本発明は、ポリイミド組成物及びそのポリイミド組成物により形成されたポリイミド層を有するフレキシブル配線板に関するものであり、そのフレキシブル配線板を製造する方法に関する。
一般にポリイミド樹脂は、無水ピロメリット酸二無水物などの芳香族テトラカルボン酸二無水物とジアミノジフェニルエーテル等の芳香族ジアミンとをジメチルアセトアミド等の非プロトン性極性溶媒中で等モル反応させ容易に得られる高重合度のポリイミド前駆体を、膜などに成形し加熱又は化学イミド化して得られる。
そして、このポリイミド樹脂は、優れた耐熱性、耐薬品性、耐放射線性、電気絶縁性、機械的性質などの性質を併せ持つことから、銅箔等の導体上に形成され、フレキシブル配線板などの種々の電子デバイスに広く利用されている。
フレキシブル配線板等の電子デバイスに用いられるポリイミド樹脂を形成するポリイミド組成物としては、酸二無水物とジアミノポリシロキサンとエポキシ樹脂とを有機溶媒に均一に溶解してなるポリイミド組成物がある(例えば、特許文献1参照)。また、ポリカルボン酸と、ジイソシアネートと、ポリイソシアネートとエポキシ樹脂とを含有したポリイミド組成物も開示され、屈曲性の高い材料を提供するものがある(例えば、特許文献2及び3参照)。
特許第2598215号明細書
特開2005−2192号公報
特開2004−137370号公報
フレキシブル配線板等に利用される感光性のポリイミド組成物は、導体上で所定の形状となるようにアルカリ現像によるパターン形成が行われる。例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムといったアルカリ溶液で所定の箇所を除去して、パターンを形成することができる。本発明者らは、このアルカリ現像後、プレッシャークッカー試験(PCT)を行ったところ、比較的弾性率の高いポリイミドにおいて、その表面に白粉が表出することを発見した。この白粉は、アルカリ現像により除去されなかったポリイミド表面に残存したアルカリ溶液がポリイミドを加水分解することで、分子量が低下した脆弱層が形成され、この状態でPCTを行うことで脆弱層の加水分解が進行し、最終的に粉状となって表面に表出したものと考えられる。このような白粉の表出は、電子部品の信頼性を著しく損ねる恐れがあり、従来にはない課題である。
上記した特許文献1のポリイミド組成物は、シロキサン成分の含有による耐熱性の低下を補うためにエポキシ樹脂を含有させている。この特許文献1では、アルカリ溶液によるアルカリ現像を行っていない。エポキシ樹脂は、耐熱性の低下を補うために添加され、かつ、エポキシの硬化温度以上で熱硬化されているため、アルカリ溶液による加水分解物をポリイミドに固定化することができない。そのため、ポリイミド表面に白粉が表出してしまう。特許文献2及び3も、特許文献1と同様に、アルカリ現像を行っておらず、エポキシ樹脂は、耐薬品性、耐湿性の向上のために用いられているため、アルカリ溶液による加水分解物をポリイミドに固定化することができない。そのため、ポリイミド表面に白粉が表出してしまう。
この白粉は、アルカリ溶液での加水分解物であるため、加水分解の原因となるアルカリ溶液をアルカリ現像後に酸によって洗浄する、又は、加水分解物を再結合するようにアルカリ現像後の再加熱によって白粉の表出を防止することは可能である。しかしながら、酸による洗浄は、製造工程が増えてしまうという問題がある。また、再加熱は、280℃以上で加熱しなければならず、電子部品に使用される他の部材への影響が懸念される。
本発明者らは、このような新しい課題を鑑みて鋭意研究を行った。そこで、本発明は、アルカリ現像後においても、酸洗浄や高い温度での再加熱を行うことなく、白粉の表出のないポリイミド組成物を提供することを目的とする。そして、そのポリイミド組成物を用いたフレキシブル配線板及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明のポリイミド組成物は、酸二無水物と、ヒドロキシル基を有するジアミンとの反応によって得られるポリイミド化合物と、感光剤と、架橋剤とを含有することを特徴とする。
本発明のポリイミド組成物は、感光剤を有することで、露光とアルカリ溶液への浸漬によるアルカリ現像で所定のパターンが形成できる。アルカリ現像で除去されなかったポリイミド組成物は、架橋剤によって、アルカリ現像で生成する加水分解物をポリイミドに固定化することができる。これにより、アルカリ溶液による加水分解の進行を停止することができ、アルカリ現像を行っても、ポリイミド表面に白粉が表出することを防ぐことができる。
さらに、本発明のフレキシブル配線板は、導体と、前記導体上に、酸二無水物と、ヒドロキシル基を有するジアミンとの反応によって得られるポリイミド化合物と、感光剤と、架橋剤とを含有するポリイミド組成物が塗布されて形成されたポリイミド層とを有することを特徴とする。
本発明のフレキシブル配線板は、ポリイミド化合物と感光剤と架橋剤とを含有するポリイミド組成物により形成されたポリイミド層を有している。このポリイミド層は、露光とアルカリ溶液への浸漬によるアルカリ現像で所定のパターンを形成することができる。このとき、アルカリ現像によって除去されなかったポリイミド層に残存するアルカリ溶液により生成したこの加水分解物は、架橋剤と反応してポリイミドに固定化される。これにより、ポリイミド層表面に白粉が表出することを防ぐことができる。
また、本発明のフレキシブル配線板の製造方法は、酸二無水物と、ヒドロキシル基を有するジアミンとを反応させてポリイミド化合物を生成させる工程と、前記ポリイミド化合物に、感光剤及び架橋剤を添加してポリイミド組成物を形成する工程と、前記ポリイミド組成物を導体に塗布してポリイミド層を形成する工程と、前記ポリイミド層を有する導体を露光後、前記アルカリ溶液に浸漬し、所定のパターンを形成する工程とを有することを特徴とする。
本発明のフレキシブル配線板の製造方法によれば、ポリイミド組成物に感光剤を含有させて、アルカリ現像を行うことで、所定のパターンを形成したポリイミド組成物が形成できる。そして、アルカリ現像が行われたポリイミド組成物は、含有する架橋剤によって、アルカリ現像で生成した加水分解物をポリイミドに固定化することができる。これにより、アルカリ溶液による加水分解の進行を停止することができ、アルカリ現像を行っても、ポリイミド表面に白粉が表出することを防ぐことができる。
本発明は、感光剤を有することで、露光後のアルカリ現像によって所定のパターンを形成できる。このアルカリ現像で生成する加水分解物は、架橋剤と反応させることでポリイミドに固定化することができ、白粉の表出を防止することができる。したがって、アルカリ現像を行っても、酸による洗浄や高い温度での再加熱を行うことなく、白粉の表出を防止することができる。
以下、本発明のポリイミド組成物及びポリイミド組成物の製造方法について説明する。なお、本発明は、以下の説明に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
本発明のポリイミド組成物は、アルカリ現像によって表面に白粉が発生することを防ぐことができるポリイミド組成物である。このポリイミド組成物は、酸二無水物と、ヒドロキシル基を有するジアミンとの反応によって得られるポリイミド化合物と、感光剤と、架橋剤とを含有してなるものである。
ポリイミド組成物に感光剤を含有させることで、露光後にアルカリ現像を行うことでパターンを形成することができる。一般に、芳香族ポリイミドや脂環式構造を有するポリイミド化合物は、1GPa以上という高い引張弾性率を有し、膜物性も優れている。例えば、耐薬品性、半田耐熱性などである。その優れた膜物性故にアルカリ現像時の膜劣化が確認できない。しかし、湿熱エージング試験等でアルカリにより侵食された目に見えない脆弱層がエージング条件により加水分解が促進され表面に白粉を生じさせることがわかった。本発明は、架橋剤を含有させることで、ポリイミドの加水分解物に架橋剤が反応し、ポリイミドへの固定化が可能となり、白粉の表出を防止することができる。したがって、本発明のポリイミド組成物は、通常アルカリ現像により白粉が表出してしまうような1GPa以上の高い弾性率を有するポリイミド化合物に対して効果的である。
溶媒に可溶で1GPa以上の高い弾性率を有するポリイミドを形成する酸二無水物とジアミンとの組み合わせは種々存在する。例えば、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物等の芳香族ユニットを含有する酸二無水物とジアミンとを組み合わせることで弾性率を高くすることができ、さらに、比較的直線性の高い酸二無水物とジアミンを組み合わせることで、より高弾性なポリイミドとなる。
ジアミンと反応し、ポリイミド化合物を生成させる酸二無水物は、任意のものが用いられるが、形成されるポリイミドの弾性率が高くなるような化合物が用いられる。例えば、酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA)、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(リカシッドDSDA)、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)、3,4,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA又はs−BPDA)、4,4’−オキシジフタル酸無水物(ODPA)、9,9−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]フルオレン二無水物(BPF−PA)、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物等といった芳香族酸二無水物や脂環式酸二無水物が挙げられる。用いられる酸二無水物は、1種類であっても良いが、複数の酸二無水物をモノマーとしてもよい。
前記酸二無水物と反応し、ポリイミド化合物を生成させるジアミンは、分子中にヒドロキシル基を有する任意のものが用いられる。そして、このジアミンは、形成されるポリイミドの弾性率が高くなるような化合物が用いられる。例えば、ジアミンの一例として、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(BIS−AP−AF)が挙げられる。
このBIS−AP−AFは、ヒドロキシル基を有することで、アルカリ溶解性が高くなり、アルカリ現像が容易となる。また、このBIS−AP−AFは、屈曲性の高いジアミンで、分子中にトリフルオロメチル基を有する。トリフルオロメチル基は、分子鎖間の相互作用を弱める嵩高い置換基である。したがって、高い屈曲性とトリフルオロメチル基によって溶媒への溶解性が向上する。これにより、本発明のポリイミド組成物をフレキシブル配線板に利用する際に、取り扱いが容易となり、導体に均一なポリイミド膜を形成することができる。
ジアミン中のこのBIS−AP−AFの量としては、ジアミン中に少なくとも1モル%以上、20モル%以下の範囲であることが好ましい。BIS−AP−AFの量が、1モル%以下のような少量であると、溶媒及びアルカリ溶解性を十分に付与できない。また、20モル%より多い量である場合、形成されるポリイミド膜の熱線膨張係数が大きくなり、例えばポリイミド組成物をフレキシブル配線板に使用した場合にカールの原因となる。
ポリイミドのモノマーとしてヒドロキシル基を有するジアミンを使用することで、アルカリ溶液への溶解性が向上する。本発明においては、下記で説明するように感光剤を使用することで、露光した部分にアルカリ溶解性を付与するようにしているが、露光されていない部分もアルカリ溶液によってポリイミドの一部が加水分解を受けてしまい、ポリイミド表面に白粉を表出させてしまう。
ここで、ヒドロキシル基を有するジアミンを使用したポリイミドへのアルカリ溶液による影響について説明する。まず、上記のBIS−AP−AFとPMDA又はBPDAとを使用してそれぞれ形成されたポリイミドをフィルム状とした。比較として、2,2’−ビストリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(TFMB)とPMDA又はBPDAとを使用してそれぞれ形成されたポリイミドをフィルム状とした。そして、この4種類のポリイミドフィルムのアルカリ溶液への浸漬の前後の赤外線吸収スペクトルを測定した。アルカリ溶液への浸漬は、室温下でおこなわれ、3wt%の水酸化ナトリウム溶液が使用され、この溶液に所定時間浸漬させて行われた。そして、アルカリ溶液に浸漬させたポリイミドフィルムは、蒸留水で洗浄し、乾燥させた後、赤外線吸収スペクトルを測定した。BIS−AP−AFとPMDAとによるポリイミドの赤外吸収スペクトルを図1に示し、BIS―AP―AFとBPDAとによるポリイミドの赤外吸収スペクトルを図2に示し、TFMBとPMDAとによるポリイミドの赤外吸収スペクトルを図3に示し、TFMBとBPDAとによるポリイミドの赤外吸収スペクトルを図4に示す。
その結果、ヒドロキシル基を有するBIS−AP−AFを使用したポリイミドフィルムは、図1及び図2のように、イミドカルボニルを示すピーク(1778cm−1及び1730cm−1)がなくなり、アルカリ溶液への浸漬によってイミドカルボニルが消失していることが分かった。一方、ヒドロキシル基を有さないTFMBを使用したポリイミドフィルムは、図3及び図4のように、アルカリ溶液への浸漬前後でスペクトルの変化は見られなかった。これにより、ヒドロキシル基を有するジアミンを使用することで、アルカリ溶液によるポリイミドの加水分解が起き、その表面に白粉を表出させることがわかった。本発明は、ヒドロキシル基を有するジアミンを使用したポリイミドがアルカリ現像によって生成した加水分解物を架橋剤と反応させてポリイミドに固定化し、白粉の表出を防止することができるものである。
その他の同様のジアミンとして、4,4’−ジアミノ−3,3’−ビフェニルジオール(HAB)、9,9−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(BAHF)、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン(BS−DA)等も用いることができる。
ポリイミド組成物は、形成されるポリイミド化合物の溶媒への溶解性、弾性率、下記で説明する熱線膨張係数を調節するために、TFMBが含有される。このTFMBは、トリフルオロメチル基を有する直線性の高いジアミンで、熱線膨張係数を低下させる。TFMB中のトリフルオロメチル基は、分子鎖間の相互作用を弱める嵩高い置換基であり、これを用いることで、溶媒への溶解性を向上させる。
ジアミン中のこのTFMB量としては、導体や使用する酸二無水物によるが、45モル%以上が好ましい。45モル%より少ない量である場合、溶媒への溶解性が低くなる。あるいは、溶媒に溶解させるために形成されるポリイミド化合物のイミド化率を低くしなければならない。例えば、このポリイミド組成物をフレキシブル配線板に応用した場合、ポリイミド化合物のイミド化率を低くすることで、導体への塗布後の導体上でより多くの縮合反応を行わなければならず、縮合反応による内部応力によって板のカールの原因となってしまう。
ポリイミド組成物に含有されるポリイミド化合物は、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等の溶媒に上記のような酸二無水物とジアミンとを溶解させて溶媒中の酸二無水物とジアミンとを付加重合させた後、環化脱水反応(溶液中での加熱イミド化や脱水剤による化学イミド化)により生成する。ポリイミド前駆体中にトルエン、キシレン等の共沸剤を添加し、180℃以上に加熱撹拌することでポリアミック酸成分の脱水反応を行い、ポリアミック酸の一部又は全てを閉環したポリイミド成分を形成する。このとき、必要に応じてトリエチルアミン等の3級アミン、芳香族系イソキノリン、ピリジン等の塩基性触媒や、安息香酸、パラヒドロキシ安息香酸等の酸触媒をイミド化の触媒として添加してもよく、これらの化合物を単独で使用しても、複数の化合物を併用してもよい。また、脱水環化試薬である無水酢酸/ピリジン系やジシクロヘキシルカルボジイミド等の化学イミド化剤によってもポリアミック酸を閉環することができる。
合成されるポリイミド化合物の固有粘度は、0.3dL/g以上が望ましい。0.3dL/g未満では、ポリイミド化合物の重合度が小さく、形成された膜の強度が得られにくくなる。固有粘度の調整は、ジアミンと酸二無水物のモル比を変えることで可能である。ジアミンに対する酸二無水物のモル比としては、0.8から1.2が好ましく、これより大きいあるいは小さい場合、重合度が小さくなり、膜強度が得られなくなる。また、無水フタル酸やアニリン等の末端封止剤も固有粘度の調整に有効である。
生成するポリイミド化合物は、所定のイミド化率を有するように縮合反応が制御される。このイミド化率としては、使用するモノマーやポリイミドの溶媒への溶解性などによるが、70%以上であることが望ましい。イミド化率が70%より低いと、ポリイミド形成時に生じる内部応力が高くなり、例えばフレキシブル配線板に使用した場合に、この内部応力によって板がカールしてしまう。
このイミド化率は、ポリイミド成分の形成の加熱温度、加熱時間、化学イミド化剤の濃度、撹拌時間等を調整することで制御できる。このイミド化率は、部分的なイミド化前のポリイミド前駆体と部分的なイミド化後のポリイミド化合物とをフーリエ変換赤外分光法(FT−IR)で分析し、下記式で算出することができる。なお、100%イミド化率は300℃以上で強熱し、熱的に完全なポリイミドとしたときの吸光度を100%として算出する。
また、溶液イミド化法等によりアミノ基や酸無水物基という末端活性なオリゴイミド化合物(オリゴイミドモノマー)を形成させた後、更に酸二無水物モノマーおよびジアミンモノマーを化学量論量投入して撹拌重合させることで部分イミド化された重合物を得ることができる。すなわち、オリゴイミドの仕込み量から精密にイミド化率をコントロールすることも可能である。
また、ポリイミド組成物に含有されるポリイミド化合物は、30ppm/℃以下の熱線膨張係数を有していることが好ましい。ポリイミド化合物の熱線膨張係数が30ppm/℃を越える場合、このポリイミド化合物をフレキシブル配線板に利用すると、フレキシブル配線板がカールしてしまう。フレキシブル配線板によく利用されている銅箔の熱線膨張係数は、20ppm/℃程度である。したがって、ポリイミド化合物の熱線膨張係数をこの銅箔に近い値とすることで、カールしないフレキシブル配線板となる。
熱線膨張係数は、ポリイミド化合物のイミド化率やモノマー組成比により異なるが、例えば、上記したようなBPDA、PMDAといった直線性の高い酸二無水物と、上記したようなHAB等といった直線性の高いジアミンとを組み合わせることで30ppm/℃という銅箔のような低い熱線膨張係数となる。フレキシブル配線板に利用するためには、低い熱線膨張係数の他に、溶媒への溶解性が必要であるため、上記のようなトリフルオロメチル基を有するようなTFMBや屈曲性のあるジアミンとを組み合わせることで、溶解性と低い熱線膨張係数とを有するポリイミド化合物となり、フレキシブル配線板に好適なポリイミドとなる。
ポリイミド組成物には、感光剤が含有される。この感光剤の含有により、形成されるポリイミド化合物に感光性を付与することができる。その感光剤としては、例えば、ジアゾナフトキノン化合物が挙げられる。上記ジアゾナフトキノン化合物を含有したポリイミド化合物は、露光によりアルカリ溶解性が変化する。露光する前は、アルカリ溶液への溶解性が低い。一方、露光された後は、ジアゾナフトキノン化合物の分子構造が変化してケテンが生じ、アルカリ溶液と反応してカルボン酸が生じる。そして、生成したカルボン酸がアルカリ溶液とさらに反応して溶解する。したがって、光照射することで、アルカリ溶液への溶解性が高くなる。
感光剤であるジアゾナフトキノン化合物を含有することにより、ヒドロキシル基を有することでアルカリ溶解性が比較的高いポリイミド化合物は、このヒドロキシル基とジアゾナフトキノン化合物が水素結合する。これにより、アルカリに溶解し易いヒドロキシル基が保護され、アルカリ溶解性が低下する。この状態のポリイミド化合物に露光を行うと、ジアゾナフトキノン化合物の分子構造が変化し、アルカリ溶解性が発現する。したがって、感光剤としてジアゾナフトキノン化合物を含有させることで、フレキシブル配線板への露光後、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)等のアルカリ水溶液によってパターンを形成することができる。
ポリイミド組成物にこの感光剤を含有させる量としては、ポリイミド化合物100重量部に対して、10重量部から30重量部であることが好ましい。また、下記で説明する架橋剤とを併用することで白粉の表出が抑制される。
感光剤のジアゾナフトキノン化合物としては、ジアゾナフトキノン骨格を有する化合物であれば特に限定されるものではないが、例えば、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノンo−ナフトキノンジアジド−4−スルホン酸エステル、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノンo−ナフトキノンジアジド−5−スルホン酸エステル、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノンo−ベンゾキノンジアジド−4−スルホン酸エステル等が挙げられる。
ポリイミド組成物には、複数の官能基を有する架橋剤が含有される。この架橋剤は、アルカリ溶液によるアルカリ現像後のポリイミド化合物の加水分解物と、約200℃といった比較的低い温度で付加反応を起こし、ポリイミドにその加水分解物を固定化することができる。具体的には、ポリイミド化合物は、アルカリ溶液により、末端にアミノ基やカルボン酸基を有する加水分解物が生成する。架橋剤は、複数の官能基を有しており、この官能基がアミノ基やカルボキシル基と反応し、切断された結合を架橋剤によって再び結合させて、加水分解物をポリイミドに固定化する。これにより、加水分解物が白粉としてポリイミド表面に表出することを防止することができる。この架橋剤の官能基としては、エポキシ基やマレイミド基が好ましい。エポキシ基やマレイミド基を複数有する官能基であれば、白粉の表出の防止のための再加熱する温度よりも低い温度でアミノ基やカルボキシル基を有する加水分解物と反応させることができ、フレキシブル配線板に用いられても他の部材への加熱による影響を少なくすることができる。
ポリイミド組成物にこの架橋剤を含有させる量としては、ポリイミド化合物100重量部に対して、20重量部以下であることが好ましい。架橋剤が20重量部以上含有させた場合、ポリイミド組成物の安定性が悪くなり、粘度が上昇してしまうため、ポリイミド組成物の取り扱いが悪くなる。また、感光性が低下してしまうため、アルカリ現像が難しくなる。また、エポキシ基やマレイミド基もアルカリ溶液による加水分解を起こすおそれががあるため、架橋効果を維持させるには、1重量部以上添加することが望ましく、さらに、ポリイミド組成物にこの架橋剤を含有させる量として、5重量部から10重量部であることがより好ましい。この範囲の量をポリイミド組成物に含有させることで、白粉の表出の防止とともに、形成されるポリイミド表面の劣化を防止することも可能となる。
エポキシ基やマレイミド基を有する架橋剤は、形成されるポリイミド組成物に対して相溶性がよいものであれば特に限定するものではないが、例えば下記のような化合物を挙げることができる。官能基としてエポキシ基を有する架橋剤としては、ビスF型エポキシ化合物、ビスA型エポキシ化合物、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート等の脂環式エポキシ化合物、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ヒドロキノンジグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル化合物、フタル酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル化合物、ジブロモネオペンチルグリコールグリシジルエーテル等のハロゲン化された難燃性エポキシ化合物、クレゾールノボラックエポキシ樹脂、フェノールノボラックエポキシ樹脂等が挙げられる。
また、官能基としてマレイミド基を有する架橋剤としては、4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、ポリフェニルメタンマレイミド、m−フェニレンビスマレイミド、ビスフェノールAジフェニルエーテルビスマレイミド、3,3’−ジメチル−5,5’−ジエチル−4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、4−メチル−1,3−フェニレンビスマレイミド等が挙げられる。
本発明のポリイミド化合物は、上記の酸二無水物とジアミンとをNMP等の溶媒に溶解させてポリイミドの前駆体であるポリアミック酸を合成する。そして、このポリアミック酸に対し、所定のイミド化率となるように加熱などで反応を制御し、ポリイミド化合物を生成させる。このポリイミド化合物は、NMP等の溶媒に溶解し、上記の感光剤と架橋剤とが添加され、ポリイミド化合物と感光剤と架橋剤とを含有するポリイミド組成物を形成する。
そして、このポリイミド組成物中の溶媒を蒸発させた後、露光することで、ポリイミド組成物中の感光剤の構造を変化させ、露光を行った箇所のアルカリ溶解性を高める。そして、アルカリ溶液に浸漬させることで、露光を行った箇所を除去し、所定のパターン(ポジパターン)を形成する。
ポジパターンが形成されたポリイミド組成物の表面には、アルカリ溶液が残存する。このアルカリ溶液がポリイミド化合物を加水分解することで、アミノ基やカルボキシル基を有する加水分解物を生成させる。このとき、架橋剤がアミノ基やカルボキシル基と反応し、加水分解物をポリイミドに固定化する。また、アルカリ溶液に浸漬させた後、ポリイミド組成物を加熱することで、架橋剤と加水分解物との反応を促進することができ、十分に加水分解物をポリイミドに固定化することができる。
したがって、加水分解物が白粉となってポリイミド表面に表出することを防ぐことができる。したがって、アルカリ現像を行っても白粉の発生のないポリイミド組成物を製造することができる。
このポリイミド組成物は、図5のように、フレキシブル配線板に使用することができる。この場合、銅箔1などの導体に公知のコーティング法でポリイミド組成物を塗布する。そして、ポリイミド組成物中を乾燥させて、銅箔2上にポリイミド層3を形成する。このフレキシブル配線板1に対して、ポリイミド層3の取り除きたい部分に光があたるようなマスク層を備えて露光後、アルカリ溶液への浸漬によるアルカリ現像を行うことで、所定のポジパターンが形成されたポリイミド層3を有するフレキシブル配線板1となる。
このフレキシブル配線板1にアルカリ現像で除去されずに残されたポリイミド層2は、アルカリ溶液によって生成した加水分解物を架橋剤によってポリイミドに固定化する。したがって、アルカリ現像を行っても白粉の発生のないフレキシブル配線板を製造することができる。アルカリ現像後、フレキシブル配線板1を加熱することで、架橋剤と加水分解物との反応を促進することができ、十分に加水分解物を固定化することができる。このとき、架橋剤は、比較的低い温度で反応が進行するため、高温での加熱による他の部材への影響を少なくすることができる。
また、このポリイミド組成物を利用したフレキシブル配線板1は、露光後のアルカリ現像によって所定のポジパターンを形成でき、白粉の表出のない配線板となる。そして、この配線板を電子部品に使用することで、信頼性の高い電子部品を提供することができる。
また、フレキシブル配線板1に使用するポリイミド組成物に上記の酸二無水物とジアミンとを使用することで、熱線膨張係数を銅箔に近い30ppm/℃以下にすることができる。したがって、カールのないフレキシブル配線板1を製造することができる。
本発明を適用したポリイミド組成物の具体的な実施例について、実験結果を基に説明する。本実施例は、所定の組成を有するポリイミド組成物を形成し、このポリイミド組成物を銅箔上に塗布乾燥し、アルカリ現像後、PCT等の加速試験を行って、ポリイミドの外観について比較した結果を下記表1乃至表5に示した。以下、詳細に説明する。なお、ポリイミドの外観については、恒温恒湿による試験とプレッシャークッカー試験の2種類の試験の後、試験前のブランクのポリイミドと比較して評価した。表中、◎は試験後のポリイミド表面に白粉の表出及びポリイミドの表面の劣化がない場合、○は試験後のポリイミド表面に白粉の表出がなく、ポリイミドの表面の劣化もほとんどない場合、△は試験後のポリイミド表面に白粉の表出はないが、ポリイミドの表面の劣化がみられる場合、×は試験後のポリイミド表面に白粉の表出がみられる場合を示す。
実施例1は、4.89g(20mol%)のBIS−AP−AF(純度99.00%)と、16.98g(80mol%)のTFMB(純度99.80%)を500mlの四つ口セパラブルフラスコへ秤量し、窒素雰囲気下、261gの脱水NMPにて完全に溶解させた。その後、9.84g(50.5mol%)のBPDA(純度99.87%)と、7.29g(50.5mol%)のPMDA(純度99.90%)を秤量し、徐々に加えた。その後、48時間室にて攪拌し、ポリアミック酸となった粘稠なポリイミド前駆体を得た。その後、四つ口セパラブルフラスコへディーン・スタークトラップをセットし、80℃で2時間攪拌保持した。その後、トルエンを50cc添加し、反応液を180℃まで昇温した。トルエンを180℃にて還流させイミド化時に生じる縮合水を系外に除去した。4時間後、トラップからトルエンを回収し、更に1時間攪拌し、その後反応容器を減圧にして残留トルエンを完全に除去し、100%イミド化されたポリイミド化合物を合成した。このときのポリイミドのオストワルド粘度計(30℃、0.5wt%NMP溶液)による還元粘度は、3.2dL/gであった。
合成したポリイミド化合物には、ポリイミド化合物100重量部に対して、感光剤として20重量部のジアゾナフトキノン(NT−200)と、0.3重量部の防錆剤(CDA−1)と、架橋剤として1重量部のビスF型エポキシ化合物(Bis−F)をそれぞれ添加し、ポリイミド組成物とした。
そして、乾燥後のポリイミド層が厚さ10μmとなるように銅箔上にこのポリイミド組成物を塗布し、100℃で10分間乾燥し、銅箔上にポリイミド層を有するフレキシブル配線板を形成した。銅箔上のポリイミド層は、TMAH水溶液における現像条件である7wt%TMAH水溶液に40℃で7分間浸漬した。その後、ポリイミド層のTMAH水溶液を洗浄するように、蒸留水に1分間浸漬させ、その後、別の蒸留水に更に1分間浸漬させて、銅箔上のポリイミド層を洗浄した。洗浄後、流水中で5分間さらした後、窒素雰囲気下で室温から200℃に昇温し、1時間保持した。その後、室温まで放冷して試験片とした。
この試験片をプレッシャークッカー試験機に投入し、24時間後試験機から取り出され、外観を確認した。また、この試験片を温度85℃、湿度85%の環境下に放置し、1000時間後にその試験片の外観を確認した。
その結果、外観として表面に劣化は見られるものの、白粉の表出はなかった。下記で説明する比較例15と比較すると、架橋剤を1重量部加えることで、アルカリ現像後の酸による洗浄をした場合と略同等の効果があることが分かった。
実施例2は、実施例1で使用された感光剤の量を10重量部、防錆剤の量を5重量部、架橋剤の量を5重量部とし、実施例1と同様の方法でポリイミド組成物を形成して試験片を作成し、同様の試験を行ってその試験片の外観を確認した。その結果、外観として白粉の表出も表面の劣化もほとんど見られなかった。下記で説明する比較例14と比較すると、架橋剤を5重量部に増加させることで、アルカリ現像後の酸による洗浄をした場合よりも白粉の表出や表面の劣化に対して高い効果があることが分かった。
実施例3は、実施例2で使用された架橋剤の量を10重量部とし、実施例2と同様の方法でポリイミド組成物を形成して試験片を作成し、同様の試験を行ってその試験片の外観を確認した。その結果、外観として白粉の表出も表面の劣化もほとんど見られなかった。これにより、架橋剤を10重量部に増加させることで、白粉の表出やポリイミドの表面の劣化に対して実施例2より高い効果があることが分かった。
実施例4は、実施例3で使用された感光剤の量を20重量部とし、実施例3と同様の方法でポリイミド組成物を形成して試験片を作成し、同様の試験を行ってその試験片の外観を確認した。その結果、外観として白粉の表出も表面の劣化もなかった。これにより、感光剤を20重量部に増加させることで、白粉の表出やポリイミドの表面の劣化を完全に防止することができることが分かった。
実施例5は、実施例4で使用された架橋剤をビスフェノールAジフェニルエーテルビスマレイミド(BMI−4000)を10重量部使用し、実施例4と同様の方法でポリイミド組成物を形成して試験片を作成し、同様の試験を行ってその試験片の外観を確認した。その結果、外観として白粉の表出も表面の劣化もなかった。これにより、架橋剤にエポキシ基を有するものからマレイミド基を有するものに代えても実施例4と同等の効果があったことが分かった。
実施例6は、実施例4で使用された架橋剤を3,3’−ジメチル−5,5’−ジエチル−4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド(BMI−5100)を10重量部使用し、実施例4と同様の方法でポリイミド組成物を形成して試験片を作成し、同様の試験を行ってその試験片の外観を確認した。その結果、外観として白粉の表出も表面の劣化もなかった。これにより、架橋剤にエポキシ基を有するものからマレイミド基を有するものに代えても実施例4と同等の効果があったことが分かった。
実施例7は、実施例4で作成された同様の試験片を使用し、浸漬するアルカリ溶液を7wt%TMAH水溶液中の代わりに3wt%NaOH水溶液(NaOH水溶液での現像条件である浸漬時間2分30秒)とし、実施例4と同様の試験を行ってその試験片の外観を確認した。その結果、外観として白粉の表出も表面の劣化もなかった。これにより、他のアルカリ溶液を使用しても実施例4と同等の効果があったことが分かった。
実施例8は、実施例7で使用された架橋剤をビスフェノールAジフェニルエーテルビスマレイミド(BMI−4000)を10重量部使用し、実施例7と同様の方法でポリイミド組成物を形成して試験片を作成し、同様の試験を行ってその試験片の外観を確認した。その結果、外観として白粉の表出も表面の劣化もなかった。これにより、架橋剤にエポキシ基を有するものからマレイミド基を有するものに代えても実施例7と同等の効果があったことが分かった。
実施例9は、実施例7で使用された架橋剤を3,3’−ジメチル−5,5’−ジエチル−4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド(BMI−5100)を10重量部使用し、実施例7と同様の方法でポリイミド組成物を形成して試験片を作成し、同様の試験を行ってその試験片の外観を確認した。その結果、外観として白粉の表出も表面の劣化もなかった。これにより、架橋剤にエポキシ基を有するものからマレイミド基を有するものに代えても実施例7と同等の効果があったことが分かった。
実施例10は、実施例7で使用された酸二無水物を48.75mol%のBPDAと、48.75mol%のPMDAを使用することでジアミンが過剰となるような組成とし、実施例7と同様の方法でポリイミド組成物を形成して試験片を作成し、実施例7と同様の試験を行ってその試験片の外観を確認した。このときのポリイミド化合物のオストワルド粘度計(30℃、0.5wt%NMP溶液)による還元粘度は、1.2dL/gであり、実施例7よりも低い分子量であった。その結果、外観として白粉の表出も表面の劣化もなかった。これにより、分子量を低下させても実施例7と同等の効果があったことが分かった。
なお、実施例1乃至実施例10のポリイミド化合物の熱線膨張係数を測定したところ、熱線膨張係数は30ppm以下の低い熱線膨張係数を有していることが分かった。
以下、上記実施例との比較として比較例1乃至比較例15を下記に示す。
比較例1は、実施例2で使用された架橋剤を使用せずに、実施例2と同様の方法でポリイミド組成物を形成して試験片を作成し、同様の試験を行ってその試験片の外観を確認した。その結果、白粉の表出が確認された。
比較例2は、比較例1で作成された同様の試験片を使用し、アルカリ溶液への浸漬後に行われる加熱の温度を200℃から280℃とし、比較例1と同様の試験を行って試験片の外観を確認した。その結果、浸漬後の加熱温度を280℃という高温にしても、白粉の表出を防ぐことはできなかった。
比較例3は、比較例2で作成された同様の試験片を使用し、アルカリ溶液への浸漬を行わず、乾燥後に280℃に加熱し、比較例2と同様の試験を行って、試験片の外観を確認した。その結果、外観として白粉の表出も表面の劣化もほとんど見られなかった。これにより、ポリイミド層をアルカリ溶液に浸漬させることでポリイミド層表面に悪影響があることが分かった。
比較例4は、比較例1で使用された感光剤と防錆剤とを使用せずに、比較例1と同様の方法でポリイミド組成物を形成して試験片を作成し、比較例1と同様の試験を行ってその試験片の外観を確認した。その結果、白粉の表出が確認された。このことから、表出した白粉は添加物によるものではないことがわかった。
比較例5は、比較例4で作成された同様の試験片を使用し、浸漬するアルカリ溶液を3wt%NaOH水溶液中の代わりに7wt%TMAH水溶液(浸漬時間2分)とし、比較例4と同様にPCT試験のみを行ってその試験片の外観を確認した。その結果、アルカリ溶液を金属イオンを含まない有機系のアルカリに変更しても白粉の表出を防ぐことができなかった。
比較例6は、比較例5で作成された同様の試験片の7wt%TMAH水溶液への浸漬時間を7分とし、比較例5と同様にPCT試験のみを行ってその試験片の外観を確認した。比較例5と同様に、白粉の表出が確認された。
比較例7は、比較例6で作成された同様の試験片を使用し、アルカリ溶液への浸漬後に行われる加熱の温度を200℃から280℃とし、比較例6と同様にPCT試験のみを行って試験片の外観を確認した。その結果、浸漬後の加熱温度を280℃という高温にしても、白粉の表出を防ぐことはできなかった。
比較例8は、比較例7で使用されたPMDAをNTCDAに代えて、比較例7と同様の方法でポリイミド組成物を形成して試験片を作成し、比較例7と同様にPCT試験のみを行って試験片の外観を確認した。その結果、PMDAよりも加水分解が起こりにくいNTCDAに代えても、白粉の表出を防ぐことはできなった。
比較例9は、比較例6で作成された同様の試験片を使用し、アルカリ溶液への浸漬後に、1%酢酸による洗浄の工程を加え、比較例6と同様にPCT試験のみを行って試験片の外観を確認した。その結果、酸による洗浄を行っても、白粉の表出を防ぐことができなかった。
比較例10は、比較例9で作成された同様の試験片を使用し、1%酢酸による洗浄の工程後に行われる加熱の温度を200℃から280℃とし、比較例9と同様にPCT試験のみを行って試験片の外観を確認した。その結果、比較例9と比較して改善傾向が見られ、外観として表面の劣化が見られたものの白粉の表出はなかった。これにより、酸による洗浄と高温での加熱を行わなければ白粉の表出を防ぐことができないことがわかった。
比較例11は、比較例6で使用された酸二無水物のうちPMDAを用いずに、101mol%のBPDAを使用し、比較例6と同様の方法でポリイミド組成物を形成して試験片を作成し、比較例6と同様にPCT試験のみを行ってその試験片の外観を確認した。その結果、加水分解されにくいBPDAのみを使用しても、白粉の表出を防ぐことはできなった。
比較例12は、比較例11で作成された同様の試験片を使用し、アルカリ溶液への浸漬後に行われる加熱の温度を200℃から280℃とし、比較例11と同様にPCT試験のみを行って試験片の外観を確認した。その結果、比較例11と比較して改善傾向が見られ、外観として白粉の表出も表面の劣化もほとんど見られなかった。これにより、高温での加熱を行わなければ白粉の表出を防ぐことができないことがわかった。
比較例13は、比較例11で作成された同様の試験片を使用し、アルカリ溶液への浸漬後に、1%酢酸による洗浄の工程を加え、比較例11と同様にPCT試験のみを行って試験片の外観を確認した。その結果、比較例11と比較して改善傾向が見られ、外観として白粉の表出も表面の劣化もほとんど見られなかった。これにより、酸による洗浄を行わなければ白粉の表出を防ぐことができないことがわかった。
比較例14は、比較例9で使用されたポリイミド化合物に感光剤としてジアゾナフトキノン(NT−200)と防錆剤(CDA−1)とを加え、比較例9と同様の方法でポリイミド組成物を形成して試験片を作成し、比較例9と同様にPCT試験のみを行ってその試験片の外観を確認した。その結果、比較例9と比較して改善傾向が見られ、外観として表面の劣化が見られたものの白粉の表出はなかった。これにより、感光剤にも白粉を表出を防ぐ効果があることが分かった。
比較例15は、比較例14で使用された感光剤の量を20重量部とし、比較例14と同様の方法でポリイミド組成物を形成して試験片を作成し、比較例9と同様にPCT試験のみを行ってその試験片の外観を確認した。その結果、比較例14と同様に比較例9と比較して改善傾向が見られ、外観として表面の劣化が見られたものの白粉の表出はなかった。
実施例1乃至実施例10のように、ポリイミド組成物は、架橋剤を含有させることで、アルカリ現像で生成する加水分解物は、架橋剤と反応させることでポリイミドに固定化することができ、白粉の表出を防止することができる。また、実施例1乃至実施例10、及び、比較例1乃至比較例15のように、架橋剤、防錆剤、感光剤を混合しない状態のポリイミド化合物は、引張弾性率が1GPa以上であり、比較例1、2、4乃至11比較例14、15のように、架橋剤を含有させない場合、白粉が表出することがわかる。このことから、白粉が発生する可能性がある引張弾性率が1GPa以上となるポリイミド化合物であっても、実施例1乃至実施例10のように架橋剤を添加することで、白粉の表出を防止することができる。また、ポリイミド組成物は、感光剤も含有させても白粉の表出を防止することができることから、より確実に白粉の表出を防止することができる。
BIS−AP−AFとPMDAとによるポリイミドの赤外吸収スペクトルである。
BIS―AP―AFとBPDAとによるポリイミドの赤外吸収スペクトルである。
TFMBとPMDAとによるポリイミドの赤外吸収スペクトルである。
TFMBとBPDAとによるポリイミドの赤外吸収スペクトルである。
本発明のフレキシブル配線板の断面図である。
符号の説明
1 フレキシブル配線板
2 導体
3 ポリイミド層