の回折格子と、前記回折格子を透過する光を反射する反射ミラーと、からなることが好ましい。
この場合、透過型の回折格子を用いるので、回折させることができる波長の範囲を広くすることができる。また、回折格子と反射ミラーとの組み合わせて調整するので、波長の選択と回折光の出射方向を独立して制御することができる。
前記第1の反射面は、多層膜からなることが好ましい。
この場合、第1の反射面は、励起光をほぼ全反射に近い反射率で反射することができ、励起光はさらに効率良く利用される。
前記第2の反射面は、偏光ミラーからなることが好ましい。
この場合、光学系の偏光面に関する調整がさらに容易になる。
前記反射部材の前記波長選択層は、多層膜からなることが好ましい。
この場合、光の吸収による損失をさらに少なくし、励起光と基本波との波長選択性をさらに高めた反射部材を実現することができる。
前記レーザ光源は、励起光を出射するレーザ素子と、前記レーザ素子から出射される励起光をビーム整形するレンズと、前記レーザ素子及び前記レンズを格納する筐体と、からなることが好ましい。
この場合、レーザ光源から出射される励起光をファイバレーザに入射する光学系が、さらに小型で結合効率の高いものとなる。
前記レンズは、シリンドリカルレンズであることが好ましい。
この場合、レーザ光源から出射する励起光は、その光量を減らすことなくアスペクト比が改善され、しかもファイバレーザと光学的に結合し易くすることができる。このことにより、励起光は、さらに効率よく利用されることとなる。
前記基本波の出力の一部を検出する基本波検出部と、前記基本波検出部による検出値に基づいて前記波長変換素子から出射する前記高調波の出力を制御する出力制御部と、をさらに備えることが好ましい。
この場合、基本波の出力の増大によるファイバグレーティングや波長変換素子での温度上昇をそれぞれで制御することにより、基本波の波長変換素子での位相整合条件を精密に制御することができ、さらに効率よく安定な高調波の出力が波長変換素子から得られる。
前記高調波の波長は、510〜540nmであり、前記高調波の出力は、1W以上であることが好ましい。
この場合、視感度の高い緑色のレーザ出力光を得ることができ、色再現性の良いディスプレイとして、さらに原色に近い色表現をすることができる。
前記レーザ共振器はさらに、前記波長変換素子の出射端の近傍に配置された第3の反射面、を有し、前記基本波を前記波長変換素子を通過させながら、前記ファイバグレーティング及び前記第3の反射面間で前記基本波を発振させることが好ましい。
この場合、波長変換素子がファイバグレーティング及び第3の反射面からなる共振器内に配置されるので、より高効率の波長変換を実現することができる。
前記波長変換素子の出射端面の切断角は、前記波長変換素子から出射される高調波の偏光方向を単一化すべく、前記波長変換素子の光軸方向に対してブリュースター角をなすことが好ましい。
この場合、波長変換素子の出射端面の切断角をブリュースター角とすることにより、複数の発振波長を持つ高調波の偏光方向を単一化することができる。
前記基本波の複数の発振波長は、2つであり、前記波長変換素子は、前記基本波の一方の発振波長に応じた位相整合条件を成立させることにより前記一方の発振波長の基本波を波長変換する第1の領域と、前記基本波の他方の発振波長に応じた位相整合条件を成立させることにより前記他方の発振波長の基本波を波長変換する第2の領域とを有し、前記第1及び第2の領域は、前記基本波の入射方向に沿って順々に配置され、前記基本波は、前記第1及び第2の領域を順々に通過することが好ましい。
この場合、基本波の各発振波長に応じた位相整合条件を成立可能な第1及び第2の各領域に各基本波を入射させることができる。このため、異なる発振波長を持つ2つの高調波の発振が可能となる。
本発明に係る画像表示装置は、複数のレーザ光源と、前記各レーザ光源から出射されるレーザ光を走査する走査部と、前記各レーザ光源から出射されるレーザ光を用いて画像を表示するスクリーンとを備え、前記レーザ光源は、少なくとも赤色、緑色及び青色をそれぞれ出射する光源から構成され、前記レーザ光源のうち、少なくとも緑色の光源は、上記の波長変換装置を備える。
上記の画像表示装置では、視感度の高い緑色のレーザ出力光を得ることができるので、色再現性の良いディスプレイ等に使用して、さらに原色に近い色表現をすることができる。
本発明によれば、出射される基本波の発振波長を切り替えることができるファイバ装置、このファイバ装置と波長変換素子を組み合わせた波長変換装置及び、この波長変換装置を光源として用いた画像表示装置を提供することができる。
以下、本発明の実施の形態に係るファイバ装置、波長変換装置及び画像表示装置について、図面を参照しながら説明する。なお、同一部分には同一符号を付し、図面で同じ符号が付いたものは、説明を省略する場合もある。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1におけるファイバ装置の概略構成を示す模式図である。本実施の形態におけるファイバ装置は、波長切り替え可能な基本波を発生させるものであり、図1に示すように、本実施の形態におけるファイバ装置は、励起光源1と、ファイバ3と、励起光源側ファイバグレーティング(以下、「第1のファイバグレーティング」と呼ぶ)2と、出射側ファイバグレーティング(以下、「第2のファイバグレーティング」と呼ぶ)4と、基本波の波長の切り替えを行うための第1の反射部9と、を備えており、出射された基本波を波長変換する波長変換素子7と共に光学系(波長変換装置)を構成している。
励起光源1から出射された励起レーザは、ファイバ3に導光され、第1のファイバグレーティング2を通過し、ファイバ3の中をレーザ活性物質に吸収されながら伝播し、ファイバ3を通り抜けるまでにファイバ3の中で消失する。この間に発生した基本波の種光は、第1のファイバグレーティング2及び第2のファイバグレーティング4で構成された共振器の間を往復しながら、励起光源1から出射された励起レーザにより増幅され、高出力の基本波としてレーザ発振に至る。
本実施の形態において、第1のファイバグレーティング2は、帯域幅約1nm程度の広帯域な反射スペクトルを持ち、反射率はほぼ100%に設定されている。また、第2のファイバグレーティング4は、帯域幅0.1nm程度の狭帯域な反射スペクトルを持ち、反射率は10%程度に設定してある。
通常、基本波の発振には、励起光源1、ファイバ3、第1のファイバグレーティング2及び第2のファイバグレーティング4のみからなる構成で実現されるが、本実施の形態は、この構成に第1の反射部9を加えて、出射した一定以上の光量の基本波をファイバ3に戻すことで基本波の波長を切り替える構成を取る。以下に、その構成を説明する。
ファイバ3から出射し、第1の反射部9に向かう往路の基本波5は、波長変換素子7にて一部を高調波8に変換され、残りの透過した基本波は、第1の反射部9に入射する。ここで、第1の反射部9から励起光源1に向かう復路の基本波6がファイバ3に戻る光量を一定以下となるように第1の反射部9が配置された状態では、その戻り光は往路の基本波5の発振波長になんら影響を与えず、第2のファイバグレーティング4で決められた波長で発振し続ける。この場合、基本波5の発振波長は、帯域幅の狭い第2のファイバグレーティング4の帯域により規定される。以下、基本波5を発振させる共振器を第1のファイバグレーティング2及び第2のファイバグレーティング4により形成する状態を「状態1」と呼ぶ。
これに対して、一定以上の光量の基本波6をファイバ3に戻す様に、第1の反射部9を配置し、復路の基本波6を往路の基本波5の伝播方向に対して略逆方向に伝播させた時のことを考える。「状態1」において、基本波5及び6を発振させる共振器は、ファイバグレーティング2及び4で形成されている。しかし、第2のファイバグレーティング4の反射率は10%程度と低いため、第1の反射部9からファイバ3に戻る光量が第2のファイバグレーティング4による反射光量よりも多くなると、今度は、第1のファイバグレーティング2と第1の反射部9とで共振器を形成することになる。この場合、基本波5及び6の発振波長は、第1のファイバグレーティング2の帯域に依存することになり、第2のファイバグレーティング4で決められる波長とは違う波長で発振することになる。この場合、基本波5及び6の発振波長は、第2のファイバグレーティング4により規定をすることができず、「状態1」における発振波長からずれが生じることになる。以下、基本波5及び6を発振させる共振器を第1のファイバグレーティング2及び第1の反射部9により形成する状態を「状態2」と呼ぶ。
次に、この「状態1」及び「状態2」での高調波8の発振に関して説明する。「状態1」において、基本波5及び6は通常通り、第2のファイバグレーティング4の帯域にロックされた波長で発振している。波長変換素子7が第2のファイバグレーティング4の帯域波長に対応している場合、「状態1」にて波長変換素子7で位相整合条件を満たして高調波8を発振することになる。
第1の反射部9の移動により、「状態1」から「状態2」に移行すると、基本波5及び6の波長がずれ、「状態1」と同じ温度では波長変換素子7の位相整合条件を満たせなくなる。このため、「状態1」において発振していた高調波8は消光することになる。
本発明の実施の形態1によれば、第1の反射部9を動作させて「状態1」と「状態2」を切り替えるだけで、基本波5及び6の波長をずらすことができ、それにより、簡便に高調波8の発振/消光の切り替えが可能になる。
本実施の形態において、第1の反射部9は、基本波を反射して高調波を透過する様に、波長により透過率あるいは反射率の異なるコーティングを掛けておくと、高調波をより多く得ることができ望ましい。例えば、第1の反射部9として、ガルバノミラー等の高速で稼動が可能な光学モジュールを使用するのが望ましい。それにより、「状態1」と「状態2」の高速な切り替えが実現されるからである。この場合、図1に示すように、駆動部91により第1の反射部9を駆動させればよい。
また、本実施の形態において、「状態1」における第1の反射部9からの戻り光である基本波6が波長変換素子7の中を通過する際に発生する高調波を取り出すことにより、トータルとしての高調波の出力を向上させることが可能になる。例えば、「状態2」からわずかに第1の反射部9をずらして「状態1」にした場合、往路の基本波5の光路とはわずかにずれながらも、復路の基本波6は波長変換素子7の中を通過するが、その際高調波8とは逆向きの図示していない高調波を発生させることになる。こうして発生した高調波も、波長変換素子7とファイバ3の間に、図示していないダイクロイックミラー等の取り出しミラーを設けることにより、取り出すことが可能である。
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2について説明する。上記の実施の形態1では、高速で稼動が可能な光学モジュールの移動によりファイバへの戻り光量を調節することにより、基本波の波長をずらすものであった。一方、本実施の形態では、ファイバから出射される光の強さを減衰させることにより、基本波の波長をずらすものである。図2に、本実施の形態におけるファイバ装置の概略構成を示す。
図2に示すように、本実施の形態におけるファイバ装置は、励起光源1と、ファイバ3と、第1のファイバグレーティング2と、第2のファイバグレーティング4と、基本波の波長の切り替えを行うための第2の反射部9aと、を備えており、出射された基本波を波長変換する波長変換素子7と共に光学系(波長変換装置)を構成している。第2の反射部9aは、ファイバ3から出射された光を再びファイバ3に戻す光量を変調するものであり、アッテネータ11と、反射部材10と、を有している。
ファイバ3から出射した基本波5は、図1と同様に、波長変換素子7で一部を高調波8に変換されて、残りは波長変換素子7を透過してアッテネータ11に入り所定の光量分減衰して、反射部材10に達する。反射部材10にて反射された基本波5は、再びアッテネータ11、波長変換素子7を透過して、ファイバ3に戻る。この時、反射部材10で反射してファイバ3に戻った復路の基本波6の光量が、第2のファイバグレーティング4で反射した基本波6の光量より高くなるように、アッテネータ11の透過率を調整すると、実施の形態1で述べた「状態2」になる。逆に、反射部材10で反射してファイバ3に戻った復路の基本波6の光量が、第2のファイバグレーティング4で反射した基本波の光量より低くなるように、アッテネータ11の透過率を調整すると、実施の形態1で述べた「状態1」になる。すなわち、アッテネータ11の透過率を変調することで、ファイバ3の発振波長を選択することができ、さらには、高調波8の発振/消光制御が可能になる。アッテネータ11の透過率の調整は、図2に示すように、制御部92により制御すればよい。
本実施の形態において、「状態1」と「状態2」との間の切り替わりは、第2のファイバグレーティング4での反射光量と第2の反射部9aによってファイバ3の中に折り返した光量との割合のみで決定される。このため、アッテネータ11の減衰率は、「状態1」と「状態2」との間の切り替わりにおいて、出力したい基本波光量の絶対値には依存せず、一定とすることができる。したがって、アッテネータ11の減衰率の精密な制御は不要となり、第2の反射部9aの構成が簡略化される。
また、本実施の形態では、アッテネータ11は、波長変換素子7と反射部材10との間に配置されているが、ファイバ3と波長変換素子7との間に配置しても構わない。そうすることで、波長変換素子7から出射される高調波8がアッテネータ11を通過する際のパワーのロスも無くなり、また、アッテネータ11自体に高調波8が透過するようなコーティングを掛ける必要も無くなる。
さらに、本実施の形態において、ファイバ3としては、例えば高出力の励起レーザを伝播させることが可能なダブルクラッドの偏波保持ファイバーの使用が考えられる。この場合、励起レーザは、ファイバ3のコア部分と内側のクラッドの比較的広い領域を伝播して、ファイバ3のコア部分に含まれるレーザ活性物質に吸収されることになる。また、ファイバ3のコア部分に含まれるレーザ活性物質として、例えば、希土類元素Ybが知られている。この希土類元素Ybを含むファイバに、例えば、波長915nmあるいは975nmの半導体レーザからの励起レーザを入射すると、波長約1030〜1100nmの誘導放出が起こることが知られている。
また、本実施の形態において、波長変換素子7としては、周期状の分極反転構造を有する非線形光学結晶からなるSHG素子が好ましい。分極反転構造を有するSHG素子としては、KTiOP4や、LiNbO3、LiTaO3が用いられる。また、Mgをドープした、LiNbO3やLiTaO3、あるいは、ストイキオメトリ組成の、LiNbO3やLiTaO3等も利用することができる。これらの結晶は、高い非線形定数を有するため高効率な波長変換が可能である。また、周期構造を変えることで、位相整合波長を自由に設計できるという利点がある。
(実施の形態3)
次に、本発明の実施の形態3について説明する。上記の実施の形態1及び2では、基本波を発振させる共振器を構成する一方の反射面を第1のファイバグレーティング2とし、他方の反射面を第2のファイバグレーティング4または第1の反射部9(または第2の反射部9a)のいずれかとすることにより、基本波の発振波長の切り替えを行うものであった。一方、本実施の形態では、励起光源側ファイバグレーティングがさらに1つ追加され、基本波を発振させる共振器を構成する一方の反射面も2つの励起光源側ファイバグレーティングのうちから切り替え可能とするものである。図3は、本発明の実施の形態3におけるファイバ装置の概略構成を示す模式図である。
図3に示すように、本実施の形態におけるファイバ装置は、上記の実施の形態1と同様に、励起光源1と、ファイバ3と、第1のファイバグレーティング2と、第2のファイバグレーティング4と、基本波の波長の切り替えを行うための第1の反射部9と、を備えており、出射された基本波を波長変換する波長変換素子7と共に光学系(波長変換装置)を構成している。そして、本実施の形態のファイバ装置はさらに、ファイバ3の励起光源1側に配置された励起光源側ファイバグレーティング(以下、「第3のファイバグレーティング」と呼ぶ)12を備えている。なお、本実施の形態では、ファイバ3から出射された光を再びファイバ3に戻す反射部として、実施の形態1の第1の反射部9を用いているが、上記の実施の形態2の第2の反射部9aを用いても構わない。
第3のファイバグレーティング12は、図3に示すように、第1のファイバグレーティング2と第2のファイバグレーティング4との間で、かつ、第1のファイバグレーティング2の近傍に配置されている。第3のファイバグレーティング12は、帯域幅0.1nm程度の狭帯域ファイバグレーティングであり、その帯域は、第1のファイバグレーティング2の帯域に含まれないように設定される。
第3のファイバグレーティング12の帯域は、第3のファイバグレーティング12による基本波の発振が容易に実現されるように、第1のファイバグレーティング2の帯域よりも長波長側に配置される。なお、第2のファイバグレーティング4の帯域は第1のファイバグレーティング2の帯域に含まれるべきものであるので、第2のファイバグレーティング4と第3のファイバグレーティング12との間では、それらの帯域が重なり合う範囲はない。
第3のファイバグレーティング12の反射率は、可能な限り高くしておく。実質的に、100%に近い値であることが望ましい。これにより、第1の反射部9により上記の「状態2」を実現すべくファイバ3に折り返された基本波6は、第1のファイバグレーティング2と第1の反射部9とで形成された共振器により増幅されずに、第3のファイバグレーティング12と第1の反射部9とで形成される共振器により増幅されることになる。この結果、基本波5及び6の発振波長は、帯域幅の狭い第3のファイバグレーティング12の帯域により規定され、第1の反射部9の移動前における波長から変化することになる。
すなわち、第3のファイバグレーティング12の反射率を可能な限り高くしておき、第3のファイバグレーティング12の帯域を、ファイバ3として発振可能な波長範囲内で、かつ、第1のファイバグレーティング2の帯域よりも長波長側に指定しておくことにより、第1の反射部9の移動による戻り光量の増減により基本波の発振波長を切り替えることができる。また、切り替え可能な基本波の発振波長は、第2のファイバグレーティング4及び第3のファイバグレーティング12の帯域の設定により任意に設定可能であるので、あらかじめ意図的に選択された2波長の基本波を切り替えて発振させることが実現される。
本実施の形態において、波長変換素子7の位相整合条件は、第2のファイバグレーティング4により規定される発振波長及び第3のファイバグレーティング12により規定される発振波長のうちのいずれかとの間で成立するように、設定される。そうすることにより、波長変換素子7の位相整合条件の成立する波長を持つ基本波の入射により、波長変換素子7はその波長変換により高調波を出射されることができる。したがって、第1の反射部9の移動により高調波の発振をオン/オフさせることが可能となる。なお、波長変換素子7は、温度位相整合を用いる非線形結晶、角度位相整合を用いる非線形結晶、擬似位相整合を用いる非線形結晶、のいずれの結晶を用いたものであっても構わない。
(実施の形態4)
次に、本発明の実施の形態4について説明する。上記の実施の形態3では、異なる発振波長を持つ2つの基本波の出射の切り替えにより、高調波の発振のオン/オフを切り替えるものであった。一方、本実施の形態では、異なる発振波長を持つ2つの基本波の出射の切り替えの際、いずれの場合においても高調波の発振を可能とするものである。図4は、本発明の実施の形態4におけるファイバ装置の概略構成を示す模式図である。
図4に示すように、本実施の形態におけるファイバ装置は、励起光源1と、ファイバ3と、第1のファイバグレーティング2と、第2のファイバグレーティング4と、基本波の波長の切り替えを行うための第1の反射部9と、第3のファイバグレーティング12と、を備えており、出射された基本波を波長変換する波長変換素子7aと共に光学系(波長変換装置)を構成している。なお、本実施の形態においても、ファイバ3から出射された光を再びファイバ3に戻す反射部として、実施の形態1の第1の反射部9を用いているが、上記の実施の形態2の第2の反射部9aを用いても構わない。
本実施の形態におけるファイバ装置が、上記の実施の形態3と異なる点は、ファイバ装置から出射された基本波を波長変換する波長変換素子として、異なる発振波長を持つ2つの基本波の各々に対応した位相整合条件を持つ、複数の波長変換領域を有する波長変換素子を用いた点である。以下、この点について説明する。なお、この点以外は、上記の実施の形態3と同様であり、ここでは説明を省略する。
波長変換素子7aは、2つの波長変換領域、すなわち、第1の波長変換領域13と、第2の波長変換領域14と、を有している。例えば、波長変換素子7aは擬似位相整合を用いる非線形結晶を使用して構成され、基本波5の進行方向に沿って各分極反転周期が形成された第1の波長変換領域13、第2の波長変換領域14が順に並んでいる。例えば、第1の波長変換領域13に形成された分極反転周期は第2のファイバグレーティング4により規定される発振波長の基本波5に対応し、第2の波長変換領域14に形成された分極反転周期は第3のファイバグレーティング12により規定される発振波長の基本波5に対応する。
この時、第1の反射部9の移動により「状態1」と「状態2」との間で切り替えると、例えば「状態1」では第2のファイバグレーティング4の帯域波長に対応した第1の波長変換領域13から高調波が発振し、第1の反射部9を透過して出射することになる。また、「状態2」では、第3のファイバグレーティング12の帯域波長に対応した第2の波長変換領域14から高調波が発振し、外部に出射される。
本実施の形態によれば、異なる発振波長を持つ2つの高調波を切り替えて発振させることが可能になる。
(実施の形態5)
次に、本発明の実施の形態5について説明する。上記の実施の形態1〜4のファイバ装置を用いた波長変換装置を光源とする具体的な形態として、例えば、レーザプロジェクションテレビ等への応用が考えられる。本実施の形態は、上記の実施の形態1〜4のファイバ装置を用いた波長変換装置を適用したレーザディスプレイ(2次元画像表示装置)の一例である。図5に、本実施の形態におけるレーザディスプレイの概略構成を示す。
図5に示すように、本実施の形態においては、光源には赤(R)、緑(G)及び青(B)の3色のレーザ光源515a、515b及び515cを用いた。R光源515aには波長638nmのAlGaInP/GaAs系半導体レーザを、B光源515cには、波長465nmのGaN系半導体レーザを用いている。G光源515bには、上記の実施の形態1〜4におけるファイバ装置を用いた波長変換装置が用いられている。R、G、B各光源515a、515b及び515cから出射されたレーザビームは、集光レンズ516a、516b及び516cにより集光した後、2次元ビーム走査手段517a、517b及び517cにより、拡散板519a、519b及び519c上を走査される。
画像データはR、G及びBそれぞれのデータに分割されており、その信号をフィールドレンズ520a、520b及び520cで絞って空間光変調素子521a、521b及び521cに入力した後、ダイクロイックプリズム522で合波することにより、カラー画像を形成する。合波されたビームは、投射レンズ523及び524を通過してスクリーン525に投射される。ただし、G光源515bから空間光変調素子521bに入射する光路中には、空間光変調素子521bでのG光のスポットサイズをR光やB光と同じにするために、光路中に凹レンズ518を挿入している。
このように、本実施の形態のレーザディスプレイでは、R、G及びBの光源にレーザ光源を用いるので、高輝度でも薄型に構成できる。
さらに、R、G及びBそれぞれで単色のレーザ光源を用いることにより、sRGB標準やNTSC規格で規定されている色再現範囲に対して再現範囲が大幅に拡大され、原色に近い色表現が可能になっている。例えば、図6に、レーザ光源の波長をR光源とB光源それぞれで640nm、450nmとし、G光源の波長を520nm、530nm各波長の時の再現範囲を示す。G光源の波長を530nmとした時、sRGB標準と比較して表現できる三角形の面積は約2倍、NTSC規格と比較しても約1.4倍に表現範囲が増える。さらに、波長を520nmとした時、sRGB標準と比較して約2.1倍、NTSC規格と比較しても約1.5倍にまで色表現範囲が増えるのが分かる。その中で、G光源の波長を2波長から選択することが出来るようになると、画像の再現範囲を選択的に広げることが可能になる。図6に示すように、G光源波長520nmと530nmの例でも、互いにオーバーラップしている範囲もあるが、各波長でしか再現出来ていない範囲も多い。G光源の波長を切り替えることが出来るようになると、例えば緑の色調を好みに合わせてユーザーが選択できるようにしておくことも可能であるし、画像情報に応じて、G光源の波長を自動的に選択して表現することも可能になる。
その他にも、例えば520nmと530nmで比較すると、530nmの方が比視感度が高いため、一般に530nmの方が発光量を下げることができる。そのため、例えばポータブルディスプレイ等でバッテリー残量が多い時は表現範囲の広い520nmを使い、バッテリー残量が減った時には530nmに切り替えて、発光量を落として使うといった使い方も考えられるし、ユーザー設定として省電力モード等を設定した時は530nmに切り替えるといった使い方も考えられる。具体的には、プロジェクタやプロジェクタ用のリモコン等に「高画質モード」や「省エネモード」、「画質切り替えモード」といった切り替えボタンを設けておき、プロジェクタやプロジェクタ用リモコンでの各モードの切り替えに連動して、波長切り替え手段を動作させるといった動作が考えられる。
本実施の形態において、高出力の可視域の緑光源を実現することができ、赤、青の高輝度レーザと合わせて、大型ディスプレイや高輝度ディスプレイ等のディスプレイ分野での応用が可能である。
上記の実施の形態1〜5によれば、ファイバレーザ出力を高調波に波長変換する構成において、簡単な構成で基本波の発振波長を切り替えることができる。加えて、基本波を波長変換した高調波をオンオフ変調することができ、さらには、2波長の高調波を選択的に発振させることができる。
(実施の形態6)
次に、本発明の実施の形態6について説明する。図7に、本発明の実施の形態6に係る波長変換装置の構成を示す。図7に示す波長変換装置21は、その基本構成として、ファイバレーザ22と、ファイバレーザ22から出射される基本波23を高調波出力24に変換する波長変換素子25と、ファイバレーザ22と波長変換素子25との間に配置された集光レンズ36と、を備えている。
ファイバレーザ22は、その主な構成要素としては、ファイバグレーティング29とレーザ活性物質を含むファイバ26とからなるレーザ共振器、ファイバ26に励起光27を入射するレーザ光源28、ファイバ26から出射される基本波23を波長変換素子25の方向に取り出す取り出しミラー30を含む光学系200、及び、ファイバ26の各端面に形成された第1及び第2の反射面34及び33、である。なお、ここでファイバ26からなるレーザ共振器は、ファイバグレーティング29とファイバ26の一方の端面に形成された第2の反射面33を一組の反射面として基本波23を増幅して出射する。
すなわち、ファイバレーザ22は、ファイバ26に入射する励起光27を出力するレーザ光源28と、基本波の波長を選択して基本波を反射するファイバグレーティング29と、各端面に第1及び第2の反射面34及び33が形成されたファイバ26と、出力である基本波23を波長変換素子25に導く取り出しミラー30を含む光学系200と、から構成されている。なお、取り出しミラー30は、励起光27を透過してレーザ光源28とファイバ26を結びつけ、かつファイバ26から出射する基本波23を反射して波長変換素子25に導く機能を果たしている。
ファイバレーザ22のレーザ共振器の一方の反射面としてファイバグレーティング29を適用することで、任意の反射中心波長を選択することが可能となり発振中心波長を任意に選択できる上、波長変換素子25側の要求する波長帯域0.05〜0.2nmの基本波を発生することができる。
ファイバグレーティング29は、偏波保持ファイバにより形成されている。一般に、偏波保持ファイバは、大きな複屈折率を持っており、光の偏波状態を保持し伝送することが可能である。本実施の形態においては、この偏波保持ファイバ上にファイバグレーティング29を形成することにより、ファイバグレーティング29に、偏波保持ファイバの持つ複屈折率の利用による、近接した2つのピークを持つ反射特性を持たせている。このような狭帯域かつ近接する2つの反射ピークを得ることは、誘電体多層膜を用いた反射ミラーでは困難である。誘電体多層膜のような帯域の広い反射面を用いた場合、ファイバのゲインが高い発振波長で発振する(発振しやすい発振波長で発振する)ため、任意に波長選択することも困難であり、発振波長が不安定になる原因となる。
また、ファイバ26を偏波無依存のシングルモードファイバとし、ファイバ26の端面の第2の反射面33に偏光単一化機構を配置することにより、ファイバグレーティング29の反射による2つのピークを持つ基本波を単一偏光で得ることが可能となる。
また、本実施の形態の場合、発振波長が1020〜1100nmであるため、ファイバ26のコア径は4.5〜6.5μmであることが必要である。コア径が10μm以上となった場合、レーザ光の横モードがマルチモードとなるため、高効率な波長変換が実現できない。
また、レーザ共振器をファイバ26内に閉じた系とし、外部からの塵あるいは反射面のミスアライメントなどで共振器の損失が増加することによる出力の経時低下・出力変動を抑制することができる。
次に、図7のファイバレーザ22の基本のレーザ動作について説明する。図7でピッグテイル型のレーザ光源28からの励起光27は、レーザ光源28に付属したファイバ31中を伝搬した後、光学系200のコリメートレンズ32aで平行光に変換された状態で取り出しミラー30を透過する。さらに励起光27は、光学系200の集光レンズ32bにより集光されて、ファイバ26の第2の反射面33よりファイバ26に入射する。入射した励起光27はファイバ26に含まれるレーザ活性物質で吸収されつつファイバ26中を伝搬する。励起光27はファイバグレーティング29を通過した後、第1の反射面34で反射されてファイバ26の中を折り返してレーザ活性物質で吸収されつつ伝搬し、第2の反射面33に到達するまでに1往復してほぼレーザ活性物質に吸収されて消失する。従来はファイバ内を一方向に伝搬しつつ励起光が吸収されるだけなので、基本波を増幅するゲインは励起光が伝搬していく方向に進行するに従い減少していく。一方、本実施の形態では、励起光27はファイバ26内を折り返して一往復して吸収されるので、基本波を増幅するゲインは従来に比べてファイバ26内で一様に高くなる。
このように本実施の形態では、励起光27がファイバ26の中を一往復してほぼ全て吸収され、ファイバ26内で基本波を増幅するゲインが一様に高くなった状態で、基本波23の種光がファイバ26の内部で発生する。この基本波23の種光は、ファイバ26の第2の反射面33とファイバグレーティング29をレーザ共振器の一組の反射面として、このレーザ共振器の中を増幅されて強度を増しつつ何度も反射して往復しレーザ発振に至る。
本実施の形態で用いたファイバ26は、例えば、高出力の励起光27を伝搬させることが可能なダブルクラッドの偏波保持ファイバを使用した。したがって、励起光27はファイバ26のコアと内側のクラッドの比較的広い領域を伝搬して、ファイバ26に含まれるレーザ活性物質により吸収される。また、広い範囲を伝搬することができるので高出力の励起光27を用いることもできる。
このようにしてファイバ26から出力される基本波23は第2の反射面33から出射した後、集光レンズ32bにより平行光に変換されて取り出しミラー30に到達する。取り出しミラー30の一方の表面には、波長選択用の多層膜35が形成されている。この多層膜35は励起光27の波長の光は透過し、基本波23の波長の光は反射するように構成されているので、第2の反射面33から出射した基本波23は取り出しミラー30の表面の多層膜35で反射されて波長変換素子25に導かれる。
本実施の形態において、取り出しミラー30を狭帯域透過フィルタで構成し、励起光27に対して、例えば、40〜50度の角度で挿入するのが望ましい。40〜50度で挿入するのは取り出しミラー30で反射する励起光27の一部がレーザ光源28に戻らないようにするためである。また、ファイバ26から出射される光の光路と波長変換素子25から出射される光の光路とを直角にすることができるため、波長変換装置21をモジュール化する場合、よりコンパクトにすることができるためである。また、取り出しミラー30とは別個に狭帯域透過フィルタを取り出しミラー30とコリメートレンズ32aの間に挿入してもよい。
このような構成にすると、例えば、ファイバ26をYbドープファイバとした場合に、透過フィルタの透過波長を915nmや976nmのYbドープファイバの吸収のピーク波長に合わせることができる。しかも、透過波長の915nmや976nmを中心に2〜3nmの狭帯域の半値幅しか持たないこととなる。励起光27がこのような狭帯域の光となって取り出しミラー30を透過して光ファイバ26に入射するとき、励起光27の一部がファイバ26の端面である第2の反射面33で反射される。反射された励起光27の一部は同じ光路を逆に進行してレーザ光源28に帰還して、レーザ光源28の発振波長はこの帰還した励起光27の一部である狭帯域の光でロックされる。そもそも励起用レーザ光源28はマルチモードで発振するため比較的広い5nm以上の波長半値幅を持つが、このように透過型フィルタなどの波長を狭帯域にロックする光学部品を用いると波長半値幅が2〜3nmの狭帯域のレーザ光源になる。このような効果により、励起光27の波長の半値幅が小さくなり、レーザ光源28自体の効率も向上する上、励起光27がファイバレーザ22で、より効率よく吸収され、励起光27から基本波23への光出力の変換がさらに高効率で実現できる。また、本実施の形態では、ファイバ26の励起光27の吸収効率が高くファイバ長をより短くすることができるため1030nm以下の波長を発生させる際に使用すると、より高効率なファイバレーザを作製できる。なお、このときにファイバ26の端面である第2の反射面33での励起光27の反射率は少なくとも3〜8%程度に設定されていることが望ましく、励起用LDのエミッタ幅は、発振するモードの数が少ない方が波長ロックを行いやすくなるため、50〜200μm、より望ましくは50〜100μm程度であることが望ましい。
次に、波長変換素子25の基本動作について説明する。上記のようにしてファイバレーザ22により基本波23のレーザ光が出力され、集光レンズ36で集光されて波長変換素子25に入射する。このファイバレーザ22からの基本波23が入射波となり波長変換素子25の非線形光学効果により変換されると、波長が基本波23の1/2の高調波出力24となる。この変換された高調波出力24は、ビームスプリッタ37で一部反射されるが、透過した高調波出力24のほとんど全てが波長変換装置21の出力光となって出射される。
図8(A)は、本実施の形態のファイバレーザ22により発生可能なレーザ光の発振スペクトルを、図8(B)は、従来例による発振スペクトルを、それぞれ示しており、図8(C)は、図8(A)の発振スペクトルを変換可能な波長変換素子の構成を、図8(D)は、図8(B)の発振スペクトルを変換可能な波長変換素子の構成を、それぞれ模式的に示している。
本実施の形態において、波長変換素子25は、基本波の2つのピークに対応する位相整合条件を満足するよう設計されている。本実施の形態の場合には、波長変換素子25を形成する分極反転周期が、波長λ1の基本波に対応する周期と、波長λ2の基本波に対応する周期と、を持つ2つの領域から形成されている。
また、波長λ1の基本波と波長λ2の基本波との和周波発生する際の位相整合条件を満足する周期を同一の波長変換素子内に形成することで、第2高調波の波長スペクトルにおけるピークの形状をよりフラットにすることができる。従来、広いスペクトル幅の基本波を効率よく変換するためには、図8(D)に示すように、波長変換素子全域にわたって、徐々に位相整合条件を変化させる、つまり周期分極反転素子の場合には、分極反転周期を徐々に変化させることが必要であった。このため、0.1nm程度の狭帯域の基本波を変換する場合と比較して、1/3程度の変換効率しか得ることができなかった。一方、本実施の形態の場合は、図8(C)に示すように、波長λ1の基本波、波長λ2の基本波それぞれに対して最適な位相整合条件を持つ波長変換素子を準備することにより、各基本波を効率よく変換することができる。図8(C)の波長変換素子の設計は簡便な上、上記のように波長変換効率を向上させることも可能である。
また、分極反転周期をそれぞれの基本波のピークにあわせて設計することに代えて、波長変換素子に温度勾配を設けたり、それぞれ各ピーク波長に対応する領域をそれぞれの位相整合温度に保持することにより、上記と同一の効果を得ることができる。
ビームスプリッタ37で一部反射された高調波出力38は、波長変換装置21の出力光をモニターするために受光素子39で受光して電気信号に変換されて利用される。この変換された信号の強度が波長変換装置21で所望の出力が得られる強度になるように、出力コントローラー40は励起用レーザ電流源41でレーザ光源28の駆動電流を調整する。そうするとレーザ光源28からの励起光27の強度が調整され、ファイバレーザ22の基本波23の出力強度が調整され、その結果として波長変換装置21の出力の強度が調整される。このことにより波長変換装置21の出力の強度は一定に保たれ、いわゆるオートパワーコントロール(以下、「APC」と略する)が安定に動作することとなる。
波長変換装置21の出力の強度をAPC動作により、さらに精度よく制御するために、ファイバ26の他方の端面に形成された第1の反射面34の外側に受光素子42を配置することもできる。このようにして、ファイバグレーティング29で反射されずに、わずかに漏れて透過してくる基本波23を検出する、または第1の反射面34で反射されずに、わずかに漏れて透過してくる励起光27を検出することができる。この検出データを基に、励起光27や基本波23の全体の強度を各々推定することにより、出力コントローラー40は励起用レーザ電流源41でレーザ光源28の駆動電流を調整して波長変換装置21の出力の強度をAPC動作させる。また同様に、取り出しミラー30の基本波23を反射する多層膜35が構成された表面と反対の他方の表面43から、わずかに反射してくる励起光27の一部44を受光素子50で検出することにより、励起光27の一部44から励起光27全体の強度を推定して出力コントローラー40でAPC動作をさせることもできる。
次に、図7の波長変換装置21が高出力の緑色のレーザ光(以下、G光とする)を出力する具体的な動作について説明する。
図7において、ファイバレーザ22のファイバ26のコア部分にはレーザ活性物質として希土類元素Ybが1200ppmの濃度でドープされている。ファイバ励起用のレーザ光源28は波長915nm、しきい値電流400mA、最大光出力10Wの半導体レーザが使用されている。波長915nmの励起光27はファイバ26に入射されて、反射率98%の第1の反射面34で折り返してファイバ26を1往復して第2の反射ミラー33に到達するまでに全て吸収される。その結果、このレーザ光源28からの励起光27をファイバ26に入射すると、励起光27がコア部分で吸収されてコア部分のYbの準位を利用して、ファイバ26から波長約1060nmの誘導放出が起こる。この約1060nmの誘導放出光は、ファイバ26の中を励起光27が吸収されることで得られたゲインで増幅されて進み、波長約1060nmの赤外レーザ光である基本波23となる。
また、この基本波23はファイバグレーティング29と第2の反射面33とをレーザ共振器の一組の反射面として、これらの反射面の間を往復することにより、主として高反射率のファイバグレーティング29により発振波長の選択が行われる。このときのファイバグレーティング29の反射波長及び反射波長帯域幅は、1064nm及び0.1nmに設定されている。したがって基本波23の波長帯域幅は0.1nmとなってファイバレーザ22から出力される。なお、ファイバ26のファイバグレーティング29と第2の反射面33の基本波23の波長1064nmに対する反射率は、それぞれ98%と10%に設定されている。レーザ共振器の一方の反射面において、波長帯域幅0.1nmという狭帯域で、反射率98%以上を実現できたのはファイバグレーティング29を用いたためである。図9に、励起用レーザ光源28の励起光パワーに対する波長1064nmの基本波の光出力の入出力特性について示す。基本波出力は8Wまでレーザ光源28の励起光パワーに対して比例して直線性よく増加しているのがわかる。
このように励起光27に対して第1の反射面34において高い反射率を得るために、ファイバ26の端面には、多層膜が形成されている。これらの多層膜は、例えば、誘電体からなる材料で、よく用いられるものはSiO2、TiO2、Nb2O3などであり、ファイバ26の端面にスパッタ法や蒸着法などにより作製される。これらの材料から、例えば、2つの材料を選択し積層して、励起光27の波長の1/4の厚さの膜を周期的な多層構造にすることにより第1の反射面34は構成される。
また、第2の反射面33は、基本波23が効率よく、波長変換素子25の入射光として取り出せるように10%の反射率に設定されている。さらに、基本波23の偏光方向を安定させて波長変換素子25への偏光方向の光学的調整を容易にするために、ファイバ26の第2の反射面33を偏光ミラーで構成してもよい。この偏光ミラーはファイバ26の端面に、例えば、誘電体のSiO2/HfO2の多層薄膜からなる薄膜を形成し、HfO2薄膜の表面はストライプ状の凹凸の形状に加工し偏光方向を選択して反射することにより実現できる。第2の反射面33を偏光ミラーとした場合、高効率かつ偏光分離性の良いレーザ共振器を構成するために、発振させたい偏光方向の光に対して反射率が10〜15%程度となり、不要な偏光方向の光に対して、透過率が99%以上となるように第2の反射面33を設計するのが望ましい。また、この偏光ミラーの反射帯域は、ファイバグレーティング29の反射帯域と比較して50〜100nmの広帯域で良い。また、反射率を10〜20%とすることで、ファイバ26に入射させる励起光27への反射スペクトルのサイドバンドによる不要なロスを低減することができる。
図10に、本実施の形態における基本波の発振スペクトルを示す。約0.5nm離れた2つのピークを持つレーザ光を得ることができた。
次に、出射した基本波23が波長変換素子25により高調波出力24に変換される過程について説明する。
ファイバレーザ22から出力された1064nmの基本波23は集光レンズ36を介して波長変換素子25に入射する。波長変換素子25は、入射した光を第2高調波に変換して出力する素子で、ここでは長さ10mmの周期分極反転MgO:LiNbO3結晶を用いている。ここで、波長変換素子25において高調波に変換可能な波長は位相整合波長と呼ばれ、本実施の形態では25℃で1064nmに設定されている。したがって、ファイバレーザ22の基本波23の波長1064nmは位相整合波長と一致し、波長変換素子25で第2高調波に変換され、1/2の波長である532nmの波長の緑色レーザとなって波長変換装置から高調波出力24として出力される。なお、一般的に、波長変換素子25は、素子の温度により位相整合波長が敏感に変化するため、0.01℃の精度で温度制御されている。また、ファイバグレーティング29もW級以上の出力の基本波23が反射するときの温度上昇により、グレーティング間隔が変化することを防止するために、0.01℃の精度で波長変換素子25と同様に温度制御してもよい。
本実施の形態では波長変換素子25及びファイバグレーティング29はペルチェ素子46、47を取り付けて0.01℃の精度でそれぞれ個別に温度制御している。このようにすると、ファイバレーザ22の基本波出力が5Wを超えて波長変換素子25及びファイバグレーティング29での発熱が大きくなってもW級の緑色レーザの高調波出力24を得ることができる。なお、ペルチェ素子46、47には温度センサ48、49が取り付けられており、ペルチェ素子46、47及び温度センサ48、49は全て出力コントローラー40に接続されて温度の信号出力の取り込みや各部品や素子の駆動などを制御されている。
ところで、本実施の形態のファイバレーザ22ではファイバ26の長さを従来の約半分としている。本実施の形態の場合では、励起光27を第1の反射面34で折り返して、ファイバ26の中を1往復する間に全て吸収するように設計している。本実施の形態のように、励起光27を折り返す構造とすることにより、ファイバ26の長さを従来の約半分にすることが可能となる。
図7の波長変換装置21を動作させたところ、光出力9Wの励起光でファイバを励起し、基本波出力が6.3Wのときに1.5WのG光が安定に得られた。さらに、基本波出力を増加するとG光の変換効率が大きく改善されると考えられる。図11に、基本波の1064nmの入力光に対する532nmの高調波出力光の入出力特性を示す。入力光の2乗に比例して出力光が増加していることがわかる。
以上に説明した構成により、本実施の形態のファイバレーザは従来のファイバの半分の長さで励起光をほぼ全て吸収でき、かつ基本波の増幅区間が長くなったため、基本波を増幅するのに一様な高いゲインを得ることができる。また、ファイバの長さが半分にできるのでファイバレーザをコンパクトにすることができ、高出力の基本波が得られ、かつ波長変換装置を小型にすることができる。
さらに、本実施の形態のファイバレーザは従来の半分の長さのファイバで構成できる。したがって、ファイバレーザの基本波の吸収量も半分になるので、光吸収量の多い短波長側での吸収量も半分となり、例えば、1064nmよりも短波長の1030nmの基本波のレーザ光が高出力で出力することができるようになる。
次に、図7のファイバレーザ22の励起用レーザ光源28とファイバ26を結合している光学系の詳細について説明する。図12(A)は図7の光学系の拡大図、図12(B)は図7の取り出しミラー30の拡大図を示す。
図12(A)で、励起用レーザ光源28から付属のファイバ31を介して出射される励起光27は、コリメートレンズ32aで平行光に変換された後に、取り出しミラー30を透過する。ほぼ全ての励起光27が取り出しミラー30を透過して集光レンズ32bによりファイバ26に入射する。入射した励起光27はファイバ26を1往復する間に全て吸収される。励起光27を吸収して、基本波に対して一様な高いゲインを持つファイバ26は基本波を増幅して、基本波23を第2の反射面33より出力する。基本波23は取り出しミラー30の表面に形成された多層膜35により、ほぼ全ての基本波が反射されて波長変換素子25に入射する。
図12(B)は取り出しミラー30の拡大図である。基本波23は取り出しミラー30に入射して、取り出しミラー30表面の多層膜35により反射される。この多層膜35は、基本波23に対して吸収の少ない、例えば、SiO2、TiO2及びNb2O3などの誘電体薄膜35a、35bで構成される。多層膜35中を基本波23が進行する距離52a、52bは、反射した基本波23の各成分23a、23b、23cの位相が揃う距離に設計されているので、基本波23に対して高い反射率を示す。なお、基本波23に対して取り出しミラー30が45度の角度で配置された場合は、距離52a及び52bは、基本波の1/2の波長に相当する厚さとなっている。一方、図12(A)で説明したように、取り出しミラー30は励起光27に対しては高い透過率を示すように設計される。すなわち、励起光27の波長915nmと基本波23の波長1064nmとの波長の差を利用して波長選択性を持った多層膜35を取り出しミラー30の表面に形成することで、励起光27の透過率と基本波23の反射率とが高くなり、波長変換装置全体の効率を高めている。また、基本波23は取り出しミラー30でほぼ全てが反射されるので、励起用レーザ光源28にはほとんど到達しない。このことにより、取り出しミラー30は波長選択部である多層膜35によりレーザ光源28の損傷なども防止している。
さらに、図13(A)及び図13(B)に図7の励起用レーザ光源28の発振波長を安定化する構成の例について示す。図13(A)は反射型の回折格子を利用した例、図13(B)は透過型の回折格子を利用した例である。
図13(A)に示すように、図12(A)の光学系に反射型の回折格子51aを付け加えることにより、励起用レーザ光源28の発振波長の安定化が可能となる。取り出しミラー30でわずかに反射する励起光27の一部の励起光27bは、図13(A)に示す回折格子51aで高精度に波長選択をされた後に、同じ経路で励起光27aとして戻されることにより、レーザ光源28に注入される。このようにすると、回折格子51aで高精度に選択された波長がレーザ光源28で増幅されて、レーザ光源から出射する励起光27の波長が、選択された波長に固定される。しかも、取り出しミラー30を透過型フィルタとして構成する場合に説明したように、回折格子51aは中心波長を選択するだけではなく狭帯域のフィルタとしても働くこととなる。図13(A)に示すように、この励起光27の波長選択は回折格子51aを配置して励起光27bに対して角度θ1を回転調整することにより実現できる。
また、図13(B)に、図13(A)の反射型の回折格子51aに代えて、透過型の回折格子51bと反射ミラー53を使用することにより、励起用レーザ光源28の発振波長を安定化した例を示す。取り出しミラー30でわずかに反射する励起光27の一部の励起光27bは図13(B)に示す回折格子51bで高精度に波長選択をされて透過した後に、反射ミラー53の反射面54で反射される。反射された励起光27bは、同じ経路で励起光27aとして戻されることによりレーザ光源28に注入される。このようにすると回折格子51bで高精度に選択された波長がレーザ光源28で増幅されて、レーザ光源から出射する励起光27の波長が、選択された波長に固定される。しかも、取り出しミラー30を透過型フィルタとして構成する場合に説明したように、回折格子51bは中心波長を選択するだけではなく狭帯域のフィルタとしても働くこととなる。
取り出しミラー30は、基本波23を入射面に対して80度の角度で入れられている。完全に垂直にすると戻り光が生じるからである。基本波23のピークで80%以上の透過光が得られている。また、取り出しミラー30の透過波長は975nmを中心に2〜3nmの半値幅を持つ。レーザ光源28からの励起光のうち特定の波長が透過後、ファイバ26のファイバグレーティング29側の端面で反射された基本波23は同じ光路を逆に進行し、レーザ光源28に帰還され、レーザ光源28の波長がロックされる。レーザ光源28はマルチモードであるため5nm以上の波長半値幅を持つが、フィルタやグレーティングにより波長ロックすることにより波長半値幅を2〜3nmに狭帯域化する。そのため、ファイバレーザ22の電気−光効率を向上させることができる。このとき、ファイバ26の第1の反射面34側の端面で3〜5%程度の励起光が反射されていることが望ましい。
ところで、図13(A)の構成に比べて、図13(B)の構成では回折格子51bが透過型のものを用いるので中心波長の選択の範囲が広い。また、取り出しミラー30を回転して基本波23の出射方向を選択し制御することと励起光27の波長の選択とを独立して行うことができる。すなわち、図13(B)において、取り出しミラー30をθ2だけ回して基本波23の出射方向を選ぶと、これに追随して回折格子51bと反射ミラー53は一体となってθ3だけ回転する。しかしながら、励起光27の波長の選択は、上記のθ2及びθ3の角度の回転とは別に、回折格子51bを励起光27に対してθ1の角度を選択することにより行っている。
このように図13(A)または図13(B)の構成を利用すると、例えば、本実施の形態でファイバレーザとして用いたYbドープファイバの吸収スペクトルにおいて、図7のレーザ光源28の波長として、よりファイバの吸収量が大きい波長を利用することができる。すなわち、本実施の形態で利用した波長915nmの吸収量よりも、3倍以上大きい吸収量をもつ976nmの波長の励起光を利用することができる。この976nmの吸収スペクトルは915nmに比べて波長帯域が狭いが、図13(A)または図13(B)で示した回折格子51a、51bを用いて高精度に波長選択をして、レーザ光源28の励起光27の発振波長を固定することにより十分利用することができる。なお、図7で示した構成の波長変換装置21で励起光27の波長を976nmにして適用したところ、同じ9Wの波長915nmの励起光で1.5WであったG光が2.5Wの出力となり、高調波出力24であるG光が高効率で得られることを確認した。
図14に、ファイバレーザ22の発振波長に対する最適なファイバ長の関係を示す。図14からから明らかなように、ファイバレーザ22の基本波23の発振波長が短くなるに従い、基本波23の吸収量が多くなるので、最適なファイバ長も短くなることがわかる。このため、基本波の種光が増幅される区間が短くなり、高出力の基本波を得ることは困難であった。しかしながら、本実施の形態では、励起光を折り返すことで、最適ファイバ長を短くして基本波の損失を抑え、それにより基本波の出力を向上させる。したがって、従来よりも短いファイバ長でWクラスの高出力のG光を得ることができるので、本実施の形態の構成は、従来のG光より短い波長のG光の発生に適している。
したがって、本実施の形態ではファイバに添加する希土類元素の種類や量を調整することやファイバグレーティングの反射波長を短波長に調整することにより、本実施の形態で用いた基本波よりも短波長の基本波を5W以上の高出力で出力できるので、より短波長の510〜540nmのW級の緑色レーザ光を同様の構成で得ることができる。
なお、ファイバレーザのファイバ長を短くすることで510〜540nmの短波長の緑色レーザ光を得ることができ、再生色の範囲を従来のsRGB規格より大きく拡げることができるので、ディスプレイ等に適用するときにさらに色再現範囲が広げられる。
なお、本実施の形態では、図7の光学系200内に取り出しミラー30を設け、励起用レーザ光源28からの励起光27をそのまま直進させてファイバ26に入射する一方、ファイバ26からの基本波23を、レーザ光源28とファイバ26との間の光路に対して略垂直となる方向に出射することで、ファイバレーザ22から基本波23を取り出している。しかしながら、本実施の形態は、この光学系200の構成に限るものではない。すなわち、ファイバ26からの基本波23の取り出し方向がレーザ光源28‐ファイバ26間の光路と一致することを回避し、基本波23がレーザ光源28に戻ること無く、波長変換素子25に出射することができるように、基本波23の出射方向を変化させることができるものであれば、どのような構成の光学系を用いても構わない。
(実施の形態7)
図15に、本発明の実施の形態7に係る波長変換装置の構成を示す。本実施の形態の波長変換装置55は、実施の形態6と同様に、その基本的な構成として、ファイバレーザ56と、ファイバレーザ56から出射される基本波23を高調波出力24に変換する波長変換素子25と、ファイバレーザ56と波長変換素子25との間に配置された集光レンズ36と、を備えている。本実施の形態が、上記の実施の形態6と異なるところは、ファイバレーザ56のファイバが1本のものからではなく、レーザ活性物質を含む第1のファイバ57とファイバグレーティング59を内部に形成した第2のファイバ58とが接続部60で接続されたものからなることである。
このような構成とすることで、第1のファイバ57は励起光27を効率よく吸収できるようにレーザ活性物質の材料と添加量を最適化した構造で作製することができる。また、第2のファイバ58はファイバグレーティング59や第1の反射面34を形成しやすい構造のものを選ぶことができる。
ここでは、例えば、第1のファイバ57はダブルクラッドの偏波保持ファイバを使用しており、レーザ活性物質はコア部分に希土類元素のYbを1320ppmの濃度でドープして励起光27の単位長さ当りの吸収量を増加させてファイバの長さを図7の構成と比較して10%程度短くしている。基本波23を増幅するゲインの総量を維持して、ファイバの長さを短くすることにより、ファイバレーザ56の基本波23の吸収量を少なくして、より短波長の基本波23も出力可能な構成としている。
一方、第2のファイバ58は希土類元素を添加しない構造のものを使用し、第2のファイバ58中での励起光27の吸収を少なくしファイバレーザ56全体での励起光27の基本波23への変換効率を高めている。また、第2のファイバ58の材料・構造は、ファイバグレーティング59の反射波長や波長帯域幅が精度良く設定して作製できるのに適した材料・構造となっている。このような構成のファイバレーザ56を用いて、実施の形態6と同様に波長変換装置55からW級のG光が得られた。
なお、本実施の形態では第1及び第2のファイバ57、58はダブルクラッドファイバで構成されているため、図21の従来例で示したようなダブルクラッドファイバ−シングルモードファイバの接続部分に生じるファイバ劣化を防止することができ、ファイバレーザ及び波長変換装置の信頼性を向上させることができる。
また、ファイバを複数の部分に分けて、それぞれのファイバを最適な材料・構造で構成するので、さらにファイバ長を短くすることができる。したがって、ファイバレーザのファイバ長を短くすることで510〜540nmの短波長の緑色レーザ光を得ることができ、再生色の範囲を従来のsRGB規格より大きく広げることができるので、ディスプレイ等に適用するときにさらに色再現範囲が広げられる。
(実施の形態8)
図16に、本発明の実施の形態8に係る波長変換装置の構成を示す。本実施の形態において、図16の波長変換装置61は装置全体として予め入力されたデータに基づき波長変換後のレーザ出力を制御できる構成となっている。励起光27、基本波23及び高調波出力24の各光量を検出する受光素子が多く配置されて出力コントローラー40に接続されていること以外は、図7に示した実施の形態6と同様の構成である。
図16の波長変換装置61において、高調波出力24は、受光素子39でその出力の一部38を検出することにより検出される。また、基本波23は、ファイバレーザ22の第1の反射面34から漏れてくる光、ファイバ26の一部を加工し、その部分から漏れ出させた基本波の一部62及びファイバグレーティング29で散乱される基本波の一部63のいずれかを受光素子42、64及び65のいずれかで検出する。さらに、励起光27は、取り出しミラー30でわずかに反射する光を受光素子50で検出するか、または、第1の反射面34をわずかに透過する光を受光素子42で検出する。これらの受光素子39、42、50、64、65は全て出力コントローラー40に接続されている。また、波長変換素子25とファイバグレーティング29との温度制御のためにそれぞれ配置されているペルチェ素子46、47及び温度センサ48,49も出力コントローラー40に接続されている。出力コントローラー40は、各受光素子39、42、50、64、65や温度制御・温度検知素子の信号により波長変換装置61の全体状況を把握し、これらの素子やレーザ電流源41を制御することにより所望の高調波出力24を安定に出力する。例えば、各受光素子39、42、50、64、65からの検出信号と予め入力されたテーブルデータを基に入力である励起用レーザ光源28の電流値を最小に、出力である高調波出力24を最大にするように出力コントローラー40が出力制御部として動作することとなる。
テーブルとして予め入力され、記憶されたデータの代表的なものは、基本波出力23に対する波長変換素子25での位相整合波長変化量及びファイバグレーティング29での反射波長変化量のデータである。この波長変化量の温度依存性は、波長変換素子25とファイバグレーティング29が、それぞれ0.05nm/K、0.01nm/Kであるので、この数値により、それぞれの温度上昇量を推定する。これらのデータにより波長変換素子25の位相整合波長に基本波23の波長を正確に合わせて、基本波23の高調波出力24への変換の効率を最大にする。そのために、波長変換素子25は予め放熱フィンが取り付けられ、ファンによって温度上昇を極力抑制されるとともに、ペルチェ素子46により温度上昇を抑えるために冷却されて常に、例えば、25℃前後の室温になるように制御される。一方、基本波23の波長はファイバグレーティング29の反射波波長で決まるので、ペルチェ素子47でファイバグレーティング29を加熱・冷却してグレーティング間隔を変化させて反射波波長を変化させることにより、そのときの波長変換素子25の位相整合波長に合うように調整される。このように波長変換装置61の出力の効率を高めるための物理量が出力コントローラーで制御されるので、例えば、1064nmの赤外光を基本波として使用したときは、基本波23の出力が波長変換素子25で第2高調波に効率よく変換されて、532nmのW級のG光が得られる。
(実施の形態9)
図17に、本発明の実施の形態9に係る波長変換装置の構成を示す。本実施の形態において、波長変換素子25をレーザ共振器内に配置することにより、さらに光高率な波長変換装置を実現することができる。図17の構成の場合、ファイバレーザ共振器は、ファイバグレーティング29と、第3の反射面92と、で構成される。その共振器内は基本波の光パワー密度が大きくなるため、共振器内部に波長変換素子25を配置した場合、より高効率な波長変換を実現することができる。この場合、ファイバ端面33をブリュースター角にすることなく、結晶端面の角度をブリュースター角とすることにより単一偏波の基本波を得ることができる。
この場合、第3の反射面92は、基本波レーザ光に対して98%以上の反射率を持ち、波長変換された第2高調波に対して1%以下の反射率であることが望ましい。基本波に対する反射率を98%とすることにより、波長変換素子端面やレンズなどの光学部品からの不用意な反射が原因となるジャイアントパルスの発生を防止することができ、波長変換装置の信頼性を向上させることができる。
加えて、共振器内に波長変換素子25を配置する場合、波長λ1の基本波と波長λ2の基本波との和周波を発生させる場合においてもより高効率な波長変換が可能となる。
(実施の形態10)
図18(A)及び図18(B)に、本発明の実施の形態10に係る波長変換装置に使用される励起用レーザ光源の構成について示す。上記の実施の形態6〜9では、励起用レーザ光源は励起光を外部に誘導するファイバを備えた、一般的なピッグテイル型のものを使用している。このようなレーザ光源を用いるとファイバレーザと結合する光学系を小型にすることが難しい。このような光学系を小型にするためには、励起用レーザチップの直近に光学系を配置することが必要である。
図18(A)及び図18(B)は、励起用のレーザチップ70の直近に小型の光学部品を配置して、励起光71のビーム径を数十μmの状態で平行光線としてファイバレーザと結合する、小型化された光学系である。励起用のレーザチップ70から出射する励起光71の広がり角はレーザ構造に依存し、その構造が導波路型の半導体レーザであるので、導波路と平行な水平方向は10°前後、導波路と垂直方向は30°前後の値を持つ。したがって、水平方向と垂直方向のアスペクト比は2〜4程度となる。このアスペクト比がほぼ1になるように改善しないと、ファイバと結合するときにレーザ光を光学系に効率よく取り込めず光量の損失が生じる。
アスペクト比を改善するためには、レーザチップ70から出射する励起光71のレーザビームをビーム整形すればよい。ビーム整形の一例としてシリンドリカルレンズ72を用いた例を図18(A)に示す。図18(A)でレーザチップ70から出た励起光71の垂直方向の広がり角が、垂直方向のビームを絞るシリンドリカルレンズ72により絞られていることがわかる。このビーム整形された励起光71は、コリメートレンズ73により垂直方向と水平方向と光量のロスなく平行光に変換される。このときにレーザチップ70は放熱性のよい、例えば、AlN製のサブマウント74にハンダ付けされており、このサブマウント74は金属基台75に高熱伝導のAuペーストで接着されている。すなわち、レーザチップ70で生じた熱を熱伝導のよいサブマウント74等で効率よくパッケージや筐体に放熱して、レーザチップ70での発熱による温度上昇を抑えている。また、シリンドリカルレンズ72及びコリメートレンズ73は絶縁性のホルダー76で支持され、このホルダー76は接着剤等で金属基台75に固定されている。
もう1つの例として、図18(B)にシリンドリカルレンズ機能が付いたレンズファイバ77でビーム整形をした例について示す。図18(B)でレーザチップ70から出た励起光71の垂直方向の広がり角が、垂直方向のビームを絞るシリンドリカルレンズ機能付きのレンズファイバ77により絞られていることが判る。このレンズファイバ77のテーパ状の先端部78でビーム整形された励起光71は、レンズファイバ77の本体部分でコリメートされて光量のロスなく平行光に変換される。このときにレーザチップ70は、図18(A)と同様に放熱性のよい、例えば、AlN製のサブマウント74にハンダ付けされており、このサブマウント74は金属基台75に高熱伝導のAuペーストで接着されている。また、レンズファイバ77は絶縁性のホルダー76で支持され、このホルダー76は接着剤等で金属基台75に固定されている。
このように図18(A)及び図18(B)に示したレーザチップ70は数mm以内の距離に光学素子を近接して配置できるので、レーザチップ70と光学系の構成を放熱性の良い金属基台の付いた小型パッケージ内にコンパクトに納めることができる。このときのパッケージの金属製の筐体を金属基台としてもよい。また、パッケージは少なくとも防塵のための外部とのシールド、例えば、透明ガラスの付いた金属性のキャップ等でのシールドが必要である。このとき、水素を5%程度含んだ窒素雰囲気で内部をパージすることにより、パッケージ内部の塵がレーザビームで燃えた事による炭素の発生を抑えることができる。
さらに、図19に示すように、図18(A)又は図18(B)の励起用レーザ光源の構成に加えて、ファイバとの結合の光学系や波長変換素子を含んだモジュールとして同一の筐体内にコンパクトに納めてもよい。
図19にモジュール80の内部の構成を上部から見た模式図を示す。モジュール80の内部に主に配置されるものを以下に示す。励起光71はレーザチップ70から出射された後、例えばここでは、レンズファイバ77でビーム整形されて平行光に変換される。この励起光71はレンズファイバ77からコリメートレンズ81を通過した後、集光レンズ82によりファイバ26に集光されて入射する。このときに、ファイバ26はモジュール80に設けられたファイバホルダー83により第2の反射面33を含めて固定されている。ファイバ26でレーザ発振した基本波84は、ファイバ26の第2の反射面33から出射した後に、集光レンズ82を通過し、取り出しミラー85で反射された後に集光レンズ86により波長変換素子87に集光されて高調波出力88に変換される。この高調波出力88がモジュール80の出力となる。なお、波長変換素子87には冷却のためのフィン(図示していない)が取り付けてあるのに加えて、温度調節のためのペルチェ素子89を付けている。また、モジュール80には、レーザチップ70及び波長変換素子87を冷却しているペルチェ素子89を冷却するためのファン(図示していない)が取り付けてある。なお、モジュール80の内部の素子や部品をモジュール制御部90により、入出力配線90aを介して制御することもできる。
このようにレーザチップとレンズとを筐体内に近接させて配置すると、レーザ光源をコンパクトにすることができる、さらに図19に示したようにファイバ以外のものをコンパクトにモジュール化することができ、波長変換装置の小型化・軽量化が実現できる上、故障時においてもモジュール毎交換することができるので、複雑な光学調整を簡略化できるとともに、モジュール内を清浄な状態に保つことができるため、レーザトラッピングによる、波長変換素子87やレンズなどの光学系への塵の付着を防止することが可能となり信頼性を向上させることができる。
なお、ここでは受光素子や温度センサ及びペルチェ素子について、その配置を十分に図示していないが、図16の実施の形態8に示したように必要なところに必要なだけ配置してもよい。
なお、出力コントローラーや励起用レーザ電流源等についても図示していないが、波長変換装置に必要な部品及び機器は全て配置され、出力コントローラーで波長変換装置の全体が制御されている。
なお、本実施の形態では励起用レーザの励起光をシリンドリカルレンズやレンズファイバを用いてビーム整形を行ったが、他のビーム整形ができる光学部品、例えば、ビーム整形プリズムや凹レンズ等を用いてもよい。
(実施の形態11)
図20に、上記で説明した実施の形態6〜10で示した波長変換装置を適用した、本発明の実施の形態11に係るレーザディスプレイ(2次元画像表示装置)の構成の一例について示す。光源には赤(R)、緑(G)、青(B)の3色のレーザ光源101a、101b、101cを用いた。赤色レーザ光源(R光源)101aには波長638nmのAlGaInP/GaAs系半導体レーザを、青色レーザ光源(B光源)101cには波長465nmのGaN系半導体レーザを用いている。
一方、緑色レーザ光源(G光源)101bには赤外レーザの波長を1/2にする波長変換素子を具備した、実施の形態6〜10で示した波長変換装置を用いている。R、G、B各光源101a、101b、101cより出射されたレーザビームは、集光レンズ109a、109b、109cにより集光した後、反射型2次元ビーム走査手段102a、102b、102cにより拡散板103a、103b、103c上を走査される。画像データはR、G、Bそれぞれのデータに分割されており、その信号をフィールドレンズ104a、104b、104cで絞って空間変調素子105a、105b、105cに入力した後、ダイクロイックプリズム106で合波することによりカラー画像を形成する。このように合波した画像は投射レンズ107によりスクリーン108に投影される。ただし、G光源101bから空間変調素子105bに入射する光路中には、空間変調素子105bでのG光のスポットサイズをR光やB光と同じにするための凹レンズ109が挿入されている。
なお、本実施の形態では1つの半導体レーザを使用してR光源やB光源を構成しているが、複数個の半導体レーザの出力を、例えば、バンドルファイバなどにより1本のファイバとしてまとめて得られるようにR光源やB光源を構成する構造としてもよい。このようにすると、R光源やB光源の波長スペクトルの幅を大きくすることができて、可干渉性を緩和することができ光源としてスペックルノイズを抑制することもできる。同様にG光源についても、複数の波長変換装置のG光出力をそれぞれ出力ファイバで導波し、これらの出力ファイバを、例えば、バンドルファイバなどにより1本のファイバとしてまとめることにより、スペックルノイズを抑制したG光源としてもよい。
また、拡散板やレンチキュラーレンズなどが2次元空間変調素子の手前に配置されている。このような部材の配置は、可干渉性の強いレーザ光線を光源に用いることにより発生するスペックルノイズを除去するためであり、これらのスペックルノイズ除去手段を揺動することにより、人間の目の応答時間で見たスペックルノイズを低減することができる。すなわち、本実施の形態では、G光源101bにファイバレーザから出射される基本波を波長変換素子に入射して第2高調波を発生させる波長変換装置を用いている。レーザディスプレイの構成においては、この波長変換装置が特徴となっている。
このように、本実施の形態のレーザディスプレイは、R、G、Bの光源にレーザ光源を用いるので、高輝度で薄型に構成できる。また、G光源にはファイバレーザからなる波長変換装置を用い、しかもファイバ長を従来の1/2で構成できるので、さらに小型・軽量で低消費電力のレーザディスプレイを実現できる。そのうえ、本実施の形態の波長変換装置は、ファイバ長が短く基本波の吸収量を抑制できるので、従来よりも短波長の緑色のレーザ光、例えば、532nm及びその前後の510nmや540nmの波長の緑色レーザ光を出力することができる。このことにより、再生色範囲を従来のsRGB規格より、例えば、510nmの範囲にまで広く拡げることができ、さらに原色に近い色表現が可能となる。すなわち、本実施の形態のレーザディスプレイは、従来のレーザディスプレイよりも色再現範囲を拡げることができる。
なお、このような構成の2次元画像表示装置のほかに、スクリーンの背後から投影する形態(リアプロジェクションディスプレイ)をとることも可能である。
なお、図20では超小型ミラーが集積された反射型空間変調素子を用いたが、液晶を用いた変調素子やガルバノミラー、メカニカルマイクロスイッチ(MEMS)を用いた2次元変調素子を用いることももちろん可能である。
なお、本実施の形態のように反射型空間変調素子やMEMS、ガルバノミラーといった光変調特性に対する偏光成分の影響が少ない光変調素子の場合、高調波を伝搬する光ファイバはPANDA(Polarization−maintaining AND Absorption−reducing)ファイバなどの偏波保持ファイバである必要はないが、液晶を用いた2次元変調デバイスを使用する際には、変調特性と偏光特性が大いに関係するため、偏波保持ファイバを使用することが望ましい。
なお、上記の実施の形態6〜11において、ファイバレーザは希土類元素としてYbをドープしたものを用いたが、他の希土類元素、例えば、Nd、Er等から選択された少なくとも1つの希土類元素を用いてもよい。また、波長変換装置の波長や出力に応じて希土類元素のドープ量を変えたり、複数の希土類元素をドープしたりしてもよい。
また、上記の実施の形態6〜11においてファイバレーザの励起用レーザ光源には、波長915nm及び波長976nmのレーザを用いたが、ファイバレーザを励起できるものであれば、これらの波長以外のレーザ光源を用いてもよい。
さらに、上記の実施の形態6〜11において波長変換素子は周期分極反転MgO:LiNbO3を用いたが、他の材料や構造の波長変換素子、例えば、周期的に分極反転構造を有するリン酸チタニルカリウム(KTiOPO4:KTP)やMgO:LiTaO3等を用いてもよい。
以上説明したように、本発明の波長変換装置によれば、ファイバに入射する励起光は、ファイバ内を一往復する間に吸収されて基本波の種光を発生し、基本波の種光は、この励起光により増幅されて発振し高出力の基本波となる。ファイバレーザは従来の半分の長さのファイバで効率よく励起光を吸収し、高いゲインで基本波を発振して効率よく取り出しミラーから基本波を出射するので、波長変換装置は小型・高効率・低消費電力で構成できる。さらに、従来構成と比較してファイバグレーティング部による基本波の帰還量が多いため、基本波を増幅する区間を大きく取ることができ、高効率・低消費電力なファイバレーザ光源を構成することができる。従来構成では5Wを超えるような出力の発生が困難だった短波長の1030nm付近の基本波も発生可能となったので、本発明の波長変換装置は510nm付近の短波長でW級の緑色レーザ光を出力することができる。
また、ファイバ内で一様に励起光を吸収できるのでレーザ光による損傷もなく、波長変換装置からW級の可視のレーザ光を安定に出力でき、視感度の高い緑色のレーザ光を出射することもできるという大きな効果を奏する。
さらに、ファイバ内で励起光を全て吸収するので、従来のようなファイバの接続部分で吸収されない励起光の吸収等によるファイバ劣化を防止することができ、ファイバレーザ及び波長変換装置の信頼性を向上させることができる。
このような特徴を持つ波長変換装置を用いた本発明の2次元画像表示装置は、高輝度で、かつ色再現範囲が広く高画質に加えて、薄型・高効率・低消費電力化も可能であるという大きな効果を奏する。